【文献】
ROBERT M. MOORE et al.,An Experimental Crystalline-Selenium Vidicon,IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES,米国,IEEE,1976年 6月,ED-23, No.6,pp.534-537
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塩素、臭素、ヨウ素、アンチモン、タリウムから選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を熱処理することにより形成された結晶セレン膜を含む光電変換層を有し、前記結晶セレン膜の平均面粗さが20nm以下であることを特徴とする光電変換素子。
前記アモルファスセレン膜が、前記添加元素とセレンとを含む蒸着源を用いて蒸着することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
光電変換層を形成する工程が、塩素、臭素、ヨウ素、アンチモン、タリウムから選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を形成する成膜工程と、
前記アモルファスセレン膜を熱処理することにより平均面粗さが20nm以下である結晶セレン膜を形成する熱処理工程とを有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
前記光電変換層を形成する工程を行う前に、前記光電変換層の被形成面上にテルル、ビスマス、アンチモンからなる群から選択される一種または二種以上からなる接合膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の技術では、高画質の画像を得るために、光電変換膜として用いる結晶セレン膜の結晶粒径を小さくするには、結晶セレン膜の膜厚を薄くしなければならなかった。結晶セレン膜の膜厚を薄くすると、結晶セレン膜からなる光電変換膜を備えた固体撮像素子において、長波長領域の感度が得られにくくなるという不都合がある。このため、十分な膜厚を有し、かつ結晶粒径の小さい結晶セレン膜を形成することが望まれていた。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、膜厚に関わらず十分に小さい結晶粒径を有する結晶セレン膜を含む光電変換層を有し、結晶セレン膜の膜厚を十分に確保することにより可視光全域で十分な感度を得ることができ、しかもこれを用いた固体撮像素子において高画質の画像が得られる光電変換素子およびその製造方法、上記の光電変換素子を備える固体撮像素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、塩素、臭素、ヨウ素、アンチモン、タリウムから選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を熱処理して結晶セレン膜を形成することで、十分に厚い膜厚で形成しても結晶粒径の小さい結晶セレン膜が得られることを見出し、本発明を想到した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に関わるものである。
(1)塩素、臭素、ヨウ素、アンチモン、タリウムから選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を熱処理することにより形成された結晶セレン膜を含む光電変換層を有することを特徴とする光電変換素子。
【0012】
(2)前記アモルファスセレン膜が、前記添加元素とセレンとを含む蒸着源を用いて蒸着することにより形成されたものであることを特徴とする(1)に記載の光電変換素子。
(3)前記添加元素が塩素であることを特徴とする(1)または(2)に記載の光電変換素子。
(4)前記結晶セレン膜の膜厚が0.1〜5μmであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の光電変換素子。
(5)前記結晶セレン膜の平均面粗さが20nm以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の光電変換素子。
(6)前記結晶セレン膜の結晶粒の最大半径が400nm以下であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の光電変換素子。
【0013】
(7)光電変換層を形成する工程が、塩素、臭素、ヨウ素、アンチモン、タリウムから選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を形成する成膜工程と、
前記アモルファスセレン膜を熱処理することにより結晶セレン膜を形成する熱処理工程とを有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
