特許第6561648号(P6561648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6561648-原料油の接触分解方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561648
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】原料油の接触分解方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/18 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
   C10G11/18
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-140624(P2015-140624)
(22)【出願日】2015年7月14日
(65)【公開番号】特開2017-19962(P2017-19962A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】赤司 信二
(72)【発明者】
【氏名】平松 義文
【審査官】 上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−153924(JP,A)
【文献】 特表2012−511078(JP,A)
【文献】 特開昭55−151086(JP,A)
【文献】 特開2008−138188(JP,A)
【文献】 特開2002−294125(JP,A)
【文献】 特開2007−153935(JP,A)
【文献】 特開平11−193250(JP,A)
【文献】 特表2015−512969(JP,A)
【文献】 特表2015−500395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒に原料油を接触させて該原料油を分解することによって分解生成物を生成するライザー、前記分解生成物と前記触媒とを分離する反応塔、および分離した前記触媒上のコークを燃焼させることによって前記触媒を再生する再生塔を備えた流動接触分解装置による原料油の接触分解方法であって、
前記原料油は、第1の原料油および第2の原料油を含み、
前記第1の原料油の硫黄分に対する前記第1の原料油の500℃以上の留分の硫黄分の割合をR1(質量%)とし、前記第2の原料油の硫黄分に対する前記第2の原料油の500℃以上の留分の硫黄分の割合をR2(質量%)とした場合、該R1および該R2は以下の式(1)式(2)および式(3)を満たすもので、
R1≧50質量% (1)
R2<50質量% (2)
R1−R2≧5質量% (3)
さらに、前記第1の原料油における硫黄分の含有率が0.1質量%以上0.8質量%以下であり、
前記第2の原料油における硫黄分の含有率が0.1質量%以上0.8質量%以下であり、
前記R1および前記R2が、以下の式(4)および式(5)を満たす原料油の接触分解方法。
55質量%≦R1≦95質量% (4)
7質量%≦R2≦45質量% (5)
【請求項2】
前記第1の原料油と前記第2の原料油との質量比(第1の原料油:第2の原料油)が、90:10〜20:80である請求項1に記載の原料油の接触分解方法。
【請求項3】
前記第1の原料油が、直接脱硫装置により脱硫された重油または間接脱硫装置により脱硫された脱硫減圧軽油であり、
前記第2の原料油が、常圧蒸留装置により得られた低硫黄重油である請求項1または2に記載の原料油の接触分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒に原料油を接触させて原料油を分解する流動接触分解装置を用いた原料油の接触分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反応塔と再生塔とを備えた流動接触分解装置(FCC装置)が従来技術として知られている(たとえば、特許文献1参照)。FCC装置では、触媒に原料油を接触させて原料油を分解し、反応塔内で分解生成物と触媒とを分離し、分離した触媒を再生塔へ移送し、再生塔内で触媒上のコークを燃焼させて、触媒を再生し、再生した触媒は、原料油の分解に再び使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−102204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
原料油中の硫黄化合物は、接触分解されてコークとともに触媒に付着し、FCC装置の再生塔で次の反応によりSOxとなる。
コーク中のS+O→SO+SO
