【文献】
Hiroshi Takashima, et al.,“Red photoluminescence in praseodymium-doped titanate perovskite films epitaxially grown by pulsed laser deposition”,Applied Physics Letters,2006年12月28日,Vol.89,No.26,p.261915-1〜261915-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について以下説明する。
【0023】
バルク状態でp型半導体として知られるLa
1−xSr
xCoO
3では、電気伝導を担うのは、ホールであり酸素である。酸素欠陥が生じるとn型半導体特性を示すことが推測される。このため、酸素欠陥を生じさせない作製プロセスが必須となる。本発明者らによる予備実験により、La
1−xSr
xCoO
3の粉末やバルク材料において、十分に酸素を導入させることによって安定したp型半導体特性が得られることが明らかになった。そして、後述するパルスレーザー堆積法により薄膜化することにより、一定の酸素圧以上の成膜条件において単相の薄膜が得られ、室温で明確にp型半導体特性を示すものが得られた。
【0024】
本発明者らは、ペロブスカイト型酸化物(化学式ABO
3)のBサイトのうち、例えばCo系とRh系ペロブスカイト型酸化物の気相成長による薄膜化を行い、これらのバンドギャップを調べた。その結果、バンドギャップが1.0eVから2.5eVの値を有するp型半導体単結晶薄膜を複数組成で得たことから、本発明に到った。
【0025】
本実施の形態は、ペロブスカイト型酸化物である(RE
1−xAE
x)BO
3構造の酸化物(Co系酸化物、Rh系酸化物、Mn系酸化物、Ru系酸化物、Ir系酸化物)、及び(AE
1−yRE
y)
2BO
4構造の酸化物(Co系酸化物、Rh系酸化物、Mn系酸化物、Ru系酸化物、Ir系酸化物)に関する。両者を含めて、ペロブスカイト型関連構造を有する酸化物という。
【0026】
本発明の実施の形態では、次の組成のペロブスカイト型関連構造を有する酸化物半導体薄膜において、初めてp型半導体層を実現し、該p型半導体層を備える発光ダイオードを実現したものである。
【0027】
本発明の実施の形態における酸化物薄膜は、組成が、化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3、又は(AE
1−yRE
y)
2M2O
4(ただし、REは、希土類元素(Sc、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu))のうちの1種又は2種以上の元素、AEは、アルカリ土類金属元素Ca、Sr、Baのうちの1種又は2種以上の元素、M1、M2は、Co、Rh、Ru、Mn、Irのうちの1種又は2種以上の元素、0<x≦1、0<y≦1)で表される酸化物からなる。
【0028】
代表的な組成は、REがLaで、AEがSrである。
【0029】
化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3は、3+価の希土類元素を2+価のアルカリ土類金属元素で置き換える系である。
化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3(ただし、REは、希土類元素(Sc、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu))のうちの1種又は2種以上の元素、AEは、アルカリ土類金属元素Ca、Sr、Baのうちの1種又は2種以上の元素、M1は、Co、Rh、Ru、Mn、Irのうちの1種又は2種以上の元素、0<x≦1)で表される。例えば、LaをSrで置き換えた組成であり、La全てがSrで置換されたものも含む。SrRuO
3は含まれ、LaCoO
3は含まれない。
金属元素M1の種類により特に好ましいxの範囲は、例えば、次のとおりである。
M1がCoの場合は0<x≦0.5である。xが0.5を超えると、酸素が3.0ではなく3.0未満となり電気的中性条件が満たされなくなるからである。
M1がRhの場合も0<x≦0.5である。xが0.5を超えると酸素が3.0ではなく3.0未満となり電気的中性条件が満たされなくなるからである。
M1がIrの場合も同様である。
M1がMnの場合、0<x<0.33である。xが0.4以上であると酸素が3.0ではなく3.0未満となり電気的中性条件が満たされなくなり、0.5を超えると単一相の合成が困難であるからであり、0.33ではp型が実現しなかったからである。
M1がRuの場合、0.9<x≦1である。xが0.9以下では単一相の合成が困難であるからである。
【0030】
化学式:(AE
1−yRE
y)
2M2O
4は、2+価のアルカリ土類金属元素を3+価の希土類元素で置き換える系である。
化学式:(AE
1−yRE
y)
2M2O
4(ただし、REは、希土類元素(Sc、Y、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu))のうちの1種又は2種以上の元素、AEは、アルカリ土類金属元素Ca、Sr、Baのうちの1種又は2種以上の元素、M2は、Co、Rh、Ru、Mn、Irのうちの1種又は2種以上の元素、0<y≦1)で表される。
金属元素M2の種類により特に好ましいyの範囲は、例えば、次のとおりである。
M2がRhの場合は0<y≦0.5である。xが0.5を超えると単一相の合成が困難であるからである。
M2がIrの場合も同様である。
【0031】
金属元素M1及びM2の種類により、好ましいx及びyの範囲は、単一相の合成の可否、電気的中性条件、酸素量により、若干異なる。また、元素の組み合わせや組成を変えて制御することにより、バンドギャップ値を設定できる。
