(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572570
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】触媒寿命予測方法と触媒寿命解析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 31/10 20060101AFI20190902BHJP
C07C 17/02 20060101ALI20190902BHJP
B01J 33/00 20060101ALI20190902BHJP
C07C 19/045 20060101ALI20190902BHJP
C07C 17/156 20060101ALI20190902BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20190902BHJP
【FI】
G01N31/10
C07C17/02
B01J33/00 Z
C07C19/045
C07C17/156
!C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-51237(P2015-51237)
(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公開番号】特開2016-170117(P2016-170117A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】大橋 知一
【審査官】
草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−105981(JP,A)
【文献】
特開2002−372507(JP,A)
【文献】
特開平09−025248(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/061678(WO,A1)
【文献】
米国特許第04460699(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00−31/22
B01J 33/00
C07C 17/02
C07C 17/156
C07C 19/045
C07B 61/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床流通式反応用触媒を用いる化学反応プロセスにおいて、固定床流通式反応用触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出するにあたり、前記活性化エネルギーの変化量ΔEa、固定床流通式反応用触媒の使用期間内の目的とする生成物の総量をW、固定床流通式反応用触媒の劣化度合を示す定数をK、反応管の長さをL0、反応管入口からの位置をLとすると、ΔEaをL、Wの関数として式(1);
ΔEa(L,W)=KWn×(L−L0) (1)
(ここでnは0より大きく1より小さい値である、)
を用いて算出し、該活性化エネルギーの変化量から固定床流通式反応用触媒性能の経時変化を解析し、固定床流通式反応用触媒性能の経時変化から触媒層温度を予測し、予測触媒層温度が運転上限温度を下回る時点を触媒寿命と予測することを特徴とする触媒寿命予測方法。
【請求項2】
活性化エネルギーの変化量ΔEaから使用期間経過後の反応速度定数kを算出し、初期の反応速度定数k0と比較することにより固定床流通式反応用触媒性能の経時変化を解析することを特徴とする請求項1に記載の触媒寿命予測方法。
【請求項3】
頻度因子をA、初期の活性化エネルギーをEa0、気体定数をR、触媒層温度をT(L,W)とすると、反応速度定数kがL、Wの関数として式(2);
k(L,W)=Aexp(−(Ea0+ΔEa(L,W))/RT(L,W)) (2)
で表されることを特徴とする請求項2に記載の触媒寿命予測方法。
【請求項4】
固定床流通式反応用触媒を用いる化学反応プロセスが、エチレン、塩化水素および酸素を反応させて1,2−ジクロロエタンを製造するプロセスであり、固定床流通式反応用触媒がオキシ塩素化反応用触媒である請求項1〜3のいずれかに記載の触媒寿命予測方法。
【請求項5】
固定床流通式反応用触媒を用いる化学反応プロセスにおいて、目的とする生成物の総量を積算する手段、固定床流通式反応用触媒使用時の触媒層温度を検出する手段、固定床流通式反応用触媒使用期間内の総生産量を基に固定床流通式反応用触媒性能の変化量を活性化エネルギーの変化量として算出する手段、触媒層温度を予測する演算手段及び予測触媒層温度が運転上限温度を下回る時点を触媒寿命とする手段を備え、前記固定床流通式反応用触媒使用期間経過後の活性化エネルギーの変化量ΔEaは、固定床流通式反応用触媒の使用期間内の目的とする生成物の総量をW、固定床流通式反応用触媒の劣化度合を示す定数をK、反応管の長さをL0、反応管入口からの位置をLとすると、ΔEaがL、Wの関数として式(1);
ΔEa(L,W)=KWn ×(L−L0) (1)
(ここでnは0より大きく1より小さい値である、)
で表されることを特徴とする固定床流通式反応用触媒を用いた化学反応プロセス用触媒寿命解析装置。
【請求項6】
