(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
第1の実施形態に係るエレクトレット素子は、界面を挟んでSi層とSiO
2層とを形成し、SiO
2層側の界面近傍にエレクトレットを形成したものである。本発明者は、以下に説明するようなSi/SiO
2界面の電気的特性を見出し、その電気的特性を利用してSiO
2層にエレクトレットを形成した。
【0013】
図1において、試料100は、Si層101の一方の面にSiO
2層102を形成したものである。Si層101およびSiO
2層102には、Au層103,104が電極として形成されている。Siを高温(500〜700℃程度)にすると、真性キャリア濃度の増大により電気抵抗率が低下して、ほぼ導体とみなすことができる。また、SiO
2は常温において優れた絶縁体であるが、高温(500〜700℃程度)においては熱励起電子の影響によって電気抵抗率が10^4Ωmオーダー(半導体と同程度)まで低下することが知られている。
【0014】
そこで、本発明者は、
図1に示すようにSi/SiO
2界面を有する試料100を製作し、高温(約610℃)状態においてSi/SiO
2界面の電気的特性を調べてみた。
図2は、印加電圧V1と電流iとの関係を示したものであり、高温状態におけるSi/SiO
2界面は、ショットキー接合のような整流効果を有することが判明した。
【0015】
(帯電原理の説明)
図3は、本実施の形態のエレクトレット素子における帯電原理を説明する図である。SiO
2層201をSi層202,203で挟んだ構造の基板(例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板)200をSiO
2が半導体化する高温(500〜700℃)に加熱した状態で、
図3に示すように電圧V1を印加すると、Si/SiO
2界面204を挟んで電気二重層が形成される。なお、通常、Si層には不純物がドープされたものが使用されるが、その場合、p型およびn型のどちらも使用することができる。また、不純物を含まないSi層であっても良い。
【0016】
上述したように、高温状態においてはSi/SiO
2界面は
図2に示すような整流効果を有する。そのため、上側のSi/SiO
2界面204を挟んでSi層202側に正電荷が蓄積され、SiO
2層201側に負電荷が蓄積されることになる。一方、下側のSi/SiO
2界面に関しては電流が流れる方向に電圧が印加されるので、電気二重層は形成されない。
【0017】
次に、電圧を印加した状態で基板200の温度を常温に戻すと、すなわちSiO
2層201の絶縁性が復帰する温度まで低下させると、Si/SiO
2界面204を挟んだSiO
2層201側に蓄積された負電荷はその領域にトラップされたまま移動できなくなる。その後、
図4に示すように、電圧V1の印加を止めてSi層202とSi層203とを接続すると、Si層202からSi層203へ正電荷の一部が移動する。
【0018】
一方、SiO
2層201内の負電荷は、SiO
2層201が絶縁性であるため、印加電圧V1が解除された後もSi/SiO
2界面204の近傍にトラップされたままとなる。その結果、
図4のように電場EがSiO
2層201内に形成される。この電場Eがエレクトレットによる電場であり、Si/SiO
2界面204とSi/SiO
2界面205との間の電位差はV1である。すなわち電圧V1のエレクトレットが形成されたことになる。
【0019】
図5〜7を参照して帯電量等について詳しく説明する。
図5は、Si層でSiO
2層を挟んだ構造の模式図である。面電荷Q2,Q3は
図4に示した電気二重層を構成する電荷である。電気二重層における面電荷Q2,Q3間の距離dは非常に小さいが、
図5では分かりやすいように距離dを誇張して大きく表示しており、SiO
2層201内の面電荷Q2は図示した位置に固定されているものとする。
図5では、Si層203にも面電荷Q1が帯電しており、構造全体で中性であるとする。このため、SiO
2層201内の電場E1,E2のみがゼロでない大きさを持ち、この電場E1,E2によるSi層202,203間の電位差はVであるとする。
