(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルムの上に配線パターンが形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。フレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面または両面に金属膜を成膜した金属膜付樹脂フィルムに対して、フォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術によりパターニング処理を施すことによって得られる。近年、フレキシブル配線基板の配線パターンは、ますます微細化、高密度化する傾向にあり、これにともなって夾雑物を含まない高品質な金属膜付樹脂フィルムが求められている。
【0003】
金属膜付樹脂フィルムの製造方法として、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付ける方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後に乾燥させる方法(キャスティング法)、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法単独で、または真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜する方法(メタライジング法)等が知られている。
【0004】
上記製造方法のうち、メタライジング法で利用される真空成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等が挙げられる。例えば、特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングしてクロム層を成膜した後、銅をスパッタリングして銅からなる導体層を形成する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、長尺樹脂フィルムに連続的に成膜するスパッタリング装置が開示されている。このスパッタリング装置には、ロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムを巻き付けて冷却するクーリングローラ(キャンロールとも称される。)が備えられている。このようなスパッタリング装置を用いれば、連続的なメタライジング法による処理で金属膜付樹脂フィルムを製造することができる。
【0006】
ところで、上記のスパッタリング装置は、スパッタリングカソードに取り付けたターゲットにイオンをぶつけ、ターゲットを構成する粒子を叩き出して、その粒子(スパッタ粒子)を被成膜基材の表面に堆積させるものである。一部のスパッタ粒子は被成膜基材に向かわずに、それ以外の場所、例えばキャンロール自体に飛散してそこに付着する。これが剥離して製品である金属膜付樹脂フィルムを汚染するという問題がある。
【0007】
これに対して、特許文献3には、キャンロール等の支持体に被覆シートを貼り付けて、被成膜基材から外れて飛散したスパッタ粒子を、支持体に代えて被覆シートに付着させることが開示されている。成膜物質が付着した被覆シートを交換することで、製品の汚染を防止することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献3の技術では、被覆シートの上に薄いフィルム状の基材が重ねられるため、被覆シートにシワが生じていると基材にもシワが生じ、成膜物質が不均一となる等、成膜品に悪影響を及ぼすという問題がある。しかも、円筒形のキャンロールの外周面に被覆シートをシワなく貼り付けることは現実的には困難であり、被覆シートの張り替えのたびに作業員は注意深い作業が要求され、多大な労力がかかる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、スパッタ粒子による汚染を防止でき、かつ、成膜品への悪影響を低減できるキャンロール、およびスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明のキャンロールは、スパッタリング法により帯状の被成膜基材に成膜するスパッタリング装置に設けられるキャンロールであって、キャンロール本体と、前記キャンロール本体の外周面であって、前記被成膜基材からはみ出る露出部分に巻回された養生帯と、を備え、前記養生帯は前記キャンロール本体の軸方向に分割された複数の帯からなり、前記複数の帯のうち前記被成膜基材側に配置される基材側帯は、その上に前記被成膜基材の縁が重なる位置に巻回されており、
