(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572046
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】食用油脂組成物及びその製造方法並びに加熱調理品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20190826BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20190826BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23L35/00
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-153381(P2015-153381)
(22)【出願日】2015年8月3日
(65)【公開番号】特開2017-29081(P2017-29081A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】関屋 佳明
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和子
【審査官】
堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−284803(JP,A)
【文献】
特開2014−080528(JP,A)
【文献】
特開平05−168404(JP,A)
【文献】
特開2000−300176(JP,A)
【文献】
特開平03−041194(JP,A)
【文献】
特開2001−017080(JP,A)
【文献】
特開2005−304411(JP,A)
【文献】
特表2003−502068(JP,A)
【文献】
特開2009−050234(JP,A)
【文献】
特開2011−055825(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/031333(WO,A1)
【文献】
特開2007−068462(JP,A)
【文献】
特開昭64−027431(JP,A)
【文献】
特開平03−108443(JP,A)
【文献】
特開2015−221024(JP,A)
【文献】
14 油脂類,日本食品標準成分表2015年版(七訂)、[online],2015年12月25日,[2019年3月29日検索]、インターネット<URL:www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/02/16/1365343_1-0214r9.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎菜種油3〜50質量部と、非焙煎油50〜97質量部とを含有し、リン脂質由来のリン含量が4.5〜20ppmであることを特徴とする、加熱を伴う調理に用いる食用油脂組成物。
【請求項2】
リン脂質を含有することを特徴とする請求項1に記載の食用油脂組成物。
【請求項3】
前記非焙煎油が菜種油であることを特徴とする請求項1又は2に記載の食用油脂組成物。
【請求項4】
焙煎菜種油3〜50質量部と、非焙煎油50〜97質量部とを混合する工程又は焙煎菜種油3〜50質量部と、非焙煎油50〜97質量部と、前記焙煎菜種油及び前記非焙煎油の合計量100質量部に対して0.01〜0.1質量部のリン脂質とを混合する工程を有することを特徴とするリン脂質由来のリン含量が4.5〜20ppmであり、加熱を伴う調理に用いる食用油脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の食用油脂組成物を使用して製造する工程を有することを特徴とする加熱調理品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食用油脂組成物及びその製造方法に関するものであり、特に、加熱を伴う調理に用いる焙煎油含有食用油脂組成物及びその製造方法並びに加熱調理品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
焙煎油は、フライ調理、炒め調理など、加熱を伴う調理に用いられており、焙煎油で揚げた油揚げ等のフライ品等には、焙煎油に由来する色が着く。
【0003】
また、焙煎油は一般的に価格が高いため、他の精製油でブレンドして用いられる。焙煎油を含有する油脂組成物として、例えば、特許文献1及び2に記載の油脂組成物がある。
【0004】
特許文献1には、焙煎大豆油及び動植物油を含有する油脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、焙煎ごま油及び精製油(精製植物油)を含有する油脂組成物が開示されている。
【0005】
一方、加熱調理用食用油脂としては、例えば、特許文献3に記載の油脂組成物がある。
【0006】
特許文献3には、所定の量でトコフェロール類及びリン脂質を含有する油脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−204266号公報
【特許文献2】特開2009−284803号公報
【特許文献3】特開2011−55825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
