特許第6565274号(P6565274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565274
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/28 20060101AFI20190819BHJP
【FI】
   C08F8/28
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-71531(P2015-71531)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-190943(P2016-190943A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】青木 康浩
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 光夫
(72)【発明者】
【氏名】青山 真人
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/034064(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/189755(WO,A1)
【文献】 特開昭62−156112(JP,A)
【文献】 特開平04−178405(JP,A)
【文献】 特開2013−237727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00 − 8/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセタール化度が11〜40モル%であるポリビニルアセタール系樹脂を製造する方法であって、
ケン化度が97モル%以上のポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒド化合物とを水中で反応させ、その反応液の粘度が上昇し始めたときに、炭素数1〜4のアルコールを前記反応液中に添加することを特徴とするポリアセタール系樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記炭素数1〜4のアルコールの添加量が、前記反応液中の水100重量部に対して、50〜150重量部であることを特徴とする請求項1記載のポリアセタール系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリビニルアセタール系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池電極は、通常、バインダー、活物質、溶媒、所望によりその他成分を混合して得られたスラリーを集電体上に塗布し、乾燥させることにより形成される。リチウムイオン二次電池電極の形成に用いられるバインダーには、一般にポリフッ化ビニリデンやスチレンブタジエンゴム等が用いられる。使用するバインダーはカーボネート系電解液に対してできる限り膨潤性が低いことが望まれるので、ポリビニルアセタール系樹脂をバインダーとして使用する場合、そのアセタール化度は、電解液に対して膨潤性を低く、かつ電極の耐久性を向上させるために、11〜40モル%が好ましい。
【0003】
ポリビニルアセタール系樹脂を製造する方法としては、ポリビニルアルコールを水に溶解しアルデヒド化合物と反応させる方法が挙げられる。
しかし、アセタール化度が11〜40モル%のポリビニルアセタール系樹脂を製造しようとすると、反応液中のポリビニルアセタール系樹脂の溶解性が低下し、また、ポリビニルアセタール系樹脂が完全に不溶化もしないので、製造装置内に多量のスケールが発生する。スケールが発生すると、回収率の低下、反応缶などの洗浄時間の増長、コンタミの発生などが生じるので、製造効率が低下する。
【0004】
そこで、ポリビニルアセタール系樹脂の溶解性を向上させるためにアルコールを添加してスケールの発生を抑制する方法が考えられる。例えば、特許文献1には、反応溶媒として水とアルコールの混合溶媒を使用したポリビニルアセタール系樹脂の製造方法が記載されている。
しかし、ケン化度の高いポリビニルアルコールを原料として用いた場合、ポリビニルアルコールが水とアルコールの混合溶媒に完溶せず、一部のポリビニルアルコールが不溶となり製造効率が低下するという問題が生じる。
【0005】
また、特許文献2には、反応溶媒として初期は水を用い、ポリビニルアルコールと芳香族アルデヒドとをアセタール化反応させるポリビニルアセタール樹脂の製造方法であって、反応終了後、中和を行わずにアルコールを添加して混合溶媒とする方法が記載されている。
さらに、特許文献3には、反応溶媒として初期は水を用い、ポリビニルアルコールと芳香族アルデヒドとをアセタール化反応させるポリビニルアセタール樹脂の製造方法であって、中和処理前にアルコールを添加して混合溶媒とする方法が記載されている。
しかし、これらの方法ではスケールの発生は抑制できるものの、アセタール化度が10モル%を超える場合、アセタール化反応が不均一反応となるので、ポリビニルアセタール樹脂中のアセタール分布が不均一となる。したがって、得られたポリビニルアセタールをリチウムイオン二次電池電極用のバインダーとして使用する際の溶媒(NMP:N−メチルピロリドン、DMF:ジメチルホルムアミドなど)への溶解が遅くなるので、生産効率が低下するおそれがあり、未溶解が発生した場合に電池が不良品となるおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−96506号公報
