(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明が適用される自動分析装置の概略構成図である。
【0018】
図1において、自動分析装置は、試料を保持する真空採血管(試料容器)100を複数搭載可能なサンプルディスク(試料ディスク)101と、試薬を保持する試薬容器103を複数搭載可能な第1試薬ディスク104および第2試薬ディスク106と、周上に複数の反応容器110を配置した反応ディスク111とを備える。
【0019】
また、自動分析装置は、真空採血管100から吸引した試料を反応容器110に分注するプローブ(試料プローブ)102と、第1試薬ディスク104内の試薬容器103から吸引した試薬を反応容器110に分注する第1試薬プローブ105と、第2試薬ディスク106内の試薬容器103から吸引した試薬を反応容器110に分注する第2試薬プローブ107を備える。
【0020】
さらに、自動分析装置は、反応容器110内の液体を撹拌する攪拌装置108と、反応容器110を洗浄する容器洗浄機構109と、反応ディスク111の内周付近に設置された光源112と、分光検出器113と、分光検出器113に接続されたコンピュータ114と、自動分析装置全体の動作を制御し、外部とのデータの交換を行うコントローラ115とを備える。
【0021】
プローブ102は、分注流路116、119を介して定量ポンプ117と接続され、分注流路116、119の途中には圧力センサ118が設けられている。分注流路内に配置された圧力センサ118は、試料吸引および吐出時に分注流路内の圧力を検出することができる。
【0022】
図2は、本発明の実施例における要部(プローブ102内の圧力信号処理部)の説明図である。
【0023】
図2において、プローブ102と接続される、定量ポンプ117には駆動機構201で駆動されるプランジャ202(シリンジとも称す)が設けられている。また、定量ポンプ117は、バルブ203を通してポンプ204に接続されている。当該シリンジには配管119(分注流路)が接続され、当該配管119(分注流路)にはプローブ102が接続されている。当該シリンジの駆動により、プローブ102内に真空採血管100等から試料を吸引したり、プローブ102外に試料を吐出することができる。
【0024】
また、圧力センサ118は、AD変換器205を介して信号処理器(信号処理部)206に接続されている。プローブ102内はシステム液207aで満たされ、分節空気208を介して試料209が吸引される。
図2に示した例は、試料209がサンプルプローブ102内に吸引された状態を示している。
【0025】
プローブ102は、図示しない移動機構により、上下方向、水平方向に回動して真空採血管100と反応容器110間を移動できる。
【0026】
次に、本発明の実施例における動作について説明する。
【0027】
図1、
図2において、真空採血管100には血液等(例えば、全血)の検査対象の試料が入れられ、サンプルディスク101にセットされる。それぞれの試料で必要な分析の種類はコンピュータ114からコントローラ115に入力される。サンプルプローブ102によって真空採血管100から採取された試料は反応ディスク111に並べられている反応容器110に一定量分注される。サンプルプローブは、栓がされている真空採血管に対し当該栓を貫通させ、当該採血管内の試料を吸引し、反応容器110へ吐出するプローブである。また、サンプルプローブは当該栓を貫通させるために先端が尖っているプローブである。
【0028】
そして、一定量の試薬が第1試薬ディスク104または第2試薬ディスク106に設置された試薬容器103から第1試薬プローブ105または第2試薬プローブ107により反応容器110に分注され、攪拌装置108にて攪拌される。この試料および試薬の分注量は、分析の種類毎に予め設定されている。
【0029】
反応ディスク111は、周期的に回転、停止を繰り返し、反応容器110が光源112の前を通過するタイミングで分光検出器113にて測光が行われる。10分間の反応時間の間に分光検出器113により測光を繰り返し、その後、容器洗浄機構109で反応容器110内の反応液の排出および洗浄がなされる。この間に別の反応容器110では、別の試料、試薬の分注動作等が並行して実施される。分光検出器113にて測光したデータはコンピュータ114で演算され、分析の種類に応じた成分の濃度を算出してコンピュータ114のディスプレイに表示される。
【0030】
プローブ102の動作を、詳細に説明する。
【0031】
