【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「B型肝炎ウイルスにおける糖鎖の機能解析と医用応用技術の実用化へ」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
糖鎖変異のHBVの増殖・感染能への影響,厚生労働科学研究費補助金 B型肝炎創薬実用化等研究事業 B型肝炎ウイルスにおける糖鎖の機能解析と医用応用技術の実用化へ 平成25年度総括・分担研究報告書,2014年 5月,pp. 45-47
【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1994年,Vol. 91,pp. 2235-2239
【文献】
J. Proteome Res.,2009年,Vol. 8, No. 3,pp. 1358-1367
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子発現の抑制剤を有効成分として含むことを特徴とするHBV感染肝細胞におけるHBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤であって、
前記糖鎖遺伝子発現抑制剤が、RNAi製剤、アンチセンス、核酸アプタマー及びリボザイムから選択されるオリゴ核酸製剤である、阻害剤。
前記オリゴ核酸製剤がSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子の塩基配列もしくはその相補配列中の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列を含む核酸を有効成分として含むことを特徴とする、請求項1に記載の阻害剤。
前記オリゴ核酸製剤がRNAi製剤であって、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子のmRNAの相補鎖と少なくとも15個の連続した塩基が一致する塩基配列を含む二本鎖RNAを有効成分として含むことを特徴とする、請求項2に記載の阻害剤。
前記糖鎖遺伝子発現抑制剤が、SLC35B1 mRNAの塩基配列中の配列番号12の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列からなる領域と特異的に結合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の阻害剤。
前記形質転換細胞が、タグ化した糖鎖合成関連タンパク質を発現する細胞であって、蛍光標識した抗タグ抗体により細胞内膜表面を蛍光標識した形質転換細胞であり、測定する当該細胞内膜表面の標識量が、蛍光量であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
前記糖鎖遺伝子が標識タンパク質をコードする遺伝子と融合されており、前記形質転換細胞が、その細胞内膜表面でSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質を、直接又は間接的に標識化された状態で発現している形質転換細胞である、請求項13に記載のキット。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、感染肝細胞内でのHBVの粒子化及び/又は分泌を抑制する方法並びにそのことによるHBV感染症の予防及び治療する方法及びそのための医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、HBVゲノム配列やHBV由来逆転写酵素を標的とするのではなく、HBVが感染した肝細胞側に着目し、HBV感染した肝細胞内において産生される糖鎖合成関連タンパク質のうち、HBV粒子の形成や分泌に必須な糖鎖修飾に関わる糖鎖合成関連タンパク質の検索を試みた。このような糖鎖合成関連タンパク質又はその遺伝子を標的として糖鎖修飾活性の阻害又は糖鎖合成関連タンパク質の発現を阻害することで、HBV感染肝細胞におけるHBV粒子の形成及び/又はHBV粒子の分泌を阻止もしくは抑制することができ、結果的に周辺肝細胞への感染を防止してB型肝炎の発症を予防もしくは治療することができると発想した。また、糖鎖合成関連タンパク質遺伝子(以下、単に「糖鎖遺伝子」ともいう。)は、肝細胞内でもその小胞体またはゴルジ体に局在しているため、HBV感染阻害の標的分子とすると効率的な阻害に有利であると考えられる。
【0011】
本発明者らは、最近、in vitro HBV複製モデルを用いた培養上清中のHBV-DNA抑制効果の解析により、複数種類の糖鎖遺伝子に対応したsiRNAには高いHBV-DNA抑制効果があることを突き止めた(非特許文献2、他に2014.4.19-20 2
nd TASL-Japan HBV in Taipei、2014.5.29-30第50回肝臓学会総会ワークショップ3、2014.9.3-6 Molecular Biology of HBV in Los Angelesで発表)。
このような結果を踏まえて、まず、正常肝細胞及び2種の肝がん由来細胞株のそれぞれからtotal RNAを調製してcDNAライブラリーを作製し、網羅的に配列決定した後、ヒトcDNAにマップされた配列から、糖鎖関連遺伝子データベース(GGDB, 日本)中の「糖鎖遺伝子」にマップされたものだけを抽出し、肝細胞内で発現している約185種類の糖鎖遺伝子を同定した。これら185種類の糖鎖遺伝子についての発現量を比較解析して発現プロファイルを得た。
当該185種類の糖鎖遺伝子の発現プロファイルに基づき、肝細胞内で高発現しているか又は中程度の発現をしている86種類を抽出し、それぞれの遺伝子に対応する3種類のsiRNAからなる3種混合siRNAを調製した。
【0012】
次いで、これら86種類の糖鎖遺伝子に対応する3種混合siRNAを肝細胞に導入後に各細胞に対してHBVのS-HBs抗原cDNAをトランスフェクションし、培養上清中に分泌されるS-HBs抗原の発現量と糖鎖の付加を確認した。
その結果、86種類の糖鎖遺伝子のうちで10種類以上の遺伝子について、siRNA導入による発現抑制時に、コントロールsiRNA導入時と比較して、S-HBs抗原の発現低下、又はS-HBs抗原の糖鎖付加の減少が示された。
【0013】
さらにHBV複製や分泌への影響を解析するために、86種類の糖鎖遺伝子に対応する3種混合siRNAをHBV産生肝がん細胞に導入して培養上清中のHBV DNA量及びHBs抗原量を測定した。その結果、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子の糖鎖遺伝子が、HBV DNA量及びHBs抗原量のいずれをも顕著に低下させる阻害ターゲットとなる糖鎖遺伝子であることが見い出された。
【0014】
そのうちのSLC35B1遺伝子について、まずSLC35B1遺伝子ノックダウンに用いた3種のsiRNAは、いずれもSLC35B1遺伝子発現阻害能と共にHBV DNA量及びHBs抗原量のいずれも減少させる機能があることを確認し、SLC35B1遺伝子の塩基配列上の位置を特定した。その上で、3種のうちで最もSLC35B1遺伝子発現阻害能を有するsiRNA(siSLC35B1#1)が、HBV DNA量及びHBs抗原量を減少させること、すなわちHBV感染細胞内でのHBV粒子化及びHBV分泌機能を阻害することも確認した。次いで他の複数の標的候補領域に対応するsiRNA(dsRNA)を作製し、それぞれのSLC35B1遺伝子発現阻害能を比較検討することで、SLC35B1遺伝子配列中の有効性の高い標的領域の塩基配列を決定することができた。このことは、当該標的領域に対応するsiRNA自体と共に、同一の標的領域にRNAiを生じさせるshRNAなど他のRNAi試薬や、アンチセンス、リボザイムがHBV感染阻害剤として用いることができることを意味する。例えば、当該標的領域に対応するsiRNA、shRNAなどRNAi試薬は、肝臓特異的にsiRNAを輸送するシステム(特許文献16など)を利用することで、肝臓内でのHBVの増殖及び分泌が抑制でき、HBV感染治療薬として用いることができる。
また、上記結果はSLC35B1遺伝子及び発現SLC35B1タンパク質、同様にCHST9遺伝子とST8SIA3遺伝子及び発現CHST9及びST8SIA3タンパク質それ自体がHBV感染肝細胞内の阻害ターゲットであることを示すものでもある。すなわち、SLC35B1、CHST9及びST8SIA3結合ペプチドや抗SLC35B1中和抗体、抗CHST9中和抗体、及び抗ST8SIA3中和抗体等のSLC35B1、CHST9及びST8SIA3活性阻害剤も、HBV感染肝細胞内でのHBs表面抗原への糖鎖転移活性を抑制することでHBVの増殖及び分泌抑制剤として働くから、HBV感染治療薬の有効成分となる。さらに、上記siRNAが作用するSLC35B1などの肝細胞の糖鎖合成関連タンパク質は、いずれもHBVにとって重要な粒子化や分泌には必要であり、siRNAによる発現阻害によってHBVの粒子化やHBV抗原の発現が阻害できるが、肝細胞本来の増殖にはほとんど影響を生じさせないことも確認した。
これらの知見を得たことで本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
〔1〕 SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子発現の抑制剤を有効成分として含むことを特徴とするHBV感染肝細胞におけるHBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤。
〔2〕 前記糖鎖遺伝子発現抑制剤が、RNAi製剤、アンチセンス、核酸アプタマー及びリボザイムから選択されるオリゴ核酸製剤であることを特徴とする前記〔1〕に記載の阻害剤。
〔3〕 前記オリゴ核酸製剤がSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子の塩基配列もしくはその相補配列中の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列を含む核酸を有効成分として含むことを特徴とする、前記〔2〕に記載の阻害剤。
〔4〕 前記オリゴ核酸製剤がRNAi製剤であって、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子のmRNAの相補鎖と少なくとも15個の連続した塩基が一致する塩基配列を含む二本鎖RNAを有効成分として含むことを特徴とする、前記〔3〕に記載の阻害剤。
〔5〕 前記オリゴ核酸剤が配列番号3に示される塩基配列の102〜121位、161〜179位、311〜330位、477〜495位、576〜594位及び627〜644位の領域、配列番号8の806〜824位の領域、並びに配列番号10の178〜196位の領域から選択されたいずれか1つ以上の領域の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列又はその相補配列を含むことを特徴とする、前記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の阻害剤。
〔6〕 前記糖鎖遺伝子発現抑制剤が、SLC35B1 mRNAの塩基配列中の配列番号12の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列からなる領域と特異的に結合することを特徴とする前記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の阻害剤。
〔7〕 SLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質の糖鎖修飾活性阻害剤を含むことを特徴とするHBV感染肝細胞におけるHBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤。
〔8〕 前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のHBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤の少なくとも1つを有効成分として含むことを特徴とするHBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組成物。
