(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記溶媒(D)が、1,2−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオールまたは3−メチル−1,4−ブタンジオールのいずれかを含む請求項9のいずれか1項に記載のインク。
前記溶媒(D)が、1,2−プロパンジオールと、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及び3−メチル−1,4−ブタンジオールからなる群より選ばれる1種以上とを含有する請求項10に記載のインク。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のインクは、中糖化還元水あめと水性媒体とを含有することを特徴とする。
【0016】
はじめに、中糖化還元水あめについて説明する。
【0017】
前記中糖化還元水あめは、一般的に食品や化粧品の保湿性や保存性を向上させることを目的として使用される。本発明では、インクに前記中糖化還元水あめを含有させることによって、インクジェット印刷法で印刷する際のノズル部分の保湿性を向上させ、その結果、吐出安定性とセット性とに優れ、高光沢の印刷物の製造に使用可能なインクを得ることができる。
【0018】
還元水あめは、水あめに含まれるグルコース等を還元(水素添加)したものを指す。
【0019】
前記還元水あめとしては、例えば前記グルコースの末端構造を還元することにより得られる単糖の糖アルコール、二糖アルコールや三糖アルコールや四糖アルコールや五糖以上のアルコール等の多糖の糖アルコール及びそれらの混合物が挙げられ、通常は2以上の混合物であるものを使用することができる。
【0020】
還元水あめは、原料となる水あめの糖化度によって、一般に高糖化還元水あめ、中糖化還元水あめ、低糖化還元水あめに分類され、本発明では、中糖化還元水あめを使用する。
【0021】
高糖化還元水あめとしては、一般に高糖化還元水あめの全量に対して単糖アルコールと二糖アルコールとの合計が80質量%以上のものであり、低糖化還元水あめは、一般に低糖化還元水あめの全量に対して五糖以上の糖アルコールの合計が50質量%以上である。よって、中糖化還元水あめとしては、上記した高糖化還元水あめ及び低糖化還元水あめ以外のものを使用することが好ましい。
【0022】
中糖化還元水あめとしては、より具体的には、中糖化還元水あめの全量に対する単糖アルコール及び二糖アルコールの合計の含有割合が好ましくは0.5質量%以上80質量%未満、より好ましくは0.5質量%以上60質量%以下であり、かつ、五糖以上の糖アルコールの合計の含有割合が好ましくは0.5質量%以上50質量%未満、より好ましくは0.5質量%以上40質量%以下のものが挙げられる。
【0023】
前記中糖化還元水あめとしては、中糖化還元水あめの全量に対する単糖の糖アルコールの含有割合が好ましくは0.1質量%〜15質量%、より好ましくは0.1質量%〜10質量%であり、かつ、二糖アルコールの含有割合が好ましくは0.1質量%以上65質量%未満、より好ましくは0.1質量%以上60質量%以下であるものを使用することができる。
【0024】
前記中糖化還元水あめの全量に対する三糖の糖アルコールの含有割合は、好ましくは5質量%〜60質量%であり、より好ましくは10質量%〜55質量%が挙げられる。前記中糖化還元水あめの全量に対する四糖の糖アルコールの含有割合は、好ましくは0.1質量%〜30質量%であり、より好ましくは0.5質量%〜13質量%が挙げられる。
【0025】
前記中糖化還元水あめとしては、より具体的には、二糖アルコールとしてマルチトールを含有し、三糖アルコールとしてマルトトリイトール、四糖アルコールとしてマルトテトライトール等を含有するものを使用することができる。
【0026】
前記中糖化還元水あめとしては、例えば二糖アルコール及び三糖アルコールの質量割合が多いものを使用することが、難吸収性の被記録媒体へのセット性とインクジェット吐出安定性を両立する効果を奏するうえで特に好ましい。
【0027】
前記中糖化還元水あめは、前記インクの全量に対して、1質量%〜10質量%の範囲で使用することが好ましく、3質量%〜7質量%の範囲で使用することが、難吸収性の被記録媒体へのセット性と吐出安定性とに優れ、高光沢の印刷物を製造するうえでより好ましい。
【0028】
(水性媒体)
本発明のインクは、前記中糖化還元水あめのほかに、溶媒として水性媒体を含有するものを使用する。
【0029】
前記水性媒体としては、水を単独、または、水と後述する水溶性有機溶剤との混合溶媒を使用することができる。
【0030】
前記水としては、具体的にはイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を使用することができる。
【0031】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールおよびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、および、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールや2−ブタノール等のブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;スルホラン;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類などを、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0032】
また、前記水溶性有機溶剤としては、前記したものの他にインクの速乾性を高めるうえで、沸点が100℃以上200℃以下であり、かつ20℃での蒸気圧が0.5hPa以上である水溶性有機溶剤を用いることができる。
【0033】
前記範囲の沸点及び蒸気圧を有する水溶性有機溶剤としては、例えば3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチルラクテート等が挙げられ、これらのものを2種以上組み合わせ使用することができる。
【0034】
前記水溶性有機溶剤のなかでも、インクの良好な分散安定性の維持や、例えばインクジェット装置が備えるインク吐出ノズルの、前記インクに含まれる溶剤の影響による劣化を抑制するうえで、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)の水素結合項δ
Hが6〜20の範囲であるような水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
【0035】
前記範囲のHSPの水素結合項を有する水溶性有機溶剤としては、具体的には、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、より好ましくは3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールである。
