特許第6566413号(P6566413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6566413電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6566413
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/889 20060101AFI20190819BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20190819BHJP
   B01J 23/656 20060101ALI20190819BHJP
   B01J 23/843 20060101ALI20190819BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20190819BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20190819BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   B01J23/889 MZNM
   B01J23/34 M
   B01J23/656 M
   B01J23/843 M
   B01J35/10 301J
   H01M4/90 X
   H01M4/92
【請求項の数】12
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-233791(P2014-233791)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-192986(P2015-192986A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-69913(P2014-69913)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業/革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直子
(72)【発明者】
【氏名】五百蔵 勉
(72)【発明者】
【氏名】永井 つかさ
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−176717(JP,A)
【文献】 特開2010−238546(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/060582(WO,A1)
【文献】 特表2012−514287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
H01M 4/90
H01M 4/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒であって、ドープ又は非ドープスズ酸化物上にペロブスカイト型酸化物が担持されており、
炭素質材料を含まないか又は20重量%以下含んでおり、
前記スズ酸化物の平均粒子径が10nm〜100μmであり、且つ、前記スズ酸化物の比表面積が10〜500m/gである、触媒。
【請求項2】
前記スズ酸化物が、Nb、In、Sb、F、P及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種がドープされたスズ酸化物である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記炭素質材料を1〜20重量%含む、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
さらに、貴金属材料を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型酸化物が、A、B及び酸素からなり、
前記Aはアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、
前記Bは少なくとも1種の遷移金属元素である、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
前記ペロブスカイト型酸化物が、単純ペロブスカイト型酸化物、欠陥ペロブスカイト型酸化物、層状ペロブスカイト型酸化物、及びダブルペロブスカイト型酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の触媒。
【請求項7】
前記ペロブスカイト型酸化物が、La1−vCaCoO(0≦v<1)、La1−wSrCoO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrCoO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaMnO(0≦v<1)、La1−wSrMnO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrMnO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaFeO(0≦v<1)、La1−wSrFeO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrFeO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaNiO(0≦v<1)、La1−wSrNiO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrNiO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−xMn(0≦v<1;0<x<1)、La1−wSrCo1−xMn(0≦w<1;0<x<1)、La1−vーwCaSrCo1−xMn(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−yFe(0≦v<1;0<y<1)、La1−wSrCo1−yFe(0≦w<1;0<y<1)、La1−vーwCaSrCo1−yFe(0≦v<1;0≦w<1;0<y<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−zNi(0≦v<1;0<z<1)、La1−wSrCo1−zNi(0≦w<1;0<z<1)、La1−vーwCaSrCo1−zNi(0≦v<1;0≦w<1;0<z<1;0<v+w<1)、La1−vCaMn1−yFe(0≦v<1;0<y<1)、La1−wSrMn1−yFe(0≦w<1;0<y<1)、La1−vーwCaSrMn1−yFe(0≦v<1;0≦w<1;0<y<1;0<v+w<1)、La1−vCaMn1−zNi(0≦v<1;0<z<1)、La1−wSrMn1−zNi(0≦w<1;0<z<1)、La1−vーwCaSrMn1−zNi(0≦v<1;0≦w<1;0<z<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−x−yMnFe(0≦v<1;0<x<1;0<y<1;0<x+y<1)、La1−wSrCo1−x−yMnFe(0≦w<1;0<x<1;0<y<1;0<x+y<1)、La1−v−wCaSrCo1−x−yMnFe(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<y<1;0<v+w<1;0<x+y<1)、La1−vCaCo1−x−zMnNi(0≦v<1;0<x<1;0<z<1;0<x+z<1)、La1−wSrCo1−x−zMnNi(0≦w<1;0<x<1;0<z<1;0<x+z<1)、及びLa1−v−wCaSrCo1−x−zMnNi(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<z<1;0<v+w<1;0<x+z<1)よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の触媒。
【請求項8】
前記ペロブスカイト型酸化物の平均粒子径が10nm〜500μmであり、且つ、前記ペロブスカイト型酸化物の比表面積が0.1〜100m/gである、請求項1〜7のいずれかに記載の触媒。
【請求項9】
酸素還元活性及び酸素発生活性の双方を有する、請求項1〜8のいずれかに記載の触媒。
【請求項10】
金属空気電池又はアルカリ形燃料電池用空気極触媒である、請求項1〜9のいずれかに記載の触媒。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の触媒を用いた金属空気電池又はアルカリ形燃料電池用空気極。
【請求項12】
請求項11に記載の空気極を正極として用いた、金属空気電池又はアルカリ形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、亜鉛、鉄、アルミニウム等をはじめとする金属を負極に使用し、空気極を正極に使用した電池である。これらの電池は、正極側活物質として空気中の酸素を利用することができ、電気容量は負極容量のみで決まるため、高いエネルギー密度を実現できる。
【0003】
金属空気電池の金属負極に亜鉛を用いた亜鉛空気電池を例に挙げると、電池反応は(1)〜(3)式:
(負極) Zn+2OH → ZnO+HO+2e (1)
(正極) O+2HO+4e → 4OH (2)
(全反応)Zn+1/2O → ZnO (3)
と示すことができる。各反応式において、右向きは放電反応、左向きは充電反応である。つまり、金属空気電池における空気正極側の反応は(2)式に示す通りであり、放電時には酸素還元反応、充電時には酸素発生反応となる。
【0004】
このような金属空気電池の空気極には、(2)式に示すように、放電時には酸素還元反応、充電時には酸素発生反応を行うための反応場を提供することが求められるが、この酸素還元反応と酸素発生反応はともに過電圧が大きく、可逆性が非常に乏しい。そのため、充放電に必要な過電圧が高くなり、金属空気電池のエネルギー効率を低下させる主たる要因となっている。そこで、金属空気電池の空気極開発に対する最大の課題として、アルカリ電解液中での酸素還元及び酸素発生の両反応に対して高活性なbi-functional触媒の開発が求められている。
【0005】
一方、アルカリ形燃料電池(AFC)は、水酸化物イオンをイオン伝導体とし、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ電解液を電極間のセパレータに含浸させてセルを構成しており、室温〜100℃程度の低温で作動する燃料電池である。このアルカリ形燃料電池は、低温作動型のため扱いやすく、アルカリ雰囲気での使用であることから、白金以外の安価な電極触媒を利用できる。この場合も、金属空気電池と同様に、酸素を活物質とする空気極が使用されることから、アルカリ電解液中での酸素還元反応に対して高活性な触媒の開発が求められている。
【0006】
このような空気極触媒の開発ができれば、より安価に高耐久性の金属空気電池及びアルカリ形燃料電池を提供することができる。これまでに研究されている空気極触媒の代表例として、酸化マンガンをはじめとする金属酸化物、ペロブスカイト型酸化物、パイロクロア型酸化物、スピネル型酸化物等(酸化マンガン等の金属酸化物は酸素還元用触媒、他の3種はbi-functional触媒である)が挙げられる。しかしながら、これらは導電性酸化物であるとはいえ、その電子伝導性は金属触媒に比べると極めて低く、車載用電池としての作動が想定される100℃以下の温度領域では必ずしも十分とはいえない。そのため、これらの酸化物を電極触媒として使用する場合には、何らかの方法で電子伝導性を付与して高活性化を図る必要がある。炭素質材料、特にカーボンブラック(Denkablack等のアセチレンブラック;Vulcan、Ketjenblack等のファーネスブラック等)は、高い導電性と高比面積を有することから、優れた電導性付与剤であり、導電助剤として触媒と混合する、担体としてその上に触媒を担持する等の方法でしばしば使用されている(特許文献1、2等)。
