【文献】
佐藤悠、石原健人、大久保雄司、遠藤勝義、山村和也,Agインクを用いたフッ素樹脂の表面金属化−プラズマ処理とグラフト化を組み合わせた表面改質の応用−,表面技術協会講演大会講演要旨集,2014年 3月 3日,129th,p.67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1)大気圧プラズマによる過酸化物ラジカル形成工程
本発明では、フッ素樹脂を含む誘電体基材の表面に大気圧プラズマ処理を行う点に特徴を有している。大気圧プラズマ処理を行うことで、プラズマ中に含まれるラジカル、電子、イオン等により、フッ素樹脂表面の脱フッ素によるダングリングボンドの形成を誘起する。その後、大気に数分から10分程度曝すことによって、大気中の水成分と反応して、ダングリングボンドに過酸化物ラジカルをはじめ、水酸基、カルボニル基などの親水性官能基が自発的に形成される。このようにして形成した過酸化物ラジカルは、後述する各種金属含有組成物の金属イオンと結合するなどして、密着強度に優れた金属含有膜を基材上に形成できる。
【0017】
大気圧プラズマによる処理の条件は、基材表面に過酸化物ラジカルを導入することが可能であれば特に限定はないが、例えば以下のような条件が好ましい。
【0018】
大気圧プラズマ処理時の基材の表面温度は、特に限定されないが、(フッ素樹脂基材の融点−120)℃以上とすることも好ましい。このような表面温度とすることで、プラズマ照射の対象となるフッ素樹脂表面の運動性が高まることになる。このような運動性の高い状態のフッ素樹脂にプラズマを照射すると、フッ素樹脂の炭素原子と、炭素原子やそれ以外の原子との間の結合が切断されたときに、結合が切断された炭素原子同士が架橋反応し、表層の強度を向上できると共に、過酸化物ラジカルを十分に形成できる。基材の表面温度は、(フッ素樹脂基材の融点(以下、単に融点と言う場合がある)−100)℃以上がより好ましく、(融点−80)℃以上が更に好ましい。特に、フッ素樹脂としてPTFEを用いる場合に、基材の表面温度を上記範囲内にすることが好ましい。基材の表面温度の上限は特に限定されないが、例えば(融点+20)℃以下とすれば良い。
【0019】
基材の表面温度を(フッ素樹脂基材の融点−120)℃以上とするためには、大気圧プラズマ処理による加熱効果のみによっても良いし、基材を加熱するための加熱手段を別途設けても良い。
【0020】
また、基材の表面温度が(フッ素樹脂基材の融点−120)℃未満であっても、大気圧プラズマ処理をしないフッ素樹脂基材を用いた場合と比べて、確実に金属含有膜との密着強度を向上できる。(フッ素樹脂基材の融点−120)℃未満の温度とする場合には、具体的には例えば10〜50℃程度としても良いし、15〜25℃程度としても良い。
【0021】
大気圧プラズマの発生には、例えば印加電圧の周波数が50Hz〜2.45GHzの高周波電源を用いると良い。また、プラズマ発生装置や基材の構成材料等によるため一概には言えないが、例えば単位面積当たりの出力電力を1W/cm
2以上、好ましくは5W/cm
2以上、より好ましくは15W/cm
2以上、更に好ましくは20W/cm
2以上、特に好ましくは25Wcm
2以上とすれば良く、上限は特に限定されないが、例えば40W/cm
2以下であっても良い。また、パルス出力を使用する場合は、1〜50kHzのパルス変調周波数(好ましくは5〜30kHz)、5〜99%のパルスデューティ(好ましくは15〜80%、より好ましくは25〜70%)とするとよい。対向電極には、少なくとも片側が誘電体で被覆された円筒状又は平板状の金属を用いることができる。対向させた電極間の距離は、他の条件にもよるが、プラズマの発生と加熱の観点からは、5mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは1.2mm以下、特に好ましくは1mm以下である。対向させた電極間の距離の下限は特に限定されないが、例えば0.5mm以上である。プラズマ照射時間(誘電体基材表面にプラズマが照射されている積算時間を意味する)は、例えば10〜1200秒程度である。
【0022】
プラズマを発生させるために用いるガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオンなどの希ガス、酸素、窒素、水素などの反応性ガスを用いることができる。即ち、本発明で用いるガスとしては、非重合性ガスのみを用いるのが好ましい。また、これらのガスは、1種又は2種以上の希ガスのみを用いても良いし、1種又は2種以上の希ガスと適量の1種又は2種以上の反応性ガスの混合ガスを用いてもよい。プラズマの発生は、チャンバーを用いて上述のガス雰囲気を制御した条件で行ってもよいし、例えば希ガスを電極部にフローさせる形態をとる完全大気開放条件で行ってもよい。プロセスガスの流量は、例えば5〜30L/min程度とできる。
【0023】
本発明の誘電体基材として用いるフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点:327℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点:220℃)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、融点:151〜178℃)、ポリビニルフルオライド(PVF、融点:203℃)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点:260℃)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点:310℃)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE、融点:220〜270℃)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE、融点:245℃)などが挙げられる。このうち、モノマー単位の炭素−フッ素結合数(フッ素原子の置換割合)の観点から、PTFE、FEP、PFAに適用するのが好ましく、PTFEが特に好ましい。
【0024】
誘電体基材の形態は、プラズマを照射可能な形状であれば、特に限定はなく、各種の形状、構造を有するものに適用できる。例えば、平面、曲面、屈曲面等の表面形状を有する、方形状、球形状、薄膜形状等が挙げられるが、これらに限定されない。また、誘電体基材は、フッ素樹脂の特性に応じて、射出成型、溶融押出成型、ペースト押出成型、圧縮成型、切削成型、キャスト成型、含浸成型等各種の成型方法により成型されたものでよい。また、誘電体基材は、例えば通常の射出成型体のような樹脂が緻密な連続構造を有しても良いし、多孔質構造を有しても良いし、不織布状でも良いし、その他の構造でも良い。
【0025】
以下では、本発明に適用可能な大気圧プラズマ処理の実施形態の一例を、図を参照しつつ説明するが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得る。
【0026】
以下では、本発明に係る表面改質方法に適用可能な大気圧プラズマ処理の実施形態の一例を、主に、成型体がPTFE製のシート形状(厚み:0.2mm)である場合を例にして、図を参照しつつ説明するが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得ることは勿論である。
【0027】
図1は、本発明において使用可能な大気圧プラズマ処理装置の一例である容量結合型大気圧プラズマ処理装置の概念図を示したものである。
図1(a)に示す大気圧プラズマ処理装置Aは、高周波電源10、マッチングユニット11、チャンバー12、真空排気系13、電極14、接地された電極昇降機構15、走査ステージ16、走査ステージ制御部(図示せず)から構成されている。走査ステージ16の上面には、電極14と対向するように成型体1を保持する試料ホルダー19が配置されている。試料ホルダー19としては、例えばアルミ合金製のものを用いることができる。電極14としては、
図1(b)に示すように、棒状の形状を有し、例えば銅製の内管17の表面を、例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)の外管18で被覆した構造を有するものを用いることができる。
【0028】
図1に示す大気圧プラズマ処理装置Aを用いた成型体の表面改質方法は以下のとおりである。
先ず、成型体を必要に応じてアセトン等の有機溶媒や超純水等の水で洗浄した後、
図1に示すように、チャンバー12内の試料ホルダー19の上面側にシート形状の成型体1を配置した後、図示しない吸引装置により、真空排気系13からチャンバー12内の空気を吸引して減圧し、プラズマを発生させるガスをチャンバー内に供給し(
図1(a)矢印参照)、チャンバー12内を大気圧にする。尚、大気圧とは、厳密に1013hPaである必要はなく、700〜1300hPaの範囲であればよい。
【0029】
次に、走査ステージ制御部により、電極昇降機構15の高さ(
図1の上下方向)を調整し、走査ステージ16を所望の位置に移動させる。電極昇降機構15の高さを調整することで、電極14と成型体1の表面(上面)との距離を調整することができる。電極14と成型体1表面間の距離は、5mm以下が好ましく、1.2mm以下がより好ましい。特に、プラズマ処理による自然昇温により、成型体表面を特定の範囲にする場合は、その距離は1.0mm以下であるのが特に好ましい。尚、成型体1を走査ステージ16により移動させるため、電極14と成型体1表面間の距離をゼロより大きくすべきことは勿論のことである。
また、走査ステージ16を、電極14の軸方向に直交する方向(
図1(b)、矢印方向(
図1の左右方向))に移動させることで、成型体表面の所望の部分にプラズマを照射することができる。例えば、走査ステージの移動速度は、1〜3mm/秒が好ましいが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではない。尚、成型体1へのプラズマ照射時間は、例えば、移動速度を調整したり、走査ステージ16を所望回数往復させることで調整することができる。
【0030】
