特許第6565471号(P6565471)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565471
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】マスクブランクス用ガラス基板
(51)【国際特許分類】
   C03C 19/00 20060101AFI20190819BHJP
   B24B 37/11 20120101ALI20190819BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C03C19/00 Z
   B24B37/11
   G01N21/88 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-161818(P2015-161818)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2017-39620(P2017-39620A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(72)【発明者】
【氏名】平林 佑介
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−150124(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/149864(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/129914(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C15/00−23/00
G01N21/84−21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンを形成する側の主表面の品質保証領域上に、球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在せず、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在する、マスクブランクス用ガラス基板であって、
主表面の品質保証領域内で、前記球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点から選ばれる任意の3個の凹状欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出したときに、
前記仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm以上であることを特徴とする、マスクブランクス用ガラス基板。
【請求項2】
パターンを形成する側の主表面の品質保証領域上に、球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在せず、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在する、マスクブランクスガラス用基板であって、
該主表面の品質保証領域内で、前記球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点から選ばれる任意の3個の凹状欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出したときに、
前記仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円の半径長さの差が1mm以上であることを特徴とする、マスクブランクス用ガラス基板。
【請求項3】
ガラス基板の一方の主表面上に光学膜が形成されたリソグラフィ用マスクブランクスであって、
該光学膜表面の品質保証領域上に、球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在せず、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在し、
前記光学膜表面の品質保証領域内で、前記球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の欠点から選ばれる任意の3個の凹状欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出したときに、
前記仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm以上であることを特徴とする、リソグラフィ用マスクブランクス。
【請求項4】
ガラス基板の一方の主表面上に光学膜が形成されたリソグラフィ用マスクブランクスであって、
該光学膜表面の品質保証領域上に、球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在せず、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在し、
前記光学膜表面の品質保証領域内で、前記球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点から選ばれる任意の3個の凹状欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出したときに、
