特許第6567921号(P6567921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567921
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】銀被覆銅粉およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20190819BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190819BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20190819BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20190819BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20190819BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20190819BHJP
   H01L 31/0224 20060101ALI20190819BHJP
【FI】
   B22F1/02 A
   B22F1/02 D
   B22F1/00 L
   H01B1/00 C
   H01B5/00 C
   H01B13/00 501Z
   H01B1/22 A
   H01L31/04 264
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-161498(P2015-161498)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2016-50360(P2016-50360A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2018年6月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-175342(P2014-175342)
(32)【優先日】2014年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】野上 徳昭
(72)【発明者】
【氏名】神賀 洋
【審査官】 中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−510192(JP,A)
【文献】 特開2004−323962(JP,A)
【文献】 特開平02−066101(JP,A)
【文献】 特開平06−108102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/02
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に添加して、銀含有層で被覆された銅粉の表面に金を担持させる、銀被覆銅粉の製造方法において、銀被覆銅粉に対する銀含有層の量が5質量%以上であることを特徴とする、銀被覆銅粉の製造方法。
【請求項2】
表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に添加して、銀含有層で被覆された銅粉の表面に金を担持させる、銀被覆銅粉の製造方法において、銀被覆銅粉に対する金の量が0.01質量%以上であることを特徴とする、銀被覆銅粉の製造方法。
【請求項3】
前記銀含有層が銀または銀化合物からなる層であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銀被覆銅粉の製造方法。
【請求項4】
前記金めっき液が、シアン金カリウム溶液からなることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀被覆銅粉の製造方法。
【請求項5】
前記金めっき液が、クエン酸三カリウム1水和物、無水クエン酸およびL−アスパラギン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種以上を添加したシアン金カリウム溶液からなることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀被覆銅粉の製造方法。
【請求項6】
前記銅粉のレーザー回折式粒度分布装置により測定した累積50%粒子径(D50径)が0.1〜15μmであることを特徴とする、請求項1乃至のいずれかに記載の銀被覆銅粉の製造方法。
【請求項7】
銀含有層で被覆された銅粉の表面に金が担持されている銀被覆銅粉において、被覆銅粉に対する銀含有層の量が5質量%以上であることを特徴とする、銀被覆銅粉。
【請求項8】
銀含有層で被覆された銅粉の表面に金が担持されている銀被覆銅粉において、銀被覆銅粉に対する金の量が0.01質量%以上であることを特徴とする、銀被覆銅粉。
【請求項9】
前記銀含有層が銀または銀化合物からなる層であることを特徴とする、請求項7または8に記載の銀被覆銅粉。
【請求項10】
前記銅粉のレーザー回折式粒度分布装置により測定した累積50%粒子径(D50径)が0.1〜15μmであることを特徴とする、請求項乃至のいずれかに記載の銀被覆銅粉。
【請求項11】
請求項乃至10のいずれかに記載の銀被覆銅粉を導体として用いたことを特徴とする、導電性ペースト。
【請求項12】
溶剤および樹脂を含み、導電性紛体として請求項乃至10のいずれかに記載の銀被覆銅粉を含むことを特徴とする、導電性ペースト。
