特許第6571476号(P6571476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6571476-ガス濃度測定装置 図000038
  • 特許6571476-ガス濃度測定装置 図000039
  • 特許6571476-ガス濃度測定装置 図000040
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571476
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】ガス濃度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20190826BHJP
   G01N 21/61 20060101ALI20190826BHJP
【FI】
   G01N21/3504
   G01N21/61
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-193898(P2015-193898)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-15678(P2017-15678A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年5月31日
(31)【優先権主張番号】特願2015-129977(P2015-129977)
(32)【優先日】2015年6月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】桑田 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳尾 聖一
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−109948(JP,A)
【文献】 特開2006−275754(JP,A)
【文献】 特開2010−066209(JP,A)
【文献】 特開2004−101416(JP,A)
【文献】 特開平11−304695(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0330568(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を受光し、光に応じた信号である測定出力を出力する測定用赤外線検出部と、
前記測定出力が入力される演算部と、
を備えたガス濃度測定装置であって、
前記演算部は、
第1の濃度の測定対象ガス中で前記光源を点灯させた時に前記測定用赤外線検出部が出力する第1の測定出力と、
前記第1の濃度と異なる第2の濃度の測定対象ガス中で前記光源を点灯させた時に前記測定用赤外線検出部が出力する第2の測定出力と、
n次多項式である基準濃度算出式から求まる濃度が前記第1の濃度であるときの変数の値である第1の解と、
前記基準濃度算出式から求まる濃度が前記第2の濃度であるときの変数の値である第2の解と、から得られる係数と、
前記基準濃度算出式を前記第1の解と前記第1の濃度で補正した式と、
前記第1の濃度と、
を含む濃度算出式に、測定時の前記測定出力を前記第1の測定出力で規格化して代入することで測定対象ガスの濃度を演算し、
前記濃度算出式は下記式(1)であり、前記基準濃度算出式は、下記式(2)である、ガス濃度測定装置。
【数1】
(式中、cはガスの濃度、c1は前記第1の濃度、c2は前記第2の濃度、Vout(c1)は前記第1の測定出力、Vout(c2)は前記第2の測定出力、Vstd(c1)は前記基準濃度算出式から求まる濃度が前記第1の濃度c1であるときの変数Vstdの値である前記第1の解、Vstd(c2)は前記基準濃度算出式から求まる濃度が前記第2の濃度c2であるときの変数Vstdの値である前記第2の解、anは前記基準濃度算出式のn次の係数、Voutは測定時の前記測定出力、Vstdは前記基準濃度算出式の変数である。)
【請求項2】
光源と、
前記光源からの光を受光し、光に応じた信号である測定出力を出力する測定用赤外線検出部と、
前記測定出力が入力される演算部と、
を備えたガス濃度測定装置であって、
前記演算部は、
第1の濃度の測定対象ガス中で前記光源を点灯させた時に前記測定用赤外線検出部が出力する第1の測定出力と、
