特許第6562319号(P6562319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562319
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】ナノカーボン高分子アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/04 20060101AFI20190808BHJP
   C01B 32/18 20170101ALI20190808BHJP
   C01B 32/168 20170101ALI20190808BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20190808BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20190808BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20190808BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20190808BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20190808BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
   H01B1/04
   C01B32/18
   C01B32/168
   H01B1/12 G
   H02N11/00 Z
   C08L79/00 A
   C08K3/04
   C08K5/00
   C08L101/02
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-536390(P2017-536390)
(86)(22)【出願日】2016年8月18日
(86)【国際出願番号】JP2016074153
(87)【国際公開番号】WO2017033836
(87)【国際公開日】20170302
【審査請求日】2018年1月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-163328(P2015-163328)
(32)【優先日】2015年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト/伸縮性単層CNT電極による高効率高分子アクチュエータの製品実用化開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】杉野 卓司
(72)【発明者】
【氏名】安積 欣志
【審査官】 井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−024954(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/029992(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00− 1/24
C08L 79/00−79/08
C08L 101/00−101/16
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲル(粘土材、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルを除く。)から構成され、ポリアニリンとカーボンナノホーンとカーボンナノチューブの質量の合計を100%としたときに、ポリアニリンの質量が10〜50%、カーボンナノホーンの質量が10〜50%、カーボンナノチューブの質量が1〜50%である、導電性薄膜。
【請求項2】
質量比で
PANI/CNH=1/〜3/1、
CNT/PANI=3/50〜3/1、
CNT/CNH=3/50〜3/1
である、請求項1に記載の導電性薄膜。
【請求項3】
質量比で
PANI/CNH=1/2〜2/1、
CNT/PANI=3/25〜2/1、
CNT/CNH=3/25〜2/1
である、請求項2に記載の導電性薄膜。
【請求項4】
ポリアニリンとカーボンナノホーンとカーボンナノチューブの質量の合計を100%としたときに、カーボンナノチューブの質量が3〜40%である、請求項1に記載の導電性薄膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の1枚または2枚以上の導電性薄膜と、イオン液体およびポリマーから構成される1枚または2枚以上の電解質膜との積層体。
【請求項6】
請求項5に記載の積層体を含むアクチュエータ素子。
【請求項7】
イオン液体およびポリマーから構成される電解質膜の表面に、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている請求項6に記載のアクチュエータ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2015年8月21日に出願された、日本国特許出願第2015-163328号明細書(その開示全体が参照により本明細書中に援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、導電性薄膜、積層体及びアクチュエータ素子に関する。ここでアクチュエータ素子は、電気化学反応、電気二重層の充放電などの電気化学プロセスを駆動力とするアクチュエータ素子である。
【背景技術】
【0003】