前記仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円の半径長さの差が1mm以上であることを特徴とする、リソグラフィ用マスクブランクス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種リソグラフィの際に使用されるマスクブランクス用ガラス基板に関する。
本発明のマスクブランクス用ガラス基板は、EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光を用いたリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する)に使用されるマスクブランクス用ガラス基板(以下、「EUVLマスクブランクス用ガラス基板」と略する。)に好適である。
本発明のマスクブランクス用ガラス基板は、従来の透過型光学系を用いたリソグラフィに使用されるマスクブランクス用ガラス基板、例えば、ArFエキシマレーザやKrFエキシマレーザを用いたリソグラフィ用マスクブランクス用ガラス基板にも好適である。
【背景技術】
【0002】
近年における超LSIデバイスの高密度化や高精度化に伴い、各種リソグラフィに使用されるマスクブランク用ガラス基板表面に要求される仕様は年々厳しくなる状況にある。特に、露光光源の波長が短くなるにしたがって、ピットやスクラッチといった凹状欠点に対する要求が厳しくなっており、微小な凹状欠点がないガラス基板が求められている。具体的には、要求される凹状欠点サイズは球相当直径(SEVD)換算で100nm以下である。マスクブランクス用ガラス基板表面には、要求サイズより小さい凹状欠点も存在しないことが望ましい。しかしながら、要求サイズより小さい凹状欠点が全く存在しない状態まで、マスクブランクス用ガラス基板表面を加工することはコスト増となり現実的ではない。そのため、マスクブランクス用ガラス基板表面には、要求サイズより小さい凹状欠点については、一定数(例えば10個)以下であれば存在することが許容される。
【0003】
凹状欠点の検出には欠点検査機が用いられるが、欠点検査機では検出できないが、該マスクブランクス用ガラス基板を用いて作製されたマスクブランクスをパターニングしたマスクによるマスクパターン転写時に、パターン不良の原因になる凹状欠点が存在することが確認される場合がある。
マスクブランクスをパターン転写可能な状態に加工するためには多大な労力がかかるため、パターン転写工程で初めて不良であることが判明すると経済的な損失が大きく好ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した従来技術における問題点を解決するため、欠点検査機では検出できないが、マスクパターン転写時にパターン不良の原因になる凹状欠点による問題が解消されたマスクブランクス用ガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するため、本願発明者らは鋭意検討し以下の知見を得た。
図1は、マスクブランクス用ガラス基板表面における凹状欠点の分布を説明するための図である。図1中、黒丸は欠点検査機で検出された凹状欠点、グレーの部分は知見として得られた欠点検査機で検出できない凹状欠点が発生しやすい領域を示している。図1に示すように、欠点検査機で検出できない凹状欠点は、検出された凹状欠点同士の間に存在する場合が多い。また、これらの凹状欠点は円弧上に分布することが多い。
マスクブランクス用ガラス基板表面は、要求される仕様を満たすように、研磨パッドを用いて研磨される。図2は、研磨パッド上の定点が基板表面上に描く軌跡を示した図である。図1、2の比較から明らかなように、基板表面に存在する凹状欠点の分布がなす円弧は、研磨パッド上の定点が基板表面上に描く軌跡と一致する。そのため、図2に示す円弧上に位置する凹状欠点が欠点検査機で検出された場合、当該円弧上に欠点検査機で検出できない凹状欠点が存在している可能性が高く、マスクブランクス用基板として不適切である。
【0006】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、パターンを形成する側の主表面の品質保証領域上に、球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在せず、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在する、マスクブランクス用ガラス基板であって、
該主表面の品質保証領域内で、前記球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点から選ばれる任意の3個の凹状欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出したときに、
前記仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm以上であることを特徴とする、マスクブランクス用ガラス基板を提供する。
【0007】
また、本発明は、パターンを形成する側の主表面の品質保証領域上に、球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在せず、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在する、マスクブランクスガラス用基板であって、
