特許第6566024号(P6566024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6566024
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】ガラス物品及び導光体
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/083 20060101AFI20190819BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20190819BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20190819BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20190819BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20190819BHJP
   F21V 8/00 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   C03C3/083
   C03C3/085
   C03C3/087
   C03C3/091
   C03C3/093
   F21V8/00 100
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-506502(P2017-506502)
(86)(22)【出願日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2016057618
(87)【国際公開番号】WO2016148026
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2018年7月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-52217(P2015-52217)
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】土屋 博之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕己
【審査官】 山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/50119(WO,A1)
【文献】 特開2013−151428(JP,A)
【文献】 特開2006−232598(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152257(WO,A1)
【文献】 特表2017−521344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Feに換算した全酸化鉄(t−Fe)を1質量ppm〜80質量ppm含有し、鉄のレドックスが0%〜50%であり、NiOを0.01質量ppm〜4.0質量ppm含有してなるガラスからなるガラス物品であって、下記式(1)によって求められるガラス物品の内部透過率スペクトル平坦度A値が、0.83以上であることを特徴とするガラス物品。
A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z) … 式(1)
ここにおいて、JIS Z8701に記載されたXYZ表色系における等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)、及びガラス物品の600mm長における内部透過率S(λ)を用いて、X=Σ(S(λ)×x(λ))、Y=Σ(S(λ)×y(λ))、Z=Σ(S(λ)×z(λ))を定義する。
【請求項2】
前記ガラスにおいてNiOの含有量が、酸化物基準の質量ppm表示で、下記式(7)及び(8)によって求められるNiOの下限及び上限によって規定される範囲内にある請求項1に記載のガラス物品。
・NiOの下限 = −2.7−0.035F+0.01R+0.0025FR … 式(7)
・NiOの上限 = 2.4−0.055F+0.01R+0.002FR … 式(8)
ここで、F(質量ppm)は、Feに換算した全鉄の含有量である。又、R(%)は、鉄のレドックスであり、Feに換算したFe2+の含有量のFeに換算した全鉄の含有量に対する割合を質量百分率で表した値である。
【請求項3】
前記ガラスにおいてNiOおよびCrの含有量が酸化物基準の質量ppm表示で、下記式(9)を満たす、請求項1に記載のガラス物品。
0.1≦[NiO]+2[Cr]≦5.0 … 式(9)
ここで[NiO]は、NiOの含有量(ppm)であり、[Cr]はCrの含有量(ppm)である。
【請求項4】
前記ガラスにおいて、Crの含有量が酸化物基準の質量ppm表示で5ppm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項5】
前記ガラスにおいて、MnOの含有量が酸化物基準の質量ppm表示で50ppm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項6】
前記ガラスにおいて、CeOの含有量が酸化物基準の質量ppm表示で1000ppm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項7】
Feに換算した全酸化鉄、NiO、CeO及び他の含有量1000ppm以下の微量成分を除いた前記ガラスの母組成が、下記酸化物基準の質量%表示で、実質的に、SiOを60〜80%、Alを0〜7%、MgOを0〜10%、CaOを0〜20%、SrOを0〜15%、BaOを0〜15%、NaOを3〜20%、KOを0〜10%、含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項8】
Feに換算した全酸化鉄、NiO、CeO及び他の含有量1000ppm以下の微量成分を除いた前記ガラスの母組成が、酸化物基準の質量百分率表示で、実質的に、SiOを45〜80%、Alを7%超30%以下、Bを0〜15%、MgOを0〜15%、CaOを0〜6%、SrOを0〜5%、BaOを0〜5%、NaOを7〜20%、KOを0〜10%、ZrOを0〜10%、含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項9】