【0032】
なお、本発明では、前記組成に、若干量(1%以下程度)の金属元素が含有されていてもよい。若干量の元素が置換されてもp型特性が得られることが期待できる元素として、Cr、Fe、Ni、Cu、Mo、W、Irが挙げられる。
【0033】
本発明における酸化物半導体薄膜は、単結晶薄膜又は多結晶薄膜である。単結晶薄膜であることがより好ましい。また、エピタキシャル層であることが好ましい。
【0034】
本発明における酸化物半導体薄膜を成膜する基板として、例えば、ペロブスカイト型酸化物基板(LaAlO
3、Nb添加SrTiO
3等)や、その他の酸化物基板(MgO等)を使用できる。基板は単結晶でも多結晶でもよい。酸化物半導体薄膜をエピタキシャル層とする場合は、基板は、ペロブスカイト型酸化物であることが好ましく、単結晶基板を用いる。
【0035】
本発明におけるp型半導体の酸化物半導体薄膜は、室温での移動度が0.02cm
2/Vs以上である。LaSr系のペロブスカイト型のCo酸化物では、0.1cm
2/Vs以上である。さらには、1.0cm
2/Vs以上も実現できた。
【0036】
本発明の発光ダイオードは、ペロブスカイト型関連構造のp型半導体の酸化物半導体薄膜を備える半導体素子である。前記p型半導体の酸化物半導体薄膜を用いて、pn接合構造を有する半導体素子、整流半導体素子、光電変換素子、太陽電池等も実現できる。前記酸化物半導体薄膜のp型半導体層と、該p型半導体層とpn接合するn型半導体層とを備える半導体素子において、前記pn接合は、接合界面に絶縁層を備えることが好ましい。p型半導体層、i型絶縁層、n型半導体層のpin積層構造により、整流特性が得られる。本発明のp型半導体の酸化物半導体薄膜は、薄膜の表面が平坦であるので、該表面の上に他の層を成膜するのに適し、優れた半導体積層構造を実現できる。
【0037】
本発明の発光ダイオードに用いるn型半導体薄膜は、組成など特に限定されない。酸化物半導体層を用いることができる。例えば、既にn型半導体として知られている、ペロブスカイト型関連構造又は非ペロブスカイト型関連構造の酸化物半導体薄膜を用いることができる。InGaZnO
4(以下、IGZOともいう。)やLa−SrTiO
3が挙げられる。n型半導体薄膜は、p型半導体薄膜を含む積層構造とするので、p型と製造方法が共通していたり、化学式が類似であるものが、好ましい。
【0038】
本発明の発光ダイオードにおける発光層は、その組成に限定されない。ペロブスカイト型酸化物蛍光体を用いることができる。例えば((Ca
1−xSr
x)
1−y)Pr
yTiO
3(0≦x≦0.6、0<y≦0.2)である((Ca
0.6Sr
0.4)
0.997)Pr
0.002TiO
3が好ましい。
【0039】
本実施の形態の発光ダイオードは、p型半導体の酸化物半導体薄膜を、既に知られている発光ダイオードの構造に適用することで作製できる。本実施の形態の発光ダイオードは、少なくとも、本発明のp型半導体の酸化物半導体薄膜からなるp型層、発光層、n型半導体層の順に積層した積層構造と、電極構造とを備える。発光層やn型半導体層として、酸化物薄膜を用いると、化学的に安定であり、より耐久性に優れる。既に知られているバッファー層等を適宜設けても良い。
【0040】
本発明の形態における酸化物半導体薄膜は、非透明である。バンドギャップ値が2.5eV以下であるので、透明ではなく黒色系である。発光ダイオードの素子構造は、代表的には、下部固体基板/下部導電膜/p型半導体薄膜/発光層/n型半導体薄膜/上部透明導電膜である。透明導電膜は、透明で導電性がある材料であれば使用できるが、例えば、ATO(Sb置換−SnO
2)、ITO(酸化インジウム・スズ)、酸化亜鉛等が好ましい。
【0041】
本実施の形態におけるp型半導体薄膜は、気相成長法であるパルス堆積法、CVD、スパッタリング、液相成長であるスピンコート法等により作製することができる。パルス堆積法を用いることにより結晶性に優れ高い輝度を得ることができる。特に、p型半導体を得るためには、酸素雰囲気中で堆積することが好ましい。酸素雰囲気中とは、例えば、空気(大気圧)等が挙げられ、酸素分圧10%以上であることが好ましい。
【0042】
また、ペロブスカイト型関連構造を有する酸化物薄膜を堆積した結果の薄膜が、p型でない場合は、酸素雰囲気中で熱処理することにより、p型半導体薄膜にすることができる。熱処理工程における酸素雰囲気は、空気(大気圧)等が挙げられ、酸素分圧10%以上であることが好ましい。
【0043】
本発明におけるペロブスカイト型酸化物のp型半導体薄膜は、特に膜厚は限定されない。発光ダイオードのp型半導体層として用いる場合は、50nm以上の膜厚を有することが好ましい。
【0044】
(第1の実施の形態)
本実施の形態は、発光ダイオードのp型半導体層の組成が、化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3である場合に関する。
【0045】
[ターゲットの作製]
酸化物薄膜を作製するためのターゲットの作製方法について、Sr添加LaCoO
3を例に説明する。
Sr添加LaCoO
3では、原材料として酸化ランタン(La
2O
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、酸化コバルト(Co
3O
4)を用い、化学量論組成でLa
1−xSr
xCoO
3になるように秤量し、めのう乳鉢で乾式混合により均一に混合する。混合終了後、仮焼を温度800℃で時間24時間、大気中で行う。その後、粉砕・混合を行い、プレスにより直径20mm、厚み約5mmの円柱状ペレットに成形し、本焼を温度900℃〜1200℃で24時間、大気中で行う。これをパルスレーザーターゲットとする。
