(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モリブデン化合物および金属原子含有化合物を含む第1の混合物(A−1)又はモリブデン化合物、金属原子含有化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(A−2)を焼成して中間体を調製する工程(1)と、
混合物(A−2)を用いた場合は、前記中間体を含む第2の混合物を、混合物(A−1)を用いた場合は、前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物を、工程(1)で選択した温度より高温で焼成してスピネル型複合酸化物粒子を製造する工程(2)と、を含み、
前記金属原子含有化合物が、亜鉛含有化合物、コバルト含有化合物、またはストロンチウム含有化合物からなる群から選ばれる金属原子含有化合物であり、前記金属原子含有化合物の金属元素に対する前記モリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/金属元素)が、0.01〜2.0である、請求項1または2記載のスピネル型複合酸化物粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
<スピネル型複合酸化物粒子>
本発明の一形態によれば、スピネル型複合酸化物粒子は、金属原子、アルミニウム原子、および酸素原子を含むスピネル型複合酸化物と、前記スピネル型複合酸化物の表面および/または内部に配置されるモリブデンと、を含む。この際、前記スピネル型複合酸化物の[111]面の結晶子径は、100nm以上である。本発明におけるスピネル型複合酸化物は、スピネルのマグネシウム原子Mgが他の金属原子、具体的には亜鉛原子、コバルト原子、またはストロンチウム原子からなる群から選ばれる金属原子で置換されたものを意味し、その定義中には、MgAl
2O
4の化学組成で表されるスピネル自体は含まれない。
【0013】
なお、本明細書において、「スピネル型複合酸化物粒子」とは、スピネル自体を包含せず、スピネル型複合酸化物およびモリブデンを含む粒子全体を含むものである。この際、後述するようにモリブデンがスピネル型複合酸化物の表面に配置される場合がある。一方で、モリブデンがスピネル型複合酸化物の内部に配置される場合もある。なお、モリブデンがスピネルの表面および内部に配置される場合もあり得る。
【0014】
当該モリブデンは、スピネル型複合酸化物の表面および/または内部に配置される。ここで、「表面に配置される」とは、スピネル型複合酸化物粒子表面にモリブデンが付着、被覆、結合、その他これに類する形態で存在することを意味する。他方、「内部に配置される」とは、スピネル型複合酸化物結晶に組み込まれることまたはスピネル型複合酸化物結晶の欠陥などの空間に存在することを意味する。スピネル型複合酸化物結晶に組み込まれることとは、スピネル型複合酸化物を構成する原子の少なくとも一部が、モリブデンに置換し、当該モリブデンがスピネル型複合酸化物結晶の一部として包含されることを意味する。この際、置換されるスピネル型複合酸化物の原子としては、特に制限されず、金属原子、アルミニウム原子、酸素原子、他の原子のいずれであってもよい。
【0015】
スピネル型複合酸化物粒子の形状としては、多面体状、球状、楕円状、円柱状、多角柱状、針状、棒状、板状、円板状、薄片状、鱗片状等が挙げられる。これらのうち、樹脂に分散しやすいことから多面体状、球状、楕円状、板状であることが好ましく、多面体状、球状であることがより好ましい。なお、「多面体」とは、通常、6面体以上、好ましくは8面体以上、より好ましくは10〜30面体である。
【0016】
スピネル型複合酸化物粒子の平均粒径は、0.1〜1000μmであることが好ましく、0.2〜100μmであることがより好ましく、0.3〜80μmであることがさらに好ましく、0.4〜60μmであることが特に好ましい。スピネル型複合酸化物粒子の平均粒径が0.1μm以上であると、樹脂と混合して得られる樹脂組成物の粘度が過度に大きくならないことから好ましい。一方、スピネル型複合酸化物粒子の平均粒径が1000μm以下であると、樹脂と混合して得られた樹脂組成物を成形した場合、得らえる成形物の表面が平滑になりうることまたは成形物の機械物性が優れていることから好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」とは、任意の100個の粒子の粒径を走査型電子顕微鏡(SEM)により得られたイメージから測定、算出された値を意味する。この際、「粒径」とは、粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さを意味する。
【0017】
スピネル型複合酸化物粒子の比表面積は、10m
2/g以下であることが好ましく、8〜0.001m
2/gであることがより好ましく、5〜0.01m
2/gであることがさらに好ましい。スピネル型複合酸化物粒子の比表面積が10m
2/g以下であると、粒子表面平滑性が高く、樹脂等に好適に分散できることから好ましい。なお、本明細書において「比表面積」はBET比表面積を意味し、窒素ガス吸着/脱着法で得られた値を採用するものとする。
【0018】
スピネル型複合酸化物粒子の熱伝導率は、20W/(m・K)以上であることが好ましく、30W/(m・K)以上であることがより好ましく、40W/(m・K)以上であることがさらに好ましい。スピネル型複合酸化物粒子の熱伝導率が20W/(m・K)以上であると、樹脂成形物として、より高熱伝導性を達成できることから好ましい。
[スピネル型複合酸化物粒子]
本発明においてスピネル型複合酸化物粒子は、上記した特定の金属原子、アルミニウム原子、および酸素原子を含む。その他、後述するモリブデンが含まれる。
本発明におけるスピネル型複合酸化物粒子の[111]面の結晶子径は、100nm以上であり、好ましくは120nm以上であり、より好ましくは150nm以上であり、さらに好ましくは200nm以上である。ここで、[111]面はスピネルの主要な結晶ドメインであり、当該[111]面の結晶ドメインの大きさが[111]面の結晶子径に相当する。当該結晶子径が大きいほど粒子の緻密性及び結晶性が高く、フォノンの散乱が起こる乱れ部分がないことを意味するため、熱伝導性が高いということができる。なお、スピネルの[111]面の結晶子径は、後述する製造方法の条件を適宜設定することで制御することができる。また、本明細書において「[111]面の結晶子径」の値は、X線回析法(XRD)を用いて測定された[111]面に帰属されるピークの半値幅からシェラー式を用いて算出された値を採用するものとする。
【0019】
(金属原子)
本発明のスピネル型複合酸化物中におけるアルミニウム原子、モリブデン原子以外の金属原子は、亜鉛原子、コバルト原子、またはストロンチウム原子からなる群から選ばれる金属原子であって、その含有量は、特に制限されないが、金属原子をMとして、スピネルの構造式をM
xAl
2O
zで表す場合、xは0.8〜1.2の範囲であることが好ましく、0.9〜1.1の範囲であることがより好ましい。なお、本明細書において、スピネル型複合酸化物中の金属原子の含有量は蛍光X線元素分析法(XRF)により測定された値を採用するものとする。
【0020】
(アルミニウム原子)
スピネル中の金属原子の含有量は、特に制限されないが、スピネル型複合酸化物の構造式をMAl