〔9〕 さらに、他の抗HBV剤と併用もしくは組み合わせて用いることを特徴とする、前記〔8〕に記載のHBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組成物。
〔10〕 HBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤をスクリーニングする方法であって、下記の(1)〜(4)の工程を含む方法;
(1)培養肝細胞内のSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子の発現量を測定する工程、
(2)培養肝細胞内に被検化合物を導入するか、又は培地中に被検化合物を投与する工程、
(3)工程(1)で選択した糖鎖遺伝子の発現量を測定する工程、
(4)工程(3)で測定された発現量が、工程(1)で測定した発現量と比較して減少した場合に、前記被検化合物をHBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤の候補として選択する工程。
ここで、被検化合物としては、被検オリゴ核酸の場合も含み、被検オリゴ核酸の場合は、ベクター又はリポソームなどを用いて培養肝細胞内に導入することが好ましい。
〔11〕 HBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤をスクリーニングする方法であって、下記の(1)〜(4)の工程を含む方法;
(1)培養肝細胞内のSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質の量又は活性を測定する工程、
(2)培養肝細胞内に被検化合物を導入するか、又は培地中に被検化合物を投与する工程、
(3)工程(1)で選択した糖鎖合成関連タンパク質の量又は活性を測定する工程、
(4)工程(3)で測定された量又は活性値が、工程(1)で測定した量又は活性値と比較して減少した場合に、被検化合物をHBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤の候補として選択する工程。
ここで、被検化合物としては、被検オリゴ核酸の場合も含み、被検オリゴ核酸の場合は、ベクター又はリポソームなどを用いて培養肝細胞内に導入することが好ましい。
また、糖鎖合成関連タンパク質の活性を測定するためには、SLC35B1の場合は、例えばUDP-Galなどの糖鎖-ヌクレオチド濃度あるいはUDP-Galから遊離されるUDP濃度を測定すれば良く、CHST9の場合は硫酸基を含有するPAPSから遊離されるPAPを基にした無機リン酸の濃度を、ST8SIA3の場合はシアル酸を含有するCMP-NeuAcから遊離されるCMPを基にした無機リン酸の濃度を測定すればよい(例えばR&D Systems社製)。
〔12〕 HBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤をスクリーニングする方法であって、下記の(1)〜(4)の工程を含む方法;
(1)SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子により形質転換した形質転換細胞を用意し、当該細胞内の前記選択された糖鎖遺伝子の発現量を測定する工程、
(2)前記形質転換細胞内に被検化合物を導入するか、又は培地中に被検化合物を投与する工程、
(3)工程(2)の形質転換細胞内における、前記選択された糖鎖遺伝子の発現量を測定する工程、
(4)工程(3)で測定された前記選択された糖鎖遺伝子の発現量が、工程(1)で測定した発現量と比較して減少した場合に、前記被検化合物をHBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤の候補として選択する工程。
ここで、被検化合物としては、被検オリゴ核酸の場合も含み、被検オリゴ核酸の場合は、ベクター又はリポソームなどを用いて形質転換細胞内に導入することが好ましい。
また、工程(1)及び(3)の糖鎖遺伝子の発現量の測定工程に代えて、形質転換細胞で発現する糖鎖合成関連タンパク質の活性を測定し、両者を比較してもよい。
〔13〕 HBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤をスクリーニングする方法であって、下記の(1)〜(4)の工程を含む方法;
(1)標識化したSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの標識化糖鎖合成関連タンパク質を細胞内膜表面で発現する形質転換細胞を用意し、当該細胞内膜表面の標識量を測定する工程、
(2)形質転換細胞内に被検化合物を導入するか、又は培地中に被検化合物を投与する工程、
(3)当該細胞内膜表面の標識量を測定する工程、
(4)工程(3)で測定された標識量が、工程(1)で測定した標識量と比較して減少した場合に、被検化合物をHBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤の候補として選択する工程。
ここで、被検化合物としては、被検オリゴ核酸の場合も含み、被検オリゴ核酸の場合は、ベクター又はリポソームなどを用いて形質転換細胞内に導入することが好ましい。
〔14〕 前記形質転換細胞が、タグ化した糖鎖合成関連タンパク質を発現する細胞であって、蛍光標識した抗タグ抗体により細胞内膜表面を蛍光標識した形質転換細胞であり、測定する当該細胞内膜表面の標識量が、蛍光量であることを特徴とする、前記〔13〕に記載の方法。
〔15〕 HBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤をスクリーニングするためのキットであって、
SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子により形質転換された形質転換細胞を含むことを特徴とする、キット。
さらに、糖鎖合成関連タンパク質の活性を測定するためのUDP-Galなどの糖鎖-ヌクレオチド、PAPS、又はCMP-NeuAcなどを組み合わせたキットとしてもよい。
〔16〕 前記糖鎖遺伝子が標識タンパク質をコードする遺伝子と融合されており、前記形質転換細胞が、その細胞内膜表面でSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質を、直接又は間接的に標識化された状態で発現している形質転換細胞である、前記〔15〕に記載のキット。
ここで、標識タンパク質をコードする遺伝子としては、例えばGFP遺伝子など蛍光タンパク質遺伝子が好ましく用いられる。
〔17〕 HBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤をスクリーニングするためのキットであって、下記の(1)及び(2)を含むキット;
(1)タグ化したSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質を発現する形質転換細胞、
(2)標識された抗タグ抗体。
〔18〕 前記タグ化した糖鎖合成関連タンパク質がFlag-タグ化した糖鎖合成関連タンパク質であり、抗タグ抗体が抗Flag抗体である、前記〔17〕に記載のキット。
〔19〕 HBV粒子化又はHBV分泌の阻害剤をスクリーニングするためのキットであって、下記の(1)及び(2)を含むキット;
(1)SLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質を固定化した基板、
(2)ランダムな塩基配列を含む核酸及び対応するペプチドからなるライブラリー。
ここで、ランダムな塩基配列の長さは通常21〜36塩基(7〜12アミノ酸)である。典型的にはファージディスプレイによるペプチドライブラリーであり、他に核酸ライブラリーを無細胞系の翻訳システムで翻訳したペプチドライブラリーであってもよい。
【0016】
また、本発明は、以下の態様も含む。
〔20〕 HBV感染肝細胞に対して、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子の発現抑制剤を投与する工程を含むことを特徴とする、HBV感染細胞でのHBVの粒子化及び分泌を阻害する方法。
例えば、糖鎖遺伝子発現阻害剤を投与する工程は、RNAi製剤、アンチセンス、核酸アプタマー及びリボザイムから選択されるオリゴ核酸製剤を細胞内に導入する工程であり、その際のオリゴ核酸製剤は、例えば、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの塩基配列又はその相補配列と少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列を含む二本鎖RNAを有効成分として含む。特に、配列番号3に示される塩基配列の102〜121位、161〜179位、311〜330位、477〜495位、576〜594位及び627〜644位の領域、配列番号8の806〜824位の領域、並びに配列番号10の178〜196位の領域から選択されたいずれか1つ以上の領域の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列又はその相補配列を含むことが好ましい。
また、投与するSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子の発現抑制剤に代えて、SLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質の糖鎖修飾活性阻害剤を用いてもよい。
すなわち、本発明は、以下の様に表現できる。
〔20’〕 HBV感染細胞でのHBVの粒子化及び分泌を阻害する方法であって、
HBV感染細胞に対してHBVの粒子化及び分泌の阻害剤を投与する工程を含み、
ここでHBVの粒子化及び分泌の阻害剤はSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子の発現抑制剤、
又はSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質の糖鎖修飾活性阻害剤、
を有効成分として含むものである、方法。
そして、本発明は、HBV感染細胞でのHBVの粒子化及び分泌を阻害することで、HBV感染症の予防、抑制又は治療を行うことができるから、以下の態様も含む。
〔21〕 HBV感染症の予防、抑制又は治療方法であって、
当該方法を必要とする患者に対して医薬組成物を投与する工程を含み、
ここで当該医薬組成物は、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される少なくとも1つの糖鎖遺伝子の発現の抑制剤、
又はSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質の糖鎖修飾活性阻害剤、
の少なくともいずれか1つを有効成分として含むものである、方法。
また本発明は、以下の態様も含む。
〔23〕 HBV感染症の予防、抑制又は治療方法における使用のための遺伝子発現抑制剤であって、当該遺伝子発現抑制剤は、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの標的糖鎖遺伝子の発現を抑制することで特徴付けられる、遺伝子発現抑制剤。
〔23’〕 HBV感染症の予防、抑制又は治療方法における使用のための核酸であって、当該核酸は、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子からなる群から選択される糖鎖遺伝子の少なくとも1つの塩基配列もしくはその相補配列中の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列を含むことで特徴付けられる、核酸。
〔23’’〕 HBV感染症の予防、抑制又は治療方法における使用のための二本鎖RNAであって、当該二本鎖RNA は、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択される糖鎖遺伝子の少なくとも1つのmRNAの相補鎖と少なくとも15個の連続した塩基が一致する塩基配列を含むことで特徴付けられる、二本鎖RNA。
〔23’’’〕 HBV感染症の予防、抑制又は治療方法における使用のための二本鎖RNAであって、当該二本鎖RNA は、配列番号3に示される塩基配列の102〜121位、161〜179位、311〜330位、477〜495位、576〜594位及び627〜644位の領域、配列番号8の806〜824位の領域、並びに配列番号10の178〜196位の領域から選択されたいずれかの領域の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列又はその相補配列を含む二本鎖RNA。