電圧の印加により屈曲変形するカーボンナノチューブを含むアクチュエータが提案されている。このアクチュエータは、電圧印加とともに炭素材を含む電極層に電荷が注入され、それとともに電解質中のイオンが電極中に注入されることで電極膜が伸縮する結果、アクチュエータ素子が屈曲変形する。本発明者らは、電極膜中に導電性あるいは非導電性のナノ粒子を添加することにより、そのアクチュエータ性能を大きく改善することに成功してきた。例えば、ポリアニリンを添加したアクチュエータ素子(特許文献1)、カーボンナノチューブとカーボンナノホーンとを使用したアクチュエータ素子(特許文献2〜4)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2009/157491
【特許文献2】WO2010/029992
【特許文献3】特開2011-239604
【特許文献4】特開2013-021765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、伸縮率、発生力および電圧耐久性をさらに改良したアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
先行技術で、ポリアニリンを添加したアクチュエータ素子、カーボンナノチューブとカーボンナノホーンとを使用したアクチュエータ素子はそれぞれアクチュエータ性能を改善することに成功している。本発明者は、ポリアニリン、カーボンナノチューブおよびカーボンナノホーンを特定の比率で混合することでさらにアクチュエータ素子の性能を向上できることを見出した。
【0007】
本発明は導電性薄膜、積層体、アクチュエータ素子を提供するものである。
項1. ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成され、ポリアニリンとカーボンナノホーンとカーボンナノチューブの質量の合計を100%としたときに、ポリアニリンの質量が10〜50%、カーボンナノホーンの質量が10〜50%、カーボンナノチューブの質量が1〜50%である、導電性薄膜。
項2. 質量比で
PANI/CNH=1/6〜3/1、
CNT/PANI=3/50〜3/1、
CNT/CNH=3/50〜3/1
である、項1に記載の導電性薄膜。
項3. 質量比で
PANI/CNH=1/2〜2/1、
CNT/PANI=3/25〜2/1、
CNT/CNH=3/25〜2/1
である、項2に記載の導電性薄膜。
項4. ポリアニリンとカーボンナノホーンとカーボンナノチューブの質量の合計を100%としたときに、カーボンナノチューブの質量が3〜40%である、項1に記載の導電性薄膜。
項5. 項1〜4のいずれか1項に記載の1枚または2枚以上の導電性薄膜と、イオン液体およびポリマーから構成される1枚または2枚以上の電解質膜との積層体。
項6. 項5に記載の積層体を含むアクチュエータ素子。
項7. イオン液体およびポリマーから構成される電解質膜の表面に、項1〜4のいずれか1項に記載の導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層が互いに絶縁状態で少なくとも2個形成され、当該導電性薄膜層に電位差を与えることにより変形可能に構成されている項6に記載のアクチュエータ素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、カーボンナノチューブとイオン液体および高分子から構成される導電性薄膜にポリアニリン(PANI)とカーボンナノホーン(CNH)とを同時に特定の配合比(CNT/PANI/CNH)になるように添加し、この導電性薄膜を使用してアクチュエータを製造すると、得られたアクチュエータの伸縮率が最大でこれまでの2倍以上(例えば、SG/PANI(50/50)基準)、発生力は4倍以上大きくすることに成功した。なお「SG」はスーパーグロース・カーボンナノチューブを意味する。
【0009】
また、前記導電性薄膜を用いて得られたアクチュエータのDC電圧耐久性はCNT/PANI/CNHの配合比により調整できることを発見した。
【0010】
本発明で得られるアクチュエータ素子は、伸縮率と発生力(アクチュエータ性能指数)とDC電圧耐久性の総合評価において優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)は、本発明の実施例でアクチュエータ素子変位評価法に用いたレーザ変位計を示す図であり、(B)は、本発明の実施例でアクチュエータ素子の発生力をロードセルで測定した概略を示す図である。
図2】(A)は、本発明のアクチュエータ素子(3層構造)の一例の構成の概略を示す図であり、(B)は、本発明のアクチュエータ素子(5層構造)の一例の構成の概略を示す図である。
図3】本発明のアクチュエータ素子の作動原理を示す図である。
図4】本発明のアクチュエータ素子の他の例の概略を示す図である。
図5A】PANI/CNH同時添加によるアクチュエータの特性改善(伸縮率):全データを示す図である。
図5B】CNTが50の場合(50/X/X)の伸縮率の周波数変化を示す図である。
図5C】CNTが25の場合(25/X/X)の伸縮率の周波数変化を示す図である。
図5D】CNTが変数の場合(X/50/50)の伸縮率の周波数変化を示す図である。
図6】PANI/CNH併用によるアクチュエータの特性改善。三元系で±2.5V矩形波電圧を印加時の0.05Hzにおける変形量と発生力の積をアクチュエータの性能指数として導入し、各素子を比較することでPANI/CNHの併用の効果を解析した。横軸は「アクチュエータ(括弧内はCNT/PANI/CNHの配合比)」であり、比較例1を左端に表示し、その右側に実施例をCNTの配合比が多いもの、さらにCNT+PANI+CNHの配合比合計が多いものが、より左側に表示されるように並べた。
