(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明である凝固物の製造方法は、水を含有するウレタン樹脂組成物を、2価以上の酸の塩で凝固させることを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、凝固剤として2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩を使用して塩凝固することが必須である。この特定の凝固剤は、塩化ナトリウムや硝酸カルシウムといった、これまで水系ウレタン樹脂組成物の塩凝固で広く使用されていた凝固剤に比べ塩析能力が高いため、凝固浴を汚さず、かつ感熱凝固のように高温を必要とせず(好ましくは40℃未満、より好ましくは20〜35℃の温度下で凝固する。)優れた凝固性が得られる。
【0012】
前記2個以上のカルボキシル基を有する酸としては、例えば、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、酒石酸、クエン酸、アコニット酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等を用いることができる。これらの酸は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、より一層優れた塩析能力を有するため、クエン酸、及び/又は、酒石酸を用いることが好ましい。
【0013】
前記酸の塩を形成するものとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、バリウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アミミニウム等を用いることができる。これらのものは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明である凝固物の製造方法の具体例としては、例えば、繊維基材を、水を含有するウレタン樹脂組成物に含浸し、次いで、この含浸基材を2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩の凝固浴に浸漬させることで、ウレタン樹脂の凝固物を製造する方法;繊維基材を、2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩の凝固浴に浸漬し、次いで、この基材を更に水を含有するウレタン樹脂組成物中に浸漬させることで、ウレタン樹脂の凝固物を製造する方法等が挙げられる。この中で、前者の方法を使用した場合には、繊維基材の内部にまでウレタン樹脂の凝固物が充填し、繊維基材に前記凝固物が絡み付いた状態が形成されるため、皮革様シートの含浸層として好適に使用することができる。また、後者の方法を使用した場合には、繊維基材の表面及び表面付近の内部にウレタン凝固物層が形成されるため、手袋の製造に好適に使用することができる。なお、前記方法により、皮革様シートの含浸層を製造した後には、公知の方法により、更にその上に表皮層やトップコート層を設けることで皮革様シートを得ることができる。
【0015】
前記凝固浴における前記2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩の濃度としては、より一層優れた凝固性が得られる点から、10〜80質量%の範囲であることが好ましく、15〜50質量%の範囲がより好ましい。
【0016】
前記繊維基材としては、例えば、不織布、織布、編み物等を使用することができる。前記繊維基材を構成するものとしては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリウレタン繊維、アセテート繊維、レーヨン繊維、ポリ乳酸繊維、綿、麻、絹、羊毛、それらの混紡繊維等を使用することができる。
【0017】
前記繊維基材を、前記水を含有するウレタン樹脂組成物に含浸する方法としては、例えば、前記繊維基材を、前記水を含有するウレタン樹脂組成物を貯留した槽に入れ、その後マングル等で余分なものを絞る方法が挙げられる。前記含浸時間としては、例えば、1〜30分の範囲である。
【0018】
次いで、この基材を取り出し、更に前記2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩が貯留された凝固浴に浸漬することで、ウレタン樹脂組成物中のウレタン樹脂が凝固され、繊維基材の表面や内部に凝固物が付着した状態の繊維基材が得られる。この際の浸漬・凝固時間としては、例えば1〜30分の範囲である。また、浸漬する際の前記凝固浴は、凝固性と風合いや耐摩耗性とのバランスの点から、40℃未満であることが好ましく、20〜35℃であることがより好ましい。
【0019】
ウレタン樹脂の凝固物を有する繊維基材は、必要に応じて、前記浸漬・凝固後に例えば10分〜2時間の間流水に浸し、不要な凝固剤を洗浄除去することができる。
【0020】
また、前記繊維基材を、前記2個以上のカルボキシル基を有する酸が貯留された凝固浴に浸漬する方法としては、例えば、前記繊維基材を、前記アルコール溶媒が貯留された凝固浴に直接浸漬する方法が挙げられる。前記浸漬時間としては、例えば、5秒〜10分の範囲である。
【0021】
次いで、この基材を取り出し、更に前記水を含有するウレタン樹脂組成物中に浸漬することで、前記ウレタン樹脂組成物中のウレタン樹脂が凝固され、繊維基材の表層及び表層付近の内部にウレタン凝固物層が形成された繊維基材が得られる。この際の浸漬・凝固時間としては、例えば1〜30分の範囲である。また、浸漬する際の前記凝固浴は、常温であってもよいが、例えば30〜70℃に加温されていてもよい。
【0022】
ウレタン樹脂の凝固物を有する繊維基材は、必要に応じて、前記浸漬・凝固後に例えば10分〜2時間の間流水に浸し、不要な凝固剤を洗浄除去することができる。
【0023】
本発明において使用することができる水を含有するウレタン樹脂組成物としては、例えば、ウレタン樹脂(A)、及び水性媒体(B)を含有するものを用いることができる。
【0024】
