【実施例】
【0046】
以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。以下において、各略語および各用語の意味は、以下のとおりである。
<略語および用語の説明>
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
FBS:ウシ胎児血清
GAPDH:グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素
GFP:緑色蛍光タンパク質
GFP組換ウイルス:GFP遺伝子を保持する組換レンチウイルス
hTERT組換ウイルス:hTERT遺伝子を保持する組換レンチウイルス
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
SV40Tt組換ウイルス:SV40t抗原遺伝子およびSV40T抗原遺伝子を保持する組換レンチウイルス
α−SMA: α−平滑筋アクチン
【0047】
製造例1
基礎培地〔ステム・セル・テクノロジーズ社製、商品名:Complete MammoCult HumanMedium〕に、ヒドロコルチゾン−21−ヘミスクシナート、組換ヒト上皮増殖因子、組換ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、ヘパリンおよびペニシリン/ストレプトマイシン混合液〔ペニシリン濃度10000ユニット/mL、ストレプトマイシン濃度10000μg/mL〕をそれぞれの濃度が10.5μg/mL(ヒドロコルチゾン−21−ヘミスクシナート)、10ng/mL(組換ヒト上皮増殖因子)、10ng/mL(組換ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子)、4μg/mL(ヘパリン)および100μg/mL(ペニシリン/ストレプトマイシン混合液)となるように添加して培地(I)を得た。
【0048】
製造例2
基礎培地〔ステム・セル・テクノロジーズ社製、商品名:Complete MammoCult HumanMedium〕に、ヒドロコルチゾン−21−ヘミスクシナート、組換ヒト上皮増殖因子、組換ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子、ヘパリンおよびペニシリン/ストレプトマイシン混合液および細胞培養用人工基底膜マトリックス〔コーニング・インコーポレーティッド(Corning Inc.)製、商品名:Growth Factor Reduced Matrigel Matrix〕をそれぞれの濃度が10.5μg/mL(ヒドロコルチゾン−21−ヘミスクシナート)、10ng/mL(組換ヒト上皮増殖因子)、10ng/mL(組換ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子)、4μg/mL(ヘパリン)、100μg/mL(ペニシリン/ストレプトマイシン混合液)および2体積%(細胞培養用人工基底膜マトリックス)となるように添加して培地(II)を得た。
【0049】
製造例3
基礎培地〔ステム・セル・テクノロジーズ社製、商品名:Complete MammoCult HumanMedium〕に、ヒドロコルチゾン−21−ヘミスクシナート、組換ヒト上皮増殖因子および組換ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子をそれぞれの濃度が10.5μg/mL(ヒドロコルチゾン−21−ヘミスクシナート)、10ng/mL(組換ヒト上皮増殖因子)および10ng/mL(組換ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子)となるように添加して培地(III)を得た。ポリブレンをその濃度が10μg/mLとなるように培地(III)に添加してウイルス感染用培地を得た。
【0050】
製造例4
トリプシン溶液〔サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、商品名:2.5% Trypsin (10×)、no Phenol Red〕、ダルベッコPBS〔サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、商品名:DPBS、no calcium、no magnesium〕、およびEDTA溶液〔ニッポンジーン社製、商品名:0.5M EDTA〕を混合することで、0.5質量%トリプシン−EDTA溶液を得た。
【0051】
製造例5
粉末状のディスパーゼ〔サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、商品名:Dispase II,powder〕をダルベッコPBS〔サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、商品名:DPBS,no calcium,no magnesium〕に溶解させることで、5U/mLディスパーゼ液を得た。
【0052】
参考例1
(1)解離状態の汗腺細胞の製造
皮膚組織として、生体(68歳のヒト)から切除後すぐに4℃で冷蔵保存され、切除後48時間以内の眼瞼の皮膚組織を用いた。皮膚組織を10μMニュートラルレッド(Neutral Red)含有PBSに浸すことにより、前記皮膚組織中の汗腺にニュートラルレッドを取り込ませた。つぎに、光学顕微鏡下でピンセットとハサミとを用い、前記皮膚組織から汗腺を含む組織片を分離した。分離された組織片を15mL容量チューブ中の無菌PBS内に集めた。前記組織片を含有するPBSを軽く振とうさせた後、当該PBSを350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去することにより、前記組織片を洗浄した。
