特許第6564171号(P6564171)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564171
(24)【登録日】2019年8月2日
(45)【発行日】2019年8月21日
(54)【発明の名称】形状測定装置、及び形状測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/20 20060101AFI20190808BHJP
【FI】
   G01B5/20 C
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-175423(P2014-175423)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-50818(P2016-50818A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 孝
(72)【発明者】
【氏名】出口 博美
(72)【発明者】
【氏名】山谷 祐人
(72)【発明者】
【氏名】村田 憲彦
【審査官】 小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−345123(JP,A)
【文献】 特開平11−211453(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/077791(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第2623923(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00 − G01B 7/34
G01B 11/00 − G01B 11/30
G01B 21/00 − G01B 21/32
G05B 19/18 − G05B 19/416
G05B 19/42 − G05B 19/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に測定子を有するプローブと、前記測定子を被測定物の表面に倣って移動させる移動機構とを備え、前記測定子と前記被測定物の表面との接触を検出して前記被測定物の形状を測定する形状測定装置であって、
前記被測定物の形状データに基づく前記プローブの移動経路、及び前記プローブを移動させる際の加速度を含む測定指令に基づいて、前記移動経路における速度パターンを設定する速度設定部と、
前記プローブの位置を検出する位置検出部と、
前記プローブの位置と前記移動経路との差あって、前記被測定物の表面に沿って算出される複数の軌道誤差量に基づいて、前記加速度を設定する加速度設定部と、
を備えることを特徴とする形状測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の形状測定装置において、
前記加速度設定部は、前記軌道誤差量の最大値が、所定の基準軌道誤差量以上である場合に、前記加速度を低減させる
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の形状測定装置において、
前記軌道誤差量に対する測定精度を判定する精度判定部を備え、
前記加速度設定部は、前記精度判定部により、前記測定精度が所定精度より低いと判定された場合に、前記加速度を低減させる
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の形状測定装置において、
前記精度判定部は、前記被測定物の寸法公差に対する前記軌道誤差量の比である誤差率に基づいて前記測定精度を判定する
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の形状測定装置において、
前記精度判定部は、前記被測定物の形状測定において許容される最大誤差を示す要求精度と、当該要求精度に対応する前記測定精度との関係を記録した要求対応データに基づいて、前記軌道誤差量に対する測定精度が、前記要求精度を満たすか否かを判定し、
前記加速度設定部は、前記精度判定部により、前記測定精度が前記要求精度を満たさないと判定された場合に、前記加速度を低減させる
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の形状測定装置において、
前記加速度設定部は、前記被測定物に対する形状測定を開始した時点から前記加速度を低減させた回数Nに応じて、前記加速度を最大加速度の1/(N+1)に設定する
ことを特徴とする形状測定装置。
【請求項7】
