(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  前記プラズマ形成部は、プラズマ化するガスが供給される領域内に、マイクロ波を放射するための多数のスロットが形成されたスロット板と、前記回転テーブルとスロット板との間に設けられ、当該スロット板から放射されるマイクロ波が透過する誘電体プレートと、を備えることを特徴とする請求項1、3、6のいずれか一つに記載の成膜装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
  以下、本発明の実施の形態に係る成膜装置の構成について、
図1〜9を参照しながら説明する。本例では、前駆体であるジクロロシラン(SiH
2Cl
2)を含む原料ガスと、アンモニア(NH
3)を含む反応ガスとを反応させ、基板に窒化ケイ素(SiN)膜の薄膜を形成する例について説明する。
 
【0016】
  図1、2に示すように、成膜装置は、成膜処理が行われる処理空間を成す真空容器11と、この真空容器11内に配置され、複数のウエハ載置領域21が形成された回転テーブル2と、回転テーブル2の上方側の空間の第1の領域R1へ向けて原料ガスを供給するための原料ガスユニット3と、第1の領域R1から区画された第2の領域R2へ向けて反応ガスを供給するためのガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)と、前記第1の領域R1と第2の領域R2との間に挟まれた位置に設けられた反応前領域r1、反応後領域r2へ各々、前処理ガスや後処理ガスを供給する機構と、反応ガスや前処理ガス、後処理ガスのプラズマを形成するためのプラズマ形成部6(6A〜6C)と、を備えている。
 
【0017】
  真空容器11は、真空容器11の側壁及び底部をなす容器本体13と、この容器本体13の上面側の開口を気密に塞ぐ天板12とにより構成され、平面形状が概ね円形の扁平な容器である。真空容器11(天板12、容器本体13)は、例えばアルミニウムなどの金属から構成され、真空容器11の内面には、耐プラズマ処理(例えば、アルマイト処理やセラミクス材の溶射処理)が施される。
 
【0018】
  真空容器11内には、例えば真空容器11と同様の耐プラズマ処理が施された、セラミクス製の円板からなる回転テーブル2が設けられている。回転テーブル2の中心部には鉛直下方へ伸びる回転軸14が設けられ、回転軸14の下端部には、回転テーブル2を鉛直軸周りに回転させるためのモーターなどの回転駆動機構15が設けられている。
 
【0019】
  回転テーブル2の上面には、少なくとも1つのウエハ載置領域21が設けられている。本例では
図1に示すように、回転テーブル2の回転中心の周りに、6つのウエハ載置領域21が周方向に並べて設けられている。各ウエハ載置領域21は、ウエハWよりもやや大きな直径を有する円形の凹部として構成されている。  
  なお、ウエハ載置領域21の構成は、ウエハWを収容するだけの単純な凹部を設ける場合(例えば
図7の模式図参照)に限定されるものではない。例えば上述の凹部に加え、ウエハWの周縁に沿って当該凹部より深い円環状の溝を設けることにより、原料ガスや反応ガスの滞留時間を調節する構成を採用してもよい。
 
【0020】
  図1、4、6に示すように、回転テーブル2の下方に位置する容器本体13の底面には、前記回転テーブル2の周方向に沿って、扁平な円環状の環状溝部45が形成されている。この環状溝部45内には、ウエハ載置領域21が並ぶ領域に対応させてヒーター46が配置されている。ヒーター46は、原料ガスと反応ガスのプラズマとの反応を進行させるのに好適な温度まで回転テーブル2上のウエハWを加熱する。また、環状溝部45の上面の開口は、円環状の板部材であるヒーターカバー47によって塞がれている。例えばヒーターカバー47は、ヒーター46からの熱放射を回転テーブル2へ向けて供給できるように、ヒーター46から放射される電磁波を透過する材料により構成される。
 
【0021】
  図2、3などに示すように、真空容器11(容器本体13)の側壁面には、不図示のゲートバルブにより開閉自在に構成された搬入出部101が設けられている。外部の搬送機構に保持されたウエハWは、この搬入出部101を介して真空容器11内に搬入される。搬送機構とウエハ載置領域21との間のウエハWの受け渡しは、各ウエハ載置領域21に設けられた不図示の貫通口を介して回転テーブル2の上方位置と下方位置との間を昇降自在に構成された昇降ピンを用いて行われるが、昇降ピンの記載は省略してある。
 
【0022】
  上述の構成を備えた回転テーブル2において、回転軸14により回転テーブル2を回転させると、
図2に示す回転中心Cの周囲を各ウエハ載置領域21が公転する。回転テーブル2を回転させたときにこれらウエハ載置領域21が通過する領域を公転面R
Aと呼ぶと、本例の公転面R
Aは
図2中に一点鎖線で囲んだ円環形状の領域となる。
 
【0023】
  図1、4に示すように、原料ガスユニット3は回転テーブル2の上面と対向する天板12の下面側に設けられる。また
図2、3に示すように原料ガスユニット3の平面形状は、ウエハ載置領域21の公転面R
Aを、ウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向に区画して形成される扇形の形状となっている。
 
【0024】
  図4の拡大縦断面図に示すように、例えば原料ガスユニット3は、凹部や開口が形成された複数枚の板材を積層した構造となっている。この結果、原料ガスユニット3の内部には原料ガスが拡散する原料ガス拡散空間33と、原料ガスの排気が行われる排気空間32と、原料ガスユニット3の下方側の領域と、原料ガスユニット3の外方側の領域とを分離する分離ガスが拡散する分離ガス拡散空間31とが、下方側からこの順に積層された構造となっている。
 
