(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記終端化処理ステップの前に、接合物の金属領域を、所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させることにより表面活性化処理する表面活性化処理ステップをさらに備え、
前記終端化処理ステップにおいて、表面活性化処理された金属領域を水素ラジカル雰囲気に暴露する、請求項1に記載の接合方法。
前記表面活性化処理ステップによって、前記金属領域の表面から1〜100nmの深さの金属領域がアモルファス化され、前記金属領域の表面が水素終端される請求項2又は3に記載の接合方法。
前記接合物に対して交番電圧を印加することで、前記接合物の接合部の周りに前記粒子を含むプラズマを発生させ、プラズマ中の前記粒子を前記電圧により前記接合物の接合部に向けて加速させることにより、粒子に所定の運動エネルギーを付与する、請求項6に記載の接合方法。
前記終端化処理される金属領域は、銅(Cu)、半田、アルミ(Al)及びこれらの合金からなる群から選ばれる材料により形成される、請求項1から7のいずれか一項に記載の接合方法。
接合物の金属領域を表面活性化処理するために、所定の運動エネルギーを有する粒子を該金属領域に対して衝突させる表面活性化処理手段をさらに備えた請求項15に記載の接合装置。
前記表面活性化処理手段は、前記接合物に対して交番電圧を印加することで、接合部の周りに前記粒子を含むプラズマを発生させ、プラズマ中の前記粒子を前記電圧により接合部に向けて加速させることにより、粒子に所定の運動エネルギーを付与する、プラズマ発生装置を含む請求項16又は17に記載の接合装置。
前記終端化処理ステップの後に、接合物の金属領域を所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させることにより表面活性化処理する表面活性化処理ステップをさらに備え、金属領域を大気暴露することなく取付けステップへ移る請求項1に記載の接合方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付の図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施形態に限定されないことは自明である。
下記実施形態において、「ウエハ(以下、基板とも称する)」とは、板状の半導体を含むが、これに限定されず、半導体以外にも、ガラス、セラミックス、金属、プラスチック等の材料、又はこれらの複合材料により形成されていてもよく、円形、長方形等の種々の形状に形成される。
【0031】
下記実施形態において、「チップ」とは、半導体部品を含む成型加工半導体の板状部品、パッケージされた半導体集積回路(IC)等の電子部品等を示す広い概念の用語として与えられる。「チップ」には、一般に「ダイ」と呼ばれる部品や、基板よりも寸法が小さくて、複数個を当該基板に接合できるほどの大きさを有する部品又は小型の基板も含まれる。また、電子部品以外に、光部品、光電子部品、機械部品も含まれる。
【0032】
下記実施形態においては、一方の接合物を基板、他方の接合物をチップとして、両者を接合する接合方法および接合装置について説明する例があるが、本発明がこれらの例に限定される趣旨ではない。
【0033】
<実施形態1>
本実施形態に係る接合方法は、金属領域を含む接合部を有する接合物同士の接合方法であって、少なくとも一方の金属領域を水素ラジカル雰囲気に暴露する終端化処理ステップと、終端化処理された金属領域を他方の接合物の金属領域に接触させる取付けステップと、を備えることを特徴とする。
【0034】
本実施形態に係る接合方法によれば、接合部の表面を水素で効率的に終端化処理することができ、接合部に酸化抑制機能が備わり、より良好な接合性を得ることが可能となる。
【0035】
本実施形態に係る接合方法では、前記終端化処理される金属領域は、銅(Cu)、半田、アルミ(Al)及びこれらの合金からなる群から選ばれる材料により形成されるようにしてもよい。
これらの材料は、酸素や水が存在する環境、例えば大気暴露等で酸化し易いという特性があり、本実施形態に係る接合方法は、このような酸化し易い材料で接合部の金属領域を形成した場合に特に有効である。例えば、一方の接合部を上記の材料により形成された金属領域を含むようにして、他方の接合部の金属領域をAu等の酸化し難い材料で形成した場合には、Auで形成された金属領域については、終端化処理等を施す必要はない。このような異種材料同士の接合であっても、本実施形態の接合方法が好ましく適用される。
【0036】
[終端化処理ステップ]
終端化処理ステップでは、接合物の接合部の金属領域の表面について、水素ラジカル雰囲気に暴露することにより、終端化処理を行う。この終端化処理によって、金属領域表面の金属原子には水素原子が結合した状態となる。このような状態の金属領域の表面は、疎水性を備えることとなり、大気中に存在する酸素や水分子などに由来する酸化が金属領域の内部まで進行することを抑制する機能を備えると考えられる。換言すれば、この水素終端作用により、金属領域に酸化抑制機能が備わる。
【0037】
従来用いられている親水化接合においては、水やOH基には酸素が含まれ、かつ界面にはいくらかの酸化膜が生成され、酸化膜の最表面がOH基で終端されている。しかし、本実施形態の方法では、水素ラジカルで水素終端する終端化処理ステップにおいて、酸化膜が生成されるような酸素は存在しないため、金属領域の表面に酸化膜が形成されずに水素終端される。
【0038】
接合部が金属領域を含む場合、接合物同士の接合性は、この金属領域表面に存在する酸化膜の厚さに反比例する傾向がある。本実施形態に係る終端化処理ステップを経ることにより、金属領域表面近傍の酸化が進行することを抑制する機能が備わり、例えば、長時間大気中に暴露した後に接合を行う工程を経ても、良好な接合性を得られる。
この終端化処理は、例えば
図4に示すような装置を用いて行われる。このような装置では、反応ガスとして水素を供給し、例えばマイクロウェーブなどによる高周波により水素をプラズマ化し、メタルプレートと穴を通過する時にイオンをトラップし、水素ラジカルのみがダウンフローで対象物に降り注ぐ。
また、この装置は加熱機能を備えていてもよく、水素終端の前に酸化膜を除去するための、還元雰囲気での加熱による還元処理を行うことも可能である。
【0039】
本実施形態に係る接合方法では、前記終端化処理ステップの後、終端化処理された金属領域を酸化されやすい酸素や水が存在する環境、例えば大気に暴露することもできる。
【0040】
また、前記終端化処理ステップの後に、接合物の金属領域を所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させることにより表面活性化処理する表面活性化処理ステップをさらに備えてもよい。水素終端化された膜は薄いものの、微小ではあるが加圧や加熱を加えないと接合し難いが、接合の直前に中性原子ビーム、イオンガン、プラズマなどからなる運動エネルギーを有する粒子を衝突させることにより終端膜を除去することで、より接合しやすくなる。
また、終端化処理ステップの後、大気暴露されてハンドリングされたものは、酸化が抑制され薄い膜しかできていないため、運動エネルギーを有する粒子を衝突させることで容易に除去できる。これに対して、終端化処理されていない通常の大気中で着いた酸化膜は強固な結晶構造で、かつ厚膜となっており、運動エネルギーを有する粒子を衝突させるにしても容易ではなく、強すぎると表面を荒らしてしまうことがある。この表面活性化処理から 取付けステップの間は酸化雰囲気に暴露することなく、真空中や、窒素や不活性ガスなど非酸化雰囲気に保つ必要がある。また、取付け時に加熱しても良いし、固相に限らず加熱によりハンダを溶融させても良い。終端膜を除去することでより接合がしやすくなる。
【0041】
[取付けステップ]
取付けステップでは、終端化処理された一方の接合物の金属領域を、他方の接合物の金属領域に接触させる。
【0042】
