特許第6567263号(P6567263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6567263金属微粒子分散液、焼結導電体の製造方法及び導電接続部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567263
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】金属微粒子分散液、焼結導電体の製造方法及び導電接続部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20190819BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20190819BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190819BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20190819BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20190819BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20190819BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20190819BHJP
【FI】
   B22F1/02 B
   B22F9/00 B
   B22F1/00 L
   H01B1/22 A
   H01B1/00 M
   H01B5/14 Z
   !B22F9/24 B
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-210916(P2014-210916)
(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-79448(P2016-79448A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ノルザフリザ アリフィン
(72)【発明者】
【氏名】藤原 英道
(72)【発明者】
【氏名】石井 智紘
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−080438(JP,A)
【文献】 特開2013−082967(JP,A)
【文献】 特表2013−504148(JP,A)
【文献】 特開平06−325613(JP,A)
【文献】 特開2010−013721(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/022284(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/02
B22F 9/00
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 5/14
B22F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子分散剤(D)に被覆されており、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなり、平均一次粒子径が5nm〜500nmである金属微粒子(P)を20〜70重量%、一級アルコール又は二級アルコールからなる有機溶媒(S)を25〜79.5重量%、有機過酸化物(R)を0.5〜5重量%を含有することを特徴とする、金属微粒子分散液。
【請求項2】
前記金属微粒子(P)は、銅、銀、金、白金、パラジウムからなる群から選択される少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1に記載の金属微粒子分散液。
【請求項3】
前記有機溶媒(S)は、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2−プロパンジオール、1,2,4−ブタントリオール、2−ブタンジオール、エチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属微粒子分散液。
【請求項4】
前記高分子分散剤(D)は、分子中に少なくとも1つのカルボニル基を有する化合物、又は分子中に少なくとも1つの窒素原子を有する化合物であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の金属微粒子分散液。
【請求項5】
前記高分子分散剤(D)は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の金属微粒子分散液。
【請求項6】
前記有機過酸化物(R)は、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類及びケトンパーオキサイド類からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の金属微粒子分散液。
【請求項7】
さらに、熱分解性高分子を含有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の金属微粒子分散液。
【請求項8】
