(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6562793
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】色域変換装置および色域変換方法
(51)【国際特許分類】
H04N 9/64 20060101AFI20190808BHJP
H04N 1/60 20060101ALI20190808BHJP
H04N 1/56 20060101ALI20190808BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20190808BHJP
【FI】
H04N9/64 Z
H04N1/60 580
H04N1/56
G06T1/00 510
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-182397(P2015-182397)
(22)【出願日】2015年9月16日
(65)【公開番号】特開2016-66354(P2016-66354A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2018年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-194499(P2014-194499)
(32)【優先日】2014年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098073
【弁理士】
【氏名又は名称】津久井 照保
(72)【発明者】
【氏名】正岡 顕一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有希子
(72)【発明者】
【氏名】西田 幸博
【審査官】
佐田 宏史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−144985(JP,A)
【文献】
特開2008−294930(JP,A)
【文献】
特開2009−219062(JP,A)
【文献】
特開2009−212642(JP,A)
【文献】
岩崎 有希子、西田 幸博,“UHDTV広色域表色系におけるシアン色自然画像を用いた等色相特性の主観評価”,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2014年12月13日,Vol.114, No.386,pp.33-38
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/56,1/60,9/64
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広色域の色度点であって、狭色域の色度点ではない各色度点を、狭色域の対応する色度点に変換する色域変換装置において、
CIELAB色空間のC*-L*平面において、広色域中の最高彩度点と、狭色域中の最高彩度
点とを結ぶ直線と、L*軸との交点P(0、L)を第1の焦点として設定する、第1焦点設
定手段と、
該直線とC*軸との交点Q(C、0)を第2の焦点として設定する(ただし、Cが負値の場合はQ´(−C、0)を第2の焦点として設定する)第2焦点設定手段と、
前記C*-L*平面上において、前記第1の焦点と前記第2の焦点とを結んだ直線を境に
して、この直線以上の領域を第1領域とするとともに、この直線よりも下の領域を第2領域としたとき、
前記第1領域における色域の変換は、変換しようとしている前記広色域の色度点から前記第1の焦点に向かう直線と、前記狭色域の外形線との交点に移動するようにして行うとともに、前記第2領域における色域の変換は、前記第2の焦点から、変換しようとしている前記広色域の色度点に向かう直線と、前記狭色域の外形線との交点に移動するようにして行う、色域変換手段を、
備えたことを特徴とする色域変換装置。
【請求項2】
前記第1の焦点のL値が所定値より大きい場合には、前記第1の焦点のL値を前記所定値以下の値に変換設定する第1焦点変換設定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の色域変換装置。
【請求項3】
前記広色域がスーパーハイビジョンの色域であり、前記狭色域がハイビジョンの色域であることを特徴とする請求項1または2記載の色域変換装置。
【請求項4】
