(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6570259
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、絶縁フィルム、および半導体装置
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20190826BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20190826BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20190826BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20190826BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20190826BHJP
H01B 3/40 20060101ALI20190826BHJP
H01B 3/28 20060101ALI20190826BHJP
H01B 17/56 20060101ALI20190826BHJP
H01L 23/14 20060101ALI20190826BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
C08L101/02
C08L63/00 A
C08L53/02
C08K3/00
C08K5/3445
H01B3/40 C
H01B3/28
H01B17/56 A
H01L23/14 R
H01L21/60 311Q
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-24844(P2015-24844)
(22)【出願日】2015年2月11日
(65)【公開番号】特開2016-147945(P2016-147945A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148219
【弁理士】
【氏名又は名称】渡會 祐介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】寺木 慎
【審査官】
久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−262191(JP,A)
【文献】
特開2008−266408(JP,A)
【文献】
特開2007−308685(JP,A)
【文献】
特開2005−179397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−3/40
C08K 5/00−5/59
H01B 3/00−3/56
H01L 21/00−21/98
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式(1):
【化5】
【化6】
(式中、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7は同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基又はフェニル基であり、
−(O−X−O)−は構造式(2)で示され、ここで、R
8、R
9、R
10、R
14、R
15は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、R
11、R
12、R
13は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、
−(Y−O)−は構造式(3)で示される1種類の構造、又は構造式(3)で示される2種類以上の構造がランダムに配列したものであり、ここで、R
16、R
17は同一又は異なってもよく、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、R
18、R
19は同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、
Zは炭素数1以上の有機基であ
り、
a、bは少なくともいずれか一方が0でない、0〜300の整数を示し、
c、dは0又は1の整数を示す)で示される、ビニル基が結合したフェニル基を両末端に持つ熱硬化性ポリフェニレンエーテルのオリゴマー体である末端にスチレン基を有する分子量800〜1500の熱硬化性樹脂、
(B)液状エポキシ樹脂、
(C)
スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、またはスチレン−(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレンブロック共重合体のいずれか1種であるスチレン系熱可塑性エラストマー、
(D)充填材、および
(E)硬化剤を含み、
(D)成分が、樹脂組成物100質量部に対して、30〜70質量部であり、
(A)成分が、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、50〜70質量部であり、
(B)成分が、樹脂組成物100質量部に対して、5〜20質量部であり、
(C)成分が、スチレン成分とゴム成分とを含有し、スチレン成分が、スチレン成分とゴム成分の合計100質量部に対して、40〜60質量部である
ことを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
(E)成分が、イミダゾール系である、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