〔24〕 HBV感染症の予防、抑制又は治療方法における使用のための糖鎖修飾活性阻害剤であって、当該糖鎖修飾活性阻害剤は、SLC35B1、CHST9及びST8SIA3の少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質と特異的に結合することで特徴付けられる、糖鎖修飾活性阻害剤。
〔24’〕 HBV感染症の予防、抑制又は治療方法における使用のためのペプチド又は抗体であって、当該ペプチド又は抗体は、SLC35B1、CHST9及びST8SIA3の少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質と特異的に結合することで特徴付けられる、ペプチド又は抗体。
さらに、本発明は、以下の態様も含む。
〔25〕 SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの標的糖鎖遺伝子の発現抑制剤の、HBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組成物の製造における使用。
〔25’〕 SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの標的糖鎖遺伝子の塩基配列もしくはその相補配列中の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列を含む核酸のHBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組成物の製造における使用。
〔25’’〕 SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの標的糖鎖遺伝子のmRNAの相補鎖と少なくとも15個の連続した塩基が一致する塩基配列を含む二本鎖RNAのHBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組成物の製造における使用。
〔25’’’〕 配列番号3に示される塩基配列の102〜121位、161〜179位、311〜330位、477〜495位、576〜594位及び627〜644位の領域、配列番号8の806〜824位の領域、並びに配列番号10の178〜196位の領域から選択されたいずれか1以上の領域の少なくとも15個の連続した塩基を含む塩基配列又はその相補配列を含む二本鎖RNAのHBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組成物の製造における使用。
〔26〕 SLC35B1、CHST9及びST8SIA3からなる群から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質の糖鎖修飾活性阻害剤の、HBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組の製造における使用。
〔26’〕 SLC35B1、CHST9及びST8SIA3からなる群から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質と特異的に結合するペプチド又は抗体の、HBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組の製造における使用。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、HBVゲノム配列に依存した従来の核酸アナログ製剤やsiRNA製剤とは異なり、ヒトの肝細胞側のSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子もしくはST8SIA3遺伝子又はその発現タンパク質を標的にしているため、HBV株の変異による影響を受けず、耐性ウイルス株が出現する可能性がほとんどない。糖鎖修飾に関わる糖鎖遺伝子は、肝細胞内の小胞体またはゴルジ体に局在していることもHBV感染の阻害ターゲット分子として有利である。また、本発明で特定した肝細胞のSLC35B1、CHST9及びST8SIA3の糖鎖合成関連タンパク質及びその遺伝子は、いずれもHBVの粒子化や分泌には必要であるにもかかわらず、肝細胞本来の糖タンパク質合成にはほとんど影響を生じさせないタンパク質及び遺伝子であるため、その発現阻害によって、肝細胞機能が損なわれることはなく、副作用が極めて低いことが期待できる。
ヒト肝細胞で発現するSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子もしくはST8SIA3遺伝子の発現を阻害する化合物または糖鎖合成に関連するSLC35B1、CHST9もしくはST8SIA3の活性を抑制する化合物を医薬組成物として用いることで、肝臓内でのHBVの増殖及び分泌が抑制できる。前者の典型的な化合物としては、SLC35B1遺伝子の特定領域にハイブリダイズ可能なsiRNA製剤もしくは他のRNAi製剤またはアンチセンス製剤があり、後者の典型的な化合物としては、SLC35B1に結合するペプチドなどの低分子化合物や抗SLC35B1中和抗体がある。例えば、SLC35B1siRNA製剤の場合、既知の肝臓特異的なsiRNA輸送システム(特許文献16など)を利用したHBV感染用医薬組成物は、肝臓内でのHBVの増殖及び分泌を抑制でき、単独で又は他のHBV感染治療薬と併用して、B型肝炎の抑制及び治療用医薬組成物として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.HBV及びHBV感染症
本明細書において「HBV」という記載は、B型肝炎を発症させる能力を持つウイルスを意味する。HBVは現在A〜Hまでの遺伝子型が知られているが、本発明のHBV感染症のための医薬組成物における治療および抑制の対象となるHBVとしては、全ての遺伝子型を含む。
また、本発明において「HBV感染症」というとき、典型的にはB型肝炎であり、慢性肝炎、急性肝炎、劇症肝炎に分類される。また、B型肝炎に留まらず、HBVのヒトを含む生体への感染により引き起こされる症状であれば、肝硬変、肝線維化、肝細胞がんなどの肝がんも含まれる。HBV感染症であるか否かは、例えば、血液中のHBs抗原の検出、血液中のHBe抗原の検出、血液中のHBV-DNA量の測定および血液中のHBVのDNAポリメラーゼ量の測定、ならびにこれらの組み合わせにより判断することができる。
本明細書において「HBV感染症の治療」というとき、HBVの排除、HBVの感染による症状の軽減、肝炎の沈静化、ならびに肝炎から肝硬変、肝線維化および肝がんへの進展の阻止および軽減を意味する。なお、HBV感染症の寛解には至らないまでもHBV感染症の症状、進展が軽減される態様が含まれることを明確にするために「HBV感染症の治療又は抑制」と表現することもある。また「HBV感染症の予防」というとき、HBVの感染前または後に、B型肝炎などHBV感染症の発症を防止することを意味する。
【0020】
2.HBs抗原
HBs抗原はHBVのエンベロープ糖タンパク質で、一つのHBs遺伝子から異なるメチオニン(Met)から始まり、その大きさによりL-HBs、M-HBs、S-HBs抗原の3種類が存在する。
HBs抗原は細胞内のリボソームで翻訳後、小胞体及びゴルジ体で糖鎖修飾を受ける。HBV DNA(RNA)を内包するコア(HBc)は小胞体でHBs抗原に取り込まれ、HBs抗原同様に糖鎖修飾を受けて感染性HBV粒子となる(Schaedler S et al, Viruses. 2009 Sep;1(2):185-209.、Grimm D et al, Hepatol Int. 2011 Jun;5(2):644-53.参照)。
そして、このHBs抗原及びHBc抗原への糖鎖修飾は、感染性HBVの粒子形成・分泌にとって必須の重要な工程である(非特許文献1)。
本発明の実施例においては、糖鎖合成阻害剤スクリーニングのために培養上清中のS-HBs抗原量を指標とすることとし、精製用のFlagタグがN末に付加されたS-HBs抗原の全長DNA(配列番号1)を用いた。
【0021】
3.糖鎖合成関連タンパク質及びその遺伝子
(3−1)糖鎖合成関連タンパク質及びその遺伝子とは
従来から、細胞内のゴルジ体又は小胞体でmRNAから翻訳されたタンパク質に対し、各種糖鎖や硫酸を付加、分解、転移させる酵素、トランスポーター類及び糖-ヌクレオチドを合成する糖-ヌクレオチド合成酵素などの遺伝子はGlycogene(糖鎖遺伝子あるいは糖鎖関連遺伝子)と総称されていた(Taniguchi N,et al., Handbook of Glycosyltransferases and Related Genes 2014 Springer-Verlag参照)。本発明においては、当該遺伝子を、「糖鎖遺伝子」または「糖鎖合成関連タンパク質遺伝子」と称し、当該遺伝子がコードするタンパク質を「糖鎖合成関連タンパク質」と称する。上記Taniguchiらの文献によれば、通常のヒト細胞内で恒常的に働く糖鎖遺伝子は200種類以上存在するとされ、そのうちの既知遺伝子名は各種データベースで公開されている(糖鎖関連遺伝子データベース(GGDB, 日本) http://jcggdb.jp/rcmg/ggdb/又はCarbohydrate-active enzymes (CAZy) database (http://www.cazy.org)、 Hansen L et al, Glycobiology, 2015 25(2):211-24.補足表1を参照)。
【0022】
本発明では、これら糖鎖転移関連酵素群に属する酵素、トランスポーターなどの生理活性タンパク質群であって、登録された塩基配列もしくはアミノ酸配列の登録番号が記載された185種類の糖鎖遺伝子群を母集団として用いた。具体的には本発明で母集団とした糖鎖合成関連タンパク質群に属する185種類の酵素、トランスポーター類遺伝子は、下記(表1〜8)(Ito H et al, J Proteome Res. 2009 Mar;8(3):1358-67補足表1より引用)に記載された糖鎖遺伝子である(なお、重複遺伝子は除く)。
【0031】
(3−2)ヒト感染肝細胞中でのHBVの粒子形成又は分泌に必須な糖鎖合成関連タンパク質及びその遺伝子の同定方法
本発明では、感染肝細胞内におけるHBVの粒子形成又は分泌に必須な糖鎖遺伝子を以下の手順で同定した。
1)ヒト肝細胞(正常肝細胞及び肝がん由来細胞株)のtotal RNAからcDNAライブラリーを作製し、網羅的に配列決定し、ヒトcDNAにマップする。
2)糖鎖関連遺伝子データベース(GGDB, 日本)中の「糖鎖遺伝子」にマップされたものを抽出し、上記(表1〜8)の185種類の糖鎖遺伝子について、その発現量を比較解析して発現プロファイルを得る。
3)当該185種類の糖鎖遺伝子の発現プロファイルに基づき、肝細胞内で高発現しているか又は中程度の発現をしている糖鎖遺伝子を抽出し、各遺伝子配列の異なる領域に対応する3種類のsiRNAから構成された3種混合siRNAを調製する。
4)各3種混合siRNAを培養肝細胞株に導入後に、HBVのS-HBs抗原cDNAをトランスフェクトし、培養上清液中に分泌されるS-HBs抗原の発現量と糖鎖の付加量を測定し、コントロールsiRNA導入の場合と比較して、S-HBs抗原の発現低下、又はS-HBs抗原の糖鎖の付加の減少が示されたものを選択する。
5)同時に、各3種混合siRNAをHBV産生肝がん細胞に導入して培養上清中のHBV DNA量及びHBs抗原量を測定し、コントロールsiRNAと比較して、HBV DNA量及びHBs抗原量のいずれも減少したものを選択する。
ここで、培養上清中のHBV DNA量、HBs抗原の発現量、糖鎖の付加量などの測定は既知の免疫学的もしくは生化学的分析方法が適用できる。本発明の実施例ではHBV DNA量はRT-PCRで、HBs抗原の発現量はELISAで、糖鎖の付加量はレクチンアレイで検出したが、これらに限られるものではない。
6)工程4)及び5)工程のいずれにおいても選択されたsiRNAに対応する糖鎖遺伝子が、HBVの粒子形成及び/又は分泌に必須な遺伝子であると同定できる。当該遺伝子及び当該遺伝子をコードする糖鎖合成関連タンパク質が本発明の阻害ターゲット分子となる。