本実施形態に係る接合方法では、前記取付けステップで、前記接合物同士を、互いに近接する方向に加圧するステップをさらに備えるようにしてもよい。
これにより、金属領域に存在する水素終端された界面は薄いが、加圧することで界面の微小な凹凸をつぶし、接触面積を増加させて接合強度を向上させることができる。
【0043】
本実施形態に係る接合方法では、前記取付けステップで互いに接触した接合物を含む構造体を加熱する加熱ステップをさらに備えるようにしてもよい。
【0044】
接合部の金属領域の表面は、水素終端された層を備えている。この層は非常に薄いため、接合時の加熱により、この層で接合界面が拡散し、金属領域の良好な接合界面を得ることができる。また、加熱することで粒子の移動を促進し、加圧による接触面積の増加と同様の効果を得ることもできる。
【0045】
本実施形態に係る接合方法では、前記加熱ステップは、前記接合物同士を、互いに近接する方向に加圧するステップを含むようにしてもよい。
加熱時に加圧を伴うことで、金属領域の接合界面の微小な凹凸をつぶし、接触面積を増加させて接合強度をより向上させることができる。
【0046】
接合部の平坦度を高めたもの(例えば表面粗さが数nmのもの)は、実質的な接触面積が大きくなることから、水素終端された金属領域の表面同士が、低温、低圧での接合でも十分な接合強度を得ることが可能である。
一方、接合部の平坦度が低いもの(例えば表面粗さが数十〜数百nmのもの)の場合は、加圧(数十M〜数百MPa)により金属領域を押しつぶすことで実質的な接触面積を大きくすることや、摂氏数百度程度で加熱(例えば150℃)により拡散を促し接合界面で原子の動きを促進させることで、実質的な接合部積を大きくすることができる。
【0047】
加熱処理における、温度又は上記力若しくは圧力の時間プロファイルは、仮接合の条件、金属領域を形成する材料の熱特性、チップ又は基板といった接合物を形成する材料の熱特性、加熱処理の際の雰囲気、加熱処理装置の特性等により、調節することができる。
【0048】
水素ラジカル雰囲気中で終端化処理された金属領域の表面層は、接合界面にとりこまれても、加熱処理で新生表面同士の接合界面が形成する際に、酸化膜や樹脂等と比べて低い温度又は短時間で消滅する。したがって、本発明による接合方法は、樹脂等を使用する従来の接合技術に比べて、接合に必要なサーマルバジェット(熱消費量)を低減することができる。
【0049】
また、加熱処理の際に、雰囲気を形成するガスの種類、流量等を調節してもよい。また、加熱処理の際に、接合界面に垂直方向の圧力が加わるように、チップと基板との接合体に、力又は圧力を加えることもできる。接合界面に垂直方向の圧力が加わることで、実質的又は微視的な接合部積がさらに増加することで接合性が向上することがある。
【0050】
本実施形態に係る接合方法では、前記終端化処理された金属領域を固相状態で接合するようにしてもよい。
従来のハンダを利用した接合方法では、ハンダを溶融させて接合させていた。しかし本実施形態の接合方法においては、接合部の金属領域を溶融させる必要はなく、固相状態での接合が可能となる。金属領域を固相状態としたままで接合できることにより、低温で接合できるという利点があり、熱膨張による歪みが低減されることや電極の位置合わせアライメント精度の向上などといった有利な効果が得られる。また、ハンダは溶融すると微小な力でつぶれてしまうため、チップや基板の加熱によって生じる反り力に耐えられないことがあるが、固相状態での接合ではこのような問題が解消される。
【0051】
次に、接合物をチップとした場合の形態について説明する。
図1(a)から(f)は、チップ側接合部に垂直な平面でチップを切断した場合の、チップの断面の模式図である。これらの図は、金属領域の形状を例示的に示すことを意図するもので、金属領域の形状を限定するものではない。
図1(a)から(d)で示された金属領域の場合には、チップ側接合部上に、金属領域MRが、いわゆるバンプ(突起)状に突出するように形成されている。金属領域MRの上端面が、基板と接合する。
【0052】
当該金属領域MR以外の領域NRは、シリコン(Si)、酸化ケイ素(SiO
2)等の非金属で形成されることが好ましいが、金属等、その他の材料で形成されていてもよい。金属領域MR以外の材料は、デバイスの用途、接合方法等に応じて選択することができる。以下、金属領域MRと金属領域以外の領域NRを合わせてチップ側接合部と称する。また、便宜的に、金属領域MR以外の領域NRを、非金属領域NRと称することとする。金属領域MRの上端部の断面形状は、平坦でなくてもよい。
図1(a)のように金属領域の上端部が平坦である場合、上端部の平面は、微視的にはある程度の粗さを有している。この粗さが大きい場合には、比較的低い圧力をかけても、微視的にみて十分な接合部積を形成することができず、金属領域と基板との間の所望の導電性または機械的強度を確立することができないこともありえる。そこで、例えば、金属領域の表面の断面は、曲面で形成されてもよく、
図1(b)で示されるように球面で形成されてもよい。
図1(b)の各金属領域MRは、その頂点において基板と接触するので、金属領域MRの上端部が平坦である場合より、初期の接触点に掛かる圧力が大きくなる。その結果、微視的にみて十分な接合部積を形成することができ、チップの金属領域と基板との間の導電性および機械的強度(接合強度)の向上につながる。
【0053】
図1(c)に示されているように、金属領域MRは、シリコンチップに形成された貫通電極(シリコン貫通電極、TSV、Through Silicon Via)(VA)に接続して設けられてもよい。TSV(貫通電極)を設けることで、数層に亘り積層されたチップ間での高速な電気的接続を確立することができる。
図1(d)に示されているように、金属領域MRの上端部の面積が、TSV(VA)の領域面積より大きくなるように、金属領域MRとSi貫通電極VAが形成されてもよい。接合部積が大きくなり、積層されたチップ間の電気的接続の比較的高い導電性を確保することができる。
【0054】
図1(e)及び(f)に示されているように、金属領域MRと非金属領域NRとがほぼ同一面上にあるようにチップ側接合部が構成されてもよい。この場合、金属領域MRと非金属領域NRとが同一面上にある構成としてもよく、また、金属領域MRを基板接合部と確実に接触及び接合させるために、金属領域MRを非金属領域NRよりも1μm(マイクロメータ)程度またはそれ以下の高さだけ突出させるようにしてもよい。金属領域MRの非金属領域NRに対して突出する高さは、金属領域MR及び非金属領域NRの材質、形状、チップ全体の形状、寸法、機械的性質等、種々のパラメータに応じて、最終的に金属領域MRと非金属領域NRの両方において接合界面が形成されるように調節される。
図1(e)及び(f)に示されている、金属領域MRと非金属領域NRとがほぼ同一面上にあるようなチップ側接合部の構成は、例えば、チップの所定の製造段階でチップ側表面に化学機械研磨(CMP)を行うことで実現される。CMPの条件を調節することにより、金属領域MRと非金属領域NRとをほぼ同一面上に形成することができるとともに、金属領域MRが非金属領域NRよりも所定の高さだけ突出するようにすることもできる。
【0055】
図1(e)で示されている例は、バンプレスTSVと呼ばれるチップ構造に対応している。このチップは、接合される基板の接合部が平面で形成されている場合には、金属領域MRと非金属領域NRとの両方が基板に接合される。したがって、チップと基板との間の電気的接続を確立する金属領域に係る接合界面を、その周りの非金属領域に係る接合界面により保護することができる。さらに、チップと基板との接合界面が、金属領域MRのみならず非金属領域NRにまで亘って形成されることで接合部積が著しく大きくなり、チップと基板との間の接合強度を増加することができる。さらにまた、複数の層を形成して、チップを基板上に積層して実装する場合には、基板面に垂線方向の寸法(厚み)を、減少させることができる。
図1(f)に示されている例では、チップ側接合部にキャビティが形成され、このキャビティ内に金属領域MRがバンプ(突起)状に突出するように形成されている。