【請求項13】
請求項11または12の導電性ペーストを基板に塗布した後に硬化させることにより基板の表面に電極を形成することを特徴とする、太陽電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀被覆銅粉およびその製造方法に関し、特に、導電ペーストなどに使用する銀被覆銅粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷法などにより電子部品の電極や配線を形成するために、銀粉や銅粉などの導電性の金属粉末に溶剤、樹脂、分散剤などを配合して作製した導電ペーストが使用されている。
【0003】
しかし、銀粉は、体積抵抗率が極めて小さく、良好な導電性物質であるが、貴金属の粉末であるため、コストが高くなる。一方、銅粉は、体積抵抗率が低く、良好な導電性物質であるが、酸化され易いため、銀粉に比べて保存安定性(信頼性)に劣っている。
【0004】
これらの問題を解消するために、導電ペーストに使用する金属粉末として、銅粉の表面を銀で被覆した銀被覆銅粉が提案されている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−174311号公報(段落番号0003)
【特許文献2】特開2010−077495号公報(段落番号0006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜2の銀被覆銅粉では、銅粉の表面に銀で被覆されていない部分が存在すると、その部分から酸化が進行してしまうため、保存安定性(信頼性)が不十分である。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、保存安定性(信頼性)に優れた銀被覆銅粉およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に添加して、銀含有層で被覆された銅粉の表面に金を担持させることにより、保存安定性(信頼性)に優れた導銀被覆銅粉を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による銀被覆銅粉の製造方法は、表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に添加して、銀含有層で被覆された銅粉の表面に金を担持させることを特徴とする。この銀被覆銅粉の製造方法において、銀含有層が銀または銀化合物からなる層であるのが好ましい。また、銀被覆銅粉に対する銀含有層の量が5質量%以上であるのが好ましく、銀被覆銅粉に対する金の量が0.01質量%以上であるのが好ましい。また、金めっき液が、シアン金カリウム溶液からなるのが好ましく、クエン酸三カリウム1水和物、無水クエン酸およびL−アスパラギン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種以上を添加したシアン金カリウム溶液からなるのがさらに好ましい。また、銅粉のレーザー回折式粒度分布装置により測定した累積50%粒子径(D50径)が0.1〜15μmであるのが好ましい。
【0010】
また、本発明による銀被覆銅粉は、銀含有層で被覆された銅粉の表面に金が担持されていることを特徴とする。この銀被覆銅粉において、銀含有層が銀または銀化合物からなる層であるのが好ましい。また、銀被覆銅粉に対する銀含有層の量が5質量%以上であるのが好ましく、銀被覆銅粉に対する金の量が0.01質量%以上であるのが好ましい。また、銅粉のレーザー回折式粒度分布装置により測定した累積50%粒子径(D50径)が0.1〜15μmであるのが好ましい。
【0011】
また、本発明による導電性ペーストは、上記の銀粉を導体として用いたことを特徴とする。あるいは、本発明による導電性ペーストは、溶剤および樹脂を含み、導電性紛体として上記の銀粉を含むことを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明による太陽電池用電極の製造方法は、上記の導電性ペーストを基板に塗布した後に硬化させることにより基板の表面に電極を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、保存安定性(信頼性)に優れた銀被覆銅粉およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1〜5および比較例1において得られた銀被覆銅粉の加熱温度に対する重量増加率を示す図である。
図2】実施例9および比較例2の導電性ペーストを用いて作製した太陽電池の耐候性試験の時間に対する変換効率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による銀被覆銅粉の製造方法の実施の形態では、表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に添加して、銀含有層で被覆された銅粉の表面に金を担持させる。このように銀含有層で被覆された銅粉の表面に金を担持させることにより、銅粉が銀含有層で被覆されていない露出部分を金で被覆し、銅粉の酸化を防止して、保存安定性(信頼性)に優れた銀被覆銅粉を製造することができる。
【0016】
