(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記測定領域において、前記主表面に対し垂直に波長633nmの光を照射することで測定した1cm当たりのリタデーションの最大値が2nm/cm以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインプリントモールド用ガラス板。
平面視において前記非貫通穴の開口縁よりも内側の部分の23℃における熱膨張率の平均値が、平面視において前記非貫通穴の開口縁よりも外側の部分の23℃における熱膨張率の平均値よりも大きい、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインプリントモールド用ガラス板。
前記測定領域において、前記主表面に対し垂直に波長633nmの光を照射することで測定した1cm当たりのリタデーションの最大値が2nm/cm以上である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のインプリントモールド用ガラス板の製造方法。
平面視において前記非貫通穴の開口縁よりも内側の部分の23℃における熱膨張率の平均値が、平面視において前記非貫通穴の開口縁よりも外側の部分の23℃における熱膨張率の平均値よりも大きい、請求項7〜10のいずれか1項に記載のインプリントモールド用ガラス板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において、同一の又は対応する構成には、同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。本明細書において、インプリントモールドを単にモールドとも呼ぶ。また、本明細書において、平面視とは、主表面に対し垂直な方向から見たことを意味する。
【0019】
図1は、一実施形態によるガラス板を用いて作製されるモールドの平面図である。
図2は、
図1のII−II線に沿ったモールドの断面図である。
図3は、
図2に示すモールドの変形状態の断面図である。
図4は、
図3に示すモールドの変形解除状態の断面図である。
【0020】
モールド10は、
図4に示すように基板15との間に転写材17を挟み、モールド10の凹凸パターンを転写材17に転写する。転写材17の凹凸パターンは、モールド10の凹凸パターンが略反転したものとなる。
【0021】
モールド10は、例えばガラスで形成される。ガラスは、SiO
2を90質量%以上含む石英ガラスが好ましい。石英ガラスに占めるSiO
2含有量の上限値は、100質量%である。
【0022】
石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、紫外線の透過率が高い。また、石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、熱膨張率が小さく、温度変化による凹凸パターンの寸法変化が小さい。
【0023】
石英ガラスは、SiO
2の他に、TiO
2含んでよい。TiO
2含有量が多いほど、ガラス表面のOH基の密度が大きく、ガラス表面と転写材17との親和性が高い。よって、モールド10と基板15との間に巻き込まれた気泡の消失時間が短縮できる。
【0024】
石英ガラスは、SiO
2を90〜95質量%、TiO
2を5〜10質量%含んでよい。TiO
2含有量が5〜10質量%であると、室温付近での熱膨張率が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。
【0025】
石英ガラスは、SiO
2およびTiO
2以外の微量成分を含んでもよいが、微量成分を含まないことが好ましい。
【0026】
モールド10は、
図2に示すように、第1主表面11と、第2主表面12とを有する。外力が作用していない自然状態で、第1主表面11と第2主表面12とは略平行とされる。
【0027】
第1主表面11の中央部には、周囲を段差で取り囲まれ周囲よりも突出するメサ(mesa)と呼ばれる突出面13が形成されている。平面視において、突出面13の形状は、例えば
図1に示すように矩形である。突出面13には、転写材17に転写する凹凸パターンが形成されている。尚、平面視において、突出面13の形状は、円形、楕円形、五角形以上の多角形などでもよい。
【0028】
一方、第2主表面12の中央部には、非貫通穴14が形成されている。非貫通穴14の形状は、例えば
図1および
図2に示すように円柱である。尚、非貫通穴14の形状は、円錐台、角柱、角錐台などでもよい。