走査ステージ16を移動させることで成型体1を移動させつつ、高周波電源10を作動させることで、電極14と試料ホルダー19との間にプラズマを発生させ、成型体1の表面の所望の範囲にプラズマを照射する。この時、高周波電源として、例えば上述のような印加電圧の周波数や出力電力密度のものを用い、例えばアルミナ被覆銅製電極とアルミ合金製試料ホルダーを用いることで、誘電体バリア放電条件下でのグロー放電を実現することができる。そのため、成型体表面に安定して過酸化物ラジカルを生成させることができる。過酸化物ラジカルの導入は、プラズマ中に含まれるラジカル、電子、イオン等により、PTFEシート表面の脱フッ素によるダングリングボンドの形成が誘起され、チャンバー内に残存していた空気あるいはプラズマ処理後に空気にさらすことで空気中の水成分等と反応することで行われる。また、ダングリングボンドには、過酸化物ラジカルの他、水酸基、カルボニル基などの親水性官能基が自発的に形成され得る。
【0031】
成型体表面に照射するプラズマの強度は、上述の高周波電源の各種パラメータ、電極14と成型体表面間の距離、照射時間により、適宜調整することができる。したがって、誘電体基材の表面温度を(フッ素樹脂基材の融点−120)℃以上とする場合であって、プラズマ処理による自然昇温により、成型体表面を特定の範囲にする場合は、成型体を構成する有機高分子化合物の特性に応じて、これらの条件を調整するとよい。上記した大気圧プラズマ発生の好ましい条件(印加電圧の周波数、単位面積当たりの出力電力、パルス変調周波数、パルスデューティ等)は、特に成型体がPTFE製のシート形状である場合について有効である。また、出力電力密度に応じて、成型体表面に対する積算の照射時間を調整することで、成型体表面を特定の温度範囲にすることも可能である。例えば、印加電圧の周波数が0.03〜30MHz、電極と成型体表面間の距離が0.5〜2.0mm、出力電力密度が1〜30W/cm
2である場合、成型体表面に対する積算の照射時間を10秒〜3300秒とするのが好ましい。
特に、誘電体基材の表面温度を(フッ素樹脂基材の融点−120)℃以上とする場合には、印加電圧の周波数が5〜30MHz、電極と成型体表面間の距離が0.5〜2.0mm、出力電力密度が15〜30W/cm
2である場合、成型体表面に対する積算の照射時間を50秒〜3300秒とするのが好ましく、250秒〜3300秒とするのがより好ましく、550秒〜2400秒とするのが特に好ましい。特にPTFE製のシート形状の成型体の表面温度を207〜327℃(より好ましい下限は、210℃以上、更に好ましくは220℃以上)とし、照射時間を600〜1200秒とすることが好ましい。照射時間が長い場合は、加熱による影響が表れる傾向にある。なお、プラズマ照射時間とは、成型体表面にプラズマが照射されている積算時間を意味し、プラズマ照射時間の少なくとも一部で成型体表面温度が(融点−120)℃以上となっていれば良く、例えばプラズマ照射時間のうちの1/2以上(好ましくは2/3以上)で成型体表面温度が(融点−120)℃以上となっていれば良い。いずれの態様においても、成型体の表面温度を上記範囲とすることで、成型体表面のPTFE分子の運動性を向上させ、プラズマにより切断されたあるPTFE分子の炭素−フッ素結合のうちの炭素原子が、同様にして生じた他のPTFE分子の炭素原子と結合して炭素−炭素結合が生じる確率が格段に向上し、表面硬さを向上させることができる。
【0032】
また、図示しないが、誘電体基材の表面温度を(フッ素樹脂基材の融点−120)℃以上とする場合には、成型体1を加熱するための加熱手段を別途設けることができる。例えば、チャンバー12内の環境温度を昇温するために、チャンバー内の上述のガスを加熱する加熱装置と、加熱されたガスをチャンバー12内に循環させる撹拌翼等を備えた循環装置をチャンバー12内に配置してもよいし、成型体の表面を直接加熱するために、赤外線等の熱線を照射する熱線照射装置を電極14の近傍部に配置してもよいし、成型体1を下面側から加熱するために、試料ホルダー19に加熱手段を配置してもよいし、これらを組み合わせてもよい。このような加熱手段を設ける場合は、プラズマ処理による加熱効果のみで行う場合に比べて、プラズマの強度を低下させることができる。加熱手段による加熱温度は、成型体を構成する有機化合物の特性、成型体の形状、プラズマ処理による加熱効果等を考慮して、適宜設定、制御するとよい。また、プラズマ照射時に所望の温度になるように、高周波電源10を作動させる前に、成型体を予備加熱しておくのが好ましい。
【0033】
また、プラズマ処理時の成型体の表面温度は、例えば、温度測定シール(日油技研工業製、サーモラベル)を用いたり、放射温度計を用いたりすることによって測定することができる。
【0034】
以上のようにして所定温度((フッ素樹脂基材の融点−120)℃以上)で大気圧プラズマ処理された成型体1を冷却すると、表面改質成型体が得られる。この表面改質成型体は、1ヶ月間程度、室温大気中で保管しても、後述するようにして複合体を形成した場合、表面処理直後に作製した複合体より密着強度は低下するが、十分な密着性を有する。これは、成型体の表面の硬度が向上することで、成型体表面に導入された過酸化物ラジカルが成型体内部に取り込まれることなく表面に保持することができるためと推測される。
【0035】
また、上述のような表面改質成型体を用いると、その改質された表面(改質表面)に被着体を接触させることで、表面改質成型体の表面に被着体を直接接合することができる。
【0036】
(2)グラフト化工程
また、大気圧プラズマ処理によって、過酸化物ラジカルが表面に導入されたフッ素樹脂基材の表面に、グラフト化剤を反応させるグラフト化工程を行い、金属イオンと配位結合する官能基を固定することが好ましい。前記した過酸化物ラジカルが表面に導入されたフッ素樹脂基材に、グラフト化剤を塗布すると、フッ素樹脂表面に形成した過酸化物ラジカルを反応点として、グラフト化剤と自発的に共有結合を形成し、フッ素樹脂表面からグラフト化剤が高密度にグラフトされる。グラフト化剤を塗布する方法としては、例えばスピンコート法、スプレー噴霧法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、浸漬法、ドクターブレードコーティング法などが挙げられる。
【0037】
グラフト化剤としては、金属イオンと配位結合を形成するような、カルボニル基、低級アミノ基、高級アミノ基、アミド基、ピリジル基、ピロリル基、イミダゾール基、イソシアネート基、水酸基、エーテル基、エステル基、リン酸基、ウレア基、チオール基、チエニル基、チオウレア基をなどの官能基を有する化合物又は高分子が好ましく、少なくともN、P、Sのいずれか1つを含む原子団からなる金属イオンと配位結合する官能基を有する錯化化合物又は錯化高分子がより好ましい。好ましい錯化化合物の具体例としては、例えば、ビニルアミン、アクリルアミド、アクリルアミン、アクリロニトリル、ビニルアニリン、ビニルイソシアネート、ビニルピロール、ビニルピロリドン、ビニルトリアジン、ビニルホスホン酸、ビニルリン酸、ビニルチオール、ビニルチオフェン、ビニルスルホン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、好ましい錯化高分子としては、例えば前記錯化化合物の重合体である、ポリビニルアミン、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアニリン、ポリビニルイソシアネート、ポリビニルピロール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルトリアジン、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルリン酸、ポリビニルチオール、ポリビニルチオフェン、ポリビニルスルホン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
なお、フッ素樹脂基板の表面に直接結合していない未反応のグラフト化剤を洗浄除去することも好ましく、これによって最後に形成する金属含有膜の密着性を改善できる。但し、この洗浄工程は省略することもできる。
【0039】
(3)金属含有膜形成工程
前記した大気圧プラズマ処理による過酸化物ラジカル形成工程の後、好ましくは更に前記グラフト化工程の後、後述する所定の金属(銅又は銀)含有組成物を塗布し、加熱することで、金属含有組成物を硬化させ、基材表面に金属含有膜を形成できる(以下、金属含有膜形成工程と呼ぶ)。金属含有組成物の塗布方法は特に限定されず、例えばスピンコート法、スプレー噴霧法、インクジェット印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、浸漬法、ドクターブレードコーティング法などが挙げられる。加熱温度は例えば100〜150℃であり、加熱時間は例えば5〜15分とできる。誘電体基材上の金属含有膜の膜厚は、特に限定されないが、例えば0.01μm〜100μmであり、0.1μm〜50μmとしても良い。
【0040】
次に、本発明において密着強度に優れた金属含有膜の形成に好適に用いることができる金属含有組成物について以下に詳述する。なお、本明細書では、便宜上、金属がバインダー樹脂に分散した組成物を金属含有ペースト、金属が溶媒に分散した組成物を金属含有インクと呼ぶ。
【0041】
(A)銅含有インク
本発明においてフッ素樹脂を含む誘電体基材と金属含有膜との良好な密着強度を実現するための金属含有組成物として、β−ケトカルボン酸銅化合物と、沸点が250℃以下のアミン化合物を含む銅含有組成物であって、前記銅含有組成物の全成分の合計100質量部に対し、前記β−ケトカルボン酸銅化合物を1〜40質量部含有する銅含有組成物(以下、銅含有インクと呼ぶ)を挙げることができる。
【0042】
β−ケトカルボン酸銅化合物を用いることによって、加熱中にβ−ケトカルボン酸銅化合物から遊離する銅イオンと、フッ素樹脂を含む誘電体基材に形成された過酸化物ラジカルやグラフト化剤に含まれる各種官能基が配位結合することにより、密着強度に優れた銅含有膜を、フッ素樹脂を含む誘電体基材上に形成できる。また、沸点が250℃以下のアミン化合物を用いることによって、加熱後に得られる銅含有膜中にアミン化合物が残りにくく、銅イオンと、過酸化物ラジカルやグラフト化剤に含まれる各種官能基との結合を強固なものにできる。
【0043】
β−ケトカルボン酸銅化合物としては、例えば下記式(1)で表されるβ−ケトカルボン酸銅化合物を挙げることができる。
【0044】
【化1】
式(1)中、R1及びR2は独立して、水素原子、炭素数1〜6の直鎖炭化水素基、炭素数3〜6の分岐鎖構造を有する炭化水素基、又は炭素数3〜6の環状構造を有する炭化水素基、或いはR1とR2は炭素数2〜4の炭化水素基により連結された基を表す。
【0045】