【0053】
製造例1で得られた培地(I)10mLを前記チューブ中の前記組織片と混合した。つぎに、コラゲナーゼIIをその濃度が600U/mLとなるように前記チューブ中の培地(I)に添加した。その後、前記チューブ中の前記組織片をローテーターで回転させながら37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートすることにより、前記組織片から膠原繊維を除去した。
【0054】
インキュベーション開始時から4時間経過後、前記チューブ中の培地(I)および膠原繊維除去後の組織片を直径10cmのディッシュに移した。光学顕微鏡下でピペットを用い、前記ディッシュ上の前記組織片を採取した。採取された組織片を15mL容量チューブ中の無菌PBS内に集めた。前記組織片を含有するPBSを軽く振とうさせた後、当該PBSを350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去することにより、前記組織片を洗浄した。
【0055】
洗浄後の組織片と、製造例4で得られた0.5質量%トリプシン−EDTA溶液1mLとを15mL容量チューブ中で混合した。ピペットを用い、前記チューブ中の汗腺を3分間撹拌することにより、汗腺を構成する汗腺細胞を互いに解離させ、解離状態の汗腺細胞(以下、「解離汗腺細胞」ともいう)を得た。
【0056】
(2)スフィア培養
前記(1)「解離状態の汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞と2質量%FBS/PBS溶液9mLとを混合した。得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して当該混合液から上清を除去した。前記チューブ中の解離汗腺細胞に製造例5で得られた5U/mLディスパーゼ液1mLを添加した後、ピペットを用い、前記チューブ中の解離汗腺細胞を撹拌した。つぎに、前記チューブ中の解離汗腺細胞を含有する混合液をセルストレーナー〔メッシュサイズ:40μm、コーニング社製、商品名:Falcon(登録商標)40μmセルストレーナー、ブルー、滅菌、個別包装〕に通して凝集した細胞を除去することにより、解離汗腺細胞の浮遊液を得た。
【0057】
2質量%FBS/PBS溶液9mLを前記チューブ中の解離汗腺細胞の浮遊液と混合した。得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して当該混合液から上清を除去し、細胞含有液を得た。細胞含有液の一部と血球計算盤とを用い、細胞含有液の細胞数を算出した。解離汗腺細胞の濃度が1×10
3〜7×10
3個/mLとなるように前記チューブに製造例2で得られた培地(II)を添加し、解離汗腺細胞を含有する混合液を得た。得られた混合液を低接着プレート〔コーニング社製、商品名:超低接着プレート24ウェル〕に入れた。前記プレート中の培地(II)に浮遊させた状態で前記解離汗腺細胞を37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートした。
【0058】
培養開始後、スフィアが形成された時点で、前記スフィアを15mL容量チューブに移した。前記スフィアを350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して液体成分を除去した。つぎに、細胞回収用溶液(コーニング社製、商品名:セルリカバリーソリューション)1mLを前記チューブ中のスフィアと混合し、スフィア含有液を得た。その後、得られたスフィア含有液が入ったチューブを氷上で1〜2時間静置した。
【0059】
(3)ウイルス感染
GFP組換ウイルス粒子溶液〔アプライド・バイオロジカル・マテリアルズ(Applied Biological Materials)社製、商品名:GFP Control Lentivirus、GFP組換ウイルス粒子濃度:1×10
6U/mL〕をポリエチレングリコール沈殿法にしたがって濃縮した。得られた濃縮物を前記ウイルス感染用培地でGFP組換ウイルス粒子濃度が1×10
8U/mLになるように希釈することにより、GFP組換ウイルス希釈液を得た。
【0060】
前記(2)「スフィア培養」で得られたスフィア含有液とPBS9mLとを混合した。つぎに、得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去した。遠心分離後のスフィア4〜10個と製造例3で得られたウイルス感染用培地90μLとを混合した。得られた混合液に前記GFP組換ウイルス希釈液10μLを添加し、スフィア−ウイルス混合液を得た。前記スフィア−ウイルス混合液を37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートしてスフィアを構成する汗腺細胞に組換ウイルスを感染させることにより、スフィアを構成する細胞にGFP遺伝子を導入した。ウイルス感染開始時から24時間経過後、ウイルス感染汗腺スフィアを回収した。
【0061】
参考例2
参考例1の(1)「解離状態の汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞とPBS9mLとを混合した。つぎに、得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去した。遠心分離後の解離汗腺細胞5×10
2〜1×10
