(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0020】
<砥粒>
ここに開示される技術において、砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましい。ここに開示される技術において使用し得る砥粒の好適例としてシリカ粒子が挙げられる。例えば、ここに開示される技術をシリコンウェーハの研磨に使用され得る研磨用組成物に適用する場合、砥粒としてシリカ粒子を用いることが特に好ましい。その理由は、研磨対象物がシリコンウェーハである場合、研磨対象物と同じ元素と酸素原子とからなるシリカ粒子を砥粒として使用すれば研磨後にシリコンとは異なる金属または半金属の残留物が発生せず、シリコンウェーハ表面の汚染や研磨対象物内部にシリコンとは異なる金属または半金属が拡散することによるシリコンウェーハとしての電気特性の劣化などの虞がなくなるからである。さらに、シリコンとシリカの硬度が近いため、シリコンウェーハ表面に過度なダメージを与えることなく研磨加工を行うことができる。かかる観点から好ましい研磨用組成物の一形態として、砥粒としてシリカ粒子のみを含有する研磨用組成物が例示される。また、シリカは高純度のものが得られやすいという性質を有する。このことも砥粒としてシリカ粒子が好ましい理由として挙げられる。シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。研磨対象物表面にスクラッチを生じにくく、よりヘイズの低い表面を実現し得るという観点から、好ましいシリカ粒子としてコロイダルシリカおよびフュームドシリカが挙げられる。なかでもコロイダルシリカが好ましい。例えば、シリコンウェーハのポリシング(予備ポリシングおよびファイナルポリシングの少なくとも一方、好ましくは予備ポリシング)に用いられる研磨用組成物の砥粒として、コロイダルシリカを好ましく採用し得る。
【0022】
シリカ粒子を構成するシリカの真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。シリカの真比重の増大によって、シリコンウェーハを研磨する際に、研磨レート(単位時間当たりに研磨対象物の表面を除去する量)が向上し得る。研磨対象物の表面(研磨対象面)に生じるスクラッチを低減する観点からは、真比重が2.2以下のシリカ粒子が好ましい。シリカの真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0023】
ここに開示される技術において、研磨用組成物中に含まれる砥粒は、一次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が会合した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態の砥粒と二次粒子の形態の砥粒とが混在していてもよい。好ましい一態様では、少なくとも一部の砥粒が二次粒子の形態で研磨用組成物中に含まれている。
【0024】
砥粒の平均一次粒子径は特に制限されないが、研磨速度等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、平均一次粒子径は、25nm以上が好ましく、30nm以上がさらに好ましい。平均一次粒子径が40nm以上の砥粒を用いてもよく、さらに50nm以上の砥粒を用いてもよい。また、保存安定性(例えば分散安定性)の観点から、砥粒の平均一次粒子径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下、例えば60nm以下である。
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法により測定される比表面積(m
2/g)から、D=2727/S(nm)の式により算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0025】
砥粒の平均二次粒子径は特に限定されないが、研磨速度等の観点から、好ましくは15nm以上、より好ましくは25nm以上である。より高い研磨効果を得る観点から、平均二次粒子径は、40nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。また、保存安定性(例えば分散安定性)の観点から、砥粒の平均二次粒子径は、200nm以下が適当であり、好ましくは150nm以下、より好ましくは100nm以下である。砥粒の平均二次粒子径は、例えば、日機装株式会社製の型式「UPA−UT151」を用いた動的光散乱法により測定することができる。
【0026】
砥粒の平均二次粒子径D
P2は、一般に砥粒の平均一次粒子径D
P1と同等以上(D
P2/D
P1≧1)であり、典型的にはD
P1よりも大きい(D
P2/D
P1>1)。特に限定するものではないが、研磨効果および研磨後の表面平滑性の観点から、砥粒のD
P2/D
P1は、通常は1.05〜3の範囲にあることが適当であり、1.1〜2.5の範囲が好ましく、1.2〜2.3(例えば1.3を超えて2.2以下)の範囲がより好ましい。
【0027】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす砥粒の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。
【0028】
特に限定するものではないが、砥粒の一次粒子の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。砥粒の平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0029】
上記砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0030】
<化合物(A)>
ここに開示されるシリコン材料研磨用組成物は、窒素原子上に特定の置換基を有する第四級アンモニウム化合物(典型的には、下記一般式(A)により表される化合物)を含有する。
【0031】
【化3】
