(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  前記位相に基づく前記他の繰り返し模様のピッチの前記位相に基づく前記一つの繰り返し模様のピッチに対するピッチ比を、被写体に表された前記他の繰り返し模様のピッチの前記被写体に表された前記一つの繰り返し模様のピッチに対するピッチ比で正規化した正規化ピッチ比を前記他の繰り返し模様の変位量に乗じて前記補正量を算出する請求項1または請求項2に記載の変位測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
  以下、図面を参照しながら本発明の第1の実施形態について説明する。
  
図3は、本実施形態に係る変位測定システム1における測定対象物と撮像部20の配置例を示す図である。
図3に示す例では、変位測定システム1は、測定対象物である橋梁Br2の複数の測定点の変位を測定する。各測定点には、マーカMk21〜Mk24が設置される。マーカMk21〜Mk24は、それぞれ鉛直方向に所定のピッチで繰り返される横縞の模様を表す。また、マーカMk21〜Mk24は、いずれもその法線方向が橋梁Br2の長手方向である橋軸方向に平行な方向に向けられている。撮像部20は、橋梁Br2の一端を支持する橋脚上に設置され、その視野内にマーカMk21〜Mk24が表される。撮像される画像においてマーカMk21〜Mk24に表される模様が繰り返される方向は垂直方向となる。これらの模様が、マーカMk21〜Mk24が設置された測定点における鉛直方向への変位量の測定に用いられる。撮像部20の位置は、橋梁Br2の中央部を起点として橋軸方向よりも下方に傾いた方向にある。橋梁Br2は、河川Rvを横切るように設けられているので、橋梁Br2の側面に垂直な方向に撮像部20を設置できない。
 
【0018】
  図3に示す配置において撮像部20が撮像した撮像画像には、4つのマーカMk21−Mk24を表す部分画像が含まれる。
図4に示すように撮像部20からの距離は、マーカMk21、Mk22、Mk24、Mk23の順に大きくなるため、マーカMk21、Mk22、Mk24、Mk23の順にその領域やピッチが小さくなる。また、マーカMk24は、橋脚の側面においてマーカMk21、Mk22、Mk23よりも低い測定点に設置される。この測定点には、橋梁Br2上における検査車両Vcの走行による振動が直接伝達しない。そのため、この測定点は、変位の基準点である基準測定点として用いられる。
 
【0019】
(変位測定装置)
  次に、本実施形態に係る変位測定システム1の構成について説明する。
  
図5は、本実施形態に係る変位測定システム1の機能構成を示すブロック図である。変位測定システム1は、変位測定装置10と撮像部20を含んで構成される。
 
【0020】
  撮像部20は、測定対象物の画像を撮像し、撮像した画像を示す画像データを記憶する記憶部を備える。撮像部20は、画像データを変位測定装置10に出力するデータインタフェースを備える。撮像部20は、例えば、所定時間毎に画像を順次撮像するデジタルビデオカメラである。撮像部20は、ユーザの操作によって指示された時点の画像を撮像するデジタルスチルカメラであってもよい。
 
【0021】
  変位測定装置10は、パラメータ入力部11、演算処理部12、および表示部13を含んで構成される。
  パラメータ入力部11には、変位の算出に用いられる各種のパラメータが入力される。パラメータ入力部11は、データインタフェースを含んで構成されてもよいし、ユーザの操作に応じて各種の情報を入力するマウス、タッチセンサ、キーボードなどの入力デバイスを含んで構成されてもよい。変位の算出に用いられるパラメータについては、演算処理部12の機能とともに説明する。
 
【0022】
  演算処理部12は、撮像部20から有線または無線で入力される画像データに基づいて測定対象物上の測定点毎の変位量を算出する。演算処理部12は、例えば、CPU(Central  Processing  Unit)などの制御デバイスを含んで構成される。制御デバイスは、所定の制御プログラムで指示される処理を実行することによって、その機能を実現してもよい。演算処理部12は、位相演算部121、変位量演算部122、ピッチ演算部123および補正演算処理部124を含んで構成される。
 
【0023】
  位相演算部121は、入力される画像データが示す画像から測定点毎に設けられた繰り返し模様の部分画像を抽出する。この部分画像は、前述の各マーカを表す部分の画像に相当する。位相演算部121は、各部分画像を形成する所定の解像度の画素毎の輝度値を所定の間引き間隔で間引いて間引き画像を生成する。位相演算部121は、生成した間引き画像を補間して所定の解像度のモアレ画像の位相を算出する。位相演算部121は、算出したモアレ画像の位相を変位量演算部122とピッチ演算部123に出力する。モアレ画像の位相の算出については後述する。
 
【0024】
  変位量演算部122は、位相演算部121から入力されたその時点のモアレ画像の位相から、所定の基準時刻におけるモアレ画像の位相の位相差を測定点毎に算出する。変位量演算部122は、算出した位相差に基づいて測定点毎に変位量を算出する。変位量演算部122は、算出した変位量を補正演算処理部124に出力する。
 
【0025】
  ピッチ演算部123は、位相演算部121から入力されたモアレ画像の位相の勾配と、上述の間引き間隔に基づいて繰り返し模様のピッチを測定点毎に算出する。ピッチ演算部123は、算出したピッチを補正演算処理部124に出力する。
 
【0026】
  補正演算処理部124は、ピッチ演算部123から入力される測定点毎のピッチに対する、所定の基準測定点のピッチの比であるピッチ比を算出し、算出したピッチ比を変位量演算部122から入力される当該基準測定点の変位量に乗算して補正量を算出する。補正演算処理部124は、変位量演算部122から入力された測定点毎の変位量から、算出した補正量を差し引いて当該測定点の補正後の変位量を算出する。補正演算処理部124は、算出した補正後の変位量を表示部13に出力する。
 
【0027】
  表示部13は、補正演算処理部124から入力される測定点毎の変位量を表す情報を表示する。表示部13による変位量は、いかなる態様で表現されてもよい。表示部13は、例えば、測定点毎の変位量を数値で表してもよいし、測定点に対応する画像上の座標に、変位量に相当する長さを有する図形で変位量を表してもよい。
 