5個と製造例3で得られたウイルス感染用培地90μLとを混合した。得られた混合液に、前記GFP組換ウイルス希釈液10μLを添加し、スフィア−ウイルス混合液を得た。前記スフィア−ウイルス混合液を37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートして解離汗腺細胞に組換ウイルスを感染させることにより、解離汗腺細胞にGFP遺伝子を導入した。ウイルス感染開始時から24時間経過後、ウイルス感染汗腺細胞を回収した。
【0062】
試験例1
参考例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアおよび参考例2で得られたウイルス感染汗腺細胞におけるGFPに基づく蛍光を蛍光顕微鏡下に観察した。また、参考例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアおよび参考例2で得られたウイルス感染汗腺細胞を共焦点顕微鏡下に観察した。
【0063】
参考例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアにおけるGFPに基づく蛍光を蛍光顕微鏡下に観察した結果を
図1(A)、参考例2で得られたウイルス感染汗腺細胞におけるGFPに基づく蛍光を蛍光顕微鏡下に観察した結果を
図1(B)、参考例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアを共焦点顕微鏡下に観察した結果を
図1(C)、参考例2で得られたウイルス感染汗腺細胞を共焦点顕微鏡下に観察した結果を
図1(D)に示す。図中、スケールバーは153μmを示す。また、
図1(A)における矢頭はウイルス感染汗腺スフィア、
図1(B)における矢頭はウイルス感染汗腺細胞を示す。
【0064】
図1(A)および(C)に示された結果から、参考例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアでは、表面に存在する細胞全体にGFPが発現していることがわかる。これに対し、参考例2で得られたウイルス感染汗腺細胞は、GFPを発現している細胞がほとんど存在していないことがわかる。これらの結果から、培地中にスフィアを浮遊させた状態で当該スフィアに含まれる汗腺細胞にウイルスを感染させることにより、解離した状態の汗腺細胞にウイルスを感染させる場合と比べ、高い効率で遺伝子を汗腺細胞に導入することができることがわかる。
【0065】
実施例1
参考例1の(2)「スフィア培養」で得られたスフィア含有液とPBS9mLとを混合した。つぎに、得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去した。遠心分離後のスフィア4〜10個と製造例3で得られたウイルス感染用培地100μLとを混合した。得られた混合液に、hTERT組換ウイルス粒子溶液〔アプライドバイオロジカルマテリアルズ社製の商品名:High Titer Lentivirus containing hTERT、hTERT組換ウイルス粒子濃度:1×10
9U/mL〕0.5μLとSV40Tt組換ウイルス粒子溶液〔アプライドバイオロジカルマテリアルズ社製の商品名:High Titer Lentivirus expressing SV40 large and small T antigens、SV40Tt組換ウイルス粒子濃度:1×10
9U/mL〕0.5μLとを添加し、スフィア−ウイルス混合液を得た。前記スフィア−ウイルス混合液を37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートしてスフィアを構成する汗腺細胞に組換レンチウイルスを感染させることにより、スフィアを構成する細胞に不死化遺伝子を導入した。ウイルス感染開始時から24時間経過後、ウイルス感染汗腺スフィアを回収した。
【0066】
比較例1
参考例1の(1)「解離状態の汗腺細胞の製造」および(2)の「スフィア培養」と同様の操作を行なうことにより、スフィアを得た。
【0067】
試験例2
(1)スフィア継代培養
以下の(1−1)および(1−2)を行なうことを「1回の継代培養」と定義した。
【0068】
(1−1)解離汗腺細胞の製造
実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアと、製造例4で得られた0.5質量%トリプシン−EDTA溶液1mLとを15mL容量チューブ中で混合した。ピペットを用い、前記チューブ中の汗腺を3分間撹拌することにより、汗腺を構成する汗腺細胞を互いに解離させ、解離汗腺細胞を得た。
【0069】
また、前記において、実施例で得られたウイルス感染汗腺スフィアを用いる代わりに比較例1で得られたスフィアを用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、解離汗腺細胞を得た。
【0070】
(1−2)スフィア培養
前記(1−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞と、2質量%FBS/PBS溶液9mLとを混合した。得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去した。前記チューブ中の解離汗腺細胞に製造例5で得られた5U/mLディスパーゼ液1mLを添加した後、ピペットを用い、前記チューブ中の解離汗腺細胞を撹拌した。つぎに、前記チューブ中の解離汗腺細胞を含有する混合液をセルストレーナー〔メッシュサイズ:40μm、コーニング製、商品名:Falcon(登録商標)40μmセルストレーナー、ブルー、滅菌、個別包装〕に通して凝集した細胞を除去することにより、解離汗腺細胞の浮遊液を得た。
【0071】
