特許第6565682号(P6565682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

特許6565682架橋性アクリルゴム組成物およびゴム架橋物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565682
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】架橋性アクリルゴム組成物およびゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/04 20060101AFI20190819BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20190819BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20190819BHJP
   C08K 5/46 20060101ALI20190819BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20190819BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C08L33/04
   C08L27/12
   C08K3/34
   C08K5/46
   C08K3/36
   C08K3/04
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-554929(P2015-554929)
(86)(22)【出願日】2014年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2014084042
(87)【国際公開番号】WO2015098911
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2013-266360(P2013-266360)
(32)【優先日】2013年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】江尻 和弘
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−204245(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/153649(WO,A1)
【文献】 特開2012−211239(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093444(WO,A1)
【文献】 特開2014−015575(JP,A)
【文献】 特開昭62−050347(JP,A)
【文献】 特開2003−082188(JP,A)
【文献】 特開2002−201310(JP,A)
【文献】 特開昭63−175047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/14
C08K3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール性水酸基含有単量体単位0.1〜10質量%を含有するアクリルゴム(a)と、液状ふっ素ゴム(b)と、珪酸カルシウム(c)とを含有し、
前記液状ふっ素ゴム(b)の含有量が、前記アクリルゴム(a)100質量部に対して、0.4〜50質量部であり、
前記珪酸カルシウム(c)の含有量が、前記アクリルゴム(a)100質量部に対して、0.5〜20質量部である架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項2】
アクリルゴム(a)を構成する全単量体単位中における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が、60〜99.9質量%である請求項1に記載の架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項3】
さらに、老化防止剤として、下記一般式(1)で示す化合物を含有する請求項1または2に記載の架橋性アクリルゴム組成物。
【化4】
(上記一般式(1)中、Yは−SO−を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または−SO−を表す。nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、nおよびmの少なくとも一方は1である。)
【請求項4】
さらに補強材として、シリカを含有する請求項1〜のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項5】
さらに補強材として、カーボンブラックを含有する請求項1〜のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項6】
さらに、架橋促進剤を含有する請求項1〜のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【請求項8】
ホースである請求項に記載のゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性アクリルゴム組成物に関し、さらに詳細には、耐熱性に優れるゴム架橋物を与える、貯蔵安定性に優れた架橋性アクリルゴム組成物及びゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性、耐油性、耐候性などに優れたゴム材料である。このため、ガスケット、ホース、O−リング、シールなどの自動車用ゴム部品に広範に用いられている。最近では自動車の高級化、高性能化により、耐熱性、耐油性、長寿命性等、ゴム材料に対する要求は増加しており、耐熱性、耐油性、長寿命性等の性能がさらに優れた架橋性アクリルゴム組成物が開発されている。
【0003】
例えば、(a1)架橋性基含有単量体0.1〜10質量%を共重合して得られるアクリルゴム100質量部に対して、(a2)液状ふっ素ゴムを0.4〜50.0質量部含有する架橋性アクリルゴム組成物が提案されている(特許文献1)。特許文献1においては、架橋性基含有単量体として、フェノール性水酸基を含有する単量体を共重合したアクリルゴムに、液状ふっ素ゴムを配合した架橋性アクリルゴム組成物が、耐熱性に優れたゴム架橋物を与えることが開示されている。