【0036】
水性媒体としては、本発明のインクをインクジェット印刷法で印刷する際の良好な吐出安定性を確保するために、グリセリン、ジグリセリンおよび/またはこれらの誘導体である有機溶剤として、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジグリセリン脂肪酸エステル、一般式(1)で表されるポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテル、一般式(2)で表されるポリオキシエチレン(n)ポリグリセリルエーテル等を使用することができる。これらのものを2種以上同時に用いてもよい。本発明においては、グリセリン及びn=8〜15のポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテルを選択することが特に好ましい。
【0038】
一般式(1)及び一般式(2)中のm、n、o及びpは、各々独立して1〜10の整数を示す。
【0039】
本発明のインクは、前記水性媒体として、ハンセン溶解度パラメータの極性項が7以上、かつ、水素結合項が15以上である溶媒(D)を含有するものを使用することが、インクジェット方式で吐出する場合に求められるレベルの良好な吐出安定性の点で優れるため好ましい。
【0040】
前記溶媒(D)としては、前記極性項が好ましくは7〜15、より好ましくは7〜12の範囲であり、かつ、前記水素結合項が好ましくは15〜30、より好ましくは17〜22の範囲のものを使用することが、インクジェット方式で吐出する場合に求められるレベルの優れた吐出安定性を備えたインクを得るうえで好ましい。
【0041】
前記溶媒(D)としては、例えば1,2−プロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオールまたは3−メチル−1,4−ブタンジオールの1種または2種以上組合せ使用することができる。
【0042】
なかでも、前記溶媒(D)としては、1,2−プロパンジオールと、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール及び3−メチル−1,4−ブタンジオールからなる群より選ばれる1種以上とを組合せ使用することが、インクジェットヘッドのへのダメージが少なく、かつ被記録媒体へのインクのぬれ性を向上し、その結果、セット性や密着性をより一層向上させるうえでより好ましい。
【0043】
前記溶媒(D)は、本発明のインクの全量に対し、15質量%〜40質量%の範囲で含まれることが好ましく、15質量%〜25質量%の範囲で含まれることが、インクジェット方式で吐出する場合に求められるレベルの良好な吐出安定性の点で優れるため好ましい。
【0044】
前記溶媒(D)等の前記水性媒体は、本発明のインク全量に対し15質量%〜50質量%の範囲で使用することが好ましく、15質量%〜30質量%の範囲で使用することが、セット性に優れ、インクジェット方式で吐出する場合に求められるレベルの良好な吐出性を備え、鮮明な印刷物の製造に使用できるためより好ましい。
【0045】
(バインダー(A))
本発明のインクは、前記中糖化還元水あめ及び水性媒体の他に、必要に応じてバインダーを含むものを使用することができる。
【0046】
前記バインダー(A)としては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、アミド樹脂等を使用することができる。なかでも、前記バインダー(A)としてはアクリル樹脂を使用することが、印刷物の堅牢性を高めるうえで好ましい。
【0047】
前記アクリル樹脂としては、例えば水分散性アクリル樹脂、水溶性アクリル樹脂等を使用することができ、本発明のインクが水性インクである場合には、水分散性アクリル樹脂を使用することが、本発明のインクをインクジェット印刷に適用した際に良好な吐出安定性を付与できるため好ましい。
【0048】
前記アクリル樹脂としては、例えば単量体成分を重合させることによって得られるものを使用することができる。
【0049】
前記単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸やそのアルカリ金属塩、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリルアマイド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアマイド等のアミド基を有するアクリル系単量体、(メタ)アクリロニトリル、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などのビニルスルホン酸化合物、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を使用することができる。
【0050】
前記単量体の重合方法としては、溶液重合法や乳化重合法等が挙げられ、乳化重合法を採用することが好ましい。
【0051】
また、本発明のインクとしては、より一層優れたセット性と被記録媒体への密着性とを備えたインクを得るうえで、前記バインダー(A)と、後述する化合物(B)とを組合せ含有するインクを使用することが好ましい。その際、前記バインダー(A)としては、前記化合物(B)と反応し得る官能基を有するバインダーを使用することが好ましく、なかでも、カルボニル基を有するバインダー(a)を使用することがより好ましい。
【0052】
前記カルボニル基としては、具体的にはアルデヒド基、ケトン基、アミド基、カルボキシル基等が挙げられ、ケトン基であることが好ましい。
【0053】
前記カルボニル基は、本発明のインクが被記録媒体の表面に印刷され、インク中の溶媒が揮発等した後に、前記化合物(B)が有する官能基と反応する。これにより、優れたセット性と密着性とを備えたインクを得ることができる。
【0054】
前記バインダー(a)としては、例えばアルデヒド基を有するアクリル重合体、ケトン基を有するアクリル重合体、アミド基を有するアクリル重合体、カルボキシル基を有するアクリル重合体等が挙げられ、ケトン基を有するアクリル重合体を使用することが、一般に難付着性のポリオレフィンフィルムやポリエチレンフィルム等の被記録媒体に対してより一層優れた密着性を付与するうえで好ましい。
【0055】
前記バインダー(a)を製造する場合には、前記単量体としてカルボニル基を有する単量体を使用することが好ましく、カルボニル基を有する単量体としては、例えばダイアセトンアクリルアミド、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート等を使用することができ、ダイアセトンアクリルアミドを使用することが、被記録媒体への密着性をより一層向上させるうえで好ましい。
【0056】
また、前記バインダー(A)としては、いわゆるコアシェル型の重合体を使用することができる。コアシェル型の重合体としては、前記カルボニル基をコア部またはシェル部のいずれか一方または両方に有する重合体を使用することが好ましい。
