(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本実施形態に係る基板処理システムの概略構成を示す図である。以下では、位置関係を明確にするために、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を規定し、Z軸正方向を鉛直上向き方向とする。
【0013】
図1に示すように、基板処理システム1は、搬入出ステーション2と、処理ステーション3とを備える。搬入出ステーション2と処理ステーション3とは隣接して設けられる。
【0014】
搬入出ステーション2は、キャリア載置部11と、搬送部12とを備える。キャリア載置部11には、複数枚の基板、本実施形態では半導体ウエハ(以下ウエハW)を水平状態で収容する複数のキャリアCが載置される。
【0015】
搬送部12は、キャリア載置部11に隣接して設けられ、内部に基板搬送装置13と、受渡部14とを備える。基板搬送装置13は、ウエハWを保持するウエハ保持機構を備える。また、基板搬送装置13は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、ウエハ保持機構を用いてキャリアCと受渡部14との間でウエハWの搬送を行う。
【0016】
処理ステーション3は、搬送部12に隣接して設けられる。処理ステーション3は、搬送部15と、複数の処理ユニット16とを備える。複数の処理ユニット16は、搬送部15の両側に並べて設けられる。
【0017】
搬送部15は、内部に基板搬送装置17を備える。基板搬送装置17は、ウエハWを保持するウエハ保持機構を備える。また、基板搬送装置17は、水平方向および鉛直方向への移動ならびに鉛直軸を中心とする旋回が可能であり、ウエハ保持機構を用いて受渡部14と処理ユニット16との間でウエハWの搬送を行う。
【0018】
処理ユニット16は、基板搬送装置17によって搬送されるウエハWに対して所定の基板処理を行う。
【0019】
また、基板処理システム1は、制御装置4を備える。制御装置4は、たとえばコンピュータであり、制御部18と記憶部19とを備える。記憶部19には、基板処理システム1において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。制御部18は、記憶部19に記憶されたプログラムを読み出して実行することによって基板処理システム1の動作を制御する。
【0020】
なお、かかるプログラムは、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、その記憶媒体から制御装置4の記憶部19にインストールされたものであってもよい。コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体としては、たとえばハードディスク(HD)、フレキシブルディスク(FD)、コンパクトディスク(CD)、マグネットオプティカルディスク(MO)、メモリカードなどがある。
【0021】
上記のように構成された基板処理システム1では、まず、搬入出ステーション2の基板搬送装置13が、キャリア載置部11に載置されたキャリアCからウエハWを取り出し、取り出したウエハWを受渡部14に載置する。受渡部14に載置されたウエハWは、処理ステーション3の基板搬送装置17によって受渡部14から取り出されて、処理ユニット16へ搬入される。
【0022】
処理ユニット16へ搬入されたウエハWは、処理ユニット16によって処理された後、基板搬送装置17によって処理ユニット16から搬出されて、受渡部14に載置される。そして、受渡部14に載置された処理済のウエハWは、基板搬送装置13によってキャリア載置部11のキャリアCへ戻される。
【0023】
図2に示すように、処理ユニット16は、チャンバ20と、基板保持機構30と、処理流体供給部40と、回収カップ50とを備える。
【0024】
チャンバ20は、基板保持機構30と処理流体供給部40と回収カップ50とを収容する。チャンバ20の天井部には、FFU(Fan Filter Unit)21が設けられる。FFU21は、チャンバ20内にダウンフローを形成する。
【0025】
基板保持機構30は、保持部31と、支柱部32と、駆動部33とを備える。保持部31は、ウエハWを水平に保持する。支柱部32は、鉛直方向に延在する部材であり、基端部が駆動部33によって回転可能に支持され、先端部において保持部31を水平に支持する。駆動部33は、支柱部32を鉛直軸まわりに回転させる。かかる基板保持機構30は、駆動部33を用いて支柱部32を回転させることによって支柱部32に支持された保持部31を回転させ、これにより、保持部31に保持されたウエハWを回転させる。
