特許第6571754号(P6571754)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6571754
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】クリーム類用粉末油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20190826BHJP
   A23C 13/00 20060101ALI20190826BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20190826BHJP
【FI】
   A23D7/00 508
   A23C13/00
   A23L9/20
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-502426(P2017-502426)
(86)(22)【出願日】2016年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2016055422
(87)【国際公開番号】WO2016136808
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2018年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-35958(P2015-35958)
(32)【優先日】2015年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 久美子
(72)【発明者】
【氏名】中原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】戸田 徹
【審査官】 池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−299544(JP,A)
【文献】 特開平10−295307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00−7/06
A23C 13/00−13/16
A23L 9/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、クリーム類用粉末油脂組成物。
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である。
【請求項2】
前記XXX型トリグリセリドが80〜99質量%と、前記1種以上のX2Y型トリグリセリドの合計が20〜1質量%とを含有する、請求項1に記載の粉末油脂組成物。
【請求項3】
前記xが10〜18から選択される整数であり、前記yが、それぞれ独立して、x+2〜x+10から選択される整数でありかつy≦22である、請求項1または2に記載の粉末油脂組成物。
【請求項4】
前記xが10〜12から選択される整数であり、前記yが、それぞれ独立して、x+4〜x+8から選択される整数でありかつy≦22である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項5】
ゆるめ嵩密度が0.1〜0.6g/cm3である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を含有してなる、クリーム類。
【請求項7】
前記粉末油脂組成物をクリーム類の原料中に1〜20質量%含有してなる、請求項6に記載のクリーム類。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を配合する、クリーム類の製造法。
【請求項9】
前記粉末油脂組成物をクリーム類の原料中に1〜20質量%配合する、請求項8に記載のクリーム類の製造法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物を有効成分とする、クリーム類用品質改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な口溶けと十分な保型性を有し、外観、食感及び風味の良いクリーム類を製造するためのクリーム類用粉末油脂組成物に関する。また、前記のごとき粉末油脂組成物を用いて製造したクリーム類及びその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、クリーム類とは、パン類や洋菓子類のデコレーション等に用いられるものであり、従来から様々な種類のものが存在している。例えば、バタークリームは、バター、マーガリン、ショートニングなどの油性食品に、メレンゲやシロップなどの水性食品を添加してホイップして得られるクリーム状の食品であり、洋菓子類の一般的な食材の1つであるだけでなく、パン類用のフィリングやサンドクリームとして幅広く用いられている。このようなバタークリームは、生クリームなどの水中油型乳化物と比べて、保型性や保存安定性に優れている反面、口溶けの悪さ、後味の悪さ等の欠点が存在していた。さらに、例えば、ホイップクリームは、原料となるクリームをホイップして起泡性を持たせたクリーム状の食品であり、洋菓子類等のデコレーションやフィリングに利用されている。そのクリームは、乳脂肪だけからなるもの(生クリーム、還元クリーム)、乳脂肪と他の油脂との混合物からなるもの(コンパウンドクリーム)、又は乳脂肪以外の油脂からなるもの(合成クリーム)の3種類に大別されているが、いずれのクリームを用いた場合であっても、出来上がったホイップクリームの口溶けや保型性を向上することが課題となっていた。
【0003】
