特許第6572788号(P6572788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572788
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20190902BHJP
   B23Q 3/15 20060101ALI20190902BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   H01L21/68 R
   B23Q3/15 D
   H02N13/00 D
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-16021(P2016-16021)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-135332(P2017-135332A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100146156
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 泰嗣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智海
(72)【発明者】
【氏名】三浦 幸夫
【審査官】 宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−176275(JP,A)
【文献】 特開2014−207374(JP,A)
【文献】 特開2015−207765(JP,A)
【文献】 特開2013−074251(JP,A)
【文献】 特開2015−029088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
B23Q 3/15
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、前記静電チャック部の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材と、シート材と、前記静電チャック部を冷却する機能を有するベース部とをこの順に備え、前記静電チャック部と前記加熱部材との間に、層厚が10μm以上200μm未満であり、かつショア硬度(A)が10〜70であり、25℃、湿度50%RHにおける粘着力が、0.1N/25mm以下であるシリコーン樹脂シートを有する静電チャック装置。
【請求項2】
前記加熱部材と、前記ベース部との間に、絶縁材層を有する請求項1に記載の静電チャック装置。
【請求項3】
前記シート材が、シリコーン系エラストマー、及びフッ素系エラストマーからなる群より選択されるいずれかを含有する請求項1又は2に記載の静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいては、ウエハの加工に当たり、試料台に簡単にウエハを取付け、固定するとともに、このウエハを所望の温度に維持する装置として静電チャック装置が使用されている。
半導体素子の高集積化や高性能化に伴い、ウエハの加工の微細化が進んでおり、生産効率が高く、大面積の微細加工が可能なプラズマエッチング技術がよく用いられている。静電チャック装置に固定されたウエハにプラズマを照射すると、このウエハの表面温度が上昇する。そこで、この表面温度の上昇を抑えるために、静電チャック装置のベース部に水等の冷却媒体を循環させてウエハを下側から冷却しているが、この際、プラズマによるウエハへの入熱のウエハ面内のばらつきにより、ウエハの面内で温度分布が発生する。例えば、ウエハの中心部では温度が高くなり、縁辺部では温度が低くなる傾向にある。
【0003】
例えば、ヘリウム等のガスを用いたウエハの面内温度分布を調整する静電チャック装置やウエハと静電チャックの吸着面との間の接触面積を調整した静電チャック装置では、局所的な温度制御を行うことが難しかった。
また、従来のヒータ機能付き静電チャック装置では、ヒータの急速な昇降温により、静電チャック部やベース部やヒータ自体にクラックが発生することがあり、静電チャック装置としての耐久性が不十分であるという問題点があった。
かかる問題を解決するために、例えば、プラズマエッチング装置等の処理装置に適用した場合に、シリコンウエハ等の板状試料の面内に局所的な温度分布を生じさせることにより、プラズマ印加に伴うシリコンウエハ等の板状試料の局所的な温度制御を行うことが可能な静電チャック装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−159684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウエハの面内温度のばらつきをより一層抑制するために、ウエハを固定する静電チャック部の面内温度均一性をより高めることが求められている。
本発明は、静電チャック部と加熱部材との間に介在するシリコーン樹脂シートの耐形状変化性、及び耐熱性に優れ、かつ、静電チャック部の面内温度均一性に優れる静電チャック装置を提供することを目的とし該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、前記静電チャック部の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材と、シート材と、前記静電チャック部を冷却する機能を有するベース部とをこの順に備え、前記静電チャック部と前記加熱部材との間に、層厚が10μm以上200μm未満であり、かつショア硬度(A)が10〜70であるシリコーン樹脂シートを有する静電チャック装置である。
【0007】
