特許第6565232号(P6565232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565232
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】銀の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/02 20060101AFI20190819BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C22B11/02
   C22B7/00 E
【請求項の数】9
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-45743(P2015-45743)
(22)【出願日】2015年3月9日
(65)【公開番号】特開2016-166382(P2016-166382A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡嶌 健吾
(72)【発明者】
【氏名】武田 洋
(72)【発明者】
【氏名】重弘 清隆
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−009023(JP,A)
【文献】 特開昭57−079132(JP,A)
【文献】 特開昭61−186428(JP,A)
【文献】 特開平06−340933(JP,A)
【文献】 特開平07−278689(JP,A)
【文献】 特開2015−025194(JP,A)
【文献】 米国特許第4397686(US,A)
【文献】 米国特許第4564391(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0067169(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103074497(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00−5/00
C01G 5/00−5/02
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀含有無機化合物融剤混合物に金属銀インゴットを加え、融剤の融点以上の温度で処理することを特徴とする銀の回収方法。
【請求項2】
無機化合物が、ケイ素を含むことを特徴とする請求項1記載の銀の回収方法。
【請求項3】
無機化合物が、ゼオライト、シリカ、シリカアルミナ、ガラスから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銀の回収方法。
【請求項4】
無機化合物が、ゼオライトであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銀の回収方法。
【請求項5】
銀含有無機化合物中の銀含有率が、1重量%以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の銀の回収方法。
【請求項6】
融剤の重量が、銀含有無機化合物の重量の0.3〜20倍であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の銀の回収方法。
【請求項7】
融剤が炭酸塩、水酸化物、含ホウ素化合物から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の銀の回収方法。
【請求項8】
融剤が炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の銀の回収方法。
【請求項9】
融剤による処理が、空気中でなされることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の銀の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀含有無機化合物から金属銀を分離回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属銀は、古くから高級食器や宝飾品として広く利用され、又、工業用途では写真感光材などの原料である硝酸銀や銀ロウ、メッキ用電極としても用いられてきた。又、近年では、電子機器類の配線や、様々な化学反応に対する触媒、吸着剤の構成成分としても多用されており、非常に重要な物質である。
【0003】
金属銀は通常、銅や鉛を得るための電解精錬時の副生物として得られる。しかしながら、銀は埋蔵量が少ない稀少金属であり供給量に制限がある。その為、近年では銀を含む廃棄物や使用済み触媒等から効率的に回収する技術が検討されている。
【0004】
例えば、銀を含む物質を硝酸で処理し、銀を硝酸銀として溶解させ、この水溶液に塩酸を添加することで塩化銀を析出させ、濾過にて分離回収後、更に水素にて還元することで金属銀を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では工程数が多いため、設備投資額が嵩み、銀のロス量が多く、更に、硝酸、塩酸、水素等の薬剤を多量に使用するためランニングコストが高額になるなど、多くの課題があった。
【0005】