前記基材側帯は樹脂フィルムであり、前記キャンロール本体の端寄りの縁がテープで前記キャンロール本体に貼り付けられており、前記基材側帯の厚さは、10μm以上であり、前記被成膜基材の厚さの1.4倍以下であることを特徴とする。
第2発明のキャンロールは、第1発明において、前記基材側帯と前記被成膜基材との重ね幅は、5mm以上15mm以下であることを特徴とする。
第3発明のキャンロールは、第1または第2発明において、前記基材側帯の幅寸法は、60mm以下であることを特徴とする。
第4発明のキャンロールは、第1、第2または第3発明において、前記基材側帯は、前記キャンロール本体の外周面に直接巻回されていることを特徴とする。
第5発明のキャンロールは、第1、第2、第3または第4発明において、前記複数の帯のうち前記基材側帯に隣接する端側帯は、その縁が前記基材側帯の上に重ねられていることを特徴とする。
第6発明のキャンロールは、第1、第2、第3、第4または第5発明において、前記基材側帯は、伸縮性を有することを特徴とする。
第7発明のキャンロールは、第1、第2、第3、第4、第5または第6発明において、前記基材側帯は、前記被成膜基材と同一素材で形成されていることを特徴とする。
第8発明のスパッタリング装置は、第1、第2、第3、第4、第5、第6または第7発明のキャンロールを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、基材側帯の厚さが10μm以上であるので、基材側帯をキャンロール本体に取り付ける際に基材側帯を引っ張っても、基材側帯が破断する恐れがない。基材側帯の厚さが被成膜基材の厚さの1.4倍以下であるので、被成膜基材の熱が基材側帯を介して十分に放熱され、熱膨張により成膜品の縁部にシワが生じることを抑制できる。
第2発明によれば、基材側帯と被成膜基材との重ね幅が5mm以上であるので、被成膜基材の搬送の振れによりキャンロール本体の外周面が露出することを防止できる。また、基材側帯と被成膜基材との重ね幅が15mm以下であるので、基材側帯と被成膜基材の縁との重なりが少なく、成膜品の縁部にシワが生じることを抑制できる。
第3発明によれば、基材側帯が十分に幅狭であるので、取り付け作業において基材側帯の端部を手で持って引き伸ばす際に、均等に力を加えることができる。そのため、基材側帯をキャンロール本体の外周面にシワが生じることなく密着させて巻き付けることが容易である。
第4発明によれば、基材側帯がキャンロール本体に直接巻回されるため、スパッタリング装置の運転中に基材側帯がズレにくく、成膜品への悪影響を低減できる。また、基材側帯とキャンロール本体との間に他の帯が挟まらないので、基材側帯は平坦な状態であり、シワが生じにくい。
第5発明によれば、基材側帯とキャンロール本体との間に他の帯が挟まらないので、基材側帯は平坦な状態であり、シワが生じにくい。
第6発明によれば、前記基材側帯は伸縮性を有するので、長尺方向に引き伸ばすことができる。取り付け作業において基材側帯の端部を引っ張り、長尺方向に引き伸ばすようにして巻き付けることで、基材側帯をキャンロール本体の外周面にシワなく密着させることができる。
第7発明によれば、基材側帯と被成膜基材とは同一素材であるので、熱膨張率が同じであり、成膜品への悪影響を低減できる。
第8発明によれば、キャンロール本体の露出部分に養生帯が巻回されているので、スパッタ粒子がキャンロール本体に付着することを防止でき、メンテナンス作業が容易である。また、養生帯は複数の帯からなるので、基材側帯を幅狭とすることができる。そのため、被成膜基材と重なる基材側帯をキャンロール本体の外周面にシワが生じることなく巻き付けることが容易であり、成膜品への悪影響を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
<スパッタリング装置>