<2> 前記加熱部材と、前記ベース部との間に、絶縁材層を有する<1>に記載の静電チャック装置である。
【0008】
<3> 前記シート材が、シリコーン系エラストマー、及びフッ素系エラストマーからなる群より選択されるいずれかを含有する<1>又は<2>に記載の静電チャック装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、静電チャック部と加熱部材との間に介在するシリコーン樹脂シートの耐形状変化性、及び耐熱性に優れ、かつ、静電チャック部の面内温度均一性に優れる静電チャック装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の静電チャック装置の積層構成の一例を示す断面模式図である。
図2】本発明の静電チャック装置の積層構成の他の一例を示す断面模式図である。
図3】本発明の静電チャック装置の積層構成の他の一例を示す断面模式図である。
図4】本発明の静電チャック装置の積層構成の他の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<静電チャック装置>
本発明の静電チャック装置は、一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵した静電チャック部と、前記静電チャック部の前記載置面と反対側の面に間隙を有するパターンで接着された加熱部材と、シート材と、前記静電チャック部を冷却する機能を有するベース部とをこの順に備え、前記静電チャック部と前記加熱部材との間に、層厚が10μm以上200μm未満であり、かつショア硬度(A)が10〜70であるシリコーン樹脂シートを有する。
まず、本発明の静電チャック装置における静電チャック部、シリコーン樹脂シート、加熱部材、シート材、並びにベース部の積層構成について説明する。
【0012】
図1は、本発明の静電チャック装置の積層構成の一例を示す断面模式図である。
静電チャック装置100は、ウエハを固定する静電チャック部2と、静電チャック部2を加熱する加熱部材50と、静電チャック部2を冷却する機能を有する厚みのある円板状のベース部10とを有する。静電チャック部2とベース部10との間には、静電チャック部2側から順に、シリコーン樹脂シート52、加熱部材50、シート材6、及び絶縁材層60を有する。
【0013】
図2は、本発明の静電チャック装置の積層構成の他の一例を示す断面模式図である。
静電チャック装置102は、ウエハを固定する静電チャック部2と、静電チャック部2を加熱する加熱部材50と、静電チャック部2を冷却する機能を有する厚みのある円板状のベース部10とを有する。静電チャック部2とベース部10との間には、静電チャック部2側から順に、シリコーン樹脂シート52、加熱部材50、高分子材料層30、シート材16、及び絶縁材層60を有する。
【0014】
図3及び図4も、本発明の静電チャック装置の積層構成の他の一例を示す断面模式図であり、図3及び図4の静電チャック装置104及び106は、シリコーン樹脂シート54の形態がシリコーン樹脂シート52と異なる他は、それぞれ、図1及び図2と同じである。符号が同じ構成要素、例えば、静電チャック部2、ベース部10等は、静電チャック装置100、102、104及び106において、構成が同じであり、好ましい態様も同様である。
以下、シリコーン樹脂シート52及び54を除き、図1及び図2の静電チャック装置100及び102を代表に説明する。
【0015】
加熱部材50は、シリコーン樹脂シート52を介して、静電チャック部2の載置面と反対側の面(加熱部材設置面という)上に位置し、静電チャック部2に、間隙を有するパターンで接着されている。加熱部材50は、例えば、幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させた1つ又は複数のパターンにより構成することができる。図1及び図2には、4つの加熱部材50が示されている。これらの加熱部材50は、通常、1つのパターンで連なっているが、複数の、同一種又は異種のパターンにより構成されていてもよい。例えば、直径の異なる複数の輪状の加熱部材を同心円状に配置してもよい。
【0016】
シリコーン樹脂シート52は、図1及び図2に示されるように、加熱部材設置面の全部を被覆していてもよいし、図3及び図4に示されるように、加熱部材設置面を部分的に被覆していてもよい。後述するように、加熱部材50は、加熱部材を構成する板状の金属部材の一部をエッチング等で除去することにより形成することができる。この際、シリコーン樹脂シート52も一緒に除去し、図3及び図4に示されるようなシリコーン樹脂シート54の層を形成することができる。なお、図3及び図4に示されるように、加熱部材50と加熱部材50との間の加熱部材設置面上のシリコーン樹脂シート54を全て除去せずに、加熱部材50が存在しない加熱部材設置面上にシリコーン樹脂シート54が備えられていてもよい。
本発明においては、エッチング等で樹脂シート52を除去する場合には、加熱部材50と樹脂シート54との接着界面よりエッチング時に用いるエッチング液が入り込み、加熱部材50と樹脂シート54に損傷を与える可能性があることから、図1及び図2に示されるように、シリコーン樹脂シート52が加熱部材設置面の全部を被覆していることが好ましい。
【0017】
図1のシート材6は、硬度の低い材質のシートを用いることで、静電チャック部2の加熱部材設置面に加熱部材50がある場所は、加熱部材50上又は加熱部材50の側面に隣接し、加熱部材50がない場所は静電チャック部2に隣接している。