【0029】
図1に示すように、平面視において、非貫通穴14の開口縁14aの内側に、突出面13が配される。また、平面視において、突出面13の中心および非貫通穴14の中心は、モールド10の中心と一致している。
【0030】
図2に示すように、モールド10の非貫通穴14が形成される部分は、その周辺部分に比べ薄いため、外力によって曲げ変形し易い。よって、
図3に示すように、非貫通穴14の中心線を中心に、突出面13を基板15に向けて凸に曲げ変形させることが可能である。この曲げ変形は、例えば、モールド10の外周面や非貫通穴14の内底面を押圧することにより実施される。非貫通穴14の内底面は、非貫通穴14内に形成されるガス室の気圧で押圧されてよい。
【0031】
次に、
図3〜
図4を再度参照して、上記構成のモールド10を用いたインプリント法について説明する。
【0032】
図3に示すようにモールド10の突出面13を基板15に向けて凸に曲げ変形させた状態で、モールド10と基板15とを接近させ、基板15に予め塗布された液状の転写材17に対しモールド10の突出面13を接触させる。
【0033】
その後、転写材17の固化前に、突出面13を
図3に示す変形状態から
図4に示す変形解除状態に戻す。これにより、突出面13は、その中央部から外周部に向けて徐々に転写材17と接触する。モールド10と基板15との間の気体が逃げやすく、気体の閉じ込めが抑制できる。
【0034】
転写材17の固化後、転写材17とモールド10とが分離される。転写材17を固化してなる凹凸層と基板15とで構成される製品が得られる。製品の凹凸パターンは、モールド10の凹凸パターンが略反転したものである。
【0035】
図5は、一実施形態によるインプリントモールド用ガラス板の製造方法のフローチャートである。
図6は、
図5の非貫通穴形成工程のフローチャートである。
図7は、
図5の非貫通穴形成工程の完了後のガラス板の断面図である。
図8は、
図5の突出面形成工程の完了後のガラス板の断面図である。
図8において、二点鎖線は突出面形成工程の開始前のガラス板の状態を示す。
【0036】
インプリントモールド用ガラス板の製造方法は、
図5に示すように、非貫通穴形成工程S11と、突出面形成工程S12とを有する。尚、
図5では、非貫通穴形成工程S11の後に突出面形成工程S12が行われるが、その順序は逆でもよく、突出面形成工程S12の後に非貫通穴形成工程S11が行われてもよい。また、非貫通穴形成工程S11の途中で、突出面形成工程S12が行われてもよい。
【0037】
非貫通穴形成工程S11は、
図7に示すようにガラス板20の第2主表面22の中央部に非貫通穴24を形成する。非貫通穴形成工程S11は、
図6に示すように、研削工程S13と、内側面研磨工程S14と、内底面研磨工程S15とを有する。尚、
図6では、内側面研磨工程S14の後に内底面研磨工程S15が行われるが、その順序は逆でもよく、内底面研磨工程S15の後に内側面研磨工程S14が行われてもよい。また、内側面研磨工程S14と内底面研磨工程S15とが同時に行われてもよい。
【0038】
研削工程S13は、第2主表面22を研削する。内側面研磨工程S14は、研削工程S13によって得られる非貫通穴24の内側面を研磨する。内底面研磨工程S15は、研削工程S13によって得られる非貫通穴24の内底面を研磨する。
【0039】
突出面形成工程S12は、
図8に示すようにガラス板20の第1主表面21の外周部を掘り下げることで、第1主表面21の中央部に周囲を段差で取り囲まれ周囲よりも突出したメサと呼ばれる突出面23を形成する。第1主表面21の外周部を掘り下げる方法としては、エッチングなどが用いられる。エッチングは、ドライエッチング、ウェットエッチングのいずれでもよい。
【0040】
突出面形成工程S12の後、第1主表面21は、突出面23と、突出面23との間に段差を有する周辺面とを含む。周辺面は、突出面23に対し平行とされる。
【0041】
上記製造方法により得られるガラス板20は、突出面23に凹凸パターンを形成することで、モールド10として用いられる。突出面23に凹凸パターンを形成する方法としては、例えばエッチング法などが用いられる。エッチングのマスクパターンは、インプリント法、フォトリソグラフィ法のいずれによって作製されてもよい。
【0042】
尚、本実施形態では、第1主表面21に段差を形成し突出面23を形成するが、第1主表面21に段差を形成しなくてもよい。段差のない第1主表面21の中央部に凹凸パターンが形成されてもよい。
【0043】
