(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572496
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】アディポネクチン分泌調節剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7004 20060101AFI20190902BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20190902BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20190902BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20190902BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20190902BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20190902BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20190902BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20190902BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61K8/60
A61Q19/00
A61P43/00 111
A61P3/04
A61P3/00
A23L33/125
A23K20/163
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-538463(P2016-538463)
(86)(22)【出願日】2015年7月31日
(86)【国際出願番号】JP2015071774
(87)【国際公開番号】WO2016017796
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-156767(P2014-156767)
(32)【優先日】2014年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390033145
【氏名又は名称】焼津水産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】大原 和幸
(72)【発明者】
【氏名】潮 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤根 妃奈
(72)【発明者】
【氏名】服部 武史
(72)【発明者】
【氏名】上野 友哉
【審査官】
中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−184305(JP,A)
【文献】
特開2010−059065(JP,A)
【文献】
特開平06−065080(JP,A)
【文献】
窪田直人ら,アディポネクチンの中枢作用,治療学,日本,2010年,Vol.44, No.11,p.35-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/33−31/80
A23K20/00−20/28
A23L29/00−29/30
A23L33/00−33/29
REGISTRY/CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコースをアディポネクチン分泌調節のための有効成分として含有することを特徴とする食欲抑制用組成物。
【請求項2】
フコースをアディポネクチン分泌調節のための有効成分として含有することを特徴とする脂肪燃焼用組成物。
【請求項3】
前記アディポネクチン分泌調節は、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量に対するアディポネクチン多量体の相対的な量を増やすためのものである請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記アディポネクチン分泌調節は、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量を減らすためのものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
アディポネクチンの血中濃度を上昇させる作用を有する、他のアディポネクチン分泌調節剤とともに投与するためのものである請求項1〜4のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
飲食品の形態であり、フコースを0.0001〜50質量%含有するものである請求項1〜5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】
機能性食品の形態であり、フコースを0.0001〜100質量%含有するものである請求項1〜5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項8】
化粧品の形態であり、フコースを0.0001〜50質量%含有するものである請求項1〜5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項9】
医薬品の形態であり、フコースを0.0001〜100質量%含有するものである請求項1〜5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項10】
動物飼料の形態であり、フコースを0.0001〜50質量%含有するものである請求項1〜5のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フコースを有効成分として含有するアディポネクチン分泌調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される蛋白質であり、血中を比較的高濃度に循環するホルモンである。その生理機能はエネルギーの恒常性の維持や糖・脂肪代謝などであり、例えば、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMP-activated protein kinase:AMPK)の活性化を介した、脂肪酸の燃焼やインスリン抵抗性の増大などが報告されている(非特許文献1)。アディポネクチンは3量体として血中を循環するだけでなく、6量体や、それ以上の多量体(例えば12〜18量体)としても存在し、特に多量体で脂肪酸の燃焼やインスリン抵抗性を増大させる効果が高いことが明らかとなっている(非特許文献2)。また、3量体や6量体のアディポネクチンは脳血液関門を通過し、視床下部における食欲中枢に働きかけ、食欲を増進することが明らかとなっている(非特許文献3)。
【0003】
従来、アディポネクチンの産生を促進したり分泌を調節したりする活性物質・成分が見いだされ、それらを医薬品や化粧品、飲食品や動物飼料などに利用することが行われている。(例えば特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4785140号公報
【特許文献2】特許第5004153号公報
【特許文献3】特許第5499415号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yamauchi T., Kamon, J., Minokoshi Y., Ito Y., Waki H., Uchida S., Yamashita S., Noda M., Kita S., Ueki K., Eto K., Akanuma Y., Froguel P., Foufelle F., Ferre P., Carling D., Kimura S., Nagai R., Kahn B. B. and Kadowaki T.「Adiponectin stimulates glucose utilization and fatty-acid oxidation by activating AMP-activated protein kinase.」 Nat. Med. (2002) 8, 1288-1295.
【非特許文献2】Pajvani U. B., Hawkins M., Combs T. P., Rajala M. W., Doebber T., Berger J. P., Wagner J. A., Wu M., Knopps A., Xiang A. H., Utzschneider K. M., Kahn S. E., Olefsky J. M., Buchanan T. A., Scherer P. E.「Complex distribution, not absolute amount of adiponectin, correlates with thiazolidinedione-mediated improvement in insulin sensitivity.」 J. Biol. Chem. (2004) 279, 12152-62.