銀含有層は、銀または銀化合物からなる層であるのが好ましい。銀被覆銅粉に対する銀含有層の被覆量は、5質量%以上であるのが好ましく、7〜50質量%であるのがさらに好ましく、8〜40質量%であるのがさらに好ましく、9〜20質量%であるのが最も好ましい。銀含有層の被覆量が5質量%未満では、銀被覆銅粉の導電性に悪影響を及ぼすので好ましくない。一方、50質量%を超えると、銀の使用量の増加によってコストが高くなるので好ましくない。
【0017】
銀被覆銅粉に対する金の担持量は、0.01質量%以上であるのが好ましく、0.05〜0.7質量%であるのがさらに好ましい。金の担持量が0.01質量%未満であると、銀被覆銅粉の銅粉が銀で被覆されていない露出部分を金が埋めるには不十分であり、金の担持量が0.7質量%を超えると、金の増量分に対する銅粉の酸化防止効果の向上の割合が小さく、金の使用量の増加によってコストが高くなるので好ましくない。
【0018】
金めっき液は、銀含有層で被覆されていない銅粉の露出部分を金めっきすることができ且つ銀含有層を溶かさない溶液であるのが好ましく、シアン金カリウム溶液からなるのが好ましい。また、金めっき液は、酸性、中性、アルカリ性のいずれでもよいが、クエン酸などの有機酸を添加した酸性のシアン金カリウム溶液からなるのが好ましく、クエン酸三カリウム1水和物、無水クエン酸およびL−アスパラギン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種以上を添加したシアン金カリウム溶液からなるのがさらに好ましい。また、金めっき液は、光沢剤としてコバルトを含んでもよい。なお、表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に添加する方法は、表面が銀含有層で被覆された銅粉を水などの溶媒に分散させた分散液と金めっき液とを混合する方法など、どのような方法でもよいが、表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に接触させる際に、表面が銀含有層で被覆された銅粉が液中で分散しているのが好ましい。また、金めっき液は、表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に添加した直後の液中の金の濃度が0.0001〜5g/Lになる金を含むのが好ましく、0.0002〜0.9g/Lになる金を含むのがさらに好ましい。表面が銀含有層で被覆された銅粉を金めっき液に添加した後の液中の金の濃度が高過ぎると、銀で被覆されていない銅粉の露出部分以外も金で被覆され、金の使用量が増加して、コストが高くなるので好ましくない。
【0019】
銅粉の粒子径は、(ヘロス法によって)レーザー回折式粒度分布装置により測定した累積50%粒子径(D50径)が0.1〜15μmであるのが好ましく、0.3〜10μmであるのがさらに好ましく、1〜5μmであるのが最も好ましい。累積50%粒子径(D50径)が0.1μm未満では、銀被覆銅粉の導電性に悪影響を及ぼすので好ましくない。一方、15μmを超えると、微細な配線の形成が困難になるので好ましくない。
【0020】
銅粉は、湿式還元法、電解法、気相法などにより製造してもよいが、銅を溶解温度以上で溶解し、タンディッシュ下部から落下させながら高圧ガスまたは高圧水を衝突させて急冷凝固させることにより微粉末とする、(ガスアトマイズ法、水アトマイズ法などの)所謂アトマイズ法により製造するのが好ましい。特に、高圧水を吹き付ける、所謂水アトマイズ法により製造すると、粒子径が小さい銅粉を得ることができるので、銅粉を導電ペーストに使用した際に粒子間の接触点の増加による導電性の向上を図ることができる。
【0021】
銅粉を銀含有層で被覆する方法として、銅と銀の置換反応を利用した還元法や、還元剤を用いる還元法により、銅粉の表面に銀または銀化合物を析出させる方法を使用することができ、例えば、溶媒中に銅粉と銀または銀化合物を含む溶液を攪拌しながら銅粉の表面に銀または銀化合物を析出させる方法や、溶媒中に銅粉および有機物を含む溶液と溶媒中に銀または銀化合物および有機物を含む溶液とを混合して攪拌しながら銅粉の表面に銀または銀化合物を析出させる方法などを使用することができる。
【0022】
この溶媒としては、水、有機溶媒またはこれらを混合した溶媒を使用することができる。水と有機溶媒を混合した溶媒を使用する場合には、室温(20〜30℃)において液体になる有機溶媒を使用する必要があるが、水と有機溶媒の混合比率は、使用する有機溶媒により適宜調整することができる。また、溶媒として使用する水は、不純物が混入するおそれがなければ、蒸留水、イオン交換水、工業用水などを使用することができる。
【0023】
銀含有層の原料として、銀イオンを溶液中に存在させる必要があるため、水や多くの有機溶媒に対して高い溶解度を有する硝酸銀を使用するのが好ましい。また、銅粉を銀含有層で被覆する反応(銀被覆反応)をできるだけ均一に行うために、固体の硝酸銀ではなく、硝酸銀を溶媒(水、有機溶媒またはこれらを混合した溶媒)に溶解した硝酸銀溶液を使用するのが好ましい。なお、使用する硝酸銀溶液の量、硝酸銀溶液中の硝酸銀の濃度および有機溶媒の量は、目的とする銀含有層の量に応じて決定することができる。
【0024】
銀含有層をより均一に形成するために、溶液中にキレート化剤を添加してもよい。キレート化剤としては、銀イオンと金属銅との置換反応により副生成する銅イオンなどが再析出しないように、銅イオンなどに対して錯安定度定数が高いキレート化剤を使用するのが好ましい。特に、銀被覆銅粉のコアとなる銅粉は主構成要素として銅を含んでいるので、銅との錯安定度定数に留意してキレート化剤を選択するのが好ましい。具体的には、キレート化剤として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノジ酢酸、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミンおよびこれらの塩からなる群から選ばれたキレート化剤を使用することができる。