【0020】
まず、面電荷Q1,Q3の分配について説明する。面電荷Q1を挟む領域、面電荷Q2を挟む領域、および面電荷Q3を挟む領域のそれぞれにガウスの法則を適用すると、次式(1)〜(3)が得られる。なお、SはSiO
2層201,Si層202,203の断面積、ε1はSiO
2層201の誘電率である。
ε1・E1・S=Q1 …(1)
(ε1・E2−ε1・E1)・S=Q2 …(2)
−ε1・E2・S=Q3 …(3)
【0021】
また、上下のSi層間の電位差がVであるので、次式(4)が成立する。dは面電荷Q2,Q3間の距離であり、gは面電荷Q1,Q2間の距離である。
g・E1+d・E2=−V …(4)
【0022】
式(1)〜(4)を整理すると、次式(5)、(6)のように面電荷Q1,Q3が得られる。
Q1=−d・Q2/(g+d)−ε1・S・V/(g+d) …(5)
Q3=−Q2−Q1 …(6)
【0023】
次に、帯電処理の際に印加する電圧Vと面電荷Q2との関係を、
図6を用いて説明する。印加電圧VはV=V1と設定され、
図2から判るようにSi/SiO
2界面205は電流が流れるので、
図6の状態では次式(7),(8)が成立している。そして、式(7),(8)を式(5)に適用すると、式(9)が得られる。このQ2がSiO
2層201に帯電している固定面電荷であって、エレクトレットを形成している。ここで、印加電圧V1がV1>0である場合は、Q2<0となる。
図6では、基板200の図示右側に、積層方向の電位の変化を示した。
図6の場合、Si/SiO
2界面204に電気二重層が形成され、この電気二重層に電圧V1が集中している。
V=V1 …(7)
Q1=0 …(8)
Q2=−ε1・S・V1/d …(9)
【0024】
次に、
図4に示した帯電処理後の常温における面電荷について説明する。なお、SiO
2層201は常温では絶縁性が復帰して電荷がトラップされたままとなるので、面電荷Q2は式(9)の値が維持される。面電荷Q1については、式(9)を式(5)に代入することにより、式(10)のようになる。
Q1=−ε1・S・(V1−V)/(g+d) …(10)
【0025】
図6に示す状態ではSi層202とSi層203との間には電位差V1があるが、
図7に示すようにSi層202とSi層203とを接続すると、その電位差によってSi層202からSi層203へ正電荷が移動して電位差が減少する。上述した式(10)は、電位差がV1からVまで変化したときの正電荷の移動量を表している。最終的には
図7に示すように電位差VはV=0となるので、Si層203の面電荷Q1は次式(11)のようになる。
Q1=−ε1・S・V1/(g+d) …(11)
【0026】
なお、式(10)と式(9)とを比較すると、次式(12)の関係が成り立つ。ただし、|V|<|V1|、かつ、d<<gとする。
|Q1|<<|Q2| …(12)
【0027】
一方、面電荷Q3については、式(6)から分かるように、面電荷Q2に誘導された電荷−Q2と、微小な電荷Q1の流出による電荷−Q1との和になっている。したがって、基本的に高電荷密度の電気二重層{Q2、−Q2}があり、電位差にしたがって上下のSi層間で少量の電荷Q1が移動するというイメージとなっている。
【0028】
このようなエレクトレットの利点は、
図7に示すように電位差V=0にてQ1≠0(すなわち電場E1≠0)となることである。式(11)からも分かるように、このときに生じる電場E1の大きさは、エレクトレットが無いとき(Q2=0)に外部バイアス電圧V1を印加したときに生じる電場と同じ大きさである。このことから、「エレクトレットの帯電電圧はV1である」と表現している。
【0029】
なお、
図7に示す例では電場E1がSiO
2層201内部にとどまり利用価値が小さいが、後述するような所定の構造に帯電処理を施すことで、ギャップ空間に電場を発生させることができる。このギャップ空間に発生させた電場を利用して、電気・機械変換(電気的エネルギーと機械的エネルギーとの間の変換)が可能となり、発電、センサ、アクチュエータなどに利用することができる。
【0030】
