特許第6561999号(P6561999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6561999
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ディップ成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/02 20060101AFI20190808BHJP
   B29C 41/14 20060101ALI20190808BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20190808BHJP
   B29L 31/48 20060101ALN20190808BHJP
   B29K 9/00 20060101ALN20190808BHJP
【FI】
   C08J5/02CEQ
   B29C41/14
   A41D19/00 A
   B29L31:48
   B29K9:00
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-566062(P2016-566062)
(86)(22)【出願日】2015年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2015083551
(87)【国際公開番号】WO2016104058
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-262869(P2014-262869)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎二
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/004459(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/157034(WO,A1)
【文献】 特開昭54−59440(JP,A)
【文献】 特開2003−277523(JP,A)
【文献】 特開2010−144163(JP,A)
【文献】 特開2003−252935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00〜 5/02
5/12〜 5/22
C08K 3/00〜 13/08
C08L 1/00〜101/14
B29C41/00〜 41/36
41/46〜 41/52
A41D19/00〜 19/04
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン単位を含む共役ジエン単量体単位(A)40〜80重量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)20〜45重量%、およびエチレン性不飽和酸単量体単位(C)2〜15重量%を含有してなり、
前記イソプレン単位とブタジエン単位との含有割合が、重量比で、イソプレン単位:ブタジエン単位=60:40〜100:0である共重合体を含むディップ成形用ラテックスと、
架橋剤とを含んでなるディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形してなり、
引裂強度が50N/mm以上、引張強度が25MPa以上、かつオイル膨潤率が5%以下であるディップ成形品。
【請求項2】
前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)が、アクリロニトリル単位である請求項1記載のディップ成形品。
【請求項3】
前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)が、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体単位である請求項1または2に記載のディップ成形品。
【請求項4】
前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)が、メタクリル酸単位である請求項1〜3のいずれかに記載のディップ成形品。
【請求項5】
前記共重合体が、前記共役ジエン単量体単位(A)、前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)および前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)以外の他の単量体単位(D)を含み、該他の単量体単位(D)の含有量が、全単量体単位100重量%に対して、10重量%以下のものである請求項1〜4のいずれかに記載のディップ成形品。
【請求項6】
前記共重合体が、前記共役ジエン単量体単位(A)、前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)および前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)以外の他の単量体単位(D)を含み、該他の単量体単位(D)の含有量が、全単量体単位100重量%に対して、5重量%以下のものである請求項1〜5のいずれかに記載のディップ成形品。
【請求項7】
前記共重合体が、前記共役ジエン単量体単位(A)、前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)、および前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)のみからなるものである請求項1〜4のいずれかに記載のディップ成形品。
【請求項8】
前記ディップ成形用ラテックス組成物における前記架橋剤の添加量が、前記ディップ成形用ラテックス中の固形分100重量部に対して、0.01〜5重量部である請求項1〜7のいずれかに記載のディップ成形品。
【請求項9】
前記ディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度が5〜40重量%である請求項1〜8のいずれかに記載のディップ成形品。
【請求項10】
厚みが0.05〜3mmである請求項1〜9のいずれかに記載のディップ成形品。
【請求項11】
