(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6566064
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/20 20060101AFI20190819BHJP
C23C 18/16 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
C23C18/20
C23C18/16 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-39481(P2018-39481)
(22)【出願日】2018年3月6日
【審査請求日】2019年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】永井 達夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕都喜
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−096680(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/122869(WO,A1)
【文献】
特開2017−197831(JP,A)
【文献】
特表平05−506125(JP,A)
【文献】
特開2008−001972(JP,A)
【文献】
特開2007−100174(JP,A)
【文献】
特開昭53−112229(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/094754(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっきの前処理としてのポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法であって、ポリフェニレンサルファイド樹脂を、過硫酸塩を溶解した硫酸濃度が55〜90wt%で過硫酸濃度が2g/L以上のクロム及びマンガンフリーの溶液で処理し、前記過硫酸塩を溶解した溶液の温度が20〜80℃である、ポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法。
【請求項2】
前記過硫酸塩を溶解した溶液に該過硫酸塩以外の無機塩を溶解した混合溶液を用いる、請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法。
【請求項3】
前記過硫酸塩を溶解した溶液を貯留しポリフェニレンサルファイド樹脂を処理するための処理槽と、該処理槽内に過硫酸塩を溶解した溶液を供給する過硫酸塩溶液貯槽と、前記処理槽を加熱する恒温ヒータとを備えた処理装置の前記処理槽にポリフェニレンサルファイド樹脂を浸漬し、該ポリフェニレンサルファイド樹脂の表面を処理する、請求項1又は2に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(樹脂成形品)のめっき前処理として行われるポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPS樹脂と呼ぶことがある)表面の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材料や部品材料として金属が用いられている部材において、軽量化、低コスト化、形状の自由さ、大量生産の容易さ等のメリットを生かし、プラスチックが代替されている。現在では、装飾用のみならず、自動車の外装や内装部品、家電製品等に広く使用されている。その際、剛性、耐摩耗性、耐候性、耐熱性等を向上させるため、プラスチック表面にめっきを施すことが多い。
【0003】
プラスチックは非導電性のため、めっきを施すにはまず導体となる金属皮膜をプラスチック上に形成する必要がある。その方法を大きく分類すると、CVD(化学気相蒸着)、PVD(物理気相蒸着)といった乾式法、無電解ニッケルめっきの湿式法がある。乾式法は真空状態での成膜がほとんどで、大量生産や大型部品への適用に向かないことから、湿式法がこれまで採用されてきた。
【0004】
PPS樹脂は、融点が約280℃と高い耐熱性を有するだけでなく、優れた耐薬品性と難燃剤を添加せずに自己消火性を実現する高機能樹脂材料であることから、このような金属代替のプラスチックとして広く用いられている。このPPS樹脂は、エンジニアリングプラスチックとして、金属、熱硬化性樹脂からの代替を中心に、自動車部品では排ガス処理バルブやキャブレータに、電気・電子部品ではコネクタや各種スイッチにと様々な分野で利用されている。
【0005】