【非特許文献3】Kubota N., Yano W., Kubota T., Yamauchi T., Itoh S., Kumagai H., Kozono H., Takamoto I., Okamoto S., Shiuchi T., Suzuki R., Satoh H., Tsuchida A., Moroi M., Sugi K., Noda T., Ebinuma H., Ueta Y., Kondo T., Araki E., Ezaki O., Nagai R., Tobe K., Terauchi Y., Ueki K., Minokoshi Y., Kadowaki T.「Adiponectin stimulates AMP-activated protein kinase in the hypothalamus and increases food intake.」Cell Metab. (2007) Jul;6(1):55-68.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アディポネクチンの血中濃度を増加させたり脂肪細胞からの産生量を増加させたりするだけでは、上記のとおりアディポネクチンには食欲を増進する作用効果も付随するので、食べ過ぎを避けて健康の増進を図ろうとする場合などには、大変不都合であった。
【0007】
よって、本発明の目的は、アディポネクチンに付随する食欲の増進の弊害を避けつつ、アディポネクチンによる効果を効率的に発現させることができるアディポネクチン分泌調節剤を提供し、また、そのようなアディポネクチン分泌調節作用を有する飲食品、機能性食品、化粧品、医薬品、及び動物飼料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、フコースには、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の生成を減じ、多量体形成を促す作用効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のように構成されるものである。
【0010】
[1]フコース又はその前駆物質を有効成分として含有することを特徴とするアディポネクチン分泌調節剤。
【0011】
[2]アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量に対するアディポネクチン多量体の相対的な量を増やすためのものである前記[1]記載のアディポネクチン分泌調節剤。
【0012】
[3]アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量を減らすためのものである前記[1]又は[2]記載のアディポネクチン分泌調節剤。
【0013】
[4]食欲抑制のためのものである前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のアディポネクチン分泌調節剤。
【0014】
[5]脂肪燃焼のためのものである前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のアディポネクチン分泌調節剤。
【0015】
[6]抗肥満のためのものである前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のアディポネクチン分泌調節剤。
【0016】
[7]インスリン抵抗性改善のためのものである前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のアディポネクチン分泌調節剤。
【0017】
[8]アディポネクチンの血中濃度を上昇させる作用を有する、他のアディポネクチン分泌調節剤とともに投与するためのものである前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のアディポネクチン分泌調節剤。
【0018】
[9]フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜50質量%含有し、アディポネクチン分泌調節作用を有する飲食品。
【0019】
[10]フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜100質量%含有し、アディポネクチン分泌調節作用を有する機能性食品。
【0020】
[11]フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜50質量%含有し、アディポネクチン分泌調節作用を有する化粧品。
【0021】
[12]フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜100質量%含有し、アディポネクチン分泌調節作用を有する医薬品。
【0022】
[13]フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜50質量%含有し、アディポネクチン分泌調節作用を有する動物飼料。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フコースには、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の生成を減じ、多量体形成を促す作用効果があるので、アディポネクチンによる有用な効果を、アディポネクチンに付随する食欲の増進の弊害を避けつつ、効率的に享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】脂肪細胞によるアディポネクチン生成に及ぼすフコースの影響を調べた結果を示す図表であり、0.1w/v%グルコース(レーン1)、0.1w/v%グルコース+0.1w/v%フコース(レーン2)、0.45w/v%グルコース(レーン3)、又は0.45w/v%グルコース+0.1w/v%フコース(レーン4)を含む無血清培地にて24時間培養後に、核受容体型転写因子であるPPAR−gamma、内部標準蛋白質としてアクチン(actin)、及びアディポネクチンの発現量をウェスタンブロッティング法により調べた結果を示す図表である。