アノード凝着浸漬法により得られるものである請求項1〜10のいずれかに記載のディップ成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディップ成形品に関するものである。さらに詳しくは、耐油性に優れ、高い引張強度及び高い引裂強度を有するディップ成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム手袋は、家事、食品関連産業、精密工業、医療など幅広い用途で使用されている。従来、引張強度が高く、耐油性に優れるゴム手袋として、カルボキシ変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスをディップ成形することにより得られるディップ成形品が多用されている。
【0003】
たとえば、特許文献1〜7には、カルボキシ変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスが開示されている。これらの文献に記載されたラテックスをディップ成形することで、得られるゴム手袋は、天然ゴムラテックスから得られるゴム手袋に比べて、耐油性に優れているため、広く用いられている。さらに近年、天然ゴムに含まれている蛋白に起因する蛋白アレルギーの問題から、合成ゴムとしてのカルボキシ変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスに対する需要がさらに高まっている。
【0004】
ゴム手袋には、例えば、長時間着用しても手が疲れないよう、指の動きに追随して伸縮して風合いがよいこと、装着時に破れないこと、油脂に触れる作業を行っても作業中に破れないことなど様々な特性が要求されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1〜7のようなカルボキシ変性アクリロニトリル−ブタジエン共重合体をベースとしたものは、耐油性には優れるものの、以下の課題があった。すなわち、このような共重合体は、重合するモノマー組成により、機械的強度(引張強度及び引裂強度等)、伸び、柔軟性等の各物性のバランスが大きく変化するという特性を有している。そのため、得られるディップ成形品をゴム手袋に用いる場合において装着時に破れたり、油脂に触れる作業を行っている最中に破れたりする虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第2,880,189号明細書
【特許文献2】米国特許第4,102,844号明細書
【特許文献3】特開平5−86110号公報
【特許文献4】特開平5−247266号公報
【特許文献5】特開平6−182788号公報
【特許文献6】米国特許第5,084,514号明細書
【特許文献7】米国特許第5,278,234号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、このような実状に鑑みてなされ、装着時の耐性に優れ、さらに油脂に触れる作業を行っている最中における耐性(機械整備作業耐性)に優れるディップ成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、共役ジエン単量体単位(A)、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)、およびエチレン性不飽和酸単量体単位(C)を含有してなり、共役ジエン単量体単位(A)がイソプレン単位とブタジエン単位とを特定の割合で含む共重合体を含有してなるラテックスと、架橋剤とを含んでなるラテックス組成物をディップ成形して得られ、引裂強度、引張強度およびオイル膨潤率が所定の範囲であるディップ成形品を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、
(1) イソプレン単位を含む共役ジエン単量体単位(A)40〜80重量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)20〜45重量%、およびエチレン性不飽和酸単量体単位(C)2〜15重量%を含有してなり、前記イソプレン単位とブタジエン単位との含有割合が、重量比で、イソプレン単位:ブタジエン単位=60:40〜100:0である共重合体を含むディップ成形用ラテックスと、架橋剤とを含んでなるディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形してなり、引裂強度が50N/mm以上、引張強度が25MPa以上、かつオイル膨潤率が5%以下であるディップ成形品、
(2) 前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)が、アクリロニトリル単位である(1)記載のディップ成形品、
(3) 前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)が、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体単位である(1)または(2)に記載のディップ成形品、
(4) 前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)が、メタクリル酸単位である(1)〜(3)のいずれかに記載のディップ成形品、
(5) 前記共重合体が、前記共役ジエン単量体単位(A)、前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)および前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)以外の他の単量体単位(D)を含み、該他の単量体単位(D)の含有量が、全単量体単位100重量%に対して、10重量%以下のものである(1)〜(4)のいずれかに記載のディップ成形品、
(6) 前記共重合体が、前記共役ジエン単量体単位(A)、前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)および前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)以外の他の単量体単位(D)を含み、該他の単量体単位(D)の含有量が、全単量体単位100重量%に対して、5重量%以下のものである(1)〜(5)のいずれかに記載のディップ成形品、