そこで、これらクリーム類の口溶けや保型性等を向上させるために、これまで従来技術では様々な取組みがなされている。その中の1つとして、粉末油脂を添加して、クリーム類の口溶けや保型性等を向上させる技術も知られている。例えば、ショートニング、マーガリン等の可塑性油脂の主体となる油脂ベースに、主として融点が45℃以上の硬質油からなり、その粒子が200μm以下の全脂型の粉末油脂を混合して、高温でも型崩れせず(保型性)、口溶けも良好なバタークリームやサンドクリームを製造する技術が記載されている(特許文献1)。しかしながら、この技術は、本発明のような性状の粉末油脂を添加するものでなく、また、バタークリーム類に特化した技術であるため、ホイップクリーム等の他のクリーム類の口溶けや保型性等を高めるものではない。そこで、クリーム類全般に対して口溶けや保型性等を向上させる、より簡便な技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平8−27号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、良好な口溶けと十分な保型性を有し、外観、食感及び風味の良いクリーム類を製造するためのクリーム類用粉末油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、良好な口溶けと十分な保型性を有するクリーム類の製造方法について鋭意研究を行った結果、意外にも特定の条件を満たす粉末油脂組成物を用いることによって、良好な口溶けと十分な保型性等が得られることを見出し、本発明を完成させた。また、驚くべきことに、特定の条件を満たす粉末油脂組成物を用いることによって、外観、食感及び風味も改善されていることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の一態様によれば、次の(a)の条件を満たす粉末状の油脂組成物を含有する、クリーム類用粉末油脂組成物を提供することができる。
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記XXX型トリグリセリドが80〜99質量%と、前記1種以上のX2Y型トリグリセリドの合計が20〜1質量%とを含有する、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記xが10〜18から選択される整数であり、前記yが、それぞれ独立して、x+2〜x+10から選択される整数でありかつy≦22である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、前記xが10〜12から選択される整数であり、前記yが、それぞれ独立して、x+4〜x+8から選択される整数でありかつy≦22である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、ゆるめ嵩密度が0.1〜0.6g/cm3である、上記粉末油脂組成物を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を含有してなる、クリーム類を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記粉末油脂組成物を、クリーム類の原料中に1〜20質量%配合してなる、クリーム類を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を配合して得られる、クリーム類の製造法を提供することができる。
また、本発明の好ましい態様によれば、上記粉末油脂組成物を、クリーム類の原料中に1〜20質量%配合する、クリーム類の製造法を提供することができる。
さらに、本発明の一態様によれば、上記粉末油脂組成物を有効成分とする、クリーム類用品質改良剤を提供することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の条件を満たす粉末油脂組成物を用いることによって、良好な口溶けと十分な保型性を有するクリーム類を簡便に製造することができる。また、本発明のクリーム類は、従来品に比べ、外観、風味、食感等にも優れているので、従来のクリーム類では満足できなかった人々の需要に応えることができる。
さらに、本発明によれば、クリームの製造時間(ミキシング時間)が短縮できるので、大量生産時における生産コストを抑制できる可能性もある。また、クリーム本来の風味と香料の風味のバランスを良くする効果も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のクリーム類について順を追って記述する。
<クリーム類>
本発明において「クリーム類」とは、油相と水相とを混合して乳化したものを指し、例えば、生クリーム、ホイップクリーム、バタークリーム、カスタードクリームなどが挙げられる。特に、バタークリーム、ホイップクリームが好ましい。
【0010】
<油脂組成物>
本発明は、全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有する1種類又はそれ以上のXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換した1種以上のX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である条件から選ばれる、油脂組成物に関する。上記2種類のトリグリセリドを上記質量%にて含む当該油脂組成物は、乳化剤、賦形剤等の添加剤を含めることなく、容易に粉末状の油脂組成物となる。本発明の油脂組成物及び粉末油脂組成物については、先に出願したPCT/JP2015/070850(特願2014−149168号)において詳しく説明されているので、ここでは詳細を割愛する。なお、前記出願の内容は、本明細書の中に取り込まれる。以下、本発明の油脂組成物及び粉末油脂組成物の特徴を要約して説明する。
【0011】
<XXX型トリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、その含有量が65〜99質量%である、単一種又は複数種、好ましくは単一種(1種類)のXXX型トリグリセリドを含む。当該XXX型トリグリセリドは、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するトリグリセリドであり、各脂肪酸残基Xは互いに同一である。ここで、当該炭素数xは8〜20から選択される整数であり、好ましくは10〜18から選択される整数、より好ましくは10〜16から選択される整数、更に好ましくは10〜12から選択される整数である。