該主表面の品質保証領域内で、前記球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点から選ばれる任意の3個の凹状欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出したときに、
前記仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円の半径長さの差が1mm以上であることを特徴とする、マスクブランクス用ガラス基板を提供する。
【0008】
また、本発明は、ガラス基板の一方の主表面上に光学膜が形成されたリソグラフィ用マスクブランクスであって、
該光学膜表面の品質保証領域上に、球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在せず、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在し、
前記光学膜表面の品質保証領域内で、前記球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の欠点から選ばれる任意の3個の凹状欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出したときに、
前記仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm以上であることを特徴とする、リソグラフィ用マスクブランクスを提供する。
【0009】
また、本発明は、ガラス基板の一方の主表面上に光学膜が形成されたリソグラフィ用マスクブランクスであって、
該光学膜表面の品質保証領域上に、球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在せず、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在し、
前記光学膜表面の品質保証領域内で、前記球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点から選ばれる任意の3個の凹状欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出したときに、
前記仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円の半径長さの差が1mm以上であることを特徴とする、リソグラフィ用マスクブランクスを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、欠点検査機では検出できないが、マスクパターン転写時にパターン不良の原因になる凹状欠点の存在による問題が解消される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、マスクブランクス用ガラス基板表面における凹状欠点の分布を説明するための図である。
図2図2は、研磨パッド上の定点が基板表面上に描く軌跡を示した図である。
図3図3(a)〜(c)は、基板表面に存在する凹状欠点と、仮想円と、の関係を説明するための図である。
図4図4は、本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第1態様を説明するための図である。
図5図5は、本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第2態様を説明するための図である。
図6図6は、比較例のガラス基板を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明について説明する。
マスクブランクス用ガラス基板の場合、とくに、平坦度と平滑性に優れた表面であることが求められるのは、マスクブランクス用ガラス基板の主表面のうち、パターンを形成する側の主表面であり、リソグラフィ用マスクブランクスの作製時に光学膜が形成される側の主表面である。以下、本明細書において、マスクブランクス用ガラス基板の主表面と記載する場合は、パターンを形成する側の主表面、リソグラフィ用マスクブランクスの作製時に光学膜が形成される側の主表面を指す。また、該主表面のうち、とくに、平坦度と平滑性に優れた表面であることが求められるのは、マスクパターンを形成する領域を含む品質保証領域である。たとえば、EUVLマスクブランクス用、ArFエキシマレーザやKrFエキシマレーザを用いたリソグラフィ用マスクブランクス用のガラス基板としては、基板表面が152mm角のガラス基板が通常使用されるが、そのうち、品質保証領域の典型的な例は142mm角である。
【0014】
上述したように、マスクブランクス用ガラス基板の主表面に要求される凹状欠点のサイズは球相当直径(SEVD)換算で100nm以下である。そのため、本発明のマスクブランクス用ガラス基板は、主表面の品質保証領域上に球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点が存在しない。なお、主表面の品質保証領域上の凹状欠点は、レーザーテック社製M1350Aのような欠点検査機を用いて検出する。