ここで、一般式(A)中のR
1〜R
4は、それぞれ独立に、炭素原子数4以下のアルキル基、炭素原子数4以下のヒドロキシアルキル基および置換されていてもよいアリール基からなる群から選択される。またX
−はアニオンである。
【0032】
上記化合物(A)におけるアニオン(X
−)の種類は特に限定されず、有機アニオンであっても無機アニオンであってもよい。例えば、ハロゲン化物イオン(例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオン)、水酸化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、塩素酸イオン、亜塩素酸イオン、次亜塩素酸イオン、過亜塩素酸イオン、硫酸イオン、硫酸水素イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、炭酸イオン、リン酸イオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、スルファミン酸イオン、カルボン酸イオン(例えば、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、グリシン酸イオン、酪酸イオン、クエン酸イオン、酒石酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン等)、酢酸イオン、有機スルホン酸イオン(メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン等)、有機ホスホン酸イオン(メチルホスホン酸イオン、ベンゼンホスホン酸イオン、トルエンホスホン酸イオン等)、有機リン酸イオン(例えば、エチルリン酸イオン)等であり得る。なかでも、水酸化物イオンが好ましい。
【0033】
上記化合物(A)において、窒素原子上の置換基R
1,R
2,R
3,R
4は、炭素原子数1〜4(例えば2〜4、典型的には2または3)のアルキル基、炭素原子数1〜4(例えば2〜4、典型的には2または3)のヒドロキシアルキル基、もしくはアリール基であり得る。R
1,R
2,R
3,R
4は直鎖状でもよく分岐状でもよい。R
1,R
2,R
3,R
4は同じであってもよく異なっていてもよい。炭素原子数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。炭素原子数1〜4のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基が挙げられる。また、本明細書においてアリール基とは、置換基を有していないアリール基(例えばフェニル基)のほか、1または複数個の水素原子が置換基(例えば炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のヒドロキシアルキル基、ヒドロキシ基等)で置換されたアリール基を含み得る。そのような置換されていてもよいアリール基としては、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。なお、ここで例えばブチル基とは、その各種構造異性体(n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基)を包含する概念である。他のアルキル基、ヒドロキシアルキル基およびアリール基についても同様である。ここに開示される研磨用組成物は、このような化合物(A)の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0034】
化合物(A)の一好適例として、R
1,R
2,R
3,R
4がいずれも炭素原子数4以下(例えば2〜4、典型的には2または3)のアルキル基であるものが挙げられる。そのような化合物(A)の例として、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩が挙げられる。なかでも、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩が好ましい。あるいは、エチルトリメチルアンモニウム塩、トリメチルプロピルアンモニウム塩、ブチルトリメチルアンモニウム塩等の非対称構造の化合物(A)であってもよい。なお、ここでいう非対称構造とは、窒素原子に対して2種類以上の異なる置換基(構造異性体を含み得る)が結合していることを意味する。R
1,R
2,R
3,R
4がいずれも直鎖アルキル基である化合物(A)が好ましく、非対称構造のものがより好ましい。なお、ここで例えばテトラメチルアンモニウム塩とは、テトラメチルアンモニウムのカチオンと上記アニオン(X
−)との塩を意味し、テトラメチルアンモニウムの水酸化物を包含する概念である。他の化合物(A)についても同様である。
【0035】
化合物(A)の他の好適例として、R
1,R
2,R
3,R
4がいずれも炭素原子数4以下(例えば2〜4)のヒドロキシアルキル基であるものが挙げられる。そのような化合物(A)の例として、テトラヒドロキシメチルアンモニウム塩、テトラヒドロキシエチルアンモニウム塩、テトラヒドロキシプロピルアンモニウム塩、テトラヒドロキシブチルアンモニウム塩が挙げられる。
【0036】
あるいは、R
1,R
2,R
3,R
4がいずれもアリール基である化合物(A)であってもよい。そのような化合物(A)の例として、テトラフェニルアンモニウム塩、テトラベンジルアンモニウム塩;等が挙げられる。
【0037】
化合物(A)の他の好適例として、R
1,R
2,R
3,R
4のうち1つがアルキル基であり、他の3つがヒドロキシアルキル基である構造;R
1,R
2,R
3,R
4のうち2つがアルキル基であり、他の2つがヒドロキシアルキル基である構造;R
1,R
2,R
3,R
4のうち3つがアルキル基であり、他の1つがヒドロキシアルキル基である構造;等が例示される。そのような化合物(A)の例として、ヒドロキシメチルトリメチルアンモニウム塩、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩、ヒドロキシブチルトリメチルアンモニウム塩、ジヒドロキシエチルジメチルアンモニウム塩;等が挙げられる。なかでも、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム塩等の非対称構造のものがより好ましい。