【0057】
前記コアシェル型の重合体としては、前記したなかでも、コア部にアミド基等のカルボニル基を有するコアシェル型の重合体を使用することが、前記難付着性の被記録媒体に対してより一層優れた密着性と、インクジェット方式で吐出する場合に求められるレベルの優れた吐出安定性とを備えたインクを得るうえで好ましい。
【0058】
より具体的には、前記コアシェル型重合体としては、ダイアセトンアクリルアミドを含む単量体成分のアクリル重合体を含むコア部と、任意のアクリル重合体を含むシェル部とを有するコアシェル型アクリル重合体を使用することが、インクジェット方式で吐出する場合に求められるレベルのより一層優れた吐出安定性を備えたインクを得るうえで好ましい。
【0059】
前記バインダー(A)としては、ガラス転移温度が−12℃〜25℃の範囲のものを使用することが好ましく、8℃〜25の範囲のものを使用することが、前記難付着性の被記録媒体に対するより一層優れた密着性と、インクジェット方式で吐出する場合に求められるレベルの優れた吐出安定性とを備えたインクを得るうえで特に好ましい。
【0060】
前記バインダー(A)は、本発明のインクの全量に対して1質量%〜10質量%の範囲で使用することが好ましく、3質量%〜6質量%の範囲で使用することが、前記難付着性の被記録媒体に対してより一層優れた密着性を備えたインクを得るうえで特に好ましい。
【0061】
(化合物(B))
前記化合物(B)としては、前記バインダー(A)が有するカルボニル基をはじめとする官能基と反応し得る構造を有するものを使用することができる。
【0062】
前記化合物(B)を含有するインクは、前記被記録媒体の表面に着弾し、インクに含まれる水性媒体等の溶媒が揮発した後に、前記バインダー(A)が有するカルボニル基と、前記化合物(B)が有する前記構造とが脱水縮合等することで架橋し、前記被記録媒体の表面に定着する。これにより、セット性や密着性に優れた印刷物を得ることができる。
【0063】
前記構造としては、例えばヒドラジン構造、ヒドラジノ構造等が挙げられ、ヒドラジン構造であることが、前記被記録媒体への密着性とセット性に優れたインクを得るうえで好ましい。
【0064】
前記化合物(B)としては、具体的には、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、サリチル酸ジヒドラジド等が挙げられ、アジピン酸ジヒドラジドを使用することが、前記被記録媒体への密着性に優れたインクを得るうえで好ましい。
【0065】
前記化合物(B)は、本発明のインクの全量に対して0.003質量%〜0.5質量%の範囲で使用することが好ましく、0.01質量%〜0.5質量%の範囲で使用することがより一層優れた基材への密着性を奏するうえで好ましい。
【0066】
また、前記化合物(B)は、前記バインダー(A)の全量に対して0.1質量%〜5質量%の範囲で使用することが、より一層優れた基材への密着性を奏するうえで好ましい。
【0067】
前記カルボニル基等の官能基を有するバインダー(A)と前記化合物(B)との質量割合[バインダー(A)/化合物(B)]は、20/1〜1000/1となる範囲で使用することが好ましく、100/1〜500/1の範囲で使用することが、より一層セット性に優れたインクを得るうえでより好ましい。
【0068】
(色材)
本発明のインクとしては、必要に応じて色材を含有するものを使用することができる。
【0069】
前記色材としては、顔料や染料等を使用することができ、なかでも、耐候性等に優れた印刷物を製造するうえで、顔料を使用することが好ましい。
【0070】
前記顔料としては、例えば有機顔料または無機顔料を使用することができる。
【0071】
また、前記顔料としては、未酸性処理顔料、酸性処理顔料、顔料が樹脂で被覆されたものを使用することもできる。
【0072】
前記無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法またはサーマル法等の方法で製造されたカーボンブラック等を使用することができる。
【0073】
前記有機顔料としては、例えばアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、レーキ顔料(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0074】
前記顔料のうち、ブラックインクに使用可能なカーボンブラックとしては、三菱化学株式会社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、 No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等を使用することができる。
【0075】
また、イエローインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0076】
また、マゼンタインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、269、282等、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0077】
また、シアンインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0078】
また、白インクに使用可能な顔料の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩、等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等があげられる。これらは、表面処理されていてもよい。
【0079】
前記顔料は、インク中に安定に存在させるために、水性媒体に良好に分散させる手段を講じてあることが好ましい。
【0080】
前記手段としては、例えば
(i)顔料を顔料分散剤と共に、後述する分散方法で水性媒体中に分散させる方法
(ii)顔料の表面に分散性付与基(親水性官能基および/またはその塩)を直接またはアルキル基、アルキルエーテル基またはアリール基等を介して間接的に結合させた自己分散型顔料を水性媒体に分散および/または溶解させる方法が挙げられる。
【0081】
前記自己分散型顔料としては、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施し、分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させたものを使用することができる。前記自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理等や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法によって製造することができる。
【0082】