【0025】
  最下層の原料ガス拡散空間33は、原料ガス供給路17、開閉弁V1、流量調節部521を介して原料ガス供給源52に接続されている。原料ガス供給源52からは、ジクロロシランを含む原料ガスが供給される。  
  
図4、及び原料ガスユニット3を下面側から見た平面図である
図5に示すように、原料ガス拡散空間33(原料ガスユニット3)の下面には、原料ガス拡散空間33から回転テーブル2側へ向けて原料ガスを供給するための多数の吐出孔331が穿設されている。
 
【0026】
  図5に示すように、吐出孔331は同図中に破線で示した扇形の領域内に分散して設けられている。当該扇形の領域において、回転テーブル2の半径方向に伸びる2辺の長さは、ウエハ載置領域21(ウエハW)の直径よりも長くなっている。この結果、ウエハ載置領域21の公転面R
A上に配置された原料ガスユニット3の下方側をウエハ載置領域21が通過すると、ウエハ載置領域21内に載置されたウエハWの全面に対して吐出孔331から原料ガスが供給されることとなる。  
  多数の吐出孔331が設けられた前記領域は、原料ガスの吐出部330に相当する。また、吐出部330、原料ガス拡散空間33、原料ガス供給路17、開閉弁V1、流量調節部521、原料ガス供給源52は、本例の第1のガス供給部を構成している。
 
【0027】
  図4、
図5に示すように、原料ガス拡散空間33の上方側に形成された排気空間32は、吐出部330の周囲を囲む閉路(第1の閉路)に沿って延在するように形成された排気口321に連通している。また排気空間32は、排気路192を介して排気手段51に接続され、原料ガス拡散空間33から原料ガスユニット3の下方側に供給された原料ガスを排気手段51側へと排気する独立した流路が形成されている。  
  上述の排気口321、排気空間32、排気路192、排気手段51は、本例の排気部を構成している。
 
【0028】
  さらに
図4、
図5に示すように、上述の排気空間32の上方側に形成された分離ガス拡散空間31は、排気口321の周囲を囲む閉路(第2の閉路)に沿って延在するように形成された分離ガス供給口311に連通している。また分離ガス拡散空間31は、分離ガス供給路16、開閉弁V2、流量調節部531を介して分離ガス供給源53に接続されている。分離ガス供給源53からは、分離ガス供給口311の内側と外側の雰囲気を分離すると共に、ウエハWに過剰に吸着した原料ガスを除去するためのパージガスの役割も果たす分離ガスが供給される。分離ガスとしては不活性ガスである例えば窒素ガスが用いられる。  
  上述の分離ガス供給口311、分離ガス拡散空間31、分離ガス供給路16、開閉弁V2、流量調節部531、分離ガス供給源53は、本例の第2のガス供給部を構成している。
 
【0029】
  以上に説明した構成の原料ガスユニット3によれば、吐出部330の各吐出孔331から供給された原料ガスは、回転テーブル2の上面を流れながら周囲に向けて広がり、やがて排気口321に到達して回転テーブル2の上面から排気される。従って、真空容器11内において、原料ガスが存在する領域は、第1の閉路に沿って設けられた排気口321の内側に限られる(第1の領域R1)。
 
【0030】
  また既述のように、原料ガスユニット3はウエハ載置領域21の公転面R
Aの一部をウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向に区画した形状となっている。このため、回転テーブル2を回転させると、各ウエハ載置領域21に載置されたウエハWは前記第1の領域R1を通過し、その全面に原料ガスを吸着させることができる。
 
【0031】
  一方で排気口321の周囲には、第2の閉路に沿って分離ガス供給口311が設けられ、この分離ガス供給口311から回転テーブル2の上面側へ向けて分離ガスの供給が行われる。従って、第1の領域R1の内外は、排気口321による排気、及び分離ガス供給口311から供給される分離ガスによって2重に分離され、第1の領域R1の外側への原料ガスの漏出、及び第1の領域R1の外側からの反応ガス成分の進入を抑える構成となっている。
 
【0032】
  第1の領域R1の設定範囲は、ウエハWの全面に原料ガスを吸着させるのに十分な接触時間を確保でき、且つ、第1の領域R1の外側に設けられ、反応ガスの供給が行われる第2の領域R2と干渉しない範囲であれば特段の限定はない。例えば第1の領域R1の形状を扇形に設定する場合には、回転テーブル2の半径方向に伸びる2辺の成す角度θ1は、大きくとも180度未満、好適には10〜110度の範囲に調節される。なお、
図3が煩雑になることを避けるため、角度θ1は
図10に記してある。
 
【0033】
  以上に説明した構成を備えた原料ガスユニット3を用い、各ウエハ載置領域21に載置されたウエハWに対して原料ガスを供給した後、第1の領域R1の外側にてプラズマ化した反応ガスを供給することにより、ウエハWに吸着した原料ガスと反応ガスとが反応して窒化ケイ素の分子層が形成される。
 
【0034】
  発明者らは、前記分子層を堆積させて窒化ケイ素の薄膜を形成するにあたり、面内均一性の高い薄膜を形成するためには、プラズマ化した反応ガス濃度の高い領域を形成することが重要であることを見出した。この点、原料ガスユニット3(第1の領域R1)以外の回転テーブル2の上方空間全体に反応ガスを供給する手法では、反応ガスの高濃度領域を形成することが困難な場合もある。  
  そこで、本実施の形態の成膜装置では、2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)を用いて反応ガスの高濃度領域を形成している。以下、ガスインジェクター7を用いてプラズマ化した反応ガスを供給する機構の構成例について説明する。
 
