特許第6565904号(P6565904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6565904ネガ型感光性樹脂組成物、隔壁、光学素子および光学素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6565904
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】ネガ型感光性樹脂組成物、隔壁、光学素子および光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/038 20060101AFI20190819BHJP
   G03F 7/004 20060101ALI20190819BHJP
   G03F 7/075 20060101ALI20190819BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20190819BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20190819BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20190819BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20190819BHJP
   H01L 51/48 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   G03F7/038 601
   G03F7/004 501
   G03F7/075 521
   H05B33/14 A
   H05B33/14 Z
   H05B33/12 B
   H05B33/22 Z
   H01L31/04 180
【請求項の数】13
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-515187(P2016-515187)
(86)(22)【出願日】2015年4月22日
(86)【国際出願番号】JP2015062288
(87)【国際公開番号】WO2015163379
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2018年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-92092(P2014-92092)
(32)【優先日】2014年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 正行
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊
【審査官】 清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−082042(JP,A)
【文献】 特開2002−131908(JP,A)
【文献】 特開2011−141495(JP,A)
【文献】 特開2003−140331(JP,A)
【文献】 特開2009−244779(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161829(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/147626(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/013816(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/077770(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/132755(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/058386(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/046209(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/046210(WO,A1)
【文献】 特開2003−330174(JP,A)
【文献】 特開2005−002105(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/133392(WO,A1)
【文献】 特開2005−148391(JP,A)
【文献】 特開2004−277494(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/074076(WO,A1)
【文献】 特開2013−043864(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/069789(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/176816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂またはビニルフェノール樹脂からなるアルカリ可溶性樹脂(A)と、架橋剤(B)と、光酸発生剤(C)と、フルオロアルキレン基および/またはフルオロアルキル基と加水分解性基とを有する加水分解性シラン化合物(s1)とケイ素原子に4個の加水分解性基が結合した加水分解性シラン化合物(s2)とそれぞれ単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含む撥インク剤(D)と、を含むネガ型感光性樹脂組成物であって、
前記撥インク剤(D)の含有量が、アルカリ可溶性樹脂(A)の100質量部に対して0.2〜3質量部である、ネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記撥インク剤(D)中のフッ素原子の含有率が1〜40質量%である、請求項1に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記撥インク剤(D)は、炭化水素基と加水分解性基のみを有する加水分解性シラン化合物(s3)を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含む、請求項1または2に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項4】
前記撥インク剤(D)は、カチオン重合性基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物(s4)を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記アルカリ可溶性樹脂(A)の含有量が、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中、10〜90質量%である、請求項1〜のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記架橋剤(B)、および光酸発生剤(C)の含有量が、アルカリ可溶性樹脂(A)の100質量部に対して、それぞれ2〜50質量部、および0.1〜20質量部である、請求項1〜のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよび2−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒(E)を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項8】
前記溶媒(E)の含有量が、ネガ型感光性樹脂組成物全量に対して50〜99質量%である、請求項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項9】
基板表面をドット形成用の複数の区画に仕切る形に形成された隔壁であって、請求項1〜のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜からなる隔壁。
【請求項10】
幅が100μm以下であり、隔壁間の距離(パターンの幅)が300μm以下であり、高さが0.05〜50μmである、請求項に記載の隔壁。
【請求項11】
基板表面に複数のドットと、隣接するドット間に位置する隔壁とを有する光学素子であって、前記隔壁が請求項または10に記載の隔壁で形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項12】
前記光学素子が、有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイまたは薄膜太陽電池である、請求項11に記載の光学素子。
【請求項13】
前記ドットをインクジェット法で形成する、請求項11または12に記載の光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネガ型感光性樹脂組成物、隔壁および光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro-Luminescence)素子、量子ドットディスプレイ、TFT(Thin Film Transistor)アレイ、薄膜太陽電池等の光学素子の製造においては、発光層等の有機層をドットとして、インクジェット(IJ)法にてパターン印刷する方法を用いることがある。かかる方法においては、形成しようとするドットの輪郭に沿って隔壁を設け、該隔壁で囲まれた区画(以下、「開口部」ともいう。)内に、有機層の材料を含むインクを注入し、これを乾燥および/または加熱等することにより所望のパターンのドットを形成する。
【0003】
上記方法においては、隣接するドット間におけるインクの混合防止とドット形成におけるインクの均一塗布のため、隔壁上面は撥インク性を有し、一方、隔壁側面を含む隔壁で囲まれたドット形成用の開口部は、親インク性を有する必要がある。
【0004】
そこで、上面に撥インク性を有する隔壁を得るために、撥インク剤を含ませた感光性樹脂組成物を用いて、フォトリソグラフィ法により、ドットのパターンに対応する隔壁を形成する方法が知られている。感光性樹脂としては、大きく分類して、ラジカル重合型の感光性樹脂とカチオン重合型の感光性樹脂が用いられている。しかしながら、ラジカル重合型の感光性樹脂組成物においては、最表面の硬化は、酸素により阻害されることが知られている。そのため、撥インク剤を含ませた感光性樹脂組成物を用いて、最表面に充分な撥インク性を発現させるためには、露光量が多めに必要であり、その結果として、感度、パターニング形状、残渣等に影響を及ぼすことがあった。
【0005】
一方、カチオン重合型の感光性樹脂を用いた場合には、上記のような表面硬化に係る酸素阻害の影響を受けにくく、少ない露光量で、表面に撥インク性を付与することが可能である。このような、カチオン重合型の感光性樹脂と撥インク剤を組み合せた組成物として、特許文献1には、炭素原子数4〜6のフルオロアルキル基を有する、不飽和化合物由来の構造単位を含む付加重合体からなる撥液剤と、カチオン重合型の感光性樹脂を組み合せた組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/057058号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の撥液剤は、隔壁の形成時に、少ない露光量で隔壁表面に固定されるが、隔壁形成後にドットに残る不純物の除去等を目的として行われる、例えば、アルカリ水溶液による洗浄処理、紫外線洗浄処理、紫外線/オゾン洗浄処理、エキシマ洗浄処理、コロナ放電処理、酸素プラズマ処理等の親インク化処理に対する耐性が十分でない。
本発明は、上記観点からなされたものであって、隔壁上面に低露光量で充分な撥インク性を有する撥インク層の形成が可能であり、かつ該撥インク層が親インク化処理を経ても、優れた撥インク性を持続できる隔壁の製造に使用可能なネガ型感光性樹脂組成物を提供することを課題とする。
本発明は、上面に充分な撥インク性を有する撥インク層を有し、微細で精度の高いパターンの形成が可能な隔壁であり、親インク化処理を経ても、優れた撥インク性を持続できる光学素子の隔壁を提供することを課題とする。