(8)前記成膜工程が、前記添加元素とセレンとを含む蒸着源を用いて蒸着することにより、前記アモルファスセレン膜を形成する工程であることを特徴とする(7)に記載の光電変換素子の製造方法。
(9)前記添加元素が塩素であることを特徴とする(7)または(8)に記載の光電変換素子の製造方法。
(10)前記光電変換層を形成する工程を行う前に、前記光電変換層の被形成面上にテルル、ビスマス、アンチモンから選ばれるいずれか一種または二種以上からなる接合膜を形成する工程を有することを特徴とする(7)〜(9)のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【0014】
(11)(1)〜(6)のいずれかに記載の光電変換素子を備えることを特徴とする固体撮像素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光電変換素子は、膜厚に関わらず十分に小さい結晶粒径を有する結晶セレン膜を含む光電変換層を有する。したがって、本発明の光電変換素子では、結晶セレン膜の膜厚を十分に確保することにより可視光全域で十分な感度を得ることができ、しかもこれを用いた固体撮像素子において高画質の画像が得られる。
また、本発明の光電変換素子の製造方法では、膜厚に関わらず、十分に小さい結晶粒径を有する結晶セレン膜を含む光電変換層を有する光電変換素子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の光電変換素子の一例を説明するための断面模式図である。
図1に示す光電変換素子100は、透明基板1上に、透明導電膜2(電極)と、半絶縁性金属酸化物膜3と、接合膜4と、光電変換層としての結晶セレン膜5と、電極6とがこの順に積層されているものである。
図1に示す光電変換素子100は、透明基板1側から光入射を行うものである。
【0018】
透明基板1としては、例えば、ガラス基板などを用いることができる。
透明導電膜2としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、IZO(酸化亜鉛スズ)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)などからなるものを用いることができる。
【0019】
半絶縁性金属酸化物膜3は、n型半導体として機能するものである。半絶縁性金属酸化物膜3としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化インジウム(In
2O
3)からなる群から選択される一種または二種以上のものを用いることができる。これらの半絶縁性金属酸化物膜3の中でも、特に、非加熱で成膜でき、光電変換素子100の逆バイアス電圧印加時の暗電流を大幅に低減できる酸化亜鉛膜または酸化ガリウム膜を用いることが好ましい。半絶縁性金属酸化物膜3が酸化ガリウム膜である場合、酸化ガリウム膜は結晶構造を有するものであってもよいし、アモルファス(非結晶)であってもよい。
【0020】
半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚は10〜100nmであることが好ましい。半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が10nm以上である場合、暗電流を効果的に抑制できる。また、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が100nm以下である場合、十分な感度を有する光電変換素子100が得られる。さらに、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚が20nm以下である場合、より高感度の光電変換素子100が得られる。したがって、半絶縁性金属酸化物膜3の膜厚は、20nm以下であることがより好ましい。
【0021】
接合膜4は、
図1に示すように、半絶縁性金属酸化物膜3の一方の面(
図1においては上面)に接して配置されている。接合膜4は、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との接着力を向上させる機能を有するものである。
接合膜4は、テルル(Te)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)から選ばれるいずれか一種または二種以上からなるものであることが好ましい。接合膜4としては、上記の中でもテルル膜を用いることが好ましい。
【0022】