【0035】
  図2、6などに示すように、回転テーブル2の回転方向(本例では上面側から見て時計回り)の下流側には、回転テーブル2の半径方向(ウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向)に伸びる細長い直棒状のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)が、回転テーブル2の周方向に間隔を開けて2本、挿入されている。
 
【0036】
  ウエハ載置領域21のウエハWが第1の領域R1を通過した直後は、分離ガスにより過剰な原料ガスのパージをした後であっても、過剰吸着した原料ガス(本例ではジクロロシラン)が残っている可能性もある。そこで後述するように、本例の成膜装置では、原料ガスの吸着が行われる第1の領域R1と、プラズマ化した反応ガスの供給が行われる第2の領域R2との間で、ウエハWの前処理を実施する。このため、反応ガスの供給は第1の領域R1から下流側に離れた位置にて行われるようにインジェクター7を配置している。
 
【0037】
  窒化ケイ素薄膜の成膜の場合は、各ガスインジェクター7は、例えばセラミクス製の細長い円柱により構成される。ガスインジェクター7の内部は空洞となっており、その長さ方向へ向けて原料ガスが流れる流路が形成されている。そして
図6に示すように、ガスインジェクター7の側面には、ウエハ載置領域21に載置されたウエハWの全面に反応ガスを供給可能な範囲に亘って、複数の反応ガス吐出孔701が互いに間隔を開けて設けられている。
 
【0038】
  図2、6に示すように、ガスインジェクター7は真空容器11(容器本体13)の側壁面から回転テーブル2の回転中心へ向けてほぼ水平に挿入された2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)が、角度θ2を成すように配置されている。なお、角度θ1と同様に、角度θ2は
図10に記してある。
 
【0039】
  各ガスインジェクター7は、開閉バルブV3、V4や流量調節部541、542を介して反応ガス供給源54に接続されている。反応ガス供給源54からは、アンモニア(NH
3)を含む反応ガスが供給される。ガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)、開閉バルブV3、V4、流量調節部541、542、及び反応ガス供給源54は本例の第3のガス供給部を構成している。
 
【0040】
  図7に模式的に示すように、第1、第2のインジェクター71、72は、後述のアンテナ部60により反応ガスのプラズマが形成されるプラズマ発生領域Pへ向けて反応ガスを供給することが可能なように、反応ガス吐出孔701を互いに対向する方向へ向けて配置される。プラズマ発生領域Pが形成される範囲は、真空容器11内の圧力や原料ガスの種類、濃度、流量などの条件によって変化する。
 
【0041】
  これに対して第1、第2のインジェクター71、72の配置高さや、その長さ方向に沿って反応ガス吐出孔701を設ける範囲、反応ガス吐出孔701の向きなどについては、プラズマ発生領域Pが形成される範囲に係る各種条件が決定された前提下で、プラズマ発生領域P内へ向けて原料ガスを吐出することが可能な状態に設定される。プラズマ発生領域Pの形成範囲は、プラズマ発光エリアとして確認することができる。
 
【0042】
  また、プラズマ発生領域P内にガスインジェクター7を配置すると、ガスインジェクター7の内部で反応ガスのプラズマ化が始まってしまい、反応ガス吐出孔701から吐出された後の原料ガスのプラズマの活性が低下してしまうおそれがある。そこで、
図7に示すようにガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)は、プラズマ発生領域Pの外方側の近傍位置に配置される。
 
【0043】
  以上に説明したように、原料ガスの供給が行われる第1の領域R1の外方側に設定された所定の領域を挟み、当該領域へ向けて反応ガス吐出孔701から反応ガスが吐出されるように配置された2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)を用いることにより、反応ガスの高濃度領域を形成することができる。  
  反応ガスの高濃度領域を形成するという観点では、2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)が成す角度θ2は、180度未満、好ましくは10〜110度の範囲内の値となるように調節するとよい。
 
【0044】
  さらに
図6に示すように、本例の成膜装置においては、2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)に挟まれた領域へ、回転テーブル2の周縁側に対応する位置から反応ガスを供給するための周縁側反応ガス吐出孔702が設けられている。例えば周縁側反応ガス吐出孔702は、後述するプラズマ形成用のアンテナ部60に設けられた誘電体窓61の下方領域へ向けて反応ガスを供給できるように、誘電体窓61を支持している天板12に設けられた開口部の内周面に設けられている。
 
【0045】
  周縁側反応ガス吐出孔702は、2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)に挟まれ、平面形状が三角形となっている第2の領域R2における回転テーブル2の周縁側の1辺に沿って、互いに間隔を開けて複数箇所に配置されている。この結果、周縁側反応ガス吐出孔702は、
図10に記載の第2の領域R2内に実線で模式的に示すように、前記周縁部側の1辺から、ウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向へ向けて原料ガスを吐出することができる。
 
【0046】
  図6に示すように、各周縁側反応ガス吐出孔702は、第2の領域R2の前記周縁部側の1辺に沿って伸びるように設けられた反応ガス供給路183に連通している。反応ガス供給路183は、天板12外部に設けられた開閉バルブV5、流量調節部543を介して反応ガス供給源54に接続されている。これら周縁側反応ガス吐出孔702を設けたことにより、既述の2本のガスインジェクター7から反応ガスが供給される領域へ向けて、反応ガスを供給し、当該領域の反応ガス濃度をさらに高くすることができる。反応ガス供給路183、周縁側吐出孔702、開閉バルブV5、流量調節部543、反応ガス供給源54は、本例の第4のガス供給部を構成している。ここで図示の便宜上、
図1においては、周縁側反応ガス吐出孔702や反応ガス供給路183などの記載を省略してある。  
  なお、第4のガス供給部から反応ガスを供給することは必須ではない。例えばガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)から回転テーブル2の周縁部側の領域に対しても十分に高濃度の反応ガスを供給できる場合などにおいては、第4のガス供給部の設置を省略してもよい。
 
