特許第6564994号(P6564994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6564994-抗菌部材の形成方法、および、抗菌部材 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6564994
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】抗菌部材の形成方法、および、抗菌部材
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/06 20060101AFI20190819BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20190819BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20190819BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20190819BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20190819BHJP
   B32B 25/20 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C08J7/06 ZCFH
   A01N59/16 Z
   A01P3/00
   A01N25/10
   B32B9/00 A
   B32B25/20
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-167095(P2015-167095)
(22)【出願日】2015年8月26日
(65)【公開番号】特開2017-43696(P2017-43696A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(73)【特許権者】
【識別番号】391022614
【氏名又は名称】学校法人幾徳学園
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】座間 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】澤井 淳
【審査官】 弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−270531(JP,A)
【文献】 特開平07−215368(JP,A)
【文献】 特開2002−260412(JP,A)
【文献】 特開2006−336062(JP,A)
【文献】 鶴田純平、石鳥谷景子、澤井淳、座間秀昭,CVD法により各種基材表面に合成したZnO薄膜の抗菌特性,平成27年度第42回日本防菌防黴学会年次大会講演要旨,日本,日本防菌防黴学会,2015年 8月31日,265頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00−7/18
A01N 25/10
A01N 59/16
A01P 3/00
B32B 1/00−43/00
B29C 71/04
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムを主成分とした表面を含むシリコーン基材を真空槽内に収容すると共に前記シリコーン基材を前記真空槽内で加熱することと、
前記真空槽内で加熱されている前記シリコーン基材の前記表面に有機亜鉛化合物と酸化剤とを供給し、前記有機亜鉛化合物と前記酸化剤との表面反応によって、前記シリコーン基材の前記表面に酸化亜鉛を主成分とし、微粒子が不規則に並び、かつ、0.2μmから1.6μmの厚さを有する連続膜を形成することとを含む
抗菌部材の形成方法。
【請求項2】
前記微粒子の直径が、20nmから100nmである
請求項1に記載の抗菌部材の形成方法。
【請求項3】
前記有機亜鉛化合物は、ジエチル亜鉛であり、
前記酸化剤は、水である
請求項1または2に記載の抗菌部材の形成方法。
【請求項4】
前記連続膜を形成することでは、前記表面に対する前記有機亜鉛化合物の供給と、前記表面に対する前記酸化剤の供給とを別々に繰り返す
請求項1から3のいずれか一項に記載の抗菌部材の形成方法。
【請求項5】
前記連続膜を形成することでは、前記表面に対する前記有機亜鉛化合物の供給と、前記表面に対する前記酸化剤の供給とを一定の周期で繰り返す
請求項に記載の抗菌部材の形成方法。
【請求項6】
シリコーンゴムを主成分とした表面を含むシリコーン基材と
記シリコーン基材の前記表面に形成され、酸化亜鉛を主成分とし、微粒子が不規則に
並び、かつ、0.2μmから1.6μmの厚さを有した連続膜と、を備える
抗菌部材。
【請求項7】
前記微粒子の直径が、20nmから100nmである
請求項6に記載の抗菌部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛を含む抗菌部材を形成する方法、および、酸化亜鉛を含む抗菌部材を形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛の粉末が有する抗菌性は、黄色ブドウ球菌のようなグラム陽性菌に対して効果的に作用するため、酸化亜鉛の粉末がバインダーによって結着された抗菌部材が知られている(例えば、特許文献1参照)。一方で、酸化亜鉛の粉末が有する抗菌性は、グラム陽性菌に対して発現するが、グラム陰性菌に対してはグラム陽性菌ほどの効果を発現しないものとして報告されている(例えば、非特許文献1,2)。この点、グラム陽性菌、および、グラム陰性菌の両方に対して抗菌性を発現させるべく、基板の表面にスパッタ法で酸化亜鉛膜を堆積させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−209362号公報
【特許文献2】特開2009−541189号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Sawai et al.,J.Chem.Eng.Jpn.,28(1995)288.
