特許第6567995号(P6567995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6567995
(24)【登録日】2019年8月9日
(45)【発行日】2019年8月28日
(54)【発明の名称】即席フライ麺の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/113 20160101AFI20190819BHJP
【FI】
   A23L7/113
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-45223(P2016-45223)
(22)【出願日】2016年3月9日
(65)【公開番号】特開2017-158469(P2017-158469A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北野 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 充
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/053350(WO,A1)
【文献】 特開昭57−125723(JP,A)
【文献】 特開2004−229906(JP,A)
【文献】 特開平05−328923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A47J 37/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化後の麺線群を収納したリテーナをフライ油槽内のフライ油に浸漬し、フライ麺塊を製造する方法であって、当該方法は、
前記フライ油槽内のフライ油に麺線群の一部を水平に通過させながら前記リテーナを搬送する第1の工程と、
前記第1の工程の後に、前記フライ油槽内のフライ油に前記麺線群全体を浸漬しながら前記リテーナを搬送する第2の工程と、
を含み、
前記フライ油槽の上流底部に設けられた噴出し口より供給されるフライ油の流量は、前記フライ油槽の下流底部に設けられた噴出し口より供給されるフライ油の流量の90%以下であり、
前記第1の工程において、前記リテーナの底面にフライされた麺線群の一部を固着させながら、麺線群の水分蒸発によるフライ油の吹き上がりにより麺線群を上方へ膨張させ、フライ油に浸漬しない麺線群も部分的にフライする、
ことを特徴とするフライ麺塊の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程における前記麺線群のフライ油への浸漬率は10%〜70%である、請求項1記載のフライ麺塊の製造方法。
【請求項3】
前記フライ油槽の上流におけるフライ油の油面は、前記フライ油槽の下流における油面よりも低い、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフライ麺塊の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程を実施するフライ油槽の領域におけるフライ油の油面レベルに基づいて、フライ油槽へ供給されるフライ油の供給量を制御する、ことを特徴とする請求項1ないしのいずれか一項に記載のフライ麺塊の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎密が少なく、均一にフライされた即席フライ麺の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席麺は、常温での長期保存が可能で、調理が簡便、かつ安価に提供される優れた加工食品である。特に容器入り即席麺は、容器に熱湯を注ぐだけで喫食できるため様々な場面で重用されている。
【0003】
現在のカップ型容器入り即席麺の多くは、その麺塊の上面が平坦、かつ密であり、下部が疎の状態であるのが一般的である(特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示されている容器付スナック麺の製造法では、側面に小孔を有し底部を網目に形成した金属製のカップ状型(リテーナ)に麺線を充填して施蓋し、これをフライ油中に浸漬するため、麺線中の水分蒸発により麺線が浮上し、その上面は蓋に密着して平坦となり、かつ上部が密で下部が疎の状態の麺塊を成形することができる。