【0038】
化合物(A)の他の好適例として、R
1,R
2,R
3,R
4のうち1つがアルキル基であり、他の3つがアリール基である構造;R
1,R
2,R
3,R
4のうち2つがアルキル基であり、他の2つがアリール基である構造;R
1,R
2,R
3,R
4のうち3つがアルキル基であり、他の1つがアリール基である構造;等が例示される。そのような化合物(A)の例として、トリメチルフェニルアンモニウム塩、トリエチルフェニルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、メチルトリフェニルアンモニウム塩、トリベンジルメチルアンモニウム塩;等が挙げられる。
【0039】
化合物(A)の他の好適例として、R
1,R
2,R
3,R
4のうち1つがヒドロキシアルキル基であり、他の3つがアリール基である構造;R
1,R
2,R
3,R
4のうち2つがヒドロキシアルキル基であり、他の2つがアリール基である構造;R
1,R
2,R
3,R
4のうち3つがヒドロキシアルキル基であり、他の1つがアリール基である構造;等が例示される。そのような化合物(A)の例として、ヒドロキシメチルトリフェニルアンモニウム塩、トリベンジルヒドロキシメチルアンモニウム塩;等が挙げられる。
【0040】
特に限定するものではないが、化合物(A)の含有量は、研磨用組成物1L当たり0.0001モル以上とすることができる。研磨レート向上の観点から、化合物(A)の含有量を0.0002モル/L以上とすることが好ましく、0.0003モル/L以上とすることがより好ましく、0.0004モル/L以上とすることが特に好ましい。研磨用組成物1L当たりの化合物(A)の含有量の上限は特に限定されないが、研磨用組成物の安定性の観点からは、通常は、0.2モル/L以下とすることが適当であり、0.1モル/L以下とすることが好ましく、0.05モル/L以下とすることがより好ましい。好ましい一態様において、研磨用組成物1L当たりの化合物(A)の含有量を0.0001〜0.1モル/Lとすることができ、例えば0.0003〜0.05モル/Lとすることができる。
【0041】
また、化合物(A)の含有量は、砥粒100重量部に対して、例えば0.5重量部以上とすることができる。研磨レート向上の観点から、砥粒100重量部に対する化合物(A)の含有量を2重量部以上とすることが好ましく、5重量部以上とすることがより好ましく、10重量部以上とすることがさらに好ましい。また、砥粒100重量部に対する化合物(A)の含有量を50重量部以下とすることが適当であり、30重量部以下とすることが好ましく、20重量部以下とすることがより好ましい。
【0042】
<化合物(B)>
ここに開示される研磨用組成物は、さらに下記一般式(B)により表される化合物を含有する。
【0043】
【化4】
ここで、上記一般式(B)中のX
1は、水素原子、アミノ基もしくはC
1原子への結合を表す。X
1がC
1原子への結合を表す場合、H
1原子は存在しない。X
2は、水素原子、アミノ基、アミノアルキル基もしくはC
1原子への結合を表す。X
2がC
1原子への結合を表す場合、C
1−N
1結合は二重結合となり、H
2原子は存在しない。lは1〜6の整数、mは1〜4の整数、nは0〜4の整数である。
【0044】
上記化合物(B)の一好適例として、上記の一般式(B)のX
1位とX
2位の両方に水素原子を有する環状アミン化合物が挙げられる。この場合、一般式(B)中のlは1〜6であり、好ましくは2〜6である。mは1〜4であり、好ましくは2〜4である。nは0〜4であり、好ましくは1〜4である。このような環状アミンの具体例として、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N−ブチルピペラジン等が挙げられる。あるいは、上記の一般式(B)のX
2位に水素原子を有し、かつX
1位にアミノ基を有する環状アミンであってもよい。この場合、一般式(B)中のlは1〜6であり、好ましくは2〜6である。mは1〜4であり、好ましくは2〜4である。nは0〜4であり、好ましくは1〜4である。このような環状アミンの具体例として、N−アミノメチルピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、N−アミノプロピルピペラジン等が挙げられる。あるいは、上記の一般式(B)のX
1位にアミノ基を有し、かつX
2位にアミノアルキル基を有する環状アミンであってもよい。このような環状アミンの具体例として、1,4−(ビスアミノエチル)ピペラジン、1,4−(ビスアミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
【0045】
上記化合物(B)の他の好適例として、上記一般式(B)のX
1位とX
2位の両方がC
1原子へ結合した環状ジアミン化合物が挙げられる。この場合、一般式(B)中のlは1〜6であり、好ましくは3〜6である。mは1〜4であり、好ましくは2または3である。nは0〜4であり、好ましくは0〜2である。このような環状ジアミン化合物の具体例として、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン等が挙げられる。ここに開示される研磨用組成物は、このような化合物(B)の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0046】
特に限定するものではないが、化合物(B)の含有量は、研磨用組成物1L当たり0.0001モル以上とすることができる。研磨レート向上の観点から、化合物(B)の含有量を0.0002モル/L以上とすることが好ましく、0.0003モル/L以上とすることがより好ましく、0.0004モル/L以上とすることが特に好ましい。研磨用組成物1L当たりの化合物(B)の含有量の上限は特に限定されないが、研磨用組成物の安定性の観点からは、通常は、0.2モル/L以下とすることが適当であり、0.1モル/L以下とすることが好ましく、0.05モル/L以下とすることがより好ましい。好ましい一態様において、研磨用組成物1L当たりの化合物(B)の含有量を0.0001〜0.1モル/Lとすることができ、例えば0.0003〜0.05モル/Lとすることができる。