【0007】
しかしながら、炭素質材料は、熱力学的には、(4)式:
C+2HO → CO+4H+4e (4)
のように、一定(0.207 V vs. 標準水素電極(RHE))以上の電位では酸化されてCOとなってしまう。
【0008】
室温程度の温度や1 V vs. RHE以下程度の電位であれば、反応速度が遅いため、炭素質材料の腐食劣化は初期活性を検討する上では問題にならないことが多いが、金属空気電池の空気極においては、充電時の酸素発生反応の電位が1.5 V vs. RHEを超えることが多いため、炭素質材料の腐食劣化は特に深刻である。また、アルカリ形燃料電池の空気極においても、起動停止時に瞬間的に1.3〜1.5 V vs. RHE程度の電位になることがあり、その繰り返しにより炭素質材料の腐食劣化が進行し、燃料電池性能の低下を引き起こしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2012−43567号公報
【特許文献2】特開平9−147877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、特に金属空気電池においては、従来使用されている触媒では、炭素質材料の腐食劣化が深刻であるが、空気極触媒として炭素質材料を使用しない場合には、ペロブスカイト型酸化物、パイロクロア型酸化物、スピネル型酸化物等を含む酸化物触媒の電子導電性が十分ではないため、十分な酸素還元活性及び酸素発生活性が得られない。このため、本発明は、金属空気電池又はアルカリ形燃料電池用の空気極触媒として、担体中に炭素質材料を含まないか、担体中に含まれる炭素質材料の量を低減しつつも、十分な酸素還元活性及び/又は酸素発生活性が得られる触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、炭素質材料の量を低減しつつも、金属空気電池又はアルカリ形燃料電池用の空気極触媒に所望の酸素還元活性及び/又は酸素発生活性を付与すべく、鋭意研究を重ねてきた。その結果、ドープ又は非ドープスズ酸化物を含有する担体上に、ペロブスカイト型酸化物を含有する触媒を担持することで、上記課題を解決した触媒が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づきさらに研究を重ね完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒であって、ドープ又は非ドープスズ酸化物上にペロブスカイト型酸化物が担持されている、触媒。
項2.前記スズ酸化物が、Nb、In、Sb、F、P及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種がドープされたスズ酸化物である、項1に記載の触媒。
項3.前記スズ酸化物の平均粒子径が10nm〜100μmであり、且つ、前記スズ酸化物の比表面積が10〜500m/gである、項1又は2に記載の触媒。
項4.さらに、炭素質材料及び/又は貴金属材料を含有する、項1〜3のいずれかに記載の触媒。
項5.前記ペロブスカイト型酸化物が、A、B及び酸素からなり、
前記Aはアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、
前記Bは少なくとも1種の遷移金属元素である、項1〜4のいずれかに記載の触媒。
項6.前記ペロブスカイト型酸化物が、単純ペロブスカイト型酸化物、欠陥ペロブスカイト型酸化物、層状ペロブスカイト型酸化物、及びダブルペロブスカイト型酸化物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1〜5のいずれかに記載の触媒。
項7.前記ペロブスカイト型酸化物が、La1−vCaCoO(0≦v<1)、La1−wSrCoO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrCoO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaMnO(0≦v<1)、La1−wSrMnO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrMnO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaFeO(0≦v<1)、La1−wSrFeO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrFeO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaNiO(0≦v<1)、La1−wSrNiO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrNiO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−xMn(0≦v<1;0<x<1)、La1−wSrCo1−xMn(0≦w<1;0<x<1)、La1−vーwCaSrCo1−xMn(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−yFe(0≦v<1;0<y<1)、La1−wSrCo1−yFe(0≦w<1;0<y<1)、La1−vーwCaSrCo1−yFe(0≦v<1;0≦w<1;0<y<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−zNi(0≦v<1;0<z<1)、La1−wSrCo1−zNi(0≦w<1;0<z<1)、La1−vーwCaSrCo1−zNi(0≦v<1;0≦w<1;0<z<1;0<v+w<1)、La1−vCaMn1−yFe(0≦v<1;0<y<1)、La1−wSrMn1−yFe(0≦w<1;0<y<1)、La1−vーwCaSrMn1−yFe(0≦v<1;0≦w<1;0<y<1;0<v+w<1)、La1−vCaMn1−zNi(0≦v<1;0<z<1)、La1−wSrMn1−zNi(0≦w<1;0<z<1)、La1−vーwCaSrMn1−zNi(0≦v<1;0≦w<1;0<z<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−x−yMnFe(0≦v<1;0<x<1;0<y<1;0<x+y<1)、La1−wSrCo1−x−yMnFe(0≦w<1;0<x<1;0<y<1;0<x+y<1)、La1−v−wCaSrCo1−x−yMnFe(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<y<1;0<v+w<1;0<x+y<1)、La1−vCaCo1−x−zMnNi(0≦v<1;0<x<1;0<z<1;0<x+z<1)、La1−wSrCo1−x−zMnNi(0≦w<1;0<x<1;0<z<1;0<x+z<1)、及びLa1−v−wCaSrCo1−x−zMnNi(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<z<1;0<v+w<1;0<x+z<1)よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1〜6のいずれかに記載の触媒。
項8.前記ペロブスカイト型酸化物の平均粒子径が10nm〜500μmであり、且つ、前記ペロブスカイト型酸化物の比表面積が0.1〜100m/gである、項1〜7のいずれかに記載の触媒。
項9.酸素還元活性及び酸素発生活性の双方を有する、項1〜8のいずれかに記載の触媒。
項10.金属空気電池又はアルカリ形燃料電池用空気極触媒である、項1〜9のいずれかに記載の触媒。
項11.項1〜10のいずれかに記載の触媒を用いた金属空気電池又はアルカリ形燃料電池用空気極。
項12.項11に記載の空気極を正極として用いた、金属空気電池又はアルカリ形燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、担体中に炭素質材料を含まないか、担体中に含まれる炭素質材料の量を低減しつつも、金属空気電池又はアルカリ形燃料電池用の空気極触媒として十分な酸素還元活性及び/又は酸素発生活性を有する触媒を提供することができる。本発明の触媒は、炭素質材料を多量に使用した触媒と比較しても遜色のない初期酸素還元活性及び/又は初期酸素発生活性を有する。特に、本発明においては、ペロブスカイト型酸化物を適宜選択すれば、炭素質材料を多量に使用した触媒よりも初期酸素還元活性及び初期酸素発生活性に優れる触媒とすることも可能である。
【0014】
また、本発明の触媒は、担体中に炭素質材料を含まないか、担体中に含まれる炭素質材料の使用量を低減することができるため、腐食劣化の問題を解決し、電池のサイクル特性を飛躍的に向上させることができる。特に、高電流密度であっても、電極の劣化を効果的に抑制することができる。
【0015】
なお、本発明においては、炭素質材料を一切使用しない、いわゆるカーボンフリーの触媒とすることも可能である。
【0016】
さらに、本発明の触媒に使用するペロブスカイト型酸化物を適宜選択することにより、所望の酸素還元活性及び酸素発生活性を得ることが可能であるため、電池の充放電時に所望の酸化還元及び酸素発生を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1〜2及び比較例1〜2の触媒を使用した電気化学セルの初期酸素還元活性の試験結果(試験例1)である。
図2】実施例3〜5及び比較例3の触媒を使用した電気化学セルの初期酸素還元活性の試験結果(試験例2)である。
図3】実施例2及び6〜8の触媒を使用した電気化学セルの初期酸素還元活性の試験結果(試験例3)である。
図4】実施例6及び8〜10の触媒を使用した電気化学セルの初期酸素還元活性の試験結果である(試験例4)。
図5】実施例6及び8〜10の触媒を使用した電気化学セルの初期酸素発生活性の試験結果である(試験例5)。
図6】比較例3、5〜6、及び実施例4、11の触媒を使用した電気化学セルの初期酸素発生活性の試験結果(試験例7)である。
図7】比較例3、7、及び実施例12の触媒を使用した電気化学セルの初期酸素発生活性の試験結果(試験例8)である。
図8】比較例3の触媒を使用した電気化学セルのサイクリックボルタモグラムである。
図9】実施例11の触媒を使用した電気化学セルのサイクリックボルタモグラムである。
図10】実施例12の触媒を使用した電気化学セルのサイクリックボルタモグラムである。
図11】実施例14及び比較例12〜13の空気極を使用した亜鉛空気電池の充放電サイクル特性の試験結果である。
図12】実施例13〜15の空気極を使用した亜鉛空気電池の充放電サイクル特性の試験結果である。
図13】実施例16及び比較例14〜15の空気極を使用した亜鉛空気電池の充放電サイクル特性の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒
本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒は、電気化学的に酸素還元及び/又は酸素発生するために用いられる触媒であり、ドープ又は非ドープスズ酸化物上にペロブスカイト型酸化物が担持されている。
【0019】
従来の炭素質材料を多量に使用した酸素還元用触媒においては、炭素質材料により酸素から過酸化水素への2電子還元を行わせ、触媒により過酸化水素から水酸化物イオンへの2電子還元を行わせていたが、本発明においては、ペロブスカイト型酸化物(特に特定のペロブスカイト型酸化物)により酸素から過酸化水素を経由した水酸化物イオンへの逐次的還元反応、又は酸素から水酸化物イオンへの直接的な4電子還元を行わせ得る。
【0020】
<ドープ又は非ドープスズ酸化物>
本発明において、ドープ又は非ドープスズ酸化物は、通常担体として使用される。つまり、従来の酸素の電気化学的還元用触媒において、担体且つ導電助剤として使用されていた炭素質材料の代替品として使用する。