別法として、ハロゲン化銀や硫酸銀を含む原料をアンモニア溶液により浸出し、該浸出液に2段階でヒドラジンを添加することで銀イオンを還元処理し、得られる金属銀を濾過によって分離回収する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法も工程数が多く、設備投資額が高く、更には薬剤としてヒドラジン等を使用するため、変動費が嵩むといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−80919号公報
【特許文献2】特開2000−297332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたもので、銀含有無機化合物から金属銀を効果的、効率的に回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、銀含有無機化合物から金属銀を回収する方法について、鋭意検討した結果、特定の薬剤と混合し、加熱処理することで金属銀を容易に分離回収できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、銀含有無機化合物に融剤を混合し、融剤の融点以上の温度で処理することで、金属銀を分離回収する方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、触媒や吸着剤として使用した後の銀を含むゼオライトやシリカ等から、効果的かつ効率的に金属銀を回収することができる。又、工程数が少なく、設備がコンパクトで、設置面積も小さくできる事から、設備投資額を抑えることができる。又、運転操作性も容易である。更に、安価な薬剤を使用することでランニングコストも抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明における銀含有無機化合物とは、銀を含む無機化合物であれば特に限定しない。具体的には銀が、銀塩、銀イオン、酸化銀、金属銀等を例示でき、より具体的には、無機イオン交換体などに銀イオンとして吸着させたものや、酸化物として担持させたもの等を例示できる。銀含有無機化合物中の銀含有率は、特に限定しない。好ましくは、銀含有率が1重量%以上である。1重量%より低いと融剤の使用量に対して、回収できる銀量が少ないため、効率がやや低下する。より好ましい銀含有率は2重量%以上である。無機化合物中での銀の存在状態は、物理的に吸着していても、化学的に結合していても構わない。
【0013】
本発明の無機化合物とは、無機物質を主成分とするものであって、組成等は特に限定しない。又、少量の有機物や樹脂等が含まれていても構わない。無機化合物は、具体的にはケイ素を含むゼオライト、シリカ、シリカアルミナ、ガラス、炭化ケイ素やアルミナ、ジルコニア、活性炭、グラファイト、等を例示できる。好ましくは、融剤との反応性の面からケイ素を含む化合物であり、より好ましくはゼオライト、シリカ、シリカアルミナ、ガラスである。更に好ましくはゼオライトで、触媒や吸着剤として使用した後の使用済みのものでも好適に用いることができる。
【0014】
本発明の融剤とは、加熱することで溶融し、銀化合物を金属銀に転化し、無機化合物の一部又は全部と反応するものであれば特に限定しない。具体的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、ホウ酸、ホウ砂、メタホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム等ホウ素化合物、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム等の含フッ素化合物、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムの硝酸塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸塩を例示できる。より好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂である。銀含有無機化合物に対する融剤の重量は、銀化合物を金属銀に転化できる量であれば特に限定しない。融剤の添加量が少なすぎると、無機化合物の分解が不十分となり、銀の回収率が低下し、過剰に添加すると薬剤コストが嵩む。好ましくは、融剤の重量が、銀含有無機化合物の重量の0.3〜20倍、より好ましくは0.5〜15倍である。
【0015】
本発明は、融剤の融点以上の温度とすることを必須とする。融剤の融点以上の温度で処理することで、銀化合物を金属銀に転化し、無機化合物の一部又は全てが融剤と反応するからである。加熱処理温度は高いほど、生成した金属銀粒子の成長や凝集沈降を促進できるため好ましいが、高すぎるとエネルギーコストが高く、装置材質も高級なものとなる。好ましくは加熱処理温度は、融剤の融点〜1,400℃、より好ましくは、融剤の融点+50℃〜1,300℃である。銀含有無機化合物と融剤は予め混合しておいても、或いは加熱処理している中へ別々に供給しても、同時に供給してもいずれであっても構わない。又、撹拌はあっても無くても構わない。好ましくは、撹拌することである。撹拌により銀含有無機化合物と融剤の反応を促進でき、銀粒子の凝集沈降を促進できる。銀含有無機化合物と融剤を反応させる際のガス雰囲気は特に限定しない。具体的には、空気中、不活性ガス中、還元性ガス中、酸化性ガス中、いずれであっても構わない。好ましくは、空気中であり、雰囲気を制御する必要がなく運転操作が容易になる。又、理由は定かではないが、空気中で加熱処理することで、得られる金属銀の純度を高めることができる。