【0047】
  次いで、上述のガスインジェクター7から供給された反応ガスをプラズマ化するプラズマ形成部6(6A)の構成について説明する。  
  
図3、6に示すようにプラズマ形成部6は、真空容器11内へ向けてマイクロ波を放射するアンテナ部60と、アンテナ部60に向けてマクロ波を供給する同軸導波管65、及びマイクロ波発生器69を備える。アンテナ部60は、ガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)から反応ガスが供給される領域の上方位置の天板12に設けられ、前記領域に対応させた概略三角形の形状の開口を塞いでいる。
 
【0048】
  アンテナ部60は、誘電体窓61、スロット板62、誘電体プレート63、及び、冷却ジャケット64を有するラジアルラインスロットアンテナ(RLSA(東京エレクトロン株式会社の登録商標))として構成されている。  
  誘電体窓61はマイクロ波の波長を短縮させるものであり、例えばアルミナセラミックから構成され、天板12側の開口を塞ぐことが可能な概略三角形の平面形状を有する。誘電体窓61の周縁部は、天板12に形成された開口の周囲の部材によって支持されている一方、当該周縁部よりも内側の領域は、真空容器11内へ向けて露出している。誘電体窓61の下面には、所定の領域にマイクロ波のエネルギーを集中させることにより、プラズマを安定して発生させるための、テーパー面を備えた環状の凹部611を設けてもよい。
 
【0049】
  スロット板62は、多数のスロット孔621が形成された概略三角形の金属板である。
図8の平面図に一例を示すように、スロット板62に形成された多数のスロット孔621は、上述の三角形の形状の中心から周縁へ向けた径方向、及び周方向に所定の間隔で配置されている。また各スロット孔621は、隣り合うスロット孔621、621同士が互いに交差又は直交する方向へ向くように形成されている。
 
【0050】
  さらにスロット板62上には誘電体プレート63が設けられている。誘電体プレート63は、例えば、アルミナセラミックから構成され、誘電体窓61やスロット板62に対応した概略三角形の平面形状を有する。誘電体プレート63上には冷却ジャケット64が設けられている。冷却ジャケット64の内部には冷媒流路641が形成され、当該冷媒流路641に冷媒を通流させることによりアンテナ部60を冷却することができる。
 
【0051】
  アンテナ部60は、同軸導波管65、モード変換器66、導波管67を介してマイクロ波発生器69に接続されている。同軸導波管65は、その下端部が誘電体プレート63に接続され、上端部がモード変換器66に接続された円柱形状の内側導体651と、下端部が、例えば金属製(導電性)の冷却ジャケット64の上面に接続され、上端部がモード変換器66に接続されると共に、その内部に前記内側導体651を収容した円筒形状の外側導体652とを備える。
 
【0052】
  マイクロ波発生器69は、例えば2.45GHzの周波数のマイクロ波を発生する。マイクロ波発生器69にて発生したマイクロ波は、整合器であるチューナー68、導波管67、及び同軸導波管65にて導波される伝搬モードにマイクロ波を変換するモード変換器66を介して同軸導波管65に導入される。  
  以上に説明した構成により、プラズマ形成部6においては、マイクロ波発生器69にて発生させたマイクロ波が、同軸導波管65を通って、誘電体プレート63に供給され、スロット板62のスロット孔621を介して誘電体窓61からその下方側の空間に供給される。
 
【0053】
  ここで既述のようにプラズマ形成部6は、アンテナ部60の平面形状が、2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)から反応ガスが供給される領域の扇形形状に対応させた概略三角形となっている。従って、反応ガスがプラズマ化する領域の形状についても、アンテナ部60(真空容器11内に露出する誘電体窓61の平面形状)に対応した形状となる。
 
【0054】
  本例の成膜装置では、反応ガスのプラズマが形成される前述の領域が第2の領域R2に設定されている。  
  従って、ガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)は、第2の領域R2を挟んで間隔を開けて配置されると言い替えることができる。またプラズマ形成部6についても当該第2の領域R2へ向けて吐出された反応ガスをプラズマ化する構成となっていると言える。そして既述のように、ガスインジェクター7はウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向に伸びるように設けられ、また反応ガス吐出孔701はウエハWの全面に反応ガスを供給可能な範囲に亘って形成されている。従って、回転テーブル2を回転させると、各ウエハ載置領域21に載置されたウエハWが第2の領域R2を通過し、原料ガスを吸着したウエハWの全面に対してプラズマ化した反応ガスを供給することができる。
 
【0055】
  さらに
図2、6に示すように、第2の領域R2が設けられている領域の外方側には、回転テーブル2と真空容器11の内壁面との間の容器本体13の底面側に、回転テーブル2の周方向に沿って、反応ガスを排出するための排気溝191が設けられている。排気溝191の底部には、排気口190Aが開口し、排気路19を介して、真空容器11内の真空排気を行うための排気手段55が接続されている。  
  排気溝191、排気口190A、排気路19、及び排気手段55は、本例の反応ガス排気部に相当する。また第2の領域R2の外方側へ均等に排気が行われるように、排気溝191の上面に、例えば多数の開口が形成された整流板を設けてもよい。
 
【0056】
  以上に説明した構成を備えた本実施の形態に係る成膜装置は、既述の第1、第2の領域R1、R2とは異なる他の領域にて、原料ガスやプラズマ化した反応ガスの供給とは異なる処理を行うことができる。  
  他の領域にて行われる処理として、本例の成膜装置においては、ウエハWに吸着した原料ガスに含まれる不純物を除去するための前処理と、ウエハWに成膜された薄膜中の未結合手を結合させ、膜を緻密化する(改質する)後処理とが行われる。
 