【0028】
(モアレ画像の位相の算出)
  次に、モアレ画像の位相の算出方法の例について説明する。
  位相演算部121は、モアレ画像の位相を算出する手法としてサンプリングモアレ法を用いることができる。サンプリングモアレ法には、単一周波数成分を用いた任意の解析ピッチによる変位分布解析方法と、複数周波数成分を用いた任意の規則性模様による変位分布解析方法とがある。単一周波数成分を用いた任意の解析ピッチによる変位分布解析方法は、従来のサンプリングモアレ法に相当し、複数周波数成分を用いた任意の規則性模様による変位分布解析方法の特殊なケースとみなすことができる。単一周波数成分を用いた任意の解析ピッチによる変位分布解析方法は、測定対象物の表面に所定の方向に等間隔で繰り返される規則性模様に適用可能である。規則性模様として、例えば、輝度値が一定のピッチで水平方向または垂直方向に繰り返される正弦波または矩形波の縞格子が利用可能である。
図3、4に示すマーカMk21−Mk24に表される模様は矩形波の縞格子である。解析ピッチは、間引き画像を生成する際の間引き間隔に相当する。以下の説明では、縞格子を表す画像を縞格子画像と呼ぶことがある。複数周波数成分を用いた任意の規則性模様による変位分布解析方法は、測定対象物の表面に所定の方向に、等間隔で2周期以上の繰り返しを有する規則性模様に適用可能である。この規則性模様は、その所定の方向への変位量の測定に用いられる。規則性模様として、正弦波または矩形波の縞格子に限らず、周期毎に繰り返される模様として任意の形状の模様、例えば、文字であっても適用可能である。
 
【0029】
  次に、単一周波数成分を用いた任意の解析ピッチによる変位分布解析方法について説明する。次に説明する例では、繰り返しの方向が水平方向である場合を例にする。位相演算部121が取得した画像データが示す縞格子画像の輝度分布f(i,j)は、式(1)で表される。
 
【0031】
  式(1)において、f(i,j)は、座標(i,j)における輝度値を示す。i、jは、それぞれ水平方向、垂直方向の座標値を示す。a、b、φ
0、φは、それぞれ縞格子の振幅、背景輝度、縞格子の初期位相、縞格子の位相である。Pは、画像上のピッチ間隔である。
  位相演算部121には、パラメータとして所定の間引き間隔Tを設定しておく。Tは、2以上の整数である。Tの単位はPixel(画素数)である。Tは、Pと等しくてもよいし、異なっていてもよい。ここで、位相演算部121は、間引きの開始点kとして0からT−1までのそれぞれについて、T個の間引き画像を生成する。位相演算部121は、T個の間引き画像のそれぞれについて、互いに隣接する間引き後の画素の輝度値を補間して、間引き前と同様の間隔で配置された画素毎の輝度値を有するモアレ画像を生成する。間引き画像を生成する手法、モアレ画像を生成する手法として、例えば、特許4831703号公報に記載の手法が利用可能である。生成されたモアレ画像の輝度値f
M(i,j;k)は、式(2)で表される。
 
【0033】
  位相演算部121は、M個のモアレ画像のそれぞれについて、離散フーリエ変換を行い任意の周波数ωの成分における位相分布φ
M(i,j;ω)と振幅分布a
M(i,j;ω)を算出する。位相分布φ
M(i,j;ω)は、式(3)で表される。
 
【0035】
  振幅分布a
M(i,j;ω)は、式(4)で表される。
 
【0037】
  位相演算部121は、他の時刻で撮像された画像データについても同様な処理を行って、モアレ画像の位相分布φ
M(i,j;ω)と振幅分布a
M(i,j;ω)を算出する。
 
【0038】
  変位量演算部122は、ある時刻における位相分布φ’
M(i,j;ω)から所定の基準時刻における位相分布φ
M(i,j;ω)の差である位相差Δφ
M(i,j;ω)を算出する。そして、変位量演算部122は、式(5)に示すように位相差Δφ
M(i,j;ω)と模様のピッチpに基づいて変位分布Δx(i,j;ω)を算出する。
 
【0040】
  式(5)において、pは測定対象物に表された模様のピッチの現実の長さを表す。pの単位は、mm、m等である。変位量演算部122には、変位の算出に用いられるパラメータの一部として予め設定しておく。なお、上述のピッチ間隔Pは、画像上における模様のピッチ(単位:画素数)である点でpとは別個のパラメータである。
  そして、変位量演算部122は、算出した変位分布Δx(i,j;ω)に振幅分布a
M(i,j;ω)もしくは、そのパワーに比例する重み係数を乗算して得られた乗算値を周波数間で合成して、周波数間で平均された変位分布Δx(i,j)を算出する。
 
【0041】
  次に、複数周波数成分を用いた任意の規則性模様による変位分布解析方法について説明する。この変位分布解析方法は、特許文献3において詳しく説明されている。位相演算部121が取得した画像データが示す規則性模様の画像の輝度値g(i,j)は、式(6)で表される。
 
【0043】
  式(6)において、g(i,j)は、座標(i,j)における輝度値を示す。w、a
w、φ
w,0は、それぞれ周波数成分の次数、w次の周波数成分の振幅、w次の周波数成分の初期位相である。wは、1以上であってW以下の整数である。Wは、周波数成分の最大次数を示す。Wは、サンプリング定理によりP/2よりも小さく、かつ2以上の整数であればよい。Pは、画像に表された規則性模様のピッチ(単位:画素数)を示す。位相演算部121には、最大次数Wを予め設定しておく。
  位相演算部121は、取得した規則性模様の画像を間引き間隔Tで水平方向に対して間引いて間引き画像を生成する。位相演算部121は、間引きの開始点kとして0からT−1までのそれぞれについて、T個の間引き画像を生成する。位相演算部121は、M個の間引き画像のそれぞれについて、互いに隣接する間引き後の画素の輝度値を補間して、間引き前と同様の間隔で配置された画素毎の輝度値を有する位相がシフトしたモアレ画像を生成する。それぞれのモアレ画像の輝度値g
M(i,j;m)は、式(7)で表される。
 