yO
zで表す場合、xは1.8〜2.2の範囲であることが好ましく、1.9〜2.1の範囲であることがより好ましい。なお、本明細書において、スピネル型複合酸化物中のアルミニウム原子の含有量は蛍光X線元素分析法(XRF)により測定された値を採用するものとする。
【0021】
(酸素原子)
スピネル型複合酸化物中の酸素原子の含有量は、特に制限されないが、スピネル型複合酸化物の構造式をM
xAl
yO
zで表す場合、zは(x+y+1.2)〜(x+y+0.8)の範囲であることが好ましく、(x+y+1.1)〜(x+y+0.9)の範囲であることがより好ましい。
【0022】
(他の原子)
本発明のスピネル型複合酸化物中におけるアルミニウム原子、モリブデン原子以外の金属原子は、亜鉛原子、コバルト原子、またはストロンチウム原子からなる群から選ばれる金属原子であるが、これら以外の他の原子としては、本発明の効果を阻害しない範囲においてスピネル型複合酸化物中に包含されうる。具体例としては、ニッケル、鉄、マンガン、チタン、ジルコニウム、カルシウム、イットリウム等が挙げられる。これらの他の原子は単独で含まれていても、2種以上を混合して含まれていてもよい。
【0023】
スピネル型複合酸化物中のアルミニウム原子、モリブデン原子、および亜鉛原子、コバルト原子、またはストロンチウム原子からなる群から選ばれる金属原子以外の、他の原子の含有量は、10mol%以下であることが好ましく、5mol%以下であることがより好ましく、2mol%以下であることが最も好ましい。
【0024】
<モリブデン>
モリブデンは、後述する製造方法に起因して含有されうる。
なお、前記モリブデンには、後述するモリブデン含有化合物中のモリブデンを含む。
スピネル型複合酸化物粒子中のモリブデンの含有量は、特に制限されないが、スピネル型複合酸化物に対して、20mol%以下であることが好ましい。また、10mol%以下が更に好ましく、5mol%以下であればスピネル型複合酸化物結晶が高い緻密性を示すため、特に好ましい。なお、本明細書において、スピネル型複合酸化物中のモリブデンの含有量は蛍光X線分析装置により測定された値を採用するものとする。
【0025】
<スピネル型複合酸化物粒子の製造方法>
スピネル型複合酸化物粒子の製造方法は、モリブデン化合物および金属原子含有化合物を含む第1の混合物(A−1)又はモリブデン化合物、金属原子含有化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(A−2)を焼成して中間体を調製する工程(1)を含む。この工程(1)の焼成温度は、後述する工程(2)で選択する温度より低温で行われる。
【0026】
[中間体の調製工程]
(第1の混合物)
第1の混合物は、モリブデン化合物および金属原子含有化合物を必須成分として含む。
本発明の製造方法における第1の混合物としては、大別すると、スピネル型複合酸化物の原料の元素源としてモリブデン化合物および金属原子含有化合物のみを含む第1の混合物(A−1)、又はモリブデン化合物、金属原子含有化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(A−2)を用いることが出来る。
【0027】
モリブデン化合物
モリブデン化合物としては、特に制限されないが、金属モリブデン、酸化モリブデン、硫化モリブデンモリブデン、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アンモニウム、H
3PMo
12O
40、H
3SiMo
12O
40等のモリブデン化合物が挙げられる。この際、前記モリブデン化合物は、異性体を含む。例えば、酸化モリブデンは、二酸化モリブデン(IV)(MoO
2)であっても、三酸化モリブデン(VI)(MoO
3)であってもよい。これらのうち、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムであることが好ましく、三酸化モリブデンであることがより好ましい。
なお、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
前記金属原子含有化合物の金属元素に対するモリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/金属元素)は、0.01〜2.0であることが好ましく、0.1〜1.8であることがより好ましい。前記モル比が0.01以上であると、結晶成長が好適に進行しうることから好ましい。一方、前記モル比が2.0以下であると、後述する焼成工程において副反応物であるα化度の高いアルミナの生成を効果的に抑制または防止できることから好ましい。
【0029】
金属化合物
金属原子含有化合物としては、特に制限されないが、反応性が高く、得られるスピネル型複合酸化物粒子の結晶子径が大きくなりうることから、金属が、亜鉛、コバルト、またはストロンチウムからなる群から選ばれる金属原子である、左記の金属原子に対応した金属酸化物、金属水酸化物、炭酸金属塩、硝酸金属塩、酢酸金属塩を用いることが好ましい。なお、上述の金属化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(第1の混合物の焼成)
金属原子含有化合物およびモリブデン化合物を焼成することで、モリブデン酸金属化合物を得ることができる。
この際、焼成温度は、モリブデン酸金属化合物を得ることができれば特に制限されないが、200〜2000℃であることが好ましく、300〜1500℃であることがより好ましく、400〜1000℃であることがさらに好ましい。焼成温度が200℃以上であると、モリブデン化合物と金属原子含有化合物と効率よく反応できることから好ましい。一方、焼成温度が2000℃以下であると、工業的に実施し易いことから好ましい。
焼成時間についても特に制限されないが、0.1〜100時間であることが好ましく、1〜20時間であることがより好ましい。
焼成後は、いったん冷却してモリブデン酸金属化合物を単離してもよいし、そのまま後述する焼成工程を行ってもよい。
【0031】
中間体
第1の混合物を焼成して得られる中間体は、モリブデン酸金属化合物を必須成分として含むものであり、第1の混合物が混合物(A−1)である場合は、実質的にモリブデン酸金属化合物を主成分として含有するものとなり、第1の混合物が混合物(A−2)である場合は、実質的にモリブデン酸金属化合物とモリブデン酸アルミニウムとを主成分として含有するものとなる。
【0032】
(モリブデン酸金属化合物)
モリブデン酸金属化合物は、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸コバルト、またはモリブデン酸ストロンチウムである。モリブデン酸金属化合物は、後述する焼成工程において、モリブデンの蒸気の発生源となるとともに、アルミニウム化合物のアルミニウム原子と結晶を形成する金属原子を提供する機能を有する。
モリブデン酸金属化合物は、亜鉛原子、コバルト原子、またはストロンチウム原子である金属原子、モリブデン原子、および酸素原子を含み、一般的には、MMoO
4で表される。
ただし、その他の組成を有していてもよく、例えば、上述する金属元素に対するモリブデン元素のモル比が1:1以外である場合は、焼成後過剰な未反応の金属化合物またはモリブデン化合物が存在する。この場合はモリブデン酸金属化合物と金属化合物との混合物またはモリブデン化合物との混合物となる。