図7】PANI/CNH併用によるアクチュエータの特性改善(DC電圧耐久性)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とに大別され、また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型に分けられるなど、各種のものが知られている。本発明には、このような所謂カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。カーボンナノチューブとしては、一酸化炭素を原料として比較的量産が可能なHiPco(ユニダイム社製)が使用でき、特に好ましいカーボンナノチューブは、産業技術総合研究所により入手可能な、スーパーグロース法で合成されたカーボンナノチューブ(SG−CNT)である。
【0013】
本明細書及び図面において、スーパーグロース法で合成されたカーボンナノチューブを「SG」、「CNT」又は「SG-CNT」と略すことがある。
【0014】
本発明で使用するカーボンナノチューブのアスペクト比は、10以上が好ましい。カーボンナノチューブの長さは、特に限定されないが、1μm程度以下の通常のカーボンナノチューブでもよく、1μmより長いもの、例えば10μm〜30μm程度のより長いカーボンナノチューブを使用することもできる。さらに、スーパーグロース法で合成されたカーボンナノチューブの場合には、50μm以上、さらに200μm以上、特に500μm以上のカーボンナノチューブを得ることができるので、このような長いカーボンナノチューブを使用することもできる。カーボンナノチューブの長さの上限は、特に限定されないが、例えば10mm程度である。
【0015】
本発明に用いられるポリアニリンは、種々の置換基を有していてもよい。このような置換基の具体例として、例えば、直鎖又は分枝を有するC〜C12アルキル基、水酸基、直鎖又は分枝を有するC〜C12アルコキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、直鎖又は分枝を有するC〜C12アルキルスルホン酸基、ジ(直鎖又は分枝を有するC〜Cアルキル)アミノ基等を挙げることができる。
【0016】
本発明に用いられるカーボンナノホーンは、グラファイトシートを円錐状に丸めた形状を持ち、先端が円錐状に閉じている炭素ナノ粒子をいう。
【0017】
ポリアニリン、カーボンナノホーンは、市販品を使用することができる。
【0018】
本発明に用いられるイオン液体(ionic liquid)とは、常温溶融塩または単に溶融塩などとも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば0℃、好ましくは−20℃、さらに好ましくは−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、本発明で使用するイオン液体はイオン導電性が高いものが好ましい。
【0019】
本発明においては、各種公知のイオン液体を使用することができるが、常温(室温)または常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明において用いられる好適なイオン液体としては、下記の一般式(I)〜(IV)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン、第4級アンモニウムイオン)と、アニオン(X)より成るものが挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
上記の式(I)〜(IV)において、Rは炭素数1〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基を示し、式(I)においてRは炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基または水素原子を示す。式(I)において、RとRは同一ではないことが好ましい。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1〜4の整数である。式(III)および(IV)において、2つのR基は一緒になって3〜8員環、好ましくは5員環又は6員環の脂肪族飽和環式基を形成してもよい。
【0022】
炭素数1〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシルなどの基が挙げられる。炭素数は好ましくは1〜8,より好ましくは1〜6である。
【0023】
炭素数1〜4の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチルが挙げられる。
【0024】
エーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12の直鎖又は分枝を有するアルキル基としては、CH2OCH3、CH2CH2OCH3、CH2OCH2CH3、CH2CH2OCH2CH3、(CH2)p(OCH2CH2)qOR2(ここで、pは1〜4の整数、qは1〜4の整数、R2はCH3又はC2H5を表す)が挙げられる。
【0025】
アニオン(X)としては、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4-)、BF3CF3-、BF3C2F5-、BF3C3F7-、BF3C4F9-、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミドイオン((FSO2)2N-)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン((CF3CF2SO2)2N-)、(フルオロメタンスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((FSO2)(CF3SO2)N-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸イオン(CF3SO2)3C-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3-)、ジシアンアミドイオン((CN)2N-)、トリフルオロ酢酸イオン(CF3COO-)、有機カルボン酸イオンおよびハロゲンイオンが例示できる。