【非特許文献2】K.M.Reddy et al.,Appl.Phys.Lett.,90(2007)213902.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラスなどの基板の表面に堆積した酸化亜鉛膜の膜特性は、酸化亜鉛膜の膜厚が変動することによって少なからず変わるおそれがある。酸化亜鉛膜が有する抗菌性は、こうした膜特性の一例であるから、上述した抗菌部材においては、酸化亜鉛膜の抗菌性が酸化亜鉛膜の膜厚の変化でばらつくことを抑えることが望まれている。
【0006】
本発明は、酸化亜鉛膜の抗菌性が酸化亜鉛膜の膜厚の変化によってばらつくことを抑える抗菌部材の形成方法、および、抗菌部材の形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための抗菌部材の形成方法は、シリコーンゴムを主成分とした表面を有するシリコーン基材を真空槽内に収容すると共に前記シリコーン基材を前記真空槽内で加熱することと、前記真空槽内で加熱されている前記シリコーン基材の表面に有機亜鉛化合物と酸化剤とを供給し、前記有機亜鉛化合物と前記酸化剤との表面反応によって、前記シリコーン基材の前記表面に酸化亜鉛を主成分とする連続膜を形成することとを含む。
【0008】
上記課題を解決するための抗菌部材の形成装置は、シリコーンゴムを主成分とした表面を含むシリコーン基材を収容する真空槽と、前記真空槽内に位置し、前記シリコーン基材を保持すると共に前記シリコーン基材を前記真空槽内で加熱する保持部と、前記真空槽内に有機亜鉛化合物と酸化剤とを供給する供給部と、前記保持部の駆動と前記供給部の駆動とを制御する制御部であって、前記真空槽内で加熱されている前記シリコーン基材の表面に前記有機亜鉛化合物と前記酸化剤とを供給し、前記有機亜鉛化合物と前記酸化剤との表面反応によって、前記シリコーン基材の前記表面に酸化亜鉛を主成分とする連続膜を形成させる前記制御部とを備える。
【0009】
上記抗菌部材の形成方法、および、上記抗菌部材の形成装置によれば、酸化亜鉛を主成分とする連続膜が、有機亜鉛化合物と酸化剤との表面反応を経て形成されるため、酸化亜鉛膜の膜特性は、酸化亜鉛膜の膜厚方向に沿って連続しやすくなる。それゆえに、酸化亜鉛膜の抗菌性が酸化亜鉛膜の膜厚の変化によってばらつくことが抑えられる。
【0010】
上記抗菌部材の形成方法において、前記有機亜鉛化合物はジエチル亜鉛であり、前記酸化剤は水であってもよい。
上記抗菌部材の形成方法によれば、汎用的な材料であるジエチル亜鉛と水とによって上述した効果が得られるため、こうした抗菌部材の形成方法が適用される範囲を広げることが可能でもある。
【0011】
上記抗菌部材の形成方法において、前記連続膜を形成することでは、前記表面に対する前記有機亜鉛化合物の供給と、前記表面に対する前記酸化剤の供給とを別々に繰り返してもよい。
【0012】
上記抗菌部材の形成方法によれば、有機亜鉛化合物の供給と、酸化剤の供給とが別々に繰り返されるため、シリコーンゴムを主成分とした表面に対する有機亜鉛化合物の吸着と、吸着した有機亜鉛化合物の酸化とが別々に進行する。それゆえに、有機亜鉛化合物と水との表面反応が進行することの確実性を高めることが可能でもある。
【0013】
上記抗菌部材の形成方法において、前記連続膜を形成することでは、前記表面に対する前記有機亜鉛化合物の供給と、前記表面に対する前記酸化剤の供給とを一定の周期で繰り返してもよい。
上記抗菌部材の形成方法によれば、酸化亜鉛を主成分とする連続膜の膜厚方向において、組成のばらつきが生じることが抑えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化亜鉛膜の抗菌性が酸化亜鉛膜の膜厚の変化によってばらつくことを抑えることを可能とした抗菌部材の形成方法、および、抗菌部材の形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、抗菌部材の形成装置の一実施形態における抗菌部材の形成装置の概略構成を示す装置構成図である。