また、モリブデン酸金属化合物に他の原子が含まれていてもよい。
【0033】
(モリブデン酸アルミニウム)
モリブデン酸アルミニウムは、アルミニウム原子、モリブデン原子、および酸素原子を含み、一般的には、Alx(MoO4)yで表される。ここで、xとyは共に1以上の整数または少数である。モリブデン酸アルミニウムは分解により、α化度の高いアルミナを形成し得る。
【0034】
本発明の製造方法は、さらに、前記中間体およびアルミニウム化合物を含む第2の混合物を焼成してスピネル型複合酸化物粒子を製造する工程(2)を含む。工程(1)において混合物(A−2)を用いた場合は、前記中間体を含む第2の混合物が、工程(1)において混合物(A−1)を用いた場合は、前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物が、この工程(2)においてそれぞれ用いられる。この工程(2)は、工程(1)で選択した温度より高温で第2の混合物の焼成を行うことでスピネル粒子を得る工程である。
【0035】
[スピネル型複合酸化物焼成工程]
金属成分を複数有するスピネルでは、焼成過程において、欠陥構造等が生じし易いため、結晶構造を精密に制御することが困難であった。しかしながら、モリブデン酸金属化合物およびアルミニウム化合物を焼成することにより、酸化モリブデンがフラックス剤として機能しつつ、金属元素、アルミニウムと酸素からなるスピネル結晶構造を精密に制御することが可能となった。その結果、[111]面の結晶子径が大きくなり、熱伝導性に優れるスピネル型複合酸化物粒子を製造することができる。
【0036】
また、従来、スピネル型複合酸化物粒子の合成は、通常、高温で焼成するものであることから、粒子成長との兼ね合いを考慮すると、高い熱伝導性を有しつつ、平均粒径が1000μm以下、特に100μm以下のスピネル型複合酸化物粒子を得ることは困難であった。このため、従来の製造方法では、まず大きなスピネル型複合酸化物粒子を合成し、これを粉砕して粉末化する必要があった。これに対し、本実施形態に係る製造方法によれば、モリブデン酸金属化合物を使用することで、高い熱伝導性を有しつつ、平均粒径が1000μm以下、特に100μm以下のスピネル型複合酸化物粒子を製造することができる。
【0037】
なお、スピネル型複合酸化物粒子の結晶子径は、主にフラックス剤であるモリブデンの添加量、具体的には、上述の金属元素に対するモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/金属元素)により制御することができる。この理由は、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、原料である金属化合物および/またはアルミニウム化合物を溶解させることで、MAl
2O
4の結晶化が進行するためである。
【0038】
また、スピネル型複合酸化物粒子の平均粒径についてもまた、主にフラックス剤であるモリブデンの添加量、具体的には、上述の金属元素に対するモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/金属元素)により制御することができる。この理由も、先述の結晶子径の制御と同様にモリブデン化合物がフラックスとして機能するため、使用量を適宜変えることで原料の溶解状態を制御することができるためである。
【0039】
第2の混合物
第2の混合物は、前記中間体およびアルミニウム化合物を含む。ここで、スピネル化反応に必要な量のアルミニウム化合物が、第1の混合物に既に含まれている場合は、後述のその他の化合物を添加する場合を除いて、第2の混合物は前記中間体と同一のものである。
上記工程(1)において、混合物(A−2)を用いた場合は、この第2の混合物として、前記中間体を含む第2の混合物を、上記工程(1)において、混合物(A−1)を用いた場合は、この第2の混合物として、前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物、がそれぞれ用いられる。
【0040】
モリブデン酸金属化合物
モリブデン酸金属化合物は上述の前駆体調製工程によって調製されたものを使用しても、市販品を使用してもよい。
【0041】
アルミニウム化合物
アルミニウム化合物としては、特に制限されないが、金属アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、水酸化アルミニウム、硫化アルミニウム、窒化アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム等のアルミニウム誘導体;硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、アルミン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等のアルミニウムオキソ酸塩;酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム等のアルミニウム有機塩;アルミニウムプロポキシド、アルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム;スピネル、スピネル前躯体、アルミン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、マグネシウムアルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウム−マグネシウム含有化合物;およびこれらの水和物等が挙げられる。これらのうち、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびこれらの水和物を用いることが好ましく、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、スピネル前躯体を用いることがより好ましい。
なお、上述のアルミニウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
前記アルミニウム化合物のアルミニウム元素に対するモリブデン酸金属化合物の金属元素のモル比(アルミニウム元素/金属元素)は、2.2〜1.8の範囲であることが好ましく、2.1〜1.9の範囲であることがより好ましい。前記モル比が2.2〜1.8の範囲であると、[111]面の結晶子径の大きい高熱伝導率のスピネル型複合酸化物粒子を合成できることから好ましい。
【0043】
第2の混合物の焼成
中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物を、工程(1)で選択した温度より高温で焼成することで、スピネル型複合酸化物粒子を得ることができる。
焼成温度は、所望のスピネル型複合酸化物粒子を得ることができれば特に制限されないが、800〜2000℃であることが好ましく、1200〜1600℃であることがより好ましい。焼成温度が800℃以上であると、短時間で[311]面の結晶子径の大きいなスピネル型複合酸化物粒子を得ることができるため好ましい、一方、焼成温度が2000℃以下であると、スピネルの粒径制御が容易となることから好ましい。
【0044】
