(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561734
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】炭酸水のシリカ濃度の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
G01N27/62 V
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-193676(P2015-193676)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-67616(P2017-67616A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】床嶋 裕人
【審査官】
田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−029880(JP,A)
【文献】
特開2006−343192(JP,A)
【文献】
特開2010−002185(JP,A)
【文献】
特開2008−145384(JP,A)
【文献】
特開2012−109290(JP,A)
【文献】
特開2001−198578(JP,A)
【文献】
特開2001−129305(JP,A)
【文献】
特開2004−205297(JP,A)
【文献】
特開2002−355683(JP,A)
【文献】
米国特許第06416676(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−27/70
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水に炭酸ガスを溶解して調製した炭酸水のシリカ濃度の分析方法であって、前記炭酸水から炭酸ガスを脱気処理した後、処理水中のシリカ濃度をICP−MSで分析することを特徴とする炭酸水のシリカ濃度の分析方法。
【請求項2】
前記脱気処理を前記処理水のpHが6以上となるように行うことを特徴とする請求項1に記載の炭酸水のシリカ濃度の分析方法。
【請求項3】
前記脱気処理を前記処理水の電気伝導度が0.05mS/m以下になるように行うことを特徴とする請求項1に記載の炭酸水のシリカ濃度の分析方法。
【請求項4】
前記炭酸水に酸を添加してpH4以下としてから前記脱気処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の炭酸水のシリカ濃度の分析方法。
【請求項5】
前記炭酸水の炭酸ガス濃度が0.5〜2000ppmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の炭酸水のシリカ濃度の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は炭酸水のシリカ濃度の分析方法に関し、特に電子材料のウェット洗浄に好適な炭酸水中のシリカ濃度を低濃度域まで精度よく分析することの可能な炭酸水のシリカ濃度の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体用シリコン基板、液晶用ガラス基板などの電子材料部材は、RCA洗浄を代表とする高濃度の薬液や洗剤での洗浄の後、リンス水として超純水で洗浄することが行われている。しかしながら、超純水は絶縁性が高いため、洗浄時に超純水と電子材料部材との摩擦によって該電子材料部材が帯電することがある。このように電子材料部材が帯電すると、該電子材料部材に微細な回路パターンが設けられている場合に、静電破壊により回路が破壊されてしまうという問題がある。
【0003】
このような帯電を防止するために、リンス水として超純水に炭酸ガスを溶解させた炭酸水を用いることが知られている。この炭酸水は超純水よりも導電性が高いため、洗浄時における電子材料部材の帯電を防止することができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、炭酸水の製造方法の一例が記載されている。この特許文献1には、中空糸膜の中空部に温水を流すと共に、該中空糸膜の外表面側に炭酸ガスを供給し、該炭酸ガスを中空部内の温水に溶解させて炭酸水を製造する方法において、この温水を中空糸膜の中空部内に繰り返し流すことにより、温水中に炭酸ガスを徐々に溶解させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−293344号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、リンス水中のシリカ濃度が高いと微細な回路パターンがシリカにより短絡して、回路が破壊されてしまう虞が高まる。