特許第6572918号(P6572918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6572918
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池及び鉛蓄電池用の電極集電体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/68 20060101AFI20190902BHJP
【FI】
   H01M4/68 A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-15412(P2017-15412)
(22)【出願日】2017年1月31日
(62)【分割の表示】特願2016-509878(P2016-509878)の分割
【原出願日】2014年8月20日
(65)【公開番号】特開2017-73405(P2017-73405A)
(43)【公開日】2017年4月13日
【審査請求日】2017年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-68058(P2014-68058)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】向谷 一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛生
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/073420(WO,A1)
【文献】 特開2003−123768(JP,A)
【文献】 特開2006−155913(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/043331(WO,A1)
【文献】 特開2001−236962(JP,A)
【文献】 特開2004−200028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/68
H01M 4/74
C22C 11/06
C22F 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を負極集電体に保持した負極板と正極活物質を正極集電体に保持した正極板とをセパレータを介して積層した極板群が、電解液とともに電池ケース内に収納されてなる鉛蓄電池であって、
前記正極集電体は、Ca:0.05乃至0.1質量%、Sn:1.2乃至2.2質量%、及びIn:0.002乃至0.03質量%を含有し、不可避不純物として少なくともBi:0.001乃至0.04質量%を含有し、かつ残部がPbである鉛合金からなり、
前記鉛合金の圧下率が、80乃至97.5%であることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記鉛合金は、Ag:0.003乃至0.2質量%をさらに含有する請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
Ca:0.05乃至0.1質量%、Sn:1.2乃至2.2質量%、及びIn:0.002乃至0.03質量%を含有し、不可避不純物として少なくともBi:0.001乃至0.04質量%を含有し、かつ残部がPbである鉛合金からなり、
前記鉛合金の圧下率が、80乃至97.5%であることを特徴とする鉛蓄電池用の電極集電体。
【請求項4】
前記鉛合金は、Ag:0.003乃至0.2質量%をさらに含有する請求項に記載の鉛蓄電池用の電極集電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極板と正極板とがセパレータを介して積層された極板群が、電解液とともに電池ケース内に収納されて構成された鉛蓄電池およびその電極集電体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許第4852869号公報(特許文献1)には、カルシウム、スズを含有する鉛合金(スラブ鋳造体の鉛シート)を用いて鉛蓄電池用の電極格子(電極集電体)を製造する技術が開示されている。この技術では、集電体の格子密度を高める目的で、鉛合金に圧延加工が施された圧延材料が用いられている。
【0003】
