特許第6572048号(P6572048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6572048リチウム二次電池用非水電解液及びそれを用いたリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572048
(24)【登録日】2019年8月16日
(45)【発行日】2019年9月4日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用非水電解液及びそれを用いたリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20190826BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20190826BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20190826BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-154414(P2015-154414)
(22)【出願日】2015年8月4日
(65)【公開番号】特開2017-33838(P2017-33838A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年5月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】春名 博史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 心
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−041531(JP,A)
【文献】 特開2013−175456(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133556(WO,A1)
【文献】 特開2015−204178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/052
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶媒及び支持塩を含んでなると共に、POFと、PO及びPO2−のうちの少なくとも一方と、を含み、
前記支持塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウムであり、
前記POF、前記PO及び前記PO2−総モル数と、前記ヘキサフルオロリン酸リチウムのモル数との比の値が0.7以下であることを特徴とするリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項2】
OFと、POと、PO2−、を含むことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項3】
非水溶媒及び支持塩を含んでなると共に、次の一般式(1):
(RO)(BO)・・・(1)
[式中、Rは、それぞれ独立して、炭素数が1〜6の有機基である。]
で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応生成物とを含み、
前記反応生成物は、POF、PO及びPO2−のうちの少なくとも一種を含み
前記支持塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウムであり、
前記POF、前記PO及び前記PO2−総モル数と、前記ヘキサフルオロリン酸リチウムのモル数との比の値が0.7以下であることを特徴とするリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項4】
前記ボロキシン化合物が、トリイソプロポキシボロキシンであることを特徴とする請求項3に記載のリチウム二次電池用非水電解液。
【請求項5】
正極と、負極と、非水溶媒及び支持塩を含んでなる非水電解液とを備え、
前記非水電解液は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用非水電解液であることを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用非水電解液及びそれを用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、携帯電話、携帯用パソコン等の携帯電子機器用電源、家庭用電気機器用電源、電力貯蔵装置、無停電電源装置等の定置用電源、船舶、鉄道、自動車等の駆動電源等の分野において広く実用化が進められている。リチウム二次電池に関しては、従来から電池の小型化、高出力化、長寿命化等の要求が高い。そのため、エネルギ密度が高く、耐用時間も長いリチウム二次電池を開発する目的で、電極や電解液をはじめとする電池材料の改良が進められている。
【0003】
リチウム二次電池に封入される非水電解液については、電極との酸化還元反応による非水溶媒等の分解が特に問題となっている。非水電解液の成分である非水溶媒が分解して電解液組成に変化が生じたり、非水溶媒の分解物が電極表面に堆積したりすると、内部抵抗が上昇する等して電池性能は低下し、電池の寿命も短くなってしまうためである。そこで、非水電解液の分解を抑制する技術として、電極活物質の表面を被覆する技術や、非水電解液に各種の添加剤を添加する技術等が多数提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、リチウム二次電池を保存した場合の自己放電を抑制し、充電後の保存特性を向上させる技術として、正極と、リチウムまたはリチウムの吸蔵放出の可能な負極材料からなる負極と、有機溶媒と溶質とからなる非水系電解液とを備えた非水系電解液二次電池において、前記有機溶媒が、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムからなる群から選ばれた少なくとも1種の添加剤を含有する非水系電解液二次電池について開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、高容量でサイクル特性に優れた非水系電解液及び非水系電解液二次電池を提供する技術として、モノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩を含有し、更に非水系電解液全体に対して1〜2000ppmの鉄族元素を含有している非水系電解液について開示されている。そして、鉄族元素としては、具体的には、鉄元素、コバルト元素及びニッケル元素が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3439085号公報
【特許文献2】特開2008−269978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術によれば、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムの内の1種を添加した非水系電解液を用いることによって、良質な被膜が正極及び負極界面に形成され、非水系電解液の分解が抑制されるとされている。しかしながら、このようなフルオロリン酸塩に由来する被膜であっても、過剰に形成されると、電池の内部抵抗を増大させたり、イオンの取り込みにより放電容量を低下させたりする可能性がある。特に、これらのフルオロリン酸リチウム塩の添加によってリチウムイオン量が適量から逸脱した場合、反応速度の低下が生じる懸念がある。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術によれば、非水系電解液にフルオロリン酸塩を含有させ、更に特定の濃度の鉄族元素を含有させることによって、高い容量を維持しつつ、特に高電圧条件下でのサイクル特性を改善することができるとされている。しかしながら、非水電解液に鉄元素やコバルト元素やニッケル元素を含有させると、これらの鉄族元素が充電時に析出してしまう恐れがある。特に、樹状結晶が電極表面から成長してセパレータを貫通するような事態が生じると、電極間が短絡する可能性が高い。また、鉄族元素は、充放電に伴って電荷を消費して溶出や再析出を繰り返すため、放電容量の低下を引き起こす要因となってしまう。