また、本発明は、隔壁で仕切られた開口部にインクが均一に塗布され、精度よく形成されたドットを有する光学素子、具体的には、有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイまたは薄膜太陽電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[15]の構成を有するネガ型感光性樹脂組成物、隔壁および光学素子を提供する。
[1]アルカリ可溶性樹脂(A)と、架橋剤(B)と、光酸発生剤(C)と、フルオロアルキレン基および/またはフルオロアルキル基と加水分解性基とを有する加水分解性シラン化合物(s1)を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含む撥インク剤(D)と、を含むネガ型感光性樹脂組成物。
[2]前記撥インク剤(D)中のフッ素原子の含有率が1〜40質量%である、上記[1]に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[3]前記撥インク剤(D)は、ケイ素原子に4個の加水分解性基が結合した加水分解性シラン化合物(s2)を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含む、上記[1]または[2]に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[4]前記撥インク剤(D)は、炭化水素基と加水分解性基のみを有する加水分解性シラン化合物(s3)を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[5]前記撥インク剤(D)は、カチオン重合性基と加水分解性基とを有しフッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物(s4)を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[6]前記アルカリ可溶性樹脂(A)の含有量が、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中、10〜90質量%である、上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[7]前記架橋剤(B)、および光酸発生剤の含有量が、アルカリ可溶性樹脂(A)の100質量部に対して、それぞれ2〜50質量部、および0.1〜20質量部である、上記[1]〜[6]のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[8]前記撥インク剤(D)の含有量が、アルカリ可溶性樹脂(A)の100質量部に対して0.01〜20質量部である、上記[1]〜[7]のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[9]さらに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよび2−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒(E)を含む、上記[1]〜[8]のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【0009】
[10]前記溶媒(E)の含有量が、ネガ型感光性樹脂組成物全量に対して50〜99質量%である、上記[1]〜[9]のいずれか1項に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
[11]基板表面をドット形成用の複数の区画に仕切る形に形成された隔壁であって、上記[1]〜[10]のいずれかに記載のネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜からなる隔壁。
[12]幅が100μm以下であり、隔壁間の距離(パターンの幅)が300μm以下であり、高さが0.05〜50μmである、上記[11]に記載の隔壁。
[13]基板表面に複数のドットと、隣接するドット間に位置する隔壁とを有する光学素子であって、前記隔壁が上記[11]または[12]に記載の隔壁で形成されていることを特徴とする光学素子。
[14]前記ドットがインクジェット法で形成されている、上記[13]に記載の光学素子。
[15]前記光学素子が、有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイまたは薄膜太陽電池である、上記[13]または[14]に記載の光学素子。
【発明の効果】
【0010】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いることにより、隔壁上面に低露光量で充分な撥インク性を有する撥インク層の形成が可能であり、かつ該撥インク層が親インク化処理を経ても、優れた撥インク性を持続できる隔壁の製造が可能である。
また、本発明の隔壁は、上面に充分な撥インク性を有する撥インク層を有し、微細で精度の高いパターンの形成が可能であり、当該隔壁で仕切られた、開口部にインクが均一に塗布され、精度よく形成されたドットを有する光学素子を用いてなる、有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイまたは薄膜太陽電池が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】本発明の実施形態の隔壁の製造方法を模式的に示す工程図である。
図1B】本発明の実施形態の隔壁の製造方法を模式的に示す工程図である。
図1C】本発明の実施形態の隔壁の製造方法を模式的に示す工程図である。
図1D】本発明の実施形態の隔壁の製造方法を模式的に示す工程図である。
図2A】本発明の実施形態の光学素子の製造方法を模式的に示す工程図である。
図2B】本発明の実施形態の光学素子の製造方法を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書における用語の定義を、以下にまとめて説明する。
「(メタ)アクリロイル基」は、「メタクリロイル基」と「アクリロイル基」の総称である。(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリル樹脂もこれに準じる。
【0013】
式(x)で表される基を、単に基(x)と記載することがある。
式(y)で表される化合物を、単に化合物(y)と記載することがある。
ここで、式(x)および式(y)は、任意の式を示している。
【0014】
「側鎖」とは、炭素原子からなる繰り返し単位が主鎖を構成する重合体において、主鎖を構成する炭素原子に結合する、水素原子またはハロゲン原子以外の基である。フッ素原子含有単位等の「単位」は、重合単位を示す。
【0015】
「感光性樹脂組成物の全固形分」とは、感光性樹脂組成物が含有する成分のうち、後述する硬化膜を形成する成分を指し、感光性樹脂組成物を140℃で24時間加熱して溶媒を除去した残存物から求める。なお、全固形分量は仕込み量からも計算できる。
【0016】
樹脂を主成分とする組成物の硬化物からなる膜を「樹脂硬化膜」という。
感光性樹脂組成物を塗布した膜を「塗膜」、それを乾燥させた膜を「乾燥膜」という。該「乾燥膜」を硬化させて得られる膜は「樹脂硬化膜」である。また、「樹脂硬化膜」を単に「硬化膜」ということもある。
【0017】
「隔壁」は、所定の領域を複数の区画に仕切る形に形成された樹脂硬化膜の一形態である。隔壁で仕切られた区画、すなわち隔壁で囲まれた開口部に、例えば、以下の「インク」が注入され、「ドット」が形成される。
【0018】
「インク」とは、乾燥、硬化等をした後に、光学的および/または電気的な機能を有する液体を総称する用語である。
有機EL素子、液晶素子のカラーフィルタおよびTFT(Thin Film Transistor)アレイ等の光学素子においては、各種構成要素としてのドットを、該ドット形成用のインクを用いてインクジェット(IJ)法によりパターン印刷することがある。「インク」には、かかる用途に用いられるインクが含まれる。
【0019】
「撥インク性」とは、上記インクをはじく性質であり、撥水性と撥油性の両方を有する。撥インク性は、例えば、インクを滴下したときの接触角により評価できる。「親インク性」は撥インク性と相反する性質であり、撥インク性と同様にインクを滴下したときの接触角により評価できる。または、インクを滴下したときのインクの濡れ広がりの程度(インクの濡れ広がり性)を所定の基準で評価することにより親インク性が評価できる。
【0020】
「ドット」とは、光学素子における光変調可能な最小領域を示す。有機EL素子、液晶素子のカラーフィルタ、および有機TFTアレイの光学素子においては、白黒表示の場合に1ドット=1画素であり、カラー表示の場合には、例えば、3ドット(R(赤)、G(緑)、B(青)等)=1画素である。
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に説明のない場合、%は質量%を表す。
【0022】
[ネガ型感光性樹脂組成物]
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、アルカリ可溶性樹脂(A)と、架橋剤(B)と、光酸発生剤(C)と、フルオロアルキレン基および/またはフルオロアルキル基と加水分解性基とを有する加水分解性シラン化合物(s1)を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含む撥インク剤(D)と、を含有する。
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、さらに必要に応じて、溶媒(E)、その他の任意成分を含有する。
【0023】
(アルカリ可溶性樹脂(A))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物におけるアルカリ可溶性樹脂(A)としては、活性光線の照射(露光)により光酸発生剤(C)が発生する酸の作用によって、架橋剤(B)と結合し、架橋されてアルカリ不溶となるカチオン重合型のアルカリ可溶性樹脂(A)であれば、特に制限なく、使用可能である。
【0024】
アルカリ可溶性樹脂(A)としては、フェノール類とアルデヒド類、さらに必要に応じて、各種変性剤を加えて重縮合することによって製造される未変性または変性のノボラック型フェノール樹脂、ビニルフェノール樹脂(以下、「ポリビニルフェノール」ともいう。)、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミドの共重合体、ハイドロキノンモノメタクリレート共重合体等が挙げられる。また、スルホニルイミド系ポリマー、カルボキシル基含有ポリマー、フェノール性水酸基を含有するアクリル系樹脂、スルホンアミド基を有するアクリル系樹脂や、ウレタン系の樹脂等、種々のアルカリ可溶性の高分子化合物も用いることができる。
【0025】
アルカリ可溶性樹脂(A)としては、ノボラック型フェノール樹脂、またはビニルフェノール樹脂が好ましい。
【0026】
ノボラック型フェノール樹脂を製造するために用いられるフェノール類およびアルデヒド類としては、国際公開第2013/133392号の、例えば、段落[0021]、[0022]に記載されたもの等が挙げられる。
【0027】
上記ノボラック型フェノール樹脂のなかでも、入手容易性、金属不純物の少なさ等の点から、フェノール類としてクレゾール類、キシレノール類等を用いたノボラック型フェノール樹脂等が好ましく、クレゾール類を用いたノボラック型フェノール樹脂(以下、「クレゾールノボラック樹脂」ともいう。)が特に好ましい。
【0028】
ポリビニルフェノールとしては、ビニルフェノールの単独重合体、ビニルフェノールとこれと共重合可能な単量体との共重合体などが挙げられる。
ポリビニルフェノールは、4−ビニルフェノール、3−ビニルフェノール、2−ビニルフェノール、2−メチル−4−ビニルフェノール、2,6−ジメチル−4−ビニルフェノール等のビニルフェノールを単独または、2種以上組み合わせて、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等の重合開始剤を用いて、ラジカル重合させることによって得ることができる。
【0029】
ビニルフェノールと共重合可能な単量体としては、例えば、イソプロペニルフェノール、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、無水マレイン酸、マレイン酸イミド、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの中でも、ビニルフェノールの単独重合体が好ましく、4−ビニルフェノールの単独重合体が特に好ましい。