本発明では、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子、並びにSLC35B1、CHST9及びST8SIA3タンパク質を阻害ターゲット分子として提供できた。
【0032】
(3−3)SLC35B1及びその遺伝子について
本発明の標的タンパク質の1つがSLC35B1である。
SLC35B1とは、solute carrier (SLC) family 35に属するタンパク質で、核酸-糖トランスポーターに相同性がある遺伝子(UDP-Gal transporter related protein, UGTrel1, 322aa)としてクローニングされた(非特許文献6)。ヒトの遺伝子は17番染色体上に位置し、少なくとも9個のexonが存在する。mRNAはユビキタスに発現しており、タンパク質は255aa(NP_001265713)と359aa(NP_005818)の2種が登録されている。本発明では、これら完全長の配列ではなく、その部分配列で、(非特許文献6、7)において活性測定がなされている322aa(P78383:配列番号3、4)を用いている。これまでに酵母や線虫でSLC35B1ホモログが報告されているが核酸-糖トランスポーターとしての活性が確認されておらず、HBV分泌における役割や細胞内での機能についての報告もない。
本発明により、はじめてSLC35B1タンパク質が肝細胞内で恒常的に働いていることと共に、HBVに感染したときに、HBVを粒子化し細胞外に分泌するために必須な糖鎖修飾を行っている糖鎖合成関連タンパク質であることが解明された。あわせて、肝細胞内でSLC35B1及びその遺伝子の発現を阻害しても肝細胞自身の糖鎖合成機能にはほとんど影響を生じさせず、細胞毒性が無いことが確認された。
【0033】
(3−4)他の糖鎖遺伝子
本発明において、HBVを粒子化し細胞外に分泌するために必須な糖鎖修飾を行っている糖鎖遺伝子として、他にCHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子が同定された。
CHST9タンパク質は、Carbohydrate sulfotransferase familyに属する硫酸転移酵素であり、ST8SIA3タンパク質はα2,8-sialyltransferase(シアル酸転移酵素)の一つである(Taniguchi N et al., Handbook of Glycosyltransferases and Related Genes 2014参照)。
なお、本明細書では、以下、主として典型的な糖鎖遺伝子としてSLC35B1遺伝子を標的とした発現阻害について述べているが、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子についても同様である。
【0034】
4.標的糖鎖遺伝子の発現量又は糖鎖合成関連タンパク質活性を制御する方法
(4−1)標的遺伝子の塩基配列におけるRNAiによる標的領域の決定法
前記(3−2)でHBVの粒子形成及び/又は分泌に必須な糖鎖遺伝子として同定された遺伝子配列中での有効性の高い阻害標的領域は、以下の様に決定できる。
siRNAのターゲット配列の決定は市販のソフトあるいはウェヴサイト(ゼネティックス社製GENETYXやsiDirect http://sidirect2.rnai.jpなど)を用いて検索・設計することが可能である。今回は、各糖鎖遺伝子の塩基配列上の別々の3箇所に対応しているsiRNAを組み合わせた3種混合siRNAを阻害ターゲット遺伝子の決定のために用いた。
これら3種のsiRNAのそれぞれをHBV感染細胞内に導入し、培養上清中のHBV DNA量及びHBs抗原量を比較して、両者の低下率が最も高かったsiRNAの塩基配列に対応した糖鎖遺伝子配列上の領域を特定する。当該領域が糖鎖遺伝子の発現を阻害するための標的領域となる。さらに、その近傍領域の塩基配列を有するsiRNAを作製してそれぞれのHBV分泌機能の阻害能を比較検討することで、より有効性の高い標的領域の塩基配列を決定することができる。
【0035】
(4−2)標的糖鎖遺伝子の発現阻害方法
標的糖鎖遺伝子であるSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子又はST8SIA3遺伝子の塩基配列中の標的となる領域が決定できれば、当該領域に対応した配列を含むsiRNAもしくはshRNAなどのRNAiを誘導するRNAi製剤、当該領域にハイブリダイズするアンチセンスRNAもしくはDNA、又はリボザイムを調製したアンチセンス製剤又はリボザイム製剤などといったオリゴ核酸製剤を用いることで、HBV感染肝細胞におけるHBVの粒子化及び分泌を阻害できる。これらのオリゴ核酸製剤は、後述する肝臓特異的な輸送システム(特許文献16など)を利用し、効率的に肝臓中のHBV感染細胞に対して直接働きかけることができるから、HBV感染症の治療及び予防用医薬組成物として有効である。
【0036】
すなわち、本発明のHBV感染症の治療及び予防用医薬組成物として有用なオリゴ核酸として典型的なRNAi製剤は、SLC35B1遺伝子(配列番号3)、CHST9遺伝子(配列番号8)又はST8SIA3遺伝子(配列番号10)の塩基配列中の特定の領域に対応する相補鎖と少なくとも15個、好ましくは17個、より好ましくは18個以上の連続した塩基配列が一致する二本鎖RNAを含むsiRNAもしくはshRNAなどのRNAi製剤である。つまり、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子又はST8SIA3遺伝子の特定の領域に対応する少なくとも15個、好ましくは17個、より好ましくは18個の連続した塩基配列を含む二本鎖RNAである、ということができる。これらの二本鎖RNAは、RNAi製剤として用いることで、HBV感染細胞内でSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子又はST8SIA3遺伝子の発現阻害剤として働くから、優れたHBV感染症の治療、抑制又は予防用医薬組成物の有効成分となる。
例えば、SLC35B1遺伝子の塩基配列(配列番号3)の102〜121位(a)、161〜179位(b)、311〜330位(c)、477~495位(e)、576〜594位(g)及び627〜644位(i)に対応する領域の少なくとも15個、好ましくは17個、より好ましくは18個以上の連続した塩基配列を標的とする二本鎖RNA、特に、SLC35B1遺伝子の塩基配列(配列番号3)の311〜330位に対応する領域の少なくとも15個、好ましくは17個、より好ましくは18個の連続した塩基を含む塩基配列を標的とする二本鎖RNA(例えばsiRNA-SLC35B1#1)は、RNAi製剤として用いることで、HBV感染細胞内でSLC35B1遺伝子発現阻害剤として働き、優れたHBV感染症の治療、抑制又は予防用医薬組成物の有効成分となる。
【0037】
一方、CHST9遺伝子については、本実施例で用いられたCHST9#1(1188〜1206位)、CHST9#2(806〜824位)及びCHST9#3(588〜606位)のうちでHBV DNA量を有意に減少させたCHST9遺伝子(配列番号8)のCHST9#2の位置に対応する806〜824位の領域、そしてST8SIA3遺伝子については、本実施例で用いられたST8SIA3#1(178〜196位)、ST8SIA3#2(354〜372位)及びST8SIA3#3(208〜226位)のうちでHBs抗原量及びHBV DNA量の両者を有意に減少させたST8SIA3遺伝子(配列番号10)のST8SIA3#1の位置に対応する178〜196位の領域の少なくとも15個、好ましくは17個、より好ましくは18個の連続した塩基を含む塩基配列を標的とする二本鎖RNAもSLC35B1遺伝子の場合と同様である。
また、RNAi製剤に限らず、上記特定の塩基配列を含むアンチセンス製剤、核酸アプタマー又はリボザイムなどのオリゴ核酸製剤も同様に上記各糖鎖遺伝子の発現阻害剤として働くから、HBV感染症の治療及び予防用医薬組成物の有効成分となる。
さらに、上記各糖鎖遺伝子の上記特定領域を標的として特異的に結合するペプチド又は低分子化合物も、二本鎖RNAと同様にHBV感染症の治療及び予防用医薬組成物の有効成分となる。
【0038】
また、遺伝子発現を阻害するための方法としては、ゲノム編集技術(Shibata T, Aburatani H.Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2014 Jun;11(6):340-9.)などにより遺伝子を破壊することで遺伝子機能を抑制することも可能である。
さらに、標的糖鎖遺伝子のプロモータ領域の配列を用い、ChIP法などにより、当該配列への結合ペプチドを探索することができ、当該結合ペプチドや転写因子の阻害剤により、当該遺伝子の転写、発現を阻害することができる。
すなわち、このようにして特定されたSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子又はST8SIA3遺伝子のプロモータ配列などの遺伝子発現制御領域に特異的に結合するペプチド又は低分子化合物もHBV感染細胞内で標的糖鎖遺伝子の発現を阻害するので、HBV感染症の治療及び予防用医薬組成物の有効成分となる。
【0039】
(4−3)標的糖鎖合成関連タンパク質活性の阻害方法
HBV感染肝細胞における標的となる糖鎖合成関連タンパク質であるSLC35B1、CHST9又はST8SIA3タンパク質の糖鎖転移活性などの機能を阻害することによっても、HBVの粒子化及び分泌を阻害できる。
具体的には、SLC35B1、CHST9又はST8SIA3タンパク質に特異的に結合する抗体、ペプチド、又はその他の低分子化合物を用いてこれらタンパク質の酵素活性領域に結合するか、もしくは当該領域の近縁領域に結合して酵素活性領域の構造を変更することでその糖鎖合成活性又は糖鎖転移活性などの機能を阻害する。
すなわち、SLC35B1、CHST9又はST8SIA3タンパク質に特異的に結合する中和抗体、ペプチド、又はその他の低分子化合物は、HBV感染細胞内でSLC35B1、CHST9又はST8SIA3タンパク質の活性阻害剤として働くから、HBV感染症の治療及び予防用医薬組成物の有効成分となる。
【0040】
SLC35B1、CHST9又はST8SIA3タンパク質に特異的に結合するペプチドを取得するためには、当該ペプチド配列を、進化分子工学的なディスプレイ技術などにより決定すればよい。典型的にはランダムファージディスプレイ(Smith,G.P.,et al, Chem. Rev. 1997 Apr 1;97(2):391-410.)などの手法を適用できるが、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ、cDNAディスプレイなどの無細胞翻訳系のディスプレイ技術(Lohse PA et al.,Curr Opin Drug Discov Devel.,2001 Mar;4(2):198-204、Bradbury AR et al.,Nat Biotechnol.2011 Mar;29(3):245-54など)を適用することもできる。
また、SLC35B1、CHST9又はST8SIA3タンパク質特異的な抗体である抗SLC35B1抗体、抗CHST9抗体又は抗ST8SIA3抗体は、市販の製品例えばAbcam社より入手可能であり、既知の免疫工学的手法によっても取得することができる。
ここで、抗体としては、モノクローナル抗体でなくてもポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体全長でなくても、その抗原認識部位が保存されたFabフラグメントなどの抗体フラグメントの他、ヒト化抗体、単鎖抗体などを使用することもできる。このような抗体の製造方法も、当業者にとっては既知である。
さらに、SLC35B1のER膜貫通ドメイン以外の領域を用いてSLC35B1に結合するインヒビターを探索するスクリーニング系(アルファスクリーン法:Demeulemeester J et al., J Biomol Screen. 2012 Jun;17(5):618-28.)や活性を指標にしたスクリーニング系(HTS法:Trubetskoy O et al., J Pharm Pharmacol. 2008 Aug;60(8):1061-7.)を開発することで、糖鎖合成関連タンパク質に結合し、その活性を阻害できる低分子化合物をスクリーニングすることができる。
【0041】