接合膜4は、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の全域に連続して形成されたものであってもよいし、接合膜4の厚みを薄くすることによって半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の一部に形成されていない領域が存在しているものであってもよい。例えば、接合膜4が平面視で島状に形成されている場合など、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との間の一部に接合膜4の形成されていない領域が存在していても、接合膜4によって半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との密着性を向上させることができる。
【0023】
接合膜4の膜厚は0.1〜10nmであることが好ましい。接合膜4の膜厚が、0.1nm以上であると、半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との接着力を効果的に高くでき、好ましい。また、接合膜4の膜厚が10nm以下、より好ましくは3nm以下であると、接合膜4が結晶セレン中の結晶欠陥となり、暗電流増加の要因となることを防止できる。
【0024】
接合膜4の半絶縁性金属酸化物膜3と反対側の面(
図1においては上面)には、接合膜4に接して光電変換層である結晶セレン膜5が配置されている。
図1に示す結晶セレン膜5は、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、アンチモン(Sb)、タリウム(TI)から選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を熱処理することにより形成されたものである。このため、結晶セレン膜5は、上記の添加元素を含むものであって、結晶性に優れ、十分に小さい結晶粒径を有する。
【0025】
添加元素は、上記のうちハロゲン元素である塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるいずれか一種または二種以上であることが好ましい。アモルファスセレン膜中のハロゲン元素は、鎖状に成長するセレン結晶の鎖の終端に結合し、セレン結晶の成長を妨げると推定される。このことによって、アモルファスセレン膜を熱処理する際におけるセレン結晶の成長が抑制され、微細な結晶粒径を有し、平坦性に優れた結晶セレン膜5が得られると推定される。
【0026】
よって、添加元素は、上記のうち塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるいずれか一種または二種以上であることが好ましい。また、塩素、臭素、ヨウ素は、電子捕獲準位を形成する物質である。したがって、添加元素が、塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるいずれか一種または二種以上である場合、アバランシェ効果を損なうことなく、良好な暗電流特性が得られる。さらに、添加元素が塩素であると、イオン半径が他の添加元素よりも小さく、セレン中で安定な構造をとりやすいため好ましい。
【0027】
結晶セレン膜5の形成に用いるアモルファスセレン膜は、上記の添加元素とセレンとを含むペレットなどの蒸着源を用いて蒸着することにより形成されたものであることが好ましい。このようなアモルファスセレン膜は、添加元素の濃度が均一となりやすいため、アモルファスセレン膜を熱処理することにより得られた結晶セレン膜5が、均一な結晶粒径を有し、平坦性に優れたものとなる。
【0028】
結晶セレン膜5の膜厚は0.1〜5μmであることが好ましい。結晶セレン膜5の膜厚が0.1μm以上であると、可視光全域で十分な感度を得ることができ、光電変換層として良好に機能するものとなる。結晶セレン膜5の膜厚は、長波長領域の感度を高めるために、0.2μm以上であることがより好ましい。また、結晶セレン膜5の膜厚が5μm以下であると、効率よく形成でき、生産性に優れた光電変換素子100となる。結晶セレン膜5の膜厚は、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
【0029】
結晶セレン膜5は、結晶粒径が小さいほど、表面の平坦性に優れる。具体的には、結晶セレン膜5は、Ra(平均面粗さ)が20nm以下であることが好ましく、11nm以下であることがより好ましい。
【0030】
結晶セレン膜5の表面の平坦性が優れていると、結晶セレン膜5に局所的な高電界が生じにくいため、アバランシェ電荷倍増を生じさせる高電界を安定して印加できる。具体的には、アバランシェ電荷増倍は、光電変換膜である結晶セレン膜5に高電界が印加されることで生じる。この時、結晶セレン膜の結晶粒径が大きく、表面の平坦性が不十分であると、結晶セレン膜に局所的に高電界がかかり、光電変換素子の絶縁破壊が生じやすくなる。
【0031】
結晶セレン膜5の結晶粒の最大半径は、400nm以下であることが好ましく、370nm以下であることがより好ましい。結晶セレン膜5の結晶粒の最大半径が370nm以下であると、画素間の結晶セレン膜の感度の差が十分に小さいものとなり、より高画質の画像が得られる。