前記有機過酸化物(R)は、アセチルアセトンパーオキサイド、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2'−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド及び2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルパーオキシ)−3−ヘキシンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の金属微粒子分散液。
【請求項9】
前記金属微粒子(P)と前記有機溶媒(S)との重量比(P/S)は、30/70〜55/45であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の金属微粒子分散液。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の金属微粒子分散液を用いた導電接続部材の製造方法であって、
前記金属微粒子分散液を基板に塗布し、大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で、焼成することにより前記基板上に焼結導電体を形成する工程を含むことを特徴とする、焼結導電体の製造方法。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載の金属微粒子分散液を用いた導電接続部材の製造方法であって、
前記金属微粒子分散液を電子部品における半導体素子若しくは回路基板の電極端子又は導電性基板の接合面に載せた後、前記金属微粒子分散液上にさらに他方の電極端子又は導電性基板の接合面を配置して、焼成することにより導電接続部材を形成する工程を含むことを特徴とする、導電接続部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の回路形成等に利用できる金属微粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅微粒子等の金属微粒子を含む分散液は、導電接続部材を形成するのに利用されている。回路基板の電極端子又は導電性基板の接合面に分散液を載せた後、他方の電極端子又は導電性基板の接合面を配置し、焼成することによって導電接続部材を形成することができる。
【0003】
例えば、金属ナノ粒子分散体に、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物を添加することにより製造される金属ナノ粒子分散液が提案されている(特許文献1)。この金属ナノ粒子分散液を基板に塗布した後、100〜600℃の温度で焼成することにより、クラックがなく、比抵抗値の小さい金属被膜が得られる。また、有機化合物でコーティングされた金属粒子、金属前駆体、溶媒及び有機過酸化物を含む金属ペーストが提案されている(特許文献2)。コーティング剤は金属粒子が凝集するのを防止するのに必要であるが、コーティング剤は金属微粒子の焼結を阻害する。そこで、加熱時にコーティング剤を有機過酸化物と反応させることで分解させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5002478号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で開示されている金属ナノ粒子分散液には、金属ナノ粒子を還元させる成分が含まれていないため、焼成時の雰囲気を、還元性雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気の順に変更して繰り返し行う必要がある。また、特許文献2に開示されている金属ペーストは、平均粒径が0.5μm〜5μmのような比較的大きいものについてのみ適用可能である。溶媒量が少ないため、平均粒径が小さい粒子(ナノ粒子)を用いた場合には、コーティング剤を分解させる効果が劣る。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、不活性雰囲気下で焼成しても導電性に優れた焼結膜を得ることが可能な金属微粒子分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る金属微粒子分散液は、高分子分散剤(D)に被覆されており、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなり、平均一次粒子径が5nm〜500nmである金属微粒子(P)を20〜70重量%、一級アルコール又は二級アルコールからなる有機溶媒(S)を25〜79重量%、有機過酸化物(R)を1〜5重量%を含有することを特徴とする。
【0008】
前記金属微粒子(P)は、銅、銀、金、白金、パラジウムからなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。
【0009】
前記有機溶媒(S)は、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2−プロパンジオール、1,2,4−ブタントリオール、2−ブタンジオール、エチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール及びグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
前記高分子分散剤(D)は、分子中に少なくとも1つのカルボニル基を有する化合物、又は分子中に少なくとも1つの窒素原子を有する化合物であることが好ましい。
【0011】
前記高分子分散剤(D)は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