【0046】
[薄膜の作製]
次に、酸化物薄膜の作製方法について説明する。本実施の形態では、パルスレーザー堆積法(PLD)を用いた。パルスレーザー堆積法は、ArF(波長193nm)等のエキシマレーザーを照射してターゲット材料をプラズマ化させプルームを形成し、ターゲット材料に対向して配置された加熱されている固体基板に、薄膜を堆積させる手法である。固体基板としてSrTiO
3(001)片面研磨単結晶基板を用いた。
ターゲット材料は化学量論組成のLa
0.67Sr
0.33CoO
3多結晶体を用いた。ターゲットと固体基板の間の距離は28−35mmとし、固体基板はランプ加熱ヒータによって400−700℃に加熱した。レーザー照射周波数は4−16Hzであり、レーザーエネルギーは約20−50mJである。典型的な成膜時間は15分から60分であり、膜厚は100nmから400nmで作製した。より好ましい範囲は、固体基板の間の距離は30−34mm、基板加熱温度400−500℃レーザー照射周波数は8−16Hzであり、レーザーエネルギーは約30−40mJである。これらの数値範囲は典型的な数値であり、この範囲でなければ効果がないということではない。なお、本発明に係るペロブスカイト型酸化物薄膜の作製においては、1000℃以下の条件で成膜を行っているため、クラスター成長が支配的であり、ターゲット材料をその化学量論組成で薄膜として堆積させることができる。さらに、ターゲット材料が酸化物からなっており、酸素雰囲気中での成膜とすることにより、酸素欠損等を制御することが可能であり、これによって電気的特性を制御することができる。
【0047】
[薄膜の解析]
図1は、パルスレーザー堆積法で成膜したLa
0.67Sr
0.33CoO
3薄膜のX線による結晶回折測定の結果である。
図1から、薄膜が(001)方位に配向していることが分かり、単相の目的組成が薄膜として作製できていることが確認できる。
図2は、X線によるφスキャン測定の結果である。
図2から、4回対称の回折ピークを確認し、面内配向していることが分かる。さらに、反射高速電子回折RHEED(Reflection High Energy Electron Diffraction)観測の結果、ストリーク状の回折パターンが観測され、薄膜最表面が結晶性を有していることが分かった。これらの結果、作製した薄膜は単結晶的であることが明らかになった。
図3は、原子間力顕微鏡(AFM)で観測したLa
0.67Sr
0.33CoO
3薄膜表面のモアフォロジー(凹凸構造)である。
図3から、表面粗さが50nm以下であることを確認した。
図3から、非常に平坦な表面構造を持つ薄膜が得られたことが分かる。積層デバイスとした際に、下部層に用いる薄膜は表面構造が平坦でないと電気的マイクロショートを引き起こす要因となる。
図3のように平坦な薄膜が形成されていることから、pn接合を作製する際、本実施の形態の薄膜は、下部層膜として利用することが可能であり、面型(プレーン型)pn接合形成に有用である。
【0048】
[薄膜のホール係数]
作製した薄膜のホール係数を室温で測定した。
薄膜のホール係数の測定について詳しく説明する。p型またはn型の半導体試料において、x方向に電流を流し、z方向に磁場をかける。この時、試料を流れている荷電粒子(キャリア)は磁場によるローレンツ力を受けてy方向に加速される。これによって、試料の表面にキャリアがたまり、電流と磁場の両方に直交する方向に電場が生じ、起電力が生じる。その解析によって半導体のキャリアの種類と密度が測定できる。ホール係数の測定には比抵抗/ホール測定システムを使用した。交流測定の際の周波数は、50〜200mHzの範囲で測定した。また直流でS/N比が十分な場合には直流で測定を行った。典型的な印加磁束密度は0.4Tである。また、クライオポンプを用いて室温から約20Kまでの低温環境を実現し、ホール係数の測定を行った。
室温で測定したホール係数測定から、酸素雰囲気400mTorr、基板温度540℃で作製したLa
0.67Sr
0.33CoO
3薄膜の比抵抗、キャリア濃度、移動度は、それぞれ4.20×10
−3Ωcm、1.29×10
22cm
−3、1.10cm
2/Vsであり、キャリアはホールでp型半導体であることが分かった。
【0049】
本実施の形態の材料のp型半導体を示す主たる原因は酸素である。成膜中の酸素圧が低い場合、酸素欠損が生じやすく、一方、成膜中の酸素圧が高い場合には酸素欠損が生じ難いことが、推測される。このため、基板温度一定とし成膜中の酸素圧を、10mTorr、20mTorr、40mTorr、10mTorr、100mTorr、200mTorr、400mTorr、1000mTorrと、選択して成膜を行った。成膜した薄膜のホール係数測定を室温で行った。その結果、酸素圧40mTorr以上の領域ではキャリアがホールであることが明らかになり、p型半導体であることが分かった。また、酸素圧20mTorr以下の領域では、ホール係数の測定ではキャリアがホールか電子かの判別は不可能であった。基板保持温度1000℃以下の成膜条件では、クラスター成長が支配的である。ターゲット材料は十分に酸素中熱処理されているため酸素欠損はなく、p型半導体特性を示す。この結果は、酸素圧20mTorr以下での成膜では、クラスター中の酸素欠損が生じやすくなり、薄膜に十分な酸素が残存しないことから、p型半導体特性を示さなくなると推測できる。
【0050】
次に、組成比の異なるLa
0.9Sr
0.1CoO
3について薄膜作製を行い、ホール係数測定を行った。典型的な成膜条件として酸素圧100mTorr、基板温度540℃で成膜を行った。ホール係数測定の結果、キャリア濃度、移動度は、それぞれ5.27×10
20cm
−3、0.13cm
