特許第6562401号(P6562401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6562401残光性発光体及び残光性発光体を使用した印刷物の真偽判別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562401
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】残光性発光体及び残光性発光体を使用した印刷物の真偽判別方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/59 20060101AFI20190808BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20190808BHJP
   G07D 7/12 20160101ALI20190808BHJP
【FI】
   C09K11/59
   C09D11/037
   G07D7/12
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-27588(P2016-27588)
(22)【出願日】2016年2月17日
(65)【公開番号】特開2017-145314(P2017-145314A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年6月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直子
(72)【発明者】
【氏名】河村 英司
(72)【発明者】
【氏名】藤村 臣一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 忠憲
(72)【発明者】
【氏名】工藤 豊
(72)【発明者】
【氏名】小川 智寿
(72)【発明者】
【氏名】大澤 史朗
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−518972(JP,A)
【文献】 特開2011−144244(JP,A)
【文献】 特開平09−241631(JP,A)
【文献】 特表2002−509978(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/016058(WO,A1)
【文献】 特開2006−266810(JP,A)
【文献】 特開2006−275578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00− 11/89
C09D 11/00− 13/00
G07D 7/00− 7/207
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式で表わされる蛍光体であって、化学式中のMは、存在しないか又はCaであり、α、β、γが以下の範囲にあり、蛍光ピークと異なる波長領域に複数のりん光ピークを有する残光性発光体であって、
(Ba・M)3−α−βMg1−γSi;EuαTbβMnγ
0.025≦α≦0.05
0.05≦β≦0.2
0.005≦γ≦0.05
波長領域254(nm)又は波長領域365(nm)を中心とした波長の光を照射したときに、波長領域446(nm)から458(nm)までに前記蛍光ピークを有し、波長領域488(nm)から502(nm)まで、波長領域541(nm)から553(nm)まで及び波長領域621(nm)から626(nm)までに前記りん光ピークを有することを特徴とする残光性発光体。
【請求項2】
MがCaである場合には、α=0.05、0.05≦β≦0.1、0.009≦γ<0.02であることを特徴とする請求項1記載の残光性発光体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の残光性発光体を含んで成る発光インキ。
【請求項4】
基材上の少なくとも一部に、請求項に記載の発光インキにより形成された印刷画像を有する真偽判別印刷物。
【請求項5】
請求項に記載の真偽判別印刷物の真偽判別方法であって、
前記真偽判別印刷物に対して第一の波長域と、第二の波長域の励起光を照射する工程と、
前記第一の波長域の励起光を停止した後の第一のりん光特性と、前記第二の波長域の励起光を停止した後の第二のりん光特性の各々の第一の検出時間における第一の検出波長域から第四の検出波長域の各検出波長域における発光強度の値である第一のりん光強度から第四のりん光強度の各りん光強度を検出するりん光検出工程と、
前記第一のりん光特性と前記第二のりん光特性の双方のりん光特性における前記第一の検出時間の前記各検出波長域の前記各りん光強度の相対比を計算する数値処理を行う演算工程と、
前記演算工程により計算した相対比と、あらかじめ定めた基準値とを照合し、所定の基準値の範囲内である場合に真正と判断する判別工程から成ることを特徴とする真偽判別方法。
【請求項6】
前記りん光検出工程において、前記第一の波長域の励起光を停止した後の第一のりん光特性と、前記第二の波長域の励起光を停止した後の第二のりん光特性の各々の第二の検出時間における前記各検出波長域の前記各りん光強度を検出し、前記演算工程において、前記第一のりん光特性と前記第二のりん光特性の双方のりん光特性における前記第一の検出時間及び前記第二の検出時間の前記各検出波長域の前記各りん光強度の相対比を計算する数値処理を行うことを特徴とする請求項記載の真偽判別方法。
【請求項7】
請求項に記載の真偽判別印刷物の真偽判別方法であって、
前記真偽判別印刷物に対して第一の波長域と第二の波長域の少なくとも一方の励起光を照射する工程と、
前記第一の波長域の励起光を停止した後の第一のりん光特性又は前記第二の波長域の励起光を停止した後の第二のりん光特性の、少なくとも一方の前記りん光特性の第一の検出時間及び第二の検出時間における第一の検出波長域から第四の検出波長域の前記各検出波長域における発光強度の値である第一のりん光強度から第四のりん光強度の各りん光強度を検出するりん光検出工程と、
少なくとも一方の前記りん光特性における前記第一の検出時間と前記第二の検出時間の前記各りん光強度の値の相対比を計算する数値処理を行う演算工程と、
前記演算工程により計算した相対比と、あらかじめ定めた基準値とを照合し、所定の基準値の範囲内である場合に真正と判断する判別工程から成ることを特徴とする真偽判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真偽判別に適した残光性発光体、これを使用した印刷物及びこの特性を利用した真偽判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有価証券類のようにセキュリティが必要とされる印刷物には、偽造や改ざんを防止したり真偽判別や改ざん痕を見分けたりするために、偽造防止及び真偽判別要素の付与が不可欠となっている。