5.本発明のHBV感染症の予防、抑制又は治療用組成物について
(5−1)肝細胞またはその小胞体への薬剤の送達方法
本発明のSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択された糖鎖合成関連タンパク質の活性阻害剤又はオリゴ核酸など糖鎖遺伝子発現阻害剤(以下、あわせて、糖鎖修飾阻害剤ともいう。)をin vivoで作用させるには、糖鎖修飾阻害剤をHBVの粒子化及び分泌に必須の糖鎖合成関連タンパク質が局在している小胞体(ER)又はゴルジ体に直接送達し阻害することが効率的である。そのためにホスファチジルイノシトール(PI)脂質を含むpH感受性リポソーム内部に封入して投与する抗ウイルス剤用の細胞内デリバリーシステム(WO2008/088581)を適用できる。
【0042】
また、siRNA、shRNAなどのオリゴ核酸を用いた糖鎖遺伝子発現阻害剤の場合、肝臓特異的な輸送システム(特許文献16など)や、オリゴ核酸をグリセロール誘導体とリン脂質とから構成されるカチオニックリポソームと複合体化し平均粒子径を100nm以上にすることで肝臓部位に集積させる技術(WO99/48531など)を利用することもできる。さらに、肝臓へ化合物を特異的に送達するための技術として、疎水性修飾されたHBVのpreS由来ペプチドと複合体化する方法(WO2009/092612)も適用できる。他に、従来から広く用いられていた非病原性ウイルス、AAVなどの改変ウイルスベクターの使用、及びナノ粒子やリポソームによる送達を含む遺伝子治療アプローチも、使用され得る。(Akhtar,Journal of Clinical Investigation(2007)117:3623-3632、Nguyen et al.,Current Opinion in Molecular Therapeutics(2008)10:158-167、Zamboni,Clin Cancer Res(2005)11:8230-8234、またはIkeda et al.,Pharmaceutical Researeh(2006)23:1631-1640などを参照。)
【0043】
特にsiRNAなどオリゴ核酸製剤のデリバリーシステムについては以前から研究開発が盛んになされており、送達させようとする標的臓器ごとのレビュー(Kanasty R et al. Nat Mater. 2013 Nov;12(11):967-77.、 Haynes M, et al. Drug Deliv Transl Res. 2014 Feb; 4(1): 61-73.)もまとめられ、実際に肝臓にsiRNA製剤を投与した臨床試験例も報告されている(Coelho T et al. N Engl J Med. 2013 Aug 29;369(9):819-29.)ので、これらの手法を適宜適用することもできる。なお、当該実際の臨床試験例によると静脈注射でのオリゴ核酸の投与量は0.01〜1.0mg/kgとなる。
【0044】
(5−2)医薬組成物
本発明の医薬組成物の主たる実施態様の1つはsiRNA、shRNAなどのオリゴ核酸を有効成分とし、任意で薬学的に許容可能な担体及び/又は賦形剤とを含むHBV感染症の治療及び予防用医薬組成物である。その際、有効成分のオリゴ核酸は、既知の肝臓特異的に送達可能なベクターに組み込まれていてもよい。また、小胞体特異的に送達可能なpH感受性リポソーム(WO2008/088581)などのリポソーム送達法も好ましく用いられる。
なお、以下、主としてsiRNA(dsRNA)などのオリゴ核酸の製剤化、及び具体的な投与方法、投与量などについて説明するが、オリゴ核酸の態様に限られず、標的糖鎖合成関連タンパク質活性阻害剤として働くペプチドなどの低分子化合物、抗体などの場合にも適用できる。
【0045】
投与経路は、経口又は非経口のいずれであっても良く、非経口投与の場合、好ましくは皮下もしくは静脈内注射であり、鼻腔スプレーなどの鼻腔投与、経皮投与、吸入、坐薬などによる投与であっても良い。siRNAは、静脈注射、皮下注射、経口送達、リポソーム送達または鼻腔内送達により患者へ投与され、その後患者の全身、肝臓、又は肝細胞中の小胞体に蓄積しうる。
【0046】
「薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤」は当業者にとって既知であり、非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、リポソームのような任意の型の封入材料または製剤補助剤を含む。
【0047】
非経口注射のための薬学的組成物は、薬学的に許容される滅菌した水性もしくは非水性の溶液、分散液、懸濁液または乳濁液、加えて、使用直前に滅菌した注射可能な溶液または分散液への再構成のための滅菌した粉末を含みうる。適する水性および非水性の担体、希釈剤、溶媒または媒体の例は、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのような)、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの適する混合物、植物油(オリーブ油のような)、ならびにオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルを含む。レシチンなどのコーティング材料、界面活性剤などを配合することで適当な流動性を維持できる。他に、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤のような補助剤、抗細菌剤および抗真菌剤、糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含んでもよい。
また、薬学的組成物をポリラクチド-ポリグリコリドのような生分解性ポリマーによりマイクロカプセルマトリックスを形成するか、身体組織と適合性があるリポソームまたはマイクロエマルジョン内に閉じ込めることによりデポー注射可能製剤を調製することができる。注射可能製剤は、例えば、細菌保留フィルターを通しての濾過により、または使用直前に滅菌水もしくは他の滅菌注射可能媒質に溶解または分散されうる滅菌固体組成物の形をとる滅菌剤を組み込むことにより、滅菌されうる。
【0048】
経口投与のための固体剤形は、限定されるものではないが、カプセル、錠剤、ピル、粉末および顆粒を含む。そのような固体剤形において、活性化合物は、クエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウムのような少なくとも1つの部材薬学的に許容される賦形剤もしくは担体ならびに/または(a)澱粉、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトールおよび珪酸のような充填剤もしくは増量剤、(b)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギナート、ポリビニルピロリドン、ショ糖およびアラビアゴムのような結合剤、(c)グリセロールなどの湿潤剤、(d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモもしくはタピオカ澱粉、アルギン酸、特定の珪酸塩および炭酸ナトリウムのような崩壊剤、(e)パラフィンのような溶液遅延剤、(f)第四アンモニウム化合物のような吸収促進剤、(g)例えば、アセチルアルコールおよびグリセロールモノステアレートのような湿潤剤、(h)カオリンおよびベントナイト粘土のような吸収剤、ならびに(i)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムおよびそれらの混合物のような潤滑剤と混合される。カプセル、錠剤およびピルの場合、剤形はまた、緩衝剤を含みうる。
【0049】
錠剤、糖衣錠、カプセル、ピルおよび顆粒の固体剤形は、腸溶性コーティング剤および薬学的製剤分野において周知の他のコーティング剤のようなコーティング剤で調製される。乳糖および高分子量ポリエチレングリコールなどを用いて軟および硬充填ゼラチンカプセルとしてもよい。
【0050】
経口投与のための液体剤形は、限定されるものではないが、薬学的に許容される乳濁液、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシルを含む。活性化合物に加えて、液体剤形は、剤を可溶化する、例えば水または他の溶媒のような当技術分野において一般に用いられる不活性希釈剤、ならびにエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実、落花生、トウモロコシ、胚芽、オリーブ、ヒマシおよびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物のような乳化剤を含みうる。
【0051】
不活性希釈剤の他に、経口組成物はまた、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味剤、フレーバー剤ならびに芳香剤のような補助剤を含むことができ、懸濁液は、活性化合物に加えて、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびスルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天およびトラガカント、ならびにそれらの混合物のような懸濁剤を含んでもよい。
経口投与のための組成物は、活性成分が溶解しない程度の液体もしくは固体の非イオン性界面活性剤、または固体陰イオン界面活性剤を含む、窒素または液化ガス噴射剤のような圧縮ガスを含んでもよい。
【0052】
siRNAなどのオリゴ核酸の場合は、ホスファチジルイノシトール(PI)脂質を含むpH感受性リポソーム(WO2008/088581)や、肝臓特異的に送達可能なカチオニックリポソーム(WO99/48531など)などのリポソーム送達法を適用して速やかに肝臓内のHBV感染細胞に到達されることが好ましい。
また、他の送達ビヒクルを用いる場合も、リポソームの形をとって投与されることが好ましい。当技術分野において知られているように、リポソームは、一般的に、リン脂質または他の脂質物質から引き出される。リポソームは、水性媒体に分散している単または多層状水和液体結晶により形成される。リポソームを形成することができる、任意の非毒性の、生理学的に許容されかつ代謝可能な脂質が用いられうる。リポソーム型における本組成物は、本発明の化合物に加えて、安定剤、保存剤、賦形剤などを含みうる。好ましい脂質は、天然および合成の両方の、リン脂質ならびにホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成する方法は、当技術分野において知られている(例えば、Prescott編、Meth. Cell Biol. 14:33-34(1976)参照)。
【0053】
本発明のHBV感染症の予防、抑制又は治療用医薬組成物の「治療的に有効な」量は、B型肝炎など各種HBV感染症による肝疾患又は肝障害を予防及び/又は治療するのに十分な量であり、治療される肝疾患、もしくは肝障害の有害な状態または症状の予防または改善により決定されうる。剤は、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせた薬学的組成物として、HBV感染の治療を必要としている患者に投与されうる。治療的有効用量レベルは、HBVの亜型や感染の程度、症状の程度、剤形の違いなどの他、患者の年齢、体重、性別などによっても異なるが、一般的には体重1kg当たり0.001〜10mg/kgであり、オリゴ核酸の場合、好ましくは0.01〜1.0mgの範囲内である。抗体等他の化合物の場合、好ましくは2.5〜10 mg/kgである。上記範囲未満の用量で足りる場合もあるが、逆に上記範囲を超える用量を必要とする場合もある。多量に投与するときは、一日数回に分割して投与することが望ましい。
【0054】
本発明の標的糖鎖合成関連タンパク質の活性阻害剤及び標的糖鎖遺伝子の発現阻害剤は、他の抗HBV剤と併用しても、または組み合わせて使用してもよい。