自己分散型顔料を含有する水性インクは、前記顔料分散剤を含む必要がないため、顔料分散剤に起因する発泡等がほとんどなく、吐出安定性に優れたインクを調製しやすい。また、自己分散型顔料を含有する水性インクは、取り扱いが容易で、顔料分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度の高い印刷物の製造に使用することができる。
【0083】
自己分散型顔料としては、市販品を利用することも可能であり、そのような市販品としては、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上、商品名;キヤボット社製)が挙げられる。
【0084】
前記色材としては、前記インクの全量に対して1質量%〜20質量%の範囲で使用することが好ましく、2質量%〜10質量%の範囲で使用することが、インク中における前記顔料等の色材の分散安定性をより一層向上させるうえで好ましい。
【0085】
(顔料分散剤)
前記顔料分散剤は、前記色材として顔料を使用する場合に、好適に使用することができる。
【0086】
前記顔料分散剤としては、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び、前記水性樹脂の塩を使用することができる。前記顔料分散剤としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BASF社製のEFKAシリーズ、日本ルーブリゾール株式会社製のSOLSPERSEシリーズ、エボニック社製のTEGOシリーズ等を使用することができる。
【0087】
前記顔料分散剤としては、ブロック重合体やランダム重合体を使用することができる。また、前記ブロック重合体としては、リビングアニオン重合法や、リビングラジカル法で製造したものを使用することができる。具体的には一般式1で示されるものを使用することが好ましい。
【0088】
リビングアニオン重合によって製造される前記ポリマーは、具体的には、一般式(3)で表されるポリマーである。
【0090】
一般式(3)中、A
1は有機リチウム開始剤残基を表し、A
2は芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックを表し、A
3はアニオン性基を含むポリマーブロックを表し、nは1〜5の整数を表し、Bは芳香族基またはアルキル基を表す。
【0091】
一般式(3)中、A
1は有機リチウム開始剤残基を表す。有機リチウム開始剤として具体的にはメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム(n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、iso−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなど)、ペンチルリチウム、へキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトシキメチルリチウムなどのアルキルリチウム;ベンジルリチウム、α−メチルスチリルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、フェニルエチルリチウムなどのフェニルアルキレンリチウム;ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウムなどのアルケニルリチウム;エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウムなどのアルキニルリチウム;フェニルリチウム、ナフチルリチウムなどのアリールリチウム;2−チエニルリチウム、4−ピリジルリチウム、2−キノリルリチウムなどのヘテロ環リチウム;トリ(n−ブチル)マグネシウムリチウム、トリメチルマグネシウムリチウムなどのアルキルリチウムマグネシウム錯体などが挙げられる。
【0092】
前記一般式(3)中、A
2は疎水性基を有するポリマーブロックを表す。A
2は、前述の通り適度な溶解性のバランスのバランスを取る目的の他、顔料と接触したときに顔料への吸着の高い基であることが好ましく、A
2は芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックであることが好ましい。
芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックとは、具体的には、スチレン系モノマー等の芳香族環を有するモノマーや、ビニルピリジン系モノマー等の複素環を有するモノマーを単独重合または共重合して得たホモポリマーまたはコポリマーのポリマーブロックである。
【0093】
芳香環を有するモノマーとしては、スチレン、p−tert−ブチルジメチルシロキシスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン、p−tert−(1−エトキシメチル)スチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−フロロスチレン、α−メチルスチレン、p−メチル−α−メチルスチレン、などのスチレン系モノマーや、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどがあげられる。
【0094】
また、複素環を有するモノマーとしては、例えば2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニルピリジン系モノマーを単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0095】
前記一般式(3)中、A
3はアニオン性基を含むポリマーブロックを表す。A
3は、前述の通り適度な溶解性を与える目的の他、顔料分散体となったときに水中で分散安定性を付与する目的がある。
前記ポリマーブロックA
3におけるアニオン性基は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基または燐酸基等があげられる。なかでも、カルボキシル基がその調製やモノマー品種の豊富さ入手し易さから好ましい。また2つのカルボキシル基が分子内または分子間において脱水縮合した酸無水基となっていてもよい。
【0096】
本発明のインクは、前記成分のほかに必要に応じて、前記カルボニル基を有しないバインダー、湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等のその他の添加剤を含有するものを使用することができる。
【0097】
前記カルボニル基を有しないバインダーとしては、例えばポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、デキストラン、デキストリン、カラーギーナン(κ、ι、λ等)、寒天、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を単独または2以上を組み合わせ使用することができる。
【0098】
