特許第6571605号(P6571605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571605
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】無線受信方法および無線受信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20190826BHJP
【FI】
   H04L27/26 410
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-147758(P2016-147758)
(22)【出願日】2016年7月27日
(65)【公開番号】特開2018-19237(P2018-19237A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2018年8月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名: 一般社団法人電子情報通信学会 刊行物名: 電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.115 No.472 103−108頁 発行年月日: 2016年2月24日 〔刊行物等〕発行者名: 一般社団法人電子情報通信学会 刊行物名: 電子情報通信学会 2016年総合大会講演論文集 通信講演論文集1 576頁 発行年月日: 2016年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100072718
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 史旺
(74)【代理人】
【識別番号】100151002
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 剛之
(74)【代理人】
【識別番号】100201673
【弁理士】
【氏名又は名称】河田 良夫
(72)【発明者】
【氏名】増野 淳
(72)【発明者】
【氏名】須崎 皓平
(72)【発明者】
【氏名】大槻 知明
(72)【発明者】
【氏名】柴田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】プーイ ユエン カム
【審査官】 太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−142858(JP,A)
【文献】 特開2013−172328(JP,A)
【文献】 特開2009−206682(JP,A)
【文献】 特開2012−065248(JP,A)
【文献】 特表2012−521168(JP,A)
【文献】 柿崎 祐人,他3名,マルチキャリア重畳伝送における複数干渉波抑圧法,電子情報通信学会2015年通信ソサイエティ大会講演論文集1 PROCEEDINGS OF THE 2015 IEICE COMMUNICATIONS SOCIETY CONFERENCE,日本,2015年 8月25日,p.360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
IEEE Xplore
Cinii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャリア重畳伝送方式を用いて送信されたデータサブキャリアの所望信号と、該所望信号に干渉を与える干渉信号とが重畳された受信信号を受信する無線受信方法において、
前記受信信号から前記所望信号の受信レプリカ信号を生成し、前記受信信号から該受信レプリカ信号を減算して得られる不要信号電力をサブキャリアごとに算出する第1のステップと、
前記不要信号電力の閾値判定により前記受信信号のサブキャリアを重畳帯域および非重畳帯域に分類する第2のステップと、
受信信号系列の事後確率を最大化する所望信号電力および雑音電力を前記非重畳帯域のデータサブキャリアから最尤推定し、受信信号系列の事後確率を最大化する干渉電力を前記重畳帯域のデータサブキャリアから最尤推定する第3のステップと
を有することを特徴とする無線受信方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無線受信方法において、
前記所望信号電力、前記雑音電力、前記干渉電力のいずれかまたは全ての初期推定値をデータ信号と多重化された既知信号から取得する
ことを特徴とする無線受信方法。
【請求項3】
請求項1に記載の無線受信方法において、
前記所望信号電力、前記雑音電力、または前記干渉電力の推定値を尤度方程式の漸化演算により逐次的に導出する
ことを特徴とする無線受信方法。
【請求項4】
請求項1に記載の無線受信方法において、
推定された前記所望信号電力、前記雑音電力、前記干渉電力の値を使用して、所望信号の伝送ビットに対して改めて対数尤度比を再計算して前記受信レプリカ信号の更新、前記重畳帯域および前記非重畳帯域の再分類、前記所望信号電力、前記雑音電力、前記干渉電力の再推定からなる繰返し処理を実施する
ことを特徴とする無線受信方法。
【請求項5】
請求項4に記載の無線受信方法において、
前記対数尤度比の再計算の際に、前記重畳帯域は雑音電力と干渉電力を考慮した対数尤度比を与え、前記非重畳帯域は雑音電力のみを考慮した対数尤度比を与える
ことを特徴とする無線受信方法。
【請求項6】
マルチキャリア重畳伝送方式を用いて送信されたデータサブキャリアの所望信号と、該所望信号に干渉を与える干渉信号とが重畳された受信信号を受信する無線受信装置において、
