(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂組成物において、樹脂が、ホルマール樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、及びこれらの前駆体からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層体。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層体、コイル、回転電機、絶縁塗料、及び絶縁フィルムについて、詳述する。なお、本明細書において、「〜」で結ばれた数値は、「〜」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「〜」で結ぶことができるものとする。
【0012】
本発明の積層体は、少なくとも、導体と、導体の上に形成された絶縁被膜とを備える積層体である。本発明の積層体において、絶縁被膜は、金属酸化物水和物を含む樹脂組成物により構成されており、さらに、当該絶縁被膜は、積層体がインバータサージによって発生する部分放電に曝されると、無機絶縁層が形成されることを特徴としている。本発明の積層体は、このような構成を備えることにより、優れた耐部分放電特性を発揮することができる。さらに、本発明の積層体は、このような構成を備えることにより、マイグレーション現象の抑制や耐トラッキング性も向上する。以下、本発明の積層体について、
図1〜16を参照しながら詳述する。
【0013】
なお、本発明において、「インバータサージ」とはインバータのスイッチングにより発生する、駆動電圧に重畳する急峻な過電圧の意味である。インバータのスイッチング周波数は、比較的遅い1kHz程度から高速では100kHzに達するため、インバータサージの発生周波数も同様に1kHz程度から100kHzと極めて高頻度となる。また電圧に関しては、産業用のインバータモータの駆動電圧である400Vに重畳した場合の600V程度から、高電圧駆動用インバータモータの動作電圧に重畳する3kV程度の電圧である。
【0014】
本発明の積層体10の積層構成は、導体1と絶縁被膜2とを備える積層体である。本発明の積層体10は、例えば
図1に示すように、少なくとも、導体1と、導体1の上に積層された絶縁被膜2を有するフィルムの形態であってもよい。また、本発明の積層体10は、例えば、
図2〜5に示すように、中心部分に導体1を有し、当該導体1の外周に絶縁被膜2が形成された絶縁電線の形態であってもよい。本発明の積層体10を絶縁電線の形態とする場合、断面形状としては、円径、楕円形、多角形(平角形状であっても、異形状であってもよい)などが挙げられる。
図2〜4には、断面が円形の絶縁電線を示している。また、
図5には、断面が略四角形の絶縁電線を示している。
【0015】
本発明の積層体10の積層構成は、少なくとも、導体1と絶縁被膜2とを有していればよく、他の層を有していてもよい。他の層としては、例えば、絶縁層3,4が挙げられる。例えば、
図3には、導体1と、その周囲に形成された絶縁被膜2と、さらにその周囲に形成された絶縁層3を備える積層体10(絶縁電線)を示している。また、
図4,5には、導体1と、その周囲に形成された絶縁層4と、絶縁層4の周囲に形成された絶縁被膜2と、さらにその絶縁被膜2の周囲に形成された絶縁層3を備える積層体10(絶縁電線)を示している。なお、絶縁層3,4を構成する材料としては、後述の耐熱性を有する樹脂(耐熱性樹脂)などが挙げられる。
【0016】
絶縁層3,4は、それぞれ、絶縁被膜2と同じ材料によって構成されていてもよいし、他の材料によって構成されていてもよい。また、絶縁層3と絶縁層4とは、同じ材料によって構成されていてもよいし、他の材料によって構成されていてもよい。また、絶縁層3,4は、それぞれ、絶縁被膜2の下(すなわち導体1側)に設けてもよいし、絶縁被膜2の上(すなわち、導体1側とは反対側)に設けてもよい。
【0017】
また、他の層としては、導体表面と絶縁層の間に形成された導体とは異なる金属によるメッキ層なども挙げられる。
【0018】
また、