【0009】
そのため、放電容量絶対量や電極反応への影響少なく非水電解液の分解の更なる抑制を実現することが可能であり、高温の保存条件において促進される非水電解液の組成変化や分解物の堆積に起因する放電容量の低下をより適切に防止し得る技術が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、保存に伴う放電容量の経時的な低下を低減することが可能なリチウム二次電池用非水電解液及びそれを用いたリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応によって副生成するPOxFyで表されるオキソフルオロリン化合物が、リチウムイオン二次電池の正極表面に作用して非水電解液の酸化分解を良好に抑制することを見出した。そして、オキソフルオロリン化合物を非水電解液に含有させて、充放電サイクルに伴う非水電解液の組成変化や、非水溶媒等の分解物の正極表面への堆積を抑制することによって、放電容量の保存安定性が高い長寿命なリチウムイオン二次電池を実現するに至った。
【0012】
すなわち、前記課題を解決するために本発明に係るリチウム二次電池用非水電解液は、非水溶媒及び支持塩を含んでなると共に、POFと、PO及びPO2−のうちの少なくとも一方とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るリチウム二次電池は、前記のリチウム二次電池用非水電解液を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、保存に伴う放電容量の経時的な低下を低減することが可能なリチウム二次電池用非水電解液及びそれを用いたリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の構造を模式的に示す断面図である。
図2】ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)の反応物について測定したNMRの吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池用非水電解液及びそれを用いたリチウム二次電池について詳細に説明する。なお、以下の説明は、本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明はこれらの説明に限定されるものではない。本発明は、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウム二次電池1は、正極10、セパレータ11、負極12、電池缶13、正極集電タブ14、負極集電タブ15、内蓋16、内圧開放弁17、ガスケット18、正温度係数(Positive Temperature Coefficient;PTC)抵抗素子19、電池蓋20、軸心21とを備えている。電池蓋20は、内蓋16、内圧開放弁17、ガスケット18及び抵抗素子19からなる一体化部品である。
【0018】
正極10及び負極12は、シート状に設けられており、セパレータ11を挟んで互いに重ねられている。そして、正極10、セパレータ11及び負極12が軸心21の周りに捲回されることによって、円筒形状の電極群が形成されている。なお、電極群の形態は、図1に示される円筒形状の形態に代えて、扁平円形状に捲回した形態、短冊状の電極を積層した形態、電極が収納された袋状のセパレータを積層して多層構造とした形態等に例示される種々の形態とすることも可能である。
【0019】
軸心21は、正極10、セパレータ11及び負極12の支持に適した任意の断面形状に設けることができる。断面形状としては、例えば、円筒形状、円柱形状、角筒形状、角形状等が挙げられる。また、軸心21は、絶縁性が良好な任意の材質で設けることができる。材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
【0020】
電池缶13は、非水電解液に対して耐食性が良好な材料によって形成されることが好ましい。また、電池缶13は、非水電解液と接触する領域がリチウムとの間で合金化し難い材料によって形成されることが好ましい。電池缶13の材料としては、具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等が好適である。ステンレス鋼は、表面に不動態皮膜が形成されるため耐食性が良好である点、及び、内圧の上昇に耐え得る強度を持つ点で有利である。また、アルミニウムやアルミニウム合金は、軽量であるため重量あたりのエネルギ密度を向上し得る点で有利である。
【0021】
電池缶13は、電極群の形態に応じて、円筒形状、偏平長円形状、扁平楕円形状、角形状、コイン形状等の適宜の形状とすることができる。電池缶13の内面には、耐食性や密着性を向上させるための表面加工処理が施されていてもよい。
【0022】
正極10及び負極12には、電流引き出し用の正極集電タブ14、負極集電タブ15のそれぞれが、スポット溶接、超音波溶接等によって接続される。そして、正極集電タブ14と負極集電タブ15とが設けられた電極群は、電池缶13に収納される。このとき、正極集電タブ14は電池蓋20の底面、負極集電タブ15は電池缶13の内壁にそれぞれ電気的に接続される。正極集電タブ14や負極集電タブ15は、図1に示すように電極群に複数設けてもよい。複数設けることによって、例えば、リチウム二次電池1を自動車等の駆動電源等として適用する場合等に大電流への対応が可能となる。
【0023】
電池缶13の内部には、非水電解液が注入されている。非水電解液の注入方法は、電池蓋20を開放した状態で直接注入する方法であってもよいし、電池蓋20を閉鎖した状態で電池蓋20に設けた注入口から注入する方法等であってもよい。電池缶13の開口は、電池蓋20を溶接、かしめ等によって接合することによって密閉される。なお、電池蓋20には、逃がし弁が設けられており、電池缶13の内圧が過度に上昇した場合に開放されるようになっている。
【0024】
正極10は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な一般的なリチウムイオン二次電池用正極によって形成することができる。正極10は、例えば、正極活物質と、結着剤と、導電剤と、正極集電体とを備える構成とされる。
【0025】
正極活物質の具体例としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等や、これらの遷移金属の一部をFe、Cu、Al、Mg、Mo等で置換した層状酸化物や、Li1+xMn2−x(但し、x=0〜0.33である。)、Li1+xMn2−x−y(但し、Mは、Ni、Co、Fe、Cu、Al、Mg、Moからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、x=0〜0.33、y=0〜1.0、2−x−y>0である。)、LiMnMO(但し、Mは、Ni、Co、Fe、Cu、Al、Mg、Moからなる群より選択される少なくとも一種の元素である。)等のスピネル型酸化物や、LiFePO、LiMnO等のオリビン型酸化物や、LiMnOや、LiMnOや、銅−Li酸化物(LiCuO)や、Fe(MoO、Fe(MoO等のNASICON型酸化物や、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ジスルフィド化合物等の導電性高分子等が挙げられる。