【0021】
スズ酸化物としては、特に制限されず、酸化スズ(II)(SnO)、酸化スズ(IV)(SnO)、酸化スズ(VI)(SnO)等が挙げられ、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、酸化スズ(IV)(SnO)が好ましい。
【0022】
このようなスズ酸化物としては、異原子がドープされていてもよいし、非ドープであってもよいが、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、異種金属原子がドープされていることが好ましい。このような異種金属原子としては、特に制限されないが、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、Nb、In、Sb、F、P、Fe等が好ましく、Sb、Nbがより好ましい。これらの異種金属原子は、1種のみがドープされていてもよいし、2種以上がドープされていてもよい。なかでも、本発明の電気化学的酸素還元触媒及び/又は酸素発生用触媒に使用されるドープ又は非ドープスズ酸化物としては、アンチモンドープ酸化スズ(IV)(ATO;SbドープSnO)が特に好ましい。
【0023】
スズ酸化物に異原子がドープされている場合、そのドープ量は、特に制限されないが、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、異原子ドープスズ酸化物の総重量を100重量%として、0.1〜50重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましい。ドープ量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法や蛍光X線分析法を用いた元素分析により測定する。
【0024】
スズ酸化物の平均粒子径は、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、10nm〜100μmが好ましく、10nm〜10μmがより好ましい。スズ酸化物の平均粒子径は、電子顕微鏡観察(SEM又はTEM)により測定する。
【0025】
スズ酸化物の比表面積は、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、10〜500m/gが好ましく、30〜500m/gがより好ましい。スズ酸化物の比表面積は、BET法により測定する。
【0026】
このようなドープ又は非ドープスズ酸化物は、公知又は市販品を使用することができる。また、ドープスズ酸化物を使用する場合には、公知又は市販品を使用してもよいし、公知又は市販の非ドープスズ酸化物に常法で所望の異種元素をドープしてもよい。
【0027】
本発明の電気化学的酸素還元触媒及び/又は酸素発生用触媒において、スズ酸化物の含有量は、電気化学的酸素還元触媒及び/又は酸素発生用触媒の総重量を100重量%として、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、10〜90重量%が好ましく、40〜80重量%がより好ましい。
【0028】
<ペロブスカイト型酸化物>
本発明において、ペロブスカイト型酸化物は、通常触媒として使用される。このようなペロブスカイト型酸化物としては、酸素還元活性及び酸素発生活性が高いものを採用することが好ましい。特に、従来の酸素還元用触媒においては、炭素質材料が酸素から過酸化水素への2電子還元も行っていたが、本発明では、この炭素質材料の使用量を低減することから、酸素還元用触媒には、酸素から過酸化水素を経由した水酸化物イオンへの逐次的還元反応、又は酸素から水酸化物イオンへの4電子還元を行い得るペロブスカイト型酸化物が好ましい。
【0029】
このようなペロブスカイト型酸化物としては、A、B及び酸素からなり、前記Aはアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、前記Bは少なくとも1種の遷移金属元素であるものが好ましい。
【0030】
このうち、A元素としては、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素等であれば特に制限はないが、例えば、Na、K、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Pr、Sm等が挙げられ、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、アルカリ土類金属元素、希土類元素等が好ましく、Ca、Sr、Ba、Y、La、Pr、Sm等がより好ましく、La、Ca、Sr等がさらに好ましい。A元素としては、特に、La、又はLaの一部をCa若しくはSrで置換したものが好ましい。このようなA元素は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0031】
また、B元素としては、遷移金属元素であれば特に制限はないが、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W等が挙げられ、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等が好ましく、Mn、Fe、Co、Ni等がより好ましい。このようなB元素は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0032】
ペロブスカイト型酸化物の組成としては、酸素還元活性及び酸素発生活性が高いものであれば特に制限はなく、単純ペロブスカイト型酸化物(ABO)、欠陥ペロブスカイト型酸化物(ブラウンミラーライト型であるA等)、層状ペロブスカイト型酸化物(ABO、A、A10等のRuddlesden-Popper型An+13n+1等)、ダブルペロブスカイト型酸化物(A)等が挙げられ、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、単純ペロブスカイト型酸化物(ABO)が好ましい。
【0033】
このような条件を満たす好ましいペロブスカイト型酸化物としては、La1−vCaCoO(0≦v<1)、La1−wSrCoO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrCoO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaMnO(0≦v<1)、La1−wSrMnO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrMnO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaFeO(0≦v<1)、La1−wSrFeO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrFeO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaNiO(0≦v<1)、La1−wSrNiO(0≦w<1)、La1−vーwCaSrNiO(0≦v<1;0≦w<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−xMn(0≦v<1;0<x<1)、La1−wSrCo1−xMn(0≦w<1;0<x<1)、La1−vーwCaSrCo1−xMn(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−yFe(0≦v<1;0<y<1)、La1−wSrCo1−yFe(0≦w<1;0<y<1)、La1−vーwCaSrCo1−yFe(0≦v<1;0≦w<1;0<y<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−zNi(0≦v<1;0<z<1)、La1−wSrCo1−zNi(0≦w<1;0<z<1)、La1−vーwCaSrCo1−zNi(0≦v<1;0≦w<1;0<z<1;0<v+w<1)、La1−vCaMn1−yFe(0≦v<1;0<y<1)、La1−wSrMn1−yFe(0≦w<1;0<y<1)、La1−vーwCaSrMn1−yFe(0≦v<1;0≦w<1;0<y<1;0<v+w<1)、La1−vCaMn1−zNi(0≦v<1;0<z<1)、La1−wSrMn1−zNi(0≦w<1;0<z<1)、La1−vーwCaSrMn1−zNi(0≦v<1;0≦w<1;0<z<1;0<v+w<1)、La1−vCaCo1−x−yMnFe(0≦v<1;0<x<1;0<y<1;0<x+y<1)、La1−wSrCo1−x−yMnFe(0≦w<1;0<x<1;0<y<1;0<x+y<1)、La1−vーwCaSrCo1−x−yMnFe(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<y<1;0<v+w<1;0<x+y<1)、La1−vCaCo1−x−zMnNi(0≦v<1;0<x<1;0<z<1;0<x+z<1)、La1−wSrCo1−x−zMnNi(0≦w<1;0<x<1;0<z<1;0<x+z<1)、La1−vーwCaSrCo1−x−zMnNi(0≦v<1;0≦w<1;0<x<1;0<z<1;0<v+w<1;0<x+z<1)等が挙げられる。上記組成式のうち、v、w、x、y及びzはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。上記のようなペロブスカイト型酸化物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0034】
このような好ましいペロブスカイト型酸化物のなかでも、B元素としてMnの量が多いほど酸素還元活性が高く、B元素としてCo、Ni等の量が多いほど酸素発生活性が高い。
【0035】
このような観点から、酸素還元活性が特に必要とされる場合には、La1−vCaMnO(0≦v≦0.7)、La1−wSrMnO(0≦w≦0.6)、La1−v−wCaSrMnO(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1)、La1−vCaCo1−xMn(0≦v≦0.7;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1))、La1−wSrCo1−xMn(0≦w≦0.6;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1))、La1−vーwCaSrCo1−xMn(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1))、La1−vCaMn1−yFe(0≦v≦0.7;0<y≦0.6(特に0<y≦0.5))、La1−wSrMn1−yFe(0≦w≦0.6;0<y≦0.6(特に0<y≦0.5))、La1−v−wCaSrMn1−yFe(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0<y≦0.6(特に0<y≦0.5))、La1−vCaMn1−zNi(0≦v≦0.7;0<z≦0.6(特に0<z≦0.5))、La1−wSrMn1−zNi(0≦w≦0.6;0<z≦0.6(特に0<z≦0.5))、La1−vーwCaSrMn1−zNi(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0<z≦0.6(特に0<z≦0.5))、La1−vCaCo1−x−yMnFe(0≦v≦0.7;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1);0<y<0.6(特に0<y<0.5);0<x+y<1)、La1−wSrCo1−x−yMnFe(0≦w≦0.6;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1);0<y<0.6(特に0<y<0.5);0<x+y<1)、La1−v−wCaSrCo1−x−yMnFe(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1);0<y<0.6(特に0<y<0.5);0<x+y<1)、La1−vCaCo1−x−zMnNi(0≦v≦0.7;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1);0<z<0.6(特に0<z<0.5);0<x+z<1)、La1−wSrCo1−x−zMnNi(0≦w≦0.6;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1);0<z<0.6(特に0<z<0.5);0<x+z<1)、La1−vーwCaSrCo1−x−zMnNi(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.4≦x<1(特に0.5≦x<1);0<z<0.6(特に0<z<0.5);0<x+z<1)等が好ましい。