2質量%FBS/PBS溶液9mLを前記チューブ中の解離汗腺細胞の浮遊液と混合した。得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去した。つぎに、解離汗腺細胞の濃度が2.3×10
3〜2.7×10
3個/mLとなるように前記チューブに製造例2で得られた培地(II)を添加し、解離汗腺細胞を含有する混合液を得た。得られた混合液を低接着プレート〔コーニング社製、商品名:超低接着プレート24ウェル〕に入れた。前記プレート中の培地(II)に浮遊させた状態で前記解離汗腺細胞を37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートした。
【0072】
培養開始後、スフィアが形成された時点で、前記スフィアを15mL容量チューブに移した。前記スフィアを350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して液体成分を除去した。つぎに、細胞回収用溶液(コーニング社製、商品名:セルリカバリーソリューション)1mLを前記チューブ中のスフィアと混合し、スフィア含有液を得た。その後、得られたスフィア含有液が入ったチューブを氷上で1〜2時間静置した。
【0073】
(1−3)スフィア形成能の評価
前記(1−1)「解離汗腺細胞の製造」および(1−2)「スフィア培養」からなる一連の操作を繰り返し、前記(1−2)「スフィア培養」におけるスフィアの形成の有無に基づき、スフィア形成能を調べた。
【0074】
実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる汗腺細胞のスフィア形成能と継代数との関係を調べた結果を
図2(A)、比較例1で得られた解離汗腺細胞のスフィア形成能と継代数との関係を調べた結果を
図2(B)に示す。図中、矢頭は、スフィアを示す。
【0075】
図2に示された結果から、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる汗腺細胞は、9回の継代後であってもスフィア形成能を有していることがわかる。これに対し、比較例1で得られた解離汗腺細胞は、4回の継代後にスフィア形成能を有していないことがわかる。
【0076】
なお、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる汗腺細胞は、20回以上継代した場合であってもスフィアを形成することが確認された。
【0077】
以上の結果から、培地中にスフィアを浮遊させた状態で当該スフィアに含まれる汗腺細胞に、不死化遺伝子を有するレンチウイルスを感染させることにより、不死化汗腺細胞が得られることがわかる。
【0078】
(2)不死化汗腺細胞の同定
抗パンサイトケラチン抗体、抗パンサイトケラチン抗体に対する蛍光標識二次抗体、抗α−SMA抗体および当該抗α−SMA抗体に対する蛍光標識二次抗体を用いて前記(1−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞および比較例1で得られた解離汗腺細胞の蛍光免疫染色を行なった。つぎに、免疫染色後の解離汗腺細胞におけるパンサイトケラチンに基づく蛍光の強度〔以下、「蛍光強度A」という〕およびα−SMAに基づく蛍光の強度〔以下、「蛍光強度B」という〕を測定した。
【0079】
つぎに、評価対象の細胞における蛍光強度Aから比較例1で得られた解離汗腺細胞における蛍光強度Aを減ずることにより、評価対象の細胞におけるパンサイトケラチン発現量を算出した。また、評価対象の細胞における蛍光強度Bから比較例1で得られた解離汗腺細胞における蛍光強度Bを減ずることにより、評価対象の細胞におけるα−SMA発現量を求めた。
【0080】
細胞の種類とパンサイトケラチン発現量との関係を調べた結果を
図3(A)、細胞の種類とα−SMA発現量との関係を調べた結果を
図3(B)に示す。
図3(A)中、レーン1は実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる不死化汗腺細胞におけるパンサイトケラチン発現量、レーン2は比較例1で得られた解離汗腺細胞におけるパンサイトケラチン発現量を示す。
図3(B)中、レーン1は実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる不死化汗腺細胞におけるα−SMA発現量、レーン2は比較例1で得られた解離汗腺細胞におけるα−SMA発現量を示す。
【0081】
図3(A)および(B)に示された結果から、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる不死化汗腺細胞(レーン1参照)は、筋上皮細胞マーカーであるパンサイトケラチンおよびα−SMAの両方を発現していることがわかる。これらの結果から、前記不死化汗腺細胞は、不死化汗腺筋上皮細胞であることがわかる。したがって、培地中にスフィアを浮遊させた状態で当該スフィアに含まれる汗腺細胞にウイルスを感染させることにより、不死化汗腺筋上皮細胞が得られることがわかる。
【0082】
(3)不死化汗腺筋上皮細胞における汗腺細胞マーカーの発現の検討
前記(1−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞から全RNAを抽出した。得られた全RNAをその濃度が1μg/μLとなるようにDNアーゼ/RNアーゼフリーの精製水〔invitrogen社製、商品名:UltraPure DNase/RNase−Free Distilled Water〕を添加した。逆転写キット〔QIAGEN社製、商品名:Quatitect Reverse Transcription Kit〕を用い、前記全RNAからcDNAを合成し測定試料を得た。
【0083】