前記受信信号から前記所望信号の受信レプリカ信号を生成し、前記受信信号から該受信レプリカ信号を減算して得られる不要信号電力をサブキャリアごとに算出する不要信号電力算出手段と、
前記不要信号電力の閾値判定により前記受信信号のサブキャリアを重畳帯域および非重畳帯域に分類する重畳帯域判定手段と、
受信信号系列の事後確率を最大化する所望信号電力および雑音電力を前記非重畳帯域のデータサブキャリアから最尤推定し、受信信号系列の事後確率を最大化する干渉電力を前記重畳帯域のデータサブキャリアから最尤推定する雑音電力・干渉電力推定手段と
を備えたことを特徴とする無線受信装置。
【請求項7】
請求項6に記載の無線受信装置において、
前記雑音電力・干渉電力推定手段は、推定された前記所望信号電力、前記雑音電力、前記干渉電力の値を使用して、所望信号の伝送ビットに対して改めて対数尤度比を再計算して前記受信レプリカ信号の更新、前記重畳帯域および前記非重畳帯域の再分類、前記所望信号電力、前記雑音電力、前記干渉電力の再推定からなる繰返し処理を実施する構成である
ことを特徴とする無線受信装置。
【請求項8】
請求項7に記載の無線受信装置において、
前記雑音電力・干渉電力推定手段は、前記対数尤度比の再計算の際に、前記重畳帯域は雑音電力と干渉電力を考慮した対数尤度比を与え、前記非重畳帯域は雑音電力のみを考慮した対数尤度比を与える構成である
ことを特徴とする無線受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチキャリア無線通信を行う無線通信システムにおける無線受信方法および無線受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種無線通信システムの普及により周波数資源の枯渇が問題となっており、複数の無線信号による周波数共用化を図ることで周波数利用効率を向上する重畳伝送技術の検討が進められている。
【0003】
図5は、2つの周波数チャネルを共用する無線通信システムの一例を示す。
図5において、無線通信システムは、無線LAN基地局51,52と無線端末53とを備える。無線LAN基地局51は、中心周波数fa である周波数チャネルCH1を用いて通信する。無線LAN基地局52は、中心周波数fb (fa<fb)である周波数チャネルCH5用いて通信する。無線端末53は、無線LAN基地局51,52の双方の無線信号が到達する位置に配置され、中心周波数fa ,fb の2つの無線信号が部分的に互いに干渉した信号を受信する。なお、周波数帯域を共用する他の例として、無線LANシステム、 bluetooth(登録商標) 、WiMAX(登録商標) の組合せなど、異なる通信方式のシステム同士が周波数共用する場合も考えられる。
【0004】
一般にこのような干渉波が存在する場合、通信特性が著しく劣化するが、所望波の伝送方式がマルチキャリアかつ誤り訂正符号化を具備することを前提に、干渉の影響を抑圧しながらFEC(前方誤り訂正:Forward Error Correction)復号し、正確な伝送を実現する技術がある(非特許文献1)。当該技術は、所望波の復調前に、受信信号のうち干渉波の存在する周波数成分をRF段やIF段においてフィルタリング処理、あるいはベースバンド領域において該当周波数成分に対する尤度の重み付け処理を施すことで、干渉波の影響を抑圧して復調、復号することを特徴としている。
【0005】
このような受信処理を実施するために、干渉波の存在する周波数帯域(各サブキャリアの干渉確率)や所望波対干渉波電力比を検出する技術が提案されている(非特許文献2)。これは、無線フレームを受信後、パイロットシンボルを用いて1フレーム内で繰り返し干渉帯域を推定し、得られた干渉帯域を用いて不要信号電力を推定する技術である。当該技術を用いた従来の無線受信装置の構成例を図6に示す。
【0006】
図6において、サイクリックプレフィックス除去回路61は、同期確立後の受信信号を入力してOFDM信号のサイクリックプレフィックスを除去してFFT回路62に入力し、周波数領域信号に変換してサブキャリア成分を抽出する。その後、パイロット信号抽出回路63で既知信号となるパイロット信号(データ信号とは時間または周波数多重されていることを想定)を抽出し、伝送路推定回路64で伝送路係数の推定を行い、それをもとに等化回路65でチャネル等化を行う。
【0007】
一方、分散演算回路66は、パイロット信号抽出回路63で抽出されたパイロット信号を利用して所望波に重畳された外乱信号(雑音信号と干渉信号)の電力を算出する。重畳帯域判定回路67は、外乱信号の大きさを適当な閾値で判定し、閾値を越えれば重畳帯域、閾値を下回れば非重畳帯域と判定し、それぞれの外乱信号電力を干渉電力、雑音電力の推定値として使用する。LLR演算回路68は、分散演算回路66および重畳帯域判定回路67から入力する干渉電力および雑音電力の推定値を用いて対数尤度比(LLR:Log Likelihood Ratio)を演算し、LLRを復号回路69に入力して復号ビットを得る。
【0008】
このように、非特許文献2の技術はパイロット信号のみを使用して重畳帯域の判定および干渉電力・雑音電力の推定を行うことが特徴である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】増野,杉山,“マルチキャリア重畳伝送による周波数利用効率向上効果,”信学技報, vol.108, no.188, RCS2008-67, pp.85-90, 2008年8月.