2SO+O→2SO
FCC装置の再生塔で生成したSOxは排ガスとともに大気中に放出されると大気汚染の原因となる。このため、FCC装置には、排ガス中のSOxを除去する脱硫装置が併設されていた。
【0005】
FCC装置による原料油の処理量は、脱硫装置の処理能力による制約を受ける場合があった。すなわち、FCC装置により処理可能である原料油の処理量であっても、排ガス中のSOxの濃度が脱硫装置の処理能力を超えてしまうと、その処理量でFCC装置は原料油を処理することはできなかった。また、硫黄分の含有率が非常に小さい原料油を使用することによって脱硫装置による制約を受けずに原料油をFCC装置により処理することは可能であるが、この場合、水素化などの硫黄分の含有率を低くするための原料油の処理により原料油のコストが上昇するという問題が生じる。さらに、排ガス中のSOxの濃度を低くすることによって、脱硫装置を不要にすることもできる。そこで、本発明は、原料油の硫黄分の含有率を下げなくてもFCC装置の再生塔からの排ガス中のSOxの濃度を低減することができる原料油の接触分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、原料油の硫黄分の含有率を下げなくても、原料油の500℃以上の留分における硫黄分の割合が低くなるように、原料油全体の硫黄分に対する原料油の500℃以上の留分における硫黄分の割合が低い他の原料油を配合することにより、FCC装置の再生塔の排ガス中のSOxの濃度を低減することができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]触媒に原料油を接触させて該原料油を分解することによって分解生成物を生成するライザー、分解生成物と触媒とを分離する反応塔、および分離した触媒上のコークを燃焼させることによって触媒を再生する再生塔を備えた流動接触分解装置による原料油の接触分解方法であって、原料油は、第1の原料油および第2の原料油を含み、第1の原料油の硫黄分に対する第1の原料油の500℃以上の留分の硫黄分の割合をR1(質量%)とし、第2の原料油の硫黄分に対する第2の原料油の500℃以上の留分の硫黄分の割合をR2(質量%)とした場合、R1およびR2は以下の式(1)および式(2)を満たす原料油の接触分解方法。
R1≧50質量% (1)
R2<50質量% (2)
[2]R1およびR2は、以下の式(3)をさらに満たす第上記[1]に記載の原料油の接触分解方法。
R1−R2≧5質量% (3)
[3]第1の原料油における硫黄分の含有率が0.1質量%以上0.8質量%以下であり、第2の原料油における硫黄分の含有率が0.1質量%以上0.8質量%以下であり、R1およびR2は、以下の式(4)および(5)をさらに満たす上記[2]に記載の原料油の接触分解方法。
55質量%≦R1≦95質量% (4)
7質量%≦R2≦45質量% (5)
[4]第1の原料油と第2の原料油との質量比(第1の原料油:第2の原料油)が、90:10〜20:80である上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の原料油の接触分解方法。
[5]第1の原料油が、直接脱硫装置により脱硫された重油または間接脱硫装置により脱硫された脱硫減圧軽油であり、第2の原料油が、常圧蒸留装置により得られた低硫黄重油である上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の原料油の接触分解方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原料油の硫黄分の含有率を下げなくても、FCC装置の再生塔の排ガス中のSOxの濃度を低減することができる原料油の接触分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、脱硫装置を併設したFCC装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の原料油の接触分解方法は、触媒に原料油を接触させて該原料油を分解することによって分解生成物を生成するライザー、分解生成物と触媒とを分離する反応塔、および分離した触媒上のコークを燃焼させることによって触媒を再生する再生塔を備えた流動接触分解装置による原料油の接触分解方法である。
【0010】
(流動接触分解装置)
本発明の原料油の接触分解方法に使用される流動接触分解装置(以下、FCC装置と呼ぶ) は、触媒に原料油を接触させて該原料油を分解することによって分解生成物を生成するライザー、分解生成物と触媒とを分離する反応塔、および分離した触媒上のコークを燃焼させることによって触媒を再生する再生塔を備える。以下、図1を参照して、本発明の原料油の接触分解方法に使用されるFCC装置の一例を説明する。図1は、脱硫装置を併設したFCC装置の一例を示す概略構成図である。FCC装置1は、ライザー10、反応塔20および再生塔30を備える。