前記湿潤剤は、インクがインク吐出ノズルで乾燥し固着することを防止するうえで使用することができる。前記湿潤剤は、本発明のインクの全量に対して3質量%〜50質量%であることが好ましい。
【0099】
前記湿潤剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、尿素、エチレン尿素、2-ヒドロキシエチル尿素等が挙げられる。
【0100】
前記浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。前記浸透剤の含有量は、本発明のインクの全量に対して3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0101】
前記界面活性剤は、本発明のインクの表面張力を低下させるなどすることでインクのレベリング性を向上させるうえで使用することができる。
【0102】
前記界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0103】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0104】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。中でもアセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物が、被記録媒体に対するインク液滴の接触角を低減し、良好な印刷物を得られることからより好ましい。
【0105】
その他の界面活性剤としては、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0106】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7〜20の範囲であることが好ましい。
【0107】
前記界面活性剤はインクの全質量に対し、0.001質量%〜2質量%の範囲で使用することが好ましく、0.001質量%〜1.5質量%の範囲で使用することより好ましく、0.01質量%〜1質量%の範囲で使用することが、より一層優れたセット性と耐磨耗性とを備えた印刷物を製造可能なインクを得るうえでさらに好ましい。
【0108】
(インクの製造方法)
本発明のインクは、前記中糖化還元水あめと水性媒体と、必要に応じてバインダー(A)や前記化合物(B)や溶媒(D)や色材や顔料分散剤等の任意成分を混合することによって製造することができる。
【0109】
前記混合の際には、例えば、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等の分散機を使用することができる。
【0110】
また、前記インクの製造方法としては、例えば<1>前記顔料分散剤と、前記顔料等の色材と必要に応じて溶媒(D)等とを混合することで色材を高濃度で含有する色材分散体aを製造する工程、<2>前記中糖化還元水あめとバインダー(A)と前記化合物(B)と必要に応じて溶媒(D)等とを混合することによって組成物bを製造する工程、<3>前記組成物bと前記水性媒体等とを混合し組成物cを製造する工程、及び、<4>前記色材分散体aと前記組成物cとを混合する工程を経ることによって製造する方法が挙げられる。
【0111】
前記方法で得られたインクは、必要に応じて遠心分離処理や濾過処理を行うことが、インク中に混入した不純物を除去するうえで好ましい。
【0112】
(インクの物性)
本発明のインクとしては、32℃の粘度が、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは3.0mPa・s以上、更により好ましくは5.0mPa・s以上である。また、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9.0mPa・s以下、更に好ましくは7.0mPa・s以下である。前記範囲の粘度を有するインクであれば、例えばインクジェット方式でインクを吐出する際に、良好な吐出安定性を維持することが可能となる。
【0113】
本発明のインクのpHは、インクの保存安定性及び吐出性を向上させ、インク非吸収性または難吸収性の被記録媒体に印刷した際のドット径の広がり、印字濃度、耐擦過性を向上させるうえで、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.5以上、更により好ましくは8.0以上である。前記インクのpHの上限は、インクの塗布または吐出装置を構成する部材(例えば、インク吐出ノズル、インクの流路等)の劣化を抑制し、かつ、インクが皮膚に付着した場合の影響を小さくするうえで、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更により好ましくは10.0以下である。
【0114】
(被記録媒体)
本発明のインクは、複写機で一般的に使用されているコピー用紙(PPC紙)等のインク吸収性に優れた被記録媒体、インクの吸収層を有する被記録媒体、インクの吸収性を全く有しない非吸収性の被記録媒体、または、インクの吸水性の低い難吸収性の被記録媒体に印刷することが可能である。とりわけ、本発明のインクは、インク非吸収性または難吸収性の被記録媒体に対して印刷した場合であっても、セット性や耐摩耗性に優れた印刷物を得ることができる。
【0115】
前記非吸収性または難吸収性の被記録媒体としては、被記録媒体と純水との接触時間100m秒における前記被記録媒体の吸水量が10g/m
2以下である被記録媒体を、本発明のインクと組み合わせ使用することが、より一層優れた耐摩耗性を備えた印刷物を得るうえで好ましい。
【0116】
なお、前記の吸水量は、自動走査吸液計(熊谷理機工業(株)社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて、純水の接触時間100msにおける転移量を測定し、100m秒の吸水量とした。測定条件を以下に示す。
【0117】
[Spiral Method]
Contact Time:0.010〜1.0(sec)
Pitch:7(mm)
Lencth per sampling:86.29(degree)
Start Radius:20(mm)
End Radius:60(mm)
Min Contact Time:10(ms)
Max Contact Time:1000(ms)
Sampling Pattern:50
Number of sampling points:19
[Square Head]
Slit Span:1(mm)
Width:5(mm)
【0118】
インクの吸水性の低い難吸収性の被記録媒体には、印刷本紙などのアート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙などが使用できる。これら難吸収性の被記録媒体は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものであり、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+(坪量104.7g/m