そこで、リンス水としての炭酸水のシリカ濃度を分析する必要が生じる。しかしながら、本発明者が検討した結果、炭酸水中のシリカ濃度を測定するとシリカ濃度が実際よりも高く検出されることがあることがわかり、炭酸水中のシリカ濃度を正確に分析する方法が望まれていた。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、電子材料のウェット洗浄に好適な炭酸水中のシリカ濃度を低濃度域まで精度よく分析することの可能な炭酸水のシリカ濃度の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み、本発明は超純水に炭酸ガスを溶解して調製した炭酸水のシリカ濃度の分析方法であって、前記炭酸水から炭酸ガスを脱気処理した後、処理水中のシリカ濃度をICP−MSで分析することを特徴とする炭酸水のシリカ濃度の分析方法を提供する(発明1)。
【0009】
かかる発明(発明1)によれば、高精度で汎用的な分析手段であるICP−MSで炭酸水のシリカ濃度を測定すると、シリカ濃度が実際よりも大幅に高く検出されるが、これは二酸化炭素や一酸化炭素などの溶存ガスがICP−MSに対して正の妨害を及ぼすためであることがわかった。そこで、曝気や脱気膜処理などにより炭酸水中の溶存ガスを除去する処理を施してやれば、炭酸水中のシリカ濃度を精確に分析することができる。
【0010】
上記発明(発明1)においては、前記脱気処理を前記処理水のpHが6以上となるように行うのが好ましい(発明2)。
【0011】
かかる発明(発明2)によれば、二酸化炭素や一酸化炭素を十分に溶解した超純水は一般にpH5以下の酸性を示す一方、これらのガスを脱気すればpHは上昇する。そこで、二酸化炭素や一酸化炭素をpH6以上になるまで脱気してやれば、ICP−MSでのシリカ濃度の分析における正の妨害を無視できる程度にまで二酸化炭素を低減することができる。
【0012】
上記発明(発明1)においては、前記脱気処理を前記処理水の電気伝導度が0.05mS/m以下になるように行うのが好ましい(発明3)。
【0013】
かかる発明(発明3)によれば、二酸化炭素や一酸化炭素を溶解した超純水は、この溶解した気体に起因して電気伝導度が上昇する一方、これらのガスを脱気すれば電気伝導度は下降する。そこで、二酸化炭素や一酸化炭素を電気伝導度が0.05mS/m以下になるまで脱気してやれば、ICP−MSでのシリカ濃度の分析における正の妨害を無視できる程度にまで二酸化炭素を低減することができる。
【0014】
上記発明(発明1)においては、前記炭酸水に酸を添加してpH4以下としてから前記脱気処理を行うのが好ましい(発明4)。
【0015】
かかる発明(発明4)によれば、二酸化炭素や一酸化炭素は酸性領域の方が除去しやすいので、pH4以下とすることにより、効率的に二酸化炭素や一酸化炭素を除去することができる。
【0016】
上記発明(発明1〜4)においては、前記炭酸水の炭酸ガス濃度が0.5〜2000ppmであるのが好ましい(発明5)。
【0017】
かかる発明(発明5)によれば、このような炭酸ガス濃度の炭酸水は実用的であり炭酸ガスの除去によりシリカ濃度を適切に分析することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の炭酸水のシリカ濃度の分析方法は、炭酸水から炭酸ガスを脱気処理した後、処理水中のシリカ濃度をICP−MSで分析することにより、二酸化炭素や一酸化炭素などの溶存ガスによる正の妨害を排除して、炭酸水中のシリカ濃度を精確に分析することができる。
【0019】
このような本発明の炭酸水のシリカ濃度の分析方法によれば、電子デバイスの洗浄に用いられる炭酸水中の溶存シリカ濃度の測定を精確かつ簡便に行うことができることから、その技術的有用性は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一の実施形態による炭酸水のシリカ濃度の分析方法を好適に利用可能なシステムを示す概略図である。
【
図2】本発明の第二の実施形態による炭酸水のシリカ濃度の分析方法を好適に利用可能なシステムを示す概略図である。
【
図3】本発明の第三の実施形態による炭酸水のシリカ濃度の分析方法を好適に利用可能なシステムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の炭酸水のシリカ濃度の分析方法の第一の実施形態について添付図面を参照にして詳細に説明する。