図9は、一実施形態によるガラス板の非貫通穴形成前の状態を示す断面図である。
図9において、矢印はガラス板に残留する応力の向きを示す。また、
図9において、便宜上、ハッチングを省略する。
図10は、一実施形態によるガラス板の非貫通穴形成後の自然状態を示す断面図である。
図11は、一実施形態によるガラス板の非貫通穴形成後のチャックによる拘束状態を示す断面図である。
図10および
図11において、ガラス板の撓みを誇張して示す。
【0044】
本実施形態では、
図9に示すように、ガラス板20の中心線CLに直交する方向に、引張応力が残留しているガラス板20を用いる。中心線CLは、ガラス板20の板厚方向に対し平行とされる。
図9に示すガラス板20は、平坦な第1主表面21と、同じく平坦な第2主表面22とを有する。
【0045】
図10に示すように、第2主表面22の中央部に非貫通穴24を形成すると、外力のない自然状態で、第2主表面22が第1主表面21とは反対側に凸(
図10において上に凸)になる。これは、第2主表面22の外周部の外方への変位を制限していた第2主表面22の中央部が、非貫通穴24の形成によって消滅するためである。
【0046】
図11に示すように、第1主表面21を下に向け、第2主表面22を上に向けた状態で、上方のチャック30にガラス板20を保持させると、第2主表面22がチャック30の保持面31に倣って変形する。その結果、第1主表面21は、第2主表面22とは反対側に凸(
図11において下に凸)に変形し、中心線CLに直交する方向に引き伸ばされる。よって、第1主表面21に形成される凹凸パターンを拡大できる。
【0047】
拡大された凹凸パターンは、ガラス板20の外周面を挟圧することで縮小することができる。よって、凹凸パターンの矯正が可能であり、凹凸パターンの矯正に適したガラス板20が得られる。
【0048】
尚、第2主表面22が完全な平坦面であれば、凹凸パターンの矯正が不要であるが、完全な平坦面の作製は困難である。
【0049】
ガラス板20板の作製には、ガラス板20の応力分布と、非貫通穴24の形成とを利用する。よって、ガラス板20の作製に曲面加工を利用する場合に比べて、加工精度の緩和が可能である。
【0050】
ところで、ガラス板20の応力分布は、非貫通穴24の形成の前後で、同じ傾向を示す。そのため、非貫通穴24の形成後のガラス板20の応力分布を調べることで、非貫通穴24の形成前のガラス板20の応力分布の傾向がわかる。
【0051】
ガラス板20の応力分布は、市販の複屈折測定装置によって確認できる。ガラス板20に残留する応力によって、複屈折が生じるためである。複屈折は、応力の異方性によって生じる。
【0052】
複屈折測定装置は、ガラス板20の主表面に対し垂直に光を照射し、直交する2つの直線偏波の位相差を検出することにより、進相軸とリタデーションとを測定する。測定に用いる光の波長は、例えば633nmである。光源としては例えばHe−Neレーザが、測定法としては例えば光ヘテロダイン干渉法が用いられる。
【0053】
進相軸とは、光の進む速さが最も速い軸であり、屈折率が最も小さい軸である。一方、遅相軸は、光の進む速さが最も遅い軸であり、屈折率が最も大きい軸である。通常、進相軸と遅相軸とは直交する。リタデーションは、進相軸と遅相軸との光路差(nm)である。リタデーション(nm)をガラス板20の板厚(cm)で割ることで、1cm当たりのリタデーションを算出できる。
【0054】
図12は、一実施形態によるガラス板の複屈折の測定部位に作用する応力と、進相軸との関係の一例を示す図である。
図12に示すように、ガラス板20の複屈折の測定部位20Sに対し、縦方向には引張応力が作用し、横方向には圧縮応力が作用していることがある。この場合、進相軸FAは、圧縮応力に対し平行となり、引張応力に対し垂直となる。応力の異方性はリタデーションによって表され、応力の異方性が大きいほどリタデーションが大きい。
【0055】
図13は、一実施形態によるガラス板の複屈折の測定点と、進相軸との関係の一例を示す図である。複屈折の測定点SPにおける進相軸FAと、測定点SPと第2主表面22の中心点CPとを結ぶ直線SLとのなす角θが45°よりも大きい場合、測定点SPにおいて、
図9に示すようにガラス板20の中心線CLに直交する方向に引張応力が残留していると推定できる。
【0056】
ここで、なす角θは、進相軸FAが直線SLに対し平行な場合を0°、進相軸FAが直線SLに対し垂直な場合を90°とする。なす角θは、測定点SPを中心とする直線SLに対する進相軸FAの回転の大きさを表し、回転の方向を表さない。よって、なす角θの最小値は0°、なす角θの最大値は90°である。回転の方向に関係なく、なす角θが45°よりも大きければ、