(D)が、平均粒径0.1μm以上10μm以下の球状フィラーである、請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物から形成される絶縁フィルム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物の硬化物、または請求項4載の絶縁フィルムの硬化物を含む、半導体装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の樹脂組成物の硬化物、または請求項4記載の絶縁フィルムの硬化物が、基板間の層間接着層として用いられ、前記基板間がバンプにより接合されている半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、絶縁フィルム、および半導体装置に関し、特に、高周波帯での誘電特性に優れ、信頼性の高い樹脂組成物、絶縁フィルム、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体分野において、伝送信号の高周波化が進んでいる。この伝送信号の高周波化に対応するため、ビルドアッププリント配線板等のリジッド基板の層間接着材やB
2it(Buried Bump Interconnection Technology)基板に使用される絶縁フィルム等への用途に向けて、高周波領域で優れた誘電特性(低誘電率(ε)、低誘電正接(tanδ))を示す熱硬化性材料であるPPE(Polyphenylene Ether)を用いた組成物が考えられる。ビルドアッププリント配線板やB
2it基板に使用するためには、誘電特性に加えて、金属配線パターン間への組成物の埋め込み性(以下、埋め込み性という)も重視される。さらに、この組成物は、金属配線パターンやバンプ等の金属と接するため、熱膨張係数(CTE:coefficient of thermal expansion)が低いことも望まれる。PPEを用いた組成物は、種々の改良が行われており、例えば、以下が提案されている。
【0003】
まず、特定の低分子量ポリフェニレンエーテル(A)、特定のビニル系化合物(B)、及び不飽和二重結合基を分子中に2個以上有する架橋型硬化剤(C)を含むポリフェニレンエーテル樹脂組成物(特許文献1)が提案されている。このポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、主に、プリプレグを用いて多層板を製造するときに、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良(特許文献1の第0003段落)を防止するため、誘電特性を維持したまま、流動性、耐熱性及び寸法安定性の優れた樹脂組成物、及びその製造方法を提供することを目的としている(特許文献1の第0006段落)。このポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、プリプレグ用に、低粘度によりボイド発生を防ぐことを考慮している(特許文献1の第0003段落)が、樹脂組成物単独でのフィルム化には適しておらず、埋め込み性についても考慮されていない。
【0004】
また、所定の複数のスチレン基を有する重量平均分子量1000以下の架橋成分と、重量平均分子量5000以上の高分子量体とを含有する硬化性の低誘電正接フィルム(特許文献2)が提案されている。この低誘電正接フィルムは、「他の有機フィルム、有機クロス、有機不織布と複合化して用いることによって、高強度化、低熱膨張化等の特性を付与する」(特許文献2の第0006段落)、すなわちプリプレグ用を意図しており、樹脂組成物単独でのフィルム化には適しておらず、埋め込み性についても考慮されていない。
【0005】
また、所定の低分子量のポリフェニレンエーテル(PPE)と、所定の低エポキシ基数エポキシ樹脂との反応生成物と、熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物(特許文献3)が提案されている。この樹脂組成物も、プリプレグ用を意図しており(特許文献3の請求項8等)、PPEの有する優れた誘電特性を維持したまま、粘度が低く、硬化物の耐熱性及び銅箔等との密着性(特許文献3の第0010段落)を考慮しているが、樹脂組成物単独でのフィルム化には適しておらず、埋め込み性についても考慮されていない。実施例に記載されている樹脂組成物の溶融粘度も、樹脂組成物単独でのフィルム化には高過ぎる値である(特許文献3の第0070段落の表1)。加えて、実施例に記載されている樹脂組成物には、フィラーが含有されておらず、熱膨張係数制御のために多量のフィラーを含有することも、考慮されていない樹脂組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−029928号公報
【特許文献2】特開2004−083680号公報
【特許文献3】特開2010−275341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すること、すなわち、フィルム化が可能で、高周波特性、金属配線パターン間への埋め込み性に優れ、低熱膨張係数の樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有することによって上記問題を解決した樹脂組成物、絶縁フィルム、および半導体装置に関する。
〔1〕(A)末端にスチレン基を有する分子量800〜1500の熱硬化性樹脂、(B)液状エポキシ樹脂、(C)スチレン系熱可塑性エラストマー、(D)充填材、および(E)硬化剤を含み、
(D)成分が、樹脂組成物100質量部に対して、30〜70質量部であることを特徴とする、樹脂組成物。