広色域の色度点であって、狭色域の色度点ではない各色度点を、狭色域の対応する色度点に変換する場合に、
各色相毎のCIELAB色空間のC*-L*平面において、広色域中の最高彩度点と、狭色域中
の最高彩度点とを結ぶ直線と、L*軸との交点P(0、L)を第1の焦点とし、
該直線とC*軸との交点Q(C、0)を第2の焦点とし(ただし、Cが負値の場合はQ´(−C、0)を第2の焦点とする)、
前記C*-L*平面上において、前記第1の焦点と前記第2の焦点とを結んだ直線を境に
して、この直線以上の領域を第1領域とするとともに、この直線よりも下の領域を第2領域としたとき、
前記第1領域における色域の変換は、変換しようとしている前記広色域の色度点から前記第1の焦点に向かう直線と、前記狭色域の外形線との交点に移動するようにして行うとともに、前記第2領域における色域の変換は、前記第2の焦点から、変換しようとしている前記広色域の色度点に向かう直線と、前記狭色域の外形線との交点に移動するようにして行う、ことを特徴とする色域変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
スーパーハイビジョンに代表される広色域表色系で撮影した映像を、それよりも狭色域表色系のハイビジョン映像などに変換(ダウンコンバート)する色域変換装置および色域変換方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スーパーハイビジョン(以下、省略するときはSHVと称する)では、3原色がスペクトル軌跡上に位置した広色域表色系を用いることがITU-R勧告BT.2020(以下、Rec.2020と称する)に規定されている。一方、ハイビジョン(以下、省略するときはHVと称する)では、ITU-R勧告BT.709(以下、Rec.709)で定められた、SHVよりも狭い色域の表色系を用いている。このため、SHV映像をHV映像にコンバートする際に色域変換が必要となる。
【0003】
広色域から狭色域に変換する最も単純な方法として、広い色域には含まれるが狭い色域からは外れるRGB値を、狭い色域の所定値にクリップする手法が知られている。これは、
広色域のRGB値に所定の3×3リニアマトリクスを掛けて狭色域RGB値に変換した後に、レンジ外の値(例えば、8bitレベルで16以上254以下の値)をレンジの端値にクリップする(
例えば、16や254に設定する)手法である。
しかし、この手法は知覚的な色空間における変換ではないため、変換後の映像の色相や明度の変化を伴い不自然な画像になる場合がある。
【0004】
より映像品質を重視した変換手法においては、明度、彩度および色相が予測できる色空間モデルを用いる。一般的には広色域のRGB値をCIELAB等の知覚的均等色空間における値
に変換し、色相を一定に保持しつつ彩度を下げて、狭色域の色空間内にマッピングする変換を行う(非特許文献1を参照)。
【0005】
ここで、CIELAB色空間における、上記色域変換の例を
図8に示す。
なお、
図8(a)は横軸に彩度C
*をとり、縦軸に明度L
*をとった場合の座標系を示すものであり、
図8(b)は横軸にa
*をとり、縦軸にb
*をとった場合の座標系を示すものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jan Morovic "Color Gamut Mapping", 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、明度・色相一定の条件下におけるRec.2020色域からRec.709色域への変換で
は、色域変換の前後で、明度の大小に拘らず彩度差が大きくなり過ぎ、制作者の意図とはかけ離れた色味となってしまう、という問題があった。
【0008】
このことを、
図9を用いて説明する。
図9においては、明度一定の条件下で、各明度におけるRec.2020色域からRec.709色域への変換量(彩度差)が矢印の長さで示されている
が、このような従来手法によれば、特にSHV色域とHV色域の彩度がともに大きくなる位置(
図9における各色域のピーク点(黒丸で表される))付近において彩度差が極めて大きくなっていることが明らかである。
【0009】
また、明度を一定に保つ変換をしていても、彩度の低下に応じて明度が低下して見える現象(Helmholtz-Kohlrausch効果)があるため、彩度が大きく低下すると、変換後の明度が変換前よりも大幅に低下して見える、という問題があった。