また、特開2000−195524号公報(特許文献2)には、Pb−Ca−Sn系の合金に不純物としてBi(ビスマス)を含む鉛合金からなる鉛蓄電池用の格子体(集電体)が開示されている。不純物を含む鉛合金は原料コストが安価であるため、このような原料を用いて鉛蓄電池用の格子体を製造すれば、鉛蓄電池の製造コストを低く抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4852869号公報
【特許文献2】特開2000−195524号公報、段落〔0011〕
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧延材料を用いる集電体では、理論的に、圧延加工の加工度(圧下率)が高くなるほど、集電体の格子密度が高くなるため、電池性能(サイクル寿命等)を向上させることができる。しかしながら、Biを含む鉛合金を用いた集電体では、圧延加工の圧下率を高くすると、粒界腐食が増加し、クリープ耐久性が低下する傾向がある。そのため、Biのような不純物を含む鉛合金を用いて集電体を製造する場合は、従来の技術では圧延加工の圧下率を高くすることに限界があり、電池性能を高くすることができなかった。
【0006】
本発明の目的は、Biを含む鉛合金を用いて集電体を製造する場合でも、圧延加工の圧下率を高くして、電池性能を向上させることができる鉛蓄電池および鉛蓄電池用の電極集電体を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、Biを含む鉛合金を用いて集電体を製造する場合に、圧延加工の圧下率を高くしても、電極集電体の耐久性の低下が小さい鉛蓄電池及び鉛蓄電池用の電極集電体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が改良の対象とする鉛蓄電池は、負極活物質を負極集電体に保持した負極板と正極活物質を正極集電体に保持した正極板とをセパレータを介して積層した極板群を、電解液とともに電池ケース内に収納されて構成された鉛蓄電池である。本発明の鉛蓄電池を構成する正極集電体は、鉛合金で構成されている。この鉛合金は、Ca:0.05乃至0.1質量%、Sn:1.2乃至2.2質量%、及びIn:0.002乃至0.03質量%を含有し、不可避不純物として少なくともBi:0.001乃至0.04質量%を含有し、かつ残部がPbである成分組成を有している。そして、この鉛合金の圧下率、80乃至97.5%の圧下率(加工度)である
【0009】
このような成分組成を備える鉛合金を用いると、極めて高い圧下率(80乃至97.5%の圧下率)で圧延加工を行っても、粒界腐食の発生を抑制することができるため、集電体の耐久性が低下するのを小さくすることができる。言い換えると、Biのような不純物を含む鉛合金を用いる場合でも、従来は実現不可能であった極めて高い圧下率(80乃至97.5%の圧下率)で圧延加工を行うことができる。そのため、従来よりも集電体の格子密度を高くすることができるので、電池性能(サイクル寿命等)を向上させることができる。
【0010】
また、In:0.002乃至0.03質量%に加えさらにAg:0.003乃至0.2質量%を含有することにより、強度向上(粒界腐食の発生を抑制する効果)を損ねることなく、鉛合金の延性・展性(加工性)を高めることができる。すなわち、Biを含む鉛合金にInとAgを一緒に含有させると、高い耐久性と良好な加工性を同時に備える正極集電体を得ることができる。
【0011】
鉛合金に対する圧延加工は、好ましくは、鉛合金が最大強度(引張強度の相対値)に到達したときの鉛合金の最大伸び率に対して、最大強度に到達した後さらに圧延加工を施したときの鉛合金の最大伸び率が150%以上になるまで行う。ここで、「鉛合金が最大強度(引張強度の相対値)に到達したときの鉛合金の最大伸び率に対して、最大強度に到達した後さらに圧延加工を施したときの鉛合金の最大伸び率が150%以上」とは、鉛合金に圧延加工を施した際に、まず最大強度(引張強度の相対値)に到達したときの、圧延加工前と比較した鉛合金の伸び率に対して、最大強度に到達した後さらに圧延加工を施したときの、鉛合金の伸び率が150%であることを意味する。このように鉛合金が硬化する前に圧延加工を施すことにより、結晶粒界へ歪みが集中するのを低減することができるため、正極集電体の耐久性の低下を確実に小さくすることができる。
【0012】