図2図2は、実施例1の抗菌部材の表面構造を示すSEM画像である。
図3図3は、実施例2の抗菌部材の表面構造を示すSEM画像である。
図4図4は、実施例2の抗菌部材の断面構造を示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
抗菌部材の形成方法、および、抗菌部材の形成装置の1つの実施形態を説明する。
【0017】
図1が示すように、抗菌部材の形成装置は、真空槽11を備え、真空槽11は、シリコーン基材Sを収容可能に構成されている。シリコーン基材Sの表面は、シロキサン結合を主骨格として有する高分子であるシリコーンを主成分としている。真空槽11の内部には、シリコーン基材Sを保持し、かつ、シリコーン基材Sの温度を所定の温度に加熱する保持部12が位置している。
【0018】
保持部12は、シリコーン基材Sを加熱する加熱部を含み、保持部12がシリコーン基材Sに設定する温度は、有機亜鉛化合物と酸化剤とがシリコーン基材Sの表面で表面反応を進行させる温度である。保持部12がシリコーン基材Sに設定する温度は、有機亜鉛化合物や酸化剤に応じて適宜設定される温度であって、シリコーン基材Sの表面に吸着した有機亜鉛化合物が表面反応に先駈けて脱離し難い温度やシリコーン基材Sの表面に吸着した酸化剤が表面反応に先駈けて脱離し難い温度であり、例えば、100℃以上180℃以下の範囲のなかの所定値である。
【0019】
真空槽11には、真空槽11の内部に真空雰囲気を形成する排気部13が接続され、排気部13の駆動によって真空槽11の内部に真空雰囲気が形成される。排気部13は、例えば、真空槽11の内部における圧力を10Pa以上1000Pa以下の範囲で所定値に保つ。
【0020】
真空槽11には、真空槽11の内部に有機亜鉛化合物と酸化剤とを供給する供給部14が接続されている。有機亜鉛化合物は、例えば、ジメチル亜鉛やジエチル亜鉛であり、酸化剤は、例えば、水や酸素である。なお、有機亜鉛化合物は、互いに異なる複数の化合物の混合物であってもよく、例えば、ジメチル亜鉛とジエチル亜鉛との混合物であってもよい。酸化剤は、互いに異なる複数の物質の混合物であってもよく、例えば、水と酸素との混合物であってもよい。供給部14が真空槽11の内部に有機亜鉛化合物を供給し、また、供給部14が真空槽11の内部に酸化剤を供給することによって、シリコーン基材Sの表面に、これら有機亜鉛化合物と酸化剤とが吸着する。そして、所定値に加熱されたシリコーン基材Sの表面では、有機亜鉛化合物と酸化剤との表面反応が進行し、それによって、抗菌膜である酸化亜鉛膜がシリコーン基材Sの表面に形成される。
【0021】
なお、供給部14は、有機亜鉛化合物と酸化剤とを真空槽11の内部へ同時に供給するように構成されてもよいし、有機亜鉛化合物の供給と酸化剤の供給とを別々に繰り返すように構成されてもよい。この際、抗菌部材の形成装置は、有機亜鉛化合物の供給と、酸化剤の供給とを一定の周期で繰り返すように構成されてもよい。供給部14は、有機亜鉛化合物を真空槽11へ搬送するための希ガスを有機亜鉛化合物と共に真空槽11へ供給してもよいし、酸化剤を真空槽11へ搬送するための希ガスを酸化剤と共に真空槽11へ供給してもよい。有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛であるとき、供給部14が供給するジエチル亜鉛の流量は、例えば、基材の表面における単位面積を10cm角として、単位面積あたりに0.05g/min以上4g/min以下である。酸化剤が水であるとき、供給部14が供給する水の流量は、例えば、基材の表面における単位面積を10cm角として、単位面積あたりに0.007g/min以上1.5g/min以下である。