〔2〕(A)成分が、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、50〜70質量部である、上記〔1〕記載の樹脂組成物。
〔3〕(C)成分が、スチレン成分とゴム成分とを含有し、スチレン成分が、スチレン成分とゴム成分の合計100質量部に対して、40〜60質量部である、上記〔1〕または〔2〕記載の樹脂組成物。
〔4〕(E)成分が、イミダゾール系である、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔5〕(D)が、平均粒径0.1μm以上10μm以下の球状フィラーである、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の樹脂組成物。
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の樹脂組成物から形成される絶縁フィルム。
〔7〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の樹脂組成物の硬化物、または上記〔6〕記載の絶縁フィルムの硬化物を含む、半導体装置。
〔8〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれか記載の樹脂組成物の硬化物、または上記〔6〕記載の絶縁フィルムの硬化物が、基板間の層間接着層として用いられ、前記基板間がバンプにより接合されている半導体装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明〔1〕によれば、フィルム化が可能で、高周波特性、金属配線パターン間への埋め込み性に優れ、低CTEの樹脂組成物を提供することができる。
【0010】
本発明〔6〕によれば、高周波特性、金属配線パターン間への埋め込み性に優れ、低CTEの絶縁フィルムを提供することができる。
【0011】
本発明〔7〕によれば、高周波領域での伝送損失が小さく、金属配線パターン間への埋め込み性に優れ、低CTEの樹脂組成物または絶縁フィルムの硬化物を有する、信頼性の高い半導体装置を簡便に提供することができる。本発明〔8〕によれば、高周波領域での伝送損失が小さく、金属配線パターン間への埋め込み性に優れ、低CTEの樹脂組成物または絶縁フィルムの硬化物が、基板間の層間接着層として用いられる、信頼性の高い半導体装置を簡便に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、(A)末端にスチレン基を有する分子量800〜1500の熱硬化性樹脂、(B)液状エポキシ樹脂、(C)スチレン系熱可塑性エラストマー、(D)充填材、および(E)硬化促進剤を含み、(D)が、樹脂組成物100質量部に対して、30〜70質量部である。
【0013】
(A)成分の末端にスチレン基を有する分子量800〜1500の熱硬化性樹脂は、硬化後に、高周波特性、耐熱性、耐薬品性を付与する。ここで、高周波特性とは、10GHz以上の高周波領域での伝送損失を小さくする性質をいい、誘電率(ε)が4以下であり、かつ誘電正接(tanδ)が0.006以下であることをいう。(A)成分は、分子量が小さいため、樹脂組成物の溶融粘度を小さくすることができる。従来、(A)成分は、絶縁フィルム用としてはフレキシブル性に乏しいほど硬く、金属配線パターン間への埋め込み性が不十分であり、使用することが困難であったが、本発明者らは、(A)〜(E)成分を組み合わせることにより、絶縁フィルム用としての使用を可能にした。
【0014】
(A)成分としては、下記の一般式(1):
【0016】
(式中、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7は同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基又はフェニル基であり、
−(O−X−O)−は構造式(2)で示され、ここで、R
8、R
9、R
10、R
14、R
15は、同一又は異なってもよく、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、R
11、R
12、R
13は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、
−(Y−O)−は構造式(3)で示される1種類の構造、又は構造式(3)で示される2種類以上の構造がランダムに配列したものであり、ここで、R
16、R
17は同一又は異なってもよく、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、R
18、R
19は同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数6以下のアルキル基又はフェニル基であり、
Zは炭素数1以上の有機基であり、場合により酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子を含むこともあり、
a、bは少なくともいずれか一方が0でない、0〜300の整数を示し、
c、dは0又は1の整数を示す)で示される、ビニル基が結合したフェニル基を両末端に持つ熱硬化性ポリフェニレンエーテルのオリゴマー体(以下、変性PPEという)が好ましい。本発明では、熱硬化性樹脂として変性PPEを用いているので、高周波特性が優れていることに加えて、耐熱性が優れており、樹脂組成物の硬化物の経時変化が生じにくく、半導体装置の長期信頼性を維持できる。さらに、樹脂中の親水基の数が少ないため吸湿性や耐薬品性に優れる、という特徴がある。このため、150℃近くの温度がかかる用途であっても硬化した樹脂組成物が、電気絶縁性の基材や金属配線パターンやバンプと剥離せず、信頼性の高い半導体装置となる。また、変性PPEは、絶縁性に優れており、硬化した樹脂組成物層の厚さを薄くしても、半導体装置の信頼性を維持することができる。この変性PPEは、特開2004−59644号公報に記載されたとおりである。