Feに換算した全酸化鉄、NiO、CeO及び他の含有量1000ppm以下の微量成分を除いた前記ガラスの母組成が、酸化物基準の質量百分率表示で、実質的に、SiOを45〜70%、Alを10〜30%、Bを0〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物を合計で5〜30%、LiO、NaOおよびKOからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属酸化物を合計で0%以上、3%未満、含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス物品。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のガラス物品を用いてなる導光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光域の内部透過率が高く、かつ内部透過率スペクトルがより平坦化された高透過性のガラス物品及び当該ガラス物品を用いた導光体に関する。
【背景技術】
【0002】
エッジライト方式の面状発光体装置、例えば液晶テレビの導光体には広くアクリル板が用いられているが、剛性、耐熱性や耐水性の観点からガラス板への置き替えが検討されている。
導光体にガラス板を適用した場合、大画面化により光路長が長くなるに従って可視光域(波長380〜780nm)におけるガラス板内部の光吸収が無視できず、輝度の低下や面内での輝度・色ムラが生じる問題が明らかになった。
従って、導光体用ガラスとしては、ガラス板内部の光吸収のバラツキの影響をより少なくしたガラス物品が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記した知見に基づくものであり、ガラス板内部の光吸収のバラツキの影響を抑えたガラス物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の[1]に記載の構成を有するガラス物品、及び[2]に記載の構成を有する当該ガラス物品を用いた導光体を提供する。
【0005】
[1]Feに換算した全酸化鉄(t−Fe)を1質量ppm〜80質量ppm含有し、鉄のレドックスが0%〜50%であり、NiOを0.01質量ppm〜4.0質量ppm含有してなるガラスからなるガラス物品であって、下記式(1)によって求められるガラス物品の内部透過率スペクトル平坦度A値が、0.83以上であることを特徴とするガラス物品。
・A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z) … 式(1)
ここにおいて、JIS Z8701に記載されたXYZ表色系における等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)、及びガラス物品の600mm長における内部透過率S(λ)を用いて、X=Σ(S(λ)×x(λ))、Y=Σ(S(λ)×y(λ))、Z=Σ(S(λ)×z(λ))を定義する。
[2]上記[1]に記載のガラス物品を用いてなる導光体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ガラス板内部の光吸収のバラツキの影響を抑えたガラス物品を提供することができる。
本発明のガラス物品は、エッジライト方式の面状発光体装置の導光体用として、特に液晶テレビ等の液晶表示装置の大画面化に対応する、面状発光体装置の導光体用として最適である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施例1〜4において得られたサンプルのNiOの含有量と内部透過率スペクトル平坦度A値(min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z))との関係をプロットした図面である。
図2図2は、実施例5〜8において得られたサンプルのNiOの含有量と内部透過率スペクトル平坦度A値(min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z))との関係をプロットした図面である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、以下の事実、知見及び考察に基づき得られたものである。
ガラス板の光吸収の主要因は、不純物として含まれる鉄イオンである。鉄は、工業的に生産されるガラスの原料として不可避的に含有されるものであり、ガラス中への鉄の混入は避けられない。鉄イオンは、ガラス中において二価(Fe2+)及び三価(Fe3+)の形態をとるが、特に問題となるのは波長490〜780nmに幅広い吸収を持つFe2+である。Fe3+は、波長380〜490nmに吸収バンドを有するが、単位濃度あたりの吸光係数がFe2+と比べ一桁小さいため影響が小さい。このため、可視域の光吸収を低減させるには、ガラス中の全鉄イオン量に対するFe2+量の比率をなるべく低くするように、すなわち、鉄のレドックスを低くするような工夫が必要である。
【0009】
工業的に生産されるガラス板において、ガラス板の透過率をアクリル板と同程度とするまで、不純物として含まれる鉄含有量の合計を低減させることは、製造面及び原料面等において制約条件が多く存在する。
許容される鉄含有量の合計の範囲内において、ガラス板の透過率をアクリル板と同程度まで高めるためには、従来以上の鉄の低レドックス化が不可欠である。鉄のレドックスを小さくすれば、ガラス板の透過率を高めることが、理論上可能であるが、実際のガラス板の製造においては、精密に鉄のレドックスを制御することは難しく、鉄のレドックスをある値以下に下げることは困難である。
【0010】
特に、液晶テレビ等のエッジライト方式の面状発光体装置用の導光体として、ガラス板の採用を検討するに当たっては、波長380〜780nmの全波長域におけるガラス板の内部透過率スペクトルを平坦にすることが重要である。ガラス板の内部透過率スペクトルが平坦でないと、液晶テレビの画面内に色度差が生じてしまう。例えば、液晶テレビの導光体において、光源に近いところでは、光の伝播距離が短いために正確に色の再現ができるが、光源から離れるに従い、鉄の吸収の影響を大きく受け、色がずれてしまう。特に、液晶テレビがより大画面となるに従って、色度差が生じやすくなる。
【0011】
上記したガラス板の内部透過率スペクトルの数値化を図るため、下記式(1)によって求められるガラス物品の内部透過率スペクトル平坦度A値を、ガラス板の内部透過率スペクトルの平坦度の指標とした。
A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z) … 式(1)
ここにおいて、JIS Z8701に記載されたXYZ表色系における等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)、及びガラスの600mm長における内部透過率S(λ)を用いて、X=Σ(S(λ)×x(λ))、Y=Σ(S(λ)×y(λ))、Z=Σ(S(λ)×z(λ))を定義した。導光体用のガラス板としては、このA値は、大きいほど、ガラス板の内部透過率スペクトルが平坦であることを示す。すなわち、A値は、高い方が好ましいことが見出された。