前記有機過酸化物(R)は、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類及びケトンパーオキサイド類からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
さらに、熱分解性高分子を含有することが好ましい。
【0014】
前記有機過酸化物(R)は、アセチルアセトンパーオキサイド、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2'−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド及び2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルパーオキシ)−3−ヘキシンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
前記金属微粒子(P)と前記有機溶媒(S)との重量比は、30/70〜55/45であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る焼結導電体は、金属微粒子分散液を基板に塗布し、大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で、焼成することにより前記基板上に形成されたことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る導電接続部材は、金属微粒子分散液を電子部品における半導体素子若しくは回路基板の電極端子又は導電性基板の接合面に載せた後、前記金属微粒子分散液上にさらに他方の電極端子又は導電性基板の接合面を配置して、焼成することにより形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属微粒子分散液は、不活性雰囲気下で焼成しても導電性に優れた焼結膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の金属微粒子分散液は、高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)と、有機溶媒(S)と、有機過酸化物(R)を含有する。
【0020】
(1)金属微粒子(P)
金属微粒子(P)は、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなる。具体的に、金属単体としては、銅、銀、金、白金、パラジウムが挙げられる。合金としては、銅、銀、金、白金、パラジウムからなる群から選択される少なくとも2種以上から構成される合金が挙げられる。金属化合物としては、上記金属単体の酸化物、上記合金の酸化物が挙げられる。
【0021】
金属微粒子(P)の平均一次粒子径は、5nm〜500nmであり、好ましくは10nm〜50nmである。平均一次粒子径が5nm未満であると、粒子の活性エネルギーが高く、室温でも活性が高く、焼結したり、凝集しやすくなったり、酸化しやすいデメリットがある。一方、平均一次粒子径が500nmを超えると、粒子の焼結温度が高くなり低温焼成が困難となる。なお、一次粒子径とは、二次粒子を構成する個々の銅微粒子の一次粒子の直径の意味である。一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察に基づいて測定することができる。また、平均一次粒子径とは、一次粒子の数平均粒径を意味する。金属微粒子(P)の触媒効果により、有機溶媒(S)から水素ガスを発生させて焼結を促進させる還元作用を発揮するが、平均一次粒子径が500nmを超えると触媒効果が大きく低下するため、500nm以下であることが好ましい。
【0022】
金属微粒子分散液において、金属微粒子(P)の含有量は、20〜70重量%である。有機過酸化物(R)と有機溶媒(S)との反応において、金属微粒子(P)は触媒として作用する。金属微粒子(P)の含有量が20重量%未満であると、有機過酸化物(R)と有機溶媒(S)との反応が遅くなる傾向がある。また、金属微粒子(P)の含有量が10重量%未満であると、金属微粒子分散液の粘度が低下しすぎて、ペースト状にならず取り扱いが困難である。一方、金属微粒子(P)の含有量が70重量%を超えると、有機過酸化物(R)と有機溶媒(S)との反応が早く進み過ぎてしまい、金属微粒子(P)が焼結する温度に達する前に有機溶媒(S)が既に枯渇してしまう傾向がある。
【0023】
(2)高分子分散剤(D)
本発明において、金属微粒子(P)は高分子分散剤(D)によって被覆されている。なお、金属微粒子(P)の全体が高分子分散剤(D)によって被覆されていてもよいし、金属微粒子(P)の一部が被覆されていてもよい。
【0024】
高分子分散剤(D)としては、分子中に少なくとも1つのカルボニル基を有する化合物、又は分子中に少なくとも1つの窒素原子を有する化合物が好ましい。例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプンおよびゼラチンが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。上記の高分子分散剤は、水溶性を有するので、本発明の有機物保護被膜として好適に使用できる。
【0025】
高分子分散剤(D)の数平均分子量は、特に限定されないが、3000〜5000であることが好ましい。
【0026】
金属微粒子(P)を被覆している高分子分散剤(D)と、金属微粒子(P)との重量比は、特に限定されないが、0.2〜0.5であることが好ましい。重量比が0.2未満であると、金属微粒子の平均粒径が大きくなり、ナノサイズ粒子を得ることができない。また、重量比が0.5を超えると、焼結しても高分子分散剤(D)が残留してしまい、抵抗率が悪くなる原因になる。
