(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
住宅やビル等の建築物、自動車、農業用ビニールハウスなどにおいて、冷暖房に係るエネルギーの多くは、窓等の透明体により失われる。現在利用されている積層ガラスや二重窓では、断熱効果が不十分であり、前記透明体からの熱放散を防止するため、可視光透過性を有する新規断熱材の研究が広く行われている。
【0003】
既存の断熱材のうち最も断熱性能が高いものは、真空断熱材である。しかしながら、加工やハンドリングに大きな制限があること、長期間真空を維持するのが困難であること等から、広く普及するに至っていない。
【0004】
光透過性を有する断熱材の代表例として、シリカやアルミナ等の無機酸化物の湿潤ゲルを超臨界乾燥させたエアロゲルが挙げられる。前記超臨界乾燥とは、前記湿潤ゲル体に含まれる溶媒を昇温・昇圧によって超臨界状態とし、気液界面を発生させずに除去する方法である。前記超臨界乾燥においては、界面張力に起因する応力が発生しないため、前記湿潤ゲル中の微細構造をそのまま維持した多孔質の乾燥固体が得られる。
例えば、シリカエアロゲルでは、粒子径10nm〜20nmのシリカ微粒子が三次元網目状に連なった構造を有し、見掛け密度が0.05g/cm
3〜0.2g/cm
3、空隙率が90%〜98%の多孔質体とされる。
このような多孔質体として形成されるシリカエアロゲルは、静止空気以下の低い熱伝導率(0.012W/(m・K)〜0.02W/(m・K))を有し、前記透明体からの熱放散を大幅に抑制できる。これは、前記シリカエアロゲルが低密度であるため固相伝導伝熱が極めて小さいことと、前記三次元網目構造の細孔径が空気成分の気体分子の平均自由行程(約70nm)を下回るため気相の対流伝熱も小さいことに起因する。
更に、シリカエアロゲルは、前記三次元網目構造を形成するシリカ微粒子及び細孔が可視光の波長よりも著しく小さいため光散乱強度が低く、90%以上の高い可視光透過性を有する。
しかしながら、このようなシリカやアルミナ等の無機酸化物の湿潤ゲルを超臨界乾燥させたエアロゲルは、柔軟性、可塑性といった機械的特性に乏しい極めて脆い材料である。このため加工やハンドリングが困難であり、窓用の断熱材として普及するには至っていない。
【0005】
前記シリカエアロゲルの骨格に有機高分子を含浸させて機械的特性とハンドリング性を向上させることが提案されている(非特許文献1参照)。
しかしながら、この提案では機械的特性を向上させることができるものの、前記シリカエアロゲルの透明度が低く、また、密度が増大しているため熱伝導率も大幅に増大しているものと思われる。
また、シリカ原料にアルキル基を多く含むシリコンアルコキシドを用いることで機械的特性を向上させる提案もされているが(特許文献1参照)、実用上十分な柔軟性が得られていない。
【0006】
有機高分子からなる柔軟なエアロゲルが提案されている。例えば、ポリウレタン樹脂(非特許文献2参照)、ポリイミド樹脂(非特許文献3参照)、レゾルシノール・ホルムアルデヒド樹脂(非特許文献4参照)の湿潤ゲルを超臨界乾燥させることで、柔軟な有機高分子エアロゲルが得られる。
しかしながら、これらのエアロゲルでは、可視光透過性が得られず、光透過性断熱材として利用することができない。
【0007】
セルロース、キトサン等の多糖類高分子は、天然生物から採取できる資源豊富な有機高分子化合物であり、入手容易で高い生体親和性を有することから、種々の産業分野での利用が期待されている。また、これら多糖類高分子は、直径数nmのナノファイバーが緻密に集積した繊維質の構造を形成することが知られている。
【0008】
前記多糖類高分子のうち、水溶性の前記キトサンを用いたエアロゲルとしては、微粒子(非特許文献5参照)、モノリス状吸着体(非特許文献6参照)として、医療・生物工学分野での利用が提案されている。
しかしながら、いずれの提案においても、不透明なエアロゲルとされている。また、前記モノリス状吸着体(非特許文献6参照)に用いられるエアロゲルは、0.2g/cm