脂肪酸残基Xは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Xとしては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びアラキジン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸であり、さらに好ましくは、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸及びパルミチン酸であり、殊更好ましくは、カプリン酸及びラウリン酸である。
XXX型トリグリセリドは、油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、65〜99質量%含まれる。XXX型トリグリセリドの含有量として好ましくは、75〜99質量%であり、より好ましくは80〜99質量%であり、更に好ましくは83〜98質量%であり、特に好ましくは85〜98質量%であり、殊更好ましくは90〜98質量%である。
【0012】
<X2Y型トリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、上記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリドを1種以上含む。ここで、1つのX2Y型トリグリセリドに含まれる各脂肪酸残基Xは互いに同一であり、かつXXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xとも同一である。当該1つのX2Y型トリグリセリドに含まれる脂肪酸残基Yの炭素数yはx+2〜x+12でありかつy≦22である条件から選ばれる整数である。炭素数yは、好ましくはy=x+2〜x+10を満たし、より好ましくはy=x+4〜x+8を満たす条件から選ばれる整数である。また、炭素数yの上限値は、好ましくはy≦20であり、より好ましくはy≦18である。本発明の油脂組成物は複数、例えば、2種類〜5種類、好ましくは3〜4種類のX2Y型トリグリセリドを含んでいてもよく、その場合の各X2Y型トリグリセリドの定義は上述の通りである。各X2Y型トリグリセリドの脂肪酸残基Yの炭素数yは、上述の範囲内から、各X2Y型トリグリセリドごとにそれぞれ独立して選択される。例えば、本発明の油脂組成物を、トリカプリンとパーム核ステアリン極度硬化油とをエステル交換して製造する場合は、xは共通してx=10であるが、yはそれぞれy=12、14、16及び18である4種類のX2Y型トリグリセリドを含む。
脂肪酸残基Yは、飽和あるいは不飽和の脂肪酸残基であってもよい。具体的な脂肪酸残基Yとしては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸等の残基が挙げられるがこれに限定するものではない。脂肪酸としてより好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸及びベヘン酸であり、さらに好ましくは、ミリスチン酸、パルミチン酸及びステアリン酸である。
このX2Y型トリグリセリドの脂肪酸残基Yは、1位〜3位の何れに配置していてもよい。
X2Y型トリグリセリドは、油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、35〜1質量%含まれる。X2Y型トリグリセリドの含有量としては、例えば、25〜1質量%であり、好ましくは20〜1質量%であり、より好ましくは17〜1質量%であり、更に好ましくは15〜2質量%であり、殊更好ましくは10〜2質量%である。本発明の油脂組成物に複数のX2Y型トリグリセリドが含まれる場合、上記X2Y型トリグリセリドの量は、含まれるX2Y型トリグリセリドの合計量である。
【0013】
<その他のトリグリセリド>
本発明の油脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上記XXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリド以外の、その他のトリグリセリドを含んでいてもよい。その他のトリグリセリドは、複数の種類のトリグリセリドであってもよく、合成油脂であっても天然油脂であってもよい。合成油脂としては、トリカプリル酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル等が挙げられる。天然油脂としては、例えば、ココアバター、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、綿実油等が挙げられる。本発明の油脂組成物中の全トリグリセリドを100質量%とした場合、その他のトリグリセリドは、1質量%以上、例えば、5〜30質量%程度含まれていても問題はない。その他のトリグリセリドの含有量は、例えば、0〜30質量%、好ましくは0〜18質量%、より好ましくは0〜15質量%、更に好ましくは0〜8質量%である。
【0014】
<その他の成分>
本発明の油脂組成物は、上記トリグリセリドの他、任意に乳化剤、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳、ココアパウダー、砂糖、デキストリン等のその他の成分を含んでいてもよい。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。その他成分は、その90質量%以上が、平均粒径が1000μm以下である紛体であることが好ましく、平均粒径が500μm以下の紛体であることがより好ましい。なお、ここでいう平均粒径は、レーザー回折散乱法(ISO133201及びISO9276-1)によって測定した値である。
但し、本発明の好ましい油脂組成物は、実質的に油脂のみからなることが好ましい。ここで油脂とは、実質的にトリグリセリドのみからなるものである。また、「実質的に」とは、油脂組成物中に含まれる油脂以外の成分または油脂中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂組成物または油脂を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【0015】
<粉末油脂組成物>