【0047】
また、化合物(B)の含有量は、砥粒100重量部に対して、例えば0.5重量部以上とすることができる。研磨レート向上の観点から、砥粒100重量部に対する化合物(B)の含有量を2重量部以上とすることが好ましく、5重量部以上とすることがより好ましく、10重量部以上とすることがさらに好ましい。また、砥粒100重量部に対する化合物(B)の含有量を50重量部以下とすることが適当であり、30重量部以下とすることが好ましく、20重量部以下とすることがより好ましい。
【0048】
ここで開示される研磨用組成物は、上記化合物(A)と上記化合物(B)とを含有する。このように研磨用組成物に化合物(A)と化合物(B)とを含有させることによって、研磨レートを効果的に向上させることができる。本発明の範囲を限定するものではないが、このような効果が得られる理由として、化合物(A)である第四級アンモニウムの強塩基性を求核性化合物(B)の環状アミンが助長することにより、研磨レートの向上に寄与するものと推測される。
【0049】
なお、本発明者らの検討によれば、化合物(A)および化合物(B)をそれぞれ単独で使用するよりも、それらを組み合わせて使用する場合の方がより高い性能向上効果が発揮されることが後述する試験例により確認された。換言すると、化合物(A)と化合物(B)とを組み合わせて使用することにより、かかる組み合わせによる相乗効果として、研磨レートが大きく向上した研磨用組成物が提供される。
【0050】
研磨用組成物における化合物(A)と化合物(B)との混合比率は特に限定されるものでないが、研磨レート向上の観点からは、化合物(A)に対する化合物(B)のモル濃度比(化合物(B)/化合物(A))は、概ね0.01以上にすることが適当であり、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.5以上であり、特に好ましくは0.8以上である。また。分散性の観点からは、概ね100以下にすることが適当であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは5以下であり、さらに好ましくは2以下であり、特に好ましくは1.3以下である。例えば、上記モル濃度比(化合物(B)/化合物(A))が0.5以上2以下(特に0.8以上1.3以下)である研磨用組成物が、研磨レートの向上と分散性の維持とを両立するという観点から適当である。
【0051】
<水>
ここに開示される研磨用組成物を構成する水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99〜100体積%)が水であることがより好ましい。
【0052】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を大きく損なわない範囲で、前記化合物(A)、(B)以外の塩基性化合物を、意図的あるいは非意図的に含有し得る。このような任意成分としての塩基性化合物は、有機塩基性化合物であってもよく、無機塩基性化合物であってもよい。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
有機塩基性化合物の例としては、テトラアルキルホスホニウム塩等の第四級ホスホニウム塩が挙げられる。上記ホスホニウム塩におけるアニオンは、例えば、OH
−、F
−、Cl
−、Br
−、I
−、ClO
4−、BH
4−等であり得る。例えば、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラプロピルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム等の、ハロゲン化物、水酸化物を使用し得る。
有機塩基性化合物の他の例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン類;無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン等のピペラジン類;2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、2−(メチルアミノ)ピリジン、3−(メチルアミノ)ピリジン、4−(メチルアミノ)ピリジン、2−(ジメチルアミノ)ピリジン、3−(ジメチルアミノ)ピリジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等のアミノピリジン類;イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類;グアニジン;等が挙げられる。
【0054】
無機塩基性化合物の例としては、アンモニア;アンモニア、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩等;等が挙げられる。上記水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。上記炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
前記化合物(A)、(B)以外の有機塩基性化合物を使用する場合、その使用量は、通常、砥粒1kg当たり4モル未満とすることが適当であり、表面品質等の観点から3モル未満とすることが好ましく、2モル未満とすることがより好ましい。ここに開示される研磨用組成物は、前記化合物(A)、(B)以外の有機塩基性化合物を実質的に含有しない組成であってもよい。ここで、研磨用組成物が有機塩基性化合物を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には有機塩基性化合物を含有させないことをいう。したがって、原料や製法に由来して微量(例えば、砥粒1kg当たり0.01モル以下、好ましくは0.005モル以下)の有機塩基性化合物が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう有機塩基性化合物を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。