【0016】
このようにして生成した金属銀は、反応槽の下部に沈降するので、回収が容易である。金属銀の回収は、冷却後、固化させてから回収しても、熱時に回収しても構わない。又、無機化合物と融剤、或いはその反応生成物の抜き出しも、冷却固化させてからでも、熱時であっても構わない。
【0017】
本発明の方法で回収した金属銀は、そのまま、あるいはさらに精製して高純度な金属銀として利用できる。
【0018】
そして、無機化合物、融剤、及びその反応生成物は、セメントやガラスの原料として再利用できることもある。この場合、環境保全の面、資源活用の面から社会への貢献も大きくなる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
なお、本発明における無機成分の分析は、酸にて溶解後、誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP−AES)を用い、絶対検量線法にて定量した。又、得られた金属銀の純度は、100%から定量できた無機不純物の含量を差し引くことで求めた。
【0021】
実施例1
銀含有無機化合物として使用済ゼオライトを用いた。これは燃料電池の燃料であるLPGに含まれる含硫黄着臭剤の吸着に使用した後のもので、銀が12.2重量%、硫黄が1.5重量%、SiOが36.1重量%、Alが26.7重量%含まれていた。この使用済ゼオライト10.6gと炭酸ナトリウム(キシダ化学(株)製試薬特級)(融点851℃)13.5g、ホウ酸(和光純薬工業(株)製試薬特級)(169℃で分解)3.6gを内容積50mLのアルミナ製ルツボ内で混合した。この中に、金属銀の合一を促進するため、種として純度99.999重量%の金属銀インゴット33.12gも仕込んだ。これをルツボ炉(入江商会(株)製MIR−3)に入れ、空気中にて温度1,050℃まで1.2時間で昇温、1,050℃にて2時間保持した。反応終了後、温度30℃に冷却し、金属銀を取り出して重量を測定した結果、34.29gで使用済ゼオライトに含まれた銀の回収重量1.17g、回収率90.5%と高く良好であった。又、回収した金属銀には不純物としてAlが750重量ppm、Siが520重量ppm含まれたが、純度は99.87重量%と高く、良好であった。
【0022】
実施例2
実施例1と同じ使用済ゼオライト10.7gと炭酸ナトリウム13.6g、ホウ酸3.5gを内容積50mLのアルミナ製ルツボ内で混合した。この中に、種として実施例1と同じ金属銀インゴット29.38gも仕込んだ。これを実施例1と同じルツボ炉に入れ、窒素ガスを流通しながら温度1,050℃まで1.4時間で昇温、1,050℃にて2時間保持した。反応終了後、温度30℃に冷却し、金属銀の重量を測定した結果、30.53gで使用済ゼオライトに含まれた銀からの回収重量1.15g、回収率88.1%と高く良好であった。又、回収した金属銀には不純物としてAlが2,300重量ppm、Siが600重量ppm含まれたが、純度は99.71重量%と高く、良好であった。
【0023】
実施例3
ナイロン樹脂が5.2重量%付着した使用済ゼオライトを原料に用いた。樹脂以外は、銀が11.6重量%、硫黄が1.3重量%、SiOが34.3重量%、Alが25.4重量%含まれていた。この使用済ゼオライト50.6gと炭酸ナトリウム59.0g、ホウ酸13.5gを内容積370mLのアルミナ製ルツボ内で混合した。この中に、種として実施例1と同じ金属銀インゴット152.33gを仕込んだ。これを実施例1と同じルツボ炉に入れ、空気中にて温度1,050℃まで2.6時間で昇温、1,050℃にて2時間保持した。尚、ルツボ内はアルミナ棒にて時々撹拌した。反応終了後、温度30℃に冷却し、金属銀の重量を測定した結果、157.90gで使用済ゼオライトに含まれた銀からの回収重量5.57g、回収率96.0重量%と高く良好であった。又、回収した金属銀には不純物としてAlが630重量ppm、Siが350重量ppm含まれたが、純度は99.90%と高く、良好であった。
【0024】
比較例1
実施例1と同じ使用済ゼオライト10.4gと炭酸ナトリウム13.2g、ホウ酸3.3gを内容積50mLのアルミナ製ルツボ内で混合した。この中に、種として実施例1と同じ金属銀インゴット31.55gも仕込んだ。これを実施例1と同じルツボ炉に入れ、窒素ガスを流通しながら温度750℃まで1時間で昇温、750℃にて2時間保持した。反応終了後、温度30℃に冷却し、金属銀の重量を測定した結果、炭酸ナトリムのの融点未満の温度で処理したことから31.55gで使用済ゼオライトに含まれた銀は全く回収できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、銀含有無機化合物からの銀の回収方法であって、特定の薬剤と混合し、加熱処理することによって金属銀を容易に分離回収できる。工程数が少ない為、設備投資額を抑えることができ、設備はコンパクトで、設置面積を小さくできる。
【0026】
以上のことから、本発明は、銀含有無機化合物から金属銀を工業的に効率良く回収できる方法と位置付けされる。