−第2の実施の形態−
第2の実施の形態は、第1の実施の形態のエレクトレット素子を、機械電気変換器の一例である櫛歯構造の振動発電デバイスに適用したものである。
図8は振動発電デバイス300の概略構成を示す模式図である。この振動発電デバイス300も第1の実施の形態のエレクトレット素子の場合と同様に、SOI基板を一般的なMEMSの場合と同様の半導体集積回路作製技術(例えば、ICP−RIEによる深掘りエッチング等)を用いて加工することにより形成される。
【0031】
振動発電デバイス300は、矩形リング形状の台座301の上に固定櫛歯電極302および可動櫛歯電極303を備えている。可動櫛歯電極303は、弾性支持部305によって台座301上に弾性支持されている。可動櫛歯電極303の各櫛歯は、固定櫛歯電極302の各櫛歯の間にギャップを介して配置されている。可動櫛歯電極303には錘304が設けられている。振動発電デバイス300に外部から振動が加わると、可動櫛歯電極303が矢印R方向に振動する。負荷320は、固定櫛歯電極302と可動櫛歯電極303との間に接続される。後述するように固定櫛歯電極302にはエレクトレットが形成されており、振動発電デバイス300に外力が加わって可動櫛歯電極303が振動すると、発電が行われる。
【0032】
本実施の形態では、SOI基板を
図9に示す形状に加工した後に、エレクトレットが形成されるSiO
2層として、Si層の表面に酸化膜(SiO
2層)(厚さt=0.2〜1μm程度)が熱酸化法により形成される(
図10参照)。その後、第1の実施の形態と同様にして酸化膜に電荷を固定してエレクトレットを形成する。なお、本実施形態ではSi層の表面に形成される酸化膜(SiO
2層)を熱酸化法により形成したが、これに限らず、種々の酸化膜形成方法により酸化膜(SiO
2層)しても良い。例えば、CVDによりSi層上にSiO
2を堆積することで、酸化膜(SiO
2層)をして形成しても良い。
【0033】
図9は、
図8のB1−B1断面形状を示す図であって、酸化膜を形成する前の段階の形状を示す。台座301は、SOI基板のハンドル層(Si)によって形成される。固定櫛歯電極302は、SOI基板のデバイス層(Si)によって形成される。符号307で示す部分は、SOI基板のBOX層と呼ばれる埋め込み酸化膜(SiO
2)である。図示は省略するが、可動櫛歯電極303,弾性支持部305および錘304は、SOI基板のデバイス層によって形成される。
【0034】
図10は、酸化膜を形成し、帯電処理した後のB1−B1断面形状を示す図である。Si層で形成された固定櫛歯電極302および台座301の表面にはそれぞれ酸化膜310が形成されている。酸化膜310の帯電処理を行う際には、第1の実施の形態の場合と同様に、SiO
2層である酸化膜310が半導体化する温度までヒータ等を用いて加熱する。そして、酸化膜310が半導体化したならば、バイアス電圧V1(10〜200V)を印加した状態で、半導体化した酸化膜310が絶縁性を回復する温度まで冷却する。
図10に示すように、Si層のエッジ部は熱酸化によりR形状となるので、バイアス電圧印加時の電場集中が緩和され、絶縁破壊強度が大きくなる。そのため、固定櫛歯電極302と可動櫛歯電極303とのギャップ寸法(2μm程度)が小さいのにも拘わらず、比較的高いバイアス電圧を印加することができる。
【0035】
(帯電処理の詳細説明)
帯電処理を行う場合、
図11に示すようにバイアス電圧V1を、固定櫛歯電極302と可動櫛歯電極303および台座301との間に印加する。まず、振動発電デバイス300を、SiO
2から成る酸化膜310が半導体化する温度(500〜700℃)まで加熱する。そして、固定櫛歯電極302のSi/SiO
2界面306を挟んで電気二重層が形成されるように(
図10参照)、バイアス電圧V1を印加する。
【0036】
図12は、電気二重層が形成された状態における、固定櫛歯電極302および可動櫛歯電極303がオーバーラップしている部分の断面(