得られた測定試料を鋳型とし、PCR用キット〔東洋紡(株)製、商品名:THUNDERBIRD SYBR qPCR Mix〕とリアルタイムPCR装置〔アプライド・バイオ・システムズ(Applied bio systems)製、商品名:ViiA7〕と、ATP1a1遺伝子を増幅するためのプライマー対とを用い、ATP1a1遺伝子のcDNAを鋳型とするヌクレオチド合成量が閾値に達するまでのサイクル数(以下、「Ct
A値」という)を測定した。また、前記において、ATP1a1遺伝子を増幅するためのプライマー対を用いる代わりに対照遺伝子であるGAPDH遺伝子を増幅するためのプライマー対を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、対照遺伝子のcDNAを鋳型とするヌクレオチド合成量が閾値に達するまでのサイクル数(以下、「Ct
B値」という)を測定した。リアルタイムRT−PCR法におけるサーマルプロファイルは、95℃で1分間の処理後、95℃で5秒間の変性と55℃で10秒間のアニーリングと72℃20秒間の伸長とを1サイクルとする40サイクルの反応である。
【0084】
Ct
A値およびCt
B値を用い、式(I):
【0085】
【数1】
【0086】
にしたがい、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる不死化汗腺筋上皮細胞におけるATP1a1遺伝子の発現値を求めた。
【0087】
また、前記において、前記(1−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞を用いる代わりに対照細胞としてATP1a1遺伝子を発現していない皮膚表皮細胞を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、対照細胞におけるATP1a1遺伝子の発現値を求めた。
【0088】
不死化汗腺筋上皮細胞におけるATP1a1遺伝子の発現値から対照細胞におけるATP1a1遺伝子の発現値を減じることにより、不死化汗腺筋上皮細胞におけるATP1a1遺伝子の補正発現値を求めた。つぎに、前記補正発現値に基づき、以下の評価基準に従って、不死化汗腺筋上皮細胞がATP1a1遺伝子を発現しているかどうかを評価した。
<評価基準>
「不死化汗腺筋上皮細胞がATP1a1遺伝子を発現している」
・・・補正発現値が「正の値」である。
「不死化汗腺筋上皮細胞がATP1a1遺伝子を発現していない」
・・・補正発現値が「0」または「負の値」である。
【0089】
その結果、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる不死化汗腺筋上皮細胞におけるATP1a1遺伝子の発現値が正の値であったことから、不死化汗腺筋上皮細胞がATP1a1遺伝子を発現していることがわかった。ATP1a1は、汗腺筋上皮細胞マーカーの1つである。したがって、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる不死化汗腺筋上皮細胞は、汗腺筋上皮細胞マーカーを発現していることがわかる。
【0090】
実施例2
(1)汗腺含有組織の製造
皮膚組織として、生体(41歳のヒト)から切除後すぐに4℃で冷蔵保存され、切除後48時間以内の眼瞼の皮膚組織を用いた。皮膚組織を10μMニュートラルレッド含有PBSに浸すことにより、前記皮膚組織中の汗腺にニュートラルレッドを取り込ませた。つぎに、光学顕微鏡下でピンセットとハサミとを用い、前記皮膚組織から汗腺を含む組織片を分離した。分離された組織片を15mL容量チューブ中の無菌PBS内に集めた。前記組織片を含有するPBSを軽く振とうさせた後、当該PBSを350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去することにより、前記組織片を洗浄した。
【0091】
製造例1で得られた培地(I)10mLを前記チューブ中の前記組織片と混合した。つぎに、コラゲナーゼIIをその濃度が600U/mLとなるように前記チューブ中の培地(I)に添加した。その後、前記チューブ中の前記組織片をローテーターで回転させながら37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートすることにより、前記組織片から膠原繊維を除去した。
【0092】
インキュベーション開始時から4時間経過後、前記チューブ中の培地(I)および膠原繊維除去後の組織片を直径10cmのディッシュに移した。光学顕微鏡下でピペットを用い、前記ディッシュ上の前記組織片を採取した。採取された組織片を15mL容量チューブ中の無菌PBS内に集めた。前記組織片を含有するPBSを軽く振とうさせた後、当該PBSを350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去することにより、前記組織片を洗浄した。
【0093】
洗浄後の組織片と培地(I)10mLとを15mL容量チューブ中で混合した。得られた混合液にディスパーゼをその濃度が1U/mLとなるように添加した。得られた混合液を直径10cmのディッシュに移した後、前記混合液を静置状態で37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートした。インキュベーション開始時から8時間経過後、前記混合液に2質量%FBS/PBS溶液10mLを添加して混合液を希釈して酵素反応を停止させた。
【0094】
光学顕微鏡下でピペットを用い、前記ディッシュ上の汗腺を含む組織片を採取した。採取された組織片を15mL容量チューブ中の無菌PBS内に集めた。前記組織片を含むPBSを軽く振とうさせた後、当該PBSを350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去することにより、汗腺含有組織を得た。