3以上の密度の高いエアロゲルとされており、熱伝導性が大きいことが想定される。
【0009】
また、前記多糖類高分子のうち、非水溶性のセルロースを用いて透明なセルロースナノファイバーの分散液を製造する方法が提案されている(特許文献2,3参照)。また、このセルロースナノファイバーを用いて、不透明な凍結乾燥体(特許文献4,5参照)や透明なエアロゲル(非特許文献7参照)を製造する方法が提案されている。
中でも前記透明なエアロゲルは、細孔径が100nm以下の緻密な構造を有する多孔質体であり、静止空気以下の低い熱伝導性と可視光透過性を有するため、光透過性断熱材への応用が期待されている。
しかしながら、前記透明なエアロゲルは、原料となる前記セルロースナノファイバーの分散液製造の過程において、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等の高価な酸化触媒及び酸化剤を用いてセルロースを酸化させる工程が必要であるため、高価で製造に手間が掛かる問題を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(多孔質体)
本発明の多孔質体は、高分子化合物の架橋体を含む。
【0018】
<高分子化合物>
前記高分子化合物は、水溶性多糖類及び前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体の少なくともいずれかから選択される高分子化合物である。
【0019】
前記水溶性多糖類としては、水溶性であれば特に制限はなく、公知の水溶性多糖及び多糖の塩が挙げられる。
前記水溶性多糖としては、特に制限はなく、例えば、キトサン、ヒアルロン酸、デンプン、グリコーゲン、アガロース等が挙げられる。
また、前記多糖の塩としては、特に制限はなく、前記水溶性多糖の塩及び塩の状態で水溶性を示す多糖化合物が挙げられる。前記水溶性多糖の塩としては、特に制限はなく、前記水溶性多糖が前記キトサンであれば、キトサン塩酸塩、キトサン酢酸塩、キトサン硫酸塩、キトサンギ酸塩等が挙げられる。前記塩の状態で水溶性を示す多糖化合物としては、特に制限はなく、例えば、キチンナトリウム塩等のキチン塩、アルギン酸ナトリウム塩等のアルギン酸塩などが挙げられる。
これらの中でも、セルロースと類似の構造を有する前記キトサン及び前記キトサン塩が前記多孔質体に好適な熱伝導性、可視光透過性、機械的特性を付与する観点から好ましい。
また、前記キトサンは前記キチンを脱アセチル化したものであるが、前記キトサン及び前記キトサン塩としては、水溶性の観点からアセチル化度が0%〜65%のものが好ましい。
【0020】
ここで、「水溶性」とは、水又は酸性から塩基性の水溶液に可溶であることを意味し、「水又は酸性から塩基性の水溶液に可溶である」とは、前記水溶性多糖類が水又は酸性から塩基性の水溶液1Lに対し、少なくとも1gが可溶であることを意味する。また、「可溶」とは、沈殿を生じない状態で水又は酸性から塩基性の水溶液に溶解乃至分散可能なことを意味し、条件として後述の架橋剤との架橋反応を損なわない温度範囲で水又は酸性から塩基性の水溶液が加熱、冷却される場合を含む。
【0021】
前記水溶性多糖類の側鎖官能基の一部が化学修飾された前記水溶性多糖類の誘導体としては、特に制限はなく、また、必ずしも前記水溶性を有する必要はなく、例えば、カルボキシルメチルキトサン、トリメチルシリルキトサン、アシルキトサン、カルボキシルアシルキトサン等が挙げられる。前記水溶性を有さない場合には、水溶液中の前記水溶性多糖類を公知の方法で化学修飾し、その水溶液を後述の架橋剤との架橋反応に供することができる。
【0022】
なお、前記高分子化合物の分子量としては、特に制限はなく、例えば、数平均分子量で10,000〜1,000,000程度である。
また、これら高分子化合物は、1種単独であってもよく2種以上が併用されていてもよい。
【0023】
<架橋体>
前記架橋体は、前記高分子化合物を架橋して得られる架橋体である。