【0045】
  式(7)は、モアレ画像が低次から高次までの各周波数成分のフーリエ級数で表されることを示す。もとの画像からモアレ画像を生成することは、もとの画像が表す模様に対する一種の拡大現象である。モアレ画像のうち空間周波数が低い成分は、主に規則的な模様成分として表れる。周波数成分が高い成分は、主に不規則な模様の成分として表れる。各次数の輝度値g
M(i,j;m)の周波数成分g
w,M(i,j;m)は、式(8)で表される。従って、W個の輝度値の周波数成分g
w,M(i,j;m)が算出される。
 
【0047】
  位相演算部121は、M個のモアレ画像のそれぞれについて、離散フーリエ変換を行い任意の周波数ωの成分における位相分布φ
M(i,j;ω)を算出する。位相演算部121は、式(2)が示す輝度値f
M(i,j;m)に代えて、各次数の輝度値の周波数成分g
w,M(i,j;m)を代入して各次数の位相分布φ
w,M(i,j;w,ω)を算出する。ある時刻における位相分布φ
w,M(i,j;w,ω)と基準時刻における位相分布φ’
M(i,j;w,ω)は、変位量演算部122において、変位分布Δx(i,j;w,ω)を算出するために用いられる。変位量演算部122は、算出した変位分布Δx(i,j;w,ω)に次数ならびに周波数毎の振幅分布a
M(i,j;w,ω)もしくは、そのパワーに比例する重み係数を乗算して得られた乗算値を次数ならびに周波数間で合成して、次数ならびに周波数間で平均された変位分布Δx(i,j)を算出してもよい。
 
【0048】
  従って、複数周波数成分を用いた任意の規則性模様による変位分布解析方法では、基本周波数である一次(w=1)の周波数成分の他、高次の周波数成分を考慮してモアレ画像の位相分布が算出される。そのため、変位の測定において任意の規則性模様を利用することができ、かつ測定誤差が少ない高精度の測定が可能になる。
  なお、変位量演算部122は、算出した変位分布Δx(i,j)のうち、各マーカの代表点(例えば、中心点)における変位もしくは各マーカ内の変位の平均値を、各マーカが設置された測定点における変位量として定めてもよい。
  また、上記の説明では水平方向の処理を例にしたが、位相演算部121、変位量演算部122は、上述した水平方向の処理を垂直方向に適用した垂直方向の処理を行ってもよいし、水平方向の処理と垂直方向の処理を併用してもよい。
 
【0049】
(ピッチの算出)
  次に、ピッチ演算部123がピッチを算出する手法について説明する。
  ピッチ演算部123は、位相演算部121が算出した周波数成分毎のモアレ画像の水平方向の位相勾配g
x(φ
M(i,j;ω))を、例えば、式(9)を用いて算出する。
 
【0051】
  式(9)は、水平方向の正方向に隣接する画素における位相から負方向に隣接する画素における位相の差を2で除算して、水平方向の位相勾配g
x(φ
M(i,j;ω))を算出することを示す。
  ピッチ演算部123は、算出した位相勾配g
x(φ
M(i,j;ω))と間引き間隔Tに基づいて測定対象物に表された水平方向のピッチ分布P
x(i,j;ω)を、例えば、式(10)を用いて算出する。
 
【0053】
  そして、ピッチ演算部123は、周波数毎のピッチ分布P
x(i,j;ω)に振幅分布a
M(i,j;ω)もしくは、そのパワーに比例する重み係数を乗算して得られた乗算値を周波数間で合成して、周波数間で平均されたピッチ分布P
x(i,j)を算出する。なお、次数wに依存する位相分布φ
M(i,j;w,ω)を取得した場合には、ピッチ演算部123は、位相分布φ
M(i,j;ω)に代えて位相分布φ
M(i,j;w,ω)を用いてピッチ分布P
x(i,j;w,ω)を算出する。そして、ピッチ演算部123は、ピッチ分布P
x(i,j;w,ω)に次数ならびに周波数毎の振幅分布a
M(i,j;w,ω)もしくは、そのパワーに比例する重み係数を乗算して得られた乗算値を次数ならびに周波数間で合成して、次数ならびに周波数間で平均されたピッチ分布P
x(i,j)を算出してもよい。
 
【0054】
  垂直方向のモアレ画像が生成される場合には、ピッチ演算部123は、周波数成分毎のモアレ画像の垂直方向の位相勾配g
y(φ
M(i,j;ω))を、例えば、式(11)を用いて算出する。
 
【0056】
  ピッチ演算部123は、位相勾配g
x(φ
M(i,j;ω))に代えて算出した位相勾配g
y(φ
M(i,j;ω))を式(10)に代入して周波数毎のピッチ間隔P
y(i,j;ω)を算出する。そして、ピッチ演算部123は、周波数毎のピッチ間隔P
y(i,j;ω)周波数毎の振幅分布に基づいて周波数間で平均されたピッチ分布P
y(i,j)を算出する。また、次数wに依存する位相分布φ
w,M(i,j;w,ω)を取得した場合についても、ピッチ演算部123は、水平方向の処理を垂直方向の処理に適用して次数ならびに周波数間で平均されたピッチ分布P
y(i,j)を算出することができる。
  なお、変位量演算部122は、算出したピッチ分布P
x(i,j)、P
y(i,j)のうち、各マーカの代表点(例えば、中心点)におけるピッチもしくは各マーカ内のピッチの平均値を、各マーカが設置された測定点におけるピッチP
x、P
yとして定めてもよい。
 
【0057】
(変位量の補正)
  次に、補正演算処理部124が測定点毎のピッチに基づいて、変位量を補正する手法について説明する。補正演算処理部124は、各測定点におけるピッチP
xに対する所定の基準測定点におけるピッチP
x,0の比であるピッチ比P
x,0/P
xを算出する。補正演算処理部124は、式(12)に示すように、各測定点における水平方向の変位Δxから、ピッチ比P
x,0/P
xに基準測定点における変位Δx
0を乗算して得られる補正量を差し引くことによって補正後の水平方向の変位Δx’を算出する。
 