【0011】
(ライザー)
ライザー10は、触媒に原料油を接触させて該原料油を分解することによって分解生成物を生成する。ライザー10は、たとえば、再生塔30で再生された触媒を供給する再生触媒トランスファーライン34および原料油を供給する原料油供給ライン11と接続している。ライザー10内には、揚送用流体が流通しており、再生触媒トランスファーライン34より供給された触媒は、揚送用流体と一緒にライザー10内を流れる。原料油は、予熱装置12によって加熱され、スチームを加えられた後、原料油供給ライン11からライザー10に供給される。ライザー10内に供給された原料油は触媒と接触し分解する。原料油が分解して生成した分解生成物と触媒とは反応塔20へ移送される。
【0012】
原料油に接触させる触媒には、たとえば、Y型ゼオライト、超安定性Y型ゼオライト、βゼオライトおよびZSM−5型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種のゼオライトが使用される。また、原料油に接触させる触媒に、アルミナ、粘土鉱物およびシリカからなる群から選択される少なくとも1種を使用してもよい。本発明の原料油の接触分解方法に使用される原料油の詳細は後述する。
【0013】
(反応塔)
反応塔20は、分解生成物と触媒とを分離する。反応塔20は、たとえば、サイクロン21、分解生成物排出ライン22、ストリッパー23およびスペント触媒トランスファーライン24を備える。ライザー10内で原料油の分解により生成した分解生成物は、サイクロン21に供給される。サイクロン21は、遠心力を利用して、分解生成物を触媒から分離する。そして、分解生成物は、分解生成物排出ライン22により、反応塔20から排出され、次の工程へと移送される。サイクロン21によって分離された触媒はストリッパー23に供給される。ストリッパー23には、スチームが供給されている。ストリッパー23では、スチームにより触媒上の炭化水素が除去され、触媒上のコークの量を少なくする。そして、触媒は、スペント触媒トランスファーライン24により反応塔20から排出され、再生塔30に移送される。
【0014】
(再生塔)
再生塔30は、反応塔20で分離した触媒上のコークを燃焼させることによって触媒を再生する。再生塔30は、たとえば、エアブロワー31、エアグリッド32、サイクロン33、再生触媒トランスファーライン34および排ガスライン35を備える。エアブロワー31からエアグリッド32に空気が供給され、エアグリッド32から再生塔30内に空気が供給される。また、スペント触媒トランスファーライン24から使用済みの触媒が再生塔30に供給される。再生塔30内に空気が供給されると、触媒上のコークは燃焼し、触媒は再生される。再生塔30では、たとえば、640〜800℃の温度で使用済みの触媒を再生する。再生した触媒と、コークの燃焼により生じた排ガスとはサイクロン33により分離される。再生触媒トランスファーライン34により、再生した触媒は再生塔30から排出され、ライザー10に供給される。排ガスは、排ガスライン35により再生塔30から排出される。排ガスは、主成分として、COガスおよびSOxガスを含む。
【0015】
(脱硫装置)
本発明の原料油の接触分解方法に使用される流動接触分解装置1に脱硫装置2を併設してもよい。脱硫装置2は、再生塔30から排出される排ガスからSOxを除去する装置である。脱硫装置2では、たとえば、排ガス中のSOxを石灰石スラリーに吸着させたり、活性炭に吸着させたりすることにより、排ガスからSOxを除去する。
【0016】
(原料油)
次に、本発明の原料油の接触分解方法に使用される原料油について説明する。本発明の原料油の接触分解方法に使用される原料油は、第1の原料油および第2の原料油を含む。
【0017】
(第1の原料油)
第1の原料油における硫黄分の含有率は、好ましくは0.1質量%以上0.8質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上0.7質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上0.6質量%以下である。第1の原料油における硫黄分の含有率が0.1質量%以上0.8質量%以下であると、原料油の硫黄分の含有率を下げなくても、FCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を低減することができるという本発明の効果がとくに現れるとともに、反応塔20から排出される分解生成物中の硫黄分の濃度が高くなりすぎることを抑制できる。