【0027】
(3)有機溶媒(S)
有機溶媒(S)は、一級アルコール又は二級アルコールである。具体的に、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2−プロパンジオール、1,2,4−ブタントリオール、2−ブタンジオール、エチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリンが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。有機溶媒(S)として第一級または第二級アルコールを用いることによって、不活性雰囲気下でも金属微粒子を還元することが出来る。還元力のない有機溶媒を用いると金属微粒子の焼結に水素雰囲気が必須となり、装置が限定されてしまう。
【0028】
有機溶媒(S)は、金属微粒子の存在下では、自身の沸点よりも低い温度で蒸発および分解してしまう。したがって、有機溶媒(S)の沸点は、焼成温度(180℃)よりも高い温度であることが好ましい。有機溶媒(S)が分解してしまうと、有機溶媒(S)と有機過酸化物(R)との反応が生じず、焼結後の抵抗率が高くなる場合がある。金属微粒子(P)の焼結と、有機溶媒(S)と有機過酸化物(R)との反応が同時に起きる状態が望ましいと推定される。
【0029】
金属微粒子分散液における有機溶媒(S)の含有量は25〜79.5重量%である。有機溶媒(S)の含有量が25重量%未満であると、ペーストが固くなり過ぎて配線、焼結膜が形成されにくい。一方、有機溶媒(S)の含有量が79.5重量%を超えると、粘度調整が難しくなる。
【0030】
金属微粒子(P)と有機溶媒(S)との割合(重量比)は、30/70〜55/45であることが好ましい。金属微粒子(P)の割合が30未満であると、金属微粒子分散液の粘度が低くなり、厚い焼結膜を形成することが困難となる。一方、金属微粒子(P)が55重量%を超えると、印刷方法に制限が出てしまう。また、これまでの知見では、金属の含有量が多くなると印刷後の割れが発生しやすくなり電気抵抗の増加の原因になる。
【0031】
(4)有機過酸化物(R)
有機過酸化物(R)は、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類又はケトンパーオキサイド類であることが好ましい。具体的に、アセチルアセトンパーオキサイド、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2'−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、p−メンタンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルパーオキシ)−3−ヘキシンが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0032】
金属微粒子分散液における有機過酸化物(R)の含有量は0.5〜5重量%である。有機過酸化物(R)の含有量が0.5重量%未満であると、添加量と粒子のバランスに差が大きく焼結への効果が小さいため、焼結後の抵抗は改善できない。一方、有機過酸化物(R)の含有量が5重量%を超えると、分散溶媒との割合で溶媒全体の粘度が低くなり、ペーストを印刷する際に印刷性が悪くなる。ペーストが使用できる範囲が限定的となる可能性がある。
【0033】
(5)その他
金属微粒子分散液には、高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)、有機溶媒(S)及び有機過酸化物(R)以外に、さらに、熱分解性高分子が含有されていてもよい。熱分解性高分子の熱分解温度は、有機溶媒(S)の沸点よりも低い温度であることが好ましく、具体的に、150〜180℃であることが好ましい。熱分解性高分子が含有されることにより、低温で有機溶媒(S)と有機過酸化物(R)とが反応するのを防止し、金属微粒子(P)の焼結する温度で反応させることができる。また、熱分解性高分子が含有されると、焼結膜の緻密度が上昇する。
【0034】
熱分解性高分子としては、例えば、ポリプロピレンカーボネートが挙げられる。
【0035】
金属微粒子分散液における熱分解性高分子の含有量は1〜3重量%であることが好ましい。熱分解性高分子の含有量が1重量%未満であると、低温での有機溶媒(S)と有機過酸化物(R)との反応を防止する効果が得られない。一方、熱分解性高分子の含有量が3重量%を超えると、短時間焼成では残留してしまい、導電の阻害になる。
【0036】
(6)高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)の製造方法
高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、液相還元法(電解法、無電解法)を用いることができる。電解法では、高分子分散剤(D)と金属イオンを含む水溶液中に設けられたアノードとカソード間に電位を加えることにより、カソード付近に、高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)を形成することができる。無電解法では、高分子分散剤(D)と金属イオンとを含む水溶液中に還元剤を添加して還元反応を行うことにより、高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)を形成することができる。還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ジメチルアミノボラン及びトリメチルアミノボランが挙げられる。また、金属イオンを形成する金属塩としては、例えば、塩化物、硝酸銅塩、亜硝酸塩、硫酸塩及び酢酸塩が挙げられる。なお、高分子分散剤(D)と還元剤とを含む水溶液中に金属イオンを含む水溶液を添加することにより、還元反応を行ってもよい。