【0030】
アルカリ可溶性樹脂(A)の質量平均分子量(Mw)は、500〜20,000が好ましく、2,000〜15,000が特に好ましい。アルカリ可溶性樹脂(A)の質量平均分子量(Mw)が低すぎると、露光領域の架橋反応が起こっても、分子量が充分に増大しないため、アルカリ現像液に溶解しやすくなる。アルカリ可溶性樹脂(A)の質量平均分子量(Mw)が大きすぎると、露光領域と未露光領域とのアルカリ現像液に対する溶解度の差が小さくなるため、良好なレジストパターンを得ることが難しくなる。
【0031】
なお、質量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、テトラヒドロフランを移動相として測定される、標準ポリスチレンを基準として換算した質量平均分子量を意味する。また、数平均分子量(Mn)とは、同様のGPCで測定した数平均分子量を意味する。
【0032】
アルカリ可溶性樹脂(A)としては市販品を用いてもよく、例えば、クレゾールノボラック樹脂の市販品としては、EP4020G(Mw:9,000〜14,000)、EPR5010G(Mw:7,000〜12,500)(以上、商品名、旭有機材工業社製)、ポリビニルフェノールの市販品としては、マルカリンカーM(商品名、丸善石油化学社製)等が挙げられる。
【0033】
アルカリ可溶性樹脂(A)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中のアルカリ可溶性樹脂(A)の含有量は、10〜90質量%が好ましく、30〜85質量%がより好ましく、40〜80質量%が特に好ましい。含有量が上記範囲であると、ネガ型感光性樹脂組成物の現像性が良好になる。
【0034】
(架橋剤(B))
架橋剤(B)は、活性光線の照射(露光)により、光酸発生剤(C)が発生する酸の作用によって、上記アルカリ可溶性樹脂(A)と結合して、アルカリ可溶性樹脂(A)を架橋させることでアルカリ不溶としうる化合物(感酸物質)である。
【0035】
架橋剤(B)としては、メラミン系、ベンゾグアナミン系、尿素系およびイソシアネート系の化合物、多官能性エポキシド基含有化合物、オキセタン系化合物などの低分子架橋剤、アルコキシアルキル化メラミン樹脂あるいはアルコキシアルキル化尿素樹脂のようなアルコキシアルキル化アミノ樹脂などの高分子架橋剤等が好ましい。
【0036】
メラミン系化合物としては、例えば、メラミン、メトキシメチル化メラミン、エトキシメチル化メラミン、プロポキシメチル化メラミン、ブトキシメチル化メラミン、ヘキサメチロールメラミンなどが挙げられる。
ベンゾグアナミン系化合物としては、例えば、ベンゾグアナミン、メチル化ベンゾグアナミンなどが挙げられる。
尿素系化合物としては、例えば、尿素、モノメチロール尿素、ジメチロール尿素、アルコキシメチレン尿素、N−アルコキシメチレン尿素、エチレン尿素、エチレン尿素カルボン酸、テトラキス(メトキシメチル)グリコールウリルなどが挙げられる。 イソシアネート系化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ビスイソシアネートメチルシクロヘキサン、ビスイソシアネートメチルベンゼン、エチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0037】
多官能性エポキシド基含有化合物としては、1分子中にベンゼン環または複素環を1個以上含み、かつエポキシ基を2個以上含んでいるものが好ましい。例えば、ビスフェノールアセトンジグリシジルエーテル、フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、テトラグリシジル−1,3−ビス(アミノエチル)シクロヘキサン、テトラフェニルグリシジルエーテルエタン、トリフェニルグリシジルエーテルエタン、ビスフェノールヘキサフルオロアセトジグリシジルエーテル、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−オクタフルオロビフェニル、トリグリシジル−p−アミノフェノール、テトラグリシジルメタキシレンジアミンなどを挙げることができる。
【0038】
オキセタン系化合物としては、1分子中にオキセタニル基を2個以上含んでいるものが好ましく、例えば、キシリレンビスオキセタン、3−エチル−3{[3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン等が挙げられる。
【0039】
アルコキシアルキル化メラミン樹脂あるいはアルコキシアルキル化尿素樹脂としては、メトキシメチル化メラミン樹脂、エトキシメチル化メラミン樹脂、プロポキシメチル化メラミン樹脂、ブトキシメチル化メラミン樹脂、メトキシメチル化尿素樹脂、エトキシメチル化尿素樹脂、プロポキシメチル化尿素樹脂、ブトキシメチル化尿素樹脂などが挙げられる。
【0040】
架橋剤(B)としては、市販品を用いてもよく、例えば、アルコキシメチル化アミノ樹脂の市販品としては、PL−1170、PL−1174、UFR65、CYMEL300、CYMEL303(以上、三井サイテック社製)、BX−4000、ニカラックMW−30、MX290、MW−100LM(以上、三和ケミカル社製)等を挙げることができる。
【0041】
架橋剤(B)は、単独でまたは2種以上混合して使用することができる。その配合量は、アルカリ可溶性樹脂(A)の100質量部に対して、2〜50質量部が好ましく、より好ましくは5〜30質量部であり、さらに好ましくは10〜25質量部である。架橋剤(B)の使用量が少なすぎると、架橋反応が充分に進行することが困難となり、アルカリ現像液を用いた現像後のレジストパターンの残膜率が低下したり、レジストパターンの膨潤や蛇行などの変形が生じやすくなる。架橋剤(B)の使用量が多すぎると、解像度が低下するおそれがある。
【0042】
(光酸発生剤(C))
光酸発生剤(C)は、活性光線を照射することで、分解して酸を発生する化合物であれば、特に制限されない。カチオン重合型のアルカリ可溶性樹脂(A)を用いた感光性樹脂組成物において、一般に光酸発生剤として用いられる化合物の中から、任意の化合物を選択して使用することができる。
【0043】
なお、本発明のネガ型感光性樹脂組成物においては、光酸発生剤(C)から生成される酸は、上記アルカリ可溶性樹脂(A)と架橋剤(B)の結合に係わるとともに、撥インク剤(D)が含有する含フッ素加水分解性シラン化合物(s1)の加水分解反応に対して触媒として機能する。通常、加水分解性シラン化合物を含む組成物には、併せて酸触媒を配合する。それにより、反応が徐々に進行し、貯蔵安定性が問題となることがあるが、本発明のネガ型感光性樹脂組成物においては、光酸発生剤(C)とは別に酸を配合する必要はないため、貯蔵安定性は良好である。
【0044】
光酸発生剤(C)は、活性光線の照射により分解して酸を発生する。該活性光線として、具体的には、紫外光、X線、電子線等の高エネルギー線が挙げられる。ネガ型感光性樹脂組成物を用いて光学素子用の隔壁を製造する場合、露光には、i線(365nm)、h線(405nm)およびg線(436nm)が好ましく用いられる。光酸発生剤(C)としては、露光に用いられる光線の波長において、吸光度の大きい光酸発生剤を選択することが好ましい。
【0045】
光酸発生剤として、具体的には、オニウム塩系光酸発生剤や非イオン系光酸発生剤が挙げられる。オニウム塩系光酸発生剤としては、例えば、下式(C1)または(C2)で表されるトリフェニルスルホニウム骨格を有する化合物のオニウム塩やヨードニウム塩系化合物が挙げられる。なお、化合物(C1)および(C2)において、トリフェニルスルホニウム骨格のフェニル基の水素原子が置換された化合物も光酸発生剤として使用可能である。
【0046】
【化1】
【0047】
式(C1)および(C2)中、XaおよびXbはアニオンを示す。具体的には、リン系のアニオン、例えば、PF、(Rf1PF6―n(Rf1はフロロアルキル基、nは1〜3)等が挙げられ、スルホン酸塩系のアニオン、例えば、RSO(Rは一部または全部が、フッ素原子で置換されていてもよい、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基)等が挙げられる。RSOのRとしては、例えば、−CF、−C、−C17等のペルフルオロアルキル基、−C等のペルフルオロアリール基、−Ph−CH(ただし、Phはフェニル基を示す。)等のアリール基等が挙げられる。
なお、これらのオニウム塩においては、カチオン部が照射された光を吸収し、アニオン部が酸の発生源となる。
【0048】
化合物(C1)および(C2)において、例えば、露光をi線(365nm)で行う場合に用いられる化合物としては、下式(C1−1)で表されるトリフェニルスルホニウム・ノナフルオロブタンスルホネート、あるいは下式(C2−1)および(C2−2)で表される、それぞれトリアリールスルホニウム・PF塩およびトリアリールスルホニウム・特殊リン系塩が、波長365nmにおける吸光度が大きい点や、入手がしやすい点で好ましい。
【0049】
【化2】
式(C2−2)中、Rf1はフロロアルキル基、nは1〜3である。
【0050】
ヨードニウム塩系化合物としては、トリフルオロメタンスルホン酸ジフェニルヨードニウム、トリフルオロメタンスルホン酸(p−tert−ブトキシフェニル)フェニルヨードニウム、p−トルエンスルホン酸ジフェニルヨードニウム、p−トルエンスルホン酸(p−tert−ブトキシフェニル)フェニルヨードニウム等が挙げられる。
【0051】
オニウム塩系光酸発生剤は市販品を使用することもできる。例えば、TPSP−PFBS(化合物(C1−1)、商品名、東洋合成工業社製)、CPI−100P(化合物(C2−1)、商品名、サンアプロ社製)、CPI−210S(化合物(C2−2)、商品名、サンアプロ社製)が挙げられる。
【0052】
非イオン系光酸発生剤としては、例えば、ナフタルイミド骨格、ニトロベンゼン骨格、ジアゾメタン骨格、フェニルアセトフェノン骨格、チオキトサン骨格、トリアジン骨格を有し、塩素原子、アルカンスルホン酸、アリールスルホン酸等が結合した構造を有する化合物が挙げられる。
【0053】
このような化合物として、具体的には、下式(C3)、下式(C4)、下式(C5)、下式(C6)、および下式(C7)でそれぞれ表される、ナフタルイミド骨格、ニトロベンゼン骨格、ジアゾメタン骨格、フェニルアセトフェノン骨格、またはチオキトサン骨格を有し、アルカンスルホン酸、アリールスルホン酸等が結合した構造を有する化合物が挙げられる。また、下式(C8)に示されるトリアジン骨格と塩素原子を有する化合物が挙げられる。さらに、下式(C9)で示されるジアルキルグリオキシムのスルホニル化合物、下式(C10)で示されるスルホニルオキシイミノアセトニトリル等が挙げられる。
なお、化合物(C3)、(C4)、(C6)、および(C7)においては、各化合物の骨格を形成するベンゼン環の水素原子が置換された化合物も光酸発生剤としての機能を有する。
【0054】
【化3】
【0055】
式(C3)〜(C7)、(C9)、および(C10)におけるRb1〜Rb5、Rb7およびRb9は、それぞれ独立に、一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい、直鎖状、分岐状または環状(ただし、部分的に環状構造を有するものも含む)の、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜18のアリール基である。具体的には、−CF、−C、−C17等のペルフルオロアルキル基、−C等のペルフルオロアリール基、−Ph−CH等のアリール基等が挙げられる。式(C8)、(C9)、および(C10)におけるRb6、Rb8およびRb10は、それぞれ独立に、置換基を有してもよい炭素数1〜18の有機基である。
なお、これらの非イオン系光酸発生剤においては、塩素原子、アルカンスルホン酸、アリールスルホン酸等が結合した部分が酸の発生源となる。
【0056】
非イオン系光酸発生剤としては、例えば、露光をi線(365nm)で行うのに用いられる化合物としては、下式(C3−1)で表されるN−トリフルオロメタンスルホン酸−1,8−ナフタルイミド、下式(C6−1)で表される2−Phenyl−2−(p−toluenesulfonyloxy)acetophenone、および下式(C8−1)で表される2−(4−Methoxystyryl)−4,6−bis(trichloromethyl)−1,3,5−triazine等が波長365nmにおける吸光度が大きい点や入手がしやすい点で好ましい。