前記第1の濃度と異なる第2の濃度の測定対象ガス中で前記光源を点灯させた時に前記測定用赤外線検出部が出力する第2の測定出力と、
対数関数である基準濃度算出式から求まる濃度が前記第1の濃度であるときの変数の値である第1の解と、
前記基準濃度算出式から求まる濃度が前記第2の濃度であるときの変数の値である第2の解と、から得られる係数と、
前記基準濃度算出式を前記第1の解と前記第1の濃度で補正した式と、
前記第1の濃度と、
を含む濃度算出式に、測定時の前記測定出力を前記第1の測定出力で規格化して代入することで測定対象ガスの濃度を演算し、
前記濃度算出式は下記式(3)であり、前記基準濃度算出式は、下記式(4)である、ガス濃度測定装置。
【数2】
(式中、cはガスの濃度、c1は前記第1の濃度、c2は前記第2の濃度、Vout(c1)は前記第1の測定出力、Vout(c2)は前記第2の測定出力、Vstd(c1)は前記基準濃度算出式から求まる濃度が前記第1の濃度c1であるときの変数Vstdの値である前記第1の解、Vstd(c2)は前記基準濃度算出式から求まる濃度が前記第2の濃度c2であるときの変数Vstdの値である前記第2の解、d1〜d4は前記基準濃度算出式の係数、Voutは測定時の前記測定出力、Vstdは前記基準濃度算出式の変数である。)
【請求項3】
前記ガス濃度測定装置は、
前記光源からの光を受光し、光に応じた信号である参照出力を出力する参照用赤外線検出部をさらに備え、
前記演算部が
前記測定出力を前記参照出力で補正する請求項1または2に記載のガス濃度測定装置。
【請求項4】
前記演算部が、
前記光源を点灯させた時の前記測定出力と前記参照出力の少なくとも一方を、
前記光源を消灯させた時の前記測定出力と前記参照出力の少なくとも一方に基づいて補正する請求項3に記載のガス濃度測定装置。
【請求項5】
前記演算部が、
前記光源を点灯させた時の前記測定出力を、
前記光源を消灯させた時の前記測定出力に基づいて補正する請求項1または2に記載のガス濃度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス濃度測定装置に関し、より詳細には、2濃度検査にて高精度なガス濃度測定が可能な算出式を用いたガス濃度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から大気中の測定対象ガスの濃度測定を行うガス濃度測定装置として、ガスの種類によって吸収される赤外線の波長が異なることを利用し、この吸収量を検出することによりそのガス濃度を測定する非分散赤外吸収型(Non−Dispersive Infrared)ガス濃度測定装置が知られている。この原理を用いたガス濃度測定装置としては、例えば、測定対象ガスが吸収特性を持つ波長に限定した赤外線を透過するフィルタ(透過部材)と赤外線センサを組み合わせ、赤外線の吸収量を測定することによってガスの濃度を測定するようにしたものが挙げられる。
【0003】
また、この原理の応用を用いたガス濃度測定装置として、例えば、特許文献1に記載のものは、測定対象ガスによる赤外線の吸収が生じない波長域の赤外線を選択的に透過する参照用フィルタと、測定対象ガスによる赤外線の吸収が生じる波長域の赤外線を選択的に透過する測定用フィルタをそれぞれ配置した赤外線検出素子を複数配置し、それぞれの赤外線検出素子からの出力信号に基づいて測定対象ガスの検出や濃度測定をしており、検出精度や出力の安定性を向上させた炭酸ガス濃度測定装置及び炭酸ガス検出方法である。
以下、これらも含めて、ガス濃度測定装置及びガス濃度測定方法ともいう。その動作原理は、波長による吸収度合いの差異を、炭酸ガス検出に応用したものである。光源であるセラミックヒータから放射された赤外線において、波長4.3μm付近の赤外線は、気体容器内の炭酸ガスにより吸収されて、その放射強度が低下する。一方、波長3.9μmの赤外線は、炭酸ガスによる吸収はなく、その放射強度が低下することはない。
【0004】