【0056】
無機塩基性化合物を使用する場合、その使用量は、通常、砥粒1kg当たり1モル未満とすることが適当であり、表面品質等の観点から0.5モル未満とすることが好ましく、0.2モル未満とすることがより好ましい。あるいは、ここに開示される研磨用組成物は、無機塩基性化合物を実質的に含有しない組成であってもよい。
【0057】
<キレート剤>
ここに開示される研磨用組成物には、任意成分として、キレート剤を含有させることができる。キレート剤は、研磨用組成物中に含まれ得る金属不純物と錯イオンを形成してこれを捕捉することにより、金属不純物による研磨対象物の汚染を抑制する働きをする。キレート剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸およびα−メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてアミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0058】
特に限定するものではないが、キレート剤の含有量は、研磨用組成物1リットル(L)当たり0.000005モル以上とすることができる。金属不純物による汚染抑制の観点から、キレート剤の含有量を0.00001モル/L以上とすることが好ましく、0.00003モル/L以上とすることがより好ましく、0.00005モル/L以上とすることがさらに好ましい。研磨用組成物1L当たりのキレート剤の含有量の上限は特に限定されないが、通常は、研磨用組成物1L当たりのキレート剤の含有量を0.005モル/L以下とすることが適当であり、0.002モル/L以下とすることが好ましく、0.001モル/L以下とすることがより好ましい。
【0059】
また、キレート剤の含有量は、砥粒100重量部に対して、例えば0.01重量部以上とすることができ、0.05重量部以上とすることが好ましく、0.1重量部以上とすることがより好ましく、0.2重量部以上とすることがさらに好ましい。また、砥粒100重量部に対するキレート剤の含有量を5重量部以下とすることが適当であり、3重量部以下とすることが好ましく、1重量部以下とすることがより好ましい。
【0060】
<その他の成分>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、水溶性高分子、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には、シリコンウェーハのポリシング工程に用いられる研磨用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0061】
水溶性高分子の例としては、セルロース誘導体、デンプン誘導体、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、ビニルアルコール系ポリマー等が挙げられる。具体例としては、ヒドロキシエチルセルロース、プルラン、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのランダム共重合体やブロック共重合体、ポリビニルアルコール、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリイソアミレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリアクリルアミド等が挙げられる。水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、有機スルホン酸、有機ホスホン酸等が挙げられる。有機酸塩の例としては、有機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩等が挙げられる。無機酸の例としては、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。無機酸塩の例としては、無機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)やアンモニウム塩が挙げられる。有機酸およびその塩、ならびに無機酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
防腐剤および防カビ剤の例としては、イソチアゾリン系化合物、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0063】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該組成物が研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)に供給されることで該研磨対象物の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより所要研磨時間が長くなってしまうためである。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H
2O
2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まないとは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量(例えば、研磨用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下、好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。
【0064】