【0005】
このように麺塊の上面を平坦かつ密にしているため乾燥野菜などの具材を添入した場合、具が麺塊の中へ混入せず、喫食時に麺体の上部で復元し、食欲を増進するという優れた効果を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭50−38693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、麺線を充填して施蓋したリテーナ全体を一度にフライ油へ浸漬した場合、麺線の水分蒸発によるフライ油の吹き上がりによって麺線群が浮上して蓋付近に集中するため、麺線の密度が高い部分について油回りが悪くなるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、リテーナを搬送しながら効率良く、かつ均一にリテーナ内の麺線群をフライ乾燥する方法を鋭意研究した結果、(1)リテーナを一定の浸漬率でフライ油に浸漬(以下、「ハーフフライ」と呼ぶ)すると、フライ油に浸漬した麺線群の一部がリテーナ底部に固着すること、(2)フライ油に浸漬した麺線の水分蒸発によってフライ油が吹き上がり、麺線群全体が上方へ膨張すること、(3)吹き上がるフライ油によって、上方へ膨張した麺線群も部分的にフライされること、(4)上記(1)〜(3)の工程の後、リテーナ全体をフライ油へ浸漬(以下、「ディープフライ」と呼ぶ)すると、膨張によって嵩高くなった麺塊形状が固定化されるため、麺線間へのフライ油の油回りが良くなり、均一に、かつ効率良く麺塊を作製することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本願第一の発明は、α化後の麺線群を収納したリテーナをフライ油槽内のフライ油に浸漬し、フライ麺塊を製造する方法であって、フライ油槽内のフライ油に麺線群の一部を浸漬しながらリテーナを搬送する第1の工程と、第1の工程の後に、フライ油槽内のフライ油に麺線群全体を浸漬しながらリテーナを搬送する第2の工程と、を含むフライ麺塊の製造方法に関する。
【0010】
本願第二の発明は、上記第1の工程において、リテーナの底面にフライされた麺線群の一部を固着させながら、麺線群の水分蒸発によるフライ油の吹き上がりにより麺線群を上方へ膨張させ、フライ油に浸漬しない麺線群も部分的にフライする、ことを特徴とする第一の発明に係るフライ麺塊の製造方法に関する。
【0011】
本願第三の発明は、上記第1の工程における麺線群のフライ油への浸漬率は10%〜70%である、ことを特徴とする第一の発明または第二の発明に係るフライ麺塊の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明の発明者らは、フライ油槽の上流に供給されるフライ油の流量を、フライ油槽の下流に供給されるフライ油の流量よりも少なくすることで、フライ油の流れの抵抗によって、麺塊形状が固定化する前にリテーナ底部から麺塊が剥離・浮上し、麺塊形状が崩れてフライ効率(生産性)が低下するのを防ぐことができることを見出し、本発明を構成するに至った。
【0013】
すなわち、本願第四の発明は、フライ油槽の上流に供給されるフライ油の流量は、フライ油槽の下流に供給されるフライ油の流量の90%以下であることを特徴とする、第一の発明ないし第三の発明のいずれか一つに係るフライ麺塊の製造方法に関する。
【0014】
本願第五の発明は、フライ油槽の上流におけるフライ油の油面が、フライ油槽の下流における油面よりも低い、ことを特徴とする第四の発明に係るフライ麺塊の製造方法に関する。
【0015】
本願第六の発明は、上記第1の工程を実施するフライ油槽の領域におけるフライ油の油面レベルに基づいて、フライ油槽へ供給されるフライ油の供給量を制御する、ことを特徴とする第一の発明ないし第五の発明のいずれか一つに係るフライ麺塊の製造方法に関する。
【0016】
本願第七の発明は、フライ油槽の上流におけるフライ油の平均温度は、フライ油槽の下流におけるフライ油の平均温度よりも低い、ことを特徴とする第一の発明ないし第六の発明のいずれか一つに係るフライ麺塊の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】小型リテーナに収納した麺線群をハーフフライする様子を示す写真である。
