(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562489
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】高周波プローブ位置補正技術
(51)【国際特許分類】
G01R 27/28 20060101AFI20190808BHJP
G01R 35/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
G01R27/28 T
G01R27/28 Z
G01R35/00 J
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-519139(P2018-519139)
(86)(22)【出願日】2017年4月12日
(86)【国際出願番号】JP2017014970
(87)【国際公開番号】WO2017203876
(87)【国際公開日】20171130
【審査請求日】2018年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-106192(P2016-106192)
(32)【優先日】2016年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-189277(P2016-189277)
(32)【優先日】2016年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100119987
【弁理士】
【氏名又は名称】伊坪 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100135976
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】坂巻 亮
【審査官】
續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−134399(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0036469(US,A1)
【文献】
特開2010−281639(JP,A)
【文献】
RF測定ガイド,カスケード・マイクロテック株式会社[オンライン],2010年 2月,[検索日 2017.06.13],インターネット:<URL: https://www.cascademicrotech.com/files/JPN_RF_Measureme
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/28
G01R 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離間して形成されたシグナル領域およびグランド領域を有する平面回路の電気的特性をその先端を前記平面回路の表面に押し当てて高周波を放出して得たSパラメータにより検査する一対の高周波プローブと計測装置を備えた高周波特性検査装置であって、
前記高周波プローブはその先端に前記グランド領域に接触するグランド端子と前記シグナル領域に前記グランド端子と同時に接触するシグナル端子とを備え、
前記一対の高周波プローブは所定の間隔で対向して前記平面回路の表面に同時に接触するように構成されており、
前記平面回路の前記シグナル領域における前記一対の高周波プローブの基準位置の校正を、前記対向する一対の前記高周波プローブの各シグナル端子が前記シグナル領域において前記接触して前記高周波を放出して前記計測装置で測定した各Sパラメータの反射・透過特性と位相特性に基づいて決定する電気的中点において行うことを特徴とする高周波特性検査装置。
【請求項2】
さらに、前記平面回路を載置する可動ステージ、その可動ステージのX、Y、Z軸の稼動を制御するステージコントローラを備え、
前記平面回路の前記シグナル領域において長手方向をX軸方向、短手方向をY軸方向、垂直方向をZ軸方向とした場合、
前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージをZ軸方向に稼動して前記対向する一対の前記高周波プローブの各先端と前記シグナル領域とを接触させ、
コンタクト位置(Z軸方向の深さ)を前記接触して前記高周波を放出して測定したS11,S22パラメータの反射特性に基づいて決定する事を特徴とする請求項1に記載の高周波特性検査装置。
【請求項3】
前記決定されたコンタクト位置のZ軸方向の深さにおいて、前記対向する一対の前記高周波プローブの各シグナル端子が前記シグナル領域において前記高周波を放出して計測するS11,S22パラメータの位相特性をθ11、θ22した場合、