本発明の粉末油脂組成物は、上記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の上記油脂組成物を得、この油脂組成物を冷却することにより、噴霧やミル等の粉砕機による機械粉砕等特別の加工手段を採らなくても、粉末状の油脂組成物(粉末油脂組成物)を得ることができる。より具体的には、上記XXX型トリグリセリドと上記X2Y型トリグリセリドを含有する油脂組成物を任意に加熱・融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。得られた該固形物を篩にかける等により外部より軽く衝撃を加えて粉砕する(ほぐす)ことで容易に粉末油脂組成物を得ることができる。
【0016】
<粉末油脂組成物の物性>
本発明の粉末油脂組成物は、常温(20℃)で粉末状の固体である。
本発明の粉末油脂組成物のゆるめ嵩密度は、例えば実質的に油脂のみからなる場合、0.1〜0.6g/cm3、好ましくは0.15〜0.5g/cm3であり、より好ましくは0.2〜0.4g/cm3である。ここで「ゆるめ嵩密度」とは、粉体を自然落下させた状態の充填密度である。ゆるめ嵩密度(g/cm3)の測定は、例えば、内径15mm×25mLのメスシリンダーに、当該メスシリンダーの上部開口端から2cm程度上方から粉末油脂組成物の適量を落下させて疎充填し、充填された質量(g)の測定と容量(mL)の読み取りを行い、mL当たりの当該粉末油脂組成物の質量(g)を算出することで求めることができる。また、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出することもできる。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とす。受器から盛り上がった試料はすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めることができる。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行ってその平均値を取ることが好ましい。
【0017】
<粉末油脂組成物の製造方法>
本発明の粉末油脂組成物は、以下の工程、
(a)全トリグリセリド含有量を100質量%とした場合、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリドを65〜99質量%と、前記XXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの1つを炭素数yの脂肪酸残基Yに置換したX2Y型トリグリセリドを35〜1質量%とを含有する油脂組成物であって、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yは、それぞれ独立して、x+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である、油脂組成物を調製する工程、
(b)前記油脂組成物を加熱し、前記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の前記油脂組成物を得る任意の工程、
(d)溶融状態の前記油脂組成物を冷却して粉末油脂組成物を得る工程、
を含む方法によって製造することができる。
また、上記工程(b)と(d)の間に、工程(c)として粉末生成を促進するための任意工程、例えば(c1)シーディング工程、(c2)テンパリング工程、及び/又は(c3)予備冷却工程を含んでいてもよい。さらに上記工程(d)で得られる粉末油脂組成物は、工程(d)の冷却後に得られる固形物を粉砕して粉末状の油脂組成物を得る工程(e)によって得られるものであってもよい。
【0018】
(a)油脂組成物の調製工程I
工程(a)で調製される油脂組成物は、上述したとおりのXXX型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とX2Y型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とを、上述した質量%で含有するものである。具体的には、例えば、1位〜3位に炭素数xの脂肪酸残基Xを有するXXX型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)と、1位〜3位に炭素数yの脂肪酸残基Yを有するYYY型トリグリセリド(1種類又はそれ以上)とを別々に入手し、XXX型トリグリセリド/YYY型トリグリセリドの質量比で90/10〜99/1にて混合して反応基質を得(ここで、前記炭素数xは8〜20から選択される整数であり、前記炭素数yはx+2〜x+12から選択される整数でありかつy≦22である)、前記反応基質を加熱し、触媒の存在下でエステル交換反応する工程を経て得られる。
(a)油脂組成物の調製工程II
本発明の工程(a)で調製される油脂組成物の製造方法としては、さらに以下に示すようなXXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドを同時かつ直接合成する方法を挙げることができる。すなわち、本調製工程IIは、XXX型トリグリセリドとX2Y型トリグリセリドを得るために、XXX型トリグリセリドとYYY型トリグリセリドとを別々に合成してエステル交換するということはせず、双方のトリグリセリドを製造するための原料(脂肪酸または脂肪酸誘導体とグリセリン)を、例えば単一の反応容器に投入し、同時かつ直接合成する。
(a)油脂組成物の調製工程III
油脂組成物は、さらに65〜99質量%の範囲外にあるXXX型トリグリセリド及び/または35〜1質量%の範囲外にあるX2Y型トリグリセリドを含む油脂組成物を調製した後、XXX型トリグリセリド又はX2Y型トリグリセリドを更に添加することによって65〜99質量%のXXX型トリグリセリドと35〜1質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得てもよい(希釈による油脂組成物の調製)。例えば、50〜70質量%のXXX型トリグリセリドと50〜30質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得た後、所望量のXXX型トリグリセリドを添加して65〜99質量%のXXX型トリグリセリドと35〜1質量%のX2Y型トリグリセリドとを含む油脂組成物を得てもよい。
【0019】
(b)溶融状態の前記油脂組成物を得る工程