【0057】
  図2に示すように反応前領域r1は、基板載置領域21の公転の方向(回転テーブル2の回転方向)に沿って見たとき、第1の領域R1の下流側、且つ第2の領域R2の上流側の位置に設けられている。また反応前領域r1の平面形状は、基板載置領域21が通過する既述の公転面R
Aを、前記公転の方向と交差する方向に区画してなる概略三角形の領域として形成されている。
  一方、反応後領域r2は、前記公転の方向に沿って見て、第2の領域R2の下流側、且つ第1の領域R1の上流側の位置に設けられている。また反応後領域r2の平面形状についても、基板載置領域21が通過する既述の公転面R
Aを、前記公転の方向と交差する方向に区画してなる概略三角形の領域として形成されている。
 
【0058】
  反応前領域r1、反応後領域r2に設けられた各機器については、ウエハWに供給されるガスの成分が異なる場合があることを除いて共通の構成を備えるので、共通の拡大縦断側面図である
図9を参照しながら、先に反応前領域r1側の構成について説明を行う。  
  
図9に示すように、反応前領域r1には、当該領域に前処理ガスを供給するための周縁側処理ガス吐出孔703、中央側処理ガス吐出孔704が設けられている。
 
【0059】
  周縁側処理ガス吐出孔703は、後述するプラズマ形成部6(6B)のアンテナ部60に設けられた誘電体窓61の下方領域へ向けて各種の処理ガスを供給できるように、誘電体窓61を支持している天板12に設けられた開口部の内周面に設けられている。周縁側処理ガス吐出孔703は、平面形状が概略三角形となっている反応前領域r1における、回転テーブル2の周縁側の1辺に沿って、互いに間隔を開けて複数箇所に配置されている。  
  各周縁側処理ガス吐出孔703は、反応前領域r1の前記周縁部側の1辺に沿って伸びるように設けられた周縁側処理ガス供給路184に連通している。周縁側処理ガス供給路184は、天板12外部に設けられた開閉バルブV61、流量調節部551を介して前処理ガス供給源55に接続されている。
 
【0060】
  一方で、中央側処理ガス吐出孔704は、周縁側処理ガス吐出孔703が設けられている前記周縁部側の1辺と対向する概略三角形の頂点側の領域に沿って、互いに間隔を開けて複数箇所(例えば2箇所)に設置されている。  
  各中央側処理ガス吐出孔704は、反応前領域r1の前記頂点側の領域に設けられた共通の中央側処理ガス供給路185に連通している。中央側処理ガス供給路185は、天板12の外部に設けられた開閉バルブV71、流量調節部552を介して既述の前処理ガス供給源55に接続されている。
 
【0061】
  前処理ガス供給源55からは、ウエハWに吸着した原料ガスに含まれる不純物である塩素を除去するための水素を含む前処理ガスが供給される。前処理ガスには、アンモニアや窒素などの窒素源となるガスや、アルゴンなどのラジカル源となるガスを水素に対して添加してもよい。  
  反応前領域r1において、周縁側処理ガス吐出孔703、周縁側処理ガス供給路184、開閉弁V61、流量調節部551、中央側処理ガス吐出孔704、開閉弁V71、流量調節部552、前処理ガス供給源55は、本例の前処理ガス供給部を構成している。
 
【0062】
  上述の構成により、
図10に記載の反応前領域r1内に実線で模式的に示すように、反応前領域r1の前記周縁部側の1辺に設けられた周縁側処理ガス吐出孔703、及び当該周縁部側の1辺と対向する頂点側に設けられた中央側処理ガス吐出孔704から、ウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向へ向けて前処理ガスを吐出することができる。
 
【0063】
  さらに、ウエハ載置領域21の公転の方向に沿って見たとき、反応前領域r1の上流側に位置する回転テーブル2と真空容器11の内壁面との間の容器本体13の底面側には、真空容器11の外部へ前処理ガスを排出するための排気口190Bを備えた排気溝191が設けられている。反応前領域r1の上流側に排気口190Bが配置されていることにより、反応前領域r1に供給された前処理ガスが、第2の領域R2から遠ざかる方向へと流れる流れが形成される(
図10)。
 
【0064】
  さらに
図3、
図6などに示すように、反応前領域r1には、上述の前処理ガスをプラズマ化するための前処理ガス用のプラズマ形成部6(6B)が設けられている。プラズマ形成部6(6B)の構成については、
図6を用いて説明した、第2の領域R2側の反応ガス用のプラズマ形成部6(6A)と共通のものを用いることができるので、再度の説明を省略する。
 
【0065】
  次いで反応後領域r2側の構成について、反応前領域r1との異同を中心に説明する。
  反応前領域r1側と同様に、反応後領域r2においても周縁側処理ガス吐出孔703は、平面形状が概略三角形となっている反応後領域r2における、回転テーブル2の周縁側の1辺に沿って複数箇所に配置されている。これらの周縁側処理ガス吐出孔703は、周縁側処理ガス供給路184、開閉バルブV62、流量調節部561を介して後処理ガス供給源56に接続されている。また、中央側処理ガス吐出孔704は、前記周縁部側の1辺と対向する概略三角形の頂点側の領域に沿って複数箇所に配置されている点において反応前領域r1側と同様である。これら中央側処理ガス吐出孔704は、中央側処理ガス供給路185、開閉バルブV72、流量調節部562を介して後処理ガス供給源56に接続されている。
 