前記ウレタン樹脂(A)は、後述する水性媒体(B)中に分散等し得るものであり、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等の親水性基を有するウレタン樹脂;乳化剤で強制的に水性媒体(B)中に分散したウレタン樹脂などを用いることができる。これらのウレタン樹脂(A)は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、製造安定性の点から、親水性基を有する水性ウレタン樹脂を用いることが好ましく、本発明で用いる前記凝固剤で凝固しやすい点、及び繊維基材内部にまでウレタン樹脂が充填・絡み付きやすく、風合いがより一層向上する点から、アニオン性基を有するウレタン樹脂を用いることがより好ましい。
【0025】
前記アニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、カルボキシル基を有する化合物及びスルホニル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を原料として用いる方法が挙げられる。
【0026】
前記カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−吉草酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記スルホニル基を有する化合物としては、例えば、3,4−ジアミノブタンスルホン酸、3,6−ジアミノ−2−トルエンスルホン酸、2,6−ジアミノベンゼンスルホン酸、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチルスルホン酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記カルボキシル基及びスルホニル基は、ウレタン樹脂組成物中で、一部又は全部が塩基性化合物に中和されていてもよい。前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等を含む金属塩基化合物などを用いることができる。
【0029】
前記カチオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、アミノ基を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0030】
前記アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン等の1級及び2級アミノ基を有する化合物;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン等のN−アルキルジアルカノールアミン、N−メチルジアミノエチルアミン、N−エチルジアミノエチルアミン等のN−アルキルジアミノアルキルアミンなどの3級アミノ基を有する化合物などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記ノニオン性基を有するウレタン樹脂を得る方法としては、例えば、オキシエチレン構造を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0032】
前記オキシエチレン構造を有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレングリコール等のオキシエチレン構造を有するポリエーテルポリオールを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記強制的に水性媒体(B)中に分散するウレタン樹脂を得る際に用いることができる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン性乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性乳化剤などを用いることができる。これらの乳化剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記ウレタン樹脂(A)としては、具体的には、ポリイソシアネート(a1)、ポリオール(a2)、前記した親水性基を有するウレタン樹脂を製造するために用いる原料、及び必要に応じて鎖伸長剤(a3)を原料として得られるものを用いることができる。これらの反応は公知のウレタン化反応を用いることができる。
【0035】
前記ポリイソシアネート(a1)としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記ポリオール(a2)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記ポリオール(a2)の数平均分子量としては、得られる皮膜の機械的強度の点から、500〜10,000の範囲であることが好ましく、800〜5,000の範囲であることがより好ましい。なお、前記ポリオール(a2)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0038】
前記鎖伸長剤(a3)としては、例えば、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤;エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤などを用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0039】
前記鎖伸長剤(a3)を用いる場合の使用量としては、皮膜の耐久性をより一層向上できる点から、前記ポリイソシアネート(a1)、前記ポリオール(a2)及び前記鎖伸長剤(a3)の合計質量中0.5〜20質量%の範囲であることが好ましく、1〜10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0040】
また、前記ウレタン樹脂(A)として、芳香族ポリイソシアネートを原料として得られる芳香環を有するウレタン樹脂を用いる場合には、より一層優れた凝固性および風合いが得られる点から、芳香環の含有量が、ウレタン樹脂中0.8〜8mol/kgの範囲であることが好ましく、1〜6mol/kgの範囲がより好ましい。