【0057】
【化4】
【0058】
非イオン系光酸発生剤は市販品を使用することもできる。例えば、NHNI−TF(化合物(C3−1)、商品名、東洋合成工業社製)が挙げられる。
【0059】
また、これらのオニウム塩系光酸発生剤および非イオン系光酸発生剤から光の作用で発生する酸は、塩酸、アルカンスルホン酸、アリールスルホン酸、部分的にまたは完全にフッ素化されたアリールスルホン酸、アルカンスルホン酸等である。
【0060】
光酸発生剤(C)は、上記化合物の1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
光酸発生剤(C)の含有量は、アルカリ可溶性樹脂(A)の100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましく、0.5〜10質量部がより好ましく、1〜8質量部が特に好ましい。光酸発生剤(C)の含有量を上記範囲とすることで、上面に充分な撥インク性を有する、微細で精度の高いパターンの形成が可能な隔壁が得られる。
【0061】
(撥インク剤(D))
本発明における撥インク剤(D)は、フルオロアルキレン基および/またはフルオロアルキル基と加水分解性基とを有する加水分解性シラン化合物(s1)を含有する。撥インク剤(D)は、加水分解性シラン化合物(s1)を単独でも、加水分解性シラン化合物(s1)と、後述する任意成分としての、加水分解性シラン化合物(s1)以外の加水分解性シラン化合物との混合物としてもよい。撥インク剤(D)は、加水分解性シラン化合物(s1)を含む加水分解性シラン化合物のみで構成されることが好ましい。
【0062】
撥インク剤(D)は、加水分解性シラン化合物(s1)を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含有する。すなわち、撥インク剤(D)は、加水分解性シラン化合物(s1)を、単量体として含有してもよく、その部分加水分解縮合物として含有してもよい。また、撥インク剤(D)が、加水分解性シラン化合物(s1)以外の加水分解性シラン化合物を含む場合は、加水分解性シラン化合物(s1)とそれ以外の加水分解性シラン化合物との部分加水分解(共)縮合物として含有してもよい。さらに、加水分解性シラン化合物(s1)は、単量体、その部分加水分解縮合物、および他の加水分解性シラン化合物との部分加水分解(共)縮合物から選ばれる2種以上の混合物として撥インク剤(D)に含有されてもよい。
【0063】
以下において、撥インク剤(D)が特定の加水分解性シラン化合物を含有するとは、該加水分解性シラン化合物を単量体および/または部分加水分解(共)縮合物として含有することを意味する。ここで、「単量体および/または部分加水分解(共)縮合物」は、上記における定義の範囲と同様である。
【0064】
撥インク剤(D)は、加水分解性シラン化合物(s1)がフルオロアルキレン基および/またはフルオロアルキル基を有することから、これを含有するネガ型感光性樹脂組成物を用いて硬化膜を形成する過程で上面に移行する性質(上面移行性)および撥インク性を有する。撥インク剤(D)を用いることで、得られる隔壁の上面を含む上層部は、撥インク剤(D)が密に存在する層(以下、「撥インク層」ということもある。)となり、隔壁上面に撥インク性が付与される。このような、撥インク層は、主として、加水分解性シラン化合物(s1)を含む加水分解性シラン化合物の硬化物から形成されることから、紫外線/オゾン洗浄処理等の親インク化処理を経ても、優れた撥インク性を持続できる点で有利である。
【0065】
撥インク剤(D)中のフッ素原子の含有率は、上面移行性と撥インク性の観点から、1〜40質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。撥インク剤(D)のフッ素原子の含有率が、上記範囲の下限値以上であると、硬化膜上面に良好な撥インク性を付与でき、上限値以下であると、ネガ型感光性樹脂組成物中の他の成分との相溶性が良好になる。
【0066】
撥インク剤(D)は、好ましくは、加水分解性シラン化合物(s1)を含む加水分解性シラン化合物の実質的に単量体からなる混合物(以下、「混合物(M)」ともいう。)、または該混合物(M)の部分加水分解(共)縮合物である。該混合物(M)は、フルオロアルキレン基および/またはフルオロアルキル基と加水分解性基とを有する加水分解性シラン化合物(s1)を必須成分として含み、任意に加水分解性シラン化合物(s1)以外の加水分解性シラン化合物を含む。
【0067】
なお、加水分解性シラン化合物が実質的に単量体であるとは、加水分解性シラン化合物について、全量が単量体であることだけを意味するのではなく、2〜10量体程度の低分子量の部分加水分解縮合物を含んでいても、さらには、該部分加水分解縮合物だけからなっていてもよいことを意味する。
【0068】
混合物(M)が任意に含有する加水分解性シラン化合物としては、以下の加水分解性シラン化合物(s2)〜(s4)が挙げられる。さらに、その他の加水分解性シラン化合物を含んでいてもよい。混合物(M)が任意に含有する加水分解性シラン化合物としては、加水分解性シラン化合物(s2)が特に好ましい。なお、撥インク剤(D)が加水分解性シラン化合物(s4)を含む場合には、撥インク剤(D)は混合物(M)からなることが好ましい。加水分解性シラン化合物(s4)を含まない場合は、撥インク剤(D)は混合物(M)からなってもよく、その部分加水分解(共)縮合物であってもよい。
【0069】
加水分解性シラン化合物(s2);ケイ素原子に4個の加水分解性基が結合した加水分解性シラン化合物。
加水分解性シラン化合物(s3);ケイ素原子に結合する基として、炭化水素基と加水分解性基のみを有する加水分解性シラン化合物。
加水分解性シラン化合物(s4);カチオン重合性基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物。
以下、加水分解性シラン化合物(s1)〜(s4)、およびその他の加水分解性シラン化合物について説明する。
【0070】
<1>加水分解性シラン化合物(s1)
加水分解性シラン化合物(s1)を用いることで、撥インク剤(D)はフッ素原子をフルオロアルキレン基および/またはフルオロアルキル基の形で有し、優れた上面移行性と撥インク性を有する。加水分解性シラン化合物(s1)が有するこれらの性質をより高いレベルとするためには、加水分解性シラン化合物(s1)は、フルオロアルキル基、ペルフルオロアルキレン基およびペルフルオロアルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することがより好ましく、ペルフルオロアルキル基を有することが特に好ましい。また、エーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基も好ましい。すなわち、加水分解性シラン化合物(s1)として最も好ましい化合物は、ペルフルオロアルキル基および/またはエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基を有する化合物である。
【0071】
加水分解性基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基、アミノ基、アミノ基の少なくとも1つの水素がアルキル基で置換された基等が挙げられる。加水分解反応により水酸基(シラノール基)となり、さらに分子間で縮合反応して、Si−O−Si結合を形成する反応が円滑に進みやすい点から、炭素原子数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましく、メトキシ基、エトキシ基または塩素原子がより好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
加水分解性シラン化合物(s1)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0072】
加水分解性シラン化合物(s1)としては、下式(dx−1)で表される化合物が好ましい。
(A−RF11−Si(RH1111(4−a−b) …(dx−1)
式(dx−1)中、RF11は、少なくとも1つのフルオロアルキレン基を含む、エーテル性酸素原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜16の2価の有機基である。
H11は炭素原子数1〜6の炭化水素基である。
aは1または2、bは0または1、a+bは1または2である。
Aはフッ素原子または下式(Ia)で表される基である。
−Si(RH1212(3−c) …(Ia)
H12は炭素原子数1〜6の炭化水素基である。
cは0または1である。
11およびX12は、それぞれ独立に、加水分解性基である。
11が複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。
12が複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。
A−RF11が複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。
【0073】
化合物(dx−1)は、2または3官能性の加水分解性シリル基を1個または2個有する含フッ素加水分解性シラン化合物である。
【0074】
H11およびRH12は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜3の炭化水素基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
式(dx−1)中、aが1であり、bが0または1であることが特に好ましい。
11およびX12の具体例および好ましい様態は上記のとおりである。
【0075】
加水分解性シラン化合物(s1)としては、下式(dx−1a)で表される化合物が特に好ましい。
T−RF12−Q11−SiX11 …(dx−1a)
式(dx−1a)中、RF12は炭素原子数2〜15のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基である。
Tはフッ素原子または下式(Ib)で表される基である。
−Q12−SiX12 …(Ib)
11およびX12は、それぞれ独立に、加水分解性基である。
3個のX11は互いに異なっていても同一であってもよい。
3個のX12は互いに異なっていても同一であってもよい。
11およびQ12は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基を示す。
【0076】
式(dx−1a)において、Tがフッ素原子である場合、RF12は、炭素原子数4〜8のペルフルオロアルキレン基、または炭素原子数4〜10のエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基が好ましく、炭素原子数4〜8のペルフルオロアルキレン基がより好ましく、炭素原子数6のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。
また、式(dx−1a)において、Tが基(Ib)である場合、RF12は、炭素原子数3〜15のペルフルオロアルキレン基、または炭素原子数3〜15のエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基が好ましく、炭素原子数4〜6のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。
【0077】
F12が上記した基である場合、撥インク剤(D)が良好な撥インク性を有し、かつ、化合物(dx−1a)は溶媒への溶解性に優れる。
【0078】
F12の構造としては、直鎖構造、分岐構造、環構造、部分的に環を有する構造等が挙げられ、直鎖構造が好ましい。
【0079】
F12の具体例としては、例えば、国際公開第2014/046209号の段落[0043]に記載されたもの等が挙げられる。
【0080】
