【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0056】
例1:YSK12の合成
【化2】
【0057】
上記のスキームに従ってリノール酸からYSK12を合成した。
(1) (9z,12z)-octadecadien-1-ol
4℃に冷却したテトラヒドロフラン(THF)190 mLに、水素化リチウムアルミニウム2.73 g(72 mmol)を懸濁した。そこへリノール酸10 g(36 mmol)を滴下し、10分間撹拌した。その後、オイルバスで加熱しながら一晩還流した。これを冷却した後、1 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100 mLを加えて反応を停止させた。次に、酢酸エチル100 mLを加えて希釈した後、濾過し、濾液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層を回収して、そこに無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、(9z,12z)-octadecadien-1-ol 8.68 g(32.6 mmol)を無色オイルとして得た。収率は91%であった。
(9z, 12z)-octadecadien-1-olのプロトン核磁気共鳴(
1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 3H), 1.25-1.36 (m, 16H), 1.53-1.58 (m, 2H), 2.02-2.06 (m, 4H), 2.76 (t, 2H), 3.62 (t, 2H), 5.29-5.40 (m, 4H).
【0058】
(2) (9z,12z)-octadecadien-1-methanesulfonate
(9z,12z)-octadecadien-1-ol 8.68 g(32.6 mmol)を100 mLのジクロロメタンに溶解した後、N,N-dimethyl-4-aminopyridine(DMAP)366 mg(3.26 mmol)、triethylamine(TEA) 6.8 mL(48.9 mmol)を加えた。続いて、滴下ロートを用いて、50 mLのジクロロメタンで希釈したmethanesulfonyl chloride 3.03 mL(39.1 mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。反応液を回収して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、(9z, 12z)-octadecadien-1-methanesulfonate 10.64 g(30.9 mmol)を無色オイルとして得た。収率は95%であった。
(9z, 12z)-octadecadien-1-methanesulfonateのプロトン核磁気共鳴(
1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 3H), 1.06-1.18 (m, 18H), 1.70-1.90 (m, 2H), 2.00-2.19 (m, 4H), 2.79 (t, 2H), 3.06 (s, 3H), 4.20 (t, 2H), 5.21-5.42 (m, 4H).
【0059】
(3) 18-bromo-octadeca-(6z,9z)-diene
(9z,12z)-octadecadien-1-methanesulfonate 10.64 gを140 mLのジエチルエーテルに溶解した後、magnesium bromide ethyl etherate 16.0 g(61.8 mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応液を回収して、100 mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、18-bromo-octadeca-(6z,9z)-diene 8.85 g(26.9 mmol)を無色オイルとして得た。収率は87%であった。
18-bromo-octadeca-(6z, 9z)-dieneのプロトン核磁気共鳴(
1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 3H), 1.27-1.46 (m, 18H), 1.80-1.88 (m, 2H), 2.00-2.09 (m, 4H), 2.77 (t, 2H), 3.40 (t, 2H), 4.20 (d, 2H), 5.29-5.41 (m, 4H).
【0060】
(4) 4-[(9z,12z)-octadecadienyl]-(13z,16z)-tricosadien-1,4-diol
1.5 mLのジエチルエーテルに18-bromo-octadeca-(6z,9z)-diene 0.50 g(1.52 mmol)を溶解し、削り屑状マグネシウム609 mg(25.1 mmol)を加え、続いてヨウ素1欠片を加えた。室温で10分間静置した後、オイルバスで45℃に加熱しながら撹拌し、6 mLのジエチルエーテルに溶解した18-bromo-octadeca-(6z, 9z)-diene 5.0 g(15.2 mmol)を滴下した。45℃で1時間反応させた後、室温に冷却した。続いて、δ-バレロラクトン300 μL(3.23 mmol)を添加し、室温で1時間反応させた。次に、4℃に冷却し、濾過した後、濾液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-(13z, 16z)-tricosadien-1,4-diol 1.64 g(2.73 mmol)を無色オイルとして得た。δ-バレロラクトンからの収率は85%であった。
4-[(9z,12z)-octadecadienyl]-(13z,16z)-tricosadien-1,4-diolのプロトン核磁気共鳴(
1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 6H), 1.25-1.1.46 (m, 46H), 2.02-2.06 (m, 8H), 2.77 (t, 4H), 3.66 (t, 2H), 5.30-5.40 (m, 8H).