(7) 前記共重合体が、前記共役ジエン単量体単位(A)、前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)、および前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)のみからなるものである(1)〜(4)のいずれかに記載のディップ成形品、
(8) 前記ディップ成形用ラテックス組成物における前記架橋剤の添加量が、前記ディップ成形用ラテックス中の固形分100重量部に対して、0.01〜5重量部である(1)〜(7)のいずれかに記載のディップ成形品、
(9) 前記ディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度が5〜40重量%である(1)〜(8)のいずれかに記載のディップ成形品、
(10) 厚みが0.05〜3mmである(1)〜(9)のいずれかに記載のディップ成形品、
(11) アノード凝着浸漬法により得られるものである(1)〜(10)のいずれかに記載のディップ成形品
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装着時の耐性および機械整備作業耐性に優れるディップ成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のディップ成形品について説明する。本発明のディップ成形品は、イソプレン単位を含む共役ジエン単量体単位(A)40〜80重量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)20〜45重量%、およびエチレン性不飽和酸単量体単位(C)2〜15重量%を含有してなり、前記イソプレン単位とブタジエン単位との含有割合が、重量比で、イソプレン単位:ブタジエン単位=60:40〜100:0である共重合体を含むディップ成形用ラテックスと、架橋剤とを含んでなるディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形してなり、引裂強度が50N/mm以上、引張強度が25MPa以上、かつオイル膨潤率が5%以下である。
【0012】
(ディップ成形用ラテックス)
本発明に用いるディップ成形用ラテックスは、イソプレン単位を含む共役ジエン単量体単位(A)40〜80重量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)20〜45重量%、およびエチレン性不飽和酸単量体単位(C)2〜15重量%を含有してなり、イソプレン単位とブタジエン単位との含有割合が、重量比で、イソプレン単位:ブタジエン単位=60:40〜100:0である共重合体を含んでなる。
【0013】
ラテックスを構成する共重合体中の共役ジエン単量体単位(A)の含有量は、該共重合体の全単量体単位に対して、40〜80重量%であり、好ましくは50〜75重量%、より好ましくは55〜70重量%である。この割合が少ないと風合いに劣り、逆に多いと引張強度が低下する。
【0014】
共役ジエン単量体単位(A)は、少なくともイソプレン単位を含有し、さらにブタジエン単位を含有していてもよい。共役ジエン単量体単位(A)全体に対する、イソプレン単位とブタジエン単位との合計量は、好ましくは90重量%以上である。さらに、共役ジエン単量体単位(A)は、実質的にイソプレン単位のみ、またはイソプレン単位およびブタジエン単位のみから構成されることが特に好ましい。
【0015】
なお、共役ジエン単量体単位(A)全体に対するイソプレン単位の量は好ましくは40〜100重量%、ブタジエン単位の量は好ましくは0〜30重量%である。また、ブタジエン単位を形成する単量体としては、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0016】
共役ジエン単量体単位(A)におけるイソプレン単位とブタジエン単位との含有割合は、重量比で、イソプレン単位:ブタジエン単位=60:40〜100:0であり、好ましくは70:30〜100:0である。ブタジエン単位の割合が多すぎると、引裂強度が不十分となると共に、油脂に触れる作業を行っている最中に破れ易くなる。
【0017】
共役ジエン単量体単位(A)は、イソプレン単位およびブタジエン単位以外に、他の共役ジエン単量体単位を含んでいてもよい。そのような他の共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体(a)としては、特に限定されないが、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンおよびクロロプレンなどのブタジエンおよびイソプレン以外の炭素数4〜12の共役ジエン単量体が挙げられる。ただし、イソプレン単位およびブタジエン単位以外の、他の共役ジエン単量体単位の含有量は、共役ジエン単量体単位(A)全体に対して、10重量%以下とすることが好ましい。
【0018】
エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)を形成するエチレン性不飽和ニトリル単量体(b)としては、ニトリル基を有する炭素数3〜18のエチレン性不飽和化合物が使用される。このような化合物としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロゲン置換アクリロニトリルなどが挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。上記のなかでも、アクリロニトリルが好ましく使用できる。
【0019】
ラテックスを構成する共重合体中のエチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)の含有量は、該共重合体の全単量体単位に対して、20〜45重量%であり、好ましくは20〜40重量%、より好ましくは20〜30重量%である。エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)の含有量が少なすぎると、引張強度及び耐油性に劣り、逆に多いと風合いに劣る。
【0020】
エチレン性不飽和酸単量体単位(C)を形成するエチレン性不飽和酸単量体(c)としては、特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0021】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。