また、非特許文献1には明度を変えつつ変換する手法も記載されているが、これらの手法では、明度の低い領域において明度を大きく上げる変換を行うことになるため、変換に伴って画像コントラストやS/N比の大幅な低下を抑制することが困難という問題があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、変換前後の彩度の大幅な低下を抑制することができ、この彩度の大幅な低下に伴って明度が低下して認識される状況を回避することができ、さらに、明度の低い領域において明度を大きく上げながら変換を行うことに伴う、画像コントラストやS/N比の大幅な低下を阻止し得る、色域変換装置および色域変換方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の色域変換装置は、広色域の色度点であって、狭色域の色度点ではない各色度点を、狭色域の対応する色度点に変換する色域変換装置において、
各色相毎のCIELAB色空間のC
*-L
*平面において、広色域中の最高彩度点と、狭色域中
の最高彩度点とを結ぶ直線と、L
*軸との交点P(0、L)を第1の焦点として設定する第
1焦点設定手段と、
該直線とC
*軸との交点Q(C、0)を第2の焦点として設定する(ただし、Cが負値の場合はQ´(−C、0)を第2の焦点として設定する)第2焦点設定手段と、
前記C
*-L
*平面上において、前記第1の焦点と前記第2の焦点とを結んだ直線を境に
して、この直線以上の領域(L
*値が高い領域)を第1領域とするとともに、この直線よ
りも下の領域(L
*値が低い領域)を第2領域としたとき、
前記第1領域における色域の変換は、変換しようとしている前記広色域の色度点から前記第1の焦点に向かう直線と、前記狭色域の外形線との交点に移動するようにして行うとともに、前記第2領域における色域の変換は、前記第2の焦点から、変換しようとしている前記広色域の色度点に向かう直線と、前記狭色域の外形線との交点に移動するようにして行う、色域変換手段を、備えたことを特徴とするものである。
【0012】
この場合において、前記第1の焦点のL値が所定値より大きい場合には、前記第1の焦点のL値を前記所定値以下の値に変換設定する第1焦点変換設定手段を備えることが好ましい。
また、前記広色域をスーパーハイビジョンの色域とし、前記狭色域がハイビジョンの色域とすることが一例として挙げられる。
【0013】
また、本発明の色域変換方法は、
広色域の色度点であって、狭色域の色度点ではない各色度点を、狭色域の対応する色度点に変換する場合に、
CIELAB色空間のC
*-L
*平面において、広色域中の最高彩度点と、狭色域中の最高彩度
点とを結ぶ直線と、L
*軸との交点P(0、L)を第1の焦点とし、
該直線とC
*軸との交点Q(C、0)を第2の焦点とし(ただし、Cが負値の場合はQ´(−C、0)を第2の焦点とする)、
前記C
*-L
*平面上において、前記第1の焦点と前記第2の焦点とを結んだ直線を境に
して、この直線以上の領域を第1領域とするとともに、この直線よりも下の領域を第2領域としたとき、
前記第1領域における色域の変換は、変換しようとしている前記広色域の色度点から前記第1の焦点に向かう直線と、前記狭色域の外形線との交点に移動するようにして行うとともに、前記第2領域における色域の変換は、前記第2の焦点から、変換しようとしてい
る前記広色域の色度点に向かう直線と、前記狭色域の外形線との交点に移動するようにして行う、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の色域変換装置および方法においては、色域変換前後における、各色度点の明度を若干変えることで、変換前後の彩度の著しい低下を抑制するようにしている。
【0015】
すなわち、各色相におけるL
*-C
*平面を、明度の高低によって2つの領域に分け、明
度の高い領域においては、C軸上の第1の焦点に集まるような直線に沿って、広色域から狭色域への色域変換を行うことによって、変換を行う際のL
*-C
*平面上の移動量を減少
させることができ、この結果、この変換による彩度の著しい低下を回避することができる。
【0016】
また、変換前後の彩度の大幅な低下を抑制することができるので、彩度の大幅な低下に伴って、あたかも明度が大幅に低下したかのように認識される状況を回避することができる。
【0017】