しかしながら、特許文献1に具体的に開示された架橋性アクリルゴム組成物は、未架橋の状態での貯蔵安定性に劣り、そのため、架橋性アクリルゴム組成物の調製後に所定時間放置した後に、放置後の架橋性アクリルゴム組成物を押出成形してホース状の成形物を得ようとすると、成形物表面がきれいな押出成形物(表面に凹凸がなく表面形状が整った押出成形物)が得られないことが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2013/153649号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような従来技術の欠点に鑑み、本発明は、耐熱性に優れるゴム架橋物を与える、貯蔵安定性に優れた架橋性アクリルゴム組成物およびゴム架橋物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が鋭意検討した結果、受酸剤として珪酸カルシウムを用いると、貯蔵安定性に優れ、耐熱性に優れるゴム架橋物を与える架橋性アクリルゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) フェノール性水酸基含有単量体単位0.1〜10質量%を含有するアクリルゴム(a)と、液状ふっ素ゴム(b)と、珪酸カルシウム(c)とを含有し、前記液状ふっ素ゴム(b)の含有量が、前記アクリルゴム(a)100質量部に対して、0.4〜50質量部である架橋性アクリルゴム組成物。
(2) 前記アクリルゴム(a)が、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を主成分として含有する(1)に記載の架橋性アクリルゴム組成物。
(3) (メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が、60〜99.9質量%である(2)に記載の架橋性アクリルゴム組成物。
(4) 珪酸カルシウム(c)の含有量が、前記アクリルゴム(a)100質量部に対して、0.5〜20質量部である(1)または(2)に記載の架橋性アクリルゴム組成物。
(5) さらに、老化防止剤として、下記一般式(1)で示す化合物を含有する(1)〜(4)のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、Yは−SO−を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または−SO−を表す。nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、nおよびmの少なくとも一方は1である。)
(6) さらに補強材として、シリカを含有する(1)〜(5)のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物。
(7) さらに補強材として、カーボンブラックを含有する(1)〜(5)のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物。
【0008】
(8) さらに、架橋促進剤を含有する(1)〜(7)のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物。
(9) (1)〜(8)のいずれかに記載の架橋性アクリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
(10) ホースである(9)記載のゴム架橋物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性に優れるゴム架橋物を与える、貯蔵安定性に優れた架橋性アクリルゴム組成物およびゴム架橋物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の架橋性アクリルゴム組成物は、フェノール性水酸基含有単量体単位0.1〜10質量%を含有するアクリルゴム(a)と、液状ふっ素ゴム(b)と、珪酸カルシウム(c)とを含有し、前記液状ふっ素ゴム(b)の含有量が、前記アクリルゴム(a)100質量部に対して、0.4〜50質量部である。
【0011】
(アクリルゴム(a))
本発明で用いるアクリルゴム(a)は、フェノール性水酸基含有単量体単位0.1〜10質量%を含有するアクリルゴムであり、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を主成分として含有するものが好ましい。
なお、本明細書中で、「(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」とは、「メタクリル酸エステル単量体単位」と「アクリル酸エステル単量体単位」の両方を意味し、以下も同様である。
使用できる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、特に制限はされないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体や(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体が挙げられる。
【0012】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、耐油性を向上する観点から、例えば、炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、好ましくは炭素数2〜4のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が挙げられる。
炭素数1〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の具体例としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチルなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、単独でもよく、二種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸アルキルエステルのうち、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチルが、耐熱性、耐油性および耐寒性のバランスの良さから、特に好ましく用いられる。