焼成時間は、特に制限されないが、0.1〜1000時間であることが好ましく、3〜100時間であることがより好ましい。焼成時間が0.1時間以上であると、[311]面の結晶子径の大きいなスピネル型複合酸化物粒子を得ることができるため好ましい。一方、焼成時間が1000時間以内であると、製造コストが低くなり得ることから好ましい。
【0045】
焼成雰囲気は、空気雰囲気であっても、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であっても、酸素雰囲気であっても、アンモニアガス雰囲気であっても、二酸化炭素雰囲気であってもよい。この際、製造コストの観点からは空気雰囲気であることが好ましい。また、スピネル型複合酸化物粒子の表面改質等を同時に行う場合には、アンモニアガス雰囲気であることが好ましい。
【0046】
焼成時の圧力についても特に制限されず、常圧下であっても、加圧下であっても、減圧下であってもよいが、製造コストの観点から常圧下で行う事が好ましい。
加熱手段としては、特に制限されないが、焼成炉を用いることが好ましい。この際使用されうる焼成炉としては、トンネル炉、ローラーハース炉、ロータリーキルン、マッフル炉等が挙げられる。
【0047】
[固溶化および晶出による焼成工程]
本発明の一実施形態によれば、亜鉛含有化合物、コバルト含有化合物、またはストロンチウム含有化合物からなる群から選ばれる金属原子含有化合物およびアルミニウム化合物の第3の混合物をモリブデン原子の存在下で焼成して、固溶化および晶出によりスピネル型複合酸化物粒子を製造することができる。
【0048】
ここでアルミニウム源およびモリブデン化合物を含む第3の混合物を焼成することで、中間化合物であるモリブデン酸アルミニウムを経由し、前記モリブデン酸アルミニウムが分解し、モリブデン化合物が蒸発することで、モリブデンを含むアルミニウム化合物が生成する。この際、前記モリブデン化合物の蒸発がモリブデンを含むアルミニウム化合物の結晶成長の駆動力となる。
【0049】
前記固溶化および晶出は、通常、いわゆる固相法により行われる。具体的には、亜鉛含有化合物、コバルト含有化合物、またはストロンチウム含有化合物からなる群から選ばれる金属原子含有化合物およびアルミニウム化合物が界面において反応して核を形成し、亜鉛原子、コバルト原子、またはストロンチウム原子からなる群から選ばれる金属原子および/またはアルミニウム原子が、前記核を介して固相拡散し、アルミニウム化合物および/または上記金属原子含有化合物と反応する。これにより、緻密な結晶体、すなわちスピネル型複合酸化物粒子を得ることができる。この際、前記固相拡散において、金属原子のアルミニウム化合物への拡散速度は、アルミニウム原子の金属原子含有化合物への拡散速度よりも相対的に高いため、アルミニウム化合物の形状が反映されたスピネル型複合酸化物粒子が得られる傾向がある。このため、アルミニウム化合物の形状や平均粒径を適宜変更することで、スピネル型複合酸化物粒子の形状および平均粒径を制御することが可能となりうる。
【0050】
ここで、上述の固相反応は、モリブデン存在下で行われる。金属成分を複数有するスピネル粒子では、焼成過程において、欠陥構造等が生じやすいため、結晶構造を精密に制御することが困難であるが、モリブデンを用いることにより、スピネル型複合酸化物結晶の結晶構造を制御することができる。これにより、[111]面の結晶子径は大きくなり、熱伝導性に優れるスピネル型複合酸化物粒子が得られうる。なお、固相反応は、モリブデン存在下で行われるため、得られるスピネル型複合酸化物粒子には、モリブデンが含まれうる。
【0051】
また、上述のアルミニウム化合物はモリブデンを含むことが好ましい。この際、前記モリブデンを含むアルミニウム化合物のモリブデン含有形態は、特に制限されないが、スピネル粒子と同様に、モリブデンがアルミニウム化合物表面に付着、被覆、結合、その他これに類する形態で配置される形態、モリブデンがアルミニウム化合物に組み込まれる形態、これらの組み合わせが挙げられる。この際、「モリブデンがアルミニウム化合物に組み込まれる形態」としては、アルミニウム化合物を構成する原子の少なくとも一部がモリブデンに置換する形態、アルミニウム化合物の結晶内部に存在しうる空間(結晶構造の欠陥により生じる空間等を含む)にモリブデンが配置される形態等が挙げられる。なお、前記置換する形態において、置換されるアルミニウム化合物を構成する原子としては、特に制限されず、アルミニウム原子、酸素原子、他の原子のいずれであってもよい。
【0052】
上述のアルミニウム化合物のうち、モリブデンを含むアルミニウム化合物を用いることが好ましく、モリブデンが組み込まれたアルミニウム化合物を用いることがより好ましい。
【0053】
モリブデンを含むアルミニウム化合物が好ましい理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムによるものと推察される。すなわち、アルミニウム化合物に含まれるモリブデンが固相界面における核形成の促進、アルミニウム原子とマグネシウム原子の固相拡散の促進等の機能を果たし、アルミニウム化合物とマグネシウム化合物との固相反応がより好適に進行するものと考えられる。すなわち、後述するように、モリブデンを含むアルミニウム化合物は、アルミニウム化合物、かつ、モリブデンとしての機能を有しうるのである。特に、モリブデンが組み込まれたアルミニウム化合物は、反応点に直接または近接した部分にモリブデンが配置されることとなり、モリブデンによる効果をより効果的に発揮しうる。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、上記メカニズムと異なるメカニズムで所望の効果が得られる場合であっても、技術的範囲に含まれる。
上述のモリブデンを含むアルミニウム化合物は、前記フラックス法により調製することができる。
【0054】
[冷却工程]
冷却工程は、焼成工程において結晶成長したスピネル型複合酸化物粒子を冷却し、結晶化して粒子状とする工程である。
冷却速度についても特に制限されないが、1〜1000℃/時間であることが好ましく、5〜500℃/時間であることがより好ましく、50〜100℃/時間であることがさらに好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。 冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0055】
<樹脂組成物>
本発明の一形態によれば、スピネル型複合酸化物粒子と、樹脂とを含む、樹脂組成物が提供される。この際、前記組成物は、必要に応じて、硬化剤、硬化触媒、粘度調節剤、可塑剤等をさらに含んでいてもよい。
【0056】
(スピネル型複合酸化物粒子)
スピネル型複合酸化物粒子としては、上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
【0057】
なお、前記スピネル型複合酸化物粒子は、表面処理されたものを用いることができる。
この表面処理により、スピネル型複合酸化物粒子の熱伝導性を更に改善することが可能である。
例えば、上記の様にして得られたスピネル型複合酸化物粒子は、スピネル型複合酸化物粒子表面の少なくとも一部に有機化合物を含む表面処理層を付着させることで、表面処理スピネル型複合酸化物粒子を製造することができる。
【0058】