図10には、本発明の積層体10の他の構成として、導体1の周囲に、絶縁被膜2を形成する樹脂組成物により形成された絶縁フィルムを巻き付けることで形成した絶縁電線を示す。絶縁フィルムは、絶縁被膜2を形成する樹脂組成物(絶縁塗料)をフィルムコーター等により成型、焼成することによって形成することができる。この形成方法による絶縁電線は、導体上で絶縁被膜2を形成するか、単独で絶縁フィルムを形成した後に導体上に巻きつけるかの違いである。絶縁フィルムは、絶縁被膜2がフィルムの形態をしたものである。
【0019】
導体1を構成する素材としては、導電性材料であればよく、例えば、銅(低酸素銅や無酸素銅、銅合金など)、アルミニウム、銀、ニッケル、鉄などの金属が挙げられる。導体1を構成する素材は、本発明の用途に応じて適宜選択することができる。
【0020】
絶縁被膜2は、樹脂及び金属酸化物水和物を含む樹脂組成物により構成されている。樹脂としては、耐熱性に優れる樹脂であればよく、例えば、公知の絶縁電線などに使用されている樹脂を用いることができる。樹脂の具体例としては、ホルマール樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどや、これらの前駆体が挙げられる。これらのなかでも、より耐熱性を高める観点から、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリイミドの前駆体が好ましく用いられる。ポリイミドとしては、公知のジアミンと酸無水物と脱水縮合させた芳香族ポリイミドが挙げられる。前記公知のジアミンとしては、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル等、前記酸無水物としては、無水ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物等が挙げられる。絶縁被膜2に含まれる樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0021】
また、絶縁被膜2を形成する後述の絶縁塗料を調製する際には、樹脂は、溶媒に溶解又は分散した形態(樹脂ワニスなど)で用いてもよい。また、絶縁塗料には、金属酸化物水和物を分散させて、絶縁被膜2の形成に使用する。
【0022】
絶縁被膜2中の樹脂の含有量は、部分放電によって好適に無機絶縁層5を形成して耐部分放電特性により優れた積層体とする観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上が挙げられ、好ましくは94質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下が挙げられる。
【0023】
金属酸化物水和物は、本発明の積層体の絶縁被膜2が部分放電に曝された後、絶縁被膜2が形成されていた部分の一部に、後述の無機絶縁層5が形成されるものであればよい。特に強固な無機絶縁層5が形成されることから、金属酸化物水和物としては、アルミナ水和物が好ましい。前記アルミナ水和物としては、例えば、三水酸化物(trihydroxide)(Al(OH)
3)ならびに水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))の2つの変形、ベーマイト(γ−水酸化酸化アルミニウム)及びダイアスポア(α−水酸化酸化アルミニウム)が挙げられる。なお、ベーマイトは、擬結晶性ベーマイトと微結晶性ベーマイトとに分類されるが、本発明においては、いずれにも限定することなく用いることができる。これら金属酸化物水和物は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0024】
なお、積層体10がインバータサージによって発生する部分放電に曝されると、無機絶縁層5が形成される。前記無機絶縁層5は、絶縁被膜2を構成する樹脂組成物に含まれる前記金属酸化物水和物から一部脱水した金属酸化物水和物、及び金属酸化物の少なくとも一方により構成される。前記金属酸化物水和物から一部脱水した金属酸化物水和物、及び金属酸化物は、絶縁被膜2を構成する樹脂組成物に含まれる金属酸化物水和物がAl(OH)
3である場合は、例えばAl(OH)
2、AlO(OH)、Al
2O
3および、それらとAl(OH)
3の混合物となる。
【0025】
金属酸化物水和物は、微粒子の形態で絶縁被膜2に含まれていることが好ましい。また、絶縁被膜2中に均一に分散されればよく、その粒子径は、例えば100nm以下が好ましい。また、金属酸化物水和物の形状については、無機絶縁層5が形成されやすいことから、アスペクト比(一辺/厚み)の大きな扁平状の微粒子であることが好ましく、アスペクト比が4〜200であることが好ましい。