一方、明度の低い領域においては、L軸上の第2の焦点から発散するような直線に沿って、広色域から狭色域への色域変換を行うことによって、第1の焦点に向かう直線に沿った変換と比して、変換を行う際の、画像コントラストやS/N比の大幅な低下を抑制することができる。
【0018】
また、明度値が特に高い領域においては、色相の変化に対して焦点の変化が極度に大きくならないように、第1の焦点の設定明度値(L値)を所定の値まで低下させることにより、色域変換した後における色の連続性を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る色域変換装置を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る色域変換方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態の色域変換装置によりなされるCIELAB色空間のL
*-C
*平面での色域変換処理を示すグラフである。
【
図4】色相角hとL
*の関係、およびL
*focalのクリップ・平滑化位置を表すグラフである(点線はL
*CUSP、実線はL
*focalを示すものであり、L
*focalは、L
*CUSPにおいて上限を所定値にクリップしたものである)。
【
図5】第1の焦点が所定の値でクリップされた場合(L
*cuspがL
*focalに変換された場合)の色域変換の例を示すグラフである。
【
図6】色相角hとL
* の関係、およびL
*focalのクリップ・平滑化位置を表すグラフである(点線はL
*CUSP、実線はL
*focalを示すものであり、L
*focalは、L
*CUSPにおいて上限および下限を各々所定値にクリップしたものである)。
【
図7】L
*focalの上限および下限を
図6に示すようにクリップした場合に、
図3に替えて用いる色域変換の例を示すグラフである。
【
図8】CIELAB色空間での色域変換の例を示す概略図である。
【
図9】Rec.2020色域(広色域)からRec.709色域(狭色域)への色域変換の従来技術を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、上記図面を参照しながら説明する。
スーパーハイビジョン(SHV)では、広い色域が規定されているため、SHVの映像をHVの映像として用いる場合には、広い色域から狭い色域への色域変換が必要となる。
本実施形態において、このような色域変換は、
図1に示す色域変換装置によって行われ
る。
【0021】
すなわち、この色域変換装置10は、SHV広色域の各色度点を、HV狭色域の色度点に変換する装置であって、信号入力部11と、第1焦点設定手段12aと、第2焦点設定手段12bと、色域変換手段13と、信号出力部14とを備えている。
【0022】
信号入力部11は、パソコン等から入力されたSHV用映像信号を第1焦点設定手段12a、および第2焦点設定手段12bに供給するものである。
また、第1焦点設定手段12aは、SHV表色系とHV表色系に基づき、CIELAB色空間のC
*-L
*平面における、広色域中の最高彩度点と、狭色域中の最高彩度点とを算出し、
これら2つの最高彩度点を結ぶ直線c(
図3を参照)と、L
*軸との交点L
*focal(0、
L)を第1の焦点として設定するものである。
【0023】
また、同様に、第2焦点設定手段12bは、SHV表色系とHV表色系に基づき、CIELAB色空間のC
*-L
*平面における、広色域中の最高彩度点と、狭色域中の最高彩度点とを
算出し、これら2つの最高彩度点を結ぶ直線cと、C
*軸との交点C
*focal(C、0)を
第2の焦点として設定するものである。ただし、C
*focalのC
*座標値が負値の場合は、
第2の焦点は座標(−C、0)の位置となる。
【0024】
また、色域変換手段13は、C
*-L
*平面上において、第1の焦点L
*focalと第2の焦
点C
*focalとを結んだ直線を境にして、この直線よりも明度の高い領域を第1領域とするとともに、この直線よりも明度の低い領域を第2領域に設定する。第1領域における色域の変換は、変換しようとしている広色域の色度点から第1の焦点に向かう直線と、狭色域の外形線との交点に移動するようにして行う。また、第2領域における色域の変換は、第2の焦点から、変換しようとしている前記広色域の色度点に向かう直線と、狭色域の外形線との交点に移動するようにして行う。
【0025】
また、信号出力部14は、色域変換手段13でHV狭色域の色度点に変換された映像信号を装置10の外部に出力するものである。