【0018】
第1の原料油の硫黄分に対する第1の原料油の500℃以上の留分における硫黄分の割合をR1とした場合は、R1は、以下の式(1)を満たし、好ましくは以下の式(4)を満たし、より好ましくは以下の式(6)を満たし、さらに好ましくは以下の式(7)を満たし、さらに好ましくは以下の式(8)を満たす。R1が50質量%よりも小さいと、後述の第2の原料油を配合することによるFCC装置の再生塔の排ガス中のSOxの濃度を低減できるという効果が現れない場合がある。
R1≧50質量% (1)
55質量%≦R1≦95質量% (4)
60質量%≦R1≦93質量% (6)
65質量%≦R1≦93質量% (7)
70質量%≦R1≦93質量% (8)
【0019】
第1の原料油は、たとえば、重質油である。重質油の流動接触分解は、一般に残油流動接触分解(RFCC)と呼ばれている。FCC装置1の運転に悪影響を与える不純物を除去するために、および原料油中の芳香環が水素化されて分解しやすくなるために、第1の原料油として使用される重質油は、予め、水素化脱硫および水素化分解されているものが好ましい。そのような重質油には、たとえば、間接脱硫重油および直接脱硫重油などが挙げられる。間接脱硫重油には、たとえば、原油の常圧蒸留にて得られる重質軽油および減圧軽油などを間接脱硫装置(VH)にて脱硫処理して得られる脱硫減圧軽油(VHHGO)などが挙げられる。また、間接脱硫重油と溶剤脱れき装置から得られる脱れき油(DAO)を原料油として併用してもよい。一方、直接脱硫重油には、たとえば、原油の常圧蒸留残油(AR)および減圧蒸留残油(VR)、重質軽油、接触分解残油、ビスブレーキング油ならびにビチューメンなどの密度の高い石油留分を重油直接脱硫装置(RH)において水素化脱硫および水素化分解して得られた脱硫重油(DSAR)などが挙げられる。
【0020】
脱硫重油(DSAR)を得るための水素化脱硫および水素化分解は触媒の存在下で行う。そして、反応温度、反応圧力および液空間速度などの反応条件を最適化することにより、脱硫重油(DSAR)を得るために必要とされる脱硫率や重質油の分解率を達成することができる。水素化脱硫および水素化分解は、通常、300℃以上450℃以下、好ましくは330℃以上420℃以下、より好ましくは380℃以上420℃以下の温度条件下で通常10MPa以上22MPa以下、好ましくは13MPa以上20MPa以下の水素加圧下で実施される。水素化脱硫および水素化分解の液空間速度(LHSV)は、通常0.1h−1以上10h−1以下、好ましくは0.1h−1以上3h−1以下であり、油に対する水素の比(水素/油)は、通常200Nm/KL以上10,000Nm/KL以下、好ましくは500Nm/KL以上10,000Nm/KLである。
【0021】
脱硫重油(DSAR)を得るための水素化脱硫および水素化分解は、第一工程として水素化脱金属処理工程および第二工程として水素化脱硫処理工程の2工程を含むことが好ましい。原料重質油は、初めに第一工程である水素化脱金属処理工程で、水素化脱金属処理され、水素化脱硫触媒の活性低下の原因となるバナジウムおよびニッケルなどの金属分が水素化され、原料重質油の脱金属が行われる。次いで、水素化脱金属処理工程で処理された原料重質油は、第二工程である水素化脱硫処理工程に送られ水素化脱硫処理が実施される。上記第一工程および第二工程を同一装置内で行ってもよいし、別装置で行ってもよい。触媒の劣化抑制の点から、重油直接脱硫装置(RH)の上流に、別途OCR(On Stream Catalyst Replacement)装置などの脱金属装置を設けることが好ましい。
【0022】
上記第一工程と第二工程の機能分担を実現させる具体的手段としては、触媒担体の細孔構造と担持金属量とをパラメーターとして、たとえば、第一工程においては、担体の細孔径を大きく(または金属担持量を少なく)する方法により、触媒の細孔容積を大きくして、分子の大きな金属分を捕捉して、第二工程では表面積の大きい(細孔の径が小さく、数の多い)担体に、活性金属をより多く担持した触媒を用いて、主として硫黄化合物の水素化脱硫を行なってもよい。これら各工程は、上述のとおりの主たる機能分担を有するが、全体としては原料重質油の水素化精製処理が行われる。
【0023】