【0025】
銀被覆反応を安定かつ安全に行うために、溶液中にpH緩衝剤を添加してもよい。このpH緩衝剤として、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニア水、炭酸水素ナトリウムなどを使用することができる。
【0026】
銀被覆反応の際には、銀塩を添加する前に溶液中に銅粉を入れて攪拌し、銅粉が溶液中に十分に分散している状態で、銀塩を含む溶液を添加するのが好ましい。この銀被覆反応の際の反応温度は、反応液が凝固または蒸発する温度でなければよいが、好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは15〜35℃の範囲で設定する。また、反応時間は、銀または銀化合物の被覆量や反応温度によって異なるが、1分〜5時間の範囲で設定することができる。
【0027】
なお、銀含有層により被覆された銅粉(銀被覆銅粉)の形状は、略球状でも、フレーク状でもよい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明による銀被覆銅粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
アトマイズ法により製造された市販の銅粉(日本アトマイズ加工株式会社製のアトマイズ銅粉SF−Cu 5μm)を用意し、この(銀被覆前の)銅粉の粒度分布を求めたところ、銅粉の累積10%粒子径(D10)は2.26μm、累積50%粒子径(D50)は5.20μm、累積90%粒子径(D90)は9.32μmであった。なお、銅粉の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布装置(日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT−3300)により測定して、累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90)を求めた。
【0030】
また、EDTA−4Na(43%)1470gと炭酸アンモニウム1820gを純水2882gに溶解した溶液(溶液1)と、EDTA−4Na(43%)1470gと炭酸アンモニウム350gを純水2270gに溶解した溶液に、銀77.8gを含む硝酸銀水溶液235.4gを加えて得られた溶液(溶液2)を用意した。
【0031】
次に、窒素雰囲気下において、上記の銅粉700gを溶液1に加えて、攪拌しながら35℃まで昇温させた。この銅粉が分散した溶液に溶液2を加えて30分間攪拌した後、ろ過し、水洗し、乾燥して、銀により被覆された銅粉(銀被覆銅粉)を得た。
【0032】
次に、得られた銀被覆銅粉0.5gを純水8gに添加し、これを(酸性の)金めっき液0.1mLに添加して室温で30分間撹拌した後、押し出し水をかけながら、ろ過し、ろ紙上の固形物を純水で洗浄し、真空乾燥機により70℃で5時間乾燥させて、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、金めっき液として、金濃度20g/Lのシアン金カリウム溶液に、50質量%のクエン酸三カリウム1水和物と、38.9質量%の無水クエン酸と、10質量%のL−アスパラギン酸と、1.1質量%の硫酸コバルトとからなる建浴用添加剤を添加した金めっき液を使用した。また、ろ液の量は77.7gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度をICP質量分析装置(ICP−MS)により測定したところ、それぞれ1mg/L未満、1mg/L未満、120mg/Lであった。
【0033】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉を王水に溶解させた後、純水を添加してろ過することにより銀を塩化銀として回収し、ろ液についてICP質量分析装置(ICP−MS)によりAuの含有量を測定するとともに、回収した塩化銀から重量法によりAgの含有量を求めたところ、銀被覆銅粉中のAuの含有量は0.60質量%であり、Agの含有量は11.0質量%であった。
【0034】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉40mgを、示差熱・熱重量同時測定装置(TG−DTA装置)により、大気中において室温(25℃)から昇温速度10℃/分で400℃まで昇温させて計測された200℃、250℃、300℃、350℃および400℃における重量の各々と加熱前の銀被覆銅粉の重量の差(加熱により増加した重量)の加熱前の銀被覆銅粉の重量に対する重量増加率(%)から、加熱により増加した重量はすべて銀被覆銅粉の酸化により増加した重量であるとみなして、銀被覆銅粉の大気中における(酸化に対する)高温安定性を評価することにより、銀被覆銅粉の保存安定性(信頼性)を評価した。その結果、200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率は、それぞれ0.10%、0.08%、0.37%、1.96%であった。
【0035】
[実施例2]