先端に測定子を有するプローブと、前記測定子を被測定物の表面に倣って移動させる移動機構とを備え、前記測定子と前記被測定物の表面との接触を検出して前記被測定物の形状を測定する形状測定装置における形状測定方法であって、
前記被測定物の形状データに基づく前記プローブの移動経路、及び前記プローブを移動させる際の加速度を含む測定指令に基づいて、前記移動経路における速度パターンを設定し、
前記プローブの位置を検出し、
前記プローブの位置と前記移動経路との差あって、前記被測定物の表面に沿って算出される複数の軌道誤差量に基づいて、前記加速度を設定する
ことを特徴とする形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定装置、及び形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物を測定する測定子を有するプローブと、プローブを移動させる移動機構と、移動機構を制御する制御装置とを備え、被測定物の表面に倣って測定子を移動させることで被測定物の形状を測定する形状測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の装置は、プローブの移動経路を示すPCC(Parametric Cubic Curves)曲線を複数のセグメントに分割し、測定対象セグメントの曲率半径を第1の曲率半径R1とする。また、測定対象セグメントの開始点及び終了点の直線と、次のセグメントにおける開始点及び終了点の直線との為す角から求まる曲率半径を第2の曲率半径R2とする。そして、これらの第1及び第2の曲率半径R1,R2のうち、小さい方を有効半径R3とし、有効半径R3の増大に応じて大きくなるようにプローブ移動の最大速度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−21004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の形状測定装置において、曲率の変化が大きい被測定物を対象とした場合に、プローブ移動の加減速が頻繁に行われることになる。この場合、加減速に起因する振動が発生しやすくなる。また、測定時間を短縮するために、加速度として、装置の耐加速度(最大加速度)を使用すると、加減速に伴う振動の発生がさらに顕著となる。三次元測定における自由曲面倣いでは、プローブの軌道が僅かにずれると、プローブと被測定物との接点位置が大きくずれるおそれがあり、上記のような振動が発生すると、測定精度が低下してしまうとの課題があった。
【0005】
本発明は、高精度な形状測定を実施可能な形状測定装置、及び形状測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の形状測定装置は、先端に測定子を有するプローブと、前記測定子を被測定物の表面に倣って移動させる移動機構とを備え、前記測定子と前記被測定物の表面との接触を検出して前記被測定物の形状を測定する形状測定装置であって、前記被測定物の形状データに基づく前記プローブの移動経路、及び前記プローブを移動させる際の加速度を含む測定指令に基づいて、前記移動経路における速度パターンを設定する速度設定部と、前記プローブの位置を検出する位置検出部と、前記プローブの位置と前記移動経路との差あって、前記被測定物の表面に沿って算出される複数の軌道誤差量に基づいて、前記加速度を設定する加速度設定部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明では、被測定物の形状データに基づいて生成されたプローブの移動経路と、プローブを移動させる際の加速度とに基づいて、形状測定を実施する際のプローブの速度パターンを設定する。そして、実際に測定が実施された際のプローブの位置と、移動経路との差である軌道誤差量に基づいて加速度を設定する。つまり、実際に倣い測定を実施した際の軌道誤差量から、プローブの加速移動時の振動の影響が測定精度に影響しないように加速度が設定され、その加速度で再度プローブの移動経路における速度パターンが設定されることになる。
これにより、例えば被測定物の自由曲面の曲率変化が大きい場合等で、プローブの速度パターンが大きく変化する場合に、軌道誤差量が低減されるように加速度が制御される。従って、軌道誤差量が小さい、精度の高い形状測定を実施できる。
【0008】
本発明の形状測定装置において、前記加速度設定部は、前記軌道誤差量の最大値が、所定の基準軌道誤差量以上である場合に、前記加速度を低減させることが好ましい。
本発明では、最大軌道誤差量が基準軌道誤差量以上である場合に、加速度を低減させる。つまり、最大軌道誤差量が基準軌道誤差量よりも小さく、十分な測定精度を満たしている場合では、加速度が減少されない。これにより、測定精度が十分である場合では、加速度が低減されず、測定時間が長くなる等の不都合を抑制できる。すなわち、本発明では、測定時間の高速化と、高精度な形状測定との両立を図ることができる。