【0026】
さらには、金属酸化物水和物は絶縁被膜2中にナノサイズで均一に分散されていることが好ましい。その分散状態はTEMにより観察でき、例えば金属酸化物水和物の粒子径の5倍以上の粒子径の凝集した粒子が観察されないことが好ましい。凝集した粒子が存在する場合、凝集した部分に部分放電が集中し、無機絶縁層5を形成することなく絶縁破壊に至るおそれがある。ここで言うナノサイズとは、500nm以下の分散粒子径のことを言う。
【0027】
前記金属酸化物水和物と前記樹脂を混合する方法は、絶縁被膜2中に金属酸化物水和物が均一に分散されればよく、特に限定しないが、金属酸化物水和物ゾルを用いることが好ましい。金属酸化物水和物ゾルを用いることにより絶縁皮膜2中に金属酸化物水和物が均一に分散されやすくなる。金属酸化物水和物粉体やゲルを用いた場合、絶縁被膜中に金属酸化物水和物の凝集体が生成し、凝集した部分に部分放電が集中し、無機絶縁層5を形成することなく絶縁破壊に至るおそれがある。
【0028】
絶縁被膜2中の金属酸化物水和物の含有量は、部分放電によって好適に無機絶縁層5を形成して耐部分放電特性により優れた積層体とする観点から、前記樹脂100質量部に対して、好ましくは6質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上である。また上限については、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。金属酸化物水和物の含有量が6質量部より少ないと、無機絶縁層5を形成する前に絶縁破壊に至るおそれがある。100質量部より多いと、絶縁被膜2の柔軟性が失われ、可とう性が低下するおそれがある。
【0029】
絶縁被膜2を形成する後述の絶縁塗料を調製する際には、溶媒中に、樹脂が溶解又は分散し、かつ、金属酸化物水和物が分散した絶縁塗料とすることが好ましい。前記絶縁塗料を塗布・焼付けすることによって、絶縁被膜2を形成する。前記溶媒としては、クレゾールを主体とするフェノール類、芳香族系のアルコール類、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、DMAC(N,N−ジメチルアセトアミド)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMI(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン)、カーボネート系溶媒、ラクトン系溶媒、グリコールエーテル系などの主に高沸点溶媒が好適に用いられる。絶縁塗料には、分散安定化のために、酸成分又はアルカリ成分が微量含まれていてもよい。同様に水、低沸点アルコール、あるいは絶縁塗料の粘度低下に寄与する低粘度溶媒などが含まれていてもよい。なお、絶縁塗料には、必要に応じ、他の金属酸化物や珪素酸化物を混合してもよいし、疎水化や分散性改善のために分散剤や表面処理剤を加えてもよい。
【0030】
本発明の積層体10がインバータサージによって発生する部分放電に曝されると、絶縁被膜2の一部に無機絶縁層5が形成される。より具体的には、例えば
図6,7の模式図に示すように、積層体10がインバータサージによって発生する部分放電に曝されると、絶縁被膜2の部分放電が生じた領域2aに、無機絶縁層5(21)が形成される。絶縁被膜2の部分放電が生じた領域2aは、部分放電によって、絶縁被膜2が僅かに侵食されている。
【0031】
無機絶縁層5は、例えば、絶縁被膜2の導体1側とは反対側の一部に形成される。したがって、この場合、本発明の積層体10がインバータサージによって発生する部分放電に曝され、無機絶縁層5が形成された後には、本発明の積層体10は、少なくとも、導体1と、導体1の外周上に形成された絶縁被膜2と、絶縁被膜2の導体1側とは反対側の一部に形成された無機絶縁層5とを備える積層体10となる。
【0032】
さらに、後述の複合層6は、例えば、絶縁被膜2と無機絶縁層5との間に形成される。したがって、この場合、本発明の積層体10がインバータサージによって発生する部分放電に曝され、無機絶縁層5及び複合層6が形成された後には、本発明の積層体10は、少なくとも、導体1と、導体1の外周上に形成された絶縁被膜2と、絶縁被膜2の導体1側とは反対側の一部に形成された複合層6と、複合層6の導体1側とは反対側の一部に形成された無機絶縁層5とを備える積層体10となる。