前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージを稼動して前記対向する一対の前記高周波プローブをX軸方向に稼動して、
前記高周波を放出して測定した、|θ11−θ22|が極値となるように前記一対の前記高周波プローブのX軸の基準位置を決定することを特徴とする請求項2に記載の高周波特性検査装置。
【請求項4】
前記決定されたコンタクト位置(Z軸方向の深さ)と前記X軸の位置において、前記対向する一対の前記高周波プローブの各シグナル端子が前記シグナル領域において前記高周波を放出して計測するS12,S21パラメータの位相特性をθ12、θ21とした場合に、
前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージを稼動して前記対向する一対の前記高周波プローブをY軸方向に移動して、
前記高周波を放出して測定した、θ12xθ21が極値となるようにY軸の位置を決定し、
前記決定されたY軸の位置における前記対向する一対の前記高周波プローブの中点を前記平面回路のシグナル領域の電気的中点の基準位置として校正することを特徴とする請求項3に記載の高周波特性検査装置。
【請求項5】
前記平面回路はTHRU基準器であることを特徴とする請求項4に記載の高周波特性検査装置。
【請求項6】
さらに前記ステージコントローラと前記計測装置を制御する制御装置を備えた請求項5に記載の高周波特性検査装置において、前記平面回路のシグナル領域の電気的中点の基準位置を前記校正することを特徴とする高周波特性検査装置の校正方法。
【請求項7】
請求項6に記載の校正方法を実行する事を特徴とするプログラムおよびプログラムを記録した記憶媒体。
【請求項8】
離間して形成されたシグナル領域およびグランド領域を有する平面回路の電気的特性をその先端を前記平面回路の表面に押し当てて高周波を放出して得たSパラメータにより検査する一対の高周波プローブと計測装置を備えた高周波特性検査装置であって、
前記高周波プローブはその先端に前記グランド領域に接触するグランド端子と前記シグナル領域に前記グランド端子と同時に接触するシグナル端子とを備え、
前記一対の高周波プローブは所定の間隔で対向して前記平面回路の表面に同時に接触するように構成されており、
前記平面回路の前記シグナル領域における前記一対の高周波プローブの基準位置の校正を、前記対向する一対の前記高周波プローブの各シグナル端子が前記シグナル領域において前記接触して前記高周波を放出して前記計測装置で測定した各Sパラメータの反射・透過特性と位相特性に基づいて行うことを特徴とする高周波特性検査装置であって、
前記平面回路を載置する可動ステージ、その可動ステージのX、Y、Z軸の稼動を制御するステージコントローラを備え、
前記平面回路の前記シグナル領域において長手方向をX軸方向、短手方向をY軸方向、垂直方向をZ軸方向とした場合、
前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージをZ軸方向に稼動して前記対向する一対の前記高周波プローブの各先端と前記シグナル領域とを接触させ、
コンタクト位置(Z軸方向の深さ)を前記接触して前記高周波を放出して測定したS11,S22パラメータの反射特性に基づいて決定し、
前記決定されたコンタクト位置(Z軸方向の深さ)において、前記対向する一対の前記高周波プローブの各シグナル端子が前記シグナル領域において前記高周波を放出して計測するS11,S22パラメータの位相特性をθ12、θ21とした場合に、
前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージを稼動して前記対向する一対の前記高周波プローブをY軸方向に移動して、
前記高周波を放出して測定した、θ12×θ21が極値となるようにY軸の位置を決定し、
前記決定されたY軸の位置における前記対向する一対の前記高周波プローブの中点を前記平面回路のシグナル領域の電気的中点の基準位置として決定することを特徴とする高周波特性検査装置。
【請求項9】
さらに、前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージを稼動して前記対向する一対の前記高周波プローブをX軸方向に稼動して、
前記高周波を放出して測定したS11,S22パラメータの反射特性に基づいて決定した前記平面回路のX軸方向の両端部において前記一対の前記高周波プローブのX軸の基準位置を決定することを特徴とする請求項8に記載の高周波特性検査装置。
【請求項10】
離間して形成されたシグナル領域およびグランド領域を有する平面回路の電気的特性をその先端を前記平面回路の表面に押し当てて高周波を放出して得たSパラメータにより検査する一の高周波プローブと計測装置を備えた高周波特性検査装置であって、