そして、ガス測定装置の気体容器内を通過した異なる波長を含む赤外線から、波長4.3μmと波長3.9μmとの2波を、2波それぞれに対応した通過帯域を有する2種類の光学フィルタで濾波選別する。これら波長の異なる赤外線それぞれの放射強度に基づいて、気体容器内の炭酸ガスの濃度が算出される。セラミックヒータの放射強度分布は、炭酸ガスの赤外線吸収スペクトルを含む、2μm〜50μmの波長領域でブロードであり、炭酸ガスの赤外線吸収スペクトル付近の波長領域で十分な放射強度を有する。したがって、光源にセラミックヒータを用いたガス測定装置の検出精度及び出力の安定性は向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−33431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非分散赤外吸収型ガス濃度測定装置では、理想的にはランバートベールの法則(Lambert−Beer_law)に基づいて得られる下記式(1)に則った測定用赤外線検出部の出力が得られる。
【0007】
【数1】
【0008】
(式中、cはガスの濃度、εは吸光度係数、l(エル)は実態的な光路長、Vout(0)は測定対象ガスによる吸収が無い場合の測定用赤外線検出部の仮想出力、Voutは測定対象ガスによる吸収が有る場合の測定用赤外線検出部の出力である。)
しかし、測定用赤外線検出部の出力に含まれる回路的、光学的オフセットなど影響によって、実際の出力特性は式(1)のようなLogの関数から乖離する。ここでいう回路的オフセットとは、例えば測定用赤外線検出部に含まれる増幅回路によって生じる。また、光学的オフセットとは、例えば測定対象ガスによって吸収されない波長の光の測定用赤外線検出部への入射等によって生じる。
【0009】
さらに、光源から測定用赤外線検出部までの光路長や、測定対象ガスによる吸収が無い場合の測定用赤外線検出部の仮想出力は個体ごとにばらつきが生じる。
そのため、2濃度検査を前提に測定対象ガスの濃度値を演算する場合、従来は、例えば、測定用赤外線検出部の出力を変数とし測定対象ガスの濃度を出力する2次関数を定義し、2次関数に含まれる3つの係数のうち1つの係数を固定値とし、2濃度の検査から残りの2つの係数を求めることで、濃度演算用の関数を決定していた。しかしこの演算方法では、回路的、光学的オフセットの影響や多数の光路の影響、光路長や測定対象ガスによる吸収が無い場合の測定用赤外線検出部の仮想出力ばらつきの影響を完全に補償できないため、演算精度は低いものであった。
【0010】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、2濃度検査にて、高精度なガス濃度測定が可能なガス濃度測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の発明により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の様態は、光源と、光源からの光を受光し、光に応じた信号である測定出力を出力する測定用赤外線検出部と、測定出力が入力される演算部と、を備えたガス濃度測定装置であって、演算部は、第1の濃度の測定対象ガス中で光源を点灯させた時に測定用赤外線検出部が出力する第1の測定出力と、第1の濃度と異なる第2の濃度の測定対象ガス中で光源を点灯させた時に測定用赤外線検出部が出力する第2の測定出力と、基準濃度算出式から求まる濃度が第1の濃度であるときの変数の値である第1の解と、基準濃度算出式から求まる濃度が第2の濃度であるときの変数の値である第2の解と、から得られる係数と、基準濃度算出式を第1の解と第1の濃度で補正した式と、第1の濃度と、を含む濃度算出式に、測定時の測定出力を第1の測定出力で規格化して代入することで測定対象ガスの濃度を演算するガス濃度測定装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高精度なガス濃度測定が可能な演算を用いたガス濃度測定装置を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るガス濃度測定装置の実施形態を説明するための図である。
図2】本発明に係るガス濃度測定装置の実施形態において、参照用赤外線検出部を追加した構成を説明するための図である。
図3】上述した実施例と比較例を対比した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかであろう。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0015】
[実施形態]