また、本発明で用いる鉛合金には、さらにエキスパンド加工を施すことができる。従来の鉛合金にエキスパンド加工を行うと、加工硬化によって鉛合金が硬くなる反面、鉛の再結晶化(再結晶温度は0〜60℃)が起こって鉛合金の強度が低下する。これに対して、本発明のような成分組成を有する鉛合金に高い圧下率で圧延加工して得た圧延材料に対して、エキスパンド加工を行っても、再結晶化を抑制しながら加工硬化が生じるため、集電体の強度低下を防ぐことができる。なお、エキスパンド加工の加工性を考慮すると、エキスパンド加工を施す前の鉛合金の引張強度が52MPa以下のときにエキスパンド加工を行うのが好ましい。なお、エキスパンド加工の代替加工方法として打ち抜き加工を施しても良いのは勿論である。
【0013】
なお、上述の鉛蓄電池の一部を構成する正極集電体は、本発明の鉛蓄電池用の電極集電体を構成することができる。また、上述の構成を備える電極集電体である限り、本発明の鉛蓄電池用の電極集電体は、正極集電体に限定されるものではなく、負極集電体を対象とすることができるのは勿論である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施の形態に用いた鉛蓄電池は、特に図示しないが、公知の技術を用いることにより、負極活物質を負極集電体に保持した負極板と正極活物質を正極集電体に保持した正極板とをセパレータを介して積層した極板群を作製し、この極板群を電解液とともに電池ケース内に収納して構成した鉛蓄電池である。また、本発明の実施の形態に用いた電極集電体は、本例の鉛蓄電池の正極板を構成する正極集電体である。本例の鉛蓄電池を用いて、各種の試験を行った。
【0015】
[圧下率(圧延加工性)]
本例の試験で用いる正極集電体を次のように作製した。まず、表1に示す合金組成を有する鉛合金のスラブを準備し、これを急冷して0℃で保管した。この0℃に維持された鉛合金のスラブを、ローラにより所定の厚さに圧延加工した。具体的には、圧延加工前のスラブの厚さ(20mm)と圧延加工後のスラブの厚さ(mm)から加工度(圧下率)(%)を算出して、圧下率と加工性の関係を調べた。その結果を表1に示す。
【0016】
【表1】
表1から、Bi(不純物)を実質的に含まない比較例1は、圧下率を高くしても加工性は良好であった。また、Bi(不純物)を含む比較例2は、Biを含むこと以外は比較例1と同じ成分であり、圧下率が高くなると加工性は不安定であった。そこで、Biを含む場合にCa、Sn、Ag、Inの組成比を表1に示すように調整したところ、圧下率が0〜97.5%の範囲では加工性は良好であった(比較例3〜10、実施例1〜7)。これに対して、圧下率が97.75%のときは加工性が不安定になり(比較例11)、圧下率が98%のときは加工不能であった(比較例12)。
【0017】
[引張強度]
上記のように圧延加工して得た正極集電体を0℃で保管しておき、次いで60℃で200時間の時効硬化を行った後に引張強度を測定した。引張強度は、島津製作所製のオートグラフAGS−X5KNを用い、JIS−13Bに基づく試験片を10mm/minの速度で測定した。引張強度は、圧下率が0%場合(比較例3)の引張強度を100としたときの相対値(最大強度)として示した。その結果は、表1に示されている。
【0018】
表1では、最大強度が160以上で良好と評価した。その結果、圧下率が80%〜97.75%のときに最大強度は良好であった(実施例1〜7、比較例11)。これに対して、圧下率が0%〜75%のときの最大強度は160未満となり(比較例3〜10)、圧下率が98%では最大強度は算出できなかった(比較例12)。
【0019】
以上より、上述の圧延加工性と最大強度との兼ね合いから、圧下率が80〜97.5%の範囲で、良好な加工性と最大強度が両立した(実施例1〜7)。
【0020】
[最大強度の伸び率(限界伸び)]
表1に示されるように、圧延加工性および引張強度から、圧下率は80〜97.5%の範囲(実施例1〜7)が良好であることが判った。実施例1〜7では、鉛合金の引張強度が最大強度に到達したときの最大強度に対する、圧延加工時の最大強度の伸び率(表1の限界伸び)が150%以上のときに圧延加工が終了するように、鉛合金の圧延加工を行った。具体的には、まず52MPaで冷間圧延を行い、その後85MPaで熱処理を行った。このような条件で鉛合金の圧延加工を行うと、鉛合金が硬化する前に圧延加工が施され(結晶粒界へ歪みが集中するのを低減することができるため)、正極集電体の耐久性の低下を確実に小さくすることができる。
【0021】
[電池特性試験]
以下のように鉛蓄電池を製造し、電池特性の各試験を行った。