【0026】
処理流体供給部40は、ウエハWに対して処理流体を供給する。処理流体供給部40は、処理流体供給源70に接続される。
【0027】
回収カップ50は、保持部31を取り囲むように配置され、保持部31の回転によってウエハWから飛散する処理液を捕集する。回収カップ50の底部には、排液口51が形成されており、回収カップ50によって捕集された処理液は、かかる排液口51から処理ユニット16の外部へ排出される。また、回収カップ50の底部には、FFU21から供給される気体を処理ユニット16の外部へ排出する排気口52が形成される。
【0028】
上述の基板処理システム1に設けられている処理ユニット16は、本発明の実施の形態に係る基板処理装置に相当する。処理ユニット16は、処理流体(処理液)である薬液やリンス液による処理が行われた後の回転するウエハWに対し、乾燥液を供給すると共に、当該乾燥液の着液点をウエハWの中心部側から周縁部側へと移動させてウエハWを乾燥させるための構成を備えている。乾燥液とは、リンス液よりも揮発性が高く、リンス液と混合可能な液体のことであり、本実施形態では、リンス液にDIW(Deionized Water)、乾燥液としてIPAを用いる。
以下、
図3を参照しながら、当該構成について説明する。
【0029】
本例の処理ユニット16において既述の処理流体供給部40は、基板保持機構30に保持されたウエハWに対して、薬液の供給を行う薬液ノズル413と、リンス液であるDIWの供給を行うDIWノズル412と、IPAの供給を行うIPAノズル411とを備えている。
【0030】
本例において上述の各ノズル411〜413は共通の第1ノズルアーム41の先端部に設けられている。第1ノズルアーム41の基端部側は、保持部(基板保持部)31に保持されたウエハWの中央部の上方側の位置と、当該ウエハWの上方位置から側方へと退避した位置との間でこれらのノズル411〜413を移動させるためのガイドレール42に接続されている。ガイドレール42には、第1ノズルアーム41を移動させるための駆動部421が設けられている。第1ノズルアーム41、ガイドレール42、駆動部421は、保持部3に保持されたウエハWに対してIPAノズル411を相対的に移動させる移動機構に相当する。また、
図3中、側方へと退避した第1ノズルアーム41を実線で示し、ウエハWの中央部の上方側へ進入した第1ノズルアーム41を破線で示してある。
【0031】
薬液ノズル413は、開閉バルブV3を介して薬液供給源73に接続されている。薬液供給源73からは、ウエハWの処理の目的に応じて供給される1種または複数種の薬液が供給される。本実施形態においては、1種類の薬液で記載している。薬液ノズル413からは、薬液が開閉バルブV3を介して供給される。
【0032】
DIWノズル412は、開閉バルブV2を介してDIW供給源72に接続されている。DIWノズル412からは、DIWが開閉バルブV2を介して供給される。
上述の薬液やDIWは、ウエハWの処理を行う処理液に相当する。
【0033】
IPAノズル411は、本例の乾燥液供給ノズルに相当し、開閉バルブV1を介してIPA供給源71に接続されている。IPA供給源71からは、ウエハWに対して最後に供給される処理液であるDIWよりも揮発性が高く、DIWと混合可能な乾燥液であるIPAが供給される。IPA供給源71は、液体IPAを貯溜するタンクと、タンクからIPAノズル411へ向けてIPAの送液を行うためのポンプなどの送液機構と、流量調節弁などを含みIPAノズル411へ供給されるIPAの供給流量を制御する流量制御機構とを備えている(いずれも不図示)。
【0034】
さらに
図3に示すように処理ユニット16は、乾燥液が供給された後のウエハWの表面に、乾燥用ガスとして不活性ガスである窒素(N
2)ガスを供給するためのN
2ノズル431を備えている。
本例のN
2ノズル431は、IPAノズル411などが設けられた既述の第1ノズルアーム41とは異なる第2ノズルアーム43の先端部に設けられている。第2ノズルアーム43の基端部側は、保持部31に保持されたウエハWの中央部の上方側の位置と、当該ウエハWの上方位置から側方へと退避した位置との間でN
2ノズル431を移動させるためのガイドレール44に接続されている。ガイドレール44には、第2ノズルアーム43を移動させるための駆動部441が設けられている。