【0009】
本発明の形状測定装置において、前記軌道誤差量に対する測定精度を判定する精度判定部を備え、前記加速度設定部は、前記精度判定部により、前記測定精度が所定精度より低いと判定された場合に、前記加速度を低減させることが好ましい。
本発明では、軌道誤差量に対する測定精度を判定し、その測定精度が予め設定されたレベルを満たさない場合に、加速度を低減させる。すなわち、所定精度以上の測定精度が得られている場合には、加速度を低減させることがなく、測定時間の短縮と高精度な形状測定との両立を図れる。
【0010】
本発明の形状測定装置において、前記精度判定部は、前記被測定物の寸法公差に対する前記軌道誤差量の比である誤差率に基づいて前記測定精度を判定することが好ましい。
本発明では、誤差率に基づいて、測定精度が十分であるか否かを判定し、加速度補正を行う。これにより、被測定物に応じた最適な測定精度での形状測定を実施できる。
【0011】
本発明の形状測定装置において、前記精度判定部は、前記被測定物の形状測定において許容される最大誤差を示す要求精度と、当該要求精度に対応する前記測定精度との関係を記録した要求対応データに基づいて、前記軌道誤差量に対する測定精度が、前記要求精度を満たすか否かを判定し、前記加速度設定部は、前記精度判定部により、前記測定精度が前記要求精度を満たさないと判定された場合に、前記加速度を低減させることが好ましい。
【0012】
本発明では、測定精度が、被測定物の形状測定に際して許容される誤差である要求精度に対応していない(測定精度が低い)場合に、加速度を低減させる。つまり、被測定物の形状測定時に許容可能な要求精度を満たしている場合では、十分な測定精度であるとみなすことができ、このような場合に、加速度を低減させると測定時間が長くなる原因となる。これに対して、本発明は、測定精度が要求精度を満たしていない場合にのみ、加速度を低減させるので、測定時間が長くなる不都合を抑制できる。
【0013】
本発明の形状測定装置において、前記加速度設定部は、前記被測定物に対する形状測定を開始した時点から前記加速度を低減させた回数Nに応じて、前記加速度を最大加速度の1/(N+1)に設定することが好ましい。
本発明では、加速度を最初に半減させ、その後、徐々に加速度の低減幅を小さくすることで、早い段階で、振動の影響が生じない形状測定の実施を行うことができる。例えば、加速度を最大加速度の1/2に設定した際に、形状測定において振動が生じないとした場合、加速度を最大加速度の1/8ずつ減少させる場合では、4回加速度を設定し直す必要がある。これに対して、本発明では、1回の加速度の低減で、振動を抑えた精度の高い測定を実施することが可能となり、測定時間の短縮を図れる。
【0014】
本発明の形状測定方法は、先端に測定子を有するプローブと、前記測定子を被測定物の表面に倣って移動させる移動機構とを備え、前記測定子と前記被測定物の表面との接触を検出して前記被測定物の形状を測定する形状測定装置における形状測定方法であって、前記被測定物の形状データに基づく前記プローブの移動経路、及び前記プローブを移動させる際の加速度を含む測定指令に基づいて、前記移動経路における速度パターンを設定し、前記プローブの位置を検出し、前記プローブの位置と前記移動経路との差あって、前記被測定物の表面に沿って算出される複数の軌道誤差量に基づいて、前記加速度を設定することを特徴とする。
本発明では、上記発明と同様に、例えば被測定物の自由曲面の曲率変化が大きい場合等で、プローブの速度パターンが大きく変化する場合に、軌道誤差量が低減されるように加速度を設定することができ、精度の高い形状測定を実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る一実施形態の形状測定装置である三次元測定装置を示す全体模式図。
図2】本実施形態の三次元測定装置の概略構成を示すブロック図。
図3】本実施形態の形状測定方法における加速度の設定方法をしめすフローチャート。
図4】本実施形態における、NURBSデータ、PCC曲線、プローブの移動軌跡、及び軌道誤差量の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る一実施形態の形状測定装置である三次元測定装置1を示す全体模式図である。図2は、三次元測定装置1の概略構成を示すブロック図である。
なお、図1では、上方向を+Z軸方向とし、このZ軸に直交する2軸をそれぞれX軸及びY軸として説明する。なお、当該X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向により、マシン座標系が規定される。