前記高周波プローブはその先端に前記グランド領域に接触するグランド端子と前記シグナル領域に前記グランド端子と同時に接触するシグナル端子とを備え、
前記一の高周波プローブは前記平面回路の表面に同時に接触するように構成されており、
前記平面回路の前記シグナル領域における前記一の高周波プローブの基準位置の校正を、前記一の前記高周波プローブの各シグナル端子が前記シグナル領域において前記接触して前記高周波を放出して計測装置で測定した各Sパラメータの反射・透過特性と位相特性に基づいて行うことを特徴とする高周波特性検査装置であって、
前記平面回路を載置する可動ステージ、その可動ステージのX、Y、Z軸の稼動を制御するステージコントローラを備え、
前記平面回路の前記シグナル領域において長手方向をX軸方向、短手方向をY軸方向、垂直方向をZ軸方向とした場合、
さらに前記平面回路と前記Z軸方向に同一の高さを有しその長手方向と所定の間隔で平行に対峙する櫛形形状の位置決め用パターンを前記可動ステージに載置し、
前記櫛形形状の位置決め用パターンはY方向(当該位置決め用パターンの長手方向)の中心位置に前記Y方向に垂直なX方向に突出する凸部(櫛の歯)を有し、前記Y方向の中心軸にたいして線対称な構造であって、前記高周波プローブのグランド(G)端子と対応する位置に凸部を有して、前記凸部は全て短絡しており、
前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージをZ軸方向に稼動して前記一の前記高周波プローブの各先端と前記位置決め用パターンとを接触させ、
前記接触して前記高周波を放出して測定したS11パラメータの反射特性に基づいてコンタクト位置(Z軸方向の深さ)を決定し、
前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージを稼動して前記一の前記高周波プローブをY軸方向に稼動して、前記高周波を放出して推定した前記位置決め用パターンのY軸方向の両端部の中点において前記一の前記高周波プローブのY軸の基準位置を決定し、
次に前記ステージコントローラを制御し前記平面回路を載置する可動ステージを稼動して前記一の前記高周波プローブをX軸方向に稼動して、前記高周波を放出して測定したS11パラメータの反射特性に基づいて決定した前記位置決め用パターンのX軸方向の一端部において前記一の前記高周波プローブのX軸の基準位置を決定し、
前記決定された前記コンタクト位置、前記X軸および前記Y軸の基準位置から前記所定の間隔を平行移動した前記平面回路の基準位置において校正をすることを特徴とする高周波特性検査装置。
【請求項11】
前記平面回路はTHRU基準器であることを特徴とする請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載の高周波特性検査装置。
【請求項12】
さらに前記ステージコントローラと前記計測装置を制御する制御装置を備えた請求項8乃至請求項10のいずれか1項に記載の高周波特性検査装置において、前記平面回路のシグナル領域の基準位置を前記校正することを特徴とする高周波特性検査装置の校正方法。
【請求項13】
前記高周波特性検査装置において請求項12に記載の校正方法を実行する事を特徴とするプログラムおよびプログラムを記録した記憶媒体。
【請求項14】
請求項10に記載の高周波特性検査装置において前記櫛形形状の位置決め用パターンを備えたことを特徴とするTHRU基準器、またはLOAD基準器、またはSHORT基準器、またはOPEN基準器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所定の電気的検査を実行するための高周波プローブを備えた高周波特性検査装置において試料の電気的中点を校正するための位置補正に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波帯における平面回路の評価に高周波特性検査装置が利用されている。
高周波インピーダンス測定等の高周波検査において使用される高周波特性検査装置には、測定部材として、その先端に測定信号をDUT(被試験装置、被測定回路網)に入力、或いはDUTから出力するシグナル端子(S)および接地されたグランド端子(G)が離間し並行して配設された高周波プローブ(S−Gタイプ、またはG−Sタイプ)や、その先端にシグナル端子(S)を挟むように2本のグランド端子(G,G)が各離間し並行して配設された高周波プローブ(G−S−Gタイプ)などが使用されている(特許文献3)。
【0003】
高周波特性検査装置は、