図1は、本発明に係るガス濃度測定装置の実施形態を説明するための図である。図中符号1はガス濃度測定装置、10はガスセル、11はガス導入口、12はガス導出口、20は光源、31は測定用赤外線検出部、40は演算部、Lは最短距離の光路長を示している。なおここでは参考のため、ガスセル10を明示しているが、本発明においてガスセルは必須の構成ではなく、ガスセルの無い形態でも試験容器内等にガス濃度測定装置を配置することで下記と同様の2濃度検査を行うことが可能である。
【0016】
本実施形態のガス濃度測定装置1は、光源20と、光源20からの光を受光し、光に応じた信号である測定出力を出力する測定用赤外線検出部31と、測定出力が入力される演算部40と、を備えたガス濃度測定装置である。
演算部40は、第1の濃度の測定対象ガス中で光源20を点灯させた時に測定用赤外線検出部31が出力する第1の測定出力と、第1の濃度と異なる第2の濃度の測定対象ガス中で光源20を点灯させた時に測定用赤外線検出部31が出力する第2の測定出力と、基準濃度算出式から求まる濃度が第1の濃度であるときの変数の値である第1の解と、基準濃度算出式から求まる濃度が第2の濃度であるときの変数の値である第2の解と、から得られる係数と、基準濃度算出式を第1の解と第1の濃度で補正した式と、第1の濃度と、を含む濃度算出式に、測定時の測定出力を第1の測定出力で規格化して代入することで測定対象ガスの濃度を演算する。これにより、2濃度検査にて、高精度なガス濃度測定が可能なガス濃度測定装置を提供することが可能となる。
【0017】
また、本実施形態のガス濃度測定装置1において、係数が、第2の測定出力と第1の測定出力の比と、第2の解と第1の解の比と、から得られるものであってもよい。これによりさらに高精度な濃度演算が可能になるという効果を奏する。
また、本実施形態のガス濃度測定装置1において、基準濃度算出式がn次多項式であり、濃度算出式は、基準濃度算出式の1次〜n次の係数を、第1の解で補正し、0次の係数を第1の濃度で補正した式に、係数をかけ、さらに第1の濃度を足し合わせた式でああってもよい。これによりさらに高精度な濃度演算が可能になるという効果を奏する。
また、本実施形態のガス濃度測定装置1における基準濃度算出式がn次多項式(式(2))である場合、具体的なガス濃度の演算方法の一例としては、下記式(3)が挙げられる。
【0018】
【数2】
【0019】
(式中、aはn次の係数、Vstdは基準濃度算出式の変数である。)
【0020】
【数3】
【0021】
(式中、cはガスの濃度、cは第1の濃度、cは第2の濃度、Vout(c)は第1の濃度における測定出力、Vout(c)は第2の濃度における測定出力、Vstd(c)は基準濃度算出式の出力が第1の濃度であるときの変数、Vstd(c)は基準濃度算出式の出力が第2の濃度であるときの変数、Voutは測定時の測定出力である。)
式(3)は、第1の濃度および第2の濃度の、それぞれの濃度における測定出力Vout(c)、Vout(c)と、それぞれの濃度における基準濃度算出式の変数Vstd(c)、Vstd(c)と、基準濃度算出式のn次の係数aを定数としており、測定時の測定出力Voutを代入することのみで、濃度演算が可能であることが理解される。
【0022】
ここで式(3)をみると、基準濃度算出式の式(2)を本実施形態のガス濃度測定装置の濃度特性に即した演算式のように補正した形式となっており、これにより光源から測定用赤外線検出部までの光路長や、測定対象ガスによる吸収が無い場合の測定用赤外線検出部の仮想出力の個体ばらつきの影響が低減され、より高精度にガス濃度を演算することが可能となることがわかる。
また、本実施形態のガス濃度測定装置1における基準濃度算出式が対数関数(式(4))である場合、ガス濃度の具体的な演算方法の一例としては、式(5)が挙げられる。
【0023】
【数4】
【0024】
(式中、d1〜4は基準濃度算出式の係数である。)
【0025】
【数5】
【0026】
上記式(5)は、第1の濃度および第2の濃度の、それぞれの濃度における測定出力Vout(c)、Vout(c)と、それぞれの濃度における基準濃度算出式の変数Vstd(c)、Vstd(c)と、基準濃度算出式の係数d1〜4を定数としており、測定時の測定出力Voutを代入することのみで、濃度演算が可能であることが理解される。