上記(d)工程の前に、上記工程(a)で得られた油脂組成物は、調製された時点で溶融状態にある場合、加熱せずにそのまま冷却されるが、得られた時点で溶融状態にない場合は、任意に加熱され、該油脂組成物中に含まれるトリグリセリドを融解して溶融状態の油脂組成物を得る。
ここで、油脂組成物の加熱は、上記油脂組成物中に含まれるトリグリセリドの融点以上の温度、特にXXX型トリグリセリド及びX2Y型トリグリセリドを融解できる温度、例えば、70〜200℃、好ましくは、75〜150℃、より好ましくは80〜100℃であることが適当である。また、加熱は、例えば、0.5〜3時間、好ましくは、0.5〜2時間、より好ましくは0.5〜1時間継続することが適当である。
【0020】
(d)溶融状態の油脂組成物を冷却して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物は、さらに冷却されて粉末油脂組成物を形成する。
ここで、「溶融状態の油脂組成物を冷却」とは、溶融状態の油脂組成物を、当該油脂組成物の融点より低い温度に保つことを意味する。「油脂組成物の融点より低い温度」とは、例えば、当該融点より1〜30℃低い温度、好ましくは当該融点より1〜20℃低い温度、より好ましくは当該融点より1〜15℃低い温度である。溶融状態にある油脂組成物の冷却は、例えばxが8〜10のときは最終温度が、好ましくは10〜30℃、より好ましくは15〜25℃、更に好ましくは18〜22℃の温度になるように冷却することによって行われる。冷却における最終温度は、例えばxが11又は12のときは、好ましくは30〜40℃、より好ましくは32〜38℃、更に好ましくは33〜37℃であり、xが13又は14のときは、好ましくは40〜50℃、より好ましくは42〜48℃、更に好ましくは44〜47℃であり、xが15又は16のときは、好ましくは50〜60℃、より好ましくは52〜58℃、更に好ましくは54〜57℃であり、xが17又は18のときは、好ましくは60〜70℃、より好ましくは62〜68℃、更に好ましくは64〜67℃であり、xが19又は20のときは、好ましくは70〜80℃、より好ましくは72〜78℃、更に好ましくは74〜77℃である。上記最終温度において、例えば、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、更に好ましくは6時間〜2日間静置することが適当である。場合によっては、例えばXXX型トリグリセリドの脂肪酸残基Xの炭素数xが8〜12の場合など、比較的粉体化に時間を要するものは、特に以下の(c)工程を使用しない場合、例えば2〜8日間、具体的には3〜7日間、より具体的には約6日間静置しなければならない場合もある。
【0021】
(c)粉末生成促進工程
さらに、上記工程(a)又は(b)と(d)との間に、(c)粉末生成を促進するための任意工程として、工程(d)で使用する溶融状態の油脂組成物に対し、シーディング法(c1)、テンパリング法(c2)及び/又は(c3)予備冷却法による処理を行ってもよい。
ここで、シーディング法とは、粉末の核(種)となる成分を溶融状態にある油脂組成物の冷却時に少量添加して、粉末化を促進する方法である。具体的には、例えば、工程(b)で得られた溶融状態にある油脂組成物に、当該油脂組成物中のXXX型トリグリセリドと炭素数が同じXXX型トリグリセリドを好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含む油脂粉末を核(種)となる成分として準備する。この核となる油脂粉末を、溶融状態にある油脂組成物の冷却時、当該油脂組成物の温度が、例えば、最終冷却温度±0〜+10℃、好ましくは+5〜+10℃の温度に到達した時点で、当該溶融状態にある油脂組成物100質量部に対して0.1〜1質量部、好ましくは0.2〜0.8質量部添加することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
テンパリング法とは、溶融状態にある油脂組成物の冷却において、最終冷却温度で静置する前に一度、工程(d)の冷却温度よりも低い温度、例えば5〜20℃低い温度、好ましくは7〜15℃低い温度、より好ましくは10℃程度低い温度に、好ましくは10〜120分間、より好ましくは30〜90分間程度冷却することにより、油脂組成物の粉末化を促進する方法である。
(c3)予備冷却法とは、前記工程(a)又は(b)で得られた溶融状態の油脂組成物を、工程(d)にて冷却する前に、工程(a)又は(b)の溶融状態の温度よりも低く、工程(d)の冷却温度よりも高い温度で一旦予備冷却する方法である。工程(d)の冷却温度より高い温度とは、例えば、工程(d)の冷却温度よりも2〜40℃高い温度、好ましくは3〜30℃高い温度、より好ましくは4〜30℃高い温度、さらに好ましくは5〜10℃程度高い温度であり得る。前記予備冷却する温度を低く設定すればするほど、工程(d)の冷却温度における本冷却時間を短くすることができる。すなわち、予備冷却法とは、シーディング法やテンパリング法と異なり、冷却温度を段階的に下げるだけで油脂組成物の粉末化を促進できる方法であり、工業的に製造する場合に利点が大きい。
【0022】
(e)固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程
上記工程(d)の冷却によって粉末油脂組成物を得る工程は、より具体的には、工程(d)の冷却によって得られる固形物を粉砕して粉末油脂組成物を得る工程(e)によって行われてもよい。
詳細に説明すると、まず、上記XXX型トリグリセリドと上記X2Y型トリグリセリドを含有する油脂組成物を融解して溶融状態の油脂組成物を得、その後冷却して溶融状態の油脂組成物よりも体積が増加した空隙を有する固形物を形成する。空隙を有する固形物となった油脂組成物は、軽い衝撃を加えることで粉砕でき、固形物が容易に崩壊して粉末状となる。
ここで、軽い衝撃を加える手段は特に特定されないが、振る、篩に掛ける等により、軽く振動(衝撃)を与えて粉砕する(ほぐす)方法が、簡便で好ましい。
【0023】
<粉末油脂組成物に含まれるその他の成分>
本発明の粉末油脂組成物は、任意に乳化剤、タンパク質、澱粉、酸化防止剤等のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、粉末油脂組成物に対し、乳化作用のあるものを加えることによって、粉末油脂組成物の水系への分散性を向上させることができる。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、粉末油脂組成物の全質量を100質量%とした場合、0〜70質量%、好ましくは0〜65質量%、より好ましくは0〜30質量%である。