【0095】
(2)ウイルス感染
hTERT組換ウイルス粒子溶液とSV40Tt組換ウイルス粒子溶液とを前記ウイルス感染用培地でhTERT組換ウイルス粒子濃度が1×10
8U/mLおよびSV40Tt組換ウイルス粒子濃度が1×10
8U/mLとなるように希釈して不死化遺伝子含有組換ウイルス希釈液を得た。
【0096】
前記(1)「汗腺含有組織の製造」で得られた汗腺含有組織とPBS9mLとを混合した。つぎに、得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去した。遠心分離後の4〜10個の汗腺を含有する汗腺含有組織と製造例3で得られたウイルス感染用培地100μLとを混合した。得られた混合液に前記不死化遺伝子含有組換ウイルス希釈液2μLを添加し、組織−ウイルス混合液を得た。前記組織−ウイルス混合液を37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートして汗腺を構成する汗腺細胞に組換レンチウイルスを感染させた。さらに、ウイルス感染開始から30分〜12時間ごとに前記不死化遺伝子含有組換ウイルス希釈液2μLを添加して前記汗腺含有組織に含まれる汗腺細胞に組換ウイルスを感染させることにより、汗腺細胞に不死化遺伝子を導入した。ウイルス感染開始時から33時間経過後、ウイルス感染組織を回収した。
【0097】
試験例3
試験例2の(1)「スフィア継代培養」において、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアを用いる代わりに実施例2で得られたウイルス感染組織を用いたことを除き、試験例2の(1)「スフィア継代培養」と同様の操作を行ない、スフィア継代培養を行なった。
【0098】
実施例2で得られたウイルス感染組織に含まれる汗腺細胞のスフィア形成能と継代数との関係を調べた結果を
図4(A)、比較例1で得られた解離汗腺細胞のスフィア形成能と継代数との関係を調べた結果を
図4(B)に示す。図中、矢頭は、スフィアを示す。
【0099】
図4に示された結果から、実施例2で得られたウイルス感染組織に含まれる汗腺細胞は、7回目の継代培養後においてもスフィアを形成することができるのに対し、比較例1で得られた解離汗腺細胞は、4回目の継代培養後にスフィアを形成することができないことがわかる。
【0100】
なお、実施例2で得られたウイルス感染組織に含まれる汗腺細胞は、12回以上継代した場合であってもスフィアを形成することが確認された。また、実施例2で得られたウイルス感染組織に含まれる汗腺細胞におけるパンサイトケラチンおよびα−SMAの発現の有無を調べたところ、パンサイトケラチンおよびα−SMAが発現していることが確認された。
【0101】
以上の結果から、培地中に汗腺含有組織を浮遊させた状態で当該汗腺含有組織に含まれる汗腺筋上皮細胞にウイルスを感染させることにより、不死化汗腺筋上皮細胞が得られることがわかる。
【0102】
参考例3〜7
(1)解離汗腺細胞の製造
参考例1の(1)「解離状態の汗腺細胞の製造」において、68歳のヒトの眼瞼の皮膚組織を用いる代わりに20歳のヒトの眼瞼の皮膚組織(参考例3)、71歳のヒトの眼瞼の皮膚組織(参考例4)、74歳のヒトの眼瞼の皮膚組織(参考例5)、51歳のヒトの腹部の皮膚組織(参考例6)または55歳のヒトの腹部の皮膚組織(参考例7)を用いたことを除き、参考例1の(1)「解離状態の汗腺細胞の製造」と同様の操作を行ない、解離汗腺細胞を得た。
【0103】
(2)スフィア培養
参考例1の(2)「スフィア培養」において、参考例1の(1)「解離状態の汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞を用いる代わりに参考例3〜7の(1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた各解離汗腺細胞を用いたことを除き、参考例1の(2)「スフィア培養」と同様の操作を行ない、スフィア含有液を得た。
【0104】
実施例3〜7
実施例1において、参考例1の(2)「スフィア培養」で得られたスフィア含有液を用いる代わりに参考例3で得られたスフィア含有液(実施例3)、参考例4で得られたスフィア含有液(実施例4)、参考例5で得られたスフィア含有液(実施例5)、参考例6で得られたスフィア含有液(実施例6)または参考例7で得られたスフィア含有液(実施例7)を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、ウイルス感染汗腺スフィアを得た。
【0105】
比較例3〜7
参考例1の(1)「解離状態の汗腺細胞の製造」において、68歳のヒトの眼瞼の皮膚組織を用いる代わりに20歳のヒトの眼瞼の皮膚組織(比較例3)、71歳のヒトの眼瞼の皮膚組織(比較例4)、74歳のヒトの眼瞼の皮膚組織(比較例5)、51歳のヒトの腹部の皮膚組織(比較例6)または55歳のヒトの腹部の皮膚組織(比較例7)を用いたことを除き、比較例1の(1)「解離状態の汗腺細胞の製造」と同様の操作を行ない、解離汗腺細胞を得た。
【0106】
試験例4
試験例2の(1)「スフィア継代培養」において、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアを用いる代わりに実施例3〜7で得られたウイルス感染組織を用いたことを除き、試験例2の(1)「スフィア継代培養」と同様の操作を行ない、スフィア継代培養を行なった。
【0107】