静電チャック装置の製造方法の詳細は後述するが、静電チャック装置は、加熱部材50を固定した静電チャック部2の加熱部材設置面側に、シート材6と、必要に応じて絶縁材層60を介在させて、静電チャック部2とベース部10とを挟み、加圧することで、製造することができる。このとき、シート材6として、硬度が低い材質のシートを使用することで、シート材6が加熱部材50同士の間隙を埋設し、また、加熱部材50を静電チャック部2に固定化することができる。
【0018】
図2のように、加熱部材50の間隙を高分子材料層30で埋設することもできる。
図2の高分子材料層30は、静電チャック部2の加熱部材設置面に加熱部材50がある場所は、加熱部材50上又は加熱部材50の側面に隣接し、加熱部材50がない場所は静電チャック部2に隣接している。図2では、加熱部材50とシート材16との間にも高分子材料層30が介在し、シート材16は加熱部材50接触していないが、この構成は本発明の一実施形態に過ぎない。例えば、静電チャック部2の加熱部材設置面から加熱部材50のベース部10側表面までの距離と、静電チャック部2の加熱部材設置面から高分子材料層30のベース部10側表面までの距離を揃えて、シート材16が加熱部材50にも高分子材料層30にも接触する構成にしてもよい。
【0019】
図1のように、軟質のシート材6を用いれば、静電チャック装置の構成材料を少なく抑えることができる。図2のように、高分子材料層30を用いれば、図1のシート材6が加熱部材50同士の間隙の形状に追随しない場合にも、加熱部材50同士の間隙を埋設し、加熱部材50の固定化をより確実にすることができる。
【0020】
更に、図1の静電チャック装置100は、シート材6とベース部10との間に、絶縁材層60を有する。図1においては、絶縁材層60をベース部10に隣接する位置に設けているが、絶縁材層60の位置は特に制限されず、例えば、加熱部材50と静電チャック部2との間、加熱部材50とシート材6との間等に設けられていてもよい。
図2の静電チャック装置102は、シート材16とベース部10との間に、絶縁材層60を有する。図2においては、絶縁材層60をベース部10に隣接する位置に設けているが、絶縁材層60の位置は特に制限されず、例えば、加熱部材50と静電チャック部2との間、加熱部材50とシート材16との間等に設けられていてもよい。
本発明の静電チャック装置の積層構成は図1図4に示す構成に限られない。
以下、図面の符号を省略して説明する。
【0021】
〔シリコーン樹脂シート〕
シリコーン樹脂シートは、加熱部材による加熱による劣化と形状変化に耐え、静電チャック部と加熱部材との温度差により生じる応力を緩和する部材であり、かかる観点から、シリコーン樹脂シートは、層厚が10μm以上200μm未満であり、かつショア硬度(A)が10〜70であるシリコーン樹脂が用いられる。
従来、静電チャック部と加熱部材とを接着する部材として、アクリル系接着シート、エポキシ系接着シート、シリコーン系接着シートが用いられてきたが、アクリル系接着シート及びエポキシ系接着シートは、加熱部材による加熱で劣化を起こし易く、接着シートの形状変化により、加熱部材から静電チャック部への熱伝達が均一になりにくかった。また、シリコーン系接着シートは、一般に、支持体の両面にシリコーン系樹脂接着剤層が設けられた構成をしており、接着剤層が薄いため、耐熱性が不十分であった。
【0022】
これに対し、本発明で用いるシリコーン樹脂シートは、表面に接着層を有するものではなく、10μm以上200μm未満の層厚を有するため、耐熱性に優れ、加熱部材により加熱されても形状変化を起こしにくい。そのため、加熱部材による熱が静電チャック部に伝導し、静電チャック部の面内温度均一性に優れる
シリコーン樹脂シートそれ自体も、接着性ないし粘着性のあるシートではないことが好ましく、具体的には、シリコーン樹脂シートの25℃、湿度50%RHにおける粘着力が、0.1N/25mm以下であることが好ましい。なお、接着シート、粘着シート等の粘着力は、接着成分及び粘着成分にもよるが、一般に、5〜10N/25mm(25℃、湿度50%RH)ほどの粘着力がある。シリコーン樹脂シートの25℃、湿度50%RHにおける粘着力は、JIS Z 0237(2009年)の粘着テープ・粘着シート試験方法に基づき、測定することができる。
【0023】
シリコーン樹脂シートは、層厚が10μm以上200μm未満である。層厚が10μm未満のシリコーン樹脂シートは入手することができない。層厚が200μm以上となると加熱部材による静電チャック部への熱伝導性に優れない。シリコーン樹脂シートの層厚は、15〜150μmであることが好ましく、20μm〜100μmであることがより好ましい。
シリコーン樹脂シートは、ショア硬度(A)(JIS Z 2246:2000)が10〜70である。ショア硬度(A)が10未満であるシリコーン樹脂シートは入手することができず、70を超えるシリコーン樹脂シートは、表面凹凸への追従性が悪く、接触基材との密着が悪い。シリコーン樹脂シートのショア硬度(A)は15〜65であることが好ましく、20〜60であることがより好ましい。
【0024】
シリコーン樹脂シートは、加熱部材により加熱される前も、加熱された後も、柔軟であることが好ましく、具体的には、180℃で1000時間加熱する前のシリコーン樹脂シートの貯蔵弾性率E’と、180℃で1000時間加熱した後のシリコーン樹脂シートの貯蔵弾性率E’が、共に、0〜200℃の温度範囲において1〜50MPaであることが好ましい。
シリコーン樹脂シートの貯蔵弾性率E’は、JIS K 7244(1999年)のプラスチック動的機械特性の試験方法に基づき測定することができる。
180℃、1000時間の加熱前と加熱後それぞれのシリコーン樹脂シートの貯蔵弾性率E’は、共に、0〜200℃の温度範囲において1〜10MPaであることがより好ましい。
【0025】