【0003】
有価証券類の偽造防止や真偽判別要素の一つとして、蛍光、りん光等の特定の発光体を一部又は全面に付与することが有効な手段の一つとして提案されている。
【0004】
また、有価証券類の中には、切手等の例のようにそれ自身の有無や貼付位置、種類の判別、識別等の目的で発光検知を利用しているものがある。
【0005】
これらの発光インキ組成物が付与されたセキュリティ印刷物の真偽判別方法としては、印刷物に対し発光材料を励起できるエネルギーを含む光等の電磁波、放射線の照射、電界印加あるいは化学反応による発光素子の発光現象及び/又はりん光体においては、励起エネルギーの印加停止後減衰しながら放出していく残光現象を、センサで検知する方法が一般に用いられている。
【0006】
発光体の中でも可視発光体は、ブラックライト等の簡易的な道具を励起源として使用して人の目で発光を認証する方法及び発光体の励起と発光の検知を機械的に行い、発光強度や残光時間を判別要素とする認証方法をとることができる。
【0007】
近年、蛍光体、蛍光インキ等が比較的容易に入手できる状況にあることから、セキュリティ印刷物のようにより高度な検知及び判別が必要とされる用途には、容易に入手できる発光体とは異なる特徴の発光特性を持つ発光体の使用が必要となってきている。このように特徴的な発光特性を持つ発光体としては、電磁波等、照射する励起波長に応じて発光色が変化する発光体、観測波長により発光強度が極端に異なる分布を持つ発光体等が一例として挙げられる。また、蛍光発光のみならずりん光を有し、かつ、りん光においても特徴的な特性を有する発光体がより有効である。
【0008】
上記特性を持つ発光体の例として、本出願人は、化学式(MBaa−xEu)(a+k)O・(Mgb−yMn)bO・c(SiO)で示され、式中、Mはアルカリ土類金属のCa(カルシウム),Sr(ストロンチウム),Ba(バリウム)であり、励起光照射時における蛍光の発光色と、励起光停止後におけるりん光の発光色が異なり、励起光停止後における残光時間が、2msから5sであることを特徴とする残光性発光体とその製造方法及び発光印刷物を提示している(特許文献1及び特許文献2参照)。
【0009】
また、本出願人は、化学式:Mx−yMg1-zSi5+x+y;CeMn(式中のMはCa、Sr及びBaから成る群から選ばれる1種以上、xは1≦x≦3の範囲であり、yは0.01≦y≦1.0の範囲であり、zは、0.01≦z≦1.0の範囲である。)で表される残光性発光体であって、残光性発光体は、230nmから380nmまでの励起光照射時における発光スペクトルが、400nmから430nmまでの波長域に第一のピーク波長と、620nmから695nmまでの波長域に第二のピーク波長を有し、かつ、第一のピーク波長と第二のピーク波長間に発光がない所定の波長域が存在し、励起光停止後におけるりん光のスペクトルは、620nmから700nmまでの波長域に第二のピーク波長と異なる発光波長を有し、残光の励起光停止後における残光時間が、2msから1sまでであることを特徴とする残光性発光体とその製造方法及び発光印刷物を提示している(特許文献3参照)。
【0010】
また、本出願人は、化学式:p(SrO)・q(BaO)・r(MgO)・m(Al):Eu,Mnで表される複合機能発光体及び化学式:p(BaO)・q(MgO)・r(Al):Eu,Mn及び/又はNdで表される残光性発光体とこれらを含有したインキを基材に固着して成ることを特徴とする発光印刷物を提示している(特許文献4及び特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許5610122号
【特許文献2】特許5799434号
【特許文献3】特開2013−185022号公報
【特許文献4】特許5186687号
【特許文献5】特許5186686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1から特許文献5までの発光体は、蛍光の発光色と、励起光停止後におけるりん光の発光色が異なり、機械読み取り性と目視認証性が良好な発光特性を有しているが、蛍光スペクトルのピークのうちの一つがりん光のピークと同一であるため、りん光体と蛍光体(りん光なし)を混合して、同様の発光特性を模倣されるおそれがあった。
【0013】
本発明は、上記課題の解決を目的とするものであり、蛍光ピークと異なる波長領域に複数のりん光ピークが存在することによって、りん光体と蛍光体(りん光なし)の混合による発光特性の模倣を防止する残光性発光体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の化学式で表わされる蛍光体であって、化学式中のMは、存在しないか又はCaであり、α、β、γが以下の範囲にあり、蛍光ピークと異なる波長領域に複数のりん光ピークを有することを特徴とする残光性発光体である。
(Ba・M)3−α−βMg1−γSi;EuαTbβMnγ
0.025≦α≦0.05
0.05≦β≦0.2
0.005≦γ≦0.05
【0015】
本発明は、MがCaである場合において、α=0.05、0.05≦β≦0.1、0.009≦γ<0.02であることを特徴とする残光性発光体である。
【0016】
本発明は、波長領域254nm又は波長領域365nmを中心とした波長の光を照射したときに、波長領域455(nm)に蛍光ピークを有し、波長領域500(nm)、波長領域553(nm)及び波長領域624(nm)にりん光ピークを有することを特徴とする残光性発光体である。
【0017】
本発明は、残光性発光体を含んで成る発光インキである。
【0018】
本発明は、基材上の少なくとも一部に、発光インキにより形成された印刷画像を有する真偽判別印刷物である。
【0019】
本発明は、真偽判別印刷物の真偽判別方法であって、真偽判別印刷物に対して第一の波長域と、第二の波長域の励起光を照射する工程と、第一の波長域の励起光を停止した後の第一のりん光特性と、第二の波長域の励起光を停止した後の第二のりん光特性の各々の第一の検出時間における第一の検出波長域から第四の検出波長域の各検出波長域における発光強度の値である第一のりん光強度から第四のりん光強度の各りん光強度を検出するりん光検出工程と、双方のりん光特性における第一の検出時間の各検出波長域の前記各りん光強度の相対比を計算する数値処理を行う演算工程と、演算工程により計算した相対比と、あらかじめ定めた基準値とを照合し、所定の基準値の範囲内である場合に真正と判断する判別工程から成ることを特徴とする真偽判別方法である。
【0020】