実施例1で得られた銀被覆銅粉3gを純水15gに添加し、金めっき液の量を0.55mLとした以外は、実施例1と同様の方法により、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、ろ液の量は123.65gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ1mg/L未満、1mg/L未満、66mg/Lであった。
【0036】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉中のAuとAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.30質量%、11.0質量%であった。
【0037】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.11%、0.10%、0.63%、2.63%であった。
【0038】
[実施例3]
実施例1で得られた銀被覆銅粉3gを純水15gに添加し、金めっき液の量を0.25mLとした以外は、実施例1と同様の方法により、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、ろ液の量は74.74gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ1mg/L未満、1mg/L未満、99mg/Lであった。
【0039】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉中のAuとAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.16質量%、10.1質量%であった。
【0040】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.10%、0.17%、0.88%、3.26%であった。
【0041】
[実施例4]
実施例1で得られた銀被覆銅粉5gを純水15gに添加し、金めっき液の量を0.25mLとした以外は、実施例1と同様の方法により、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、ろ液の量は110.5gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ1mg/L未満、1mg/L未満、110mg/Lであった。
【0042】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉中のAuとAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.09質量%、10.1質量%であった。
【0043】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.09%、0.21%、0.87%、3.36%であった。
【0044】
[実施例5]
実施例1で得られた銀被覆銅粉7gを純水15gに添加し、これを金濃度49g/Lのシアン金カリウム溶液からなる金めっき液0.25mLに添加した以外は、実施例1と同様の方法により、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、ろ液の量は84.82gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ5mg/L、1mg/L未満、4mg/Lであった。本実施例では、クエン酸などを添加していないため、金めっき液が酸性でないので、反応が進み難く、ろ液にAuが残存していた。
【0045】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉中のAuとAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.17質量%、10.1質量%であった。
【0046】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.06%、0.24%、1.07%、3.34%であった。
【0047】
[実施例6]
金めっき液として、金濃度10g/Lのシアン金カリウム溶液0.91gと、1.87gのクエン酸三カリウム1水和物と、0.07gの無水クエン酸とを含む溶液から分取した金めっき液1mLを使用し、実施例1で得られた銀被覆銅粉3gを純水15gに添加した以外は、実施例1と同様の方法により、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、ろ液の量は100.57gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ1mg/L未満、1mg/L未満、83mg/Lであった。
【0048】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉中のAuとAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.70質量%、10.9質量%であった。
【0049】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.13%、0.13%、0.81%、2.95%であった。
【0050】
[実施例7]