炭素数1〜6の直鎖の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。炭素数3〜6の分岐鎖構造を有する炭化水素基としては、イソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、イソペンチル基が挙げられる。炭素数3〜6の環状構造を有する炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基などが挙げられる。炭素数2〜4の炭化水素基により連結された基としては、プロピレン基、ブチレン基などで連結された環構造を表す。原料の入手のしやすさから、R1及びR2は、メチル基と水素原子の組み合わせ、メチル基とメチル基の組み合わせ、プロピル基と水素原子の組み合わせが好ましい。
【0046】
β−ケトカルボン酸銅化合物としては、例えば、アセト酢酸銅(II)、2−メチルアセト酢酸銅(II)、プロピオニル酢酸銅(II)、イソプロピル酢酸銅(II)、2−エチルアセト酢酸銅(II)、ブチリル酢酸銅(II)、イソブチリル酢酸銅(II)、ピバロイル酢酸銅(II)、シクロヘキサノン−2−酢酸銅(II)、これらの無水物、水和物、またはそれらの混合物が挙げられ、原料の入手のしやすさからは、アセト酢酸銅(II)、2−メチルアセト酢酸銅(II)、ブチリル酢酸銅(II)、これらの無水物、水和物、またはそれらの混合物が好ましく、合成の容易さからはこれらの2水和物が好ましい。
【0047】
沸点が250℃以下のアミン化合物としては、沸点が250℃以下の、1級アミン、2級アミン、3級アミンが挙げられる。銅原料の溶解性の観点から、1級アミンが好ましい。
沸点が250℃以下の1級アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、2−アミノアルコール、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、2−エトキシエチルアミン、2−メトキシエチルアミン、3−エトキシプロピルアミンが挙げられ、銅原料の溶解性からは低分子量のn−ブチルアミン、アミルアミンや、分岐構造を有するイソアミルアミン、2−エチルヘキシルアミンが好ましい。
また、沸点が250℃以下のアミン化合物は1種類又は2種類以上を混合して用いても良い。インクの塗工性や焼結性からは、2種類以上を混合して用いることが好ましい。
【0048】
銅含有インクは、上記したβ-ケトカルボン酸銅化合物と、沸点が250℃以下のアミン化合物以外に、pKaが4以下の有機酸と銅からなる有機酸銅化合物を含むことが好ましい。このような有機酸銅化合物としては、ギ酸銅、シュウ酸銅、グリオキシル酸銅、ピルビン酸銅、これらの無水物、水和物、またはそれらの混合物が挙げられる。原料の入手のしやすさと、加熱時の有機酸成分の揮発性からは、ギ酸銅無水物又はギ酸銅・4水和物を用いることが好ましい。
【0049】
β-ケトカルボン酸銅化合物の含有量は、銅含有組成物の全成分の合計100質量部に対して1〜40質量部である。β-ケトカルボン酸銅化合物が1質量部よりも少ないと銅含有組成物中の銅濃度が低下し、加熱後に得られる銅含有膜が不連続なものとなる場合がある。また、40質量部よりも多いと銅含有組成物中のβ-ケトカルボン酸銅化合物の溶解性が低下する場合がある。β-ケトカルボン酸銅化合物の含有量は、好ましくは2〜35質量部であり、より好ましくは3〜20質量部である。
沸点が250℃以下のアミン化合物の含有量は、例えば50〜80質量部であり、好ましくは55〜75質量部である。
【0050】
銅含有組成物は、必要に応じて、その他の銅原料、溶媒、公知の添加剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよい。
銅パターン形成用組成物中の銅濃度を向上させるために他の銅原料として、例えば、粒径3nm〜500nm範囲の銅微粒子や、粒径がマイクロメートルオーダーの銅フィラーを添加することができる。導電性の観点からは銅微粒子を添加することが好ましく、添加する場合の割合としては、β-ケトカルボン酸銅化合物1質量部に対し、0.001〜10質量部が好ましい。
【0051】
銅パターン形成用組成物の印刷性の向上を目的に、濃度調整、表面張力調整、粘度調整や気化速度の調整のための溶剤や添加剤を添加することもできる。
このような溶剤としては、その他成分と反応しなければ特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ターピネオールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶剤が挙げられる。添加する場合の割合としては、β-ケトカルボン酸銅化合物1質量部に対し、0.01〜100質量部が好ましい。
上記添加剤としては、例えば、レベリング剤、カップリング剤、粘度調整剤、酸化防止剤が挙げられる。添加する場合の割合としては、β-ケトカルボン酸銅化合物1質量部に対し、0.001〜10質量部が好ましい。
【0052】
(B)金属粒子含有ペースト
また、下記の(B−1)銅粒子含有ペースト及び(B−2)銀粒子含有ペーストも、フッ素樹脂を含む誘電体基材と金属含有膜との良好な密着強度を実現するための金属含有組成物として有効である。
【0053】
(B−1)銅粒子含有ペースト
本発明における銅粒子含有ペーストは、金属粒子として平均粒子径0.1〜10μmの銅粒子と、バインダー樹脂を含む金属粒子(すなわち銅粒子)含有組成物であって、前記金属粒子含有組成物の全成分の合計100質量部に対し、前記金属粒子(すなわち銅粒子)を50〜95質量部含有する。
【0054】
平均粒子径0.1〜10μmの銅粒子と、バインダー樹脂を含む銅粒子含有ペーストを用いることによって、銅含有膜中に存在する銅イオンと、フッ素樹脂を含む誘電体基材に形成された過酸化物ラジカルやグラフト化剤に含まれる各種官能基が、静電的な相互作用により結合を形成し、密着強度に優れた銅含有膜を、フッ素樹脂を含む誘電体基材上に形成できる。しかし、銅粒子の平均粒子径が0.1μm未満である場合、銅粒子含有ペースト中のバインダー樹脂と銅粒子の界面増加により銅含有膜中の内部応力が増加するため、密着強度に優れた銅含有膜を、フッ素樹脂を含む誘電体基材上に形成することが困難になる。また、銅粒子の平均粒子径が10μmを超える場合は、銅含有膜とフッ素樹脂を含む誘電体基材の界面に空隙が生じやすくなり、密着強度に優れた銅含有膜を、フッ素樹脂を含む誘電体基材上に形成することが困難になる。本発明における銅粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される体積基準のD50を意味する。平均粒子径は、好ましくは0.5〜9μmであり、より好ましくは1〜8μmである。また、銅粒子含有組成物中の銅粒子の割合が50質量部未満であると、加熱後に得られる銅含有膜が不連続なものとなる場合がある。また95質量部を超えると銅粒子含有ペーストが高粘度化し、ペーストの調製が困難になる場合がある。銅粒子の割合は、好ましくは55〜90質量部であり、より好ましくは60〜85質量部である。
【0055】
銅粒子としては、銅ペーストや銅インクに一般的に用いられる公知の銅粒子が挙げられる。その形状としては、球状、板状、樹枝状、棒状、繊維状いずれであってもよく、中空状、または多孔質状等の不定形であってもよい。さらに、シェルが銅でコアが銅以外の物質であるコアシェル形状であってもよい。
【0056】
バインダー樹脂としては、金属ペースト等に用いられる公知のバインダーであればよく、熱や光を加えることにより硬化する熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂、および熱可塑性樹脂を例示することができる。
【0057】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、オキサジン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、キシレン樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、オリゴエステルアクリレート樹脂、ビスマレイドトリアジン樹脂、フラン樹脂などが挙げられる。光硬化性樹脂としては、シリコン樹脂、アクリル樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
また、熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリメチルメタクリル、ポリビニールアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート、アポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。これらのバインダーはいずれか1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いても良い。
【0058】
バインダー量としては、銅粒子100質量部に対して5〜100質量部が好ましい。微細配線を形成する場合には、組成物の硬化物をより低体積抵抗率にする必要がある。低体積抵抗率にするためには、組成物中の銅粒子の含有量を増やし、銅粒子同士の接近が生じやすくする必要があるので、バインダー量は5〜50質量部がより好ましい。
【0059】
前記銅粒子としては、以下のようにして得られる表面被覆銅粒子を用いることが好ましい。すなわち、銅粒子の表面の銅と化学結合および/または物理結合によって結合している下記式(2)で表されるアミン化合物の第1被覆層と、該第1被覆層上に、前記アミン化合物と化学結合によって結合している炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層と、を有する、表面被覆銅粒子を用いることが好ましい。このような表面被覆銅粒子を用いることで、銅粒子表面のカルボキシル基やアミノ基と、誘電体基材表面の過酸化物ラジカル又はグラフト化剤由来の各種官能基の相互作用により密着性が向上すると考えられる。なお、このような表面被覆銅粒子に代表されるような表面が被覆された金属粒子を用いる場合には、表面を被覆された状態の金属粒子の割合が、前記金属粒子含有組成物の全成分の合計100質量部に対し、50〜95質量部であれば良い。
【0060】
【化2】
上記式(2)中、mは0〜3の整数、nは0〜2の整数であり、n=0のとき、mは0〜3のいずれか、n=1またはn=2のとき、mは1〜3のいずれかである。
【0061】