【0033】
図7は、
図6の積層体10について、絶縁被膜2の部分放電が生じた領域2aの模式的拡大図である。積層体10において、部分放電が生じた領域2aを拡大すると、絶縁被膜2に含まれる金属酸化物水和物を出発物質とした、前記金属酸化物水和物から一部脱水した金属酸化物水和物又は金属酸化物を主体とする無機絶縁層5(21)が形成されている。さらに、
図7には、絶縁被膜2と無機絶縁層5との間に複合層6(22)が形成された図を示している。複合層6においては、絶縁被膜2と無機絶縁層5を構成する材料が混在している。すなわち、複合層6においては、絶縁被膜2に含まれる樹脂及び金属酸化物水和物と、無機絶縁層5に含まれる前記金属酸化物水和物から一部脱水した金属酸化物水和物又は金属酸化物とが混在している。複合層6に含まれる樹脂の割合は、絶縁被膜2に含まれる樹脂の割合よりも小さい。さらに、複合層6には、空隙が含まれている。複合層6の空隙は、部分放電によって、樹脂の一部が消失して形成されたものである。
【0034】
なお、本発明の積層体10において、前記の部分放電によって形成された無機絶縁層5は、例えば、目視で確認できる白色の層として観察される。
【0035】
耐部分放電特性に優れた積層体とする観点から、無機絶縁層5の厚みは、例えば10nm以上であり、好ましくは30nm以上であり、より好ましくは50nm以上である。無機絶縁層5の厚みが10nm以上であると、課電寿命が急激に延長される。すなわち、部分放電をバリアし、部分放電による絶縁破壊を抑制する効果が顕著になる。前記のとおり、樹脂の消失と共に、無機絶縁層5が形成されるが、その厚みは、部分放電による樹脂の消失量、金属酸化物水和物の含有量や、絶縁被膜2の設計厚みと実際に印加される電界強度などによって変化する。なお、無機絶縁層5の厚みの上限は、例えば5μmである。
【0036】
例えば、電気機器(例えば、回転電機)のコイルの絶縁設計を行う場合に、実際に印加される電界強度と電気機器の保証寿命期間によって、必要とされる無機絶縁層5の厚みが決まる。前記厚みは、電気機器の種類に応じた絶縁被膜2、さらには無機絶縁層5の厚みになるよう適宜設計する。
【0037】
無機絶縁層5には、空隙が含まれていてもよく、無機絶縁層5の空隙率は20%より低いことが好ましい。無機絶縁層5が空隙率は20%より低い緻密な層であるほど、部分放電による絶縁破壊を抑制する効果が顕著になる。
【0038】
また、複合層6は、無機絶縁層5が形成される前駆段階ものと推測される。複合層6は、無機絶縁層5に比して空隙率が高い層であり、断熱効果が高いといえる。ゆえに、複合層6の厚みが大きくなると、優れた断熱効果が見込まれる。複合層6の空隙率は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。なお、複合層6の空隙率の上限は、例えば80%である。また、複合層6の厚みは、例えば10nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上である。複合層6の厚みが10nm以上であると、断熱効果がより高まり、また、絶縁破壊もより抑制され、無機絶縁層5による耐部分放電特性と合わせて、大幅に課電寿命を延長し得る。
【0039】
なお、
図8,9に、従来の絶縁電線100に部分放電が発生した後の絶縁被膜200の状態(絶縁破壊部)を示す断面模式図を示す。従来の絶縁電線100においても、樹脂によって形成された絶縁被膜200が設けられており、部分放電によって絶縁破壊部7が形成されて、絶縁性が大きく低下する。
図9に示す模式図においては、絶縁破壊部7が絶縁被膜200を貫通して、導体1の表面が外部に露出している。このような従来の絶縁電線100には、無機絶縁層5や複合層6は形成されない。
【0040】
本発明の積層体10は、導体1の上に少なくとも絶縁被膜2を積層することによって製造することができる。絶縁被膜2は、前述の樹脂及び金属酸化物水和物を含む絶縁塗料を塗布し、焼付けすることによって形成することができる。例えば、導体1の表面に絶縁被膜2を積層する場合であれば、導体1の表面に絶縁被膜2を形成する絶縁塗料を塗布し、焼付けすることによって絶縁被膜2を形成する。