図3中、側方へと退避した第2ノズルアーム43を実線で示し、ウエハWの中央部の上方側へ進入した第2ノズルアーム43を破線(既述の第1ノズルアーム41と共通の破線)で示してある。
N
2ノズル431は、開閉バルブV4を介してN
2供給源74に接続されている。
【0035】
図3を用いて説明した各ノズル411〜413、431のウエハWの上方側の位置や当該上方側の位置から退避した位置への移動、各供給源71〜74からの流体の供給/停止や流量の制御は、既述の制御部18によって実行される。
【0036】
以上に説明した構成を備える処理ユニット16を用いて実施される液処理の内容について
図4〜
図6を参照しながら説明する。
基板搬送機構17により処理ユニット16内に搬入されたウエハWが、保持部31に設けられた保持ピン311によって保持されると、側方へ退避していた第1ノズルアーム41をウエハWの上方側へ進入させ、薬液ノズル413、DIWノズル412をウエハWの中心部P
Oの上方位置に配置する。しかる後、回転機構である駆動部33、支柱部32を介してウエハWを所定の回転速度で回転させて薬液ノズル413より薬液を供給し、薬液処理を行う。
【0037】
所定の薬液による処理を終えたら、ウエハWを回転させたまま、薬液ノズル413からの薬液の供給を停止すると共に、DIWノズル412からDIWを供給し、リンス洗浄処理を実行する。所定時間、リンス洗浄処理を実行したら、ウエハWを回転させたままDIWノズル412からのDIWの供給を停止すると共に、IPAノズル411からIPAを供給してDIWとの置換を行う。
【0038】
このとき、ウエハWの中心部P
OにIPAを供給可能な位置にIPAノズル411を配置し、前記中心部P
Oに向かってIPAを供給する。供給されたIPAは、遠心力の作用によりウエハWの表面を広がり、ウエハWの表面全体にIPAの液膜が形成される。このようにIPAの液膜を形成することにより、リンス洗浄処理の際にウエハWの表面に供給されたDIWをIPAに置換することができる。
【0039】
ウエハWの表面にIPAの液膜が形成されたら、中心部P
OにIPAが供給される位置よりも側方(例えばウエハWの中心部P
Oから半径方向に40mm移動した位置)までIPAノズル411を移動させる。この結果、IPAノズル411から供給されたIPAが到達しないウエハWの中心部P
Oの周縁領域からは、遠心力の作用によりIPAが流出し、液膜の存在しない領域(以下、「コア」ともいう)が形成される。
【0040】
上述のIPAノズル411の移動動作に合わせて、側方へと退避していた第2ノズルアーム43をウエハWの上方側へ進入させ、ウエハWの中心部P
Oの上方位置にN
2ノズル431を配置する。そして、前述のコアが形成されたら、当該コアに向けてN
2ガスを供給し、ウエハWの表面の乾燥を促進させる。
なお
図4の配置状態におけるIPAノズル411からのIPAの吐出位置と、N
2ノズル431からのN
2ガスの吐出位置との位置関係を分かり易くするため、
図5にはIPAノズル411と同じ方向にN
2ノズル431を移動させたと仮定したときのN
2ノズル431の配置位置、及びN
2ガスの吐出位置を破線で示してある。
【0041】
そして
図4に示すように、ウエハWの回転、IPAノズル411からのIPAの供給、N
2ノズル431からのN
2ガスの供給を継続しつつ、これらのノズル411、431をウエハWの中心部側から周縁部側へと移動させる(本例では2本のノズル411、431は反対方向に移動)。この結果、IPAの供給位置(
図4中に一点鎖線で示してある)と、N
2ガスの供給位置(同図中に破線で示してある)とがウエハWの中央部側から周縁部側へ向けて、ウエハWの全面をスキャンするように移動する。また、
図4中の一点鎖線と破線との位置関係から分かるように、上述のスキャン動作において、N
2ノズル431からのN
2ガスの供給位置は、IPAノズル411からのIPAの供給位置よりもウエハWの径方向、中央部側に位置するように、各ノズルアーム41、43の移動動作が制御されている。
【0042】
IPAの供給位置のスキャン動作に伴って、IPAの液膜がウエハWの周縁部側へ押し流され、液膜の形成されていない領域が広がる。またN
2ガスの供給位置のスキャン動作に伴って、IPAの液膜が押し流された後のウエハWの表面にN
2ガスが吹き付けられ、当該領域の乾燥が完了する。
【0043】
IPAの供給位置がウエハWの周縁に到達したら、IPAノズル411からのIPAの供給を停止する。続いてN