試料を吸引する前に、まず、コントローラ115は、バルブ203を開閉してサンプルプローブ102の流路内部をポンプ204から供給されるシステム液207で満たす。次に、コントローラ115は、プローブ102の先端が空中にある状態で、駆動機構201によりプランジャ(シリンジ)202を下降動作させ、この下降動作により分節空気208を吸引する。
【0032】
次に、コントローラ115は、プローブ102を真空採血管100の中に下降させ、その先端が試料内に浸かった状態でプランジャ(シリンジ)202を所定量下降して試料をプローブ102内に吸引する。この場合、吸引液209は試料である。プローブ102の、吸引時の圧力(又は圧力変動)は、圧力センサ118で検出され、AD変換器205でデジタル変換されて信号処理器206に送られる。その後、プローブ102を反応容器110上に移動して試料を吐出する。この吐出時においても、プランジャ(シリンジ)202が動作している際の圧力(又は圧力変動)は、圧力センサ118で検出され、AD変換器205でデジタル変換されて信号処理器206に送られる。
【0033】
引き続いてプローブ102は、バルブ203の開閉で内部がシステム水等で洗浄され、また、外部も洗浄され、次の分析に備える。
【0034】
信号処理器206ではプローブ102の試料吸引時に得られた第1の圧力波形データ、及び吐出時に取られた第2の圧力波形のデータより分注の異常の有無を判別し、異常があったと判断された場合は、その分析を中止させ、コンピュータ114の表示部等にアラームを表示し、復帰動作を行なう。復帰動作は、異常の原因を除いて再分注する、別の試料の検査(分注および分析)に移る、装置を停止するなどの中から選択される。
【0035】
図3は、同一仕様の採血管を使用し、採血量による真空採血管内の圧力変化を表したものである。
【0036】
図3において、縦軸は真空採血管内の空気量と圧力を表し、横軸は真空採血管内の採血量を表す。そして、
図3に示した直線は空気量と採血量の関係を示し、曲線は採血量と圧力の関係を示している。採血量に応じて真空採血管内の圧力が異なることがわかる。
【0037】
図3に示すように、採血量が少ないほど真空採血管内の負圧量が多く、採血量が多くなるにつれ大気圧に近づくことがわかる。患者から採血出来る採血量は必ずしも一定ではないため、同じサイズの真空採血管でも真空採血管内の圧力にばらつきが生じる。
【0038】
図4は、真空採血管内に粘性の異なった試料を充てんし、プローブで試料吸引した際の圧力センサで得られる圧力波形データの例である。なお、「正常」、「粘性異常」、「詰り」の夫々で複数の波形が示されているのは採血管内の負圧を変えているためである。
【0039】
図4において縦軸は圧力センサ118の圧力を表し、横軸は時間軸を示す。様々な負圧を持った採血管より吸引を行い、吸引開始時を0点として補正している。正常範囲の粘性の試料,高粘性(異常な粘性)の試料,詰まる試料を、線種により、「正常」、「粘性異常」、「詰り」とに分けている。圧力波形は試料の粘性によって、また真空採血管内部の負圧によって、吸引時の圧力波形データは影響を受けるため、正常時、粘性異常時、詰まり発生時の切り分けが困難であることが結果から分かる。真空採血管より吸引する試料は全血であり、グリセリン水溶液に例えると20℃のグリセリン水溶液30〜60%と粘性には大きく個人差がある。試料の粘性だけでなく、採血管内の負圧も圧力波形に影響を与えることから、試料吸引中の圧力波形データのみでは分注時における詰まりや、粘性の判定は不十分である。
【0040】
図5は、真空採血管内に粘性の異なった試料を充てんし、プローブで試料吐出した際の圧力センサで得られる圧力波形データの例である。なお、「正常」で複数の波形が示されているのは採血管内の負圧を変えているためである。
【0041】
図5において縦軸は圧力センサ118の圧力を表し、横軸は時間軸を示す。様々な負圧を持った採血管より試料の吐出を行い、
図4と同様に、正常範囲の粘性の試料,高粘性(異常な粘性)の試料,詰まる試料を、線種により、「正常」、「粘性異常」、「詰り」とに分けている。圧力波形は試料の粘性によって変化し、吸引時の圧力波形データと比較して詰まり時の波形の判別が容易であることが結果から分かる。
【0042】
従い、判別が比較的困難な試料吸引中の圧力波形データと併せ、判別が比較的容易な試料吐出中の圧力波形データを利用することは有用であることが見て取れる。
【0043】
図6は、本実施例における信号処理器206の内部構成図である。
【0044】