一方、マスクブランクス用ガラス基板表面には、要求サイズより小さい凹状欠点、すなわち、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点については、一定数(例えば10個)以下であれば存在することが許容される。本発明のマスクブランクス用ガラス基板は、主表面の品質保証領域上に球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が4個以上存在する。主表面の品質保証領域上に球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が3個以下の場合は、欠点検査機では検出できなかった凹状欠点が存在する可能性は低く、マスクパターン転写時にパターン不良の原因になるおそれが少ない。
【0015】
上述したように、マスクブランクス用ガラス基板表面の品質保証領域の典型的な例は142mm角である。この品質保証領域を、その中心座標を(0,0)とした座標系で示した場合、該主表面の品質保証領域の四隅の座標は、それぞれ(−71,−71)、(−71,71)、(71,−71)、(71,71))となる。
この前提に基づいて、本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第1態様、および、第2態様について説明する。
【0016】
図3(a)〜(c)は、本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第1態様、および、第2態様を説明するための図である。
図3(a)において、マスクブランクス用ガラス基板の主表面上、より具体的には、主表面の品質保証領域上には、黒丸で示す凹状欠点が4個存在している。
図3(b)に示すように、これら4個の凹状欠点から任意の3個を選ぶと、これら3個の凹状欠点を通過する仮想円(破線)が一意に決まる。そして、3個の凹状欠点の座標から、この仮想円の中心座標と半径長さが求まる。
図3(c)に示すように、3個の凹状欠点を抽出する全ての組み合わせについて、仮想円の中心座標と半径長さを求める。なお、主表面の品質保証領域上に存在する凹状欠点の個数をnとするとき、これらの凹状欠点から任意の3個の凹状欠点を抽出する方法はn3通り存在する。そのため、n3通りの仮想円の中心座標と半径長さが求まる。
【0017】
図4は、本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第1態様を説明するための図であり、図3(c)に示した仮想円のうち、中心座標間が最も近い2つの仮想円のみを示している。本発明の本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第1態様は、これら中心座標間が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm以上である。
これら中心座標間が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm以上である場合、これら2つの仮想円は互いに別々の仮想円であり、仮想円を構成する欠点は互いに無関係である。そのため、欠点検査機では検出できなかった凹状欠点が存在する可能性は低く、マスクパターン転写時にパターン不良の原因になるおそれが少ない。
ここで、仮想円の中心間距離の判断基準を1mm以上とする理由は以下に示す通り。
図1、2の比較から明らかなように、マスクブランクス用ガラス基板表面に存在する凹状欠点の分布がなす円弧は、研磨パッド上の定点が基板表面上に描く軌跡と一致する。したがって、図1に示すような円弧上に分布する凹状欠点が、マスクブランクス用ガラス基板表面に発生するのは、マスクブランクス用ガラス基板表面を研磨パッドを用いて研磨した際である。研磨パッドを用いて研磨する際、マスクブランクス用ガラス基板はキャリアにより保持されるが、マスクブランクス用ガラス基板の外寸とキャリアの内寸を同一にしてしまうと基板側面に傷や割れが発生するおそれがあるため、マスクブランクス用ガラス基板とキャリアとの間には片側0.5mm程度のクリアランスが設けられている。研磨パッドを用いて研磨する際には、このクリアランスにより、マスクブランクス用ガラス基板は、キャリア内で1mm程度の範囲で拘束されずに動くことになる。そのため、2つの仮想円の中心間距離が1mm未満の場合は、両者は同一の仮想円とみなすことができる。これに対し、2つの仮想円の中心間距離が1mm以上の場合、両者は別々の仮想円とみなすことができる。
【0018】
図5は、本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第2態様を説明するための図であり、中心座標が一致する2つの仮想円を示している。上述したように、2つの仮想円の中心間距離が1mm未満の場合は、両者は同一の仮想円とみなすことができるが、図5はその例外である。これら2つの仮想円は、中心間距離が1mm未満であるが、互いに半径長さが異なり、別々の仮想円である。
本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第2態様は、中心座標間が最も近い2つの仮想円の半径長さの差が1mm以上である。これら中心座標間が最も近い2つの仮想円の半径長さの差が1mm以上である場合、これら2つの仮想円は互いに別々の仮想円であり、仮想円を構成する欠点は互いに無関係である。そのため、欠点検査機では検出できなかった凹状欠点が存在する可能性は低く、マスクパターン転写時にパターン不良の原因になるおそれが少ない。なお、仮想円の半径長さの差の判断基準を1mm以上とする理由は、仮想円の中心間距離の判断基準を1mm以上とする理由について記載したのと同様である。