図9に示すようにガラス板20の中心線CLに直交する方向に引張応力が残留していると推定できる。尚、上記なす角θの測定値は、測定に用いる光の波長には略依存しない。
【0057】
非貫通穴24の形成後に、ガラス板20の測定領域SAにおいて、上記なす角θの平均値θ
aveが45°よりも大きく90°以下である。測定領域SAは、非貫通穴24を形成する第2主表面22の外周縁22aから5mm以上内側、且つ、非貫通穴24の開口縁24aから5mm以上外側の領域である。非貫通穴24およびその近傍は、加工歪の影響を受けやすいので、測定領域SAから除く。また、第2主表面22の外周縁22a近傍も同様に加工歪の影響を受けやすいので、測定領域SAから除く。平均値θ
aveを採用するのは、上記なす角θが45°よりも小さい測定点が少数存在しても、上記なす角θが45°よりも大きい測定点が多数存在すれば、後述の効果が得られるからである。
【0058】
非貫通穴24の形成後に、測定領域SAにおいて上記なす角θの平均値θ
aveが45°よりも大きく90°以下であれば、外力のない自然状態で、
図10に示すように第2主表面22を第1主表面21とは反対側に凸にできる。よって、凹凸パターンの矯正に適したガラス板20が得られる。非貫通穴24の形成後に、測定領域SAにおいて上記なす角θの平均値θ
aveは、好ましくは50°以上、より好ましくは60°以上である。
【0059】
同様に、非貫通穴24の形成前に、測定領域SAにおいて上記なす角θの平均値θ
aveは、例えば45°よりも大きく90°以下である。非貫通穴24の形成前に、測定領域SAにおいて上記なす角θの平均値θ
aveは、好ましくは50°以上、より好ましくは60°以上である。
【0060】
非貫通穴24の形成後に、測定領域SAにおいて1cm当たりのリタデーションReの最大値Re
maxは、例えば2nm以上である。この場合、ガラス板20に残留する応力が十分に大きい。非貫通穴24の形成後に、測定領域SAにおいて1cm当たりのリタデーションReの最大値Re
maxは、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上である。また、非貫通穴24の形成後に、測定領域SAにおいて1cm当たりのリタデーションReの最大値Re
maxは、好ましくは15nm以下である。
【0061】
同様に、非貫通穴24の形成前に、測定領域SAにおいて1cm当たりのリタデーションReの最大値Re
maxは、例えば2nm以上、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上である。また、非貫通穴24の形成前に、測定領域SAにおいて1cm当たりのリタデーションReの最大値Re
maxは、好ましくは15nm以下である。
【0062】
図9に示す応力分布は、例えば
図14に示す熱膨張率分布によって実現できる。
図14は、一実施形態によるガラス板の熱膨張率分布を示す図である。
図14において、縦軸は熱膨張率、横軸は中心線CL(
図9等参照)からの距離を表す。
図14では、ガラス板20の中心線CLからの距離が近い位置ほど、熱膨張率が大きい。
【0063】
ガラス板20はガラスの歪点よりも高温で成形されるため、成形時には応力が生じていない。成形後、室温までの冷却過程で、
図9に示す応力分布が生じる。ガラス板20の中心線CLからの距離が近い位置ほど、熱膨張率が大きく、冷却収縮が大きいためである。
【0064】
そこで、平面視において非貫通穴24の開口縁24aよりも内側の部分(以下、単に「内側部分」とも呼ぶ)における熱膨張率の平均値が、平面視において非貫通穴24の開口縁24aよりも外側の部分(以下、単に「外側部分」とも呼ぶ)における熱膨張率の平均値よりも大きくてもよい。熱膨張率は、23℃における熱膨張率で代表する。ここで、平均値を採用するのは、熱膨張率の大小関係が局所的に逆転していても、平均的に逆転していなければ、後述の効果が得られるからである。熱膨張率はガラス組成から換算できるので、熱膨張率の代わりにガラス組成を測定してもよい。熱膨張率は、非貫通穴24の形成の前後で当然に変化しない。
【0065】
内側部分における熱膨張率の平均値が、外側部分における熱膨張率の平均値よりも大きければ、外力のない自然状態で、