【0017】
〔三次元測定装置本体の構成〕
三次元測定装置本体2は、図1に示すように、被測定物Wを測定するための球状の測定子211Aを有するプローブ21と、プローブ21を保持するとともに、プローブ21を移動させる移動機構22と、移動機構22が立設される定盤23とを備える。
プローブ21は、図1に示すように、測定子211Aを先端側(−Z軸方向側)に有するスタイラス211と、スタイラス211の基端側(+Z軸方向側)を支持する支持機構212とを備える。
【0018】
支持機構212は、スタイラス211をX,Y,Z軸の各軸方向に付勢することで所定位置に位置決めするように支持する。そして、支持機構212は、外力が加わった場合、すなわち測定子211Aが被測定物Wに当接した場合には、スタイラス211を一定の範囲内でX,Y,Z軸の各軸方向に移動可能としている。
この支持機構212は、具体的な図示は省略したが、スタイラス211の各軸方向の位置をそれぞれ検出するためのプローブセンサーを備える。
なお、各プローブセンサーは、スタイラス211の各軸方向の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサーである。
【0019】
移動機構22は、図1または図2に示すように、プローブ21を保持するとともに、プローブ21のスライド移動を可能とするスライド機構24と、スライド機構24を駆動することでプローブ21を移動させる駆動機構25とを備える。
スライド機構24は、図1に示すように、定盤23におけるX軸方向の両端から+Z軸方向に延出し、Y軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられる2つのコラム241と、各コラム241にて支持され、X軸方向に沿って延出するビーム242と、Z軸方向に沿って延出する筒状に形成され、ビーム242上をX軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるスライダ243と、スライダ243の内部に挿入されるとともに、スライダ243の内部をZ軸方向に沿ってスライド移動可能に設けられるラム244とを備える。
【0020】
駆動機構25は、図1または図2に示すように、各コラム241のうち、+X軸方向側のコラム241を支持するとともに、Y軸方向に沿ってスライド移動させるY軸駆動部251Yと、ビーム242上をスライドさせてスライダ243をX軸方向に沿って移動させるX軸駆動部251X(図2)と、スライダ243の内部をスライドさせてラム244をZ軸方向に沿って移動させるZ軸駆動部251Z(図2)とを備える。
【0021】
X軸駆動部251X、Y軸駆動部251Y、及びZ軸駆動部251Zには、具体的な図示は省略したが、スライダ243、各コラム241、及びラム244の各軸方向の位置を検出するためのスケールセンサーがそれぞれ設けられている。
なお、各スケールセンサーは、スライダ243、各コラム241、及びラム244の移動量に応じたパルス信号を出力する位置センサーである。
【0022】
〔モーションコントローラーの構成〕
モーションコントローラー3は、図2に示すように、指令取得部31と、速度設定部32と、カウンタ部33と、位置測定部34と、測定結果出力部35と、記憶部36と、を備える。
【0023】
指令取得部31は、ホストコンピューター5から、プローブ21を駆動させるための測定指令を取得する。この測定指令としては、プローブ21の移動経路であるPCC曲線と、プローブ21を移動させる際の実加速度αと、が含まれる。
速度設定部32は、PCC曲線及び加速度αに基づいて、PCC曲線に沿ってプローブ21を移動させる際の速度パターンを設定する。
カウンタ部33は、上述した各スケールセンサーから出力されるパルス信号をカウントしてスライド機構24の移動量を計測するとともに、上述した各プローブセンサーから出力されるパルス信号をカウントしてスタイラス211の移動量を計測する。
位置測定部34は、カウンタ部33にて計測されたスライド機構24及びスタイラス211の各移動量に基づいて、測定子211Aの位置(プローブ位置)、及び軌道誤差量を算出し、記憶部36に記憶する。
測定結果出力部35は、測定結果(測定データ)をホストコンピューター5に出力する。
【0024】
〔ホストコンピューターの構成〕
ホストコンピューター5は、CPU(Central Processing Unit)や、メモリ等を備えて構成され、モーションコントローラー3に所定の指令を与えることで三次元測定装置本体2を制御する。
このホストコンピューター5は、図2に示すように、情報取得部51と、経路設定部52と、測定指令部53と、測定結果取得部54と、精度判定部55と、加速度設定部56と、形状解析部57と、記憶部58とを備える。