【0017】
一般式(1)で示される変性PPEの−(O−X−O)−についての構造式(2)において、R
8、R
9、R
10、R
14、R
15は、好ましくは、炭素数3以下のアルキル基であり、R
11、R
12、R
13は、好ましくは、水素原子又は炭素数3以下のアルキル基である。具体的には、構造式(4)が挙げられる。
【0019】
−(Y−O)−についての構造式(3)において、R
16、R
17は、好ましくは、炭素数3以下のアルキル基であり、R
18、R
19は、好ましくは、水素原子又は炭素数3以下のアルキル基である。具体的には、構造式(5)又は(6)が挙げられる。
【0021】
Zは、炭素数3以下のアルキレン基が挙げられ、具体的には、メチレン基である。
【0022】
a、bは少なくともいずれか一方が0でない、0〜300の整数を示し、好ましくは0〜30の整数を示す。
【0023】
数平均分子量800〜1500である一般式(1)の変性PPEが好ましい。より好ましくは、数平均分子量1000〜1400である。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。
【0024】
上記の(A)成分は、単独でも、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
(B)成分である液状エポキシ樹脂は、樹脂組成物の溶融粘度を低下させることができる。(B)成分としては、アミノフェノール型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液状ナフタレン型エポキシ樹脂、液状水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状脂環式エポキシ樹脂、液状アルコールエーテル型エポキシ樹脂、液状環状脂肪族型エポキシ樹脂、液状フルオレン型エポキシ樹脂、液状シロキサン系エポキシ樹脂等が挙げられ、液状エポキシ樹脂組成物の流動性、硬化性、接着性、硬化後の液状エポキシ樹脂組成物の耐熱性、耐久性の観点から、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、液状ナフタレン型エポキシ樹脂が、好ましい。
【0026】
(B)成分のエポキシ当量は、粘度調整の観点から、80〜250g/eqが好ましい。(B)成分の市販品としては、ダイセル化学製ビスフェノールA型エポキシ樹脂(品名:LX−01)、三菱化学製アミノフェノール型エポキシ樹脂(グレード:JER630、JER630LSD)、三菱化学製液状エポキシ樹脂(グレード:828、828EL)、新日鐵化学製ビスフェノールA型エポキシ樹脂(品名:YDF8170)、新日鐵化学製ビスフェノールF型エポキシ樹脂(品名:YDF870GS)、DIC製ナフタレン型エポキシ樹脂(品名:HP4032D)、信越化学製シロキサン系エポキシ樹脂(品名:TSL9906)等が挙げられる。(B)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0027】
(C)成分としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−(エチレン−エチレン/プロピレン)−スチレンブロック共重合体(SEEPS)が挙げられる。中でも、SBS、SEBSが好ましく、硬化物のガラス転移点を適切な範囲に制御しやすく、銅箔との接着力が良好であり、シェア強度が高温でも良好である点から、SBSが特に好ましい。(C)成分は、重量平均分子量は、30,000〜200,000であるものが好ましく、80,000〜120,000であることがより好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。(C)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0028】
(C)成分は、スチレン成分とゴム成分とを含有し、樹脂組成物の低溶融粘度化の観点から、スチレン成分が、スチレン成分とゴム成分の合計100質量部に対して、40〜60質量部であると好ましい。スチレン成分が、40質量部未満では樹脂組成物の粘度が高くなりやすく、他方、60質量部を超えると、フィルム形成に支障が出やすくなる。
【0029】
(D)成分である充填材には、絶縁性と低CTE性が求められ、一般的な無機フィラーを使用することができる。ここで、低CTE性とは、70ppm/℃以下であることをいう。(D)成分としては、コロイダルシリカ、疎水性シリカ、微細シリカ、ナノシリカ等のシリカフィラー、窒化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素が挙げられ、汎用性、電気特性などの観点からシリカフィラーが好ましい。
【0030】
(D)成分の平均粒径(粒状でない場合は、その平均最大径)は、特に限定されないが、0.1〜10μmであることが、樹脂組成物中への(D)成分の分散性、および樹脂組成物の低溶融粘度化の観点から好ましい。0.1μm未満だと、樹脂組成物の溶融粘度が上昇して、絶縁フィルム成形性が悪化するおそれがある。10μm超だと、樹脂組成物から形成される絶縁フィルム中に(D)成分を均一に分散させることが困難になるおそれがある。ここで、(D)成分の平均粒径は、レーザー回折法によって測定した体積基準のメジアン径をいい、例えば、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計により測定する。市販品としては、アドマテックス製シリカ(製品名:SO−E2、平均粒径:0.5μm)、龍森製シリカ(製品名:MP−8FS、平均粒径:0.7μm)、DENKA製シリカ(品名:FB−5D、平均粒径:5μm)、扶桑化学工業製(製品名:SP03B、平均粒径:300nm)等が挙げられる。(D)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0031】