図2】小型リテーナに収納した麺線群をディープフライする様子を示す写真である。
図3】本発明を実施するためのフライ麺塊製造装置の側面模式図である。
図4】本発明を実施するためのフライ麺塊製造装置の上面模式図である。
図5】フライ麺塊のサンプル例の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、上記本実施態様の麺塊製造工程について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明により製造される即席フライ麺の種類は、特に限定されず、通常、当技術分野で知られるいかなるものであってもよい。例えば、うどん、そば、中華麺、パスタ等が挙げられる。
【0019】
1.原料配合
本発明に係る即席フライ麺には、通常の即席麺の原料が使用できる。すなわち、原料粉としては、小麦粉、そば粉、及び米粉等の穀粉、並びに馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ等の各種澱粉及びこれらの加工澱粉を単独で使用しても、または混合して使用してもよい。
【0020】
2.ドウ作製
本発明に係るドウの作製方法は、常法に従って行えばよい。すなわち、常圧ミキサー、真空ミキサー等で、麺原料粉と練り水とが均一に混ざるように混捏すればよく、そぼろ状のドウを作製すればよい。
【0021】
3.麺帯作製
作製したドウを用いて麺帯を作製する。本発明に係る麺帯は、常法に従って作製すれば良く、例えば、通常整形ロールにより、ドウを粗麺帯とした後、複合ロールを通して作製してもよい。
【0022】
4.圧延、切出し
次いで作製した麺帯を、圧延ロールを用いて所定の麺厚まで圧延する。所望の麺厚にした麺帯を切刃ロールにより切断し、生麺線とする。
【0023】
5.α化工程
次いで得られた生麺線を、常法により蒸煮及び/又はボイルによってα化させる。蒸煮の方法としては、飽和水蒸気による加熱だけでなく、過熱水蒸気により加熱することもできる。
【0024】
6.着味工程
本発明においては、このようにしてα化した麺線にスプレーや浸漬等により調味液(着液)を付着させ味付けを行うこともできる。着味工程は必ずしも行う必要はなく、省略しても構わない。
【0025】
7.カット及び投入
次いで、麺線を1食分20〜50cmにカットし、麺線供給機構5によりリテーナ本体31の各カップ容器に投入する。麺線群のリテーナへの充填率は90%以下とすることが望ましい。ここで、充填率とは、麺線群の高さをリテーナの高さで割った値を百分率で表した値である。
【0026】
8.フライ乾燥工程
本発明では、複数のリテーナ本体を無端の搬送チェーンに掛け渡し、リテーナ本体を搬送しながら2段階のフライ乾燥処理(ハーフフライ及びディープフライ)を行う。使用する食用油としてはパーム油やラードなどがあげられる。
【0027】
−ハーフフライ−
各カップ容器に麺線群を収納したリテーナ本体を、加熱したフライ油で満たしたフライ油槽へ進入させ、麺線群を一定の浸漬率で水平に通過させながらフライ処理する。ここで、麺線群の浸漬率は、リテーナの底部から油面までの高さを麺線群の高さで割った値を百分率で表した値、リテーナの浸漬率は、リテーナの底部から油面までの高さをリテーナの高さで割った値を百分率で表した値である。リテーナ全体、または麺線群全体がフライ油に浸漬した状態では、浸漬率はそれぞれ100%となる。
【0028】
図1は、ハーフフライの様子を観察するため、小型リテーナに麺線群を収納し、蓋材を外した状態で麺線群を手動でハーフフライした様子を示す写真である。リテーナを一定の浸漬率でフライ油に浸漬すると、図1に示すようにフライ油に浸漬した麺線の水分蒸発によってフライ油が吹き上がり、吹き上がるフライ油によって上方へ膨張した麺線群も部分的にフライされる。
【0029】
−ディープフライ−
ハーフフライに続いてリテーナ本体全体をフライ油に浸漬し、ディープフライを行う。図2は、図1に示すハーフフライ処理を行った後、穴径2.9mmの小孔が多数空いた金属製の蓋で施蓋した小型リテーナを手動でディープフライした様子を示す写真である。ハーフフライを経ないで一度にリテーナをフライ油に浸漬すると、麺線群は蓋付近まで浮上してフライされるため、麺塊の上面は蓋に密着して平坦となり、かつ上部が密で下部が疎の状態となる。一方、本発明では、ハーフフライによって麺線群をリテーナの底面に固着させ、かつ麺線群を嵩高くすることが可能なため、ディープフライにより麺塊形状が固定化され、麺線間へのフライ油の油回りを改善することが可能となる。