【0037】
無電解法では、還元反応の終了後、凝集促進剤を添加することにより、高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)を水溶液中で沈殿させて得ることができる。凝集促進剤としては、ハロゲン系炭化水素が好ましく、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等の炭素原子数1の塩素系化合物、塩化エチル、1,1−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエタン、1,1−ジクロルエチレン、1,2−ジクロルエチレン、トリクロルエチレン、四塩化アセチレン、エチレンクロロヒドリン等の炭素原子数2の塩素系化合物、1,2−ジクロルプロパン、塩化アリル等の炭素原子数3の塩素系化合物、クロロプレン等の炭素原子数4の塩素系化合物、クロルベンゼン、塩化ベンジル、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、p−ジクロルベンゼン、α−クロルナフタリン、β−クロルナフタリン等の芳香族系塩素系化合物、ブロモホルム、ブロムベンゾール等の臭素系化合物が挙げられる。
【0038】
(7)金属微粒子分散液の製造方法
高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)を分散媒(S)に分散させることにより、金属微粒子分散液を得ることができる。高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)と分散媒(S)を混合し、混合液に対して分散機を用いて分散処理を施す。分散機としては、特に限定されないが、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等を用いることができる。
【0039】
(8)焼結導電体
焼結導電体は、金属微粒子分散液を基板に塗布し、大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で、焼成することにより基板上に形成される。金属微粒子分散液を塗布する方法は特に限定されず、例えば、スクリーン印刷、マスク印刷、スプレーコート、バーコート、ナイフコート、スピンコート、インクジェット印刷、ディスペンサ印刷等の方法が挙げられる。また、焼結導電体を形成する基板は特に限定されず、例えば、ガラス基板等の無機材料基板や樹脂基板が挙げられる。焼成温度は、180〜270℃であることが好ましい。
【0040】
(9)導電接続部材
導電接続部材は、金属微粒子分散液を電子部品における半導体素子若しくは回路基板の電極端子又は導電性基板の接合面に載せた後、金属微粒子分散液上にさらに他方の電極端子又は導電性基板の接合面を配置して、焼成することにより形成される。電子部品における半導体素子若しくは回路基板の電極端子又は導電性基板と、他方の電極端子又は導電性基板とが、導電接続部材を介して電気的・機械的に接合される。
【0041】
本発明の金属微粒子分散液は、高分子分散剤(D)に被覆されており、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなり、平均一次粒子径が5nm〜500nmである金属微粒子(P)を20〜70重量%、一級アルコール又は二級アルコールからなる有機溶媒(S)を25〜79.5重量%、有機過酸化物(R)を1〜5重量%を含有する。本発明の金属微粒子分散液を加熱すると、有機溶媒(S)と有機過酸化物(R)との反応でラジカルが発生し、金属微粒子(P)の焼結が促進される。これにより、低い温度で焼成しても導電性に優れた焼結膜を形成することができる。また、不活性雰囲気下で焼成しても導電性に優れた焼結膜を得ることができる。特に、有機溶媒(S)が一級アルコール又は二級アルコールであるため、有機溶媒(S)と有機過酸化物(R)との反応で発生したラジカルが有機溶媒(S)と反応し、最終的にアルデヒドが生成する。金属微粒子(P)はアルデヒドによって還元されながら焼結されるため、導電性の高い焼結膜を形成することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
(銅微粒子の調製)
銅微粒子の原料として酢酸第二銅((CHCOO)Cu・1HO)0.2gを蒸留水10mlに溶解させた酢酸銅水溶液10mlを調製した。また、還元剤溶液中、銅イオンの濃度が5.0mol/リットル(l)となるように、水素化ホウ素ナトリウムと蒸留水とを混合した水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlを調製した。その後、水素化ホウ素ナトリウム水溶液に、高分子分散剤としてポリビニルピロリドン(PVP、数平均分子量約3500)0.5gを添加して、攪拌溶解させた。続いて、窒素ガス雰囲気中で、酢酸銅水溶液10mlを滴下した。次に、得られた混合液に、凝集促進剤としてクロロホルムを5ml添加して攪拌した。数分間攪拌した後に静置すると、上相である水相の下部に銅微粒子が凝集した。この水相を遠心分離機に供給し、ポリビニルピロリドンに被覆された銅微粒子を分離、回収した。銅微粒子の平均一次粒子径は、12nmであった。