【0041】
絶縁塗料の塗布方法は、例えば、コーターにより塗布する方法、ディップコーターやダイスにより塗布乾燥を繰り返して所定の厚みの被膜を得る方法、スプレーによる塗装等が挙げられる。また、焼付は、例えば、高温度(例えば300℃以上)で所定時間加熱することにより行うことができる。さらに、絶縁被膜2の形成は、塗布及び加熱の一連の操作を、絶縁被膜2が所定の厚さとなるまで複数回繰り返すことによって行うこともできる。なお、焼付温度と時間は、金属酸化物水和物の種類によって、金属酸化物水和物が熱により別の金属酸化物水和物や金属酸化物に変質しない温度と時間に設定する。
【0042】
本発明の無機絶縁層5は、積層体がインバータサージによって発生する部分放電に曝されることにより絶縁被膜2の一部に形成される。この部分放電は、例えば、周波数が1kHz〜100kHz、電圧が600V〜3kVの場合に発生する。
【0043】
例えば、本発明の積層体10を絶縁電線の形態とする場合であれば、導体1の外周上、又は、導体1の外周を被覆した他の層上に絶縁塗料を塗布、焼付して、絶縁電線を製造することができる。絶縁被膜2の形成は、絶縁塗料を導体1の外周上に所定の厚さで塗布し、高温度(例えば300〜500℃以上)で所定時間(例えば1〜2分)加熱する一連の操作(塗布及び加熱)を、絶縁被膜2が所定の厚さとなるまで複数回(例えば10〜20回)繰り返すことによって行うことができる。
【0044】
本発明のコイルは、前記の絶縁電線を芯体に巻回することによって形成することができる。また、本発明の回転電機は、本発明のコイルをモータなどに使用したものである。すなわち、本発明の回転電機は、本発明の絶縁電線を用いて回転電機としたものであってもよいし、導体1を用いて回転電機を形成した後に、導体1の表面に絶縁被膜2を形成することにより、電線を形成したものであってもよい。
【0045】
回転電機としては、例えば、モータ、発電機(ジェネレーター)などが挙げられる。
【0046】
さらに、本発明の積層体は、優れた耐部分放電特性を有することから、フレキシブル基板や音響材に使用することができる。フレキシブル基板としては、例えば、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。フレキシブル基板として用いる場合であれば、導体の表面上、又は、導体の表面を被覆した他の層上に絶縁塗料を塗布、焼付して、フレキシブル基板を製造することができる。音響材としては、スピーカー振動板用樹脂フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0048】
(ポリイミド塗料1)
<製造例1>
撹拌機と温度計を備えた10Lの4つ口フラスコに、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル400.8gとNMP4109gを仕込み、窒素中で撹拌しながら40℃に昇温して溶解させた。次に、溶解液に、無水ピロメリット酸220.0gとビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物279.5gを徐々に添加した。添加終了後1時間撹拌し、下記式(I)で表される芳香族ポリアミド酸が18.0質量%の濃度で溶解されてなるポリイミド塗料を得た。なお、下記式(I)中、nは2以上の整数である。
【0049】
【化1】
【0050】
(ポリイミド塗料2)
<製造例2>
撹拌機と温度計を備えた10Lの4つ口フラスコに、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル400.5gとNMP3780gを仕込み、窒素中で撹拌しながら40℃に昇温して溶解させた。次に、溶解液に、無水ピロメリット酸425.2gを徐々に添加した。添加終了後1時間撹拌し、下記式(II)で表される芳香族ポリアミド酸が17.9質量%の濃度で溶解されてなるポリイミド塗料を得た。なお、下記式(II)中、nは2以上の整数である。
【0051】
【化2】
【0052】
(ポリイミド塗料3)
宇部興産株式会社製ユピア(登録商標)-AT(U-ワニス-A)を用いた。これは4,4'−ジアミノジフェニルエーテルとビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物を反応させた芳香族ポリアミド酸からなるポリイミド塗料である。