【0059】
  基準測定点における変位Δx
0にピッチ比P
x,0/P
xを乗じて補正量を算出することにより、撮像部20から各測定点までの距離に応じて異なる画像上での縮尺の差異が補償される。
  なお、補正演算処理部124は、各測定点における垂直方向の変位Δyについても、同様な手法によって補正することができる。その場合、補正演算処理部124は、垂直方向の変位Δyからピッチ比P
y,0/P
yに基準測定点における変位Δy
0を乗算して得られる補正量を差し引いて補正毎の垂直方向の変位Δy’を算出する。
 
【0060】
(変位測定処理)
  次に、本実施形態に係る変位測定処理について説明する。
図6は、本実施形態に係る変位測定処理を示すフローチャートである。
(ステップS101)撮像部20は、所定のピッチで繰り返される繰り返し模様を表すマーカが測定点毎に設置された測定対象物の画像を撮像し、撮像した画像を示す画像データを記録する。その後、ステップS102に進む。
(ステップS102)パラメータ入力部11には、変位の解析に用いられる各種のパラメータが入力され、演算処理部12は、入力されたパラメータを設定する。その後、ステップS103に進む。
 
【0061】
(ステップS103)位相演算部121は、記録した画像データが示す各マーカの繰り返し模様を表す画素毎の輝度値を所定の間引き間隔で間引いて間引き画像を生成する。位相演算部121は、生成した間引き画像をそれぞれ補間して得られるモアレ画像の位相を算出する。変位量演算部122は、その時点における位相から所定の基準時刻における位相の位相差に基づいて、マーカ毎に変位量を算出する。ピッチ演算部123は、モアレ画像の位相勾配と間引き間隔に基づいて繰り返し模様のピッチをマーカ毎に算出する。その後、ステップS104に進む。
 
【0062】
(ステップS104)補正演算処理部124は、各マーカについて算出した変位量から、測定基準点における変位量に各マーカにおけるピッチに対する当該測定基準点におけるピッチの比を乗じて得られる補正量を差し引いて補正後の変位量を算出する。その後、ステップS105に進む。
(ステップS105)表示部13は、各マーカについて算出された補正後の変位量を変位計測結果として表示する。その後、
図6に示す処理を終了する。
 
【0063】
(実施例1)
  次に、本実施形態の実施例1として、橋梁の変位量の一測定例について説明する。
図7は、本実施例に係る撮像画像の例を示す図である。
  
図7に示す例では、橋梁Br3の壁高欄に6個のマーカMk31〜Mk36を橋軸方向に一定間隔に設置しておく。橋梁Br3は、PRC(Prestressed  Reinforced  Concrete)箱桁橋とPRC3径間連続2主版桁橋とから構成される。各マーカMk31〜Mk36には、いずれも鉛直方向に所定のピッチで繰り返される繰り返し模様として横縞が表されている。各マーカMk31〜Mk36の主面は、橋軸方向に向けられている。本実施例では、マーカMk31〜Mk36それぞれの中心点を測定点として、
図7(a)に示す散水車の通過前の撮像画像と、
図7(b)に示す2台の散水車Vc1、Vc2の通過中の撮像画像とを用いて変位量を測定した。撮像部20は、マーカMk31〜Mk36の全てが表れるように、マーカMk31〜Mk36とほぼ同じ高さであって、橋脚の側面よりも橋軸に近い方向に設置させた。
 
【0064】
  図8は、本実施例に係る変位量の測定例を示す図である。
図8(a)、(b)はそれぞれ従来のサンプリングモアレ法、本実施形態に係る変位測定方法、を用いて測定された橋梁Br3の中央部に設置した測定点における変位量の例を示す。いずれも、縦軸、横軸は、変位量、時刻を示す。
  
図8(a)、(b)ともに散水車Vc1、Vc2の通過に伴い、橋梁Br3がたわむために鉛直方向の変位量Δyが大きくなることを表す。時刻13s、16s付近において、散水車Vc1、Vc2の通過に伴う変位量Δyのピークが表れる。但し、
図8(a)に示す例では、散水車Vc2の通過後において変位量Δyが急激に上向きに変位する。このことは、散水車Vc2の通過前よりも橋梁Br3が浮き上がることを意味する。変位量Δyの谷は、時刻18s、21s付近に表れ、時刻22s以降にならないと変位量Δyが0に収束しない。このような変位量Δyの挙動は、主に散水車Vc1の通過直後に生じる風の風圧を受けることによって撮像部20の位置や向きが変化すること(ぶれ)が主因と考えられる。これに対し、
図8(b)に示す例では、散水車Vc2の通過後における変位量Δyの急激な変化は現れず、変位量Δyは直ちにほぼ0に収束する。この結果は、撮像部20からの距離によって観測されるピッチの差異に基づいて、撮像部20の位置や向きの変化による誤差が解消されることを示す。
 
【0065】
  図9は、本実施例に係る変位量の他の測定例を示す図である。
図9に示す例では、1台の散水車の通過前後にわたる橋梁Br3の中央部における変位量を示す。
図9(a)、(b)は、それぞれリング式変位計、本実施形態に係る変位測定方法、を用いて測定された1つの測定点における変位量の例を示す。いずれも、時刻8s付近においてピーク値として0.8mm、0.75mmが得られ、時刻9s以降において変位量がほぼ0に収束することを示す。この結果は、本実施形態に係る変位測定方法によってもリング式変位計と同等の測定精度が得られることを示す。また、本実施形態に係る変位測定方法では、撮像画像を用いて一度に複数の測定点の変位量を測定することができる点でリング式変位計よりも実用性が向上する。
 