図13に示すように、一般的にDUTを載置してX、Y、Z軸に移動可能な水平面を備えた可動ステージと、その載置されたDUTに接触して電気的特性を測定する対向した一対の高周波プローブ、その一対の高周波プローブを所定の間隔で装置に固定し得るプローブ取り付け部、DUT測定のための高周波を生成する周波数拡張ユニット、およびシステムを制御してDUTからの反射波・透過波を測定・解析するベクトルネットワークアナライザー(VNA)等から構成されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
この高周波プローブを用いてDUTの所定の電気的検査を実行する前には検査値に含まれるその機器固有の誤差等を測定評価するための校正を行うのが一般的である。
校正は検査用の所定の基準パターンを用意し、たとえば、
図14に示す基準器を用いてZ軸方向の調整(プローブ押付け量)を行なった後、所定の基準器(例えば、THRU,SHORT,LOAD基準器)に移動して、目視(
図12、比較例1)、或いは、PC制御等により予め決められた量プローブを平行移動させる(
図12、比較例2)事によって高周波プローブのXY位置を決めてから行うのが一般的である。
【0005】
Z軸方向の調整は、
図14に示すように、GSGプローブの中心がA位置に合うように調整し、プローブ先端がB位置からC位置まで滑るようにプローブを押付けてZ軸の位置を調整する。
次に対向する他方のプローブ先端についても同様にZ軸の位置を調整して一対の対向する高周波プローブを用意して基準パターンによる校正を行う。
【0006】
しかし、従来の方法では校正のための測定には高周波プローブとDUTの検査用パターンとのコンタクト位置のばらつき、その押し付け量のばらつき、空間中に拡がる電磁界の影響があり個々の測定作業依存性が高く、従来手法により決定された位置での校正を経た高周波プローブによる測定結果の信頼性や測定の再現性には問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−288342号公報
【特許文献2】特開平11−26526号公報
【特許文献3】特開2002−357630号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】WinCalXE(商標)校正ソフトウェア(https://www.cascademicrotech.com/jp/products/wincal/wincalxe)
【非特許文献2】坂巻亮、堀部雅弘、電気情報通信学会2016年春季講演大会予稿集、C−2−83
【非特許文献3】CascadeMicrotech社 インピーダンス基準基板101-190 公開図面、http://www.cmicro.com/files/iss_map_101-190.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
表1(非特許文献2の表1を転載)に従来手法による高周波プローブの平面回路とのコンタクト位置のばらつき等の誤差要因が測定結果に与える影響度の分析結果(反射係数の不確かさ評価結果)を示す。
【表1】
【0010】
表1の不確かさ項目をみると明らかなように、プローブ位置(X方向、Y方向、Z方向)の決定が影響度において主要因であることを示している。
この表1の環境条件による不安定性項目を見ると平面回路の顕微鏡手法によるプローブ位置の制御精度は、せいぜい10μm程度であり、実体顕微鏡を利用する場合の顕微鏡解像度の限界に近い。
そのため、この限界を超えるプローブ位置の制御手法が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、顕微鏡手法に依らず、高周波プローブを平面回路の仮決めの位置から高周波を放出して測定したSパラメータの測定値をフィードバックしながらX,Y,Z軸に沿って移動させて電気的測定に最適なプローブ位置を探索し基準位置を決定する手段を提供できる。
一般的に、実体顕微鏡を用いた時の解像度(せいぜい10μm程度)よりもプローブの微動精度(0.1〜1μm程度)の方が高いことが知られている。
【0012】
たとえば、プローブ位置を1μm変化しただけで計測器の感度(10
-7)以上に変化する。
また、上記測定値を所定の手法で得る反射特性値(反射・透過係数および位相特性)を解析してみると、電気的中心位置にて、極値となることがわかった。
【0013】
本発明では、
図1に示すように、平面回路の所定の基準器に対してプローブ位置をZ方向、X方向、Y方向に各微動させながら高周波を放出して測定したSパラメータのフィードバック測定値を得て、それを解析して各方向でのプローブ位置を決定することで、2μm以下の精度で平面回路の電気的中心位置となるプローブ位置を決定する手段を提供することができる。
【0014】
本発明の基準位置合わせにより、対向する一対の高周波プローブが接続された計測装置(VNA)の各ポートに関して電気的に対称であると言う理想の校正理論に沿った校正が可能となる。