【0026】
正極10は、例えば、正極活物質及び導電剤を適宜の溶媒と共に結着剤と混合して正極合材とし、この正極合材を正極集電体に塗布した後、乾燥、圧縮成形することによって得ることができる。正極を塗布する方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等を用いることができる。
【0027】
圧縮成形によって形成する正極合材層の厚さは、正極活物質の種類や粒径、電池に要求される性能等にもよるが、50μm以上250μm以下とすることが好ましい。また、正極合材層の密度は、使用する材料の種類や電池に要求される性能に応じて調整すればよい。一般的に、正極活物質は、一次粒子同士が凝集した二次粒子を形成した状態で正極合材層に存在しているが、二次粒子の粒径は、一次粒子の粒径に依存する傾向がある。そのため、一次粒子の粒径や粒子形状を適化することによって、電極密度を向上させることが可能である。
【0028】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル系ポリマ等やこれらの共重合体等の適宜の材料を用いることができる。また、導電剤としては、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック等の炭素粒子や、炭素繊維等を用いることができる。導電剤の混合比は、正極活物質に対して5質量%以上20質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
正極集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼等を材質とする金属箔、金属板、エキスパンドメタル、パンチングメタル等を用いることができる。正極集電体の厚さは、15μm以上25μm以下とすることが好ましい。金属箔は、圧延法及び電解法のいずれで作製されたものであってもよい。また、正極集電体の表面は、耐酸化性を向上させるための表面処理がなされていてもよい。
【0030】
セパレータ11は、正極10と負極12とが直接接触して短絡が生じるのを防止するために設けられる。セパレータ11としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂等の微多孔質フィルムや、このような微多孔質フィルムの表面にアルミナ粒子等の耐熱性物質を被覆したフィルム等を用いることができる。
【0031】
負極12は、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な一般的なリチウムイオン二次電池用負極によって形成することができる。負極12は、例えば、負極活物質と、結着剤と、負極集電体とを備える構成とされる。負極を構成する負極活物質は、例えば、炭素材料、金属材料、複合化合物材料等のいずれであってもよい。負極活物質は、これらの材料のうちの一種によって形成してもよいし、二種以上を併用して形成してもよい。
【0032】
負極を構成する炭素材料としては、例えば、天然黒鉛や、石油、石炭若しくは木炭に由来するコークス又はピッチを2500℃以上程度で高温処理することによって得られる人造結晶質炭素材料や、このようなコークス又はピッチを低温処理することによって得られるメソフェーズカーボンや、ハードカーボン、活性炭等の非晶質炭素材料等が挙げられる。また、炭素材料は、結晶質炭素の表面に非晶質炭素を被覆した材料や、結晶質炭素の表面の結晶性を機械的処理によって低下させた材料や、結晶質炭素の表面に有機高分子、ホウ素、ケイ素等を担持させた材料や、炭素繊維等であってもよい。
【0033】
負極を構成する金属材料としては、例えば、金属リチウムや、リチウムとアルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウム等との合金等が挙げられる。金属材料は、炭素材料の表面にリチウム、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウム等の金属やこれらの合金を担持させた材料であってもよい。また、負極を構成する複合化合物材料としては、例えば、リチウムと鉄、亜鉛、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、チタン、ケイ素等との複合酸化物や、これらとの窒化物等が挙げられる。
【0034】
負極12は、例えば、負極活物質を適宜の溶媒と共に結着剤と混合して負極合材とし、この負極合材を負極集電体に塗布した後、乾燥、圧縮成形することによって得ることができる。負極合材を塗布する方法としては、例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等を用いることができる。
【0035】
圧縮成形によって形成する負極合材層の厚さは、負極活物質の種類や粒径、電池に要求される性能等にもよるが、50μm以上200μm以下とすることが好ましい。また、負極合材層の密度は、使用する材料の種類や電池に要求される性能に応じて調整すればよい。例えば、一般的な黒鉛電極を形成する場合には、1.3g/cc以上1.8g/cc以下とすることが好ましい。一方、結晶性が低い炭素材料によって電極を形成する場合には、1.0g/cc以上1.3g/cc以下とすることが好ましい。
【0036】
結着剤としては、カルボキシメチルセルロース、スチレン−ブタジエン共重合体等の水系の結着剤や、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の有機系の結着剤等の適宜の材料を用いることができる。水系の結着剤の量は、負極合材の固形分あたり0.8質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましい。一方、有機系の結着剤の量は、負極合材の固形分あたり3質量%以上6質量%以下とすることが好ましい。
【0037】
負極集電体としては、銅、銅を主成分とする銅合金等を材質とする金属箔、金属板、エキスパンドメタル、パンチングメタル等を用いることができる。負極集電体の厚さは、7μm以上20μm以下とすることが好ましい。金属箔は、圧延法及び電解法のいずれで作製されたものであってもよい。また、負極集電体の表面は、耐酸化性を向上させるための表面処理がなされていてもよい。
【0038】
本実施形態に係るリチウム二次電池に封入される非水電解液(リチウムイオン二次電池用非水電解液)は、非水溶媒及び支持塩を含んでなり、さらにPOxFyで表される化合物(オキソフルオロリン化合物)が添加された組成を有する。なお、本明細書において、化合物という用語には、イオンとして存在する原子団、例えば、フルオロリン酸アニオン等や、化合物一分子の一部を構成する原子団等が含まれるものとする。
【0039】
非水溶媒としては、例えば、鎖状カーボネート、環状カーボネート、鎖状カルボン酸エステル、環状カルボン酸エステル、鎖状エーテル、環状エーテル、有機リン化合物、有機硫黄化合物等を用いることができる。これらの化合物は、非水溶媒として一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