図11の紙面に平行な断面)を、模式的に示したものである。なお、以下では、固定櫛歯電極302に形成された酸化膜は符号310aを付し、可動櫛歯電極303に形成された酸化膜には符号310bを付す。また、固定櫛歯電極302のSi層には符号311aを付し、可動櫛歯電極303のSi層には符号311bを付す。バイアス電圧を印加すると、Si/SiO
2界面306における電気二重層の電位差は徐々に上昇し、やがて電圧V1となる(数秒〜数分)。
【0037】
SiO
2層(酸化膜310aおよびBOX層307)は半導体化して電気抵抗率が低下しているので、SiO
2層内はほぼ同電位となる。そのため、Si/SiO
2界面306全体において均一な電荷密度となり、櫛歯先端まで電気二重層が形成される。なお、Si/SiO
2界面306全体に電気二重層が形成されると、抵抗率の低下したSiO
2層によって静電遮蔽されることになるので、電気二重層の外側に電場が出なくなる。それによって櫛歯電極間の静電力はゼロとなるため、これを観測することにより帯電処理完了の目安とすることができる。
【0038】
図13は、
図12の破線Cで囲んだ領域の構造を詳細に示す模式図であり、第1の実施の形態の
図5に対応するものである。Si/SiO
2界面306を挟んで電気二重層を構成する面電荷Q5,Q6が、固定櫛歯電極302の酸化膜310aおよびSi層311aに形成される。面電荷Q4は、可動櫛歯電極303のSi層311bに帯電する電荷を示す。E3は、可動櫛歯電極303の酸化膜310b内に形成される電場である。E5,E6は、固定櫛歯電極302の酸化膜310a内に形成される電場である。E4は、櫛歯電極302,303間のギャップ空間Gに形成される電場である。
【0039】
図13の、面電荷Q4を含む領域、酸化膜310bとギャップ空間Gとの界面を含む領域、酸化膜310aとギャップ空間Gとの界面を含む領域、面電荷Q5を含む領域、および面電荷Q6を含む領域のそれぞれにガウスの法則を適用すると、次式(13)〜(17)が得られる。なお、Sは、
図12の領域Cを切り出した場合の断面積である。ε0,ε1はギャップ空間Gおよび酸化膜(SiO
2)の誘電率である。
ε1・E3・S=Q4 …(13)
(ε0・E4−ε1・E3)・S=0 …(14)
(ε1・E5−ε0・E4)・S=0 …(15)
(ε1・E6−ε1・E5)・S=Q5 …(16)
−ε1・E6・S=Q6 …(17)
【0040】
また、上下のSi層311a,311b間の電位差がVなので、
図13に示す距離d,g1,g2,g3に関して次式(18)が成立する。
g1・E3+g2・E4+g3・E5+d・E6=−V …(18)
【0041】
式(13)〜(17)から、面電荷Q4,Q5,Q6の間の関係を表す次式(19)が得られる。
Q6=−Q5−Q4 …(19)
【0042】
また、式(13)〜(18)から、エレクトレット電荷である面電荷Q5を表す次式(20)が得られる。
Q5=−[(d+g1+g2(ε1/ε0)+g3)/d]Q4
−ε1・S・V/d …(20)
【0043】
図14に示すようにバイアス電圧V1を印加した場合、Si/SiO
2界面308は電流が流れるので、バイアス電圧印加状態においてはV=V1、Q4=0となる。式(20)においてV=V1、Q4=0とすると、面電荷Q5は次式(21)で表される。印加電圧V1がV1>0である場合は、Q5<0となる。また、式(19)でQ4=0とすると、Q6=−Q5となる。このように、
図14の場合、Si/SiO
2界面306に電気二重層が形成され、この電気二重層に電圧V1が集中している。
Q5=−ε1・S・V1/d …(21)
【0044】
図14に示すようにSi/SiO
2界面306に電気二重層が形成された状態で、すなわちバイアス電圧V1を印加した状態で温度をSiO
2が絶縁性を取り戻す温度(例えば、常温)まで下げると、酸化膜310aに帯電している面電荷Q5は
図14で示す位置に固定化される。その後、
図15に示すように固定櫛歯電極302のSi層311aと可動櫛歯電極303のSi層311bとを接続すると、それらの間の電位差(
図14参照)によってSi層311aからSi層311bへと電荷(Q4)が移動して電位差が減少する。電位差がV1からVまで変化した場合、そのときの電荷の移動量は次式(22)で表される。最終的に