【非特許文献2】柴田洋平, 依田尚賢, 大槻知明, 増野淳, 杉山隆利, “マルチキャリア重畳伝送における対数尤度設定に関する一検討, ”映像情報メディア学会放送技術研究会, 2015年2月19日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献2に記載の手法で満足な干渉検出精度を得るには、パイロットシンボルの時間多重数を十分にとる必要がある。例えば、一般には同期確立、チャネル推定のためには1〜2シンボルのパイロットシンボルで実現される例が多いが、非特許文献2に記載の手法では4以上のパイロットシンボルを必要とし、オーバーヘッドが増えてしまうため、周波数利用効率の観点で難点があった。
【0011】
本発明は、マルチキャリア無線通信を行う無線通信システムにおいて、従来より少ないパイロット信号数でも干渉情報の検出精度を高めることができる無線受信方法および無線受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、マルチキャリア重畳伝送方式を用いて送信されたデータサブキャリアの所望信号と、該所望信号に干渉を与える干渉信号とが重畳された受信信号を受信する無線受信方法において、受信信号から所望信号の受信レプリカ信号を生成し、受信信号から該受信レプリカ信号を減算して得られる不要信号電力をサブキャリアごとに算出する第1のステップと、不要信号電力の閾値判定により受信信号のサブキャリアを重畳帯域および非重畳帯域に分類する第2のステップと、受信信号系列の事後確率を最大化する所望信号電力および雑音電力を非重畳帯域のデータサブキャリアから最尤推定し、受信信号系列の事後確率を最大化する干渉電力を重畳帯域のデータサブキャリアから最尤推定する第3のステップとを有する。
【0013】
第1の発明の無線受信方法において、所望信号電力、雑音電力、干渉電力のいずれかまたは全ての初期推定値をデータ信号と多重化された既知信号から取得する。
【0014】
第1の発明の無線受信方法において、所望信号電力、雑音電力、または干渉電力の推定値を尤度方程式の漸化演算により逐次的に導出する。
【0015】
第1の発明の無線受信方法において、推定された所望信号電力、雑音電力、干渉電力の値を使用して、所望信号の伝送ビットに対して改めて対数尤度比を再計算して受信レプリカ信号の更新、重畳帯域および非重畳帯域の再分類、所望信号電力、雑音電力、干渉電力の再推定からなる繰返し処理を実施する。
【0016】
第1の発明の無線受信方法において、対数尤度比の再計算の際に、重畳帯域は雑音電力と干渉電力を考慮した対数尤度比を与え、非重畳帯域は雑音電力のみを考慮した対数尤度比を与える。
【0017】
第2の発明は、マルチキャリア重畳伝送方式を用いて送信されたデータサブキャリアの所望信号と、該所望信号に干渉を与える干渉信号とが重畳された受信信号を受信する無線受信装置において、受信信号から所望信号の受信レプリカ信号を生成し、受信信号から該受信レプリカ信号を減算して得られる不要信号電力をサブキャリアごとに算出する不要信号電力算出手段と、不要信号電力の閾値判定により受信信号のサブキャリアを重畳帯域および非重畳帯域に分類する重畳帯域判定手段と、受信信号系列の事後確率を最大化する所望信号電力および雑音電力を非重畳帯域のデータサブキャリアから最尤推定し、受信信号系列の事後確率を最大化する干渉電力を重畳帯域のデータサブキャリアから最尤推定する雑音電力・干渉電力推定手段とを備える。
【0018】
第2の発明の無線受信装置において、雑音電力・干渉電力推定手段は、推定された所望信号電力、雑音電力、干渉電力の値を使用して、所望信号の伝送ビットに対して改めて対数尤度比を再計算して受信レプリカ信号の更新、重畳帯域および非重畳帯域の再分類、所望信号電力、雑音電力、干渉電力の再推定からなる繰返し処理を実施する構成である。
【0019】
第2の発明の無線受信装置において、雑音電力・干渉電力推定手段は、対数尤度比の再計算の際に、重畳帯域は雑音電力と干渉電力を考慮した対数尤度比を与え、非重畳帯域は雑音電力のみを考慮した対数尤度比を与える構成である。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、パイロット信号だけでなくデータ信号部の最尤推定における軟判定情報を活用することで、従来より少ないパイロット信号数でも干渉情報の検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の無線受信装置の構成例を示す図である。