<研磨液>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(研磨液の原液)との双方が包含される。ここに開示される研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
【0065】
ここに開示される研磨液における砥粒の含有量は特に制限されないが、典型的には0.05重量%以上であり、0.1重量%以上であることが好ましく、0.3重量%以上であることがより好ましく、0.5重量%以上であることがさらに好ましい。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨レートが実現され得る。また、研磨用組成物の分散安定性等の観点から、通常は、上記含有量は、10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0066】
研磨液のpHは、8.0以上(例えば8.5以上)であることが好ましく、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.5以上(例えば10.0以上)である。研磨液のpHが高くなると、研磨レートが向上する傾向にある。研磨液のpHの上限値は特に制限されないが、12.0以下(例えば11.5以下)であることが好ましく、11.0以下であることがより好ましい。このことによって、研磨対象物をより良く研磨することができる。上記pHは、シリコンウェーハの研磨に用いられる研磨液に好ましく適用され得る。研磨液のpHは、pHメータ(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F−23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨液に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0067】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で2倍〜100倍程度とすることができ、通常は5倍〜50倍程度が適当である。好ましい一態様に係る研磨用組成物の濃縮倍率は10倍〜40倍である。
【0068】
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の水系溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記水系溶媒が混合溶媒である場合、該水系溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記水系溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。また、後述するように多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
【0069】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。研磨用組成物の安定性(例えば、砥粒の分散安定性)や濾過性等の観点から、通常、上記含有量は、好ましくは45重量%以下であり、より好ましくは40重量%以下である。好ましい一態様において、砥粒の含有量を30重量%以下としてもよく、20重量%以下(例えば15重量%以下)としてもよい。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上(例えば4重量%以上)である。
【0070】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(典型的には、水系溶媒以外の成分)のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。
【0071】
<研磨用組成物の調製>
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0072】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、シリコン材料、すなわちシリコンからなる研磨対象面を備えた研磨対象物の研磨に好適である。ここでいうシリコンは単結晶であってもよく多結晶であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、砥粒としてシリカ粒子を含む研磨用組成物(典型的には、砥粒としてシリカ粒子のみを含む研磨用組成物)であって、研磨対象物がシリコン材料である研磨用組成物に対して特に好ましく適用され得る。
研磨対象物の形状は特に制限されない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、板状や多面体状等の、平面を有する研磨対象物の研磨、もしくは研磨対象物の端部の研磨(例えばウェーハエッジの研磨)に好ましく適用され得る。
【0073】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、板状のシリコン(すなわちシリコン基板、例えば単結晶または多結晶のシリコンウェーハ)を研磨するための研磨用組成物として好ましく使用され得る。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に、濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
【0074】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、シリコン基板の1次研磨工程(典型的には両面研磨工程)を行う場合には、ラッピング工程を経たシリコン基板を一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコン基板の研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、シリコン基板の研磨対象面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。その後、必要に応じてさらなる2次研磨工程(典型的には片面研磨工程)を経て、最終的にファイナルポリシングを行って研磨対象物の研磨が完了する。