2/Vsであり、キャリアはホールでp型半導体であることが分かった。酸素圧10mTorrの場合、ホール係数測定の結果、キャリア濃度、移動度は、それぞれ5.84×10
20cm
−3、0.1cm
2/Vsであり、キャリアはホールでp型半導体であることが分かった。酸素圧10mTorr未満の酸素圧で成膜したサンプルではホール係数測定によるキャリアの同定は困難であった。
【0051】
[比較例1]
Srを添加していないLaCoO
3について薄膜作製を行い、ホール係数測定を行った。典型的な成膜条件として酸素圧100mTorr、基板温度540℃で成膜を行った。ホール係数測定の結果、キャリアの同定は困難であった。
【0052】
[比較例2]
化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3におけるM1が、Tiの場合について検討した。
Nb添加SrTiO
3を比較例として示す。SrTi
0.99Nb
0.01O
3を、典型的な成膜条件として、酸素圧100mTorr、基板温度540℃で、成膜を行った。なお、SrTi
0.99Nb
0.01O
3は(RE
1−xAE
x)M1O
3の化学式にあてはめると、Nb
0.01SrTi
0.99O
3と表すこともできる。ホール係数測定の結果、比抵抗、キャリア濃度、移動度は、それぞれ2.59×10
−2Ωcm、1.90×10
20cm
−3、1.26cm
2/Vsであり、キャリアは電子でn型半導体であることが分かった。酸素圧10mTorrから400mTorrの間で成膜しても、キャリアが電子でn型半導体であった。
La添加SrTiO
3を比較例として示す。Sr
0.995La
0.005TiO
3でも、上述のSrTi
0.99Nb
0.01O
3と同じ酸素欠損が生じるので、キャリアが電子でn型半導体であることが推測できる。
【0053】
比較例等を含めて検討した結果、AE(Sr等)の割合によってp型又はn型になる理由については、次のように考えられる。RE
1−xAE
xCoO
3−δでは、RE(La等)の+3価のサイトをAE(Sr等)2+価の原子で置換し、置換量が少ないときには結晶中での酸素拡散が十分なためδ=0になる。しかし、AE(Sr等)の置換量xが多くなってくると結晶中での酸素拡散が不十分となり、酸素欠損(δ>0)を生じる。この酸素欠損は結晶中に電子を導入したことになり、結果としてn型半導体となると考えられる。
M1がCoの場合は0<x≦0.5であることが好ましい。
【0054】
(第2の実施の形態)
本実施の形態は、発光ダイオードのp型半導体層の組成が、化学式:(AE
1−yRE
y)
2M2O
4である場合に関する。本実施の形態では、(Sr
1−yLa
y)
2RhO
4を例に以下説明する。
【0055】
[ターゲットの作製]
第1の実施の形態と同様、酸化物薄膜を作製するためのターゲットを作製した。
(Sr
1−yLa
y)
2RhO
4系では、原材料としてLa
2O
3、SrCO
3、Rh
2O
3を用い、化学量論組成で(Sr
1−yLa
y)
2RhO
4になるように秤量し、めのう乳鉢中でアルコールを用いた湿式混合もしくは、乾式混合により均一に混合する。混合終了後、仮焼を温度900度で8から12時間、大気中で行う。その後、粉砕・混合を行い、プレスにより直径20mm、厚み約5mmの円柱状に成形し、本焼を温度1000から1200度の間で8から10時間、酸素雰囲気中で行う。これをパルスレーザーターゲットとする。
【0056】
[薄膜の作製]
本実施の形態では、第1の実施の形態と同様、固体基板としてSrTiO
3(001)片面研磨単結晶基板を用いた。
ターゲット材料は化学量論組成の(Sr
0.75La
0.25)
2RhO
4多結晶体を用いた。y=0.25に対応する。ターゲットと固体基板の間の距離は28−35mmとし、固体基板はランプ加熱ヒータによって400−700℃に加熱した。レーザー照射周波数は4−16Hzであり、レーザーエネルギーは約20−50mJである。典型的な成膜時間は15分から60分であり、膜厚は100nmから400nmである。
【0057】
[薄膜の解析]
X線による結晶回折実験の結果、(001)方位に配向していることが分かり、単相の目的組成が薄膜として作製できていることを確認した。さらに反射高速電子回折RHEED観測の結果、ストリーク状の回折パターンが観測され、薄膜最表面が結晶性を有していることが分かった。これらの結果、作製した薄膜はエピタキシャル薄膜であることが分かった。
積層デバイスとした際に、下部層に用いる薄膜は表面構造が平坦でないと電気的マイクロショートを引き起こす要因となる。膜表面のモアフォロジー(凹凸構造)を原子間力顕微鏡(AFM)で観測した結果、表面粗さが10nm以下であることを確認し、非常に平坦な表面構造を持つ薄膜が得られたことが分かった。
【0058】
[薄膜のホール係数]
酸素雰囲気400mTorr、100mTorr、40mTorr、10mTorrで基板温度540℃において作製した(Sr
0.75La
0.25)
2RhO
4薄膜について、第1の実施の形態と同様の方法で、ホール係数を室温で測定した。その結果、どの酸素圧で作製された酸化物薄膜の場合においても、キャリアが、ホール又は電子のいずれであるかを判別することができなかった。ターゲット材料の酸素量は十分な熱処理を行っていることから酸素欠損はないと推測する。よって、成膜プロセス中に酸素欠損が生じ、電子とホールが混在しているため、キャリアの判別が困難になっていると推測する。
【0059】
[熱処理]
キャリアの判別ができなかったサンプルに熱処理を施し、酸素を薄膜の結晶中に導入することを試みた。熱処理の条件は、温度500℃から1000℃で温度一定、保持時間は2時間以上、大気中である。熱処理温度800℃、保持時間2時間、大気中で行ったサンプルのホール係数測定結果は、比抵抗、キャリア濃度、移動度で、それぞれ2.71Ωcm、1.02×10