【0030】
ハーフフライにおける麺線群の浸漬率(またはリテーナの浸漬率)は、リテーナの底面にフライされた麺線群の一部を固着させながら、麺線群の水分蒸発に伴うフライ油の吹き上がりにより、麺線群全体が上方へ膨張し、かつ吹き上がるフライ油によって膨張した麺線群を部分的にフライ可能とする範囲とすることが望ましい。具体的には、麺線群の浸漬率を10%〜70%、より好ましくは25%〜60%とすることで、麺線群の麺線密度が均一な麺塊を得ることが可能となる。なお、ハーフフライのフライ時間は10秒〜30秒の範囲、ディープフライのフライ時間は水分値が5%以下となる時間(例えば、100秒〜130秒の範囲)とすることが望ましい。
【0031】
−フライ油の流量制御−
図3及び図4は、本発明の製造方法を実施するためのフライ麺塊製造装置の一例である。本フライ麺塊製造装置は、フライ油槽1と、フライ油槽1に注入されたフライ油2と、麺線群9を収納可能な複数のカップ状容器を備えたリテーナ本体31と、リテーナ本体31が装着された無端状の搬送コンベア3(リテーナ本体コンベア)と、フライ処理される麺線群9が麺線供給機構5によってリテーナ本体31のカップ状容器へ収納された後、フライ油中に進入する前に上部から被される図示しないリテーナ蓋体41が装着された無端状の搬送コンベア4(リテーナ蓋体コンベア)と、それぞれのコンベアが搬送できるように搬送チェーン(32、42)が巻きつけられたスプロケット(33、34、43、44)と、当該スプロケットに駆動を伝達する図示しない駆動モーターと、フライ油槽1のフライ油2の油面レベルを測定する油面レベルセンサ7と、フライ油槽1のフライ油2を回収し、再加熱したフライ油をフライ油槽1へ供給するフライ油循環機構8と、フライ油循環機構へ供給する新油の供給量を制御する新油供給機構、各噴出し口から供給されるフライ油の流量を制御するフライ油供給制御機構、及び旧油タンクより構成される。
【0032】
フライ油槽1の長手方向の中央底部には、フライ油循環機構8へフライ油を回収するための吸い込み口11が設けられ、吸い込み口11を挟んで上流側(リテーナ本体31がフライ油に投入される側)及び下流側(リテーナ本体31がフライ油から引き上げられる側)には、フライ油循環機構8から加熱されたフライ油を供給するための噴出し口がそれぞれ2か所設けられている。フライ麺塊の生揚げを防ぐためには、上流及び下流に少なくとも1カ所噴出し口を設けることが望ましい。また、図4に示すように各噴出し口12〜15はそれぞれ8つの開口部を備えているが、その数は適宜選択することができる。
【0033】
本発明の製造方法では、図示しないフライ油供給制御機構により各バルブ89の開口率をそれぞれ制御し、各噴出し口からフライ油槽1へ供給されるフライ油の流量を変更することが可能である。
【0034】
この際、フライ油槽の上流に供給されるフライ油の流量は、下流と比べて小さくなるように各バルブ89の開口率を制御する。フライ麺塊を機械生産する場合、麺線群を収納したリテーナ本体を搬送しながらフライ油に浸漬するため、麺線群はフライ油の抵抗を受けやすい。フライ油槽の上流に設けられた噴出し口からのフライ油の流量を、下流に設けられた噴出し口からの流量と比べて小さくなるように流量制御を行うことで、リテーナ底部に固着している麺塊が剥離して浮上して麺塊形状が崩れ、フライ効率(または生産性)が低下するのを回避することができる。
【0035】
具体的には、下流に設けられた噴出し口からフライ油槽に供給されるフライ油の単位時間あたりの総流量を1とした場合、上流に設けられた噴出し口からの単位時間あたりの総流量は0.9以下、より好ましくは0.85以下の範囲とすることが望ましい。
【0036】
上記のようにフライ油槽の上流と下流に供給されるフライ油の流量を制御することで、上流におけるフライ油の平均温度は、下流におけるフライ油の平均温度と比べて10℃〜35℃低くなる。
【0037】
また、フライ油槽の上流へ供給されるフライ油の流量を下流へ供給されるフライ油の流量と比べて小さく制御するため、同じフライ油槽内であっても、上流におけるフライ油の油面は下流と比べて低くなる。
【0038】