【0022】
抗菌部材の形成装置は、保持部12の駆動、排気部13の駆動、および、供給部14の駆動を制御する制御部15を備えている。制御部15は、真空槽11の内部にシリコーン基材Sが搬入された状態で保持部12の駆動を制御し、保持部12にシリコーン基材Sを保持させ、かつ、シリコーン基材Sの温度を所定値に保たせる。また、制御部15は、真空槽11の内部にシリコーン基材Sが搬入された状態で排気部13の駆動を制御し、排気部13に真空槽11の内部の圧力を所定値に保たせる。さらに、制御部15は、保持部12にシリコーン基材Sが保持された状態で供給部14の駆動を制御し、有機亜鉛化合物、および、酸化剤の供給を供給部14に行わせ、それによって、抗菌膜である酸化亜鉛膜がシリコーン基材Sの表面に形成される。
【0023】
そして、抗菌部材の形成装置が抗菌部材の形成方法を行うとき、制御部15は、真空槽11の内部にシリコーン基材Sが搬入された状態で、シリコーン基材Sの温度を例えば100℃以上180℃以下の範囲のなかの所定値に保つ。また、制御部15は、真空槽11の内部を例えば10Pa以上1000Pa以下の範囲のなかの所定値に保つ。この状態で、制御部15は、有機亜鉛化合物、および、酸化剤を真空槽11の内部に所定の時間だけ供給し、それによって、抗菌膜である酸化亜鉛膜を所定の膜厚でシリコーン基材Sの表面に形成する。
[実施例1]
【0024】
有機亜鉛化合物としてジエチル亜鉛を用い、酸化剤として水を用い、シリコーン基材Sとしてシリコーンシート(タイガースポリマー株式会社製)を用いた。そして、シリコーン基材Sの温度を160℃に保ち、かつ、真空槽11の内部を300Paに保ちながら、ジエチル亜鉛の供給、および、水の供給を同時に行い、0.2μmの厚さを有する酸化亜鉛膜をシリコーン基材Sの表面に堆積させた。これによって、0.2μmの厚さを有した酸化亜鉛膜がシリコーン基材Sの表面に形成された実施例1の抗菌部材を得た。
[実施例2]
【0025】
ジエチル亜鉛の供給、および、水の供給を同時に行う時間を上記実施例1よりも長く設定し、かつ、それ以外の条件を実施例1の条件と同様に設定し、他のシリコーン基材Sの表面に1.6μmの厚さを有する酸化亜鉛膜を堆積させた。これによって、1.6μmの厚さを有した酸化亜鉛膜がシリコーン基材Sの表面に形成された実施例2の抗菌部材を得た。
[比較例1]
【0026】
酸化亜鉛膜の成膜対象としてガラス基板(コーニング株式会社製)を用い、これ以外の条件を実施例1と同じくして、0.1μmの厚さを有する酸化亜鉛膜をガラス基板の表面に堆積させた。これによって、0.1μmの厚さを有した酸化亜鉛膜がガラス基板の表面に形成された比較例2の抗菌部材を得た。
[比較例2]
【0027】
ジエチル亜鉛の供給、および、水の供給を同時に行う時間を上記比較例1よりも長く設定し、これ以外の条件を比較例1と同じくして、0.2μmの厚さを有した酸化亜鉛膜がガラス基板の表面に形成された比較例2の抗菌部材を得た。
[比較例3]
【0028】
ジエチル亜鉛の供給、および、水の供給を同時に行う時間を上記比較例2よりも長く設定し、これ以外の条件を比較例1と同じくして、0.5μmの厚さを有した酸化亜鉛膜がガラス基板の表面に形成された比較例3の抗菌部材を得た。
[比較例4]
【0029】
ジエチル亜鉛の供給、および、水の供給を同時に行う時間を上記比較例3よりも長く設定し、これ以外の条件を比較例1と同じくして、1.6μmの厚さを有した酸化亜鉛膜がガラス基板の表面に形成された比較例4の抗菌部材を得た。
[試験片]
【0030】