情報取得部51は、CADシステム(図示略)から被測定物Wの設計データ(CADデータや、NURBSデータ等)を取得する。
経路設定部52は、情報取得部51により取得した設計情報に基づいて、プローブ21を移動させる移動経路(PCC曲線)を設定する。
測定指令部53は、PCC曲線と、プローブ21を移動させる際の加速度αを含む測定指令をモーションコントローラー3に出力する。
【0025】
測定結果取得部54は、モーションコントローラー3から出力された測定結果(プローブ位置及び最大軌道誤差)を取得する。
精度判定部55は、最大軌道誤差に基づいて、形状測定における測定精度が十分であるか否かを判定する。
加速度設定部56は、プローブ21を移動させる際の加速度αを設定する。
形状解析部57は、測定データに基づいて被測定物Wの表面形状データを算出し、算出した被測定物Wの表面形状データの誤差や歪み等を求める形状解析を行う。
【0026】
記憶部58は、ホストコンピューター5で用いられるデータ、被測定物Wの形状に関する設計情報等が記憶されている。また、記憶部58は、形状測定における測定精度を判定するための等級データを記憶する。
この等級データとしては、例えば精度等級データ、及び要求対応データが挙げられる。
精度等級データは、被測定物Wの寸法公差Mに対する最大軌道誤差量Lmaxの比である誤差率Qと、誤差率Qに対応した精度等級(測定精度)とを対応付けたデータである。下記表1に、精度等級データの一例を示す。なお、この表1は、最大軌道誤差量Lmaxが0.01〜0.2mm、寸法公差Mが0.005〜0.1mm程度を想定した場合の一例であり、被測定物Wの寸法公差等に応じて適宜変更されてもよい。また、寸法公差Mは、M>0であるとする。
また、精度等級データは、NURBSで与えられる設計データに対する線の輪郭度公差tに対する最大軌道誤差率Qと、誤差率Qに対応した精度等級(測定精度)とを対応付けたデータとすることもできる。この場合には、下記表1の「Q=Lmax/M」は、「Q=Lmax/t」となる。
【0027】
【表1】
【0028】
要求対応データは、上記精度等級Cと、要求精度Aとを対応付けたデータである。
ここで、要求精度Aとは、被測定物Wの形状測定において、許容される最大誤差であり、本実施形態では、被測定物Wの寸法公差をMとした場合に、A=2Mと見なすが、これに限定されず、例えばA=1.5M等として設定してもよく、寸法公差Mに関係なく所定の要求精度Aが設定されていてもよい。下記表2に、要求対応データの一例を示す。
また、要求精度Aは、被測定物Wの形状測定において、許容される最大誤差とすることもでき、NURBSで与えられる設計データの線の輪郭度公差をtとした場合では、A=tと見なすことができる。なお、これに限定されず、例えばA=1.5tとして設定してもよく、線の輪郭度公差tに関係なく所定の要求精度Aが設定されてもよい。
【0029】
【表2】
【0030】
[三次元測定装置の動作]
次に、上述したような三次元測定装置1の動作について説明する。
図3は、本実施形態において、プローブ21を被測定物Wの表面に倣って移動させる際のプローブ21の加速度を設定する方法を示すフローチャートである。
本実施形態では、被測定物Wの表面形状を測定する際、ホストコンピューター5の情報取得部51は、CADシステムから、被測定物Wの設定データであるNURBS(Non-Uniform Rational B-Spline:非一様有理Bスプライン)データを取得する(ステップS1)。
【0031】
次に、経路設定部52は、取得したNURBSデータを点群データに変換し、更に、点群データの各点(補間点)を、NURBSデータの曲線の法線方向にオフセット処理して、PCC曲線(プローブ21の移動経路)に転換する(ステップS2)。すなわち、経路設定部52は、倣い測定においてプローブ21を移動させる移動経路を設定する。
図4は、NURBSデータ、PCC曲線、及び形状測定により得られたプローブ位置の軌跡の一例を示す図である。
図4に示すように、PCC曲線は、複数のPCCセグメントで構成され、セグメント毎に複数の補間点に分割される。実際にプローブ21を移動させる際には、各セグメントの補間点(i)と、補間点(i)に対する補間点(i+1)とを結ぶ補間直線(i)に沿ってプローブ21を移動させるように、CMM駆動制御が実施される。
また、PCC曲線におけるNURBSデータからのオフセット量OFFSETは、測定子211Aのチップ半径R、基準となる押込み量E(基準変位)を用いて、OFFSET=R−Eとして設定する。
【0032】