図2】本発明の無線受信方法の処理手順例を示すフローチャートである。
図3】干渉電力の推定精度の評価結果を示す図である。
図4】BER特性の評価結果を示す図である。
図5】2つの周波数チャネルを共用する無線通信システムの一例を示す図である。
図6】従来の無線受信装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の無線受信装置の構成例を示す。
図2は、本発明の無線受信方法の処理手順例を示す。
図1において、サイクリックプレフィックス除去回路11は、時間同期・周波数同期を確立した受信信号を入力し、OFDM信号のサイクリックプレフィックスを除去する。続いてFTT回路12で周波数領域信号に変換し、サブキャリア成分を抽出して受信信号バッファ13に蓄積するとともに、伝送路推定回路14および等化回路15に入力する。以降、サブキャリア単位の処理となる。
【0023】
伝送路推定回路14は、パイロット信号などの既知信号を利用して伝送路推定値を取得、等化回路15でサブキャリアごとの受信信号に対して周波数領域等化を行い、チャネル等化を実施する。続いてLLR演算回路16は、事前に送受信装置間で共有されたサブキャリアごとの変調マッピング情報に応じて、デマッピング処理と伝送ビットに対応する対数尤度比(LLR)の計算を行う。初回のLLR演算では干渉波情報の推定ができていないため、重畳帯域・非重畳帯域ともに雑音電力のみを考慮した一般的なLLRを使用する(図2のS1〜S4)。後述する繰返し処理におけるLLR演算では、重畳帯域においては雑音電力と干渉電力を考慮したLLRを計算する。続いて復号回路17にLLRを入力し、誤り訂正復号を行う。
【0024】
誤り訂正符号化回路18およびPSK/QAMマッピング回路19は、送信装置と同一の構成であり、復号回路17から出力される仮復号受信ビットを元に送信レプリカ信号を生成する。なお、復号回路16が軟出力(LLR出力) に対応している場合は出力LLRから直接送信レプリカ信号を再生する軟判定レプリカを使用してもよい。続いて、伝送路重み回路20は送信レプリカ信号と伝送路推定回路14で取得した伝送路推定値を乗算し、サブキャリアごとの受信レプリカ信号を生成する(図2のS6)。
【0025】
不要信号電力算出回路21は、受信信号バッファ13に蓄積された受信信号から、伝送路重み回路20で生成された受信レプリカ信号をタイミング調整して減算することで、不要信号電力を計算する(図2のS7)。タイミング調整とは、等化、LLR演算、復号、レプリカ信号生成等に要する遅延時間の吸収が目的である。
【0026】
不要信号電力算出回路21の出力は、重畳帯域判定回路22、信号電力推定回路23、雑音電力推定回路24および干渉電力推定回路25に入力する。重畳帯域判定回路22は、不要信号電力の評価を行い、サブキャリアごとに重畳帯域か非重畳帯域かの判定を行う(図2のS8)。不要信号電力が閾値を越えれば重畳帯域、閾値を下回れば非重畳帯域とする閾値判定が最も簡便である。閾値として例えば不要信号電力の全サブキャリアの平均値などを使用することができるが、この限りではない。
【0027】
続いて、信号電力推定回路23および雑音電力推定回路24は、非重畳帯域と判定されたサブキャリアにおいて信号電力および雑音電力を推定する(図2のS9)。これらの初期値は伝送路推定回路14の推定値を使用する。信号電力および雑音電力の推定動作の詳細については後述する。さらに、尤度方程式1漸化演算回路26および尤度方程式2漸化演算回路27において、推定した信号電力および雑音電力を更新する(図2のS10)。同様に干渉電力推定回路25は、重畳帯域と判定されたサブキャリアにおいて干渉電力を推定する(図2のS9)。初期値は重畳帯域における不要信号電力の代表値、たとえば平均値や最大値などを使用する。干渉電力の推定動作の詳細については後述する。さらに、尤度方程式3漸化演算回路28において、推定した干渉電力を更新する(図2のS10)。
【0028】