すなわち、本発明は、SLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択された標的糖鎖合成関連タンパク質の活性阻害剤又はSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択された標的糖鎖遺伝子の発現阻害剤と他の1種以上の抗HBV剤を組み合わせてなる、HBV感染症を治療または予防するための医薬組成物も提供する。他の抗HBV剤を組み合わせる場合、同時に、別々に、又は順次に投与することができるので、同一医薬組成物中に含有する配合剤であってもよいし、他の抗HBV剤とを別々の医薬組成物に含有するものであっても、キット化したものであってもよい。その際の2個以上の別個の製剤の剤形は同じであってもよいし、別々であってもよい。例えば、いずれか一つ又は複数が、非経口製剤、注射剤、点滴剤、静脈内点滴剤であってもよい。
ここで、「他の抗HBV剤」としては、既知のHBV感染症治療薬であるインターフェロン(IFN)や、核酸アナログ(分子内に核酸の部分構造を有し、HBVのDNA合成を阻害する作用を有する化合物の総称)が例示できる。インターフェロン(IFN)としては、IFN-α又はIFN-β製剤など、核酸アナログとしては、ラミブジン[LMV]、アデフォビル[ADV]、エンテカビル[ETV]などを挙げることができる。インターフェロン製剤は、PEG化された製剤が好ましい。
【0055】
6.HBV分泌阻害剤のスクリーニング法及びそのためのキット
本発明は、HBV感染症の治療薬となるHBVの粒子化及び/又はHBVの分泌阻害剤を検索するためのスクリーニング方法も提供する。ここで、HBVの粒子化の阻害は、結果的にHBV感染肝細胞からのHBVの分泌阻害も引き起こすことから、本発明の検索対象を単に「HBV分泌阻害剤」ということもある。
本発明のHBV分泌阻害剤をスクリーニングする方法の1つは、細胞内で発現するSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子又はST8SIA3遺伝子の転写・発現を阻害する物質を検索する方法であり、そのためには、培養肝細胞内又はその培地中に被検物質を投与し、肝細胞内でのSLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子又はST8SIA3遺伝子の発現量の減少の有無を観察すればよい。その際RT-PCR法などでmRNA量変化を観察することもできるが、一般には発現産物であるSLC35B1、CHST9又はST8SIA3の量をELISA、イムノブロットなど免疫学的手法で測定し、当該発現量を減少させる被検物質を選択する。
【0056】
糖鎖遺伝子発現量の変化を正確かつ簡単に測定するためには、培養肝細胞に代えて、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子から選択された少なくとも1つの遺伝子を導入して過剰発現させた形質転換細胞を用いることが好ましい。
特に、発現させるSLC35B1などをタグ化して、タグ付き標的糖鎖合成関連タンパク質(例えばFlag-SLC35B1)とすることで、さらに効率的な測定が可能である。例えば、構築したsiRNAの阻害効果を測定することができ、より効果的な標的領域を確定できる。
また、標的糖鎖合成関連タンパク質(例えばSLC35B1)に結合するペプチドなどの低分子化合物を含め種々の標的糖鎖合成関連タンパク質(例えばSLC35B1)の糖鎖修飾活性阻害剤のスクリーニングに使用することができる。タグとしては、上述のFlagの他にHisタグ、Mycタグ、GFPタグ、GSTタグ、Maltoseタグ、Sタグなどの一般的に使用されているタグ配列が利用できる。これら各タグ配列を認識する抗体(以下、抗タグ抗体ともいう。)も既知であり、市販キットとして販売されているので、発現した標的糖鎖合成関連タンパク質量を抗タグ抗体量として測定可能である。
その際、放射性、酵素又は蛍光標識化と、その後の適切な方法による検出とを伴い得る。多くの蛍光材料が既知であり、ラベルとして利用することができる。これらの蛍光材料としては例えば、フルオレセイン、ローダミン、オーラミン、テキサスレッドが挙げられる。酵素ラベルは酵素と対象の分子、例えばポリペプチドとの共役を含み、比色法、分光光度法又は蛍光分光光度法のいずれかにより検出することができる。
【0057】
また、酵素や蛍光タンパク質を検出用の標識とする場合、標識タンパク質をコードする遺伝子と標的糖鎖遺伝子との融合体による形質転換細胞を用いることでも標的糖鎖合成関連タンパク質の発現量の変化が効率的に測定できる。
【0058】
すなわち、本発明におけるHBV分泌阻害剤をスクリーニングする方法は、例えば以下の様に記載できる。
直接的又は間接的に標識化したSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの標識化糖鎖合成関連タンパク質を小胞体又はゴルジ体膜表面で発現する形質転換細胞を用い、
当該細胞内膜表面の標識量を測定する工程、及び
当該細胞内又は培地中に被検化合物を投与する工程を含み、
当該標識量を減少させる化合物を選択することを特徴とする、
HBV分泌阻害剤をスクリーニングする方法。
例えば、前記形質転換細胞が、Flag-タグなどによりタグ化した糖鎖合成関連タンパク質を発現する細胞であり、蛍光標識した抗Flag抗体などの抗タグ抗体により細胞内膜表面を蛍光標識した形質転換細胞であり、測定する当該細胞内膜表面の標識量が、蛍光量であると、蛍光量の減少として可視化できるので好ましい。
その際の被検物質は、オリゴ核酸などの核酸やペプチドなど低分子化合物の場合があるので、その投与方法は、形質転換細胞内に導入してもよく、培地中に投与しても良い。
また、その際のHBV分泌阻害剤をスクリーニングするためのキットは、下記の(1)及び(2)を含むキットとして表現できる。
(1)タグ化したSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質を発現する形質転換細胞、
(2)蛍光標識した抗タグ抗体。
【0059】
本発明のHBV分泌阻害剤をスクリーニングする2つ目の方法は、SLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質の活性の阻害に着目したスクリーニング方法である。
具体的には、培養肝細胞内のSLC35B1、CHST9及びST8SIA3から選択される少なくとも1つの糖鎖合成関連タンパク質の活性を測定する工程を含み、被検オリゴ核酸や被検化合物を細胞内に導入又は培地中に投与することで、当該活性量を減少させる被検物質を選択してもよい。
その際指標とすることができるSLC35B1、CHST9及びST8SIA3それぞれの活性は、UDP-Galなどの糖鎖-ヌクレオチドををトランスポートする活性、GalNAcの4位に硫酸基を転移する活性、シアル酸の8位にシアル酸を転移する活性である。
例えば、SLC35B1活性の変化を測定する場合には、遊離あるいは小胞体内のUDP-Gal 濃度の測定やUDPあるいはラベル化したUDPを有する糖鎖-ヌクレオチドであるUDP-Galを含む反応液を用い、遊離されるUDP濃度をUDP検出試薬で測定、あるいは非特許文献6および7に記載の方法で測定すればよい。
また、活性を指標とした既知のスクリーニング系であるHTS法(Trubetskoy O et al., J Pharm Pharmacol. 2008 Aug;60(8):1061-7.)を適用することもできる。
【0060】
SLC35B1など標的の糖鎖合成関連タンパク質に結合するペプチド配列を、進化分子工学的なディスプレイ技術などにより決定する。典型的にはランダムファージディスプレイ(Smith,G.P.,et al, Chem. Rev. 1997 Apr 1;97(2):391-410.)などの手法を適用できるが、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ、cDNAディスプレイなどの無細胞翻訳系のディスプレイ技術(Lohse PA et al.,Curr Opin Drug Discov Devel.,2001 Mar;4(2):198-204、Bradbury AR et al.,Nat Biotechnol.2011 Mar;29(3):245-54など)を適用することもできる。その際、例えばSLC35B1の場合、
図17の太字部分で示されるER膜貫通領域により立体構造が固定されているため、その膜外ドメインなどER表面で形成されるループが特にエピトープ候補となる。
そのためのキットとしては、(1)SLC35B1、CHST9又はST8SIA3の糖鎖合成関連タンパク質をいずれかを固定化したビーズ、プレートなどの基板、及びランダムファージディスプレイなどに適用するための(2)ランダムな塩基配列を含む核酸あるいは対応するタンパク質を含むペプチドライブラリーを用いることができる。その場合の鋳型となる親塩基配列としては、M13やT7ファージの合成ライブラリーなどを用いることが好ましく、またランダムな塩基配列の長さは通常21〜32塩基(7〜12アミノ酸)である。
【0061】
その他、既知の免疫工学的手法により抗SLC35B1中和抗体を取得することができる。また、アルファスクリーン法(Demeulemeester J et al., J Biomol Screen. 2012 Jun;17(5):618-28.)に従って、SLC35B1のER膜貫通ドメイン以外の領域(
図27)を用いて結合するインヒビターを探索するスクリーニング系によって、糖鎖合成関連タンパク質に結合し、その活性を阻害できる低分子化合物をスクリーニングすることができる。同様に抗体などのプローブとの結合を阻害するものや基質との結合を阻害するインヒビターも取得可能である。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
【0063】
(実施例1)HBs抗原分泌肝細胞系の確立
(1−1)HBs抗原(HBV上の膜タンパク質)を分泌させるプラスミドの作成
3種類のHBVエンベロープ由来のHBV抗原であるL-HBs抗原(389aa)、M-HBs抗原(281 aa)、S-HBs抗原(226 aa)のDNA(Accession#はAB246345)をPCRでDNA増幅し、pcDNA3.1(Life Technologies社製)に組み込んだ。次いで、そのうちのS-HBs抗原全長をコードするDNAを、以下の実験に用いることとし、検出を容易にするために、シグナルペプチドと精製用のFlagタグがN末に付加された分泌発現用ベクターpFLAG-CMV3(SIGMA社製)に組換えた。タグ付きS-HBs抗原のDNAおよびアミノ酸配列を、配列番号1及び2として示す。
【0064】
(1−2)HBs抗原の肝がん細胞での発現
前記(1−1)で作製した分泌発現ベクターを用い、肝がん細胞由来HuH7細胞(理化学研究所バイオリソースセンターより入手)でS-HBs抗原を発現、精製を行った。
具体的には、前記S-HBs抗原DNAを含む発現ベクター(2 μg)をHuH7細胞(約2×10
6細胞)にリポフェクタミンLTX(Life Technologies社製)を用いてトランスフェクションして、48時間後に培養上清を回収し、抗FLAG抗体ビーズ(SIGMA社製)を用いてリコンビナントHBs抗原を吸着した。抗FLAG抗体からの溶出は2段階で行い、最初にFLAGペプチドで競合溶出、その後SDS-PAGEサンプルバッファを加え、100℃加熱により溶出回収した。回収したリコンビナントHBs抗原をSDS-PAGEで展開し、抗FLAG抗体でウエスタンブロットした。
その結果、S-HBs抗原のN末端側に分泌型のシグナル配列を付加することによって、分泌シグナルのないS-HBs抗原のみを発現させた場合に比較しておよそ10倍量の精製S-HBs抗原を回収できることが明らかになった。
また、S-HBs抗原ではN型糖鎖付きのgp28とN型糖鎖のないp25の2本のバンドが検出され、培養上清中への分泌量及び分泌されたS-HBs抗原の糖鎖の含有量を測定できる系を確立した(
図1)。
【0065】
(実施例2)糖鎖合成系の阻害によるHBs抗原の分泌への影響
24-wellプレートに播種したHuH7細胞に、前記(1−1)で作製したS-HBs抗原DNAを含む発現ベクターを導入し、24時間後に糖鎖合成阻害剤を含むRPMI1640培地と交換し、48時間後に培養上清から抗FLAG抗体ビーズで回収した。S-HBs抗原の発現は抗FLAG抗体を用いて検出した。9種の糖鎖合成阻害剤(Tunicamycin(TM: 和光純薬), Benzyl-O-GalNAC (BZ-G: Merck社), Brefeldin A (Bre-A:和光純薬), Castanospermine (CS: Merck社), Folimycin (FM: Merck社), Deoxyfuconojirimycin (DFJ: SIGMA社), Deoxynojirimycin (DNJ: Merck社), Kifunensine (Kif: Merck社), Mannostatin A (Man: Merck社))について検討した。その結果、糖鎖合成阻害剤のうちのTM,Bz-G,Bre-A,FMを用いた場合にはS-HBs抗原の分泌が有意に減少する事が確認された(