また、試験例2の(1)「スフィア継代培養」において、比較例1で得られた解離汗腺細胞を用いる代わりに比較例3〜7で得られた解離汗腺細胞を用いたことを除き、試験例2の(1)「スフィア継代培養」と同様の操作を行ない、スフィア継代培養を行なった。スフィア形成能を有する細胞の継代数を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
表1に示された結果から、実施例3〜7で得られたウイルス感染汗腺スフィアに含まれる汗腺細胞は、少なくとも18回の継代後であってもスフィア形成能を有していることがわかる。これに対し、比較例3および5〜7で得られた解離汗腺細胞は、2回の継代後にスフィア形成能を失うことがわかる。また、比較例4で得られた解離汗腺細胞は、3回の継代後にスフィア形成能を失うことがわかる。
【0110】
これらの結果から、培地中にスフィアを浮遊させた状態で当該スフィアに含まれる汗腺細胞にウイルスを感染させることにより、皮膚組織の供給源の種類の如何を問わず、不死化汗腺細胞が得られることがわかる。
【0111】
実施例1および3〜7で用いられたスフィアならびに実施例2で用いられた汗腺含有組織は、いずれも、汗腺筋上皮細胞が表面に露出している構造を有している。したがって、汗腺筋上皮細胞が表面に露出している細胞構造体を培地中に浮遊させた状態で培養しながら、不死化遺伝子を保持するウイルスを当該細胞構造体に感染させることにより、不死化遺伝子を筋上皮細胞に導入することができることがわかる。
【0112】
試験例5
(1)スフィア継代培養
以下の(1−1)および(1−2)を行なうことを「1回の継代培養」と定義した。
【0113】
(1−1)解離汗腺細胞の製造
試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」において、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアを用いる代わりに実施例3〜7で得られたウイルス感染汗腺スフィアを用いたことを除き、試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」と同様の操作を行ない、解離汗腺細胞を得た。
【0114】
(1−2)スフィア培養
前記(1−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞の一部(細胞数Aの解離汗腺細胞)と、2質量%FBS/PBS溶液9mLとを混合した。得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去した。前記チューブ中の解離汗腺細胞に製造例5で得られた5U/mLディスパーゼ液1mLを添加した後、ピペットを用い、前記チューブ中の解離汗腺細胞を撹拌した。つぎに、前記チューブ中の解離汗腺細胞を含有する混合液をセルストレーナー〔メッシュサイズ:40μm、コーニング製、商品名:Falcon(登録商標)40μmセルストレーナー、ブルー、滅菌、個別包装〕に通して凝集した細胞を除去することにより、解離汗腺細胞の浮遊液を得た。
【0115】
2質量%FBS/PBS溶液9mLを前記チューブ中の解離汗腺細胞の浮遊液と混合した。得られた混合液を350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して上清を除去した。
【0116】
つぎに、得られた解離汗腺細胞を製造例2で得られた培地(II)に2.5×10
3個/mLになるように添加し、解離汗腺細胞を含有する混合液を得た。得られた混合液を低接着プレート〔コーニング社製、商品名:超低接着プレート24ウェル〕に入れた。前記プレート中の培地(II)に浮遊させた状態で前記解離汗腺細胞を37℃の5体積%二酸化炭素雰囲気中でインキュベートした。
【0117】
培養開始後、スフィアが形成された時点で、前記スフィアを15mL容量チューブに移した。前記スフィアを350×gおよび4℃で5分間の遠心分離に供して液体成分を除去した。つぎに、細胞回収用溶液(コーニング社製、商品名:セルリカバリーソリューション)1mLを前記チューブ中のスフィアと混合し、スフィア含有液を得た。その後、得られたスフィア含有液が入ったチューブを氷上で1〜2時間静置した。
【0118】
(1−3)細胞増殖能の評価
前記(1−1)「解離汗腺細胞の製造」および(1−2)「スフィア培養」からなる一連の操作をスフィア形成が停止するまで繰り返した。
【0119】
前記細胞数Aと、継代数n(nは正の整数を示す)のスフィア継代培養時に前記(1−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞の数(以下、「細胞数B」という)とを用い、式(II):
[各継代間での細胞増殖倍率(K
X)]=[細胞数B]/[細胞数A]
(II)
にしたがい、各継代間での細胞増殖倍率(K
X)を求めた。各継代間での細胞増殖倍率(K
X)を用い、式(III)にしたがい、
[総細胞増殖倍率]=K
1×K
2・・・×K
X (III)
(式中、Xは正の整数を示す)
にしたがい、実施例3〜7で得られたスフィアに含まれる汗腺細胞の総細胞増殖倍率を求めた。その結果を表2に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
表2に示された結果から、実施例3〜7で得られたスフィアに含まれる不死化汗腺細胞の総細胞増殖倍率は、2.6×10
13倍以上であることがわかる。これに対し、不死化されていない汗腺細胞の総細胞増殖倍率は2.1倍以下であった。これらの結果から、実施例3〜7で得られたスフィアに含まれる不死化汗腺細胞の細胞増殖能は、不死化されていない汗腺細胞の細胞増殖能と比べて向上していることがわかる。
【0122】
試験例6