【0061】
(5) 4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-1-p-toluenesulfonyl-(13z, 16z)-tricosadien-4-ol
4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-(13z, 16z)-tricosadien-1,4-diol 301 mg(0.50 mmol)を5.0 mLのジクロロメタンに溶解し、DMAP 6.11 mg(0.05 mmol)とTEA 83.6 μL(0.60 mmol)を加え、続いてp-toluenesulfonyl chloride 95.3 mg(0.50 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。続いて、反応液にシリカゲルを加え、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。その後、シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して293 mg(0.39 mmol)を無色オイルとして得た。収率は78%であった。
4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-1-p-toluenesulfonyl-(13z, 16z)-tricosadien-4-olのプロトン核磁気共鳴(
1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 3H), 1.25-1.49 (m, 46H), 2.03-2.05 (m, 8H), 2.44 (s, 3H), 2.77 (t, 4H), 4.03 (t, 2H), 5.31-5.39 (m, 8H), 7.34 (d, 2H), 7.78 (d, 2H).
【0062】
(6) 1-N,N-dimethylamino-4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-(13z, 16z)-tricosadien-4-ol 293 mg(0.39 mmol)に10 mLの 2.0 M dimethylamineのテトラヒドロフラン溶液を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、100 mLのジクロロメタンを加え、100 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 155 mg(0.25 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は64%であった。
1-N,N-dimethylamino-4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-(13z, 16z)-tricosadien-4-olのプロトン核磁気共鳴(
1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.87 (t, 6H), 1.23-1.40 (m, 46H), 2.02-2.07 (m, 8H), 2.26 (s, 6H), 2.33 (t, 2H), 2.77 (t, 4H), 5.31-5.39 (m, 8H).
【0063】
例2:YSK12-MENDの調製
YSK12-MENDをアルコール希釈法により調製した。総脂質量が505 nmolとなるようにYSK12、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、コレステロール(Chol)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、メトキシポリエチレングリコール2000 (DMG-PEG 2000)を含む90% t-ブタノール溶液400 μlに撹拌下でsiRNA 600 pmolを含む水溶液を200 μl添加した。さらに撹拌下で20 mMのクエン酸緩衝液を2 ml添加し、続いて3.5 mlのPBSを添加後に限外ろ過を行った。
【0064】
マウス樹状細胞を用いてYSK12-MENDの脂質組成の最適化を行った。SR-B1を標的としたsiRNAを用いて6×10
5個の樹状細胞に対して血清非存在下でsiRNA濃度5 nMと10 nMでトランスフェクションし、2時間後に血清入り培地を添加して22時間後に細胞を回収し、ノックダウン効率を評価した(Warashina S. et al., Biol. Pharm. Bull., 34, pp.1348-2351, 2011)。ノックダウン効率の評価は、リアルタイムRT-PCRによりmRNA量を定量することで行った。その結果、YSK12の割合は85%(
図1)、DMG-PEG2000の割合は1%(
図2)、POPC/Cholも割合は0%/15%(
図3)のときに最も高いノックダウン効率が得られた。この結果から、YSK12/Chol=85/15、DMG-PEG2000 1mol%を最適組成とした。最適化したYSK12-MENDは粒子径180 ±6nm、多分散度指数(PDI)0.071±0.023、ゼータ電位5.8 ±0.6mVであり、siRNAの封入率(%)は94.2±0.8であった。