このようなPPS樹脂からなるプラスチック成形品のめっき前の親水化処理として、クロム酸処理があるが、クロム酸では酸化力が弱いため、優れた耐薬品性を備えたPPS樹脂表面を親水化することが困難である。また、クロム酸に代わる環境調和型技術として、特許文献1には、過マンガン酸塩及び無機塩の混合液でエッチングすることが記載されている。さらには、特許文献2及び特許文献3には、オゾン溶解水を用いてプラスチック成形品の表面を粗化する無電解めっきの前処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−31513号公報
【特許文献2】特開2002−121678号公報
【特許文献3】特開2012−52214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の過マンガン酸塩及び無機塩の混合液でエッチングする方法では、PPS樹脂の親水化は難しく、金属との密着性が良くない、という問題点がある。また、特許文献2及び特許文献3に記載されたプラスチック表面のめっき前処理方法では、PPS樹脂の親水化が困難なだけでなく、オゾンは分解速度が速いので、高濃度のオゾン水を製造し、かつ高濃度を維持しなければならないため、大掛かりな設備が必要となるだけでなく、局所的なオゾン濃度の差により処理にムラが生じやすい、という問題点がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ポリフェニレンサルファイド樹脂表面に十分に密着しためっきを形成することができるクロム及びマンガンフリーのポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は第一に、めっきの前処理としてのポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法であって、ポリフェニレンサルファイド樹脂を、過硫酸塩を溶解した硫酸濃度が55〜90wt%で過硫酸濃度が2g/L以上のクロムフリーの溶液で処理し、前記過硫酸塩を溶解した溶液の温度が20〜80℃である、ポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法を提供する(発明1)。
【0010】
かかる発明(発明1)によれば、過硫酸の強い酸化作用によりポリフェニレンサルファイド樹脂表面が僅かに溶解して粗面化するとともに、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性の官能基が露出するので、この処理後にめっき処理を施すことにより十分に密着しためっきを得ることができる。このとき硫酸濃度を55〜90wt%とすることにより、硫酸濃度を調整することでポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理の度合いを調整することができる。また、親水化処理の温度を20〜80℃とすることにより、過硫酸の分解を抑制しつつポリフェニレンサルファイド樹脂表面を好適に親水化することができる。さらに前記溶液の過硫酸濃度を2g/L以上とすることにより、過硫酸の強い酸化作用が十分に発揮されるのでポリフェニレンサルファイド樹脂表面を好適に粗面化して親水性の官能基を露出することができ、この処理後にめっき処理を施すことにより特に密着性に優れためっきを得ることができる。
【0011】
上記発明(発明1)においては、前記過硫酸塩を溶解した溶液に該過硫酸塩以外の無機塩を溶解した混合溶液を用いることができる(発明2)。
【0012】
かかる発明(発明2)によれば、ポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理の度合いを調整することができる。
【0013】
上記発明(発明1,2)においては、前記過硫酸塩を溶解した溶液を貯留しポリフェニレンサルファイド樹脂を処理するための処理槽と、該処理槽内に過硫酸塩を溶解した溶液を供給する過硫酸塩溶液貯槽と、前記処理槽を加熱する恒温ヒータとを備えた処理装置の前記処理槽にポリフェニレンサルファイド樹脂を浸漬し、該ポリフェニレンサルファイド樹脂の表面を処理することが好ましい(発明3)。
【0014】
かかる発明(発明3)によれば、過硫酸塩の溶液を貯留した処理槽にポリフェニレンサルファイド樹脂を浸漬するだけで処理を行うことができる。また、過硫酸の濃度が低下したら過硫酸塩溶液貯槽から処理槽に過硫酸塩溶液を補充することで処理能力を維持することができる。
【0015】