シリコーン樹脂シートは、加熱部材の熱伝導とショア硬度(A)の制御の観点から、シリコーン樹脂シートの全質量に対し、20質量%以下の割合で充填剤を含んでいてもよい。すなわち、シリコーン樹脂シート中の充填剤の含有量は0〜20質量%であることが好ましい。シリコーン樹脂シート中の充填剤の含有量は、0〜10質量%であることがより好ましく、0〜5質量%であることがより好ましい。
充填剤の種類は、加熱部材の熱伝導を妨げるものでなければ特に制限されないが、無機充填剤であることが好ましい。無機充填剤としては、金属、金属酸化物、及び金属窒化物が挙げられ、中でも、シリカ、アルミナ、ジルコニア、及びチッ化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、シリカ、アルミナ、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0026】
シリコーン樹脂シートは、静電チャック部の加熱部材設置面及び加熱部材との接着性を向上するため、シリコーン樹脂シートに、コロナ放電処理、プラズマ処理等の表面加工を施してもよいし、プライマー処理等の下塗り加工をしてもよい。表面加工及び下塗り加工の詳細は「高分子表面加工学」(岩森暁著、技報堂出版社刊)等に記載されている。
シリコーン樹脂シートは、市販の製品を用いてもよく、例えば、サンシンエンタープライズ社製「μ」シリーズ、扶桑ゴム産業社製「通常品」「高裂品」シリーズ等が挙げられる。
【0027】
〔シート材〕
シート材は、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和する部材であり、かかる観点から、シート材は、シリコーン系エラストマー、及びフッ素系エラストマーからなる群より選択されるいずれかを含有することが好ましい。
シリコーン系エラストマーとしては、オルガノポリシロキサンを主成分としたもので、ポリジメチルシロキサン系、ポリメチルフェニルシロキサン系、ポリジフェニルシロキサン系に分けられる。一部をビニル基、アルコキシ基等で変性したものもある。具体例として、KEシリーズ〔信越化学工業(株)製〕、SEシリーズ、CYシリーズ、SHシリーズ〔以上、東レダウコーニングシリコーン(株)製〕などが挙げられる。
【0028】
フッ素系エラストマーとしては、ハードセグメントがフッ素系樹脂であり、ソフトセグメントがフッ素系ゴムである構造を有するエラストマー、シリコーン系エラストマーに含まれる炭化水素基の一部又は全部の水素原子がフッ素原子に置換されたエラストマー等が挙げられる。
シート材は、シリコーン系エラストマー、又はフッ素系エラストマーを、それぞれ単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよいし、1種以上のシリコーン系エラストマーと1種以上のフッ素系エラストマーの両方を含んでいてもよい。
【0029】
シート材の厚さは、20μm〜500μmであることが好ましい。シート材の厚さが20μm以上であることで、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和し易く、500μm以下であることで、静電チャック部の面内温度均一性の低下を抑制することができる。
シート材のショア硬度(A)は、静電チャック部とベース部との温度差により生じる応力を緩和する観点から、20〜80であることが好ましい。
【0030】
〔静電チャック部〕
静電チャック部は、一主面を、板状試料を載置する載置面とするとともに静電吸着用内部電極を内蔵する。
より具体的には、例えば、上面が半導体ウエハ等の板状試料を載置する載置面とされた載置板と、この載置板と一体化され該載置板を支持する支持板と、これら載置板と支持板との間に設けられた静電吸着用内部電極及び静電吸着用内部電極の周囲を絶縁する絶縁材層(チャック内絶縁材層)と、支持板を貫通するようにして設けられ静電吸着用内部電極に直流電圧を印加する給電用端子とにより構成されていることが好ましい。
静電チャック部において、第1の接着層と隣接する面は、静電チャック部の支持体の表面である。
【0031】
載置板及び支持板は、重ね合わせた面の形状を同じくする円板状のもので、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)複合焼結体、酸化アルミニウム(Al)焼結体、窒化アルミニウム(AlN)焼結体、酸化イットリウム(Y)焼結体等の機械的な強度を有し、腐食性ガス及びそのプラズマに対する耐久性を有する絶縁性のセラミックス焼結体からなるものであることが好ましい。
載置板の載置面には、直径が板状試料の厚みより小さい突起部が複数個形成され、これらの突起部が板状試料を支える構成であることが好ましい。
【0032】
静電チャック部の厚さ(載置板及び支持板の合計の厚み)は0.7mm〜5.0mmが好ましい。静電チャック部の厚さが0.7mm以上であることで、静電チャック部の機械的強度を確保することができる。静電チャック部の厚さが5.0mm以下であることで、静電チャック部の横方向の熱移動が増加しにくく、所定の面内温度分布が得られ易くなるため、熱容量が増加しにくく、熱応答性が劣化しにくい。なお、静電チャック部の横方向とは、図1に示すような、静電チャック部、第1及び第2の接着層、シート材、並びにベース部の積層構成において、積層方向と直交する方向をいう。
【0033】
静電吸着用内部電極は、電荷を発生させて静電吸着力で板状試料を固定するための静電チャック用電極として用いられるもので、その用途によって、その形状や、大きさが適宜調整される。
静電吸着用内部電極は、酸化アルミニウム−炭化タンタル(Al−Ta)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−タングステン(Al−W)導電性複合焼結体、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タングステン(AlN−W)導電性複合焼結体、窒化アルミニウム−タンタル(AlN−Ta)導電性複合焼結体等の導電性セラミックス、又は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)等の高融点金属により形成されている。