(E)成分である硬化剤は、イミダゾール系であると樹脂組成物のポットライフの観点から好ましい。樹脂組成物のポットライフが短いと、絶縁フィルムの形成可能な時間が短縮されてしまう。イミダゾール系硬化剤としては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。(E)成分の市販品としては、四国化成製2−フェニル−4−メチルイミダゾール(品名:2P4MZ)、四国化成製2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン(品名:2MZA)、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(品名:2PHZ)が挙げられる。(E)成分は、単独でも2種以上を併用してもよい。樹脂組成物のポットライフが短くなっても構わない場合には、アミン系硬化剤や酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤を用いることもできる。
【0032】
(A)成分は、高周波特性、耐熱性、耐薬品性の観点から、10〜40質量部が好ましい。
【0033】
(A)成分は、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、50〜70質量部であると、好ましい。従来のフィルム用組成物では、エラストマーである(C)成分の量が多いが、本発明の樹脂組成物では、(C)成分のエラストマー量を少なくすることにより、低溶融粘度化を図ることができる。
【0034】
(B)成分は、接着力付与の観点から、樹脂組成物100質量部に対して、5〜20質量部が好ましい。
【0035】
(C)成分は、樹脂組成物100質量部に対して、フィルム成形性、低溶融粘度化の観点から、5〜28質量部が好ましい。
【0036】
(D)成分は、樹脂組成物100質量部に対して、30〜70質量部であり、(D)成分が30質量部未満では、低CTE化することができず、70質量部を超えると、樹脂組成物のフィルム化が難しくなってしまう。
【0037】
(E)成分は、硬化性の観点から、(B)成分1当量に対して、0.1〜1.5当量が好ましい。質量としては、(E)成分がイミダゾール系である場合には、樹脂組成物100質量部に対して0.1〜1質量部であることが好ましく、(E)成分がイミダゾール系以外である場合には、樹脂組成物100質量部に対して1〜15質量部であることが好ましい。
【0038】
なお、樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、シランカップリング剤等のカップリング剤、粘着性付与剤、消泡剤、流動調整剤、成膜補助剤、分散助剤等の添加剤を含むことができる。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、ビルドアッププリント配線板等のリジッド基板の層間接着材やB
2it基板に使用される絶縁フィルム等への用途に、特に適している。
【0040】
〔絶縁フィルム〕
本発明の絶縁フィルムは、上述の樹脂組成物から形成される。具体的には、絶縁フィルムは、上述の樹脂組成物を、支持体の上に、塗布した後、乾燥することにより、得ることができる。
【0041】
絶縁フィルム用組成物は、(A)〜(E)成分等を含む原料を、有機溶剤に溶解又は分散等させることにより、作製することができる。これらの原料の溶解又は分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0042】
有機溶剤としては、芳香族系溶剤、例えばトルエン、キシレン等、ケトン系溶剤、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。有機溶剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、有機溶剤の使用量は、特に限定されないが、固形分が20〜50質量%となるように使用することが好ましい。作業性の点から、絶縁フィルム用組成物は、200〜3000mPa・sの粘度の範囲であることが好ましい。粘度は、E型粘度計を用いて、回転数10rpm、25℃で測定した値とする。
【0043】
上述のように、絶縁フィルムは、樹脂組成物を、所望の支持体に塗布した後、乾燥することにより得られる。支持体は、特に限定されず、銅、アルミニウム等の金属箔、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等の有機フィルム等が挙げられる。支持体はシリコーン系化合物等で離型処理されていてもよい。
【0044】
樹脂組成物を支持体に塗布する方法は、特に限定されないが、薄膜化・膜厚制御の点からはマイクログラビア法、スロットダイ法、ドクターブレード法が好ましい。スロットダイ法により、熱硬化後の厚さが10〜300μmになる絶縁フィルムを得ることができる。ここで、熱硬化後の絶縁フィルムの厚さは、高周波特性、耐薬品性の観点から、10〜300μmであると好ましい。
【0045】
乾燥条件は、絶縁フィルム用組成物に使用される有機溶剤の種類や量、塗布の厚み等に応じて、適宜、設定することができ、例えば、50〜120℃で、1〜30分程度とすることができる。このようにして得られた絶縁フィルムは、良好な保存安定性を有する。なお、絶縁フィルムは、所望のタイミングで、支持体から剥離することができる。