焙煎油で揚げたフライ品等の調理品では、調理品の色が変動することは望ましくないため、油の色が経時的に変化しないことが好ましい。
【0009】
加熱使用をすることで油が着色してしまう問題があることが知られていたが、焙煎油と非焙煎油とのブレンド油においては、加熱により色が退色するという問題があった。
【0010】
従って、本発明の目的は、焙煎油と非焙煎油とのブレンド油において、加熱により色が退色するのを抑制できる食用油脂組成物及びその製造方法並びに加熱調理品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の[1]〜[
5]の食用油脂組成物及びその製造方法並びに加熱調理品の製造方法を提供する。
[1]焙煎菜種油3〜
50質量部と、非焙煎油
50〜97質量部とを含有し、リン脂質由来のリン含量が4.5〜20ppmであることを特徴とする
、加熱を伴う調理に用いる食用油脂組成物。
[2]リン脂質を含有することを特徴とする前記[1]に記載の食用油脂組成物。
[3]前記非焙煎油が菜種油であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の食用油脂組成物。
[
4]焙煎菜種油3〜
50質量部と、非焙煎油
50〜97質量部とを混合する工程又は焙煎菜種油3〜
50質量部と、非焙煎油
50〜97質量部と、前記焙煎菜種油及び前記非焙煎油の合計量100質量部に対して0.01〜0.1質量部のリン脂質とを混合する工程を有することを特徴とするリン脂質由来のリン含量が4.5〜20ppmであ
り、加熱を伴う調理に用いる食用油脂組成物の製造方法。
[
5]前記[
1]に記載の食用油脂組成物を使用して製造する工程を有することを特徴とする加熱調理品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、焙煎油と非焙煎油とのブレンド油において、加熱により色が退色するのを抑制できる食用油脂組成物及びその製造方法並びに加熱調理品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔食用油脂組成物〕
本発明の実施の形態に係る食用油脂組成物は、焙煎油3〜90質量部と、非焙煎油10〜97質量部とを含有し、リン含量が4.5〜20ppmである。
【0014】
(焙煎油)
上記焙煎油としては、種々の焙煎油、例えば、焙煎菜種油、焙煎大豆油、焙煎ごま油、焙煎落花生油、焙煎サフラワー油を使用できる。特に、焙煎菜種油を使用することが好ましい。
【0015】
焙煎油は、公知の方法により製造でき、例えば、原料を選別した後、焙煎し、その後、圧搾、ろ過、静置、ろ過及び静置の繰り返し、仕上げろ過の工程を経ることで得られる。焙煎方法(焙煎時間、焙煎温度、焙煎処理量、焙煎処理機等)は特に限定されない。焙煎機は、例えば、回転流動床式、回転ドラム式、ロータリーキルン式などを使用することができる。
【0016】
焙煎油(圧搾粗油又は抽出粗油)は、このまま用いることもできるが、脱ガム処理(例えば水脱ガム処理)後、再度ろ過してもよい。これにより、焙煎油(原油)が得られる。
【0017】
焙煎油(原油)は、脱酸、脱色、脱臭の精製処理を行わずに食用に供することができるが、リン含量を大きく減少しない範囲で、これらの処理を軽微な方法(例えば、脱色処理の場合は使用する白土量を少ない量で実施する)で行なってもよい。
【0018】
焙煎油(原油)中には、リン脂質(レシチン)が存在し、リン脂質中のリンがリン含量として分析できる。最終的に得られる食用油脂組成物中のリン含量が4.5〜20ppmとなるように、食用油脂組成物中のその他の成分である非焙煎油中のリン含量や非焙煎油の添加量やリン脂質の添加量等を調節することが好ましい。また、焙煎油中のリン含量を脱ガム処理の条件により調節(削減)してもよい。例えば、焙煎油(100質量部)中のリン含量が1〜15ppm、好ましくは4〜12ppmとなるように、焙煎油中のリン脂質含量を調節する。
【0019】
上記焙煎油は、本実施の形態に係る食用油脂組成物中に3〜90質量部含有される。好ましくは、4〜70質量部であり、より好ましくは、5〜60質量部である。
【0020】
(非焙煎油)
上記非焙煎油としては、種々の食用油脂、例えば、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ油、藻類油、品種改良によって低飽和化されたこれらの油脂、これらの分別油脂、これらの水素添加油脂、及びこれらのエステル交換油脂等を使用できる。これらの混合油脂であってもよい。特に、菜種油を使用することが好ましい。これらの食用油脂は、精製油であることが好ましい。
【0021】
最終的に得られる食用油脂組成物中のリン含量が4.5〜20ppmとなるように、食用油脂組成物中のその他の成分である焙煎油中のリン含量や焙煎油の添加量やリン脂質の添加量等を調節するとともに、非焙煎油中のリン含量を脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理の条件により調節(削減)することが好ましい。例えば、非焙煎油(100質量部)中のリン含量が0〜5ppm、好ましくは0〜2ppmとなるように、非焙煎油中のリン脂質含量を調節する。なお、一般的な精製条件を経た非焙煎油中のリン含量は2ppm未満である。
【0022】