【0019】
図6(a)〜(c)は、上述した本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第1態様、および、第2態様の要件を満たさない比較例のガラス基板を説明するための図である。
図6(a)において、ガラス基板の主表面上には黒丸で示す凹状欠点が4個存在している。図6(b)に示すように、これら4個の凹状欠点から任意の3個を選ぶと、これら3個の凹状欠点を通過する仮想円(破線)が一意に決まるが、図6(c)に示すように、3個の凹状欠点を抽出する別の組み合わせと、3個の凹状を通過する仮想円が一致し、中心座標間が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm未満であり、かつ、これらの半径長さの差が1mm未満である。この場合、欠点検査機で検出できない凹状欠点は、検出された凹状欠点同士の間に存在する可能性が高く、マスクパターン転写時にパターン不良の原因になるおそれが高い。
【0020】
以下、本発明のマスクブランクス用ガラス基板についてさらに記載する。
本発明のマスクブランクス用ガラス基板を構成するガラスは、熱膨張係数が小さくかつそのばらつきの小さいことが好ましい。具体的には20℃における熱膨張係数の絶対値が600ppb/℃の低熱膨張ガラスが好ましく、20℃における熱膨張係数が400ppb/℃の超低熱膨張ガラスがより好ましく、20℃における熱膨張係数が100ppb/℃の超低熱膨張ガラスがさらに好ましく、30ppb/℃が特に好ましい。
上記低熱膨張ガラスおよび超低熱膨張ガラスとしては、SiO2を主成分とするガラス、典型的には合成石英ガラスが使用できる。具体的には、例えば合成石英ガラス、AQシリーズ(旭硝子株式会社製合成石英ガラス)や、SiO2を主成分とし1〜12質量%のTiO2を含有する合成石英ガラス、AZ(旭硝子株式会社製ゼロ膨張ガラス)が挙げられる。
【0021】
マスクブランクス用ガラス基板の大きさや厚さなどはマスクの設計値等により適宜決定される。後で示す実施例では、外形6インチ(152mm)角で、厚さ0.25インチ(6.35mm)の合成石英ガラスを用いた。
【0022】
一般に、ガラス基板の製造時には、ガラス基板を所定の厚さに粗研磨し、端面研磨と面取り加工を行い、更にガラス基板の主表面を、所定の表面性状を満たすように研磨パッドと研磨スラリーを用いて仕上げ研磨する。この場合、一方の主表面に対して仕上げ研磨を実施してもよく、両方の主表面に対して仕上げ研磨を実施してもよい。
本発明のマスクブランクス用ガラス基板の製造時においても、上記と同様の手順を実施するが、マスクブランクス用ガラス基板の主表面の仕上げ研磨では、研磨パッドとして、パッド面における最大突起部の高さが30μm以下の研磨パッドを用いることが好ましい。パッド面における最大突起部の30μm超の研磨パッドを使用すると、マスクブランクス用ガラス基板の主表面にピットやスクラッチといった凹状欠点が発生する場合がある。パッド面における最大突起部の高さが30μm以下の研磨パッドを用いることで、マスクブランクス用ガラス基板の主表面にピットやスクラッチといった凹状欠点が発生することを防止できる。
図1、2の比較から明らかなように、マスクブランクス用ガラス基板表面に存在する凹状欠点の分布がなす円弧は、研磨パッド上の定点が基板表面上に描く軌跡と一致する。そのため、したがって、図1に示すような円弧上に分布する凹状欠点が、マスクブランクス用ガラス基板表面に発生するのは、マスクブランクス用ガラス基板表面を研磨パッドを用いて研磨した際である。
パッド面における最大突起部の高さが30μm以下の研磨パッドを使用することにより、図1や、図6(b),(c)に示すような同一の円弧上に分布する凹状欠点の個数を減らすことができ、図4に示す本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第1態様、若しくは、図5に示す本発明のマスクブランクス用ガラス基板の第2態様を得ることができる。
上記の観点からは、パッド面における最大突起部の高さが10μm以下の研磨パッドを使用することがより好ましく、パッド面における最大突起部の高さが5μm以下の研磨パッドを使用することがさらに好ましい。
【0023】
研磨パッドと、研磨スラリーを用いた仕上げ研磨について、さらに記載する。
【0024】
マスクブランクス用ガラス基板の主表面を、不織布または研磨布等の研磨パッドを取り付けた研磨盤に押し付けてセットし、所定の性状に調整された研磨スラリーを供給しながら、マスクブランクス用ガラス基板に対して研磨盤を相対回転させて、マスクブランクス用ガラス基板の主表面を仕上げ研磨する。またここで、マスクブランクス用ガラス基板を、不織布または研磨布等の研磨パッドを取り付けた研磨盤に挟んでセットし、所定の性状に調整されたスラリーを供給しながら、マスクブランクス用ガラス基板に対して研磨盤を相対回転させて、マスクブランクス用ガラス基板の両方の主表面を仕上げ研磨してもよい。
なお、使用する研磨パッドは、研磨時の接触面積がガラス基板の主表面の面積よりも大きいことが、ガラス基板の主表面全体を同時に研磨できるため好ましい。
また、研磨盤の研磨面による研磨荷重は、0.1〜12kPaであることが好ましい。