又、エッジライト方式の面状発光体装置用の導光体用のガラス板として、可視光域である波長400〜700nmの範囲におけるガラス板の600mm長における内部透過率の最小値が35%以上であることが重要である。
【0012】
一方、本発明者は、ガラスの中に含まれる全酸化鉄量と鉄のレドックスについて検討の結果、全酸化鉄量と鉄のレドックスとの調整だけでは、波長380〜780nmにおけるガラス板の内部透過率スペクトルをより平坦にすることが達成することが困難であることを見出した。
本発明者は、上述した点に基づき、更に検討を重ねた結果、NiOを適量、ガラスに加えることより、鉄のレドックスを下げられない場合でも、A値を充分に大きくすることができ、内部透過率スペクトルをより平坦にすることができるという知見が得られた。
【0013】
本明細書において、ガラス物品とは、所定厚さの平板状のガラス板、湾曲したガラス板、ガラス棒、ガラス円筒管、その他、各種ガラス物品を総称しているものである。本発明における最も代表的なガラス物品としては、ガラス板である。
本明細書において、鉄のレドックスは、以下の式(2)で表わされる。
・鉄のレドックス=(Feに換算した二価鉄(Fe2+)の含有量/[(Feに換算した二価鉄(Fe2+)と三価鉄(Fe3+)の合計の含有量(Fe2++Fe3+)] … 式(2)
また、本明細書において、ガラスの成分は、SiO、Al等の酸化物換算で表し、ガラス全体に対する各成分の含有量(ガラス組成)は、酸化物基準の質量百分率、又は質量ppm(質量百分率を単に%、又は質量ppmを単にppmと表記する場合もある)で表す。
また、本明細書において数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、特段の定めがない限り、以下本明細書において「〜」は、同様の意味をもって使用される。
また、本明細書におけるガラス組成において、ガラス成分が「実質的に含有しない」とは、不可避的不純物を除き、含有しない意味である。
【0014】
また、本明細書において、ガラス物品の内部透過率スペクトルの平坦化の指標として、前述したように、JIS Z8701に記載されたXYZ表色系における等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)、及びガラス物品の600mm長における内部透過率S(λ)を用いて、X=Σ(S(λ)×x(λ))、Y=Σ(S(λ)×y(λ))、Z=Σ(S(λ)×z(λ))を定義し、
・A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z) … 式(1)
式(1)によって得られたA値を用いた。
ここで、S(λ)は、380nm〜780nmの波長範囲において、5nm間隔で取得した、ガラス物品の600mm長における内部透過率である。
【0015】
また、min(X,Y,Z)は、X、Y、Zのうち最小のものの値であり、max(X,Y,Z)は、X、Y、Zのうち最大のものの値である。Xは、人の目における赤色の刺激値であり、Yは、人の目における緑色の刺激値であり、Zは、人の目における青色の刺激値である。min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)の値が大きいということは、3色の刺激値が近いということである。このようなガラスは、導光体として使用したときに、人の目で色のムラが小さく見える。
【0016】
ガラス物品の600mm長における内部透過率S(λ)は、次のようにして、実験的に得られる。
作製されたガラスブロックを、長辺が50.0mmであり、他の辺は50.0mmより短い任意の長さである直方体に加工し、すべての面を鏡面に研磨する。分光光度計によって、用意したガラス直方体の長辺の方向に光を透過させ、透過率T(λ)測定する。分光光度計は、たとえば、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計UH4150に、長尺試料が測定できる同社製の検知器を組み合わせて使用する。50.0mmにおける透過率T(λ)は、380nm〜780nmの波長範囲において、5nm間隔で取得する。
【0017】
また、該ガラス直方体の少なくともg線(435.8nm)、F線(486.1nm)、e線(546.1nm)、d線(587.6nm)、C線(656.3nm)の各波長における屈折率を、たとえば島津製作所社製 精密屈折計 KPR−2000によって、Vブロック法で測定し、それらの値をもとにSellmeierの分散式(下記式(3))の各係数B、B、B、C、C、Cを最小二乗法によって決定する。これにより、該ガラスの屈折率n(λ)が得られる。
・n(λ) = [1+{Bλ/(λ−C)}+{Bλ/(λ−C)}+{Bλ/(λ−C)}]0.5 …… 式(3)
屈折率と反射率の関係式(下記式(4))により、該ガラス直方体の片面の反射率R(λ)が求められる。
・R(λ)=(n(λ)−1)/(n(λ)+1) …… 式(4)
透過率T(λ)は、ガラス直方体の表面反射の影響を受けた測定値であるので、内部透過率U(λ)を得るために、表面反射の影響を除かねばならない。該ガラス物品の50mm長における内部透過率U(λ)が下記式(5)によって求められる。
・U(λ)=−[(1−R(λ))+{(1−R(λ))+4R(λ)T(λ)0.5]/2R(λ)T(λ) …… 式(5)
該ガラスの600mm長における内部透過率S(λ)が下記式(6)によって求められる。
・S(λ)=U(λ)12 …… 式(6)
【0018】
以下、本発明のガラス物品の一態様について詳細に説明する。以下においては、ガラス物品が、ガラス板の形態の場合を代表して説明する。
本発明のガラス物品は、波長380〜780nmにおけるガラス物品の600mm長における内部透過率スペクトルのより高い平坦度が得られるように、具体的には前述した内部透過率スペクトルの平坦度を示すA値が、0.83以上となり、かつ可視光域のより高い透過率、具体的には波長400〜700nmにおけるガラス物品の600mm長における内部透過率が35%以上となるように、含有される総鉄量、鉄のレドックス、及びNiOの含有量が所定範囲に選択される。
上記した内部透過率スペクトルの平坦性を示すA値は、導光体用のガラス物品としては、0.90以上となるようにするのがより好ましく、更には0.95になるようにするのが特に好ましい。
又、波長400〜700nmの範囲におけるガラス物品の内部透過率の最小値は、50%以上となるようにするのが好ましく、更には75%以上となるようにするのが特に好ましい。
【0019】
すなわち、本発明のガラス物品のガラスは、ガラスの母組成の成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄(t−Fe)を1〜80質量ppm含有し、鉄のレドックスが0%〜50%であり、かつNiOを必須成分として含有し、その含有割合は、0.01〜4.0質量ppmである。