但し、本発明の好ましい粉末油脂組成物は、実質的に油脂のみからなることが好ましい。ここで油脂とは、実質的にトリグリセリドのみからなるものである。また、「実質的に」とは、粉末油脂組成物中に含まれる油脂以外の成分または油脂中に含まれるトリグリセリド以外の成分が、油脂組成物または油脂を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【0024】
<粉末油脂組成物の含有量>
本発明のクリーム類には、クリーム類の原料を全て足し合わせた全質量を100質量%とした場合、クリーム類の原料中に上記粉末油脂組成物が1〜20質量%となるように含有させる。より好ましくは2〜15質量%、さらに好ましくは5〜10質量%となるように含有させる。
上記粉末油脂組成物がクリーム類の20質量%を超えると、乳化がやや不安定になるとともに、食味に重厚感が出過ぎてしまう。一方、上記粉末油脂組成物がクリーム類の1質量%よりも少ないと、所望の効果が得られない。
他方、粉末油脂組成物の含有量は、本発明のクリーム類の油相の全質量に対する割合として表現することもできる。つまり、本発明のクリーム類には、油相の全質量を100質量%とした場合、該油相中に本発明の粉末油脂組成物を2〜50質量%となるように含有させる。より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜30質量%となるように含有させる。
【0025】
<クリーム類の油相に含まれる油性食品>
本発明のクリーム類の油相は、上記粉末油脂組成物のほか、任意に油性食品を含むことができる。このような油性食品としては、例えば、食用油、マーガリン、ファットスプレッド、及びショートニングなどが挙げられ、これらの一種又は2種以上を併用することができる。前記油性食品の原料としては、例えば、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームスーパーオレイン等)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂、ココアバター等やこれらの混合油、加工油脂等を使用することができる。これら油性食品の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができる。
【0026】
<クリーム類の水相に含まれる水性食品>
本発明のクリーム類は、上記粉末油脂組成物のほか、任意に水性食品を含むことができる。このような水性食品としては、例えば、砂糖、シロップ、フォンダン、水飴などの糖類、粉乳、練乳などの乳製品、生卵、卵黄、卵白などの卵類などが挙げられ、これらの一種又は2種以上を併用することができる。これら水性食品の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができる。
【0027】
<クリーム類に含まれるその他の成分>
本発明のクリーム類は、上記粉末油脂組成物、油性食品、水性食品以外にも、クリーム類の製造において一般的に配合される原料を任意に使用することができる。具体的には、例えば、タンパク質、乳化剤、安定剤、各種リン酸塩、重炭酸ナトリウムなどを含むことができ、さらに、チョコレート、ココア、コーヒー、果汁、ジャム、フルーツソース、抹茶、チーズ、ナッツペースト、保存料、色素、香料等を使用することができる。これらその他の成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができる。
【0028】
<クリーム類の製造方法>
本発明のクリーム類は、従来公知の方法により製造することができる。例えば、油性食品等を含む油相と水性食品等を水相とを混合し、予備乳化した後、均質化、殺菌もしくは滅菌処理を行い、再均質化、冷却、エージング等を行うことにより製造することができる。一般に、本発明の粉末油脂組成物は前記混合処理の段階で加えられる。なお、殺菌もしくは滅菌処理の前後に、均質化処理や撹拌処理を行うことができ、均質化は前均質、後均質のどちらか一方、又は両者を組み合わせた二段均質のいずれであってもよい。なお、乳化処理、均質化処理及び攪拌処理は、バドルミキサー、ホモミキサー、ホモゲナイザー等の機械を用いて行うことができる。
【0029】
<クリーム類用品質改良剤>
ところで、以上述べたように、本発明に用いる粉末油脂組成物は、従来のクリーム類を、良好な口溶けと十分な保型性等を有するものへ改良するから、本発明は、上記粉末油脂組成物を有効成分とする、クリーム類用の品質改良剤にも関する。以下に示すように、本発明のクリーム類用品質改良剤を従来のクリーム類の原料に配合することにより、クリーム類を良好な口溶けと十分な保型性等を有するものへ変更する品質改良効果を達成することができる。
本発明のクリーム類用品質改良剤は、上述の粉末油脂組成物を含有する。本発明のクリーム類用品質改良剤は、少量で効果を発揮するため、上記の粉末油脂組成物を、好ましくは60質量%以上含有し、より好ましくは80質量%以上含有し、さらに好ましくは100質量%以上含有する。
また、本発明のクリーム類用品質改良剤は、有効成分であると上述した粉末油脂組成物を含有したものであればよく、この他に本発明の効果を損なわない範囲で、大豆油、菜種油などの油脂、デキストリン、澱粉等の賦形剤、品質改良剤等の他の成分を含有させたものであってもよい。
但し、本発明の好ましいクリーム類用品質改良剤は、実質的に当該粉末油脂組成物のみからなることが好ましい。また「実質的に」とは、クリーム類用品質改良剤中に含まれる粉末油脂組成物以外の成分が、クリーム類用品質改良剤を100質量%とした場合、例えば、0〜15質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜5質量%であることを意味する。
【実施例】
【0030】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また。以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0031】