鎖状カーボネートとしては、炭素数が1以上5以下の鎖状のアルキル基を有する化合物が好ましい。このような鎖状カーボネートの具体例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート等が挙げられる。また、環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、2,3−ブチレンカーボネート等が挙げられる。
【0041】
鎖状カルボン酸エステルとしては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル等が挙げられる。また、環状カルボン酸エステルとしては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0042】
鎖状エーテルとしては、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、1−エトキシ−2−メトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン等が挙げられる。また、環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0043】
有機リン化合物としては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステルや、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステルや、トリメチルホスフィンオキシド等が挙げられる。また、有機硫黄化合物としては、例えば、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルフェニルスルホン、エチルフェニルスルホン等が挙げられる。
【0044】
非水溶媒として用い得るこれらの化合物は、置換基を有していてもよいし、酸素原子が硫黄原子で置換された化合物であってもよい。置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子が挙げられる。非水溶媒として二種以上の化合物を併用する場合は、特に、環状カーボネートや環状ラクトン等のように比誘電率が高く粘度が相対的に高い化合物と、鎖状カーボネート等の粘度が相対的に低い化合物とを組み合わせることが好ましい。例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートの割合は、40体積%以下とすることが好ましく、30体積%以下とすることがより好ましく、20体積%以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON、Li(FSON、LiF、LiCO、LiPF(CF、LiPF(CFSO、LiBF(CF)、LiBF(CFSO、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムジフルオロオキサレートボレート等のリチウム塩を用いることができる。支持塩としては、これらのうちの一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
電解液としては、エチレンカーボネート又はプロピレンカーボネートと、ジメチルカーボネート又はエチルメチルカーボネートとを非水溶媒として含み、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を支持塩として含む電解液や、LiPFと、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON、及び、Li(FSONからなる群より選択される少なくとも一種とを支持塩として含む電解液が特に好適である。エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートは誘電率が高く、エチレンカーボネートは、プロピレンカーボネート等と比較して黒鉛電極の剥離等が生じ難いという利点がある。また、ジメチルカーボネートやエチルメチルカーボネートは低粘度である。一方、ヘキサフルオロリン酸リチウムは、溶解性やイオン伝導性が特に良好であるため支持塩として特に好適である。このようなヘキサフルオロリン酸リチウムに加水分解され難いLiBF等を併用すると、電池の高温保存特性等を改善できる場合がある。
【0047】
支持塩の濃度は、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウムについては、電解液あたり0.6mol/L以上1.8mol/L以下の範囲とすることが好ましい。支持塩の濃度が0.6mol/L以上であると、良好なイオン伝導度が実現され易くなるためである。また、支持塩の濃度が1.8mol/L以下であると、非水溶媒の割合が一定程度以上確保されることになるため、イオン伝導の抵抗が過大になることが少ない。
【0048】
オキソフルオロリン化合物としては、具体的には、POF、PO、PO2−等のフルオロリン酸アニオンや、これらの塩や、POF、PO、POF等で表される原子団を有する有機リン化合物を添加することができる。これらのオキソフルオロリン化合物は、比較的高い電子吸引性を持ったリン原子を有している。例えば、POF、PO、PO2−等のアニオンが求核的に反応することによって生成する中間生成物や、POF、PO、POF等で表される原子団を有する有機リン化合物は、このようなリン原子の存在によって酸性的に作用し得る。
【0049】
一方、リチウム二次電池では、正極における酸化分解によって生じた非水溶媒の分解物が共有結合等を介して正極活物質の結晶表面に結合したり、さらに、充放電サイクルが繰り返されることによって正極活物質の表面に厚膜状に成長して高抵抗化をもたらしたりすることがある。オキソフルオロリン化合物は、このような厚膜状に堆積している分解物や正極活物質の結晶表面に酸素原子を介して直接的に結合している分解物等に直接的に作用したり、リチウムイオンと相互作用して非水電解液中における電荷移動抵抗を小さくしたり、正極活物質の結晶表面に露出している末端基を高酸化状態に変質させたりする作用を示す。そのため、非水溶媒の分解物の過度な堆積が抑制され、リチウムイオンの伝導性が良好となることで、内部抵抗の増大や、放電容量の経時的な低下や、充放電に伴う放電容量(サイクル特性)の低下が低減される。
【0050】
オキソフルオロリン化合物を非水電解液に添加する方法としては、次の一般式(1):
(RO)(BO)・・・(1)
[式中、Rは、それぞれ独立して、炭素数が1〜6の有機基である。]
で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)との反応生成物を添加する方法を用いることができる。詳細には、一般式(1)で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとを反応させることによって、3価よりも高い価数のホウ素原子を有するボロキシン化合物と、次の一般式(2):
POxFy・・・(2)
[式中、xは、1以上3以下の数、yは、1以上5以下の数である。]で表される原子団又は当該原子団を有する化合物(オキソフルオロリン化合物)とを生成させることが可能である。なお、生成するオキソフルオロリン化合物におけるリン原子の酸化数は、3又は5である。
【0051】
ボロキシン化合物の有機基(R)としては、炭素数が1〜6の直鎖状又は分枝状のアルキル基、シクロアルキル基等が挙げられる。このような有機基(R)の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。有機基(R)は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子に例示されるハロゲン原子、窒素原子、硫黄原子等を含有していてもよい。