図10に示すように第2主表面22を第1主表面21とは反対側に凸にできる。よって、凹凸パターンの矯正に適したガラス板20が得られる。内側部分における熱膨張率の平均値は、外側部分における熱膨張率の平均値よりも0.01ppb/℃以上大きいことが好ましく、0.05ppb/℃以上大きいことがより好ましい。また、内側部分における熱膨張率の平均値と、外側部分における熱膨張率の平均値との差の大きさは、10ppb/℃以下であることが好ましい。
【0066】
図14に示す熱膨張率分布は、例えば
図15に示すTiO
2濃度分布によって実現できる。
図15は、一実施形態によるガラス板のTiO
2濃度分布を示す図である。
図15において、縦軸はTiO
2濃度、横軸は中心線CL(
図9等参照)からの距離を表す。
【0067】
TiO
2を含有する石英ガラスは、例えばVAD(Vapor-phase Axial Depositon)法によって作製される。VAD法は、回転する石英棒の下方から珪素塩化物やチタン塩化物を酸素ガスや水素ガスと一緒に吹き付け、ガスバーナの火炎によって加水分解反応を生じさせることで、石英棒の下方に多孔質プリフォームを形成する方法である。多孔質プリフォームは、石英棒と共に引き上げられ、焼成炉で透明ガラス化された後、金型で成形される。VAD法では、珪素塩化物の濃度やチタン塩化物の濃度を制御することにより、TiO
2濃度分布を制御できる。尚、TiO
2を含有する石英ガラスの製法は、VAD法に限定されず、例えば直接法、プラズマ法などでもよい。
【0068】
図15では、ガラス板20の中心線CLからの距離が近い位置ほど、TiO
2濃度が小さく、その分、SiO
2濃度が大きい。
図15に示すTiO
2濃度分布の場合、
図14に示す熱膨張率分布が得られ、その結果、
図9に示す応力分布が得られる。
【0069】
そこで、内側部分におけるTiO
2濃度の平均値が、外側部分におけるTiO
2濃度の平均値よりも小さくてもよい。ここで、平均値を採用するのは、TiO
2濃度の大小関係が局所的に逆転していても、平均的に逆転していなければ、後述の効果が得られるからである。TiO
2濃度は、非貫通穴24の形成の前後で当然に変化しない。
【0070】
内側部分におけるTiO
2濃度の平均値が、外側部分におけるTiO
2濃度の平均値よりも小さければ、外力のない自然状態で、
図10に示すように第2主表面22を第1主表面21とは反対側に凸にできる。よって、凹凸パターンの矯正に適したガラス板20が得られる。内側部分におけるTiO
2濃度の平均値は、外側部分におけるTiO
2濃度の平均値よりも0.005質量%以上小さいことが好ましく、0.01質量%以上小さいことがより好ましい。また、内側部分におけるTiO
2濃度の平均値と、外側部分におけるTiO
2濃度の平均値との差の大きさは、0.5質量%以下であることが好ましい。
【0071】
尚、TiO
2以外の成分の濃度分布によっても、
図14に示すガラス板の熱膨張率分布は実現できる。この場合、ガラス板20の中心線CLからの距離が近い位置ほど、所望の成分濃度が大きくてもよいし、所望の成分濃度が小さくてもよい。
【0072】
また、
図9に示す応力分布は、例えば
図16に示すOH基濃度分布によっても実現できる。
図16は、一実施形態によるガラス板のOH基濃度分布を示す図である。
図16において、縦軸はOH基濃度、横軸は中心線CL(
図9等参照)からの距離を表す。
【0073】
OH基を含有する石英ガラスは、例えばVAD法によって作製される。VAD法では、多孔質プリフォームを透明ガラス化させる際に、その雰囲気や温度、時間などを制御することで、OH基濃度分布を制御できる。OH基は、石英ガラスからの脱水によって減少する。
【0074】
図16では、ガラス板20の中心線CLからの距離が近い位置ほど、OH基濃度が大きい。本発明者の知見によれば、
図16に示すOH基濃度分布の場合、
図9に示す応力分布が得られる。
【0075】
そこで、内側部分におけるOH基濃度の平均値が、外側部分におけるOH基濃度の平均値よりも大きくてもよい。ここで、平均値を採用するのは、OH基濃度の大小関係が局所的に逆転していても、平均的に逆転していなければ、後述の効果が得られるからである。OH基濃度は、非貫通穴24の形成の前後で略変化しない。
【0076】
内側部分におけるOH基濃度の平均値が、外側部分におけるOH基濃度の平均値よりも大きければ、外力のない自然状態で、
図10に示すように第2主表面22を第1主表面21とは反対側に凸にできる。よって、凹凸パターンの矯正に適したガラス板20が得られる。内側部分におけるOH基濃度の平均値は、外側部分におけるOH基濃度の平均値よりも5質量ppm以上大きいことが好ましく、10質量ppm以上大きいことがより好ましい。また、内側部分におけるOH基濃度の平均値と、外側部分におけるOH基濃度の平均値との差の大きさは、500質量ppm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0077】