11およびQ12は、右側の結合手にSiが、左側の結合手にRF12がそれぞれ結合するとして表示した場合、具体的には、−(CHi1−(i1は1〜5の整数。)、−CHO(CHi2−(i2は1〜4の整数。)、−SONR−(CHi3−(Rは水素原子、メチル基、またはエチル基であり、i3は1〜4の整数であり、Rと(CHi3との炭素原子数の合計は4以下の整数である。)、または−(C=O)−NR−(CHi4−(Rは上記と同様であり、i4は1〜4の整数であり、Rと(CHi4との炭素原子数の合計は4以下の整数である。)で表される基が好ましい。Q11およびQ12としては、i1が2〜4の整数である−(CHi1−がより好ましく、−(CH−が特に好ましい。
【0081】
なお、RF12がエーテル性酸素原子を含まないペルフルオロアルキレン基である場合、Q11およびQ12としては、−(CHi1−で表される基が好ましい。i1は2〜4の整数がより好ましく、2が特に好ましい。
F12がエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキル基である場合、Q11およびQ12としては、−(CHi1−、−CHO(CHi2−、−SONR−(CHi3−、または−(C=O)−NR−(CHi4−で表される基が好ましい。この場合においても、Q11およびQ12としては、−(CHi1−がより好ましい。i1は2〜4の整数がさらに好ましく、i1は2が特に好ましい。
【0082】
Tがフッ素原子の場合、化合物(dx−1a)の具体例としては、例えば、国際公開第2014/046209号の段落[0046]に記載されたもの等が挙げられる。
【0083】
Tが基(Ib)である場合、化合物(dx−1a)の具体例としては、例えば、国際公開第2014/046209号の段落[0047]に記載されたもの等が挙げられる。
【0084】
本発明において、化合物(dx−1a)としては、なかでも、F(CFCHCHSi(OCHまたはF(CFOCF(CF)CFO(CFCHCHSi(OCHが特に好ましい。
【0085】
混合物(M)における加水分解性シラン化合物(s1)の含有割合は、該混合物または該混合物から得られる部分加水分解(共)縮合物におけるフッ素原子の含有率が1〜40質量%となる割合であることが好ましい。該フッ素原子の含有率は、より好ましくは5〜35質量%であり、特に好ましくは10〜30質量%である。加水分解性シラン化合物(s1)の含有割合が上記範囲の下限値以上であると、硬化膜の上面に良好な撥インク性を付与でき、上限値以下であると、該混合物中の他の加水分解性シラン化合物やネガ型感光性樹脂組成物中の他の成分との相溶性が良好になる。
【0086】
<2>加水分解性シラン化合物(s2)
ケイ素原子に4個の加水分解性基が結合した加水分解性シラン化合物(s2)を混合物(M)に含ませることで、撥インク剤(D)を含むネガ型感光性樹脂組成物を硬化してなる硬化膜において、撥インク剤(D)が上面移行した後の造膜性を高められる。すなわち、加水分解性シラン化合物(s2)中の加水分解性基の数が多いことから、上面移行した後に、撥インク剤(D)同士が良好に縮合し、上面全体に薄い膜を形成して撥インク層となると考えられる。
また、混合物(M)に加水分解性シラン化合物(s2)を含ませることで、部分加水分解縮合物とした場合には、撥インク剤(D)は炭化水素系の溶媒に溶解しやすくなる。
加水分解性シラン化合物(s2)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0087】
加水分解性基としては、加水分解性シラン化合物(s1)の加水分解性基と同様のものを用いることができる。
【0088】
加水分解性シラン化合物(s2)は、下式(dx−2)で表すことができる。
SiX …(dx−2)
式(dx−2)中、Xは加水分解性基を示し、4個のXは互いに異なっていても同一であってもよい。Xとしては、前記X11およびX12と同様の基が用いられる。
【0089】
化合物(dx−2)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。また、化合物(dx−2)としては、必要に応じて、その複数個、例えば、2〜10個を予め部分加水分解縮合して得た部分加水分解縮合物を用いてもよい。
Si(OCH、Si(OC、Si(OCHの部分加水分解縮合物、またはSi(OCの部分加水分解縮合物。
【0090】
混合物(M)における加水分解性シラン化合物(s2)の含有割合は、加水分解性シラン化合物(s1)の1モルに対して、1〜20モルが好ましく、3〜18モルが特に好ましい。含有割合が上記範囲の下限値以上であると、撥インク剤(D)の造膜性が良好であり、上限値以下であると、撥インク剤(D)の撥インク性が良好である。
【0091】
<3>加水分解性シラン化合物(s3)
上記混合物(M)において、加水分解性シラン化合物(s2)を用いる場合、例えば、感光性樹脂組成物を硬化してなる隔壁において、その上面の端部に盛り上がりが形成される場合がある。この盛り上がりは、走査型電子顕微鏡(SEM)等によって観察されるレベルの微小なものであるが、他の部分よりもFおよび/またはSiの含有量が多いことが確認された。
【0092】
上記盛り上がりは、隔壁等として特に支障をきたすものではないが、本発明者は、加水分解性シラン化合物(s2)の一部を、加水分解性基の数の少ない加水分解性シラン化合物(s3)に置き換えることで、上記盛り上がりの発生が抑えられることを見出した。
加水分解性基の数の多い加水分解性シラン化合物(s2)によって生成されるシラノール基同士の反応により、撥インク剤(D)の造膜性は増加するが、その高い反応性のために、上記盛り上がりが起こると考えられる。そこで、加水分解性シラン化合物(s2)の一部を、加水分解性基の数の少ない加水分解性シラン化合物(s3)に置き換えることで、シラノール基同士の反応が抑えられ、上記盛り上がりの発生が抑えられると考えられる。
加水分解性シラン化合物(s3)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
加水分解性基としては、加水分解性シラン化合物(s1)の加水分解性基と同様のものを用いることができる。
【0093】
加水分解性シラン化合物(s3)としては、下式(dx−3)で表される化合物が好ましい。
(RH5−SiX(4−j) …(dx−3)
式(dx−3)中、RH5は炭素原子数1〜20の炭化水素基である。
は加水分解性基である。
jは1〜3の整数であり、好ましくは2または3である。
H5が複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。
が複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。
【0094】
H5としては、jが1の場合には、炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基または炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基が挙げられ、炭素原子数1〜10のアルキル基、フェニル基等が好ましい。jが2または3の場合には、RH5は炭素原子数1〜6の炭化水素基が好ましく、炭素原子数1〜3の炭化水素基がより好ましい。
としては、前記X11およびX12と同様の基が用いられる。
【0095】
化合物(dx−3)の具体例としては、例えば、国際公開第2014/046209号の段落[0063]に記載されたもの等が挙げられる。
【0096】
混合物(M)における加水分解性シラン化合物(s3)の含有割合は、加水分解性シラン化合物(s1)の1モルに対して、1〜10モルが好ましく、3〜8モルが特に好ましい。含有割合が上記範囲の下限値以上であると、隔壁上面の端部の盛り上がりを抑制できる。上限値以下であると、撥インク剤(D)の撥インク性が良好である。
【0097】
<4>加水分解性シラン化合物(s4)
混合物(M)は、任意に、カチオン重合性基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含有しない加水分解性シラン化合物(s4)を含有することが好ましい。混合物(M)に加水分解性シラン化合物(s4)を含ませることで、カチオン重合性基を介して、例えば、感光性樹脂組成物が含有する架橋剤(B)と反応して、撥インク層における撥インク剤(D)の定着性を高める効果が得られる。
【0098】
加水分解性シラン化合物(s4)としては、下式(dx−4)で表される化合物が好ましい。
(E−Q−Si(RH6(4−s−t) …(dx−4)
式(dx−4)中、Eはカチオン重合性基、例えば、オキセタニル基、エポキシ基、グリシドキシ基または3,4−エポキシシクロヘキシル基である。
は炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基である。
H6は炭素原子数1〜6の炭化水素基である。
は加水分解性基である。
sは1または2、tは0または1、s+tは1または2である。
E−Qが複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。
が複数個存在する場合、これらは互いに異なっていても同一であってもよい。
【0099】
としては、前記X11およびX12と同様の基が用いられる。
としては、炭素原子数1〜10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1〜5のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数1〜3のアルキレン基が特に好ましい。
H6としては、前記RH11およびRH12と同様の基が用いられる。
【0100】
化合物(dx−4)の具体例としては、E−(CH−Si(OCH、E−(CH−Si(OCH、E−(CH−Si(OCHCH、E−(CH−Si(CH)(OCHCH等が挙げられる。これらのうちでも、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が好ましい。
【0101】
混合物(M)における加水分解性シラン化合物(s4)の含有量は、混合物(M)の全量に対して0〜99モル%が好ましく、15〜80モル%がより好ましく、15〜50モル%が特に好ましい。加水分解性シラン化合物(s4)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0102】
<5>その他の加水分解性シラン化合物
混合物(M)は、さらに加水分解性シラン化合物(s1)〜(s4)以外の加水分解性シラン化合物の1種または2種以上を、本発明の効果を損なわない範囲で含むことができる。混合物(M)におけるその他の加水分解性シラン化合物の含有量は、混合物(M)の全量に対して合計で40モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
【0103】
その他の加水分解性シラン化合物としては、エチレン性二重結合を有する基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物、メルカプト基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物、オキシアルキレン基と加水分解性基を有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物、アミノ基またはイソシアネート基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物等が挙げられる。
【0104】
エチレン性二重結合を有する基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物の具体例としては、例えば、国際公開第2014/046209号の段落[0057]に記載されたもの等が挙げられる。
【0105】
メルカプト基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物の具体例としては、HS−(CH−Si(OCH、HS−(CH−Si(CH)(OCH等が挙げられる。
【0106】
オキシアルキレン基と加水分解性基を有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物の具体例としては、CHO(CO)Si(OCH(ポリオキシエチレン基含有トリメトキシシラン)(例えば、kは約10である。)等が挙げられる。
【0107】
アミノ基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物としては、例えば、CNH(CHSi(OCH(フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン)等が挙げられる。