図6において、信号処理器206は、自動分析装置の各々の動作に対して分注異常の判定に用いる複数の計算パラメータが記憶されているメモリ206bと、比較部206aと、判定部206cとを備える。信号処理器206の判定部206cは、その判定結果をコントローラ115に伝達する。信号処理器206は、コントローラ115とは別箇に設けられていてもよいし、コントローラ115内に備えられていてもよいものである。なお、判定部206cでの判定に用いる基準パラメータを検知パラメータと称する場合もある。
【0045】
メモリ206bに記憶されている動作に対応した計算パラメータから適切な計算パラメータが選択され使用される。計算パラメータは様々な条件の圧力波形データより生成され、異常な圧力波形データを判定するための閾値が設定されている。あらかじめ定められている複数の数値データからなる計算パラメータを用いて圧力波形データから判定値が計算される。比較部206aにおいて、この判定値(判定対象)とこの閾値を比較することで正常、異常の判定が行なわれる。ここで、判定値とは、圧力波形データと正常に分注が行われた場合の圧力波形データとの波形の違いを定量化する統計距離である。
【0046】
本実施例においては、後に説明する計算パラメータを2つとして説明しているが、自動分析装置の動作によって、採血管外での動作がこれよりも多い場合もあり、パラメータを3つ以上としても良い。
【0047】
計算パラメータについて詳細を説明する。計算パラメータとは、圧力波形と既知データの集合との統計距離を算出するために用いる数値データである。言い換えれば、計算パラメータとは、得られた圧力波形データ(測定中のシリンジ動作時に取得)と正常に分注が行われた場合の圧力波形データ(あらかじめ様々な条件下のシリンジ動作時に取得)との波形の違いを定量化する統計距離を計算するために用いる数値データである。ある動作における判定において、コントローラ115は、動作時における圧力波形データ(つまり、圧力センサ118の検出結果)を取得するとともに、メモリ206bに記憶された計算パラメータとの統計距離を算出する。つまり、前述の判定値は統計距離である。本実施の形態では、比較部206aで用いる統計距離として、マハラノビス距離を用いた場合を例示して説明する。
【0048】
コントローラ115は、算出した統計距離を比較部206aで閾値と大小関係を比較し、その比較結果に基づいて、判定部206cで判定を行う。メモリ206bに記憶された計算パラメータ、及び閾値は、予め対象の動作ごとに必要に応じて定められている。本実施例においては吸引時と吐出時の2つの計算パラメータが定められているが、真空採血管内において吸引動作を行なった場合には、圧力波形の値は採血管内部の圧力と試料の粘性等の影響を受ける。これらの影響を考慮し、吐出の際の閾値に比較して、異常の判定の閾値が高く設定されている。閾値が高いとは、判定裕度が大きいことを意味している。つまり、先に述べたように、試料吸引時の異常判別は比較的困難であるため判定裕度を大きくしている。
【0049】
例えば、吸引時と吐出時とで判定の閾値を同じにした場合、閾値を吸引時に合わせたとすると判定が比較的容易な吐出時の判定が甘くなり異常吐出を正常と判定する虞がある。一方、閾値を吐出時に合わせたとすると判定が比較的困難な吸引時の判定が厳しくなり正常吸引を異常吸引と判定する虞がある。従い、閾値を吸引時と吐出時の判定の容易性に合わせて個々に設けることでより信頼性の高い判定が可能となる。
【0050】
統計距離について説明する。統計距離は、複数の特徴変数で代表される2つの事象間の類似性を数値化した指標である。本実施の形態の場合には、予め用意した既知データの集合に対して、対象データがどれだけ離れているかを算出することになる。ここでは、統計距離の一例としてマハラノビス距離の計算方法について説明する。
【0051】
図7は、それぞれの動作において既知データの集合の一例を模式的に示す図である。本実施例中では、吸引動作、吐出動作それぞれにおいて既知波形データとなるn事象の各データがk個の特徴変数を有している(n,kは正の整数)。なお、nとkの数は(a)吸引動作中,(b)吐出動作中で一致する必要はない。
【0052】
マハラノビス距離の計算では、まず、対象データの各特徴変数をy
1,y
2,・・・,
y
k、既知データの集合の各特徴変数の平均をz
1,z
2,・・,z
k、標準偏差をσ
1,σ
2,・・・,σ
kとした場合、下記の(式1)により正規化を行う。但し、i=1,・・・,kとする。
【0054】
そして、既知データの集合に対する対象データのマハラノビス距離D
Mは、下記の(式2)により表される。ここで、式中のAは共分散行列の逆行列である。
【0056】
これにより、統計距離であるマハラノビス距離D
Mが算出でき、ある所定の閾値thと比較することで、プローブの詰まり判定を行うことができる。例えば、算出したD