【0046】
以上のようにして、絶縁フィルムを得ることができる。この絶縁フィルムは、最低溶融粘度が、400Pa・s以下であり、金属配線パターン間への埋め込み性に優れる。
【0047】
〔半導体装置〕
本発明の半導体装置は、上述の樹脂組成物の硬化物、または絶縁フィルムの硬化物を含むので、高周波領域での伝送損失が小さい。また、上述の樹脂組成物または絶縁フィルムは、金属配線パターン間への埋め込み性に優れ、硬化後は低CTE性を有するので、信頼性が高い。特に、本発明の半導体装置は、上述の樹脂組成物の硬化物、または絶縁フィルムの硬化物を、基板間の層間接着層として用いることができる。
【実施例】
【0048】
本発明について、実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、部、%はことわりのない限り、質量部、質量%を示す。なお、平均粒径は、ベックマン・コールター社製レーザー回折・散乱法 粒度分布測定装置(型番:LS 13 320)により測定した。
【0049】
〔実施例1〜17、比較例1〜4〕
《樹脂組成物から形成される絶縁フィルムの作製》
表1、2に示す配合で、(E)成分以外の原料と、有機溶媒として適量のトルエンを計量配合した後、これらを70℃に加温された反応釜に投入し、回転数300rpmで回転させながら、常圧混合を3時間行った後、冷却後に(E)成分の硬化剤を加え、分散装置で均一分散させ、樹脂組成物を含むワニスを作製した。
【0050】
得られたワニスを支持体(離型処理をほどこしたPETフィルム)の片面に塗布し、100℃で乾燥させることにより、支持体付の絶縁フィルム(厚さ:30μm)を得た。
【0051】
〔絶縁フィルムの評価〕
《埋め込み性の評価》
支持体付の絶縁フィルムから、130mm□の試験片を切り出し、150mm角の銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、製品名:CF−T8GD−SV−18)の光沢面の中央部に、絶縁フィルムの試験片を、130℃、3min、0.25kPaで熱圧着し、Cu箔付絶縁フィルムを作製した。作製したCu箔付絶縁フィルムに、φ1.5mmの孔をパンチングで開け、支持体をはがした後、Cu箔付絶縁フィルムの絶縁フィルム側に、別のCu箔の光沢面を載置し、180℃、60min、1MPaで熱硬化させ、一対のCu箔と、絶縁フィルムと、で構成される積層構造体を作製した。
【0052】
この積層構造体について、予め孔加工されたCu箔側から観察し、最大樹脂フロー量をCCDカメラで測定し,埋め込み性の確認をした。穴円周部からの樹脂フロー量を4点測り、平均が100μm以上だった場合を「○」、100μm未満のものを「×」とした。表1、表2に、結果を示す。
【0053】
《最低溶融粘度の測定》
硬化前の支持体付の絶縁フィルムから試験片(300〜500mm□)を切り出し、支持体をはがし、絶縁フィルムを、約300μmの厚さになるように重ねて、ラミネート転写機でラミネートした。TA instruments社製(型番:ARES−G2)でレオメータ測定を行い、最低溶融粘度(単位は、Pa・s)を読み取った。最低溶融粘度は、10〜400Pa・sが好ましい。表1、表2に、結果を示す。
【0054】
《CTEの評価》
絶縁フィルムを、180℃で加熱硬化させ、支持体から剥離した後、絶縁フィルムから試験片(短辺:4.9±0.1mm×長辺:20.0±2.0mm)を切り出し、厚みを測定した。BRUKER社製熱分析機械装置(型番:TMA4000SA)で測定し,熱膨張係数を求めた。CTEは、70ppm/℃以下が好ましく、特に50ppm/℃以下が好ましい。表1、表2に、CTEの結果を示す。
【0055】
《誘電率(ε)、誘電正接(tanδ)の測定》
絶縁フィルムを180℃で加熱硬化させ、支持体から剥離した後、絶縁フィルムから試験片(40±0.5mm×100±2mm)を切り出し、厚さを測定した。試験片を、長さ:100mm、直径:2mm以下の筒状に丸めて、空洞共振器摂動法(10GHz)で、誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を測定した。εは、4以下が好ましく、tanδは、0.006以下が好ましい。表1、表2に、ε、tanδの結果を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1〜2からわかるように、実施例1〜17は、埋め込み性、最低溶融粘度、CTE、高周波である10GHzでの誘電率、誘電正接のすべてにおいて良好な結果であった。(A)成分を含有しない比較例1は、最低溶融粘度が高く、埋め込み性が悪かった。(B)成分を含有しない比較例2は、最低溶融粘度が高く、埋め込み性が悪かった。(D)成分が多すぎる比較例3は、最低溶融粘度が高く、埋め込み性が悪く、(D)成分を含有していない比較例4は、CTEが高かった。なお、表1、2には記載していないが、(E)成分にイミダゾールではないアミン系硬化剤や酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤を使用したこと以外は、実施例1と同様に試験を行った場合には、樹脂組成物のポットライフが短かったものの、樹脂組成物の作製直後でのフィルム化は可能であり、評価結果も実施例と同等であった。
【0059】
上記のように、本発明の樹脂組成物は、高周波特性、金属配線パターン間への埋め込み性に優れ、低熱膨張係数である。また、高周波領域での伝送損失が小さく、加工性の良い絶縁フィルムの熱硬化体である層間接着層を有するため、本発明の半導体装置は高信頼性である。