本発明では、上記のように複数の噴出し口について流量制御を行いながら麺線群のフライを行うため、フライ油の圧力によって麺塊形状が固定化する前にリテーナ底部から剥離・浮上して麺塊形状が崩れるのを防ぎ、フライ効率(または生産効率)を向上させることができる。
【0039】
−フライ油の油面制御−
【0040】
フライ油槽1へのフライ油の供給量を制御するため、ハーフフライを実施する領域において、少なくとも1つの油面レベルセンサ7によりフライ油の油面レベルを測定する。油面レベルセンサ7は、油面の変動を測定できる液面センサであればいかなるセンサでも良いが、mm単位の精度で油面の変動を検知する機能を有することが望ましく、例えば、ガイドパルス式のレベルセンサを使用することができる。
【0041】
フライ油はその一部が麺塊に吸収されるため、フライ油槽1内のフライ油は生産を続けるにしたがって減少していく。従来のフライ麺の製造では、フライ油の油面の変動は大きな問題とはならなかったが、ハーフフライにおける麺線群のフライ油への浸漬率は、フライ効率及び麺塊の形状に大きな影響を及ぼす。そのため、本発明では、ハーフフライを実施する領域における油面レベルを測定し、油面の変動が所定範囲となるように新油タンク82からストレーナ84へ供給される新油量のフィードバック制御を行う。なお、麺塊形状安定の観点から、油面の変動範囲は±5mm以下、好ましくは±3mm以下であることが望ましい。
【0042】
上記のようにハーフフライを実施する領域において油面レベルを測定し、測定結果に応じて新油の供給量を制御することで、ハーフフライを実施する領域における油面レベルの変動を最小化し、良好なフライ効率を得るのに適した麺塊群の浸漬率を機械生産においても安定的に得ることが可能となる。
【0043】
なお、上記のように、フライ油槽の上流に供給されるフライ油の流量を下流と比べて小さくした場合、同じフライ油槽内であっても上流の油面レベルは下流と比べて低くなる。そのため、ハーフフライにおける麺線群のフライ油への浸漬率を所定範囲に制御するには、ハーフフライを行う領域における油面レベルの測定が必要となる。
【0044】
9.冷却工程
フライ乾燥後、蓋を外し、容器から麺塊を取り出す。取り出した麺塊は所定時間冷却し、即席フライ麺を得る。
【0045】
10.その他工程
冷却した即席フライ麺は、包装工程に移りスープや具材とともにカップまたは袋に包装され即席フライ麺製品として販売される。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明する。
【0047】
小麦粉900g、澱粉100gを粉体混合し、これに食塩15g、かん水2.3g、重合リン酸塩0.4gを溶解した練り水340mlを加え、常圧の2軸ミキサーで3分混捏し、そぼろ状のドウを作製した。この時のドウの水分は35.0%であった。
【0048】
作製したドウを通常の整形ロールを用いて常圧下で、粗麺帯を作製し、粗麺帯2枚を再び整形ロールを用いて複合し、麺帯を作製した。このときの麺帯厚は12mmであった。
【0049】
圧延ロールによる圧延回数を6回とし、圧延した麺帯を20番角の切刃ロールを用いて麺線とした。
【0050】
切り出された麺線は直ちにわたって飽和水蒸気を240kg/hとなるように供給した蒸気庫内で2分間蒸煮した。
【0051】
蒸煮した麺線を1L当り食塩90g、グルタミン酸13.5g、醤油10ml、畜肉エキス30gを溶解した着味液に5秒浸漬した後、引き延ばして30cmとなるように麺線をカットした。これにより、麺塊12個を製造するのに必要な麺線が得られる。
【0052】
図1に示すように、麺線供給機構5よりカットした麺線群101gをリテーナ本体31の各カップ容器へ充填率85%で充填し、リテーナ本体31を搬送速度4m/分で搬送しながらハーフフライ及びディープフライを行った。ハーフフライ、およびディープフライのフライ時間はそれぞれ20秒、120秒とした。
【0053】
各カップ容器は、天面径が92mm、容器底面の口径が74.1mm、高さが50.7mmのカップ状で容器底面に穴径2.9mmの小孔が多数空いた容器より構成されるリテーナ本体を用いた。また、リテーナ蓋体41として、穴径2.9mmの小孔が多数空いた金属製の蓋を使用した。
【0054】