【
図2】脂肪細胞によるアディポネクチン生成に及ぼすフコースの影響を調べた結果を示す図表であり、0.1w/v%グルコース(レーン1)、0.1w/v%グルコース+0.1w/v%フコース(レーン2)、0.45w/v%グルコース(レーン3)、又は0.45w/v%グルコース+0.1w/v%フコース(レーン4)を含む無血清培地にて24時間培養後に、アディポネクチンの多量体の発現量及び形成状態をウェスタンブロッティング法により調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のアディポネクチン分泌調節剤は、フコース(fucose)を有効成分とする。ヒトだけでなく動物にも適用することができる。また、フコースの作用効果を発現させることができればよく、ヒトや動物に投与したとき生体分解によって必然的にフコースを生じさせるフコース前駆物質を有効成分とすることもできる。フコース前駆物質としては、菌体細胞壁、菌体分泌多糖、海藻抽出物、ジャガイモ抽出物、キャッサバ抽出物、キウイフルーツ抽出物、シロイヌナズナ抽出物、大豆抽出物、しかくまめ抽出物、ジュンサイ抽出物、ヘラオオバコ抽出物、コショウソウ抽出物、タチアオイ抽出物、カポック抽出物、ウラルカンゾウ抽出物、ルピナス抽出物、トラガントゴムノキ抽出物、フコイダン、アスコフィラン、ペクチン、ムチン、血液、フコース配糖体、フコース誘導体、ミルクオリゴ糖、トラガントなどが挙げられる。
【0026】
本発明のアディポネクチン分泌調節剤は、上記有効成分を、フコース含有量換算で、0.0001〜100質量%含有するものであることが好ましく、0.0005〜70質量%含有するものであることがより好ましく、0.001〜50質量%含有するものであることが更により好ましい。上記範囲未満では、ヒトや動物に投与した際のフコースの量が乏しくなるので、アディポネクチン分泌調節の作用が低減する傾向がある。
【0027】
本発明のアディポネクチン分泌調節剤の製剤形態に特に制限はなく、上記有効成分をそのまま用いてもよく、必要に応じて、例えば製剤的に許容される基材や担体などを添加して、公知の方法によって、例えば錠剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、トローチ錠剤、チュアブル錠剤、飴状剤、ゼリー状剤、注射剤、吸引剤、塗布剤などの形態にしてもよい。
【0028】
本発明のアディポネクチン分泌調節剤の投与形態に特に制限はなく、例えば経口投与、静脈内投与、脳内局所投与、腹腔内投与、吸引投与、経鼻投与、局所塗布投与などが挙げられる。
【0029】
本発明のアディポネクチン分泌調節剤の投与量としては、投与形態、適用するヒト又は動物の健康状態や疾患の状態、目的等に応じて適宜設定すればよく、特に制限はないが、典型的に経口投与する場合には、フコース換算で、成人1日当りおよそ0.1〜20,000mgであることが好ましく、0.1〜10,000mgであることがより好ましい。
【0030】
本発明のアディポネクチン分泌調節剤の有効成分は、後述するように、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量に対するアディポネクチン多量体の相対的な量を増やしたり、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量を減らしたりする作用効果を示すので、例えば、食欲抑制、脂肪燃焼、抗肥満、インスリン抵抗性改善などのために好適に用いられる。
【0031】
また、例えば、アディポネクチンの血中濃度を上昇させる作用を有する、他のアディポネクチン分泌調節剤とともに投与してもよい。これによれば、一般にアディポネクチンの血中濃度を上昇させると、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体によって食欲の増進の弊害を生じるのであるが、本発明のアディポネクチン分泌調節剤の有効成分は、後述するように、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量に対するアディポネクチン多量体の相対的な量を増やしたり、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量を減らしたりする作用効果を示すので、他のアディポネクチン分泌調節剤に付随する食欲の増進の弊害をも抑止して、全体としてアディポネクチンによる有用な効果を、効率的に享受することができる。他のアディポネクチン分泌調節剤としてはチアゾリジン誘導体、ガンマオリザノールおよびその組成物、シンナミックアシッドフェネチルエステル、クルクミンなどが挙げられる。
【0032】
一方、本発明の別の側面は、フコース又はその前駆物質を含有し、アディポネクチン分泌調節作用を有する、飲食品、機能性食品、化粧品、医薬品、動物飼料などを提供することにある。
【0033】