【0015】
本発明によるプローブ位置に起因する測定の誤差は2*10
-3(X方向、Y方向、Z方向の二乗平方和)であり、非特許文献2の表1から算出される値(1.2*10
-2)より一桁改善したことがわかった。
【発明の効果】
【0016】
顕微鏡の解像度や人の作業能力に依存せず、可動ステージやデバイス(DUT)の平面度やアライメントの影響を除去し、2μm以下の精度でプローブ位置を決定する事が可能となり、平面回路を評価する際の測定のばらつきを抑制することができるようになった。
また、本発明では測定に際してS端子(ポート)間の電気的な中立点を得るため、より校正理論と合致した校正を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】SHORT基準器の形状例を表した図である。
【
図5】実施例1におけるLOAD基準器のS
11反射特性を評価した結果を表した図である。
【
図6】実施例1におけるSHORT基準器を評価した結果を表した図である。
図6(a)はS
11反射特性、
図6(b)はその位相特性を表すグラフである。
【
図7】実施例1におけるTHRU基準器を評価した結果を表した図である。
図7(a)はS
11反射特性、
図7(b)はその位相特性、
図7(c)は透過特性、
図7(d)はその位相特性を表すグラフである。
【
図9】実施例1の位置決定手法を表す概略図である。
【
図12】従来のプローブ位置の決定手法を表す図である。
【
図13】本発明に使用した高周波特性検査装置の概略構成を表す図である。
【
図14】従来のプローブ位置のZ軸の決定手法を表す図である。
【
図15】実施例2のY軸とX軸の基準位置を決定する方法を説明する工程図である。
【
図16】実施例3の位置決め用パターンの一例を表す図である。
【
図17】実施例3のY軸とX軸の基準位置を決定する方法を説明する工程図である。
【
図18】実施例3の位置決め用パターンをTHRU基準器、SHORT基準器、およびLOAD基準器に各配置した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
(THRU基準器を利用した位置決定)
図2に本実施例で使用するTHRU基準器の形状例を示す。
THRU基準器とは、THRU試験測定用に用いられ平面回路等の被試験装置を測定する際の位置決めに予め使用する被試験装置の一部と同一の大きさと形状を有した試験片であり、一般的には
図3に示したSHORT基準器や
図4に示したLOAD基準器など他のパターンが合わせて配置された試料(サンプル)の一部である。
【0019】
より詳しくは、THRU基準器とは、対になるプローブのシグナル間とグランド間をそれぞれ接続させる基準器であってシグナル端子を直接接続するシグナル領域を中央にその両側にグランド端子を直接接続する離間して絶縁されたグランド領域を配したパターンである。
【0020】
LOAD基準器とは、各プローブのシグナルとグランド端子間に特性インピーダンスと等しい抵抗体を配することによって、無反射に近しい特性を実現した基準器である。
SHORT基準器とは、各プローブのシグナルとグランド端子間を短絡させたほぼ全反射である基準器である。
【0021】
図13は、本発明に使用する高周波特性検査装置(サンプルの校正規準としてCascade社製ISS:101-109、可動ステージにCascade社のSummit12000、プローブに同社のGSG-Infinity-150pitch(登録商標)、VNAにKeysight社のE8361Aを使用した。制御装置として使用したパーソナルコンピュータは含まない)を撮影した写真画像であり、
図10はそれらを簡略化したシステム構成図である。
以下、簡略化した
図10の構成のシステムによって、
図2に示すTHRU基準器を用いて、可動ステージに載置されたサンプル上のプローブ位置を決定する手法を説明する。
【0022】
本発明でX、Y、Z位置と言う場合は対向する一対の高周波プローブの配置された場所を言い、X,Y,Z座標と言う時は、当該装置の所定の原点から対向するプローブ先端間の中点への各距離としてきめてよく、あるいは対向する一対の一方のプローブの先端への距離として決めてよく、また仮決めの位置や、可動ステージの平面上の中心を原点とした距離として適宜決めてよい。
【0023】
まず、
図8に示すように、所定の間隔で対向する一対の高周波プローブをサンプルステージに載置されたTHRU基準器の直上に一対の高周波プローブの先端を結ぶ対向軸がX軸と平行になるように配する。
この目的のために、高周波特性検査装置はサンプルを載置した可動ステージを回転させるステージ回転機構を備えてもよい。