第1参照試験片として上記シリコーンシート(30mm×30mm)を用い、また、第2参照試験片としてスライドガラス(10mm×25mm)を用いた。実施例1の抗菌部材、および、実施例2の抗菌部材の各々を30mm×30mmに裁断し、それによって、実施例1の試験片、および、実施例2の試験片を得た。また、比較例1〜比較例4の抗菌部材を10mm×25mmに裁断し、それによって、比較例1〜比較例4の試験片を別々に得た。
[供試菌]
【0031】
供試菌1は大腸菌(Escherichia coli NBRC 3301)であり、供試菌2は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 3301)である。供試菌3はパン酵母(Saccharomyces cerevisiea NBRC 1950)であり、供試菌4はカンジダ菌(Candida albicans NBRC 1060)である。供試菌5は黒カビ(Aspergillus niger NBRC 4067)であり、供試菌6は白カビ(Rhizopus stolonifer NBRC 4781)である。
[供試菌の前培養]
【0032】
培養培地として普通ブイヨン培地(栄研化学株式会社製)を用い、培養温度を37±1℃に設定し、解凍した供試菌1の菌液を24時間振とう培養した。同じく、培養培地として普通ブイヨン培地(栄研化学株式会社製)を用い、培養温度を37±1℃に設定し、解凍した供試菌2の菌液を24時間振とう培養した。
【0033】
培養培地としてブドウ糖ペプトン培地(栄研化学株式会社製)を用い、培養温度を25±1℃に設定し、解凍した供試菌3の菌液を24時間振とう培養した。同じく、培養培地としてブドウ糖ペプトン培地(栄研化学株式会社製)を用い、培養温度を25±1℃に設定し、解凍した供試菌4の菌液を24時間振とう培養した。
【0034】
培養培地として斜面培地であるポテトデキストロース寒天培地(栄研化学株式会社製)を用い、培養温度を25±1℃に設定し、供試菌5の菌液を5日間培養した。同じく、斜面培地であるポテトデキストロース寒天培地(栄研化学株式会社製)を用い、培養温度を25±1℃に設定し、供試菌6の菌液を5日間培養した。
これら前培養された各供試菌を滅菌生理食塩水で希釈することによって、各供試菌の試験菌液を得た。
抗菌効力試験はJIS Z2801に準じて行った。
[実施例1の抗菌スペクトル]
【0035】
詳しくは、実施例1の試験片、および、20mm角に切り取ったポリエチレンフィルム(アズワン株式会社製)をエタノールで2回〜3回拭いた後に乾燥させた。試験片に試験菌液を0.05ml滴下した後に試験片にポリエチレンフィルムを被せた。細菌である供試菌1、および、供試菌2については、培養温度を35±1℃に設定し、また、相対湿度を90%以上に設定し、24時間培養した。真菌である供試菌3、供試菌4、供試菌5、および、供試菌6については、培養温度を25±1℃に設定し、また、相対湿度を90%以上に設定し、24時間培養した。
【0036】
次いで、試験片とポリエチレンフィルムとの積層体を滅菌処理が施されたストマッカー袋に入れ、そのストマッカー袋のなかにさらに10mlのSCDLPブイヨン培地(栄研化学株式会社製)を加え、60秒間のストマッカー処理の後に菌液をストマッカー袋から洗い出した。続いて、洗い出した菌液をリン酸緩衝生理食塩水によって希釈し、細菌である供試菌1、および、供試菌2については、培養温度を35±1℃に設定し、希釈された菌液を24時間培養した。また、真菌である供試菌3、供試菌4、供試菌5、および、供試菌6については、培養温度を25±1℃に設定し、120時間培養した。そして、供試菌1から供試菌6の各々について、培養後のコロニー数を測定した。
【0037】