図1(f)の構成により、チップの基板への接合が完了すると、非金属領域NRに係る接合界面により、その内部の金属領域MRに係る接合界面を外部雰囲気に対して封止する。よって、接合工程が完了した後に樹脂等を用いて接合箇所を封止することを必要とせずに、大気の侵入に起因する酸化、チップと基板間への不純物の混入等による接合界面の電気的又は機械的特性の悪化を防ぐことができる。
【0056】
図1(e)又は(f)で示されている構成のチップを使用する場合には、金属領域MRと同様の表面活性化処理と親水化処理を施して、基板上の対応する接合部と仮接合及び本接合を行うことができるような材料で非金属領域NRを形成することが好ましい。これにより、プロセスを簡略化、効率化することができる。非金属領域NRは、シリコン(Si)、酸化ケイ素(SiO
2)等の非金属で形成されることが好ましいが、これに限られない。また、
図1(e)又は(f)で示されている構成のチップを使用する場合には、非金属領域NRの表面の一部又は全部を疎水化処理してもよい。後述のように、チップ側接合部が疎水化処理された領域を有することで、親水化処理された金属領域MRと対応する基板上の親水化処理された部位とを用いて、基板に対するチップのセルフアラインメントを実現することができる。
【0057】
図2(a)から(c)は、接合部に対して垂直な方向から見たときの、チップ側接合部上に形成された金属領域の配置を模式的に示している。
図2(a)から(c)が示すチップ側接合部上には、複数の円形の金属領域MRが、列状に並んで配置されている。金属領域MRの形状及び配列は、
図2(a)から(c)に示された例に限定されない。各金属領域MRの形状は、円形に限らず、例えば正方形、長方形でもよい。また、
図2(a)から(c)は、複数の金属領域MRが、矩形を描くように並んで配列されているが、これに限定されない。
図2(b)が示すチップ側接合部には、複数の金属領域MRが、異なる大きさで形成されている。
【0058】
たとえば、比較的小さい面積の金属領域MRを形成する場合に、所望の導電性を確保する電気的接続は確保されているにも係わらず、基板との最終的な接合部積の合計が、チップと基板との間の十分な機械的強度を達成できるほどの面積に満たないことがある。このような場合には、電気的接続に必要とする金属領域MRに加えて、機械的強度を向上するために、基板と接続される、強度用金属領域MR2を設けてもよい。金属領域MR2は、チップ内の回路又はチップを通過するTSVと、電気的に接合されていなくてもよく、また接合されていてもよい。また、金属領域MR2の面積、形状、配置等は、電子デバイスの使用環境等に応じて、チップと基板との間に要求される機械的強度、金属領域MRと強度用金属領域MR2の形状、大きさ、チップ側接合部上での配置等に基づいて調節されてもよい。
【0059】
図2(c)が示すチップ側接合部には、
図2(a)に示された、電気的接続のために形成された金属領域MRを第一の金属領域として、この第一の金属領域の外側に、第一の金属領域を囲むように、第二の金属領域として、閉じた環状に金属壁である金属領域MR3が形成されている。この場合、第一及び第二の金属領域がチップ側接合部の金属領域以外の領域に対して突出するように形成されることが好ましい。
閉じた環状の金属領域MR3は、チップの基板への接合が完了すると、その内部の金属領域MRに係る接合界面を外部雰囲気に対して封止する。すなわち、外部雰囲気は金属領域MRに係る接合界面に到達することができない。よって、接合工程が完了した後に樹脂等を用いて接合箇所を封止することを必要とせずに、大気の侵入に起因する酸化、チップと基板間への不純物の混入等による接合界面の電気的又は機械的特性の悪化を防ぐことができる。
【0060】
また、金属領域MR3を有するチップを接合することで、接合部積が増加し、高い接合強度を達成することができる。さらに、鉛等の材料を含まず、リフロー工程が必要ないので、環境に優しいチップと基板とを含む構造体の封止構造を提供することができる。上記の各チップは、例えば、複数の電子回路が形成された基板を縦方向及び横方向に切削することにより作成してもよい。
【0061】
接合物である基板WAの接合部UTは、例えば、
図3に示されているように、基板の面上に縦方向及び横方向に引かれた等間隔の直線で画定される複数の長方形又は正方形として設定されてもよく、また離散的に任意の箇所に設定されてもよい。典型的に、上記基板は、本発明に係る接合方法の工程が完了した後に、接合部毎に切断(ダイシング)され、ダイ(die)に分割される。最終製品として与えられたダイの大きさは、基板上に設定された接合部の大きさにより定められる。
【0062】
各接合部は、基板上に物理的に又は光学的に認識可能に設定されていてもよいが、これに限られない。たとえば、接合部の配置は、基板を支持するステージ上の位置を認識可能なコンピュータシステムにより、ステージ上の位置に基づいて認識する構成としてもよい。基板の接合部は、複数のチップの金属領域にそれぞれ対応するようにして、当該チップとの間で電気的接続を確立すべき複数の接合領域を有するように構成してもよい(図示せず)。この接合領域は、金属で形成されてもよい。この場合、接合されるチップと基板との間の電気的接続が実現される。
また基板の接合部は、シリコン(Si)、酸化ケイ素(SiO
2)等の非金属材料を用いて形成されてもよい。この場合は、チップの金属領域は、基板と接合して、チップと基板との間の接合強度を高めることができる。
【0063】
<実施形態2>
実施形態2に係る接合方法は、基本的な構成は上記実施形態1と同様である。
【0064】
本実施形態に係る接合方法は、金属領域を含む接合部を有する接合物同士の接合方法であって、少なくとも一方の金属領域を水素ラジカル雰囲気に暴露する終端化処理ステップと、終端化処理された金属領域を他方の接合物の金属領域に接触させる取付けステップとを備え、前記終端化処理ステップの前に、接合物の金属領域を、所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させることにより表面活性化処理する表面活性化処理ステップをさらに備え、前記終端化処理ステップにおいて、表面活性化処理された金属領域を水素ラジカル雰囲気に暴露する。
【0065】
上記の接合方法は、表面活性化処理ステップによって、金属領域の表面に形成された酸化膜を除去し、その後に終端化処理ステップを経ることにより、酸化膜が除去された金属領域の新生面が水素終端され、接合性がより良好となる。
【0066】
また、表面活性化処理ステップと終端化処理ステップとを組み合わせることにより、接合物同士を接合させるための加熱還元処理などの高温加熱処理が必要なくなる。
【0067】
ここで、本発明における表面活性化処理について説明する。チップ側接合部又は基板の接合部(以下、接合部と称する。)上には、様々な物質の酸化物、付着した有機物等の汚染物(不純物)等を含む表面層が存在し、接合すべき材料の新生表面を覆っている。上記表面層は、材料の新生表面のエネルギーレベルを低くしていると考えられる。表面活性化処理により、この表面層が除去され、接合すべき材料の新生表面が露出させられると考えられる。さらには、所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させて行う表面活性化処理には、新生表面近傍において原子間の結合を切断し結晶構造を乱す(アモルファス化させる)ことで、表面エネルギーのレベルを一層高める効果もあると考えられている。
【0068】
<表面活性化処理ステップ>
チップ側接合部及び基板の接合部(以下、接合部とも称する)に、所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させることで表面活性化処理を行う。
【0069】
所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させて、接合部を形成する物質を物理的に弾き飛ばす現象(スパッタリング現象)を生じさせることで、表面層を除去することができる。表面活性化処理には、表面層を除去して接合すべき物質の新生表面を露出させるのみならず、所定の運動エネルギーを有する粒子を衝突させることで、露出された新生表面近傍の結晶構造を乱し、アモルファス化する作用もあると考えられている。アモルファス化した新生表面は、原子レベルの表面積が増え、より高い表面エネルギーを有する。