【0052】
ボロキシン化合物の有機基(R)としては、炭素数が1〜6の二価の有機基が好ましい。有機基(R)が一価であると、ボロキシン化合物の構造が安定しないため非水電解液への添加による使用が難しい傾向がある。また、有機基(R)が三価であると、ボロキシン化合物の不溶性が高くなり過ぎるため非水電解液への添加が困難となる。これに対して、有機基(R)が二価であると、ボロキシン化合物が非水電解液中においてボロン酸に解離し難く、適度な溶解性も得られる点で有利である。ボロキシン化合物としては、これらの中でも安定性と溶解性とが比較的良好なトリイソプロポキシボロキシン(Tri-iso-Propoxy Boroxine;TiPBx)((CHCHO)(BO))が好ましい。
【0053】
一般式(1)で表されるボロキシン化合物は、例えば、B(OR)と無水ホウ酸(B)との縮合反応等によって合成することができる。また、B(OR)を構成するRをB(OR)(OR)(OR)といった3つ全てが異なるアルキル基を有する物質、2つのみ異なる化合物を使用、あるいは、それらのモル数を変えて反応させることによって、一分子中に異なる有機基を有するボロキシン化合物を合成することが可能である。
【0054】
一般式(1)で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応は、非水溶媒中においてボロキシン化合物と、ヘキサフルオロリン酸リチウムとを混合すると常温常圧下において速やかに進行する。この反応によって、具体的には、PO、PO2−等のアニオン(原子団に相当する。)や、(RnO)POF(式中、Rnは、有機基を示す。)等の有機リン化合物が生成される。したがって、オキソフルオロリン化合物が添加された非水電解液を製造する方法としては、一般式(1)で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとをそれぞれ添加する方法、及び、一般式(1)で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとを非水溶媒中においてあらかじめ反応させて得た反応生成物を添加する方法のいずれを採用することも可能である。
【0055】
一般式(1)で表されるボロキシン化合物を非水電解液に添加する場合には、ボロキシン化合物の添加量は、非水溶媒と支持塩の総量に対して0.1質量%以上とすることが好ましく、0.3質量%以上とすることがより好ましい。また、非水溶媒と支持塩の総量に対して2.0質量%以下とすることが好ましく、1.5質量%以下とすることがより好ましい。ボロキシン化合物が添加されると、支持塩として添加したヘキサフルオロリン酸リチウムがボロキシン化合物との反応によって失われてリチウムイオンの伝導性が損なわれる恐れがある。そのため、ヘキサフルオロリン酸リチウムの通常の添加量の範囲では、添加量の上限をこのように制限することが好ましい。
【0056】
一般に非水電解液の支持塩として好適に用いられているヘキサフルオロリン酸リチウムは、非水電解液中に微量に存在し得る水によって加水分解されることが知られている。ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)の加水分解反応は、次の各反応式で表される。
LiPF ⇔ Li + PF・・・(1)
LiPF ⇔ LiF + PF・・・(2)
PF + HO ⇔ POF + 2HF・・・(3)
POF + HO ⇔ PO + HF + H・・・(4)
PO + HO ⇔ PO2− + HF + H・・・(5)
PO2− + HO ⇔ PO3− + HF + H・・・(6)
【0057】
ヘキサフルオロリン酸リチウムは、高温環境であるほど解離し易い性質を有している。そのため、充放電に伴ってリチウム二次電池が高温化したり、リチウム二次電池を高温条件下で保存したりすると、反応式(2)の順反応が進み易くなり、強いルイス酸であるPFや強酸性のHFが生じて非水溶媒の分解が引き起こされることが知られている。この加水分解反応においても、各反応式に表されるように、オキソフルオロリン化合物に相当するPO、PO2−等のアニオンが生成し得る。これに対して、一般式(1)で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応によると、水が実質的に存在していない非プロトン性の非水溶媒下にオキソフルオロリン化合物を生成させることが可能であり、HFの発生等が防止される点で有利である。
【0058】
図2は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)の反応物について測定したNMRの吸収スペクトルを示す図である。図2(a)は、ヘキサフルオロリン酸リチウムの加水分解反応の反応生成物における19F NMRの測定結果、図2(b)は、ボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応生成物における19F NMRの測定結果、図2(c)は、ヘキサフルオロリン酸リチウムの加水分解反応の反応生成物における31P NMRの測定結果、図2(d)は、ボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応生成物における31P NMRの測定結果を示す。なお、ボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応生成物からは、副生成した3価よりも高い価数のホウ素原子を有するボロキシン化合物を除いて測定を行っている。
【0059】
図2(a)に示すように、加水分解反応の反応生成物における19F NMRでは、−75〜−80(ppm)の領域にPO2−に帰属される二重線(d)、−82〜−86(ppm)の領域にPOに帰属される二重線(d)、−81〜−84(ppm)の領域に微弱な二重線(d)がそれぞれ計測されている。−70〜−75(ppm)の領域の二重線(d)は、PFに由来するシグナル、−155(ppm)の付近の一重(単)線(s)は、HFに由来するシグナルである。
【0060】
これに対して、図2(b)に示すように、ボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応生成物における19F NMRでは、−70〜−75(ppm)の領域にPFに帰属される二重線(d)が計測されているものの、加水分解反応の反応生成物について計測される−75〜−80(ppm)の領域の二重線(d)はシフトしている。そして、−82〜−87(ppm)の領域に3種類の成分に帰属可能な3組の二重線(d)が計測されている。また、−150(ppm)の付近と−165(ppm)の付近とに、加水分解反応の反応生成物においては認められないシグナルが計測されている。
【0061】
一方、図2(c)に示すように、加水分解反応の反応生成物における31P NMRでは、−5〜−14(ppm)の領域にPO2−に帰属される二重線(d)、−15〜−30(ppm)の領域にPOに帰属される三重線(t)が計測されている。−130〜−160(ppm)の領域の七重線は、PFに由来するシグナルである。
【0062】
これに対して、図2(d)に示すように、ボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応生成物における31P NMRでは、−15〜−30(ppm)の領域に2種類の成分に帰属可能な2組の三重線(t)が計測されている。また、−26〜−33(ppm)の領域に1種類の成分に帰属可能な二重線(d)が計測されている。なお、この測定結果は、標準物質としてのヘキサフルオロリン酸リチウムのシグナルの中心の周波数が−145ppmになるように定義し直し、加水分解反応における測定結果と周波数帯を合わせたものである。2種類の成分に帰属可能な三重線(t)と、1種類の成分に帰属可能な二重線(d)とを合わせたピーク面積の、PFに帰属される七重線のピーク面積に対する面積積分の比の値は、0.16となっている。