【0066】
(実施例2)
  次に、本実施形態の実施例2として、橋梁の変位量の他の測定例について説明する。
  
図10は、本実施形態の実施例2に係る撮像部20と各マーカの設置例を示す図である。
図10(a)は、撮像部20の配置を示す。撮像部20は橋台の頭頂部に設置される。また、撮像部20の撮像方向は、水平方向よりも上向きの方向であって、その撮像方向を平面視した方向は橋軸の方向に平行である。
図10(b)は、橋梁Br4に設置された5個のマーカMk41〜Mk45の配置を示す。マーカMk41〜Mk44は、互いに同じ高さであって、橋軸の方向に異なる位置に設置される。マーカMk41〜Mk44それぞれの位置は、1つの橋スパンの一端から1/4点、1/2点(中央)、3/4点、1点(他端)である。マーカMk45は、撮像部20が設置された橋台に隣接する橋脚の頂点に固定点として設置されている。マーカMk45の高さは、他のマーカMk41〜Mk44の高さよりも低い位置に設置されている。マーカMk45の中心点は、基準測定点として用いられる。マーカMk45が設けられる橋脚には、橋梁Br4の振動が直に伝達しないので、この基準測定点は固定点として用いられる。この配置により、マーカMk41〜Mk45を表す画像は、いずれも撮像部20が撮像した画像に含まれる。
 
【0067】
  図11は、
図10に示す配置において橋梁Br4を1台の車両が時速60kmの運転速度で通過する前後に測定されたマーカMk42での変位量を示す。橋梁Br4は、PC(Prestressed  Concrete)3径間連続波形鋼板ウェブ箱桁橋である。
図11(a)において、太線は橋梁Br4の中央部における変位量、細線は固定点における変位量を示す。固定点には車両の振動が伝わらないため、この変位量の変化は、主に計測最中に発生する振動による撮像部20の位置や撮影方向の変化に起因する。車両は、太線が示す変位量が最小となる時刻23sの後である時刻25sから最大となる時刻である27sの後である時刻28sまでの時間を含む時間帯において橋梁Br4を通過する。
図11(b)は、従来の補正方法に基づいて得られた橋梁Br4の中央部における補正後の変位量を示す。この変位量は、
図11(a)において太線が示す変位量から細線が示す変位量を単純に差し引いて得られる。時刻23sにおいて変位量は最小となり、時刻27sにおいて変位量は最大となる。時刻23sで変位量が最小となるのは、主に車両が隣の橋脚スパンを通過した際に発生する橋梁の浮き上がりに起因する。時刻27sにおいて変位量が最大となるのは、車両が橋梁Br4の中央を通過する時にたわみが最も大きくなることを示している。したがって、車両通過後である時刻30s以降において本来であれば、橋梁Br4は元の位置に戻って変位量が0に収束するはずである。しかしながら、時刻30sを経過しても変位量は0に収束しない。
図11(c)は、本実施形態に係る補正方法に基づいて得られた橋梁Br4の中央部における補正後の変位量を示す。補正量として、固定点における変位量に固定点におけるピッチの測定点におけるピッチに対するピッチ比を乗じて得られる値が用いられる。
図11(c)に示す変位量は、車両の通過前の時刻18s以前、通過後の時刻29s以降においてほぼ0に収束する。これらの結果は、撮像部20から各測定点までの距離が異なる場合であっても、撮像部20の位置や撮影方向の変化による影響を解消することができることを示す。
 
【0068】
  以上に説明したように、本実施形態に係る変位測定装置10は、一定のピッチを有する模様が空間的に繰り返される2つ以上の繰り返し模様の画像を取得し、繰り返し模様について、所定の間引き間隔で間引きして生成される間引き画像を補間して得られるモアレ画像の位相を算出する位相演算部121を備える。変位測定装置10は、一時点における位相から他の時点における位相との差に基づいて繰り返し模様の変位量を算出する変位量演算部122を備える。また、変位測定装置10は、一つの繰り返し模様の変位量から、他の繰り返し模様のピッチの一つの繰り返し模様のピッチに対する比を乗じた他の繰り返し模様の変位量を差し引く補正演算処理部124を備える。
  この構成により、撮像部20から各測定点までの距離が異なる場合であっても、各測定点に設置された繰り返し模様のピッチに基づいて、他の繰り返し模様が設置された測定点における変位量を基準として、一つの繰り返し模様が設置された変位量が補正される。撮像された画像に基づいて一度に複数の測定点の変位量を高い精度で測定するために、各測定点までの距離が等しいと近似できる位置に撮像部20を設置する必要がなくなる点で設置条件の制約が緩和される。
 
【0069】
  また、変位測定装置10は、モアレ画像の位相の勾配に基づいて繰り返し模様のピッチを算出するピッチ演算部123、をさらに備える。
  この構成により、撮像部20と各測定点に設置された繰り返し模様との位置関係に応じて異なる繰り返し模様のピッチを、撮像された画像から取得することができる。そのため、測定点毎のピッチを予め別個の手段で取得ならびに設定する必要がなくなる。
 
【0070】
(第2の実施形態)
  以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について説明する。上述した実施形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を援用する。
  
図12は、本実施形態に係る変位測定システム1Aにおける測定対象物と撮像部20の配置例を示す図である。
図12に示す例では、変位測定システム1Aは、測定対象物である橋梁Br5の複数の測定点の変位を測定する。各測定点には、マーカMk51〜Mk55が設置される。マーカは、それぞれ鉛直方向に所定のピッチで繰り返される横縞の模様を表す。また、マーカMk51〜Mk53は、いずれも橋梁Br5の側面に表示または貼付されている。マーカMk54、Mk55は、橋脚の側面に表示または貼付されている。撮像部20は、橋梁Br5の側面に対して交差する方向であって、橋梁Br5が横切る河川Rvの河岸の一方に設置される。
 
【0071】
  図12に示す配置において撮像部20が撮像した撮像画像には、5つのマーカMk51〜Mk55を表す部分画像が含まれる。
図13に示すように撮像部20からの距離は、マーカMk51、Mk54、Mk52、Mk53、Mk55の順に大きくなるため、マーカMk51、Mk54、Mk52、Mk53、Mk55の順にその領域やピッチが小さくなる。また、橋梁Br5の側面が、撮像部20の撮影方向に対して直交していない斜め方向であるため、撮像される画像に表れるマーカMk51〜Mk55の垂直方向の幅は、一定にならない。
図13に示す例では、幅は右方ほど広がる。そのため、撮像画像に表されたマーカMk51−Mk55の形状は、台形となる。特に広角レンズを用いて被写体の表面に対して斜め方向から画像を撮影する場合には、その影響がより顕著である。また、マーカMk54、Mk55は、橋脚の側面であって、マーカMk51〜Mk53よりも低い測定点に設置される。マーカMk54、Mk55には、橋梁Br5における検査車両Vcの走行による振動が直接伝達しない。そのため、マーカMk54、Mk55の一方または両方の代表点は、基準測定点として用いられる。
 