また、本発明は第二に、めっきの前処理としてのポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法であって、ポリフェニレンサルファイド樹脂を、硫酸と過酸化水素水を混合した硫酸濃度が55〜90wt%で過硫酸濃度が2g/L以上のクロムフリーの溶液で処理し、前記硫酸と過酸化水素水を混合した溶液の温度が20〜80℃である、ポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法を提供する(発明4)。
【0016】
かかる発明(発明4)によれば、硫酸と過酸化水素水を混合して生成される過硫酸の強い酸化作用によりポリフェニレンサルファイド樹脂表面が僅かに溶解して粗面化するとともに、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性の官能基が露出するので、この処理後にめっき処理を施すことにより十分に密着しためっきを得ることができる。このとき硫酸濃度を55〜90wt%とすることにより、硫酸濃度を調整することでポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理の度合いを調整することができる。また、親水化処理の温度を20〜80℃とすることにより、過硫酸の分解を抑制しつつポリフェニレンサルファイド樹脂表面を好適に親水化することができる。さらに前記溶液の過硫酸濃度を2g/L以上とすることにより、過硫酸の強い酸化作用が十分に発揮されるのでポリフェニレンサルファイド樹脂表面を好適に粗面化して親水性の官能基を露出することができ、この処理後にめっき処理を施すことにより特に密着性に優れためっきを得ることができる。
【0017】
上記発明(発明4)においては、硫酸を貯留し過酸化水素水添加機構を備えたポリフェニレンサルファイド樹脂を処理するための処理槽と、前記処理槽を加熱する恒温ヒータとを備えた処理装置の前記処理槽にポリフェニレンサルファイド樹脂を浸漬し、該ポリフェニレンサルファイド樹脂の表面を処理することが好ましい(発明5)。
【0018】
かかる発明(発明5)によれば、硫酸と過酸化水素水を混合して過硫酸を生成させた処理槽にポリフェニレンサルファイド樹脂を浸漬するだけで処理を行うことができる。また、過硫酸の濃度が低下したら処理槽に硫酸と過酸化水素水を補充することで処理能力を維持することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法によれば、過硫酸の強い酸化作用によりポリフェニレンサルファイド樹脂表面を溶解させ表面を粗面化するとともに、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性の官能基が露出するので、この処理後にめっき処理を施すことにより十分に密着しためっきを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一の実施形態によるポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法を適用可能な処理装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明の第一の実施形態によるPPS樹脂表面の処理方法を行うのに好適な処理装置を示している。
図1においてPPS樹脂の親水化処理装置1は、外周に恒温ヒータ3が設けられた処理槽2と、配管4及びポンプ5を介して接続された供給槽6とを有する。なお、処理槽2内には、必要に応じて槽内を攪拌するための散気菅や液循環機能等の攪拌手段を設置しても良い。また、供給槽6には図示しない過硫酸塩及び硫酸の供給手段が接続されていて、必要に応じ過硫酸塩の溶液S1を調製して処理槽2に供給可能となっている。
【0022】
このような処理装置1において、供給槽6には所定の硫酸濃度及び過硫酸濃度の過硫酸塩の溶液S1が充填されていて、処理槽2には供給槽6から過硫酸塩の溶液S1が供給されることにより、所定の濃度の過硫酸塩の溶液Sが充填されている。そして、処理槽2内には、被処理対象であるPPS樹脂板7が図示しない治具に固定された状態で上下方向に吊設されている。
【0023】
本実施形態において、過硫酸塩の溶液S,S1に用いる過硫酸塩としては、溶液時にペルオキソ一硫酸塩および/またはペルオキソ二硫酸塩を生じるものであればよく、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの一硫酸塩あるいは二硫酸塩を用いることができる。これらの中では過硫酸ナトリウムが好適である。過硫酸塩の溶液S,S1には、リン酸塩、硫酸塩、塩化ナトリウムなどの他の無機塩類を適宜添加することができる。
【0024】