【0022】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、たとえば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0023】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、たとえば、(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸−2−リン酸エチル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸などが挙げられる。
【0024】
これらのエチレン性不飽和酸単量体(c)は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもでき、また、単独でまたは2種以上を組み合せて用いることもできる。上記のエチレン性不飽和酸単量体(c)のなかでも、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体が好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましく用いることができる。
【0025】
ラテックスを構成する共重合体中のエチレン性不飽和酸単量体単位(C)の含有量は、該共重合体の全単量体単位に対して、2〜15重量%であり、好ましくは3〜12重量%、より好ましくは4〜10重量%である。エチレン性不飽和酸単量体単位(C)の含有量が少なすぎると引張強度に劣り、逆に多すぎると風合いに劣る。
【0026】
ラテックスを構成する共重合体は、前記共役ジエン単量体単位(A)、前記エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)、および前記エチレン性不飽和酸単量体単位(C)以外の単量体単位である、他の単量体単位(D)を含有していてもよい。
【0027】
前記他の単量体単位(D)を形成する他の単量体(d)としては、共役ジエン単量体(a)、エチレン性不飽和ニトリル単量体(b)およびエチレン性不飽和酸単量体(c)と共重合可能な単量体であれば特に限定されず、例えば、以下の単量体が挙げられる。
【0028】
すなわち、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、トリクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン単量体;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸アリル、酢酸メタリル、塩化アリル、塩化メタリル等の(メタ)アリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン;などを挙げることができる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
これらのなかでも、ディップ成形品の引張強度をより高めることができるという点で、芳香族ビニル単量体が好ましい。ラテックスを構成する共重合体中の他の単量体単位(D)の含有量は、引張強度、耐油性および風合いを良好に維持できる観点から、該共重合体の全単量体単位に対して、好ましくは10重量%以下、より好ましくは7重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。
【0030】
なお、本発明においては、他の単量体単位(D)を実質的に含有しないことが特に好ましい。すなわち、ラテックスを構成する共重合体が、共役ジエン単量体単位(A)、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)およびエチレン性不飽和酸単量体単位(C)のみからなることが特に好ましい。
【0031】
(ディップ成形用ラテックスの製造方法)
本発明に用いるディップ成形用ラテックスは、特に限定されないが、前記した各単量体の混合物を乳化重合することにより簡便に製造することができる。乳化重合に用いる単量体混合物の組成を調節することにより、得られる共重合体の組成を容易に調節できる。乳化重合法としては、従来公知の乳化重合法を採用すれば良い。また、乳化重合するに際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0032】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。これらのなかでも、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好ましく使用できる。乳化剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5〜10重量部、より好ましくは1〜8重量部である。
【0033】
重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル開始剤が好ましく使用できる。このようなラジカル開始剤としては、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらラジカル開始剤のなかでも、無機または有機の過酸化物が好ましく、無機過酸化物がより好ましく、過硫酸塩が特に好ましく使用できる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.05〜1.5重量部である。
【0034】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、たとえば、α−メチルスチレンダイマー;t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物;などが挙げられる。これらは単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましく使用できる。分子量調整剤の使用量は、その種類によって異なるが、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜0.8重量部、より好ましくは0.2〜0.7重量部である。