<原料油脂>
(1)粉末油脂組成物(融点約28℃):
〔x=10、y=18、テンパリング法〕
攪拌機、温度計、窒素ガス吹込管及び水分分離機を備えた500mLの四つ口フラスコに、グリセリン(阪本薬品工業社製)44.1g(0.479mol)と、ステアリン酸(Palmac98−18(アシッドケム社製))25.9g(0.091mol)とカプリン酸(Palmac99−10(アシッドケム社製))266.0g(1.544mol)を仕込み、窒素気流下、250℃の温度で15時間反応させた。過剰のカプリン酸を190℃、減圧下にて留去した後、脱色・濾過、脱臭を行い、50℃において淡黄色液状の反応物を245g得た(XXX型:80.6質量%、X2Y型:17.3質量%)。得られた反応物60gとトリカプリン(日清オイリオグループ株式会社製)140gを混合し原料油脂とした(XXX型:94.0質量%、X2Y型:5.2質量%)。原料油脂を80℃にて0.5時間維持して完全に融解し、10℃恒温槽にて1時間冷却した後、20℃恒温槽にて12時間静置し、体積が増加した空隙を有する固形物を形成させた後、ほぐすことで粉末状の結晶組成物を得た(ゆるめ嵩密度:0.3g/cm3、平均粒径116μm)。このようにして製造した粉末油脂組成物を以下の実施例で用いた。
ここで、ゆるめ嵩密度は、(株)蔵持科学器械製作所のカサ比重測定器を使用し、JIS K-6720(又はISO 1060-1及び2)に基づいて測定したカサ比重から算出した。具体的には、試料120mLを、受器(内径40mm×高さ85mmの100mL円柱形容器)の上部開口部から38mmの高さの位置から、該受器に落とした。続いて、受器から盛り上がった試料をすり落とし、受器の内容積(100mL)分の試料の質量(Ag)を秤量し、以下の式からゆるめ嵩密度を求めた。
ゆるめ嵩密度(g/mL)=A(g)/100(mL)
測定は3回行って、その平均値を測定値とした。
ここで、平均粒径は、日機装株式会社製 Microtrac MT3300ExII)でレーザー回折散乱法(ISO133201、ISO9276-1)に基づいて測定した。
【0032】
<その他の原材料>
下記実施例における、マルトースシロップ、洋酒(コアントロー)、香料(天然バニラフレーバー)、グラニュー糖、植物性生クリーム(植物性脂肪分40%)はいずれも市販されているものを用いた。また、ショートニングとして、日清ティエンタ20(業務用:日清オイリオグループ株式会社製)を用いた。また、水中油型乳化物(クリームベース)として、メルピアベース(業務用:日清オイリオグループ株式会社製)を用いた。
【0033】
[実施例1]
<バタークリームの製造>
下記表1の配合に従って、実施例1、比較例1のバタークリームを、常法に従って製造した。より具体的には、ショートニングに本発明の粉末油脂組成物を加えて軽く混合し、次いで、メルピアベースを加えてよく混合した(比重0.5)。予め合わせておいた他の材料をさらに加えてよく混合し、比重を0.6に調整した。
【0034】
【表1】
【0035】
<バタークリームの評価>
上記で製造した、実施例1、比較例1のバタークリームについて、以下の評価方法に従って評価した。
【0036】
<クリーム類の評価方法>
(1)口溶けの評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。なお、製造後、20℃で1日保存後に喫食して評価した。
○:口溶けは良好、溶け残り感なし
△:口溶けは若干悪い、やや溶け残り感あり
×:口溶けは悪い、溶け残り感あり
(2)保型性の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。なお、製造後、シャーレに花型に絞り、25℃で3日保存した後、造花安定性を目視観察により評価した。
○:型崩れなく、保型性は良好
△:やや型崩れが見られ、保型性は若干悪い
×:型崩れや油染みがあり、保型性は不良
(3)外観の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。なお、製造後、30℃にて2日保存後に外観を目視観察により評価した。
○:表面がなめらかで白い色の光沢がある
△:表面がややひび割れ、白い色の光沢がやや悪い
×:表面が荒れてひび割れがあり、白い色の光沢がない
(4)風味の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。なお、製造後、20℃で1日保存後に喫食して評価した。
○:風味の出が早く、良好
△:風味の出がやや遅く、やや悪い
×:風味の出が遅く、悪い
(5)食感の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。なお、製造後、20℃で1日保存後に喫食して評価した。
○:食感の硬さがちょうど良い
△:食感にややもたつき感がある
×:食感にもたつき感があり悪い
(6)冷涼感の評価方法
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。なお、製造後、20℃で1日保存後に喫食して評価した。
○:冷涼感を感じる
△:冷涼感をやや感じる。
×:冷涼感を感じない。
【0037】
表1の結果から明らかであるように、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したバタークリーム(実施例1)は、口溶けが良く、十分な保型性を有し、外観、風味及び食感に優れたものとなることがわかった。特に、後味のキレが良く、これまでのバタークリームの後味の悪さが改善されていた。他方、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造したバタークリーム(比較例1)は、外観及び保型性は実施例と比較してやや劣っており、口溶けは明らかに悪かった。また、独特のもたついた食感があり、風味及び食感は実施例1よりも明らかに劣っていた。なお、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したバタークリーム(実施例1)では、独特の冷涼感を感じた。
【0038】
[実施例2]
<ホイップクリームの製造>