前記架橋の方法としては、特に制限はなく、公知の架橋剤により化学架橋、静電的結合による物理架橋を生成する方法が挙げられる。
【0024】
前記化学架橋を形成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、アルデヒド基による化学架橋を生成するもの、エポキシ基による化学架橋を生成するもの、シラノール基による化学架橋を生成するもの等が挙げられる。
前記アルデヒド基による化学架橋を生成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、グリオキサール、テレフタルアルデヒド等が挙げられる。
また、前記エポキシ基による化学架橋を生成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン、メタクリル酸グリシジル、水溶性エポキシ樹脂等が挙げられる。
また、前記シラノール基による化学架橋を生成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0025】
前記静電的結合による物理架橋を生成する架橋剤としては、特に制限はなく、例えば、ポリリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
前記多孔質体は、空隙率が80%〜99.9%であるとともに可視光透過性を有することを特徴とする。
【0027】
前記多孔質体が、前記空隙率を有すると、前記多孔質体の密度及び伝導伝熱性が低くなり、前記多孔質体を断熱性に優れた材料とすることができる。
こうした観点から、前記空隙率としては、更に90%以上99.9%以下であることが好ましい。なお、前記空隙率は、下記式(1)により求めることができる。
多孔質体の空隙率=[1−{(多孔質体の見かけ密度−標準空気の密度)/(水溶性多糖類等の高分子化合物の真密度−標準空気の密度)}]×100% (1)
【0028】
また、前記多孔質体の熱伝導率としては、0.03W/(m・K)以下であることが好ましい。即ち、従来の不透明断熱材が一般に有する熱伝導率である0.03W/(m・K)に匹敵するか、これよりも低い熱伝導率であることが好ましい。
【0029】
本明細書では、前記可視光透過性を有するか否かを次のように定義する。
即ち、前記多孔質体の波長800nmに対する光透過率(%)を測定し、前記光透過率(%)を下記式(2)によって光学密度に換算する。
光学密度=−log
10(光透過率/100%) (2)
得られた光学密度を前記多孔質体の厚さで除し、厚さ1mmあたりの光学密度を算出したのち、再び前記(2)式を用いて厚さ1mmあたりの光透過率(%)に換算する。
そして、この光透過率が70%以上のときに、前記可視光透過性を有すると定義する。
【0030】
前記多孔質体を透明断熱材として建造物や構造物中に配する場合、柔軟性や可撓性といった機械的特性が求められる。
前記多孔質体は、前記高分子化合物で構成されるため、このような機械的特性を備える。
中でも、前記多孔質体の圧縮弾性率が25MPa以下であり、かつ、最大圧縮ひずみが75%以上であると、透明断熱材に求められる機械的特性の要求を満たし、ハンドリング性や加工性が向上するとともに、幅広い種類の建造物や構造物中に配することが可能となる。また、前記圧縮弾性率としては、5MPa以下がより好ましく、下限としては、0.1kPa程度である。なお、前記最大圧縮ひずみは、割れやひびを形成せずに圧縮できる範囲で最大の圧縮ひずみを意味する。
【0031】
前記多孔質体としては、これら空隙率、可視光透過性等の特徴を備える上で、繊維状体の前記高分子化合物が緻密に絡み合うように立体状に架橋された構造を有することが有利となる。
したがって、前記高分子化合物としては、乾燥固体としての前記多孔質体の状態で、直径1nm〜50nmの繊維状体として存在することが好ましく、直径20nm以下の繊維状体として存在することがより好ましい。また、前記高分子化合物の長さとしては、長い程優れた機械的特性が得られ易く、20nm以上が好ましい。