本発明は、さらに、りん光検出工程において、第一の波長域の励起光を停止した後の第一のりん光特性と、第二の波長域の励起光を停止した後の第二のりん光特性の各々の第二の検出時間における各検出波長域の各りん光強度を検出し、演算工程において、双方の前記りん光特性における第一の検出時間及び第二の検出時間の各検出波長域の各りん光強度の相対比を計算する数値処理を行うことを特徴とする真偽判別方法である。
【0021】
本発明は、真偽判別印刷物の真偽判別方法であって、真偽判別印刷物に対して第一の波長域と第二の波長域の少なくとも一方の励起光を照射する工程と、第一の波長域の励起光を停止した後の第一のりん光特性又は第二の波長域の励起光を停止した後の第二のりん光特性の、少なくとも一方のりん光特性の第一の検出時間及び第二の検出時間における第一の検出波長域から第四の検出波長域の各検出波長域における発光強度の値である第一のりん光強度から第四のりん光強度の各りん光強度を検出するりん光検出工程と、少なくとも一方のりん光特性における第一の検出時間と第二の検出時間の各りん光強度の値の相対比を計算する数値処理を行う演算工程と、演算工程により計算した相対比と、あらかじめ定めた基準値とを照合し、所定の基準値の範囲内である場合に真正と判断する判別工程から成ることを特徴とする真偽判別方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、蛍光スペクトルからは予測できない波長域にりん光ピークが複数発現するため、公知の材料を混合しても、本発明と同様の特性のりん光ピークの模倣は困難である。
【0023】
また、本発明は、機械読み取りにおいて、励起波長を変えて残光特性を検出する、残光特性の検出時間(タイミング)を複数(T、T)とする等、残光特性に応じた柔軟なりん光検出を行うことが可能となり、より真偽判別精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施例における、残光性発光体の励起波長365nmのときの蛍光スペクトル及びりん光スペクトル。
図2】本発明の一実施例における、残光性発光体の励起スペクトル。
図3】本発明の一実施例における残光性発光体の、特定の発光波長における発光強度の時間変化を示す図。
図4】本発明の一実施例における残光性発光体の、励起光消灯2ms後及び10ms後のりん光スペクトルを示す図。
図5】真偽判別方法の一例を示す工程図。
図6】真偽判別方法の一例を示す工程図。
図7】本発明の実施例1における残光性発光体の蛍光及びりん光スペクトル。
図8】本発明の実施例1における残光性発光体のX線回折パターン。
図9】本発明の実施例2における残光性発光体の蛍光及びりん光スペクトル。
図10】本発明の実施例2における残光性発光体のX線回折パターン。
図11】真偽判別印刷物の蛍光及びりん光スペクトル。
図12】本発明の実施例1における真偽判別印刷物の発光スペクトルの時間変化を示す図。
図13】比較例1における比較印刷物の発光スペクトル。
図14】比較例1における比較印刷物の、励起波長の違いによる発光スペクトルの違いを示す図。
図15】比較例2における比較印刷物の発光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思考の範囲であれば、その他の実施の形態も含まれる。
【0026】
本発明の残光性発光体の組成及び製造する工程を説明する。
【0027】
(残光性発光体の組成)
本発明は、化学式:(Ba・M)3−α−βMg1−γSi;EuαTbβMnγ(式中のMは無し又はCaであり、αは0.025≦α≦0.05の範囲であり、βは0.05≦β≦0.2の範囲であり、γは、0.005≦γ≦0.05の範囲である。) で表される残光性発光体である。
【0028】
付活剤であるEu(ユーロピウム)、Tb(テルビウム)とMn(マンガン)は、上記化学式において、α<0.025の場合は、付活剤量が少な過ぎるため発光が弱くなり、α>0.05の場合は、濃度消光のため発光が弱くなる。また、β<0.05の場合は、付活剤量が少な過ぎるため発光が弱くなり、β>0.2の場合は、濃度消光のため発光が弱くなる。γ>0.05の場合は、620nm範囲の発光強度が高くなりピークが現れ始める。γ<0.005の場合は、りん光強度が小さくなり視認しにくくなる。
【0029】
(残光性発光体の原料)
Mで表されるCa(カルシウム)、Ba(バリウム)の原料の一例としては、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸バリウム(BaCO)、酸化バリウム(BaO)等を使用することができる。
【0030】
Mg(マグネシウム)の原料の一例としては、炭酸マグネシウム(MgCO)、酸化マグネシウム(MgO)等、nSiOについては、SiOをそのまま使用することができる。
【0031】
付活剤であるEu(ユーロピウム)、Tb(テルビウム)とMn(マンガン)は、原料としては、酸化ユーロピウム(Eu)、酸化テルビウム(Tb)、二酸化マンガン(MnO)、炭酸マンガン(MnCO)等を使用することができる。
【0032】
次に、本発明の残光性発光体の製造工程について説明する。本発明の残光性発光体の製造工程は、原料を配合する配合工程と、配合された原料を混合する混合工程と、混合工程終了後に乾燥させた混合物を還元雰囲気下において焼成する焼成工程と、焼成工程後の混合物を洗浄した後に粉砕し、分級する後処理工程から成る。
【0033】
(配合工程)
配合工程は、残光性発光体の各原料を目的の化学組成が得られるよう正確に秤量し、全体が均一になるよう十分に混合する。この場合、溶媒等を使用して湿式混合を行うことができる。具体的には、化学式Ba、Ca、Mg及びSiOを含む母体材料と、Eu、Tb及びMnである付活剤の各原料を配合する。なお、本発明の残光性発光体の製造に際して、発光中心となる金属及び母体材料となる化合物の原料は、高温焼成を行った後に酸化物と成り得る材料であればよく、炭酸塩、水酸化物、酸化物等を使用することができる。
【0034】
(混合工程)
混合工程は、配合工程終了後の原材料を比較的沸点が低いエタノ−ル、メタノ−ル等のアルコ−ルを加えて攪拌混合する。なお、比較的沸点が低いエタノ−ル、メタノ−ル等のアルコール類を使用するのは、混合後は速やかに溶剤を揮発させるためである。
【0035】
(焼成工程)
焼成工程は、混合工程終了後に乾燥させた混合物を還元雰囲気下において焼成温度1200℃〜1450℃で、0.5時間〜5時間焼成する。具体的には、原料混合物をアルミナ坩堝等の耐熱容器に入れ、水素ガスを含む窒素ガス、アルゴンガス等の還元雰囲気中、1250℃〜1450℃の高温で0.5時間以上、好ましくは1時間以上の焼成で作製することができる。特に、原材料の溶融温度未満の高温で焼成したときに蛍光及びりん光両者の発光強度が高い残光性発光体が得られる。また、上記残光性発光体を焼成する際、粒子成長をコントロールする目的でフッ素やホウ素を含む化合物を加えてもよく、本発明の発光輝度の向上等に関する効果又は発光印刷物の作製の妨げにならない範囲内で使用することができる。この場合、焼成温度を粒子成長剤の特性に応じて調整することができる。