【0034】
静電吸着用内部電極の厚さは、特に限定されるものではないが、0.1μm〜100μmが好ましく、5μm〜20μmがより好ましい。静電吸着用内部電極の厚さが0.1μm以上であることで、充分な導電性を確保することができ、厚さが100μm以下であることで、載置板及び支持板と、静電吸着用内部電極との間の熱膨張率差が大きくなりにくく、載置板と支持板との接合界面にクラックが入りにくい。
このような厚さの静電吸着用内部電極は、スパッタ法、蒸着法等の成膜法、又はスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
【0035】
チャック内絶縁材層は、静電吸着用内部電極を囲繞して腐食性ガス及びそのプラズマから静電吸着用内部電極を保護するとともに、載置板と支持板との境界部、すなわち静電吸着用内部電極以外の外周部領域を接合一体化するものである。チャック内絶縁材層は、載置板及び支持板を構成する材料と同一組成または主成分が同一の絶縁材料により構成されていることが好ましい。
【0036】
給電用端子は、静電吸着用内部電極に直流電圧を印加するために設けられた棒状のものである。給電用端子の材料としては、耐熱性に優れた導電性材料であれば特に制限されるものではないが、熱膨張係数が静電吸着用内部電極及び支持板の熱膨張係数に近似したものが好ましく、例えば、静電吸着用内部電極を構成している導電性セラミックス、又は、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、コバール合金等の金属材料が好適に用いられる。
【0037】
給電用端子は、絶縁性を有する碍子によりベース部に対して絶縁されていることが好ましい。
また、給電用端子は支持板に接合一体化され、さらに、載置板と支持板とは、静電吸着用内部電極及びチャック内絶縁材層により接合一体化されて静電チャック部を構成していることが好ましい。
【0038】
〔加熱部材〕
加熱部材は、静電チャック部の載置面と反対側の面に位置し、シリコーン樹脂シートを介して、静電チャック部に、間隙を有するパターンで接着されている。
加熱部材の形態は特に制限されないが、相互に独立した2つ以上のヒーターパターンからなるヒータエレメントであることが好ましい。
ヒータエレメントは、例えば、静電チャック部の載置面と反対側の面(加熱部材設置面)の中心部に形成された内ヒータと、内ヒータの周縁部外方に環状に形成された外ヒータとの、相互に独立した2つのヒータにより構成することができる。内ヒータ及び外ヒータは、それぞれが、幅の狭い帯状の金属材料を蛇行させたパターンを、加熱部材設置面の中心軸を中心として、この軸の回りに繰り返し配置し、かつ隣接するパターン同士を接続することで、1つの連続した帯状のヒーターパターンとすることができる。
内ヒータ及び外ヒータをそれぞれ独立に制御することにより、静電チャック部の載置板の載置面に静電吸着により固定されている板状試料の面内温度分布を精度良く制御することができる。
【0039】
ヒータエレメントは、厚みが0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下の一定の厚みを有する非磁性金属薄板、例えば、チタン(Ti)薄板、タングステン(W)薄板、モリブデン(Mo)薄板等をフォトリソグラフィー法により、所望のヒーターパターンにエッチング加工することで形成されることが好ましい。
ヒータエレメントの厚みが0.2mm以下であることで、ヒータエレメントのパターン形状が板状試料の温度分布として反映されにくく、板状試料の面内温度を所望の温度パターンに維持し易くなる。
また、ヒータエレメントを非磁性金属で形成すると、静電チャック装置を高周波雰囲気中で用いてもヒータエレメントが高周波により自己発熱しにくく、板状試料の面内温度を所望の一定温度又は一定の温度パターンに維持し易くなる。
また、一定の厚みの非磁性金属薄板を用いてヒータエレメントを形成すると、ヒータエレメントの厚みが加熱面全域で一定となり、さらに発熱量も加熱面全域で一定となるので、静電チャック部の載置面における温度分布を均一化することができる。
【0040】
〔高分子材料層〕
静電チャック装置は、加熱部材の間隙を埋設する高分子材料層を有していてもよい。
静電チャック部の載置面と反対側の面(加熱部材設置面)の内、加熱部材が設けられていない面上に位置する高分子材料層の静電チャック装置の積層方向における層厚は、少なくとも、加熱部材設置面から加熱部材のシート材側の表面までの最短距離と同じ厚さである。高分子材料層により、加熱部材表面(加熱部材のシート材側表面)を被覆する場合、加熱部材表面上の高分子材料層の層厚(加熱部材設置面表面から加熱部材のシート材側表面までの距離)は、静電チャック部の面内温度均一性の観点から、1μm〜100μmであることが好ましく、1μm〜25μmであることがより好ましい。
【0041】
高分子材料層を構成し得る高分子材料としては、ポリイミド樹脂等の耐熱樹脂、シリコーン接着剤(シリコーンゴム)、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、RTV(Room Temperature Vulcanizing)ゴム、及びフッ素シリコーンゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