しかし、添加元素を含むアモルファスセレン膜を熱処理することにより結晶セレン膜5を形成する場合、結晶粒の最大半径が50nm未満の結晶セレン膜5を、ピンホール及び/または膜剥がれを生じさせることなく形成することは困難である。このため、結晶セレン膜5の結晶粒の最大半径は、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。
結晶セレン膜5の結晶粒の最大半径は、以下に示す方法により測定できる。結晶セレン膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM)により観察し、各粒子の面積を測定し、その面積に相当する円の半径(円相当半径)を算出し、その最大値を結晶粒の最大半径とする。
【0032】
電極6は、ITO、IZO、AZO、Al(アルミ)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)など導電性を有する材料からなる。電極6は、透光性を有するものであってもよいし、透光性を有していなくてもよい。
【0033】
次に、
図1に示す光電変換素子100の製造方法を説明する。
図1に示す光電変換素子100を製造するには、まず、透明基板1の一方の面(
図1においては上面)に、例えば、スパッタリング法などにより透明導電膜2を形成する。
次いで、透明導電膜2上に、スパッタリング法、パルスレーザー蒸着法、真空蒸着法などにより、半絶縁性金属酸化物膜3を形成する。なお、半絶縁性金属酸化物膜3として、酸化ガリウム膜または酸化亜鉛膜を形成する場合、スパッタリング法などを用いて非加熱で半絶縁性金属酸化物膜3を成膜でき、好ましい。
【0034】
半絶縁性金属酸化物膜3は、酸素雰囲気中で形成することが好ましい。半絶縁性金属酸化物膜3を酸素雰囲気中で形成する場合、形成する際の酸素の圧力は7.5×10
−3Pa〜3.0×10
−1Paであることが好ましい。半絶縁性金属酸化物膜3を圧力7.5×10
−3Pa〜3.0×10
−1Paの酸素雰囲気中で形成することで、半絶縁性金属酸化物膜3の結晶欠陥を低減することができ、逆バイアス電圧印加時の暗電流をより一層低減できる。
【0035】
次に、
図1に示す半絶縁性金属酸化物膜3の上面(結晶セレン膜5の被形成面上)に、真空蒸着法やスパッタリング法などにより、接合膜4を形成する。
接合膜4は、後述する熱処理の際に半絶縁性金属酸化物膜3と結晶セレン膜5との接着力を向上させ、結晶セレン膜5の膜剥がれを防止する機能を有する。
【0036】
続いて、接合膜4上に、塩素、臭素、ヨウ素、アンチモン、タリウムから選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を形成する(成膜工程)。アモルファスセレン膜に含まれる添加元素は、上記のうち塩素、臭素、ヨウ素から選ばれるいずれか一種または二種以上であることが好ましく、特に塩素であることが好ましい。
【0037】
成膜工程で形成するアモルファスセレン膜中に上記の添加元素が含まれていると、膜厚に関わらず、後述する熱処理工程を行うことにより得られる結晶セレン膜の結晶粒径が小さくなるとともに、結晶性が良好となる効果が得られる。アモルファスセレン膜中における上記の添加元素の濃度が高いほど、熱処理工程後に得られる結晶セレン膜の結晶粒径が小さくなるとともに、結晶性が良好となる。
【0038】
成膜工程は、添加元素とセレンとを含むペレットなどの蒸着源を用いて、真空蒸着法によりアモルファスセレン膜を形成する工程であることが好ましい。添加元素とセレンとを含む蒸着源を用いてアモルファスセレン膜を形成する場合、アモルファスセレン膜中の添加元素の濃度を高精度で制御でき、所定の結晶粒径を有する結晶セレン膜を容易に形成できる。また、上記の蒸着源を用いてアモルファスセレン膜を形成する場合、アモルファスセレン膜中の添加元素の濃度が均一となりやすいため、結晶セレン膜が均一な結晶粒径を有し、より一層平坦性に優れたものとなる。
【0039】
成膜工程において、添加元素とセレンとを含む蒸着源を用いる場合、蒸着源中の添加元素濃度は、添加元素の種類および要求される結晶セレン膜の結晶粒径に応じて適宜決定できる。結晶セレン膜の結晶粒径を小さくする効果を十分に得るためには、蒸着源中の添加元素濃度を10ppm以上とすることが好ましく、50ppm以上とすることがより好ましい。しかし、蒸着源中の添加元素濃度が高すぎると、結晶セレン膜の膜剥がれが生じたり、結晶セレン膜にピンホールが生じたりしやすくなる。したがって、蒸着源中の添加元素濃度は、700ppm以下とすることが好ましく、500ppm以下とすることがより好ましい。なお、本発明における「ppm」は質量基準である。
【0040】