ここで式(5)をみると、基準濃度算出式の式(4)を本実施形態のガス濃度測定装置の濃度特性に即した演算式のように補正した形式となっており、これにより光源から測定用赤外線検出部までの光路長や、測定対象ガスによる吸収が無い場合の測定用赤外線検出部の仮想出力の個体ばらつきの影響が低減され、より高精度にガス濃度を演算することが可能となることがわかる。
【0027】
また、式(5)と式(3)より、実施形態のガス濃度測定装置において、第1の濃度の測定対象ガス中で光源を点灯させた時に測定用赤外線検出部が出力する第1の測定出力と、第1の濃度と異なる第2の濃度の測定対象ガス中で光源を点灯させた時に測定用赤外線検出部が出力する第2の測定出力と、濃度算出式から求まる濃度が第1の濃度であるときの変数の値である第1の解と、基準濃度算出式から求まる濃度が第2の濃度であるときの変数の値である第2の解と、から得られる係数と、基準濃度算出式を第1の解と前記第1の濃度で補正した式と、第1の濃度と、を含む濃度算出式に、測定時の測定出力を第1の測定出力で規格化して代入することで、高精度な濃度演算が可能になることが理解される。
また、式(5)と式(3)より、本実施形態のガス濃度測定装置において、係数が、第2の測定出力と第1の測定出力の比と、第2の解と第1の解の比と、から得ることで、高精度な濃度演算が可能になることが理解される。
【0028】
<式(3)の導出>
以下、式(3)の導出過程について説明する。
ランバートベールの法則(Lambert−Beer_law)より、本実施形態のガス濃度測定装置では、式(6)に基づいて測定対象ガスの濃度を演算できるはずである。
【0029】
【数6】
【0030】
(式中、cはガスの濃度、εは吸光度係数、l(エル)は実態的な光路長、Vout(0)は測定対象ガスによる吸収が無い場合の仮想の測定出力、Voutは測定時の測定出力である。)
しかし、式(6)は個体ごとにばらつく実態的な光路長lや測定対象ガスによる吸収が無い場合の仮想の測定出力Vout(0)を含んでいる。そこで、任意の既知の第1の濃度および第2の濃度における測定出力から、これらのばらつき要因を含まない数式を導出する。
任意の既知の第1の濃度の測定対象ガス中で前記光源を点灯させた時に測定用赤外線検出部が出力する第1の測定出力Vout(c)とすると、第1の濃度cは式(7)で表される。
【0031】
【数7】
【0032】
上記式(6)、(7)から、下記式(8)が得られる。
【0033】
【数8】
【0034】
任意の既知の第2の濃度cの測定対象ガス中で、光源を点灯させた時に得られる測定用出力をVout(c2)とし、上記式(8)に代入して変形すると、式(9)が得られる。
【0035】
【数9】
【0036】
式(8)に式(9)を代入すると式(10)を得ることが出来る。
【0037】
【数10】
【0038】
しかしながら、測定用赤外線検出部の出力に含まれる回路的、光学的オフセットの影響などによって、実際の特性は上記式(10)のようなLogの関数からは乖離がある。回路的オフセットは、例えば測定用赤外線検出部に含まれる増幅回路で生じる。また、光学的オフセットは、例えば測定対象ガスによって吸収されない波長の光の測定用赤外線検出部への入射等によって生じる。
そこで、式(2)のような基準濃度算出式を定義し、そこから濃度算出式を導出する。ここでの基準濃度算出式とは、本実施形態のガス濃度測定装置と近いガス濃度特性を示す、別個体のガス濃度測定装置におけるガス濃度特性の近似式、つまりは濃度算出式である。
【0039】
【数11】
【0040】
(式中、aはn次の係数、Vstdは基準濃度算出式の変数である。)
式(10)を式(11)のように変形する。
【0041】
【数12】
【0042】
(式中、Vstd(c)は基準濃度算出式から求まる値が第1の濃度であるときの基準濃度算出式の変数である。)
また、式(10)のLogの関数を多項式に置き換えると、式(12)が得られる。
【0043】
【数13】
【0044】
(式中、bはn次の係数である。)
式(12)のVoutをVstdに、Vout(c)をVstd(c)に、Vout(c)をVstd(c)に置き換えると式(13)が得られる。
【0045】
【数14】
【0046】
(式中、Vstd(c)は基準濃度算出式から求まる値が第2の濃度であるときの基準濃度算出式の変数である。)
式(11)と式(13)が等しいと仮定して、bなどの係数を求めると、式(14−0)〜式(14−n)が得られる。
【0047】
【数15】
【0048】
【数16】
【0049】
【数17】
【0050】