【0026】
これらのうち、イオン液体としては、例えば、カチオンが1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、[N(CH3)(CH3)(C2H5)(C2H4OC2H4OCH3)]+、[N(CH3)(C2H5)(C2H5)(C2H4OCH3)]+、アニオンがハロゲンイオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3-)のものが、具体的に例示できる。なお、カチオン及び/又はアニオンを2種以上使用し、融点をさらに下げることも可能である。
【0027】
ただし、これらの組み合わせに限らず、イオン液体であって、導電率が0.1Sm-1以上のものであれば、使用可能である。
【0028】
本発明の電解質膜(イオン伝導層)は、ポリマーと溶媒、必要に応じてさらにイオン液体を含む溶液を調製し、得られた溶液をキャスト法により製膜し、溶媒を蒸発、乾燥させることによって得ることができる。電解質膜の形成は、塗布、印刷、押し出し、キャスト、または、射出などにより行うことができる。ここで、前記溶媒は親水性溶媒と疎水性溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
【0029】
親水性溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどのカーボネート類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メタノール、エタノールなどの炭素数1〜3の低級アルコール、アセトニトリルの他、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル−2−ピロリドン等のアミド類等が挙げられる。疎水性溶媒としては、4−メチルペンタン−2−オンなどの炭素数5〜10のケトン類、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素類、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類が挙げられる。
【0030】
本発明において、導電性薄膜、電解質膜に用いられるポリマーは、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]などの水素原子を有するフッ素化オレフィンとパーフッ素化オレフィンの共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの水素原子を有するフッ素化オレフィンのホモポリマー、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(poly-HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのポリ(メタ)アクリレート類、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。このポリマーには、ポリアニリンのような導電性ポリマーは含まれない。
【0031】
アクチュエータ素子の電極層に使用される導電性薄膜は、ポリアニリン、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブ、ポリマー、イオン液体を含む。導電性薄膜層中の(カーボンナノチューブ+ポリアニリン+カーボンナノホーン)、ポリマー、イオン液体の好ましい配合割合は、これらの合計量を100質量%として:(カーボンナノチューブ+ポリアニリン+カーボンナノホーン):
1〜98質量%、好ましくは23〜66質量%、より好ましくは23〜50質量%;ポリマー:
1〜98質量%、好ましくは17〜50質量%、より好ましくは17〜40質量%;イオン液体:
1〜98質量%、好ましくは17〜80質量%、より好ましくは17〜60質量%;である。
【0032】
カーボンナノチューブ、ポリアニリン、カーボンナノホーンの合計量に対するカーボンナノチューブの比率は、1〜50質量%、好ましくは2〜50質量%、より好ましくは4〜40質量%、さらに好ましくは3〜30質量%であり(下限値は、2、3、4、5または6質量%であってもよい)、ポリアニリンの比率は、10〜50質量%、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜50質量%であり、カーボンナノホーンの比率は、10〜50質量%、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜50質量%である。
【0033】
また、CNT、PANI、CNHの2成分の比率は、
PANI/CNH=好ましくは1/6〜3/1、より好ましくは1/4〜3/1、さらに好ましくは1/2〜2/1;
CNT/PANI=好ましくは3/50〜3/1、より好ましくは1/10〜3/1、さらに好ましくは3/25〜2/1;
CNT/CNH=好ましくは3/50〜3/1、より好ましくは1/10〜3/1、さらに好ましくは3/25〜2/1;
である。
導電性薄膜の調製は、カーボンナノチューブ、ポリアニリン、カーボンナノホーン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーとイオン液体を任意の割合で混合して実施することが可能である。
【0034】