活性化エネルギーの変化量ΔEaから使用期間経過後の反応速度定数kを算出し、初期の反応速度定数k0と比較することにより固定床流通式反応用触媒性能の経時変化を解析することを特徴とする請求項5に記載の固定床流通式反応用触媒を用いた化学反応プロセス用触媒寿命解析装置。
【請求項7】
頻度因子をA、初期の活性化エネルギーをEa0、気体定数をR、触媒層温度をT(L,W)とすると、使用期間経過後の反応速度定数kが、L、Wの関数として式(2);
k(L,W)=Aexp(−(Ea0+ΔEa(L,W))/RT(L,W)) (2)
で表されることを特徴とする請求項6に記載の固定床流通式反応用触媒を用いた化学反応プロセス用触媒寿命解析装置。
【請求項8】
固定床流通式反応用触媒を用いた化学反応プロセスがエチレン、塩化水素および酸素を反応させて1,2−ジクロロエタンを製造するプロセスであり、固定床流通式反応用触媒がオキシ塩素化反応用触媒である請求項5〜7のいずれかに記載の固定床流通式反応用触媒を用いた化学反応プロセス用触媒寿命解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を用いる化学反応プロセスにおける、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に触媒性能の変化を活性化エネルギーの変化量として算出し、触媒性能の経時変化を解析することにより触媒寿命が予測できる触媒寿命予測方法および触媒寿命解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニルモノマー(VCM)の製造法のうち、バランスド・オキシクロリネーション・プロセスと呼ばれる方法、即ち、(1)エチレンの直接塩素化反応による1,2−ジクロロエタン(EDC)の製造、(2)EDCの熱分解反応によるVCMの製造、および(3)エチレンのオキシ塩素化反応によるEDCの製造、からなるプロセスが石油化学工業で広く採用されている。
【0003】
このうち、エチレンのオキシ塩素化反応によるEDCの製造法は触媒を用いた触媒を用いる化学反応プロセスであり、反応に使用する酸素原料として空気を用いる空気法、空気に少量の分子状酸素を用いる酸素富化法、および酸素原料として分子状酸素を用いる酸素法が知られている。
【0004】
一般的に触媒は時間経過に伴いその性能(活性)が低下する。従って、固定床流通式反応塔からなる触媒を用いる化学反応プロセスでは、触媒の活性が必要最低限のレベルにまで低下した段階が触媒寿命と判断し、触媒を全て交換する必要がある。
【0005】
通常、触媒交換時期は予め決められており、計画した生産期間中は触媒交換を行うことなく、性能低下した触媒によって生産を継続する。これは計画外で触媒交換することは交換作業に要する経費および労力、装置停止中の減産による損金が非常に大きいためである。従って、触媒寿命を予め見積もっておき、次回の交換時期を計画し、それまでの期間は触媒の活性が必要最低限のレベルまで低下せず、かつ最大限の触媒性能を発揮するように生産計画を立てることが重要な技術課題となっている。
【0006】
この課題に対してシミュレーション技術を利用することが開示されている。
たとえば水素化脱硫反応に対してシミュレーションによる方法が開示されている(特許文献1参照。)。しかし、この方法では、触媒の劣化については実験的にファクターを決めているため、運転条件が変化するような場合に触媒寿命を高い精度で予測できない。
【0007】
また、改質装置のシミュレーターが開示されている(特許文献2参照。)。この方法は触媒の寿命劣化を考慮したシミュレーターとなっているが、このシミュレーターは運転員のトレーニングのためのものであり、実際の装置の運転状態を予測するものではない。
【0008】
精製処理に対してシミュレーションによる方法が開示されている(特許文献3〜4。)。この方法は水素化精製反応における触媒細孔中の炭素質および金属の堆積による触媒の劣化現象に着目して精製条件を最適化する方法である。しかし、炭素質および金属の体積が触媒の劣化の原因ではない反応については全く有効ではない。
【0009】
オキシ塩素化触媒反応は発熱反応であるため、発熱に伴い触媒層の温度が上昇し、特に温度が上昇したホットスポットでは急速な触媒性能の低下が起きる。
【0010】
熱劣化を解析する方法としては、自動車の排気ガス浄化触媒に対してシミュレーションによる方法が開示されている(特許文献5〜6。)。これらは触媒の熱劣化を解析するため、触媒が高温に曝された時間と劣化の度合いを予め関連づけ、触媒の劣化速度として解析する方法である。この方法で得られる劣化速度は入口から出口までの全体の触媒性能の低下を一括解析した平均値である。
【0011】
オキシ塩素化触媒を用いる化学反応プロセスのような固定床流通反応塔では、反応床入口から出口まで発熱によって触媒層に温度分布が発生するため一様ではない。従って、触媒の性能低下も入口から出口まで一様でない。そのような触媒層の位置によって性能低下が異なる触媒を用いて、シミュレーション技術により運転条件の最適化を行い生産調整することは、触媒性能の平均値の情報では全くその要求に応えることはできない。
【0012】
このような固定床流通式反応塔からなる触媒を用いる化学反応プロセスのように、触媒の性能低下が触媒層の位置で異なった場合でも、精度良く各位置にある触媒の性能を解析でき、生産計画に従って運転条件の最適化を行うことができるような触媒寿命予測方法および触媒寿命解析装置が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,341,313号