上述の表面被覆銅粒子は、式(2)で表されるアミン化合物による第1被覆層、および炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層の2つの被覆層が、銅粒子表面上に形成されていることが特徴である。アミン化合物の第1被覆層および特定の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を有しているので、銅粒子表面が酸化されにくく、極めて優れた耐酸化性能を有する。よって、体積抵抗率が低く高導電性の硬化物を形成することができる。
【0062】
アミン化合物は、アミノ基が還元性を有するため金属表面の酸化物の除去効果と酸化抑制効果がある。
また、アミン化合物は、脂肪族モノカルボン酸よりもアミノ基の窒素の孤立電子対の効果により金属に対する配位能が高く、脂肪族モノカルボン酸よりも強い結合で銅表面と結びつくため脂肪族モノカルボン酸よりも表面被覆率が高いと考えられる。また、アミン化合物は、脂肪族モノカルボン酸と静電的な相互作用による結合を形成しやすい。ここで静電的な相互作用とは、水素結合およびイオン間相互作用を指す。したがって、表面被覆率が高いアミン化合物で銅表面を被覆した後、脂肪族モノカルボン酸でさらにその外側を被覆することで、脂肪族モノカルボン酸を銅粒子に直接被覆するよりも、高い表面被覆率で脂肪族モノカルボン酸を銅粒子に被覆することができる。そのため、本発明の表面被覆銅粒子は、アミン化合物の酸化抑制効果と脂肪族モノカルボン酸の高い被覆率により、脂肪族モノカルボン酸のみを被覆した銅粒子よりも高い耐酸化性を有している。
【0063】
アミン化合物による第1被覆層は、銅粒子表面の銅と化学的および/または物理的に結合して吸着しているアミン化合物の層である。耐酸化性の点では、銅粒子表面をアミン化合物が単分子膜状に均一に被覆していることが理想的であるが、実際上は、そのような理想状態となることは難しいので、一部銅表面にアミン化合物が吸着していない部分があってもよく、また、2分子以上が積層して吸着している部分があってもよい。
【0064】
従って、前記第1被覆層とは、アミン化合物が銅表面を均一に被覆している層だけでなく、アミン化合物が未吸着の銅表面が一部存在する被覆層をも含むものとする。なお、銅表面にアミン化合物が吸着して第1被覆層を形成していることは、後述する銅表面のIR測定により確認するものとする。
【0065】
ここで、上記化学的な結合による吸着とは、アミン化合物が銅表面と静電的な相互作用により結合を形成し、銅表面に吸着していることを指す。ここでいう静電的な相互作用とは、水素結合、イオン間相互作用(イオン結合)などを指す。また、物理的な結合による吸着とは、ファンデルワールス力による物理吸着により銅表面に吸着していることを指す。特に、アミノ基は電子供与性が高く、アミノ基が銅への配位を形成することで結合を形成すると考えられるので、アミン化合物は主に、静電的な相互作用による化学結合によって銅表面に吸着し、第一被覆層を形成していると考えられる。しかし、物理的な結合による吸着が一部存在してもよい。
また、アミン化合物同士が、例えば水素結合等により結合して2分子以上積層している部分があってもよい。
【0066】
上記第1被覆層を形成するアミン化合物は、上記式(2)で表されるアミン化合物である。具体的には、ヒドラジン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1、3−プロパンジアミン、ジメチレントリアミン、トリメチレンテトラアミン、テトラメチレンペンタアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、テトラプロピレンペンタアミンなどが挙げられる。第1被覆層は、これらのうち1種類のアミン化合物で形成してもよく、複数の種類を用いて形成してもよい。
【0067】
式(2)中のmの値が4以上になると、化学的な結合と還元性に寄与しているアミノ基の銅粒子表面における単位面積あたりのアミノ基数が減少するため、所望の耐酸化性が不十分となり、銅の表面酸化が進行しやすくなるおそれがある。また、式(2)中のnが3以上になると、分子鎖が長くなりすぎ、被覆時に隣接するアミン化合物との立体障害が生じ、銅粒子表面を十分に被覆できず、やはり、所望の耐酸化性が不十分となり、銅の表面酸化が進行しやすくなるおそれがある。
【0068】
さらに、脂肪族モノカルボン酸は、上記したように、そのカルボキシル基がアミン化合物のアミノ基と静電的な相互作用により結合していると考えられる。すなわち、親水基のカルボキシル基をアミン化合物の第1被覆層側に、疎水基のアルキル基を外側に向けて第2被覆層を形成していると考えられる。したがって、脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を有する本発明の表面被覆銅粒子は、アミン化合物のみで銅粒子を被覆した銅粒子よりも、銅粒子の凝集を抑制できるとともに、アミン化合物の脱離も抑制することができる。
【0069】
脂肪族モノカルボン酸の前記第2被覆層は、第1被覆層上に積層されている層であり、第1被覆層のアミン化合物と化学結合によって結合している炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の層である。
ここで、化学結合とは、脂肪族モノカルボン酸のカルボキシル基とアミン化合物のアミノ基とが静電的な相互作用により結合していることを意味する。ここでいう静電的な相互作用とは、水素結合、イオン間相互作用(イオン結合)などを指す。すなわち、第2被覆層とは、第1被覆層のアミン化合物と静電的な相互作用によって結合している脂肪族モノカルボン酸の層である。理想的には、第1被覆層のアミン化合物と脂肪族モノカルボン酸が1:1で反応して第2被覆層が形成されていることが好ましいが、実際上は、そのような理想状態となることは難しい。従って、一部脂肪族モノカルボン酸と結合していない第1被覆層のアミン化合物があってもよく、また、第2被覆層において、脂肪族モノカルボン酸が物理吸着等により2分子以上が積層して吸着している部分があってもよい。
従って、本発明における第2被覆層とは、第1被覆層と同様、脂肪族モノカルボン酸が第1被覆層を均一に被覆している層だけでなく、脂肪族モノカルボン酸がアミン化合物と結合していない部分が一部存在するように形成されている被覆層をも含むものとする。
なお、脂肪族モノカルボン酸が吸着して第2被覆層を形成していることは、第1被覆層と同様、後述する銅表面のIR測定により確認するものとする。
さらに、アミン化合物が結合していない銅表面が一部存在する場合は、当該銅表面に直接脂肪族モノカルボン酸が吸着している部分があってもよい。
【0070】
上記第2被覆層を形成する炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸は、炭素数8〜20の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸、炭素数8〜20の直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸、炭素数8〜20の分岐飽和脂肪族モノカルボン酸、炭素数8〜20の分岐不飽和飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。炭素数8〜20の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸としては、具体的には、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸が挙げられる。炭素数8〜20の直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸等が挙げられる。炭素数8〜20の分岐飽和脂肪族モノカルボン酸としては、2−エチルヘキサン酸などが挙げられる。上記脂肪族モノカルボン酸は、1種類で用いても良く、複数の種類を混合して用いても良い。
【0071】
炭素数が7以下であると、アルキル鎖長が短いため表面被覆銅粒子の分散性が低くなるおそれがある。また、炭素数21以上では、脂肪族モノカルボン酸の疎水性が高まるためにバインダーとの相溶性が高くなり、導電性組成物とした際、第2被覆層から脂肪族モノカルボン酸が脱離してバインダー側に溶出しやすくなる。
【0072】
表面被覆銅粒子の組成物中での分散性をより高め、また、組成物中での遊離の脂肪族モノカルボン酸量を低減するためには、炭素数10〜18の脂肪族モノカルボン酸が好ましい。さらに、直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸は、分岐鎖や不飽和を持つ脂肪族モノカルボン酸よりも細密充填構造がとりやすく、空隙の少ない被覆となるため炭素数10〜18の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸を被覆に用いるのがさらに好ましい。
【0073】
表面被覆銅粒子の具体的な製造方法は、以下の工程(A)〜(E)を含む。
工程(A):銅粒子と、上記式(2)で表されるアミン化合物を含むアミン化合物溶液との混合物aを調製し、前記銅粒子表面に前記アミン化合物の第1被覆層を形成する工程
工程(B):前記第1被覆層の形成に使用されなかった遊離の前記アミン化合物を含むアミン化合物溶液を前記混合物aから除去し、第1被覆層形成銅粒子を含有する中間体1を得る工程
工程(C):前記中間体1と、炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液との混合物bを調製し、前記第1被覆層上に前記脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を形成する工程
工程(D):前記第2被覆層の形成に使用されなかった遊離の前記脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液を前記混合物bから除去し、第1および第2被覆層形成銅粒子を含有する中間体2を得る工程
工程(E):前記中間体2を乾燥させる工程
なお、工程(B)において前記中間体1を得る場合、過剰のアミン化合物溶液を除去するに当たっては、静置分離若しくは遠心分離による上澄みの除去、または濾過による濾液の除去に止めておくのが好ましい。遊離のアミン化合物を完全に除去することを目的に水洗等を実施すると、第1被覆層を形成したアミン化合物も銅表面から脱離して除去されるおそれがある。
【0074】