【特許文献2】特開平9−255721号公報
【特許文献3】特開平11−116619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、アセタール化度が11〜40モル%であるポリビニルアセタール系樹脂を製造する際にスケールが発生し難く、アセタール分布が均一であるポリビニルアセタール樹脂を製造できる方法の提供を目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、反応初期の溶媒は水系とし、反応液の粘度が上昇し始めたときにアルコールを添加することで、アセタール化反応の全工程を均一反応とすることを見出し、これによりスケールの発生が抑制され、さらに溶媒への溶解が速くなることを確認した。
【0009】
即ち本発明は、アセタール化度が11〜40モル%であるポリビニルアセタール系樹脂を製造する方法であって、ケン化度が97モル%以上のポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒド化合物とを水中で反応させ、その反応液の粘度が上昇し始めたときに、炭素数1〜4のアルコールを前記反応液中に添加することを特徴とするポリアセタール系樹脂の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法によれば、スケールが発生し難く、アセタール分布が均一であるポリビニルアセタール樹脂を製造できるという効果が得られる。
また、このポリビニルアセタール樹脂はアセタール分布が均一であるので、NMPなどの溶媒への溶解が速くなり、均一な溶液にできるという効果が得られる。
さらに、このポリビニルアセタール樹脂を含むリチウムイオン二次電池電極用バインダーは、溶媒に均一に溶解させることができるので、リチウムイオン二次電池電極の不良品が発生し難いという効果が得られる。
【0012】
本発明によりアセタール化反応が均一となる理由は、ポリマーの凝集等が起こる前の段階で溶解性を示す溶媒を加えているためであると推測される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
本発明のポリビニルアセタール系樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒド化合物とをアセタール化反応させることによって得られる。以下、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVOHという。)とアルデヒド化合物について説明する。
【0014】
<PVOH>
本発明で用いられるPVOHは、通常、ビニルエステル系単量体を重合して得られるポリビニルエステルをケン化することにより得ることができる。
上記ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。なかでも、経済性の観点から酢酸ビニルが好適である。
これらの単量体は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明で用いられるPVOHは、本発明の効果を損なわない範囲(例えば、10モル%未満)にて、上記のビニルエステル系単量体以外の他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を有していても良い。
上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレン等のα−オレフィン;3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、3−ブテン1,2ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類;さらにビニレンカーボネート類やアクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいはモノ又はジアルキルエステル;アクリロニトリル等のニトリル類;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸あるいはその塩;3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン等の3,4−ジアシロキシ−1−ブテン;3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等のグリセリンモノアリルエーテル;2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン;2−アセトキシ−1−アリルオキシ−3−ヒドロキシプロパン;3−アセトキシ−1−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロパン;グリセリンモノビニルエーテル;グリセリンモノイソプロペニルエーテルなどが挙げられる。
更に、ビニルエチレンカーボネートやビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルイソブチルジメトキシシラン、ビニルエチルジメトキシシラン、ビニルメトキシジブトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメトキシジヘキシロキシシラン、ビニルジメトキシヘキシロキシシラン、ビニルトリヘキシロキシシラン、ビニルメトキシジオクチロキシシラン、ビニルジメトキシオクチロキシシラン、ビニルトリオクチロキシシラン、ビニルメトキシジラウリロキシシラン、ビニルジメトキシラウリロキシシラン、ビニルメトキシジオレイロキシシラン、ビニルジメトキシオレイロキシシラン等が挙げられる。また、ヒドロキシメチルビニリデンジアセテートも挙げられ、具体的には、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチロニルオキシ−2−メチレンプロパンなどが挙げられる。中でも、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパンが製造容易性の点で好ましく用いられる。