【0070】
結晶構造が乱れ、アモルファス化した新生表面近傍の領域にある原子は、接合時に加熱処理などをした場合、比較的低い熱エネルギーで拡散しやすく、比較的低温での本接合プロセスを実現することができると考えられる。
【0071】
表面活性化処理に用いる粒子として、例えば、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の希ガス又は不活性ガスを採用することができる。これらの希ガスは、比較的大きい質量を有しているので、効率的に、スパッタリング現象を生じさせることができ、新生表面の結晶構造を乱すことも可能になると考えられる。
【0072】
表面活性化される接合部に衝突させる粒子の運動エネルギーは、1eVから2keVであることが好ましい。上記の運動エネルギーにより、効率的に表面層におけるスパッタリング現象が生じると考えられる。除去すべき表面層の厚さ、材質等の性質、新生表面の材質等に応じて、上記運動エネルギーの範囲から所望の運動エネルギーの値を設定することもできる。
【0073】
表面活性化される接合部に衝突させる粒子には、粒子を接合部に向けて加速することで所定の運動エネルギーを与えることができる。
【0074】
プラズマ発生装置を用いて、粒子に所定の運動エネルギーを与えることができる。複数のチップ又は基板等の接合部に対して、交番電圧を印加することで、接合部の周りに粒子を含むプラズマを発生させ、プラズマ中の電離した粒子の陽イオンを、上記電圧により接合部に向けて加速させることで、所定の運動エネルギーを与える。プラズマは数パスカル(Pa)程度の低真空度の雰囲気で発生させることができるので、真空システムを簡易化でき、かつ真空引き等の工程を短縮化することができる。
プラズマ発生装置は、例えば、100Wで稼動して、アルゴン(Ar)のプラズマを発生させて、このプラズマを接合部に600秒ほど照射させるように使用されてもよい。
【0075】
接合部から離間された位置に配置された、中性原子ビーム源、イオンビーム源(イオンガン)等の粒子ビーム源を用いて、粒子に所定の運動エネルギーを与えることもできる。所定の運動エネルギーが付与された粒子は、粒子ビーム源から複数のチップ又は基板等の接合部に向けて放射される。
【0076】
粒子ビーム源は、例えば1x10
−5Pa(パスカル)以下等の、比較的高い真空中で作動するので、表面活性化処理後に、新生表面の不要な酸化や新生表面への不純物の付着等を防ぐことができる。さらに、粒子ビーム源は、比較的高い加速電圧を印加することができるので、高い運動エネルギーを粒子に付与することができる。したがって、効率良く表面層の除去及び新生表面のアモルファス化を行うことができると考えられる。
【0077】
中性原子ビーム源としては、高速原子ビーム源(FAB、Fast Atom Beam)を用いることができる。高速原子ビーム源(FAB)は、典型的には、ガスのプラズマを発生させ、このプラズマに電界をかけて、プラズマから電離した粒子の陽イオンを摘出し電子雲の中を通過させて中性化する構成を有している。この場合、例えば、希ガスとしてアルゴン(Ar)の場合、高速原子ビーム源(FAB)への供給電力を、1.5kV(キロボルト)、15mA(ミリアンペア)に設定してもよく、あるいは0.1から500W(ワット)の間の値に設定してもよい。たとえば、高速原子ビーム源(FAB)を100W(ワット)から200W(ワット)で稼動してアルゴン(Ar)の高速原子ビームを2分ほど照射すると、接合部の上記酸化物、汚染物等(表面層)は除去され、新生表面を露出させることができる。
イオンビーム源は、例えば110V、3Aで稼動して、アルゴン(Ar)を加速させ600秒ほど接合部に照射せるように使用されてもよい。
【0078】
本発明において、表面活性化に用いられる粒子は、中性原子又はイオンでもよく、さらには、ラジカル種でもよく、またさらには、これらが混合した粒子群でもよい。
【0079】
各プラズマ又はビーム源の稼動条件、又は粒子の運動エネルギーに応じて、表面層の除去速度は変化しえる。そこで、表面活性化処理に必要な処理時間を調節する必要がある。たとえば、オージェ電子分光法(AES、Auger Electron Spectroscopy)やX線光電子分光法(XPS、X−ray Photo Electron Spectroscopy)等の表面分析法を用いて、表面層に含まれる酸素や炭素の存在が確認できなくなる時間又はそれより長い時間を、表面活性化処理の処理時間として採用してもよい。
【0080】
表面活性化処理において接合部をアモルファス化するためには、粒子の照射時間を、表面層を除去し新生表面を露出させるために必要な時間より、長く設定してもよい。長くする時間は、10秒から15分、あるいは、表面層を除去し新生表面を露出させるために必要な時間の5%以上に設定してもよい。表面活性化処理において接合部をアモルファス化するための時間は、接合部を形成する材料の種類、性質、及び所定の運動エネルギーを有する粒子の照射条件によって適宜設定してもよい。
【0081】
表面活性化処理において接合部をアモルファス化するためには、照射される粒子の運動エネルギーは、表面層を除去し新生表面を露出させるために必要な運動エネルギーより、10%以上高く設定されてもよい。表面活性化処理において接合部をアモルファス化するための粒子の運動エネルギーは、接合部を形成する材料の種類、性質、及び粒子の照射条件によって適宜設定してもよい。
【0082】
ここで、「アモルファス化した表面」又は「結晶構造が乱れた表面」とは、具体的に表面分析手法を用いた測定により存在が確認されたアモルファス層又は結晶構造が乱れた層を含むとともに、粒子の照射時間を比較的長く設定した場合、又は粒子の運動エネルギーを比較的高く設定した場合に想定される結晶表面の状態を表現する概念的な用語であって、具体的に表面分析手法を用いた測定によりアモルファス層又は結晶構造が乱れた表面の存在が確認されていない表面をも含むものである。また、「アモルファス化する」又は「結晶構造を乱す」とは、上記アモルファス化した表面又は結晶構造が乱された表面を形成するための動作を概念的に表現したものである。
【0083】
前記表面活性化処理ステップによって、前記金属領域の表面から1〜100nmの深さの金属領域がアモルファス化され、前記金属領域の表面が水素終端されるようにしてもよい。
金属領域の表面から1〜100nmの深さの金属領域がアモルファス化された、金属領域の表面は、結晶構造が不均一となり、異種材料間の接合に、より好ましいといえる。
【0084】
なお、終端化処理は、表面活性化処理された接合部を大気に曝すことなく、当該接合部に対して行われることが好ましい。例えば、表面活性化処理を行うチャンバと終端化処理を行うチャンバとを同一とするように構成されていてもよい。また、表面活性化処理を行うチャンバと終端化処理を行うチャンバとは、複数のチップ又は基板がそれらの間を大気に曝されることなく搬送されるように連結されて構成されていてもよい。これらの構成を採用して、表面活性化処理された接合部を大気に曝さないことで、接合部の望ましくない酸化や、接合部への不純物等の付着等を防ぐとともに、水素ラジカルによる終端化処理をより容易に制御することができ、効率よく表面活性化処理の後に金属領域表面の水素終端を実行することができる。
【0085】
<実施形態3>
上記の実施形態1及び2で説明したように、水素ラジカル雰囲気での終端化処理を行うか、あるいは表面活性化処理された表面に対して水素ラジカル雰囲気での終端化処理を行うことにより、接合部(金属領域)の表面を水素で効率的に終端化処理することができる。これにより、接合部表面の酸化抑制機能が備わり、当接合部を大気中に晒した場合であっても、その後接合処理を行うことが可能となる。特に、表面活性化処理をFAB法として、水素ラジカルで終端化処理した場合、接合部の接合性が向上し、耐酸化性もより良好なものとなる。