2ガスの供給位置がウエハWの周縁に到達したら、N
2ノズル431からのN
2ガスの供給を停止する。
【0044】
上述の動作により、ウエハWの全面からDIWがIPAによって置換、除去され、乾燥したウエハWを得ることができる。
ウエハWの乾燥終了後、ウエハWの回転を停止させ、処理ユニット16内に基板搬送装置17を進入させて、保持部31から基板搬送装置17へウエハWを受け渡し、処理が完了したウエハWを処理ユニット16から取り出す。こうして、処理ユニット16におけるウエハWに対する一連の処理が終了する。
【0045】
以上、薬液やDIWなどの処理液を供給して処理を行った後のウエハWに対し、さらにIPA(乾燥液)を供給して処理液と置換し、IPAの供給位置をウエハWの中央部側から周縁部側へと移動させることにより、ウエハWを乾燥する手法について説明した。
【0046】
ここで本願の発明者は、当該手法によりウエハWの乾燥を行うと、ウエハWの表面の一部に、円環状の欠陥(パターン倒壊やパーティクル付着、洗浄残渣)が発生する場合があることを確認した。そこで、このような事象が発生する要因について検討したところ、IPAノズル411から供給されたIPAがウエハWに到達する位置である着液点におけるIPAの挙動が、欠陥の発生に影響を及ぼしていることを見出した。
以下、
図5〜
図8を参照しながら、パターン倒壊などの欠陥が発生する仕組み、及びその対策である実施の形態に係るIPAの供給手法について、従来の手法と比較しながら説明する。
【0047】
図5は、IPAノズル411から吐出されたIPAがウエハWに到達する位置である着液点P
Aの近傍領域を観察した結果を側面側から模式的に示した図であり、
図6は同領域を上面側から示した模式図である。
前記領域の観察結果によると、IPAノズル411から吐出され、着液点P
Aに到達したIPAは、IPA液膜711の液膜内を等方に広がろうとする。一方で、当該IPAに対しては、回転するウエハWからの遠心力が作用するため、IPAは、
図6中に示す旋回流状のIPA流線710を形成しつつ、やがてIPA液膜711へと吸収されていく。このとき、ウエハWに供給されたIPAは、ウエハWの表面に形成されているパターン700内に入り込み、DIWと置換される。なお、
図5においては、着液点P
Aの近傍領域に形成されているパターン700を模式的に示してある。
【0048】
そして、IPAノズル411のスキャン動作を実行すると、IPAノズル411の移動に伴って着液点P
Aの位置、及びIPA流線710の形成領域も移動する。このとき、IPA流線710の内側領域には、IPAノズル411の移動に追随し切れないIPAが薄い液膜(以下、中心部側IPA液膜711aという)が残存する現象が観察される(
図5、
図6)。
【0049】
IPAノズル411の移動に追随できなかった中心部側IPA液膜711aは、IPAの蒸発によってウエハWの表面から除去される。このとき、中心部側IPA液膜711aの面内でIPAが均一に除去されないと、IPAの表面張力がパターン700に対して不均一に作用し、パターン倒壊を引き起こす要因となる。また、IPAが均一に除去されない領域では、パーティクルの付着や洗浄残渣も発生しやすいことを把握している。
【0050】
さらにパターン倒壊をはじめとする上述の欠陥は、中心部側IPA液膜711aの幅(中心部側IPA液膜711aの形成領域)が広がる程、発生しやすくなる一方、中心部側IPA液膜711aの幅を狭い範囲に限定すると、欠陥の発生を抑えられることが分かった。
【0051】
発明者は、中心部側IPA液膜711aの幅に影響を与える因子について検討を行った結果、ウエハWに対してIPAが供給される着液点P
Aから、ウエハWの中心部側へ流入するIPA量の影響が大きいことが分かった。そして、ウエハWの中心部側へ流入するIPA量は、着液点P
Aの中心と、ウエハWの回転中心側におけるIPA流線710の端部713(IPA流線710−中心部側IPA液膜711a間の界面)との距離Lにて把握することが可能であることを見出した。
即ち、距離Lが長くなると、ウエハWの中心側へ流入するIPAの量が多くなり、IPAノズル411の移動に追随し切れないIPAが多くなって中心部側IPA液膜711aの幅が広がる。一方、距離Lを短くすると、ウエハWの中心側へ流入するIPAの量が少なくなり、中心部側IPA液膜711aの幅を狭くすることができる。
【0052】