【0035】
乳化重合は、通常、水中で行なわれる。水の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部、より好ましくは100〜200重量部である。
【0036】
乳化重合に際し、さらに必要に応じて、上記以外の重合副資材を用いてもよい。このような重合副資材としては、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等が挙げられ、これらの種類、使用量とも特に限定されない。
【0037】
重合温度は特に限定されないが、通常、0〜95℃、好ましくは5〜70℃である。重合禁止剤を添加して、重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整することにより、本発明に用いるディップ成形用ラテックスを得ることができる。重合反応を停止する際の重合転化率は、通常、80重量%以上、好ましくは90重量%である。
【0038】
本発明に用いるディップ成形用ラテックスを構成する共重合体粒子の重量平均粒子径は、通常、30〜1000nm、好ましくは50〜500nm、より好ましくは70〜200nmである。この粒子径が小さすぎると、ラテックス粘度が高くなりすぎて取り扱いにくく、逆に大きすぎるとディップ成形時の成膜性が低下して均質な膜厚を有するディップ成形品を得にくくなる。
【0039】
本発明に用いるディップ成形用ラテックスの全固形分濃度は、通常、20〜65重量%、好ましくは30〜60重量%、より好ましくは35〜55重量%である。この濃度が低すぎると、ラテックスの輸送効率が低下し、逆に高すぎると、その製造が困難になると共に、ラテックス粘度が高くなりすぎて取り扱いにくくなる。
【0040】
本発明に用いるディップ成形用ラテックスのpHは、通常、5〜13、好ましくは7〜10、より好ましくは7.5〜9である。ラテックスのpHが低すぎると、機械的安定性が低下してラテックスの移送時に粗大凝集物が発生しやすくなる不具合があり、逆に高すぎるとラテックス粘度が高くなりすぎて取り扱いにくくなる。
【0041】
本発明に用いるディップ成形用ラテックスには、所望により、ラテックスに通常添加される、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、増粘剤、分散剤、顔料、染料などの各種添加剤を所定量添加することもできる。
【0042】
(ディップ成形用ラテックス組成物)
本発明に用いるディップ成形用ラテックス組成物は、上記ディップ成形用ラテックスと架橋剤とを含んでなり、上記ディップ成形用ラテックスに架橋剤を添加してなるものであることが好ましい。架橋剤を含有させることにより、ディップ成形可能な組成物を得ることができる。
【0043】
架橋剤としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用でき、特に限定されないが、たとえば、有機過酸化物や、硫黄系架橋剤などが使用できる。
【0044】
有機過酸化物としては、たとえば、ジベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ジ−α−クミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、サクシニックアシッドパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッドなどが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの有機過酸化物のなかでも、物性のバランスに優れたディップ成形品を得ることができる点から、ジベンゾイルパーオキサイドおよびジラウロイルパーオキサイドが好ましく、ジベンゾイルパーオキサイドがより好ましく使用できる。
【0045】
硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N'−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2−(4'−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0046】
架橋剤の添加量は、ディップ成形用ラテックス中の全固形分100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.05〜3重量部、特に好ましくは0.1〜2重量部である。架橋剤の添加量が少なすぎると、引張強度に劣る傾向となる。また、架橋剤の添加量が多すぎると、風合いおよび引張強度に劣る傾向となる。
【0047】
架橋剤として硫黄系架橋剤を用いる場合には、硫黄系架橋剤を水に分散させた水分散液として添加することが好ましい。水分散液として添加することにより、ピンホールや凝集物の付着等の欠陥が少なく、さらに、高い引張強度及び高い引裂強度を有する手袋等のディップ成形品が得られる。一方、硫黄系架橋剤を水分散液として添加しない場合には、引張強度や引裂強度が低下するばかりか、凝集物が発生するため、保護具として良好な手袋を得ることができない虞がある。
【0048】
硫黄系架橋剤の分散液の調製方法としては、特に制限はないが、硫黄系架橋剤に溶媒を添加し、ボールミルやビーズミルなどの湿式粉砕機で粉砕撹拌する方法が好ましい。
架橋剤として硫黄を使用する場合には、架橋促進剤(加硫促進剤)や、酸化亜鉛を配合することが好ましい。
【0049】
架橋促進剤(加硫促進剤)としては、ディップ成形において通常用いられるものが使用できる。例えば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホニリル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられるが、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの架橋促進剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。架橋促進剤の使用量は、ディップ成形用ラテックス中の全固形分100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0050】