【0022】
(正極板)
後述する表2及び表3に示す組成を有する長辺300mm(幅方向)、短辺200mm、厚さ2.5mmの複数種類の打ち抜き格子を正極集電体として用いた。
【0023】
一酸化鉛を75%含む鉛粉90部に40質量%の硫酸10部と適度の水を加えて正極活物質ペーストを作製した。そして、上記の正極集電体に正極活物質ペーストを充填した後、これを温度80℃、相対湿度98%以上の雰囲気中に6時間放置した後、温度60℃、相対湿度98%以上の雰囲気中に18時間放置し、更に温度80℃、相対湿度40%の雰囲気中で72時間放置して正極板を得た。
【0024】
(負極板)
Pb−0.08質量%Ca−0.8質量%Sn合金からなる長辺300mm(幅方向)、短辺200mm、厚さ1.5mmのエキスパンド格子を負極集電体として用いた。
【0025】
一酸化鉛を75質量%含む鉛粉に、その0.3質量%のアセチレンブラック(カーボンブラック)を添加し、その90質量%に濃度40%の硫酸10質量%、水及び負極添加剤を加えて作った負極ペーストを上記の負極集電体に充填した。この極板を温度40℃、相対湿度90%の雰囲気中に8時間放置した後、温度80℃、相対湿度40%の雰囲気中に16時間放置して負極板を得た。
【0026】
(セパレータ)
密度0.18g/cm3、幅310mm、長さ210mm、厚さ1.4mmのガラス紙状体を用いてセパレータを作った。
【0027】
(極板群)
正極板2枚と負極板3枚と上記のセパレータを正極板と負極板の間に2枚重ねて極板群を作製した。
【0028】
(鉛蓄電池)
25質量%の希硫酸を使用して電槽内で化成を行い、仕上がりが35%になるように(希硫酸溶液)調整して電解液を作り、上記の極板群と電解液を組み合わせて鉛蓄電池を組み立てた。
【0029】
上記のように製造した鉛蓄電池を用い、以下の種々の電池性能を評価した。
【0030】
[サイクル寿命]
次に、集電体の合金組成がサイクル寿命に与える影響を調べた。厚さが20mmのスラブを厚さが1.5mmになるまで圧延加工した表2及び表3に示す組成を有する正極集電体(圧下率92.5%)を用いて作製した鉛蓄電池について、高温環境でのサイクル寿命特性の試験を行った。具体的には、75℃の恒温槽の中で、充電電圧14.8V(ただし14.8Vに達する前の電流を25Aに制限した)、充電時間10分、25Aの定電流放電、放電時間4分とするサイクルを1サイクルとし、480サイクル毎に300Aの定電流放電を30秒行ったときの性能確認を行った。この試験では、30秒間の放電中に電圧が7.2V以下になる時点で電池が寿命を迎えたと判断した。サイクル寿命は、現行品(不純物としてBiを実質的に含まない鉛合金を用いた比較例23)のサイクル数を100としたときのサイクル数の相対比(%)にて示した(表2及び表3参照)。
【0031】
【表2】
【0032】
【表3】
表2及び表3より、まず、不純物としてBiを実質的に含まない鉛合金(Biの含有量が5ppm以下の場合)を用いた場合(比較例13、18、23、28、33、39)は、サイクル数(電池寿命)は100%であった(電池特性が維持された)。また、不純物としてBiを実質的に含む鉛合金を用いた場合であって、Caの含有量が0.05乃至0.1質量%の範囲外である場合、Snの含有量が1.2乃至2.2質量%の範囲外である場合、およびInの含有量が0.002乃至0.03質量%の範囲外である場合のうち、少なくとも1つの条件を満たすとき(比較例14〜17、19〜22、24〜27、29〜32、34〜38、40〜59)は、サイクル数は100%である(電池特性が維持される)か、100%を下回った(電池特性が低下した)。
【0033】
これに対して、不純物としてBiを含む鉛合金を用いた場合であっても、Caの含有量が0.05乃至0.1質量%の範囲内であり、Snの含有量が1.2乃至2.2質量%の範囲内であり、かつInの含有量が0.002乃至0.03質量%の範囲内である場合(実施例8〜38)は、サイクル数はいずれも100%を超えた(電池特性が向上した)。
【0034】
[クリープ耐久性(腐食伸び)及び最大強度]
上述のサイクル寿命特性の試験で寿命に達した電池から正極板を取り出し、集電体の腐食伸びを測定した。腐食伸びは、長方形の集電体の四隅の点と4辺の各辺の中点とを特定し、集電体の各辺の距離(4つの距離)と、対向する中点間の距離(2つの距離)とを測定する。サイクル寿命特定の試験前に測定した6つの距離をLa0〜Lf0とし、サイクル寿命特性の試験後に測定した6つの距離をLat〜Lftとしたときに、Σ(Lnt−Ln0)/n(%)を伸び率として示した結果は、上記の表2及び表3に示されている。腐食伸びは、伸び率が3.7未満ならクリープ耐久性が維持されたものと評価し、腐食伸びが3.7以上の場合はクリープ耐久性が維持できなかったものと評価した。