【0036】
なお、還元雰囲気中で焼成する前に、自然酸化雰囲気中600℃〜1200℃で0.5時間以上焼成する工程を含んでもよいが、この工程を行わなくても本発明の残光性発光体を作製することができる。
【0037】
(後処理工程)
後処理工程は、作製した残光性発光体を、用途に応じて公知の方法で洗浄、粉砕、分級を行う。印刷インキとして印刷によって基材に付与する場合、残光性発光体は平均粒子径20μm以下とすることが望ましい。ただし、無機発光体の粉砕は発光強度を低下させるので、印刷方式によって粒子径を調整し細かくなり過ぎないよう注意する必要がある。
【0038】
図1は、本発明の一実施例における残光性発光体の、励起波長365nmのときの蛍光スペクトル、励起波長365nm及び254nmにおける、励起光消灯2ms後のりん光スペクトルを示す図である。図1に示すように、本発明の残光性発光体は、蛍光スペクトルにおいて、458nmにピークを持つ単一ピークのブロードなスペクトル形状を示している。励起波長365nmでのりん光スペクトルにおいては、500nm、552nm及び622nmにピークを持つ三つのピークを有するスペクトル形状を示しており、励起波長254nmでのりん光スペクトルにおいては、501nm、553nm及び624nmにピークを持つ三つのピークを有するスペクトル形状を示している。りん光スペクトルにおいては、励起波長により、各ピーク波長の強度の比率が異なっており、励起波長365nmにおいては、相対的に622nmのピーク強度が高く、励起波長254nmにおいては、相対的に624nmのピーク強度が低くなっている。
【0039】
なお、本発明における蛍光ピークとは、蛍光スペクトルにおける発光強度の最大値及びその発光波長域のことであり、りん光ピークとは、りん光スペクトルにおいて、低波長領域からみて発光強度が上昇から低下へ変化する変曲点のことである。
【0040】
図2は、本発明の一実施例における残光性発光体の、励起スペクトルを示す図である。図2に示すように、蛍光は、発光波長458nmにおいて、紫外光域における強度分布が台形に近い形状を示している。りん光においては、発光波長499nm及び552nmの場合、約250nmにピークを示し、約280nm以上の波長域では強度が低くフラットなスペクトル形状を示していた。発光波長624nmの場合、蛍光の励起スペクトルと同様な傾向を示していた。図1において、励起波長365nmと254nmで、各ピーク波長の強度の比率が異なっていたのは、図2の励起スペクトルから説明できる。
【0041】
本発明の一実施例における残光性発光体の、特定の発光波長における発光強度の時間変化を図3に示した。図3のグラフにおけるx軸の時間は、励起光点灯時を0msとしたときの時間経過を示している。光源点灯後400msで消灯しているが、消灯後、発光波長541nmは残光の減衰が速く、625nmは減衰が遅い。図示しないが、発光波長488nmにおいても541nmと同様な傾向を示した。なお、図1とは発光ピーク波長が異なっているが、測定器や測定条件が異なるとピーク波長も異なってくることは公知の事実である。
【0042】
発光波長によって、残光の減衰時間が異なることから、測定時間(タイミング)によってりん光スペクトル形状が異なり、励起光消灯2ms及び10ms後のりん光スペクトルを図4に示した。励起波長254nm及び365nmにおいて、励起光消灯2ms後は三つのピークを有するスペクトル形状を示したのに対し、10ms後は最も長波長のピーク625nmのみの単一ピークのスペクトル形状を示した。
【0043】
本発明の一実施例における残光性発光体は、625nmにおける残光の減衰が遅く、この特性は残光の目視認証に寄与している。残光を目視認証する要件は、残光時間が一定以上の長さがあることであるが、残光時間が秒単位以下の場合、蛍光色と残光色に色相差があることも要件の一つとなり、色相差が大きい方が認証性が高い。目視認証できる残光時間の条件は10ms以上(残光時間の定義は特許文献5610121号を参照)であるが、625nmは10ms以上であるため目視認証でき、500nm及び541nmは10ms未満であるため目視認証できない。よって、目視では残光色は赤色に観察される。
【0044】
(発光インキ組成物)
発光インキ組成物の作製について説明する。作製した残光性発光体を付与する方法に応じて、バインダー、助剤等と十分に混合し付与に適した特性を持つよう粘度等を調整し、インキ化又はペースト化する。付与方式によって異なるが、残光性発光体の配合割合は、1〜60重量%程度とすればよい。発光強度と経済性の観点から見ると、10〜40重量%にすることがより望ましい。
【0045】
発光インキ組成物に使用するバインダーとしては、特に限定されるものではない。例えば、アマニ油、オリーブ油、ヒマシ油、ヒマワリ油等の油脂類、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン、カルナウバワックス、キャンデリアワックス、モンタンワックス等の天然ワックス類、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ワックス、エステルワックス、低分子量ポリエチレン等の合成ワックス類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フロメン酸、ヘベニン酸等の高級脂肪酸類、ステアリルアルコール、ヘベニルアルコール等の高級アルコール類、グルコース、エチレングルコース、アミロース等の炭化水素類、脂肪酸エステル等のエステル類、ステアリンアミド、オレインアミド等のアミド類、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニル系樹脂、石油系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルビン樹脂等の樹脂類、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム等のエラストマー類、アクリレート、メタクリレートのオリゴマー及びモノマーからなる紫外線硬化樹脂、水添石油樹脂、シリコーン、流動パラフィン、フッ素樹脂等のタッキファイヤー類等を単独又は含有された物から成るバインダーを使用できる。
【0046】
発光インキ組成物は、発光を妨げない範囲で他の色材又は機能性材料を混合してインキ化又はペースト化してもよく、あらかじめ基材上に付与された下地上に重ねて付与してもよい。
【0047】
発光インキ組成物を基材に印刷、コーティング等により付与する方式としては、一般に公知の凹版、凸版、オフセット、スクリーン、グラビア、フレキソによる印刷若しくはインキジェット印刷、コーティング等の方式を用いることができ、また、これらの印刷方式の組合せにより付与してもよい。このように作製した発光インキ組成物又は塗工組成物を基材に印刷又は塗工したものを真偽判別印刷物とする。