また、前記多孔質体としては、可視光の散乱を低減し透過性を向上させる観点から、形成される細孔が小さい程好ましく、具体的には、前記細孔径が100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。
なお、前記細孔は、隣接する前記高分子化合物間の隙間として形成されるが、前記細孔径としては、前記多孔質体の表面又は任意の切断面での顕微鏡像において観察される任意10箇所の細孔に対し、最大径の平均として測定することができる。
【0032】
なお、前記多孔質体としては、前記架橋体を構成する成分として説明した成分のほかに、必要に応じて、公知の添加剤を含むこととしてもよい。
前記添加剤としては、特に制限はなく、例えば、公知の可塑剤、安定剤、耐衝撃性向上剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等が挙げられる。なお、これら添加剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
<多孔質体の製造方法>
前記多孔質体としては、特に制限はないが、例えば、以下に示す方法で製造することができる。
【0034】
先ず、前記水溶性多糖類を水又は酸性から塩基性の水溶液である溶媒に溶解乃至透明に分散させる。
例えば、前記水溶性多糖類として前記キトサンを用いる場合は、溶媒に希酢酸水溶液を選択する。この際、溶媒中のキトサン濃度としては、5g/L〜20g/Lが好ましい。また、前記水溶性多糖類として前記キトサン塩を用いる場合は、溶媒に水を選択する。この際、キトサン塩濃度としては、5g/L〜20g/Lが好ましい。前記キトサン及び前記キトサン塩の濃度が高すぎると架橋密度が増大し、得られる多孔質体の可視光透過性、断熱性が損なわれることがあり、低すぎると機械的特性が損なわれることがある。
また、カルボキシルメチルキトサン等の非水溶性の前記水溶性多糖類の誘導体を用いる場合には、前記キトサンの水溶液中に化学修飾を行う化合物を添加し、化学修飾反応を進行させて次工程に供する。
なお、例示以外の前記高分子化合物についても適宜溶媒及び濃度を選択して前記高分子化合物の溶液を調製することができる。
【0035】
続いて、前記高分子化合物の溶液に前記架橋剤を加えることで、透明な湿潤ゲルを生成させる。
架橋反応に適した前記架橋剤の添加量としては、前記架橋剤の種類によって異なり、それぞれ好適な添加量範囲がある。前記架橋剤の添加量が少なすぎると前記高分子化合物がゲルを生成せず、多すぎると前記多孔質体の可視光透過性や機械的特性が損なわれることがある。
前記架橋反応には、通常、数時間〜数日を要し、完全にゲル化するまでの所要時間としては、反応の種類によって異なる。反応時間を短縮する観点から、前記高分子化合物の溶液を30℃〜100℃の温度で加温しながらゲル化させてもよい。
【0036】
続いて、架橋によって得られた湿潤ゲルに含まれる溶媒を、のちの乾燥過程に適したものに交換する。交換する溶媒としては、特に制限はないが、メタノール、エタノール、2−プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等のアルカン類、トルエン、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどが好ましい。
【0037】
前記湿潤ゲルを乾燥し前記多孔質体を得る方法としては、気液界面における界面張力の発生による応力の影響が低く抑えられ、ゲルの収縮が最小限にとどめられる方法がよく、例えば、以下に例示する超臨界乾燥法、常温乾燥法が挙げられる。
【0038】
即ち、前記超臨界乾燥法では、前記湿潤ゲルの溶媒をメタノール、エタノール、2−プロパノール、ジメチルエーテル、アセトン、液化二酸化炭素等又はこれらの混合溶媒に交換し、昇温・昇圧によって超臨界流体としたのち、気液界面を発生させることなく流体を除去することで、乾燥した多孔質体を得る。
【0039】