【0072】
(変位測定装置)
  次に、本実施形態に係る変位測定システム1Aの構成について説明する。
  
図14は、本実施形態に係る変位測定システム1Aの機能構成を示すブロック図である。変位測定システム1Aは、変位測定装置10Aと撮像部20を含んで構成される。
 
【0073】
  変位測定装置10Aは、パラメータ入力部11、演算処理部12A、および表示部13を含んで構成される。
  演算処理部12Aは、撮像部20から有線または無線で入力される画像データに基づいて測定対象物上の測定点毎の変位量を算出する。演算処理部12Aは、例えば、CPU(Central  Processing  Unit)などの制御デバイスを含んで構成される。制御デバイスは、所定の制御プログラムで指示される処理を実行することによって、その機能を実現してもよい。演算処理部12Aは、位相演算部121、変位量演算部122、射影変換部125、補間処理部126、および補正演算処理部127を含んで構成される。
 
【0074】
  射影変換部125は、撮像部20から入力される画像データが示す画像を射影変換する。射影変換部125は、画像を構成する所定の座標毎に射影変換により得られた変換後の座標と、変換後の座標毎の輝度値を示す変換画像データを補間処理部126に出力する。変換前の各座標は、水平方向ならびに垂直方向のそれぞれについて、所定の間隔(画素ピッチ)で2次元平面上に配列されている。射影変換は、斜め方向視して得られる撮像画像の座標(i,j)から正面方向視して得られる撮像画像の座標(I,J)である対応点への変換である。射影変換の詳細については後述する。
 
【0075】
  補間処理部126は、射影変換部125から入力される変換画像データが示す変換後の座標毎の輝度値を線形補間して、所定の座標毎の輝度値を算出する。この所定の座標の配置は、変換前の座標の配置と同一であってもよい。線形補間の手法として、バイリニア法、バイキュービック法など、公知の補間方法を利用することができる。射影変換によれば画素の密度に偏りが生じるが、補間により均一に分布した画素毎の輝度値が得られる。補間処理部126は、算出した各座標の輝度値を示す補間画像データを位相演算部121に出力する。位相演算部121は、撮像部20から入力される画像データが示す画像に代えて、補間画像データが示す画像に基づいてモアレ画像の位相分布を算出する。
 
【0076】
  補正演算処理部127は、変位量演算部122から入力された測定点毎の変位量Δxから、所定の測定基準点における変位量Δx
0を差し引いて当該測定点の補正後の変位量Δx’を算出する。補正演算処理部127は、算出した補正後の変位量を表示部13に出力する。即ち、本実施形態では、補正演算処理部127において所定の測定基準点における変位量は、ピッチ比を乗算しない点で第1の実施形態とは異なる。本実施形態に係る変位測定装置10Aも、水平方向の処理に代えて、もしくは水平方向の処理と垂直方向の処理を行ってもよい。
 
【0077】
(射影変換)
  次に、射影変換部125が行う射影変換の処理について説明する。
図15は、射影変換の一例を示す図である。射影変換を行う前における、変換前の座標(i,j)と射影変換によって与えられる対応点の座標(I,J)との関係を式(13)に示す。
 
【0079】
  式(13)において、a
1,a
2,…,a
8は、射影変換パラメータである。射影変換パラメータa
1,a
2,…,a
8は、4点以上の変換前の座標(i,j)と対応点の座標(I,J)との関係があれば算出可能である。また、変換前の座標と対応点のセットの数が多いほど、より安定した精度の高い射影変換を実現できる射影変換行列を求めることができる。そこで、射影変換部125には、パラメータとして4点以上の変換前の座標と、それぞれに対応する対応点の座標とのセットを設定しておく。
図15(a)は変換前の座標の例を示す。変換前の座標は、撮像画像のうち□印でそれぞれ囲まれる継ぎ目の交点の座標である。継ぎ目は、それぞれ輝度値が急激に低下する線形の部分により表される。射影変換部125は、互いに交差する方向への輝度値の勾配が、所定の勾配よりも大きい部分の座標を変換対象の変換前の座標として定めることができる。橋梁Br6の側面において、継ぎ目は格子状に配置されているため、変換後に与えられる対応点の座標を定める際に好都合である。
図15(a)に示す例では、橋梁Br6の側面において水平方向に20個、垂直方向に3個、計60個の交点の座標が変換前の座標として選択されている。
  
図15(b)は、変換後の対応点の座標の配置例を示す。変換後の対応点は、互いに直交する直線からなる直交格子の各格子点上に配置される。各格子点の座標は、水平方向ならびに垂直方向に等間隔に分布する対応点の座標に相当する。この例では、被写体である橋梁やビルディングなどのインフラ構造物の形状が長方体であること、または、被写体の表面に表れている特徴点が一定の空間周期で繰り返されていることを利用している。すなわち、一般的な射影変換では、変換前後の2枚の画像を必要とするのに対して、本実施形態は、変換前の1枚の画像のみを用いて射影変換を行う点に特徴がある。
 
【0080】
  射影変換部125は、変換前の座標と対応点の座標のセットをパラメータとして用いることにより、式(14)に示すように最小二乗法を用いて射影変換パラメータa
1,a
2,…,a
8を算出する。
 
【0082】
  式(14)において、ベクトル{a}は、[a
1,a
2,a
3,a
4,a
5,a
6,a
7,a
8]
Tである。Tは、ベクトルまたは行列の転置を示す。([A]
T[A])
−1は、式(15)で表される。また、[A]
T{X}は、式(16)で表される。
 
【0085】
  式(15)、(16)において、Σは、変換前の座標(i,j)と対応点の座標(I,J)とのセット間の和を示す。
  式(14)−(16)は、式(13)を展開して得られる式(17)に基づいて得られる。
 