2、接触時間100m秒における吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m
2)」、日本製紙(株)製の「オーロラコート」、UPM社製のFinesse Gloss(UPM社製、115g/m
2、吸水量3.1g/m
2)及びFiness Matt(115g/m
2、吸水量4.4g/m
2)等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。
【0119】
インクの吸収性を有しない非吸水性の被記録媒体としては、例えば食品用の包装材料に使用されているもの等のプラスチックフィルムを使用することができる。
前記プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ナイロン等のポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等が挙げられる。なかでも、前記プラスチックフィルムとしては、特にポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリアミド系フィルムを使用することが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンを使用することが好ましい。前記プラスチックフィルムとしては、ガスバリア性を有するものを使用することもでき、例えば前記したプラスチックフィルムの片面または両面に、ポリ塩化ビニリデン等を含む層を有するフィルムや、アルミニウム等の金属や、シリカまたはアルミナ等の金属酸化物を含有する蒸着層を有するフィルムを使用することができる。
【0120】
前記プラスチックフィルムとしては、未延伸フィルムを使用することができ、1軸または2軸方向に延伸されたものを使用することができる。前記プラスチックフィルムとしては、コロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、フレーム処理、グロー放電処理等の接着性を向上させるための各種処理が施された表面を有するものを使用することが好ましい。
【0121】
前記プラスチックフィルムとしては、用途に応じて任意の厚さのものを使用することができ、例えば軟包装用途で使用する場合であれば、良好な柔軟性と耐久性と耐カール性を維持するうえで、厚さが10μm〜100μmのものを使用することが好ましく、10μm〜30μmのものを使用することがより好ましい。前記プラスチックフィルムとしては、東洋紡株式会社のパイレン、エスペット(いずれも登録商標)などが挙げられる。
【0122】
また、インク吸収性の被記録媒体の例としては、例えば普通紙、布帛、ダンボール、木材等があげられる。また吸収層を有する被記録媒体の例としては、インクジェット専用紙等があげられ、この具体例としては、例えば、株式会社ピクトリコのピクトリコプロ・フォトペーパー等が挙げられる。
【0123】
本発明のインクは、前記したような被記録媒体の表面に印刷し印刷物を製造する際に使用することができる。
【0124】
前記インクは、例えばインクジェット方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、グラビア印刷方式等に適用できるが、好ましくはインクジェット印刷用インクとして使用することができる。
【0125】
前記インクを用いた印刷物としては、例えば前記インクを、前記インクジェット方式等で被記録媒体の表面に接触した後、乾燥させることによって、前記インクに含まれるバインダー(A)が有するカルボニル基と、前記化合物(B)が有するヒドラジン構造とを反応させ下記化学式(1)で示される構造が形成された印刷物が挙げられる。
【0126】
前記乾燥は、前記被記録媒体の表面温度が5〜60℃の範囲内で行うことが、比較的熱に弱い被記録媒体を用いた場合であっても、被記録媒体の熱の影響による変形や変色を防止できるため好ましい。
【0128】
前記一般式(1)で示される構造は、具体的には、前記バインダー(A)のカルボニル基がケトン基であり、かつ、前記化合物(B)が有する前記構造がヒドラジン構造である場合に形成される構造である。印刷物の塗膜に上記構造が形成されることによって、前記難付着性の被記録媒体に対して優れた密着性やセット性を発現することができる。
【0129】
ところで、前記インクジェット印刷方式で前記被記録媒体に本発明のインクを印刷する際、前記被記録媒体の表面が凹凸形状である場合や、前記被記録媒体が大型で歪みや反りを有するものである場合に、インクジェットヘッドと被記録媒体とが接触することが懸念される。前記接触を回避する方法としては、インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ)を、好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上である構成を備えたインクジェット記録装置を使用することが好ましい。
【0130】
前記面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離は、被記録媒体が大きく、反りやすいものであっても、前記被記録媒体の表面と前記インク吐出口とが接触することを防止し、前記インク吐出口の損傷や、前記インク吐出口が備える場合の多い撥水機能の低下に起因したインク吐出不良を効果的に防止するとともに、被記録媒体の表面とインクジェットヘッドとの距離が長い場合であっても、スジを有さない印刷物を製造するうえで、前記距離の下限は3mm以上であることが好ましく、前記距離の上限は、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることが特に好ましい。
【0131】
よって、本発明のインクを用い、かつ、前記インクジェットヘッドと被記録媒体との接触を回避し印刷物を製造する方法としては、具体的にはインクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離を1mm以上に設定したインクジェット記録方式で、本発明のインクジェット印刷用インクを被記録媒体の表面に接触させた後、前記被記録媒体の表面温度を5℃〜60℃の範囲内で維持し乾燥させることによって、前記インクに含まれるバインダー(A)が有するカルボニル基と、前記化合物(B)が有するヒドラジン構造とを反応させ下記化学式(1)で示される構造を形成する方法で印刷物を製造方法することが好ましい。
【実施例】
【0132】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0133】
(スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体の調製)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する還流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にイソプロピルアルコール1,200質量部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸2−ヒドロキシエチル75.0質量部、メタクリル酸260.8質量部、スチレン400.0質量部、メタクリル酸ベンジル234.2質量部、メタクリル酸グリシジル30.0質量部、および「パーブチル(登録商標)O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日油(株)製)80.0質量部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させた後、イソプロピルアルコールの一部を減圧留去し、固形分含有比率を42.5質量%に調整することによって、酸価170mgKOH/gのスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体(X)溶液を得た。
【0134】
(顔料分散体の調製)
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、カーボンブラック(三菱ケミカル(株)C.I.ピグメント ブラック7)360質量部と、スチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体(X)溶液170質量部、25質量%水酸化カリウム水溶液61質量部、イソプロピルアルコール83質量部、イオン交換水1000質量部を仕込み、スリーワンモーターで1時間攪拌し混合した。
【0135】
得られた混合液を、直径0.3mmのジルコニアビーズが充填された分散装置(SCミルSC100/32型、三井鉱山(株)製)に通し、循環方式(前記分散装置から排出された混合液が前記混合槽に戻され、再び前記分散機に供給される方式)により分散処理することによって分散液を得た。前記分散処理は、前記分散装置のローター周速を11.25m/秒に固定して4時間行った。また、前記分散処理中、前記冷却用ジャケットに冷水を通すことによって前記混合液の温度を30℃以下に保つよう制御した。
【0136】
前記方法で得られた前記分散液を、前記混合槽から抜きとった。次に、水1500質量部を前記混合槽に供給し、前記混合槽及び前記分散装置の流路を洗浄し、その洗浄に使用した水と、前記分散液とを混合したものをミル分散液とした。
【0137】
次に、ガラス製蒸留装置に前記ミル分散液を入れ、前記ミル分散液に含まれるイソプロピルアルコールの全量と水の一部とを留去した。前記留去後のミル分散液を室温まで放冷した後、それを攪拌しながら2質量%塩酸を滴下してpH3.5に調整し、それに含まれる固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過し水洗したものをウェットケーキとした。
【0138】
前記ウェットケーキを容器に採り、25質量%水酸化カリウム水溶液を加えてpH9.0に調整したものを、ディスパー(TKホモディスパー20型、特殊機化工業(株)製)にて再分散し、遠心分離処理(6000G、30分間)した後、イオン交換水を加えることによって、固形分18質量%の水性顔料分散体(K)を得た。
【0139】
(水性インクの調製)
(実施例1 水性インクの調製方法)
前記水性顔料分散体(K)を40.00質量部に、組成物A(コア部にダイアセトンアクリルアミド由来の構造(カルボニル基としてケトン基を有する)を有するコアシェル型アクリル重合体であるバインダー、及び、アジピン酸ジヒドラジドの混合物、不揮発分48質量%、前記コアシェル型アクリル重合体の体積平均粒子径50nm、前記コアシェル型アクリル重合体のガラス転移温度25℃)12.5質量部、PG(旭硝子(株)社製、1,2−プロパンジオール)10.00質量部、エスイー57(物産フードサイエンス(株)社製、中糖化還元水あめ、有効成分70質量%)10.00質量部、イオン交換水29.32質量部、トリエタノールアミン0.20質量部、ACTICIDE MV4(ソー・ジャパン(株)社製防腐剤)0.10質量部、及びSURFYNOL 420(エボニック社製アセチレンジアルコール系界面活性剤)1.00質量部を加えて攪拌し、黒色水性インク(J1)を調製した。
【0140】
(実施例2〜12及び比較例1〜5 水性インクの調製方法)
インクの組成を表1〜表5に記載の組成に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、水性インク(J2)〜(J12)及び水性インク(H1)〜(H5)を得た。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
【表5】
【0146】
TEA:トリエタノールアミン
MV4:ソー・ジャパン(株)社製、防腐剤ACTICIDE MV4
SF440:エボニック社製SURFYNOL 440
水:イオン交換水
【0147】
エスイー57:物産フードサイエンス(株)社製、中糖化還元水あめ、有効成分70質量%
スイートOL:物産フードサイエンス(株)社製、中糖化還元水あめ、有効成分70質量%
H−70:三菱ケミカルフーズ(株)社製、中糖化還元水あめ『オリゴトースH−70』、有効成分70質量%
エスイー600:物産フードサイエンス(株)社製、高糖化還元水飴、有効成分70質量%
スイートNT:物産フードサイエンス(株)社製、低糖化還元水飴、有効成分70質量%
ソルビトール:単糖アルコール
マルチトール:二糖アルコール
【0148】
【表6】
【0149】
組成物A:コア部にダイアセトンアクリルアミド由来の構造(カルボニル基としてケトン基を有する)を有するコアシェル型アクリル重合体であるバインダー、及び、アジピン酸ジヒドラジドの混合物、不揮発分48質量%、前記コアシェル型アクリル重合体の体積平均粒子径50nm、前記コアシェル型アクリル重合体のガラス転移温度25℃
組成物B:前記化合物(B)に相当するアジピン酸ジヒドラジドを含まないウレタンディスパージョン、不揮発分35質量%
【0150】
(水性インクの評価)
実施例及び比較例で得た水性インクの特性の評価は以下のようにおこなった。結果は表5〜表7に記載した。
【0151】
[吐出安定性(インクジェット印刷法での間欠吐出性)の評価]
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B−YHに、実施例及び比較例で得た水性インクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧−5.0kPaに設定することで供給圧を調整した。被記録媒体としては、OPPフィルム(パイレンP2161;東洋坊(株)製二軸延伸ポリプロピレンフィルム、片面コロナ処理)を使用した。前記インクジェットヘッドと前記OPPフィルムのコロナ処理面とのギャップは1.2mmに設定した。ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定して、20kHzで格子状のノズルチェックパターンを印刷した。30分放置後、再びノズルチェックパターンを印刷し、印刷物の様子を確認し、間欠吐出性を判断した。