【数18】
【0051】
式(14−0)〜式(14−n)を式(12)に代入すると、式(3)を得ることができる。
【0052】
【数19】
【0053】
<式(5)の導出>
以下、式(3)の導出過程について説明する。
先述の通り、式(10)は実際の特性からは乖離があるため、式(4)のような基準濃度算出式を定義し、そこから濃度算出式を導出する。ここでの基準濃度算出式とは、本実施形態のガス濃度測定装置と近いガス濃度特性を示す、別個体のガス濃度測定装置におけるガス濃度特性の近似式、つまりは濃度算出式である。
【0054】
【数20】
【0055】
(式中、d1〜4は定数、Vstdは基準濃度算出式の変数である。)
式(4)を式(5)のように変形する。
【0056】
【数21】
【0057】
(式中、Vstd(c)は基準濃度算出式から求まる値が第1の濃度であるときの基準濃度算出式の変数である。)
また、式(10)のLogの関数にオフセットなどを加味すると、式(16)が得られる。
【0058】
【数22】
【0059】
(式中、e1〜4は定数である。)
式(16)のVoutをVstdに、Vout(c)をVstd(c)に、Vout(c)をVstd(c)に置き換えると式(17)が得られる。
【0060】
【数23】
【0061】
(式中、Vstd(c)は基準濃度算出式から求まる値が第2の濃度であるときの基準濃度算出式の変数である。)
式(15)と式(17)が等しいと仮定して、e1〜4を求めると、式(18−1)〜式(18−4)が得られる。
【0062】
【数24】
【0063】
【数25】
【0064】
【数26】
【0065】
【数27】
【0066】
式(18−1)〜式(18−4)を式(17)に代入すると、式(5)を得ることができる。
【0067】
【数28】
【0068】
また、本実施形態に係るガス濃度測定装置において、ガス濃度測定装置は、光源からの光を受光し、光に応じた信号である参照出力を出力する参照用赤外線検出部をさらに備え、演算部が前記測定出力を前記参照出力で補正するものであっても良い。
【0069】
図2は、本発明に係るガス濃度測定装置の実施形態において、参照用赤外線検出部を追加した構成を説明するための図である。図中符号32は参照用赤外線検出部を示している。なお、図1に記載の構成要素と同じ機能を有する構成要素には同一の符号を付してある。なおここでは参考のため、ガスセル10を明示しているが、本発明においてガスセルは必須の構成ではなく、ガスセルの無い形態でも試験容器内等にガス濃度測定装置を配置することで下記と同様の2濃度検査を行うことが可能である。
測定出力を参照出力に基づいて補正することで、式(1)中のVout(0)(測定対象ガスによる吸収が無い場合の測定用赤外線検出部の出力)が経時的に変化したとしても、その変化分を補正できるため、従来よりも高精度なガス濃度測定が可能になるという効果を奏する。
補正の具体例としては、式(19)などがある。
【0070】
【数29】
【0071】
(式中、Vstd’は参照出力で補正された測定出力である。)
また、式(19)右辺の分母と分子が逆になっても良い。
また、本実施形態に係わるガス濃度測定装置において、演算部が、光源を点灯させた時の測定出力と参照出力の少なくとも一方を、光源を消灯させた時の測定出力と参照出力の少なくとも一方に基づいて補正するものであってもよい。
補正の具体例としては、式(20)、式(21)のように、光源を点灯させた時の測定出力および参照出力と、光源を消灯させた時の測定出力および参照出力の差分をとるなどがある。
【0072】
【数30】
【0073】
【数31】
【0074】
(式中、DOUTは光源を点灯させた時の測定出力を光源を消灯させた時の測定出力で補正したもの、Drefは光源を点灯させた時の参照出力を光源を消灯させた時の参照出力で補正したもの、Vout_onは光源を点灯させた時の測定出力、Vout_offは光源を消灯させた時の測定出力、Vref_onは光源を点灯させた時の参照出力、Vref_offは光源を消灯させた時の参照出力である。
ここで、光源を点灯させた状態とは、光源が周囲環境から放射される赤外線量よりも多い赤外線を放射している状態をいう。
また、光源を消灯させた状態とは、完全に消灯している状態でなくてもよい。