【0087】
  式(17)をセット間で並列することによりマトリックスで表現すると式(18)が得られる。
 
【0089】
  式(18)に示すベクトル{X}は、[I,J,…]
Tと、式(17)の左辺であるI、Jをセット間で並列して得られる。行列[A]は、式(19)に示すように、式(18)の右辺の射影変換パラメータに乗じられる係数をセット間で並列して得られる。
 
【0091】
  射影変換部125は、算出した射影変換パラメータa
1−a
8を式(13)に代入し、式(13)に示す関係を用いて画像データを構成する各座標の座標(i,j)について変換後の座標(I,J)を算出する。
  通例、射影変換パラメータa
1,a
2,…,a
8の算出に用いられる画像は、射影変換の対象となる画像とは異なる時刻において撮像される。撮像部20と測定対象物の位置関係が変化しなければ、射影変換部125は、射影変換パラメータa
1,a
2,…,a
8を算出し、画像データを構成する各座標(i,j)と変換後の対応点の座標(I,J)との関係を示す変換テーブルを予め生成しておいてもよい。その場合、射影変換部125は、変換テーブルを参照して、画像データを構成する各座標(i,j)に対応する変換テーブルを参照して対応点の座標(I,J)を定める。
 
【0092】
  図15(c)は、射影変換の対象である撮像画像の一例を示す。
図15(d)は、
図15(c)に示す撮像画像について射影変換を行って得られた変換後の画像を示す。
図15(c)に示す例では、橋梁Br6の側面が水平方向と垂直方向のいずれにも交差する斜め方向に表され、側面の幅が右方に向かうほど細くなっている。これに対し、
図15(d)に示す例では、適切な射影変換を施すことで変換前の画像よりも変換後の画像において左端が拡大され、右端が縮小された結果、橋梁Br6の側面の長手方向が水平方向に配置され、側面の幅がほぼ一定となる。これにより、各測定点において同じ解析パラメータで高い精度で変位を計測できるようになる。
 
【0093】
  図16は、射影変換の他の例を示す図である。
図16(a)は、射影変換の対象である撮像画像の他の例を示す。
図16(b)は、
図16(a)に示す撮像画像について射影変換を行って得られた変換後の画像を示す。
図16(a)に示す例では、橋梁Br7の欄高部が斜め方向に表され、幅が右方に向かうほど太くなっている。これに対し、
図16(b)に示す例では、橋梁Br7の欄高部の長手方向が水平方向に配置され、欄高部の幅はほぼ一定である。
図16(c)は、
図16(a)が表す欄高部の右端部の拡大図を示す。この拡大図には、欄高部において水平方向ならびに垂直方向に一定のピッチの規則性を有する格子模様を表すマーカMk71、Mk72等が表されていることを示す。
図16(c)に示す例では、本来長方形であるマーカMk71、Mk72が拡大図において斜めに表される。
図16(d)は、
図16(b)が表す欄高部の右端部の拡大図を示す。
図16(d)に示す例では、マーカMk71、Mk72の形状が長方形に補正され、マーカMk71、Mk72に表されている模様が直交格子となる。このようにして、射影変換により撮像部20からの奥行き方向の距離が等しい複数の測定点を表す画像を得ることができる。得られた画像に表された複数の測定点にそれぞれ設置されたマーカの模様の周期は互いに等しくなる。
 
【0094】
(変位測定処理)
  次に、本実施形態に係る変位測定処理について説明する。
図17は、本実施形態に係る変位測定処理を示すフローチャートである。
図17に示す処理は、ステップS101、S106、S102、S103およびS105を有する。
図17に示す処理では、ステップS101の後、ステップS106の処理に進む。
(ステップS106)射影変換部125は、記録した画像データが示す画像を射影変換する。補間処理部126は、射影変換により得られた変換後の座標毎の輝度値を線形補間して、所定の座標毎の輝度値を算出する。その後、ステップS102、S103およびS105の処理を行う。
 
【0095】
  但し、本実施形態では、ステップS103において、位相演算部121は、補間処理部126において得られた座標毎の輝度値に基づいて間引き画像を生成する。また、
図14に示すように、変位測定装置10Aはピッチ演算部123を有しないため、ステップS103において、繰り返し模様のピッチを算出する処理は省略される。また、ステップS103の処理の後、補正演算処理部127は、測定点毎の変位量から所定の測定基準点における変位量を差し引いて補正後の変位量を算出する。その後、ステップS105の処理に進む。
 
【0096】
  図18は、各測定点における変位点の測定例を示す図である。
図18に示す例では、11個の測定点が橋梁Br8の側面に設定されている。測定点は、×印で表されている。各測定点には、格子模様を表すマーカが設置されている。11個のうち9個の測定点が橋梁のBr9の長手方向に一定間隔に設置されている。その他、橋台の側面と橋脚の側面に測定点が設定されている。橋台の側面に設定されている測定点は、基準測定点として用いられる。各測定点を起点とする矢印の長さは、垂直方向の変位量を示す。
 
【0097】
  図18(a)、(c)は、それぞれ車両Vc8の通過時に撮像された画像である。
図18(a)は、射影変換を行っていない画像とその画像に基づいて測定された変位量を示す。
図18(c)は、射影変換を行った変換後の画像とその画像に基づいて測定された変位量を示す。
図18(a)、(c)ともに、橋梁Br8の両端よりも中央部の変位量が大きい傾向を表す。但し、変位量が最も大きい部位は、
図18(a)よりも
図18(c)の方が橋梁Br8の中央部に近く、
図18(a)の方が中央部よりも橋脚に近い位置に偏っている。
 
【0098】
  図18(b)、(d)は、それぞれ車両Vc8が通過していないときに撮像された画像である。
図18(b)は、射影変換を行っていない画像とその画像に基づいて測定された変位量を示す。
図18(d)は、射影変換を行った変換後の画像とその画像に基づいて測定された変位量を示す。
図18(b)、(d)ともに、変位量が0に近似するが、測定点全体として
図18(d)に示す変位量の方が
図18(b)に変位量よりも小さい。特に、
図18(b)に示す橋脚の真上から左方に3番目に配置されている測定点における変位量が最も大きいが、
図18(d)に示すその測定点における変位量は約1/4となる。射影変換により変換後の各測定点の座標までの、撮像部20からの奥行方向の距離が等しくなるので、各測定点に表されたマーカ上の模様のピッチが等しくなる。
図18に示す測定結果は、撮像部20から各測定点までの距離に応じてピッチが異なることによる変位量の測定誤差が解消されることを示す。
 