【0048】
例えば、本発明の発光インキ組成物は、特定の紫外線を照射することにより可視発光するため、当該インキ組成物を使用して第1の画線と第2の画線をそれぞれ異なる角度で配置して背景部と潜像部を形成し、当該印刷物を傾けることにより潜像画像が視認できる印刷物(例えば、特許第4374446号公報)等に使用し、潜像による偽造防止効果と、特定の紫外線を照射することにより可視発光と残光の有無の目視による判別、又は機械読み取りによる判別が良好となるため、真偽判別性の優れた印刷物を作製することができる。
【0049】
また、本発明の発光インキ組成物に光輝性顔料を配合した場合は、当該インキを使用して第1の画線と第2の画線をそれぞれ異なる角度で配置して背景部と潜像部を形成し、当該印刷物を傾けることにより任意の階調の潜像画像が視認できる印刷物(例えば、WO2003/013871号公報)等に使用し、潜像による偽造防止効果と、特定の紫外線を照射することにより可視発光とりん光の有無の目視による判別、又は機械読み取りによる判別が良好となるため、真偽判別性に優れた印刷物を作製することができる。
【0050】
(真偽判別方法)
本発明の真偽判別印刷物の目視判別方法について説明する。ブラックライト等のハンディ型の紫外線ランプを真偽判別印刷物に照射し、まず蛍光発光を目視によって観察する。本発明の一実施例において、蛍光色は青味の白色に観察される。次に、紫外線ランプを瞬時的に消灯するかあるいは点灯状態で真偽判別印刷物上を素早く走査する。紫外線ランプを瞬時的に消灯した場合、残像のように蛍光色と異なる色のりん光が瞬間的に観察される。紫外線ランプを点灯した状態で真偽判別印刷物上を素早く走査した場合、ランプが通過した後、蛍光色と異なる色のりん光が瞬間的に観察される。本発明の一実施例において、りん光色は赤色である。
【0051】
本発明の真偽判別印刷物の機械判別方法について説明する。機械を用いる一般的な真偽判別方法としては、真偽判別印刷物に紫外光を照射し照射中の発光及び照射停止後の残光の有無検知がある。真偽判別印刷物の発光強度に応じて、あらかじめ定めておいた閾値範囲の出力を検知することで判別精度が向上する。残光の検知には、残光検出装置等を使用することができる。残光の有無検知の例として、特開平8−3785号公報に示されたような切手検出装置で判別を行うこともできる。
【0052】
本発明の残光性発光体の使用方法として、例えば郵便切手の自動処理システムにおける蛍光マークとして使用する方法が考えられる。残光を読み取ることで蛍光増白剤と区別できることはもちろんであるが、色相が赤色系であるため増白剤の発光色である青色とは色相が大きく異なるために切り分けが容易である。さらに、本発明の残光性発光体は、通常機械検知に使用されている残光性発光体の残光寿命より長いため、通常検知が行われている検知タイミング(5〜30ms)よりも遅いタイミングでの検出が可能であり、検出タイミングを遅くするだけでも既存の発光マークと差別化が図られ真偽判別として利用できる。
【0053】
より精度の高い機械判別方法であるが、安価な装置で短時間に精度の高い機械判別ができる方法として、例えば、特開2006−266810号公報で提案されている装置及び方法で判別することができる。この装置による判別方法は、一つの波長域の励起光を照射し、異なる波長域(λ、λ、λ及びλ)を四つの受光部で、それぞれ励起光照射中(T)及び励起光照射停止後数十ms後(T)に受光し、Tλ、Tλ、Tλ、Tλ、Tλ、Tλ、Tλ及びTλの発光強度をあらかじめ指定しておいた発光強度値と比較することで判別する方法を用いることができる。
【0054】
より精度の高い機械判別方法の他の例として、例えば、特開2006−275578号公報で提案されている装置及び方法で判別することができる。この装置による判別方法は、一つの波長域の励起光を照射し、励起光照射中(T)及び励起光照射停止後数ms後(T)に受光し、TのスペクトルSとTのスペクトルSのスペクトル形状を確認し判別するものである。また、励起光照射停止後の経過時間(T01、T02、T03、・・・)に従ってスペクトルを測定し、ピーク波長λ、λ、λ及びλの出力強度変化を追ってもよい。なお、得られたスペクトルの分光分布を更にコンピュータで演算し、表色値(x,y,Y又はL,a,b)として比較し、判別することもできる。
【0055】
本発明の発光体の特性を有効活用した真偽判別方法について説明する。真偽判別方法の説明のために、記号の定義を図3及び図4を用いて説明する。励起光消灯後の経過時間を、第一の検出時間T及び第二の検出時間Tとする。励起光の波長EXにおけるりん光特性を第一のりん光特性Pとし、励起光の波長EXにおけるりん光特性を第二のりん光特性Pとする。検出波長域を短波長側からλ、λ、λ、λとする。λは蛍光スペクトルにおける発光ピーク波長域であり、蛍光と同じ波長域にりん光ピークがないことが真偽判別要素になるため検出を行う。λ、λ、λはりん光ピーク波長域である。
【0056】
第一のりん光特性P及び第一の検出時間Tのときのλの発光強度をI11、λの発光強度をI12、λの発光強度をI13、λの発光強度をI14とする。第一のりん光特性P及び第二の検出時間Tのときのλの発光強度をI’11、λの発光強度をI’12、λの発光強度をI’13、λの発光強度をI’14とする。第二のりん光特性P及び第一の検出時間Tのときのλの発光強度をI21、λの発光強度をI22、λの発光強度をI23、λの発光強度をI24とする。第二のりん光特性P及び第二の検出時間Tのときのλの発光強度をI’21、λの発光強度をI’22、λの発光強度をI’23、λの発光強度をI’24とする。
【0057】
図5及び図6は、本発明の真偽判別印刷物の真偽判別方法を示す一例図である。真偽判別印刷物の印刷画像に励起光を照射する照射工程(S1)と、検出波長域λ、λ、λ、λにおける励起光停止後のりん光を検出するりん光検出工程(S2)と、りん光検出工程(S2)により検出された検出値を、演算する演算工程(S3)とし、演算工程結果から真偽判別を行う判別工程(S4)から成る。
【0058】
図5は、第一の検出時間Tにおける、第一のりん光特性Pと第二のりん光特性Pの各検出波長域の発光強度比による判別例を示している。照射工程(S1)において、励起波長EXの励起光を照射し、りん光検出工程(S2)において、第一の検出時間Tにおける第一のりん光特性Pの、波長域λ、λ、λ、λにおけるりん光を検出する。次に、照射工程(S1’)において、励起波長EXの励起光を照射し、りん光検出工程(S2’)において、第一の検出時間Tにおける第二のりん光特性Pの、波長域λ、λ、λ、λにおけるりん光を検出する。なお、りん光検出工程(S2及びS2’)により検出された検出値を、演算工程(S3)において相対比計算により演算する。判別工程(S4)において、演算工程(S3)における演算結果により、真偽判別印刷物の真偽判別を行う。