【0063】
これらの測定結果が示すように、ボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応では、加水分解反応とは異なる状態のオキソフルオロリン化合物を得ることができる。図2(b)及び(d)に示す測定結果からは、ボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)との反応によって、PO及びPO2−が生成すると共に、POxFで表される一種のオキソフルオロリン化合物が生成していると判断することが可能である。POxFについては、他核種によるNMR、二次元NMR、質量分析等に基くと有機リン化合物を形成していることが確認できる。
【0064】
一般式(1)で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応では、これら三成分のオキソフルオロリン化合物と共に、3価よりも高い価数のホウ素原子を有するボロキシン化合物が生成する。このボロキシン化合物は、具体的には、一般式(1)で表されるボロキシン化合物のフッ化物(フッ化ボロキシン化合物)を形成している。このフッ化ボロキシン化合物は、負電荷に荷電したホウ素原子を有するため、このホウ素原子とリチウムイオンとが相互作用することによって、支持塩の解離が安定化されることになる。したがって、一般式(1)で表されるボロキシン化合物とヘキサフルオロリン酸リチウムとの反応の反応生成物を添加する方法によると、リチウム二次電池を高容量化させることが可能である。
【0065】
また、オキソフルオロリン化合物を非水電解液に添加する方法としては、POF、PO、PO2−等のフルオロリン酸アニオンや、これらの塩や、POF、PO、POF等で表される原子団を有する有機リン化合物を各別に添加する方法を用いることもできる。添加するオキソフルオロリン化合物としては、フルオロリン酸アニオンや、その塩が特に好適である。オキソフルオロリン化合物は、単一種を添加しても電解液の分解を抑制することが可能であるが、複数種を組み合わせて添加してもよい。例えば、非水電解液に、POF又はその塩、及び、PO若しくはその塩又はPO2−若しくはその塩の二成分を添加してもよいし、POF又はその塩、PO又はその塩、及び、PO2−又はその塩の三成分を添加してもよい。
【0066】
フルオロリン酸アニオンを非水電解液に添加する場合は、フルオロリン酸アニオンを非プロトン性の非水溶媒にあらかじめ溶解させておいて用いればよい。非水溶媒は、非水電解液について用いられる前記の非水溶媒の群から選択して用いることができる。フルオロリン酸アニオンは、特に、非水電解液について用いる種類と同種の非水溶媒に溶解させておくことが好ましい。
【0067】
また、フルオロリン酸アニオンの塩を非水電解液に添加する場合は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、土類金属等の塩を用いることが好ましい。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。また、土類金属としては、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等が挙げられる。なお、フルオロリン酸アニオンの塩としては、電荷の消費、活物質への挿入等を伴う不要な電気化学的反応を避ける観点からは、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属塩類は添加しないことが好ましく、価数が大きい金属塩を用いることが好ましい。
【0068】
フルオロリン酸アニオンやフルオロリン酸アニオンの塩を非水電解液に添加する場合は、これらと共に一般式(1)で表されるボロキシン化合物を添加してもよい。ボロキシン化合物を添加することによって、ボロキシン化合物と支持塩のヘキサフルオロリン酸リチウムとが反応してフッ化ボロキシン化合物が生成するため、支持塩の解離が安定化されてリチウム二次電池が高容量化される。ボロキシン化合物の添加量は、非水電解液あたり0.1質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下とすることがより好ましい。添加するボロキシン化合物としては、トリイソプロポキシボロキシン(TiPBx)が特に好適である。
【0069】
非水電解液は、一般式(2)で表される原子団(オキソフルオロリン化合物)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)のモル数との比の値、すなわち、オキソフルオロリン化合物(POxFy)とヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)との比の値(POxFy/PF)が、0.70以下となることが好ましく、0.60以下となることがより好ましく、0.52以下となることがさらに好ましい。オキソフルオロリン化合物の総モル数がヘキサフルオロリン酸アニオンの総モル数に対して適切な比率の範囲であると、リチウムイオンの伝導度を大きく損なうことなく、リチウム二次電池を長寿命化させることができる。一方、オキソフルオロリン化合物(POxFy)とヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)との比の値(POxFy/PF)は、作用を確実に得る観点からは、0.01以上となることが好ましく、0.05以上となることがより好ましく、0.10以上となることがさらに好ましい。
【0070】
非水電解液は、負極活物質表面に被膜を形成する被膜形成剤、電池の過充電を抑制する過充電抑制剤、非水電解液の難燃性(自己消火性)を向上させる難燃化剤、電極やセパレータの濡れ性を改善する濡れ性改善剤等をはじめとする各種の添加剤を含有していてもよい。なお、これらの添加剤は、非水溶媒や支持塩として使用可能な化合物についても、添加剤としての添加量で、他の非水溶媒や支持塩と共に用いることが可能である。
【0071】
被膜形成剤としては、例えば、溶媒としても用いられるビニレンカーボネート等のカルボン酸無水物、1,3−プロパンスルトン等の硫黄化合物、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)、ホウ酸トリメチル(TMB)等のホウ素化合物等が挙げられる。負極活物質の表面には非水電解液の分解物等によってSEI(Solid Electrolyte Interphase)膜が形成されることが知られている。SEI膜は、非水電解液の分解を抑制する作用を示すものの、過剰に形成されると内部抵抗の増大を招いたり、形成される際に多量の電荷を消費したりすることがある。非水電解液にビニレンカーボネート等の被膜形成剤を添加すると、このようなSEI膜を安定的に充放電可能な膜に改質することができるため、電池の長寿命化を図ることが可能である。
【0072】
過充電抑制剤としては、例えば、ビフェニル、ビフェニルエーテル、ターフェニル、メチルターフェニル、ジメチルターフェニル、シクロヘキシルベンゼン、ジシクロヘキシルベンゼン、トリフェニルベンゼン、ヘキサフェニルベンゼン等が挙げられる。また、難燃化剤としては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等の有機リン化合物、ホウ酸エステル等をはじめとする前記の非水溶媒のフッ化物等を用いることができる。また、濡れ性改善剤としては、例えば、1,2−ジメトキシエタン等をはじめとする鎖状エーテル等を用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0074】