【0066】
  後処理ガス供給源56からは、ウエハWに成膜された薄膜中の未結合手を結合させ、膜を緻密化する(改質する)ための水素ガスを含む後処理ガスが供給される。  
  反応後領域r2において、周縁側処理ガス吐出孔703、周縁側処理ガス供給路184、開閉弁V62、流量調節部561、中央側処理ガス吐出孔704、開閉弁V72、流量調節部562、後処理ガス供給源56は、本例の後処理ガス供給部を構成している。
 
【0067】
  上述の構成により、
図10に記載の反応後領域r2内に実線で模式的に示すように、反応前領域r1の前記周縁部側の1辺に設けられた周縁側処理ガス吐出孔703、及び当該周縁部側の1辺と対向する頂点側に設けられた中央側処理ガス吐出孔704から、ウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向へ向けて後処理ガスを吐出することができる。
 
【0068】
  反応後領域r2側においては、後処理ガス用の排気口190Cは、反応後領域r2の下流側に設けられている。反応後領域r2の下流側に排気口190Cが配置されていることにより、反応後領域r2に供給された後処理ガスが、第2の領域R2から遠ざかる方向へと流れる流れが形成される(
図10)。
 
【0069】
  これらに加え、反応後領域r2においても、後処理ガスをプラズマ化するための後処理ガス用のプラズマ形成部6(6C)が設けられている。プラズマ形成部6(6C)の構成についても、
図6を用いて説明した、第2の領域R2側の反応ガス用のプラズマ形成部6(6A)と共通のものを用いることができるので、再度の説明を省略する。
 
【0070】
  図1に示すように、成膜装置には制御部8が設けられている。制御部8は不図示のCPU(Central Processing Unit)と記憶部とを備えたコンピュータからなり、この記憶部には上述した回転テーブル2や第1〜第4のガス供給部、前処理ガス供給部、後処理ガス供給部やプラズマ形成部6(6A〜6C)の各動作を実行させる制御信号を出力するためのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリカードなどの記憶媒体に格納され、そこから記憶部にインストールされる。
 
【0071】
  以下、上述の構成を備えた本例の成膜装置の作用について説明する。  
  初めに、搬入出部101のゲートバルブを開き、外部の搬送機構によって真空容器11内にウエハWを搬入した後、不図示の昇降ピンを用いて回転テーブル2のウエハ載置領域21に受け渡す。ウエハWの受け渡しは、回転テーブル2を間欠的に回転させて行い、全てのウエハ載置領域21にウエハWを載置する。
 
【0072】
  続いて搬送機構を退出させ、搬入出部101のゲートバルブを閉じる。このとき真空容器11内は各排気手段51、55によって予め所定の圧力に真空排気されている。また分離ガス供給口311からも分離ガスの供給が行われている。
  しかる後、時計回りに回転テーブル2を回転させ、予め設定された回転速度を維持しながら、ヒーター46によりウエハWを加熱する。図示しない温度センサによりウエハWの温度が所定の設定温度になったことを確認したら、吐出部330から原料ガスの供給、ガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)、周縁側吐出孔702から反応ガスの供給、反応前領域r1、反応後領域r2に設けられた周縁側処理ガス吐出孔703、中央側処理ガス吐出孔704からの前処理ガス、及び後処理ガスの供給を各々、開始する。また、これら反応ガスなどの供給開始と共に、反応ガス用、前処理ガス用、及び後処理ガス用のプラズマ形成部6(6A〜6C)のアンテナ部60からのマイクロ波の供給を行う。
 
【0073】
  この結果、
図10に示すように真空容器11内において、原料ガスユニット3の吐出部330から供給された原料ガスは、吐出部330の周囲を囲む排気口32までの限定された領域である第1の領域R1内を流れる。また、ガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)、周縁側吐出孔702から供給された後、マイクロ波によりプラズマ化され、排気溝191の排気口190Aへと排出される反応ガスについても、所定の第2の領域R2において、プラズマ化した反応ガスが高濃度となる流れを形成する。なお、
図10では、回転テーブル2上のウエハ載置領域21、及びウエハWの記載を省略してある。
 
【0074】
  第1の領域R1に原料ガスが供給され、また第2の領域R2にプラズマ化した
反応ガスが供給されると、各ウエハ載置領域21に載置されたウエハWはこれら第1の領域R1と、第2の領域R2とを交互に繰り返し通過する。この結果、ウエハWの表面に原料ガス中のジクロロシランが吸着し、次いでプラズマ化した反応ガス中のアンモニアとの反応により窒化ケイ素の分子層が形成され、こうして窒化ケイ素の分子層が順次積層されて窒化ケイ素の薄膜が成膜される。
 
【0075】
  上述の作用において、第2の領域R2に反応ガスを供給することにより、第1の領域R1以外の真空容器11内全体に反応ガスを供給する場合に比べて、プラズマ化した反応ガスを高濃度でウエハWに供給することが可能となる。この結果、後述の実施例に示すように、ウエハWに形成される膜厚の面内均一性を向上させることができる。
 
【0076】
  ここで回転テーブル2の回転方向に対し、上流側に配置された第1のインジェクター71、及び下流側に配置された第2のインジェクター72から供給する反応ガスの流量は、等量であってもよいし、異なっていてもよい。  
  例えば、成膜後のウエハWの膜厚分布を測定したとき、回転テーブル2の回転方向に見て、先に第2の領域R2に進入するウエハWの端部(上流端部)側の膜厚が相対的に薄く、後から第2の領域R2に進入するウエハWの端部(下流端部)側の膜厚が相対的に厚くなる結果が得られたとする。この場合には、例えば上流側に配置された第1のインジェクター71から供給する反応ガスの流量が、下流側に配置された第2のインジェクター72から供給する反応ガスの流量よりも大きくなるように流量調節を行うことより、上述の膜厚分布を平坦化することが可能であることが分かっている。
 