さらに、欠陥の発生数が十分に少ない乾燥結果が得られる距離Lの状態から、次第に距離Lが長くなるように条件を変えてウエハWの乾燥を行ったとき、生産効率などの観点から欠陥の発生数が無視できなくなる臨界的な距離が存在する。そこで、この臨界距離よりも短い距離Mを上限として(以下、「上限距離M」という)、ウエハWの表面に形成されるIPA流線710における前記距離Lを制御すれば、欠陥の発生を所定数以下に低減できる。
【0053】
ここで、IPAノズル411からウエハWにIPAを供給する際、IPA流線710は明瞭に形成されるので、距離Lは明確に把握することができる。一方で、欠陥はウエハWの表面に形成されているパターン700の構造に依存する点も多く、上限距離Mを一概に特定することはできない。例えば、ある世代の半導体装置の生産時に欠陥を十分に抑制できていた上限距離Mが、当該世代よりもパターン700の線幅が細い後継世代の半導体装置の生産時には、多くの欠陥を引き起こす距離Lを含んでしまう場合もある。
【0054】
但し、IPA流線710における前記距離Lを短くする効果は、欠陥数の低減として明確に把握することができる。この点に着目すれば、パターン700の構造に依存せず、上限距離Mを定義することができる。
【0055】
そこで、予備実験などにより、パターン700を撮像して得られたパターン画像のうち、生産管理上、欠陥数が許容値以下であるウエハWの理想的なパターン画像(必ずしも欠陥数がゼロでなくてもよい)を基準値として設定しておく。次いで前記距離Lが予め設定した値となるように、例えばIPAの供給流量を制御してウエハWを乾燥させる処理を行った後、当該処理後のウエハWのパターン画像を取得し、前記理想のパターン画像と比較して、理想のパターン画像に対するパターン画像の変化箇所を1つの欠陥として検出し、欠陥数をカウントする。そして、前記距離Lが次第に小さくなるように制御条件を変えた複数の条件下で、IPAを用いたウエハWの乾燥と、乾燥後のウエハWにおける欠陥のカウントとを実行する。この結果、ウエハWの表面の1cm
2あたりの範囲内に発生する平均の欠陥の増加数が5個以下となる距離Lを、既述の上限距離Mとする。
【0056】
次に、IPA流線710における距離L(着液点P
Aの中心と、ウエハWの回転中心側におけるIPA流線710の端部713との距離L)を制御する手法について説明する。
IPAが着液点P
Aから等方的に広がる場合、距離Lは、着液点P
AよりもウエハWの中心部側へと流入するIPAの流量(以下、「IPA中心流入量」という)の影響を受ける。即ち、IPA中心流入量が多くなると距離Lは長くなり、IPA中心流入量が少なくなると距離Lは短くなる。また、ウエハWの中心部側と周縁部側とでは、着液点
PAが描く軌道円の周長が異なるので、当該軌道円への単位区間あたりのIPA中心流入量が変化する。即ち、IPAノズル411からのIPAの吐出量を一定としたとき、着液点
PAが描く軌道円の周長が短い中心部側では、単位区間あたりのIPA中心流入量は多くなる。一方、軌道円の周長が長い周縁部側では、単位区間あたりのIPA中心流入量は
少なくなる。
【0057】
上述の関係を踏まえ、着液点
PAが描く軌道円への単位区間あたりのIPA中心流入量を、着液点
PAのスキャン速度(移動速度)、IPAの供給流量との関係で表現しておく。
着液点P
Aが十分に小さく(例えばIPAノズル411の開口直径と同じ)、等方的に広がるIPAの半量がウエハWの中心部側へ流入すると考えたとき、上述のIPA中心流入量は下記(1)式で表現することができる。
【0058】
IPA中心流入量[ml/mm]
={(Q/2)*t}/C (但し、t=D/v) …(1)
ここで、DはIPAノズル411の開口直径[mm]、QはIPAの供給流量[ml/s]、vは着液点P
Aのスキャン速度[mm/s]、Cは着液点P
Aが描く軌道円の周長[mm]である。IPAの供給流量は、例えば1〜300ml/min(0.017〜5ml/s)の範囲が想定される。
【0059】
次に、IPA流線710における距離L以外の欠陥の発生要因についても検討する。
既述のように厚さが不安定な中心部側IPA液膜711aに対して、ウエハWの回転に起因する大きな遠心加速度(遠心力)が加わると、当該領域のIPAが不均一に乾燥したり、中心部側IPA液膜711aから千切れたIPAがウエハWの表面に取り残される事象がさらに発生しやすくなるおそれもある。
【0060】
図8は、円環状の欠陥が確認された比較形態に係る着液点P
Aのスキャン速度(
図8(a))、IPA中心流入量(
図8(b))、ウエハWの単位時間当たりの回転数(