20cm
−3、0.02cm
2/Vsであり、キャリアはホールでp型半導体であることが分かった。
【0060】
(AE
1−yRE
y)
2RhO
4では、y=0のとき、AE(Sr等)が2+価、Rhが4+価、酸素2−価で電気的中性条件が満たされる。y=0.5の際、AE(Sr等)2+価、RE(La等)が3+価で、酸素2−価であり、電気的中性条件を満たすためには、Rhは3+価となる。Rhは価数が4+価の場合、その電子配置からp型を示さず、3+価がある程度出現することでp型半導体特性を示す特徴がある。
yが0.5を超えると単一相の合成が困難であることから、M2がRhの場合は0<y≦0.5が好ましい。
【0061】
(第3の実施の形態)
本実施の形態は、発光ダイオードのp型半導体層の組成が、化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3である場合に関する。本実施の形態では、La
1−xSr
xRhO
3を例に、以下説明する。
【0062】
[ターゲットの作製]
第1の実施の形態と同様、酸化物薄膜を作製するためのターゲットを作製した。
La
1−xSr
xRhO
3では、原材料としてSrCO
3、La
2O
3、Rh
2O
3を用い、化学量論組成でLa
1−xSr
xRhO
3になるように秤量し、めのう乳鉢中でアルコールを用いた湿式混合もしくは、乾式混合により均一に混合する。混合終了後、仮焼を、温度900度で8から12時間大気中で行う。その後、粉砕・混合を行い、プレスにより、直径20mm厚み約5mmの円柱状に成形し、本焼を、温度1000から1200度の間で8から10時間、酸素雰囲気中で行う。これをパルスレーザーターゲットとする。
【0063】
[薄膜の作製]
本実施の形態では、第1の実施の形態と同様、固体基板としてSrTiO
3(001)片面研磨単結晶基板を用いた。
ターゲット材料は化学量論組成のLa
0.8Sr
0.2RhO
3多結晶体を用いた。La
0.8Sr
0.2RhO
3でも、典型的な成膜条件として酸素圧10mTorrから400mTorrの間で成膜した。しかし、いずれの酸素圧条件による薄膜について、ホール係数の測定をした結果、p型半導体特性は示さなかった。
【0064】
[熱処理]
p型半導体特性は示さなかったサンプルの薄膜を、第2の実施の形態と同様に、熱処理を施し、酸素の導入を試みた。熱処理の条件は、温度500℃から1000℃で温度一定保持時間は2時間以上、大気中である。熱処理温度800℃、保持時間2時間、大気中で行ったサンプルのホール係数測定結果は、比抵抗、キャリア濃度、移動度が、それぞれ4.76×10
1Ωcm、3.42×10
19cm
−3、0.04cm
2/Vsであり、キャリアはホールでp型半導体であることが分かった。
【0065】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、M1がRhの場合、0<x≦0.5であることがより好ましい。
【0066】
(第4の実施の形態)
本実施の形態は、発光ダイオードのp型半導体層の組成が、化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3である場合に関する。本実施の形態では、Sr添加LaMnO
3を例に、以下説明する。
第1の実施の形態と同様に、La
0.85Sr
0.15MnO
3をパルスレーザー堆積法で成膜した。La
0.85Sr
0.15MnO
3では、典型的な成膜条件として、酸素圧100mTorr、基板温度540℃で、成膜を行った。ホール係数測定の結果、比抵抗、キャリア濃度、移動度は、それぞれ2.62×10
−1Ωcm、4.61×10
20cm
−3、0.05cm
2/Vsであり、キャリアはホールでp型半導体であることが分かった。
【0067】
Sr添加LaMnO
3に関して、Srの添加量について検討した。
Sr添加量が比較的多いLa
0.67Sr
0.33MnO
3を比較例として示す。La
0.67Sr
0.33MnO
3を、典型的な成膜条件として、前述のLa
0.85Sr
0.15MnO
3と同様の、酸素圧100mTorr、基板温度540℃で、成膜を行った。ホール係数測定の結果、比抵抗、キャリア濃度、移動度は、それぞれ5.77×10
−3Ωcm、9.00×10
20cm
−3、1.20cm
2/Vsであり、キャリアは電子でn型半導体であることが分かった。酸素圧10mTorrから400mTorrの間で成膜しても、キャリアが電子でn型半導体であった。酸素欠損が生じているためn型に支配されていると推測し、熱処理を行った。熱処理の条件は、温度800℃、保持時間2時間、大気中である。その後、ホール係数測定を行った結果、比抵抗、キャリア濃度、移動度は、それぞれ4.90×10
−3Ωcm、5.41×10
20cm
−3、2.35cm
2/Vsであり、キャリアは電子でn型半導体であることが分かった。Sr添加量が比較的多いLa
0.67Sr
0.33MnO
3薄膜では、熱処理による結晶中への酸素導入は期待できず、n型半導体を示すことが分かった。
【0068】
これらの結果より、化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3において、AEの置換量を異ならせること、即ち、xを設定することにより、n型とp型を作り分けることができる。xを所定閾値以下に設定することにより、p型を作製することができる。
よって、M1がMnの場合、xが0.33未満、好ましくは0.24以下で、p型半導体を作製できる。
【0069】