図2)。
【0066】
(実施例3)肝細胞および肝がん細胞に発現する糖鎖遺伝子の抽出
ヒトの肝臓由来の正常細胞(初代培養、CloneticsTM Human Hepatocyte, h NHEPSTM Cells: LONZA Inc.社製)及び肝がん細胞由来のHuH7細胞及びHepG2細胞(理化学研究所バイオリソースセンターより入手)からtotal RNAを調製し、各細胞での糖鎖遺伝子の発現量を、qRT-PCR解析(糖鎖遺伝子qPCRアレイシステム)及びトランスクリプトーム解析(次世代シーケンサー)により測定した。
すなわち、正常肝細胞および肝がん細胞(HuH7細胞、HepG2細胞)をそれぞれ10 cm
2ディッシュで培養し、RNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN社製)で20μg以上のtotal RNAを精製し、mRNA DIRECT Micro Kit(Dynabeads社製)を用い0.2μgのmRNAを調製した。Ion Total RNA Seq Kit v2(Life Technologies社製)を用いてRNAライブラリー、cDNAライブラリーを作製し、IonPGM(Life Technologies社製)で配列決定を行った。一度の配列決定で得られる数百万Readの配列をヒトのcDNAにマップし、糖鎖遺伝子にマップされたものだけを抽出し発現量を比較解析した(
図3A)。
【0067】
また、より正確なコピー数で定量するために、初代培養正常肝細胞、並びにHepG2細胞およびHuH7細胞のそれぞれからRNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN社製)でtotal RNAを精製した。total RNAの4μgを用い、QuantiTect Reverse Transcription Kit(QIAGEN社製)でcDNAを作製し、前記(表1〜8)で示した185種類の糖鎖遺伝子を含むqRT-PCRアレイシステム(Ito H et al, J Proteome Res. 2009 Mar;8(3):1358-67.)により、肝細胞で発現している糖鎖遺伝子の発現量を測定した。
糖鎖遺伝子発現解析の結果、肝がん細胞株2種(HuH7細胞、HepG2細胞)における約185種類の糖鎖遺伝子の発現プロファイルを得た(
図3B)。
【0068】
(実施例4)S-HBs抗原の糖鎖修飾に影響する糖鎖遺伝子のスクリーニング
(4−1)siRNAプレートの調製
実施例3で得られた上記185種類の糖鎖遺伝子の発現プロファイルに基づき、肝細胞内での糖鎖遺伝子を「高発現〜中発現」群と「低発現〜発現無し」群の2群に分けた。
次いで、「高発現〜中発現」群に含まれる86個の糖鎖遺伝子について、それぞれ3種のsiRNA(AB/Life Technologies社製)を得て遺伝子ごとに3種混合siRNAを調製した。一方、一次スクリーニング用の12-wellプレートとしては、10-wellには各siRNAsを100 pmol/wellずつコーティングし、他のwellには、コントロールsiRNA(SIGMA社製)100 pmol及びブランクとし、風乾後使用まで-80℃で保存した。
【0069】
(4−2)S-HBs抗原を用いたsiRNAスクリーニング
肝細胞で高発現又は中発現する86種の糖鎖遺伝子の中でS-HBs抗原の糖鎖修飾に影響する遺伝子のスクリーニングを行った。
前記(4−1)で作製したsiRNAプレートにOptiMEMI(Life Technologies社製)、DharmaFECT 4トランスフェクション試薬(Thermo社製)を加え、30分後にHuH7細胞(約2×10
5細胞)を播種した。24時間後に上述のS-HBs抗原cDNAをリポフェクタミンLTXでトランスフェクションし、さらに48時間後に上清からS-HBs抗原を抗Flag抗体ビーズ(SIGMA社製)で回収し、ウエスタンブロッティングにてS-HBs抗原の発現量と糖鎖の付加を確認した(
図4A)。
86種の糖鎖遺伝子のうち、10種以上の遺伝子について、コントロールsiRNAと比較して、S-HBs抗原の発現が低下したものあるいは糖鎖の付加が減少したものが確認された。その典型的な場合を
図4Bに例示する。
【0070】
(実施例5)HepG2.2.15.7細胞でのsiRNAスクリーニング
(5−1)1st スクリーニング
肝細胞に発現する糖鎖遺伝子の中でHBV粒子の分泌に影響する遺伝子のスクリーニングを行った。
前記(4−2)と同様にsiRNAプレートにトランスフェクション試薬を加えた後に、HBVを産生する肝がん細胞であるHepG2.2.15.7細胞(国立感染症研究所より分与)(約2×10
5細胞)を播種した。次の日に培養液を交換した。3日後に上清中に分泌されたHBV DNA量をRT-PCR(Roche LightCycler 96 リアルタイムPCRシステム)で測定した(
図5A)。
HBV DNA量の測定に用いたRT-PCR条件は、以下の通りである。
Primer 1: 5’-CTTCATCCTGCTGCTATGCCT-3’(配列番号5)
Primer 2: 5’-AAAGCCCAGGATGATGGGAT-3’(配列番号6)
Probe: FAM-ATGTTGCCCGTTTGTCCTCTAATTCCAG-TAMRA(配列番号7)
Reagent: Eagle Taq Master Mix (Roche社製)
またHBs抗原の量は特異的抗体(特殊免疫研究所製)を用いたELISAによって定量した(
図5A)。なお、スクリーニングの際にはMTTアッセイ(Roche社製)を行い細胞増殖への影響を確認した。その結果、SLC35B1遺伝子、CHST9遺伝子及びST8SIA3遺伝子について、混合siRNAの作用でHBV DNA発現量が顕著に低下したことが確認でき、かつ細胞増殖への影響が極めて低く細胞毒性に問題がないことも確認できた(
図5B)。
SLC35B1(配列番号3、4)は、核酸-糖トランスポーター関連遺伝子の1種とされ、酵母や線虫でもホモログが報告されているが、核酸-糖トランスポーター活性が確定されているわけではなく、HBV分泌における役割や細胞内での機能も不明である。
また、CHST9(配列番号8、9)は、Carbohydrate sulfotransferase familyに属する硫酸転移酵素で、GalNAcの4位の位置に硫酸基を付加する。
ST8SIA3(配列番号10、11)は、α2,8-sialyltransferase(シアル酸転移酵素)の一つであり、糖タンパク質上の糖鎖シアル酸(NeuAc)の8位の位置にさらにシアル酸を付加する。
次いで、これら糖鎖遺伝子について2ndスクリーニングを行った。
【0071】
(5−2)siRNAの2ndスクリーニング
前記(5−1)の1stスクリーニングで選択されたSLC35B1、CHST9及びST8SIA3の各糖鎖遺伝子に対応するsiRNAは、3種siRNA混合物なので、最適なsiRNA領域を特定するために各siRNAごとに2ndスクリーニングを行った。
前記(4−2)と同様にsiRNAプレートにトランスフェクション試薬を加えた後に、HepG2.2.15.7細胞を播種し3日後に分泌されたHBV DNA量をRT-PCRでHBs抗原量はELISAによって定量した。
結果を
図6に示す。SLC35B1糖鎖遺伝子の場合は、配列番号12に示されるmRNA領域を標的とするsiRNA-SLC35B1#1のsiRNAがHBs抗原量及びHBV DNA量のいずれをも顕著に減少させ、最も高い抗HBV効果を示したが、siRNA-SLC35B1#2もHBV DNA量を減少させる効果が、siRNA-SLC35B1#3についてはHBs抗原量及びHBV DNA量のいずれも減少させる効果が確認できた。
ここで、siRNA-SLC35B1#1〜#3が標的とするSLC35B1遺伝子上の位置を
図7に示す。それぞれSLC35B1#1がc(配列番号3の311〜330位)、SLC35B1#2がe(同477〜495位)、SLC35B1#3がg(同576〜594位)の位置に対応する。
今回の実験ではSLC35B1#1〜#3のいずれもが有効であることと共に、この中のSLC35B1#1に対応するcの領域が標的領域としてすぐれていることが判明したが、他にもa〜b、d、f、h〜jの領域も標的領域の候補となる。後述するように、特にa〜c、e、g及びiの領域の有効性が高いといえる。
【0072】
一方、CHST9糖鎖遺伝子に対応するsiRNAとしては、CHST9#1(配列番号8の1188〜1206位)、CHST9#2(同806〜824位)及びCHST9#3(同588〜606位)が用いられた。そして、これらのうちでCHST9#2がHBV DNA量を有意に減少させた(
図6)ことから、CHST9遺伝子(配列番号8)の標的領域としては、CHST9#2の位置に対応する806〜824位の領域が有効であるといえる。
また、ST8SIA3糖鎖遺伝子に対応するsiRNAとしては、ST8SIA3#1(配列番号10の178〜196位)、ST8SIA3#2(同354〜372位)及びST8SIA3#3(同208〜226位)が用いられた。これらのうちでST8SIA3#1がHBs抗原量及びHBV DNA量の両者を有意に減少させた(
図6)ことから、ST8SIA3遺伝子(配列番号10)の標的領域としては、ST8SIA3#1の位置に対応する178〜196位の領域が有効であるといえる。
以下の実施例では、典型的なSLC35B1のsiRNAとしてsiRNA-SLC35B1#1(c領域を標的)を用いて実験を行っているが、下記実施例(6−2)で示すように、他の領域を標的とするsiRNAでも同様の結果が期待できる。
【0073】
(実施例6)siRNA-SLC35B1のHBV分泌阻害効果
(6−1)siRNA-SLC35B1#1とエンテカビルとの比較
前記(5−2)で選択されたsiRNA-SLC35B1#1のHBV分泌阻害効果を、HepG2.2.15.7細胞を用いて測定し、HBV治療薬として効果が知られている核酸アナログ(逆転写酵素阻害剤)のエンテカビル(Abcam社製)及びラミブジン(SIGMA社製)と比較した。
エンテカビル及びラミブジンは10μM, 100 μM、SLC35B1のsiRNA-SLC35B1#1〜#3は100 nMを、それぞれHepG2.2.15.7細胞に添加して3日後のHBV DNA量及びHBs抗原量を測定し、両者を比較した(
図8)。
エンテカビル及びラミブジンはいずれもHBV DNA量を減少させる効果はあるものの、培養上清中へ分泌するHBs抗原量にはそれほど影響しなかった。一方、siRNA-SLC35B1#1はHBV DNA量とHBs抗原量ともに50%以下にまで減少させる効果を示した。
【0074】
(6−2)siRNA-SLC35B1の効果確認
siRNAのSLC35B1阻害効果の確認は、100 nM siRNA-SLC35B1#1をHuH7細胞(約4×10
5細胞)に対し、6-wellでDharmaFECT 4(Thermo社製)を用いてトランスフェクションし、48時間後にRNAをRNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN社製)で調整して、1μgのtotal RNAからQuantiTect Reverse Transcription KitでcDNAを合成し、下記のSLC35B1特異的なプライマーによりqRT-PCRを行い測定した。
Primer 3: 5’-GGGAGCTCTGGGAGTTCTTGA-3’(配列番号13)
Primer 4: 5’-GCCCAAAGAGCAGGATGTTATAGA-3’(配列番号14)
Reagent: Taq Man Mix (Roche)
【0075】
次いで、各種ソフトを用いて計算したSLC35B1遺伝子のノックアウト標的候補領域a〜j(
図7)に対応するsiRNA(siRNA a〜j)をHuH7細胞に対してトランスフェクションし、それぞれのSLC35B1発現量を測定した。その際のsiRNAの効率はsiRNA-negative control(siC,SIGMA社)をトランスフェクションした時の測定値を100%として算出した。各cDNA中のβアクチン量を内在性のコントロールとした(