抗菌活性値Rは式1から算出した。供試菌1から供試菌6の各々に対する積層体の抗菌活性値を表1に示す。なお、抗菌活性値が2以上である供試菌について抗菌活性があるものと判断される。
R=[log(B/A)−log(C/A)]=log(B/C) ・・・式1
平均値Aは参照試験片の接種直後における生菌数の平均値である。
平均値Bは参照試験片の24時間後における生菌数の平均値である。
平均値Cは積層試験片の24時間後における生菌数の平均値である。平均値Cの検出限界は100個/試料である。
【0038】
【表1】
【0039】
表1が示すように、供試菌1、供試菌2、供試菌3の生存は認められず、大腸菌、黄色ブドウ球菌、および、パン酵母に対し、試験片が高い抗菌効力を有することが認められた。一方、カンジダ菌、黒カビ、白カビに対し、試験片が抗菌効力を有しないことが認められた。カンジダ菌、黒カビ、および、白カビは、いずれも菌糸を形成する糸状菌である。
[実施例における膜厚依存性]
【0040】
実施例1の試験片、および、実施例2の試験片の各々に対し、供試菌1、および、供試菌2の各々について、上述したJIS Z2801に準じた抗菌効力試験を行った。供試菌1、および、供試菌2の各々に対する実施例1の試験片での抗菌活性値を表2に示す。供試菌1および、供試菌2の各々に対する実施例2の試験片での抗菌活性値を表3に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表2が示すように、0.2μmの厚さを有した酸化亜鉛膜を含む抗菌部材においては、供試菌1、および、供試菌2の各々の生存が検出限界以下であり、これによって、供試菌1、および、供試菌2の各々に対する十分な抗菌活性値が得られることが認められた。
【0044】
表3が示すように、1.6μmの厚さを有した酸化亜鉛膜を含む抗菌部材においても、供試菌1、および、供試菌2の各々の生存が検出限界以下であり、これによって、供試菌1、および、供試菌2の各々に対する十分な抗菌活性値が得られることが認められた。それゆえに、0.2μmの厚さを有した酸化亜鉛膜を含む抗菌部材であれ、1.6μmの厚さを有した酸化亜鉛膜を含む抗菌部材であれ、これらの膜厚の範囲であれば、膜厚依存性の無い十分な抗菌活性値が得られることが認められた。
【0045】
特に、供試菌1である大腸菌はグラム陰性菌であって、供試菌2である黄色ブドウ球菌はグラム陽性菌であるが、上述した実施例1の抗菌部材、および、実施例2の抗菌部材であれば、グラム陰性菌に対してもグラム陽性菌と同じ程度の抗菌活性値が得られることが認められた。
[比較例における膜厚依存性]
【0046】
比較例1〜比較例4の各々の試験片に供試菌2の5μlの試験液を塗り広げて24時間接触させた。次いで、5mlの総菌数測定用培養液であるWIB培養液を入れたウェルに、接触後の試験片を入れ、培養温度を37℃に設定して48時間培養した。そして、供試菌2について、培養後のコロニー数を測定した。
供試菌2に対する比較例1〜比較例4の各々の抗菌活性値であって、接触時間が24時間である水準の測定結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
表4が示すように、比較例1から比較例4の各々の抗菌部材において、供試菌2に対する抗菌活性値が得られ、かつ、酸化亜鉛膜の膜厚が厚くなるほど、抗菌活性値が高いことが認められた。すなわち、ガラス基板に堆積した酸化亜鉛膜では、試験液を24時間接触した条件において、供試菌2に対し抗菌性が発現することが認められた一方で、抗菌性に大きな膜厚依存性を有することも認められた。
【0049】
なお、酸化亜鉛がWIB培養液に溶出したことによって抗菌性が発現されたか否かを確認するため、5mlのWIB培養液を入れたウェルに実施例2の試験片を24時間浸し、その後、実施例2の試験片を取り除き、そのウェルに供試菌2を入れ、培養温度を37℃に設定して48時間培養した。その結果、十分な抗菌活性値は得られず、酸化亜鉛がWIB培養液に溶出していないことが認められた。