【0053】
(ポリアミドイミド塗料)
<製造例3>
撹拌機と温度計を備えた3Lの4つ口フラスコに、トリメリット酸無水物192.1gと4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート255.3gとNMP1210gを仕込み、窒素中で攪拌しながら、160℃に昇温し、1時間反応した。次に、メタノール2gを投入して反応を停止させ、冷却することにより、25.1質量%の濃度で溶解されてなるポリアミドイミド塗料を得た。
【0054】
(ポリエステルイミド塗料)
東特塗料株式会社製Neoheat 8600を用いた。
【0055】
<絶縁塗料の製造>
以下、それぞれ、表1の組成となるようにして、絶縁塗料を製造した。
【0056】
(実施例1)
ポリアミドイミド塗料1に、その樹脂分80質量部に対して、アルミナ水和物である水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)(平均粒子径30nm、厚み約1〜5nm、アスペクト比(一辺/厚み)6〜30)の平板状粒子が20質量部となるように混合し、均一に分散させ、絶縁塗料を得た。なお、混合する際は、水酸化アルミニウムあらかじめNMP溶媒に分散したゾルを用いた。
【0057】
(実施例2)
ポリエステルイミド塗料に、その樹脂分80質量部に対して、アルミナ水和物である水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)(平均粒子径100nm、厚み約2〜5nm、アスペクト比(一辺/厚み)20〜50)の平板状粒子が20質量部となるように混合し、均一に分散させ、絶縁塗料を得た。なお、混合する際は、水酸化アルミニウムをあらかじめメタ、パラ混合クレゾールと芳香族炭化水素とを混合した溶媒に分散したゾルを用いた。
【0058】
(実施例3)
ポリイミド塗料1に、その樹脂分80質量部に対して、アルミナ水和物であるベーマイト(粒径約10nm×50nm、厚み約1〜5nm、アスペクト比(長辺/厚み)10〜50)の長方形の平板状である粒子が20質量部となるように混合し、均一に分散させ、絶縁塗料を得た。なお、混合する際は、ベーマイトをあらかじめNMPに分散したゾルを用いた。また、ベーマイトゾルにはゲル化を防ぐためにリン酸エチルエステル(エチルアシッドホスフェート(Ethyl Phosphate(Mono− and Di− Ester mixture)、東京化成工業製、モノエステル含量35.0〜47.0%、ジエステル含量53.0〜67.0%))をベーマイト100質量部に対して6質量部となるように加えた。
【0059】
(実施例4)
ポリイミド塗料1に、その樹脂分80質量部に対して、メタクリル系シランカップリング剤(信越シリコ−ンKBM−503)で処理したアルミナ水和物であるベーマイト(平均粒子径20nm、厚み約1〜5nm、アスペクト比(一辺/厚み)4〜20)の平板状粒子が20質量部となるように混合し、均一に分散させ、絶縁塗料を得た。なお、混合する際は、ベーマイトをあらかじめエタノールとNMPとを混合した溶媒に分散したゾルを用いた。また、ベーマイトゾルはゲル化を防ぐためにエタノールとNMPの比をエタノール40質量部に対してNMP60質量部に調整した。
【0060】
(実施例5)
ポリアミドイミド塗料に、その樹脂分90質量部に対して、アルミナ水和物であるベーマイト(粒径約10nm×50nm、厚み約1〜5nm、アスペクト比(長辺/厚み)10〜50)の長方形の平板状である粒子が10質量部となるように混合し、均一に分散させ、絶縁塗料を得た。なお、混合する際は、ベーマイトをあらかじめNMPとγ−ブチロラクトン及びエタノールの混合溶媒に分散したゾルを用いた。また、ベーマイトゾルにはゲル化を防ぐためにリン酸エチルエステル(エチルアシッドホスフェート(Ethyl Phosphate(Mono− and Di− Ester mixture)、東京化成工業製、モノエステル含量35.0〜47.0%、ジエステル含量53.0〜67.0%))をベーマイト100質量部に対して5質量部となるように加加えた。
【0061】
(実施例6)
ポリイミド塗料1をポリイミド塗料2に換えた以外は実施例3と同様にして絶縁塗料を得た。
【0062】
(実施例7)