図15に示すように電位差がゼロになると、面電荷Q4は、次式(23)のようになる。
Q4=−ε0・S・(V1−V)/[g’+d・(ε0/ε1)] …(22)
ただし、g’=g2+(g1+g3)・(ε0/ε1)
Q4=−ε0・S・V1/[g’+d・(ε0/ε1)] …(23)
【0045】
式(13),(14)からQ4=ε0・E4・Sとなるので、この式と式(23)とから、
図15におけるギャップ空間Gの電場E4は次式(24)で表される。これは、エレクトレット(面電荷Q5)が無い場合に電圧V1を印加したときに形成される電場と一致する。
E4=−V1/[g’+d・(ε0/ε1)] …(24)
【0046】
(発電動作の説明)
次に、振動発電デバイス300の発電動作について説明する。
図16は、固定櫛歯電極302に対して可動櫛歯電極303がスライド移動して、櫛歯同士のオーバーラップがゼロとなった状態(c)と、櫛歯の半分がオーバーラップした状態(b)と櫛歯の全体がオーバーラップした状態(a)とを模式的に示したものである。これは、低インピーダンス極限の負荷320を接続した場合に相当し、式(22)において、面積S(オーバーラップ面積に相当)が変化することによって面電荷Q4の電荷量が変化することに対応している。なお、ここでは説明を簡単にするために、面電荷Q5に示すマイナス符号1つを電荷量−qとし、面電荷Q4,Q6に示すプラス符号1つを電荷量+qとみなして電荷量の変化を説明する。
【0047】
図16の状態(a)は、
図15に示した状態と同様であって、固定櫛歯電極302のSi層311aの電位と可動櫛歯電極303のSi層311bの電位とは等しくなっている。すなわち、電位差V=0である。そのため、負荷320には電流は流れない。このとき、面電荷Q6の電荷量は+6q、面電荷Q5の電荷量は−8q、面電荷Q4の電荷量は+2qとなっている。
【0048】
状態(b)では、固定櫛歯電極302に対して可動櫛歯電極303が図示左方向に移動して、櫛歯のオーバーラップ面積が半分に減少した状態を示す。オーバーラップ面積の減少に伴って面電荷Q4の電荷量が+2qから+qに減少し、面電荷Q6の電荷量が+6qから+7qに増加する。その結果、可動櫛歯電極303のSi層311bから固定櫛歯電極302のSi層311aへ電流Iが流れる。
【0049】
状態(b)からさらにオーバーラップ面積が減少すると、オーバーラップ面積の減少と共に面電荷Q4の電荷量が減少する。そして、状態(c)のようにオーバーラップ面積がゼロとなると、面電荷Q4の電荷量はゼロとなり、面電荷Q6の電荷量は+8qとなる。
【0050】
このように、固定櫛歯電極302に対して可動櫛歯電極303が振動すると、
図16に示した状態(a)〜(c)が、(a)→(b)→(c)→(b)→(a)→(b)→・・・のように繰り返され、交流電流が負荷320に流れる。なお、負荷320として高インピーダンス極限の負荷を接続した場合には、面電荷Q4の電荷量が変化することなくオーバーラップ面積が変化するので、電位差Vが変化することになる。一般に、負荷インピーダンスを調整することにより、取り出す電力の最大化が図られる。
【0051】
−第3の実施の形態−
第3の実施の形態は、MEMSシャッタの櫛歯型アクチュエータに、第1の実施の形態のエレクトレット素子を適用したものである。
図17は本実施の形態のMEMSシャッタ400の概略構成を示す図である。なお、
図8に示した振動発電デバイス300と同様の構成要素には同一の符号を付した。すなわち、MEMSシャッタ400はSOI基板を加工することにより形成され、矩形リング形状の台座301に固定された固定櫛歯電極302、弾性支持部305によって台座301に固定された可動櫛歯電極303を備えている。固定櫛歯電極302および可動櫛歯電極303は、櫛歯型アクチュエータを構成している。可動櫛歯電極303には開口404aが形成されたシャッタ部404が設けられている。
【0052】