AE(Sr等)の割合によってp型又はn型になる理由については、第1の実施の形態で説明したCoの場合と同様に考えられる。これは、La、Sr、Co、Rh、Mnの元素のみに限らず、本発明のペロブスカイト型関連酸化物において、同様である。
【0070】
(第5の実施の形態)
本実施の形態は、発光ダイオードのp型半導体層の組成が、化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3である場合に関する。本実施の形態では、SrRuO
3を例に、以下説明する。x=1の場合の例である。
第1の実施の形態と同様に、SrRuO
3をパルスレーザー堆積法で成膜した。SrRuO
3では、典型的な成膜条件として、酸素圧100mTorr、基板温度540℃で成膜を行った。ホール係数測定の結果、比抵抗、キャリア濃度、移動度は、それぞれ1.56×10
3Ωcm、3.35×10
22cm
−3、0.19cm
2/Vsであり、キャリアはホールでp型半導体であることが分かった。酸素圧10mTorrから400mTorrの間で成膜しても同様の結果が得られた。
本実施の形態においては、M1がRuの場合、0.9<x≦1がより好ましい。
【0071】
(第6の実施の形態)
本実施の形態では、発光ダイオードの前提となる、前述の実施の形態で説明したp型半導体である酸化物半導体薄膜を用いた半導体素子に関して説明する。前記p型半導体である酸化物半導体薄膜は、ペロブスカイト型関連構造を有し、組成が、化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3、又は化学式:(AE
1−yRE
y)
2M2O
4、で表される酸化物からなる。前記p型半導体である酸化物半導体薄膜と、該薄膜にpn接合するn型半導体薄膜とを備えた半導体素子を、次のように作製する。
【0072】
[pn接合の作製]
pn接合の作製は、多源ターゲットを有することができるパルスレーザー堆積法を用いた。複数のターゲット材料を一真空プロセスで連続成膜することができる。基板材料として電気伝導性を有するNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板を用いた。該基板の上に、p型半導体La
0.67Sr
0.33CoO
3、絶縁層CeO
2、n型半導体SrTi
0.99Nb
0.01O
3から構成される、p−La
0.67Sr
0.33CoO
3/CeO
2/n−SrTi
0.99Nb
0.01O
3の接合構造を次のように作製した。
まず、真空引きと基板加熱を行い、400−700℃の所定温度に基板を昇温し一定時間保持した後、酸素を真空チャンバー内に導入する。p−La
0.67Sr
0.33CoO
3ターゲットにレーザーを照射しターゲット材料をプラズマ化させ、高温に保持された基板に堆積させた。その後、同様に、連続的に絶縁層CeO
2を成膜した。その後、連続的にn−SrTi
0.99Nb
0.01O
3を該絶縁層の上部に成膜した。SrTi
0.99Nb
0.01O
3ターゲットは、単結晶を利用した。
作製した、電気伝導性を有するNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板上の、p−La
0.67Sr
0.33CoO
3/CeO
2/n−SrTi
0.99Nb
0.01O
3のからなるpn接合積層構造に、上部電極を設けた。上部電極には、透明導電性膜として、Sb置換SnO
2膜(ATO)、またはITO膜を用いた。なお、マスク材を用いて、上述の成膜を行い、0.5mmから1mm角サイズの面型pn接合の作製を行った。
【0073】
[pn接合の電流電圧特性]
pn接合の電流−電圧測定方法について説明する。
図4は、pn接合の電流−電圧測定に用いる回路図である。サンプルのpn接合半導体素子と直列に、抵抗R
L(図中R
L=200Ω)、抵抗R(R=600Ω)、及び周波数f=2.2Hzの交流電源を接続する。サンプルに印加される電圧を、所定の入力インピーダンスZ
in(Z
in=約10
10Ωの)のバッファー回路を通して、V
xとする。サンプルの電圧V
sampleは(V
x−V
y)であり、これを電流−電圧特性図のx軸に入力する。また、サンプルに流れる電流は、抵抗R
L(R
L=200Ω)の両端の電圧を、入力インピーダンスZ
in(Z
in=約10
10Ω)のバッファー回路を通して、V
yとして、電流−電圧特性図のy軸に入力する。サンプルに流れる実際の電流値I
sampleは、I=V
y/R
Lである。測定の際、2端子プローバーを用いた。一方の端子を、電気伝導性を有するNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板に電気的にコンタクトし、もう一方の端子を、基板上の0.5mm×0.5mmまたは1mm×1mmサイズの透明導電性膜にコンタクトさせた。
【0074】
[p−La
0.67Sr
0.33CoO
3/CeO
2/n−SrTi
0.99Nb
0.01O
3/ATO]
図5に、前述の、Nb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板上に作製したp−La
0.67Sr
0.33CoO
3/CeO
2/n−SrTi
0.99Nb
0.01O
3/ATOで得られた典型的なpn接合の電流−電圧特性を示す。図によれば、1.0Vよりも若干低い順方向バイアスで電流の立ち上がりが見られた。また、逆方向バイアスでは−2.5Vまでは電流の降伏は見られず、理想的な整流作用が得られた。絶縁層の厚みは10nmから300nmの範囲で作製し、特性調査を行ったが大きな変化は見られなかった。
【0075】
絶縁層として、前記CeO
2に換えてCaSrTiO
3などのペロブスカイト型酸化物の絶縁層を用いても同様の電流−電圧特性が得られた。このことから、絶縁層に用いる材料に依存せず、同様の電流−電圧特性が得られることが考えられる。