具体的には、上記未処理スピネル型複合酸化物粒子と、有機化合物を含む表面処理層を形成しうる表面処理剤とを混合し、未処理スピネル型複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部に当該表面処理剤を付着させた後に、例えば、乾燥や硬化等を行うことで、表面処理スピネル型複合酸化物粒子を製造することができる。
【0059】
表面処理剤自体が反応性を有しないが吸着性を有する有機化合物であったり、表面処理剤が液媒体に溶解又は分散した様な溶液又は分散液である場合は、吸着を促進したり液媒体を除去する目的で乾燥を行えば良いし、表面処理剤が反応性を有する有機化合物である場合は、当該化合物の反応性基に基づく硬化を行うことで、前記した表面処理層を形成させることができる。なお、未処理スピネル型複合酸化物粒子の表面全体に当該表面処理剤を付着させた場合は、表面処理層で未処理スピネル型複合酸化物粒子は被覆されることになる。
【0060】
表面処理剤
本発明で用いるのは、有機化合物を含む表面処理層を形成しうる表面処理剤であり、無機化合物であるスピネル型複合酸化物粒子に吸着または反応する部位を有する有機化合物である。具体的には有機シラン化合物、有機チタン化合物及び有機燐酸化合物などの表面処理剤である。この様な表面処理剤としては、例えば、以下の様なものを挙げることができる。
【0061】
有機シラン化合物としてはシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β(3,4エポキシシンクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、γ−グリシリメトキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0062】
有機チタン化合物としてはチタンカップリング剤が挙げられる。チタンカップリング剤の具体例としては、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシチタンビスラクテート、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネート等が挙げられる。なかでも、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネートが好ましい。
【0063】
チタンカップリング剤の市販品としては、味の素ファインテクノ株式会社製のプレンアクト(登録商標)が挙げられる。
【0064】
有機リン酸化合物としてはリン酸エステル、アルキルホスホン酸、アラルキルホスホン酸などが挙げられる。リン酸エステルとしては、例えば、オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等のモノ又はジエステル又は両者の混合物など公知のリン酸エステルが挙げられる。
【0065】
アルキルホスホン酸としては、炭素原子数1〜20のアルキル基を有するホスホン酸が挙げられる。非置換の炭素原子数1〜20のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−アミル、1,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、1,3−ジメチルブチル、1−イソプロピルプロピル、1,2−ジメチルブチル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、1,4−ジメチルペンチル、tert−ヘプチル、2−メチル−1−イソプロピルプロピル、1−エチル−3−メチルブチル、n−オクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、2−メチルヘキシル、2−プロピルヘキシル、n−ノニル、イソノニル、n−デシル、イソデシル、n−ウンデシル、イソウンデシル、n−ドデシル、イソドデシル、n−トリデシル、イソトリデシル、n−テトラデシル、イソテトラデシル、n−ペンタデシル、イソペンタデシル、n−ヘキサデシル、イソヘキサデシル、n−ヘプタデシル、イソヘプタデシル、n−オクタデシル、イソオクタデシル、n−ノナデシル、イソノナデシル、n−イコシル、イソイコシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル、シクロドデシル、4−メチルシクロヘキシル等が挙げられる。また、これらのアルキル基が有する置換基は、不活性の基であることが好ましい。好ましい置換基としては、例えばアルコキシ基、ハロゲン原子、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、スルホン基等が挙げられる。
【0066】
アラルキルホスホン酸としては、炭素原子数7〜20のアラルキル基(アリール基で置換されたアルキル基)を有するホスホン酸が挙げられる。炭素原子数7〜20の非置換のアラルキル基の例としては、ベンジル、フェネチル、2−フェニルプロパン−2−イル、スチリル、シンナミル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル等が挙げられる。
【0067】
表面処理剤の処理方法としては、公知慣用の方法で行えばよく、例えば、流体ノズルを用いた噴霧方式、せん断力のある攪拌、ボールミル、ミキサー等の乾式法、水系または有機溶剤系等の湿式法を採用することができる。せん断力を利用した表面処理は、フィラーの破壊が起こらない程度にして行うことが望ましい。
【0068】
また表面処理剤の乾式法における系内温度ないしは湿式法における処理後の乾燥または硬化の温度は、表面処理剤の種類に応じ熱分解しない領域で適宜決定される。例えば80〜230℃の温度で加熱することが望ましい。
【0069】
未処理スピネル型複合酸化物粒子に対する表面処理層中の表面処理剤の不揮発分または硬化物の量は、特に制限されるものではないが、未処理スピネル粒子の質量換算100部当たり、表面処理剤における不揮発分または硬化物が、0.01〜10部となる様にすることが、上記した様な熱伝導性等の機能向上の点では好ましい。
【0070】
未知のスピネル型複合酸化物粒子が、本発明の表面処理スピネル型複合酸化物粒子に相当するかどうかは、例えば、当該未知のスピネル型複合酸化物粒子を、表面処理剤の不揮発分または硬化物を溶解する溶媒に浸漬したり煮沸する等して抽出した抽出液やそのスピネル型複合酸化物粒子表面自体に、指標である、表面処理剤自体やその硬化物に対応する化学構造や、珪素原子、チタン原子或いは燐原子の存在が、赤外線吸収分析(IR)や原子吸光分析(AA)にて観察できるか否かで、確認することができる。
【0071】
未処理スピネル型複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部に、表面処理層が付着されている状態とすることで、樹脂組成物に含まれる樹脂との濡れ性が向上し、スピネル型複合酸化物粒子との密着性が向上することから、スピネル型複合酸化物粒子表面に生じやすい空隙(ボイド)の生成が抑えられるため、熱伝導率のロスが低くなることから、例えば、樹脂組成物の成形物の熱伝導性を改善することができる。この様な技術的効果は、スピネル型複合酸化物粒子の表面の一部に、有機化合物に基づく表面処理剤またはその硬化物に基づく表面処理層が付着していることで発現するものであり、例えば、表面処理後に焼成を行う等して、表面処理剤を当該スピネル型複合酸化物粒子から除去した場合には、発現させることはできない。