図4に示すように、本発明の一実施形態に係るスパッタリング装置Aは、ロールツーロール方式で連続的に帯状の被成膜基材fを搬送しつつ、スパッタリング法により被成膜基材fに成膜して成膜品mfを製造する装置であり、スパッタリングウェブコータとも称される。
【0015】
スパッタリング装置Aは、真空チャンバー10内において、巻出ロール41から巻取ロール48に向かって搬送される被成膜基材fを、キャンロールCに巻きつけて冷却しながらスパッタリング処理を施す。キャンロールCは、スパッタリング処理により熱せられる被成膜基材fを冷却するため、内部に冷媒が循環している。本実施形態は、このキャンロールCに特徴を有するので後に詳説する。
【0016】
被成膜基材fとして長尺樹脂フィルムを用い、長尺樹脂フィルム上に導電膜を成膜することで成膜品mfとして導電膜付樹脂フィルムを連続的に製造することができる。導電膜付樹脂フィルムとは、樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に導電膜が積層されたものである。導電膜には、銅薄膜等の金属膜のほか、合金膜、ITO(錫添加インジウム酸化物)膜やATO(錫添加アンチモン酸化物)膜等の導電性酸化物膜も含まれる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムのほか、ポリイミドフィルム等の耐熱性樹脂フィルムを用いることができる。特に、金属膜付樹脂フィルムに用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等が好ましい。
【0017】
真空チャンバー10には、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が備えられている。真空チャンバー10内を1×10
-4Pa程度まで減圧した後、アルゴンガスや目的に応じて添加される酸素ガス等のスパッタリングガスを導入して0.1〜10Pa程度まで圧力調整される。真空チャンバー10の形状や素材は、上記減圧状態に耐え得るものであれば特に限定されない。
【0018】
真空チャンバー10内には、上記巻出ロール41、巻取ロール48、およびキャンロールCのほか、被成膜基材fの搬送経路を画定する各種のロールが設けられている。すなわち、真空チャンバー10内には、フリーロール42、47、張力センサロール43、46、フィードロール44、45が設けられており、被成膜基材fはこれらのロールに巻回されている。
【0019】
巻出ロール41からキャンロールCまでの搬送経路には、フリーロール42、張力センサロール43、フィードロール44が設けられている。巻出ロール41から巻き出された被成膜基材fは、フリーロール42により案内され、張力センサロール43により張力が測定され、フィードロール44によりキャンロールCに導入される。
【0020】
また、キャンロールCから巻取ロール48からまでの搬送経路には、フィードロール45、張力センサロール46、フリーロール47が設けられている。キャンロールC上でスパッタリング処理が施された成膜品mfは、フィードロール45により送り出され、張力センサロール46により張力が測定され、フリーロール47により案内されて、巻取ロール48に巻き取られる。
【0021】
キャンロールCはモータ駆動により回転する。このキャンロールCの周速度に対して、フィードロール44、45の回転数が調整されており、これによりキャンロールCの外周面に被成膜基材fを密着させて搬送することができる。また、巻出ロール41および巻取ロール48は、パウダークラッチ等によりトルク制御が行われており、被成膜基材fの張力バランスが保たれている。
【0022】
キャンロールCの外周面に対向する位置には、被成膜基材fの搬送経路に沿って4つのスパッタリングカソード51〜54が設けられている。各スパッタリングカソード51〜54には、キャンロールCの外周面に対向する面にターゲットが取り付けられており、ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子が被成膜基材fの表面上に堆積して導電膜が成膜される。
【0023】