本発明のガラス基板の研磨方法は、フォトマスク用ガラス基板の研磨に使用することが好ましい。
【0025】
研磨スラリーは、微粒子状の研磨剤と、該研磨剤の分散媒からなる。
研磨剤としては、コロイダルシリカ又は酸化セリウムが好ましい。
研磨剤としてコロイダルシリカを用いる場合、平均粒子径は、好ましくは、1nm以上100nm以下である。より好ましくは10nm以上50nm以下である。
研磨剤として酸化セリウムを用いる場合、平均粒子径は、10〜5000nmが好ましく、100〜3000nmがより好ましく、500〜2000nmがさらに好ましい。
研磨スラリーにおけるコロイダルシリカの含有率は、好ましくは、1質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは、10質量%以上30質量%以下である。
研磨スラリーにおける酸化セリウムの含有率は、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。
研磨スラリーを所望のpHに調整するため、研磨剤の分散媒には、酸性またはアルカリ性の分散媒が用いられる。酸性の分散媒には、塩酸、硝酸、酢酸が通常使用される。アルカリ性の分散媒には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウムが通常使用される。
研磨パッドとしては、不織布などの基布に、ポリウレタン樹脂を含浸させ、湿式凝固処理を行って得られたポリウレタン樹脂発泡層を有する研磨パッドなどが挙げられる。研磨パッドとしては、スウェード系研磨パッドが好ましい。
スウェード系研磨パッドにおけるナップ層の厚さは0.4〜1mm程度が実用上で好ましい。また、スウェード系研磨パッドとしては、適度の圧縮弾性率を有する軟質の樹脂発泡体が好ましく使用でき、具体的には例えばエーテル系、エステル系、カーボネート系などの樹脂発泡体が挙げられる。
研磨パッドの硬度は、ショアA硬度で5〜20であることが好ましい。
研磨パッドは、パッド面における平均開口径が5〜50μmであることが好ましい。
研磨パッドは、パッド面における、単位面積当たりの開口率が5〜50%であることが好ましい。
【0026】
複数のマスクブランクス用ガラス基板に対して、研磨スラリーと、研磨パッドと、を用いた仕上げ研磨を重ねると、マスクブランクス用ガラス基板のエッジ部でえぐられる等により、研磨パッドのパッド面に凹凸が生じてくる。このパッド面の凹凸が大きくなる(凸部の高さが大きくなる、および/または、凹部の深さが大きくなる)と、マスクブランクス用ガラス基板の主表面にピットやスクラッチといった凹状欠点が発生する場合があるため問題となる。具体的には、パッド面における最大突起部の30μm超になると、マスクブランクス用ガラス基板の主表面にピットやスクラッチといった凹状欠点が発生する場合がある。
そのため、研磨のインターバル時に、研磨パッドのパッド面を検査し、パッド面における最大突起部の30μm超になった場合、研磨パッドを交換する必要がある。従来、研磨パッドのパッド面の検査は、目視検査や指触検査として実施されていたが、目視検査や指触検査では、マスクブランクス用ガラス基板の主表面にピットやスクラッチといった凹状欠点が発生するおそれのあるパッド面の凹凸を検出することは困難である。
本発明では、研磨のインターバル時における研磨パッドのパッド面の検査を以下に示す手順で実施する。
【0027】
研磨パッドのパッド面の検査を研磨のインターバル時に実施する場合、検査対象となる研磨パッドのパッド面を乾燥させることなしに実施される。その理由は、研磨パッドのパッド面を乾燥させてから、該パッド面を検査しようとすると、該パッド面を乾燥させるのに時間を要するため、スループットが低下する。また、研磨パッドのパッド面を乾燥させると、該パッド面に局所的に硬い部分が生じる場合がある。パッド面に局所的に硬い部分が生じた研磨パッドを用いてマスクブランクス用ガラス基板の主表面を研磨すると、マスクブランクス用ガラス基板の主表面にピットやスクラッチといった凹状欠点が発生するおそれがある。
なお、本明細書において、「研磨パッドのパッド面を乾燥させることなしに」とは、研磨パッド内部および表面に保持されている液体の体積が、研磨パッドのポリウレタン樹脂発泡層の空隙体積に比べて大きい状態を指す。
【0028】
検査対象となる研磨パッドのパッド面を乾燥させることなしに該パッド面に存在する凹凸を検出するためには、ラインレーザを使用した二次元レーザ変位計を使用し、該ラインレーザと該パッド面とを相対移動させることが好ましい。そして、パッド面における凸部の高さおよび凹部の深さを、該パッド面全体について測定することが好ましい。
【0029】
検査対象となる研磨パッドのパッド面を乾燥させることなしに該パッド面に存在する凹凸を検出するためには、該パッド面が研磨スラリーで湿潤した状態で、該パッド面に存在する凹凸を検出できることが求められる。そのため、ラインレーザを使用した二次元レーザ変位計としては、ラインレーザの照射部位からの拡散反射光を受光することにより、パッド面に存在する凹凸を検出して、該パッド面に存在する凸部の高さおよび凹部の深さを測定するタイプの二次元レーザ変位計の使用が好ましい。透明体である研磨スラリー表面では、拡散反射がほとんどないため、透明体である研磨スラリー表面はほとんど検出されず、パッド面に存在する凹凸のみを検出できるからである。
【0030】