【0076】
またn型半導体として前記n−SrTi
0.99Nb
0.01O
3に換えてSr
0.995La
0.005TiO
3を用いても同様の結果が得られることが期待できる。
【0077】
[p−La
0.67Sr
0.33CoO
3/CaSrTiO
3/n−IGZO]
基板材料として電気伝導性を有するNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板を用いた。該基板の上部に、p型半導体La
0.67Sr
0.33CoO
3、絶縁層CaSrTiO
3、n型半導体IGZOから構成される、p−La
0.67Sr
0.33CoO
3/CaSrTiO
3/n−IGZOの接合構造を作製した。電極構造等は前述と同様である。
【0078】
ここで、n−IGZOについて説明する。InGaZnO
4は、典型的な成膜条件として、酸素圧50mTorr、基板温度400℃で、成膜を行った。なお、基板に成膜したn−IGZOのホール係数を測定したところ、比抵抗、キャリア濃度、移動度は、それぞれ4.43×10
−1Ωcm、1.31×10
18cm
−3、10.8cm
2/Vsであり、キャリアは電子でn型半導体であることが分かった。酸素圧10mTorrから400mTorrの間で成膜しても同様の結果である。
【0079】
図6に、p−La
0.67Sr
0.33CoO
3/CaSrTiO
3/n−IGZOの場合の、得られた典型的なpn接合の電流−電圧特性を示す。図によれば、1.0Vよりも若干低い順方向バイアスで電流の立ち上がりが見られた。また、逆方向バイアスでは−2.5Vまでは電流の降伏は見られず、理想的な整流作用が得られているのが分かった。絶縁層の厚みは10nmから300nmの範囲で作製し、特性調査を行ったが、大きな変化は見られなかった。
【0080】
絶縁層として、CeO
2などの非ペロブスカイト型酸化物の絶縁層を用いても同様の電流−電圧特性が得られた。このことから、絶縁層に用いる材料に依存せず、同様の電流−電圧特性が得られることが考えられる。
【0081】
[p−La
0.9Sr
0.1CoO
3/CeO
2/n−IGZO]
基板材料として、電気伝導性を有すNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板を用いた。該基板の上部に、p型半導体La
0.9Sr
0.1CoO
3、絶縁層CeO
2、n型半導体IGZOから構成される、p−La
0.9Sr
0.1CoO
3/CeO
2/n−IGZOの接合構造を作製した。電極構造等は前述と同様である。
図7に、得られた典型的なpn接合の電流−電圧特性を示す。図によれば、約1.0V付近で順方向バイアスで電流の立ち上がりが見られた。また、逆方向バイアスでは−4.0Vまでは電流の降伏は見られず、理想的な整流作用が得られているのが分かった。絶縁層の厚みは25nmから300nmの範囲で作製し、特性調査を行ったが、大きな変化は見られなかった。
【0082】
絶縁層として、CeO
2に換えてCaSrTiO
3などのペロブスカイト型酸化物の絶縁層を用いても、同様の電流−電圧特性が得られた。このことから、絶縁層に用いる材料に依存せず、同様の電流−電圧特性が得られることが考えられる。
【0083】
[p−La
0.8Sr
0.2RhO
3/CeO
2/n−IGZO]
基板材料として、電気伝導性を有すNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板を用いた。該基板の上部に、p型半導体La
0.8Sr
0.2RhO
3、絶縁層CeO
2、n型半導体IGZOから構成される、p−La
0.8Sr
0.2RhO
3/CeO
2/n−IGZOの接合構造を次の方法で作製した。
まず、パルスレーザー堆積法で、La
0.8Sr
0.2RhO
3を、前述の方法で成膜した後、500℃−1000℃で大気中熱処理を行う。これによって成膜時に欠損した酸素を供給し、主たるキャリアがホールであるp型半導体とする。その後、パルスレーザー堆積法によって、同様に、CeO
2/n−IGZOを成膜する。その後、透明導電性膜として、Sb置換SnO
2膜(ATO)又はITO膜を成膜し上部電極とした。
図8に、得られた典型的なpn接合の電流−電圧特性を示す。図によれば、1.0Vよりも若干低い順方向バイアスで電流の立ち上がりが見られた。また、逆方向バイアスでは−2.5Vまでは電流の降伏は見られず、理想的な整流作用が得られているのが分かった。絶縁層の厚みは10nmから300nmの範囲で作製し、特性調査を行ったが、大きな変化は見られなかった。
【0084】
絶縁層として、CaSrTiO
3などのペロブスカイト型酸化物の絶縁層を用いても同様の電流−電圧特性が得られた。このことから、絶縁層に用いる材料に依存せず、同様の電流−電圧特性が得られることが考えられる。
【0085】
[p−(Sr
0.75La
0.25)
2RhO
4/CeO
2/n−IGZO]
基板材料として電気伝導性を有するNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板を用いた。該基板の上部に、p型半導体(Sr
0.75La
0.25)
2RhO
4、絶縁層CeO
2、n型半導体IGZOから構成される、p−(Sr
0.75La
0.25)
2RhO
4/CeO
2/n−IGZOの接合構造を次の方法で作製した。
まず、パルスレーザー堆積法で、(Sr
0.75La
0.25)
2RhO
4を、前述の方法で成膜した後、500℃−1000℃で大気中熱処理を行う。これによって成膜時に欠損した酸素を供給し、主たるキャリアがホールであるp型半導体とする。その後、パルスレーザー堆積法によって、同様に、CeO