例えば、搬送経路上流側のスパッタリングカソード51にニッケル系合金のターゲットを取り付け、下流側のスパッタリングカソード52〜54に銅のターゲットを取り付けることで、被成膜基材fである長尺樹脂フィルムの表面にニッケル合金からなる下地金属層と、銅薄膜層とが積層された銅薄膜付樹脂フィルムmfを製造することができる。なお、下地金属層は、ニッケル合金のほか、クロム、ニッケルクロム合金、コンスタンタン、モネル等の金属や合金を用いることができる。その組成は金属膜付樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の要求される特性に応じて選択される。
【0024】
上記のスパッタリング装置Aを用いて、被成膜基材fに導電膜を成膜することで、成膜品mfを製造することができる。なお、金属膜付樹脂フィルムの場合、金属膜をさらに厚くするには、金属膜付樹脂フィルムに湿式めっき処理を施して金属膜をさらに積層すればよい。湿式めっき処理を行う場合には、電気めっき処理のみで金属膜を形成してもよいし、無電解めっき処理と電解めっき処理と併用して金属膜を形成してもよい。また、金属膜付樹脂フィルムに対して、サブトラクティブ法やセミアディティブ法等によりパターンニング(配線加工)することによって、液晶テレビ、携帯電話等に使用されるフレキシブル配線基板が得られる。
【0025】
ここで、金属膜付樹脂フィルムにパターニングする方法のうち、サブトラクティブ法とは、金属膜付樹脂フィルムにレジストを塗布し、露光して配線パターンを形成し、レジストの開口部にあたる金属膜をエッチングにより除去し、レジストに覆われた部分を配線とする方法である。一方セミアディティブ法とは、金属膜付樹脂フィルムにレジストを塗布し、露光して配線パターンを形成し、湿式電気めっき処理によりレジストの開口部にあたる金属膜を厚肉化して配線部とし、レジスト除去後に配線部以外の金属膜をエッチングで除去して配線を形成する方法である。サブトラクティブ法で加工される金属膜付樹脂フィルムは、セミアディティブ法で加工される金属膜付樹脂フィルムよりも、金属膜が厚く設定される。
【0026】
<キャンロール>
つぎに、本実施形態の特徴部分であるキャンロールCを説明する。
図1に示すように、キャンロールCは、キャンロール本体1と、キャンロール本体1の外周面に巻回された養生帯2とを備える。キャンロール本体1は、円柱状のロールであり、内部に冷媒が循環している。キャンロール本体1の素材は特に限定されないが、例えばステンレス鋼で形成されており、表面は硬質クロムめっきが施されている。
【0027】
キャンロール本体1の略中央部分には長尺樹脂フィルム等の被成膜基材fが巻回される。キャンロール本体1の幅寸法は被成膜基材fの幅寸法より大きく設定されているため、キャンロール本体1の両端部が露出する。この露出部分(被成膜基材fからはみ出る部分)に養生帯2が巻回されており、スパッタ粒子がキャンロール本体1に付着することを防止している。
【0028】
養生帯2はキャンロール本体1の軸方向に分割された複数の帯からなる。本実施形態では、養生帯2は、被成膜基材f側(キャンロール本体1中央側)に配置される基材側帯21と、基材側帯21に隣接し、キャンロール本体1端側に配置される端側帯22との2本の帯からなる。これら基材側帯21および端側帯22は、キャンロール本体1の外周面に巻き付けられ、密着状態で貼り付けられている。
【0029】
養生帯2は2つの帯21、22からなるので、基材側帯21を幅狭とすることができる。基材側帯21の幅寸法は、40mm以上60mm以下とすることが好ましい。後述のごとく、基材側帯21の幅寸法を60mm以下とすれば、十分に幅狭であるので、基材側帯21の取り付け作業が容易となるからである。また、基材側帯21の幅寸法を40mm以上とすれば、基材側帯21と被成膜基材fとの重ね幅および端側帯22との重ね幅を十分に確保できるからである。
【0030】
端側帯22は、基材側帯21とキャンロール本体1の端との間を覆う幅寸法を有することが好ましい。このような寸法の端側帯22であれば、キャンロール本体1の露出部分の全体を覆うことができ、スパッタ粒子がキャンロール本体1に付着することを確実に防止できるからである。
【0031】
基材側帯21は、被成膜基材fの縁が重なる位置に巻回されている。そのため、基材側帯21のキャンロール本体1中央寄りの縁部分には、その上に被成膜基材fの縁が重ねられる。