この時、直上に配する位置はおおまかな位置でかまわないが、一対の対向する高周波プローブの先端が可動ステージ上のTHRU基準器の信号領域に接触してX,Y方向に移動し得る始点となるように仮決めの位置を決めるのが望ましい。
【0024】
その後、制御装置からの指示によってステージコントローラを介してサンプルステージをZ軸に沿って少しずつ上昇させてサンプルに接近させる。
本実施例では、
図10における制御装置としてパーソナルコンピュータを用いてZ軸移動量を計算してステージコントローラに入力した。
【0025】
サンプルステージを上昇させながら測定装置を介して両プローブにおける反射係数S
11、S
22を読み取る。
サンプルがプローブ片方にコンタクトすると、反射係数(S
11、S
22)が大きく減少する。
例えば、反射係数が0.7以下、或いは位相が90〜180℃となるように設定すれば、一対のプローブのコンタクト有無の判定が可能である。
【0026】
以降、両プローブのコンタクトが検出された時のサンプルステージとプローブ先端の位置関係をZ位置(コンタクト位置)として決定する(図示せず)。
【0027】
サンプルステージを稼動して、次に一対の対向するプローブを、X方向に所定の距離を移動しながら測定を行なう。
移動量は、例えば±10μmの範囲で1μmずつ移動しながら各位置における両プローブの反射係数を測定する。
【0028】
そして、両プローブ間の反射係数S
11、S
22の位相成分θ
11、θ
22の差|θ
11−θ
22|が極値となるプローブ位置をX位置として決定する。
好適には、その差がゼロの同一位相、すなわち、θ
11=θ
22、となる位置である。
【0029】
更に、サンプルステージを稼動して、一対の対向するプローブを、Y方向に所定の距離を移動しながら測定を行なう。
移動量は、例えば±10μmの範囲で2μmずつ移動しながら各位置における両プローブの透過係数S
12、S
21を測定する。
そして、両プローブ間の透過係数S
12、S
21の位相成分θ
12、θ
21の積θ
12×θ
21が極値となるプローブ位置をY位置として決定する。
【0030】
この場合、
図8右図に示した等価回路においてインダクタンスL
1、L
2、L
3、L
4がバランスする位置が一対の対向するプローブ間の中心であり、この点が電気的中心である。
そうして決定されたX,Y,Z位置が当該サンプルにおけるプローブの基準位置となり、この位置でのSパラメータの解析値を校正値とすることができる。
【0031】
XとY方向位置を決定する時は、コンタクト位置から予め決められた量だけZ方向にプローブを押込むことで一対のプローブの先端の位置をマークし再現性の高い評価が可能である。
このようにして、XYZ三軸方向のプローブ位置を高い再現性で精密に決めることができる。
【0032】
サンプル上の他の基準器の校正を行なう時は、予めサンプル上のTHRU基準器に対するSHORT、LOAD基準器の距離を測定し、その量だけTHRU基準器からプローブの位置を移動することによって、高い再現性の校正を実現できる。
【0033】
図5〜
図7は、本発明の校正後に校正時とは異なるTHRU基準器、SHORT基準器、LOAD基準器を評価した実施例と、従来手法で校正後、校正時とは異なる基準器を評価した比較例の結果の標準偏差を示している。
【0034】
図5はLOAD基準器におけるS
11係数の振幅の標準偏差を示し、
図6はSHORT基準器におけるS
11係数の振幅とその位相成分θ
11の標準偏差を示し、
図7はTHRU基準器におけるS
11、S
21係数の振幅とその位相成分θ
11、θ
21の標準偏差を示している。
また、各図の符号「通常」は、従来の手動により行う校正後の評価の比較例1を表し、また、各図の符号「WincalXE」は手動の基準位置合わせに基づいて校正をしてからPCで作動する校正用ソフトウェアでプローブ位置を制御して行う評価の比較例2をあらわしている。
【0035】
比較例は、基準位置合わせが幾何学的な中立面であるため校正理論上理想的と言えないところ、本発明の基準位置合わせは対向する一対の高周波プローブが接続された計測装置(VNA)の各ポートに関して電気的に対称であると言う理想的な校正を実現している。
【0036】
各図をみると、
図5においてLOAD反射係数S
11の振幅、
図6においてSHORT反射係数S
11の位相、
図7においてTHRU反射係数S
11の振幅及び透過係数S
21の位相において、比較例よりも実施例は標準偏差が小さくなったことがわかる。
このように、本技術を活かすことでより高い精度での校正が実現できる。
【実施例2】
【0037】
本実施例では、X軸方向は実施例1と異なる基準位置の決定方法とし、実施例1におけるZ軸方向のコンタクト位置の決定手法およびY軸方向の電気的中心位置の決定手法に追加することでX、Y及びZ座標を高精度に決定する事ができる。
【0038】