【特許文献2】特公平7−108372号公報
【特許文献3】特許第3,931,083号公報
【特許文献4】特許第4,612,006号公報
【特許文献5】特許第3,135,499号公報
【特許文献6】特許第4,747,984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
固定床流通式反応塔からなる触媒を用いる化学反応プロセスのように、触媒の性能低下が触媒層の位置で一様でなく、位置毎に異なった場合でも、各位置の触媒性能を解析して触媒寿命を予測し、次回の交換時期を計画しておき、交換時期に達するまで触媒の活性が必要最低限のレベルまで低下せず、かつ最大限の触媒性能を発揮するように生産計画に従って運転条件の最適化を行うことができる触媒寿命予測方法および触媒寿命解析装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、触媒を用いる化学反応プロセスにおいて、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に触媒性能の変化を活性化エネルギーの変化量として算出し、該活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析して触媒寿命を予測できる触媒寿命予測方法および触媒寿命解析装置を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は触媒を用いる化学反応プロセスにおいて、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に触媒性能の変化を活性化エネルギーの変化量として算出し、該活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析して触媒寿命を予測できる触媒寿命予測方法および触媒寿命解析装置に関するものである。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明の触媒寿命の予測方法および触媒寿命解析装置は固定床流通式反応塔からなる触媒を用いる化学反応プロセスにおいて、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出し、該活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析し、触媒性能の経時変化から触媒層温度を予測することにより触媒寿命を予測する方法および触媒寿命解析装置であることを特徴とする。
【0019】
本発明者は触媒の性能低下現象を反応速度論に基づいて整理し、性能低下は活性化エネルギーの変化に起因するものであることを見出した。すなわち、使用期間が異なる触媒の活性化エネルギーを反応管の位置毎に区別して測定したところ、
図1のような変化を確認した。これは触媒の経時変化に基づく変化であり、その変化をモデル化した。このモデルに基づいて触媒使用期間内の目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出し、該活性化エネルギーの変化量を反応速度論に基づいて整理することで、触媒性能の経時変化を解析することができる。得られた活性化エネルギーの変化量は触媒層の位置で一様でなく、位置毎に異なった値で算出できるため、位置毎の触媒性能の経時変化を解析できる。
【0020】
前記活性化エネルギーの変化量ΔEaは、触媒の使用期間内の目的とする生成物の総量をW、触媒の劣化度合を示す定数をK、反応塔内で触媒が充填された反応管の入口から出口までの長さをL
0、反応管の入口からの位置をLとすると、L、Wの関数として式(1);
ΔEa(L,W)=KW
n ×(L−L
0) (1)
(ここでnは0より大きく1より小さい値である、)
で表される。式(1)のKW
nは
図1の傾きを持つ直線の傾きに相当する値である。
【0021】
図1のように、傾きをWの関数として表されるとして、手順1:触媒の使用開始とともに未使用のEaの線(
図1の破線)上をL方向に始点Mが進み、Mから入口方向へ直線を引き、手順2:入口からMまではΔEaが上昇し式(1)を用いて、Mから出口まではΔEaは不変(即ちΔEa=0)としてΔEaを求める。得られた傾きとWとの関係を調べることで傾きのWに対する変化を関数として与えることができる。
図2のように傾きをプロットしてWとの関係を求めるとKW
nと近似することができ、nは0より大きく1未満であり、
図2に示した例のnは0.5であった。また、Mの移動はWを変数とする関数で表すことができ、Dを定数とすると、通常DW
mと近似することができ、mは0から1である。
【0022】
該活性化エネルギーの変化量を用いて触媒性能の経時変化を解析する場合には、一般にアレニウス式による反応速度定数を用いることができる。使用期間経過後の反応速度定数をkとして、頻度因子をA、初期の活性化エネルギーをEa
0、気体定数をR、触媒層温度をT(L,W)とすると、L、Wの関数として式(2);
k(L,W)=Aexp(−(Ea