【0086】
本実施形態において、上記終端化処理を行った後の親水化処理では、水素終端された金属領域の表面に水又は水酸(OH)基を含む物質を供給する。水素終端された金属領域の表面に水又は水酸(OH)基を含む物質が接触すると、この表面に水酸基の層44が形成されると考えられる。さらに水を供給すると、形成された水酸基に水が付着すると考えられる。本実施形態に係る接合方法では、上記の作用に加え、水素終端された金属領域の表面にOH基を付着させることにより、水分子を介在させて仮接合させることもできる。
【0087】
[親水化処理]
親水化処理は、上記終端化処理の後に行われる。接合部の親水化処理により、接合部に水酸基(OH基)が結合されると考えられている。さらには、水酸基(OH基)が結合された接合部上に水分子が付着してもよい。
【0088】
親水化処理により、接合部に酸化物が形成されることもある。酸化物は、比較的薄い(例えば、数nm又は数原子層以下)ので、後述する本接合の際の加熱処理において、金属材料内で吸収され、又は水として接合界面から外側へ逃げる等して、消滅あるいは減少すると考えられる。したがって、この場合、チップと基板との間の接合界面を介した導電性には実用上の問題が生じることはほぼないと考えられる。
【0089】
親水化処理は、表面活性化された接合部に水を供給することにより行われる。当該水の供給は、上記表面活性化された接合部の周りの雰囲気に、水(H
2O)を導入することで行うことができる。水は、気体状で(ガス状で、又は水蒸気として)導入されても、液体状(霧状)で導入されてもよい。さらに、水の付着の他の態様として、ラジカルやイオン化されたOH等を付着させてもよい。しかし、水の導入方法はこれらに限定されない。
【0090】
親水化処理の一例として、水とアンモニアとの混合液又は水とフッ化水素との混合液を供給源とする水ガス雰囲気中に、接合部を暴露するという方法も好ましく用いられる。
この水ガスは、フッ素や窒素などを含んでいてもよい。
【0091】
表面活性化された接合部の周りの雰囲気の湿度を制御することで、親水化処理の工程を制御することができる。当該湿度は、相対湿度として計算しても、絶対湿度として計算してもよく、又は他の定義を採用してもよい。
【0092】
気体状の水は、たとえば液体の水の中に窒素(N
2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、酸素(O
2)等のキャリアガスを通過させること(バブリング)で、気体状の水がキャリアガスに混合されて、表面活性化された接合部を有するチップ又は基板が配置された空間又はチャンバ内に導入されることが好ましい。
【0093】
水の導入は、チップ側接合部と基板の接合部との少なくとも一方又は両方の周りの雰囲気における相対湿度を10%から90%となるように制御することが好ましい。
【0094】
たとえば、窒素(N
2)又は酸素(O
2)をキャリアガスとして気体状の水を導入する場合、上記チャンバ内の全圧を9.0x10
4Pa(パスカル)、すなわち0.89atm(アトム)とし、チャンバ内での気体状の水の量を、容積絶対湿度で8.6g/m
3(グラム/立方メートル)又は18.5g/m
3(グラム/立方メートル)、23℃(摂氏23度)の相対湿度でそれぞれ43%又は91%となるように制御することができる。また例えば、銅(Cu)を、容積絶対湿度で、5g/m
3(グラム/立方メートル)から20g/m
3(グラム/立方メートル)の気体状の水を含む雰囲気に曝すと、2nm(ナノメートル)から14nm(ナノメートル)程度の酸化銅の層が形成されると想定される。また、チャンバ内の酸素(O
2)の雰囲気中濃度を10%としてもよい。
【0095】
また、親水化処理を行うために、所定の湿度を有するチャンバ外の大気を導入してもよい。大気をチャンバ内に導入する際には、望ましくない不純物の接合部への付着を防ぐために、当該大気が所定のフィルタを通過するように構成することが好ましい。所定の湿度を有するチャンバ外の大気を導入して親水化処理を行うことで、接合部の親水化処理を行う装置構成を簡略化することができる。
【0096】
また、水(H
2O)の分子やクラスター等を加速して、接合部に向けて放射してもよい。水(H
2O)の加速に、上記表面活性化処理に用いる粒子ビーム源等を使用してもよい。この場合、上記バブリング等で生成したキャリアガスと水(H
2O)との混合ガスを、上記粒子ビーム源に導入することにより、水の粒子ビームを発生させ、親水化処理すべき接合部に向けて照射することができる。
【0097】
表面活性化処理と親水化処理が施された接合部は、その後のチップの基板への取り付け(仮接合)での接触の際に水素結合の作用により互いに引き合い、比較的強い仮接合を形成する。さらに水素と酸素とを含む接合界面が形成されているので、本接合での加熱処理により水素と酸素が接合界面の外部に放出され、清浄な接合界面を形成することが可能になる。
【0098】
本実施形態に係る接合方法のように、接合部に親水化処理を施した場合、仮接合を経て、本接合を行うことができる。
【0099】
[仮接合]
チップと基板とを仮接合する場合、チップ側接合部の金属領域が親水か処理されたチップが、チップの金属領域が基板の接合部の金属領域に接触するように基板の対応する接合部上に取り付けられる。
【0100】
基板の対応する接合部に対するチップの位置決めは、例えば、チップ側に複数の位置調節用マークを設け、基板の対応する接合部側に、対応する複数の位置調節用マークを設け、両方の位置調節用マークを互いに合わせることで行っても良い。両方の位置調節用マーク間のずれは、チップと基板とを透過する光を、チップ又は基板側から接合部に垂直方向に入射し、その反対側に設けたカメラにより撮像された、当該透過光による位置調節用マークの画像を観察することにより測定するように構成してもよい。
【0101】
親水化処理が施されたチップ側接合部と基板の接合部とは、水酸(OH)基又は水分子により覆われているため、取付け時(仮接合時)の接触により、水酸基又は水分子間に働く水素結合等の引力により仮接合される。
【0102】
上記のチップの基板への取付けにより、チップ側接合部と基板の接合部とは、少なくとも、接合すべきチップのすべてが基板に取り付けられてから加熱処理が行われるまでの過程において、チップと基板とが仮接合することで構成される構造体が搬送される際や位置変換される際に、チップが基板から剥がれ落ちたり、チップが基板上の所定の取付け位置からずれたりすることがない十分な接合力で固定される。
【0103】
接合すべき複数のチップをすべて基板に仮接合する間、当該複数のチップと基板の周りの雰囲気の湿度を所定の値に保つようにしてもよい。
【0104】
チップの金属領域が、ニッケル(Ni),金(Au),スズ(Sn)等の金属で、20μm(マイクロメータ)四方、高さ3μm(マイクロメータ)から10μm(マイクロメータ)のパッド状に形成されている場合は、パッドに対し0.3MPa(メガパスカル)から600MPa(メガパスカル)の圧力を、チップと基板とが互いに近接する方向に加えてもよい。
【0105】
上記パッドに対して加える圧力は、高すぎると塑性変形により金属領域同士が接触して短絡の原因となり、低すぎると所定の導電性又は接合強度を得ることができない場合がある。したがって、上記パッドに対して加える圧力は、金属領域の材料の機械的特性、形状、その後の本接合での加熱処理の条件等に応じて、調節される。
【0106】
上述の仮接合で得られた複数のチップと基板とを含む構造体は、チップと基板とが比較的強い水素結合で結合しているので、チップ実装システム内部で又は外部へ搬送されても、チップが基板からすべり落ち、又は剥がれ落ちる危険性は小さい。また、仮接合で得られた複数のチップと基板とを含む構造体は、比較的安定であるので、加熱処理まで数時間から数日までの間、大気中で保存することも可能である。したがって、任意のタイミングで、チップと基板とを含む構造体に加熱処理を行うことができる。
【0107】