脱硫重油(DSAR)を得るための水素化脱硫および水素化分解に用いる触媒は、水素化脱金属能および水素化脱硫能を持った公知の触媒のいずれをも用いることができる。そのような触媒には、たとえば、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライトおよびこれらの混合物からなる群から選択される担体に、第V〜VIII族金属、あるいはこれらの硫化物、酸化物を担持した触媒などが挙げられる。水素化脱硫に適した活性金属を用いるという観点から、上記第V〜VIII族の金属の金属は、好ましくはニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンまたはこれらの組み合わせである。重質油に対してより水素化脱硫、水素化分解および水素化能の優れているという観点から、脱硫重油(DSAR)を得るための水素化脱硫および水素化分解に用いる触媒は、より好ましくは、アルミナなどの多孔質無機酸化物担体にCo−Mo、Co−Mo−P、Ni−MoおよびNi−Mo−Pなどの金属を担持した触媒である。
【0024】
上記水素化脱硫および水素化分解で用いられる反応器には、従来公知の様式の反応器を用いることができる。上記水素化脱硫および水素化分解で用いられる反応器は固定床および移動床のいずれであってもよく、ダウンフロー式およびアップフロー式のいずれであってもよい。
【0025】
重油直接脱硫装置(RH)における水素化脱硫および水素化分解で得られた反応生成物は、気液分離装置により気液を分離し、液相は蒸留などの分離操作によりナフサ留分、灯油留分、軽油留分、重油留分等の所望の留分に分留し回収する。このとき得られた重油留分である脱硫重油(DSAR)を原料油として用いる。
【0026】
上記重油直接脱硫装置(RH)における水素化脱硫および水素化分解においては、その脱硫率(HDS)、脱窒素率(HDN)、脱バナジウム率(HDV)、脱ニッケル率(HDNi)、脱残炭率(HDCCR)および脱アスファルテン率(HDAs)がそれぞれ、80〜90%、35〜40%、75〜80%、65〜75%、50〜55%および60%以上であることが好ましい。これらは、いずれも重油直接脱硫装置(RH)の原料油と生成油中の各成分量から、各成分の除去割合として算出される。
【0027】
なお、第1の原料油として使用される重質油は2種以上を使用してもよいが、その場合、500℃以上の留分の硫黄分の割合が最も低い重質油の500℃以上の留分の硫黄分の割合をR1とする。
【0028】
第1の原料油として使用される重質油には、上述の重質油に対して、本発明の効果を損なわない範囲で、重質軽油(HGO)、減圧軽油(VGO)、脱れき軽油(DAO)および常圧残油(AR)などを混合して用いることができる。
【0029】
原料油のコストの割には硫黄分の含有率が低いことから、第1の原料油は、好ましくは直接脱硫装置(重油直接脱硫装置(RH))により脱硫された重油または間接脱硫装置により脱硫された脱硫減圧軽油である。
【0030】
(第2の原料油)
第2の原料油の硫黄分に対する500℃以上の留分における硫黄分の割合をR2とした場合、R2は、以下の式(2)を満たし、好ましくは以下の式(3)を満たし、より好ましくは以下の式(9)を満たし、さらに好ましくは以下の式(10)を満たし、さらに好ましくは以下の式(11)を満たし、さらに好ましくは以下の式(12)を満たす。R2が以下の式(2)を満たさないと、第1の原料油および第2の原料油を配合しても、原料油が第1の原料油のみからなる場合に比べて、原料油の硫黄分の含有率を下げずにFCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を低減することができない場合がある。なお、(R1−R2)の上限値は、とくに限定されないが、たとえば100質量%である。これは、第1の原料油では、第1の原料油中の硫黄分のすべてが500℃以上の留分に存在し、第2の原料油では、第2の原料油中の硫黄分のすべてが500℃未満の留分に存在する場合である。
R2<50質量% (2)
R1−R2≧5質量% (3)
R1−R2≧10質量% (9)
R1−R2≧20質量% (10)
R1−R2≧30質量% (11)
R1−R2≧50質量% (12)
【0031】
原料油が第1の原料油のみからなる場合に比べて、原料油の硫黄分の含有率を下げなくても、FCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を低減することができるという観点から、第1の原料油における硫黄分の含有率と第2の原料油における硫黄分の含有率との差異は、好ましくは0.5質量%以内であり、さらに好ましくは0.3質量%以内であり、さらに好ましくは0.1質量%以内である。