この過硫酸塩の溶液S,S1の硫酸濃度は55〜90wt%、好ましくは60〜90wt%、特に70〜85wt%である。硫酸濃度が55wt%未満では、過硫酸塩の溶液Sの硫酸濃度が薄すぎて、PPS樹脂板7の表面にヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性の官能基を十分に露出させることができず、もってめっきの密着性を向上効果が十分に得られない。硫酸濃度は高い方が好ましいが90wt%を超えても、それ以上の効果の向上が得られないばかりか、取扱い性が悪くなるため好ましくない。
【0025】
また、過硫酸塩を溶解した後の溶液S,S1の過硫酸濃度は2g/L以上である。過硫酸濃度が2g/L未満では、PPS樹脂板7の表面にヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性の官能基を十分に露出させることができず、十分なめっきの密着性の向上効果が得られない。好ましい過硫酸濃度は3g/L以上、特に5g/L以上である。なお、過硫酸の濃度の上限については特に制限はないが20g/Lを超えても上記効果の向上が得られないばかりか経済的でない。
【0026】
次に上述したような処理装置1を用いたPPS樹脂表面の処理方法について説明する。まず、PPS樹脂板7を脱脂し、その後、このPPS樹脂板7を過硫酸塩の溶液Sを入れた処理槽2に浸漬することによりPPS樹脂板7の表面を処理する。
【0027】
このとき過硫酸塩の溶液Sの温度が20〜80℃、好ましくは20〜70℃、特に室温〜50℃となるように必要に応じて恒温ヒータ3により加熱する。過硫酸塩の溶液Sの温度が20℃未満では、PPS樹脂板7の表面に親水基を十分に露出させることができず、もってめっきの密着性の向上効果が十分に得られない一方、80℃を超えると、PPS樹脂板7の表面を変質させすぎてしまい、かえってめっきの密着性が低下する。そして、処理槽2内の過硫酸塩の溶液Sが上述した温度及び過硫酸濃度になったら、脱脂したPPS樹脂板7を処理槽2に浸漬することによりPPS樹脂板7の表面を処理する。このとき過硫酸塩の溶液Sに浸漬する際に付着する気泡を抑えるため、PPS樹脂板7にはあらかじめ湿潤処理を施しておくのが好ましい。
【0028】
このような処理槽2内の過硫酸塩の溶液SにPPS樹脂板7を3〜20分間浸漬することにより、PPS樹脂板7の表面を溶解させ粗面化するとともにヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水性の官能基が露出する。これらにより、その後のめっき処理においてめっきの密着性を向上させることができる。
【0029】
上記工程でPPS樹脂板7表面に発現した官能基を活性化させた後には、必要により中和・還元処理、コンディショニング処理等を行ってもよい。そして、水洗後、めっき処理される。めっき処理方法としては、最初に自己触媒性のある無電解ニッケルめっきを析出させ、その後電解ニッケル、電解クロム等のめっきを施すが、無電解めっきする金属は、ニッケル、銅などいずれでもよく、また電解めっきする金属も、ニッケル、クロム、銅、コバルト、及びそれらの合金などのいずれでもよい。これによりPPS樹脂板7の表面に密着性の良いニッケル等のめっきが施されたPPS樹脂めっき製品を得ることができる。
【0030】
このような処理をPPS樹脂板7を取り換えて連続して行えばよいが、処理槽2内の過硫酸塩の溶液Sの硫酸濃度は処理に伴い分解するので、ポンプ5を起動して供給槽6から新たな過硫酸塩の溶液S1を配管4から処理槽2に補充すればよい。
【0031】
次に本発明の第二の実施形態によるポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法について説明する。本実施形態は、上述した第一の実施形態において、過硫酸塩を溶解した硫酸濃度が55〜90wt%で過硫酸濃度が2g/L以上のクロムフリーの溶液の代わりに、硫酸と過酸化水素水とを混合した硫酸濃度55〜90wt%で過硫酸濃度が2g/L以上のクロムフリーの溶液を用いる以外は、同じ条件でポリフェニレンサルファイド樹脂を親水化処理する方法である。このように硫酸と過酸化水素水を混合して過硫酸溶液を調製することによってもポリフェニレンサルファイド樹脂の表面を親水化して処理することができる。ここで硫酸への過酸化水素の混合量は、硫酸濃度55〜90wt%で過硫酸濃度が2g/L以上となるような範囲で適宜設定すればよい。
【0032】
また、第二の実施形態における処理装置としては、
図1に示す処理装置1において、処理槽2として、硫酸を貯留し過酸化水素水添加機構を備えたものを採用すればよい。
【0033】