本発明の実施例として、非水電解液にオキソフルオロリン化合物が添加されているリチウム二次電池を作製し、作製したリチウム二次電池の高温保存特性について評価を行った。
【0075】
リチウム二次電池の正極は、正極活物質として、Li1.02Mn1.98Al0.02で表されるスピネル型酸化物を使用して作製した。使用した正極活物質の平均粒径は10μm、比表面積は1.5m/gである。導電剤としては、塊状黒鉛とアセチレンブラックとを9:2の質量比で混合した混合物を使用した。また、結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用した。PVDFは、5質量%の濃度となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)にあらかじめ溶解させて用いた。正極集電体としては、厚さ20μmのアルミニウム箔を使用した。
【0076】
正極は、次の手順にしたがって作製した。はじめに、正極活物質と導電剤とPVDFとを85:10:5の質量比で混合して、スラリー状の正極合材を得た。次いで、得られた正極合材を正極集電体に均一に塗布して80℃で乾燥した。なお、正極集電体には、同様の手順で両面に正極合材を塗工した。そして、正極集電体の両面に塗工された正極合材をロールプレス機によって圧縮成形し、正極合材の塗布幅が5.4cm、塗布長さが50cmとなるように断裁した。その後、断裁された正極集電体にアルミニウム箔の正極集電タブを溶接してリチウム二次電池用の正極とした。
【0077】
リチウム二次電池の負極は、負極活物質として、天然黒鉛を使用して作製した。使用した天然黒鉛の平均粒径は20μm、比表面積は5.0m/g、面間隔は0.368nmである。結着剤としては、カルボキシメチルセルロースと、スチレン−ブタジエン共重合体とを使用した。カルボキシメチルセルロースとスチレン−ブタジエン共重合体は、あらかじめ水に分散させて用いた。負極集電体としては、厚さ10μmの圧延銅箔を使用した。
【0078】
負極は、次の手順にしたがって作製した。はじめに、負極活物質とカルボキシメチルセルロースとスチレン−ブタジエン共重合体とを98:1:1の質量比で混合して、スラリー状の負極合材を得た。次いで、得られた負極合材を負極集電体に均一に塗布して乾燥した。なお、負極集電体には、同様の手順で両面に負極合材を塗工した。そして、負極集電体の両面に塗工された負極合材をロールプレス機によって圧縮成形し、負極合材の塗布幅が5.6cm、塗布長さが54cmとなるように断裁した。その後、断裁された負極集電体に銅箔の負極集電タブを溶接してリチウム二次電池用の負極とした。
【0079】
リチウム二次電池は、図1に示す円筒型の形態とした。具体的には、作製した正極と負極とをポリエチレン製のセパレータを挟んで重ねて螺旋状に捲回し、径18mm、長さ650mmの円筒型の電池缶に収納した後、電池缶の内部に非水電解液を注入し、電池蓋をかしめることによって作製した。なお、リチウム二次電池としては、非水電解液の組成が異なる複数の供試電池(供試電池1〜22)をそれぞれ作製した。
【0080】
非水電解液は、非水溶媒及び支持塩に対して、複数の供試電池(供試電池1〜22)毎に組成を変えたオキソフルオロリン化合物を添加して作製した。非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:2の質量比で混合した混合液を使用した。また、支持塩としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を1.0mol/Lの量で使用した。各非水電解液には、添加剤として、ビニレンカーボネートを1質量部(wt%)の量で添加した。
【0081】
オキソフルオロリン化合物としては、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを使用し、各供試電池毎に次に示す組み合わせで添加した。
【0082】
[供試電池1]
供試電池1としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0083】
[供試電池2]
供試電池2としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0084】
[供試電池3]
供試電池3としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0085】
[供試電池4]
供試電池4としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0086】
[供試電池5]
供試電池5としては、非水電解液に、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0087】
[供試電池6]
供試電池6としては、非水電解液に、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0088】
[供試電池7]
供試電池7としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0089】
[供試電池8]
供試電池8としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0090】
[供試電池9]
供試電池9としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)を、オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0091】
[供試電池10]
供試電池10としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)を、オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0092】
[供試電池11]
供試電池11としては、非水電解液に、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)を、オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0093】
[供試電池12]
供試電池12としては、非水電解液に、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)を、オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0094】
[供試電池13]
供試電池13としては、非水電解液に、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)を、オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0095】
[供試電池14]
供試電池14としては、非水電解液に、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)を、オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0096】
[供試電池15]
供試電池15としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加し、さらにリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を1質量%となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0097】