光源への電力供給の有無に係わらず、光源が赤外線を放射している状態であっても、放射する赤外線量が光源点灯時に放射する赤外線量以下である場合、または周囲環境から放射される赤外線量と同等以下である場合には、光源は実質的に赤外線を放射しない状態であるため消灯状態と看做される。
【0075】
光源を消灯させた時の測定出力や参照出力に基づいて、光源を店頭させた時の測定出力や参照出力を補正することで、測定出力や参照出力に含まれる回路的オフセットを補正できるため、従来よりも高精度なガス濃度測定が可能になるという効果を奏する。
ここで、回路的オフセットとは、例えば測定用赤外線検出や参照用赤外線検出部に内蔵される増幅回路の出力オフセットなどである。
以下、本実施形態のガス濃度測定装置における各構成要件について説明する。各構成要件の具体例や技術的特徴は、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で単独または組み合わせて適用可能である。
【0076】
(測定用赤外線検出部及び参照用赤外線検出部)
測定用赤外線検出部、参照用赤外線検出部は、光源が出力する赤外線に対する感度を有し、入射された赤外線に応じた信号を出力するものである。測定用赤外線検出部は参照用赤外線検出部よりも、測定対象ガスによる赤外線吸収帯域に対する感度の赤外線吸収帯域以外の帯域に対する感度に対する比が大きいものであれば特に制限されない。測定用赤外線検出部及び参照用赤外線検出部には、焦電センサ(Pyroelectric sensor)、サーモパイル(Thermopile:熱電堆)、ボロメータ(Bolometer)等の熱型赤外線センサや、量子型赤外線センサ等が好適である。
測定用赤外線検出部、参照用赤外線検出部は、測定対象ガスに併せて所望の光学特性を有する光学フィルタをさらに備えていてもよい。例えば、測定対象ガスが炭酸ガスの場合、測定用赤外線検出部には炭酸ガスによる赤外線吸収が多く生じる波長帯(代表的には4.3μm付近)の赤外線を濾波できるバンドパスフィルタを搭載し、参照用赤外線検出部には炭酸ガスによる赤外線吸収が生じない波長帯(代表的には3.9μm付近)の赤外線を濾波できるバンドパスフィルタを搭載する形態が例示される。
【0077】
(光源)
光源は、測定用赤外線検出部、参照用赤外線検出部が感度を有する赤外線帯域を出力できるものであれば特に制限されない。例えば、白熱電球やセラミックヒータ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒーターやLEDなどを用いることができる。
(演算部)
演算部は、ガス濃度算出における演算が可能なものであれば特に制限されず、例えば、アナログIC、ディジタルIC及びCPU(Central Processing Unit)等が好適である。演算部には、光源を制御するための機能が含まれていても構わない。
【0078】
(ガスセル)
本実施形態のガス濃度測定装置は、内部に測定対象ガスを流入可能であり、内部に光源、測定用赤外線検出部、参照用赤外線検出部、演算部等を配置可能なガスセルをさらに備えても良い。ここで、流入可能とは光源から出力された赤外線が測定対象ガスの存在する空間を通って、測定用赤外線検出部に到達可能であることを示す。ガスセルをさらに備えることで、測定用赤外線検出部及び参照用赤外線検出部の出力する信号のSN比を高めることができ、より高精度なガス濃度測定装置が実現する。赤外線検出部に入射される赤外線の効率化の観点から、ガスセル内部が赤外線を反射する材料で形成されていることが好ましい。具体的にはアルミニウムや銅などの金属材料が挙げられる。
次に、本実施形態のガス濃度測定装置の実施例について説明する。
【実施例】
【0079】
タングステン光源、COによる赤外線吸収のある4.2μm〜4.4μmの波長帯を選択的に濾波選別する光学フィルタを搭載した測定用赤外線検出部31としての量子型赤外線センサ「IR1011」(旭化成エレクトロニクス株式会社製)、COによる赤外線吸収の無い3.7μm〜3.9μmの波長帯を選択的に濾波選別する光学フィルタを搭載した参照用赤外線検出部としての量子型赤外線センサ「IR1011」(旭化成エレクトロニクス株式会社製)、演算部として記憶部と処理部を備えたICを、リン青銅に金メッキを施したガスセル中に、配置した炭酸ガス濃度測定装置を準備した。
【0080】