下記表2の配合に従って、実施例2、比較例2のホイップクリームを、常法に従って製造した。より具体的には、本発明の粉末油脂組成物にグラニュー糖を合わせ、それに生クリームを加えて、氷水を当てながら良く混合し、比重を0.4に調整した。なお、比較例2では、上記粉末油脂組成物を用いなかった。
【0039】
【表2】
【0040】
<ホイップクリームの評価>
上記で製造した、実施例2、比較例2のホイップクリームについて、上記のクリーム類の評価方法に従って評価した。
【0041】
表2の結果から明らかであるように、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したホイップクリーム(実施例2)は、口溶けが良く、十分な保型性を有し、外観、風味及び食感に優れたものとなることがわかった。他方、本発明の粉末油脂組成物を用いずに製造したホイップクリーム(比較例2)は、全体的に軟らかくなってしまい、外観及び保型性が悪かった。また、口溶けも悪く、食感および風味も実施例2より明らかに劣っていた。なお、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したホイップクリーム(実施例2)では、独特の冷涼感を感じた。
【0042】
[実施例3〜6]
<各種ホイップクリームにおける相違>
下記表3〜6の配合に従って、実施例3〜6、比較例3〜6のホイップクリームを、常法に従って製造した。より具体的には、本発明の粉末油脂組成物にグラニュー糖を合わせ、これを各種クリーム(以下のクリームA〜D)に加えて、氷水を当てながら良く混合し、ホイップクリームとして適した状態(絞った時に綺麗な星形ができる状態)にまでホイップした。そのときのミキシング時間および出来上がったホイップクリームの比重を表に示す。また、口溶けなどの風味評価も表に示す。なお、比較例3〜6では、上記粉末油脂組成物を用いずに製造した。
また、上記クリームA〜Dとしては以下のものを用いた。
クリームA:純乳脂肪タイプ(中沢乳業株式会社製、商品名:「フレッシュクリームF」)
クリームB:乳脂肪+乳化剤タイプ(雪印メグミルク株式会社製、商品名:「フレッシュ北海道産生クリーム使用」)
クリームC:乳脂肪+植物脂肪+乳化剤タイプ(中沢乳業株式会社製、商品名:「ナイスホイップR」)
クリームD:純植物脂肪タイプ(雪印メグミルク株式会社製、商品名:「ホイップ 植物性脂肪」)
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
【表5】
【0046】
【表6】
【0047】
<ホイップクリームの評価>
上記で製造した、実施例3〜6、比較例3〜6のホイップクリームについて、以下の評価方法に従って口溶け等の風味を評価した。
【0048】
<口溶け等の風味の評価方法>
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。なお、製造後、5℃の恒温槽で一晩保存後、ホイップクリームを安定させた後に風味評価を行った。
◎:口溶けは良好で、キレ・冷涼感があり、溶け残り感なし
○:口溶けはまあまあ良好で、溶け残り感なし
△:口溶けは若干悪い、やや溶け残り感あり
×:口溶けは悪い、溶け残り感あり
【0049】
表3〜6の結果から明らかであるように、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したホイップクリーム(実施例3〜6)は、比較例3〜6のホイップクリームと比較して、クリームの種類によらず、ミキシング時間がやや短めになる傾向が見られた。このことは大量生産に当たって極めて重要な特性である。また、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したホイップクリーム(実施例3〜6)は、比較例3〜6のホイップクリームと比較して、比重がやや高めとなり、やや重めでしっかりとしたホイップクリームになる傾向が見られた。一方、本発明の粉末油脂組成物を添加しない比較例3〜6のホイップクリームは、比重が低く、やや軽めでやわらかい物性になることがわかった。
なお、本発明の粉末油脂組成物の有無により、ホイップ適性に影響はなく、前記油脂組成物がホイップに悪影響を及ぼすことはなかった。
【0050】
次に、風味評価であるが、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したホイップクリーム(実施例3〜6)は、口溶けが良い傾向が見られた。また、独特の冷涼感やキレの良さも感じられた。本実施例により、クリームの種類によらず、口溶け等の風味に優れたホイップクリームが得られることがわかった。
【0051】
[実施例7]
<フレーバーリリースの相違>
下記表7の配合に従って、実施例7、比較例7のホイップクリームを、常法に従って製造した。より具体的には、本発明の粉末油脂組成物にグラニュー糖を合わせ、それをクリームDに加え、さらに香料(少々)を加えて、氷水を当てながら良く混合し、ホイップクリームとして適した状態(絞った時に綺麗な星形ができる状態)にまでホイップした。出来上がったホイップクリームにおける香料の風味について評価した。
なお、上記香料としては以下のものを用いた。また香料は他の原材料と比べて極めて少量(0.3%程度)であるため、表7からは割愛した。
香料:バニラ香料(ドーバー洋酒貿易株式会社販売、商品名:「モンレニオン」)
【0052】
【表7】
【0053】
<ホイップクリームの評価>
上記で製造した、実施例7、比較例7のホイップクリームについて、以下の評価方法に従って香料の風味を評価した。
【0054】
<香料の風味の評価方法>
以下の基準に従って、熟練した5名のパネラーにより、総合的に評価した。
◎:クリームの風味と香料の風味がバランス良くまとまっている。
○:クリームの風味と香料の風味のバランスがまあまあ良い。
△:クリームの風味と香料の風味のバランスがやや欠けている。
×:クリームの風味と香料の風味のバランスが悪い。
【0055】
表7の結果から明らかであるように、本発明の粉末油脂組成物を用いて製造したホイップクリーム(実施例7)は、クリーム本来の風味と香料の風味がバランス良くまとまっており、消費者に好まれる風味になることがわかった。本実施例により、本発明の粉末油脂組成物には、クリーム本来の風味と香料の風味のバランス良くする効果があることがわかった。