金めっき液として、金濃度10g/Lのシアン金カリウム溶液5mLに、0.05gのクエン酸三カリウム1水和物と、0.041gの無水クエン酸とを添加した溶液から分取した金めっき液1mLを使用し、実施例1で得られた銀被覆銅粉10gを純水15gに添加した以外は、実施例1と同様の方法により、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、ろ液の量は123.9gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ1mg/L未満、1mg/L未満、120mg/Lであった。
【0051】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉中のAuとAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.01質量%、10.1質量%であった。
【0052】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.15%、0.31%、0.99%、3.52%であった。
【0053】
[実施例8]
金めっき液として、金濃度10g/Lのシアン金カリウム溶液5mLに、0.05gのクエン酸三カリウム1水和物と、0.041gの無水クエン酸と、0.0085gのL−アスパラギン酸とを添加した溶液から分取した金めっき液1mLを使用し、実施例1で得られた銀被覆銅粉10gを純水15gに添加した以外は、実施例1と同様の方法により、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、ろ液の量は88gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ1mg/L未満、1mg/L未満、140mg/Lであった。
【0054】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉中のAuとAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.01質量%、10.3質量%であった。
【0055】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.14%、0.28%、0.96%、3.57%であった。
【0056】
[比較例1]
実施例1で得られた銀被覆銅粉(金めっき液に添加しないで、表面に金を担持させていない銀被覆銅粉)中のAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、10.9質量%であった。また、銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.16%、0.46%、1.27%、3.80%であった。
【0057】
[比較例2]
アトマイズ法により製造された市販の銅粉(日本アトマイズ加工株式会社製のアトマイズ銅粉SFR−5μm)を用意し、この銅粉の粒度分布を実施例1と同様の方法により求めたところ、銅粉の累積10%粒子径(D10)は2.12μm、累積50%粒子径(D50)は4.93μm、累積90%粒子径(D90)は10.19μmであった。
【0058】
また、EDTA−4Na(43%)337.83gと炭酸アンモニウム9.1gを純水1266.3gに溶解した溶液に、銀38.89gを含む硝酸銀水溶液123.89gを加えて得られた溶液(溶液1)と、EDTA−4Na(43%)735gと炭酸アンモニウム175gを純水1133.85gに溶解した溶液(溶液2)を用意した。
【0059】
次に、窒素雰囲気下において、上記の銅粉350gを溶液1に加えて、攪拌しながら35℃まで昇温させた。この銅粉が分散した溶液に溶液2を加えて30分間攪拌した後、ろ過し、水洗し、乾燥して、銀により被覆された銅粉(銀被覆銅粉)を得た。この銀被覆銅粉中のAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、10.1質量%であった。
【0060】
また、得られた銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.22%、0.46%、1.07%、2.74%であった。
【0061】
[実施例9]
シアン金カリウム(小島薬品化学株式会社製)1.4633gと、無水クエン酸(和光純薬工業株式会社製)0.8211gと、L−アスパラギン酸(和光純薬工業株式会社製)0.1708gと、クエン酸三カリウム1水和物(和光純薬工業株式会社製)0.9998gとを純水100gに加えて30℃で11分間撹拌して金めっき液を作製した。
【0062】
次に、比較例2で得られた銀被覆銅粉100gを純水150gに添加し、上記の金めっき液10.299gを添加して30℃で30分間撹拌した後、押し出し水をかけながら、ろ過し、ろ紙上の固形物を純水で洗浄し、真空乾燥機により70℃で5時間乾燥させて、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を得た。なお、ろ液の量は650gであり、ろ液中のAu、Ag、Cuの濃度を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ2mg/L、1mg/L未満、150mg/Lであった。
【0063】
このようにして得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉中のAuとAgの含有量を実施例1と同様の方法により測定したところ、それぞれ0.10質量%、10.0質量%であった。
【0064】