【0036】
一方、酸素発生活性が特に必要とされる場合には、La1−vCaCoO(0≦v≦0.7)、La1−wSrCoO(0≦w≦0.6)、La1−v−wCaSrCoO(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1)、La1−vCaFeO(0≦v≦0.7)、La1−wSrFeO(0≦w≦0.6)、La1−vーwCaSrFeO(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1)、La1−vCaNiO(0≦v≦0.7)、La1−wSrNiO(0≦w≦0.6)、La1−vーwCaSrNiO(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1)、La1−vCaCo1−xMn(0≦v≦0.7;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3))、La1−wSrCo1−xMn(0≦w≦0.6;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3))、La1−vーwCaSrCo1−xMn(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3))、La1−vCaCo1−yFe(0≦v≦0.7;0<y<0.5)、La1−wSrCo1−yFe(0≦w≦0.6;0<y<0.5)、La1−vーwCaSrCo1−yFe(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0<y<0.5)、La1−vCaCo1−zNi(0≦v≦0.7;0<z<1)、La1−wSrCo1−zNi(0≦w≦0.6;0<z<1)、La1−vーwCaSrCo1−zNi(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0<z<1)、La1−vCaMn1−yFe(0≦v≦0.7;0.6≦y<1(特に0.7≦y<1))、La1−wSrMn1−yFe(0≦w≦0.6;0.6≦y<1(特に0.7≦y<1))、La1−vーwCaSrMn1−yFe(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.6≦y<1(特に0.7≦y<1))、La1−vCaMn1−zNi(0≦v≦0.7;0.6≦z<1(特に0.7≦z<1))、La1−wSrMn1−zNi(0≦w≦0.6;0.6≦z<1(特に0.7≦z<1))、La1−vーwCaSrMn1−zNi(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.6≦z<1(特に0.7≦z<1))、La1−vCaCo1−x−yMnFe(0≦v≦0.7;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3);0<y<1;0<x+y<1)、La1−wSrCo1−x−yMnFe(0≦w≦0.6;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3);0<y<1;0<x+y<1)、La1−v−wCaSrCo1−x−yMnFe(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3);0<y<1;0<x+y<1)、La1−vCaCo1−x−zMnNi(0≦v≦0.7;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3);0<z<1;0<x+z<1)、La1−wSrCo1−x−zMnNi(0≦w≦0.6;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3);0<z<1;0<x+z<1)、La1−vーwCaSrCo1−x−zMnNi(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0<x≦0.4(特に0<x≦0.3);0<z<1;0<x+z<1)等が好ましい。
【0037】
また、酸素還元活性及び酸素発生活性の双方が必要とされる場合には、La1−vCaCo1−xMn(0≦v≦0.7;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4))、La1−wSrCo1−xMn(0≦w≦0.6;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4))La1−vーwCaSrCo1−xMn(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4))、La1−vCaMn1−yFe(0≦v≦0.7;0.5≦y≦0.9(特に0.6≦y≦0.8))、La1−wSrMn1−yFe(0≦w≦0.6;0.5≦y≦0.9(特に0.6≦y≦0.8))、La1−vーwCaSrMn1−yFe(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.5≦y≦0.9(特に0.6≦y≦0.8))、La1−vCaMn1−zNi(0≦v≦0.7;0.5≦z≦0.9(特に0.6≦z≦0.8))、La1−wSrMn1−zNi(0≦w≦0.6;0.5≦z≦0.9(特に0.6≦z≦0.8))、La1−vーwCaSrMn1−zNi(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.5≦z≦0.9(特に0.6≦z≦0.8))、La1−vCaCo1−x−yMnFe(0≦v≦0.7;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4);0<y<0.9(特に0<y<0.8);0<x+y<1)、La1−wSrCo1−x−yMnFe(0≦w≦0.6;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4);0<y<0.9(特に0<y<0.8);0<x+y<1)、La1−v−wCaSrCo1−x−yMnFe(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4);0<y<0.9(特に0<y<0.8);0<x+y<1)、La1−vCaCo1−x−zMnNi(0≦v≦0.7;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4);0<z<0.9(特に0<z<0.8);0<x+z<1)、La1−wSrCo1−x−zMnNi(0≦w≦0.6;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4);0<z<0.9(特に0<z<0.8);0<x+z<1)、La1−vーwCaSrCo1−x−zMnNi(0≦v≦0.7;0≦w≦0.6;0.4≦1−v−w<1;0.1≦x≦0.5(特に0.2≦x≦0.4);0<z<0.9(特に0<z<0.8);0<x+z<1)等を使用してもよいし、酸素還元活性が特に必要とされる場合に使用する触媒と、酸素発生活性が特に必要とされる場合に使用する触媒とを組合せて使用してもよい。2種以上のペロブスカイト型酸化物を使用する場合には、各成分の組成比率は要求特性にあわせて適宜設定すればよいが、酸素還元活性及び酸素発生活性の双方が必要とされる場合には、例えば、酸素還元活性が特に必要とされる場合に使用するペロブスカイト型酸化物と、酸素発生活性が特に必要とされる場合に使用するペロブスカイト型酸化物との組成比(酸素還元活性が特に必要とされる場合に使用するペロブスカイト型酸化物/酸素発生活性が特に必要とされる場合に使用するペロブスカイト型酸化物)が、重量比で1/99〜99/1が好ましく、10/90〜90/10がより好ましく、20/80〜80/20がさらに好ましく、30/70〜70/30が特に好ましく、40/60〜60/40が最も好ましい。
【0038】
ペロブスカイト型酸化物の平均粒子径は、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、10nm〜500μmが好ましく、10nm〜100μmがより好ましく、10nm〜50μmがさらに好ましい。ペロブスカイト型酸化物の平均粒子径は、電子顕微鏡観察(SEM又はTEM)により測定する。
【0039】
ペロブスカイト型酸化物の比表面積は、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、0.1〜100m/gが好ましく、1〜100m/gがより好ましい。ペロブスカイト型酸化物の比表面積は、BET法により測定する。
【0040】
上記説明したようなペロブスカイト型酸化物は、例えば、各種の金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属炭酸塩等を、所望の割合で水性溶媒中に溶解し、蒸発乾固させた後、空気中で焼成すること等により得られる。なお、水性溶媒としては、水(特に超純水)が好ましく使用される。また、蒸発乾固及び焼成の条件は、従来から常法にて採用されている条件を採用すればよい。
【0041】
ただし、上記方法のみに限定されず、他の方法によりペロブスカイト型酸化物を得てもよいし、市販又は公知のペロブスカイト型酸化物を使用してもよい。
【0042】
本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒において、ペロブスカイト型酸化物の含有量は、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、電気化学的酸素還元触媒及び/又は酸素発生用触媒の総重量を100重量%として、10〜90重量%が好ましく、20〜60重量%がより好ましい。
【0043】
上記のように、本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒においては、ドープ又は非ドープスズ酸化物とペロブスカイト型酸化物とを組合せて使用することにより、炭素質材料の使用量を低減しても優れた酸素還元活性及び/又は酸素発生活性が得られる。このように、炭素質材料の使用量を低減することができるため、触媒の耐久性(サイクル特性等)を向上させることができる。特に、適切な材料を選択すれば、炭素質材料を一切使用しないカーボンフリーの触媒を提供することも可能である。
【0044】
<他の成分>
本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒は、上記したドープ又は非ドープスズ酸化物と、ペロブスカイト型酸化物とのみから構成されていてもよいが、他の成分が含まれていてもよい。このような他の成分としては、例えば、炭素質材料、貴金属材料等が挙げられる。
【0045】
炭素質材料