以上の中でも、耐熱性の観点から、ポリイミド樹脂等の耐熱樹脂、シリコーン接着剤、フッ素樹脂、及びフッ素シリコーンゴムが好ましく、ポリイミド樹脂、シリコーン接着剤、及びフッ素樹脂がより好ましい。また、シリコーン接着剤(シリコーンゴム)は液状であることが好ましい。
【0042】
〔絶縁材層〕
静電チャック装置は、ベース部の少なくとも一部を被覆する絶縁材層を有することが好ましい。
本発明の静電チャック装置は、静電チャック部を加熱する加熱部材を有していることから、静電チャック部とベース部との導通(ショート不良)を抑制し、ベース部の耐電圧性を向上するために、絶縁材層を有することが好ましい。
絶縁材層は、ベース部の少なくとも一部を被覆していればよいが、ベース部の全部を被覆するフィルム状又はシート状の層であることが好ましい。
また、絶縁材層の位置は、静電チャック部とベース部との間にあればよく、また、単層のみならず、複数の層で構成されていてもよい。例えば、ベース部に隣接する位置、加熱部材と静電チャック部との間、加熱部材とシート材との間等に絶縁材層を有していてもよい。
以上の中でも、絶縁材層は、絶縁材層の形成容易性の観点から、加熱部材と、ベース部との間であって、ベース部に近接する位置に備えられることが好ましい。
【0043】
絶縁材層をベース部に固定する場合、絶縁材層は、ベース部の上面に接着剤を介して固定されていることが好ましい。絶縁材層の固定に用いる接着剤(絶縁材層用接着剤)は特に制限されず、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の耐熱性及び絶縁性を有するシート状、又はフィルム状の接着性樹脂を用いることができる。絶縁材層用接着剤の厚みは5μm〜100μmが好ましく、より好ましくは10μm〜50μmである。絶縁材層用接着剤の面内の厚みのバラツキは、ベース部による静電チャック部の温度制御の面内均一性を上げる観点から10μm以内が好ましい。
絶縁材層の熱伝導率は、静電チャック部の温度調整の観点から、0.05W/mk以上かつ0.5W/mk以下が好ましく、より好ましくは0.1W/mk以上かつ0.25W/mk以下である。
【0044】
〔ベース部〕
ベース部は、静電チャック部を冷却する機能を有し、加熱部材により加熱された静電チャック部を所望の温度に調整するための部材であり、静電チャック部に固定された板状試料のエッチング等により生じた発熱を下げる機能も有する。
ベース部の形状は特に制限されないが、通常、厚みのある円板状である。ベース部は、その内部に水を循環させる流路が形成された水冷ベース等であることが好ましい。
ベース部を構成する材料は、熱伝導性、導電性、及び加工性に優れた金属、これらの金属を含む複合材、並びに、セラミックスが挙げられる。具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金、銅(Cu)、銅合金、ステンレス鋼(SUS)等が好適に用いられる。ベース部の少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理が施されているか、アルミナ等の絶縁膜が成膜されていることが好ましい。
【0045】
<静電チャック装置の製造方法>
静電チャック装置の製造方法は、本発明の静電チャック装置の積層構成を形成し得る方法であれば、特に制限されず、静電チャック部、シリコーン樹脂シート、加熱部材、シート材、ベース部をこの順に積層して、静電チャック部とベース部とを、ホットプレス等により加圧して挟んでもよいし、各層間に接着剤を介在させて、互いに隣接する層を接着してもよい。接着剤を用いる場合は、接着剤シートを用いてもよいし、液状の接着剤を用いてもよいが、接着層の層厚を小さくする観点から、接着剤と、水と、必要に応じて接着剤を溶解する有機溶媒とを含む塗布液(以下、接着用溶液と称する)を用いることが好ましい。
【0046】
静電チャック装置の製造にあたっては、予め、静電チャック部の加熱部材設置面上にシリコーン樹脂シートで加熱部材を固定しておくことが好ましい。シリコーン樹脂シートを予め公知の手法で表面加工した上で、シリコーン樹脂シートを介して加熱部材設置面上に加熱部材を固定し、更に、加熱部材上に柔軟なシート材を圧着することで、加熱部材はより強固に静電チャック部の加熱部材設置面上に固定される。
【0047】
また、図2に示される静電チャック装置のように、静電チャック部及び加熱部材による凹部に高分子材料を埋設し、高分子材料層及び加熱部材の高さを揃えるか、凹部及び加熱部材を高分子材料で被覆し、高分子材料層の表面を平坦にしておくことが好ましい。
静電チャック装置に絶縁材層を備える場合は、ベース部上に接着剤(絶縁材層用接着剤)で絶縁材層を固定しておくことが好ましい。
【0048】
加熱部材は、1つ又は複数の個別の加熱部材を、間隔を空けつつ、加熱部材設置面上にそれぞれ固定してもよいし、加熱部材設置面上に膜状又は板状の加熱部材を貼り付けてから、加熱部材の一部をエッチング等により除去してシリコーン樹脂シート又は加熱部材設置面を露出させ、間隙を形成してもよい。
このとき、シリコーン樹脂シートは、加熱部材と共に除去せずに残し、シリコーン樹脂シートが露出することが好ましい。
【0049】
シート材は、片面又は両面に予め接着用溶液を塗布しておくことが好ましい。加熱部材付き静電チャック部とベース部とで、接着用溶液を塗布済みのシート材を挟み、ホットプレス等により加圧することで、静電チャック装置が得られる。
静電チャック装置に絶縁材層を設けるときは、絶縁材の片面または両面に接着用溶液を塗布しておき、加熱部材付き静電チャック部とベース部とで、接着用溶液を塗布済みのシート材及び接着用溶液を塗布済みの絶縁材を任意の位置に配置して挟み、ホットプレス等により加圧することで、絶縁材層付きの静電チャック装置が得られる。
【0050】