図8(c))、着液点P
Aに供給されたIPAに働く遠心加速度(
図8(d)の値を、ウエハWの中心部P
Oから着液点P
Aまでの半径方向の距離に対応させて表示したグラフである。
この比較形態において、IPAノズル411の開口直径はD=2mm、IPAの供給流量はQ=0.54ml/sで一定である。
【0061】
図8(a)によれば、ウエハWの中心部P
OにてIPAノズル411からIPAを供給し、ウエハWの全面にIPA液膜711を形成した後、コアを形成するため中心部P
Oから40mmの位置まで40mm/sのスキャン速度で着液点P
Aを移動させ、しかる後、一旦、着液点P
Aのスキャンを停止している。そして、コアが形成された後のタイミングで中心部P
Oから40〜50mmの領域は約7mm/sのスキャン速度で着液点P
Aを移動させた後、徐々にスキャン速度を低下させ、60mmよりも周縁部側の領域は約5mm/sの一定のスキャン速度で着液点P
Aを移動させている。
【0062】
上述の着液点P
Aのスキャン速度の変化(
図8(a))を踏まえ、既述の(1)式に基づいてIPA中心流入量を計算すると、
図8(b)に示すようにIPA中心流入量の値は、中心部P
Oからの着液点P
Aの距離(ウエハWの半径方向の位置)に応じて大きく上下する。そして、IPA中心流入量が多くなる領域では、既述の距離Lが長くなり、欠陥を引き起こす要因となる中心部側IPA液膜711aが大きくなる。
【0063】
またウエハWの回転数に着目すると、
図8(c)に示すように、中心部P
Oから着液点P
Aまでの距離が40mmまでのコアの形成領域にて、ウエハWの回転数を1000rpmとし、着液点P
Aがさらに周縁部側へ移動した後は、ウエハWの回転数を600rpmに低下させている。
【0064】
上述の着液点P
Aの位置に応じたウエハWの回転数変化に伴って、着液点P
Aに供給されたIPAに働く遠心加速度も大きく変動する。そして、当該遠心加速度の変動の影響と、
図8(b)を用いて説明したIPA中心流入量の変化に起因するIPA流線710における距離Lの増大とが相俟って、円環状の欠陥が発生したものと考えられる。
【0065】
以上、
図8(a)〜(d)を参照しながら考察した比較形態に係るIPAの供給手法を踏まえ、本実施の形態に係る処理ユニット16においては、コアを形成した後のIPA流線710における前記距離Lを所定の上限距離M以下とするため、着液点P
Aのスキャン速度を制御することにより、IPA中心流入量が、着液点P
Aの移動方向に沿ってほぼ一定となるようにしている(
図7(b))。さらにコアを形成した後、着液点P
Aに供給されたIPAに働く遠心加速度が、着液点P
Aの移動方向に沿ってほぼ一定となるように、ウエハWの回転数の制御も行っている(
図7(d))。
【0066】
比較形態にて検討したように、IPA中心流入量の増大や、着液点P
AのIPAに働く遠心加速度の変動が発生すると、中心部側IPA液膜711aの不均一乾燥やウエハW表面のへのIPAの取り残しが引き起こされやすい。そこで、実施形態では、IPA中心流入量(IPA流線710における距離L)を一定値以下に保ち、また着液点P
AのIPAに働く遠心加速度を一定に保ちながらIPAの着液点P
Aを移動させてウエハWの乾燥を行うことにより、欠陥の抑制を図っている。
【0067】
ここで既述の比較形態において、ウエハWの周縁部では、既述の円環状の欠陥は殆ど確認されなかった。従って、当該領域にて形成されるIPA流線710における距離Lは、上限距離M以下の値となっていると言える。そこで、実施形態に係る処理ユニット16では、IPA中心流入量やIPAに働く遠心加速度の値が、前記比較形態の周縁部におけるIPA中心流入量や遠心加速度と一致するように、着液点P
Aのスキャン速度やウエハWの回転数を制御する手法を採用した。
【0068】
例えば
図8(b)によると、ウエハWの周縁部におけるIPA中心流入量は、約9.0×10
−4ml/mmである。そこで、コアの形成領域以外のIPAの中心流入量が上記の値となるように、既述の(1)式に基づき、各位置における着液点P
Aのスキャン速度を決定する(
図7(a))。また、IPA中心流入量の急激な変動が発生しないように、コアの形成領域の外端部(本例では、中心部P
Oから半径方向に40mm移動した位置)における着液点P
Aのスキャン停止は行わなかった。そして、コアの形成領域の外端部を通過した時点で(1)式に基づいて計算したスキャン速度が開始されるように、コアの形成領域内で着液点P