本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒において、炭素質材料は、通常担体として使用する。本発明においては、上記のドープ又は非ドープスズ酸化物と、ペロブスカイト型酸化物とを選択することにより、十分な導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性が得られるが、より導電性及び酸素還元活性の改善が必要とされる場合には、炭素質材料が使用され得る。
【0046】
炭素質材料としては、従来から酸素を電気化学的に還元するための触媒の導電性担体に使用されるものであれば特に制限はなく、導電性炭素粒子、導電性炭素繊維等の導電性炭素材料が好ましく使用され得る。
【0047】
導電性炭素粒子としては、公知又は市販の材料を使用できる。例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック(Vulcan等)、ケッチェンブラック、アセチレンブラック(Denkablack等)、ランプブラック等のカーボンブラック;黒鉛化カーボンブラック(Tokablack等);黒鉛;グラフェン;活性炭等が挙げられ、比表面積が大きく、より高導電性及び高酸素還元活性が得られる観点から、カーボンブラック、黒鉛化カーボンブラック等が好ましい。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0048】
導電性炭素粒子の平均粒子径は、10nm〜100μmが好ましく、20nm〜10μmがより好ましい。なお、カーボンブラックを用いる場合には、例えば、BET法による比表面積が30〜2000m/g程度が好ましく、50〜1500m/g程度がより好ましい。この様なカーボンブラックの具体例としては、例えば、Denkablack(電気化学工業(株)製)やVulcan XC-72R(Cabot社製)の商標名で市販されているものを用いることができる。導電性炭素粒子の平均粒子径は走査型電子顕微鏡(SEM又はTEM)等により測定した画像等により測定する。また、導電性炭素粒子の比表面積はBET法により測定する。
【0049】
導電性炭素繊維としては、特に制限されるわけではないが、例えば、気相成長法炭素繊維(VGCF(登録商標))、カーボンナノチューブ、カーボンナノカップ、カーボンナノウォール等が挙げられる。これらの導電性炭素繊維は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
導電性炭素繊維の平均繊維径は、触媒と複合体化させやすい程度の大きさである観点から、50〜450nm程度が好ましく、100〜250nm程度がより好ましい。平均繊維長は限定的でなく、4〜500μm程度、が好ましく、4〜300μm程度がより好ましい。また、平均アスペクト比は、5〜600程度が好ましく、10〜500程度がより好ましい。また、導電性炭素繊維の繊維径、繊維長及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM又はTEM)等により測定した画像等により測定する。
【0051】
貴金属材料
本発明の酸素の電気化学的還元用触媒においては、上記のドープ又は非ドープスズ酸化物と、ペロブスカイト型酸化物とを選択することにより、十分な導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性が得られるが、より導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の改善が必要とされる場合には、貴金属材料が使用され得る。つまり、従来の触媒における炭素質材料の代替品として使用することも可能である。これにより、炭素質材料の使用量をさらに低減し、耐久性(サイクル特性等)を向上させることができる。具体的には、炭素質材料を一切使用しないカーボンフリーの触媒を提供することも可能である。
【0052】
貴金属材料としては、特に制限されないが、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、白金、白金合金、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム等の触媒金属等が挙げられ、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム等が好ましい。白金合金としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄、コバルト等の金属と、白金との合金等が挙げられる。このように、貴金属材料として触媒金属を担持させると、より触媒活性を向上させることができるが、本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒自身が高い触媒活性を有しているため、触媒金属の使用量を抑制することができ、より安価な触媒とすることができる。
【0053】
貴金属材料の平均粒子径は、導電性、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、1〜100nmが好ましい。貴金属材料の平均粒子径は、電子顕微鏡観察(SEM又はTEM)により測定する。
【0054】
上記説明したような他の成分の使用量は、本発明の効果を損なわない範囲内において、本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒中に含ませることができる。具体的には、他の成分の使用量は、0.1〜50重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましい。特に、炭素質材料を使用する場合であっても、炭素質材料の含有量をできるだけ少なく(1〜20重量%、特に2〜10重量%)することが好ましい。このように、炭素質材料を少量とすれば、炭素質材料を含んでいても、触媒の腐食劣化をより抑制することができ、本発明の効果を損なわない。
【0055】
<電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生触媒>
本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒の形状は特に制限はなく、粉末状、粒子状、繊維状、板状等種々多様な形状を採用することができる。
【0056】
本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒の比表面積は、特に制限されないが、酸素還元活性及び酸素発生活性の観点から、5〜500m/gが好ましく、10〜500m/gがより好ましい。比表面積は、BET法により測定する。
【0057】
貴金属材料を本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒に担持させる方法は特に制限はなく、常法を採用することができる。例えば、ペロブスカイト型酸化物に貴金属材料を常法で担持させた後に、ドープ又は非ドープスズ酸化物と常法で混合すればよい。
【0058】
このような本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒は、酸素を水酸化物イオンに還元する酸素還元活性のみならず、その逆反応である酸素発生活性も有し得るため、酸素を活物質として使用する電池の電極用触媒として好適に使用され得る。具体的には、金属空気電池又はアルカリ形燃料電池の空気極触媒として好適に使用され得る。
【0059】
2.電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒の製造方法
本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒の製造方法は、特に制限されることはなく、上記各成分を常法で混合すればよい。
【0060】
混合する際のドープ又は非ドープスズ酸化物とペロブスカイト型酸化物と(必要に応じて炭素質材料、貴金属材料等の他の成分と)の混合比は特に制限されず、上記した組成範囲となるように投入すればよい。
【0061】
混合方法は特に制限されず、乳鉢混合、メカニカルミリング処理(ボールミル混合等)、各成分を溶媒中に分散させた後に混合する方法、各成分を溶媒中で一度に分散させて混合する方法等を採用することができる。各成分の溶媒への分散及び混合を行う場合には、対象物に超音波を照射する方法が、分散性の向上と均一な混合の観点からより好ましい。
【0062】
なお、本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒において、炭素質材料を含ませる場合には、まず、ペロブスカイト型酸化物と炭素質材料とをメカニカルミリング処理に供した後に、当該メカニカルミリング処理物とドープ又は非ドープスズ酸化物とを混合することが好ましい。
【0063】
また、本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒において、貴金属材料を含ませる場合には、まず、ペロブスカイト型酸化物に貴金属材料を担持した後に、当該貴金属担持物とドープ又は非ドープスズ酸化物とを混合することが好ましい。
【0064】
また、本発明の触媒を作製する際に、導電性酸化物を添加すること等により、導電性酸化物への担持触媒を作製することも可能である。例えば、本発明の触媒の場合、金属硝酸塩等の前駆体を所定の割合で混合し、焼成してもよい。この方法では、触媒と導電性酸化物担体とのミクロレベルでの複合化も可能となり、本発明の触媒のさらなる活性向上も期待できる。
【0065】
3.空気極及び電池
本発明の空気極は、上記した本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒を用いた金属空気電池又はアルカリ形燃料電池用空気極である。
【0066】
このような空気極は、触媒として本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒を用いること以外は従来の空気極と同様とすることができるが、例えば、本発明の空気極は、空気極触媒層を有し得る。
【0067】
空気極触媒層の厚さについては特に限定的ではないが、通常、0.1〜100μm程度とすることができる。また、触媒量としても特に制限はないが、例えば、0.01〜20mg/cm程度とすることができる。
【0068】
このような空気極触媒層の形成方法としては、特に制限されないが、ガス拡散層、集電体等に、本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒と樹脂溶液とを混合して作製した触媒インクを塗布及び乾燥する方法等によって空気極触媒層を作製し得る。
【0069】
その他の空気極の構成については公知の空気極と同様にし得る。例えば、空気極の触媒層側にカーボンペーパー、カーボンクロス、金属メッシュ、金属焼結体、発泡金属板、金属多孔体等の集電材を配置し、撥水性膜、拡散膜、空気分配層等を配置した構造ともし得る。
【0070】
空気極の上には、電解液であるアルカリ水溶液を介して、金属空気電池においては金属負極が設置され、アルカリ形燃料電池では燃料極が設置され得る。
【0071】
電解液として用いられるアルカリ水溶液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを含む水溶液を用い得る。アルカリ水溶液の濃度については特に限定的ではないが、例えば、アルカリ水溶液の総重量を100重量%として、アルカリ金属水酸化物を0.1〜40重量%程度とすることができる。
【0072】
金属空気電池における金属負極としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、鉄等の金属を使用し得る。具体的な金属負極の構造は、公知の金属空気電池と同様とすることができる。
【0073】