【0077】
  さらに本例の成膜装置は、排気口321による排気や分離ガスによって2重に分離された第1の領域R1の外側の真空容器11内の空間が、反応ガスの流れによって第2の領域R2とそれ以外の領域とに区画されている。  
  この結果、第1の領域R1の下流側、且つ、第2の領域R2の上流側に反応前領域r1を設けることが可能となり、当該反応前領域r1へ向けてプラズマ化した前処理ガスを供給すると、第1の領域R1にてウエハWに吸着した原料ガスに含まれる不純物である塩素が除去されウエハWに成膜される薄膜の膜質を向上させることができる。
 
【0078】
  また、第2の領域R2の下流側、且つ、第1の領域R1の上流側にも反応後領域r2を設けることが可能となり、当該反応後領域r2へ向けてプラズマ化した後処理ガスを供給すると、ウエハWに成膜された薄膜中の未結合手を結合させ、膜を緻密化することができる。
 
【0079】
  ここで、回転テーブル2の1回転に対応して、各ウエハ載置領域21に載置されたウエハWが、第1の領域R1にて原料ガスを吸着し、第2の領域R2にて当該原料ガスをプラズマ化させた反応ガスと反応により窒化ケイ素の分子層の形成が行われた後、さらに第1の領域R1にてウエハWに原料ガスを吸着させる処理を行う直前までの工程を、1サイクルとする。  
  このとき。第1の領域R1と第2の領域R2との間に反応前領域r1、反応後領域r2が配置されていることにより、上述の1サイクル内で既述の前処理、処理を行うことができる。この結果、窒化ケイ素を堆積させ薄膜を形成させる過程で、各分子層に対して確実に既述の前処理や後処理を実施することができる。
 
【0080】
  これらに加え、
図10に示すように、反応前領域r1にて供給された前処理ガス、及び反応後領域r2にて供給された後処理ガスが、第2の領域R2から遠ざかる方向へと流れるように各排気口190B、190Cが配置されているので、共通の真空容器11内に第2の領域R2に供給される反応ガスと、前処理ガス、後処理ガスとの分離を確実にすることもできる。
 
【0081】
  上述の動作に基づき、予め設定した時間だけ成膜を実行し、所望の膜厚を有する窒化ケイ素の薄膜が形成されたら、原料ガス及び反応ガスの供給、ヒーター46によるウエハWの加熱を停止する。そして、ウエハWの温度が予め設定した温度まで低下したら、搬入時とは逆の動作により、搬入出部101から順次、ウエハWを搬出して成膜動作を終える。
 
【0082】
  本実施の形態の成膜装置によれば以下の効果がある。原料ガスの供給が行われる第1の領域R1から区画された真空容器11内に、プラズマ化した反応ガスの供給が行われる第2の領域R2を挟んで2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)を配置することにより、回転テーブル2上に設けられた基板載置領域21が通過する前記真空容器11内の空間をさらに区画している。そして、これら第1の領域R1と第2の領域R2との間に、原料ガスの供給やプラズマ化した反応ガスの供給とは異なる他の処理である、ウエハWに吸着した原料ガスに含まれる不純物を除去するための前処理を行う反応前領域r1や、ウエハWに成膜された薄膜中の未結合手を結合させ、膜を緻密化する後処理を行う反応後領域r2を設けている。この結果、ウエハWへの原料ガスの吸着と反応ガスとの反応とを交互に繰り返す成膜サイクルの中で、成膜を行ううえで膜質の向上などに必要な他の処理を実行することが可能となる。
 
【0083】
  ここで、第1の領域R1における原料ガスの供給、第2の領域R2におけるプラズマ化した反応ガスの供給とは異なる処理の内容は、既述の原料ガスに含まれる不純物を除去するための前処理や、薄膜中の未結合手を結合させて膜を緻密化する後処理の例に限定されない。  
  例えば、SiO
2膜の成膜時にH
2ガスを供給して改質する処理を行ってもよい。また、他の処理が行われる領域に、処理ガスをプラズマ化するプラズマ形成部を設けることは必須の要件ではない。例えば、真空容器11の外部でプラズマ化させた処理ガスを他の処理領域へ導入するリモートプラズマ方式により処理を行ってもよいし、ヒーター46を用いた加熱により薄膜を処理ガスと反応させて処理を行ってもよい。
 
【0084】
  また、ガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)については
図2などに示すように回転テーブル2の回転中心に向けて半径方向に沿って配置することも必須ではない。例えば2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)をウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向に配置しつつ、上面側から見て第1のインジェクター71と第2のインジェクター72とが平行になるように配置してもよい。この場合における、2本のガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)の成す角度を定義しておくと、回転テーブル2の回転中心を基準として、当該回転中心からの半径方向の距離が等しい位置(同心円上)における第1、第2のインジェクター71、72を見たとき、上面側から見たこれらのガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)の成す角度が、既述のように0度より大きく、180度未満の範囲であればよい。この考え方は、第1、第2のインジェクター71、72が直棒状ではなく、湾曲している場合にも適用することができる。  
  また、第1の領域R1の形状が扇形ではない場合についても、ウエハ載置領域21の公転の方向と交差する方向に伸びる2辺の成す角度は、ガスインジェクター7の場合と同様に定義することができる。
 