[供試電池16]
供試電池16としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加し、さらにリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を1質量%となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0098】
[供試電池17]
供試電池17としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加し、さらにホウ酸トリメチル(TMB)を1質量%となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0099】
[供試電池18]
供試電池18としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加し、さらにホウ酸トリメチル(TMB)を1質量%となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0100】
[供試電池19]
供試電池19としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加し、さらにトリイソプロポキシボロキシン(TiPBx)を1質量%となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0101】
[供試電池20]
供試電池20としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.52となるように添加し、さらにトリイソプロポキシボロキシン(TiPBx)を1質量%となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0102】
[供試電池21]
供試電池21としては、非水電解液にオキソフルオロリン化合物を添加していないリチウム二次電池を作製した。
【0103】
[供試電池22]
供試電池22としては、非水電解液に、ジフロオロリン酸塩(POアニオンの塩)と、モノフルオロリン酸塩(PO2−アニオンの塩)と、ジフロオロ亜リン酸塩(POFアニオンの塩)とを、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.74となるように添加したリチウム二次電池を作製した。
【0104】
次に、作製した各リチウム二次電池について、高温保存特性の評価を行った。高温保存特性は、次の手順にしたがって高温保存前の初期放電容量と高温保存後の放電容量とをそれぞれ計測し、初期放電容量に対する保存後の放電容量の分率(容量維持率)を算出することにより評価した。
【0105】
詳細には、はじめに、リチウム二次電池を、25℃に保温した恒温槽内で、充電電流150mA、充電電圧4.2Vで、5時間にわたって定電流低電圧充電した。次いで、放電電流1500mAで、終止電圧3.0Vまで定電流放電した。そして、この充放電条件と同様の条件で、合計3サイクルの充放電を繰り返した。このとき、3回目のサイクルにおいて計測された放電電流1500mAにおける放電容量を初期放電容量とした。
【0106】
続いて、初期放電容量を計測したリチウム二次電池を高温保存した。保存条件は、いずれも電池電圧4.2V、環境温度50℃、保存時間60日とした。そして、60日間経過時に、リチウム二次電池を25℃に保温した恒温槽内に移し、10時間以上静置することによって除熱した後、同様の充放電条件で高温保存後の放電容量の計測を行った。
【0107】
高温保存後の放電容量の初期放電容量に対する容量維持率(%)を算出した結果を表1に示す。なお、表1におけるPOxFy/PFは、オキソフルオロリン化合物(POxFy)とヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)との比の値、「+」は、各成分が添加されていること、「−」は、各成分が添加されていないことをそれぞれ示している。
【0108】
【表1】
【0109】
表1に示すように、非水電解液にオキソフルオロリン化合物を添加していない供試電池22では、高温保存後の容量維持率は76%である。これに対して、非水電解液にオキソフルオロリン化合物を添加した供試電池1〜供試電池20では、供試電池22と比較して高温保存後の容量維持率が向上することが確認できる。この結果は、各種のオキソフルオロリン化合物のいずれもが、放電容量の経時的な低下を小さくする作用を持つことを示している。オキソフルオロリン化合物の添加によって、非水溶媒の分解が抑制されると共に、非水溶媒の分解物の堆積等に起因する内部抵抗の増大等が抑制されることが示されているといえる。
【0110】
非水電解液にオキソフルオロリン化合物を添加した供試電池1〜供試電池20のそれぞれにおいては、高温保存後に計測された交流内部抵抗が1Hz近傍の周波数領域で特に低減されていることが認められた。この結果は、オキソフルオロリン化合物が、正極側の界面における電荷移動抵抗の低減に寄与している可能性を示すものといえる。また、表1においては、3種類のオキソフルオロリン化合物を添加した供試電池1では、2種類のオキソフルオロリン化合物を添加した供試電池3〜供試電池8と比較して高い容量維持率となる傾向がみられ、オキソフルオロリン化合物の三成分の添加が有効であることが示されている。
【0111】
また、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)が0.16となるように添加した供試電池1では、比の値(POxFy/PF)が0.52である供試電池2と比較して高い容量維持率が実現されている。このような比の値(POxFy/PF)が小さい各供試電池において容量維持率が高くなる傾向は、その他の供試電池においても認められる。一方、比の値(POxFy/PF)が0.74である供試電池22では、非水電解液にオキソフルオロリン化合物を添加していない供試電池21と比較して容量維持率は低くなっている。この結果は、オキソフルオロリン化合物の支持塩に対する比率には適切な範囲が存在し、オキソフルオロリン化合物が過剰となると、非水電解液のイオン伝導度や粘度、電極反応におけるリチウムイオンの反応性等が損なわれる可能性があることを示している。したがって、各オキソフルオロリン化合物(POxFy)の総モル数と、ヘキサフルオロリン酸アニオン(PF)のモル数との比の値(POxFy/PF)は、0.70程度以下とすることが好ましく、0.60以下とすることがより好ましいといえる。
【0112】
また、非水電解液にオキソフルオロリン化合物と共に、ボロキシン化合物や、皮膜形成作用等を有する各種のホウ素化合物を添加した供試電池15〜供試電池20では、供試電池1と比較して高い容量維持率となる傾向がみられる。この結果は、オキソフルオロリン化合物が、ボロキシン化合物や、各種のホウ素化合物とは独立して、リチウム二次電池の長寿命化に関わる作用を有していることを示しているといえる。したがって、オキソフルオロリン化合物と、ボロキシン化合物や各種の被膜形成剤等とを併用することによって、放電容量の経時的な低下をより低減することが可能になるといえる。
【符号の説明】
【0113】
1 リチウム二次電池
10 正極
11 セパレータ
12 負極
13 電池缶
14 正極集電タブ
15 負極集電タブ
16 内蓋
17 内圧開放弁
18 ガスケット
19 正温度係数抵抗素子
20 電池蓋
21 軸心
図1
図2