Aのスキャン速度を次第に低下させた。
【0069】
また、
図8(d)によると、ウエハWの周縁部(但し、パターン700の形成領域内)において着液点P
AのIPAに働く遠心加速度は約550m/s
2である。そこで、コアの形成領域以外の遠心加速度が上記の値となるように、遠心加速度の計算式G=rω
2(ここでGは遠心加速度[m/s
2]、rは中心部P
Oからの着液点P
Aまでの距離[m]、ωはウエハWの角速度[rad/s])に基づき、ウエハWの回転数を決定した(
図7(c))。なお、コアの形成領域においては、当該領域内のIPAを確実に排出するため、例えば駆動部33の使用範囲の上限である1000rpmにてウエハWを回転させた。
【0070】
上述の考え方に基づき、着液点P
Aのスキャン速度やウエハWの回転数の設定(操作変数の設定)を行うことにより、着液点P
Aの移動方向に沿って、IPA中心流入量を一定値以下(IPA流線710における距離Lを上限距離M以下)とし、IPAに働く遠心加速度の値を一定に保つことができる。
ここで、本実施の形態においてIPAに働く遠心加速度を「一定に保つ」とは、この値が厳密に一定に保たれるように操作変数を制御する場合に加え、例えば制御の安定性や応答速度などに応じて、遠心加速度の変動範囲が例えば目標値の±5%程度の範囲内に収まるように制御を実行する場合も含んでいる。
【0071】
ここで、上述のように着液点P
Aを移動方向に沿ってIPA中心流入量の上限値やIPAに働く遠心加速度の目標値を、比較形態におけるウエハWの周縁部の値に一致させることは必須の要件ではない。既述のように、IPA流線710における距離Lが上限距離M以下となるようにIPA中心流入量を調節し、またIPAに働く遠心加速度を「着液点P
Aを移動方向に沿って一定に保つ」ことにより、中心部側IPA液膜711aの成長や縮小に伴う不均一乾燥、IPAの取り残しの発生を抑え、欠陥の発生を抑制する効果がある。
但し、より好適な欠陥の抑制効果が得られる範囲として、IPA中心流入量の目標値を0.001ml/mm以下の値に設定し、また着液点P
AのIPAに働く遠心加速度の目標値を60〜13000m/s
2(ウエハWの回転数で200〜3000rpm相当)の範囲内の値に設定する場合を例示することができる。
【0072】
図7(a)〜(d)を用いて説明した実施形態に係るIPAの供給手法によってウエハWの乾燥を行ったところ、比較形態にて観察された円環状の欠陥の発生は観察されず、良好な欠陥の抑制効果が得られた。
【0073】
以上に説明した本実施の形態に係る処理ユニット16によれば以下の効果がある。薬液やDIWなどの処理液による処理が行われたウエハWについて、回転するウエハWの表面に乾燥液であるIPAを供給し、このIPAの着液点P
Aを基板の中心部側から周縁部側に向けて移動させることにより乾燥した基板を得る。このとき、IPA流線710における距離L(着液点P
Aの中心と、ウエハWの回転中心側におけるIPA流線710の端部713との距離L)が、理想的なパターン画像に対して、ウエハWの表面の1cm
2あたりの範囲内に発生する平均の欠陥の増加数が5個以下となる上限距離M以下とするように、着液点P
AよりウエハWの中心部側へ流入するIPAの流入量を制御する。また、IPAに働く遠心加速度が、当該着液点P
Aの移動方向に沿って一定となるように、着液点P
Aの移動速度を変化させる。これらにより、着液点P
Aより基板の中心部側での液残りや不均一乾燥の発生を抑えて、欠陥の発生を抑制することができる。
【0074】
ここで
図7(b)を用いて説明したように、IPA流線710における距離Lを調節する(IPA中心流入量を調節する)ための操作変数は、当該着液点P
Aのスキャン速度に限定されない。
例えば着液点P
Aのスキャン速度を一定値に固定した条件下で、
図10(a)の第2比較形態に示すようにIPAノズル411からのIPAの供給流量を一定に保つと、ウエハWの中央部側から周縁部側へと着液点P
Aが移動するに連れてIPA中心流入量は低下する(
図10(b))。
【0075】
そこで、着液点P
Aのスキャン速度を固定した条件下で、IPA中心流入量が一定となるようにIPAの供給流量を変化させることによっても、着液点P
Aの移動方向に沿って、IPA流線710における距離Lが上限距離M以下となるようにIPA中心流入量を調節する(例えば一定に保つ)ことができる。この場合のIPAの供給流量も既述の(1)式を用いて算出することができる。
IPA中心流入量の調節が可能であることの確認として、