また、得られた(表面に金を担持させた)銀被覆銅粉の200℃、250℃、300℃および350℃における重量増加率を実施例1と同様の方法により求めたところ、それぞれ0.13%、0.27%、0.80%、2.27%であった。
【0065】
これらの実施例および比較例で得られた銀被覆銅粉の製造条件および特性を表1〜表3に示す。また。実施例1〜5および比較例1で得られた銀被覆銅粉の温度に対する重量増加率を図1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表1〜表3および図1に示すように、表面に金を担持させた実施例の銀被覆銅粉では、表面に金を担持させていない比較例の銀被覆銅粉と比べて、大気中において加熱したときの重量増加率を小さくすることができるので、耐酸化性を向上させることができ、保存安定性(信頼性)に優れているのがわかる。
【0070】
また、表面に金を担持させた実施例の銀被覆銅粉を製造する際に得られたろ液中のAgの濃度が非常に低く、Cuの濃度が高いことから、銀で被覆されていない銅粉の露出部分が選択的に金めっきされると推測され、銀で被覆されていない銅粉の露出部分を非常に少ない量の金で埋めて、銀被覆銅粉の耐酸化性を向上させ、保存安定性(信頼性)に優れた銀被覆銅粉を製造することができる。
【0071】
また、比較例2および実施例9のそれぞれの銀粉87.0質量%と、エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製のJER1256)3.8質量%と、溶剤としてブチルカルビトールアセテート(和光純薬工業株式会社製)8.6質量%と、硬化剤(味の素ファインテクノ株式会社製のM−24)0.5質量%と、分散剤としてオレイン酸(和光純薬工業株式会社製)0.1質量%とを、自公転式真空攪拌脱泡装置(株式会社シンキー社製のあわとり練太郎)により混合(予備混練)した後、3本ロール(オットハーマン社製のEXAKT80S)により混練することにより、それぞれ導電性ペースト1を得た。
【0072】
また、銀イオンとして21.4g/Lの硝酸銀溶液502.7Lに、工業用のアンモニア水45Lを加えて、銀のアンミン錯体溶液を生成した。生成した銀のアンミン錯体溶液に濃度100g/Lの水酸化ナトリウム溶液8.8Lを加えてpH調整し、水462Lを加えて希釈し、還元剤として工業用のホルマリン48Lを加えた。その直後に、ステアリン酸として16質量%のステアリン酸エマルジョン121gを加えた。このようにして得られた銀のスラリーをろ過し、水洗した後、乾燥して銀粉21.6kgを得た。この銀粉をヘンシェルミキサ(高速攪拌機)で表面平滑化処理した後、分級して11μmより大きい銀の凝集体を除去した。
【0073】
このようにして得られた銀粉85.4質量%と、エチルセルロース樹脂(和光純薬工業株式会社製)1.2質量%と、溶剤(JMC株式会社製のテキサノールと和光純薬工業株式会社製のブチルカルビトールアセテートを1:1で混合した溶剤)7.9質量%と、添加剤としてガラスフリット(旭硝子株式会社製のASF−1898B)1.5質量%および二酸化テルル(和光純薬工業株式会社製)3.2質量%を、自公転式真空攪拌脱泡装置(株式会社シンキー社製のあわとり練太郎)により混合(予備混練)した後、3本ロール(オットハーマン社製のEXAKT80S)により混練することにより、導電性ペースト2を得た。
【0074】
次に、2枚のシリコンウエハ(株式会社E&M製、80Ω/□、6インチ単結晶)を用意し、それぞれのシリコンウエハの裏面にスクリーン印刷機(マイクロテック株式会社製のMT−320T)によりアルミペースト(東洋アルミニウム株式会社製のアルソーラー14−7021)を印刷した後に、熱風式乾燥機により200℃で10分間乾燥するとともに、シリコンウエハの表面にスクリーン印刷機(マイクロテック株式会社製のMT−320T)により、上記の導電性ペースト2を幅50μmの100本のフィンガー電極形状に印刷した後、熱風式乾燥機により200℃で10分間乾燥し、高速焼成IR炉(日本ガイシ株式会社製の高速焼成試験4室炉)のイン−アウト21秒間としてピーク温度820°で焼成した。その後、それぞれのシリコンウエハの表面にスクリーン印刷機(マイクロテック株式会社製のMT−320T)により、それぞれの導電性ペースト1(比較例2と実施例9の銀被覆銅粉から得られた導電性ペースト1)を幅1.3mmの3本のバスバー電極形状に印刷した後、熱風式乾燥機により200℃で40分間乾燥するとともに硬化させて太陽電池を作製した。
【0075】
上記の太陽電池にソーラーシミュレータ(株式会社ワコム電創製)のキセノンランプにより光照射エネルギー100mWcmの疑似太陽光を照射して電池特性試験を行った。その結果、比較例2および実施例9の導電性ペーストを使用して作製した太陽電池の変換効率Effは、それぞれ18.34%、20.12%であった。
【0076】
また、耐候性試験(信頼性試験)として、上記の太陽電池をそれぞれ温度85℃、湿度85%に設定した恒温恒湿器に入れ、24時間後と48時間後の変換効率Effを求めたところ、比較例2の導電性ペーストを使用して作製した太陽電池では、24時間後で17.87%、48時間後で16.79%であり、実施例9の導電性ペーストを使用して作製した太陽電池では、24時間で19.18%、18.90%であった。これらの結果を図2に示す。これらの結果からわかるように、表面に金を担持させた銀被覆銅粉を用いた導電性ペーストを太陽電池のバスバー電極の形成に使用すると、耐候性試験後でも変換効率の低下を抑えることができる。
図1
図2