アルカリ形燃料電池における燃料極の構造についても特に限定はなく、公知のアルカリ形燃料電池の構造と同様とすることができる。燃料極用の触媒としても、従来から知られている種々の金属、金属合金、金属錯体等を使用することができる。使用できる金属種としては、従来の固体高分子形燃料電池(PEFC)で使用される白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、金等の貴金属の他、ニッケル、銀、コバルト、鉄、銅、亜鉛等の卑金属等も挙げられる。これらの金属のなかから選ばれた単一の金属触媒や金属錯体、二種以上の金属の任意の組合せからなる合金や金属錯体の複合体を使用し得る。また、上記から選ばれる金属触媒と別の金属酸化物との複合触媒、触媒微粒子をカーボン、金属酸化物等の担体上に分散させた担持触媒として使用することもできる。
【0074】
一方、アルカリ形燃料電池用として、電解質としてアルカリ電解液ではなく電解質膜を使用する場合には、本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒と高分子電解質膜とを公知の方法により一体化させて使用することができる。本発明の電気化学的酸素還元及び/又は酸素発生用触媒と電解質材料、炭素材料等を水や溶剤等で分散させたものを、電解質膜に塗布したり、基材に塗布した触媒層を電解質膜に転写させたり等により電解質膜に触媒層を形成してもよい。その他成分は上記したものを採用することができる。
【0075】
高分子電解質膜としては、パーフルオロカーボン系、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体系、ポリベンズイミダゾール系をはじめとする各種イオン交換樹脂膜、無機高分子イオン交換膜、有機−無機複合体高分子イオン交換膜等を使用することができる。
【0076】
得られた膜−電極接合体の両面をカーボンペーパー、カーボンクロス等の集電体で挟んでセルに組み込むことによって、アルカリ形燃料電池セルを作製することも可能である。
【0077】
上記した構造の電池では、いずれの場合においても、空気極側には酸素又は空気を供給又は自然拡散させ得る。また、アルカリ形燃料電池には、燃料極側に燃料となる物質を供給し得る。燃料物質としては、水素ガスの他、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、ギ酸、水素化ホウ素塩、ヒドラジン、糖等の溶液を使用し得る。
【0078】
本発明の燃料電池の作動温度は、使用する電解質膜によって異なるが、通常0〜100℃程度であり、好ましくは10〜80℃程度である。
【実施例】
【0079】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下で用いた各成分のうち、アンチモンドープ酸化スズ、カーボンブラック、硝酸ランタン六水和物、酸化ランタン、硝酸カルシウム四水和物、硝酸マンガン六水和物、酸化マンガン、硝酸コバルト六水和物、炭酸ストロンチウム、テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム等は市販品を使用した。
アンチモンドープ酸化スズ(ATO):平均粒子径20nm、比表面積42m/g
カーボンブラック(Denkablack;DB):平均粒子径35nm、比表面積68m/g
黒鉛化カーボンブラック(Tokablack#3855;TB):平均粒子径25nm、比表面積90m/g。
【0080】
[合成例1:La0.6Ca0.4Mn0.8Co0.2(LCMCO1)の合成]
硝酸ランタン六水和物La(NO3)3・6 H2O、硝酸カルシウム四水和物Ca(NO3)2・4 H2O、硝酸マンガン六水和物Mn(NO3)2・6 H2O、及び硝酸コバルト六水和物Co(NO3)2・6 H2Oを各金属のモル比が6:4:8:2となるように混合して2 mol/Lクエン酸水溶液に溶解し、80℃で8時間撹拌して溶媒を蒸発させた。その後、空気中、700℃で7時間焼成し、La0.6Ca0.4Mn0.8Co0.2(LCMCO1)を得た。得られたLCMCO1の比表面積は17m/gであった。
【0081】
[合成例2:La0.6Ca0.4CoO(LCCO)の合成]
硝酸ランタン六水和物La(NO3)3・6 H2O、硝酸カルシウム四水和物Ca(NO3)2・4 H2O、及び硝酸コバルト六水和物Co(NO3)2・6 H2Oを各金属のモル比が6:4:10となるように混合して2 mol/Lクエン酸水溶液に溶解し、80℃で8時間撹拌して溶媒を蒸発させた。その後、空気中、700℃で7時間焼成し、La0.6Ca0.4CoO(LCCO)を得た。得られたLCCOの比表面積は16m/gであった。
【0082】
[合成例3:La0.6Ca0.4Mn0.5Co0.5(LCMCO2)の合成]
硝酸ランタン六水和物La(NO3)3・6 H2O、硝酸カルシウム四水和物Ca(NO3)2・4 H2O、硝酸マンガン六水和物Mn(NO3)2・6 H2O、及び硝酸コバルト六水和物Co(NO3)2・6 H2Oを各金属のモル比が6:4:5:5となるように混合して2 mol/Lクエン酸水溶液に溶解し、80℃で8時間撹拌して溶媒を蒸発させた。その後、空気中、700℃で7時間焼成し、La0.6Ca0.4Mn0.5Co0.5(LCMCO2)を得た。得られたLCMCO2の比表面積は34m/gであった。
【0083】
[合成例4:La0.6Ca0.4Mn0.3Co0.7(LCMCO3)の合成]
硝酸ランタン六水和物La(NO3)3・6 H2O、硝酸カルシウム四水和物Ca(NO3)2・4 H2O、硝酸マンガン六水和物Mn(NO3)2・6 H2O、及び硝酸コバルト六水和物Co(NO3)2・6 H2Oを各金属のモル比が6:4:3:7となるように混合して2 mol/Lクエン酸水溶液に溶解し、80℃で8時間撹拌して溶媒を蒸発させた。その後、空気中、700℃で7時間焼成し、La0.6Ca0.4Mn0.3Co0.7(LCMCO3)を得た。得られたLCMCO3の比表面積は27m/gであった。
【0084】
[合成例5:La0.6Ca0.4MnO(LCMO)の合成]
硝酸ランタン六水和物La(NO3)3・6 H2O、硝酸カルシウム四水和物Ca(NO3)2・4 H2O、及び硝酸マンガン六水和物Mn(NO3)2・6 H2Oを各金属のモル比が6:4:10となるように混合して2 mol/Lクエン酸水溶液に溶解し、80℃で8時間撹拌して溶媒を蒸発させた。その後、空気中、700℃で7時間焼成し、La0.6Ca0.4MnO(LCMO)を得た。得られたLCMOの比表面積は23m/gであった。
【0085】
[合成例6:La0.7Sr0.3MnO(LSMO)の合成]
酸化ランタンLa2O3、炭酸ストロンチウムSrCO3、酸化マンガンMn2O3を各金属のモル比が7:3:10となるように混合し、空気中、1200℃で12時間の焼成を3回繰り返し、La0.7Sr0.3MnO(LSMO)を得た。得られたLSMOの比表面積は2m/gであった。
【0086】
[比較例1:LCMCO1]
合成例1で得たLa0.6Ca0.4Mn0.8Co0.2(LCMCO1)をそのまま比較例1の触媒として使用した。
【0087】
[比較例2:LCMCO1/DB]
合成例1で得たLa0.6Ca0.4Mn0.8Co0.2(LCMCO1)と、カーボンブラック(Denkablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、比較例2の触媒を得た(LCMCO1とDenkablackとの重量比は5:1)。
【0088】
[実施例1:LCMCO1/ATO(1:1)]
合成例1で得たLa0.6Ca0.4Mn0.8Co0.2(LCMCO1)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例1の触媒(カーボンフリー)を得た(LCMCO1とATOの重量比は1:1)。
【0089】
[実施例2:LCMCO1/ATO(1:3)]
合成例1で得たLa0.6Ca0.4Mn0.8Co0.2(LCMCO1)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例2の触媒(カーボンフリー)を得た(LCMCO1とATOの重量比は1:3)。
【0090】
[比較例3:LSMO/DB(5:1)]
合成例6で得たLa0.7Sr0.3MnO(LSMO)と、カーボンブラック(Denkablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、比較例3の触媒を得た(LSMOとDenkablackの重量比は5:1)。
【0091】
[実施例3:LSMO/ATO(3:1)]
合成例6で得たLa0.7Sr0.3MnO(LSMO)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例3の触媒(カーボンフリー)を得た(LSMOとATOの重量比は3:1)。
【0092】
[実施例4:LSMO/ATO(1:1)]
合成例6で得たLa0.7Sr0.3MnO(LSMO)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例4の触媒(カーボンフリー)を得た(LSMOとATOの重量比は1:1)。
【0093】
[実施例5:LSMO/ATO(1:3)]
合成例6で得たLa0.7Sr0.3MnO(LSMO)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例5の触媒(カーボンフリー)を得た(LSMOとATOの重量比は1:3)。
【0094】
[実施例6:LCCO/ATO(1:3)]
合成例2で得たLa0.6Ca0.4CoO(LCCO)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例6の触媒(カーボンフリー)を得た(LCCOとATOの重量比は1:3)。得られた触媒の比表面積は36m/gであった。
【0095】
[実施例7:LCMCO2/ATO(1:3)]
合成例3で得たLa0.6Ca0.4Mn0.5Co0.5(LCMCO2)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例7の触媒(カーボンフリー)を得た(LCMCO2とATOの重量比は1:3)。
【0096】
[実施例8:LCMO/ATO(1:3)]
合成例5で得たLa0.6Ca0.4MnO(LCMO)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例8の触媒(カーボンフリー)を得た(LCMOとATOの重量比は1:3)。得られた触媒の比表面積は37m/gであった。
【0097】
[実施例9:LCCO/LCMO/ATO(1:1:3)]
合成例2で得たLa0.6Ca0.4CoO(LCCO)と、合成例5で得たLa0.6Ca0.4MnO(LCMO)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例9の触媒(カーボンフリー)を得た(LCCOとLCMOとATOの重量比は1:1:3)。得られた触媒の比表面積は34m/gであった。
【0098】
[実施例10:LCCO/LCMO/ATO(1:1:6)]
合成例2で得たLa0.6Ca0.4CoO(LCCO)と、合成例5で得たLa0.6Ca0.4MnO(LCMO)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例10の触媒(カーボンフリー)を得た(LCCOとLCMOとATOの重量比は1:1:6)。
【0099】
[比較例4:LCCO/DB+LCMO/DB(1:1)]
合成例2で得たLa0.6Ca0.4CoO(LCCO)と、カーボンブラック(Denkablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、LCCO/DB混合物を得た(LCCOとDenkablackの重量比は5:1)。次に、合成例5で得たLa0.6Ca0.4MnO(LCMO)と、カーボンブラック(Denkablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、LCMO/DB混合物を得た(LCMOとDenkablackの重量比は5:1)。得られたLCCO/DB混合物と、LCMO/DB混合物とを、重量比で1:1となるように、乳鉢にて30分混合し、比較例4の触媒を得た。