【0072】
また、スピネル型複合酸化物粒子は、単独の平均粒径もの一種で用いても、異なる平均粒径のものの2種以上を組み合わせて用いてもよい。異なる平均粒径のものの2種以上を組み合わせて用いることで、大粒子の隙間を中粒子や小粒子が埋めパッキング構造を容易に形成させることができる。こうすることで、樹脂に含有させる、未表面処理または表面処理スピネル型複合酸化物粒子をより増加させることができ、熱伝導パスの増加でより優れた熱伝導性を達成することが可能となる。また、異なる平均粒径の複数種のスピネル型複合酸化物粒子を用いる場合、これら複数種のうち一種以上として、表面処理層を有するスピネル型複合酸化物粒子を用いることができる。
【0073】
さらに、スピネル型複合酸化物粒子とその他の無機フィラーとを組み合わせて使用してもよい。
【0074】
その他の無機フィラー
本発明の樹脂組成物の調製に当たっては、本発明の効果を損なわない範囲において、未表面処理又は表面処理スピネル型複合酸化物粒子以外にも、未処理のスピネル粒子や、その他の表面処理された或いは表面処理されていない無機フィラーを含有させてもかまわない。無機フィラーとしては、公知慣用のものを使用すればよく、例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、鉄、アルミニウム、ステンレス、グラファイト(黒鉛)等の導電性の粉体、酸化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化硼素、硼酸アルミニウム、酸化アルミニウム、スピネル、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ダイヤモンド等の非導電性の粉体などが挙げられる。また、これらの無機充填剤は1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0075】
スピネル型複合酸化物粒子の含有量は、組成物の質量に対して、10〜95質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましい。スピネル型複合酸化物粒子の含有量が10質量%以上であると、スピネル型複合酸化物粒子の高熱伝導性を効率的に発揮できることから好ましい。一方、スピネル型複合酸化物粒子の含有量が95質量%以下であると、成形性に優れた樹脂組成物を得ることができることから好ましい。
【0076】
(樹脂)
樹脂としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。
前記熱可塑性樹脂としては成形材料等に使用される公知慣用の樹脂である。具体的には、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられる。少なくとも1種の熱可塑性樹脂が選択されて使用されるが、目的に応じて、2種以上の熱可塑性樹脂を組み合わせての使用も可能である。
【0077】
前記熱硬化性樹脂としては、加熱または放射線や触媒などの手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂である。例えば、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂である。具体的には、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;脂肪鎖変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;(メタ)アクリル樹脂やビニルエステル樹脂等のビニル樹脂:不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、ポリマーであってもオリゴマーであってもモノマーであってもかまわない。
【0078】
上記した熱硬化性樹脂は、硬化剤とともに用いてもかまわない。その際に用いられる硬化剤は、熱硬化性樹脂と公知慣用の組み合わせで用いる事ができる。例えば、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化剤として常用されている化合物は何れも使用することができ、例えば、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ−ル系化合物などが挙げられる。具体的には、アミン系化合物としてはジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ−ル、BF
3−アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられ、アミド系化合物としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられ、酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、フェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独でも2種類以上の併用でも構わない。
【0079】
本発明の樹脂組成物における、熱硬化性樹脂と前記の硬化剤の配合量は、特に限定されないが、例えば、硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合は、得られる硬化物特性が良好である点から、エポキシ樹脂のエポキシ基の合計1当量に対して、硬化剤中の活性基が0.7〜1.5当量になる量の使用が好ましい。
【0080】
また必要に応じて、本発明の樹脂組成物における、熱硬化性樹脂に硬化促進剤を適宜併用することもできる。例えば、硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化促進剤としては種々のものが使用できるが、例えば、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。
【0081】
また必要に応じて、本発明における、熱硬化性樹脂に、硬化触媒を適時併用することもでき、公知慣用の熱重合開始剤や活性エネルギー線重合開始剤が挙げられる。
【0082】
上記した樹脂としては、寸法安定性や耐熱性に優れる点で、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせや、ポリフェニレンスルフィド樹脂がより好ましい。中でも、樹脂としては、エポキシ樹脂と硬化剤との組み合わせが、絶対値として最も優れた熱伝導性が得られるので最適である。
【0083】
樹脂の含有量は、組成物の質量に対して、5〜90質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましい。樹脂の含有量が5質量%以上であると、樹脂組成物に優れた成形性を賦与することができることから好ましい。一方、樹脂の含有量が90質量%以下であると、成形してコンパウンドとして高熱伝導性をえることができることから好ましい。
【0084】
(用途)
本発明の一実施形態によれば、本形態に係る樹脂組成物は、熱伝導性材料に使用される。
上述の通り、熱伝導性材料としては、コストの観点からアルミナがよく使用されており、その他、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が使用されていた。これに対し、スピネル粒子は、熱伝導性がアルミナよりも劣ることが知られていたため、あえてアルミナに代えてスピネル粒子を用いるという思想はなかった。