また、酸化亜鉛の使用量は、ディップ成形用ラテックス中の全固形分100重量部に対して、5重量部以下、好ましくは0.1〜3重量部、より好ましくは0.5〜2重量部である。
【0051】
本発明に用いるディップ成形用ラテックス組成物には、必要に応じて、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、湿潤剤、増粘剤、分散剤、顔料、染料、充填材、補強材、pH調整剤などの各種添加剤を所定量添加することもできる。
【0052】
ディップ成形用ラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜25重量%である。ディップ成形用ラテックス組成物のpHは、好ましくは8.5〜12、より好ましくは9〜11の範囲である。
【0053】
(熟成)
本発明のディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形に供する前に、熟成(前加硫ともいう。)させてもよい。
【0054】
架橋剤として、有機過酸化物を用いる場合において、熟成させる際の温度条件及び熟成時間としては特に限定されないが、好ましくは20〜30℃にて、数時間〜10時間行うことが好ましい。
【0055】
架橋剤として硫黄系架橋剤を用いる場合において、熟成させる際の温度条件としては、好ましくは20〜30℃である。また、熟成させる際の時間は、高い引張強度及び高い引裂強度を有する手袋等のディップ成形品が得られる観点から、好ましくは12時間以上、より好ましくは24時間以上である。この時間が短すぎると、得られるディップ成形品の引張強さや引裂強度が低下する。
【0056】
そして、前加硫した後、ディップ成形に供されるまで、好ましくは10℃〜30℃の温度で貯蔵することが好ましい。高温のまま貯蔵すると、得られるディップ成形品の引張強さが低下する傾向にある。
【0057】
(ディップ成形品)
本発明のディップ成形品は、上記のディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形して得られる。ディップ成形法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば、直接浸漬法、アノード凝着浸漬法、ティーグ凝着浸漬法などが挙げられる。なかでも、均一な厚みを有するディップ成形品が得やすいという点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。以下、一実施形態としてのアノード凝着浸漬法によるディップ成形法を説明する。
まず、ディップ成形型を凝固剤溶液に浸漬して、ディップ成形型の表面に凝固剤を付着させる。
【0058】
ディップ成形型としては、材質は磁器製、ガラス製、金属製、プラスチック製など種々のものが使用できる。型の形状は最終製品であるディップ成形品の形状に合わせたものとすれば良い。たとえば、ディップ成形品が手袋の場合、ディップ成形型の形状は、手首から指先までの形状のもの、肘から指先までの形状のもの等、種々の形状のものを用いることができる。また、ディップ成形型は、その表面の全体または一部分に、光沢加工、半光沢加工、非光沢加工、織り柄模様加工などの表面加工が施されているものであってもよい。
【0059】
凝固剤溶液は、ラテックス粒子を凝固し得る凝固剤を、水やアルコールまたはそれらの混合物に溶解させた溶液である。凝固剤としては、ハロゲン化金属塩、硝酸塩、硫酸塩などが挙げられる。
【0060】
次いで、凝固剤を付着させたディップ成形型を、上記のディップ成形用ラテックス組成物に浸漬し、その後、ディップ成形型を引き上げ、ディップ成形型表面にディップ成形層を形成する。
【0061】
次いで、ディップ成形型に形成されたディップ成形層を加熱し、ディップ成形層を構成している共重合体の架橋を行う。
【0062】
架橋のための加熱温度は、好ましくは60〜160℃、より好ましくは80〜150℃とする。加熱温度が低すぎると、架橋反応に長時間要するため生産性が低下する虞がある。また、加熱温度が高すぎると、共重合体の酸化劣化が促進されて成形品の物性が低下する虞がある。加熱処理の時間は、加熱処理温度に応じて適宜選択すれば良いが、通常、5〜120分である。
【0063】
本発明においては、ディップ成形層に加熱処理を施す前に、ディップ成形層を、20〜80℃の温水に0.5〜60分程度浸漬して、水溶性不純物(乳化剤、水溶性高分子、凝固剤など)を除去しておくことが好ましい。
【0064】
次いで、加熱処理により架橋したディップ成形層を、ディップ成形型から脱型し、ディップ成形品を得る。脱型方法は、手で成形型から剥がす方法や、水圧や圧縮空気の圧力により剥がす方法などが採用できる。
【0065】
脱型後、さらに60〜120℃の温度で、10〜120分の加熱処理(後架橋工程)を行ってもよい。さらに、ディップ成形品の内側および/または外側の表面に、塩素化処理やコーティング処理などによる表面処理層を形成してもよい。
【0066】
また、本発明のディップ成形品としては、上述のディップ成形型の代わりに、(ディップ成形される)被覆対象物を使用し、被覆対象物をも含むものとしても良い。なお、この場合には、上述の脱型工程は不要である。
【0067】
本発明のディップ成形品の引裂強度は、50N/mm以上、好ましくは60N/mm以上である。ここで、ディップ成形品の引裂強度は、ASTM D624-00に基づいて測定することができる。ディップ成形品の引裂強度が小さすぎると、油脂に触れる作業を行っている最中に破れる虞がある。
【0068】
また、本発明のディップ成形品の引張強度は、25MPa以上、好ましくは30MPa以上である。ここで、ディップ成形品の引張強度は、ASTM D624-00に基づいて測定することができる。ディップ成形品の引張強度が小さすぎると、装着時に破れたり、油脂に触れる作業を行っている最中に破れる虞がある。
【0069】
また、本発明のディップ成形品のオイル膨潤率は、5%以下、好ましくは3.5%以下、より好ましくは2%以下である。ここで、本発明においてオイル膨潤率は、所定の試験油にディップ成形品の試験片を浸漬する前の試験片の面積と、浸漬した後の面積とを用いて求めることができる。具体的には、試験油浸漬前と浸漬後との面積の変化を、浸漬前の面積で除した値(面積膨潤率)にて表すことができる。また、本発明において、ディップ成形品のオイル膨潤率は、試験油としてIRM903を用いた値である。ディップ成形品のオイル膨潤率が大きすぎると、装着時に破れたり、油脂に触れる作業を行っている最中に破れる虞がある。