次に、加速度設定部56は、プローブ21を移動させる際の加速度αを初期値である最大加速度αmax(装置の耐加速度)に設定する(ステップS3)。この際、同時に、測定回数を示す変数Nを初期値(N=1)に設定する。
そして、測定指令部53は、ステップS2にて設定したPCC曲線と、ステップS3又は後述するステップS13で設定した加速度αとを含む測定指令をモーションコントローラー3に出力する(ステップS4)。
【0033】
モーションコントローラー3は、指令取得部31により測定指令を受けると、速度設定部32により加速度αでの速度パターンを決定する(ステップS5)。速度パターンの設定方法としては、例えば、特開2014−21004号公報にて示される周知の方法等が挙げられ、この場合、ステップS4にて出力される測定指令に、指定測定速度を含ませておけばよい。
【0034】
次に、モーションコントローラー3は、三次元測定装置本体2の駆動機構25を制御し、設定された速度パターンで、PCC曲線に沿ってプローブ21を移動させる。すなわち、倣い形状測定を実施する(ステップS6)。
また、このステップS6では、位置測定部34は、例えば一定のサンプリング間隔でカウンタ部33にて計測されたスライド機構24及びスタイラス211の各移動量を取り込む。そして、位置測定部34は、取り込んだスライド機構24及びスタイラス211の各移動量に基づいて、プローブ位置、及び軌道誤差量Lを算出する。この軌道誤差量Lは、図4に示すように、CMM現在位置(プローブ位置)から補間直線(i)(PCC曲線)までの距離であり、サンプリング間隔毎に取り込まれたプローブ位置毎にそれぞれ算出される。算出されたプローブ位置と軌道誤差量Lは、記憶部36に記憶される。
【0035】
次に、測定結果出力部35は、ステップS6における測定結果をホストコンピューター5に出力する。具体的には、測定結果出力部35は、測定されたプローブ位置(プローブ位置の軌跡)と、最大軌道誤差量Lmaxとを測定結果として出力する(ステップS7)。
ホストコンピューター5は、測定結果取得部54により測定結果を取得すると、精度判定部55により、取得した最大軌道誤差量Lmaxが基準軌道誤差量LSTDより小さいか否かを判定する(ステップS8)。この基準軌道誤差量LSTDは、三次元測定装置1とプローブ21との組み合わせから決まる基準となる軌道誤差量であり、予め設定されている。
【0036】
ステップS8において、精度判定部55により「Yes」と判定された場合は、測定精度が十分に得られていることを意味し、加速度を変更せず、測定を終了する。すなわち、ホストコンピューター5は、形状解析部57に、取得したプローブ位置(プローブ位置の軌跡)に基づく形状解析処理を実施させる。
【0037】
一方、ステップS8において、「No」と判定された場合、精度判定部55は、被測定物Wの寸法公差M及び最大軌道誤差量Lmaxから誤差率Qを算出し、記憶部58に記憶された例えば表1に示すような精度等級データを用いて、精度等級Cを取得する(ステップS9)。
そして、精度判定部55は、取得した精度等級Cが、被測定物Wに対して妥当であるか否かを判定する(ステップS10)。
具体的には、精度判定部55は、記憶部58に記憶された例えば表2に示すような要求対応データに基づいて、ステップS9にて取得された精度等級Cが、被測定物Wに対する形状測定の要求精度Aを満たしているか否かを判定する。なお、ステップS9にて取得された精度等級Cが、要求対応データにおける被測定物Wの要求精度Aに対応した等級以上であれば、精度等級Cが要求精度Aを満たしていると判定する。例えば、表2において、被測定物Wに対する要求精度Aが「0.03」である場合、精度等級Cが1〜3であれば、要求精度Aを満たす(精度等級Cが妥当である)と判定する。
また、精度判定部55は、精度等級Cが「1」である場合、それ以上の測定精度は得られないとして、精度等級Cが妥当であると判定する。
【0038】
ステップS10において、「Yes」と判定された場合、ホストコンピューター5は、測定を終了する。すなわち、得られた測定結果(プローブ位置の軌跡)に基づいて、形状解析部57による形状解析処理を実施する。
一方、ステップS10において、「No」と判定された場合、加速度設定部56は、変数Nに1を加算し(ステップS11)、当該変数Nが所定の最大数(例えば、本実施形態では「10」)となったか否かを判定する(ステップS12)。そして、ステップS12において、「No」と判定された場合は、加速度設定部56は、加速度αを、α=αmax/Nとして算出する(ステップS13)。すなわち、測定開始時点から加速度αがN回変更されており、かつ、最大軌道誤差量Lmaxが基準軌道誤差量LSTD以上であり、測定精度が十分ではないと判定された場合には、次の加速度αとして、最大加速度αmaxの1/(N+1)が設定されることになる。