ここで、色域を変換するとは、具体的には、SHV広色域の各色度点の色度を、所定の変換式や所定の変換テーブルを用いてHV狭色域の色度点の色度に変換することを意味する。
なお、色域変換装置10を構成する各部は、実際には、CPUや各種メモリを含むハード的な手段と、これらのメモリに格納されたプログラムからなるソフト的な手段とを組み合わせて構成される。
【0026】
次に、
図2に示すフローチャートを用いて、上記色域変換装置10の動作について説明するとともに、本発明の実施形態に係る色域変換方法を説明する。
まず、外部からのSHVの映像信号は、信号入力部11に入力され(S1)、この入力されたSHVの映像信号に基づいて、第1の焦点を決定し(S2)、続いて第2の焦点を決定する(S3)。
【0027】
これらの焦点の決定は、
図3に示すように、C
*-L
*平面(色相角hが33°の場合)
上において、Rec.2020色域内で最も彩度が高い最高彩度点Sh1と、Rec.709色域内で最
も彩度が高い最高彩度点Sh2を導出し、これら2つの最高彩度点Sh1、Sh2を結んで、直線cを決定しておいた上で、この直線cとL
*軸との交点L
*focalを求めて第1の
焦点を決定する。
【0028】
また、上記直線cとC
*軸との交点を求めて第2の焦点を決定する。ただし、第2の焦
点のC
*座標値は、その絶対値をとったものとする。
【0029】
これら2つの焦点の決定処理において、2つの最高彩度点Sh1、Sh2を算出する処理および直線cを決定(設定)する処理は、両設定手段12a、bで別々に行うのではなく、両設定手段12a、bよりも前段(上流側)のデータ処理部(図示せず)において、2つの最高彩度点Sh1、Sh2を決定する処理および直線cを決定する処理を共通して行ってから、その結果を、各設定手段12a、bに入力せしめるようにしてもよい。また、上述した、2つの最高彩度点Sh1、Sh2を算出する処理は、焦点の決定(設定)処理を行うのに先立って予め行うことが、コスト的にも有利である。
【0030】
なお、第1の焦点の決定(設定)処理および第2の焦点の決定(設定)処理は、上記と逆の順番で行うよにしてもよいし、両者を同時に行うようにしてもよい。
【0031】
次に、上述のようにして決定(設定)された、第1の焦点および第2の焦点は、色域変換手段13に入力される。色域変換手段13においては、まず、
図3に示すC
*-L
*平面
を、明度の高い領域(L
*が大きい)からなる第1の領域と、明度の低い領域(L
*が小さい)からなる第2の領域に分割する処理を行う(S4)。
【0032】
すなわち、第1の焦点L
*focalと第2の焦点C
*focalとを結んで、直線dを決定し、この直線d以上の領域(L
*が大きい)からなる第1の領域21と、この直線dより小さい
領域(L
*が小さい)からなる第2の領域22とに分割する。
【0033】
次に、第1の領域21の色度点と第2の領域22の色度点について、互いに異なる手法によって色域変換を行い(S5)、色域変換に係る最終的に得られた信号を信号出力部14から出力させる(S6)。
すなわち、各色相について、第1の領域21における、Rec.2020の色域であって、Rec.709色域以外の色域の色度点は、
図3に示すようにL
*-C
*平面上で、第1の焦点L
*focalに集束する直線(矢印)に沿って、Rec.709色域内の外形線上の色度点(Rec.709色域内、かつ同一矢印上で最も彩度の高い外形線上の色度点)に変換され、出力される。
【0034】
このように第1の焦点L
*focalに集束する直線に沿って変換された結果、変換される際の色度点の移動量(矢印の長さ)が、従来技術を表す
図9の場合と比べて小さくなっている。したがって、明度の高い領域からなる第1の領域においては、色域変換処理を行う際に、変換前後での明度を変えることで、明度を保ったまま変換を行う場合に比べて変換による彩度の低下を緩和することができ、著しく彩度が低下するという事態を回避することができる。これによって、色域変換により制作者の意図とはかけ離れた色味となってしまう、という事態も回避することができる。
【0035】
また、彩度の低下に応じて明度が低下して見えるHelmholtz-Kohlrausch効果により、従来技術においては、彩度が大きく低下してしまうことで、変換後の明度が変換前よりも大幅に低下して見える、という問題があったが、このような問題も解決することができる。
【0036】