【0059】
図6は、第一のりん光特性Pにおける、第一の検出時間T及び第二の検出時間Tの各検出波長域の発光強度比による判別例を示している。照射工程(S1)において、励起波長EX及び/又は励起波長EXの励起光を照射し、りん光検出工程(S2)において、第一の検出時間Tにおける第一のりん光特性P及び/又は第二のりん光特性Pの、波長域λ、λ、λ、λにおけるりん光を検出し、りん光検出工程(S2’)において、第二の検出時間Tにおける第一のりん光特性P及び又は第二のりん光特性Pの、波長域λ、λ、λ、λにおけるりん光を検出する。りん光検出工程(S2及びS2’)により検出された検出値を、演算工程(S3)において演算する。演算工程(S3)における演算結果により、判別工程(S4)において真偽判別印刷物の真偽判別を行う。なお、本実施形態においては、片方の励起波長のみ使用しているが、さらに、精度よく検査するために、双方の励起波長を使用してもよい。
【0060】
照射工程(S1及びS1’)における励起光源の例として、LED光源、低圧光源ランプ、キセノンランプ、重水素光源等がある、LED光源は、照射したい波長域のものを選択し、連続光源の場合は、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ等で照射波長を限定する。励起波長EX及びEXとしては、230nm〜420nmの任意の波長域を選択できるが、EX又はEXのいずれか一方は230nm〜255nmの波長域から、他方は255nm〜420nmの波長域から特定波長を選択する。一例として、EXは254nmとし、EXを365nmとする。
【0061】
りん光検出工程(S2及びS2’)における検出器としては、シリコンフォトダイオード検出器、フォトマルチプライヤーがある。検出波長域λ、λ、λ及びλの波長域における励起光照射停止後の発光(りん光)を、シャープカットフィルタ又はバンドパスフィルタを取り付けそれぞれ一つの検出器で検出してもよいし、検出器を複数配置したリニアセンサやイメージセンサを使用してもよい。感度を向上させるために増幅器を併用してもよい。また、分光器を併用して分光特性を取得してもよい。
【0062】
りん光検出工程(S2及びS2’)において、励起光停止後の発光特性(りん光)を、時間ファクタを制御して取得する。りん光取得タイミングの制御方法としては、励起光を断続的に照射しながら、消灯時のりん光を検知する方法や、励起光は連続照射し、取得したい時間的タイミングに応じて、真偽判別印刷物を励起光源位置から移動させて検知する方法がある。
【0063】
演算工程(S3)は、りん光検出工程(S2及びS2’)において取得された検出値から、判定に必要なデータを選択し、判別基準に基づいた演算を行う。例えば、検出波長域λ、λ、λ及びλにおける、EX及びEX又はT及びTの発光ピーク値をピックアップし、それぞれの相対比計算をする。取得した分光特性から演算する場合は、波長域λ、λ、λ及びλを選択し、これらの波長域におけるEX及びEX又はT及びTの発光ピーク値をピックアップし、相対比計算をする。
【0064】
相対比計算について、図5に示した、第一の検出時間Tにおける、第一のりん光特性Pと第二のりん光特性Pの各検出波長域の発光強度比による判別例においては、λ、λ、λ、λの波長域ごとにP及びPの発光強度の比(I11/I21、I12/I22、I13/I23、I14/I24)を計算する。
【0065】
相対比計算について、図6に示した、第一のりん光特性Pにおける、第一の検出時間T及び第二の検出時間Tの各検出波長域の発光強度比による判別例においては、λ、λ、λ、λの波長域ごとにT及びTにおける発光強度の比(I11/I’11、I12/I’12、I13/I’13、I14/I’14)を計算する。又は、第二のりん光特性Pにおける、第一の検出時間T及び第二の検出時間Tの各検出波長域の発光強度比による判別例においては、λ、λ、λ、λの波長域ごとにT及びTにおける発光強度の比(I21/I’21、I22/I’22、I23/I’23、I24/I’24)を計算する。
【0066】
判定に使用する検出値は、判別方法によっては、ノイズによる出力又はごく微弱な出力を判定に用いないよう、一定値未満の検出値は0と見なすか、判定基準外とする処理を行ってもよい。また、選択波長域における出力波形が不安定な場合は、定められた波長範囲内における平均値を算出する処理を行ってもよい。
【0067】
判別工程(S4)は、演算工程により計算された相対比と、あらかじめ定めた相対比の基準値とを照合し、所定の基準値の範囲内である場合に真正と判断する。
【0068】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。まず、残光性発光体の製造方法について説明する。
【実施例1】
【0069】
表1に示す配合の原料を正確に秤量し、エタノール溶媒中で十分に混合し乾燥させた。十分に混合した粉体をアルミナ製容器に入れ、還元雰囲気(N+H(4%) )中において、1400℃で2時間焼成した。この反応により得られた焼成物を残光性発光体1-(1)とする。残光性発光体1-(1)は、モル比で2.65Ba・0.2Ca・0.983Mg・Si:0.05Eu・0.1Tb・0.017Mnで表される。
【0070】
【表1】
【0071】
残光性発光体1−(1)をメノウ乳鉢で粗粉砕し、分光蛍光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製F−4500)で発光特性を測定した。図7に紫外光励起時の蛍光及びりん光スペクトルを示した。蛍光は、456nmに単一の発光ピークを示した。りん光は、500nm、552nm及び622nmに発光ピークを示した。目視では、蛍光色は濃い青色に、りん光色は赤色に観察された。
【0072】
蛍光色の色相は、UV352nm光源、ミノルタ製色彩色差計CS−100で測定の結果x=0.225、y=0.365であった。
【0073】
残光性発光体1−(1)の残光測定を行った。励起光源を中心波長365nmのLED光源とし、照射時間を400msとして残光測定を行った結果、残光時間(寿命)は81.4msであった。
【0074】
残光性発光体1−(1)のX線回折パターンを図8に示した。測定結果から、BaMgSiを主成分とした結晶構造を取っていることがわかった。
【0075】
同様にして、化学式:(Ba・M)3−α−βMg1−γSi;EuαTbβMnγにおける各値を表2のように変化させた他は残光性発光体1−(1)と同一の条件で、残光性発光体1-(2)〜1-(10)を作製した。
【0076】
【表2】
【実施例2】
【0077】