【0065】
細胞親和性素子であるオクタアルギニン(R8)ペプチドとエンドソーム脱出性素子であるGALAペプチドで修飾することによりMENDのエンベロープ膜枚数を制御したナノキャリアであるR8/GALA-D-MEND(D-MEND: J. Control. Release, 143, pp.311-317, 2010)及び市販試薬としてはノックダウン効率が最も優れていると考えられるLFN RNAi MAXとノックダウン効率のED
50を比較した結果、YSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAXのED
50はそれぞれ1.5 nM、70 nM、及び25 nMであり、YSK12-MENDはD-MENDの47倍、LFN RNAi MAXの17倍のノックダウン効率を示した(
図4)。また、マウス樹状細胞へのトランスフェクション2時間後の細胞毒性をMTS assayを用いて評価したところ、YSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAX処理による顕著な細胞毒性は認められなかった(
図5)。
【0066】
共焦点レーザ走査型顕微鏡を用いて、マウス樹状細胞におけるYSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAXの6時間後の細胞内動態を観察した結果、YSK12-MENDを処理した樹状細胞において赤色蛍光でラベルしたsiRNAが細胞内に多数認められたことから、YSK12-MENDはエンドソーム(緑蛍光)から非常に効率よく脱出し、siRNAを細胞質に送達できることが明らかになった(
図6)。また、YSK12-MENDでは酸性コンパートメントを示す緑色蛍光が細胞内に認められないこと(
図6)、及び高い膜破壊作用を示すこと(
図7及び8)から、エンドソーム膜を破壊することでsiRNAを細胞質に送達させていることが示唆された。以上の結果から、YSK12-MENDは高い膜破壊作用により細胞に取り込まれた後の細胞内動態、特にエンドソーム脱出を大きく向上させることで、高いノックダウン効率を示すと考えられる。
【0067】
YSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAXを用いて、樹状細胞における抑制因子であるSOCS1のノックダウン効率を評価した。その結果、YSK12-MENDは、3、10、30 nMのdoseにおいて約80%のノックダウン効率を示した(
図9)。またSOCS1をノックダウンした樹状細胞をIFN-γを添加することで活性化させ、24時間後までに産生されたサイトカイン(TNF-α、IL-6)をELISA法により測定した結果、トランスフェクションしたsiRNA量依存的なTNF-α、IL-6産生の増強が認められた(
図10)。
【0068】
さらに、樹状細胞療法による癌ワクチンとしての機能を評価した。YSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAXを用いて、SOCS1に対するsiRNAもしくはコントロールsiRNAを導入した樹状細胞(5×10
5個)に抗原としてovalbumin(OVA)を取り込ませ、マウスの足蹠に免疫し、1週間後にOVAを発現するマウスリンパ腫細胞(E.G7-OVA)を1×10
6個皮下移植した。経時的に腫瘍体積を測定した結果、D-MEND、LFN RNAi MAXを用いてSOCS1をノックダウンしたDCを投与したマウス群では、コントロール群と比較して有意な抗腫瘍活性が認められたものの、腫瘍の成長を抑制することはできなかった(
図11)。一方、YSK12-MENDを用いてSOCS1をノックダウンしたDCを投与したマウス群では、腫瘍の生着が完全に抑制された(
図11)。
【0069】
例3:THP-1細胞(ヒト単球株)に対する遺伝子発現抑制
GAPDH silencer siRNA又はcontrol silencer siRNAを封入したYSK12-MENDを例2と同様の方法で調製した。12ウエルプレートにOPTI-MENDに懸濁した細胞を6×10
5cell/wellとなるように播種し、さらにsiRNAの終濃度が3、10、及び30 nMになるようにYSK12-MEND又はLipofectamineRNAiMAXを加えた。2時間培養後、血清入り培養培地を添加して22時間培養した。その後、細胞を回収しリアルタイムRT-PCR法によりmRNA量を評価した。結果を
図12に示す。LipofectamineRNAiMAXと比較してYSK12-MENDではより効率的に遺伝子ノックダウンが達成できることが示された。
【0070】
例4:Jurkat細胞(ヒトT細胞株)に対する遺伝子発現抑制
GAPDH silencer siRNAを封入したYSK12-MENDを例2と同様の方法で調製した。12ウエルプレートにOPTI-MENDに懸濁した細胞を6×10
5 cell/wellとなるように播種し、さらにsiRNAの終濃度が1及び3 nMになるようにYSK12-MENDを加えた。2時間培養後、血清入り培養培地を添加して22時間培養した。その後、細胞を回収しリアルタイムRT-PCR法によりmRNA量を評価した。結果を
図13に示す。例3におけるTHP-1と同レベルの効率的な遺伝子ノックダウンが達成できることが示された。