ポリイミド塗料1をポリイミド塗料3に換えた以外は実施例3と同様にして絶縁塗料を得た。
【0063】
(実施例8)
ポリイミド塗料1に、その樹脂分85質量部に対して、アルミナ水和物が15質量部であること以外は、実施例3と同様にして、絶縁塗料を得た。この絶縁塗料を銅導体(径約1mm)に塗布し、入口350℃から出口420℃まで連続的に温度を上昇させながら、約1分で焼付けを行う工程を繰り返し、銅導体(径約1mm)の表面に厚さ38μmの絶縁被膜(アルミナ水和物15質量%)を有する電線を作製した。
【0064】
(比較例1)
ポリアミドイミド塗料1に、その樹脂分80質量部に対して、アルミナ(平均粒子径20nm)の球状粒子が20質量部となるように混合し、均一に分散させ、絶縁塗料を得た。なお、混合する際は、アルミナをあらかじめNMPに分散したゾルを用いた。
【0065】
(比較例2)
ポリイミド塗料1中に、その樹脂分80質量部に対して、シリカ(平均粒子径13nm、球状)が20質量部となるように混合し、均一に分散させ、絶縁塗料を得た。なお、混合する際は、シリカをあらかじめNMPに分散したシリカゾルを用いた。
【0066】
(比較例3)
ポリイミド塗料1中に、その樹脂分80質量部に対して、タルク粒子(平均粒子径0.6μm、板状)を、そのタルク分が20質量部となるように混合し、均一に分散して、絶縁塗料を得た。
【0067】
(比較例4)
ポリイミド塗料1中に、その樹脂分80質量部に対して、酸化亜鉛微粒子(平均粒子径35nm、球状)を、その酸化亜鉛分が20質量部となるように混合し、均一に分散して、絶縁塗料を得た。
【0068】
(比較例5)
水酸化アルミニウムを配合しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、絶縁塗料を得た。
【0069】
(比較例6)
水酸化アルミニウムを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、絶縁塗料を得た。
【0070】
(比較例7)
ベーマイトを配合しなかったこと以外は、実施例3と同様にして、絶縁塗料を得た。
【0071】
(比較例8)
比較例7と同様にして得た絶縁塗料を銅導体(径約1mm)に塗布し、入口350℃から出口420℃まで連続的に温度を上昇させながら、約1分で焼付けを行う工程を繰り返し、銅導体(径約1mm)の表面に厚さ38μmの絶縁被膜を有する電線を作製した。
【0072】
(比較例9)
ポリエステルイミド塗料に、その樹脂分80質量部に対して、シリカ(平均粒子径13nm、球状)が20質量部となるように混合し、均一に分散させ、絶縁塗料を得た。なお、混合する際は、シリカをあらかじめNMPに分散したシリカゾルを用いた。
この絶縁塗料を銅導体に塗布し、入口350℃から出口420℃まで連続的に温度を上昇させながら、約1分で焼付けを行う工程を繰り返し、銅導体(径約1mm)の表面に厚さ38μmの絶縁被膜(シリカ濃度15質量%)を有する電線を作製した。
【0073】
<導体と絶縁被膜との積層体の製造>
実施例1〜7及び比較例1〜7で得た絶縁塗料を用いて、導体と絶縁被膜との積層体(フィルム)を製造した。具体的には、導体としてのアルミニウム箔(厚さ300μm)の表面に、絶縁塗料を均一に塗布し、温度300℃で1時間焼付けすることにより、アルミニウム箔の表面に絶縁被膜(厚さ50μm)が積層されたフィルムを得た。
【0074】
<可とう性評価>
前記で得られた各フィルム、ならびに実施例8、比較例8及び9で得られた電線について、以下の方法により、可とう性を評価した。結果を表1に示す。各フィルムについては、JIS K5600−5−1の円筒形マンドレル屈曲試験法に準じて試験を行った。また、電線については、JIS C3216−5−1巻き付け試験に準じて試験を行った。
【0075】
<部分放電曝露試験及びV−t特性評価>
前記で得られた各フィルムについて、以下の方法により、部分放電曝露試験及びV−t特性評価(電圧−部分放電寿命時間特性試験)を行った。試験方法は、各フィルムを用いて、ロッド電極を用いて電極とフィルム間に電圧を印加した。具体的な試験方法としては、