【0085】
これに対し、本形態に係るスピネル型複合酸化物粒子は、[111]面の結晶子径が大きいため熱伝導性能に優れている。特に、スピネル型複合酸化物粒子の熱伝導率は、アルミナの熱伝導率(約30W/(m・K))よりも高い。したがって、本形態に係る樹脂組成物は熱伝導性材料に好適に使用される。
【0086】
また、一実施形態によれば、上記製造方法によって得られるスピネル型複合酸化物粒子はミクロンオーダーの粒径(1000μm以下)かつ結晶子径が大きいことから、樹脂中への分散性に優れるため、樹脂組成物としていっそう優れた熱伝導性を発揮しうる。
【0087】
さらに別の実施形態によれば、上記製造方法によって得られるスピネル型複合酸化物粒子は、フラックス法で合成した自形を持つ多面体状粒子であり、無定形の粒子を粉砕して得たものではないことから、平滑性に優れ、樹脂中への分散性に優れる。このため、樹脂組成物として、非常に高い熱伝導性を有しうる。
【0088】
その他、スピネル型複合酸化物粒子は、宝石類、触媒担体、吸着剤、光触媒、光学材料、耐熱絶縁材料、基板、センサー等の用途にも使用することができる。
【0089】
<成形物>
本発明の一形態によれば、上述の樹脂組成物を成形してなる成形物が提供される。
成形物に含有される、本発明のスピネル型複合酸化物粒子は熱伝導性に優れることから、当該成形物は、好ましくは絶縁放熱部材として使用される。これにより、機器の放熱機能を向上させることができ、機器の小型軽量化、高性能化に寄与することができる。
また、本発明の別の一実施形態によれば、前記成形物は、低誘電部材等にも使用することができる。スピネル粒子が低誘電率であることにより、高周波回路において通信機能の高機能化に寄与することができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳述するが、本記述は本発明を限定するものではない。実施例中、特に言及のない場合は質量換算である。
【0091】
<合成例1>原料たる、モリブデンを含むα−酸化アルミニウム(A−1)の合成
γ−アルミナ(STREM CHEMICALS社製、平均粒子径40〜70μm)50質量部と、三酸化モリブデン(和光純薬工業株式会社製)の280質量部と、を乳鉢で混合した。得られた混合物を坩堝に入れ、AMF−2P型温度コントローラ付きセラミック電気炉ARF−100K型の焼成炉(セラミック電気炉、株式会社アサヒ理化製作所製)にて1100℃で10時間焼成を行った。室温まで放冷した後、坩堝を取り出し、内容物を10%アンモニア水およびイオン交換水で洗浄した。最後に、150℃で2時間乾燥を行い、青色のモリブデンを含むα−酸化アルミニウム(A−1)の粉末を得た。得られた粉末の平均粒径は40μmであり、モリブデン含有量は三酸化モリブデン換算で1.8質量%であった。
【0092】
平均粒径、モリブデン含有量、結晶子径、および、結晶ピーク強度比は以下の方法で評価した(以下の合成例においても同様である。)。
【0093】
<平均粒径>
製造した熱伝導性フィラーについて、走査型電子顕微鏡観察(SEM)により平均粒径を測定した。具体的には、表面観察装置であるVE−9800(株式会社キーエンス製)を用いて、平均粒径を測定した。
【0094】
<モリブデン含有量>
製造した熱伝導性フィラーについて、蛍光X線測定(XRF)によりモリブデン含有量を測定した。具体的には、蛍光X線分析装置であるZSX100e(株式会社リガク製)を用いて測定を行った。この際、測定方法はFP(ファンクションポイント)法を用いた。また、測定条件として、EZスキャンを用い、測定範囲はB〜Uであり、測定径は10mmであり、試料重量は50mgである。なお、粉末のまま測定を行い、この際、飛散防止のためポリプロピレン(PP)フィルムを使用した。
【0095】
<結晶子径>
製造したスピネル型複合酸化物粒子について、[111]面の結晶子径を測定した。具体的には、X線回折装置であるSmartLab(株式会社リガク製)を用い、検出器として高強度・高分解能結晶アナライザ(CALSA)(株式会社リガク製)を用いて測定を行った。また、解析ソフトはPDXLを用いて解析を行った。この際、測定方法は粉末X線回折法であり、解析はPDXLのCALSA関数を用いて、[111]面の結晶子径については、2θ=19度付近に出現するピークの半値幅からシェラー式を用いて算出した。なお、測定条件として、2θ/θ法、管電圧45kV、管電流200mAであり、スキャンスピードは0.05度/分であり、スキャン範囲は10〜70度であり、ステップは0.002度であり、βs=20rpmである。装置標準幅は米国立標準技術研究所が作製している標準シリコン粉末(NIST、640d)を用いて算出した0.026度を使用した。
【0096】
<実施例1>
スピネル型複合酸化物粒子(F−1)の合成
合成例1で合成したモリブデンを含むα−酸化アルミニウム(A−1)1.00質量部と、酸化亜鉛(和光純薬工業社製)0.80質量部(亜鉛元素:0.01mol)と、を乳鉢で乾式混合した。得られた混合物をアルミナルツボに仕込み、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で1500℃まで昇温した。12時間後、自然放冷により常温まで冷却し、スピネル型複合酸化物粒子(B−1)を製造した。尚、前記酸化亜鉛の亜鉛に対する前記モリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/亜鉛元素)は、0.01〜2.0の範囲となっている。
得られたスピネル型複合酸化物粒子(F−1)の平均粒径は45μmであり、モリブデン含有量は0.30モル%であり、[111]面の結晶子径は150nmであった。このスピネル型複合酸化物中における亜鉛原子の存在は、蛍光X線元素分析法(XRF)にて確認できた。
【0097】
<実施例2>
スピネル型複合酸化物粒子(F−11)の合成
アルミナるつぼに酸化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製)1.00質量部(アルミニウム元素:19.6mmol)、酸化亜鉛(和光純薬工業株式会社製)0.80質量部(亜鉛元素:9.8mmol)、および三酸化モリブデン(和光純薬工業株式会社製)2.22質量部(モリブデン元素:15.5mmol)を仕込み、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で1500℃まで昇温した。次いで、1500℃で12時間加熱し、自然放冷により常温まで冷却することで、粉末サンプルを得た。
得られたサンプルを、10%アンモニア水、次いで水で洗浄して、サンプル中に含まれる残存モリブデン酸亜鉛を除去することで、スピネル型複合酸化物粒子(F−11)を製造した。尚、上記原料仕込み時における、前記酸化亜鉛の亜鉛に対する前記三酸化モリブデンのモリブデンのモル比(モリブデン元素/亜鉛元素)は、0.01〜2.0の範囲となっている。
得られたスピネル型複合酸化物粒子(F−11)の平均粒径は45μmであり、モリブデン含有量は0.30モル%であり、[111]面の結晶子径は200nmであった。このスピネル型複合酸化物中における亜鉛原子の存在は、蛍光X線元素分析法(XRF)にて確認できた。
【0098】
<実施例3>