より好ましくは、前記全酸化鉄の含有割合は、1〜50質量ppmであり、鉄のレドックスは、0%〜30%である。
特に好ましくは、前記全酸化鉄の含有割合は、1〜30質量ppmであり、鉄のレドックスは、0%〜10%である。
【0020】
NiOの含有量に関し、本発明者等は、下記式に基づきNiOの含有量を制御することにより、理論上、ガラス物品の内部透過率スペクトルを平坦に近づけることができることを見出した。
・NiOの下限 = −2.7−0.035F+0.01R+0.0025FR … 式(7)
(上記式は、負の値になることがあるが、その場合は、0を下限とする。)
・NiOの上限 = 2.4−0.055F+0.01R+0.002FR … 式(8)
上記式(7)及び(8)において、Fは、Feに換算した全鉄の含有量(質量ppm)である。又、R(%)は、鉄のレドックスであり、Feに換算したFe2+の含有量のFeに換算した全鉄の含有量に対する割合を百分率で表した値である。
【0021】
NiOの含有量は、前述した可視光域の内部透過率の最小値及びA値を満たす上で、4.0ppm以下であり、2.0ppm以下であることがより好ましく、1.0ppm以下であることがさらに好ましい。
NiOの含有量を4.0ppm以下とすることにより、ガラス物品の内部透過率スペクトルの平坦性を示すA値として、0.83以上が得られやすくなり、又可視光域の高い透過率が得られやすくなる。
【0022】
一方、清澄のために意図的に加えられるほか、ガラス物品のガラス溶融過程や、ガラス成形過程において侵入する硫黄成分が、ガラス中のFeと結合し、硫化鉄が生じて着色の原因となり、内部透過率の低下をきたすことがあることが分かった。
理論的なNiOの含有量は、式(7)に前記したように低くても構わないが、Ni成分が存在することにより、硫化ニッケルを形成して硫黄成分を奪うため、硫化鉄の生成を防ぎ、着色を低減させることができ、結果的にNiを含有させた方がガラス物品の内部透過率スペクトルを高く維持することができる。かかる硫化鉄の生成を防ぐことができるようにするためには、NiOを0.01ppm以上含有させることが好ましい。また、NiOを0.01ppm以上含有させた場合、ガラスの赤外線の吸収によって溶解性を向上させることが可能である。さらに、硫化鉄の生成防止と、溶解性向上の観点から、NiOを0.1ppm以上含有させることがより好ましい。
【0023】
一方、本発明のガラス物品のガラスにおけるFeに換算した全酸化鉄(t−Fe)の含有量は、1〜80ppmの範囲であり、好ましくは1〜50質量ppmであり、より好ましくは1〜30質量ppmである。
上記した全酸化鉄量が1ppm未満の場合には、ガラスの赤外線の吸収が極端に悪くなり、溶解性を向上させることが難しく、また、原料の精製に多大なコストがかかるため、好ましくない。また、全酸化鉄量が80ppm超の場合には、ガラスの着色が大きくなり、導光体としての性能の発揮が困難となるので好ましくない。
【0024】
本発明においては、ガラス物品のガラスの全酸化鉄量を、Feの量として表しているが、ガラス中に存在する鉄がすべてFe3+(3価の鉄)として存在しているわけではない。通常、ガラス中にはFe3+とFe2+(2価の鉄)が同時に存在している。Fe2+およびFe3+は、可視光域に吸収が存在するが、Fe2+の吸収係数(11cm−1 Mol−1)は、Fe3+の吸収係数(0.96cm−1 Mol−1)よりも1桁大きいため、可視光域の内部透過率をより低下させる。
そのため、Fe2+の含有量が少ないことが、可視光域の内部透過率を高めるうえで好ましい。すなわち、本発明のガラス物品のガラスは、前述したようにガラスのFeに換算した全酸化総鉄中の、Feに換算したFe2+の含有量の割合を、鉄のレドックスとするとき、当該鉄のレドックスは、0%〜50%とされる。好ましくは0%〜30%であり、より好ましくは0%〜10%である。
本発明のガラスは、該ガラスのFe2+の含有量が、上記した範囲を満たすことで、400nmから700nmの波長域でのガラス内部の光の吸収が抑えられるので、エッジライト型のような液晶テレビの導光体として有効に使用できる。
【0025】
本発明のガラス物品のガラスの母組成としては、多成分系の酸化物ガラスからなり、上述した可視光域の平均内部透過率及びA値が得られやすいものから広く選択できる。
特に、本発明のガラス物品のガラスに用いる多成分系の酸化物ガラスは、可視光域に吸収が存在する成分の含有量が低いことが、または含まないことが、上述した可視光域の平均内部透過率の最小値及びA値を満たす上で好ましい。
【0026】
好ましいガラスの母組成としては、下記する3種類(ガラス母組成A、ガラス母組成B、ガラス母組成Cを有するガラス)が代表的な例として挙げられる。なお、本発明のガラスにおけるガラス母組成は、ここにおいて示したガラス母組成の例に限定されるものではない。
ガラス母組成Aを有するガラスとしては、Feに換算した全酸化鉄(t−Fe)、NiO、CeO及び他の含有量1000ppm以下の微量成分を除いた前記ガラスの母組成が、下記酸化物基準の質量%表示で、実質的に、SiOを60〜80%、Alを0〜7%、MgOを0〜10%、CaOを0〜20%、SrOを0〜15%、BaOを0〜15%、NaOを3〜20%、KOを0〜10%、含むものであるのが好ましい。
【0027】
また、ガラス母組成Bを有するガラスとしては、Feに換算した全酸化鉄(t−Fe)、NiO、CeO及び他の含有量1000ppm以下の微量成分を除いた前記ガラスの母組成が、下記酸化物基準の質量%表示で、実質的に、SiOを45〜80%、Alを7%超、30%以下、Bを0〜15%、MgOを0〜15%、CaOを0〜6%、SrOを0〜5%、BaOを0〜5%、NaOを7〜20%、KOを0〜10%、ZrOを0〜10%、含むものであるのが好ましい。
【0028】
また、ガラス母組成Cを有するガラスとしては、Feに換算した全酸化鉄(t−Fe)、NiO、CeO及び他の含有量1000ppm以下の微量成分を除いた前記ガラスの母組成が、下記酸化物基準の質量%表示で、実質的に、SiOを45〜70%、Alを10〜30%、Bを0〜15%、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物を合計で5〜30%、LiO、NaOおよびKOからなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属酸化物を合計で0%以上、3%未満、含むものであるのが好ましい。
【0029】
上記した成分を有する本発明のガラス物品のガラスの母組成の各成分の組成範囲について、以下に説明する。
SiOは、ガラスの主成分である。