0+ΔEa(L,W))/RT(L,W)) (2)
で表される。
【0023】
前記反応速度定数kと初期の反応速度定数k
0と比較することによって触媒性能の経時変化を解析できる。
【0024】
反応管入口にある触媒層において、算出される反応速度によって反応原料が反応生成物を生成する際、その反応量に従って反応熱が生じる。この反応熱は反応管外へ除熱され、あるいは次の触媒層に流通ガスとともに移動する。この熱収支および物質収支によって次の触媒層の温度が決定し、反応速度を計算することができる。従って、これを繰り返すことによって反応管入口から出口までの触媒層温度分布として触媒性能の経時変化を表示することができる。
【0025】
さらに運転条件の変更及び触媒性能の将来的な変化を加味して計算することで予測される触媒層温度の分布を寿命予測の判断に用いることができる。
【0026】
前記のような活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析して触媒寿命を予測する触媒寿命予測方法を利用した触媒寿命解析装置は、触媒の使用期間内の目的とする生成物の総量を積算する手段、触媒使用時の触媒層温度を検出する触媒層温度検出手段、前記触媒使用期間内の目的とする生成物の総生産量を基に触媒性能の変化量を活性化エネルギーの変化量として算出する演算手段及び触媒層温度を予測する演算手段を備える。さらに、解析に当たって必要な情報を入力する手段、解析結果を出力する手段および解析結果を記録する手段を備えていても良い。
【0027】
以下、固定床流通式反応塔からなる触媒を用いる化学反応プロセスにおいて、触媒使用期間内の目的とする生成物の総量と使用期間経過後の触媒層温度を基に触媒性能の変化量を活性化エネルギーの変化量として算出し、該活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析して触媒寿命を予測する触媒寿命予測方法を用いた触媒寿命解析装置を構成する前記手段および前記演算部について説明する。
【0028】
触媒の使用時の触媒層温度を検出する触媒層温度検出手段は、固定床流通式反応塔に設置した触媒層の温度を測定するための装置である。測定された触媒層の温度は触媒層の位置毎および経過時間毎に記録される。
【0029】
触媒の使用期間内の目的とする生成物の総量を測定する手段は、固定床流通式反応塔の出口から流出する生成物量を分析することによって求めるための装置である。測定された生成物量を単位時間毎に記録し、使用期間内の生成物量を積算することで、使用期間内の目的とする生成物の総量を求めることができる。
【0030】
触媒使用期間内の目的とする生成物の総生産量を基に触媒性能の変化量を活性化エネルギーの変化量として算出する演算手段は、前記使用期間内の目的とする生成物の総量を測定する手段で測定された目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出する演算部、活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析する演算部から構成される。
【0031】
触媒性能の経時変化を解析するために必要な情報を入力する手段は、活性化エネルギーの変化量を算出する演算手段へ、算出する際に使用する固定床流通式反応塔を制御する運転条件、運転中の触媒層温度、使用期間内の目的とする生成物の総量、触媒の物性や性状の情報を入力するための装置である。
【0032】
前記使用期間内の目的とする生成物の総量を測定する装置で測定された目的とする生成物の総量を基に活性化エネルギーの変化量を算出する演算部によって活性化エネルギーの変化量を、式(1)を用いて触媒層の位置毎に算出する。活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析する演算装置によって算出した触媒層の各位置における活性化エネルギーの変化量から触媒層の各位置における触媒性能の経時変化をアレニウス式による反応速度定数の式(2)を用いて解析する。
【0033】
反応管入口にある触媒層において、算出される反応速度によって反応原料が反応生成物を生成する際、その反応量に従って反応熱が生じる。この反応熱は反応管外へ除熱され、あるいは次の触媒層に流通ガスとともに移動する。この熱収支および物質収支によって次の触媒層の温度が決定し、反応速度を計算することができる。これを繰り返すことによって触媒性能の経時変化を反応管入口から出口までの触媒層温度の分布として表示することができる。
【0034】
触媒性能の経時変化から触媒層温度を予測する演算部では、運転条件の変更及び触媒性能の将来的な変化を加味して計算した活性化エネルギーの変化量から触媒性能の経時変化を解析する演算装置によって算出したアレニウス式による反応速度定数を用いて前記熱収支および物質収支に従って計算することにより、触媒層温度の予測を行う。予測した触媒層温度の分布から、触媒性能の低下による反応塔への影響を解析することができる。算出した触媒層温度の予測値と触媒の使用時の触媒層温度を検出する触媒層温度検出手段によって後日測定された実測温度を比較することで、この触媒寿命を予測するための触媒寿命予測方法およびこの予測方法を用いた触媒寿命解析装置の精度を知ることができる。
【0035】