LLR演算回路16は、更新された信号電力、雑音電力、干渉電力の推定値を元に、ビットごとのLLRを再計算する(図2のS11)。このとき、重畳帯域では雑音電力と干渉電力を考慮したLLRを演算し、非重畳帯域では雑音電力のみを考慮したLLRを演算し、LLRを復号回路17に入力して復号ビットを得る(図2のS12)。さらに、「レプリカ信号生成〜不要信号電力算出〜各種電力推定〜LLR演算〜復号」の流れを繰り返すことで、レプリカ信号の生成精度、重畳帯域/非重畳帯域判定精度、各種電力推定精度を向上することが可能である(図2のS1,S5,S13)。この処理を例えば所定回(nmax)繰り返した後、最終受信ビットを得る。
【0029】
(信号電力および雑音電力の推定動作)
図1の構成において、パイロット信号だけでなくデータ信号を活用した信号電力および雑音電力の推定動作について説明する。
非重畳帯域のサブキャリアqの1フレームにおける受信信号系列rの条件付き確率は、次式で表される。Lは、1フレーム内のOFDMシンボル数である。rq(k)はk番目の受信シンボル、dqはサブキャリアqの信号電力(√ES)である。
【数1】
【0030】
ここで、M値変調方式(Mは2の羃乗)、例えばM−PSKおよびM−QAMのとき、pq(rq(k)|σn,q2,dq)は次式のように表される。なお、xq(k)は、k番目の送信シンボル、xi は送信シンボル候補でM値(i=0,1,…,M−1)となる。
【数2】
【0031】
雑音信号としてAWGN(additive white Gaussian noise)を想定すると、pq(rq(k)|σn,q2,dq,q(k)=xi)は次式で表される。
【数3】
【0032】
上式の自然対数をとり、対数尤度関数Λ(σn,q2,dq)を以下のように定義する。
【数4】
【0033】
最尤推定の考え方から対数尤度関数Λ(σn,q2,dq) を最大化するdqおよびσn,q2が、dqおよびσn,q2 の推定値として確からしいとし、Λ(σn,q2,dq) をσn,q2 で偏微分して次式を解く。
【数5】
【0034】
ここで、シンボル事象確率pq(xq(k)=xi)は、σn,q2 に関して独立のため、事後確率は次式のように表される。
【数6】
【0035】
したがって、次の尤度方程式1を得る。
【数7】
【0036】
同様に、Λ(σn,q2,dq) をdq で偏微分し、以下の尤度方程式2を得る。
【数8】
【0037】
尤度方程式1,2を解くと、σn,q2,dqについて以下の関係式が得られる。
【数9】
【0038】
この関係式はNo およびdq に関して閉形式ではないので、それぞれ解析的に解を求めることは難しい。そこで、σn,q2の初期値σn,q2(0) およびdq の初期値dq(0)をパイロット信号部等から推定し、式(1-1),(1-2) の右辺のNo およびdq に代入することで、新たなσn,q2の推定値σn,q2(1) およびdq の推定値dq(1)を求める。初期推定は例えばパイロット信号の受信電力の平均値からdq(0)を求めることができ、近接パイロット信号の分散からσn,q2(0) を求めることができる。同様に、式(1-1),(1-2) を漸化的に解くことでn回繰り返しにより、推定値σn,q2(n) ,dq(n)を得る。
【0039】
その後、雑音電力については非重畳帯域内の推定値σn,q2(n) を平均化する。Qnsは非重畳帯域のサブキャリアの集合である。
【数10】
【0040】
なお、信号電力dq(n)についても同様に平均化してもよいが、周波数選択性フェージング通信路など受信電力が周波数特性をもつ場合は、サブバンドごとに平均化したり、あるいは平均化しないほうが良好な特性が得られる可能性もある。
【0041】
(干渉電力の推定動作)
図1の構成において、データ信号を活用した干渉電力の推定動作について説明する。
重畳帯域のサブキャリアqの受信信号系列の条件付き確率は、次式で表される。
【数11】
【0042】
ここで、M値変調方式(Mは2の羃乗)、例えばM−PSKおよびM−QAMのとき、pq(rq(k)|σif,q2)は次式のように表される。
【数12】
【0043】
雑音信号としてAWGNを想定すると、pq(rq(k)|σif,q2,xq(k)=xi)は次式で表される。
【数13】
【0044】
ここで、対数尤度関数を次式で定義する。
【数14】
【0045】
これを最大化するσif,q2を求めるためにσif,q2で偏微分すると、次式のようになる。