【0022】
図1は本実施形態の炭酸水のシリカ濃度の分析方法を実施可能なシステムを示しており、同図において1は膜式脱気装置であり、この膜式脱気装置1は脱気膜1Aを備えていて、該脱気膜1Aの気相側には窒素ガス供給機構2と吸引装置などのガス排出装置3とが接続されているとともに液相側には分析対象である炭酸水Wのタンク4とポンプ5とが接続されている。
【0023】
上述したようなシステムにおいて、脱気膜1Aとしては分析成分であるシリカ濃度に影響を及ぼさないものであれば制限はなく、ポリプロ製のものなどを用いることができる。
【0024】
また、ポンプ5としては、分析成分であるシリカ濃度に影響を及ぼさないものであれば制限はなく、プランジャーポンプなどを用いることができる。チューブポンプを用いる場合、シリカ濃度に影響を及ぼすことからシリコンチューブは用いるのに適しない。
【0025】
一方、分析対象となる炭酸水Wは、超純水に炭酸ガス(二酸化炭素)を溶解した陽化したものであり、超純水に溶解させる炭酸ガスの濃度は特に制限はないが、0.5〜2000ppmであるのが一般的である。炭酸ガスの濃度が0.5ppm未満では、リンス水としての炭酸水による電子材料部材の帯電防止効果が十分でない一方、2000ppmを超えてもそれ以上の電子材料部材の帯電防止効果が得られないばかりか、炭酸ガスの溶解コストが上昇するため好ましくない。
【0026】
また、このような炭酸ガス溶解水のベースとなる超純水としては、例えば、抵抗率:18.1MΩ・cm以上、微粒子:粒径50nm以上で1000個/L以下、生菌:1個/L以下、TOC(Total Organic Carbon):1μg/L以下、全シリコン:0.1μg/L以下、金属類:1ng/L以下、イオン類:10ng/L以下、過酸化水素;30μg/L以下、水温:25±2℃のものを好適に用いることができる。
【0027】
次に上述したような構成を有するシステムを用いた本実施形態の炭酸水のシリカ濃度の分析方法について説明する。
【0028】
まず、ポンプ5を起動して炭酸水Wをタンク4から膜式脱気装置1に供給する。これと同時に窒素ガス供給機構2から窒素ガスを供給するとともにガス排出装置3からガスを排出する。これにより炭酸水W中の気体成分が脱気膜1Aを介して脱気されて脱気処理が行われることで処理水W1が得られる。
【0029】
このようにして脱気処理を施した処理水W1のシリカ濃度は、炭酸水Wと同じであるので、この処理水W1中のシリカ濃度をICP−MSで分析する。ICP−MSで炭酸水Wのシリカ濃度を測定すると、シリカ濃度が実際よりも大幅に高く検出されるが、これは二酸化炭素や一酸化炭素などの溶存ガスが正の妨害を及ぼすためである。そこで、膜式脱気装置1により炭酸ガス中の溶存ガスを除去する処理を施してやれば、炭酸水中のシリカ濃度を精確に分析することができる。ここで、ICP−MSとは、高周波誘導結合プラズマ質量分析装置のことであり、特別なスキルを必要とせず、短時間の測定が可能である。
【0030】
ここで、ICP−MSによるシリカ濃度の精度は、残存する二酸化炭素の濃度(脱気度)に依存する。したがって、炭酸水Wからの脱気の度合いによる適正な精度を客観的に判断できるのが望ましい。したがって、上述したような脱気処理は、処理水W1のpHを測定し、該処理水W1のpHが6以上となるように行うのが好ましい。これは以下のような理由による。すなわち、超純水のpHはほぼpH7であるが、二酸化炭素が十分に溶解するとpH5以下の酸性を示すようになる。一方、これとは逆に炭酸水Wから二酸化炭素を脱気すればpHが上昇してpH7に近づいていく。そこで、炭酸水Wから二酸化炭素や一酸化炭素をpH6以上になるまで脱気してやれば、ICP−MSにおけるシリカ濃度の測定における二酸化炭素の正の妨害を無視できる程度にまで低減することができる。
【0031】
また、脱気処理を処理水W1の電気伝導度を測定することで炭酸水Wからの脱気の度合いによる適正な精度を客観的に判断してもよい。具体的には、処理水W1の電気伝導度が0.05mS/m以下になるように脱気処理を行ってもよい。超純水の電気伝導度は、一般に0.005mS/m以下であるが、二酸化炭素が溶解すると電気伝導度は大幅に上昇する。一方、これとは逆に炭酸水Wから二酸化炭素を脱気すれば電気伝導度は減少する。そこで、二酸化炭素や一酸化炭素を処理水W1の電気伝導度が0.05mS/m以下になるまで脱気してやれば、ICP−MSにおけるシリカ濃度の測定における二酸化炭素の正の妨害を無視できる程度にまで低減することができる。
【0032】