フライ油槽1には、図1に示す第1噴出し口12〜第4噴出し口15より150℃に加熱したフライ油を供給し、フライ油槽全体へ供給されるフライ油の平均流量を250m/hとした。また、ハーフフライを実施する領域におけるフライ油の油面変動の許容範囲を±3mmとした。
【0055】
<試験区1>
試験区1では、良好なフライ効率(生産性)が得られるハーフフライにおけるリテーナの浸漬率(麺線群の浸漬率)を検証するため、リテーナの浸漬率15%、35%、55%、75%(麺線群の浸漬率で12.75%、29.75%、46.75%、63.75%)の各条件について麺塊を100個作製した。
(試験区1−1)
ハーフフライにおけるリテーナの浸漬率を15%(麺線群の浸漬率12.75%)とし、フライ油槽の上流に設けられた第1噴出し口、第2噴出し口から供給されるフライ油の平均流量を52m/h、フライ油槽の下流に設けられた第3噴出し口、第4噴出し口から供給されるフライ油の平均流量を73m/h(上流/下流の流量比71.2%)とした。
【0056】
(試験区1−2)
ハーフフライにおけるリテーナの浸漬率を35%(麺線群の浸漬率29.75%)とした以外は、試験区1−1と同じ条件でフライ麺塊を作製した。
【0057】
(試験区1−3)
ハーフフライにおけるリテーナの浸漬率を55%(麺線群の浸漬率46.75%に相当)とした以外は、試験区1−1と同じ条件でフライ麺塊を作製した。
【0058】
(試験区1−4)
ハーフフライにおけるリテーナの浸漬率を75%(麺線群の浸漬率63.75%に相当)とした以外は、試験区1−1と同じ条件でフライ麺塊を作製した。
【0059】
<試験区1の評価結果>
試験区1において試作した麺塊サンプルの状態を、(1)麺線の分布に疎密がなく均一、(2)麺線の分布に疎密あり、(3)麺塊中央部の麺線密度が低い、(4)麺塊の底面滑り(傾斜)あり、に区別し、その数を表1に示すようにカウントし、これを百分率で示した。図5は、上記(1)〜(4)の状態にある麺塊のサンプル例である。
【0060】
【表1】
【0061】
浸漬率が低い試験区1−1では、麺線の分布に疎密がなく均一である(1)の状態にある麺塊が70%得られたものの、麺塊中央部の麺線密度が低い(3)の状態にある麺塊は25%と比較的多かった。これは、麺線群のフライ油への浸漬率が低いと、フライされる麺線群の層が薄いため、ディープフライ時に固形化されていない麺線群の層がフライ油の対流によって上方へ引き伸ばされるためと考えられる。
【0062】
一方、リテーナの浸漬率が35%、55%とした試験区1−2、1−3では、麺線の分布に疎密がなく均一である(1)の状態にある麺塊がそれぞれ90%、85%得られた。これは、(i)フライ油に浸漬した麺線群の一部がリテーナ底部に固着する、(ii)フライ油に浸漬した麺線の水分蒸発によってフライ油が吹き上がり、麺線群全体が上方へ膨張する、(iii)吹き上がるフライ油によって、上方へ膨張した麺線群も部分的にフライされる、(iv)上記(i)〜(iii)の工程の後、リテーナ全体をフライ油へ浸漬すると、膨張よって嵩高くなった麺塊形状が固定化され、麺線間へのフライ油の油回りが良くなる、という本願発明に特有のメカニズムが働くためと考えられる。
【0063】
他方、リテーナの浸漬率を75%とした試験区1−4では麺線の分布に疎密がなく均一である(1)の状態にある麺塊の比率は60%まで低下し、麺線の分布に疎密がある(2)の状態の麺塊の比率が25%、麺塊の底面滑り(傾斜)がある(4)の状態の麺塊の比率が15%まで上昇した。これは、浸漬率が高くなると、麺線群がリテーナ底部に固着することなく浮上する可能性が高まるためと考えられる。麺塊が固定化されていない状態で浮上すると上記(2)の状態となり、麺塊の固定化が中途半端な状態で浮上すると上記(4)の状態に至ると考えられる。
【0064】
<試験区2>
試験区2では、試験区1で最もフライ効率(生産性)が高くなる、ハーフフライにおけるリテーナの浸漬率35%(麺線群の浸漬率29.75%)の条件下において、フライ油槽の上流及び下流に供給されるフライ油の流量比を45.3%〜100%まで変えながら、各流量比の条件において麺塊を100個作製した。
【0065】
(試験区2−1)
試験区2−1では、フライ油槽の上流に設けられた第1噴出し口、第2噴出し口から供給されるフライ油の平均流量を39m/h、フライ油槽の下流に設けられた第3噴出し口、第4噴出し口から供給されるフライ油の平均流量を86m/h(上流/下流の流量比45.3%)となるように各バルブ89の制御を行った。