【0039】
この後、ステップS4に戻り、測定指令部53は、算出された新たな加速度αを含む測定指令をモーションコントローラー3に出力する。
また、ステップS12で「Yes」と判定された場合は、測定を終了させて、形状分析処理を実施する。つまり、所定回数加速度を変更しても十分な測定精度が得られていない場合は、加速度の変更による軌道精度への影響はないとみなす。
【0040】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の三次元測定装置1では、測定指令部53は、被測定物WのNURBSデータに基づいて設定されたPCC曲線と、プローブ21を移動させるための加速度αを含む測定指令をモーションコントローラー3に出力する。モーションコントローラー3は、指令取得部31により測定指令を受けると、加速度αに基づいてPCC曲線上でプローブ21を移動させるための速度パターンを設定する。そして、モーションコントローラー3の制御により、倣い測定が実施されると、位置測定部34は、プローブ位置と、プローブ位置からPCC曲線までの距離である軌道誤差量Lを算出し、測定結果出力部35は、その軌道誤差量Lの最大値(最大軌道誤差量Lmax)をホストコンピューター5に返す。そして、ホストコンピューター5の加速度設定部56は、最大軌道誤差量Lmaxに基づいて、プローブ21を移動させる際の加速度αを設定する。
このような構成の三次元測定装置1では、例えば被測定物Wの表面形状の曲率変化が大きく、速度設定部32により設定された速度パターンが大きく変化する場合であっても、最大軌道誤差量Lmaxを低減するように、加速度αを最適値に設定することができる。従って、プローブ21の加減速移動時における装置の振動を抑制することができ、高精度な形状測定を実施することができる。
【0041】
本実施形態では、精度判定部55により、最大軌道誤差量Lmaxが、予め設定された基準軌道誤差量LSTD以上であると判定された場合に、加速度設定部56により加速度を設定する(低減させる)。したがって、最大軌道誤差量Lmaxが小さく、測定精度が十分である場合では、加速度を減らすことがなく、測定時間が長くならない。すなわち、高精度な形状測定と、測定時間の短縮との両立を図ることができる。
【0042】
本実施形態では、精度判定部55は、最大軌道誤差量Lmaxに対する測定精度を判定する。すなわち、精度等級データに基づいて、最大軌道誤差量Lmaxに対する精度等級Cを取得し、精度等級Cに基づいて、加速度設定部56により加速度αが低減させられる。これにより、精度等級Cが十分に高いにもかかわらず、加速度が低減される不都合を抑制でき、測定時間の短縮と、高精度な形状測定との両立を図れる。
【0043】
本実施形態では、精度判定部55は、被測定物Wの寸法公差Mに対する最大軌道誤差量Lmaxの比である誤差率Qを算出し、誤差率Qに基づいて精度等級Cを取得する。従って、それぞれの被測定物Wに対応して最適な測定精度が得られているか否かを適切に判定できる。よって、被測定物Wに応じた最適な測定精度を得るための加速度αを設定することができる。
【0044】
本実施形態では、精度判定部55は、要求対応データに基づいて、被測定物Wの形状測定の最大許容誤差である要求精度Aに対応した精度等級Cが満たされているか否かを判定する。これにより、それぞれの被測定物Wに対応して、形状測定における誤差が許容範囲に治まるように、最適な加速度αを設定することができる。
【0045】
本実施形態では、加速度設定部56は、加速度αを変更した回数を示す変数Nに対して、α=αmax/N+1とした加速度αを設定する。このような加速度αの設定方法により、より迅速に加速度による振動の影響が生じない形状測定を実施することができ、測定時間の短縮を図れる。すなわち、加速度を低減させることにより、速度パターンにおいて所定の速度に達するまでの時間は長くなるが、実際の速度は大きく変化することがなく、測定時間が過剰に長くなることはない。一方、本実施形態では、加速度を変更すると速度パターンが変更されることになるので、倣い測定を再度実施することになり、測定回数が増え、測定時間が長くなる。本実施形態では、加速度を最初に半減させ、その後、徐々に加速度の低減幅が小さくなるように加速度を設定するので、測定回数の増大を抑制でき、例えば加速度を一定幅で減少させる場合に比べて、結果として測定時間の短縮を図ることができる。
【0046】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上記実施形態では、加速度設定部56は、測定回数を示す変数Nに対してα=αmax/N+1として、加速度αを設定しているが、これに限定されない。例えば、加速度設定部56は、予め設定された所定加速度αsずつ、加速度αを減少させてもよい。すなわち、測定回数を示す変数をNとして、α=αmax−N・αsとして、加速度を設定してもよい。