SiOの含有量は、ガラスの耐候性、失透特性を保つため、酸化物基準の質量百分率表示で、ガラス母組成Aにおいては、好ましくは60%以上、より好ましくは63%以上であり、ガラス母組成Bにおいては、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上であり、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上である。
一方、SiOの含有量は、溶解を容易にし、泡品質を良好なものとするために、またガラス中の二価鉄(Fe2+)の含有量を低く抑え、光学特性を良好なものとするため、ガラス母組成Aにおいては、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下であり、ガラス母組成Bにおいては、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下であり、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは70%以下、より好ましくは65%以下である。
【0030】
Alは、ガラス母組成B及びCにおいてはガラスの耐候性を向上させる必須成分である。本発明のガラスにおいて実用上必要な耐候性を維持するためには、Alの含有量は、ガラス母組成Aにおいては、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上であり、ガラス母組成Bにおいては、好ましくは7%超、より好ましくは10%以上であり、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは10%以上、より好ましくは13%以上である。
但し、二価鉄(Fe2+)の含有量を低く抑え、光学特性を良好なものとし、泡品質を良好なものとするため、Alの含有量は、ガラス母組成Aにおいては、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下であり、ガラス母組成Bにおいては、好ましくは30%以下、より好ましくは23%以下であり、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
【0031】
は、ガラス原料の溶融を促進し、機械的特性や耐候性を向上させる成分であるが、本発明のガラスのような、ソーダライムシリケート系のガラスへの添加により揮発による脈理(ream)の生成、炉壁の侵食等の不都合が生じないために、Bの含有量は、ガラス母組成B及びCにおいては、好ましくは15%以下、より好ましくは、12%以下である。
【0032】
LiO、NaO、及び、KOといったアルカリ金属酸化物は、ガラス原料の溶融を促進し、熱膨張、粘性等を調整するのに有用な成分である。
そのため、NaOの含有量は、ガラス母組成A及びBにおいては、好ましくは8%以上、より好ましくは、11%以上である。但し、泡消失開始温度(TD)を低温に抑え、溶解時の清澄性を保持し、製造されるガラスの泡品質を保つために、NaOの含有量は、ガラス母組成A及びBにおいては、15%以下とするのが好ましく、ガラス母組成Cにおいては、2%以下とするのが好ましく、1%以下とするのがより好ましい。
また、KOの含有量は、ガラス母組成A及びBにおいては、好ましくは8%以下、より好ましくは、5%以下であり、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは2%以下、より好ましくは、1%以下である。
また、LiOは、任意成分であるが、ガラス化を容易にし、原料に由来する不純物として含まれる鉄含有量を低く抑え、バッチコストを低く抑えるために、ガラス母組成A、B及びCにおいて、LiOを2%以下含有させることができる。
また、これらアルカリ金属酸化物の合計含有量(LiO+NaO+KO)は、泡消失開始温度(TD)を低温に抑え、溶解時の清澄性を保持し、製造されるガラスの泡品質を保つために、ガラス母組成A及びBにおいては、好ましくは5%〜20%、より好ましくは8%〜15%であり、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは0%〜2%、より好ましくは、0%〜1%である。
【0033】
MgO、CaO、SrO、及びBaOといったアルカリ土類金属酸化物は、ガラス原料の溶融を促進し、熱膨張、粘性等を調整するのに有用な成分である。
MgOは、ガラス溶解時の粘性を下げ、溶解を促進する作用がある。また、比重を低減させ、ガラス物品に疵をつきにくくする作用があるために、ガラス母組成A、B及びCにおいて、含有させることができる。また、ガラスの熱膨張係数を低く、失透特性を良好なものとするために、MgOの含有量は、ガラス母組成Aにおいては、好ましくは8%以下であり、より好ましくは5%以下であり、ガラス母組成Bにおいては、好ましくは13%以下、より好ましくは10%以下であり、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0034】
CaOは、ガラス原料の溶融を促進し、また粘性、熱膨張等を調整する成分であるので、ガラス母組成A、B及びCにおいて含有させることができる。上記の作用を得るためには、ガラス母組成Aにおいては、CaOの含有量は、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。また、失透を良好にするためには、ガラス母組成Aにおいては、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であり、ガラス母組成Bにおいては、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、またガラス母組成Cにおいては、好ましくは10%以下である。
【0035】
SrOは、熱膨張係数の増大及びガラスの高温粘度を下げる効果がある。かかる効果を得るために、ガラス母組成A、B及びCにおいて、SrOを含有させることができる。SrOの含有量は、ガラス母組成A及びCにおいては、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上である。但し、ガラスの熱膨張係数を低く抑えるため、ガラス母組成Aにおいて、SrOの含有量は、10%以下とするのが好ましく、7%以下とするのがより好ましく、またガラス母組成Bにおいては、10%以下とするのが好ましく、5%以下とするのがより好ましく、また、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは10%以下である。
【0036】
BaOは、SrO同様に熱膨張係数の増大及びガラスの高温粘度を下げる効果がある。上記の効果を得るためにBaOを含有させることができる。BaOの含有量は、ガラス母組成A及びCにおいては、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上である。但し、ガラスの熱膨張係数を低く抑えるため、ガラス母組成AにおいてBaOの含有量は、10%以下とするのが好ましく、7%以下とするのがより好ましく、またガラス母組成Bにおいては、10%以下とするのが好ましく、5%以下とするのがより好ましく、また、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは10%以下である。