【0100】
[比較例5:LSMO]
合成例6で得たLa0.7Sr0.3MnO(LSMO)をそのまま比較例5の触媒として使用した。
【0101】
[比較例6:ATO]
アンチモンドープ酸化スズ(ATO)をそのまま比較例6の触媒として使用した。
【0102】
[実施例11:LSMO/DB/ATO(42:8:50)]
合成例6で得たLa0.7Sr0.3MnO(LSMO)と、カーボンブラック(Denkablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、LSMO/DB混合物を得た。得られたLSMO/DB混合物と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例11の触媒を得た(LSMOとDBとATOの重量比は42:8:50)。
【0103】
[実施例12:LSMO/Pd/ATO(47:5:48)]
テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム(NH4)2[PdCl4](Pd重量として10mg)をエチレングリコールに50mLに溶解し、撹拌しながら合成例6で得たLa0.7Sr0.3MnO(LSMO)90mgとポリビニルピロリドン25mgを添加した後、0.1mol/L水酸化ナトリウム10mLを滴下し、窒素中198℃で4時間還流した。反応終了後、粉末をろ取し、純水で洗浄、乾燥することにより、LSMO/Pd混合物を得た。得られたLSMO/Pd混合物と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを、乳鉢にて30分混合し、実施例12の触媒(カーボンフリー)を得た(LSMOとPdとATOの重量比は47:5:48)。
【0104】
[比較例7:LSMO/Pd(90:10)]
テトラクロロパラジウム(II)酸アンモニウム(NH4)2[PdCl4](Pd重量として10mg)をエチレングリコールに50mLに溶解し、撹拌しながら合成例6で得たLa0.7Sr0.3MnO(LSMO)90mgとポリビニルピロリドン25mgを添加した後、0.1mol/L水酸化ナトリウム10mLを滴下し、窒素中198℃で4時間還流した。反応終了後、粉末をろ取し、純水で洗浄、乾燥することにより、比較例7の触媒(カーボンフリー)を得た(LSMOとPdの重量比は90:10)。
【0105】
[製造例1:電極の作製]
実施例1〜12又は比較例1〜7の触媒を直径4mmのグラッシーカーボン製回転ディスク電極上に固定し、触媒活性評価用の電極として、後述の試験例1に使用した。
【0106】
[試験例1:初期酸素還元活性(その1)]
電解液を1mol/Lの水酸化カリウム水溶液、作用極を実施例1〜2及び比較例1〜2にて作製した触媒を用いて作製した電極、対極を白金板、参照極を標準水素電極として電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させつつ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度10mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位を0.4〜1.2Vの間で掃引し、回転ディスク電極における電流を測定した。結果を図1に示す。図1中の右上から左下向きの矢印は、この結果が1.2Vから0.4Vへの電位走査で得られた電流値であることを示している。この電流値が小さい(負の値で絶対値が大きい)ほど、酸素還元活性が高いことを示している。なお、図1において、各ラインは、電位0.7V付近において、上から順に比較例1、実施例1、実施例2、比較例2である。
【0107】
その結果、導電性担体を使用しない場合(比較例1)は初期酸素還元活性も著しく低下するが、導電性担体としてATOを使用した場合(実施例1、実施例2)には、カーボンブラックを用いた場合(比較例2)と遜色のない初期酸素還元活性が得られた。このことから、導電性担体としてATOを使用した触媒を空気極触媒として使用できる。
【0108】
[試験例2:初期酸素還元活性(その2)]
実施例3〜5及び比較例3の触媒について、回転ディスク電極を用いた試験例1と同様の電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させつつ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度10mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位を0.4〜1.2Vの間で掃引し、回転ディスク電極における電流(酸素の還元電流)を測定した。結果を図2に示す。図2中の右上から左下向きの矢印は、この結果が1.2Vから0.4Vへの電位走査で得られた電流値であることを示している。この電流値が小さい(負の値で絶対値が大きい)ほど、酸素還元活性が高いことを示している。なお、図2において、各ラインは、電位0.4V付近において、上から順に実施例3、実施例5、比較例3、実施例4である。
【0109】
その結果、導電性担体としてATOを使用した場合(実施例3、実施例4、実施例5、特に実施例4)には、優れた初期酸素還元活性が得られた。このことから、ペロブスカイト型酸化物としてLSMOを使用した場合にも、導電性担体としてATOを使用した触媒を空気極触媒として使用できる。
【0110】
[試験例3:初期酸素還元活性(その3)]
実施例2及び6〜8の触媒について、回転ディスク電極を用いた試験例1と同様の電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させつつ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度10mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位を0.4〜1.2Vの間で掃引し、回転ディスク電極における電流(酸素の還元電流)を測定した。結果を図3に示す。図3中の右上から左下向きの矢印は、この結果が1.2Vから0.4Vへの電位走査で得られた電流値であることを示している。この電流値が小さい(負の値で絶対値が大きい)ほど、酸素還元活性が高いことを示している。なお、図3において、各ラインは、電位0.4V付近において、上から順に実施例6、実施例7、実施例8、実施例2である。
【0111】
その結果、導電性担体としてATOを使用した場合(実施例6、実施例7、実施例8、特に実施例8)には、優れた初期酸素還元活性が得られた。このことから、ペロブスカイト型酸化物として試験例1及び2とは異なる種々のペロブスカイト型酸化物を使用した場合にも、導電性担体としてATOを使用した触媒を空気極触媒として使用できる。
【0112】
[試験例4:初期酸素還元活性(その4)]
実施例6及び8〜10の触媒について、回転ディスク電極を用いた試験例1と同様の電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させつつ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度10mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位を0.4〜1.2Vの間で掃引し、回転ディスク電極における電流(酸素の還元電流)を測定した。結果を図4に示す。図4中の右上から左下向きの矢印は、この結果が1.2Vから0.4Vへの電位走査で得られた電流値であることを示している。この電流値が小さい(負の値で絶対値が大きい)ほど、酸素還元活性が高いことを示している。なお、図4において、各ラインは、電位0.4V付近において、上から順に実施例6、実施例10、実施例9、実施例8である。
【0113】
その結果、導電性担体としてATOを使用した場合には、優れた初期酸素還元活性が得られた。特に、LCMOを使用した場合(実施例8)には優れた酸素還元活性が得られるとともに、LCCOにLCMOを混合すること(実施例9、実施例10)で、LCCO単独の場合(実施例6)よりもさらに酸素還元活性を高くすることができた。このことから、種々のペロブスカイト型酸化物を組合せることで、所望の酸素還元活性が得られた。
【0114】
[試験例5:初期酸素発生活性]
実施例6及び8〜10の触媒について、回転ディスク電極を用いた試験例1と同様の電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させつつ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度10mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位を1.2〜2.0Vの間で掃引し、回転ディスク電極における電流(酸素発生電流)を測定した。結果を図5に示す。図5中の左下から右上向きの矢印は、この結果が1.2Vから2.0Vへの電位走査で得られた電流値であることを示している。この電流値が大きいほど、酸素発生活性が高いことを示している。なお、図5において、各ラインは、電位2.0V付近において、上から順に実施例6、実施例9、実施例10、実施例8である。
【0115】
その結果、導電性担体としてATOを使用した場合には、優れた初期酸素発生活性が得られた。特に、LCCOを使用した場合(実施例6)には優れた酸素還元活性が得られるとともに、LCMOにLCCOを混合すること(実施例9、実施例10)で、LCMO単独の場合(実施例8)よりもさらに酸素発生活性を高くすることができた。このことから、種々のペロブスカイト型酸化物を組合せることで、所望の酸素発生活性が得られた。
【0116】
[試験例6:サイクル特性(その1)]
比較例4及び実施例9の触媒について、回転ディスク電極を用いた試験例1と同様の電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度100mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位掃引を0.4〜1.8Vの間で30サイクル繰り返した。2、5、10、20及び30サイクル目で得られた0.4 V vs. RHEでの酸素還元電流密度を表1にまとめた。また、2サイクル目の酸素還元電流密度を100%とした時の各サイクル後の酸素還元電流密度の相対比を維持率として合わせて表1に示した。
【0117】
【表1】
【0118】
その結果、担体としてカーボンブラックを使用した場合(比較例4)には、その劣化が激しく、初期サイクルから酸素還元電流密度が低下し、10サイクル後には2サイクル目で得られた電流密度の70%未満となった。これに対して、担体としてATOを使用した場合(実施例9)には、初期サイクルにおける酸素還元電流密度の低下を抑制することができ、30サイクル後にも2サイクル目で得られた電流密度の90%以上を維持した。このことから、担体としてATOを使用することにより、サイクル特性を劇的に向上させることができた。
【0119】
[試験例7:初期酸素還元活性(その5)]
比較例3、5〜6、及び実施例4、11の触媒について、回転ディスク電極を用いた試験例1と同様の電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度10mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位を0.4〜1.2Vの間で掃引し、回転ディスク電極における電流(酸素の還元電流)を測定した。結果を図6に示す。図6中の右上から左下向きの矢印は、この結果が1.2Vから0.4Vへの電位走査で得られた電流値であることを示している。この電流値が小さい(負の値で絶対値が大きい)ほど、酸素還元活性が高いことを示している。図6において、各ラインは、電位0.4V付近において、上から順に比較例5、比較例6、実施例4、比較例3、実施例11である。
【0120】