Mが閾値th以下であればプローブの詰まりのない正常な分注とみなすことができる。
【0057】
既知データの集合から得られるz
1,z
2,・・,z
k、σ
1,σ
2,・・・,σ
kは、理想的な圧力波形の所定時間の圧力値に相当する。この既知データの集合から計算される各特徴変数の平均,標準偏差,共分散行列の逆行列,および閾値thを計算パラメータとして,吸引時用と吐出時用の2つの計算パラメータをメモリ206bにあらかじめ格納しておく。
【0058】
対象となる圧力波形データから各特徴変数を求め、コントローラは動作に対応した計算パラメータをメモリより読み出し、メモリにより各特徴変数の平均及び標準偏差を用いて、式1及び式2により、マハラノビス距離D
Mを算出することができる。算出した統計距離と閾値thを比較することで分注時の異常判定を行うことができる。
【0059】
なお、本実施の形態に適用可能な統計距離の計算法としては、マハラノビス距離の他にも、ユークリッド距離、標準ユークリッド距離、マンハッタン距離、チェビシェフ距離、ミンコフスキー距離、多変量正規密度などの計算法がある。
【0060】
なお、この計算パラメータは、対応した圧力波形データ以外からの情報によって補正を行ってもよい。例えば、真空採血管内における負圧がある一定以下であった場合、内圧による影響を勘案し、メモリから読み出した吐出時の閾値thに係数pを掛け合わせる。ここで、pは1より大きい正の数値である。その結果、後述の第2の計算パラメータにおける閾値を増加方向に変化させることができる。従い、真空採血管内における圧力が大きな負圧で吐出時の圧力波形に影響を与える場合であっても精度の高い判定を行うことができる。
【0061】
図8は、本発明における判別動作のフローチャートである。なお、このフローはコントローラ115により行われる。
【0062】
図8にて、プローブ102の下降動作を行う(STEP1)。この際、プローブは真空採血管の栓を貫通し、プローブ先端は真空採血管の内部に侵入する。プローブの下降が完了した後、プローブ102にて試料の吸引動作を行い、試料吸引時(シリンジの動作最中)の圧力データを圧力センサ118にて測定し、AD変換されたデータを第1の圧力波形データとして取得し、メモリに記録する(STEP2)。取得した第1の圧力波形データはコントローラ115でメモリ206bに記憶された第1の計算パラメータとの統計距離を算出する。本実施の形態では、比較部206aで用いる統計距離として、マハラノビス距離を用いた場合を例示して説明する。
【0063】
コントローラ115は、算出した統計距離を、比較部206aで閾値と比較し(STEP3)、その比較結果に基づいて、判定部206cで吸引時におけるプローブの詰まりの判定を行う(STEP4)。統計距離が閾値を超えた場合は、プローブの詰まりが有ると判定し、プローブが詰まっているというアラームを表示部に表示し、吸引した試料を反応容器へ吐出せずにプローブの詰まりを除去する動作を行なう(STEP5)。すなわち、その回の分注動作は中止される。その際に、プローブの詰まりを除去する動作として、例えば内洗水などをプローブから吐出する動作を行い、詰まった異物を除去する動作を行う。
【0064】
第1の圧力波形データの判定が正常に終了した後、すなわち統計距離が閾値以内である場合は、吸引した試料を真空採血管の外部で吐出する。なお、この前までにプローブは真空採血管から上昇し引き抜かれ、反応容器に移動している。試料吐出時(シリンジの動作最中)の圧力データの圧力センサ118にて測定し、AD変換されたデータを第2の圧力波形データとして取得し、メモリに記録する(STEP6)。取得した第2の圧力波形データはコントローラ115でメモリ206bに記憶された第2の計算パラメータとの統計距離を算出する。
【0065】
なお、STEP4と6の間に、計算パラメータの閾値を補正することが示されているが、これは任意である。ここでは、先に述べたように、第1の波形データから取り出した圧力値によって第2の閾値に補正を与えることを意味している。このような補正を与えることで、第2の閾値が大きくなり、真空採血管内の圧力を考慮した試料吐出のより信頼性の高い判定が可能となる。
【0066】
また、同様の考え方として、先の補正に換えて、第1の波形データから取り出した圧力値に応じた、第2の計算パラメータと第2の閾値を選択することでより信頼性の高い判定が可能となる。例えば、真空採血管の内部の圧力に応じて、第2の計算パラメータと第2の閾値との組み合わせを複数組、装置は持っており、第1の圧力波形データから取り出した圧力値によって1つの組の第2の計算パラメータと第2の閾値を選択して、STEP7、8を実行する。なお、試料吸引時の圧力波形データから真空採血管の内部の圧力の求め方については公知であり公知の方法で真空採血管の内部の圧力を知ることができる。