固定櫛歯電極302と可動櫛歯電極303との間には、電圧源401によりアクチュエータ駆動用の電圧が印加される。制御部402は、電圧源401の印加電圧Vを制御して、シャッタ部404が設けられた可動櫛歯電極303を矢印Rの方向に移動させる。シャッタ部404は光路上に配置されており、可動櫛歯電極303の移動によりシャッタ部404の開口404aが光路中に配置されると、光線がシャッタ部404を通過する。一方、シャッタ部404の非開口領域(遮蔽領域)が光路中に配置されることで、光線がシャッタ部404により遮断される。
【0053】
なお、固定櫛歯電極302および可動櫛歯電極303の構成および形成方法、さらには、固定櫛歯電極302へのエレクトレットの形成方法も、上述した第2の実施の形態と同様であり、ここでは説明を省略する。
【0054】
(動作説明)
図18〜20は櫛歯型アクチュエータの駆動動作を説明する図である。
図18は電圧源401の印加電圧VがV=0の場合を示す。
図18において、(a)は可動櫛歯電極303に作用する力F1,F2を示し、(b)は印加電圧Vと電場E4との関係を示す図である。印加電圧V=0の場合、Si層311aとSi層311bとは同電位となり、
図15,16に示す場合と同じ状態となっている。固定櫛歯電極302と可動櫛歯電極303との間のギャップ空間Gには、前述した式(24)で表される電場E4が形成される。この電場E4によって、可動櫛歯電極303には、固定櫛歯電極302の櫛歯間に引き込まれるような図示右向きの力F1が作用する。
【0055】
電場E4による力F1によって可動櫛歯電極303が固定櫛歯電極302に引き込まれるように移動すると、
図18の(a)に示すように弾性支持部305が変形する。その結果、弾性支持部305の弾性力により、図示左側に引き戻すような力F2が可動櫛歯電極303に作用する。可動櫛歯電極303は、力F1と力F2とが釣り合う位置で停止する。
【0056】
図19は印加電圧Vを0<V<V1に設定した場合を示す。この場合、ギャップ空間Gの電場E4は、前述した式(22)に式(13)、(14)を適用して得られる次式(25)で表される。式(24),(25)から分かるように、
図19における電場E4の強さは、印加電圧V=0の場合よりも弱くなる。その結果、可動櫛歯電極303の固定櫛歯電極302方向への吸引する静電力F1が小さくなり、可動櫛歯電極303は、
図19の(a)に示すように、静電力F1が弾性支持部305の弾性力F2と釣り合う位置まで図示左方向に移動する。
E4=−(V1−V)/[g’+d・(ε0/ε1)] …(25)
【0057】
図20は、印加電圧VをV=V1とした場合を示す図である。このとき、面電荷Q5と面電荷Q6との電荷量が等しくなり、この電気二重層における電位差はV1と等しくなる。その結果、ギャップ空間Gの電場E4はゼロとなり、固定櫛歯電極302と可動櫛歯電極303との間の静電力F1もゼロになる。よって、
図20に示すように弾性支持部305の変形もゼロとなる。
【0058】
以上のように、本実施の形態においては、電圧源401による印加電圧Vを変化させて可動櫛歯電極303をスライド駆動することで、シャッタ部404によるシャッタ開閉を行うことができる。また、
図18〜20に示したように、櫛歯電極にエレクトレットを組み込むことにより、印加電圧V=0においてギャップ空間Gの電場E4の強さが最大となる。
【0059】
ところで、櫛歯アクチュエータにおける櫛歯間に働く静電力は、電場の二乗に比例する。そのため、エレクトレットを使用せず印加電圧Vだけで櫛歯アクチュエータを駆動する構成の場合には、印加電圧Vと静電力F1との関係は、
図21のラインL1で示すような二次曲線となる。一方、本実施の形態のようにエレクトレットを形成した櫛歯アクチュエータの場合、印加電圧Vと静電力F1との関係はラインL2のようになる。ラインL2は、ラインL1をエレクトレットの帯電電圧V1に相当する分だけ横軸正の方向に移動したラインとなっている。そのため、等しい印加電圧ΔVに対して、エレクトレット有りの場合の静電力ΔFbは、エレクトレット無しの場合の静電力ΔFaの場合よりも大きくなる。すなわち、エレクトレットを形成した場合には、外部バイアス電圧のみの構成に比べて大きな静電力を得ることができる。
【0060】
以上説明したように、エレクトレット素子は、