【0032】
基材側帯21の素材は特に限定されないが、伸縮性を有する素材が好ましく、中でも被成膜基材fと同一素材がより好ましい。基材側帯21として被成膜基材fと同じ樹脂フィルムを用いる場合には、ポリエチレンテレフタレートフィルムのほか、ポリイミドフィルム等の耐熱性樹脂フィルムを用いることができる。耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等が挙げられる。
【0033】
被成膜基材fが重なる基材側帯21の熱膨張率が、被成膜基材fの熱膨張率と異なると成膜品mfに悪影響を及ぼす場合がある。具体的には基材側帯21の熱膨張率の方が小さい場合には、成膜品mfの膨張の妨げとなり、成膜品mfにシワが生じる可能性がある。また、基材側帯21の熱膨張率の方が大きい場合には、成膜品mfの物性に影響を与える可能性がある。しかし、基材側帯21と被成膜基材fとを同一素材とすれば、これらの熱膨張率が同じとなるので、成膜品mfへの悪影響を低減できる。
【0034】
端側帯22は、そのキャンロール本体1中央寄りの縁部分が、端側帯22のキャンロール本体1端寄りの縁部分の上に重なるように、キャンロール本体1の外周面に巻回されている。そのため、基材側帯21はキャンロール本体1との間に他の帯22が挟まることなく、キャンロール本体1の外周面に直接巻回されている。端側帯22のキャンロール本体1中央寄りの縁は、被成膜基材fの縁から、搬送の振れ幅よりも大きく離れた位置とすることが好ましい。すなわち、被成膜基材fの縁が、基材側帯21にのみ重なり、端側帯22には重ならないように設定される。
【0035】
端側帯22の素材は特に限定されないが、基材側帯21と同様に伸縮性を有する素材が好ましく、中でも被成膜基材fと同一素材がより好ましい。なお、基材側帯21と端側帯22とは必ずしも同一素材とする必要はない。端側帯22として安価な素材を用いることで、運転コストを低減できる。
【0036】
ところで、スパッタリング法では、スパッタ粒子が被成膜基材fの表面上に堆積することにより被成膜基材fが加熱される。被成膜基材fの熱はキャンロール本体1を介して放熱される。しかし、被成膜基材fとキャンロール本体1との間に基材側帯21が介在していると、被成膜基材fのうち基材側帯21と重なる部分は放熱しにくくなる。特に、基材側帯21として樹脂フィルムを用いた場合、基材側帯21の熱伝導率はキャンロール本体1の素材であるステンレスの熱伝導率よりも低いため、この影響が顕著となる。
【0037】
被成膜基材fのうち基材側帯21と重なる部分は、その他の部分よりも放熱性が低くなるため、熱膨張によりシワが生じやすい。特に、被成膜基材fの全幅にわたってスパッタリング処理を施す場合には、被成膜基材fの縁までスパッタ粒子により加熱されるため、被成膜基材fの縁にシワが生じやすい。被成膜基材fにシワが生じたまま成膜されると成膜品mfにシワが生じることとなる。
【0038】
しかしながら、キャンロール本体1へのスパッタ粒子の付着を防止するには、基材側帯21と被成膜基材fの縁とが重なる必要がある。そこで、基材側帯21の厚さT
1は、被成膜基材fの熱が十分に放熱できるように、できるだけ薄いことが望ましい。
【0039】
本願発明者は、成膜品mfの縁部のシワの発生は、基材側帯21の放熱性と被成膜基材fの熱膨張とに依存し、基材側帯21の厚さT
1と被成膜基材fの厚さT
2との両方に依存するという知見を得た。被成膜基材fの厚さT
2は成膜品mfの用途に応じで適宜設定されるが、成膜品mfの縁部のシワの発生を抑制できる基材側帯21の厚さT
1は被成膜基材fの厚さT
2に影響される。すなわち、基材側帯21の好ましい厚さT
1は、被成膜基材fの厚さT
2との相対的な関係として決定される。基材側帯21の厚さT
1を被成膜基材fの厚さT
2の1.4倍以下とすれば、被成膜基材fの熱が基材側帯21を介して十分に放熱され、熱膨張により成膜品mfの縁部にシワが生じることを抑制できる。
【0040】
成膜品mfの縁部のシワの発生を抑制するという観点では、基材側帯21は薄いほど好ましい。しかし、後述のごとく、基材側帯21をキャンロール本体1に取り付ける際には、基材側帯21を引っ張りながらキャンロール本体1に巻き付ける。そのため、基材側帯21を薄くしすぎると、取り付けの際に破断する恐れがある。そこで、基材側帯21の厚さT