好ましくは、工程(A)の前に、以下に説明する前処理工程を実施する。銅粒子は、その製造に由来する銅塩、分散剤、酸化銅等の不純物を表面に付着させている場合があるため、工程(A)の前にこれらの不純物を除去することが好ましい。それによって、水等の高極性溶媒への銅粒子の分散性の向上や、銅粒子表面のアミン化合物および脂肪族モノカルボン酸の被覆率を向上させることができるからである。
【0075】
前処理工程
上記不純物を銅粒子表面から除去できれば特にその方法に限定はないが、例えば、有機溶剤または酸を用いた洗浄方法がある。有機溶剤としては、種類は特に制限されないが、銅粒子表面への濡れ性がよく、洗浄処理後に除去しやすいものがよく、単独もしくは混合して用いることができる。具体的にはアルコール類、ケトン類、炭化水素類、エーテル類、ニトリル類、イソブチロニトリル類、水ならびに1−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。酸としては、有機酸、無機酸が好適に用いることができる。有機酸としては、酢酸、グリシン、アラニン、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸等が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素、リン酸などが挙げられる。酸の濃度としては、0.1〜50質量%が好ましく、反応熱を抑制するため、0.1〜10質量%がより好ましい。0.1質量%未満であると不純物の除去が不十分となるおそれがあり、50質量%を超えても効果に差はなく、不純物除去コストが高くなるおそれがある。
なお、酸による洗浄処理を実施した場合は、銅粒子表面への酸の残留を防止するため、酸洗浄後に水や有機溶剤でさらに洗浄することが好ましい。
【0076】
工程(A)
工程(A)は、銅粒子表面に上記式(1)で表されるアミン化合物を被覆する工程である。
具体的には、アミン化合物を含むアミン化合物溶液に、前処理を行った銅粒子または前処理を行っていない銅粒子を投入して混合物aとし、当該混合物aを撹拌することによって、銅粒子表面にアミン化合物の第1被覆層を形成させる。撹拌方法は特に限定されず、銅粒子とアミン化合物が十分接触するように撹拌すればよく、パドル撹拌機、ラインミキサー等、公知の撹拌機を用いて一般的な撹拌方法を用いればよい。
【0077】
理想的には、銅粒子表面をアミン化合物が単分子膜状に均一に被覆した第1被覆層が形成されることが望ましく、できるだけ理想に近い良好な第1被覆層が形成されることが好ましい。従って、工程(A)における銅粒子とアミン化合物との混合割合としては、この良好な第1被覆層を形成するために適する割合が好ましい。
具体的には、銅粒子の粒子径にもよるが、銅粒子100質量部に対して0.1〜200質量部が好ましい。遊離のアミン化合物が表面被覆銅粒子中に残存するのを抑制する点で、1〜100質量部がより好ましい。銅粒子の粒子径が小さいほど単位質量当たりの表面積が大きくなるので、小さい粒子径のものほどアミン化合物の混合量を多くすることが好ましい。
【0078】
アミン化合物溶液を調製する際の溶媒は、アミン化合物が溶解し、銅粒子と濡れ性がよく、アミン化合物および脂肪族モノカルボン酸と反応しないものであれば特に限定されない。好ましくは、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホキシド類、ピロリドン類、水から選ばれる1種類以上を含む溶剤である。具体的には、アルコール類は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。エーテル類は、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどが挙げられる。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびイソブチロニトリルが挙げられる。スルホキシド類では、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。ピロリドン類としては、1−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0079】
第1被覆層を形成させるに当たっての処理温度は、アミン化合物の被覆が進み、かつ溶液が固化しない温度以上であればよく、また、銅の酸化促進が少ない温度がよい。具体的には、−10〜120℃の範囲で行うことが好ましい。より被覆速度を高め、より酸化促進を抑えることができる点で、30〜100℃の範囲で行うことがより好ましい。
また、処理時間は特に限定はないが、5分間〜10時間が好ましい。また、製造コストの点で、5分間〜3時間がより好ましい。5分間未満であると、アミン化合物による被覆が不十分となるおそれがあり、10時間を超えると、アミン化合物が大気中から混入してくる二酸化炭素と塩を形成し、表面被覆銅粒子中に不純物として残留するおそれがある。
【0080】
また、アミン化合物と大気中の二酸化炭素との塩形成や、銅の酸化の抑制が可能である点で、工程(A)は不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、例えば、不活性ガスのバブリング等を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、具体的には窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。また、当該バブリングは撹拌を兼用するものであってもよく、すなわち、不活性ガスのバブリングのみで銅粒子とアミン化合物が十分接触可能であれば、特に撹拌は実施しなくてもよい。
【0081】
工程(B)
工程(B)は、第1被覆層の形成に使用されなかった遊離のアミン化合物を含むアミン化合物溶液を上記混合物aから除去し、第1被覆層形成銅粒子を含有する中間体1を得る工程である。すなわち、過剰のアミン化合物溶液を除去する工程である。このとき、過剰のアミン化合物を完全に除去する必要はなく、自然沈降もしくは遠心分離による分離によって、または濾過によって上記中間体1を得ることができる。つまり、中間体1中には少量の遊離アミン化合物および溶媒が含まれているが、そのまま次の工程(C)に移行してよい。操作が簡便である点で、第1被覆層が形成された銅粒子を自然沈降によって沈降させた後、上澄みのアミン化合物溶液をデカンテーション、またはアスピレーターによる吸引によって除去する方法が好ましい。
また、当該分離後の沈殿物または濾過物を、アミン化合物および炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の両者を溶解可能な溶媒で洗浄して中間体1としてもよい。当該洗浄により遊離アミン化合物の混入量を低減できるので好ましい。ただし、水洗は上記理由により好ましくない。
なお、中間体1を乾燥させて含有溶媒(アミン化合物溶液の溶媒)を低減させてもよいが、この段階で乾燥させると銅表面が酸化されるおそれがあるので、乾燥、特に加熱乾燥は実施しない方が好ましい。
【0082】
中間体1中に遊離アミン化合物量が多く残留すると、アミン化合物が大気中の二酸化炭素や脂肪族モノカルボン酸と塩を形成することにより生じる不純物が、導電性組成物の導電性に悪影響を与えるため好ましくない。
従って、中間体1中のアミン化合物量は、第1被覆層を形成するアミン化合物と遊離アミン化合物の合計量として、銅粒子量の10質量%以下にするのが好ましい。脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層形成に影響を与えない点で、1.0質量%以下にするのがより好ましい。なお、中間体1中のアミン化合物量は、上澄み液等のアミン化合物量を測定し、工程(A)で使用したアミン化合物量との差から求めることができる。
【0083】
工程(C)
工程(C)は、第1被覆層上に炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を形成する工程である。
具体的には、上記中間体1に炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液を加えて混合物bとし、当該混合物bを撹拌することによって、第1被覆層上に脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を形成させる。なお、炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液に、上記中間体1を投入して混合物bとしてもよい。撹拌方法は特に限定されず、第1被覆層が形成された銅粒子と脂肪族モノカルボン酸が十分接触するように撹拌すればよく、パドル撹拌機、ラインミキサー等、公知の撹拌機を用いて一般的な撹拌方法を用いればよい。
【0084】
理想的には、第1被覆層のアミン化合物と脂肪族モノカルボン酸との結合によって、第1被覆層を脂肪族モノカルボン酸が単分子膜状に均一に被覆した第2被覆層が形成されることが望ましく、できるだけ理想に近い良好な第2被覆層が形成されることが好ましい。従って、工程(C)における銅粒子と脂肪族モノカルボン酸との混合割合としては、この良好な第2被覆層を形成するために適する割合が好ましい。
具体的には、銅粒子の粒子径にもよるが、銅粒子100質量部に対して0.1〜50質量部が好ましい。遊離の脂肪族モノカルボン酸が表面被覆銅粒子中に残存するのを抑制する点で、0.5〜10質量部がより好ましい。銅粒子の粒子径が小さいほど単位質量当たりの表面積が大きくなるので、小さい粒子径のものほど脂肪族モノカルボン酸の混合量を多くすることが好ましい。
【0085】
炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸を調製する際の溶媒は、脂肪族モノカルボン酸が溶解し、銅粒子および第1被覆層が形成された銅粒子と濡れ性がよく、アミン化合物および脂肪族モノカルボン酸と反応しないものであれば特に限定されない。後述する工程(E)の乾燥工程において容易に乾燥除去できる溶媒であれば好ましい。
好ましい溶媒は、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホキシド類、ピロリドン類から選ばれる1種類以上を含む溶剤である。具体的には、アルコール類は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。エーテル類は、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどが挙げられる。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびイソブチロニトリルが挙げられる。スルホキシド類では、ジメチルスルホキシドが挙げられる。ピロリドン類としては、1−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