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とエチレンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いることができる。
これらの単量体は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0016】
また、本発明で用いられるPVOHには、本発明の効果を阻害しない範囲(通常15モル%以下、好ましくは10モル%未満)にて変性されたPVOHが含まれていても良く、変性されたPVOHとしては、例えば、PVOHのホルマール化物、アセタール化物、アセトアセチル化物、ブチラール化物、ウレタン化物、スルホン酸やカルボン酸等とのエステル化物等が挙げられる。
【0017】
ビニルエステル系単量体の重合、または場合によりビニルエステル系単量体とエチレン性不飽和単量体との重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。なかでも、反応熱を効率的に除去できる溶液重合を還流下で行うことが好ましい。溶液重合の溶媒としては、通常はアルコールが用いられ、好ましくは炭素数1〜3の低級アルコールが用いられる。
【0018】
ポリビニルエステルの粘度平均重合度(JIS K 6726に準拠して測定)は、好ましくは500以上であり、特に好ましくは1000〜3000であり、更に好ましくは2500〜3000である。平均重合度が高すぎる場合には、得られたポリビニルアセタール系樹脂を用いて調製したバインダーの粘度が高くなりすぎて電極製造作業性が低下する傾向があり、平均重合度が低すぎる場合には本発明の効果が効率よく得られにくい傾向がある。
【0019】
ポリビニルエステルのケン化についても、従前より行われている公知のケン化方法を採用することができる。すなわちポリビニルエステルをアルコールまたは水/アルコール混合溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒または酸触媒を用いて行うことができる。
前記アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。
通常、無水アルコール系溶媒下、アルカリ触媒を用いたエステル交換反応が反応速度の点や脂肪酸塩等の不純物を低減できるなどの点で好適に用いられる。
【0020】
ケン化反応の反応温度は、通常20℃〜60℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が小さくなり反応効率が低下する傾向があり、高すぎると反応溶媒の沸点以上となる場合があり、製造面における安全性が低下する傾向がある。なお、耐圧性の高い塔式連続ケン化塔などを用いて高圧下でケン化する場合には、より高温、例えば、80〜150℃でケン化することが可能であり、少量のケン化触媒も短時間、高ケン化度のものを得ることが可能である。
【0021】
PVOHのケン化度(JIS K 6726に準拠して測定)は、通常、97モル%以上であり、好ましくは98〜100モル%であり、特に好ましくは98〜99.9モル%である。かかるケン化度が低すぎると、得られるポリビニルブチラールの電解液に対する膨潤性が高くなる傾向がある。一方、高ケン化度、特に完全ケン化のPVAは、工業的に生産が困難になる傾向があり、また、水に完全に溶解することが難しく、見た目では溶解していてもミクロジャンクションが残っており、アセタール化反応が不均一となったり、アセタール化反応されない部位が生じたりして好ましくない。
【0022】
本発明の製造方法においては、アルデヒド化合物との反応に先立って、PVOHを水に溶解させてPVOH水溶液を調製する。かかる水には、PVOHの溶解を阻害しない範囲(例えば溶媒の20重量%未満、好ましくは10重量%未満)において、水と混和性の有機溶媒を含有していてもよい。
かかる有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキサイドなどのスルホキサイド、メタノール、エタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。
【0023】
PVOH水溶液中のPVOHの濃度は、好ましくは1〜20重量%であり、特に好ましくは1〜10重量%である。
PVOHを溶媒に溶解する方法としては、例えば、オートクレーブで加圧した状態で120℃程度の高温下での溶解する方法などが挙げられる。
【0024】
<アルデヒド化合物>
本発明で用いられるアルデヒド化合物としては、例えば、アルキルアルデヒドや芳香族アルデヒドであり、具体的には、ブチルアルデヒド、プロピルアルデヒド、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0025】