【0035】
表2及び表3より、不純物としてBiを実質的に含まない鉛合金を用いた場合(比較例13、18、23、28、33、39)は、腐食伸びは3.7以上となった(クリープ耐久性が維持できなかった)。不純物としてBiを含む鉛合金を用いた場合のうち、比較例14〜17、19〜22、24〜27、29〜32、34〜38、40〜59(組成含有が本発明の範囲外)でも腐食伸びが3.7以上となった(クリープ耐久性が維持できなかった)。これに対して、実施例8〜38(本発明の範囲内)では腐食伸びが3.7未満となった(クリープ耐久性が維持された)。
【0036】
なお、最大強度については、不純物としてBiを実質的に含まない鉛合金を用いた場合(比較例23、28、33、39)は160以上であった。また、不純物としてBiを実質的に含む鉛合金を用いた場合のうち比較例14〜17、19〜22(組成含有が本発明の範囲外)の最大強度はいずれも160を下回った。これに対して、実施例8〜38(組成含有が本発明の範囲内)の最大強度はいずれも160を上回った。
【0037】
表2及び表3の結果から、腐食伸び(クリープ耐久性)、サイクル寿命(電池特性)、加工性及び最大強度のいずれも良好な鉛合金の成分組成は、Ca:0.05乃至0.1質量%、Sn:1.2乃至2.2質量%、及びIn:0.002乃至0.03質量%を含有し、不可避不純物として少なくともBi:0.001乃至0.04質量%を含有し、かつ残部がPbとなる成分組成の場合であることが判った(実施例8〜38)。このうち、さらにAg:0.003乃至0.2質量%を含有する場合(実施例18〜37)では、延性・展性(加工性)が極めて良好で、引張強度(最大強度)も良好であることが判った。なお、表2及び表3において加工性の評価は、良好な場合は○、不安定な場合は△、加工不能の場合は×として評価した。
【0038】
本実施の形態で用いる鉛合金では、さらにエキスパンド加工が施されている(ただし、エキスパンド加工を施す前の鉛合金の引張強度は52MPaである)。本実施の形態のように、上記の成分組成を備え、かつ非常に高い圧下率で圧延加工を施した鉛合金にエキスパンド加工を施しても、加工硬化は生じるものの、鉛合金の再結晶化が起こり難くなるため、集電体の強度低下を防ぐことができる。
【0039】
【表4】
実施例1〜38では、Biの含有量が50ppmの鉛合金を用いたが、表4に示すように、鉛合金のBi含有量が0.001〜0.04質量%(10〜400ppm)の範囲にある鉛合金を用いた場合(実施例39〜44)は、実施例1〜38と同様の物理的特性(加工性、最大強度、腐食伸びおよび電池寿命)を示す傾向があることが判った。なお、Biを実質的に含まない場合(比較例60、62)は、表2及び表3の比較例13、18、23、28、33、39と同様に、サイクル数(電池寿命)は維持されている。また、Biの含有量が400ppmを超えると、最大強度が低下し(最大強度は160未満となり)、サイクル数が減少する(サイクル数は100未満となる)。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態および実験例に限定されるものではない。例えば、本発明の電極集電体として、本例では正極集電体を用いたが、本発明の構成を備える限り、負極集電体を対象としても良いのは勿論である。すなわち、上述の実施の形態および実験例に記載されている部材の寸法、材料、形状等は、特に記載がない限り、本発明の技術的思想に基づく変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、Ca:0.05乃至0.1質量%、Sn:1.2乃至2.2質量%、及びIn:0.002乃至0.03質量%を含有し、不可避不純物として少なくともBi:0.001乃至0.04質量%を含有し、かつ残部がPbである成分組成を有する鉛合金の圧下率、80乃至97.5%の圧下率であることにより、集電体の格子密度を高くして、しかも集電体の強度を高くすることができる。そのため、本発明によれば、電池性能(サイクル寿命等)を向上させることができる上に、電池の耐久性低下を小さくすることができる。