二次元レーザ変位計に使用するラインレーザは、検査対象となる研磨パッドを湿潤させている液体、すなわち、研磨スラリーによる吸収が少ないことが好ましい。研磨スラリーの成分のうち、光線の吸収が最も大きいのは、研磨剤の分散媒として用いられる水である。そのため、二次元レーザ変位計に使用するラインレーザは、水による吸収が少ないことが求められる。水による吸収が少なくするためには、二次元レーザ変位計に使用するラインレーザの(光源の)波長が400〜700nmであることが好ましい。
【0031】
マスクブランクス用ガラス基板の主表面の仕上げ研磨に使用される研磨装置は、通常、研磨パッドが中心を軸として回転する機構を有している。この機構を利用して、研磨パッドが中心を軸として回転させることにより、ラインレーザと研磨パッドのパッド面とを相対移動させることが好ましい。この場合、ラインレーザをその長さ方向に対し垂直方向に走査することにより、パッド面全体に存在する凹凸を検出することができる。但し、ラインレーザの長さが短過ぎると、パッド面全体に存在する凹凸を検出するために、ラインレーザをその長さ方向にも走査することが必要になる。そのため、研磨パッドのパッド面の最大長をL(mm)とするとき、ラインレーザの長さが0.01×L以上であることが好ましく、0.02×L以上であることがより好ましく、0.03×L以上であることがさらに好ましい。
パッド面の最大長Lは、使用する研磨パッドによる異なるが、マスクブランクス用ガラス基板として通常使用される152mm角のガラス基板の主表面の研磨に用いられる研磨パッドの場合、パッド面の最大長Lは2000mm程度である。
【0032】
本発明のリソグラフィ用マスクブランクスは、上述した本発明のマスクブランクス用ガラス基板の主表面上に所定の光学膜を形成したものである。所定の光学膜は、EUVL用マスクブランクスの場合、EUV光を反射する反射層、および、EUV光を吸収する吸収層であり、マスクブランクス用ガラス基板の主表面上に反射層を形成し、該反射層上に該吸収層を形成する。ここで、反射層としては、EUV光に対して低屈折率となる層である低屈折率層と、EUV光に対して高屈折率となる層である高屈折率層とを交互に複数回積層させた多層反射膜が広く用いられる。本発明のリソグラフィ用マスクブランクスがEUVL用マスクブランクスの場合、反射層として多層反射膜をマスクブランクス用ガラス基板の主表面上に形成する。
本発明のリソグラフィ用マスクブランクスは、上述した本発明のマスクブランクス用ガラス基板の主表面の品質保証領域における欠点に関する要件を、光学膜表面の品質保証領域が満たす。すなわち、本発明のリソグラフィ用マスクブランクスがEUVL用マスクブランクスの場合、本発明のマスクブランクス用ガラス基板の主表面の品質保証領域における欠点に関する要件を、多層反射膜表面の品質保証領域、および、吸収層表面の品質保証領域が満たす。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
(実施例1〜4、比較例1)
マスクブランク用ガラス基板(152mm角)の主表面の品質保証領域(142mm角)を、欠点検査機(レーザーテック社製M1350A)を用いて検査する。実施例1〜4、比較例1は、いずれも球相当直径(SEVD)換算で100nm超の凹状欠点は検出されない。実施例1〜4、比較例1は、いずれも球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の凹状欠点が10個検出される。
マスクブランク用ガラス基板主表面の品質保証領域の中心座標を(0,0)とし、該主表面の品質保証領域の四隅の座標を、それぞれ(−71,−71)、(−71,71)、(71,−71)、(71,71))とするとき、球相当直径(SEVD)換算で100nm以下の欠点から選ばれる任意の3個の欠点の座標を通過する仮想円の中心座標と半径長さを、3個の欠点を抽出する全ての組み合わせについて算出し、仮想円の中心間距離が最も近い2つの仮想円について、その中心間の距離と、半径長さの差を求める。結果を下記表に示す。
マスクブランク用ガラス基板主表面の品質保証領域に、多層反射膜および吸収層をこの順に形成してEUVL用マスクブランクスを作製する。このEUVL用マスクブランクスについても、吸収層表面の品質保証領域(142mm角)を、欠点検査機(レーザーテック社製M1350A)を用いて検査する。マスクブランク用ガラス基板に対する検査と同じ結果が得られる。
このEUVL用マスクブランクスの吸収層をパターニングした反射型マスクを用いて、EUVLを実施してウェハ上にマスクパターンを転写する。EUVL用マスクブランクスに対する検査では検出されなかった凹状欠点が原因のチップ不良率を、実施例1を1とした相対値で評価する。結果を下記表に示す。
【表1】

表から明らかなように、中心間距離が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm以上、若しくは、半径長さの差が1mm以上の実施例1〜4は、いずれもEUVL用マスクブランクスに対する検査では検出されなかった凹状欠点が原因のチップ不良率が低い。一方、中心間距離が最も近い2つの仮想円の中心間距離が1mm未満、かつ、半径長さの差が1mm未満の比較例1は、いずれもEUVL用マスクブランクスに対する検査では検出されなかった凹状欠点が原因のチップ不良率が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6