【0037】
また、含まれるこれらアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は、熱膨張係数を低く抑え、失透特性を良好なものとし、強度を維持するために、ガラス母組成Aにおいては、好ましくは10%〜30%、より好ましくは13%〜27%であり、ガラス母組成Bにおいては、好ましくは1%〜15%、より好ましくは3%〜10%であり、ガラス母組成Cにおいては、好ましくは5%〜30%、より好ましくは10%〜20%である。
【0038】
本発明のガラス物品のガラスのガラス母組成においては、ガラスの耐熱性及び表面硬度の向上のために、任意成分としてZrOを、ガラス母組成A、B及びCにおいて、15%以下、好ましくは5%以下含有させてもよい。但し、15%超であると、ガラスが失透しやすくなるので、好ましくない。
【0039】
本発明のガラス物品のガラスは、清澄剤として用いたSnOを含有してもよい。この場合、SnOに換算した全錫の含有量は、質量百分率表示で0〜1%が好ましい。0.5%以下がより好ましく、0.2%以下がさらに好ましく、0.1%以下が特に好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
また、本発明のガラス物品のガラスは、清澄剤として用いたSOを含んでいてもよい。この場合、SO含有量は、質量百分率表示で0%超、0.5%以下が好ましい。0.3%以下がより好ましく、0.2%以下がさらに好ましく、0.1%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
また、本発明のガラス物品のガラスは、酸化剤及び清澄剤として用いたSbまたはAsを含有してもよい。この場合、SbまたはAsの含有量は、質量百分率表示で0〜0.5%が好ましい。0.2%以下がより好ましく、0.1%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
ただし、Sb、SnO及びAsは、ガラスの酸化剤として作用するため、ガラスのFe2+の量を調節する目的により上記範囲内で添加してもよい。ただし、Asは、環境面から積極的に含有させるものではない。
【0041】
又、本発明のガラス物品のガラスは、Crを含有してもよい。Crを含有する場合、Crは、着色成分としても機能するので、Crの含有量は、上記したガラス母組成の合量に対し、5ppm以下とするのが好ましい。特に、Crは、波長400〜700nmにおけるガラス物品の内部透過率を低下させないという観点から、1.0ppm以下とするのが好ましい。しかしながら、Crは耐熱鋼に含有される成分であり、耐熱鋼はガラスの製造工程で多く使用されている。そのため、一定量のCrの混入は避けられない。Crの混入を完全に除外するには、多大なコストが必要となるため、Crの含有量は、0.1ppm以上とするのが好ましい。
【0042】
本発明のガラス物品のガラスは、MnOを含有してもよい。MnOを含有する場合、MnOは、可視光を吸収する成分としても機能するので、MnOの含有量は、上記したガラス母組成の合量に対し、50ppm以下とするのが好ましい。特に、MnOは、波長400〜700nmにおけるガラス物品の内部透過率を低下させないという観点から、10ppm以下とするのが好ましい。
【0043】
本発明のガラス物品のガラスは、TiOを含んでいてもよい。TiOを含有する場合、TiOは、可視光を吸収する成分としても機能するので、TiOの含有量は、上記したガラス母組成の合量に対し、1000ppm以下とするのが好ましい。TiOは、波長400〜700nmにおけるガラス物品の内部透過率を低下させないという観点から、含有量を100ppm以下とすることがより好ましく、10ppm以下とすることが特に好ましい。
【0044】
本発明のガラス物品のガラスは、CeOを含んでいてもよい。CeOには鉄のレドックスを下げる効果があり、波長400〜700nmにおけるガラスの吸収を小さくすることができる。しかし、CeOを多量に含有する場合、CeOは、可視光を吸収する成分としても機能するので、CeOの含有量は、上記したガラス母組成の合量に対し、1000ppm以下とするのが好ましい。また、CeOの含有量は、400ppm以下とするのがより好ましく、200ppm以下とするのが特に好ましい。
本発明のガラス物品のガラスは、CoO、V及びCuOからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を含んでいてもよい。これら成分を含有する場合、これら成分は、可視光を吸収する成分としても機能するので、CoO、V及びCuOからなる群から選ばれる少なくとも1種の成分の含有量は、上記したガラス母組成の合量に対し、10ppm以下とするのが好ましい。特に、これら成分は、波長400〜700nmにおけるガラス物品の内部透過率を低下させないという観点から、実質的に含有しないことが好ましい。
【0045】
本発明のガラス物品のガラスにおいてNiOおよびCrの含有量に関し、酸化物基準の質量ppm表示で、下記式(9)を満たすように制御することが好ましいことを見出した。
すなわち、NiOの波長400〜700nmにおける平均の吸収係数は、Crの波長400〜700nmにおける平均の吸収係数のおよそ倍であることから、NiOとCrの含有量について下記の関係式を得た。
0.1≦[NiO]+2[Cr]≦5.0 … 式(9)
ここで[NiO]は、NiOの含有量(ppm)であり、[Cr]は、Crの含有量(ppm)である。
[NiO]+2[Cr]は、波長400〜700nmにおけるガラス物品の内部透過率を低下させないという観点から5.0以下であり、3.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがさらに好ましい。また、[NiO]+2[Cr]は、製造コストを増加させないという観点から、0.1以上であり、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明のガラス物品は、従来から導光板として使用されてきたアクリル板よりも剛性、耐熱性及び耐水性に優れている。
本発明のガラス物品をエッジライト方式の液晶テレビの導光体として使用する場合、本発明のガラス物品の形状は、ガラス板である。上記の用途で使用するガラス板は、板厚は、0.2mm以上であることが好ましい。ガラス板の厚さの上限は、特にないが、実用上、5mm以下が好ましい。なお、上記用途の導光体のガラス板として使用する場合には、光路長となる少なくとも一辺の長さが200mm以上であることが好ましい。