【0070】
本発明のディップ成形品の厚みは、通常、0.05〜3mmである。本発明のディップ成形品は、耐油性に優れ、風合いが良好で、しかも高い引張強度および高い引裂強度を有する。従って、本発明のディップ成形品は、哺乳瓶用乳首、スポイト、導管、水枕などの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具や運動具;加圧成形用バッグ、ガス貯蔵用バッグなどの工業用品;手術用、家庭用、農業用、漁業用および工業用の手袋;指サック;などに好適に用いることができる。なお、成形品を手袋とする場合には、サポート型であっても、アンサポート型であってもよい。
【実施例】
【0071】
以下に実施例、比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。これらの例中の「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。ただし本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例及び比較例における測定及び評価は以下に示すように行った。
【0072】
(引張強度の測定)
実施例および比較例において得られたゴム手袋から、ASTM D−412に準じてダンベル(SDMK-100C:ダンベル社製)を用いて、ダンベル形状の試験片を作製した。次いで、この試験片を、引張速度500mm/分で引っ張り、破断時の引張強度(MPa)を測定した。また、引張強度は、高いほど好ましい。
【0073】
(引裂強度の測定)
引裂強度は、ASTM D624-00に基づいて測定した。具体的には、実施例および比較例において得られたゴム手袋を、ダンベル(SDMK-1000C:ダンベル社製)で打ち抜き試験片を作製した。そして、当該試験片をテンシロン万能試験機(商品名「RTC−1225A」、(株)オリエンテック製)で引張速度500mm/minで引っ張り、引裂強度(単位:N/mm)を測定した。
【0074】
(耐油浸漬試験(IRM903オイル膨潤率の測定))
実施例および比較例において得られたディップ成形品としてのゴム手袋を直径20mmの円形に打ち抜き、試験片とした。この試験片を所定の試験油(IRM903)に24時間浸漬した後、試験片の面積を測定した。そして、試験油浸漬前と浸漬後との面積の変化を浸漬前の面積で除した値(面積膨潤率)を求め、耐油性の指標とした。
【0075】
(装着時耐性)
実施例および比較例で得られたディップ成形品としてのゴム手袋を実際に装着して耐性を評価した。装着は全て同じ人、同じ日に実施し、装着の際には手袋の手の挿入部の端を装着しない方の手で持ち、その部分を肘まで引張って装着した。同一のサンプルを10枚ずつ装着し、下記の基準にて評価した。
A:1枚も破れなかった
B:1〜2枚破れた
C:3〜5枚破れた
D:6枚以上破れた
【0076】
(機械整備作業耐性)
実施例および比較例で得られたディップ成形品としてのゴム手袋を実際に装着し、機械整備作業を4時間実施して耐性を下記の基準にて評価した。なお、機械整備作業とは具体的に、工具を用いた機械の解体、洗浄、油差し、組立作業となる。同一のサンプルを5枚で試験を実施し、破れた時間は5枚の平均時間で算出した。
A:3時間以上破れなかった
B:2時間以上3時間未満で破れた
C:1時間以上〜2時間未満で破れた
D:1時間未満で破れた
【0077】
(実施例1)
(ディップ成形用ラテックスの製造)
重合反応器に、イソプレン45.5部、1,3−ブタジエン19.5部、アクリロニトリル29.0部、メタクリル酸6.0部、t−ドデシルメルカプタン0.4部、イオン交換水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.05部を仕込み、重合温度を30〜40℃に保持して重合を行い、重合転化率が94%に達するまで反応させた。
【0078】
得られた共重合体ラテックスから未反応単量体を除去した後、共重合体ラテックスのpHおよび固形分濃度を調整して、固形分濃度40%、pH8の実施例1に係るディップ成形用ラテックスを得た。
【0079】
(硫黄分散液の調製)
コロイド硫黄(細井化学(株))1.0部、分散剤(花王(株)製デモールN)0.5部、5%水酸化カリウム(和光純薬(株))0.0015部、水1.0部をボールミル中で48時間粉砕撹拌し、固形分濃度50重量%の硫黄分散液を得た。
【0080】
(ディップ成形用ラテックス組成物の調製)
上記のディップ成形用ラテックスに、5%水酸化カリウム水溶液を添加して、pHを10.0に調整するとともに、ディップ成形用ラテックス中の共重合体100部に対して、それぞれ固形分換算で、コロイド硫黄1.0部(上記硫黄分散液として添加)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛0.5部、酸化亜鉛1.5部となるように、各配合剤の水分散液を添加した。なお、添加の際には、ラテックスを撹拌した状態で、各配合剤の水分散液を所定の量ゆっくり添加した。
【0081】
次いで、イオン交換水をさらに添加して固形分濃度を20%に調整した後に、温度30℃、24時間の条件で液面がゆっくり流動する程度の撹拌を行うことにより熟成させ、ディップ成形用ラテックス組成物を調製した。
【0082】
(ディップ成形品(ゴム手袋)の製造)
上記のディップ成形用ラテックス組成物を使用して、ディップ成形品(ゴム手袋)を、以下の方法により製造した。
【0083】
まず、硝酸カルシウム18部、ノニオン性乳化剤であるポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル0.05部および水82部を混合することにより、凝固剤水溶液を準備した。次いで、この凝固剤水溶液に、手袋型を5秒間浸漬し、引上げた後、温度50℃、10分間の条件で乾燥して、凝固剤を手袋型に付着させた。そして、凝固剤を付着させた手袋型を、上記のディップ成形用ラテックス組成物に6秒間浸漬し、引上げた後、温度50℃、10分間の条件で乾燥し、手袋型表面にディップ成形層を形成した。