【0086】
第2被覆層を形成させるに当たっての処理温度は、脂肪族モノカルボン酸の被覆が進み、かつ溶液が固化しない温度以上であればよく、具体的には、−10〜80℃の範囲で行うことが好ましい。より被覆速度を高め、第2被覆層を形成した脂肪族モノカルボン酸が脱離するのを抑制する点で、10〜60℃の範囲で行うことがより好ましい。
また、処理時間は特に限定はないが、5分間〜10時間が好ましい。また、製造コストの点で、5分間〜3時間がより好ましい。5分間未満であると、脂肪族モノカルボン酸による被覆が不十分となるおそれがあり、10時間を超えると、銅−アミン化合物−脂肪酸の錯体として脱離した成分が表面被覆銅粒子中に残留するおそれがあり、導電性組成物の導電性に悪影響を与える可能性があるため好ましくない。
【0087】
また、第1被覆層のアミン化合物や少量混入している遊離アミン化合物と、大気中の二酸化炭素との塩形成や、銅の酸化の抑制が可能である点で、工程(C)も不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、例えば、不活性ガスのバブリング等を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、具体的には窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。また、当該バブリングは撹拌を兼用するものであってもよく、すなわち、不活性ガスのバブリングのみで、第1被覆層が形成された銅粒子と脂肪族モノカルボン酸が十分接触可能であれば、特に撹拌は実施しなくてもよい。
【0088】
工程(D)
工程(D)は、第2被覆層の形成に使用されなかった遊離の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液を上記混合物bから除去し、第1および第2被覆層形成銅粒子を含有する中間体2を得る工程である。具体的には、濾過によって中間体2を得ることができる。濾過方法としては、公知の方法を適用でき、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過等を例示できる。また、遊離の脂肪族モノカルボン酸および遊離のアミン化合物を可能な限り除去する点で、濾過物を、炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸およびアミン化合物の両者を溶解可能な溶媒で洗浄して中間体2とすることが好ましい。洗浄によって、遊離の脂肪族モノカルボン酸量を低減することにより、導電性組成物としたときの該組成物の密着性が良好となる。
【0089】
工程(E)
工程(E)は、上記中間体2を乾燥させて本発明の表面被覆銅粒子を得る工程である。
当該乾燥方法には特に限定はないが、例えば、減圧乾燥や凍結乾燥を例示できる。製造コストの点で減圧乾燥が好ましく、乾燥温度としては、20〜120℃が好ましい。20℃未満では乾燥時間が長くなるおそれがあり、120℃より高い温度では、銅が酸化されるおそれがある。減圧度、乾燥温度、および乾燥時間は、各々の条件の組み合わせおよび使用した溶媒の種類等によって適宜決定すればよく、乾燥後の表面被覆銅粒子中の溶媒量が1質量%以下になる程度まで乾燥させ得る条件であれば好ましい。
以上の製造方法により、粒子状の表面被覆銅粒子を製造することができる。
【0090】
その他、本発明の銅粒子含有ペーストとしては、例えば特開2015−82404号公報に記載の銅粒子とポリエステル樹脂を含む銅ペースト、特開平7−282623号公報に記載の銅粉末、熱硬化性樹脂、シラン系カップリング剤、及びキレート形成物質を含む混合溶液を主成分とする銅ペースト、及び特開平08−199109号公報に記載の樹脂状銅粉、及び熱硬化性樹脂を必須成分とする銅ペーストを用いることができる。
【0091】
(B−2)銀粒子含有ペースト
本発明における銀粒子含有ペーストは、平均粒子径0.1〜10μmの銀粒子と、バインダー樹脂を含む金属粒子(すなわち銀粒子)含有組成物であって、前記金属粒子含有組成物の全成分の合計100質量部に対し、前記金属粒子(すなわち銀粒子)を50〜95質量部含有する金属粒子含有組成物である。
【0092】
平均粒子径0.1〜10μmの銀粒子と、バインダー樹脂を含む銀粒子含有ペーストを用いることによって、銀含有膜中に存在する銀イオンと、フッ素樹脂を含む誘電体基材に形成された過酸化物ラジカルやグラフト化剤に含まれる各種官能基が、静電的な相互作用により結合を形成し、密着強度に優れた銀含有膜を、フッ素樹脂を含む誘電体基材上に形成できる。しかし、銀粒子の平均粒子径が0.1μm未満である場合、銀粒子含有ペースト中のバインダー樹脂と銀粒子の界面増加により銀含有膜中の内部応力が増加するため、密着強度に優れた銀含有膜を、フッ素樹脂を含む誘電体基材上に形成することが困難になる。また、銀粒子の平均粒子径が10μmを超える場合は、銀含有膜とフッ素樹脂を含む誘電体基材の界面に空隙が生じやすくなり、密着強度に優れた銀含有膜を、フッ素樹脂を含む誘電体基材上に形成することが困難になる。本発明における銀粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される体積基準のD50を意味する。平均粒子径は、好ましくは0.5〜9μmであり、より好ましくは1〜8μmである。また、銀粒子含有組成物中の銀粒子の割合が50質量部未満であると、加熱後に得られる銀含有膜が不連続なものとなる場合がある。また、95質量部を超えると銀粒子含有ペーストが高粘度化し、ペーストの調製が困難になる場合がある。銀粒子の割合は、好ましくは55〜90質量部であり、より好ましくは60〜85質量部である。
【0093】
バインダー樹脂としては、金属ペースト等に用いられる公知のバインダーであればよく、熱や光を加えることにより硬化する熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂、および熱可塑性樹脂を例示することができる。
【0094】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、オキサジン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)、ビニルエステル樹脂、キシレン樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、オリゴエステルアクリレート樹脂、ビスマレイドトリアジン樹脂、フラン樹脂などが挙げられる。光硬化性樹脂としては、シリコン樹脂、アクリル樹脂、イミド樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
また、熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリメチルメタクリル、ポリビニールアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート、アポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。これらのバインダーはいずれか1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いても良い。
【0095】
このような銀粒子含有ペーストとしては、特開2012−248370号公報、特開2014−225350号公報、特開2015−82385号公報、特開2015−115314号公報などに開示される銀粒子含有ペーストを用いることができる。
【0096】
本発明の銅粒子含有ペースト及び銀粒子含有ペーストはいずれも必要に応じて、溶剤、公知の各種添加剤(酸化膜除去剤、酸化防止剤、レベリング剤、粘度調整剤、分散剤)等を含有することができる。
【0097】
前記溶剤としては、金属粒子と濡れ性がよいものであれば特に限定されない。例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、芳香族類、水等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、tert−アミルアルコール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、エチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルおよびターピネオール等が挙げられる。エーテル類としては、アセトキシメトキシプロパン、フェニルグリシジルエーテルおよびエチレングリコールグリシジル等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびγ−ブチロラクトン等が挙げられる。ニトリル類としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびイソブチロニトリル等が挙げられる。芳香族類としては、ベンゼン、トルエン、およびキシレン等が挙げられる。これらの溶剤はいずれか1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いても良い。
【0098】
(C)銀錯体含有インク
更に、カルバミン酸アンモニウム及びアンモニウムカーボネート系化合物から選ばれる1種類以上を含む銀錯体化合物と、溶媒とを含む銀錯体含有組成物であって、前記銀錯体含有組成物の全成分の合計100質量部に対し、前記銀錯体化合物を20〜70質量部含有する銀錯体含有組成物(以下、銀錯体含有インクと呼ぶ)を加熱して得られる金属含有膜も、フッ素樹脂を含む誘電体基材との密着強度に優れる。
【0099】
カルバミン酸アンモニウム及びアンモニウムカーボネートの1種以上を含む銀錯体化合物を含むことで、加熱中に銀錯体化合物から遊離する銀イオンと、フッ素樹脂を含む誘電体基材に形成された過酸化物ラジカルやグラフト化剤に含まれる各種官能基が配位結合することにより、密着強度に優れた銀含有膜を、フッ素樹脂を含む誘電体基材上に形成できる。
【0100】
カルバミン酸アンモニウムもしくはアンモニウムカーボネート系化合物としては、下記式(3)、(4)、(5)で示す化合物を用いることができる。