必要に応じて溶媒とともにカーボンナノチューブ、ポリアニリン、カーボンナノホーン、ポリマー、イオン液体を任意の割合で攪拌などにより混合し、超音波処理を行うのが好ましい。超音波処理時間は、30分から24時間程度、好ましくは1時間〜7時間程度が挙げられる。
【0035】
導電性薄膜の形成は、カーボンナノチューブ、ポリアニリン、カーボンナノホーン、ポリマー及びイオン液体を溶媒とともに含む混合液を、塗布、印刷、押し出し、キャスト、または、射出などの方法により行なうことができ、好ましくはキャストにより実施される。
【0036】
本発明の方法で製造するアクチュエータ素子としては、例えば、電解質膜層(イオン伝導層)1を、その両側から、カーボンナノチューブとイオン液体とポリマーを含む導電性薄膜層(電極層)2,2で挟んだ3層構造のものが挙げられる(図2A) 。また、電極の表面伝導性を増すために、電極層2,2の外側にさらに導電層3,3が形成された5層構造のアクチュエータ素子であってもよい(図2B)。
【0037】
電解質膜層の表面に導電性薄膜層を形成してアクチュエータ素子を得るには、電解質膜層の表面に導電性薄膜を熱圧着すればよい。
【0038】
電解質膜層の厚さは、5〜200μmであるのが好ましく、10〜100μmであるのがより好ましい。導電性薄膜層の厚さは、10〜500μmであるのが好ましく、50〜300μmであるのがより好ましい。また、各層の製膜にあたっては、スピンコート、印刷、スプレー等も用いることができる。さらに、押し出し法、射出法等も用いることができる。
【0039】
導電性薄膜は、複数の薄膜を熱圧着などにより積層することもでき、1枚の薄膜からなっていてもよい。
【0040】
このようにして得られたアクチュエータ素子は、電極間(電極は導電性薄膜層に接続されている)に0.5〜4Vの直流電圧を加えると、数秒以内に素子長(電極の固定端から先の可動部)の0.05〜1倍程度の変位を得ることができる。また、このアクチュエータ素子は、空気中あるいは真空中で、柔軟に作動することができる。
【0041】
このようなアクチュエータ素子の作動原理は、図3に示すように、電解質膜層1の表面に相互に絶縁状態で形成された導電性薄膜層2,2に電位差がかかると、導電性薄膜層2,2内のカーボンナノチューブ相とイオン液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって、導電性薄膜層2,2が伸縮するためである。図3に示すように、プラス極側に曲がるのは、量子化学的効果により、カーボンナノチューブがマイナス極側でより大きくのびる効果があることと、現在よく用いられるイオン液体では、カチオン4のイオン半径が大きく、その立体効果によりマイナス極側がより大きくのびるからであると考えられる。図3において、4はイオン液体のカチオンを示し、5はイオン液体のアニオンを示す。
【0042】
上記の方法で得ることのできるアクチュエータ素子によれば、空気中、真空中で、応答性がよく変形量の大きい、かつ、耐久性のある素子を得ることができる。しかも、構造が簡単で、小型化が容易であり、小電力で作動することができる。
【0043】
本発明のアクチュエータ素子は、空気中、真空中で耐久性良く作動し、しかも低電圧で柔軟に作動することから、安全性が必要な人と接するロボットのアクチュエータ(例えば、ホームロボット、ペットロボット、アミューズメントロボットなどのパーソナルロボットのアクチュエータ)、また、宇宙環境用、真空チェンバー内用、レスキュー用などの特殊環境下で働くロボット、また、手術デバイスやマッスルスーツなどの医療、福祉用ロボット、さらにはマイクロマシーンなどのためのアクチュエータとして最適である。
【0044】
特に、純度の高い製品を得るために、真空環境下、超クリーンな環境下での材料製造において、純度の高い製品を得るために、試料の運搬や位置決め等のためのアクチュエータの要求が高まっており、ほとんど蒸発しないイオン液体を用いた本発明のアクチュエータ素子は、汚染の心配のないアクチュエータとして、真空環境下でのプロセス用アクチュエータとして有効に用いることができる。
【0045】
なお、電解質膜層表面への導電性薄膜層の形成は少なくとも2層必要であるが、図4に示すように、平面状の電解質膜層1の表面に多数の導電性薄膜層2を配置することにより、複雑な動きをさせることも可能である。このような素子により、蠕動運動による運搬や、マイクロマニピュレータなどを実現可能である。また、本発明のアクチュエータ素子の形状は、平面状とは限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。例えば、図4に示すものは、径が1mm程度の電解質膜層1のロッドの周囲に4本の導電性薄膜層2を形成したものである。この素子により、細管内に挿入できるようなアクチュエータが実現可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0047】
なお、本実施例において、アクチュエータ素子変位評価は、以下のようにして行った。
【0048】
アクチュエータ素子変位評価法:図1(A)に示す様にレーザ変位計を用い、素子を1mmx10mmもしくは2mmx10mmの短冊状に切り取り、電圧を加えた時の固定端から5mmもしくは4mmの位置の変位を測定した。
【0049】
実施例および比較例で用いたイオン液体(IL)は、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF)である。
【0050】
実施例および比較例で用いたカーボンナノチューブは、スーパーグロース・カーボンナノチューブ(SG、国立研究開発法人産業技術総合研究所製)である。
【0051】
実施例および比較例で用いたポリマーは、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP);商品名kynar2801](V)である。