図4に示すようにSi層202と、Si層202の表面に形成されたSiO
2層201と、SiO
2層201におけるSi層202との界面の近傍に形成されたエレクトレットと、を備える。エレクトレットを構成する電荷はSi/SiO
2界面付近に固定されるので、SiO
2層201が保護膜として機能し、エレクトレットの寿命を向上させることができる。
【0061】
エレクトレットは、SiO
2層201が形成されたSi層202を、SiO
2層201が半導体状態となる第1の温度(約500〜700℃)に維持しつつ、Si層202とSiO
2層201との間に電圧を印加し、さらに、電圧を印加した状態で、SiO
2層201が形成されたSi層202を、前記第1の温度からSiO
2層201が絶縁性を回復する第2の温度(例えば、300℃以下程度の温度)まで変化させることにより形成される。
【0062】
このように、SiO
2層内で電荷を移動させて固定する方法によりエレクトレットが形成されるので、
図8に示すような櫛歯電極の櫛歯側面のように狭ギャップ部位や、密閉空間に配置された電極であっても、容易にエレクトレットを形成することができる。狭ギャップ部位へのエレクトレット形成が容易となることから、ギャップ寸法をより小さく設計することが可能となり、発電デバイスやアクチュエータとしての性能が向上する。
【0063】
さらに、電荷はデバイス表面の電場とは直接関係せずに移動するので、帯電処理(エレクトレット形成処理)の際に特別な工夫をしなくても、均一な電荷密度で帯電させることができる。また、
図3に示すように電気二重層を形成して帯電を行わせるので、界面を挟んで帯電する電荷間のギャップが非常に小さく、小さな電位でも大きな電荷密度を得ることができる。
【0064】
また、第2の実施の形態のように、互いに対向配置された固定櫛歯電極302と可動櫛歯電極303を備え、固定櫛歯電極302はエレクトレット素子で構成されている。そして、可動櫛歯電極303が移動することにより、すなわち可動櫛歯電極303が固定櫛歯電極302に対して変位することにより、電気的エネルギーと機械的エネルギーとの間の変換を行う電気機械変換器(例えば、振動発電デバイス300)として機能する。
【0065】
なお、上述した実施形態では、固定櫛歯電極302側にエレクトレットを形成したが、可動櫛歯電極303側にエレクトレットを形成する構成としても良い。さらに、一対の櫛歯電極の一方を可動とする構成に限らず、一対の櫛歯電極の両方が移動するような構成としても良い。
【0066】
電気機械変換器としては、発電デバイスの他に、
図17に示すようなシャッタ部404を駆動するためのアクチュエータや、エレクトレットコンデンサマイクロフォン等がある。上述した実施の形態のエレクトレット素子の場合、特許文献3に記載のエレクトレットのようにアルカリ金属のイオンを含む構成ではないので、CMOSデバイスとの共存が可能であり、例えば、
図17の制御部402の一部の回路素子を台座301のSi層(デバイス層)に形成することが可能となる。このような回路素子としては、例えば、駆動回路用のトランジスタ、マイクやセンサの増幅回路用のFETや抵抗、発電素子用の整流用ダイオードなどがある。
【0067】
なお、上述した第2の実施形態では、電極302,303を櫛歯構造の電極としていたが、ギャップ距離が変化する平行平板構造としても良い。これにより、エレクトレット素子を、平行平板型の振動発電デバイスや、コンデンサマイクに対して利用することができる。
【0068】
また、上述した実施の形態では、固定櫛歯電極302および可動櫛歯電極303を含むデバイス全体を加熱して帯電処理を行っているが、エレクトレットの形成に関係する領域(帯電させたいSiO
2層と電流を流したいSi層)のみを局所的にレーザー等で加熱しても良い。これにより、増幅回路を内蔵したエレクトレットマイクのようなデバイスにも応用が可能となる。
【0069】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、発明を解釈する際、上記実施の形態の記載事項と特許請求の範囲の記載事項の対応関係に何ら限定も拘束もされない。