本実施形態では、成膜工程の後、アモルファスセレン膜までの各層の形成された透明基板1を、例えば、100℃〜220℃の温度で30秒〜5分間熱処理する。このことにより、アモルファスセレン膜を上記の添加元素を含む結晶セレン膜5とする(熱処理工程)。
熱処理工程におけるアモルファスセレン膜の熱処理温度および熱処理時間が上記範囲内であると、より結晶性の良好な結晶セレン膜5が得られる。
その後、結晶セレン膜5の上に、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、ITOなどからなる電極6を形成する。以上の工程を行うことにより、
図1に示す光電変換素子100が得られる。
【0041】
図1に示す光電変換素子100は、光電変換層として、塩素、臭素、ヨウ素、アンチモン、タリウムから選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を熱処理することにより形成された結晶セレン膜5を有する。この結晶セレン膜5は、厚みに関わらず、十分に小さい結晶粒径を有する。したがって、本実施形態の光電変換素子100では、結晶セレン膜5の厚みを確保することにより可視光全域で十分な感度を得ることができるとともに、画素間の結晶セレン膜5の感度の差を小さくできる。
また、本実施形態の製造方法によれば、膜厚に関わらず、十分に小さい結晶粒径を有する結晶セレン膜5を含む光電変換層を有する光電変換素子100が得られる。
【0042】
(第2実施形態)
図2は、本発明の光電変換素子の他の例を説明するための断面模式図である。
図2に示す光電変換素子200は、基板7上に、電極8と、半絶縁性金属酸化物膜9と、接合膜10と、結晶セレン膜11と、透明導電膜12(電極)とがこの順に積層されているものである。
図2に示す光電変換素子100は、透明導電膜12側から光入射を行うものである。
【0043】
図2に示す光電変換素子200において、電極8、半絶縁性金属酸化物膜9、接合膜10、結晶セレン膜11、透明導電膜12は、それぞれ
図1に示す光電変換素子100の電極6、半絶縁性金属酸化物膜3、接合膜4、結晶セレン膜5、透明導電膜2(電極)と同じものであるので、説明を省略する。
図2に示す光電変換素子200は、透明導電膜12側から光入射を行うものであるため、基板7として、透光性を有しない材料からなるものを用いてもよい。具体的には、基板7として、例えば、シリコン基板などを用いることができる。
【0044】
次に、
図2に示す光電変換素子200の製造方法を説明する。
図2に示す光電変換素子200を製造するには、まず、基板7の一方の面(
図2においては上面)に、真空蒸着法、スパッタリング法などにより、電極8を形成する。
次いで、電極8上に、
図1に示す光電変換素子100の半絶縁性金属酸化物膜3、接合膜4、結晶セレン膜5と同様にして、半絶縁性金属酸化物膜9、接合膜10、結晶セレン膜11を形成する。
次いで、結晶セレン膜11の上に、例えば、スパッタリング法などにより透明導電膜12を形成する。以上の工程を行うことにより、
図2に示す光電変換素子200が得られる。
【0045】
図2に示す光電変換素子200は、
図1に示す光電変換素子100と同様に、光電変換層として、塩素、臭素、ヨウ素、アンチモン、タリウムから選ばれるいずれか一種または二種以上の添加元素を含むアモルファスセレン膜を熱処理することにより形成された結晶セレン膜11を有する。したがって、本実施形態の光電変換素子200においても、結晶セレン膜11の厚みを確保することにより可視光全域で十分な感度を得ることができるとともに、画素間の結晶セレン膜11の感度の差を小さくできる。
また、本実施形態によれば、膜厚に関わらず、十分に小さい結晶粒径を有する結晶セレン膜11を含む光電変換層を有する光電変換素子200が得られる。
【0046】
「固体撮像素子」
図3は、本発明の固体撮像素子の一例を説明するための模式図である。
図3に示す固体撮像素子40は、シリコン基板表面に形成された回路を有する信号読み出し回路部41と、信号読み出し回路部41上に積層された光電変換部42とを有する。
図3に示す固体撮像素子40の光電変換部42は、
図2に示す光電変換素子200を備えている。このため、
図3に示す固体撮像素子40は、高感度で高画質の画像が得られる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0048】
「試料1」
以下に示す方法により、
図4に示す試料を作成し、評価した。
ガラス基板21上に、真空蒸着法により膜厚1nmのテルルからなる接合膜22を成膜した。続いて、接合膜22上に、500ppmの塩素とセレンとからなるペレットを蒸着源として用いて、真空蒸着法により塩素を含むアモルファスセレン膜を形成した。その後、接合膜22とアモルファスセレン膜の形成されたガラス基板21を、200℃で1分間熱処理し、膜厚500nmの結晶セレン膜23を形成した。
【0049】
「試料2」