イソシアネート基と加水分解性基とを有し、フッ素原子を含まない加水分解性シラン化合物としては、例えば、NCO(CHSi(OC(イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)等が挙げられる。
【0108】
<6>撥インク剤(D)
撥インク剤(D)は、混合物(M)またはその部分加水分解(共)縮合物である。
撥インク剤(D)の一例として、化合物(dx−1a)を必須成分として含み、化合物(dx−2)および化合物(dx−4)を任意成分として含み、化合物(dx−1a)中の基Tがフッ素原子である混合物(M)が挙げられる。各化合物の含有量は上記のとおりが好ましい。
【0109】
撥インク剤(D)を、上記のような混合物(M)の形でネガ型感光性樹脂組成物に含有させる場合、撥インク剤(D)を予め部分加水分解縮合する工程が省略でき、生産性の点て有利である。さらに、ネガ型感光性樹脂組成物の貯蔵安定性の点で好ましい。
【0110】
撥インク剤(D)の別の一例として、化合物(dx−1a)を必須成分として含み、化合物(dx−2)および化合物(dx−3)を任意成分として含み、化合物(dx−1a)中の基Tがフッ素原子である混合物(M)の部分加水分解縮合物である、撥インク剤(D1)の平均組成式を下式(II)に示す。撥インク剤(D)として部分加水分解縮合物を用いれば、ネガ型感光性樹脂組成物の現像除去部(開口部)における残渣を低減できる点で有利である。
【0111】
[T−RF12−Q11−SiO3/2n1・[SiOn2・[(RH5−SiO(4−j)/2n3 …(II)
式(II)中、n1〜n3は構成単位の合計モル量に対する各構成単位のモル分率を示す。n1>0、n2≧0、n3≧0、n1+n2+n3=1である。その他の各符号は、上述のとおりである。ただし、Tはフッ素原子である。
【0112】
なお、撥インク剤(D1)は、実際は加水分解性基またはシラノール基が残存した生成物(部分加水分解縮合物)であるので、この生成物を化学式で表すことは困難である。
式(II)で表される平均組成式は、撥インク剤(D1)において、加水分解性基またはシラノール基の全てがシロキサン結合となったと仮定した場合の化学式である。
また、式(II)において、化合物(dx−1a)、(dx−2)、および(dx−3)にそれぞれ由来する単位は、ランダムに配列していると推測される。
【0113】
式(II)で表される平均組成式中の、n1:n2:n3は、混合物(M)における化合物(dx−1a)、(dx−2)、および(dx−3)の仕込み組成と一致する。
各成分のモル比は、各成分の効果のバランスから設計されることが好ましい。
n1は、撥インク剤(D1)におけるフッ素原子の含有率が、上記好ましい範囲となる量において、0.02〜0.4が好ましく、0.02〜0.3が特に好ましい。
n2は、n3=0の場合は0〜0.98が好ましく、n3>0の場合は0.05〜0.6が好ましい。
n3は、0〜0.5が好ましい。
なお、上記各成分の好ましいモル比は、化合物(dx−1a)中のTが基(Ib)である場合も同様である。
【0114】
また、上記各成分の好ましいモル比は、混合物(M)が加水分解性シラン化合物(s1)を含有し、加水分解性シラン化合物(s2)、および加水分解性シラン化合物(s3)を任意で含む場合においても、同様に適用できる。すなわち、撥インク剤(D)を得るための混合物(M)における加水分解性シラン化合物(s1)〜(s3)の好ましい仕込み量は、それぞれ上記n1〜n3の好ましい範囲に相当する。
【0115】
撥インク剤(D)を混合物(M)の部分加水分解縮合物とする場合の数平均分子量(Mn)は、500以上が好ましく、1,000,000未満が好ましく、10,000未満が特に好ましい。
数平均分子量(Mn)が上記下限値以上であると、感光性樹脂組成物を用いて隔壁を形成する際に、撥インク剤(D)が上面移行しやすい。上記上限値未満であると、撥インク剤(D)の溶媒への溶解性が良好になる。
撥インク剤(D)の数平均分子量(Mn)は、製造条件により調節できる。
【0116】
撥インク剤(D)は、上述した混合物(M)を、公知の方法により加水分解および縮合反応させることで製造できる。
上記反応には、通常用いられる塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、あるいは、酢酸、シュウ酸、マレイン酸等の有機酸を触媒として用いることが好ましい。また、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等のアルカリ触媒を用いてもよい。
上記反応には公知の溶媒を用いることができる。
上記反応で得られる撥インク剤(D)は、溶媒とともに、溶液の性状で感光性樹脂組成物に配合してもよい。
撥インク剤(D)の含有量は、アルカリ可溶性樹脂(A)の100質量部に対して0.01〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましく、0.2〜3質量部が特に好ましい。撥インク剤(D)の含有量を上記範囲とすることで、上面に充分な撥インク性を有する隔壁が得られる。
【0117】
(溶媒(E))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、溶媒(E)を含有することで粘度が低減され、ネガ型感光性樹脂組成物の基材表面への塗布がしやすくなる。その結果、均一な膜厚のネガ型感光性樹脂組成物の塗膜が形成できる。
溶媒(E)としては公知の溶媒が用いられる。溶媒(E)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0118】
溶媒(E)としては、アルキレングリコールアルキルエーテル類、アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート類、アルコール類、ソルベントナフサ類等が挙げられる。なかでも、アルキレングリコールアルキルエーテル類、アルキレングリコールアルキルエーテルアセテート類、およびアルコール類からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよび2−プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒がさらに好ましい。
【0119】
ネガ型感光性樹脂組成物における溶媒(E)の含有割合は、組成物全量に対して50〜99質量%が好ましく、60〜95質量%がより好ましく、65〜90質量%が特に好ましい。
【0120】
(その他の成分)
本発明におけるネガ型感光性樹脂組成物は、さらに、必要に応じて、着色剤、熱架橋剤、高分子分散剤、分散助剤、シランカップリング剤、微粒子、硬化促進剤、増粘剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤等の他の添加剤を1種または2種以上含有してもよい。
【0121】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、上記各成分の所定量を混合して得られる。本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、良好な貯蔵安定性を有する。
また、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いれば、低露光量で、上面に良好な撥インク性を有する撥インク層を有する隔壁の製造が可能である。さらに、該撥インク層が、紫外線/オゾン洗浄処理等の親インク化処理を経ても、優れた撥インク性を持続できる隔壁の製造が可能である。
本発明により製造できる隔壁は、上面に充分な撥インク性を有する撥インク層を有し、微細で精度の高いパターンの形成が可能である。
本発明によれば、隔壁で仕切られた開口部に、インクが均一に塗布され精度よく形成されたドットを有する光学素子、具体的には、有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイ、薄膜太陽電池等が提供できる。
【0122】
[隔壁]
本発明の隔壁は、基板表面をドット形成用の複数の区画に仕切る形に形成された、上記のネガ型感光性樹脂組成物の硬化物からなる。該隔壁は、例えば、基板等の基材の表面に、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を塗布し、必要に応じて、乾燥して溶媒等を除去した後、ドット形成用の区画となる部分にマスキングを施し、露光した後、必要に応じて、加熱し、現像することで得られる。
【0123】
以下に、本発明の実施形態の隔壁の製造方法の一例を、図1A〜1Dを用いて説明するが、隔壁の製造方法は以下に限定されない。なお、以下の製造方法は、ネガ型感光性樹脂組成物が溶媒(E)を含有するものとして説明する。
【0124】
図1Aに示すように、基板1の一方の主面全体にネガ型感光性樹脂組成物を塗布して、塗膜21を形成する。このとき、塗膜21中には撥インク剤(D)が全体的に溶解し、均一に分散している。撥インク剤(D)は、加水分解性シラン化合物(s1)を含む加水分解性シラン化合物の混合物(M)であっても、これらの部分加水分解(共)縮合物であってもよい。なお、図1A中、撥インク剤(D)は模式的に示してあり、実際にこのような粒子形状で存在しているわけではない。
【0125】
次に、図1Bに示すように、塗膜21を乾燥させて、乾燥膜22とする。乾燥方法としては、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等が挙げられる。溶媒(E)の種類にもよるが、加熱乾燥の場合、加熱温度は50〜120℃が好ましく、90〜115℃がより好ましい。
この乾燥過程において、撥インク剤(D)は乾燥膜の上層部に移行する。なお、ネガ型感光性樹脂組成物が、溶媒(E)を含有しない場合であっても、塗膜内で撥インク剤(D)の上面移行は同様に達成される。
【0126】
次に、図1Cに示すように、隔壁に囲まれる開口部に相当する形状のマスキング部31を有するフォトマスク30を介して、乾燥膜22に対して活性光線を照射し露光する。乾燥膜22を露光した後の膜を露光膜23と称する。露光膜23において、露光部23Aは光硬化しており、非露光部23Bは乾燥膜22と同様の状態である。露光は、乾燥膜22が活性光線を吸収し、光酸発生剤(C)が分解して酸を発生することで行われる。発生した酸により、アルカリ可溶性樹脂(A)と架橋剤(B)が結合する反応が進行するとともに、撥インク剤(D)の加水分解縮合による硬化反応が進行する。
【0127】
照射する光としては、可視光;紫外線;遠紫外線;KrFエキシマレーザ光、ArFエキシマレーザ光、Fエキシマレーザ光、Krエキシマレーザ光、KrArエキシマレーザ光およびArエキシマレーザ光等のエキシマレーザ光;X線;電子線等が挙げられる。
照射する光としては、波長100〜600nmの光が好ましく、300〜500nmの光がより好ましく、i線(365nm)、h線(405nm)またはg線(436nm)を含む光が特に好ましい。また、必要に応じて330nm以下の光をカットしてもよい。
【0128】
露光方式としては、全面一括露光、スキャン露光等が挙げられる。同一箇所に対して複数回に分けて露光してもよい。この際、複数回の露光条件は同一でも同一でなくても構わない。
【0129】
露光量は、上記いずれの露光方式においても、例えば、5〜1,000mJ/cmが好ましく、5〜500mJ/cmがより好ましく、5〜300mJ/cmがさらに好ましく、5〜200mJ/cmが特に好ましく、5〜50mJ/cmが最も好ましい。なお、露光量は、照射する光の波長、ネガ型感光性樹脂組成物の組成、塗膜の厚さ等により、適宜好適化される。本発明のネガ型感光性樹脂組成物においては、このような低露光量での、充分な硬化が可能である。
【0130】
単位面積当たりの露光時間は特に制限されず、用いる露光装置の露光パワー、必要な露光量等から設計される。なお、スキャン露光の場合、光の走査速度から露光時間が求められる。
単位面積当たりの露光時間は、通常1〜60秒間程度、好ましくは1〜30秒である。
【0131】
露光後、光酸発生剤(C)が分解して発生した酸を、乾燥膜22中に拡散させて、該膜内で反応を均一に行う目的で加熱を行ってもよい。加熱の条件としては、70〜120℃、好ましくは90〜115℃であり、1〜5分間程度、好ましくは1〜3分間である。
【0132】