【0013】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、耐油性を向上する観点から、例えば、炭素数1〜4のアルコキシ基および炭素数1〜4のアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体が挙げられる。
炭素数1〜4のアルコキシ基および炭素数1〜4のアルキレン基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシプロピルなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体は、単独でもよく、二種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体のうち、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチルが、耐熱性、耐油性および耐寒性のバランスの良さから、特に好ましく用いられる。
【0014】
アクリルゴム(a)を構成する全単量体単位中における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、好ましくは60〜99.9質量%、より好ましくは92〜99.7質量%、特に好ましくは95〜99.5質量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が上記範囲にあれば、ゴム弾性が良好であり、かつ十分な架橋密度を有するゴム架橋物が得られる。
【0015】
本発明で用いるアクリルゴム(a)は、フェノール性水酸基含有単量体単位を0.1〜10質量%含有する。アクリルゴム(a)中のフェノール性水酸基は、架橋性基として機能し、液状ふっ素ゴム(b)とともに架橋構造を形成する。従って、液状ふっ素ゴム(b)は、本発明の架橋性アクリルゴム組成物において、架橋剤としての機能を有する。
【0016】
フェノール性水酸基含有単量体としては、フェノール性水酸基を含有し、(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な単量体であれば、特に限定されない。具体的には、o,m,p−ヒドロキシスチレン、α−メチル−o−ヒドロキシスチレン、o−カビコール、p,m−ヒドロキシ安息香酸ビニル、4−ヒドロキシベンジル(メタ)アクリレート、サリチル酸ビニル、p−ヒドロキシベンゾイロキシ酢酸ビニル、オイゲノール、イソオイゲノール、p−イソプロペニルフェノール、o,m,p−アリルフェノール、4−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、2,2−(o,m,p−ヒドロキシフェニル−4−ビニルアセチル)プロパンなどが挙げられる。これらのフェノール性水酸基含有単量体は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
アクリルゴム(a)を構成する全単量体単位中におけるフェノール性水酸基含有単量体単位の含有量は、0.1〜10質量%、好ましくは0.3〜8質量%、さらに好ましくは0.5〜5質量%である。この含有量が少ないと、要求されるゴム弾性が得られなくなり、逆に多いと、ゴム架橋物として適度なゴム弾性が得られなくなる。
【0018】
本発明で用いるアクリルゴム(a)は、本発明の効果を本質的に損なわない範囲で、フェノール性水酸基含有単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の単量体単位を含有していてもよい。このような単量体単位を形成する単量体としては、フェノール性水酸基含有単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な他の単量体を用いることができる。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などの不飽和多価カルボン酸と低級アルコールとの完全又は部分エステル化物:スチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、2−クロロエチルビニルエーテル、モノクロロ酢酸ビニル、アリルクロライド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられる。これらの他の単量体は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
フェノール性水酸基含有単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の単量体単位の含有割合は、アクリルゴム(a)を構成する全単量体単位中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは7.7質量%以下、特に好ましくは4.5質量%以下である。
【0020】
本発明で用いるアクリルゴム(a)の製造方法は、特に制限はされず、公知の方法で製造することができる。例えば、乳化重合法により、所望の単量体組成の単量体混合物を重合し、得られた重合体ラテックスと、塩析剤としての食塩とを混合して、重合体分を凝析させ、ゴムクラムを得る。その後、得られたゴムクラムを、水洗、乾燥して、アクリルゴム(a)を得ることができる。
【0021】
本発明で用いるアクリルゴム(a)のムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、通常、10〜70、好ましくは20〜50である。このムーニー粘度は、重合時に用いる分子量調整剤や重合開始剤の種類や使用量を選択したり、重合温度を選択することにより、調節が可能である。
【0022】
(液状ふっ素ゴム(b))