1は10μm以上とすることが好ましい。この厚さとすれば、基材側帯21をキャンロール本体1に取り付ける際に基材側帯21を引っ張っても、基材側帯21が破断する恐れがない。
【0041】
以上をまとめると、基材側帯21の厚さT
1は、次の式(1)を満足する範囲内とするのが好ましい。すなわち、基材側帯21の厚さT
1は、10μm以上であり、被成膜基材fの厚さT
2の1.4倍以下とすることが好ましい。なお、式(1)を満たすには、被成膜基材fの厚さT
2が7.2μm以上である必要がある。
10μm ≦ T
1 ≦ 1.4×T
2 ・・・(1)
【0042】
また、基材側帯21と被成膜基材fとの重ね幅が小さいほど、被成膜基材fの熱が放熱されるため、シワが生じにくい。そこで、基材側帯21と被成膜基材fとの重ね幅を15mm以下とすることが好ましいく、12mm以下とすることがより好ましい。重ね幅をこのとおりとすれば、基材側帯21と被成膜基材fとの重なりが少なく、成膜品mfの縁部にシワが生じることを抑制できる。
【0043】
成膜品mfの縁部のシワの発生を抑制するという観点では、基材側帯21と被成膜基材fとの重ね幅が小さいほど好ましい。しかし、被成膜基材fの縁の位置は搬送の振れにより変動する。そのため、基材側帯21と被成膜基材fとの重ね幅は、被成膜基材fの搬送の振れ幅よりも大きくすることが好ましい。例えば、重ね幅を5mm以上とすることが好ましく、7mm以上とすることがより好ましい。そうすれば、被成膜基材fの搬送の振れによりキャンロール本体1の外周面が露出することを防止できる。
【0044】
<取り付け作業>
つぎに、養生帯2の取り付け作業を説明する。
図2(A)に示すように、まず、キャンロール本体1の外周面における被成膜基材fの縁が重なる位置に、基材側帯21の一端を貼り付ける。そして、基材側帯21をキャンロール本体1の外周面に少なくとも一周巻回させて、他端を貼り付ける。この際、基材側帯21の他端を手で引っ張りながら巻き付ける。基材側帯21を樹脂フィルム等の伸縮性を有する素材で形成すれば、基材側帯21を長尺方向に引き伸ばすことができる。基材側帯21の端部を手で引っ張り、長尺方向に引き伸ばすようにして巻き付けることで、基材側帯21をキャンロール本体1の外周面にシワなく密着させることができる。
【0045】
基材側帯21は幅狭であるので、基材側帯21をキャンロール本体1の外周面にシワが生じることなく密着させて巻き付けることが容易である。特に、基材側帯21の幅寸法を60mm以下とすれば、十分に幅狭であるので、その端部を手で持って引き伸ばす際に、均等に力を加えることができる。そのため、基材側帯21をキャンロール本体1の外周面にシワが生じることなく密着させて巻き付けることがより容易となる。このように、基材側帯21の巻き付け作業が容易であるので、作業員の技能によらず、基材側帯21をシワなく貼り付けることができる。
【0046】
基材側帯21は、その一部が被成膜基材fに重ねられるので、シワが生じていると被成膜基材fの冷却が不均一となり、成膜された導電膜が不均一となる等、成膜品mfに悪影響を及ぼす。しかし、上記のように基材側帯21をキャンロール本体1の外周面にシワが生じることなく巻き付けることが容易であるので、被成膜基材fを均一に冷却でき、均一な導電膜mを成膜できる。このように、成膜品mfへの悪影響を低減できる。
【0047】
図2(B)に示すように、基材側帯21は、キャンロール本体1端寄りの縁がテープ31でキャンロール本体1に貼り付けられる。テープ31の種類は特に限定されないが、基材側帯21と同一素材のテープ、例えばポリイミドテープを用いることが好ましい。テープ31の貼り付け方は特に限定されないが、例えば、キャンロール本体1の直径が800mmである場合、長さが約50mmのテープ31を複数用意し、それらをキャンロール本体1の周方向に沿って貼り付け、それらの間隔をキャンロール本体1の周方向に150〜200mm間隔とすればよい。
【0048】
つぎに、
図3(C)に示すように、基材側帯21に一部が重なるように、端側帯22の一端を貼り付ける。そして、端側帯22をキャンロール本体1の外周面に少なくとも一周巻回させて、他端を貼り付ける。端側帯22には被成膜基材fが重ならないので、シワが生じていたとしても成膜品mfに悪影響を及ぼさない。そのため、端側帯22はスパッタリング装置Aの運転中に剥離しない程度に貼り付けられていればよい。