また、アルデヒド化合物として、エチレン性不飽和結合を含む官能基を有するアルデヒド化合物を用いることもできる。かかる官能基がエチレン性不飽和結合を含むことにより、熱や光による架橋反応を行うことで架橋し、網目型構造を有する樹脂となる。かかるエチレン性不飽和結合は、末端ビニル構造、内部アルケン構造から選ばれる少なくとも1つである。
エチレン性不飽和結合を含む官能基におけるエチレン性不飽和結合の数は、通常1〜5であり、好ましくは1〜3である。このとき、芳香族化合物の芳香族性を構成するエチレン性不飽和結合は架橋能を有さないため、本発明における「エチレン性不飽和結合」には含まれない。
なお、エチレン性不飽和結合を含む官能基はカルボニル基、アミド結合等、エチレン性不飽和結合以外の不飽和結合を有することも可能である。
【0026】
エチレン性不飽和結合を含む官能基を有するアルデヒド化合物としては、例えば、アクロレイン、クロトンアルデヒド、メタクロレイン、トランス−2−ペンテナール、トランス−2,4−ヘキサジエナール、シトロネラール、桂皮アルデヒド、アクリルアミドアセトアルデヒド、メタクリルアミドアセトアルデヒド、全トランスレチナール等が挙げられる。
これらのアルデヒド化合物は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0027】
<アセタール化反応>
アセタール化反応は公知一般の条件で行なうことができる。通常、PVOH水溶液に酸触媒の存在下でアルデヒド化合物を添加し、アセタール化反応させる。アセタール化反応の進行に伴い、ポリビニルアセタール系樹脂粒子が析出し、以降は不均一系で反応を進める方法が一般的に行われているが、本発明ではアセタール化反応が均一系で行われる。
【0028】
かかるアセタール化反応は、低温状態で開始することが好ましい。例えば、I)PVOH水溶液を冷却し、酸と所定量のアルデヒド化合物を添加し、反応を開始する方法、II)PVOH水溶液にアルデヒド化合物を添加し、冷却してから酸を添加して反応を開始する方法、III)PVOH水溶液に酸を添加し、冷却してからアルデヒド化合物を添加して反応を開始する方法が挙げられる。
なお、通常、PVOHを含む水溶液を調製するにあたり、液を加温溶解することが好ましいが、上記I)〜III)においては特記しない限り、加温溶解後、常温に冷却した水溶液を意味する。
【0029】
アルデヒド化合物は、水中に一括して添加してもよく、分けて添加してもよい。例えば、一部を冷却前に添加しておき、残りを冷却後に添加することも可能である。好ましくは、PVOHを水に溶解した水溶液を調製し、これを5〜50℃まで冷却し、これにアルデヒド化合物を添加し、次いで酸を配合することにより反応を開始させる。
また、本発明においては、PVOHをアセタール化するのに必要なアルデヒド化合物の一部を添加し、後述の炭素数1〜4のアルコールを水中に添加した後に、残りのアルデヒド化合物を添加してアセタール化を完結させても良い。
【0030】
アセタール化反応に使用する酸としては、通常、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸などの無機酸やp−トルエンスルホン酸などの有機酸が挙げられ、これらの酸は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0031】
アセタール化反応は攪拌下に行うことが好ましい。また、アセタール化反応を完全に行うために、通常50〜80℃で反応を継続することが好ましい。アセタール化反応は通常1〜10時間行う。
【0032】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法においては、反応液の粘度が上昇し始めたときに、炭素数1〜4のアルコールを前記反応液中に添加することを特徴とする。
ここで、反応液の粘度が上昇し始めたときは、撹拌のトルクが上昇し始めたり、缶壁と反応液の液面の接点が低下し始めることで察知することができる。
【0033】
炭素数1〜4のアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert- ブチルアルコールなどが挙げられ、好ましくはメチルアルコールである。これらアルコールは、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0034】
炭素数1〜4のアルコールの添加量は、前記反応液中の水100重量部に対して、好ましくは50〜150重量部、特に好ましくは75〜125重量部である。アルコールの添加量が少なすぎるとポリビニルアセタール樹脂が析出してくる傾向があり、アルコールの添加量が多すぎるとアセタール化反応が進行し難くなる傾向がある。
【0035】
アセタール化度が11〜40モル%の範囲内になったら、中和剤を添加してアセタール化反応触媒(酸)を中和して反応を完結させる。
かかる中和剤としては、アルカリ化合物が用いられ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ金属の炭酸物のほか、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系化合物が挙げられる。
反応終了後にアセトン等の非水系溶媒を添加することによって、粉末状の反応生成物が得られる。必要に応じて洗浄した後、乾燥させることで、本発明のポリビニルアセタール系樹脂が得られる。
【0036】
ポリビニルアセタール系樹脂におけるアセタール化度は、ポリビニルアセタール系樹脂の前駆体であるビニルアルコール系樹脂の水酸基数を基準とし、このうちアルデヒド化合物でアセタール化された水酸基数の比率を意味する。すなわちアセタール化度は、アセタール化に供されたビニルアルコール系樹脂の水酸基数を算出する方法を採用してアセタール化度のモル%を算出することができる。具体的には、H−NMR測定による既知の方法で算出することができる。