次いで、濃度0ppmの炭酸ガスをガスセル中に充填した時の、光源が点灯および消灯している時の、それぞれアンプにより増幅された測定用赤外線検出部と参照用赤外線検出部からの出力と、濃度986mの炭酸ガスをガスセル中に充填した時の、光源が点灯および消灯している時の、それぞれアンプにより増幅された測定用赤外線検出部と参照用赤外線検出部からの出力とを用いて、上述した実施形態の濃度演算を行った。
具体的な演算は下記の通りである。
以下、本実施例で述べる測定出力とは、光源を点灯している時の測定出力と光源を消灯している時の測定出力との差分であり、参照出力とは、光源を点灯している時の参照出力と光源を消灯している時の参照出力との差分である。
【0081】
まず、測定時の測定出力に対する参照出力の比(Dout’)、炭酸ガス濃度0ppm時の測定出力に対する参照出力の比(Dout(c)’)、また、炭酸ガス濃度986ppm時の測定出力に対する参照出力の比(Dout(c)’)、基準濃度算出式から求まる値が0である時の基準濃度算出式の変数の値(Vstd(c))、基準濃度算出式から求まる値が986である時の基準濃度算出式の変数の値(Vstd(c))を演算した。次いで、Vout(c)=Dout(c)’、Vout(c)=Dout(c)’とし、式(3)に必要な値を代入し、炭酸ガス濃度を演算した。
【0082】
基準濃度算出式とは、ここで用いているガス濃度測定装置と近いガス濃度特性を示す別個体のガス濃度測定装置(基準ガス濃度測定装置)の、炭酸ガス濃度と測定出力に対する参照出力の比の関係を、直接的あるいは近似的に表す数式である。ここでは、基準ガス濃度測定装置の0〜5000ppmの5点での濃度試験結果から、式(22)のような基準濃度算出式を導出した。
【0083】
【数32】
【0084】
ここで、f(Vstd)は基準濃度算出式、Vstdは基準濃度算出式の変数である。
【0085】
[比較例]
以下、本比較例で述べる測定出力とは、光源を点灯している時の測定出力と光源20をしている時の測定出力との差分であり、参照出力とは、光源を点灯している時の参照出力と光源を消灯している時の参照出力との差分である。
まず、式(23)のような、2次の係数が固定で、1次の係数(b)と0次の係数(b)が未定である濃度算出式を用意した。
【0086】
【数33】
【0087】
ここで、g(Dout’)は比較例における濃度算出式、Dout’は測定時の測定用赤外線検出部の出力に対する参照用赤外線検出部の出力、fは濃度算出式の1次の係数、fは濃度算出式の0次の係数である。
濃度算出式(式(23))の2次の係数は、ここで用いているガス濃度測定装置と近いガス濃度特性を示す別個体のガス濃度測定装置の、炭酸ガス濃度と参照出力に対する測定出力の比との関係を表す、2次の近似式の2次の係数である。ここでは、実施例で用いた基準ガス濃度測定装置の0〜5000ppmの5点での濃度試験結果から、炭酸ガス濃度と参照出力に対する測定出力の比との関係を表す2次近似式を求め(式(22))、その2次関数の2次の係数を濃度算出式(式(23))中の2次の係数とした。
【0088】
次いで、式(22)の1次および0次の係数を、炭酸ガス濃度0ppm時の測定用赤外線検出部31の出力に対する参照用赤外線検出部の出力と、炭酸ガス濃度987ppm時の参照用赤外線検出部の出力に対する測定用赤外線検出部31の出力の比から求め、式(24)を得た。
【0089】
【数34】
【0090】
次いで、式(12)に測定時の参照出力に対する測定出力の比を代入し、炭酸ガス濃度を演算した。
図3は、上述した実施例と比較例を対比した結果を示す図である。
図3の結果より、実施例の演算によると最大で−14ppmの誤差にとどまったが、比較例1の演算によると最大で+273ppmの誤差が生じた。
以上の結果より、本実施形態のガス濃度演算装置によれば、従来の濃度算出式よりも高精度な濃度演算が可能であることが理解される。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の技術的範囲には限定されない。上述した実施形態に、多様な変更又は改良を加えることも可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、炭酸ガス等に代表される赤外線吸収を生じるガスのガス濃度測定装置として好適である。
【符号の説明】
【0093】
10 ガスセル
11 ガス導入口
12 ガス導出口
20 光源
31 測定用赤外線検出部
32 参照用赤外線検出部
40 演算部
図1
図2
図3