上述の仮接合で得られた複数のチップと基板とを含む構造体を複数個まとめて加熱処理を行うことができる。これにより、本接合されたチップと基板とを含む構造体を、高い生産効率で製造できるという効果がある。さらに、チップと基板とが比較的強い水素結合で結合しているので、チップ実装システム内部又は外部へ搬送されても、チップが基板からすべり落ち、又は剥がれ落ちる危険性は小さい。また、仮接合で得られた複数のチップと基板とを含む構造体は、比較的安定であるので、加熱処理まで数時間から数日までの間、大気中で保存することも可能である。したがって、任意のタイミングで、チップと基板とを含む構造体に加熱処理を行うことができる。
【0108】
仮接合されるチップは、仮接合の前に供給されたチップに対して所定の検査を行い、良好と判断されたチップのみを選別するように構成されてもよい。これにより、検査により良好と判断されたチップのみを実装することにより、生産される最終製品の歩留まりを高めることができる。
【0109】
[本接合]
本接合では、仮接合で得られたチップと基板との構造体に加熱処理等を行うことにより、チップと基板との間の所定の導電性(抵抗率)又は接合強度(機械的強度)を得ることができる。例えば、加熱処理中の最高温度は、100℃(摂氏100度)以上、チップと基板との接合外面を形成する材料の融点未満の温度に設定することが好ましい。
【0110】
加熱処理中の最高温度を100℃(摂氏100度)以上に設定することで、接合界面に含まれている水酸(OH)基又は水の多くが、接合界面外部に抜け出していくと考えられる。このとき、水が仮接合の界面から抜け出していく過程で、それまでは接触していなかった接合部同士が接触するようになり、実質的な接合界面が広がり、接合部積が大きくなると考えられる。また、本発明による表面活性化処理後に親水化処理された接合部を接合することで、従来の単純な親水化処理を用いた接合に要した400℃を超える温度での加熱は不要となり、150℃から250℃程度の温度の加熱で十分な接合強度を得ることができる。
【0111】
接合界面に含まれている水酸(OH)基又は水が接合界面まわりの材料中へ拡散しても、接合界面近傍の部位の電気的特性又は機械的特性が顕著に低下することはないと考えられる。
【0112】
また、本願の発明によれば、加熱処理中の最高温度を、チップと基板との接合部を形成する材料の融点未満に設定しても、十分な電気的特性及び機械的特性を得ることができる。接合界面近傍で材料の固相拡散が生じて、それまでは接触していなかった接合部間の隙間を埋めることで、実質的な接合界面が広がり、接合部積が大きくなると考えられる。
【0113】
また、加熱処理中の最高温度を、チップと基板との接合部を形成する材料の融点未満に設定して、固相拡散により本接合を行うことで、本接合における位置ずれをほぼなくすことができる。これにより、最終製品において、基板の接合部上の所定の位置に対するチップの位置決め精度を高くすることができ、例えば±1μm以下に抑えることが可能になる。
【0114】
加熱処理中の最高温度を、チップと基板との接合部を形成する材料の融点以上に設定して本接合を行うと、仮接合で取り付けられた基板上の位置から、チップがずれることがあり得る。この位置ずれは、数μmになる場合がある。チップを本接合する際に位置ずれが生じると、ある金属領域が隣接する金属領域と接触する等して、ショートの原因となる。また、接合部積が小さくなり、接合界面で生じる段差等により、接合界面の接合強度が低下する場合がある。
【0115】
上述のように、一例として、基板の対応する接合部に対するチップの位置決めは、チップ側と基板側とに設けられた位置調節用マークを、チップと基板とを透過する光を用いて、互いに合わせることで行われる。これにより、例えば、±1μmの位置決め精度を得ることができる。さらに、位置決めが十分でなかった場合には、仮接合直後にチップを基板から一度離し、再度位置決めしてから仮接合を行うことを、所定の位置決め精度が得られまで繰り返すこともできる。これにより、±0.2μmの位置決め精度を得ることができる。
【0116】
したがって、位置調節用マークを用いる等してチップを基板上の所定の位置に対して位置決めした上で仮接合を行い、さらに本接合において加熱温度をチップと基板との接合部を形成する材料の融点未満に設定することで、最終製品において、基板の接合部上の所定の位置に対するチップの位置決め精度を極めて高くすることができる。これにより、ショート等の欠陥の発生を抑制するとともに、チップを積層基板上に積層して接合する場合でも、基板上における複数層に亘るチップの上下方向の位置決め精度を高く保つことができる。
【0117】
たとえば、チップ側接合部と基板の接合部とが銅(Cu)で形成されている場合には、仮接合後のチップと基板との構造体を150℃(摂氏150度)で600秒間、加熱することで、高い導電率と接合強度とを有するチップと基板との構造体が得られる。
【0118】
チップ側接合部と基板の接合部との金属領域が銅(Cu)で形成されている場合には、0.14MPa(メガパスカル)程度の圧力を接合界面に垂直な方向に加えることで十分な導電性及び機械的強度が得られる。
【0119】
従来、銅(Cu)と銅(Cu)とを直接接合するために、350℃(摂氏350度)程度での高温で、基板毎に数トンもの力を10分ほど保持することが必要だったが、本発明において金属領域を形成する材料として銅を採用することで、低温、低圧、かつ高速に、所望の導電性及び機械的強度を有するチップと基板との構造体を製造することができる。
【0120】
チップの各金属領域が、ニッケル(Ni)、金(Au)、スズ(Sn)、スズ―銀の合金等の金属で、20μm(マイクロメータ)四方、高さ3μm(マイクロメータ)から10μm(マイクロメータ)のパッド状に形成されている場合は、各パッドに対し0.3MPa(メガパスカル)から600MPa(メガパスカル)の圧力を加熱処理中に加えてもよい。
【0121】
加熱処理中の構造体周りの雰囲気は、大気でもよく、窒素又は希ガス雰囲気でもよい。加熱処理中の構造体周りの雰囲気の湿度を調節してもよい。この湿度は、得られる接合界面の電気的特性又は機械的特性に応じて調節してもよい。
【0122】
また、本実施形態に係る接合方法では、前記終端化処理ステップの前に、還元雰囲気中で加熱する還元処理ステップを含むようにしてもよい。
【0123】
[還元処理ステップ]
前記終端化処理ステップの前に酸化膜を除去しておく処理として還元処理を行うことで酸化膜が存在する金属表面におても酸化膜なく水素終端できるので有効である。
【0124】
還元雰囲気は、還元性気体を、基板と複数のチップとを含む構造体の雰囲気中、又は本接合をするチャンバ内に導入することで形成されてもよい。還元性気体として、水素分子、水素ラジカル、水素プラズマ、ギ酸ガス等を使用することが好ましい。
【0125】
特に、水素分子、及び水素ラジカル等の水素を含むガスは、サイズが小さいので、接合界面の凹凸等による隙間に入り込むことができる。また、実際に接触している接合界面においても、拡散しやすい。したがって、これらの水素を含むガスを使用することにより、仮接合界面の酸化膜を、本接合時に効率よく還元することができる。
【0126】
水素ラジカルは、活性であるので、仮接合による構造体を加熱しなくてもよい。加熱をする場合には、たとえば摂氏150度程度で加熱するのが好ましい。ギ酸を用いる場合には、摂氏200度程度で加熱することが好ましい。
【0127】
還元雰囲気を形成する前に、チャンバを真空引きすることが好ましく、真空引きした後に還元性気体を導入することにより、真空引きされた界面の微小な間隙に還元性気体がより効率よく入り込むことができるようになる。さらに、真空引きにより、還元処理による酸化膜除去を妨害しうる酸素や汚染物質等を上記雰囲気から予め除去することができる。
【0128】
また、真空引きと還元性気体の導入とを繰り返して行ってもよい。
【0129】
還元処理の方法としては、一例として、
図4の装置を使用して、真空中で水素ラジカルを降り注ぎながら、接合物の下部に位置するヒータで250℃程度で加熱することで、金属表面を還元処理して酸化膜を除去する方法が挙げられる。
【0130】