図15に示すように、下から、ステンレス製土台23上に絶縁被膜2を形成したアルミニウム板1を設置した。その上から金属球22(2mmφ)、銅管21の順にのせて自重で押さえるように固定した。銅管21とアルミニウム板(導体1)を電源に接続することで、金属球22を高電圧電極、アルミニウム板(導体1)を低電圧電極とした。電圧は、日新パルス電子株式会社のインバータパルス発生器PG−W03KP−Aを使用して、パルス幅5μs、周波数10kHzの両極性方形波を発生させて印加した。
【0076】
また、各電線については、以下の方法により、部分放電曝露試験及びV−t特性評価(電圧−部分放電寿命時間特性試験)を行った。各電線を用いてJIS C 3216に従ってツイストペア試料を作製し、2線間に電圧を印加した。電圧は、日新パルス電子株式会社のインバータパルス発生器PG−W03KP−Aを使用して、パルス幅5μs、周波数10kHzの両極性方形波を発生させて印加した。
【0077】
部分放電暴露の観察において、無機絶縁層の有無(目視)試験に関しては1.5kVpでのV−t試験後、侵食されている部分を目視にて観察した。テープ剥離試験後の無機層の有無(目視)に関しては、無機絶縁層の有無(目視)試験後のサンプルの侵食されている部分に対して、JIS H 8504に準じてテープ剥離試験を実施し、試験後のサンプルを目視にて観察した。また、無機絶縁層及び複合層の厚さについては、2.0kVpで100時間の電圧を連続印加し、その後、被膜が部分放電侵食されている部分を樹脂埋込して、断面をFIB(ガリウム集束イオンビーム)で薄片化した後、TEM(透過型電子顕微鏡)で無機絶縁層及び複合層の有無を確認した上で、厚さを計測した。結果を表1に示す。
【0078】
V−t特性試験は1.5kVp、2.0kVp、2.5kVpの電圧を印加し、サンプルが絶縁破壊に至るまでの時間を計測した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1において、「−」で示された項目は、評価を行っていないことを示す。
※1 表面には欠損が多く観察された。
※2 試験後のツイストペア線サンプルをほどいて観察する際に白い煙状の物が立ちのぼった。
【0081】
実施例3のフィルムを用いたTEMによる層構造の観察試験では、
図12及び
図13に示すとおり、特徴的に無機絶縁層及び複合層が形成されていることが確認された。さらに、実施例8の電線のTEMによる層構造の観察試験では、
図16に示すとおり、特徴的に無機絶縁層及び複合層が形成されていることが確認された。なお、
図16において、複合層6と絶縁被膜2と境界部分、及び、複合層6と無機絶縁層5との境界部分には、参考のため、白線を付した。
【0082】
一方、比較例では、部分放電暴露後の絶縁被膜では、実施例に見られるような強固な無機絶縁層は観察されなかった。比較例2のサンプルを測定したTEMによる層構造の観察試験では、
図14に示すとおり、無機絶縁層5は観測されたが、非常に空隙が多く、さらには表面には欠損部分が非常に多いことが観察された。また、複合層6は観察されなかった。
【0083】
なお、
図11は、実施例3の絶縁被膜の部分放電が生じた領域のTEMによる観察写真である。
図11の写真において、
図7の拡大模式図に示したような層構成が観測された。なお、写真の白い部分は空隙を示している。
【0084】
また、
図12は、
図11の写真において、それぞれ、左から順に無機絶縁層5、複合層6、絶縁被膜2のそれぞれを、さらに拡大したTEM観察写真である。
図12の左の写真から、無機絶縁層5は非常に緻密な層で、無機粒子の一枚一枚の結晶は見られず一体化していることが観察できる。また、
図12の中央の写真から、複合層6は、空隙と金属酸化物水和物微粒子と残存した耐熱性樹脂の複合した層であることが観察できる。
図12の右の写真から、絶縁被膜2は、部分放電が生じる前と同じく、金属酸化物水和物微粒子が耐熱性樹脂にランダムに分散していることが観察された。
【0085】
図13では、実施例3のフィルムに形成された複合層6の空隙率を求めるために画像処理で染色し、複合層6全体の面積に対する空隙Pの面積の割合を求めた。計算の結果、複合層6の空隙は約42%であった。また、同様の手法で、実施例3のフィルムに形成
された無機絶縁層5の空隙率を求めた結果、空隙率は約5%であった。
【0086】
図14は、比較例2の絶縁被膜の部分放電が生じた領域のTEMによる観察写真である。無機絶縁層5は観察できるが、空隙が多く、非常に粗であることが観察できる。また、その表面は非常に欠損部分が多く、脆弱であることが確認できる。