図9)。
この結果、SLC35B1遺伝子の塩基配列(配列番号3)の標的領域としては、siRNA-SLC35B1#1〜#3に対応する配列番号3の311〜330位(c)、477~495位(e)及び576〜594位(g) に対応する領域以外にも、同102〜121位(a)、161〜179位(b)、及び627〜644位(i)に対応する領域も標的領域として優れていることが確認できた。
同様にHepG2.2.15.7細胞に対しても100 nM siRNA-SLC35B1#1でトランスフェクションし、total RNAを調製し前記SLC35B1特異的なプライマーでqRT-PCRを行い測定した(
図10)。
HepG2.2.15.7細胞でSLC35B1のmRNA量は、siRNA-SLC35B1#1のトランスフェクションによりsiRNA-negative controlのトランスフェクションした細胞に比べ約10%まで減少していた。同様にHuH7細胞では約27%まで減少した。
【0076】
(実施例7)siRNA-SLC35B1の毒性試験
(7−1)siRNA-SLC35B1の細胞への影響
(実施例5)のスクリーニング過程でのMTTアッセイにより、siRNA-SLC35B1を3種混合で用いてもヒト細胞への細胞毒性が低いことは既に確認されているが、本実施例ではさらに個別のsiRNA製剤を用い、肝細胞における糖鎖合成機能全般に与える影響を中心に観察した。
HuH7細胞(約2×10
5細胞)に100 nM siRNA-SLC35B1#1を12-wellでトランスフェクションし48時間後に細胞をRIPAバッファー(50 mM Tris-HCl pH8.0, 150 mM NaCl, 0.5% Sodium deoxycholate, 0.1% SDS, 1% NP40)で溶解しタンパク質を回収した。遠心後に可溶性画分を調製しタンパク質をSDS-PAGEで展開してPVDF膜上にブロッティングした。同時にHuH7細胞をツニカマイシン(和光純薬社製)で48時間処理して、肝がんマーカーとなる糖タンパク質であるα-フェトプロテイン(AFP)を検出した。ツニカマイシンで観察されるようなAFP の発現量の減少は、siRNA-SLC35B1#1を用いた場合には認められなかった(
図11)。
【0077】
さらに、siRNA-SLC35B1#1の糖鎖合成への影響を調べるために、HuH7細胞をトランスフェクションし、可溶性画分をSDS-PAGEで展開し、糖鎖を認識するレクチンであるE-PHA(生化学工業社製)及びRCA(Vector社製)を用いてレクチンブロッティングを実施した(
図12)。その結果、糖鎖合成全体への影響は観察されなかった。
次に、siRNA-SLC35B1#1をHepG2細胞およびHuH7細胞にトランスフェクションして膜画分を調製し、レクチンアレイ解析を実施した。3つの測定結果を基に統計解析を行った結果、糖鎖プロファイルに大きな変化が認められないことを確認した(
図13A,B)。
siRNA-SLC35B1#1処理によるERストレスや細胞毒性への影響を調べるために、HuH7細胞をsiRNAトランスフェクションしたものとTunicamycin(TM)やBrefeldin A (BreA)処理したものとをWestern解析で比較した。糖鎖合成系阻害剤のTMやBreAに比べ、siRNA-SLC35B1#1処理の場合にはERストレスマーカーであるBiPの発現上昇は観察されなかった。(
図14)
さらに、HepG2.2.15.7細胞にsiRNA-SLC35B1#1をトランスフェクションし、LDH cytotoxicity detection kit(タカラバイオ社製など)により細胞毒性アッセイを行いsiRNA-SLC35B1#1が細胞に悪影響しないことを確認した(
図15)。
【0078】
(7−2)siRNA-SLC35B1の遺伝子発現への影響
siRNA-SLC35B1#1の細胞内の遺伝子発現への影響を解析した。10 cmディッシュに播種したHuH7細胞(約2×10
6細胞)に100 nM siRNA-SLC35B1#1をDharmaFECT 4でトランスフェクションし、48時間後にtotal RNAをRNeasy Plus Mini Kitで調整した。上述の様に0.2 μgのmRNAを調製し、断片化したRNAライブラリーからcDNAライブラリーを作製し、IonPGMで配列決定を行った。糖鎖遺伝子の発現量について、HuH7細胞のトランスクリプトーム解析の結果と比較した結果を示す(
図16)。また、すべての遺伝子の発現量の変化を解析ソフトGenomics Workbench (CLCbio社製)により解析した結果(volcano plot)を示す(
図17)。以上の解析結果は、SLC35B1の発現量が約25%まで減少していることを確認するとともに、SLC35B1 mRNAの減少の結果発現量が増減した糖鎖遺伝子を確認しており、細胞内での糖鎖修飾への影響が少ないことが考えられた。これらの結果はSLC35B1#1の細胞内の遺伝子発現への影響が少ない(X軸の-2から2の範囲内)ことを示している。また、同時に3倍以上変動した遺伝子(X軸の-3以下と3以上の範囲)をoff-target候補として特定した。
【0079】
siRNA-SLC35B1#1の効果を検証するために、off-targetの検索を3つの異なる実験の遺伝子発現から解析した。HuH7細胞にsiRNA-SLC35B1#1を100 nM(実験1)、10 nM(実験2)、HepG2.2.15.7細胞に10 nM(実験3)でトランスフェクションし、total RNAをRNeasy Plus Mini Kitで調製しトランスクリプトーム解析を行った。それぞれコントロール(-siRNA)と比較し、全ての実験で3倍以上発現量が変化した遺伝子をoff-targetとしてリスト化した(
図18A)。その結果、上記3回の実験でSLC35B1以外に11個の遺伝子で変化が認められたがHBV複製・分泌に直接関与が示唆される遺伝子は同定されなかった。
また、マウスキメラヒト肝細胞(PXB、フェニックスバイオ社製)に対してsiRNA-SLC35B1#1を10 nMでトランスフェクションし、HepG2.2.15.7細胞やHuH7細胞のトランスクリプトーム解析の結果と比較した。全ての実験で2倍以上発現量が変化した遺伝子をoff-targetとしてリスト化したが、同様に少数のoff-targetしか認められなかった(
図18B)
HBs抗原を分泌するPLC/PRL/5細胞にsiRNA-SLC35B1#1を1, 10, 50 nMでトランスフェクションし、SLC35B1遺伝子とHBV(HBs抗原遺伝子)の発現量をqRT-PCRにより解析した(
図19)。siRNA-SLC35B1#1のoff-targetとなる遺伝子は比較的少ない上に、HBs抗原遺伝子の発現量も減少していることが認められた。以上の結果から、SLC35B1をターゲットとした際に副作用が少ないことが遺伝子発現の点からも確認できた。
【0080】
(実施例8)効果的なsiRNA-SLC35B1の濃度の確認
siRNA-SLC35B1#1を100, 10, 1, 0.1 nMの濃度でHuH7細胞をトランスフェクションし、48時間後にtotal RNAを調整して前記(6−2)と同様にqRT-PCRを行いSLC35B1のmRNA量を測定し、ノックダウンの効果があるsiRNA濃度を解析した。siRNAのノックダウン効率はsiRNA-negative controlをトランスフェクションした時の測定値を100%として比較した。各cDNA中のβアクチン量を内在性のコントロールとして補正した(
図20)。1-100 nMの濃度でHuH7細胞内のSLC35B1のmRNA量を1/3以下に抑制できることが確認された。同様にHepG2.2.15.7細胞を100, 50, 10, 5 nMの濃度で siRNA-SLC35B1#1をトランスフェクションし、HBs抗原量をELISA法にて測定した。(
図21)。
さらにsiRNA-SLC35B1#1処理後に細胞内でHBs抗原が蓄積するかどうかについて、細胞抽出物中のHBs抗原量を、HBsAgEIAキット(特殊免疫研究所)を用いてELISA法にて測定した(
図22)。実際に、HepG2.2.15.7細胞に対してHBs抗原を抗HBs抗原抗体(Abcam社)とAlexa Fluor
(R) 488 -抗ウマIgGヤギ抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)で免疫染色すると、siRNA-SLC35B1#1処理によってHBs抗原量が減少していることが確認された(
図23)。
その結果、siRNA濃度10 nMでHBs抗原量を1/8以下に抑制し、5 nMで1/4以下に減少させることが分かった。以上の結果は、SLC35B1のmRNA量を減少させるためには1〜10 nMのsiRNA-SLC35B1#1で十分であることと共に、5 nM以上で濃度依存的にHBVの分泌を阻害することを示している。
【0081】
(実施例9)siRNA-SLC35B1のHBV分泌阻害効果(PHH細胞)
(9−1)siRNA-SLC35B1#1とエンテカビルとの比較
siRNA-SLC35B1#1のHBV分泌阻害効果についてヒトキメラ肝臓細胞(PHH, PhoenixBio社製)を用いて測定し、核酸アナログ剤のエンテカビル(1μM)と比較した(
図24)。siRNA-SLC35B1#1はエンテカビル同様にHBV DNA量を減少させた。エンテカビルと同時に加えた場合では、エンテカビルのみより減少させることから、siRNA-SLC35B1#1は核酸アナログ剤との併用が可能であると考えられる(
図24A)。
エンテカビルは分泌されるHBs抗原量には影響を及ぼさないこと、siRNA-SLC35B1#1はヒトキメラ肝臓細胞でもHBs抗原の分泌を抑制することが確認された(
図24B)。
【0082】
(実施例10)siRNA-SLC35B1のエンテカビル耐性株への効果
(10−1)エンテカビル耐性株でのアッセイ
HBVの中には核酸アナログ剤の使用により耐性株が生ずることが知られている。siRNA-SLC35B1について、エンテカビル耐性HBVへの分泌阻害効果があるかを測定した。エンテカビル耐性株としてS202G変異株を用いた。HuH7細胞にHBV DNA(genotype C 又は S202G、名古屋市立大学より入手)をトランスフェクションし、2日後にsiRNA-SLC35B1とエンテカビル処理を行った。HBV DNAトランスフェクション7日後に上清中に分泌されたHBs抗原量をELISA法でHBV DNA量をRT-PCRで測定した(
図25)。
HBs抗原量はgenotypeに影響なく、siRNA-SLC35B1存在時に減少した(
図26A)。HBV DNA量もsiRNA-SLC35B1存在時に抑制された(
図26B)。すなわち、siRNA-SLC35B1のエンテカビル耐性HBVへの分泌阻害効果が確認された。
従来のHBV阻害剤(ETV)とは異なるpathwayの可能性が高いため、従来の薬剤との併用効果が期待され、細胞毒性などの副作用も見られない(実施例7)ことから、SLC35B1 遺伝子をターゲットとするsiRNAをはじめとするRNAi製剤などの遺伝子発現阻害剤またはSLC35B1タンパク質活性阻害剤の創薬への有効性が確認できた。
【0083】
(実施例11)SLC35B1の細胞内局在性の確認
ヒトSLC35B1のcDNA(38-359 aa)(配列番号2、非特許文献5、6)をFlagタグ(DYKDDDDK配列)とつなげたcDNA発現ベクターを構築し、リポフェクタミンLTX(Life Technologies社製)を用いてトランスフェクションしてHuH7細胞内で発現させた。48時間後に細胞を4% パラホルムアルデヒド溶液で固定し、洗浄後に細胞を抗Flag抗体(MBL社製)で蛍光免疫染色を行い、SLC35B1-Flag がERに局在することを確認した(
図27)。ここで、細胞膜貫通ドメインを太字で表示し、ERに局在するためのシグナルを下線で示した。
当該SLC35B1-Flagを用いることで、構築したsiRNAの阻害効果をSLC35B1-Flagの発現量に応じた蛍光量の減少として可視化できかつ定量的な測定ができるので、より効果的な標的領域を確定できる。また、SLC35B1に結合するペプチドなどの低分子化合物や他のSLC35B1活性を阻害するインヒビターのスクリーニングに使用することができる(
図28)。