また他の還元処理方法の一例として、ギ酸を触媒中に通す方法がある。ギ酸を触媒中に通し、水素ラジカルを含んだギ酸ガスを放出することで、より低温、例えば200℃程度の加熱で金属表面の酸化膜を除去することができる。
ギ酸ガスは、触媒反応により水素ラジカルとギ酸基とに分解され、これらを含む反応ガスが、その還元作用により、金属酸化物を効率よく分解して酸素を除去すると考えられている。
【0131】
例えば、Pt触媒を作用させたギ酸から生成した反応ガスを利用して銅の表面に形成された酸化物層を還元する場合、ギ酸はPt触媒によって分解され、水素ラジカルが発生する。銅の表面において、酸化物層は、再外層に形成されたCuOを主に含む層と、その下に形成されたCu
2Oを主に含む層とから構成されるが、水素ラジカルによってCuOが減少する。そして、ギ酸基がCu
2Oと反応して、銅のギ酸塩を形成する。この銅のギ酸塩が分解することにより、銅の微粒子が凝集(あるいは析出)する。
ギ酸により還元される金属微粒子を効率よく形成するためには、Cu
2Oの表層にあるCuO膜を除去することが効果的である。Pt触媒により発生した水素ラジカルが、ギ酸基による還元反応に先立ち、このCuO膜を除去することにより、ギ酸による効率的な金属微粒子の形成が可能となる。
【0132】
これらの還元処理方法では、水素ラジカルが放出されるので、還元処理の後に連続して水素ラジカルによる水素終端が可能となるという利点がある。
【0133】
このような還元処理は、銅(Cu)で形成されたバンプ(金属領域)に適用されうるが、これに限られず、はんだ材料、アルミ(Al)、あるいはそれらの合金に対しても適用されうる。
【0134】
本接合時に還元処理を併せて行うことで、金属領域で形成される接合界面の電気抵抗をさらに下げることができる。当該手法は、特性が接合界面の電気抵抗の影響を受け易いハイエンドコンピュータやパワーデバイスのためのチップオンウエハ技術に応用することが特に有用である。
【0135】
<実施形態4>
上記の親水化処理に加え、さらに以下の水付着処理を施してもよい。
【0136】
[水付着処理]
上記の親水化処理が完了したチップを基板の対応する接合部に取り付ける前に、チップ側接合部に水(H
2O)を付着させてもよい。
水付着処理は、チップ側接合部の少なくとも金属領域に水を吹き付けることで行ってもよい。吹き付けられる水は、気体状(ガス状又は水蒸気等)でも液体状(霧状又は水滴状等)でもよく、水の形態はこれらに限定されない。水をチップ側接合部に吹き付けることで、チップ側接合上に効率よくかつ均一に水を付着することができる。
【0137】
水付着処理は、液体の水を収容する水槽を設け、この水にチップ側接合部の少なくとも金属領域を浸漬させることで行ってもよい。これにより、表面活性化処理された接合部上により多量の水をより確実に付着することができる。
【0138】
最初の親水化処理の完了から仮接合が行われるまでの間に、チップ側接合部を下向き(フェイスダウン)の状態で当該液体の水と接触させて、チップ側接合部に水を付着させることができる。金属領域が、チップ側接合部における他の領域より突出している場合は、当該突出した金属領域のみに、上記液体の水との接触により、水を付着させてもよい。
【0139】
一度親水化処理した表面に、さらに水(H
2O)を付着させ、水の層を形成することで、チップ側接合部の凹部を水(H
2O)で埋めて、接合部の表面粗さを低減させることができる。この水の層を介してチップ側接合部と基板の接合部とが接触することで、仮接合時の実質的な接合部積は大きくなると考えられる。
【0140】
また、例えば大気暴露による親水化処理で行った際に、表面に十分な密度でOH基を形成させる程には水が付着していない場合には、その後、さらに水を付着させることでOH基の生成密度を十分に増加させることができる。大気中では湿度が30%から50%が一般的であり、OH基生成のための水分量が十分でない場合がある。
【0141】
付着させる水の層の平均厚さは、水付着前の接合部の表面粗さと同程度又はそれ以上であることが好ましい。このようにすることで、仮接合したときに、水付着されなければ接触しないような接合部の間の隙間を水で埋めることが可能となり、実質的な接合部積を確実に大きく確保することができる。
【0142】
チップが有する複数の金属領域の高さにばらつきがある場合に、比較的低い金属領域は、チップに力を加えて変形させないと基板と十分に接触しないことがありえる。この場合でも、当該複数の金属領域の間の高さの差とほぼ同程度あるいはそれ以上の厚さの水分子の層を、金属領域上に形成することで、水の層を介して所定の強度の仮接合が得られる。
【0143】
接合部、特にチップの金属領域上に形成された水の層は、チップを基板に取り付ける(仮接合の)工程S3の際に、チップと基板との接合部間で、接合部に垂直な方向に作用する互いの吸着力又は吸引力を増加させる機能があると考えられる。その結果、水の層がなかった場合と比較して、チップと基板との接合部間に水の層が形成される部分の面積に応じて、仮接合の力が増加する。
【0144】
さらに、チップの複数の金属領域上に形成された水の層は、接合部に平行な方向に作用する吸引力をも発生させるので、チップを基板の接合部に向けて引き寄せることにより、基板に対するチップのセルフアラインメントを実現することができる。
【0145】
図5に示すように、たとえば、それぞれ水付着処理により水の層が形成された、チップが有する複数の金属領域と、これに対応する基板上の接合領域を、接合部に垂直な方向に沿って互いに近づけるとき、チップは、基板に対し、接合部に平行な方向にずれている場合がある(
図5(a))。接合部に垂直な方向にさらに近づけると、水の層同士が接触し、チップの金属領域とこれに対応する基板上の接合領域との間を結合するような水の層が形成される(
図5(b))。この水の層には表面エネルギーを最小にさせる表面張力が作用して、チップの金属領域は、これに対応する基板上の接合部上の所定の位置に自動的に位置決め(セルフアラインメント)される(
図5(c))。その結果、仮接合のためにチップを基板に対して取り付ける際に、位置決めの精度を比較的低く設定することができ、接合装置の簡略化、位置決め工程の高速化が可能になる。
図5の例では、バンプ51とパッド52とを接合する例を示しているが、本実施形態に係る接合方法は、バンプとバンプとの接合についても好ましく用いることができる。
【0146】
セルフアラインメントを実現するために、チップ側接合部に親水化された金属領域と疎水化された領域とを設け、これらに対応するようにして、基板の接合部に親水化された接合領域と疎水化された基板側疎水化領域とを設ける構成を採ることもできる。これにより、親水化されたチップの金属領域と基板の接合領域とが接触するようにチップを基板の対応する接合部に取り付ける際に、親水化領域と疎水化領域があることで、水の層で発生する表面張力の作用が大きくなり、位置決めの精度がさらに向上し、所定の位置にチップを高速で仮接合することができる。また、金属領域の表面がチップ側接合部の表面とほぼ同一面上にあるように構成したチップを使用する場合には、親水化領域と疎水化領域をほぼ同一平面上に配置することができるので、デバイスの最終製品の厚みを小さくし高密度化することができる。
【0147】
ただし、セルフアラインメントが出来るということは、仮接合の界面での水分子の付着量が多いということを意味する。このような比較的水付着量が多い場合に、チップが既に仮接合されている基板を高速移動させて次のチップの位置決めを行おうとすると、基板上のチップの位置がずれるという問題が生じる。これは、OH基を十分生成させるために必要な量を超えて付着された水が分子として接合部上に存在しているために生じる問題である。したがって、水を付着させる工程の後で、余剰に付着している水分子を除去することが好ましい。
【0148】
親水化処理後の水の付着は、チップ側接合部の金属領域のみに対して行われてもよく、またチップ側接合部の金属領域に加え、チップ側接合部の金属領域が対応して接合される、基板の接合部に形成された接合領域に対して行われてもよい。
【0149】
水付着処理の一形態として、終端化処理の条件を設定することで、接合部の金属領域を水素終端させるとともに、接合部の表面に水分子を付着させることもできる。