【0085】
  さらには、第2の領域R2を形成するために用いるガスインジェクター7の本数も上流側の第1のインジェクター71について1本のみ、下流側の第2のインジェクター72について1本のみ設ける例に限定されることもない。例えば、第1、第2のインジェクター71、72を上下方向に並べて2本以上ずつ配置してもよい。このような場合においても、第2の領域R2を挟んで配置された複数の第1、第2のインジェクター71、72の組み合わせについて、各組の2本の第1、第2のインジェクター71、72の成す角度が180度未満となっていればよい。
 
【0086】
  この他、第1の領域R1内に原料ガスを供給する吐出部330の構成は、
図5に示した多数の吐出孔331を備える多孔板の例に限定されない。例えば、排気口321の内側に、周縁部側から中央部側向けて次第に高くなるように、反転させたすり鉢状の凹部を形成し、凹部の上端位置に設けた1つのガスノズルから原料ガスを吐出する構成としてもよい。
 
【0087】
  そして反応ガスをプラズマ化する手法についても、RLSA以外の手法を採用することもできる。例えば天板12の上面側にコイル状のアンテナを配置し、誘導結合によりプラズマを発生させてもよい。
 
【0088】
  これらに加え、本実施の形態の成膜装置により成膜される薄膜の種類も窒化ケイ素の例に限定されない。例えば原料ガスとしてBTBAS(ビスターシャルブチルアミノシラン)ガス、プラズマ化される反応ガスとして酸素(O
2)ガスを供給し、酸化ケイ素(SiO
2)の薄膜を成膜してもよい。この場合には、ガスインジェクター7の材料として石英を用いることもできる。
 
【実施例】
【0089】
(実験)
  実施の形態に係る成膜装置を用いた場合と、ガスインジェクター7を用いない従来法にて反応ガスを供給する成膜装置を用いた場合とで、ウエハWに成膜される窒化ケイ素膜の膜厚分布、及び窒化ケイ素膜の緻密さを測定した。  
A.実験条件  
(実施例)
図1〜
図10を用いて説明した成膜装置を用いてシリコン窒化膜の成膜を行った。第1の領域R1に供給される原料ガス(ジクロロシラン濃度100vol%)の供給流量は1000ccm、反応ガス(アンモニア濃度100vol%、アルゴン濃度100vol%〕)の供給流量はアンモニア800ccm、アルゴン5000ccmであり、ウエハWの加熱温度は475℃に設定した。また、反応前領域r1に対しては、前処理ガスとして水素を4000ccmの供給流量で供給し、反応後領域r2に対しては、後処理ガスとして水素を4000ccmの供給流量で供給した。回転テーブル2の回転速度は20rpmに設定し、回転テーブル2が積算で87回転する期間、成膜処理を行った。成膜された窒化ケイ素膜の膜厚分布を膜厚計により計測した。また、窒化ケイ素膜の緻密さの指標として、0.5重量%濃度のフッ酸によるウェットエッチング速度(WER:Wet Etching Rate、[Å/分])を測定した。
(比較例1)
図10を用いて説明した構成の成膜装置において、ガスインジェクター7(第1、第2のインジェクター71、72)を設けずに、プラズマ形成部6(6A〜6C)が設けられた領域に、
図9を用いて説明した周縁側処理ガス吐出孔703、中央側処理ガス吐出孔704から反応ガス(アンモニア濃度100vol%、水素濃度100vol%)を供給した。原料ガス(ジクロロシラン濃度100vol%)の供給流量は1000ccmであり、ウエハWの加熱温度は475℃に設定した。回転テーブル2の回転速度は20rpmに設定し、回転テーブル2が積算で87回転する期間中、成膜処理を行った。成膜された窒化ケイ素膜について、実施例1と同様の手法にて膜厚分布、及びWERを計測した。  
(比較例2)窒化ケイ素膜の成膜を行った後、さらにプラズマ形成部6(6A〜6C)が設けられた領域に後処理ガスとして水素を4000ccmの供給流量で供給した点を除いて、比較例1と同様の条件で成膜処理を行った。成膜された窒化ケイ素膜について、実施例1と同様の手法にて膜厚分布、及びWERを計測した。
【0090】
B.実験結果  
  実施例に係る膜厚分布測定結果を
図11に示し、比較例1、2に係る同様の結果を
図12、
図13に示す。実施例、及び比較例1、2の結果によれば、実施例の方がウエハWの面内でより均一な膜厚の窒化ケイ素膜が得られた一方、比較例1、2では回転テーブル2の中心側に載置された位置から、ウエハWの中央側へ向けて膜厚が厚くなる傾向が顕著であった。平均の膜厚(Å)に対する±3σ(Å)の値の割合で比較すると、実施例は1.6%であり、比較例1は19.5%、比較例2は32.0%であった。従って、実施の形態に係る成膜装置はウエハWに成膜される薄膜の面内均一性を顕著に向上させる効果があることを確認できた。
【0091】
  また、成膜された窒化ケイ素膜の緻密さに着目すると、実施例のWERは11.4[Å/min]であった。これに対して、成膜処理を終えた後、別途、水素による後処理を行った比較例2では、WERは9.0[Å/min]となった。発明者らはWERが10±1[Å/min]程度となる緻密さを有する窒化ケイ素膜を成膜することが可能な成膜装置の開発を目標としている。従って、実施例は成膜処理後に別途、後処理を行う場合(比較例2)と同程度の膜質を有する窒化ケイ素膜を成膜できていると言える。一方で、実施例1においては、成膜処理後の後処理の時間が削減されているので、成膜装置の処理効率が大幅に向上していると評価できる。なお、水素による後処理を行わない比較例1のWERは16.9[Å/min]であり、実施例と比べて緻密さに関する膜質が劣っていると評価される。