スピネル型複合酸化物粒子(F−2)の合成
酸化亜鉛に代えて、酸化ストロンチウム(和光純薬工業社製)1.02質量部(ストロンチウム元素:0.01mol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でスピネル型複合酸化物粒子(F−2)を製造した。尚、上記原料仕込み時における、前記酸化ストロンチウムのストロンチウムに対する前記モリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/ストロンチウム元素)は、0.01〜2.0の範囲となっている。
得られたスピネル型複合酸化物粒子(F−2)の平均粒径は45μmであり、モリブデン含有量は0.26モル%であり、[111]面の結晶子径は150nmであった。このスピネル型複合酸化物中におけるストロンチウム原子の存在は、蛍光X線元素分析法(XRF)にて確認できた。
【0099】
<実施例4>
スピネル型複合酸化物粒子(F−3)の合成
酸化亜鉛に代えて、四酸化三コバルト(和光純薬工業社製)0.79質量部(コバルト元素:0.01mol)を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法でスピネル型複合酸化物粒子(F−3)を製造した。尚、上記原料仕込み時における、前記四酸化三コバルトのコバルトに対する前記モリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/コバルト元素)は、0.01〜2.0の範囲となっている。
得られたスピネル型複合酸化物粒子(F−3)の平均粒径は45μmであり、モリブデン含有量は0.30モル%であり、[111]面の結晶子径は150nmであった。このスピネル型複合酸化物中におけるコバルト原子の存在は、蛍光X線元素分析法(XRF)にて確認できた。
【0100】
<実施例5>
表面処理スピネル(MF−11)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、実施例2で合成したスピネル型複合酸化物粒子(F−11)100質量部、水0.5質量部、およびオクタノール100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にオクタデシルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、100℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、トルエンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル型複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部に付着した、表面処理スピネル型複合酸化物粒子(MF−11)を得た。
【0101】
<実施例6>
表面処理スピネル(MF−12)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、実施例2で合成したスピネル型複合酸化物粒子(F−11)100質量部、水0.5質量部、およびオクタノール100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にビニルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、100℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、トルエンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル型複合酸化物粒子の表面の少なくとも一部に付着した、表面処理スピネル型複合酸化物粒子(MF−12)を得た。
【0102】
<比較例1>
スピネル型複合酸化物粒子(HF−1)の合成
酸化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製)1.00質量部と、酸化亜鉛(和光純薬工業社製)0.80質量部(亜鉛元素:0.01mol)と、を乳鉢で乾式混合した。得られた混合物をアルミナルツボに仕込み、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で1000℃まで昇温した。6時間後、自然放冷により常温まで冷却し、スピネル型複合酸化物粒子(HF−1)を製造した。
得られたスピネル型複合酸化物粒子(HF−1)の平均粒径は10μmであり、モリブデン含有量は0モル%であり、[111]面の結晶子径は50nmであった。このスピネル型複合酸化物中における亜鉛原子の存在は、蛍光X線元素分析法(XRF)にて確認できた。
【0103】
<実施例7>
熱可塑性樹脂としてDIC−PPS LR100G(X−1、DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂、密度1.35g/cm3)の29.7質量部、合成例2で製造したスピネル型複合酸化物粒子(F−1)の70.3質量部を均一にドライブレンドした後、樹脂溶融混練装置ラボプラストミルにより混練温度300℃、回転数80rpmの条件で溶融混練処理し、熱伝導性フィラーの充填率が50容量%のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。樹脂組成物中のフィラー含有量(容量%)は、熱可塑性樹脂の密度と熱伝導性フィラーの密度より計算した。
【0104】
(熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率の測定方法)
得られた樹脂組成物を金型に入れ加工温度300℃で熱プレス成形を行うことで、0.5mm厚のプレス成形体を作製した。作製したプレス成形体から10mmX10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA467 HyperFlash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における熱伝導率の測定を行った。熱伝導率が1.9W/m・K以上の場合を◎、1.7W/m・Kを超えて、1.9W/m・K未満であった場合を○、1.6W/m・K未満であった場合を×とした。
【0105】
(実施例8〜12及び比較例2)
実施例7と同様にして、下記表1の配合率にて充填率が50容量%のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を作成し、および、熱伝導率の測定を行った。
【0106】
表1
【0107】
【表1】
【0108】
上記結果より、本発明で用いる特定スピネル型複合酸化物粒子を用いて調製した熱可塑性樹脂組成物を成形した樹脂成形物は、従来の、モリブデンを含まず、結晶子径が100以下の複合酸化物粒子を用いて調製した熱可塑性樹脂組成物を成形した樹脂成形物に比べて、より放熱性が高いことがわかった。
実施例8と実施例11〜12の対比からわかる様に、有機シラン化合物の硬化物からなる表面処理層を有するスピネル型複合酸化物粒子を用いて得た樹脂成形物は、当該有機シラン化合物の硬化物からなる表面処理層を有さない未処理スピネル型複合酸化物粒子を用いて同様に得た樹脂成形物に比べて、更に優れた熱伝導性を有しており、より放熱性が高いことがわかった。