【0052】
【化2】
【0053】
実施例および比較例で用いた溶媒は、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、プロピレンカーボネート(PC)、4−メチルペンタン−2−オン(MP)である。
【0054】
実施例で用いたポリアニリン(PANI)は、アルドリッチ社製である。
【0055】
実施例で用いたカーボンナノホーン(CNH)は、商品名カーボンナノホーン(日本電気株式会社製)である。
【0056】
アクチュエータ性能指数は、変形量と発生力の積により求めた。
【0057】
アクチュエータ素子が変形する際に生じる発生力は、ロードセルにより直接測定した(図1(B))。
調製例1
[導電性薄膜層形成用分散液の調製]
DMAc溶媒中に、カーボンナノチューブ(SG−CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、イオン液体(IL)、ポリマー[粉末状PVDF(HFP)]を分散させて、マグネチックスターラーにて撹拌、その後、超音波による分散を行うことにより導電性薄膜層形成用分散液を調製する。
【0058】
具体的な量については、各実施例、各比較例に個別に示す。
【0059】
[電解質膜形成用溶液の調製]
イオン液体(IL)とポリマー[粉末状PVDF(HFP)]を重量比で1:1の比率で混合し、上記導電性薄膜層形成用分散液の調製と同様にして、70℃で撹拌して溶媒に溶解させることにより、電解質膜形成用溶液を調製する。ここで溶媒は、4−メチルペンタン−2−オンとプロピレンカーボネートとの混合溶媒を用いた。
【0060】
具体的な量については、各実施例、各比較例に個別に示す。
【0061】
[アクチュエータ素子の製造]
導電性薄膜、電解質膜は、それぞれ上記のように調製した分散液および溶液を、別々に25mmx25mmのキャスト枠中にキャストし、室温で一昼夜溶媒を乾燥させ、次いで、真空乾燥を行うことにより得る。導電性薄膜2枚の間に、電解質膜を1枚挟んで熱圧着することにより3層構造のアクチュエータ素子を得る。アクチュエータ素子の厚みは、180μm〜550μm程度である。
【0062】
[アクチュエータ素子の評価方法]
製造したアクチュエータ素子の変位応答性の評価は、図1(A)に示した装置を用いて行った。アクチュエータ素子を、幅1mm×長さ10mm(図5、7、表1の場合)、もしくは、幅2mm×長さ10mm(図6の場合)の短冊状に切断し、端3mmの部分を電極付きホルダーでつかんで、空気中で電圧を加え、レーザ変位計を用いて、固定端から5mm(図5、7、表1の場合)もしくは4mm(図6の場合)の位置での変位を測定し、伸縮率(ε(%))は、アクチュエータの素子長(L(mm))、素子厚(W(mm))、変位(D(mm))から下記式により算出した:
【0063】
【数1】
【0064】
電圧の周波数を200Hz〜0.005Hzの範囲で変化させて調べた(図5A〜5D)。また、長時間のアクチュエータ素子のDC耐久性については、+2.0Vの一定電圧(DC)を印加し続けることにより評価した(図7、表1)。アクチュエータ素子が変形する際に生じる発生力はロードセルにより直接測定した(図1B)。
【0065】
実施例1〜10及び比較例1〜2
実施例1
(SG-CNT/PANI/CNH)=(50/50/50)以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して、導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=50.4mg/50.0mg/50.5mg/80.3mg/240.2mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0066】
実施例2
(SG-CNT/PANI/CNH)=(50/50/25)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=50.5mg/50.3mg/25.1mg/80.1mg/240.5mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0067】
実施例3
(SG-CNT/PANI/CNH)=(50/25/50)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=50.2mg/25.0mg/50.2mg/80.1mg/240.3mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0068】
実施例4
(SG-CNT/PANI/CNH)=(50/25/25)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=50.0mg/25.0mg/25.1mg/80.5mg/240.5mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0069】
実施例5
(SG-CNT/PANI/CNH)=(25/50/50)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=25.2mg/50.4mg/50.0mg/80.3mg/240.3mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0070】
実施例6
(SG-CNT/PANI/CNH)=(25/50/25)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=25.1mg/50.0mg/25.0mg/80.5mg/240.4mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0071】