表3に示す配合の原料を正確に秤量し、エタノール溶媒中で十分に混合し乾燥させた。十分に混合した粉体をアルミナ製容器に入れ、還元雰囲気(N+H(4%) )中において、1350℃で3時間焼成した。この反応により得られた焼成物を残光性発光体2−(1)とする。残光性発光体2−(1)は、モル比で2.9Ba0.995Mg・Si:0.05Eu・0.05Tb・0.005Mnで表される。
【0078】
【表3】
【0079】
残光性発光体2−(1)をメノウ乳鉢で粗粉砕し、分光蛍光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製F−4500)で発光特性を測定した。図9に蛍光及びりん光スペクトルを示した。蛍光は、446nmに単一の発光ピークを示した。励起波長254nmでのりん光スペクトルにおいては、500nm、552nm及び622nmに発光ピークを示した。目視では、蛍光色は濃い青色に、りん光色は赤色に観察された。励起波長365nmでのりん光スペクトルにおいては、502nm、552nm及び625nmに発光ピークを示した。目視では、蛍光色は濃い青色に、りん光色は赤色に観察された。
【0080】
蛍光色の色相は、UV352nm光源、ミノルタ製色彩色差計CS−100で測定の結果x=0.183、y=0.181であった。
【0081】
残光性発光体2−(1)の残光測定を行った。励起光源を中心波長365nmのLED光源とし、照射時間を400msとして残光測定を行った結果、残光時間(寿命)は90.0msであった。
【0082】
残光性発光体2−(1)のX線回折パターンを図10に示した。測定結果から、BaMgSiを含む複数結晶相の混合相から成っていることがわかった。
【0083】
同様にして、化学式:(Ba・M)3−α−βMg1−γSi;EuαTbβMnγにおける各値を表4のように変化させた他は、残光性発光体2−(1)と同一の条件で、残光性発光体2-(2)〜2-(3)を作製した。
【0084】
【表4】
【0085】
次に、本発明の残光性発光体を使用した発光インキ組成物の調整方法及び真偽判別印刷物作製方法について説明する。
【0086】
(発光インキ組成物1)
実施例1の残光性発光体1−(1)を使用し、表5に示す配合で発光スクリーンインキ組成物1を遊星型ボールミル(フリッチュ社製)で作製した。
【0087】
【表5】
【0088】
(発光インキ組成物2)
実施例1の残光性発光体1−(1)を使用し、表6に示す配合で発光フレキソインキ組成物2を遊星型ボールミル(フリッチュ社製)で作製した。
【0089】
【表6】
【0090】
(真偽判別印刷物1の作製)
スクリーン印刷方式にて、200メッシュの版面を使用し、ベタ及び鳳凰の図柄で蛍光増白されていない上質紙に発光スクリーン組成物1を付与したのち、インキを乾燥させ真偽判別印刷物1を作製した。分光蛍光光度計により発光スクリーン組成物1付与部分を測定した発光スペクトルを図11に示した。蛍光は、456nmに単一の発光ピークを持つスペクトル形状を示し、励起波長365nmでのりん光スペクトルは、500nm、552nm及び622nmに三つのピークを持つスペクトル形状を示した。UVワニスを使用しているため、254nm励起時の発光強度は極端に低くなっているが、スペクトル形状は粉体の場合と同様であった。
【0091】
(真偽判別印刷物2の作製)
フレキソ印刷方式にて、アニロックスローラ140線/inchで、ベタ及び鳳凰の図柄で蛍光増白されていない上質紙に発光フレキソ組成物2を付与したのち、インキを乾燥させ真偽判別印刷物2を作製した。分光蛍光光度計により発光フレキソ組成物2付与部分を測定した発光スペクトルは図11と同様であった。蛍光は、456nmに単一の発光ピークを持つスペクトル形状を示し、励起波長365nmでのりん光スペクトルは、500nm、552nm及び622nmに三つのピークを持つスペクトル形状を示した。UVワニスを使用しているため、254nm励起時の発光強度は極端に低くなっているが、スペクトル形状は粉体の場合と同様であった。
【0092】
次に、本発明の残光性発光体を使用した真偽判別印刷物の真偽判別方法について説明する。
【0093】
(真偽判別印刷物の目視判別)
真偽判別印刷物1及び真偽判別印刷物2に、ハンディタイプの紫外線ランプで365nmの紫外光を照射し、青白色の蛍光を観察した。365nmの紫外光を照射している紫外線ランプを印刷物上に走査するように動かし、発光インキ組成物付与部が瞬時に赤色に変化するのを目視で確認した。
【0094】
(真偽判別印刷物の機械判別)
(照射工程・りん光検出工程)
真偽判別印刷物1に波長254nm(励起波長EX)の励起光を照射し、励起光停止後2ms後(第一の検出時間T)の、検出波長域λ=456nm(中心波長)、λ=500nm(中心波長)、λ=552nm(中心波長)、λ=622nm(中心波長)のりん光をシリコンフォトダイオード検出器により検出した。次に、波長365nm(励起波長EX)の励起光を照射し、励起光停止後2ms後(第一の検出時間T)の、検出波長域λ=456nm(中心波長)、λ=500nm(中心波長)、λ=552nm(中心波長)、λ=622nm(中心波長)のりん光をシリコンフォトダイオード検出器で検出した。
【0095】
(演算工程)
励起波長EX、254nmにおいて、λのりん光強度をI11、λのりん光強度をI12、λのりん光強度をI13、λのりん光強度をI14とすると、I11=0mV(推定値)、I12=19.2mV、I13=57.9mV、I14=157.5mVであった。励起波長EX、365nmにおいて、I21=0mV、I22=112mV、I23=340mV、I24=5100mVであった。判定基準値を表7のように定め、判定で許容する誤差を±10%とすると、真偽判別結果は表7に示したように「真」となった。
【0096】
【表7】
【0097】
(測定タイミング違いの実施例)
(照射工程・りん光検出工程)
真偽判別印刷物1を、分光測光装置PMA−11マルチチャンネル検出器を使用して真偽判別を行った。励起光源は375nmのLED光源であり、パルス周波数1Hz、励起光照射時間を400msとし1msステップで分光測定を行った。励起光の照射開始を0msとしたときの1ms、76ms時の蛍光スペクトル、401ms及び405msのりん光スペクトルを図12に示した。
【0098】
(演算工程)
りん光ピーク波長域λ=446nm(中心波長)、λ=496nm(中心波長)、λ=551nm(中心波長)、λ=623nm(中心波長)とし、第一の検出時間T=401msのときのλのりん光強度I21、λのりん光強度I22、λのりん光強度I23、λのりん光強度I24を測定値から読み取ると、I21=0counts、I22=449counts、I23=969counts、I24=3584countsである。第二の検出時間T=405msのときのλのりん光強度I’21、λのりん光強度I’22、λのりん光強度I’23、λのりん光強度I’24を測定値から読み取ると、I’21=0counts、I’22=104counts、I’23=290counts、I’24=3208countsであった。