本発明で用いる液状ふっ素ゴム(b)は、常温(20℃)で液体状のふっ素ゴムであれば、特に限定されない。例えば、ビニリデンフルオライド/ヘキサンフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロペンテン−テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体、テトラフルオロエチレン−プロピレン−フッ化ビニリデン共重合体などが挙げられる。これらの液状ふっ素ゴム(b)として、バイトン(登録商標)LM(デュポン社製)、ダイエル(登録商標)G101(ダイキン工業(株)製)、ダイニオンFC2210(スリーエム社製)などの市販品を使用することもできる。
【0023】
液状ふっ素ゴム(b)の粘度は、特には限定されないが、混練性、流動性、架橋反応性が良好で、成形性にも優れるという点から、105℃における粘度が、500〜30,000cps、好ましくは550〜25,000cpsであるとよい。
【0024】
液状ふっ素ゴム(b)の配合量は、アクリルゴム(a)100質量部に対して、液状ふっ素ゴム(b)が0.4〜50質量部、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部、特に好ましくは1〜5質量部である。液状ふっ素ゴム(b)の配合量が、この範囲であれば、より適切な架橋速度を得ることができる。
【0025】
(珪酸カルシウム(c))
本発明の架橋性アクリルゴム組成物は、珪酸カルシウム(c)を含有する。珪酸カルシウム(c)は、受酸剤として機能する。
珪酸カルシウム(c)の配合量は、特に限定されないが、アクリルゴム(a)100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜15質量部、さらに好ましくは2〜14質量部、特に好ましくは6〜12質量部である。この量が少な過ぎると、十分な架橋速度が得られず、逆に多すぎると、架橋性アクリルゴム組成物の貯蔵安定性は損なわれないものの、ゴム架橋物の硬度が高くなりすぎる場合がある。
本発明の架橋性アクリルゴム組成物には、本発明の効果を本質的に阻害しない範囲で、通常配合される、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの珪酸カルシウム(c)以外の受酸剤を併用してもよい。しかしながら、架橋性アクリルゴム組成物の貯蔵安定性を損ないやすいので、珪酸カルシウム(c)以外の受酸剤は配合しないことが好ましい。
【0026】
(架橋促進剤)
本発明の架橋性アクリルゴム組成物には、適切な架橋速度を呈するよう、架橋促進剤を配合することが好ましい。
架橋促進剤としては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニム塩が挙げられる。
第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、テトラプロピルアンモニウムハイドライドオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドライドオキサイド、トリメチルフェニルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルジメチルアンモニウムクロライド、1,6−ジアザ−ビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7−セチルピリジウムサルフェート、トリメチルベンジルアンモニウムベンゾエートなどが挙げられる。
第四級ホスホニム塩としては、例えば、トリフェニルベンジルホスホニムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド、トリシクロヘキシルベンジルホスホニウムクロライド、トリシクロヘキシルベンジルホスホニウムブロマイドなどが挙げられる。これらの架橋促進剤は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
架橋促進剤の配合量は、アクリルゴム(a)100質量部に対して、通常、0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜2質量部である。架橋促進剤の配合量が少な過ぎると、十分な架橋速度が得難くなり、逆に多過ぎると、スコーチ安定性が損なわれる場合がある。
【0027】
(その他の配合剤)
本発明の架橋性アクリルゴム組成物には、上述したもの以外に、通常のゴム組成物に添加される各種副資材を目的に応じて含有させてもよい。このような副資材としては、補強材、充填剤、老化防止剤、滑剤、可塑剤、安定剤、顔料などが挙げられ、以下に副資材の例を示す。なお、副資材としては、以下に例示したものに限定されるものではない。
【0028】
補強材としては、カーボンブラックやシリカなどが挙げられ、ゴム架橋物の強度を上げる目的で、補強材を配合することが好ましい。
補強材の配合量は、アクリルゴム(a)100質量部に対して、通常、10〜100質量部、好ましくは30〜60質量部である。
補強材としてシリカを配合する場合は、ゴム架橋物の強度を向上させるため、さらに、3−グリシドキシプロピルトリメトシキシランなどのシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して、通常、1〜10質量部である。また、シリカを配合する場合、架橋性アクリルゴム組成物の着色の目的で、カーボンブラックを、アクリルゴム(a)100質量部に対して、5質量部以下で配合することができる。
【0029】
充填材としては、炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルク、ケイソウ土などが挙げられる。
老化防止剤としては、ジフェニルアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体などが挙げられる。中でも、ゴム架橋物の耐熱性を向上させる観点からは、老化防止剤として、下記一般式(1)で示す化合物を配合することが好ましい。
【化2】
(上記一般式(1)中、Yは−SO−を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または−SO−を表す。nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、nおよびmの少なくとも一方は1である。)