【0104】
前記R
3、R
4、R
5、R
6、R
7および、R
8は互いに独立に、それぞれ水素基、ヒドロキシ基、置換もしくは無置換の炭素数1〜30の脂肪族アルキル基、脂環族アルキル基、アリール基、アラルキル基、高分子化合物基、複素環化合物基および、それらの誘導体から選ばれ、前記R
3とR
4もしくはR
6とR
7は互いに複素原子が含まれても含まれていなくてもよいアルキレンから連結されて環形成してもよい。但し、上記式(3)のR
3〜R
7のうち少なくとも一つは水素ではなく、上記式(4)のR
3〜R
8のうち少なくとも一つは水素ではなく、上記式(5)のR
3〜R
5のうち少なくとも一つは水素ではない。
【0105】
前記式(3)乃至式(4)のR
3、R
4、R
5、R
6、R
7、及びR
8を具体的に例示すれば、それぞれ独立に、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、アミル、ヘキシル、エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、ノニル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、ドコデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アリル、ヒドロキシ、メトキシ、メトキシエチル、メトキシプロピル、シアノエチル、エトキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、ヘキサメチレンイミン、モルホリン、ピペリジン、ピペラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ピロール、イミダゾル、ピリジン、カルボキシメチル、トリエメトキシシリルプロピル、トリエトキシシリルプロピル、フェニル、メトキシフェニル、シアノフェニル、フェノキシ、トリル、ベンジル、及びその誘導体、そしてポリアリルアミンやポリエチレンアミンのような高分子化合物及びその誘導体などが挙げられるが、特にこれに限られるものではない。
【0106】
前記したカルバミン酸アンモニウムもしくはアンモニウムカーボネート系化合物と、銀または、酸化銀、チオシアネート化銀、硫化銀、塩化銀、シアン化銀、シアネート化銀、炭酸銀、硝酸銀、亜硝酸銀、硫酸銀、燐酸銀、過塩素酸銀、四フッ素ボレート化銀、アセチルアセトネート化銀、酢酸銀、乳酸銀、シュウ酸銀、およびその誘導体から選ばれる銀化合物を、溶媒存在下で攪拌し、真空下で溶媒を取り除くことによって、銀錯体化合物を得ることができる。
【0107】
本発明の銀錯体含有組成物は、前記カルバミン酸アンモニウム及びアンモニウムカーボネート系化合物から選ばれる1種類以上を含む銀錯体化合物と溶媒を含んでおり、該溶媒は特に限定されないが、例えばメタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、ターピネオールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグリコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶剤;n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、アミルアミン、イソアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、2−アミノアルコール、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノペンタン、2−エトキシエチルアミン、2−メトキシエチルアミン、3−エトキシプロピルアミンなどのアミン系溶剤などを用いることができる。
【0108】
前記銀錯体化合物は、銀錯体含有組成物の全成分の合計100質量部に対し、20〜70質量部であり、好ましくは30〜60質量部である。銀錯体化合物の割合が20質量部未満であると銀含有組成物中の銀濃度が低下し、加熱後に得られるの銀含有膜が不連続なものとなる場合がある。また、70質量部を超えると銀含有組成物中の銀錯体化合物の溶解性が低下する場合がある。
【0109】
本発明の銀錯体含有組成物は、必要に応じて、公知の各種添加剤(酸化膜除去剤、酸化防止剤、レベリング剤、粘度調整剤、分散剤)等を含有することができる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0111】
1.銅含有インク
本発明で用いる銅含有インクの製造方法を示す。
(合成例1:アセト酢酸銅(II)・2水和物の合成)
加水分解用NaOH水溶液(2.30g、24.0mL)に、アセト酢酸エチル6.24g(48.0mmol)を加え、30℃で3時間加熱攪拌した。3時間後、反応混合液を0℃に冷却し、5NのHNO
3水溶液を加えて反応液を酸性にした。反応混合液に硝酸銅(II)水溶液2.90g(4.80mmol)を滴下し、4時間磁気攪拌した。析出した固体を濾過し、イオン交換水・アセトンで洗浄して、水色固体のアセト酢酸銅(II)・2水和物2.05g(6.70mmol)を得た。
【0112】
(製造例1:銅含有インクの製造)
アセト酢酸銅(II)・2水和物0.30g(1.0mmol)、2−エチルヘキシルアミン(沸点:169℃)2.5g、n−ブチルアミン(沸点:78℃)2.5g、ギ酸銅(II)・4水和物2.3g(9.0mmol)を混合することで銅含有インクを調製した。
【0113】
(実施例1:銅含有インクを用いた銅含有膜の形成)
実施例1−1
以下に示す手順によって、PTFE製の誘電体基材の表面を処理した。
【0114】
(I)準備
(1)日東電工株式会社にて厚さ0.2mmに切削されたPTFEシートを、幅30mm×長さ30mmに切り分けた。
(2)切り分けたPTFEシートをアセトンの入ったビーカーに入れ、1分間超音波洗浄を行った。
(3)前記(2)においてアセトン中で超音波洗浄後のPTFEシートを超純水の入ったビーカーに入れ、1分間超音波洗浄を行った。
(4)前記(3)において超純水中で超音波洗浄を行った後のPTFEシートに対して、エアガンにより純度99%以上の窒素ガスを吹き付け、超純水を飛散させ除去した。
【0115】
(II)大気圧プラズマ処理
(5)超音波洗浄後のPTFEシートの両端に、養生テープ(積水化学工業(株)製)を貼り、真空チャックも併用してPTFEシートをプラズマ処理装置の電極下に固定した。用いたプラズマ処理装置は、積水化学工業(株)製の常圧プラズマ表面処理実験装置(AP−T05−L150)である。
(6a)プラズマ処理は、直流パルス電源を用い、以下の条件で行った。
プロセスガス:流量15L/minのArガス
印加電圧の周波数:20kHz
単位面積当たりの出力電力:1.7W/cm
2
プラズマ処理時間:60秒
電極とPTFEシート表面との距離:1mm
プラズマ処理温度:常温
【0116】
製造例1で得られた銅含有インクを、前記プラズマ処理を行ったPTFEシート上に、バーコーターを用いて塗布し、30mm×30mmの塗布膜を形成した。次に、SMT−SCOPE(山陽精工株式会社製)を用いて、窒素雰囲気下、加熱温度150℃、加熱時間10分の条件で熱処理を行い、厚さ1μmの銅含有膜を形成した。窒素雰囲気は、加熱炉に窒素ガスを1L/minの流量で流すことによって実現した。
【0117】
実施例1−2
実施例1−1と同様に、PTFEシートに大気圧プラズマ処理を行った後、下記(III)の手順でグラフト化処理を行った以外は、実施例1−1と同様にして銅含有膜を形成した。
【0118】
(III)表面グラフト化
(7)グラフト化剤として、超純水で10質量%に希釈したアミノエチル化アクリルポリマー(ポリメント(登録商標)、NK−100PM、(株)日本触媒製)溶液を使用した。本実施例における表面グラフト化は、プラズマ処理したPTFEシートをアミノエチル化アクリルポリマーに20秒浸漬することにより行った。
(8)PTFEシート上の未反応のグラフト化剤を除去するため、表面グラフト化したPTFEシートを超純水の入ったビーカーに入れ、1分間超音波洗浄を行った。
(9)超音波洗浄後のPTFEシートに対して、エアガンにより純度99%以上の窒素ガスを吹き付け、超純水を飛散させ除去した。
【0119】
実施例1−3
前記(II)の大気圧プラズマ処理にて、上記(6a)に代えて、下記の(6b)の要領でプラズマ処理中のPTFE表面を(融点−120)℃以上に加熱する以外は、実施例1−1と同様にして銅含有膜を形成した。
(6b)プラズマ処理は、高周波電源を用い、以下の条件で行った。
プロセスガス:Heガス(10Paまで減圧後、1013hPaになるまで導入)
高周波電源:13.56MHz
単位面積当たりの出力電力:21.7W/cm
2
プラズマ処理時間:1200秒
電極とPTFEシート表面との距離:1mm
プラズマ処理温度:(融点−120)℃以上
(PTFEシートの表面温度は、(株)キーエンス製、デジタル放射温度センサ、FT−50AとFT−H40KとKZ−U3#を組み合わせて用いることによって測定した)
【0120】
実施例1−4
前記(II)の大気圧プラズマ処理にて、上記(6a)に代えて、上記の(6b)の要領でプラズマ処理中のPTFE表面を(融点−120)℃以上まで加熱する以外は、実施例1−2と同様にして銅含有膜を形成した。
【0121】
比較例1
実施例1−1において、PTFEシートに前記(II)の大気圧プラズマ処理を行わない以外は実施例1−1と同様にして、銅含有膜を形成した。
【0122】
実施例1−1〜1−4及び比較例1について、下記の要領で密着強度試験を行った。
【0123】
(IV)密着強度試験
各実施例にて得られた金属含有膜付き誘電体基材における金属含有膜とPTFEシートの間の密着強度は、JIS K6854−1に基づいた90°剥離試験により評価した。ナガセケムテックス(株)製の2液混合型のエポキシ接着剤(主剤:EPOXY RESIN AV138、硬化剤:HARDENER HV998、質量比:主剤/硬化剤=2.5/1)をステンレスの棒に塗布し、金属含有膜を接着剤に接触させた。接着剤は、加熱温度80℃、加熱時間30分で硬化させた。引張試験機として、(株)イマダ製作所製のデジタルフォースゲージ(ZP−200N)と電動スタンド(MX−500N)を使用した。PTFEシートの端部をクリップではさみ、1mm/秒で引張試験を行った。
【0124】
実施例1−1〜1−4及び比較例1の密着強度試験結果を表1に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