試験例1〜5では、VAD法により作製された石英ガラス板を用意し、その第1主表面および第2主表面の両方を平坦に研磨した後、第2主表面の中央部に円柱状の非貫通穴を形成し、続いて、外力のない自然状態での第2主表面の形状などを確認した。石英ガラス板の大きさは縦152mm、横152mm、厚さ6.35mmとし、非貫通穴の大きさは直径64mm、深さ5.25mmとした。尚、便宜上、ガラス板の第1主表面の中央部には、突出面や凹凸パターンを形成しなかった。突出面や凹凸パターンの形成の有無によって、結果の傾向は変わらない。
【0078】
試験例1、3〜5では、石英ガラス板のTiO
2濃度を制御することにより、石英ガラス板の応力場を制御した。試験例1、3〜5では、石英ガラス板におけるOH基濃度は均一とした。一方、試験例2では、石英ガラス板のOH基濃度を制御することにより、石英ガラス板の応力場を制御した。試験例2では、石英ガラス板におけるTiO
2濃度は略ゼロで均一であった。試験例1〜3が実施例、試験例4〜5が比較例である。
【0079】
測定領域SAにおける直線SLと進相軸FAとのなす角θ、および測定領域SAにおける1cm当たりのリタデーションReは、ユニオプト社製の複屈折測定装置(商品名ABR10A)により測定した。これらの測定は、縦方向および横方向にそれぞれ10mmピッチで行った。これらの測定結果に基づき、主表面の外周縁から5mm以上内側、且つ、非貫通穴の開口縁から5mm以上外側の領域において、なす角θの平均値θ
aveと、1cm当たりのリタデーションReの最大値Re
maxとを算出した。これらの算出は、非貫通穴の形成後だけではなく、非貫通穴の形成前にも行った。
【0080】
TiO
2濃度C(質量%)は、蛍光X線元素分析装置によって測定した。TiO
2濃度Cの測定は、平面視でガラス板を14×14の区画に均等に区切り、区画毎に行った。そうして、内側部分におけるTiO
2濃度Cの平均値C1
aveと、外側部分におけるTiO
2濃度Cの平均値C2
aveとを算出し、その差ΔC(ΔC=C1
ave−C2
ave)を算出した。
【0081】
196個の区画のうち内側部分と外側部分の境界線に重なる区画は、区画の中心が内側部分に存在する場合は内側部分の区画として扱い、区画の中心が外側部分に存在する場合は外側部分の区画として扱う。区画の中心が境界線上に存在する場合、その区画の数値はΔCの算出には用いない。
【0082】
23℃における熱膨張率CTE(ppb/℃)は、特許5742833号公報に記載の下記式(1)を用いて、TiO
2濃度Cから換算した。
【0083】
【数1】
上記式(1)を用いた熱膨張率CTEの算出は、TiO
2濃度Cの測定と同様に、平面視でガラス板を14×14の区画に均等に区切り、区画毎に行った。そうして、内側部分における熱膨張率の平均値CTE1
aveと、外側部分における熱膨張率の平均値CTE2
aveとを算出し、その差ΔCTE(ΔCTE=CTE1
ave−CTE2
ave)を算出した。
【0084】
非貫通穴の形成後、外力のない自然状態での第2主表面の形状は、Corning Tropel社製のFM200を用いて測定した。以下、第2主表面が第1主表面とは反対側に凸に湾曲している場合を単に「凸」、第2主表面が第1主表面とは反対側に凹に湾曲している場合を単に「凹」と表現する。
【0085】
試験結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
表1から明らかなように、試験例1〜3では、非貫通穴の形成後の測定領域SAにおいて上記なす角θの平均値θ
aveが45°よりも大きく90°以下であるため、自然状態で第2主表面が凸になっており、第1主表面に形成される凹凸パターンの矯正に適したガラス板が得られた。一方、試験例4〜5では、非貫通穴の形成後の測定領域SAにおいて上記なす角θの平均値θ
aveが45°よりも小さいため、自然状態で第2主表面が凹になってしまった。
【0087】
以上、インプリントモールド用ガラス板の実施形態などについて説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、改良が可能である。
【0088】
OH基濃度は、例えばフーリエ変換赤外分光計によって測定できる。OH基濃度の平均値は、TiO
2濃度の平均値や熱膨張率の平均値と同様にして算出する。