なお、ここに開示される研磨用組成物を用いる研磨工程において使用される研磨パッドは特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、ポリウレタンタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。
【0075】
この明細書によると、ここに開示される研磨用組成物を用いて基板を研磨する工程を含む基板製造方法が提供される。ここに開示される基板製造方法は、上記研磨用組成物を用いる研磨工程を経た基板にファイナルポリシングを施す工程をさらに含んでもよい。ここでファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。上記ファイナルポリシング工程は、ここに開示される研磨用組成物を用いて行ってもよく、他の研磨用組成物を用いて行ってもよい。
好ましい一態様において、上記研磨用組成物を用いる基板研磨工程は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程である。なかでも、ラッピング工程を終えた基板の予備ポリシングに好ましく適用することができる。例えば、ラッピング工程を経た両面研磨工程(典型的には1次研磨工程)や、該両面研磨工程を経た基板に対して行われる最初の片面研磨工程(典型的には最初の2次研磨工程)において好ましく使用され得る。上記両面研磨工程および最初の片面研磨工程では、ファイナルポリシングに比べて要求される研磨レートが大きい。そのため、ここに開示される研磨用組成物は、両面研磨工程および最初の片面研磨工程の少なくとも一方(好ましくは両方)において基板の研磨に用いられる研磨用組成物として好適である。
【0076】
なお、上記研磨用組成物は、いったん研磨に使用したら使い捨てにする態様(いわゆる「掛け流し」)で使用されてもよいし、循環して繰り返し使用されてもよい。研磨用組成物を循環使用する方法の一例として、研磨装置から排出される使用済みの研磨用組成物をタンク内に回収し、回収した研磨用組成物を再度研磨装置に供給する方法が挙げられる。研磨用組成物を循環使用する場合には、掛け流しで使用する場合に比べて、廃液として処理される使用済みの研磨用組成物の量が減ることにより環境負荷を低減できる。また、研磨用組成物の使用量が減ることによりコストを抑えることができる。ここに開示される研磨用組成物を循環使用する場合、その使用中の研磨用組成物に、任意のタイミングで新たな成分、使用により減少した成分または増加させることが望ましい成分を添加してもよい。
【0077】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0078】
(
参考例1)
砥粒としてのコロイダルシリカ(平均一次粒子径:44nm)と化合物(A)と化合物(B)とキレート剤と純水とを混合して、本例に係る研磨用組成物を調製した。化合物(A)としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を使用した。化合物(B)としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)を使用した。このDBUは、前記一般式(B)において、X
1がC
1への結合、X
2がC
1への結合、l=5、m=3、n=0に相当する化合物である。キレート剤としては、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPP)を使用した。砥粒、TMAH、DBUおよびDTPPの使用量は、研磨用組成物中における砥粒の含有量が0.7重量%、TMAHのモル濃度が0.0004モル/L、DBUのモル濃度が0.0004モル/L、DTPPのモル濃度が0.00005モル/Lとなる量とした。得られた研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0079】
(
参考例2)
参考例1におけるTMAHに代えて、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)を使用した。TEAHの使用量は、研磨用組成物中におけるTEAHのモル濃度が0.0004モル/Lとなる量とした。その他の点は
参考例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0080】
(
参考例3)
参考例1におけるTMAHに代えて、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)を使用した。TPAHの使用量は、研磨用組成物中におけるTPAHのモル濃度が0.0004モル/Lとなる量とした。その他の点は
参考例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0081】
(
参考例4)
参考例1におけるTMAHに代えて、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)を使用した。TBAHの使用量は、研磨用組成物中におけるTBAHのモル濃度が0.0004モル/Lとなる量とした。その他の点は
参考例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0082】
(
参考例5)
参考例1におけるTMAHに代えて、ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(コリン)を使用した。コリンの使用量は、研磨用組成物中におけるコリンのモル濃度が0.0004モル/Lとなる量とした。その他の点は
参考例1と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0083】
(
参考例6)
参考例5におけるDBUに代えて、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン(DBN)を使用した。このDBNは、前記一般式(B)において、X
1がC