次に、図1Dに示すように、アルカリ現像液を用いた現像を行い、露光膜23の露光部23Aに対応する部位のみからなる隔壁4が形成される。隔壁4で囲まれた開口部5は、露光膜23において非露光部23Bが存在していた部位である。図1Dは、現像により非露光部23Bが除去された後の状態を示している。非露光部23Bは、上に説明したとおり、撥インク剤(D)が上層部に移行してそれより下の層にほとんど撥インク剤(D)が存在しない状態で、アルカリ現像液により溶解し、除去されるため、撥インク剤(D)は、開口部5にはほとんど残存しない。
【0133】
なお、図1Dに示す隔壁4において、その上面を含む最上層は撥インク層4Aである。露光の際に、最上層に高濃度で存在する撥インク剤(D)は、光酸発生剤(C)が発生した酸を触媒として硬化し、撥インク層となる。また、露光の際、撥インク剤(D)の周辺に存在するアルカリ可溶性樹脂(A)と架橋剤(B)、およびそれ以外の光硬化成分も強固に光硬化して、撥インク剤(D)と共に撥インク層に定着する。
【0134】
さらに、撥インク剤(D)が加水分解性シラン化合物(s4)を含有する場合、撥インク剤(D)が互いに結合すると同時に、アルカリ可溶性樹脂(A)と架橋剤(B)、およびそれ以外の光硬化成分と共に光硬化して、撥インク剤(D)が強固に結合した撥インク層4Aを形成する。
【0135】
上記のいずれの場合も、撥インク層4Aの下側には、主としてアルカリ可溶性樹脂(A)と架橋剤(B)、およびそれ以外の光硬化成分が光硬化して、撥インク剤(D)をほとんど含有しない層4Bが形成される。
このようにして、撥インク剤(D)は、撥インク層4Aおよび下部層4Bを含む隔壁に充分に定着しているため、現像時に開口部にマイグレートすることがほとんどない。
【0136】
現像後、隔壁4をさらに加熱してもよい。加熱温度は130〜250℃が好ましく、150〜230℃がさらに好ましく、加熱時間は20〜60分間程度、好ましくは30〜60分間である。
加熱により、隔壁4の硬化はより強固なものとなり、撥インク剤(D)は、撥インク層4A内により強固に定着する。
【0137】
このようにして得られる、本発明の樹脂硬化膜および隔壁4は、露光が低露光量で行われる場合であっても、上面に良好な撥インク性を有する。また、隔壁4においては、現像後、開口部5に撥インク剤(D)が存在することがほとんどなく、開口部5におけるインクの均一な塗工性が充分に確保できる。
【0138】
なお、開口部5の親インク性をより確実に得ることを目的として、加熱後、開口部5に存在する可能性があるネガ型感光性樹脂組成物の現像残渣等を除去するために、隔壁4付きの基板1に対して、紫外線/オゾン処理を施してもよい。この場合、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて得られる隔壁上部の撥インク層は、紫外線/オゾン処理に対する充分な耐性を有するものである。
【0139】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物から形成される隔壁(以下、本発明の隔壁ともいう。)は、例えば、幅が100μm以下であることが好ましく、20μm以下であることが特に好ましい。通常、幅は5μm以上が好ましい。また、隣接する隔壁間の距離(パターンの幅)は300μm以下であることが好ましく、100μm以下であることが特に好ましい。通常、隣接する隔壁間の距離(パターンの幅)は10μm以上が好ましい。
隔壁の高さは0.05〜50μmであることが好ましく、0.2〜10μmであることが特に好ましい。
【0140】
本発明の隔壁は、上記幅に形成された際の縁の部分に凹凸が少なく直線性に優れ、このような精度の高いパターン形成が可能であることから、特に、有機EL素子用の隔壁として有用である。
【0141】
本発明の隔壁は、IJ法(インクジェット法)にてパターン印刷を行う際に、その開口部をインク注入領域とする隔壁として利用できる。IJ法にてパターン印刷を行う際に、本発明の隔壁を、その開口部が所望のインク注入領域と一致するように形成して用いれば、隔壁上面が良好な撥インク性を有することから、隔壁を超えて、所望しない開口部、すなわちインク注入領域にインクが注入されることを抑制できる。また、隔壁で囲まれた開口部は、インクの濡れ広がり性が良好であるので、インクを所望の領域に、白抜け等が発生することなく均一に印刷することが可能となる。
【0142】
本発明の隔壁を用いれば、上記のとおり、IJ法によるパターン印刷が精巧に行える。よって、本発明の隔壁は、ドットがIJ法で形成される基板表面に、複数のドットと隣接するドット間に位置する隔壁を有する、光学素子、特に有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイ等の隔壁として有用である。
【0143】
[光学素子]
本発明の実施形態の光学素子としては、基板表面に複数のドットと隣接するドット間に位置する本発明の隔壁とを有する、有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイまたは薄膜太陽電池が挙げられる。上記の有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイ、または薄膜太陽電池において、ドットはIJ法により形成されることが好ましい。
【0144】
有機EL素子とは、有機薄膜の発光層を陽極と陰極で挟んだ構造であり、本発明の隔壁は、有機発光層を隔てる隔壁用途、有機TFT層を隔てる隔壁用途、塗布型酸化物半導体を隔てる隔壁用途などに用いることができる。
【0145】
また、有機TFTアレイ素子とは、複数のドットが平面視マトリクス状に配置され、各ドットに画素電極とこれを駆動するためのスイッチング素子としてTFTが設けられ、TFTのチャネル層を含む半導体層として有機半導体層が用いられる素子である。有機TFTアレイ素子は、例えば、有機EL素子あるいは液晶素子等に、TFTアレイ基板として備えられる。
【0146】
本発明の実施形態の光学素子である、例えば、有機EL素子について、上記で得られた隔壁を用いて、開口部にIJ法によりドットを形成する例を以下に説明する。
なお、本発明の実施形態の光学素子である有機EL素子等におけるドットの形成方法は、以下に限定されない。
図2Aおよび図2Bは、図1Dに示す基板1上に形成された隔壁4を用いて有機EL素子を製造する方法を模式的に示すものである。ここで、基板1上の隔壁4は、開口部5が、製造しようとする有機EL素子のドットのパターンに一致するように形成されたものである。
【0147】
図2Aに示すように、隔壁4に囲まれた開口部5に、インクジェットヘッド9からインク10を滴下して、開口部5に所定量のインク10を注入する。インクとしては、ドットの機能に合わせて、有機EL素子用として公知のインクが適宜選択して用いられる。
【0148】
次いで、用いたインク10の種類により、例えば、溶媒の除去や硬化のために、乾燥および/または加熱等の処理を施して、図2Bに示すように、隔壁4に隣接する形で所望のドット11が形成された有機EL素子12を得る。
【0149】
本発明の実施形態の光学素子である、特に、有機EL素子、量子ドットディスプレイ、TFTアレイまたは薄膜太陽電池は、本発明の隔壁を用いることで、製造過程において、隔壁で仕切られた開口部にインクがムラなく均一に濡れ広がることが可能であり、これにより精度よく形成されたドットを有することが可能となる。
【0150】
有機EL素子は、例えば、以下のように製造できるがこれに限定されない。
ガラス等の透光性基板にスズドープ酸化インジウム(ITO)等の透光性電極をスパッタ法等によって成膜する。この透光性電極は、必要に応じてパターニングされる。
次に、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用い、塗布、露光および現像を含むフォトリソグラフィ法により、各ドットの輪郭に沿って、平面視格子状に隔壁を形成する。
次に、ドット内に、IJ法により、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層および電子注入層の材料を、それぞれ塗布し、乾燥して、これらの層を順次積層する。ドット内に形成される有機層の種類および数は適宜設計される。
最後に、アルミニウム等の反射電極を蒸着法等によって形成する。
【0151】
また、量子ドットディスプレイは、例えば、上記有機EL素子の製造において、発光層を量子ドット層にする以外は同様にして製造できるが、これに限定されない。
【0152】
さらに、本発明の実施形態の光学素子は、例えば、以下のように製造される、青色光変換型の量子ドットディスプレイにも応用可能である。
ガラス等の透光性基板に、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用い、各ドットの輪郭に沿って、平面視格子状に隔壁を形成する。
【0153】
次に、ドット内に、IJ法により青色光を緑色光に変換するナノ粒子溶液、青色光を赤色光に変換するナノ粒子溶液、および必要に応じて青色のカラーインクを塗布し、乾燥して、モジュールを作製する。青色を発色する光源をバックライトとして使用し、前記モジュールをカラーフィルター代替として使用することにより、色再現性の優れた液晶ディスプレイが得られる。
【0154】
TFTアレイは、例えば、以下のように製造できるがこれに限定されない。
ガラス等の透光性基板に、アルミニウムやその合金等のゲート電極をスパッタ法等によって成膜する。このゲート電極は必要に応じてパターニングされる。
【0155】
次に、窒化ケイ素等のゲート絶縁膜をプラズマCVD法等によって形成する。ゲート絶縁膜上にソース電極、およびドレイン電極を形成してもよい。ソース電極およびドレイン電極は、例えば、真空蒸着やスパッタリングで、アルミニウム、金、銀、銅、それらの合金などの金属薄膜を形成し、作製することができる。ソース電極およびドレイン電極をパターニングする方法としては、金属薄膜を形成した後、レジストを塗装し、露光および現像して、電極を形成させたい部分にレジストを残し、その後、リン酸や王水などで露出した金属を除去し、最後にレジストを除去する手法が挙げられる。また、金などの金属薄膜を形成させた場合は、予めレジストを塗装し、露光および現像して、電極を形成させたくない部分にレジストを残し、その後、金属薄膜を形成した後、金属薄膜と共にフォトレジストを除去する手法もある。また、銀、銅等の金属ナノコロイド等を用いて、インクジェット法等の手法により、ソース電極およびドレイン電極を形成してもよい。
【0156】
次に、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて、塗布、露光および現像を含むフォトリソグラフィ法により、各ドットの輪郭に沿って、平面視格子状に隔壁を形成する。
次にドット内に半導体溶液をIJ法によって塗布し、溶液を乾燥させることによって半導体層を形成する。この半導体溶液としては、有機半導体溶液、無機の塗布型酸化物半導体溶液等も用いることができる。ソース電極およびドレイン電極は、この半導体層を形成した後に、インクジェット法などの手法を用いて形成されてもよい。
最後に、ITO等の透光性電極をスパッタ法等によって成膜し、窒化ケイ素等の保護膜を成膜することで形成する。
【実施例】
【0157】
以下に実施例を用いて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。例1、2、3が実施例であり、例4が比較例である。
【0158】
各測定は以下の方法で行った。
[数平均分子量(Mn)]
分子量測定用の標準試料として市販されている、重合度の異なる数種の単分散ポリスチレン重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を、市販のGPC測定装置(東ソー社製、装置名:HLC−8320GPC)を用いて測定し、ポリスチレンの分子量と保持時間(リテンションタイム)との関係をもとに検量線を作成した。
【0159】
試料をテトラヒドロフランで1.0質量%に希釈し、0.5μmのフィルターに通過させた後、該試料についてのGPCを、前記GPC測定装置を用いて測定した。
前記検量線を用いて、試料のGPCスペクトルをコンピュータ解析することにより、該試料の数平均分子量(Mn)を求めた。
【0160】
[水接触角]
静滴法により、JIS R3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して、基材上の測定表面の3ヶ所に水滴を載せ、各水滴について測定した。液滴は2μL/滴であり、測定は20℃で行った。接触角は、3測定値の平均値(n=3)で示す。
【0161】
[PGMEA接触角]