その結果、ペロブスカイト型酸化物とATOとを含有する本発明の触媒において、カーボンを少量混合することにより(実施例11)、カーボンを担体とする従来の触媒(比較例3)をさらに凌駕する初期酸素還元活性が得られた。
【0121】
[試験例8:初期酸素還元活性(その6)]
比較例3、7、及び実施例12の触媒について、回転ディスク電極を用いた試験例1と同様の電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度10mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位を0.05〜1.2Vの間で掃引し、回転ディスク電極における電流(酸素の還元電流)を測定した。結果を図7に示す。図7中の右上から左下向きの矢印は、この結果が1.2Vから0.4Vへの電位走査で得られた電流値であることを示している。この電流値が小さい(負の値で絶対値が大きい)ほど、酸素還元活性が高いことを示している。図7において、各ラインは、電位0.05V付近において、上から順に比較例7、比較例3、実施例12である。
【0122】
その結果、ペロブスカイト型酸化物とATOとを含有する本発明の触媒において、Pdを少量混合することにより(実施例12)、カーボンを担体とする従来の触媒(比較例3)をさらに凌駕する初期酸素還元活性が得られた。つまり、カーボンフリーで、カーボンを担体とする従来の触媒をさらに凌駕する初期酸素還元活性が得られた。
【0123】
[試験例9:サイクル特性(その2)]
比較例3及び実施例11、12の触媒について、回転ディスク電極を用いた試験例1と同様の電気化学セルを作製し、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させ、酸素雰囲気下、液温25℃、走査速度100mV/sの条件で、回転ディスク電極の電位掃引を0.05〜1.8Vの間で100サイクル繰り返した。上記サイクル試験の前後に同一の回転ディスク電極と電気化学セルを用い、回転電極装置により電極を2500rpmで回転させ、アルゴン雰囲気下、液温25℃、走査速度20mV/sの条件で、ディスク電極の電位を0.05〜1.2Vの間で掃引し、サイクリックボルタモグラムを測定した。サイクル試験の前後のサイクリックボルタモグラムを図8〜10に示す。図8は比較例3、図9は実施例11、図10は実施例12の結果を示す。
【0124】
その結果、担体としてカーボンブラックを使用した場合には(図8)、サイクル試験前後でのサイクリックボルタモグラムが大きく変化し電流値が著しく減少していることから、触媒の劣化が激しいことが明らかである。それに対して、担体としてATOを使用した場合には(図9、10)、サイクル試験前後でのサイクリックボルタモグラムに大きな変化が見られず、触媒の劣化が抑えられた。
【0125】
[比較例8:LCMCO3/DB]
合成例4で得たLa0.6Ca0.4Mn0.3Co0.7(LCMCO3)と、カーボンブラック(Denkablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、比較例8の触媒を得た(LCMCO3とDenkablackの重量比は5:1)。
【0126】
[比較例9:LCMCO3/TB]
合成例4で得たLa0.6Ca0.4Mn0.3Co0.7(LCMCO3)と、黒鉛化カーボンブラック(Tokablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、比較例9の触媒を得た(LCMCO3とTokablackの重量比は5:1)。
【0127】
[比較例10:LCCO/DB]
合成例2で得たLa0.6Ca0.4CoO(LCCO)と、カーボンブラック(Denkablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、比較例10の触媒を得た(LCCOとDenkablackの重量比は5:1)。
【0128】
[比較例11:LCCO/TB]
合成例2で得たLa0.6Ca0.4CoO(LCCO)と、黒鉛化カーボンブラック(Tokablack)とを、遊星型ボールミル(フリッチュジャパン製のP−7)にて、400rpmで30分混合し、比較例11の触媒を得た(LCCOとTokablackの重量比は5:1)。
【0129】
[比較例12:LCMCO3/DB空気極]
比較例8で得たLCMCO3/DB触媒を純水中に分散させた後、PTFEディスパージョンを添加し、80℃で加熱攪拌して触媒インクを作製した。この触媒インクをカーボンクロス上に塗布、乾燥後、窒素雰囲気中360℃で1時間熱処理することにより比較例12の空気極を得た(LCMCO3とDBの重量比は5:1、PTFE含量は重量比で10%)。
【0130】
[比較例13:LCMCO3/TB空気極]
比較例9で得たLCMCO3/TB触媒を純水中に分散させた後、PTFEディスパージョンを添加し、80℃で加熱攪拌して触媒インクを作製した。この触媒インクをカーボンクロス上に塗布、乾燥後、窒素雰囲気中360℃で1時間熱処理することにより比較例13の空気極を得た(LCMCO3とTBの重量比は5:1、PTFE含量は重量比で10%)。
【0131】
[比較例14:LCCO/DB空気極]
比較例10で得たLCCO/DB触媒を純水中に分散させた後、PTFEディスパージョンを添加し、80℃で加熱攪拌して触媒インクを作製した。この触媒インクをカーボンクロス上に塗布、乾燥後、窒素雰囲気中360℃で1時間熱処理することにより比較例14の空気極を得た(LCCOとDBの重量比は5:1、PTFE含量は重量比で10%)。
【0132】
[比較例15:LCCO/TB空気極]
比較例11で得たLCCO/TB触媒を純水中に分散させた後、PTFEディスパージョンを添加し、80℃で加熱攪拌して触媒インクを作製した。この触媒インクをカーボンクロス上に塗布、乾燥後、窒素雰囲気中360℃で1時間熱処理することにより比較例15の空気極を得た(LCCOとTBの重量比は5:1、PTFE含量は重量比で10%)。
【0133】
[実施例13:LCMCO3/ATO(1:1)空気極]
合成例4で得たLa0.6Ca0.4Mn0.3Co0.7(LCMCO3)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを重量比1:1になるように純水中に分散させた後、PTFEディスパージョンを添加し、80℃で加熱攪拌して触媒インクを作製した。この触媒インクをカーボンクロス上に塗布、乾燥後、窒素雰囲気中360℃で1時間熱処理することにより実施例13の空気極を得た(LCMCO3とATOの重量比は1:1、PTFE含量は重量比で5%)。
【0134】
[実施例14:LCMCO3/ATO(1:2)空気極]
合成例4で得たLa0.6Ca0.4Mn0.3Co0.7(LCMCO3)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを重量比1:2になるように純水中に分散させた後、PTFEディスパージョンを添加し、80℃で加熱攪拌して触媒インクを作製した。この触媒インクをカーボンクロス上に塗布、乾燥後、窒素雰囲気中360℃で1時間熱処理することにより実施例14の空気極を得た(LCMCO3とATOの重量比は1:2、PTFE含量は重量比で5%)。
【0135】
[実施例15:LCMCO3/ATO(1:3)空気極]
合成例4で得たLa0.6Ca0.4Mn0.3Co0.7(LCMCO3)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを重量比1:3になるように純水中に分散させた後、PTFEディスパージョンを添加し、80℃で加熱攪拌して触媒インクを作製した。この触媒インクをカーボンクロス上に塗布、乾燥後、窒素雰囲気中360℃で1時間熱処理することにより実施例15の空気極を得た(LCMCO3とATOの重量比は1:3、PTFE含量は重量比で5%)。
【0136】
[実施例16:LCCO/ATO(1:2)空気極]
合成例2で得たLa0.6Ca0.4CoO(LCCO)と、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)とを重量比1:2になるように純水中に分散させた後、PTFEディスパージョンを添加し、80℃で加熱攪拌して触媒インクを作製した。この触媒インクをカーボンクロス上に塗布、乾燥後、窒素雰囲気中360℃で1時間熱処理することにより実施例16の空気極を得た(LCCOとATOの重量比は1:2、PTFE含量は重量比で5%)。
【0137】
[試験例10:サイクル特性(その3)]
作用極に実施例14及び比較例12〜13にて作製した空気極、対極に亜鉛板、参照極に水銀/酸化水銀(Hg/HgO)を用い、アニオン交換膜を隔膜、0.25mol/L酸化亜鉛を含む4mol/L水酸化カリウム水溶液を電解液とし、空気極側の開口部から大気を取り込む構造の亜鉛空気電池を作製した。この亜鉛空気電池を25℃に保温しつつ電流密度4mA/cmで1時間ずつ充電・放電を10サイクル繰り返し、1時間経過時の電位を充放電回数に対してプロットした。結果を図11に示す。
【0138】
図11に示す結果では、充電電位が低く、放電電位が高いほど高性能であることを示している。導電性担体としてカーボンブラックを用いた空気極(比較例12)や黒鉛化カーボンブラックを用いた空気極(比較例13)では、充放電の繰り返しにより、充電電位の急上昇と放電電位のわずかな低下が認められ、明らかに電極が劣化していることが確認された。これに対して、導電性担体としてATOを使用した空気極(実施例14)では、充放電試験を10サイクル実施した後も充放電ともに一定の電位を維持しており、電極の劣化は認められなかった。このことから、担体としてATOを使用した触媒を空気極に用いることにより、亜鉛空気電池の充放電サイクル特性を劇的に向上させることができた。
【0139】
[試験例11:サイクル特性(その4)]
実施例13〜15にて作製した空気極について、試験例10と同様の亜鉛空気電池を作製した。この亜鉛空気電池を25℃に保温しつつ電流密度10mA/cmで1時間ずつ充電・放電を10サイクル繰り返し、1時間経過時の電位を充放電回数に対してプロットした。結果を図12に示す。
【0140】
図12では、導電性担体としてATOを使用した空気極では、LCMCO3とATOとの混合比が1:1(実施例13)、1:2(実施例14)、1:3(実施例15)のいずれの場合にも、充放電試験を10サイクル実施中に顕著な電位変化は見られず、電極の劣化は確認されなかった。このことから、触媒担体としてATOを使用することにより、亜鉛空気電池の空気極における充放電サイクル特性を劇的に向上させることができた。
【0141】
[試験例12:サイクル特性(その5)]
実施例16及び比較例14〜15にて作製した空気極について、試験例10と同様の亜鉛空気電池を作製した。この亜鉛空気電池を25℃に保温しつつ電流密度4mA/cmで1時間ずつ充電・放電を10サイクル繰り返した後、さらに、10mA/cmで1時間ずつ充電・放電を10サイクル繰り返し、1時間経過時の電位を充放電回数に対してプロットした。結果を図13に示す。
【0142】
図13では、導電性担体としてカーボンブラックを用いた空気極(比較例14)や黒鉛化カーボンブラックを用いた空気極(比較例15)、ATOを使用した空気極(実施例16)のいずれの場合にも4mA/cmで充放電を10サイクル繰り返す間には電位変化が顕著ではなかった。しかしながら、10mA/cmでの充放電サイクルの繰り返しにより、比較例14と比較例15の空気極では充電電位の上昇が見られ、電極の劣化が確認された。これに対して、導電性担体としてATOを使用した空気極(実施例16)では、10mA/cmでの充放電試験後も充放電ともに一定の電位を維持しており、電極の劣化は認められない。このことから、担体としてATOを使用した触媒を空気極に用いることにより、亜鉛空気電池の充放電サイクル特性を劇的に向上させることができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13