50ppmの塩素とセレンとからなるペレットを蒸着源として用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料2を得た。
【0050】
「試料3」
塩素を含まずセレンのみを含むペレットを蒸着源として用いたこと以外は、試料1と同様にして、試料3を得た。
【0051】
試料1〜試料3の結晶セレン膜の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。
図5は、試料1〜試料3の結晶セレン膜の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6は、試料1〜試料3の結晶セレン膜の表面の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
図6には、結晶セレン膜の表面における縦3μm横3μmの正方形の領域を観察した結果を示す。また、
図6では、厚み方向の基準位置に対して、50μm厚い部分(高い部分)を白で示し、50μm薄い(−50μm)部分(低い部分)を黒で示し、その間の高低差を灰色の濃淡で示した。したがって、厚み方向の基準位置に対して、高い領域ほど白に近い灰色、低い領域ほど黒に近い灰色となっている。
【0052】
図5および
図6に示すように、塩素を含む蒸着源を用いて形成した試料1および試料2の結晶セレン膜は、塩素を含まない蒸着源を用いて形成した試料3の結晶セレン膜と比較して、結晶粒径が小さいものであった。このことから、塩素を含む蒸着源を用いることで、結晶セレン膜の膜厚を薄くすることなく、結晶粒径を小さくできることが確認できた。
また、500ppmの塩素を含む蒸着源を用いて形成した試料1の結晶セレン膜は、50ppmの塩素を含む蒸着源を用いて形成した試料2の結晶セレン膜と比較して、結晶粒径が小さいものであった。
【0053】
また、試料1〜試料3の結晶セレン膜について、AFM像観察(
図6参照)からRq(RMS)(自乗平均面粗さ)とRa(平均面粗さ)とRmax(面内最大高低差)とを算出した。また、結晶セレン膜の表面のAFM像観察(
図6参照)から各粒子の面積を測定し、その面積に相当する円の半径(円相当半径)を算出した。そして、
図6に示す縦3μm横3μmの正方形の領域内での円相当半径の最大値を、結晶粒の最大半径として求めた。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、Rq(RMS)、Ra、Rmax、の全て項目において、試料1が最も数値が小さく、試料3が最も数値が大きくなった。つまり、試料3と比較して、試料1および試料2の表面平坦性が優れており、さらに試料2よりも試料1の表面平坦性が優れていることが分かった。
また、結晶セレン膜の結晶粒の最大半径は、試料1が最も数値が小さく、試料3が最も数値が大きかった。
【0056】
また、試料2および試料3の結晶セレン膜について、X線回折(XRD)測定を行った。その結果を
図7に示す。
図7に示すように、試料2および試料3の結晶セレン膜から六方晶に由来する複数のピークが検出され、試料2および試料3の結晶セレン膜はSe(100)に配向していることがわかった。また、試料2および試料3のデータの半値幅を比較すると、塩素を含む蒸着源を用いて形成した試料2では、塩素を含まない蒸着源を用いて形成した試料3と比較して半値幅が小さく、結晶性が良好であることがわかった。
【0057】
「光電変換素子1」
以下に示す方法により、
図1に示す光電変換素子を作成し、評価した。
ガラス基板からなる透明基板1上に、スパッタリング法によりITOからなる透明導電膜2を形成した。次いで、透明導電膜2上に、スパッタリング法により膜厚20nmの酸化ガリウム膜からなる半絶縁性金属酸化物膜3を作製した。酸化ガリウム膜は、成膜時の酸素の圧力(分圧)を1.5×10
−2Paとし、常温で、RFパワー200Wの条件で成膜した。
【0058】
次に、半絶縁性金属酸化物膜3上に、真空蒸着法により、膜厚1nmのテルルからなる接合膜4を形成した。その後、接合膜4上に、50ppmの塩素とセレンとからなるペレットを蒸着源として用いて、真空蒸着法により塩素を含むアモルファスセレン膜を形成した。次いで、アモルファスセレン膜までの各層の形成された透明基板1を、200℃で1分間熱処理し、膜厚500nmの結晶セレン膜5を形成した。
その後、結晶セレン膜5の上に、スパッタリング法によりITOからなる電極6を形成した。
【0059】
「光電変換素子2」
塩素を含まずセレンのみを含むペレットを蒸着源として用いたこと以外は、光電変換素子1と同様にして、光電変換素子2を得た。
【0060】
このようにして得られた光電変換素子1および光電変換素子2について、逆バイアス電圧を印加した時の電圧−暗電流特性を調べた。その結果を
図8に示す。
図8に示す光電変換素子1および光電変換素子2の結果から、塩素を含む蒸着源を用いて結晶セレン膜を形成(光電変換素子1)しても、暗電流への影響がないことが分かった。