また、前記常圧乾燥では、前記湿潤ゲルの溶媒を界面張力の小さい溶媒、例えば、ヘキサン、メチルノナフルオロブチルエーテル等に交換し、常圧で徐々に蒸発させることで、乾燥した多孔質体を得る。このとき、隣接する前記高分子化合物の表面に存在する水酸基が水素結合して収縮することを防ぐため、あらかじめ前記高分子化合物表面の水酸基をより安定な官能基で修飾しておくことが好ましい。使用する修飾剤としては、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン等が挙げられる。
【0040】
(構造体)
本発明の構造体は、本発明の前記多孔質体で一部が構成される構造体である。
前記構造体としては、特に制限はないが、一例として、前記多孔質体又は前記多孔質体の微粉砕片を2枚の透明ガラスで挟持させた構造体が挙げられる。
こうした構造体としては、住宅、ビル、自動車、航空機、船舶等の窓用部材や、農業用ビニールハウスの壁面部材などに利用することができる。
【0041】
(組成物)
本発明の組成物は、本発明の前記多孔質体を含む組成物ある。
前記組成物としては、特に制限はないが、一例として、合成樹脂バインダー、前記多孔質体を含む塗工組成物が挙げられる。
こうした塗工組成物としては、住宅、ビル、自動車、航空機、船舶等の窓用部材や、農業用ビニールハウスの壁面部材などへの断熱塗料として利用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
先ず、粉末状のキトサン(和光純薬工業株式会社製のキトサン100、アセチル化度:20%以下)を2体積%酢酸水溶液に溶解させ、20g/Lキトサン水溶液を調製した。
次に、前記キトサン水溶液と36質量%ホルムアルデヒド水溶液とを、体積比で前記キトサン水溶液を4(80体積%)、前記ホルムアルデヒド水溶液を1(20体積%)とする割合で混合した。
次に、この混合液を密閉容器中、60℃で1昼夜熟成し、透明なゲルを得た。
【0044】
このゲルを次のように超臨界乾燥させた。
先ず、このゲルを純水に浸漬して洗浄したのち、メタノールに4日間以上浸漬して溶媒置換を行った。この際、前記メタノールは逐次交換し、前記ゲル中に含まれる水分を除去した。
次に、溶媒置換が完了したゲルをメタノール約150mLとともに容積470mLの圧力容器に封入し、80℃まで加温しつつ、二酸化炭素を注入して20MPaまで加圧した。容器内が平衡に達して、前記メタノールと前記二酸化炭素とが均一相を形成するのを待つため、80℃、20MPaの条件下で一昼夜保持した。
次に、80℃、20MPaの条件を保持したまま、二酸化炭素を連続的に注入しつつ前記圧力容器内の流体を排出し、約12時間かけてメタノールを抽出した。
次に、抽出後、12時間かけて前記圧力容器内の前記二酸化炭素を徐々に排出することで常圧まで減圧し、前記圧力容器内に残留する乾燥固体(エアロゲル)として実施例1に係る多孔質体を得た。
【0045】
(実施例2)
ホルムアルデヒド水溶液のホルムアルデヒド濃度を36質量%から9質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る多孔質体を得た。
【0046】
(実施例3)
キトサン水溶液のキトサン濃度を20g/Lから10g/Lに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る多孔質体を得た。
【0047】
(実施例4)
ホルムアルデヒド水溶液のホルムアルデヒド濃度を36質量%から9質量%に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、実施例4に係る多孔質体を得た。
【0048】
(実施例5)
キトサン水溶液のキトサン濃度を20g/Lから5g/Lに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る多孔質体を得た。
【0049】
(多孔質体の特性)
実施例1〜5の各多孔質体に対して、以下の方法で、密度、空隙率、可視光透過率、熱伝導率、圧縮弾性率及び75%圧縮時における応力値の測定又は算出を行った。