【0041】
前記ウレタン樹脂(A)の製造方法としては、例えば、前記ポリイソシアネート(a1)と前記ポリオール(a2)とを反応させることによって、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造し、次いで、必要に応じて前記ウレタンプレポリマーと、前記鎖伸長剤(a3)とを反応させることによって製造する方法;前記ポリイソシアネート(a1)、前記ポリオール(a2)及び必要に応じて前記鎖伸長剤(a3)を一括に仕込み反応させる方法等が挙げられる。これらの反応は、例えば50〜100℃で3〜10時間行うことが挙げられる。
【0042】
前記ウレタン樹脂(A)を製造する際には、前記ウレタン樹脂(A)に残存するイソシアネート基を失活させることが好ましい。前記イソシアネート基を失活させる場合には、メタノール等の水酸基を1個有するアルコールを用いることが好ましい。前記アルコールの使用量としては、ウレタン樹脂(A)100質量部に対し、0.001〜10質量部の範囲であることが好ましい。
【0043】
また、前記ウレタン樹脂(A)を製造する際には、有機溶剤を用いてもよい。前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド化合物などを用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記有機溶剤は、ウレタン樹脂組成物を得る際には蒸留法等によって除去されることが好ましい。
【0044】
前記水性媒体(B)としては、例えば、水、水と混和する有機溶剤、これらの混合物等を用いることができる。前記水と混和する有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−及びイソプロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール溶媒;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル溶媒;N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム溶媒等を用いることができる。これらの水性媒体は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、安全性及び環境負荷の軽減化の点から、水のみ用いることがより好ましい。
【0045】
前記ウレタン樹脂(A)と前記水性媒体(B)との質量比[(A)/(B)]としては、作業性の点から、10/80〜70/30の範囲であることが好ましく、20/80〜60/40の範囲であることがより好ましい。
【0046】
本発明で用いるウレタン樹脂組成物は、前記ウレタン樹脂(A)、及び前記水性媒体(B)の他に、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。
【0047】
前記その他の添加剤としては、例えば、乳化剤、中和剤、増粘剤、架橋剤、ウレタン化触媒、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0048】
前記中和剤は、前記水性ウレタン樹脂(A)として、アニオン性の水性ウレタン樹脂を用いた場合に、そのカルボキシル基を中和するものであり、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノール等の三級アミン化合物などを用いることができる。これらの中和剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記中和剤の使用量としては、前記ウレタン樹脂(A)に含まれるカルボキシル基のモル数に対して0.8〜1.2倍の範囲であることが好ましい。
【0050】
以上、発明の製造方法によれば、凝固浴にウレタン樹脂による汚れが発生せず、また凝固物を絞った際にはウレタン樹脂のカスが発生しない、優れた凝固性が得られる。また、繊維基材にウレタン樹脂を凝固させた場合には、優れた風合い、柔軟性、および耐摩耗性が得られるため、手袋、塗料、皮革様シート等の製造に好適に使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0052】
[合成例1]ウレタン樹脂組成物(X−1)の調製
メチルエチルケトン3,281質量部及びオクチル酸第一錫0.1質量部の存在下、ポリカーボネートポリオール(日本ポリウレタン株式会社製「ニッポラン980R」、数平均分子量;2,000)1,000質量部と、2,2−ジメチロールプロピオン酸17質量部と、エチレングリコール47質量部と、ジフェニルメタンジイソシアネート344質量部とを溶液粘度が20,000mPa・sに達するまで70℃で反応させた後、メタノール3質量部を加えて反応を停止させてウレタン樹脂(A−1)のメチルエチルケトン溶液を得た。このウレタン樹脂溶液にポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(Hydrophile−Lipophile Balance(以下、「HLB」と略記する);14)70質量部と、トリエチルアミン13質量部を混合させた後に、イオン交換水800質量部を加えて転相乳化させることで前記ウレタン樹脂(A−1)が水に分散した乳化液を得た。
次いで、前記乳化液からメチルエチルケトンを留去することによって、不揮発分40質量%のウレタン樹脂組成物(X−1)を得た。なお、前記ウレタン樹脂(A−1)中の芳香環の含有量は、1.93mol/kgであった。
【0053】
[合成例2]ウレタン樹脂組成物(X−2)の調製