図9(a)、(b)の第2実施形態には、
図10(b)に示す第2比較形態の周縁部におけるIPA中心流入量と一致するように、着液点P
Aの移動方向に沿ってIPAの供給流量を変化させた例を示している。
【0076】
ここで、IPA中心流入量を調節するための操作変数は、IPAの着液点P
Aのスキャン速度、またはIPAの供給流量のいずれか一方を選択する場合に限られるものではなく、これらの操作変数の双方を変化させてもよい。
また、
図9(a)、(b)に示した第2実施形態においても、
図7(c)、(d)を用いて説明した例と同様に、着液点P
AのIPAに働く遠心加速度が、当該着地点P
Aの移動方向に沿って一定となるように、ウエハWの回転数を変化させてもよいことは勿論である。
【0077】
図11、
図12に示す側面図及び平面図は、IPAノズル411aを傾斜させて配置することにより、距離Lを短くして中心部側IPA液膜711aの形成領域の縮小を図った第3実施形態を示している。
当該実施形態においては、
図11に示すようにIPAノズル411aからのIPAの吐出位置よりも、ウエハWに対するIPA着液点P
Aの方がウエハWの回転中心から見て周縁部側に位置するように、IPA液の吐出方向を傾斜させた状態で配置される。ウエハWの中心部側から逃げる方向へ向けてIPAを吐出することにより、距離Lを短くすることができる。この結果、欠陥の発生に影響を及ぼす中心部側IPA液膜711aの幅を短くすることができる。
【0078】
また
図12に示すように、IPAノズル411aは、ウエハWを平面視したとき、着液点P
Aが描く軌道円に対して、ウエハWが回転する向きに沿って伸ばした接線と、IPAの吐出方向との成す角度θが、0°<θ<90°の範囲内の角度となるように配置することが好ましい。ウエハWの表面に形成されるIPA流線710に沿ってIPAを供給することにより、着液点P
Aにおけるミストの発生を抑え、乾燥したウエハWへのミストの付着を抑制することができる。
【0079】
さらに、
図4を用いて説明したように、IPAの供給を行うIPAノズル411と、N
2ガスの供給を行うN
2ノズル431とを別々のノズルアーム41、43に設けて互いに反対方向へ移動させることは必須ではない。例えばIPAノズル411、N
2ノズル431を共通の第1ノズルアーム41に設け、N
2ガスの供給位置がIPAの供給位置よりもウエハWの径方向、中央部側に位置するように、これらのノズル411、431の配置を設定してもよい。
さらには、N
2ノズル431からのN
2ガスの供給を行うことも必須の要件ではなく、IPAノズル411からのIPAの供給位置を移動させてIPAの液膜を押し流す動作だけで、ウエハWの乾燥を終了してもよい。
【0080】
この他、着液点P
AからウエハWの中心部側へと流入するIPAの流量(IPA中心流入量)を特定するため、着液点P
Aのスキャン速度やIPAノズル411からのIPAの供給流量を決定する手法は既述の(1)式を用いる場合に限定されない。例えば、流体シミュレータを用いて、ウエハWの表面を流れるIPAの流動状態を再現し、当該シミュレーション結果に基づいて、着液点P
Aのスキャン速度やIPAの供給流量を決定してもよい。
【0081】
また、
図7や
図9を用いて説明した各例では、IPA流線710における距離Lを上限距離M以下とするために、IPAの中心流入量が所定値以下となるように、着液点P
Aのスキャン速度やIPAの供給流量を制御し、さらに着液点P
Aに供給されたIPAに働く遠心加速度を一定として、中心部側IPA液膜711aの不安定嵌挿やウエハW表面のへのIPAの取り残しの抑制を図った。
一方で、着液点P
Aに供給されたIPAに働く遠心加速度を一定とすること単独でも、比較形態に比べて中心部側IPA液膜711aの不安定乾燥などの発生を抑制することは可能である。
即ち、
図8(a)、(b)や
図10(a)、(b)に示すIPA中心流入量が変動する場合について、着地点P
Aの移動方向に沿って当該着液点P
Aに供給されたIPAに働く遠心加速度を一定に保つように、
図7(c)、(d)に記載の技術を適用してもよい。
【0082】
この他、乾燥液として利用可能な液体は、IPAに限定されるものではなく、アセトンやHFE(ハイドロフルオロエーテル)、HFO(メトキシパーフルオロヘプテン)、PFC(パーフルオロカーボン)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)などを採用することができる。