【0066】
(試験区2−2)
試験区2−2では、フライ油槽の上流に設けられた第1噴出し口、第2噴出し口から供給されるフライ油の平均流量を52m/h、フライ油槽の下流に設けられた第3噴出し口、第4噴出し口から供給されるフライ油の平均流量を73m/h(上流/下流の流量比71.2%)とした以外は、試験区2−1と同じ条件でフライ麺塊を作製した。なお、試験区2−2の条件は、試験区1−2の条件と同一である。
【0067】
(試験区2−3)
フライ油槽の上流に設けられた第1噴出し口、第2噴出し口から供給されるフライ油の流量を57m/h、フライ油槽の下流に設けられた第3噴出し口、第4噴出し口から供給されるフライ油の流量を68m/h(上流/下流の流量比83.8%)とした以外は、試験区2−1と同じ条件でフライ麺塊を作製した。
(試験区2−4)
フライ油槽の上流に設けられた第1噴出し口、第2噴出し口から供給されるフライ油の流量を60m/h、フライ油槽の下流に設けられた第3噴出し口、第4噴出し口から供給されるフライ油の流量を65m/h(上流/下流の流量比92.3%)とした以外は、試験区2−1と同じ条件でフライ麺塊を作製した。
(試験区2−5)
フライ油槽の上流に設けられた第1噴出し口、第2噴出し口から供給されるフライ油の流量を62m/h、フライ油槽の下流に設けられた第3噴出し口、第4噴出し口から供給されるフライ油の流量を63m/h(上流/下流の流量比98.4%)とした以外は、試験区2−1と同じ条件でフライ麺塊を作製した。
(試験区2−6)
フライ油槽の第1噴出し口〜第4噴出し口から供給されるフライ油の流量をすべて62.5m/h(上流/下流の流量比100%)となるように、フライ油槽へ供給されるフライ油の供給量を制御した以外は、試験区2−1と同じ条件でフライ麺塊を作製した。
【0068】
<試験区2の評価結果>
試験区2において試作した麺塊サンプルの状態を、試験区1と同様に、(1)麺線の分布に疎密がなく均一、(2)麺線の分布に疎密あり、(3)麺塊中央部の麺線密度が低い、(4)麺塊の底面滑り(傾斜)あり、に区別し、その数を表2に示すようにカウントし、これを百分率で示した。
【0069】
【表2】
【0070】
麺線の分布に疎密がなく均一な(1)の状態の麺塊は、試験区2−2で最も多く得られ、その比率は90%であった。一方、フライ油槽の上流と下流に供給されるフライ油の流量比(上流に供給されるフライ油の流量の合計/下流に供給されるフライ油の流量の合計)が大きくなるほど(1)の状態の麺塊の比率は減少し、流量比が95%を超える試験区2−5、2−6では0%となり、麺塊の底面に滑り(傾斜)を有する(4)の状態の麺塊が80%以上となった。これは、フライ油槽の上流に供給されるフライ油の流量が大きくなると、フライ油の流れによる抵抗によって、形状が固定化する前に麺塊がカップ容器底部から剥離して浮上し、リテーナ蓋体に衝突するためと考えられる。そのため、フライ油槽の上流と下流に供給されるフライ油の流量比は90%以下、好ましくは85%以下とすることが望ましいことがわかる。


































【符号の説明】
【0071】
1 フライ油槽
11 吸い込み口
12 第1噴出し口
13 第2噴出し口
14 第3噴出し口
15 第4噴出し口
16a,16b フライ油第1供給管
17a,17b フライ油第2供給管
18a,18b フライ油第3供給管
19a,19b フライ油第4供給管
2 フライ油
21 油面
3 リテーナ本体コンベア
31 リテーナ本体
32 搬送チェーン(リテーナ本体コンベア用)
33 スプロケット(リテーナ本体コンベア用)
34 スプロケット(リテーナ本体コンベア用)
4 リテーナ蓋体コンベア
41 リテーナ蓋体
42 搬送チェーン(リテーナ蓋体コンベア用)
43 スプロケット(リテーナ蓋体コンベア用)
44 スプロケット(リテーナ蓋体コンベア用)
5 麺線供給機構
6 延長板
61 孔
7 油面レベルセンサ
8 フライ油循環機構
80 比例バルブ
81 熱交換器
82 新油タンク
83 フライ油共通供給管
84 ストレーナ
85 新油供給管
86 熱交換器フライ油回収管
87 熱交換器フライ油供給管
88 ポンプ装置
89 バルブ
9 麺線群
図1
図2
図3
図4
図5