【0047】
上記実施形態では、加速度設定部56は、ステップS3において、加速度αの初期値を最大加速度αmaxとするため、測定精度が十分でない場合に、加速度を減少させる例を示した。これに対して、加速度αの初期値が最大加速度αmaxではない場合等において、測定精度に応じて、加速度αを増加させてもよい。
例えば、ステップS8において、「Yes」と判定された場合や、ステップS10において、精度等級Cが妥当であると判定された場合に、加速度αを所定量増加させてもよい。
【0048】
上記実施形態では、最大軌道誤差量Lmaxに基づいて、精度判定を実施したが、これに限定されない。例えば、測定された軌道誤差量Lの平均値(平均軌道誤差量Lav)等に基づいて、精度判定を実施してもよい。すなわち、ステップS8において、平均軌道誤差量Lavが基準軌道誤差量LSTDより小さいか否かを判定してもよく、ステップS9において、誤差率Qを、Q=Lav/Mとして算出してもよい。
【0049】
上記実施形態では、精度等級データと、要求対応データとを記憶部58に記憶する例を示したが、これに限定されない。例えば、精度等級データと要求対応データとをまとめて1つのデータとして記憶してもよい。この場合、誤差率と、要求精度との関係を示すデータを用いてもよく、ステップS10において、算出された誤差率Qが、要求精度Aを満たしているか否かを判定してもよい。
【0050】
また、誤差率Qを算出する例を示したが、例えば、ある寸法公差の被測定物Wのみを測定する場合等では、最大軌道誤差量Lmaxと精度等級とを関連付けた精度等級データを用いてもよい。この場合は、ステップS9において、最大軌道誤差量Lmaxに対応した精度等級Cを取得すればよい。さらに、上記のように、精度等級データと、要求対応データとをまとめる場合では、最大軌道誤差量Lmaxに対して、要求精度Aが関連付けられていてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、要求精度Aに対して精度等級Cが妥当であるか否かを判定しているが、例えば、精度等級Cが所定値以上(所定の測定精度以上)であるか否かを判定し、所定値未満の場合に、加速度を低減させてもよい。
【0052】
上記実施形態では、ステップS6において位置測定部34により、各プローブ位置及びそのプローブ位置に対する軌道誤差量Lを取得し、ステップS7において測定結果出力部35は、軌道誤差量Lのうちの最大軌道誤差量Lmaxをホストコンピューター5に出力したが、これに限定されない。例えば、測定結果出力部35は、ステップS6において、位置測定部34によりプローブ位置及び軌道誤差量Lが取得されると、そのままそのプローブ位置及び軌道誤差量Lをホストコンピューター5に出力してもよい。
この場合、ホストコンピューター5の精度判定部55は、ステップS8において、取得した軌道誤差量Lが基準軌道誤差量LSTDより小さいか否かを判定し、小さいと判定した場合は、そのまま測定を継続させる。一方、軌道誤差量Lが基準軌道誤差量LSTD以上であると判定された場合は、測定を中断させて、軌道誤差量Lを最大軌道誤差量LmaxとしてステップS9の処理に移行する。このような処理では、軌道誤差量が大きいと判定された時点で加速度を再設定した測定が実施されることになり、例えば、PCC曲線に対する全ての形状測定を実施する場合に比べて、測定時間の短縮を図れる。
【0053】
上記実施形態では、ホストコンピューター5に精度判定部55及び加速度設定部56が設けられる例を示したが、例えばモーションコントローラー3が精度判定部55及び加速度設定部56を備える構成としてもよい。
【0054】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等に適宜変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、被測定物の形状を倣い測定する形状測定装置に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1…三次元測定装置(形状測定装置)、2…三次元測定装置本体、3…モーションコントローラー、5…ホストコンピューター、21…プローブ、22…移動機構、31…指令取得部、32…速度設定部、33…カウンタ部、34…位置測定部、35…測定結果出力部、51…情報取得部、52…経路設定部、53…測定指令部、54…測定結果取得部、55…精度判定部、56…加速度設定部、211A…測定子、L…軌道誤差量、W…被測定物。
図1
図2
図3
図4