【数15】
【0046】
事前確率pq(xq(k)=xi|σif,q2)は、σif,q2 に関して独立のため、事後確率は次式のように表される。
【数16】
【0047】
式(2-1),(2-2),(2-3)により、対数尤度関数Λ(σif,q2)を以下のように表される。
【数17】
【0048】
対数尤度関数Λ(σif,q2) の最大化条件より定義される尤度方程式3を解くと、次の関係式が得られる。
【数18】
【0049】
ここで、σn2は、非重畳帯域で推定した雑音電力の値を代入する。ただし、初期値は前述の通りパイロット信号から求める。
【0050】
この式(3)はσif,q2に関して閉形式ではないので、それぞれ解析的にσif,q2 を求めることは難しい。そこで、σif,q2 の初期推定値として非重畳帯域の不要信号電力の代表値、例えば非重畳帯域のサブキャリアの平均値や最大値をσif,q2(0)として、式(3) の右辺のσif,q2 に代入し、左辺より更新された推定値σif,q2(1)を求める。このように式(3)を漸化的に解くことでn回繰り返しにより、近似値σif,q2(n)を得て推定値とする。
【0051】
なお、干渉電力σif,q2 について雑音電力と同様に平均化してもよいが、周波数選択性フェージング通信路など受信電力が周波数特性をもつ場合は、サブバンドごとに平均化したり、あるいは平均化しないほうが良好な特性が得られる可能性もある。ここでは、平均化せずにサブキャリアごとに独立した値を使用するものとする。
【0052】
(干渉電力を考慮したLLR演算)
重畳帯域のサブキャリアqの伝送ビットに設定する対数尤度比は、雑音電力と干渉電力を考慮して例えば次式で表される。
【数19】
【0053】
非重畳帯域のサブキャリアqの伝送ビットに設定する対数尤度比は、雑音電力のみを考慮して例えば次式で表される。
【数20】
【0054】
ここで、dx(t,q)は、時刻t、サブキャリアqにおける受信点とxの信号点集合に含まれる信号点候補間のユークリッド距離である。X0(m)は、時刻t、サブキャリアqのm番目のビットに関し、ビット0に属する信号点候補の集合である。X1(m)は、時刻t、サブキャリアqのm番目のビットに関し、ビット1に属する信号点候補の集合である。
【0055】
図3は、干渉電力の推定精度の評価結果を示す。
ここでは、所望信号のサブキャリアの右端20%のサブキャリアに種々の干渉電力を有する干渉信号を重畳した際の、干渉電力の正規化推定誤差を示す。従来法は、パイロット信号による検出を10データシンボルにつき2パイロットシンボルで実施したものである。本発明の硬判定は、同様のパイロットシンボルの挿入頻度で実施したもので、本発明の硬判定は、尤度を適当な正負二値に硬判定したものである。CR boundは不偏推定量の推定精度の限界、Genie-aided CR boundは全ての推定法に対する下界である。
【0056】
図3より、本発明は従来法よりも高い精度で干渉電力の推定ができていることが分かる。また、硬判定のように尤度情報を丸めてしまうと、SIR<5dBでは特性が劣化していることから、本発明において軟判定情報を使用することは検出性能の観点から重要である。本発明は、CR boundを下回っていることから不遍推定ではないものと推察される。
【0057】
図4は、BER特性の評価結果を示す。
評価条件は、図3に示す干渉電力の推定精度のものと同じである。本発明は、硬判定および軟判定ともに、理想推定に漸近する特性を示している。従来法は、干渉推定精度が低いため、上記のようにLLRの設定による干渉抑圧効果が十分に得られず、Es/No>2dBの領域で特性が劣化している。
【符号の説明】
【0058】
11 サイクリックプレフィックス除去回路
12 FFT回路
13 受信信号バッファ
14 伝搬路推定回路
15 等化回路
16 LLR演算回路
17 復号回路
18 誤り訂正符号化回路
19 PSK/QAMマッピング回路
20 伝送路重み回路
21 不要信号電力算出回路
22 重畳帯域判定回路
23 信号電力推定回路
24 雑音電力推定回路
25 干渉電力推定回路
26 尤度方程式1漸化演算回路
27 尤度方程式2漸化演算回路
28 尤度方程式3漸化演算回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6