以上、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法について、上記各実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、過硫酸塩の溶液S,S1には種々の無機塩類を添加することができる。また、本実施形態のようなバッチ処理でなく連続処理にも適用可能である。さらに、ポリフェニレンサルファイド樹脂は、本実施形態のように板に限らず種々の形状の成形体に適用可能であることはいうまでもない。さらにまた、供給槽6には過硫酸塩水溶液を用意しておき、処理槽2に別途硫酸を供給するようにしてもよい。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、過硫酸濃度測定及び付着性試験は次のようにして行った。
【0035】
<過硫酸濃度測定方法>
まず、ヨウ素滴定により処理液(過硫酸塩の溶液S)中に含まれる全酸化剤濃度を測定する。このヨウ素滴定とは、過硫酸塩の溶液Sにヨウ化カリウム(KI)を加えてヨウ素(I
2)を遊離させ、このI
2をチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定してI
2の量を求め、そのI
2の量から酸化剤濃度を求めるものである。次に、過硫酸塩の溶液Sの過酸化水素濃度のみを過マンガン酸カリウム滴定により求め、ヨウ素滴定値から過マンガン酸カリウム滴定値を差し引くことにより過硫酸濃度を算出した。
【0036】
<めっき密着性試験>
過硫酸塩の溶液Sにより親水化処理されたPPS樹脂板7に対し、下記表1に示す流れでめっき処理を施し、密着性試験用サンプルとした。
【0037】
【表1】
【0038】
得られた密着性試験用サンプルに対し、JIS H8630「プラスチック上への装飾用電気めっき」に規定されている密着性試験方法に準拠して、ピール試験を実施してめっき皮膜の密着強度を測定した。
【0039】
[実施例1]
図1に示す装置を用いて、PPS樹脂板7の表面処理を行った。処理槽2の仕様及び条件は次の通りである。
【0040】
<処理槽>
処理槽2の容積:40L
PPS樹脂板7の大きさ:500mm×500mm×厚さ5mm
<過硫酸塩の溶液Sの性状と表面処理条件>
硫酸濃度:75wt%
過硫酸濃度:10g/L
処理温度:30℃
処理時間:10分
【0041】
界面活性剤の入った湿潤処理槽に10分間PPS樹脂板7を浸漬し、次に過硫酸塩の溶液Sを満たした処理槽2内に10分間浸漬して親水化したら処理槽2から取り出し、水道水で洗浄した後、表1に示す工程で無電解ニッケルめっきを施した。その後最終的に硫酸銅めっきを施した。そして、硫酸銅めっきしたPPS樹脂板7のめっき皮膜の密着強度を測定した。結果を親水化処理条件とともに表2に示す。
【0042】
[実施例2〜7]
表面処理条件を表2に示すように種々設定を変更したこと以外は実施例1と同様にしてクロムめっきを施し、めっきの密着性を評価した。結果を親水化処理条件とともに表2にあわせて示す。
【0043】
[比較例1]
過硫酸塩溶液の代わりに、硫酸濃度75wt%の硫酸溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてクロムめっきを施し、めっきの密着性を評価した。結果を処理条件とともに表2にあわせて示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2から明らかなとおり、実施例1〜7のポリフェニレンサルファイド樹脂表面の処理方法によると、処理後のPPS樹脂板7にめっきを施すことにより、0.5N/m以上の密着強度が得られた。特に50℃以上の処理温度及び3g/L以上の過硫酸濃度で、例えば5分以上の十分な時間処理した実施例1〜3では、0.9kN/m以上の密着強度が得られた。一方、過硫酸を含まない75wt%の濃度の硫酸で処理した比較例1では、処理後のPPS樹脂板7にめっきを施しても密着強度が0.3kN/mと低かった。
【符号の説明】
【0046】
1 処理装置
2 処理槽
3 恒温ヒータ
4 配管
5 ポンプ
6 供給槽
7 ポリフェニレンサルファイド樹脂板
S,S1 過硫酸塩の溶液
【要約】 (修正有)
【課題】ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)表面に十分に密着しためっきを形成することができる、クロム及びマンガンフリーのPPS樹脂表面処理方法を提供する。
【解決手段】PPS樹脂の親水化処理装置1は、外周に恒温ヒータ3が設けられた処理槽2と、配管4及びポンプ5を介して接続された供給槽6とを有する。処理槽2及び供給槽6には、所定の硫酸濃度及び過硫酸濃度の過硫酸塩の溶液S,S1がそれぞれ充填されている。そして、処理槽2内には、被処理PPS樹脂としてPPS樹脂板7が上下方向に吊設されている。この過硫酸塩の溶液S,S1の硫酸濃度は55〜90wt%であり、溶液S,S1の過硫酸濃度は2g/L以上である。また、溶液S,S1の温度は20〜80℃である。
【選択図】
図1