【0047】
上記したように、本発明によれば、多成分系の酸化物ガラスからなり、Feに換算した全酸化鉄(t−Fe)を1質量ppm〜80質量ppm含有し、鉄のレドックスが0%〜50%であり、NiOを0.01質量ppm〜4.0質量ppm含有してなることを特徴とする導光体用ガラス物品を提供することができる。
【0048】
本発明のガラス物品がガラス板の場合、常法により、製造されるガラス板における組成比となるように配合したガラス原料を溶解して溶融ガラスを得た後、溶融ガラスを、フロート法、ロールアウト法、引き上げ法、及び、フュージョン法からなる群から選択されるいずれか1つの成形法を用いて成形してガラス板を得ることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明する。
(例1)
本発明のガラス物品のガラスとして、多成分系の酸化物系のガラス(ソーダライムシリケートガラス)を使用した。使用したガラスの母組成は、以下の通りである。このガラスの母組成には、全酸化鉄、NiO、Cr、MnO、CeO及び、他の含有量1000ppm以下の微量成分が含まれていない。このガラスは、前述したガラス母組成Aに相当するものである。
SiO : 70.0%、
Al : 3.0%、
NaO : 11.0%、
CaO : 8.0%、
SrO : 4.0%、
BaO : 4.0%。
【0050】
上記した母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を20ppm含有させ、NiOの含有量をそれぞれ4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、CeOを300ppm含有させ、鉄のレドックスを20%に制御して作製されたガラス物品のサンプル(5種)を得た。
なお、ガラスの作製に当たっては、上記したガラスの組成となるように原料を調整して目標組成のガラスバッチを用意し、このバッチを白金―ロジウム製のルツボに入れて、電気炉中で溶融し、カーボン板上に流し出した後、別の電気炉内で徐冷した。
得られたガラスブロックを切断し、一部を研磨して蛍光X線分析装置により、Feに換算した全酸化鉄の含有量(質量ppm)を求めた。Fe2+の含有量は、ASTM C169−92に準じて測定した。なお、測定したFe2+の含有量は、Feに換算して表記したのち、式(2)によって鉄のレドックスを算出し、狙い通りになっていることを確認した。
・鉄のレドックス=(Feに換算した二価鉄(Fe2+)の含有量/[(Feに換算した二価鉄(Fe2+)と三価鉄(Fe3+)の合計の含有量(Fe2++Fe3+)] …式(2)
得られたガラスの物性値は、以下の通りである。
・Tg(ガラス転移点温度):562℃
・T2(ガラス粘度が10ポイズとなる温度):1466℃
・T4(ガラス粘度が10ポイズとなる温度):1042℃
・比重:2.59
【0051】
また、別のガラスブロックの表面を研磨して鏡面状に、かつ長辺が50.0mmのガラス直方体となるように仕上げ、長尺試料が測定できる日立ハイテクノロジーズ社製の試料ホルダーを組み合わせた日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計UH4150を用いて透過率の測定、および、島津製作所社製 精密屈折計 KPR−2000を用いて屈折率の測定をおこなった。これらの結果を用いて、上述の方法によってガラスの600mm長における内部透過率S(λ)を得た。又、上記ガラスブロックから得られたガラス物品のサンプル(5種)について、JIS Z8701に記載されたXYZ表色系における等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)、ガラスの600mm長における内部透過率S(λ)を用いて、X=Σ(S(λ)×x(λ))、Y=Σ(S(λ)×y(λ))、及びZ=Σ(S(λ)×z(λ))をそれぞれ求め、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値を求めた。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
(例2)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を20ppm含有させ、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、CeOを50ppm含有させ、鉄のレドックスを30%に制御して作製されたガラス物品のサンプル(5種)を得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値を求めた。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
(例3)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を20ppm含有させ、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppとし、鉄のレドックスを40%に制御して作製されたガラス物品のサンプル(5種)を得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値を求めた。その結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
(例4)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を20ppm含有させ、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、鉄のレドックスを50%に制御して作製されたガラス物品のサンプル(5種)を得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値を求めた。その結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
例1〜4において得られた、Feに換算した全酸化鉄を20ppm含有し、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、鉄のレドックスを20%、30%、40%、50%としたガラス物品の各サンプルについて、NiOの含有量と、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)との関係をプロットした図面を図1として示す。
【0060】
例1〜4においては、全鉄量を20ppmとし、鉄のレドックスを20%、30%、40%、50%とした場合において、NiOの含有量とA値との関係を示した図1のグラフから、以下の結果が読み取れる。