一方、各色相について、第2の領域22における、Rec.2020の色域であって、Rec.709
色域以外の色域の色度点は、
図3に示すようにL
*-C
*平面上で、第2の焦点C
*focalか
ら発散するような直線(矢印)に沿って、Rec.709色域内の色度点(Rec.709色域内、かつ同一矢印上で最も彩度の高い外形線上の色度点)に変換される。
【0037】
このように明度の低い領域からなる第2の領域においては、第1の焦点L
*focalではなく第2の焦点C
*focalを用い、この第2の焦点C
*focalから発散する直線に沿って変換される。この結果、明度を変えながら変換を行う従来技術のように、明度の低い色度点が、変換により明度が過度に高められる現象を緩和することができるため、明度の低い領域か
らなる第2の領域において、広色域から狭色域への色域変換を行っても、変換を行う際の画像コントラストやS/N比の大幅な低下を生じる虞がない。
【0038】
さらに、変換後の明度は変換前より若干は高くなることから、人間の知覚特性に基づき、彩度の低下により変換後の明度が低下して見える現象(Helmholtz-Kohlrausch効果)を補償することができる。
【0039】
また、色相角h(度)とL
*CUSPの関係をグラフに表すと
図4の点線で示されるように
なる。ここで、L
*CUSPとL
*focalは、いわば素データと加工データの関係にあり、素デ
ータL
*CUSPをクリップ加工して実際に使用するデータL
*focalを得る。
図4の点線で示されるように、L
* CUSP の値は、色相が99度〜280度の範囲で極端に大きい値をとり、99度〜280度および306度〜335度の範囲で値の変化が極めて大きい状態と
なり、0度〜40度および335度〜360度の範囲で小さい値にとどまる。
【0040】
第1の焦点のL
*値(L
*CUSP)が所定値より大きい場合には、第1の焦点のL
*値(L
*CUSP)を、その所定値以下の値(L
*focal)に変換設定する第1焦点変換設定手段を備えることが好ましい。上述した実施形態方法を用いて色域変換を行う場合には、L
*focalの値が大き過ぎると、明度が高い領域における彩度の減少を十分に抑制することが困難であるから、L
* CUSP の値に上限を設けてL
*focalの値とし、L
*focalの値が大きくなり過
ぎないようにしたものである。
【0041】
また、L
*focalの変化が大きくなると、これに伴って色相角hの変化に対するL
*値の
変化が大きくなり過ぎ、色域変換後の色の連続性が失われて不自然な色味の映像になる。これを回避するためには、
図4の実線で示されるように、色相99度〜240度の範囲におい
てL
*focalの値を所定値にクリップし、色相240度〜335度の範囲において斜め直線状に平滑化するとよい。
【0042】
L
*focalの値をクリップ・平滑化した場合の変換例を
図5(色相角h=197度)に示す
。
図5から明らかなように、第1の焦点のL
*focal値(L
* CUSP 値をそのままL
*focal
値とした場合)が所定値より大きい場合には、第1の焦点のL
*focal値を所定値に変換設定する(第1焦点変換設定手段により行われる)ことにより、色相角hの変化に対するL
*値の変化を抑制することができ、色域変換後の色の連続性を担保することできる。
【0043】
また、L
*focalの値が小さ過ぎると、色域変換後の明度が下がり過ぎるため、
図6に示すように、色相0度〜52度および色相306度〜360度の範囲において、L
*focalの下限も所
定値にクリップすることがより好ましい。
【0044】
図6に示すように、L
*focalに下限を設けた場合には、色域変換後の明度が下がり過ぎるのを抑制することができる。この場合には、上述した
図3に示す色域変換処理を示すグラフは、
図7に示すグラフに置き替えられる。
【0045】
図3においては、L
*focal値は50以下(
図3におけるL
* CUSP値)であったが、
図7においては、L
*focalの下限値がクリップされて50以上となっており、明度が大きくなっていることが明らかである。
【符号の説明】
【0046】
10 色域変換装置
11 信号入力部
12a、b 焦点設定手段
13 色域変換手段
14 信号出力部
21 第1の領域
22 第2の領域
Sh1、Sh2 最高彩度点
L
*focal 第1の焦点
C
*focal 第2の焦点
24 変換点B
25 原点