2/n−IGZOを成膜する。その後、透明導電性膜としてSb置換SnO
2膜(ATO)又はITO膜を成膜し上部電極とした。
図9に、得られた典型的なpn接合の電流−電圧特性を示す。図によれば、1.0Vよりも若干低い順方向バイアスで電流の立ち上がりが見られた。また、逆方向バイアスでは−2.5Vまでは電流の降伏は見られず、理想的な整流作用が得られているのが分かった。絶縁層の厚みは10nmから300nmの範囲で作製し、特性調査を行ったが、大きな変化は見られなかった。
【0086】
絶縁層として、CaSrTiO
3などのペロブスカイト型酸化物の絶縁層を用いても同様の電流−電圧特性が得られた。このことから、絶縁層に用いる材料に依存せず、同様の電流−電圧特性が得られることが考えられる。
【0087】
本実施の形態において、基板材料として、電気伝導性を有すNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板を用いた例で説明したが、SrTiO
3(001)単結晶基板上に電気伝導性SrRuO
3薄膜を成膜し、その上部にp型半導体薄膜/絶縁層/n型半導体薄膜を形成しても、p型半導体特性は得られるため、同様の効果が得られる。
【0088】
(第7の実施の形態)
本実施の形態は、前述の実施の形態で説明したp型半導体である酸化物半導体薄膜を用いた発光ダイオードに関する。本実施の形態の発光ダイオードにおけるp型の酸化物半導体薄膜は、ペロブスカイト型関連構造を有し、組成が、化学式:(RE
1−xAE
x)M1O
3、又は化学式:(AE
1−yRE
y)
2M2O
4、で表される酸化物からなる。本実施の形態の発光ダイオードは、p型酸化物半導体薄膜と発光層(i型)とn型半導体薄膜の接合構造を備える。該接合構造を備える発光素子の発光特性について、次の構造の例で調べた。
【0089】
[p−La
0.67Sr
0.33CoO
3/発光層/n−IGZO]
図10(b)に図示するように、基板材料として、電気伝導性を有すNb1%置換SrTiO
3(SrTi
0.99Nb
0.01O
3)(001)片面研磨基板を用い、その上部に、p型半導体、i型発光層、n型半導体から構成される、p−La
0.67Sr
0.33CoO
3/発光層(Pr−CaSrTiO
3)/n−IGZO構造からなるpn接合を作製した。その後、透明導電膜として、Sb置換SnO
2膜(ATO)または、ITO膜を成膜し上部電極とした。得られた電流−電圧特性は
図6と同様であった。顕著な整流性が確認でき、逆方向耐電圧は2.5V以上であり、順方向の立ち上がり電圧は約0.9Vである。すなわち、バンドギャップの小さなp−La
0.67Sr
0.33CoO
3のバンドギャップは約0.9eVであることが分かった。バンドギャップ値は、p型半導体材料La
0.67Sr
0.33CoO
3のSr濃度を変更することによって、約0.8eVから2.4eVの範囲でチューニングすることができる(非特許文献2参照)。
【0090】
前記
図10(b)で示す素子に、直流電圧を印加して発光特性の調査を行った。このとき、発光層には、Pr
0.002添加(Ca
0.6Sr
0.4)TiO
3を用いた。電圧印加に対し目視による発光確認は得られなかったため、光電子増倍管により印加電圧と光電子増倍管の電流値をプロットした。結果を
図10(a)に示す。印加電圧が6.5V近傍で光電子増倍管の電流値が顕著に変化し、発光が生じている。さらに直流電圧を印加し続けると、光電子増倍管の電流値が大きくなり発光強度が大きくなっていることが分かる。
図11に、
図10と同様の素子に直流7Vを印加した際に得られた波長スペクトルを示す。
図11によると、波長612nmに、顕著なピークの出現が確認できる。波長612nmは、発光中心として発光層の結晶中に含まれるPr
3+イオンの
1D
2から
3H
4へのエネルギー遷移に相当する波長であり、この発光は赤色である。
【0091】
これらの結果は、世界初の酸化物薄膜LED素子発光の実験的証拠である。即ち、次のことがわかる。本実施形態の発光素子は、印加電圧が時間に対して変位することによって発光が生じる交流電界発光のホットエレクトロンで説明される発光プロセスではないことが明らかである。本実施形態の素子における発光プロセスは、電子とホールの再結合によりエネルギーが生じ、該エネルギーが発光層の発光中心(結晶中のPr
3+イオン)に伝達され、電子がエネルギー準位的に励起される。その後基底状態に安定化する際に放出されるエネルギーが発光となって放出されることによる。
【0092】
発光ダイオードの発光原理は以下の通りである。p型半導体層/発光層/n型半導体層に順方向の電圧をかけると、電子と正孔が移動し電流が流れる。発光層で電子と正孔がぶつかると再結合する。再結合された際にエネルギーを発生する。このエネルギーが発光層の発光中心をエネルギー準位的に励起する。すなわち、p型半導体とn型半導体によって発光層を挟むことによって発光層でキャリアの再結合を生じさせることができるため、他のp型半導体層およびn型半導体層、さらに発光層を用いても同様の発光ダイオードの結果を得ることができる。
【0093】
以上、本発明のp型酸化物半導体薄膜と発光層とn型半導体薄膜の接合構造を備える半導体素子は、優れた発光特性を有し、発光ダイオードとして機能することが、明らかである。本発明の発光ダイオードは、p型半導体層として、移動度が0.02cm
2/Vs以上であるペロブスカイト型関連構造を有する酸化物半導体薄膜を実現できた結果でもあり、移動度がより高いp型・n型半導体薄膜を使用することにより、特性を向上できる。
【0094】
なお、上記実施の形態等で示した例は、発明を理解しやすくするために記載したものであり、この形態に限定されるものではない。