第2の原料油における硫黄分の含有率を第1の原料油における硫黄分の含有率で引き算した値が0.5質量%よりも大きい場合、第2の原料油中の500℃以上の留分における硫黄分を低減することによりFCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を低減する効果よりも、第2の原料油中の硫黄分の高い含有率によるFCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を高める効果が上回る場合がある。一方、第1の原料油における硫黄分の含有率を第2の原料油における硫黄分の含有率で引き算した値が0.5質量%よりも大きい場合、第2の原料油中の500℃以上の留分における硫黄分の割合を低減することによりFCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を低減する効果よりも、第2の原料油全体の硫黄分の含有率を低減することによりFCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を低減する効果の方が高くなる場合がある。
【0032】
第2の原料油における硫黄分の含有率は、好ましくは0.1質量%以上0.8質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上0.7質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以上0.6質量%以下である。第2の原料油における硫黄分の含有率が0.1質量%以上0.8質量%以下であると、原料油の硫黄分の含有率を下げなくても、FCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を低減することができるという本発明の効果がとくに現れるとともに、反応塔20から排出される分解生成物中の硫黄分の濃度が高くなりすぎることを抑制できる。
【0033】
第2の原料油のR2は、好ましくは以下の式(5)を満たし、より好ましくは以下の式(13)を満たし、さらに好ましくは以下の式(14)を満たす。R2が以下の式(5)を満たすと、第2の原料油を第1の原料油に配合することによるFCC装置の再生塔の排ガス中のSOxの濃度を低減できるという効果がより大きくなる。
7質量%≦R2≦45質量% (5)
7質量%≦R2≦40質量% (13)
7質量%≦R2≦35質量% (14)
【0034】
第2の原料油は、上記式(2)を満たす原料油であれば、とくに限定されない。しかし、原料油のコストの観点から第2の原料油は、好ましくは、常圧蒸留装置(TOP)により得られた低硫黄重油である。常圧蒸留装置(TOP)を用いて低硫黄原油を蒸留することにより低硫黄重油を得ることができ、このようにして得られた低硫黄重油における、全体の硫黄分に対する500℃以上の留分における硫黄分の割合は低い。また、A重油、LSA重油などの市販されている低硫黄重油も第2の原料油として好ましい。
【0035】
なお、第2の原料油として使用される重質油は2種以上を使用してもよいが、その場合、500℃以上の留分の硫黄分の割合が最も高い重質油の500℃以上の留分の硫黄分の割合をR2とする。
【0036】
(第1の原料油と第2の原料油との質量比)
原料油における第1の原料油と第2の原料油との質量比(第1の原料油:第2の原料油)は、好ましくは90:10〜20:80であり、より好ましくは85:15〜20:80であり、さらに好ましくは80:20〜20:80であり、さらに好ましくは80:20〜30:70であり、さらに好ましくは80:20〜40:60である。第1の原料油と第2の原料油との質量比(第1の原料油:第2の原料油)が90:10〜20:80あると、原料油が第1の原料油のみからなる場合に比べて、原料油中の硫黄分の含有率を下げなくてもFCC装置1の再生塔30の排ガス中のSOxの濃度を低減することができるとともに、第1の原料油から得られる分解生成物の割合が低くなりすぎることを抑制できる。
【0037】
(原料油に含まれるその他の成分)
本発明の効果を阻害しない範囲で、原料油は、第1の原料油および第2の原料油以外の成分を含んでもよい。たとえば、原料油は、エチレン分解油、ポリマー、ライトナフサ(CD5)、ライトナフサ(CD9)、スロップナフサ(SLO)、ヘビーサイクルオイル(HCO)などをさらに含んでもよい。なお、原料油における第1の原料油および第2の原料油の合計の割合は、原料油の質量を基準として、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0039】
[測定および評価]
実施例および比較例の原料油の接触分解方法で用いた触媒および原料油を以下のように測定および評価した。
(1)原料油の硫黄分
原料油の硫黄分は、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」に準拠して測定した。