メチルエチルケトン3,281質量部及びオクチル酸第一錫0.1質量部の存在下、ポリエーテルポリオール(三菱化型株式会社製「PTMG2000」、数平均分子量;2,000)1,000質量部と、2,2−ジメチロールプロピオン酸17質量部と、エチレングリコール47質量部と、ジフェニルメタンジイソシアネート344質量部とを溶液粘度が20,000mPa・sに達するまで70℃で反応させた後、メタノール3質量部を加えて反応を停止させてウレタン樹脂(A−2)のメチルエチルケトン溶液を得た。このウレタン樹脂溶液にポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(HLB;14)70質量部と、トリエチルアミン13質量部を混合させた後に、イオン交換水800質量部を加えて転相乳化させることで前記ウレタン樹脂(A−2)が水に分散した乳化液を得た。
次いで、前記乳化液からメチルエチルケトンを留去することによって、不揮発分40質量%のウレタン樹脂組成物(X−2)を得た。なお、前記ウレタン樹脂(A−2)中の芳香環の含有量は、1.93mol/kgであった。
【0054】
[合成例3]水性ウレタン樹脂組成物(X−3)の調製
メチルエチルケトン3,281質量部及びオクチル酸第一錫0.1質量部の存在下、ポリエステルポリオール(株式会社ダイセル製「プラクセル220」、数平均分子量;2,000)1,000質量部と、2,2−ジメチロールプロピオン酸17質量部と、エチレングリコール47質量部と、ジフェニルメタンジイソシアネート344質量部とを溶液粘度が20,000mPa・sに達するまで70℃で反応させた後、メタノール3質量部を加えて反応を停止させてウレタン樹脂(A−3)のメチルエチルケトン溶液を得た。このウレタン樹脂溶液にポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル(HLB;14)70質量部と、トリエチルアミン13質量部を混合させた後に、イオン交換水800質量部を加えて転相乳化させることで前記ウレタン樹脂(A−3)が水に分散した乳化液を得た。
次いで、前記乳化液からメチルエチルケトンを留去することによって、不揮発分40質量%のウレタン樹脂組成物(X−3)を得た。なお、前記ウレタン樹脂(A−3)中の芳香環の含有量は、1.93mol/kgであった。
【0055】
[実施例1]
合成例1で得られたウレタン樹脂組成物(X−1)100質量部、増粘剤(Borcher社製「Borch Gel L75N」)5質量部、カルボジイミド架橋剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトSV−02」)4質量部、イオン交換水200質量部をメカニカルミキサーにて2,000rpmで2分間撹拌し、次いで真空脱泡機で脱泡させることで、配合液を調製した。
次いで、不織布(目付250g/m
2)に前記配合液を含浸させた後、ゴムローラーマングルを用いて含浸量が250%となるように不要な配合液を絞り取った。次いで、配合液を含ませた不織布を、30℃の酒石酸カリウムナトリウムの凝固浴に10分間浸漬させて配合液を凝固させた。最後に、120℃の熱風乾燥機にて30分乾燥させて凝固物を有する繊維基材を得た。
【0056】
[実施例2〜6、および比較例1〜2]
用いるウレタン樹脂組成物の種類、および凝固剤の種類を表1〜2に示す通り変更した以外は、実施例1と同様にして凝固物を有する繊維基材を得た。
【0057】
[数平均分子量の測定方法]
合成例で使用したポリオール等の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定し得られた値を示す。
【0058】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0059】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0060】
[繊維基材へのウレタン樹脂の付着量の測定方法]
実施例および比較例で得られた凝固物を有する繊維基材を、5cm四方に裁断し、精密天秤にて質量を測定した。皮革用に含浸工程前の繊維基材を5cm四方に裁断し精密天秤にて質量を測定した。両者の質量の差を測定し、ウレタン樹脂の付着量(g/m
2)を算出した。
【0061】
[凝固浴の汚れの評価方法]
実施例および比較例にて凝固物を有する繊維基材を製造した後の凝固浴を目視観察し、以下のように評価した。
「○」;ウレタン樹脂のブツが発生していない。
「△」;ウレタン樹脂のブツが微量であるが発生している。
「×」;ウレタン樹脂のブツが多量に発生している。
【0062】
[凝固性の評価方法]
実施例および比較例で得られた凝固物を有する繊維基材を、両手で絞った際の繊維基材の表面を目視観察し、以下のように評価した。
「○」;ウレタン樹脂の絞りカスが発生していない。
「△」;ウレタン樹脂の絞りカスが微量であるが発生している。
「×」;ウレタン樹脂の絞りカスが多量に発生している。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
本発明である実施例1〜6は、凝固浴にウレタン樹脂による汚れが発生せず、また、凝固物を絞った際にウレタン樹脂のカスが発生しないほど優れた凝固性を有することが分かった。
【0066】
一方、比較例1および2は、2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩の代わりに、その他の凝固剤を用いた態様であるが、凝固浴にウレタン樹脂による汚れが発生し、また、凝固物を絞った際にウレタン樹脂のカスが発生した。
本発明は、水を含有するウレタン樹脂組成物を、2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩で凝固させることを特徴とする凝固物の製造方法を提供するものである。前記凝固は40℃未満の温度下で行うことが好ましい。前記2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩は、クエン酸塩、及び/又は、酒石酸塩であることが好ましい。前記ウレタン樹脂組成物は、アニオン性基を有するウレタン樹脂を含有することが好ましい。前記凝固物の製造方法は、繊維基材を、水性ウレタン樹脂組成物に含浸し、次いで、2個以上のカルボキシル基を有する酸の塩に浸漬させる工程を有することが好ましい。本発明の製造方法によれば、凝固浴にウレタン樹脂による汚れが発生せず、また凝固物を絞った際にはウレタン樹脂のカスが発生しない、優れた凝固性が得られる。