比較例1では、銅含有組成物を加熱した際に、PTFE上で組成物が凝集し斑模様になり銅含有膜を形成できなかったのに対し、常温での大気圧プラズマ処理を行った実施例1−1、更にグラフト化処理を行った実施例1−2では、PTFE上に形成された銅含有膜が、PTFEと良好な密着強度を示した。また(PTFEの融点−120)℃以上の温度で大気圧プラズマ処理を行った実施例1−3でも良好な密着強度を示し、更にグラフト化処理を行った実施例1−4でも実施例1−3と同等の良好な密着強度を示した。
【0127】
2.銅粒子含有ペースト
本発明で用いる銅粒子含有ペーストの製造方法を示す。
(銅粒子の前処理)
銅粒子[三井金属工業株式会社製1400YP、粒径(D50):6.9μm、比表面積:0.26m
2/g]220gを、トルエン352gとイソプロパノール88gの混合液に投入し、攪拌して分散させながら70℃で30分間還流させた。還流後、減圧濾過により、銅粒子含有混合液からトルエンおよびイソプロパノールを除去した。濾別した銅粒子を3.5%塩酸水溶液440gに投入し、30℃で30分間攪拌した。攪拌後、減圧濾過により、銅粒子含有塩酸水溶液から塩酸水溶液を除去した。続いて、濾別した銅粒子をイソプロパノール440gに投入し、30℃で15分間攪拌した。攪拌後、減圧濾過により、銅粒子含有イソプロパノールからイソプロパノールを除去し、濾別した銅粒子を25℃で12時間減圧乾燥して、前処理実施銅粒子を得た。なお、減圧濾過は、No.5Cの濾紙をセットした桐山ロートをダイヤフラムポンプで減圧することで実施した。また、減圧乾燥は、濾別した銅粒子を真空オーブン内に入れ、該オーブンをオイルポンプで減圧することで実施した。
【0128】
(表面被覆銅粒子の製造)
[工程(A)]
前処理実施銅粒子200gを、水600g中に投入し、25℃で攪拌しながら窒素バブリングを30分間行った。該銅粒子含有水を60℃まで昇温した後、当該銅粒子含有水に50質量%のエチレンジアミン水溶液400gを30mL/分で滴下し、60℃を保持して40分間攪拌を行った。攪拌は、メカニカルスターラーを使用し、回転数150rpmで実施した。以下、攪拌は同様の攪拌装置を使用して同じ回転数で行った。
[工程(B)]
攪拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約800gを抜き取って除去した。続いて、沈殿物に洗浄用溶媒としてイソプロパノール800gを添加し、30℃で3分間攪拌を行った。攪拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約800gを抜き取って除去し、中間体1を得た。
[工程(C)]
中間体1に、2質量%のミリスチン酸のイソプロパノール溶液1000gを添加した後、30℃で30分間攪拌を行った。
[工程(D)]
攪拌停止後、減圧濾過によりミリスチン酸のイソプロパノール溶液を除去し、中間体2を得た。減圧濾過は、No.5Cの濾紙をセットした桐山ロートをダイヤフラムポンプで減圧することで実施した。
[工程(E)]
中間体2を25℃で3時間減圧乾燥することにより表面被覆銅粒子を得た。減圧乾燥は、中間体2を真空オーブン内に入れ、該オーブンをオイルポンプで減圧することで実施した。
【0129】
(表面被覆銅粒子の赤外吸収(IR)スペクトル分析)
得られた表面被覆銅粒子の表面の赤外吸収スペクトルを下記の条件で測定した。
測定器機種:日本分光(株)製 FT/IR-6100
測定方法:ATR法、分解:2cm
-1、積算回数:80回
得られた表面被覆銅粒子の表面のIRスペクトルを
図2に示す。被覆に用いたエチレンジアミンを単独で測定した場合は、N−H変角振動のピークが1598cm
-1に出現する(
図3)のに対して、表面被覆銅粒子に観測されるN−H変角振動のピークは1576cm
-1と低波数側にシフトしており、エチレンジアミンが銅粒子表面に配位して存在していることを示している。また、
図2において、ミリスチン酸のC=O伸縮振動のピークが1700cm
-1に観察されず、カルボン酸アニオン(−COO−)のピークが1413cm
-1に観測されており、ミリスチン酸がアミン化合物と静電的な相互作用により結合して存在していることを示している。
よって、
図2に示すIRスペクトルから、第1被覆層のエチレンジアミンおよび第2被覆層のミリスチン酸の両者とも化学結合により結合して各被覆層を形成していると判断できる。」
【0130】
(製造例2:銅粒子含有ペーストの製造)
表面被覆銅粒子100g、バインダーとしてレゾール型フェノール樹脂[PL−5208、群栄化学工業(株)製]、添加剤(酸化膜除去剤)として1,4−フェニレンジアミン1.4gを混合した。次にプラネタリーミキサー[ARV−310、(株)シンキー製]を用いて、室温下、回転数1500rpmで30秒間攪拌し、1次混練を行った。
次に、3本ロールミル[EXAKT−M80S、(株)永瀬スクリーン印刷研究所製]を用いて、室温下、ロール間距離5μmの条件で5回通すことで、2次混練を行った。
次いで、2次混練で得られた混練物に、溶剤としてエチルカルビトールアセテート2.6gを加え、プラネタリーミキサーを用いて、室温、真空の条件下、回転数1000rpmで90秒間攪拌し、脱泡混練することにより、銅粒子含有ペーストを製造した。
【0131】
(実施例2:銅粒子含有ペーストを用いた銅含有膜の形成)
実施例2−1
製造例2で得られた銅粒子含有ペーストを、実施例1−1と同様にしてプラズマ処理を行ったPFTEシート上に、バーコーターを用いて塗布し、30mm×30mmの塗布膜を作製した。次に、ND−2(アズワン株式会社製)を用いて、加熱温度150℃、加熱時間15分の条件で熱処理を行ない、厚さ約10μmの銅含有膜を形成した。
【0132】
実施例2−2
実施例1−2と同様にして処理したPTFEシートに、実施例2−1と同様にして銅含有膜を形成した。
【0133】
実施例2−3
実施例1−3と同様にして処理したPTFEシートに、実施例2−1と同様にして銅含有膜を形成した。
【0134】
実施例2−4
実施例1−4と同様にして処理したPTFEシートに、実施例2−1と同様にして銅含有膜を形成した。
【0135】
比較例2
実施例2−1において、PTFEシートに前記(II)の大気圧プラズマ処理を行わない以外は実施例2−1と同様にして、銅含有膜を形成した。
【0136】
実施例2−1〜2−4及び比較例2について、上記(IV)に記載の密着強度試験を行った。結果を表2に示す。
【0137】
【表2】
【0138】
実施例2−1〜2−4では、大気圧プラズマ処理を行わなかった比較例2に比べて、PTFE上に形成された銅含有膜が、PTFEと良好な密着強度を示した。
【0139】
3.銀粒子含有ペースト
(実施例3:銀粒子含有ペーストを用いた銀含有膜の形成)
実施例3−1
銀粒子含有ペースト(東洋紡株式会社製DW250H−5、銀濃度:69%、平均粒子径:約5μm、バインダー樹脂:ポリエステル樹脂)を、実施例1−1と同様にしてプラズマ処理を行ったPFTEシート上に、バーコーターを用いて塗布し、30mm×30mmの塗布膜を作製した。次に、ND−2(アズワン株式会社製)を用いて、加熱温度150℃、加熱時間5分の条件で熱処理を行ない、厚さ約10μmの銀含有膜を形成した。
【0140】
実施例3−2
実施例1−2と同様にして処理したPTFEシートに、実施例3−1と同様にして銀含有膜を形成した。
【0141】
実施例3−3
実施例1−3と同様にして処理したPTFEシートに、実施例3−1と同様にして銀含有膜を形成した。
【0142】
実施例3−4
実施例1−4と同様にして処理したPTFEシートに、実施例3−1と同様にして銀含有膜を形成した。
【0143】
比較例3
実施例3−1において、PTFEシートに前記(II)の大気圧プラズマ処理を行わない以外は実施例3−1と同様にして、銀含有膜を形成した。
【0144】
実施例3−1〜3−4及び比較例3について、上記(IV)に記載の密着強度試験を行った。結果を表3に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
実施例3−1〜3−4では、大気圧プラズマ処理を行わなかった比較例3に比べて、PTFE上に形成された銀含有膜が、PTFEと良好な密着強度を示した。
【0147】
4.銀錯体含有インク
(合成例2:カルバメート系化合物の合成)
2−エチルヘキシルアミン27.9gに二酸化炭素をバブリングによって導入し、2−エチルヘキシルアンモニウム2−エチルヘキシルカルバメート32.5gを得た。
(合成例3:銀錯体化合物の合成)
2−エチルヘキシルアンモニウム2−エチルヘキシルカルバメート32.5gを100mlのメタノールに溶解させた後、酸化銀10.0gを添加して常温で攪拌した。反応が進むにつれて黒色の懸濁液になり、最終的には無色の透明な溶液が得られた。この反応溶液を真空下において溶媒を全て取り除いて42.0gの白色銀錯体化合物を得た。
【0148】
(製造例3:銀錯体含有インクの製造)
合成例3で得た銀錯体化合物20.0g、2−エチルヘキシルアミン5.3g、メタノール8.47gを混合することで銀錯体含有インクを調製した。
【0149】
(実施例4:銀錯体含有インクを用いた銀含有膜の形成)
実施例4−1
製造例3で得られた銀錯体含有インクを、実施例1−4と同様にしてプラズマ処理を行ったPFTEシート上に、バーコーターを用いて塗布し、30mm×30mmの塗布膜を作製した。次に、ND−2(アズワン株式会社製)を用いて、加熱温度120℃、加熱時間10分の条件で熱処理を行ない、厚さ約0.1μmの銀含有膜を形成した。
【0150】
実施例4−2
実施例1−2と同様にして処理したPTFEシートに、実施例4−1と同様にして銀含有膜を形成した。
【0151】
実施例4−3
実施例1−3と同様にして処理したPTFEシートに、実施例4−1と同様にして銀含有膜を形成した。
【0152】
実施例4−4
実施例1−4と同様にして処理したPTFEシートに、実施例4−1と同様にして銀含有膜を形成した。
【0153】
比較例4
実施例4−1において、PTFEシートに前記(II)の大気圧プラズマ処理を行わない以外は実施例4−1と同様にして銀含有膜を形成した。
【0154】
実施例4−1〜4−4及び比較例4について、上記(IV)に記載の密着強度試験を行った。結果を表4に示す。
【0155】
【表4】
【0156】
実施例4−1〜4−4では、大気圧プラズマ処理を行わなかった比較例4に比べて、PTFE上に形成された銀含有膜が、PTFEと良好な密着強度を示した。