【0050】
<密度>
前記密度(g/cm
3)は、測定したサンプルの体積及び重量から算出した。
【0051】
<空隙率>
前記多孔質体の空隙率は、下記式(1)により求めた。
多孔質体の空隙率=[1−{(多孔質体の見かけ密度−標準空気の密度)/(キトサンの真密度1.4g/cm
3−標準空気の密度)}]×100% (1)
【0052】
<可視光透過率>
紫外可視分光光度計(日本分光V―570)を用いてモノリス状サンプルの波長800nmに対する光透過率(%)を測定し、前記光透過率(%)を下記式(2)によって光学密度に換算した。
光学密度=−log
10(光透過率/100%) (2)
得られた光学密度をサンプルの厚さで除し、厚さ1mmあたりの光学密度を算出したのち、再び前記(2)式を用いて厚さ1mmあたりの光透過率に換算した。
本明細書では、このように換算される光透過率を前記可視光透過率と定義する。
【0053】
<熱伝導率>
前記熱伝導率は、熱流計式熱伝導率測定装置(英弘精機製HC−074/200)を用いて測定した。
【0054】
<圧縮弾性率及び75%圧縮時における応力値>
精密万能試験機(島津製作所製AG−X、100mmφ固定式圧盤、ロードセル10kN)を用いて、モノリス状サンプルに対し、圧縮速度1mm/minにて、示す応力が0MPaの未圧縮状態から80MPa〜120MPaの圧縮状態まで圧縮する条件で圧縮試験を行い、応力−ひずみ曲線を測定した。
前記圧縮弾性率は、前記応力−ひずみ曲線のうち、ひずみ0%〜20%の範囲で直線関係が読み取れる部位の傾きから算出した。
前記75%圧縮時における応力値は、前記応力−ひずみ曲線よりひずみ75%時の応力値を読み取り算出した。
【0055】
実施例1〜5の各多孔質体における、前記密度、前記空隙率、前記可視光透過率、前記熱伝導率、前記圧縮弾性率及び前記75%圧縮時における応力値を下記表1にまとめて示す。
【0056】
【表1】
【0057】
断熱材としては、伝導伝熱の低減のため前記密度の値が低い方が有利である。前掲表1に示すように、キトサン濃度及びホルムアルデヒド濃度を下げるにつれて高空隙率で低密度の多孔質体が得られた。特に、空隙率が97%で密度が0.042g/cm
3である実施例5に係る多孔質体では、熱伝導率が0.022W/(m・K)であり、静止空気よりも低い熱伝導率が得られた。
【0058】
実施例1〜5に係る各多孔質体では、前記可視光透過性が70%を超えており、優れた可視光透過性が得られている。
図1に実施例1〜5に係る各多孔質体の外観写真を示す。該
図1に示すように、実施例1〜5に係る各多孔質体は、すべて見た目にも十分な可視光透過性を示している。
【0059】
従来技術のシリカエアロゲル等の無機物のエアロゲルでは、一般に圧縮ひずみ数%以上の圧縮で割れやクラックを生成する。
これに対し、実施例1〜5に係る各多孔質体では、圧縮ひずみ75%以上の圧縮に対しても割れやクラックを生成せず、均一に圧縮することができ、柔軟性や可撓性の観点から優れた機械的特性を有するものと評価することができる。
また、前記圧縮弾性率は、低密度化に伴って低下し、実施例5に係る多孔質体では、0.35MPaであった。この値は、前記圧縮弾性率が数10MPaの前記シリカエアロゲルに対して1/100程度であり、柔軟性や可撓性の観点から優れた機械的特性を有するものと評価することができる。
【0060】
多孔質体の微視的構造を走査型電子顕微鏡(日立製作所、S―4800)を用いて観察した結果について説明する。
一例として、
図2に実施例5に係る多孔質体の走査型電子顕微鏡写真を示す。この
図2から、実施例5に係る多孔質体は、キトサンが生合成した繊維状の構造が維持されることで、直径5〜10nm程度のナノファイバーを有して構成され、その架橋体中には、数10nmの細孔が存在することが観察される。また、ナノファイバーの架橋体は、ナノファイバーが緻密に絡み合うように立体状に架橋された構造を有することが観察される。