実施例7
(SG-CNT/PANI/CNH)=(25/25/50)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=25.1mg/25.2mg/50.5mg/80.2mg/240.1mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0072】
実施例8
(SG-CNT/PANI/CNH)=(25/25/25)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=25.4mg/25.1mg/25.2mg/80.4mg/240.0mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0073】
実施例9
(SG-CNT/PANI/CNH)=(12.5/50/50)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=12.7mg/50.4mg/50.2mg/80.4mg/240.1mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0074】
実施例10
(SG-CNT/PANI/CNH)=(6.25/50/50)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=6.3mg/50.1mg/50.1mg/80.1mg/240.1mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0075】
比較例1
(SG-CNT/PANI/CNH)=(50/50/0)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリアニリン(PANI)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=50.4mg/50.0mg/0.0mg/80.0mg/240.4mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0076】
比較例2
(SG-CNT/PANI/CNH)=(50/0/50)
以下の比率で、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン(CNH)、ポリマー(kynar2801)及びイオン液体(EMIBF)を使用して導電性薄膜を得、上記の[アクチュエータ素子の製造]の記載に従い、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造した。
電極:SG-CNT/PANI/CNH/kynar2801/EMIBF4=50.4mg/0.0mg/50.0mg/80.3mg/240.2mg
電解質:kynar2801/EMIBF4=200.3mg/200.3mg
【0077】
以下の表1に記載の比率で、カーボンナノチューブ(SG−CNT)、ポリアニリン(PANI)、カーボンナノホーン(CNH)、イオン液体(EMIBF)、ポリマー(PVDF(HFP);kynar2801)を使用して、導電性薄膜層(電極)−電解質膜−導電性薄膜層(電極)からなる、3層構造のフィルム状のアクチュエータ素子を製造し、DC(直流)電圧を長時間アクチュエータ素子に印加し続けた際の変位(伸縮率)の変化を図7に示した。また、図7から、各アクチュエータ素子の1800秒後の伸縮率と最大伸縮率の比により、DC電圧に対する耐久性(最大変位からの変形のずれ)を評価した(表1)。表1でA値が大きいもの程、耐久性は良い。
【0078】
A値=(1800秒後の伸縮率/最大伸縮率)×100
【0079】
【表1】
【0080】
図5及び図6から、以下のことが明らかになった。
(I)CNTが50(50mg)の場合、PANIおよびCNHの同時添加により、より周波数の遅い領域で変形が改善すること(図5B(50/X/X)の丸部分より)、
(II)CNTが25(25mg)の場合、PANI量よりCNHの添加量が多い方が変形および発生力とも改善されること(図5A,Cおよび図6の実施例6と7の比較より)、
(III)PANIおよびCNHの添加量を固定してCNT量を変化させると((X/50/50)の場合)CNTを少なくすることにより、変形および発生力の両方を改善できることが明らかになった(図5D(X/50/50)の丸部分および図6の実施例5,9,10の比較より)。
【0081】
なお、実施例8(25/25/25)のアクチュエータは、比較例1,2に対して0.1Hzより速い周波数域では伸縮率が良い結果となっている。また、図7および表1より、以下のことが明らかになった。
(i)変位の戻り現象(最大変位から時間の経過とともに変位が減少する現象)は PANIに比べ、CNHの添加量を多くした方が改善できること、
(ii)PANIおよびCNHの添加量を固定してCNT量を変化させると((X/50/50)の場合)CNT量が多いほど変位の戻り現象が改善できること
が明らかになり、CNTにPANIおよびCNHを任意の量で添加することによりアクチュエータ素子のDC電圧に対する耐久性が改善可能となった。
【0082】
試験例1
実施例1〜10および比較例1〜2で得られたアクチュエータ素子の電圧に対する応答性の評価を、上述したアクチュエータ素子の評価方法により行い、伸縮率、アクチュエータ性能指数、DC電圧耐久性を調べた。得られた結果を、図5図7および表1に示す。
【符号の説明】
【0083】
1 電解質膜
2 導電性薄膜層
3 導電層
4 イオン液体のカチオン
5 イオン液体のアニオン
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7