【0049】
図3(D)に示すように、端側帯22は、その両縁がテープ32、33で固定される。端側帯22のキャンロール本体1中央寄りの縁がテープ32で基材側帯21に貼り付けられる。また、端側帯22のキャンロール本体1端寄りの縁がテープ33でキャンロール本体1の側面に貼り付けられる。テープ32、33の種類は特に限定されないが、基材側帯21と同一素材のテープ、例えばポリイミドテープを用いることが好ましい。テープ32、33の貼り付け方は特に限定されない。例えば、キャンロール本体1の直径が800mmである場合、長さが約50mmのテープ32を複数用意し、それらをキャンロール本体1の周方向に沿って貼り付け、それらの間隔をキャンロール本体1の周方向に150〜200mm間隔とすればよい。また、長さが約50mmのテープ33を複数用意し、それらをキャンロール本体1の軸方向に沿って貼り付け、それらの間隔をキャンロール本体1の周方向に150〜200mm間隔とすればよい。なお、
図1においてはテープ31〜33を省略している。
【0050】
上記のキャンロールCを備えるスパッタリング装置Aを用いてスパッタリング処理を行うと、スパッタリングカソード51〜54のターゲットから叩き出されたスパッタ粒子は、被成膜基材fの表面上に堆積する。また、被成膜基材fから外れて飛散したスパッタ粒子は、養生帯2に付着する。そのため、スパッタ粒子がキャンロール本体1に付着することを防止できる。
【0051】
成膜物質Mが付着した養生帯2を交換することで、成膜物質Mの除去を行うことができるのでメンテナンス作業が容易となる。しかも、剥離した成膜物質Mによる汚染のない高品質な成膜品mfを製造できる。
【0052】
なお、本実施形態では、基材側帯21の上に端側帯22が重なる配置としたが、端側帯22の上に基材側帯21が重なる配置としてもよい。しかし、基材側帯21の上に端側帯22が重なる配置とした方が、基材側帯21がキャンロール本体1に直接固定されるため、スパッタリング装置Aの運転中に基材側帯21がズレにくく、成膜品mfへの悪影響を低減できる。また、基材側帯21とキャンロール本体1との間に他の帯が挟まらないので、基材側帯21は平坦な状態であり、シワが生じにくい。
【0053】
また、本実施形態では養生帯2は2つの帯21、22からなる構成としたが、3つ以上の帯からなる構成としてもよい。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
上記本実施形態に係るスパッタリング装置Aを用いて操業を行った。スパッタリング装置Aには、キャンロール本体1の両側に基材側帯21と端側帯22とを取り付けた。
【0055】
被成膜基材fとして厚さ25μmのポリイミドフィルムを用い、ニッケルクロム合金からなる下地金属層とその上に銅層を積層させて金属膜を成膜した。成膜した金属膜の厚さは0.5μmとした。基材側帯21として厚さ25μmのポリイミドフィルムを用いた。また基材側帯21と被成膜基材fとの重なり幅を、両側とも7m
mとした。
【0056】
以上の条件で1,500mの被成膜基材fに対して連続的にスパッタリング処理を行った結果、成膜品mfにはシワの発生がみられなかった。
【0057】
(実施例2)
被成膜基材fの厚さを38μm、基材側帯21の厚さを38μmとした。その余の条件は実施例1と同様とした。
以上の条件で1,500mの被成膜基材fに対して連続的にスパッタリング処理を行った結果、成膜品mfにはシワの発生がみられなかった。
【0058】
(比較例1)
被成膜基材fの厚さを25μm、基材側帯21の厚さを38μmとした。その余の条件は実施例1と同様とした。
以上の条件で1,500mの被成膜基材fに対して連続的にスパッタリング処理を行った結果、スパッタリング処理の長さが200mを超えると、製膜品mfの縁部にシワが生じた。
【0059】
実施例1、2および比較例1の結果をまとめると表1の通りである。
【表1】
【0060】
以上より、基材側帯21の厚さT
1を被成膜基材fの厚さT
2の1.4倍以下とすれば、成膜品mfのシワの発生を抑制できることが確認された。