1への結合、X
2がC
1への結合、l=3、m=3、n=0に相当する化合物である。DBNの使用量は、研磨用組成物中におけるDBNのモル濃度が0.0004モル/Lとなる量とした。その他の点は
参考例5と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0084】
(実施例7)
参考例5におけるDBUに代えて、アミノエチルピペラジン(AEP)を使用した。このAEPは、前記一般式(B)において、X
1=NH
3、X
2=H、l=2、m=2、n=1に相当する化合物である。AEPの使用量は、研磨用組成物中におけるAEPのモル濃度が0.0004モル/Lとなる量とした。その他の点は
参考例5と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.2であった。
【0085】
(
参考例8)
キレート剤(DTPP)を用いなかったこと以外は
参考例5と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0086】
(比較例1)
コリンの使用量を0.0008モル/Lに変更したこと、および、DBUを用いなかったこと以外は
参考例5と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0087】
(比較例2)
DBUの使用量を0.0008モル/Lに変更したこと、および、コリンを用いなかったこと以外は
参考例5と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
(比較例3)
参考例5におけるDBUに代えて、ピペラジン(PIZ)を使用した。このPIZは、前記一般式(B)において、X
1=H、X
2=H、l=0、m=2、n=1に相当する化合物である。すなわち、PIZは化合物(B)に該当しない(※表1では便宜上化合物(B)蘭に示す)。PIZの使用量は、研磨用組成物中におけるPIZのモル濃度が0.0004モル/Lとなる量とした。その他の点は
参考例5と同様にして、本例に係る研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物のpHは10.3であった。
【0088】
<シリコンの研磨レートの評価>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、シリコンウェーハに対して研磨試験を行い、シリコンの研磨レートを評価した。試験片としては、6cm×6cmのシリコンウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>)を使用した。この試験片を以下の条件で研磨した。そして、以下の計算式(1)、(2)に従って研磨レートを算出した。結果を表1の該当欄に示す。
(1)研磨取り代[cm]=研磨前後のシリコンウェーハの重量の差[g]/シリコンの密度[g/cm
3](=2.33g/cm
3)/研磨対象面積[cm
2](=36cm
2)
(2)研磨レート[nm/分]=研磨取り代[cm]×10
7/研磨時間(=10分)
[研磨条件]
研磨装置:日本エンギス社製卓上研磨機、型式「EJ−380IN」
研磨パッド :ニッタハース社製、商品名「MH S−15A」
研磨圧力:27.1kPa
定盤回転数:50回転/分
ワーク回転数:50回転/分
研磨時間:10分
研磨液の供給レート:100mL/分(掛け流し使用)
研磨液の温度:25℃
【0089】
<金属不純物含有量の評価>
上記研磨後のシリコンウェーハを純水にてスクラブ洗浄した。続いて、シリコンウェーハ表面の自然酸化膜をフッ酸蒸気により気相分解してこれをフッ酸と過酸化水素水とを含有する液滴で回収し、回収液中の金属不純物を誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によって定量分析した。この金属不純物は、原料や製法等に由来して研磨用組成物に含まれていたCu等の金属、もしくは研磨装置、研磨パッドなどから研磨中に混入したCu等の金属が研磨後のシリコンウェーハに残留したものである。ここではCu不純物の量が3×10
9atoms/cm
2未満のものを「◎」、3×10
9atoms/cm
2以上1×10
10atoms/cm
2未満のものを「○」と評価した。結果を表1に示す。
【0091】
表1に示されるように、化合物(A)および化合物(B)の両方を含む研磨用組成物を用いた実施例
7および参考例1〜
6,8によると、化合物(A)または化合物(B)を単独で含む研磨用組成物を用いた比較例1、2に比べて、化合物全体の含有量が同じであるにもかかわらず、シリコンの研磨レートを格段に向上させることができた。このことから、化合物(A)および化合物(B)をそれぞれ単独で使用するよりも、それらを組み合わせて使用することの方がより高い性能向上効果が実現されることが確認された。換言すると、化合物(A)と化合物(B)とを組み合わせて使用することにより、かかる組み合わせによる相乗効果として、研磨レートが大きく向上した研磨用組成物が得られるといえる。
【0092】
なお、
参考例1〜5および比較例3の研磨用組成物は、いずれも化合物(A)としてコリンを含んでいる。かかる
参考例1〜5および比較例3を比較すると、PIZを含む研磨用組成物を用いた比較例3は、DBU、DBN、AEPをそれぞれ含む研磨用組成物を用いた実施例
7および参考例5〜
6,8ほどは性能向上効果が認められなかった。この結果から、化合物(A)と組み合わせて使用する場合、PIZよりも、DBU、DBN、AEP(すなわち化合物(B))を組み合わせる方がより高い性能向上効果が発揮されることが確認された。また、キレート剤を含む研磨用組成物を用いた実施例
7および参考例1〜
6は、キレート剤を含まない研磨用組成物を用いた
参考例8よりも研磨後における金属不純物の濃度が低かった。このことから、研磨用組成物にキレート剤を含有させることにより、金属不純物によるシリコンの汚染を抑制し得ることが確認できた。
【0093】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。