上記飲食品としては、フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜50質量%含有するものであることが好ましく、0.0005〜30質量%含有するものであることがより好ましく、0.001〜15質量%含有するものであることが更により好ましい。上記範囲未満では、摂取した際のフコースの量が乏しくなるので、アディポネクチン分泌調節の作用が低減する傾向がある。例えば、(1)清涼飲料、炭酸飲料、果実飲料、野菜ジュース、乳酸菌飲料、乳飲料、豆乳、ミネラルウォーター、茶系飲料、コーヒー飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、ゼリー飲料等の飲料類、(2)トマトピューレ、キノコ缶詰、乾燥野菜、漬物等の野菜加工品、(3)乾燥果実、ジャム、フルーツピューレ、果実缶詰等の果実加工品、(4)カレー粉、わさび、ショウガ、スパイスブレンド、シーズニング粉等の香辛料、(5)パスタ、うどん、そば、ラーメン、マカロニ等の麺類(生麺、乾燥麺含む)、(6)食パン、菓子パン、調理パン、ドーナツ等のパン類、(7)アルファー化米、オートミール、麩、バッター粉等、(8)焼菓子、ビスケット、米菓子、キャンデー、チョコレート、チューイングガム、スナック菓子、冷菓、砂糖漬け菓子、和生菓子、洋生菓子、半生菓子、プリン、アイスクリーム等の菓子類、(9)小豆、豆腐、納豆、きな粉、湯葉、煮豆、ピーナッツ等の豆類製品、(10)蜂蜜、ローヤルゼリー加工食品、(11)ハム、ソーセージ、ベーコン等の肉製品、(12)ヨーグルト、プリン、練乳、チーズ、発酵乳、バター、アイスクリーム等の酪農製品、(13)加工卵製品、(14)干物、蒲鉾、ちくわ、魚肉ソーセージ等の加工魚や、乾燥わかめ、昆布、佃煮等の加工海藻や、タラコ、数の子、イクラ、からすみ等の加工魚卵、(15)だしの素、醤油、酢、みりん、コンソメベース、中華ベース、濃縮出汁、ドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ、味噌等の調味料や、サラダ油、ゴマ油、リノール油、ジアシルグリセロール、べにばな油等の食用油脂、(16)スープ(粉末、液体含む)等の調理、半調理食品や、惣菜、レトルト食品、チルド食品、半調理食品(例えば、炊き込みご飯の素、カニ玉の素)などが挙げられる。
【0034】
上記機能性食品としては、フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜100質量%含有するものであることが好ましく、0.0005〜70質量%含有するものであることがより好ましく、0.001〜50質量%含有するものであることが更により好ましい。上記範囲未満では、摂取した際のフコースの量が乏しくなるので、アディポネクチン分泌調節の作用が低減する傾向がある。例えば、健康食品、健康ドリンク、サプリメント、栄養補助食品、保健機能食品、特定保健用食品、機能性表示許可食品、食品添加用素材などが挙げられる。
【0035】
上記機能性食品の形態としては、特に制限はなく、必要に応じて、例えば食品に許容される基材や担体、添加剤、栄養成分などを組み合わせて、公知の方法によって、例えば錠剤、粉末、顆粒、カプセル、液状、飴、ゼリーなどの形態にしてもよい。
【0036】
上記化粧品としては、フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜50質量%含有するものであることが好ましく、0.0005〜30質量%含有するものであることがより好ましく、0.001〜15質量%含有するものであることが更により好ましい。上記範囲未満では、適用されるフコースの量が乏しくなるので、アディポネクチン分泌調節の作用が低減する傾向がある。
【0037】
上記化粧品の形態としては、特に制限はなく、必要に応じて、例えば化粧品に許容される基材や担体、添加剤、保湿成分などを組み合わせて、公知の方法によって、例えばクリーム、化粧水、噴霧スプレー剤、泡状スプレー剤、石鹸、ゲル、フェイスマスクなどの形態にしてもよい。
【0038】
上記医薬品としては、フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜100質量%含有するものであることが好ましく、0.0001〜70質量%含有するものであることがより好ましく、0.0001〜50質量%含有するものであることが更により好ましい。上記範囲未満では、摂取した際のフコースの量が乏しくなるので、アディポネクチン分泌調節の作用が低減する傾向がある。
【0039】
上記医薬品の形態としては、特に制限はなく、必要に応じて、例えば医薬的に許容される基材や担体、添加剤、薬効補助成分などを組み合わせて、公知の方法によって、例えば例えば錠剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、トローチ錠剤、チュアブル錠剤、飴状剤、ゼリー状剤、注射剤、吸引剤、塗布剤などの形態にしてもよい。
【0040】
上記動物飼料としては、フコース又はその前駆物質を、フコース含有量換算で、0.0001〜50質量%含有するものであることが好ましく、0.0005〜30質量%含有するものであることがより好ましく、0.001〜15質量%含有するものであることが更により好ましい。上記範囲未満では、摂取した際のフコースの量が乏しくなるので、アディポネクチン分泌調節の作用が低減する傾向がある。動物としては、イヌ、ネコ、トリ等のペット類や、ウシ、ブタ、ニワトリ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の家畜類や、マグロ、ハマチ、ウナギ、タイ、フグ等の養魚類などが挙げられる。
【0041】