[膜構造]
【0050】
実施例1の試験片における表面Sa、実施例2の試験片における表面Sa、および、実施例2の試験片における断面の各々に対し、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による画像を撮影した。
【0051】
図2が示すように、実施例1の試験片における表面、すなわち、シリコーン基材Sの表面に形成された0.2μmの酸化亜鉛膜の表面は、直径が約20nmから100nmの微粒子が緻密、かつ、不規則に並ぶような表面構造を有している。酸化亜鉛膜の表面に並ぶいずれの微粒子においても、結晶面である平面(ファセット)が認められないため、酸化亜鉛の粉末を用いて形成された塗布膜とは異なり、微粒子が緻密に重なる連続膜であることが認められた。
【0052】
図3が示すように、実施例2の試験片における表面、すなわち、シリコーン基材Sの表面に形成された1.6μmの酸化亜鉛膜の表面は、それの微粒子の直径が実施例1における微粒子の直径よりも大きなばらつきを有するものの、微粒子が不規則に並ぶ構造を有する点において実施例1と共通している。また、酸化亜鉛膜の表面に並ぶいずれの微粒子においても、実施例1と同じく、結晶面である平面が認められないため、酸化亜鉛の粉末を用いて形成された塗布膜とは異なり、微粒子が緻密に並ぶ連続膜であることが認められた。
【0053】
図4が示すように、実施例2の試験片における断面は、上述した微粒子が酸化亜鉛膜の膜厚方向に不規則に積み重なる端面構造を有し、いずれの微粒子においても、平面構造と同じく、結晶面である平面は認められなかった。
以上、上記実施形態によれば以下に列記する効果が得られる。
【0054】
(1)酸化亜鉛を主成分とする連続膜が、有機亜鉛化合物と酸化剤との表面反応を経て形成されるため、酸化亜鉛膜の抗菌性が酸化亜鉛膜の膜厚の変化によってばらつくことが抑えられる。
【0055】
(2)汎用的な材料であるジエチル亜鉛と水とが表面反応に用いられる形態であれば、上記(1)に準じた効果が得られるため、抗菌部材の形成方法が適用される範囲を広げることが可能でもある。
【0056】
(3)有機亜鉛化合物の供給と、酸化剤の供給とが別々に繰り返される形態であれば、有機亜鉛化合物と水との表面反応が進行することの確実性を高めることが可能でもある。
【0057】
(4)有機亜鉛化合物の供給と、酸化剤の供給とを一定の周期で繰り返す形態であれば、酸化亜鉛を主成分とする連続膜の膜厚方向において、組成のばらつきが生じることが抑えられる。
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0058】
・有機亜鉛化合物が供給される期間と、酸化剤が供給される期間とは、互いに等しい長さであってもよいし、互いに異なる長さであってもよい。また、有機亜鉛化合物が供給される期間と、酸化剤が供給される期間との少なくとも一方は、これらの供給が繰り返される周期ごとに異なる長さを有していてもよい。
【0059】
・有機亜鉛化合物が供給される期間の少なくとも一部は、酸化剤が供給される期間と重なっていてもよいし、酸化剤が供給される期間の少なくとも一部は、有機亜鉛化合物が供給される期間と重なっていてもよい。これら有機亜鉛化合物が供給される期間と、酸化剤が供給される期間とは、有機亜鉛化合物の吸着確率、酸化剤の吸着確率、有機亜鉛化合物と酸化剤との表面反応における反応速度などに応じて適宜設定されるものである。
【符号の説明】
【0060】
11…真空槽、12…保持部、13…排気部、14…供給部、15…制御部。
図1
図2
図3
図4