レドックスが20〜50%の場合、NiOの含有量が0〜4.0ppmの範囲にわたり、A値が0.83以上を示す。
レドックスが30%の場合においては、NiOの含有量が1.0ppm程度の時に、A値がもっとも大きくなる。
レドックスが40%の場合においては、NiOの含有量が1.0ppm程度の時に、A値がもっとも大きくなる。
レドックスが50%の場合においては、NiOの含有量が2.0ppm程度の時に、A値がもっとも大きくなる。
【0061】
(例5)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を40ppm含有させ、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、CeOを50ppm含有させ、鉄のレドックスを20%に制御して作製されたガラス物品のサンプル(5種)を得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値を求めた。その結果を表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
(例6)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を40ppm含有させ、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、CeOを50ppm含有させ、鉄のレドックスを30%に制御して作製されたガラス物品のサンプル(5種)を得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値を求めた。その結果を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
(例7)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を40ppm含有させ、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、鉄のレドックスを40%に制御して作製されたガラス物品のサンプル(5種)を得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A値=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値を求めた。その結果を表7に示す。
【0066】
【表7】
【0067】
(例8)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を40ppm含有させ、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、鉄のレドックスを50%に制御して作製されたガラス物品のサンプル(5種)を得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値を求めた。その結果を表8に示す。
【0068】
【表8】
【0069】
例5〜8において得られたFeに換算した全酸化鉄を40ppm含有し、NiOの含有量を4.0ppm、3.0ppm、2.0ppm、1.0ppm、0ppmとし、鉄のレドックスを20%、30%、40%、50%としたガラス物品の各サンプルについてNiOの含有量と、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)との関係をプロットした図面を図2として示す。
【0070】
例5〜8においては、全鉄量を40ppmとし、鉄のレドックスが20%、30%、40%、50%とした場合において、NiOの含有量とA値との関係を示した図2のグラフから、以下の結果が読み取れる。
レドックスが20〜50%の場合、NiOの含有量が0〜4.0ppmの範囲にわたり、A値が0.83以上を示す。
レドックスが30%の場合においては、NiOの含有量が1.0ppm程度の時に、A値がもっとも大きくなる。
レドックスが40%の場合においては、NiOの含有量が2.0ppm程度の時に、A値がもっとも大きくなる。
レドックスが50%の場合においては、NiOの含有量が3.0ppm程度の時に、A値がもっとも大きくなる。
【0071】
(例9)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を20ppm含有させ、NiOの含有量を1.0ppmとし、CeOの含有量を300ppmとし、Crの含有量を1.0ppmとし、MnOの含有量を10ppmとし、鉄のレドックスを10%に制御して作製されたガラス物品のサンプルを得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、及びz(λ)、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。Xは、91.0、Yは、93.5、Zは85.3、内部透過率スペクトル平坦度Aは、0.91であった。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値は、76%であった。
【0072】
(例10)
例1と同様の母組成のガラスを用い、この母組成のガラス成分の合量に対し、Feに換算した全酸化鉄を15ppm含有させ、NiOの含有量を0.2ppmとし、CeOの含有量を0ppmとし、Crの含有量を0.2ppmとし、MnOの含有量を0.5ppmとし、鉄のレドックスを10%に制御して作製されたガラス物品のサンプルを得た。得られたガラス物品について、例1と同様に、X、Y、Z、及びz(λ)、並びに、内部透過率スペクトル平坦度A=min(X,Y,Z)/max(X,Y,Z)を求めた。Xは、97.7、Yは、99.3、Zは94.6、内部透過率スペクトル平坦度Aは、0.95であった。また、波長400〜700nmにおける該ガラス物品の600mm長における内部透過率の最小値は、86%であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、可視光域の平均内部透過率の最小値が35%以上と高い透過率を有し、かつガラス物品の内部透過率スペクトルA値が、0.83以上と内部透過率スペクトルがより平坦化され、輝度の低下や面内での輝度・色ムラが生じることが少なく、かつ耐熱性が良好なガラス物品を提供することができる。なお、本発明のガラス物品は導光体に好適に用いることが出来るが、用途はこれに限らず、高い可視光透過率が要求される用途に好適に用いることが出来る。
本発明のガラス物品は、エッジライト方式の面状発光体装置の導光体用として、特に液晶テレビ等の液晶表示装置の大画面化に対応する、導光体用として最適である。
なお、2015年3月16日に出願された日本特許出願2015−052217号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。
図1
図2