【0067】
コントローラ115は、算出した統計距離を、比較部206aで閾値と比較し(STEP7)、その比較結果に基づいて、判定部206cで吐出時における試料粘性の異常判定を行う(STEP8)。統計距離が閾値を超えた場合は、試料の粘性が正常範囲にないと判定し、試料の粘性異常ありというアラームを表示部に表示する。すなわちプローブの異常判定がなされたことになる(STEP9)。吐出された試料に関しては正常に分注が行なわれていない可能性があるので、試薬の分注は行なわずに試料が吐出された反応容器の洗浄を行う(STEP11)。これにより試薬の無駄を防ぐことができる。なお、反応容器の洗浄とプローブ異常判定は図示されているように洗浄が先でもよいし後でもよい。
【0068】
STEP8において、試料吸引時の圧力データが閾値内の場合、すなわち統計距離が閾値以内である場合は、試料の粘性が正常範囲にあると判定し、判定部206cからの指令に従って、コントローラ115の制御により、反応容器への分注動作を行い、分析動作が開始する(STEP10)。従い、通常の分析動作に従い試薬が反応容器に分注される。
【0069】
このようなフローを辿ることで、コントローラ115は、試料吸引時の統計距離と第1の閾値との第1の比較と、試料吐出時の統計距離と第2の閾値との第2の比較を用いて、分注の異常の有無を判定することができる。そして、コントローラ115は、第1の比較においてはプローブの詰まりの有無を判定し、第2の比較においては試料の粘性が正常範囲にあるか否かを判定することができる。また、上記のように、判定対象が異なるため、第1の比較で異常と判定された場合と、第2の比較で異常と判定された場合とは別のアラームが表示され、ユーザは一回の分注動作のうち、吸引動作でプローブが詰まった異常か、試料の粘性が正常範囲にない異常かの区別を容易に行うことができる。
【0070】
図9及び
図10にて圧力波形データと既知波形データとの関係を説明する。
図9と
図10はそれぞれ、吸引時と吐出時の圧力波形データである。横軸は時間、縦軸は圧力値を示す。なお、
図9に示す吸引時の圧力波形データは吸引開始地点を0点に補正している。
【0071】
試料と採血管内部の圧力条件はグラフ中に図示し、
図9と
図10の試料の条件は同一のものを用いている。また、グラフ中に
図7によって説明した、既知波形のデータ群を領域として示した。本実施例において用いている分析装置は真空採血管を採用しているため、
図9において、採血管の負圧が大きいと吸引時の圧力のピークが低くなり、開放採血管と比較して正確な粘性が把握しにくい。そのため、吸引時は詰まりの判定のみを行なうように計算パラメータの閾値を設定している。
【0072】
図10は吐出時の圧力波形データの1例である。本実施例では、吐出動作は真空採血管の外部で行われるため、採血管内部の影響を受けずに吐出動作が実施できる。そのため、粘性の影響を把握することが出来るように計算パラメータを設定している。つまり、吸引時の圧力波形データからはプローブ内部の詰まりを、吐出時の圧力波形データからは異常な粘性の試料を判別できるように閾値を設定している。
【0073】
吸引時に詰まりの検知を行なうことにより、反応容器内へ詰まりの原因となるゴムくずなどを反応容器へ吐出することを回避できる。また、吐出時に高粘性の試料を判定することで、粘性による試料の吐出失敗といったことを防止できる。その結果、より正確性の高い測定が実施できる装置の提供が可能となる。なお、
図9及び
図10では便宜上、既知波形データを領域で示したが、本発明では統計距離を用いて圧力波形データの判定を実施する。そのため、既知波形データの領域から外れた圧力波形データが必ず異常な波形であるといったことはないことを補足しておく。
【0074】
また、本実施の形態では、圧力センサ118の圧力結果からの波形を利用し、分注時の異常の判定を実施した。しかし、他の方法においてもプローブの吐出吸引時の圧力が計測できるのであれば、圧力センサを利用する必要はない。しかしながら、当該圧力センサ118の圧力を利用することで、適切な圧力結果を得ることができる。
【0075】
また、本実施形態では、真空採血管内が負圧の場合について説明したが、真空採血管内が陽圧の場合においても、当該判定は有効であり、負圧に限った技術でないことは言うまでもない。
【0076】
なお、装置として、サンプルディスク101を搭載した例で説明したが、試料容器を搭載したラックを搬送する搬送機構を搭載した、いわゆるラックタイプの装置にも本実施形態が適用できる。