【0152】
◎:チェックパターンが欠けることなく印刷できている。
○:印刷開始位置に印刷の欠けがあるが、その後は欠けることなく印刷できている。
△:印刷開始位置から2,3本目の線まで欠けがあるが、その後は欠けることなく印刷できている。
×:チェックパターン上にランダムに欠けがある、または、印刷できていない。
【0153】
[セット性の評価]
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B−YHに、実施例及び比較例で得た水性インクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧−5.0kPaに設定したインクジェット印刷装置を用いて、OPPフィルム(パイレンP2161;東洋坊(株)製二軸延伸ポリプロピレンフィルム)のコロナ処理面に100%濃度ベタ画像を印刷し、60℃の温風乾燥機で1分間乾燥させることによって印刷物を得た。
【0154】
前記インクジェットヘッドと前記OPPフィルムとのギャップは1.2mmに設定した。ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、インクの液滴サイズは18pLに設定した。
【0155】
前記印刷物を温風乾燥機から取り出し、室温下に1分間放置した後、印刷物の印刷面に、上記とは別のOPPフィルムのコロナ未処理面を重ね、100g/cm2荷重になるように重石をセットし、1分間放置した。
【0156】
1分後、重石を外し、前記印刷物に重ねたOPPフィルムをはがした後、前記印刷物の印刷面をスキャナーで読み取り、OPPフィルムを重ねる前の100%濃度の画像を基準としたときの、前記OPPフィルムをはがした後の画像濃度の割合(色残存率)を画像解析ソフト『ImageJ』にて解析した。
【0157】
◎:印刷物の色残存率が90%以上
〇:印刷物の色残存率が70%以上90%未満
×:印刷物の色残存率が70%未満
【0158】
[光沢性(塗膜外観評価)]
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B−YHに、実施例及び比較例で得た水性インクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧−5.0kPaに設定したインクジェット印刷装置を用いて、OPPフィルム(パイレンP2161;東洋坊(株)製二軸延伸ポリプロピレンフィルム)のコロナ処理面に100%濃度ベタ画像を印刷し、60℃の温風乾燥機で1分間乾燥させることによって印刷物を得た。
【0159】
前記インクジェットヘッドと前記OPPフィルムとのギャップは1.2mmに設定した。ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、インクの液滴サイズは18pLに設定した。
【0160】
前記印刷物を温風乾燥機から取り出し、室温下に一晩放置した後、塗膜の外観を目視で確認し評価をおこなった。
【0161】
○:印刷面上に析出物がなく、光沢のある黒色塗膜が得られている。
×:印刷面上に白い析出物が観察され、光沢のない黒色塗膜である。
【0162】
[密着性評価]
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B−YHに、実施例及び比較例で得た水性インクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧−5.0kPaに設定したインクジェット印刷装置を用いて、OPPフィルム(パイレンP2161;東洋坊(株)製二軸延伸ポリプロピレンフィルム、片面コロナ処理)のコロナ処理面に100%濃度ベタ画像を印刷し、60℃の温風乾燥機で5分間乾燥させることによって印刷物を得た。
【0163】
前記インクジェットヘッドと前記PETフィルムとのギャップは1.2mmに設定した。ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、インクの液滴サイズは18pLに設定した。
【0164】
次に、前記印刷物の印刷面にセロハン粘着テープを強く圧着後、セロハン粘着テープを前記印刷面に対して90°の方向に引張った。
【0165】
前記セロハン粘着テープを剥離した後の前記印刷面(x)と、前記セロハン粘着テープを貼付していない印刷面(y)とをスキャナーで読み取り、前記印刷面(x)の色に対する前記印刷面(y)の色の割合(色残存率)を画像解析ソフト『ImageJ』にて解析した。
◎:色残存率が70%以上
○:色残存率が50%以上70%未満
×:色残存率が50%未満
【0166】
[印刷物のスジの評価]
京セラ株式会社製インクジェットヘッドKJ4B−YHに、実施例及び比較例で得た水性インクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧−5.0kPaに設定することで供給圧を調整した。また、インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ)は3mmに設定した。被記録媒体としては白の着色層を有する厚さ2mm程度の段ボールを使用した。前記ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧、標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定して100%ベタ印刷を実施し、印刷物を得た。
【0167】
前記印刷物をスキャナーで読み取り、画像解析ソフト『ImageJ』にてインクが塗布されていない部分の割合(スジ率)を算出した。
【0168】
◎:印刷物のスジ率3%未満
○:印刷物のスジ率3%以上5%未満
△:印刷物のスジ率5%以上10%未満
×:印刷物のスジ率10%以上
【0169】
【表7】
【0170】
【表8】
【0171】
【表9】
【0172】
【表10】
【0173】
実施例1〜12の水性インクでは、吐出安定性がいずれも良好な結果となることを確認した。特に、中糖化還元水あめとアクリルエマルションバインダー、及びハンセン溶解度パラメータの極性項が7〜12、水素結合項が15〜30である溶剤を使用した実施例1〜9のインクは、吐出安定性とセット性に優れるものであった。
【0174】
一方、比較例1及び2のインクは、塗膜上に白い析出物がみられ、塗膜外観不良となった。比較例3は高糖化還元水あめを含むインクは、セット性が不良であった。比較例4の低糖化還元水あめを含むインクは、吐出安定性が劣悪であった。比較例5の保湿剤としてグリセリンを含むインクは、セット性が劣悪となった。
本発明が解決しようとする課題は、インクジェット印刷法を採用した場合であっても優れた吐出安定性を有し、かつ、インクに含まれる溶媒を吸収しにくい、例えば各種樹脂フィルムやコート紙等のインク非吸収性の被記録媒体やインク難吸収性の被記録媒体に対して優れたセット性を有し、高光沢の印刷物の製造に使用可能なインクを提供することである。本発明は、中糖化還元水あめと水性媒体とを含有することを特徴とするインクに関するものである。