上記非焙煎油は、本実施の形態に係る食用油脂組成物中に10〜97質量部含有される。好ましくは、30〜96質量部であり、より好ましくは、40〜95質量部である。
【0023】
(リン脂質)
本発明の実施の形態に係る食用油脂組成物は、リン脂質を含有することが好ましい。
【0024】
最終的に得られる食用油脂組成物中のリン含量が4.5〜20ppmとなるように、食用油脂組成物中のその他の成分である焙煎油や非焙煎油中のリン含量や添加量を調節するとともに、リン脂質の種類が選定され、その添加量が調節されることが好ましい。例えば、大豆レシチン、菜種レシチン等の植物レシチンや卵黄レシチンを使用することが好適である。
【0025】
リン脂質は、本実施の形態に係る食用油脂組成物中の焙煎油及び非焙煎油の合計量100質量部に対して0.01〜0.1質量部含有されることが好ましく、0.02〜0.05質量部含有されることがより好ましい。
【0026】
(食用油脂組成物中のその他の成分)
本発明の実施の形態に係る油脂組成物には、本発明の効果を奏する限りにおいて、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸パルミテート、カロテン類等の酸化防止剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリソルベート、シュガーエステル、脂肪酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、シリコーンオイル等の乳化剤・消泡剤を添加することができる。
【0027】
(リン含量)
本発明の実施の形態に係る食用油脂組成物は、リン含量が4.5〜20ppmである。食用油脂組成物のリン含量は、5〜15ppmであることが好ましく、6〜12ppmであることがより好ましい。リン含量を上記範囲にすることにより、加熱により色が退色するのを抑制できる。
【0028】
(用途)
本発明の実施の形態に係る食用油脂組成物は、例えば、フライ油、炒め油、スプレー油等の加熱調理用油脂として好適に使用することができる。特に、油揚げの製造用に好適である。
【0029】
〔食用油脂組成物の製造方法〕
本発明の実施の形態に係る上記食用油脂組成物は、焙煎油3〜90質量部と、非焙煎油10〜97質量部とを混合する工程又は焙煎油3〜90質量部と、非焙煎油10〜97質量部と、前記焙煎油及び前記非焙煎油の合計量100質量部に対して0.01〜0.1質量部のリン脂質とを混合する工程を経て製造することができる。なお、焙煎油、非焙煎油、リン脂質の混合において、リン脂質は焙煎油、非焙煎油、もしくは焙煎油と非焙煎油の混合油に添加することが好ましい。各成分の添加量(混合量)の好ましい範囲は、前述の通りである。
【0030】
また、前述の通り、最終的に得られる食用油脂組成物中のリン含量が4.5〜20ppmとなるように、食用油脂組成物中の焙煎油及び非焙煎油中のリン含量(リン脂質含量)や添加量、リン脂質の種類の選定及びその添加量が調節される。
【0031】
〔加熱調理品の製造方法〕
本発明の実施の形態に係る加熱調理品の製造方法は、本発明の実施の形態に係る上記食用油脂組成物を使用して製造する工程を有する。上記食用油脂組成物を使用すること以外は、公知の方法により製造できる。加熱調理品としては、例えば、油揚げ、天ぷら、鶏のから揚げ、フライドポテト、コロッケ等の揚げ物、野菜炒め等の炒め物が挙げられる。
【0032】
〔本発明の実施の形態の効果〕
本発明の実施の形態によれば、焙煎油と非焙煎油とのブレンド油において、加熱により色が退色するのを抑制できる食用油脂組成物及びその製造方法並びに加熱調理品の製造方法を提供することができる。例えば、焙煎油で揚げた油揚げ等のフライ品では、油の色がY+10R(ロビボンド比色計によりY,Rを測定)=30〜130である油脂を使用することが好ましいが、使用前の油脂の色に対し、加熱使用後の油脂の退色を抑制でき、Y+10Rの値で−15%以内、より好ましい実施形態では−10%以内を維持することができる。また、加熱使用後の着色も抑制でき、Y+10Rの値で+5%以内、より好ましい実施形態では+3%以内を維持することができる。
【0033】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
表1に記載の配合に従って、実施例及び比較例の食用油脂組成物を製造した。表1中の焙煎菜種油A及びBは共に、日清オイリオグループ株式会社製であるが、ロットが異なる。菜種サラダ油は、商品名日清菜種サラダ油(日清オイリオグループ株式会社製)であり、リン脂質は、商品名レシチンDX(日清オイリオグループ株式会社製)である。
【0035】
高周波誘導結合プラズマ(ICP)を光源とする発光分光分析法により、各食用油脂組成物中のリン含量を測定した。測定結果を表1に示す。
【0036】
各食用油脂組成物をそれぞれ200mlのビーカーに20g入れ、空気中で180℃で8時間加熱した。
【0037】
加熱前後に、ロビボンド法(日本油化学協会、基準油脂分析試験法2.2.1.1)に基づいて各食用油脂組成物の色度(Y値、R値)を測定し、Y+10Rを算出した。算出結果及び加熱前後のY+10Rの増減率を表1に示す。ロビボンド比色計は、Lovibond PFX995(The Tintometer Limited製)(セル長:1インチ)を使用した。
【0038】
【表1】