【0030】
およびRを構成する炭素数1〜30の炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などの炭素数1〜30のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの炭素数3〜30のシクロアルキル基;フェニル基、ベンジル基、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、4−メチルフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラニル基などの炭素数6〜30のアリール基;などが挙げられる。
【0031】
本発明では、RおよびRとしては、それぞれ独立して、直鎖状または分岐状の炭素数2〜20のアルキル基、または炭素数6〜30のアリール基であることが好ましく、直鎖状または分岐状の炭素数2〜8のアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基であることがさらに好ましい。
【0032】
このようなRおよびRを構成する炭化水素基の好ましい具体例としては、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、t−ブチル基、フェニル基、または4−メチルフェニル基などが挙げられ、これらの中でも、α,α−ジメチルベンジル基、または4−メチルフェニル基がより好ましく、α,α−ジメチルベンジル基がさらに好ましい。なお、これらは、それぞれ独立したものとすることができる。
【0033】
また、上記一般式(1)中、ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または−SO−であり、化学的な単結合であることが好ましい。
【0034】
さらに、上記一般式(1)中、nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、かつ、nおよびmの少なくとも一方は1である。なお、nおよびmは、いずれも1であることが好ましい。
一般式(1)記載の化合物は、国際公開WO2011/093443パンフレットに記載の方法により合成することができる。
【0035】
老化防止剤の配合量は、特に限定されないが、アクリルゴム(a)100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0036】
滑剤としては、パラフィン、炭化水素樹脂、脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸アルコールなどが挙げられる。
可塑剤としては、フタル酸誘導体、アジピン酸誘導体、ポリエーテルエステル誘導体などが挙げられる。
安定剤としては、無水フタル酸、安息香酸、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド、スルホンアミド誘導体などが挙げられる。
顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、シアニンブルーなどが挙げられる。
【0037】
本発明の架橋性アクリルゴム組成物の調製方法は、特に限定されず、公知の調製方法を用いることができる。例えば、通常ゴム工業で使用されるオープンロール、インターナルミキサーなどで各配合成分を混練することによって、架橋性アクリルゴム組成物を調製できる。
本発明の架橋性アクリルゴム組成物は、貯蔵安定性に優れる為、架橋性アクリルゴム組成物の調製後に時間が経過しても、押出成形し易く、得られたゴム架橋物は、耐熱性にも優れているので、ホース等の押出成形用に好適に使用できる。
【0038】
本発明のゴム架橋物は、前記の架橋性アクリルゴム組成物を架橋してなる。
ゴム架橋物の調製方法は、特に限定されず、架橋性アクリルゴム組成物を、押出成形、ホットプレス、射出成形機、スチーム缶などの通常ゴム工業で使用される成形・架橋機械を使用して、成形および架橋操作を行うことにより、ゴム架橋物を得ることができる。
【0039】
本発明のゴム架橋物は、その特性を活かして、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、メカニカルシール、ウェルヘッドシール、電気・電子機器用シール、空気圧機器用シールなどの各種シール;シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジエーターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;などとして好適に用いられ、特に、過酷な高温下で使用されるホースなどの押出成形品用途に、好適に用いられる。
【実施例】
【0040】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。なお、以下の説明において、特に断りがない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%を意味する。
【0041】
実施例および比較例には、以下のものを使用した。
[アクリルゴム]
アクリルゴムとしては、下記の製造方法により得られたものを用いた。
重合反応器に、アニオン性乳化剤であるジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩5部を脱イオン水1250部に溶解したものに、アクリル酸エチル148.2部、アクリル酸ブチル148.2部、p−ヒドロキシ安息香酸ビニル3.6部を加え、攪拌して乳化させた。次に、窒素気流下で70℃まで昇温した後、過硫酸アンモニウムの10%水溶液10部を添加して重合を開始させた。重合開始後、重合温度を徐々に80℃まで上昇させ、さらに80〜82℃の範囲で2時間重合反応を継続した。重合転化率はほぼ100%であった。得られたラテックスと、塩析剤としての食塩(水溶液の状態)とを混合して、クラム状のアクリルゴムを得た。その後、クラム状のアクリルゴムを水洗、乾燥させて、アクリルゴムを得た。
アクリルゴムの組成は、アクリル酸エチル単位:49.4%、アクリル酸ブチル単位:49.4%、p−ヒドロキシ安息香酸ビニル単位:1.2%であり、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)は、35であった。