上記動物飼料の形態としては、特に制限はなく、固形状、半固形状、粉末状、液状などであってよく、必要に応じて、例えば動物飼料に許容される基材や担体、飼料用賦形剤などのほか、他の飼料素材などを組み合わせてもよい。他の飼料素材としては、例えば、穀粉、糖、塩、油脂、ビタミン、アミノ酸、ポリフェノール類、核酸類、動物蛋白、植物蛋白、肉エキス、魚エキス、酵母エキス、呈味剤、色素、乳酸菌、抗生物質、ホルモンなどが挙げられる。
【0042】
なお、本発明による知見によれば、フコース又はその前駆物質を有効成分として含有するアディポネクチン分泌調節剤のみならず、フコース又はその前駆物質をヒト又は動物に摂取させてアディポネクチンの分泌を調節する方法や、アディポネクチンの分泌を調節するためのフコース又はその前駆物質の用途なども提供される。
【0043】
また、上記方法において、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量に対するアディポネクチン多量体の相対的な量を増やすためのものである方法や、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量を減らすためのものである方法や、食欲抑制のためのものである方法や、脂肪燃焼のためのものである方法や、抗肥満のためのものである方法や、インスリン抵抗性改善のためのものである方法や、アディポネクチンの血中濃度を上昇させる作用を有する、他のアディポネクチン分泌調節剤とともに投与するためのものである方法なども提供される。
【0044】
また、上記用途において、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量に対するアディポネクチン多量体の相対的な量を増やすためのものである用途や、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体の合計量を減らすためのものである用途や、食欲抑制のためのものである用途や、脂肪燃焼のためのものである用途や、抗肥満のためのものである用途や、インスリン抵抗性改善のためのものである用途や、アディポネクチンの血中濃度を上昇させる作用を有する、他のアディポネクチン分泌調節剤とともに投与するためのものである用途なども提供される。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
<試験例1>
マウス繊維芽細胞3T3−L1をコンフル状態にてインスリンにより脂肪細胞に分化誘導した。次に、10%FBS含有DMEM培地にて48時間培養した。その後、表1に示す試験区ごとに、各濃度でL−フコース及び/又はD−グルコースを含む無血清DMEM培地にて24時間培養した。
【0047】
【表1】
【0048】
培養後、培養上清を採取し、等量の還元SDS−PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)負荷バッファーと混合して100℃で10分間保温し、1レーンあたり5−10μLの試料をSDS−PAGEに供し、常法に従ってそれぞれの特異抗体を用いたウェスタンブロッティング法により、核受容体型転写因子であるPPAR−gamma、内部標準蛋白質としてアクチン(actin)、及びアディポネクチンを検出した。なお、その検出には近赤外蛍光イメージャー(「Odyssey Fc」LI-COR社)を用い、それぞれの蛋白質の相対的な発現量を比較した。結果を
図1に示す。
【0049】
図1に示すように、0.1w/v%の濃度で培地にL−フコースを添加した試験区2、4では、フコースを添加しない試験区1、3に比べ、0.1w/v%及び0.45w/v%の両グルコース濃度区において、アディポネクチンの発現量が低下する傾向が認められた。このとき、アディポネクチンの生成を調節している核受容体型転写因子であるPPAR−gammaの発現量を調べたところ、0.1w/v%の濃度で培地にD−グルコースを添加すると共に0.1w/v%の濃度で培地にL−フコースを添加した試験区2では、0.1w/v%の濃度で培地にD−グルコースを添加した試験区1に比べ、PPAR−gammaの発現量にほとんど変化は認められなかった。一方、0.45w/v%の濃度で培地にD−グルコースを添加すると共に0.1w/v%の濃度で培地にL−フコースを添加した試験区4では、0.45w/v%の濃度で培地にD−グルコースを添加した試験区3に比べ、PPAR−gammaの発現量に若干の低下が認められた。
【0050】
<試験例2>
試験例1と同様の試験区にて細胞の培養上清を採取し、各試験区ごとに等量の試料を非還元SDS−PAGEに供し、アディポネクチンに対する特異抗体を用いたウェスタンブロッティング法により、分子量約30kDaの位置に出現する単量体、約100kDaの位置に出現する3量体、約200kDaの位置に出現する6量体、およびそれ以上の分子量の位置に出現する多量体のアディポネクチンを検出した。なお、その検出には近赤外蛍光イメージャー(「Odyssey Fc」LI-COR社)を用い、それぞれの多量体形成の状態を比較した。結果を
図2に示す。
【0051】
図2に示すように、0.1w/v%の濃度で培地にL−フコースを添加した試験区2、4では、フコースを添加しない試験区1、3に比べ、0.1w/v%及び0.45w/v%の両グルコース濃度区において、単量体、3量体及び6量体が減少し、多量体が増加することが明らかとなった。その傾向は、低グルコース濃度区(0.1w/v%)で、より顕著であった。
【0052】
以上の試験例1、2の結果によれば、フコースには、脂肪細胞が分泌するアディポネクチンの多量体形成を促す作用効果があることが明らかとなった。よって、アディポネクチンの単量体、3量体及び6量体に付随する食欲増進の弊害を抑止して、アディポネクチンの多量体よる効率的な作用効果の発現に有用であるものと考えられた。