【0099】
(判別工程)
第一の検出時間Tと第二の検出時間Tにおける各ピーク波長のりん光強度比による判別は、I21/I’21=0、I22/I’22=4.3、I23/I’23=3.3、I24/I’24=1.1であった。判定基準値を表8のように定めると、真偽判別結果は表8に示したように「真」となった。
【0100】
【表8】
【0101】
(比較例1)
次に、本発明の残光性発光体の実施例との比較を行うため、比較例の発光体について説明する。表9に示す配合の原料を正確に秤量し、エタノール溶媒中で十分に混合し乾燥させた。十分に混合した粉体をアルミナ製容器に入れ、還元雰囲気(N+H(4%) )中において、1400℃で2時間焼成して比較例1の発光体を作製した。比較例1の発光体は、モル比2.65Ba・0.3Ca・0.985Mg・Si:0.05Eu・0.015Mnで表される化合物を主として含む。
【0102】
【表9】
【0103】
焼成した比較例1の発光体をメノウ乳鉢で粗粉砕し、分光蛍光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製F−4500)で発光特性を測定した。図13に365nmの紫外光励起時の蛍光及びりん光スペクトルを示した。蛍光は、458nmに単一の発光ピークを示した。りん光は、622nmに発光ピークを示した。目視では、蛍光色は濃い青色に、りん光色は赤色に観察された。
【0104】
比較例1の発光体の残光測定を行った。励起光源を中心波長365nmのLED光源とし、照射時間を400msとして残光測定を行った結果、残光時間(寿命)は75.5msであった。
【0105】
比較例1の発光体をエタノール溶媒中、ジルコニアビーズとともに240分間振とう撹拌することにより粉砕した。粉砕後、複数回水洗浄し乾燥後の粉体の粒子径をCILAS粒度分布計1064Lで測定した結果、中央値2.77μmであった。
【0106】
(比較印刷物の作製と評価)
比較例1の発光体を使用し、表10に示す配合で比較スクリーンインキ組成物1を遊星型ボールミル(フリッチュ社製)で作製した。
【0107】
【表10】
【0108】
スクリーン印刷方式にて、200メッシュの版面を使用し、ベタ画線で蛍光増白されていない上質紙に比較例1の比較スクリーンインキ組成物1を付与したのち、インキを乾燥させ比較例1の比較印刷物1を作製した。
【0109】
比較例1の比較印刷物1に365nmの紫外光を照射し、青色の蛍光発光を観察した。また、比較印刷物1上を紫外光源を移動させると、光源が離れた部分が赤色のりん光として観察された。しかし、りん光の視認性は実施例1及び実施例2の印刷物より低かった。
【0110】
比較例1の比較印刷物1の、励起波長254nm及び365nmのときのりん光スペクトルを図14に示した。励起波長が異なると、発光強度が異なるものの、スペクトル形状は相似形であり単一の発光ピークを示していた。励起波長254nm及び365nmで発光スペクトル形状が変わらないため、実施例1に示したような判別方法をとることができない。
【0111】
真偽判別印刷物1と比較例1の印刷物の真偽判別結果を表11に示した。基準値を、表11のように定め、判定で許容する誤差を±10%とすると、各波長域での強度比は、I11/I21、I14/I24のみ基準値内に入るものの、I12/I22及びI13/I23は基準値から外れるため、比較例の印刷物は「偽」と判定された。
【0112】
【表11】
【0113】
これらのことから、公知技術である特許文献1の組成を調整し、蛍光特性を本発明の発光材料に近づけても、りん光スペクトルにおいて単一ピークにしかならず、本発明と同様な発光特性を持つ発光材料を作製することはできないことがわかった。
【0114】
(比較例2)
次に、本発明の残光性発光体の実施例との比較を行うため、市販で入手可能な発光材料を表12に示した割合で混合した比較スクリーンインキ組成物2を作製した。
【0115】
【表12】
【0116】
スクリーン印刷方式にて、200メッシュの版面を使用し、ベタ画線で蛍光増白されていない上質紙に比較例2の比較スクリーンインキ組成物2を付与したのち、インキを乾燥させ比較例2の比較印刷物2を作製した。
【0117】
比較例2の比較印刷物2に365nmの紫外光を照射し、青色の蛍光発光を観察した。次に、比較印刷物2上を紫外光源を移動させたが、赤色のりん光を視認できなかった。
【0118】
比較例2の比較印刷物2の、励起波長365nmのときの蛍光スペクトル及び励起波長254nm及び365nmのときのりん光スペクトルを図15に示した。蛍光スペクトルにおいて三つのピークが現れ、これらのうち一つのピーク波長域がりん光ピーク波長域と同一であることから、本発明の残光性発光体を含んで成る発光インキにより形成された印刷画像の発光特性とは異なる発光特性を持っている。
【0119】
比較例2の比較印刷物2のりん光スペクトルにおいて、励起波長が異なると、発光強度が異なるもののスペクトル形状は相似形であり単一の発光ピークを示していた。ピーク波長域は、本発明の残光性発光体を含んで成る発光インキにより形成された印刷画像とは異なり、521nmの緑色領域にピークを示していた。
【0120】
励起波長254nm及び365nmでりん光スペクトル形状が変わらないため、実施例1に示したような判別方法をとることができないが、仮に、真偽判別印刷物1と同様な判別方法を取る場合の判別例を示す。真偽判別印刷物1と比較例2の比較印刷物2の真偽判別結果を表13に示した。真偽判別印刷物1の発光スクリーンインキ組成物1と比較例2の比較スクリーンインキ組成物2の発光スペクトル形状が異なることから、真偽判別印刷物1の判別において定めた検出波長域に、比較例2の比較スクリーンインキ組成物2の発光ピーク波長域が入ってこないため、真偽判別印刷物1の判別において定めた検出波長域においては基準値の範囲に入らない。基準値を、表13のように定め、判定で許容する誤差を±10%とすると、比較例2の各波長域での強度比は、基準値外となり、比較例2の比較印刷物2は「偽」と判定された。
【0121】
【表13】
【0122】
これらのことから、入手可能な発光材料を混合して調色しても本発明と同様の発光特性を実現することはできず、模倣を防止することができることがわかった。
図1
図2
図3
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図5
図6
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図10
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図12
図13
図14
図15