(2)原料油の硫黄分に対する500℃以上の留分および500℃未満の留分における硫黄分の割合
実施例および比較例で用いた原料油の全硫黄分に対する500℃以上の留分における硫黄分の割合および500℃未満の留分における硫黄分の割合を以下のように測定した。まず、原料油の全硫黄分の割合、500℃以上の留分おける硫黄分の割合および500℃未満の留分における硫黄分の割合を、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」に準拠して測定した。次に、測定した割合と、原料油における500℃以上の留分および500℃未満の留分の割合とから、単位質量当たりの原料油に含まれる硫黄分、単位質量当たりの原料油に含まれる500℃以上の留分における硫黄分、および単位質量当たりの原料油に含まれる500℃未満の留分における硫黄分を算出し、これらから原料油の全硫黄分に対する500℃以上の留分における硫黄分の割合および500℃未満の留分における硫黄分の割合をさらに算出した。
(3)再生塔から排出される排ガス中のSoxの濃度
煙道排ガス分析装置((株)堀場製作所製、型番:ENDA−640)を使用して再生塔から排出される排ガス中のSoxの濃度を測定した。
【0040】
[原料油の性状]
実施例および比較例で使用した原料油の性状を以下の表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
[実施例および比較例の原料油の接触分解]
以下のようにして実施例1、2および比較例1、2の原料油の接触分解を実施した。
(実施例1)
第1の原料油として脱硫重油を使用し、第2の原料油として低硫黄重油を使用した。そして、脱硫重油および低硫黄重油を混合して原料油1を作製した。原料油1における脱硫重油と低硫黄重油との質量比(脱硫重油:低硫黄重油)は40:60であった。そして、FCC装置を用いて、下記の運転条件で原料油1を接触分解した。
反応温度:520℃
反応圧力:0.15MPaG
再生塔温度:760℃
【0043】
(比較例1)
第1の原料油として脱硫重油を使用した。そして、実施例1と同じFCC装置を用いて、下記の運転条件で、第1の原料油のみからなる原料油2を接触分解した。
反応温度:520℃
反応圧力:0.15MPaG
再生塔温度:765℃
【0044】
(実施例2)
第1の原料油として脱硫減圧軽油を使用し、第2の原料油として低硫黄重油を使用した。そして、脱硫減圧軽油および低硫黄重油を混合して原料油3を作製した。原料油3における脱硫減圧軽油と低硫黄重油との質量比(脱硫減圧軽油:低硫黄重油)は80:20であった。そして、FCC装置を用いて、下記の運転条件で原料油3を接触分解した。
反応温度:515℃
反応圧力:0.25MPaG
再生塔温度:630℃
【0045】
(比較例2)
第1の原料油として硫減圧軽油および脱硫重油を使用した。そして、脱硫減圧軽油および脱硫重油を混合して原料油4を作製した。原料油4における脱硫減圧軽油と脱硫重油との質量比(脱硫減圧軽油:脱硫重油)は80:20であった。そして、実施例2と同じFCC装置を用いて、下記の運転条件で原料油4を接触分解した。
反応温度:515℃
反応圧力:0.25MPaG
再生塔温度:630℃
【0046】
[評価結果]
実施例1、2および比較例1、2で使用した原料油の硫黄分、原料油の500℃以上の留分における硫黄分および500℃未満の留分における硫黄分、ならびに再生塔から排出された排ガス中のSOxの濃度を以下の表2および表3に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
実施例1と比較例1とを比較することにより、第1の原料油に第2の原料油を配合することによって、第1の原料油のみを原料油として用いた場合に比べて、原料油全体の硫黄分に対する原料油全体の500℃以上の留分における硫黄分の割合を低減できることがわかった。そして、原料油全体の硫黄分を下げなくても再生塔から排出される排出ガス中のSOxの濃度を低減できることがわかった。また、実施例2と比較例2とを比較することにより、第1の原料油に第2の原料油を配合することによって、第1の原料油に他の第1の原料油を配合した場合に比べて、原料油全体の硫黄分を下げなくても再生塔から排出される排出ガス中のSOxの濃度を低減できることがわかった。
【符号の説明】
【0050】
1 FCC装置
10 ライザー
11 原料油供給ライン
20 反応塔
21 サイクロン
22 分解生成物排出ライン
23 ストリッパー
24 スペント触媒トランスファーライン
30 再生塔
31 エアブロワー
32 エアグリッド
33 サイクロン
34 再生触媒トランスファーライン
35 排ガスライン
図1