【0150】
また、本発明によれば、金属領域を含む接合部を有する接合物同士を接合する接合装置であって、少なくとも一方の前記金属領域を水素ラジカル雰囲気に暴露して終端化処理するための終端化処理手段と、前記接合物の接合部同士を接触させる取付け手段と、を備えた接合装置が提供される。
当該接合装置は、上記の実施形態に係る接合方法に好ましく用いられる。
【0151】
上記の接合装置においては、接合物の金属領域を表面活性化処理するために、所定の運動エネルギーを有する粒子を該金属領域に対して衝突させる表面活性化処理手段をさらに備えるようにしてもよい。
【0152】
上記の接合装置においては、前記表面活性化処理手段が原子ビームまたはイオンビームの照射手段を含むようにしてもよい。
【0153】
上記の接合装置においては、前記表面活性化処理手段は、前記接合物に対して交番電圧を印加することで、接合部の周りに前記粒子を含むプラズマを発生させ、プラズマ中の前記粒子を前記電圧により接合部に向けて加速させることにより、粒子に所定の運動エネルギーを付与する、プラズマ発生装置を含むようにしてもよい。
【0154】
上記の接合装置においては、互いに接触した前記接合物を含む構造体を加熱するための加熱手段をさらに備えるようにしてもよい。
【0155】
上記の接合装置においては、前記取付け手段は、前記接合物同士を、互いに近接する方向に加圧する加圧手段をさらに含むようにしてもよい。
【0156】
<実施例>
以下に、本発明に係る実施例を示す。当実施例では、金属材料を水素ラジカル雰囲気に暴露したものと(実験例(a))、高速原子ビーム処理したものと(実験例(b))について、XPS(X線光電子分光)による酸化状態の観測を行った。
【0157】
試料として用意したSn(純度5N、厚さ0.5mm)の表面を、ラップ研磨(Ra:1.5mm)したものを用いた。
[実験例(a)]
水素プラズマリフロー装置を用いて、試料に水素ラジカル照射を、150℃、1分の条件で行った。
[実験例(b)]
クリプトン高速原子ビーム処理装置を用いて、常温、15分の条件で試料表面の処理を行った。
【0158】
[XPS分析]
上記実験例a及びbの試料について、XPS装置(日本電子製JPS−9200T)による表面分析を行った。
図6は、表面処理後に大気暴露した金属領域のXPS分析結果である。AがSn酸化物を示すピークであり、BがSnを示すピークである。
【0159】
また、試料として、Cu、Alを用いた場合に同様の試験を行ったが、同様の傾向が見られた。
[考察]
図6を見ると、水素ラジカルによる終端化処理を行った実験例(a)では、大気暴露時間125時間という長い場合でも、高速原子ビーム処理をした実験例(b)と比較して、Sn酸化物を示すピークAが小さいことがわかる。
これは、酸化膜を除去した後に水素終端された接合界面では、大気暴露などにより水分子が界面に接触するような状況になっても界面は守られて酸化が進まないためであると考えられる。
図6が示しているのは、単純に真空中で高速原子ビーム(FAB)によるAr衝撃によって酸化膜を除去した実験(b)と、還元処理後に水素終端した実験例(a)とを大気暴露後の時間とともに比較した場合、高速原子ビーム処理したものは時間とともに酸化物が増大していくが、水素終端されたものは酸化物の増大が抑えられているということである。
【0160】
このことから、水素ラジカルによる終端化処理、すなわち金属材料表面の水素終端により、金属酸化膜の成長が抑制されることが理解される。このような酸化抑制機能は、高速原子ビーム処理をした場合より、顕著に表れているといえる。
【0161】
図7が示すのは、上記の実験例(a)及び(b)の試料と金(500nmの金属層)との接合強度の比較である。試料と金との接合は、30秒間、150℃、150MPaの条件で加圧及び過熱をすることで行われた。接合前の大気暴露の時間は、実験例(a)の試料が8〜11時間、実験例(b)の試料が1時間以下である。
図7に示すように、酸化された界面は接合後の強度が低いのに比べ、水素終端により酸化抑制したものは接合強度が大きく接合に有効であることがわかる。
【0162】
図8が示すのは、上記の実験例(a)及び(b)の試料を大気暴露した場合の酸化物と水酸基の変化である。
界面の酸化物と水酸基(OH基)の増加を比較してみたところ、水素終端されていないものは水酸基は増加せず、酸化物のみ増加しているが、水素終端されたものは酸化物の増大は抑えられ水酸基が界面に付着していることがわかる。これは、大気暴露により水分子が界面に付着するが、水素終端されていない界面は水分子の付着により水分子が分解してどんどん酸化が進み酸化物が増大している。しかし、水素終端されたものは水分子が付着しても水素終端により界面が守られているため酸化が進まなく、水分子が界面に維持されていると考えられる。
【0163】
図8について別の見方をすれば、水素終端されたものは水分子が酸化進行しないで界面にOH基を生成することに使われたとも見れる。OH基による親水化接合は従来から使われる手法であるが、水分子を介在させながら大気中においても無加圧で自然と仮接合が進み、後に加圧を伴わない加熱(アニーリング)することで水分子を除去して強固な共有結合へと持って行くことができる。積極的にこの方法を仮接合に使用すれば、大気中でもより容易に接合を進めることが可能となる。
また、特に加圧しなくとも接触させるだけで接合が進み、アニーリングにおいても無加圧でできる。
【0164】
積極的にOH基を生成して親水化接合する方法としては、例えば、大気暴露前にOH基や水分子を含んだガス(水ガス)をチャンバー内で導入することで、不純物の付着を押さえてOH基を効率よく生成することが可能である。
【0165】
従来のOH基による親水化接合においては、Ar衝撃により酸化膜を除去した後にチャンバー中で水ガスに暴露したとしても界面にはいくらかの酸化膜が生成され、その上にOH基で終端されている。しかし、本発明のように酸化膜除去後に一旦、水素ラジカルで水素終端する工程においては酸化膜が生成されるような酸素は存在しないため、酸化膜無くして終端される。その後でOH基を付着させても、界面の酸化は進まないため、親水化接合の容易な水分子を介在させた仮接合を併用できる。水分子は、加熱によって後に除去すればよい。
【0166】
また、OH基の生成は、界面を終端化した水素と入れ替わっているとも考えられる。この場合には、親水化接合で使用するフッ素や窒素の付加により一部をフッ素終端や窒素終端化することで、材料により接合に有利に働くことが知られているが、この方法を併用することもできる。一旦水素終端されたものに、微量のフッ素を付加した酸素プラズマ処理やフッ素を含んだ液体に表面を暴露したり、水ガスにフッ素を含んだ液体を付加して供給することで一部をフッ素終端することができる。これはガラスや酸化物などの接合に有利である。
【0167】
また、窒素プラズマ処理や窒素を含んだ液体、例えばアンモニア水に表面を暴露したり、水ガスにアンモニアを付加して供給したりすることで、一部を窒素終端することができる。これはSiや酸化物、窒化物の接合に有利である。
特に本発明に係る接合方法を用いた場合、従来の方法に比べて一旦水素終端された界面には酸化膜が伴わないため、酸化膜なくして接合を優位に進めることができるのが利点である。
【0168】
また、水素終端を行った後に真空引きをして、接合界面の間隙からガスを排出させた後に加圧することが好ましい。これにより、接合界面に残るガスや不純物を取り除き又は少なくすることができる。また、ボイドの無い又は少ない接合界面を形成することができる。
【0169】
以上、本発明の幾つかの実施形態及び実施例について説明したが、これらの実施形態及び実施例は、本発明を例示的に説明するものである。特許請求の範囲は、本発明の技術的思想から逸脱することのない範囲で、実施の形態に対する多数の変形形態を包括するものである。したがって、本明細書に開示された実施形態及び実施例は、例示のために示されたものであり、本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。