さらに、脱気処理に先立って分析対象となる炭酸水Wに酸を添加してpH4以下としてもよい。二酸化炭素や一酸化炭素は酸性領域の方が除去しやすいので、pH4以下とすることにより、効率的に二酸化炭素や一酸化炭素を除去することができる。
【0033】
以上、本発明について添付図面を参照して説明してきたが、本発明は前記実施形態に限らず種々の変更実施が可能である。例えば、前記実施形態においては、脱気膜1Aの気相側に窒素ガスを供給して排気ガスを排出することで脱気するスィープモードとしているが、窒素ガスを供給せずに排気ガスを排出することで、気相側を真空として脱気するバキュームモードとしてもよいし、両方式を併用したコンボモードとしてもよい。
【0034】
また、
図2に示すようにポンプ5は、炭酸水Wのタンク4側に設けてもよい。さらに、
図3に示すように炭酸水Wをシリンジポンプ5Aに収容して炭酸水Wのタンク4とポンプとを併用してもよい。
【実施例】
【0035】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0036】
[実施例1]
図3に示す炭酸水のシリカ濃度の分析方法を実施可能なシステムを用い、超純水に二酸化炭素を100ppm溶解した炭酸水Wをシリンジポンプ5Aに収容し、このシリンジポンプ5Aから炭酸水Wを膜式脱気装置1に供給して脱気処理を行い、処理水W1を得た。このとき脱気処理は、処理水W1のpHを測定してpHが5となるように行った。この処理水W1のシリカ濃度をICP−MSで測定した結果を表1に示す。また、参考例として本実施例において使用した超純水のシリカ濃度を表1にあわせて示す。
【0037】
なお、本実施例における条件は以下の通りである。
脱気膜1A:ポリポア製「リキセルG248」(商品名)
脱気モード:バキューム(−95kPa)+窒素 (コンボモード)
超純水中のシリカ濃度:0.5ppb
炭酸水Wの炭酸濃度:100ppm
炭酸水WのpH:4.7
脱気水量:100mL/min
【0038】
[実施例2]
実施例1において、脱気処理を処理水W1のpHが6となるように行った。この処理水W1のシリカ濃度をICP−MSで測定した。結果を表1にあわせて示す。
【0039】
[比較例1]
実施例1の炭酸水1に対して脱気処理を施すことなく、そのままICP−MSでシリカ濃度を測定した。結果を表1にあわせて示す。
【0040】
[実施例3]
実施例1において、処理水W1の電気伝導度を測定し、脱気処理を該処理水W1の電気伝導度が0.5mS/mとなるように行った。この処理水W1のシリカ濃度をICP−MSで測定した。結果を表1にあわせて示す。
【0041】
[実施例4]
実施例3において、脱気処理を該処理水W1の電気伝導度が0.05mS/mとなるように行った。この処理水W1のシリカ濃度をICP−MSで測定した。結果を表1にあわせて示す。
【0042】
[実施例5]
実施例1において、処理水W1に塩酸を添加してpHを4とした以外同様にして脱気処理を行い、処理水W1のシリカ濃度をICP−MSで測定した。結果を表1にあわせて示す。
【0043】
[実施例6]
実施例5において、処理水W1に塩酸を添加してpHを3とした以外同様にして脱気処理を行い、処理水W1のシリカ濃度をICP−MSで測定した。結果を表1にあわせて示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から明らかなように、炭酸水Wのシリカ濃度をそのまま測定した比較例1では、実際は0.5ppbのシリカ濃度が80ppbと大幅に高く計測され、シリカ濃度に対して正の誤差が大きいのがわかる。これに対し、脱気処理をpH5、あるいはpH6になるまで行った実施例1、2では、それぞれシリカ濃度12ppb及び0.5ppbであり、比較例1よりも大幅に実際の値に近似しており、特にpH6となるまで脱気してやれば、シリカ濃度を正しく測定できることがわかる。また、脱気処理を電気伝導度が0.5mS/m、あるいは0.05mS/mになるまで行った実施例3、4では、それぞれシリカ濃度18ppb及び0.5ppbであり、比較例1よりも大幅に実際の値に近似しており、特に電気伝導度が0.05mS/mとなるまで脱気してやれば、シリカ濃度を正しく測定できることがわかる。さらに、炭酸水Wに塩酸を添加してpHを4あるいは3とした後に脱気処理を施した実施例5及び6でも、シリカ濃度を正しく測定できた。これは酸性領域とすることで二酸化炭素を十分に脱気できたためであると考えられる。
【符号の説明】
【0046】
1…膜式脱気装置
1A…脱気膜
2…窒素ガス供給機構
3…ガス排出装置
4…タンク
5…ポンプ
5A…シリンジポンプ
W…炭酸水
W1…処理水