【0099】
  以上に説明したように、本実施形態による変位測定装置10Aは、一定のピッチを有する模様が空間的に繰り返される2つ以上の繰り返し模様を表す画像を取得し、取得した画像を射影変換する射影変換部125を備える。変位測定装置10Aは、繰り返し模様について、所定の間引き間隔で間引きして生成される間引き画像を補間して得られるモアレ画像の位相を算出する位相演算部121を備える。また、変位測定装置10Aは、一時点における位相から他の時点における位相との差に基づいて繰り返し模様における変位量を算出する変位量演算部122を備える。また、変位測定装置10Aは、一つの繰り返し模様における変位量から、他の繰り返し模様の変位量を差し引く補正演算処理部127を備える。
  この構成により、撮像部20から各測定点までの距離が異なる場合であっても、撮像された画像に表される各測定点に設置された繰り返し模様のピッチが等しくなる。従来、画像に表されたピッチの差異によって、他の繰り返し模様が設置された測定点における変位量を基準として補正された一つの繰り返し模様が設置された変位量の誤差が生じていたが、この誤差が解消される。そのため、撮像された画像に基づいて一度に複数の測定点の変位量を高い精度で測定するために、各測定点までの距離が等しいと近似できる位置に撮像部20を設置する必要がなくなる点で撮像部20の設置条件の制約が緩和される。加えて、従来法では、各測定点に設置されたマーカ毎に異なる解析パラメータで変位を解析していたが、本実施形態では1つの解析パラメータで変位を解析することができる。そのため、解析時間が大幅に短縮し、解析パラメータの設定に係る作業が軽減される。
 
【0100】
  上述した実施形態に係る変位測定システム1、1Aは、次のように変形して実施されてもよい。撮像部20と変位測定装置10、10Aとは有線または無線のネットワークで接続されてもよい。また、変位測定装置10、10Aには、処理対象の画像データを撮像部20以外の他の機器を介して入力されてもよい。変位測定装置10、10Aは、撮像部20と一体化した単一の装置として構成されてもよい。
  変位測定装置10、10Aは、必ずしもパラメータ入力部11と表示部13と一体化されていなくてもよい。変位測定装置10、10Aにおいて、パラメータ入力部11と表示部13の一方または両方は省略されてもよい。
 
【0101】
  また、第1の実施形態に係る変位測定装置10には、それぞれの時点において複数の繰り返し模様を表す部分画像を表す画像データとして、複数の撮像部20がそれぞれ取得した画像データを取得してもよい。例えば、変位測定システム1において、2台の撮像部20が用いられ、一方の撮像部20が一部のマーカとして
図3に示すマーカMk21、Mk22を表す画像を撮像し、他の撮像部20が他の一部のマーカとしてマーカMk23、Mk24を表す画像を撮像してもよい。その場合、位相演算部121は、同じ時点に撮像された全てのマーカMk21〜Mk24に係るモアレ画像の位相を算出すればよい。
 
【0102】
  上述した実施形態において、位相演算部121、補間処理部126は、画素毎の信号値として輝度値を用いる場合を例にしたが、これには限られない。位相演算部121、補間処理部126は、画素毎の信号値として色信号値、例えば、赤、緑、青など各色の信号値もしくは、それらの信号値の組を用いてもよい。
  また、ピッチ演算部123がモアレ画像の位相勾配に基づいて繰り返し模様のピッチを算出する場合を例にしたが、これには限られない。ピッチ演算部123は、例えば、モアレ画像の画素毎の輝度値と、所定の方向に変位させたモアレ画像の画素毎の輝度値に基づいて自己相関を算出し、自己相関が最大となる変位量を、ピッチとして定めてもよい。また、ピッチ演算部123は、モアレ画像の画素毎の輝度値を画素間でフーリエ変換して得られる空間周波数毎のパワーが最大となる空間周波数に対応する波長をピッチとして定めてもよい。
 
【0103】
  また、上述した実施形態では、各測定点に設置されたマーカに表された模様のピッチがマーカ間で共通である場合を前提にしていたが、マーカ毎に異なっていてもよい。例えば、撮像部20からの距離が遠い測定点ほど、ピッチが大きくてもよい。その場合には、撮像部20からの距離が遠くなっても画像上に表される模様の周期が小さくならないので、撮像部20からの距離による測定精度の劣化を防止または緩和することができる。
  その場合、補正演算処理部124は、各測定点における水平方向の変位Δxから、正規化ピッチ比P
x,0・P
x’/P
x・P
x,0’に基準測定点における変位Δx
0を乗算して得られる補正量を差し引くことによって補正後の水平方向の変位Δx’を算出する。正規化ピッチ比は、式(12)に示すピッチ比P
x,0/P
xに、さらに被写体上の基準観測点に表された模様のピッチP
x,0’に対する被写体上の各測定点に表された模様のピッチP
x’の比P
x,0’/P
x’で除算して算出される。基準観測点に表された模様のピッチP
x,0’と各測定点に表された模様のピッチP
x’は、予め補正演算処理部124に設定しておけばよい。これにより、被写体上に表された模様の測定間におけるピッチの差異が補償される。
  また、補正演算処理部124、127から出力される測定点毎の変位量は、ある時点で撮像された画像に基づくその時点の変位量だけでもよいし、逐次に撮像された画像に基づく、それぞれの時点の変位量からなる時系列であってもよい。変位量の時系列は、各観測点における振動を表す。
 
【0104】
  なお、上述した実施形態における変位測定装置10、10Aの一部、例えば、演算処理部12および演算処理部12Aをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、変位測定装置10、10Aに内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
  また、上述した実施形態における変位測定装置10、10Aの一部、または全部を、LSI(Large  Scale  Integration)等の集積回路として実現してもよい。変位測定装置10または変位測定装置10Aの各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
 
【0105】
  以上、図面を参照してこの発明の実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。