【0042】
[補強材]
シリカ:ニプシルER(東ソー・シリカ株式会社)
カーボンブラック:シーストSO(東海カーボン株式会社)
[受酸剤]
受酸剤1(珪酸カルシウム):AD850H200M(富田製薬株式会社)
受酸剤2(水酸化カルシウム):カルディック2000(近江化学工業株式会社)
受酸剤3(酸化マグネシウム):MgO#150(協和化学工業株式会社)
受酸剤4(ハイドロタルサイト):DHT−4A−2(協和化学工業株式会社)
[液状ふっ素ゴム]
ダイエルG−101(ダイキン工業株式会社)
(常温で粘重な液体であり、105℃の粘度は、2500cpsであった。)
[架橋促進剤]
テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート:TBAHS(広栄化学工業株式会社)
[シランカップリング剤]
3−グリシドキシプロピルトリメトシキシラン
[滑剤]
オルガノシリコーン化合物:ストラクトールWS280(エスアンドエスジャパン株式会社)
【0043】
[老化防止剤]
老化防止剤1(4,4’−ビス(α,α―ジメチルベンジル)ジフェニルアミン):ノクラックCD(大内新興化学工業株式会社)
老化防止剤2:下記(2)に示す化合物
【化3】
【0044】
(実施例1)
アクリルゴム100部、シリカ40部、受酸剤1(珪酸カルシウム)8部、シランカップリング剤1部、滑剤3部、老化防止剤2(上記(2)に示す化合物)1部、液状ふっ素ゴム1.5部、架橋促進剤0.25部をオープンロールで混練して、架橋性アクリルゴム組成物を調製した。以下のように、得られた架橋性アクリルゴム組成物の貯蔵安定性とゴム架橋物の物性を測定した。結果を表1に示す。
[架橋性アクリルゴム組成物の貯蔵安定性]
得られた架橋性アクリルゴム組成物を、40℃、相対湿度90%の雰囲気下で3日間放置した。その後、ロールに巻きつけて、シート状に取り出した際のシート表面の形状を観察し、下記基準に従って評価した。
〇:シート表面が滑らかである。
×:シート表面に凹凸が生じており、きれいなシート(表面形状が整ったシート)が得られていない。(このようなものは、押出機を用いてホース状に成形した場合、きれいなホース形状(表面に凹凸がなく整ったホース形状)に成形できない。)
[ゴム架橋物の物性]
得られた架橋性アクリルゴム組成物を、ホットプレスを用いて、一次架橋(架橋条件:180℃、15分)した後、二次架橋(架橋条件:180℃、4時間)した。
得られたゴム架橋物について、硬さ、引張特性および空気加熱老化性を測定した。なお、硬さは、JIS K6253(2006 タイプA)に準拠し、引張特性は、JISK6251(2004)に準拠して測定した。また、空気加熱老化性は、JIS K6257(2010)に準拠して、190℃で、336時間の試験条件で加熱老化させ、加熱老化後における引張強度、引張破断伸び、および硬さの測定を行い、測定結果から、初期の引張強度、引張破断伸びに対する変化率、および、初期の硬さに対する変化量を求めることにより評価した。
【0045】
(実施例2〜4及び比較例1〜3)
受酸剤の配合量、受酸剤の種類、老化防止剤の種類と配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に架橋性アクリルゴム組成物を調製した。それらについて、上記と同様にして架橋性アクリルゴム組成物の貯蔵安定性とゴム架橋物の物性を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0046】
表1から以下のようなことがわかる。
従来使用されていた受酸剤(水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト)を用いた架橋性アクリルゴム組成物は、貯蔵安定性に劣るのに対して、珪酸カルシウムを受酸剤として用いた本発明の架橋性アクリルゴム組成物(実施例1〜4)は、貯蔵安定性に優れ、ゴム架橋物の耐熱性に優れている。
また、実施例1〜4については、空気熱老化性を、190℃で504時間経過した後まで測定した。その結果、老化防止剤2(上記(2)に示す化合物)を用いた架橋性アクリルゴム組成物(実施例1〜3)のゴム架橋物は、老化防止剤1(4,4’−ビス(α,α―ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)を用いたもの(実施例4)に比較して、耐熱性により優れていた。
さらに、実施例1〜4については、架橋性アクリルゴム組成物の貯蔵安定性を、放置期間を、5日間、7日間まで延長して測定した。実施例2〜4では、5日間経過後に、「×」となったが、実施例1では、7日間経過後でも「〇」であった。
【0047】
(実施例5)
アクリルゴム100部、カーボンブラック50部、受酸剤1(珪酸カルシウム)を8部、滑剤3部、老化防止剤2(上記(2)に示す化合物)1部、液状ふっ素ゴム1.5部、架橋促進剤0.25部をオープンロールで混練して、架橋性アクリルゴム組成物を調製した。実施例1と同様に、架橋性アクリルゴム組成物の貯蔵安定性とゴム架橋物の物性を測定した。結果を表2に示す。
【0048】
(実施例6および比較例5)
受酸剤の配合量、受酸剤の種類、老化防止剤の種類と配合量を表2に示すように変更した以外は、実施例5と同様に架橋性アクリルゴム組成物を調製した。それらについて、実施例1と同様に、架橋性アクリルゴム組成物の貯蔵安定性とゴム架橋物の物性を測定した。結果を表2に示す。
【表2】
【0049】
表2から以下のようなことがわかる。
補強材としてカーボンブラックを用いた場合においても、従来使用されていた受酸剤(水酸化カルシウム)を用いた架橋性アクリルゴム組成物は、貯蔵安定性に劣るのに対して、珪酸カルシウムを受酸剤として用いた本発明の架橋性アクリルゴム組成物(実施例5及び6)は、貯蔵安定性に優れ、ゴム架橋物の耐熱性は同等以上である。
また、老化防止剤2(上記(2)に示す化合物)を用いた架橋性アクリルゴム組成物(実施例5)のゴム架橋物は、老化防止剤1(4,4’−ビス(α,α―ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)を用いたもの(実施例6)に比較して、耐熱性により優れている。