図15にその手順を示す。まず対のプローブ(図では反対側プローブを図示せず)をTHRU基準器上に配し、実施例1の手法によって、コンタクト位置を検出する。
その後、実施例1の手法でY方向の中心位置を決定する。
【0039】
そして、プローブをX方向に対して基準器の外側に向かうように少しずつ位置を変えながらコンタクト位置を検出する。
基準器の端部に達すると、プローブ直下に電極がないため、反射係数の急峻な変化は認められなくなる。例えば、反射係数S
11やS
22の絶対値はほぼ1のまま不変となる。
そのため、基準器の端部をもってX方向の基準位置を決定する事ができる。
このように、実施例1を応用することでプローブ基準位置を再現性高く決定する事ができるため、校正再現性を高めることが可能である。
【実施例3】
【0040】
本実施例によれば、実施例1に記載されているZ方向のコンタクト位置の決定手法を応用し、かつ位置決め用パターンを用いる事でX、Y及びZ座標を高精度に決定する事ができる。
位置決め用パターンは
図16に示したような櫛型形状であり、凸部を利用してX、Y及びZ位置を高精度に決定する事ができる。
【0041】
図17にその手順を示す。
本実施例では、単一のプローブのみを用いて位置決めが可能である。
まず、プローブを位置決め用パターンの凸部のおおよそ直上に配し、実施例1の手法によってコンタクト位置を検出する。
【0042】
次に、プローブをY方向に対してパターンの外側に向かうように少しずつ位置を変えながらコンタクト位置を検出する。
パターンの端部に達すると、プローブ直下に電極がないため、反射係数の急峻な変化は認められなくなる。例えば、反射係数S
11(またはS
22)の絶対値はほぼ1のまま不変となる。
そのため、パターンの端部のY座標を決定する事ができる。
【0043】
同様の操作をY軸の逆方向についても行なうことによって、パターンの凸部の両端部のY座標が決定できるため、それらの中心座標をY基準座標と定義することができる。
【0044】
次に、X方向についても同様にパターンの外側に向かうように少しずつ位置を変えながらコンタクト検出を行ないパターンの端部を検出する。
その端部をもってX方向の基準座標を定義する事ができる。
このように、実施例1を応用することでプローブ基準位置を再現性高く決定する事ができるため、校正再現性を高めることが可能である。
【0045】
図16および
図18に示すように、実施例3で利用する位置決め用パターンは櫛形形状をしており、そのパターン上に直接プローブを接触させて利用される特徴を有する。
【0046】
非特許文献3に示されるとおり、櫛形形状の位置決め用パターンは既存であるが、これらのパターンは目印としての利用するものであって、プローブを直接接触させて使用するものではない。
そのため、プローブとのコンタクトを避けるため、パターンのY方向の中心位置には凸部が存在していない。
【0047】
一方、本実施例で使用する位置決め用パターンは直接接触させてしようする事を前提とするため、
図16に示されたようにY方向中心位置に凸部を有している。
また、凸部はGSGプローブの先端がすべてコンタクトできるようにY方向中心軸にたいして線対称な構造であり、プローブのグランド(G)端子と接する位置にも凸部を有している。
凸部は全て短絡した構造になっている。
【0048】
G部とS部がコンタクトする凸部の間の距離は、使用するプローブのピッチによって変える必要があるが、例えば100μmや150μm、250μm程度といった間隔になる。
顕微鏡からの目視でプローブをおおまかに凸部の直上に配する必要があるため、プローブの凸部の各辺の大きさは5μm以上である必要があり、更には10μm以上であることが望ましい。
【0049】
また、各辺の大きさはプローブのピッチより小さければ実利用上問題がないが、極端に大きいと他のパターンと電気的に結合し、校正結果に影響を及ぼす懸念がある事から、50μm以下であるのが望ましい。
さらに基準器と位置決め用パターン距離が1500μm程度離れている事が望ましい。
【0050】
また、上述の位置決め用パターンはTHRU基準器で説明したが、同様にLOAD基準器、SHORT基準器、OPEN基準器とともに用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1、1a、1b プローブ(高周波プローブ)
2 可動ステージ(サンプルステージ、ステージ)
3 VNA(計測装置)
4 周波数拡張ユニット
5 抵抗体
6 ステージコントローラ
7 制御装置
8 高周波特性検査装置
9 THRU基準器
10 LOAD基準器
11 SHORT基準器
12 シグナル領域(信号領域)
13 グランド領域
14a、14b シグナル端子(S)
15a、15b、15c、15d グランド端子(G)