静滴法により、JIS R3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して、基材上の測定表面の3ヶ所にPGMEA滴を載せ、各PGMEA滴について測定した。液滴は2μL/滴であり、測定は20℃で行った。接触角は、3測定値の平均値(n=3)で示す。
【0162】
合成例および実施例で用いた化合物の略語は以下の通りである。
(アルカリ可溶性樹脂(A))
EP4020G(商品名、旭有機材工業社製、クレゾールノボラック樹脂、(質量平均分子量(Mw):11,600、溶解速度:164(オングストローム/秒))。
(架橋剤(B))
MW−100LM;ニカラックMW−100LM(商品名、三和ケミカル社製、ヘキサメトキシメチルメラミンを基本骨格とするメチル化メラミン樹脂)
(光酸発生剤(C)
CPI-210S;商品名、サンアプロ社製、上記式(C2−2)に示す化合物。
【0163】
(撥インク剤(D)の原料としての加水分解性シラン化合物)
加水分解性シラン化合物(dx−1a)に相当する、化合物(d−11):CF(CFCHCHSi(OCH
加水分解性シラン化合物(dx−2)に相当する、化合物(d−21):Si(OC
加水分解性シラン化合物(dx−3)に相当する、化合物(d−31):CHSi(OCH
加水分解性シラン化合物(dx−3)に相当する、化合物(d−32):CSi(OCH
【0164】
(比較例に用いる撥インク剤(Dcf)(炭素原子数4〜6のフルオロアルキル基を有する不飽和化合物由来の構造単位を含む付加重合体)の製造に用いた化合物)
C6FMA:CH=C(CH)COOCHCH(CF
MAA:メタクリル酸
GMA:グリシジルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
MEK:メチルエチルケトン(溶媒)
V−65:(商品名、和光化学工業社製(2,2’−アゾビス(2.4ジメチルバレロニトリル)(重合開始剤))
【0165】
(溶媒(E))
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート。
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル。
【0166】
[合成例1:撥インク剤(D1)の合成および(D1−1)液の調製]
撹拌機を備えた50cmの三口フラスコに、上記化合物(d−11)の0.38g、および上記化合物(d−21)の2.35gを入れて、撥インク剤(D1)の原料混合物を得た。次いで、該原料混合物にPGMEの5.56gを入れて、溶液(原料溶液)とした。
【0167】
得られた原料溶液に、室温で、撹拌しながら、1.0質量%硝酸水溶液を1.71g滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌して、(D1)を10質量%で含有するPGME溶液である(D1−1)液を得た。得られた(D1−1)液の溶媒を除いた組成物の含フッ素含有率(フッ素原子の質量%)は、20.0質量%である。また、(D1−1)液の溶媒を除いた組成物の数平均分子量(Mn)は773であった。
【0168】
[合成例2:撥インク剤(D2)の合成および(D2−1)液の調製]
撹拌機を備えた50cmの三口フラスコに、上記化合物(d−11)の0.38g、上記化合物(d−21)の1.11g、および上記化合物(d−31)の0.72gを入れて、撥インク剤(D2)の原料混合物を得た。次いで、該原料混合物にPGMEの6.36gを入れて、溶液(原料溶液)とした。
【0169】
得られた原料溶液に、室温で、撹拌しながら、1.0質量%硝酸水溶液を1.43g滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌して、(D2)を10質量%で含有するPGME溶液である(D2−1)液を得た。得られた(D2−1)液の溶媒を除いた組成物の含フッ素含有率(フッ素原子の質量%)は、20.0質量%である。また、(D2−1)液の溶媒を除いた組成物の数平均分子量(Mn)は810であった。
【0170】
[合成例3:撥インク剤(D3)の合成および(D3−1)液の調製]
撹拌機を備えた50cmの三口フラスコに、上記化合物(d−11)の0.38g、上記化合物(d−21)の0.74g、および上記化合物(d−32)の0.71gを入れて、撥インク剤(D1)の原料混合物を得た。次いで、該原料混合物にPGMEの7.18gを入れて、溶液(原料溶液)とした。
【0171】
得られた原料溶液に、室温で、撹拌しながら、1.0質量%硝酸水溶液を0.99g滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌して、(D3)を10質量%で含有するPGME溶液である(D3−1)液を得た。得られた(D3−1)液の溶媒を除いた組成物の含フッ素含有率(フッ素原子の質量%)は、20.0質量%である。また、(D3−1)液の溶媒を除いた組成物の数平均分子量(Mn)は880であった。
【0172】
[合成例4:撥インク剤(Dcf)の合成および(Dcf−1)液の調製]
撹拌機を備えた内容積1Lのオートクレーブに、MEKの420.0g、C6FMAの86.4g、MAAの18.0g、GMAの21.6g、MMAの54.0gおよびV−65の0.8gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、50℃で24時間重合させ、粗共重合体を合成した。得られた粗共重合体の溶液に、ヘキサンを加えて再沈精製した後、真空乾燥した。得られた固形物に、PGMEAの14643gを加えて撹拌し、撥インク剤(Dcf)を10質量%で含有するPGMEA溶液である(Dcf−1)液を得た。得られた(Dcf−1)液の溶媒を除いた組成物の含フッ素含有率(フッ素原子の質量%)は、27.4質量%である。また、(Dcf−1)液の溶媒を除いた組成物は、数平均分子量(Mn)が49,325であった。
【0173】
合成例1〜4で得られた撥インク剤溶液における、撥インク剤(D)のフッ素原子含有率、および数平均分子量(Mn)を、撥インク剤(D)の仕込み量組成(モル%)とともに、あわせて表1に示す。
【0174】
【表1】
【0175】
[例1]
(ネガ型感光性樹脂組成物の調製)
(D1−1)液の0.967g(固形分は0.097g、残りはPGME(溶媒))、EP4020Gの19.34g、MW−100LMの4.84g、CPI−210Sの0.73g、およびPGMEAの74.1gを500cmの撹拌用容器に入れ、30分間撹拌して、ネガ型感光性樹脂組成物1を調製した。
【0176】
(硬化膜(隔壁)の製造)
10cm四方のガラス基板を、エタノールで30秒間超音波洗浄し、次いで、5分間の紫外線/オゾン洗浄を行った。紫外線/オゾン洗浄には、紫外線/オゾン発生装置として、PL7−200(センエジニアリング社製)を使用した。なお、以下の全ての紫外線/オゾン処理についても、紫外線/オゾン発生装置として本装置を使用した。
【0177】
洗浄後のガラス基板表面に、スピンナーを用いて、ネガ型感光性樹脂組成物1を塗布した後、ホットプレート上で100℃の温度条件で、2分間の乾燥処理を行い、膜厚2.5μmの乾燥膜を形成した。得られた乾燥膜の表面に、膜側から、開孔パターン(2.5cm×5cm)を有するフォトマスク(該パターン部の領域以外に光照射がされるフォトマスク)を介して50μmの間隙をあけ、高圧水銀ランプの紫外線を、25mW/cmで1秒間、2秒間、5秒間または10秒間照射した。
【0178】
次いで、露光処理がされたガラス基板を、2.38質量%テトラメチル水酸化アンモニウム水溶液に40秒間浸漬して現像し、未露光部分の乾燥膜を水により洗い流し、乾燥させた。次いで、これをホットプレート上、230℃で50分間加熱することにより、上記開孔パターン部を除く領域にネガ型感光性樹脂組成物1の硬化膜(隔壁)が形成された、4種類のガラス基板(1)を得た。
【0179】
(評価)
上記で得られたネガ型感光性樹脂組成物1および硬化膜(隔壁)が形成されたガラス基板(1)について、以下の評価を行った。評価結果をネガ型感光性樹脂組成物の組成とともに表2に示す。
<撥インク性(隔壁)・親インク性(ドット)・現像残渣>
得られたガラス基板(1)の硬化膜、すなわち隔壁表面(露光部分)のPGMEAに対する接触角と、現像により乾燥膜(未露光部分)が除去された部分、すなわちドット部分(ガラス基板表面)の水に対する接触角を測定した。この時、ドット部分の水に対する接触角により現像残渣についての評価も行った。評価は以下の基準で行った。
【0180】
(基準)
○(良好):水の接触角が30度未満
×(不良):水の接触角が30度以上
【0181】
その後、ガラス基板(1)のうち、露光時間を10秒間として硬化膜を製造したものについて、硬化膜が形成された側の表面全体に、紫外線/オゾン照射を1分間行った。1分照射後の硬化膜(隔壁)表面のPGMEAに対する接触角およびガラス基板表面の水に対する接触角を測定した。測定方法は上記と同様である。
【0182】
<貯蔵安定性>
ネガ型感光性樹脂組成物をガラス製スクリュー瓶にて、23℃(室温)で一カ月保存した。一カ月保存後、上記の硬化膜(隔壁)の製造と同様の方法で洗浄した10cm×10cmのガラス基板表面に、スピンナーを用いて、ネガ型感光性樹脂組成物を塗布し、塗膜を形成した。さらに、100℃で2分間、ホットプレート上で乾燥させ、膜厚2μmの乾燥膜を形成した。乾燥膜の外観を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
【0183】
(基準)
○(良好):乾燥膜上の異物が5個以下である。
×(不良):乾燥膜上の異物が6個以上で、かつガラス基板の中心部から放射状の筋模様が観察された。
【0184】
[例2]
(D1−1)液に代えて(D2−1)液を用いた以外は、例1と同様にして、ネガ型感光性樹脂組成物2およびネガ型感光性樹脂組成物2の硬化膜が形成されたガラス基板(2)を作製し、例1と同様にして評価した。
【0185】
[例3]
(D1−1)液に代えて(D3−1)液を用いた以外は、例1と同様にして、ネガ型感光性樹脂組成物3およびネガ型感光性樹脂組成物3の硬化膜が形成されたガラス基板(3)を作製し、例1と同様にして評価した。
【0186】
[例4]
(D1−1)液に代えて(Dcf−1)液を用いた以外は、例1と同様にして、ネガ型感光性樹脂組成物4およびネガ型感光性樹脂組成物4の硬化膜が形成されたガラス基板(4)を作製し、例1と同様にして評価した。
例2〜4の評価結果を、ネガ型感光性樹脂組成物の組成とともに表2に示す。
【0187】
【表2】
【0188】
表2から、例1、2および3で得られた硬化膜は、本発明の撥インク剤を用いたため、露光量が低くても、良好な撥インク性を示し、かつ紫外線/オゾン照射後も高い撥インク性を維持し、かつガラス基板表面は良好な親水性を有することが分かる。また貯蔵安定性も高いことが分かる。一方、例4では、本発明によらない撥インク剤を用いたため、紫外線/オゾン照射後は、高い撥インク性を維持できていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて形成される隔壁は、撥インク性が良好で、紫外線/オゾン照射後も撥インク性の保持が可能であり、該隔壁で仕切られた開口部にインクが均一に塗布され、精度よく形成されたドットを有する光学素子用として有用である。また、本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、様々な光学素子の、特に、有機EL素子の発光層等の有機層、量子ドットディスプレイの量子ドット層や正孔輸送層、TFTアレイの導体パターンや半導体パターン、TFTのチャネル層をなす有機半導体層、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、ゲート配線およびソース配線、薄膜太陽電池等において、IJ法によるパターン印刷を行う際の隔壁形成用の組成物として好適に用いることができる。
【0190】
なお、2014年4月25日に出願された日本特許出願2014−092092号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0191】
1…基板、21…塗膜、22…乾燥膜、23…露光膜、23A…露光部、23B…非露光部、4…隔壁、4A…撥インク層、5…開口部、31…マスキング部、30:フォトマスク、9…インクジェットヘッド、10…インク、11…ドット、12…有機EL素子。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B