【0084】
その後、該手袋型を、50℃の温水に2分間浸漬して、水溶性不純物を溶出させ、温度70℃、10分間の条件で乾燥した。引き続き、温度120℃、20分間の条件で加熱処理してディップ成形層を架橋させた。
【0085】
次いで、架橋したディップ成形層を手袋型から剥がし、厚みが0.07mmのゴム手袋を得た。得られたゴム手袋について、上記の方法により、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例2)
ディップ成形用ラテックスの製造において、イソプレンの量を52.0部に変更し、さらに1,3−ブタジエンの量を13.0部に変更した以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックスの製造を行った。このようにして得られたディップ成形用ラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例3)
ディップ成形用ラテックスの製造において、イソプレンの量を61.75部に変更し、さらに1,3−ブタジエンの量を3.25部に変更した以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックスの製造を行った。このようにして得られたディップ成形用ラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例4)
ディップ成形用ラテックスの製造において、イソプレンの量を65.0部に変更し、さらに1,3−ブタジエンを用いなかった以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックスの製造を行った。このようにして得られたディップ成形用ラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例5)
ディップ成形用ラテックスの製造において、イソプレンの量を55.2部に、1,3−ブタジエンの量を13.8部にそれぞれ変更し、さらにアクリロニトリルの量を25.0部に変更した以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックスの製造を行った。このようにして得られたディップ成形用ラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例6)
ディップ成形用ラテックスの製造において、イソプレンの量を52.8部に、1,3−ブタジエンの量を13.2部にそれぞれ変更し、さらにメタクリル酸の量を5.0部に変更した以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックスの製造を行った。このようにして得られたディップ成形用ラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例1)
ディップ成形用ラテックスの製造において、イソプレンの量を32.5部に変更し、さらに1,3−ブタジエンの量を32.5部に変更した以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックスの製造を行った。このようにして得られたディップ成形用ラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(比較例2)
ディップ成形用ラテックスの製造において、1,3−ブタジエンの量を65.0部に変更し、イソプレンを用いなかった以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックスの製造を行った。このようにして得られたディップ成形用ラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例3)
ディップ成形用ラテックスの製造において、イソプレンの量を67.2部に、1,3−ブタジエンの量を16.8部にそれぞれ変更し、さらにアクリロニトリルの量を10.0部に変更した以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックスの製造を行った。このようにして得られたディップ成形用ラテックスを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例4)
ディップ成形用ラテックスとして、実施例4にて製造したディップ成形用ラテックスと、比較例2にて製造したディップ成形用ラテックスとを重量比にて80:20で混合したものを用いた以外は、実施例1と同様にディップ成形用ラテックス組成物の調製およびディップ成形品(ゴム手袋)の製造を行い、得られたゴム手袋について、引張強度および引裂強度の測定、耐油浸漬試験を行い、さらに装着時耐性および機械整備作業耐性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示すように、イソプレン単位を含む共役ジエン単量体単位(A)40〜80重量%、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)20〜45重量%、およびエチレン性不飽和酸単量体単位(C)2〜15重量%を含有してなり、前記イソプレン単位とブタジエン単位との含有割合が、重量比で、イソプレン単位:ブタジエン単位=60:40〜100:0である共重合体を含むディップ成形用ラテックスと、架橋剤とを含んでなるディップ成形用ラテックス組成物をディップ成形してなり、引裂強度が50N/mm以上、引張強度が25MPa以上、かつオイル膨潤率が5%以下であるディップ成形品は、装着時耐性および機械整備作業耐性に優れる(実施例1〜6)。
【0097】
一方、イソプレン単位の含有割合が小さく、引裂強度が低いと、機械整備作業耐性に劣る(比較例1および2)。
【0098】
また、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位(B)の含有割合が小さく、引張強度が低く、IRM903オイル膨潤率が高いと、装着時耐性および機械整備作業耐性に劣る(比較例3)。
【0099】
また、ディップ成形用ラテックス組成物の引裂強度および引張強度が低く、さらにIRM903オイル膨潤率が高いと、装着時耐性および機械整備作業耐性に著しく劣る(比較例4)。