接着用溶液の接着剤は、公知の接着剤を用いることができ、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系等の種々の接着剤を用いることができる。接着剤は市販品でもよく、例えば、シリコーン接着剤(シリコーン粘着剤を含む)として、東レ・ダウコーニング社製、シリコーン粘着剤(例えば、SD 4580 PSA、SD 4584 PSA、SD 4585 PSA、SD 4587 L PSA、SD 4560 PSA等)、モメンティブ社製、シリコーン接着剤(例えば、XE13−B3208、TSE3221、TSE3212S、TSE3261−G、TSE3280−G、TSE3281−G、TSE3221、TSE326、TSE326M、TSE325等)、信越シリコーン社製、シリコーン接着剤(例えば、KE−1820、KE−1823、KE−1825、KE−1830、KE−1833等)等が挙げられる。
【0051】
接着用溶液は、接着剤を溶解する有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、接着剤を溶解し得るものであれば特に制限されず、例えば、アルコール及びケトンからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられ、ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0052】
接着用溶液は、薄膜での均一塗布の観点から、接着剤の濃度が、0.05質量%〜5質量%となる範囲で調製することが好ましい。接着用溶液中の接着剤の濃度は、0.1質量%〜1質量%であることがより好ましい。
更に、接着用溶液は、接着剤の加水分解を促進するために触媒を含でいてもよい。触媒としては、塩酸、硝酸、アンモニア等が挙げられ、中でも、塩酸、及びアンモニアが好ましい。
静電チャック装置内に触媒が残存することを抑制する観点から、接着用溶液は、触媒を含まないことが好ましく、接着剤として、反応性官能基がエポキシ基、イソシアネート基、アミノ基、又はメルカプト基である接着剤を含むことが好ましい。
【0053】
また、高分子材料層の形成は、高分子材料と高分子材料を溶解する溶媒とを含む高分子材料層用溶液を用いることが好ましい。
高分子材料を溶解する溶媒としては、高分子材料の種類にもよるが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられ、例えば、高分子材料として、ポリイミド樹脂を用いる場合、溶媒はメチルエチルケトンを用いることが好ましい。
高分子材料層用溶液の高分子材料の濃度は、用いる高分子材料の種類、溶液の塗布方法等にもよるが、例えば、スピンコートによる塗布の場合は、均一塗布の観点から、0.05質量%〜5質量%とすることが好ましく、0.1質量%〜1質量%であることがより好ましい。また、塗布方法がスクリーン印刷である場合は、高分子材料層用溶液の高分子材料の濃度は、印刷容易性の観点から、30質量%〜70質量%とすることが好ましく、40質量%〜60質量%であることがより好ましい。
【0054】
接着用溶液及び高分子材料層用溶液の、被付与面への付与方法としては、スクリーン印刷による付与、スピンコートによる塗布の他、スプレー、ハケ、バーコーターによる塗布、インクジェット法による吐出等が挙げられる。接着用溶液及び高分子材料層用溶液の付与後は、溶液の付与面を加熱して溶媒を飛ばすことが好ましい。溶液付与面の加熱は、接着剤層ないし高分子材料層の厚さ、溶液中の接着剤ないし高分子材料の濃度、種類等により異なるが、80℃〜120℃で、30秒〜5分間の条件で行うことが好ましい。
【0055】
また、静電チャック部は次のように製造することが好ましい。
まず、酸化アルミニウム−炭化ケイ素(Al−SiC)複合焼結体により板状の載置板及び支持板を作製する。この場合、炭化ケイ素粉末及び酸化アルミニウム粉末を含む混合粉末を所望の形状に成形し、その後、例えば1600℃〜2000℃の温度、非酸化性雰囲気、好ましくは不活性雰囲気下にて所定時間、焼成することにより、載置板及び支持板を得ることができる。
【0056】
次いで、支持板に、給電用端子を嵌め込み保持するための固定孔を複数個形成する。
給電用端子を、支持板の固定孔に密着固定し得る大きさ、形状となるように作製する。この給電用端子の作製方法としては、例えば、給電用端子を導電性複合焼結体とした場合、導電性セラミックス粉末を、所望の形状に成形して加圧焼成する方法等が挙げられる。
【0057】
このとき、給電用端子に用いられる導電性セラミックス粉末としては、静電吸着用内部電極と同様の材質からなる導電性セラミックス粉末が好ましい。
また、給電用端子を金属とした場合、高融点金属を用い、研削法、粉末治金等の金属加工法等により形成する方法等が挙げられる。
【0058】
次いで、給電用端子が嵌め込まれた支持板の表面の所定領域に、給電用端子に接触するように、上記の導電性セラミックス粉末等の導電材料をテルピネオールとエチルセルロース等とを含む有機溶媒に分散した静電吸着用内部電極形成用塗布液を塗布し、乾燥して、静電吸着用内部電極形成層とする。
この塗布法としては、均一な厚さに塗布する必要があることから、スクリーン印刷法等を用いることが望ましい。また、他の方法としては、蒸着法あるいはスパッタリング法により上記の高融点金属の薄膜を成膜する方法、上記の導電性セラミックスあるいは高融点金属からなる薄板を配設して静電吸着用内部電極形成層とする方法等がある。
【0059】
また、支持板上の静電吸着用内部電極形成層を形成した領域以外の領域に、絶縁性、耐腐食性、耐プラズマ性を向上させるために、載置板及び支持板と同一組成または主成分が同一の粉末材料を含むチャック内絶縁材層を形成する。このチャック内絶縁材層は、例えば、載置板及び支持板と同一組成または主成分が同一の絶縁材料粉末をテレピノールとエチルセルロース等とを含む有機溶媒に分散した塗布液を、上記所定領域にスクリーン印刷等で塗布し、乾燥することにより形成することができる。