【0037】
本発明の製造方法によれば、スケールが発生し難いので製造効率が良好であるという効果が得られる。また、本発明の製造方法により得られるポリビニルアセタール樹脂(以下、本発明のポリビニルアセタール樹脂ともいう。)は、アセタール化度が11〜40モル%であり、しかもアセタール分布が均一であるので、NMPなどの溶媒への溶解が速く、均一な溶液にできるという効果が得られる。したがって、本発明のポリビニルアセタール樹脂をリチウムイオン二次電池電極用バインダーとして用いることにより、NMPなどの溶媒に均一に溶解させることができるので、リチウムイオン二次電池電極の不良品が発生し難いという効果が得られる。以下、本発明のポリビニルアセタール樹脂を用いたリチウムイオン二次電池電極用バインダーを本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダーともいう。
【0038】
<リチウムイオン二次電池電極用バインダー>
本発明のリチウムイオン二次電池電極用バインダー(以下、電極用バインダーともいう。)は、本発明のポリビニルアセタール樹脂を含む。
本発明の電極用バインダーにおいては、本発明のポリビニルアセタール樹脂とともに、他のポリビニルアセタール樹脂が配合されていてもよい。
また、他の配合剤が配合されていてよく、例えば、光安定剤、紫外線吸収剤、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤{ホウ酸、メチロール化メラミン、炭酸ジルコニュム、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)等}、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤または帯電調整剤等が配合されていてもよい。それぞれの目的に応じて選択したり、組み合わせたりして配合することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中「%」および「部」とあるのは重量基準を意味する。
【0040】
〔実施例1〕
重合度(P)2600、ケン化度(SV)99モル%のPVOH15gを水235gの入ったビーカーに投入し、攪拌、分散させた後、90℃に昇温し、1. 5時間かけて溶解させた。
得られたPVOH水溶液を6%濃度に調整し、その250gを10℃に調温し、これに濃度35%の塩酸1.6gを加え、さらにブチルアルデヒド2.7gを10分間かけて滴下した。1時間反応を行って撹拌のトルクが上昇し始めたとき、すなわち反応液の粘度上昇が開始したときに(この時のアセタール化度は7%であった)、メタノールを256g加え、濃度35%の塩酸9.2gを10分間かけて添加した。その後、溶液を25℃で30分反応させ、更に60℃で5時間維持して反応させ、炭酸ナトリウム水溶液で中和して反応を完結させ、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂溶液を得た。
PVB溶液に256gのメタノールを加えた後、アセトン2567gを加えPVB樹脂を析出させた。得られたPVB樹脂をろ過し、アセトン/水(=9/1)の混合溶媒で洗浄した後、アセトン500mLで3回洗浄し、80℃で乾燥させることで、PVB樹脂が得られた。得られたPVB樹脂のアセタール化度は22%であった。
得られたPVB樹脂をNMPに7%となる様に80℃で溶解させたところ、20分で完溶した。
【0041】
〔比較例1〕
重合度(P)2600、ケン化度(SV)99モル%のPVOH15gを水235gに90℃で溶解させ、樹脂分測定を行い、6%のPVOH水溶液を250gに調整した。同量のメタノールを水溶液に加え50/50のメタノール/水混合液の作製を試みたが、ポリマーが析出し均一な溶液を得ることができなかった。
【0042】
〔比較例2〕
重合度(P)2600、ケン化度(SV)99モル%のPVOH15gを水235gに90℃で溶解させ、樹脂分測定を行い、6%のPVOH水溶液を250gに調整した。
10℃以下に調温し、35%濃度の塩酸1. 6gを加えてブチルアルデヒド7. 9gを10分間かけて滴下し、10℃で1時間熟成を行った。この溶液に35%濃度の塩酸9.2gを10分間かけて加え30分熟成させた後、60℃に昇温して5時間熟成させた。反応後、塩酸をナトリウム水溶液で中和した。メタノールを256g加えて、析出していたPVB樹脂を溶解した後、更に256gのメタノールを加え、アセトン2567gを加えることで晶析が起こり、PVB樹脂が得られた。得られたPVB樹脂をろ過し、アセトン/水(=9/1)の混合溶媒で洗浄した後、アセトン500mLで3回洗浄し80℃で乾燥させることでPVB樹脂が得られた。得られたPVB樹脂のアセタール化度は22%であった。
得られたPVB樹脂をNMPに7%となる様に80℃で溶解させたところ、完溶までに40分を要した。
【0043】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法により得られるポリアセタール系樹脂は、アセタール化度が11〜40モル%であり、しかもアセタール分布が均一であるので、DMFなどの溶媒への溶解が速く、均一な溶液にできる。リチウムイオン二次電池電極用バインダーは、DMFなどの溶媒へ溶解して使われるので、本発明のポリアセタール系樹脂は、リチウムイオン二次電池電極用バインダーとして好適に用いることができる。