(1)解離汗腺細胞の製造
試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」において、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアを用いる代わりに実施例3で得られたスフィア(実験番号1)、実施例4で得られたスフィア(実験番号2)または実施例5で得られたスフィア(実験番号3)を用いたことを除き、試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」と同様の操作を行ない、解離汗腺細胞を得た。なお、前記において、実施例3で得られたスフィアとして継代数5回のスフィア、実施例4で得られたスフィアとして継代数8回のスフィア、実施例5で得られたスフィアとして継代数14回のスフィアを用いた。
【0123】
(2)解離汗腺細胞の凍結保存
試験例6の(1)「解離完成細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞を表3に示される濃度となるように凍結保存液〔タカラバイオ(株)製、商品名CELLBANKER(登録商標) 1plus〕1mLに懸濁した。得られた懸濁液を−80℃に保たれたフリーザで凍結させ、凍結細胞を得た。得られた凍結細胞を−80℃に保たれたフリーザまたは液体窒素中で表3に示される期間保存した。その後、凍結物を解凍して実験番号1〜3の解凍細胞を得た。得られた解凍細胞の数を測定した。以下において、解凍細胞の数を細胞数Cとして用いた。
【0124】
【表3】
【0125】
(2)スフィア形成
試験例2の(1−2)「スフィア培養」において、試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞を用いる代わりに試験例6の(2)「解離汗腺細胞の凍結保存」で得られた解凍細胞を用いたことを除き、試験例2の(1−2)「スフィア培養」と同様の操作を行ない、実験番号1〜3のスフィア含有液Aを得た。
【0126】
(3)スフィア継代培養
以下の(3−1)および(3−2)を行なうことを「1回の継代培養」と定義した。
【0127】
(3−1)解離汗腺細胞の製造
試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」において、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアを用いる代わりに試験例6の(2)「スフィア形成」で得られたスフィア含有液Aのうち、実験番号3のスフィア含有液Aを用いたことを除き、試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」と同様の操作を行ない、実験番号3の解離汗腺細胞を得た。
【0128】
(3−2)スフィア培養
試験例2の(1−2)「スフィア培養」において、試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞を用いる代わりに試験例6の(3−1)「解離汗腺細胞の製造」で得られた解離汗腺細胞(実験番号3)を用いたことを除き、試験例2の(1−2)「スフィア培養」と同様の操作を行ない、実験番号3のスフィア含有液Bを得た。
【0129】
(3−3)細胞増殖能の評価
【0130】
試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」において、実施例1で得られたウイルス感染汗腺スフィアを用いる代わりに実験番号1のスフィア含有液Aに含まれるスフィア、実験番号2のスフィア含有液Aに含まれるスフィアおよび実験番号3のスフィア含有液Bに含まれるスフィア(実験番号1〜3のスフィア)を用いたことを除き、試験例2の(1−1)「解離汗腺細胞の製造」と同様の操作を行ない、継代培養細胞を得た。得られた継代培養細胞の数(以下、「細胞数D」という)を測定した。
【0131】
つぎに、細胞数Cと細胞数Dとを用い、式(IV):
[細胞増殖倍率]=[細胞数D]/[細胞数C] (IV)
にしたがい、実験番号1〜3のスフィアに含まれる不死化汗腺細胞を凍結保存したときの細胞増殖倍率を求めた。細胞増殖能の評価結果を表4に示す。表中、細胞増殖能およびスフィア形成能の評価基準は、以下のとおりである。
<細胞増殖能の評価基準>
+:式(IV)にしたがって算出された細胞増殖率が1より大きい。
−:式(IV)にしたがって算出された細胞増殖率が1以下である。
<スフィア形成能の評価基準>
+:光学顕微鏡下でスフィアの形成が確認される。
−:光学顕微鏡下でスフィアの形成が確認されない。
【0132】
【表4】
【0133】
表4に示された結果から、実験番号1〜3のスフィアに含まれる不死化汗腺細胞は、良好な細胞増殖能および良好なスフィア形成能を有することがわかる。これらの結果から、実験番号1〜3のスフィアに含まれる不死化汗腺細胞は、凍結保存をした場合であっても、細胞増殖能およびスフィア形成能に優れることから、保存安定性に優れることがわかる。
【0134】
以上説明したように、汗腺筋上皮細胞が表面に露出している細胞構造体を培地中に浮遊させた状態で培養しながら、不死化遺伝子を当該汗腺筋上皮細胞に導入することにより、不死化汗腺筋上皮細胞が得られることがわかる。また、前記操作を行なうことによって得られた不死化汗腺筋上皮細胞は、生体内における汗腺筋上皮細胞と同様の機能および性質を有し、当該機能および性質を有する細胞を長期間にわたって増殖させることができることがわかる。したがって、本発明の不死化汗腺筋上皮細胞および不死化汗腺筋上皮細胞の製造方法は、制汗剤、デオドラント剤などの外用剤、汗腺機能の改善剤などの開発などに用いられることが期待されるものである。