以上のことから、この触媒寿命予測方法およびこの予測方法を用いた触媒寿命解析装置では、予め計画した交換時期に達するまで触媒の活性が必要最低限のレベルまで低下せず、かつ最大限の触媒性能を発揮する運転条件の探索と最適化を行うために、触媒層温度の将来予測を行うことができる。
【0036】
反応塔が可能な運転条件の探索を行い、触媒層温度の将来予測を行うとともに、生産計画に従った生産量を得ることができないと判断された場合には運転条件を再設定し直して触媒性能の経時変化を解析するために必要な情報を入力する装置に再入力して再計算させる。このようにして再計算させても、もはや反応塔が可能な運転条件の範囲では生産計画に従った生産量を得ることができないと判断された場合、触媒寿命と判断することになる。
【0037】
従って、前記のように触媒寿命と判断された時期を次回交換時期に設定すれば、それまでの期間は触媒の活性が必要最低限のレベルまで低下せず、かつ最大限の触媒性能を発揮するように生産計画を立てることが可能になる。
【0038】
解析結果を出力する手段は前記解析によって得られた触媒層の各位置における触媒性能の経時変化および触媒性能の経時変化から予測される触媒層温度を出力するための装置である。
【0039】
解析結果を記録する手段は前記解析に必要な情報および前記解析によって得られた触媒層の各位置における触媒性能の経時変化および触媒性能の経時変化から予測される触媒層温度を触媒寿命解析プログラムを格納したコンピューター読み取り可能な記録媒体に記録するための装置である。
【0040】
ここでいう「記録媒体」とはプログラムを記録することができるコンピューターで読み取り可能な媒体を意味する。例えば、半導体メモリ、ICカード、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、デジタルビデオディスクなどを含む。
【0041】
本発明による触媒寿命の予測方法および触媒寿命解析装置は、特にエチレン、塩化水素および酸素を反応させて1,2−ジクロロエタンを製造するプロセスに好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明による触媒寿命の予測方法および触媒寿命解析装置を用いることで、次回の触媒交換時期の計画を効率よく決定でき、その交換時期に達するまで触媒の活性が必要最低限のレベルまで低下せず、かつ最大限の触媒性能を発揮するように運転条件の最適化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は使用期間が異なる触媒の反応管の位置毎に区別して測定した活性化エネルギーの変化を示した図である。
【
図2】
図2は
図1から得られる傾きを使用期間内の目的とする生成物の総量Wに対してプロットした図である。
【
図3】
図3は本発明に従うオキシ塩素化反応装置の触媒寿命解析装置から出力される反応管内温度分布と反応管内の実測温度とを比較した図である。
【
図4】
図4は
図3の運転条件を1年間継続した後の本発明に従うオキシ塩素化反応装置の触媒寿命解析装置から出力される反応管内温度分布と反応管内の実測温度とを比較した図である。
【
図5】
図5は
図3の運転条件を2年間継続した後、
図3と
図4と同じ生産量を得るため、運転条件を変更したときの本発明に従うオキシ塩素化反応装置の触媒寿命解析装置から出力される反応管内温度分布と運転上限温度の図である。
【実施例】
【0044】
本発明に従うオキシ塩素化反応装置により触媒寿命解析装置について実際の使用例を基に説明する。
【0045】
オキシ塩素化反応装置は固定床流通式反応塔を装備し、その反応塔内に触媒が充填されている。この触媒を解析するため反応管の入口から出口までを100分割して表示する。
【0046】
エチレン、塩化水素および酸素原料として空気を含む原料ガスは反応管入口より全量供給し、原料ガスが触媒層を通過する際に反応によって原料転化量に見合う反応熱が発生し、触媒層および流通ガス温度を変化させながら、出口から未反応原料および生成物が流出する方法で反応させる。式(1)および式(2)を用いて100分割した各区間の反応速度を求め、その区間の反応量から反応熱を計算し、触媒層の温度を算出する。このようにして予測した100区間の触媒層の温度分布は
図3に示したようになる。
図3に示した実測温度はシミュレーションによって得られた温度分布曲線と良く一致していることがわかる。その後、継続運転し一年経過後の実測温度とシミュレーションによって得られた温度分布曲線を
図4に示す。
図4のように一年経過後も実測温度はシミュレーションによって得られた温度分布曲線と良く一致していることが分かる。このように実測値とシミュレーションの結果がよい一致を示していることは式(1)と式(2)のモデルが適切であることを示している。さらに継続運転を仮定して二年経過後のシミュレーションによって得られた温度分布曲線を
図5に示す。
図3および
図4と同じ生産量を維持できるように運転条件を変更したにもかかわらず運転上限温度を下回ることはなく触媒寿命は二年と判断した。
【0047】
このように温度解析情報を積極的に活用することにより触媒寿命を予め見積もっておき、次回の触媒交換時期を計画し、それまでの期間は触媒の活性が必要最低限のレベルまで低下せず、かつ最大限の触媒性能を発揮するように生産計画を立て触媒を有効活用することができる。