【0044】
(実施例1、実施例7、実施例8)
上記方法によって得られた、ポリビニルピロリドンに被覆された銅微粒子50重量%、グリセリン49重量%、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド1重量%を、超音波ホモジナイザーを用いて20分間撹拌し、銅微粒子分散液を得た。
(実施例2)
ポリビニルピロリドンに被覆された銅微粒子を30重量%、グリセリンを69重量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銅微粒子分散液を得た。
(実施例3)
ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイドをジ−t−ヘキシルパーオキサイドに変更した以外は、実施例1と同様の方法で銅微粒子分散液を得た。
(実施例4)
グリセリンを1,4−ブタンジオールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で銅微粒子分散液を得た。
(実施例5)
グリセリンをエチレングリコールに変更した以外は、実施例1と同様の方法で銅微粒子分散液を得た。
(実施例6)
上記方法によって得られた、ポリビニルピロリドンに被覆された銅微粒子50重量%、グリセリン47重量%、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド2重量%、ポリプロピレンカーボネート1重量%を、超音波ホモジナイザーを用いて20分間撹拌し、銅微粒子分散液を得た。
(比較例1)
ポリビニルピロリドンに被覆された銅微粒子を80重量%、グリセリンを19重量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銅微粒子分散液を得た。
(比較例2)
ポリビニルピロリドンに被覆された銅微粒子を50重量%、グリセリンを10重量%、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイドを40重量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銅微粒子分散液を得た。
(比較例3)
ポリビニルピロリドンに被覆されており、平均一次粒径が5μmである銅微粒子50重量%、グリセリン48重量%、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド2重量%を、超音波ホモジナイザーを用いて20分間撹拌し、銅微粒子分散液を得た。
(比較例4)
グリセリンを49.9重量%、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイドを0.1重量%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で銅微粒子分散液を得た。
【0045】
以下に、銅微粒子分散液の評価方法を示す。
【0046】
(1)抵抗率(Ω・cm)
得られた銅微粒子分散液をスキージ法でガラス基板(サイズ:15cm×15cm)上に塗布(塗布サイズ:10cm×10cm)した。その後、窒素ガス雰囲気中250℃、220℃または190℃で5分間焼成して塗膜をゆっくりと室温まで炉冷し、銅で構成された焼結膜を得た。直流四端子法(使用測定機:三菱化学(株)製、型式:ロレスターGP(四端子電気抵抗測定モード))を使用して、該焼結膜の抵抗値を測定した。
【0047】
(2)焼結膜と基板との密着強度評価
(1)と同様に、ガラス基板上に、焼結膜を形成させた。焼結膜の硬度を、鉛筆硬度試験にて評価した。鉛筆硬度はJIS K5600−5−4に準拠して測定される。傷がつかなかった最も硬い鉛筆の硬度を評価した。
【0048】
表1に、銅微粒子分散液の評価結果を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示すように、実施例1〜6の銅微粒子分散液では、不活性雰囲気下で焼成しても抵抗率が低く導電性に優れた焼結膜が得られ、焼結膜と基板との密着強度が高いことが分かった。特に、実施例6の銅微粒子分散液では、熱分解性高分子が含有されているため、焼結膜と基板との密着強度がより高いことが分かった。また、実施例7、8より、低温で焼成しても、抵抗率が低く導電性に優れた焼結膜が得られ、焼結膜と基板との密着強度が高いことが分かった。一方、比較例1の銅微粒子分散液では、銅微粒子の含有量が多いため、抵抗率が高く導電性に劣る焼結膜が得られ、焼結膜と基板との密着強度が低いことが分かった。また、比較例2の銅微粒子分散液は、有機溶媒の含有量が少なく、有機過酸化物の含有量が多いため、抵抗率が高く導電性に劣る焼結膜が得られ、焼結膜と基板との密着強度が低いことが分かった。さらに、比較例3の銅微粒子分散液は、銅微粒子の平均一次粒子径が大きいため、抵抗率が高く導電性に劣る焼結膜が得られ、焼結膜と基板との密着強度が低いことが分かった。また、比較例4の銅微粒子分散液は、有機過酸化物の含有量が少ないため、抵抗率が高く導電性に劣る焼結膜が得られ、焼結膜と基板との密着強度が低いことが分かった。
【0051】
以上より、本発明の金属微粒子分散液は、高分子分散剤(D)に被覆されており、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなり、平均一次粒子径が5nm〜500nmである金属微粒子(P)を20〜70重量%、有機溶媒(S)を25〜79重量%、有機過酸化物(R)を0.5〜5重量%を含有するため、不活性雰囲気下で焼成しても抵抗率が低く導電性に優れた焼結膜が得られることが分かった。