【0060】
次いで、支持板上の静電吸着用内部電極形成層及び絶縁材の上に載置板を重ね合わせ、次いで、これらを高温、高圧下にてホットプレスして一体化する。このホットプレスにおける雰囲気は、真空、あるいはAr、He、N等の不活性雰囲気が好ましい。また、圧力は5〜10MPaが好ましく、温度は1600℃〜1850℃が好ましい。
【0061】
このホットプレスにより、静電吸着用内部電極形成層は焼成されて導電性複合焼結体からなる静電吸着用内部電極となる。同時に、支持板及び載置板は、チャック内絶縁材層を介して接合一体化される。
また、給電用端子は、高温、高圧下でのホットプレスで再焼成され、支持板の固定孔に密着固定される。
そして、これら接合体の上下面、外周およびガス穴等を機械加工し、静電チャック部とする。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例においては、図1に示す静電チャック装置の積層構成に類似する積層体を作成し、評価した。
【0063】
<1.実施例及び比較例の積層体の構成>
実施例及び一部の比較例の積層体は、図1における静電チャック部2、シリコーン樹脂シート52、加熱部材50、シート材6、及びベース部10をこの順に積層した構成をしている。ただし、実施例及び比較例の積層体は、図1における絶縁材層60は備えていない。一部の比較例の積層体は、シリコーン樹脂シート52も有していない。
【0064】
<2.積層体の製造>
セラミックス板(Al−SiC複合焼結体;静電チャック部2)上に、表1に示す種類及び物性の試験片(シリコーン樹脂シート52または、比較用シート)を積層し、次いで、Ti箔(加熱部材50)を積層してから、Ti箔をエッチングすることにより、試験片の一部を露出させ、直径の異なる輪状のTi箔が同心円状に配置されたTiパターンを形成した。
なお、試験片(シリコーン樹脂シート52または、比較用シート)のショア硬度(A)は、テクロック社製のデュロメータGS−706で測定し、厚さはミツトヨ社製の膜厚VL−50Aで測定したものである。
Tiパターンによる凹凸面が形成されたセラミックス板上に、ショア硬度(A)50、層厚100μmのシート材〔サンシンエンタープライズ社製、Sμ−100−50;シート材6〕を積層し、更にアルミ治具(直径40mm、厚さ2cm;ベース部10)を積層して、セラミックス板とアルミ治具を張り合わせ、100℃で3分間加熱し、積層体を得た。
【0065】
<3.評価方法>
実施例及び比較例の試験片及び積層体について次の評価をした。結果を表1に示す。
1.試験片の耐熱性評価
試験片を、それぞれダンベル形に裁断した後、JIS K 6849に準拠した方法にて、5582型万能材料試験器(インストロン社製)にて引張強度試験を実施した。その後、試験片を180℃で1000時間加熱し、同様の方法にて引張強度試験を実施した。加熱前の試験片の引張強度F1と加熱後の試験片の引張強度F2とから、下記式にて強度変化Δを算出し、下記基準にて評価した。
Δ(%)={(F2−F1)/F1}×100
(評価基準)
A:加熱前後で強度変化なし(Δ:±20%以内)
B:加熱前後で強度変化なし(Δ:−30%以上−20%未満)
C:加熱後に、強度やや低下(Δ:−50%以上−30%未満)
D:加熱後に強度低下(Δ:−50%未満)
【0066】
2.試験片の形状変化評価による面内温度均一性評価
ミツトヨ社製の膜厚VL−50Aを用いて、実施例及び比較例の積層体の5ヶ所における全層厚を測定した。得られた測定結果のうち、層厚が最も大きい箇所の層厚と小さい箇所の層厚との差を膜厚ブレとし、下記基準により評価した。
膜厚ブレは、試験片の形状変化評価の指標となると共に、静電チャック装置に固定するウエハの面内温度均一性の指標となり、膜厚ブレが10μm未満である場合は、静電チャック部の面内温度均一性に優れる。
(評価基準)
A:膜厚ブレが、3μm未満であった。
B:膜厚ブレが、3μm以上10μm未満であった。
C:10μm以上の膜厚ブレがあった。
【0067】
3.積層体の内部観察
積層体の内部を、インサイト社製の超音波探査装置IKK−1573Aで観察し、次いで、積層体の内部を180℃で1000時間加熱した後の積層体の内部を観察した。加熱前の積層体中の試験片の接着面積S1と、加熱後の積層体中の試験片の接着面積S2とから、下記式にて、加熱後の試験片の剥離面積を算出し、以下の基準にて評価した。
剥離面積(%)=100−{|S2−S1|/S1}×100
(評価基準)
A:剥離箇所なし(剥離面積:10%以下)
B:やや剥離箇所あり(剥離面積:10%超20%以下)
C:剥離箇所あり(剥離面積:20%超30%以下)
D:剥離箇所が多い(剥離面積:30%超)
【0068】
4.試験片の物性測定
実施例及び比較例の試験片の熱膨張率、貯蔵弾性率、及び室温(25℃)での破断強度を、日立ハイテクサイエンス社製のDMA−7100を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1からわかるように、静電チャック部と加熱部材との間に介在するシートが、層厚10μm以上200μm未満であり、かつショア硬度(A)10〜70のシリコーン樹脂シートであることで静電チャック部と加熱部材との間に介在するシリコーン樹脂シートの耐形状変化性、及び耐熱性に優れ、かつ、静電チャック部の面内温度均一性に優れる静電チャック装置が得られる。
【符号の説明】
【0071】
2 静電チャック部
6 シート材
10 ベース部
50 加熱部材
52 シリコーン樹脂シート
60 絶縁材層
100 静電チャック装置
図1
図2
図3
図4